説明

標本スライドガラス識別システム

【課題】単純で信頼できる仕方で、スライドガラスを識別する。
【解決手段】監視装置は、スライドガラス保持部42と、持ち上げ要素50と、位置調節設定部と、起動部とを有する。ここで、スライドガラス保持部42には、各々、互いに識別するための識別コードを含む複数のスライドガラス38が載置される。持ち上げ要素50は、スライドガラス保持部42内において、スライドガラス38を持ち上げ位置へ持ち上げる。読出部40は、識別コードを読み出す。位置調節設定部は、スライドガラス保持部42を持ち上げ要素50に対し相対的に移動させることにより、持ち上げ位置からスライドガラス保持部42内の最低位置へスライドガラス38を順次落下させて、落下するスライドガラス38の識別コードか、又は、次に落下するスライドガラス38の識別コードを、読出部40が読み出せるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標本スライドガラスを監視(Erfassung)する監視装置及び監視方法に関する。本発明の監視装置において、標本スライドガラスは、標本スライドガラス保持部に載置され、各標本スライドガラスは、互いに識別するための識別コードを含む。更に、本発明の監視装置は、識別コードを読み出す読出部と、識別コードを読み出すように読出部を自動的に起動する起動部も備える。
【背景技術】
【0002】
サンプル(例えば、組織サンプル)の検査のために、サンプルは調製され、標本スライドガラスに載置される。そして、標本スライドガラス上のサンプルには、カバーガラス装着装置によって自動的にカバーガラスを装着することもできるし、染色装置によって自動的に染色することもできる。サンプルは、カバーガラスを装着し、ないし、染色した後に顕微鏡によって検査することができる。
【0003】
標本スライドガラスに識別コード(例えば、バーコード)を取り付けて、複数の標本スライドガラス(特に標本スライドガラス上の標本)を自動的に識別させて、カバーガラス装着装置又は染色装置に自動的に処理を開始させることができることも知られている。
【0004】
独国特許公開DE 10 2007 042 138 A1号(特許文献1)は、サンプルを自動的に運搬するための装置及び方法を開示する。ここでは、サンプルは、標本スライドボックスに載置される標本スライドガラスに支持される。各サンプルはバーコードによって標識され、バーコードはサンプルの識別のために自動的に読み出される。
【0005】
独国特許DE 10 2005 021 197 B3号(特許文献2)及び独国特許DE 10 2005 012 745 B3号(特許文献3)は、ミクロトーム処理された組織サンプルを処理して、分配するための装置を開示する。組織サンプルは、機械読出可能なコードを取り付けた標本スライドガラスに載置される。標本スライドガラスを処理する際に、読出ユニットによってコードが読み出される。
【0006】
米国特許公開US 2008/0137185 A1号(特許文献4)及び米国特許公開US 2007/0148046 A1号(特許文献5)は、組織サンプルのための標本スライドガラスを処理する装置を開示する。各標本スライドガラスには、支持された組織サンプルを識別するためのコードが取り付けられる。
【0007】
先行技術文献として下記特許文献が挙げられる。これらの特許文献の全開示内容はこれらの引用をもって本明細書に組み込み記載されているものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許公開DE 10 2007 042 138 A1号
【特許文献2】独国特許DE 10 2005 021 197 B3号
【特許文献3】独国特許DE 10 2005 012 745 B3号
【特許文献4】米国特許公開US 2008/0137185 A1号
【特許文献5】米国特許公開US 2007/0148046 A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以下の分析は、本発明者により与えられる。本発明の各視点において、単純で信頼できる仕方で、標本スライドガラス、特に標本スライドガラス上のサンプルを識別することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の視点において、複数の標本スライドガラスを監視ないし検出(Erfassung)するための監視装置が提供される。当該監視装置は、標本スライドガラス保持部と、持ち上げ要素と、位置調節設定部(Stellvorrichtung)と、起動部とを有する。ここで、標本スライドガラス保持部には、各々、互いに識別するための識別コードを含む標本スライドガラスが載置される。持ち上げ要素は、標本スライドガラス保持部内において、標本スライドガラスを持ち上げ位置へ持ち上げる。読出部は、識別コードを読み出す。位置調節設定部は、標本スライドガラスを収容した標本スライドガラス保持部を持ち上げ要素に対し相対的に移動させることにより、持ち上げ要素上の持ち上げ位置から標本スライドガラス保持部内の最低位置へ標本スライドガラスを順次落下させて、標本スライドガラスが1枚ずつ落下するごとに、落下する標本スライドガラスの識別コードか、又は、次に落下する標本スライドガラスの識別コードを、読出部が読み出せるようにする。起動部は、識別コードを読み出すように読出部を起動する。
