説明

標本作成方法および標本作成装置

【課題】組織切片を位置および方向を容易にかつ正確に調節して基板に貼り付ける。
【解決手段】基板の平坦面上に親水性の液体からなる親水性液層を形成する工程SA1と、親水性液層に組織切片を浮遊させる工程SA2と、親水性液層に浮遊した組織切片を基板に対して移動させて位置決めする工程SA4と、親水性液層を除去して位置決めした組織切片を平坦面に密着させる工程SA5とを含む標本作成方法を提供する。本発明によれば、親水性液層に浮遊した組織切片は基板に対して移動可能であるので、組織切片を基板に貼り付ける前に組織切片の基板に対する位置合わせおよび方向合わせを容易に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標本作成方法および標本作成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、組織から薄い組織切片を切り出し、切り出した組織切片をスライドガラス等の平坦な基板に貼り付けて病理標本等を作成する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。このように組織切片を基板によって支持することにより、厚さが数〜数十μmと薄く柔らかい組織切片であっても固定や染色、観察等の操作を容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】井関祥子、外1名、「免疫染色・イメージングのコツ」、株式会社羊土社、2007年12月15日、p.41およびp.44〜p.45
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、組織切片は形状が不安定であり容易に折り畳まれてしまうため、基板に貼り付ける位置や方向を細かく調節することが難しい。さらに、組織切片は容易に損傷してしまうため、一度基板に貼り付けた後は移動させることが難しい。したがって、組織切片の特定の領域を基板の特定の位置に合わせたり、組織構造の方向を基板に対して所定の方向に向けたりしたい場合に、位置や方向を正確に合わせることが困難であるという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、組織切片を位置および方向を容易にかつ正確に調節して基板に貼り付けることができる標本作成方法および標本作成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、基板の平坦面上に親水性の液体からなる親水性液層を形成する工程と、前記親水性液層に組織切片を浮遊させる工程と、前記親水性液層に浮遊した組織切片を前記基板に対して移動させて位置決めする工程と、前記親水性液層を除去して位置決めした前記組織切片を前記平坦面に密着させる工程とを含む標本作成方法を提供する。
【0007】
本発明によれば、基板の平坦面上に形成した親水性液層に組織切片を浮遊させ、組織切片を基板に対して所望の位置および方向に移動させた後に親水性液層を除去することにより、組織切片を基板の平坦面に貼り付けて標本を作成することができることができる。
この場合に、親水性液層に浮遊した組織切片は基板に対して移動可能であるので、組織切片を基板に貼り付ける前に組織切片の基板に対する位置合わせおよび方向合わせを容易に行い、組織切片を所望の位置および方向で正確に基板に貼り付けることができる。
【0008】
上記発明においては、前記位置決めする工程の前に、前記親水性の液体を他の親水性の液体に置換する工程を含むこととしてもよい。
このようにすることで、組織切片の位置決めに先立って他の親水性の液体により組織切片を処理することができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記他の親水性の液体が、前記組織切片を染色する染色液であることとしてもよい。
このようにすることで、組織切片を染色して組織切片に含まれる組織構造を可視化してから位置決めすることができる。
また、上記発明においては、前記親水性の液体が、前記組織切片を固定する固定液であることとしてもよい。
このようにすることで、作成された組織切片を迅速に固定することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記浮遊させる工程の後に、前記親水性液層の上に有機溶剤からなる疎水性液層を形成する工程を含むこととしてもよい。
