標本担持スライドを加熱するための方法と装置
スライド処理装置は、一つ以上の標本を担持する顕微鏡スライドの温度と姿勢を制御する。上記装置は、標本とスライド間の接着を容易にするように、かつ顕微鏡スライドに相対する標本の移動を規制するように上記スライドが適切な姿勢に保たれている間に、上記標本担持顕微鏡スライドを加熱する。上記装置のスライド乾燥器は、上記顕微鏡スライドと物理的に係合する伝導スライド加熱器を使用して上記標本を伝導的に加熱する。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2008年11月12日付申請の米国仮特許出願No. 61/113,964の米国特許法第119条に基づく便益を主張する。この仮出願は、参照することにより本文書に全面的に援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、概して、標本担持スライドを処理するための方法と装置に関係する。より詳しくは、本発明は標本を顕微鏡スライドに接着させることに関係する。
【背景技術】
【0003】
組織解析は、様々な種類の病気を診断するために病理医などの医師によって使用され、また病理学、組織組成、及び組織構造に関する情報を得るために医学研究者によって使用される診断ツールである。組織解析のための組織サンプルを用意するために、広範に及ぶ種々の手順が一般に使用される。多くの種類の組織は、比較的柔軟でしなやかであるので、切片化には不向きである。組織サンプルを用意するための方法は、組織を固着すること、組織をある材料に埋め込むこと、埋め込まれた組織を切片化すること、そして、染色、免疫組織化学、または切片上ハイブリッド形成などのその後の処理及び解析のために、組織切片を顕微鏡スライドに移転することを含む。光学顕微鏡検査のための組織サンプルを切片化するためには、大きな組織サンプルから、組織の比較的薄い帯片を切り取ることができ、光が組織のその薄帯片を透過可能にする。組織の帯片の平均的な厚さは、約2ミクロンから約8ミクロン程度であることが多い。
【0004】
組織の薄帯片を顕微鏡スライドへ移転しやすくするために、水がしばしば使用される。顕微鏡スライドと組織の薄帯片の間に水滴が閉じ込められると、残留水滴によってスライドの上で組織の薄帯片が浮く状態になる。このような濡れたスライドに浮いている組織切片は、顕微鏡スライドの前面に沿って移動しやすい。組織サンプルがあまりに遠くまで移動するならば、サンプルが顕微鏡スライドから落ちる可能性がある。顕微鏡スライドからサンプルが落ちたことに医師が気付かない場合には、不完全な試験結果に基づき診断が行なわれる可能性があり、それが最終的には誤診の一因になり得る。例えば、一組の組織サンプルのセットがスライド上の残留水に浮いているとすれば、これらの組織サンプルのうちの一つが乾燥処理中にスライドから落ちることがあり得る。落下した組織サンプルが、適切な診断に必要な組織サンプルである可能性がある。
【0005】
水平熱板と対流式オーブンが、濡れた顕微鏡スライドを加熱乾燥させるためにしばしば使用される。水平熱板が使用される場合には、水平に置かれたスライドの上の組織サンプルの下にある水を蒸発させるために比較的長い期間の時間がかかり得る。さらに、サンプルの埋め込み用材料が溶けてスライドの前面に到達すると、水とスライドの間の接触角がしばしば増加する。この乾燥処理中に顕微鏡スライドが動くまたは水平に保たれない場合、組織サンプルは、スライドに相対して相当な距離を移動する可能性があり、ある状況では、顕微鏡スライドから落ちる恐れがある。乾燥処理中に、互いに隔てられた組織サンプル(例えば、一定の間隔で互いに隔てられた組織サンプルの列)が互いに相対して相当な距離を移動するとすれば、組織サンプルのうちの一つ以上が顕微鏡スライドから落ちたことを医師は懸念するかもしれない。医師は、組織サンプルの完全なセットが解析されることを確実にするために、その標本担持スライドを廃棄し、完全に新しい標本担持スライドを用意することになろう。被検者から追加の組織サンプルを採取する必要があろう。対流式オーブンは、スライドを乾燥させるのに比較的長い時間を要する。従来の対流式オーブンは、スライドを乾燥できるまでに約30分〜約2時間かかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0002163号明細書
【特許文献2】米国特許第6,855,559号明細書