【0011】
第2の視点において、組織サンプルを処理するための処理装置が提供される。当該処理装置は、標本スライドガラスに載置された組織サンプルを染色する処理、及び/又は、当該組織サンプルにカバーガラスを装着する処理を実行すると共に、本発明(特に第1の視点)に係る監視装置を含む。
【0012】
第3の視点において、複数の標本スライドガラスを監視する監視方法が提供される。当該監視方法において、各々、互いに識別するための識別コードを含む標本スライドガラスは、標本スライドガラス保持部内における持ち上げ要素によって持ち上げられる持ち上げ位置に載置される。また、標本スライドガラスを収容した標本スライドガラス保持部を持ち上げ要素に対し相対的に移動させることにより、持ち上げ位置から標本スライドガラス保持部内の最低位置へ標本スライドガラスが順次落下する。また、標本スライドガラスが1枚ずつ落下するごとに、落下する標本スライドガラスの識別コードか、又は、次に落下する標本スライドガラスの識別コードを、読出部が読み出す。そして、識別コードを読み出すように読出部が起動する。
【0013】
なお、本願の特許請求の範囲に付記した図面参照符号は、専ら理解を助けるための補助であり、図示の態様に限定することを意図するものではない。
【発明の効果】
【0014】
本発明の各視点によれば、単純で信頼できる仕方で、標本スライドガラス、特に標本スライドガラス上のサンプルを識別することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の各実施形態は、概略図を参照しつつ以下に説明される。
【図1】図1は、染色装置の一実施形態を示す。
【図2】図2は、染色装置のオーブンモジュールを示す。
【図3】図3は、染色装置及びオーブンモジュールを通過する切断面図である。
【図4】図4は、実施例1に係る標本スライドガラス監視装置の機能の概要を示す。
【図5】図5は、実施例2に係る標本スライドガラス監視装置の機能の概要を示す。
【図6】図6は、実施例3に係る標本スライドガラス監視装置の機能の概要を示す。
【図7】図7は、起動部の一例を示す。
【図8】図8は、読出部の一例を示す。
【図9】図9は、標本スライドガラス監視装置の一実施例のブロック図である。
【図10】図10は、標本スライドガラス監視プログラムの一実施例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、以下の形態が可能である。
【0017】
(形態1)
第1の視点に記載のとおり、即ち、複数の標本スライドガラスを監視するための監視装置は、標本スライドガラス保持部と、持ち上げ要素と、位置調節設定部と、起動部とを有する。ここで、標本スライドガラス保持部には、各々、互いに識別するための識別コードを含む標本スライドガラスが載置される。持ち上げ要素は、標本スライドガラス保持部内において、標本スライドガラスを持ち上げ位置へ持ち上げる。読出部は、識別コードを読み出す。位置調節設定部は、標本スライドガラスを収容した標本スライドガラス保持部を持ち上げ要素に対し相対的に移動させることにより、持ち上げ要素上の持ち上げ位置から標本スライドガラス保持部内の最低位置へ標本スライドガラスを順次落下させて、標本スライドガラスが1枚ずつ落下するごとに、落下する標本スライドガラスの識別コードか、又は、次に落下する標本スライドガラスの識別コードを、読出部が読み出せるようにする。起動部は、識別コードを読み出すように読出部を起動する。
【0018】
(形態2)
第2の視点に記載のとおり、即ち、組織サンプルを処理するための処理装置は、標本スライドガラスに載置された組織サンプルを染色する処理、及び/又は、当該組織サンプルにカバーガラスを装着する処理を実行すると共に、本発明に係る監視装置を含む。
【0019】
(形態3)