このようにすることで、組織切片がパラフィン包埋法により作成されている場合、パラフィンが疎水性液層に溶解することにより組織切片からパラフィンを除去することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記親水性液層を形成する工程が、前記親水性の液体を前記平坦面上に滴下することにより行われることとしてもよい。
このようにすることで、親水性液層を容易に形成することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記親水性液層を形成する工程が、前記平坦面に一端を密着して配置された筒部材内に前記親水性の液体を注入することにより行われることとしてもよい。
このようにすることで、基板の平坦面と筒部材の内周面とに囲まれた空間に親水性液層が形成される。これにより、基板の表面の性質に関わらず容易に親水性液層を形成することができる。また、筒部材の一端を平坦面上で摺動させることにより親水性液層に浮遊した組織切片を基板に対して容易に移動させることができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記位置決めする工程が、前記組織切片を観察手段によって拡大観察しながら行われることとしてもよい。
このようにすることで、組織切片の微小領域を基板に対して位置決めする場合であっても、組織切片と基板とを高い精度で位置決めすることができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記組織切片を前記平坦面に密着させる工程が、液体を吸収する吸収部材を前記親水性液層に接触させることにより行われることとしてもよい。
このようにすることで、親水性液層を容易にかつ十分に除去することができる。
また、上記発明においては、複数の前記吸収部材を、前記親水性液層に対して該親水性液層の周方向に略均等に接触させることとしてもよい。
このようにすることで、親水性液層が各方向に均等な勢いで吸引されるので、位置決めされた組織切片の位置を保持したまま親水性液層を除去することができる。
【0015】
また、本発明は、基板の平坦面上に形成された親水性の液体からなる親水性液層に浮遊した組織標本を拡大観察する観察手段と、前記親水性液層を吸引して前記平坦面上から除去する吸引手段とを備える標本作成装置を提供する。
上記発明においては、前記吸引手段が、前記親水性液層に対して該親水性液層の周方向に略均等に配置され液体を吸収する吸収部材を備えることとしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、組織切片を位置および方向を容易にかつ正確に調節して基板に貼り付けることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る標本作成方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の一実施形態に係る標本作成装置を示す全体構成図である。
【図3】図1の標本作成方法の(a)第2の工程、(b)第4の工程、(c)第5の工程における基板、液滴および組織切片を示す模式図と、(d)基板とともに分割された組織切片を示す模式図である。
【図4】(a),(b)は図2の標本作成装置が備える吸引手段の一例を示す図である。
【図5】図2の標本作成装置が備える吸引手段のもう1つの例を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る標本作成方法を示すフローチャートである。
【図7】親水性液層の形成に使用される筒部材を示す構成図である。
【図8】図6のステップにおける筒部材の内部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の第1の実施形態に係る標本作成方法について図1〜図5を参照して説明する。
本実施形態に係る標本作成方法は、凍結法により組織のブロックから切り出された組織切片の標本を作成する方法であり、図1に示されるように、固定液からなる液滴Aを基板1の表面上に形成する第1の工程SA1と、液滴Aの上に組織切片Bを浮遊させる第2の工程SA2と、固定液を染色液に置換する第3の工程SA3と、組織切片Bを基板1に対して位置決めする第4の工程SA4と、染色液を吸引して除去する第5の工程SA5と、組織切片Bを乾燥する第6の工程SA6とを含んでいる。
図2は、標本作成方法を実施する標本作成装置10の一例を示す図である。
【0019】