【特許文献3】米国特許第6,544,798号明細書
【特許文献4】米国特許第7,303,725号明細書
【特許文献5】米国特許第7,396,508号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される少なくともいくつかの実施形態は、顕微鏡スライド上の標本を乾燥させるように構成された装置を含む。上記装置は、上記標本を担持する顕微鏡スライドの温度を制御する。上記装置は、標本とスライド間の接着を容易にし、かつ顕微鏡スライドに相対する標本の移動を、いくらかでもあれば、規制する位置に上記顕微鏡スライドが保持されている間に、上記標本を加熱する。
【0008】
上記装置は、いくつかの実施形態では、顕微鏡スライドに相対する標本の移動を制限し、最小にし、または実質的に防止するために、顕微鏡スライドを垂直に近い姿勢に保持する。乾燥処理の前及び/または最中で、標本は顕微鏡スライドに相対した概略同じ位置にとどまることができる。ある種の実施形態では、標本はスライドの上の標本が当初置かれた箇所に接着される。さらに、標本とスライドの間の残留移転流体が、標本をスライドに物理的に接触させるように流れ出ることによって、乾燥時間を短縮する。標本は、標本の裏面をスライドの前面に接合するように加熱され得る。
【0009】
いくつかの実施形態では、標本と担持体の間の残留移転流体が標本と担持体の間の界面から離れて移動できるように、乾燥器は担持体を直立の位置に保持するように適合される。乾燥器の伝導加熱器は、標本の少なくとも一部を融点まで伝導的に加熱するために十分な量の熱を発生可能である。標本は、組織の生体サンプルと、比較的低い融点をもつ埋め込み用材料などの他の物質を含む。溶融された埋め込み用材料は、標本を担持体に固定的に接合させるように冷却され得る。ある種の実施形態では、担持体は、顕微鏡スライドなどのスライドである。
【0010】
伝導加熱器は、担持体の裏面を支持するとともに、熱をその裏面に伝えることによって、熱は担持体の厚さを通じて担持体の前面の標本に伝導される。埋め込み用材料の少なくとも一部は溶融される。埋め込み用材料の溶融された部分は、標本を担持体の前面に物理的に接触させる。冷却されると、標本は担持体の前面にしっかりと接着される。
【0011】
いくつかの実施形態では、標本担持顕微鏡スライドを処理するための装置はスライド乾燥器を含む。上記標本は、生体サンプルと埋め込み用材料を含むことができる。上記スライド乾燥器は、生体サンプルの望ましくない移動を伴わずに上記標本と埋め込み用材料を乾燥できる。いくつかの実施形態では、上記スライド乾燥器は、顕微鏡スライドを実質的に垂直の姿勢に保持するように構成される。上記スライド乾燥器は、制御部と、この制御部に通信可能に接続された伝導スライド加熱器を含む。この伝導スライド加熱器は、上記顕微鏡スライド上の上記標本を上記埋め込み用材料の融点まで伝導的に加熱するように、上記制御部からの信号に応じて十分な量の熱を発生させるように適合される。周囲温度が比較的低い、例えば、室温であるような場合でも、上記スライド乾燥器は顕微鏡スライドを効率的に乾燥させることができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、スライド乾燥器は、濡れた搭載用の顕微鏡スライドが乾燥される間、顕微鏡スライドを垂直の姿勢に保持するように構成される。伝導スライド加熱器は、生体サンプルを顕微鏡スライドに接着するために、顕微鏡スライドとそこに担持された生体サンプルを選択に加熱する。
【0013】
他の実施形態では、スライド乾燥器は、係合面と少なくとも約75度の傾斜角度をもつ伝導スライド加熱器を含む。この伝導スライド加熱器は、摂氏約50度以上の温度に上記係合面を加熱するように適合される。
【0014】
いくつかの実施形態では、顕微鏡スライドを処理するための装置は、乾燥ステーション、処理ステーション、及び搬送装置を含む。いくつかの実施形態では、上記乾燥ステーションは、乾燥期間などのある期間中、 顕微鏡スライドを実質的に垂直の姿勢に保持し、上記顕微鏡スライドによって担持された少なくとも一つの標本を伝導的に加熱するための熱を発生させるように構成されたスライド乾燥器を含む。上記処理ステーションは、上記乾燥期間後に、上記顕微鏡スライド上の上記標本を処理するように適合される。上記搬送装置は、上記スライド乾燥器と上記処理ステーションの間で 顕微鏡スライドを搬送するように構成される。