第3の視点に記載のとおり、即ち、複数の標本スライドガラスを監視する監視方法において、各々、互いに識別するための識別コードを含む標本スライドガラスは、標本スライドガラス保持部内における持ち上げ要素によって持ち上げられる持ち上げ位置に載置される。また、標本スライドガラスを収容した標本スライドガラス保持部を持ち上げ要素に対し相対的に移動させることにより、持ち上げ位置から標本スライドガラス保持部内の最低位置へ標本スライドガラスが順次落下する。また、標本スライドガラスが1枚ずつ落下するごとに、落下する標本スライドガラスの識別コードか、又は、次に落下する標本スライドガラスの識別コードを、読出部が読み出す。そして、識別コードを読み出すように読出部が起動する。
【0020】
(形態4)
本発明において、持ち上げ要素が、標本スライドガラス保持部内において、標本スライドガラスを持ち上げ位置へ持ち上げるように、標本スライドガラスを収容した標本スライドガラス保持部を持ち上げ要素の上へ移動させることが好ましい。
【0021】
(形態5)
本発明において、持ち上げ要素は張り出し端部を有し、張り出し端部において、標本スライドガラスが持ち上げ要素から落下すると共に、張り出し端部と読出部との間隔が一定であることが好ましい。
【0022】
(形態6)
本発明において、持ち上げ要素は、レール又はブレードを含むことが好ましい。
【0023】
(形態7)
本発明において、読出部は、カメラを含むことが好ましい。
【0024】
(形態8)
本発明において、起動部は、光電気的バリアを含むことが好ましい。
【0025】
(形態9)
本発明において、標本スライドガラスが最低位置へ落下する少し前に、又は、落下する際に、該落下する標本スライドガラスによって起動部が起動することが好ましい。
【0026】
また、本発明において、サンプルは、各標本スライドガラスに載置され、識別コードは、特に、標本スライドガラス上のサンプルを識別する役割を果たす。好ましくは、標本スライドガラスは、上端部と下端部とを明確に定義できるように、サンプルを担持する表面が垂線と平行になるように配向して(姿勢をとって)載置される。好ましくは、標本スライドガラスが、持ち上げ要素は水平な上部表面を有するように該上部表面上に標本スライドガラスの下端部で接して立つ。持ち上げ要素は、標本スライドガラスが少なくとも部分的に標本スライドガラス保持部の中に位置し、標本スライドガラスが標本スライドガラス保持部と一緒に移動することが可能な高さだけ、標本スライドガラスを持ち上げる。好ましくは、位置調節設定部、ないしは、位置決め機構(Stellvorrichtung)が移動することによる標本スライドガラス保持部の水平方向の移動距離(ストローク)は、持ち上げ要素の水平方向の長さよりも長く、かくて、標本スライドガラス保持部が持ち上げ要素の上を水平方向に通過する際に、持ち上げ要素の張り出し端部において標本スライドガラスが標本スライドガラス保持部内の最低位置へ落下する。持ち上げ要素と、標本スライドガラス保持部との間の相対的な移動は、標本スライドガラス保持部の移動によって、若しくは、持ち上げ要素の移動によってもたらすこともできるし、又は、持ち上げ要素及び標本スライドガラス保持部の互いに反対向きの移動によってもたらすこともできる。
【0027】
識別コードは、好ましくは、標本スライドガラス保持部における標本スライドガラスの上端部の近くか、又は、標本スライドガラスの下端部の近くに取り付けられ、標本スライドガラスが1枚ずつ落下するごとに、次に落下する標本スライドガラスの上端部の近くの識別コードか、又は、落下する標本スライドガラスの下端部の近くの識別コードが露出する。標本スライドガラスの上端部及び下端部は、標本スライドガラス自体で定義されるのではなく、標本スライドガラス保持部における標本スライドガラスの配向の向き(Orientierung)によって定義される。下端部は「第1末端」とも称され、上端部は「第2末端」とも称される。「落下する標本スライドガラス」の次に落下する標本スライドガラスは、「次に落下する標本スライドガラス」と称される。
【0028】
持ち上げ要素によって(特に重力によって)識別コードを露出させること、そして、識別コードが露出することによって識別コードの自動読み出しが起動することは、標本スライドガラス保持部内で標本スライドガラスを識別するための特に単純な構成をもたらす。特に、機械的な構成要素及び電気的な構成要素はほとんど必要とされない。そのため、故障しにくくなるし、装置全体を簡易かつ経済的に製造できるし、メインテナンスごとの間隔を延ばすことができる。
【0029】
一実施形態によれば、持ち上げ要素が、標本スライドガラス保持部内において、標本スライドガラスを持ち上げ位置へ持ち上げるように、標本スライドガラスを収容した標本スライドガラス保持部を持ち上げ要素の上へ移動させる把持部が配設される。例えば、把持部によって、標本スライドガラス保持部を持ち上げ要素の上へスライドさせてもよいし、又は標本スライドガラス保持部を持ち上げ要素の上へ置いてもよい。その代わりに、持ち上げ要素を標本スライドガラス保持部の下にスライドさせてもよいし、及び/又は、持ち上げ要素が標本スライドガラス保持部の下から導出されるようにしてもよい。そして、持ち上げ要素が標本スライドガラス保持部の中で標本スライドガラスを持ち上げ位置へ持ち上げてもよい。このような実施形態によれば、特に単純な仕方で標本スライドガラス保持部内において標本スライドガラスを持ち上げることが可能である。