凍結法による組織切片Bは以下の手順で作成される。生体から採取された組織のブロックをパラホルムアルデヒド溶液等の固定液に浸漬することにより固定する。次に、固定した組織のブロックを、ティシューテックO.C.Tコンパウンド(サクラファインテックジャパン株式会社製)等の包埋材に浸漬し、冷却することにより包埋剤を凍結させる。次に、包埋剤が溶解しない低温下においてクリオスタットで組織のブロックを薄切することにより、組織切片Bが作成される。
【0020】
第1の工程SA1は、ピペット等を使用して基板1上に固定液を滴下することにより行われる。これにより、基板1上に固定液の液滴Aからなる親水性液層が形成される。固定液としては、例えば、エタノールと酢酸との混合液が使用される。基板1上に液滴Aが安定に形成されるように、基板1の表面に適宜化学的な処理が施されていてもよい。
【0021】
基板1としては、図3(a)に示されるように、平坦な両面を有し格子状の溝1aが形成されたカバーガラスが使用される。このような基板1は、例えば、カバーガラスを伸縮性を有する粘着シート2に接着させた状態でガラス切りやダイサー等を使用して格子状の溝を形成し、粘着シート2をその表面方向に伸展させることにより溝1aに沿ってカバーガラスを小片に分割し、粘着シート2を収縮させて溝1aを閉じることにより作成される。
なお、本実施形態において使用される基板1は、組織切片Bを貼り付けるのに適した平坦面を有するものであれば特に制限はない。基板1に代えて、例えば、スライドガラスや未加工のカバーガラス等を使用してもよく、金属や樹脂等からなるものを使用してもよい。
【0022】
第2の工程SA2は、図3(a)に示されるように、液滴Aの上に組織切片Bを静かに載置することにより行われる。ここで、基板1をクリオスタット内に予め配置しておき、組織切片Bを切り出した後に迅速に液滴A上に移動させることが好ましい。液滴Aに組織切片Bを浮遊させた状態で基板1を所定時間静置することにより、組織切片Bが固定液によって後固定される。
【0023】
第3の工程SA3は、ピペット等の吸引具や濾紙等の吸収部材によって固定液を一部を残して吸引した後に、残った液滴Aにピペット等によって染色液を静かに供給することにより行われる。染色液としては、細胞核を染色するトルイジンブルー水溶液が使用される。このように、基板1と組織切片Bとの間に常に液体が存在するようにすることで、組織切片Bと基板1との密着を防いで組織切片Bを液体に浮遊した状態に維持することができる。第3の工程SA3の後に基板1を数分間静置することにより組織切片Bに含まれる細胞核が染色液によって染色され、細胞の分布を詳細に観察可能となる。
【0024】
染色液に固定液が混在することが好ましくない場合には、固定液の一部を除去して洗浄液を供給する操作を数回繰り返すことにより固定液を十分に洗浄液に置換した後に、洗浄液を染色液に置換することとしてもよい。
【0025】
第4の工程SA4は、図3(b)に示されるように、組織切片Bの関心領域X、例えば、異常な形状の細胞核が分布する領域や細胞核の密度が異常である領域を基板1の溝2aに対して適切な位置に移動させることにより行われる。具体的には、関心領域Xの面積が溝1aで仕切られた1つの区画と略同等または1つの区画よりも小さい場合には、関心領域X全体が1つの区画内に配置されるように組織切片Bを位置決めする。関心領域Xの面積が1つの区画よりも大きい場合は、関心領域全体ができるだけ少数の区画内に納まるように位置決めする。また、関心領域Xが、例えば、管腔構造のように方向性のある形状を有している場合には、その方向が溝1aの方向に沿うように組織切片Bをその面内で回転させる。
【0026】
ここで、関心領域Xが微小である場合には、液滴A’に浮遊している組織切片Bを観察手段4で拡大観察しながら組織切片Bを移動させてもよい。観察手段4としては、実体顕微鏡、マクロレンズを備えるカメラ、ルーペ等が用いられる。なお、図2において、符号5は基板1を載置するステージを示し、符号6は観察手段4によって取得される組織切片Bの拡大像を表示するモニタを示している。
【0027】
組織切片Bを移動させる操作は、液滴A’に液体を一方向から供給または吸引し、その供給または吸引による液体の流動によって行われる。または、マイクロマニピュレータによって操作される針やマイクロピペットの先端を組織切片Bに直接接触させて該組織切片Bを移動させてもよい。ここで、液滴A’の量が比較的多い場合には、組織切片Bと基板1との位置が離れてしまうため、基板1の所望の位置に組織切片Bを正確に位置決めすることが難しい。このようなときは、液滴A’の一部を除去してから組織切片Bの位置決めを行ってもよい。
【0028】
第5の工程SA5は、標本作成装置10が備える吸引手段3を使用して基板1上から染色液の液滴A’を十分に除去することにより行われる。これにより、組織切片Bは、図3(c)に示されるように、基板1の表面に密着させられる。
【0029】
吸引手段3は、図4(a)に示されるように、液滴A’を周方向に囲むように配置される環状の吸収部材3aを備えている。吸引手段3に代えて、図4(b)に示されるように、液滴A’の周方向に略均等に間隔を空けて配置される複数(図示する例では2つ)の吸収部材3bを備えた吸引手段3’を使用してもよい。このような吸引手段3,3’によれば、吸収部材3a,3bを液滴A’に接触させるだけで固定液を容易に吸引して除去することができる。また、液滴A’が各方向に略均等な勢いで吸引されるので、浮遊している組織切片Bが吸引の勢いによって移動させられることを防ぐことができる。図中、符号3c,3dは、吸収部材3a,3bをそれぞれ保持する保持部材である。吸収部材3a,3bは、例えば、スポンジやろ紙からなっていてもよく、膨潤性を有する乾燥ゲルからなっていてもよい。
【0030】
また、吸引手段3”は、吸収部材3a,3bに代えてマイクロピペット3eを備えていてもよい。この場合も、図5に示されるように、複数(図示する例では4つ)のマイクロピペット3eの吸引口を液滴A’の周方向に略均等な間隔で配置し、液滴A’を各方向から均等に吸引するように構成されていることが好ましい。吸引手段3”は、マイクロピペット3eと共に、該マイクロピペット3e内を吸引する吸引ポンプ(図示略)を備えていてもよい。
【0031】
第6の工程SA6は、基板1を風乾することにより行われる。これにより、組織切片Bは基板1の表面に十分に堅固に密着する。組織切片Bを迅速に乾燥させるために、ドライヤーで冷風を組織切片Bに当てる等してもよい。以上の第1〜第6の工程SA1〜SA6により組織切片Bの標本を作成することができる。
【0032】
このように、本実施形態によれば、染色後の組織切片Bが基板1に対して移動可能とされている。したがって、操作者は、染色された組織切片Bから関心領域Xの位置および方向を特定し、該関心領域Xが最小数の区画内におさまるように組織切片Bを基板1に対して容易にかつ正確に位置決めすることができるという利点がある。
【0033】
このようにして作成された組織切片Bの標本は、粘着シート2が表面方向に伸展させられることにより、図3(d)に示されるように、基板1とともに溝1aに沿って複数の断片に分割される。そして、関心領域Xが貼り付いている基板1の小片を粘着シート2から剥離して回収することにより、組織切片Bから微小な関心領域Xを採取することができる。ここで、本実施形態によれば、関心領域Xと同一の小片に付着している関心領域X以外の領域の量を低減し、採取した関心領域Xに含まれる生体分子の解析精度を向上することができる。
【0034】
次に、本発明の第2の実施形態に係る標本作成方法について図6〜図8を参照して説明する。本実施形態は、組織切片B’としてパラフィン包埋法により作成されたものを用いる点において第1の実施形態と異なる。
【0035】
本実施形態に係る標本作成方法は、図6に示されるように、基板1’上に配置した筒部材7内に親水性液層Cを形成する第1の工程SB1と、親水性液層Cの上に組織切片B’を浮遊させる第2の工程SB2と、親水性液層Cの上に疎水性液層Dを形成する第3の工程SB3と、疎水性液層Dを除去する第4の工程SB4と、親水性液層Cを染色液に置換する第5の工程SB5と、組織切片B’を基板1’に対して位置決めする第6の工程SB6と、染色液を除去する第7の工程SB7と、組織切片B’を乾燥する第8の工程SB8とを含んでいる。
【0036】
パラフィン包埋法による組織切片B’は以下の手順で作成される。生体から採取された組織のブロックをパラホルムアルデヒド溶液等の固定液に浸漬することにより固定する。次に、組織のブロックに含まれる固定液をエタノールを介して液化したパラフィンに置換した後、パラフィンを固化することにより組織をパラフィンに包埋する。次に、ミクロトームで組織のブロックを薄切することにより、組織切片B’が作成される。
【0037】