【0030】
有利な一実施形態において、持ち上げ要素は張り出し端部を含み、当該張り出し端部の箇所において標本スライドガラスが持ち上げ要素の上の持ち上げ位置から標本スライドガラス保持部内の最低位置へ落下する。つまり、張り出し端部は、持ち上げ要素の終端を意味する。好ましくは、張り出し端部と読出部との間隔は一定である。このことは、読出部が確実に識別コードを読み出すことを可能にする。特に、カメラを読出部として備えることができ、識別コードが常にカメラのレンズの焦点面に位置するように張り出し端部を配設することができる。
【0031】
持ち上げ要素はレール又はブレードを含み、起動部は光電気的バリアを含み得る。標本スライドガラス監視装置は、染色装置又はカバーガラス装着装置の一構成要素であり得る。
【0032】
一改良形態によれば、持ち上げ要素が、標本スライドガラス保持部内において、標本スライドガラスを持ち上げ位置へ持ち上げるように、標本スライドガラスを収容した標本スライドガラス保持部は持ち上げ要素の上へ移動させられる。その代わりに、持ち上げ要素が標本スライドガラス保持部の中で標本スライドガラスを持ち上げ位置へ持ち上げるように、持ち上げ要素を標本スライドガラス保持部の下にスライドさせることもできる。更に、本発明の監視装置の改良形態を、本発明の監視方法の改良形態へ移行することもできる。
【実施例1】
【0033】
以下にさらに図面を参照しつつ実施例について詳述する。同一デザイン又は同一機能の構成要素は、全図を通じて同一の符号が付される。
【0034】
図1は、標本(特にサンプル、組織サンプル)を染色するための染色装置20を示す。染色装置20は、カバー26によってカバーすることが可能な内部スペース24を取り囲む外郭(ハウジング)22を含む。染色装置20の内側にはモニタ28が配設され、特に、染色装置20のオペレータは、モニタ28上で進行中の処理の状態を評価することができる。異なる種類の洗浄試薬、及び/又は、染色試薬が容れられる複数の試薬容器30が内部スペース24に配設される。サンプルは、標本スライドガラス38に載置されており、把持部32及び担体ブラケット36によって個々の試薬容器30又はオーブンモジュール(引出式モジュール:Ofenmodul)34へ運搬することができる。オーブンモジュール34は、サンプルの染色の前後に標本スライドガラス38上でサンプルを乾燥することに適している。
【0035】
図2は、標本スライドガラス38及び担体ブラケット36が載置されたオーブンモジュール34の拡大図である。オーブンモジュール34は、読出部40、特にカメラを含む。カメラ40は、標本スライドガラス38の各々の識別コードを読み出すことに適する。識別コードは、例えば、バーコード又は普通に読み出し可能な文字を含み得る。あるいは、他の適切な識別コード、及び/又は、該識別コードに対応する読出部を備えることもできる。すなわち、識別コードが読出部40によって読み出し可能であることのみが必要とされる。識別コードは、標本スライドガラス38のサンプルを表すもの、及び/又は、識別を可能にするサンプル処理を表すものである。言い換えれば、識別することによって、次にどの処理プロセスをサンプルにしなければならないか、又は、どの処理プロセスを省かなければならないかを決定することが可能である。識別することに加えて、カメラ40がサンプルを全体的に又は部分的に監視(検出)できるように、読み取りのためにサンプルを全体的に又は部分的に露出させることもできる。光学的にサンプルを監視すること及びサンプルが切り出されたサンプルブロックと比較することにより、標本スライドガラス保持部(ないし保持フレーム)42内での標本スライドガラス38の向きが正しいか否かを認識することができる。正しくない場合は、その標本スライドガラス38を取り出し、正しい向きで再挿入することができる。この向き修正を行わない場合には、サンプルの染色の後に、カバーガラス装着装置がカバーガラスを標本スライドガラス38の誤った面に装着し、サンプルが適正にカバーされなくなるだろう。
【0036】