第1の工程SB1は、図7に示されるように、筒部材7の一端を基板1’の表面に密着させて配置することにより基板1’表面と筒部材7の内周面とに囲まれた空間を筒部材7内に形成し、該空間に緩衝液等の親水性の液体を注入することにより行われる。本実施形態で使用される基板1’は、第1の実施形態における基板1であってもよく、未加工のスライドガラス等であってもよい。筒部材7は、外側から親水性液層Cおよび疎水性液層Dを観察できるように透明な材料からなる。また、筒部材7は、第2の工程SB2で使用されるキシレンやリモネン等の有機溶剤に耐性を有する材料、例えば、ガラスやメラミン樹脂、フッ素樹脂からなる。なお、筒部材7の形状は、図示されている円筒形状のものに限定されるものではなく、角筒形状等の他の形状のものでもよい。
【0038】
符号8は、筒部材7の一端と基板1’との隙間の液密性を高めるためのパッキンである。パッキン8は、親水性液層Cにのみ接触するように操作すれば、キシレンやリモネン等の有機溶剤に耐性を有する必要はなく、ニトリルゴムやシリコーンゴム、クロロプレンゴム等からなっていてもよい。
【0039】
第2の工程SB2は、筒部材7内の親水性液層Cの上に組織切片B’を静かに載置することにより行われる。パラフィン包埋法によって作成された組織切片B’は表面が疎水性を有するため、親水性液層Cの上に安定に浮遊する。
【0040】
第3の工程SB3は、ピペット等を使用して筒部材7内に、組織切片B’に含まれているパラフィンを溶解するキシレンやリモネン等の有機溶剤を注入することにより行われる。これにより、組織切片B’は、図8に示されるように、親水性液層Cと疎水性液層Dとの界面に浮いた状態となり、疎水性液層Dにパラフィンが溶解することにより脱パラフィン処理が行われる。
第4の工程SB4は、筒部材7内からマイクロピペット等の吸引具によって疎水性液層Dを吸引することにより行われる。
【0041】
第5の工程SB5は、第1の実施形態における第3の工程SA3と同様に、吸引具または吸収部材を使用して親水性液層Cを一部を残して除去した後に染色液を供給することにより行われる。
第6の工程SB6は、第1の実施形態における第4の工程SA4と同様に、必要に応じて観察手段4で組織切片B’を拡大観察しながら、組織切片B’内の関心領域(図示略)を基板1’の所望の位置に移動させることにより行われる。ここで、組織切片B’を比較的大きく移動させたいときには、筒部材7およびパッキン8を一体で基板1’上で摺動させてもよい。
【0042】
第7の工程SB7は、マイクロピペット3eを備えた吸引手段3”により筒部材7内から親水性液層Cを十分に吸引することにより行われる。吸引手段3”は、図5に示されるように、複数のマイクロピペット3eを備え、これらのマイクロピペット3eの吸引口が親水性液層Cに対して周方向に略均等な間隔を空けて配置されるように構成されていることが好ましい。
第8の工程SB8は、筒部材7を基板1’から取り外した後、第1の実施形態における第6の工程SA6と同様にして行われる。以上の第1〜8の工程SB1〜SB8により組織切片B’の標本を作成することができる。
【0043】
このように、本実施形態によれば、染色後の組織切片B’が基板1’に対して移動可能とされている。したがって、操作者は、染色された組織切片B’から関心領域の位置および方向を特定し、該関心領域を基板1’に対して所望の位置および方向に容易にかつ正確に位置決めして組織切片B’を貼り付けることができるという利点がある。
【0044】
また、第1の実施形態と同じ基板1を使用した場合には、第3の工程SB3で使用される有機溶剤と粘着シート2との間に親水性液層Cが介在することにより、有機溶剤が溝1a内を介して粘着シート2に接触することにより粘着シート2が溶解することを防止することができる。また、基板1および組織切片B’を溝1aに沿って分割して関心領域が付着した小片を採取したときに、関心領域と同時に採取される関心領域以外の領域の量を低減し、採取した関心領域に含まれる生体分子の解析精度を向上することができる。
【実施例】
【0045】
次に、上述した実施形態の実施例について説明する。
本実施例においては、基板として、10分間超音波洗浄することで親水性を付与したカバーガラス(マツナミ、18mm角)を使用した。該カバーガラスを粘着シート(日東電工、UE−111AJ)に貼り付け、円形のパッキン(二トリルゴム製、内径27mm、外径32mm、厚さ2mm)をカバーガラスを囲むように粘着シートに貼り付け、粘着シートとパッキンを2枚のアクリル板で挟み、2枚のアクリル板と粘着シートおよびパッキンとの位置を互いに固定した。パッキン側に配置されたアクリル板には、カバーガラスに対応する位置に直径約20mmの貫通孔を予め形成しておいた。