図3は、染色装置20のオーブンモジュール34を通過する切断面図を示す。標本スライドガラス38は、標本スライドガラス保持部42(「マガジン、ないし、フレーム」とも称される)に載置される。標本スライドガラス保持部42は、識別コードが監視される識別スペース48に位置し、標本スライドガラス38及び特に標本スライドガラス38上のサンプルが監視される。把持部32は、標本スライドガラス38を収容した標本スライドガラス保持部42の水平・垂直移動を可能にする駆動ユニット44及び水平ガイド46を含む。標本スライドガラス保持部42内の標本スライドガラス38が持ち上げ位置へ持ち上がるように、持ち上げ(リフト)要素50が標本スライドガラス保持部42へ導入され、垂直方向に向けられた標本スライドガラス38は、持ち上げ要素50の上にそれらの下端部61で接して直立する。下端部61は、「第1末端」61とも称される。持ち上げ要素50は、例えば、ブレード及びレールを含み、例えば、標本スライドガラス保持部42の長さに相当する長さを有する。
【0037】
図4は、実施例1に係る標本スライドガラス38の監視装置(特に、標本スライドガラス38上のサンプルと関連する標本スライドガラス38の識別コードを識別するための監視装置)の機能原理の概要を示す。つまり、標本スライドガラス38の監視装置は、標本スライドガラス38上に割り当て、配されたサンプルを監視することに適する。該監視装置は、標本スライドガラス保持部42、持ち上げ要素50、読出部40、図7を参照して説明される起動部67、68を含む。持ち上げ要素50は、その長手方向の一端部に伸長した張り出し端部(Kante)52を含む。持ち上げ要素50は、張り出し端部52と読出部40との間隔が一定になるように、カップリング要素54を介して、読出部40と堅固にカップル係合される。カップリング要素54は、識別スペース48の壁の一部であってもよい。
【0038】
読出部40は、読出部40が識別コードを検出することが可能なカメラによる撮像方向41へ向けられている。識別コードは、標本スライドガラス38のサンプルを運搬するスライド表面65に備えられたラベルフィールド62(標本スライドガラス38の下端部61の反対側にある上端部63に近い)に位置する。複数の標本スライドガラス38は、標本スライドガラス保持部42へ垂直向きに差し込まれて、その下側面(特に下端部61)で持ち上げ要素50に接して直立している。持ち上げ要素50は高さ58を有し、該高さ58ずつ、標本スライドガラス保持部42内で標本スライドガラス38が持ち上げられて、持ち上げ位置に位置する。高さ58は、例えば、20mmである。標本スライドガラス保持部42を下降方向の向き60へ降下させることにより、標本スライドガラス38は、持ち上げ要素50の上に位置され、標本スライドガラス保持部42に対して相対的に持ち上がる。
【0039】
位置調節設定部(ないし位置決め機構:Stellvorrichtung、図示されない)によって標本スライドガラス保持部42が読出部40へ向かう第1の移動方向56へ移動すると、標本スライドガラス38の各々は、張り出し端部52において、持ち上げ要素50から外れて、標本スライドガラス保持部42内の最低位置(標本スライドガラス保持部42の底部領域により規定される)へ順次落下する。1枚の標本スライドガラス38が持ち上げ要素50から外れて落下するとすぐに、次に落下する標本スライドガラス38のラベルフィールド62が露出して(つまり、識別コードが露出する)、読出部40が識別コードを検出(監視)できるようになる。標本スライドガラス保持部42に収容された全ての標本スライドガラス38が検出(監視)されると標本スライドガラス保持部42は識別スペース48から取り外され、染色プロセスへ移行する。なお、染色プロセスは、サンプルを監視する機能の一部として実行されることが好ましい。
【実施例2】
【0040】
図5は、実施例2に係る標本スライドガラス38の監視装置の機能原理の概要を示し、該監視装置の構成要素は実施例1に対応する。しかしながら、図4に示した実施例1と対照的に、標本スライドガラス保持部42は移動せずに、その代わりに持ち上げ要素50が移動する。具体的には、持ち上げ要素50は、第1の移動方向56とは反対の第2の移動方向64へ移動する。読み出されるべき識別コードとカメラとの間隔が一定になるように、カップリング要素54は、持ち上げ要素50をカメラ40にカップル係合させる。実施例2では、カップリング要素54は識別スペース48の壁の一部ではない。持ち上げ要素50の水平移動は、一緒に移動する張り出し端部52において、持ち上げ要素50上の持ち上げ位置から標本スライドガラス保持部42内の最低位置へ標本スライドガラス38を順次落下させる。それによって、次に落下する標本スライドガラスの識別コードは、次々に、読み出しのために露出される。
【実施例3】
【0041】
図6は、実施例3に係る標本スライドガラス38の監視装置の模式図であり、実施例3では、読出部40は持ち上げ要素50の内側のカメラスペース66に配設されている。実施例3では、カメラの撮像方向41は、実施例1、2の撮像方向41と反対の向きである。つまり、ラベルフィールドは、垂直に挿入された標本スライドガラス38の上端部63に近い標本スライドガラス38のスライド表面65に位置するのではなく、標本スライドガラス38の下端部61に近い標本スライドガラス38の裏面69(スライド表面65の裏側)に位置する。(各)標本スライドガラス38が(順次)落下することにより、次々に、落下する標本スライドガラス38のラベルフィールド62が読出部40に読み出し可能になり、読出部40は識別コードを読み出すことができる。上端部63及び下端部61は標本スライドガラス38自体によって定義されるのではなく、標本スライドガラス保持部42内での標本スライドガラスの垂直な向きによって定義される。図4及び5に示された実施例1及び2の間の差異と同様に、標本スライドガラス保持部42が移動するのではなく、持ち上げ要素50が移動することもできる。更に、実施例1〜3において、サンプルを裏面69に載置することもできる。
【0042】
図7は、送信部67及び受信部68を含む起動部を示す。送信部(送光部)67及び受信部(受光部)68は、例えば、それぞれ光源及び光センサとして構成され、一緒になって光電気的バリア(装置)を形成する。起動部67、68は、標本スライドガラス38が最低位置に落下する前又は落下過程の間の適切なタイミングで識別コードを読み出させるよう読出部40を起動(トリガ)するように配設される。起動部67、68は、例えば、標本スライドガラス38が衝突する少し前又は、衝突した際に読出部40を始動させることができる。あるいは、標本スライドガラス38が持ち上げ要素50上に位置する間は、起動部67、68をずっと起動したままにすることもできる。その場合には、識別コードが読み出せる限り読出部40が起動状態になるように、標本スライドガラス保持部42又は持ち上げ要素50を移動させる位置調節設定部の移動速度に関連する時間が経過するごとに読出部40を起動させる。好ましくは、読み出し操作を始動せずに標本スライドガラス保持部42の保持要素が起動部67、68を通過することができるように、起動部67、68の少なくとも最初と最後の起動信号は廃棄される。
【0043】
図8は、カメラ40の詳細図である。カメラ40は、センサ70、特に、鞘部(スリーブ)72内に配設される光感受性センサを含む。鞘部72は、ベアリング74上に載置され、ガラス窓76によって隔絶される。ガラス窓76に後置されたセンサ70は、第1密封リング78及び第2密封リング80によってオーブンモジュール34の内部スペースに対して密封(ないしシール)される。ガラス窓76は、センサ70へ向かう試薬の蒸気の浸透を抑制することに資することができる。
【0044】
図9は、標本スライドガラス38の監視装置の操作原理の概要を表すブロック回路図である。カメラブロック84は、カメラ40を代表するものである。接続部87を介してカメラブロック84に接続したコントロールブロック86は、標本スライドガラス38の監視装置のコントロールシステムを表すものである。カメラブロック84は、光学的システム88、照射(照明)システム90及び電気的評価システム92を含む。電気的評価システム92は、光学的システム88及び照射システム90と通信する。電気的評価システム92は、USB端子94を介して、読み出すこと、コントロールすること、及び/又は、制御することが可能である。第1の電源端子96は、カメラ40に電力を供給する。
【0045】
コントロールブロック86は、実質的に、JTAGインターフェイス100と通信するコントロールユニット98を含む。コントロールユニット98は、更に受信部ブロック108及び送信部ブロック110(各々、受信部68及び送信部67を表すものである)に接続される。コントロールユニット98には、第2の電源端子104を介して電力が供給され、例えば、該電力は計器用変流器102によって整流することができる。コントロールユニット98は、CANバス106、CAN端子112及びCANトランシーバ114を介して、外部のコンピュータによってコントロールすることができる。
【0046】
カメラ40によって取得(撮像)される画像の処理及び出力は電気的評価システム92によって実行することができる。電気的評価システム92は、起動部67、68のシグナルを、画像取得と照射システム90の作動とを同期化する適切な制御指令に変換することも行う。標本スライドガラス38の移動によって励起される起動部67、68のシグナルは、図9において2つの反対向きの三角形によって示されるスイッチング増幅器によって処理され、コントロールユニット98及び電気的評価システム92へ転送される。ファームウェアプログラムのアップデートとステータスクエリは、JTAGインターフェイス100又はCANバス106を介して実行することができる。CANバス106を介して実行する場合には、モジュールレベルでアクセスする必要性がないし、追加のツールも必要ない。好ましくは、カメラ40のファームウェアが、USB端子94を介するRS232インターフェイスをエミュレートする。このインターフェイスは、マスターソフトウェアプログラムによって、シリアルデバイスとして認識され、カメラ40の画像は、シリアルデバイスのための標準的な通信システムを介して読み出すことができ、更に処理することもできる。