【0046】
次に、カバーガラス上に、100μLの0.005%トルイジンブルー水溶液をマイクロピペットを使用して滴下して液滴(親水性液層)を形成した。次に、凍結法で作成した組織切片をクリオスタット内においてカバーガラス上の液滴に浮遊させた。組織切片としては、ブタ結腸新鮮凍結のブロックからクリオスタット(HYRAX C50、カールツァイス社製)で20μmの厚さに薄切したものを使用した。液滴に浮遊した組織切片に含まれる包埋材であるティシューテックO.C.T.コンパウンドは、迅速にトルイジンブルー溶液に溶解し、組織切片は液滴の液面に浮遊したままであった。
【0047】
組織切片を液滴に浮遊させてから数分後、室温において組織切片を観察したところ、組織切片は染色されており、結腸組織の粘膜、筋層、漿膜を識別することができた。次に、マイクロピペットを使用して液滴から80μL吸引することにより液滴の体積を減少させた。次に、染色されている粘膜の走行方向がカバーガラスの1辺と平行になるように、ピペットチップの先端によって組織切片を移動させた。次に、濾紙によって組織切片の周囲から染色液を吸引することにより残りの染色液を十分に除去した後、ドライヤーで室温の風を組織切片に30分間送風することにより、組織切片を十分に乾燥させた。これにより、組織切片をカバーガラスの所望の位置および方向に密着させることができた。
【符号の説明】
【0048】
1,1’ 基板
2 粘着シート
3,3’,3” 吸引手段
3a,3b 吸収部材
3c,3d 保持部材
3e マイクロピペット(吸収部材)
4 観察手段
5 ステージ
6 モニタ
7 筒部材
8 パッキン
10 標本作成装置
A,A’ 液滴(親水性液層)
B,B’ 組織切片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の平坦面上に親水性の液体からなる親水性液層を形成する工程と、
前記親水性液層に組織切片を浮遊させる工程と、
前記親水性液層に浮遊した組織切片を前記基板に対して移動させて位置決めする工程と、
前記親水性液層を除去して位置決めした前記組織切片を前記平坦面に密着させる工程とを含む標本作成方法。
【請求項2】
前記位置決めする工程の前に、前記親水性の液体を他の親水性の液体に置換する工程を含む請求項1に記載の標本作成方法。
【請求項3】
前記他の親水性の液体が、前記組織切片を染色する染色液である請求項2に記載の標本作成方法。
【請求項4】
前記親水性の液体が、前記組織切片を固定する固定液である請求項1から請求項3のいずれかに記載の標本作成方法。
【請求項5】
前記浮遊させる工程の後に、前記親水性液層の上に有機溶剤からなる疎水性液層を形成する工程を含む請求項1から請求項4のいずれかに記載の標本作成方法。
【請求項6】
前記親水性液層を形成する工程が、前記親水性の液体を前記平坦面上に滴下することにより行われる請求項1から請求項5のいずれかに記載の標本作成方法。
【請求項7】
前記親水性液層を形成する工程が、前記平坦面に一端を密着して配置された筒部材内に前記親水性の液体を注入することにより行われる請求項1から請求項5のいずれかに記載の標本作成方法。
【請求項8】
前記位置決めする工程が、前記組織切片を観察手段によって拡大観察しながら行われる請求項1から請求項7のいずれかに記載の標本作成方法。
【請求項9】
前記組織切片を前記平坦面に密着させる工程が、液体を吸収する吸収部材を前記親水性液層に接触させることにより行われる請求項1から請求項8のいずれかに記載の標本作成方法。
【請求項10】
複数の前記吸収部材を、前記親水性液層に対して該親水性液層の周方向に略均等に接触させる請求項9に記載の標本作成方法。
【請求項11】
基板の平坦面上に形成された親水性の液体からなる親水性液層に浮遊した組織標本を拡大観察する観察手段と、
前記親水性液層を吸引して前記平坦面上から除去する吸引手段とを備える標本作成装置。
【請求項12】
前記吸引手段が、前記親水性液層に対して該親水性液層の周方向に略均等に配置され液体を吸収する吸収部材を備える請求項11に記載の標本作成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−88387(P2013−88387A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231625(P2011−231625)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】