【0047】
図10は、標本スライドガラス38の監視プログラム、特に、標本スライドガラス38の監視装置をコントロールするためのフローチャートを示す。ステップS2において、標本スライドガラス38を標本スライドガラス保持部42に載置する。ステップS4において、標本スライドガラス保持部42内の標本スライドガラス(複数)を持ち上げる。例えば、標本スライドガラス保持部42を持ち上げ要素50の上に載置することや、標本スライドガラス保持部42内に持ち上げ要素50を下から上へ突き上げるように針通し(Einfaedeln)することによって標本スライドガラスを持ち上げる。ステップS6において、標本スライドガラス保持部42を持ち上げ要素50に対し相対的に移動させることにより、持ち上げ要素50上の持ち上げ位置から標本スライドガラス保持部42内の最低位置へ標本スライドガラス38を順次落下させる。ステップS8において、例えば、標本スライドガラス38によって作動する起動部67、68によって読出部40が起動する。ステップS10において、起動部67、68のシグナルに応答して読出部40が識別コードを読み出す。
【0048】
図1、2、3に示された実施例の代わりに、標本スライドガラス38の監視装置を、オーブンモジュール34の外に、及び/又は、染色装置20の外に配設することもできる。例えば、標本スラドガラス38の監視装置は、脱パラフィン処理ユニットにおける処理の前に標本スライドガラス38を識別するために、更なる単体装置として完全に独立して操作することもできる。あるいは、標本スライドガラス38の監視装置は、脱パラフィン処理ユニットの一部でもあり得る。このことは、脱パラフィン処理されるべきでない標本スライドガラス38が標本スライドガラス保持部42に存在する場合には必要不可欠である。更に、標本スライドガラス38の監視装置は、標本スライドガラス38上のサンプルにカバーガラスを装着するためのカバーガラス装着装置(図示されない)の一部でもあり得る。標本スライドガラス38の監視は、資料作成のために実行することもできる。
【0049】
本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし、選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0050】
20 染色装置
22 外郭(ハウジング)
24 内部スペース
26 カバー
28 モニタ
30 試薬容器
32 把持部
34 オーブンモジュール(引出式モジュール:Ofenmodul)
36 担体ブラケット
38 標本スライドガラス(Objekttaeger)
40 読出部、ないしカメラ
41 撮像(受信、受光)方向
42 標本スライドガラス保持部(Objekttaegerhalter)
44 駆動ユニット
46 水平ガイド
48 識別スペース
50 持ち上げ要素
52 張り出し端部(Kante)
54 カップリング要素
56 第1の移動方向
58 高さ
60 下降方向の向き
61 下端部
62 ラベルフィールド
63 上端部
64 第2の移動方向
65 スライド表面
66 カメラスペース
67 送信部(起動部:Ausloesevorrichtung)
68 受信部(起動部)
69 裏面
70 センサ
72 鞘部(スリーブ)
74 ベアリング
76 ガラス窓
78 第1密封リング
80 第2密封リング
84 カメラブロック
86 コントロールブロック
87 接続部
88 光学的システム
90 照射(照明)システム
92 電気的評価システム
94 USB端子
96 第1の電源端子
98 コントロールユニット
100 JTAGインターフェイス
102 計器用変流器
104 第2の電源端子
106 CANバス
108 受信部ブロック
110 送信部ブロック
112 CAN端子
114 CANトランシーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の標本スライドガラス(38)を監視するための監視装置であって、
各々、互いに識別するための識別コードを含む標本スライドガラス(38)が載置される標本スライドガラス保持部(42)と、
前記標本スライドガラス保持部(42)内において、標本スライドガラス(38)を持ち上げ位置へ持ち上げる持ち上げ要素(50)と、
前記識別コードを読み出す読出部(40)と、
標本スライドガラス(38)を収容した標本スライドガラス保持部(42)を持ち上げ要素(50)に対し相対的に移動させることにより、前記持ち上げ要素(50)上の持ち上げ位置から標本スライドガラス保持部(42)内の最低位置へ標本スライドガラス(38)を順次落下させて、標本スライドガラス(38)が1枚ずつ落下するごとに、落下する標本スライドガラス(38)の識別コードか、又は、次に落下する標本スライドガラス(38)の識別コードを、読出部(40)が読み出せるようにする位置調節設定部と、
前記識別コードを読み出すように読出部(40)を起動する起動部(67、68)と、
を有する監視装置。
【請求項2】
前記持ち上げ要素(50)が、標本スライドガラス保持部(42)内において、標本スライドガラス(38)を前記持ち上げ位置へ持ち上げるように、標本スライドガラス(38)を収容した標本スライドガラス保持部(42)を持ち上げ要素(50)の上へ移動させる把持部(32)を有することを特徴とする請求項1に記載の監視装置。
【請求項3】
前記持ち上げ要素(50)は張り出し端部(52)を有し、
前記張り出し端部(52)において、標本スライドガラス(38)が持ち上げ要素(50)から落下すると共に、
前記張り出し端部(52)と読出部(40)との間隔が一定であることを特徴とする請求項1又は2に記載の監視装置。
【請求項4】
前記持ち上げ要素(50)は、レール又はブレードを含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の監視装置。
【請求項5】
前記読出部(40)は、カメラを含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の監視装置。
【請求項6】
前記起動部(67、68)は、光電気的バリアを含むことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の監視装置。
【請求項7】
組織サンプルを処理するための処理装置(20)であって、
標本スライドガラス(38)に載置された組織サンプルを染色する処理、及び/又は、当該組織サンプルにカバーガラスを装着する処理を実行すると共に、
請求項1〜6の何れか1項に記載の監視装置を含むこと、
を特徴とする処理装置。
【請求項8】
複数の標本スライドガラス(38)を監視する監視方法であって、
各々、互いに識別するための識別コードを含む標本スライドガラス(38)を標本スライドガラス保持部(42)内における持ち上げ要素(50)によって持ち上げられる持ち上げ位置に載置すること、
標本スライドガラス(38)を収容した標本スライドガラス保持部(42)を持ち上げ要素(50)に対し相対的に移動させることにより、前記持ち上げ位置から標本スライドガラス保持部(42)内の最低位置へ標本スライドガラス(38)を順次落下させること、
標本スライドガラス(38)が1枚ずつ落下するごとに、落下する標本スライドガラス(38)の識別コードか、又は、次に落下する標本スライドガラス(38)の識別コードを、読出部(40)が読み出せるようにすること、
前記識別コードを読み出すように読出部(40)を起動すること、
を特徴とする監視方法。
【請求項9】
前記持ち上げ要素(50)が、標本スライドガラス保持部(42)内において、標本スライドガラス(38)を前記持ち上げ位置へ持ち上げるように、標本スライドガラス(38)を収容した標本スライドガラス保持部(42)は持ち上げ要素(50)の上へ移動させられることを特徴とする請求項8に記載の監視方法。
【請求項10】
前記持ち上げ要素(50)は張り出し端部(52)を有し、
前記張り出し端部(52)において、標本スライドガラス(38)が持ち上げ要素(50)から落下すると共に、
前記張り出し端部(52)と読出部(40)との間隔が一定であることを特徴とする請求項8又は9に記載の監視方法。
【請求項11】
標本スライドガラス(38)が前記最低位置へ落下する少し前に、又は、落下する際に、該落下する標本スライドガラス(38)によって前記起動部(67、68)が起動することを特徴とする請求項8〜10の何れか1項に記載の監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−141305(P2012−141305A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−285260(P2011−285260)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【特許番号】特許第4956691号(P4956691)
【特許公報発行日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【出願人】(500113648)ライカ ビオズュステムス ヌスロッホ ゲーエムベーハー (45)
【Fターム(参考)】