【0015】
いくつかの実施形態では、顕微鏡スライド上の標本を処理するための方法が提供される。上記方法は、上記標本と上記顕微鏡スライドの間に残留移転流体が存在するように、標本を顕微鏡スライドの上に位置付けることを含む。上記標本と上記顕微鏡スライドの間から上記残留移転流体を追い出すために、上記顕微鏡スライドは実質的に垂直の姿勢に保持される。上記顕微鏡スライドに物理的に係合する伝導スライド加熱器を使用して、上記顕微鏡スライドが実質的に垂直の姿勢になっている間に、上記顕微鏡スライドは伝導的に加熱される。
【0016】
他の実施形態では、顕微鏡スライドによって担持された標本を処理するための方法は、標本担持顕微鏡スライドを実質的に垂直の姿勢に位置付けることを含む。上記標本は、上記顕微鏡スライド上に捉われた残留移転流体の上に浮いている。この残留移転流体は、浮いている標本の少なくとも一部と顕微鏡スライドの間から流出される。上記顕微鏡スライドは、伝導スライド加熱器を使用して伝導的に加熱される。
【0017】
スライド乾燥器は、いくつかの実施形態では、周囲空気の温度とはおおむね無関係に顕微鏡スライドを乾燥可能である。周囲空気の温度とはおおむね無関係に顕微鏡スライドを急速に加熱するために、熱は顕微鏡スライドに伝導的に伝えられる。スライド乾燥器に顕微鏡スライドを手動で装着し、乾燥期間後に顕微鏡スライドを取り外すために、ユーザはスライド乾燥器に容易に接近可能である。いくつかの実施形態では、スライド乾燥器は、様々な型の乾燥処理を実施するようにプログラム可能な制御部を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一つの実施形態による、顕微鏡スライドを加熱するためのスライド乾燥器の絵画図である。
【図2】複数の標本担持顕微鏡スライドを収納する、図1のスライド乾燥器の側面図である。
【図3】図2のスライド乾燥器及び標本担持顕微鏡スライドの正面図である。
【図4】スライド乾燥器及び標本担持顕微鏡スライドの構成要素の部分的な断面図である。
【図5】生体サンプルを処理する一つの方法のフローチャートである。
【図6】伝導スライド加熱器によって支持された顕微鏡スライド上のある位置に置かれた標本と残留移転流体の立面図である。
【図7】標本の裏面をスライドの前面に接着させる前の標本担持顕微鏡スライドの立面図である。
【図8】図7の標本が顕微鏡スライドに接着された状態の立面図である。
【図9】互いに隔てられた複数の顕微鏡スライドを収納できる、カバー付きスライド乾燥器及び伝導スライド加熱器の絵画図である。
【図10】2列の顕微鏡スライドを収納するための伝導スライド加熱器の絵画図である。
【図11】一つの図示した実施形態による、顕微鏡スライドを処理するための装置の絵画図である。
【図12】図11の装置の側面図である。
【図13】図12の13−13線に沿って描かれた図11の装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
非限定的かつ非包括的な実施形態を以下の図面を参照して説明する。特に明記されない限り、各図を通じて同じ参照番号は同様の部分または行為を示す。
【0020】
図1は、一つ以上の標本担持顕微鏡スライドを乾燥させることができるスライド乾燥器100を示す。スライド乾燥器100は、スライド及び/または標本を乾燥させるために、標本をスライドに接合させるために、及び/またはその他の所望の熱処理を実施するために、顕微鏡スライドとそれに担持された標本を加熱できる。標本担持顕微鏡スライドは、標本の望ましくない移動を制限し、最小にし、または実質的になくしながら、標本と各々の顕微鏡スライドの間の残留移転流体の除去を促進する姿勢に保持される。標本担持スライドは、標本を各々のスライドに固定的に接合させるように乾燥される。標本がスライドに固定的に接合された後、染色、免疫組織化学、切片上ハイブリッド形成、またはその他の処理などの後続の処理と組織分析のために、標本担持スライドはスライド乾燥器100から取り外される。図示したスライド乾燥器100は、可搬であり、人によって容易に運べる(例えば、手で持ち運べる)。実験室で設定する際には、スライド乾燥器100は、ワークステーション間を手で持ち運ぶことができる。
【0021】
顕微鏡スライドは、標本の下に閉じ込められた残留移転流体の除去を促進し、乾燥時間を短縮するために、実質的に垂直の姿勢に保持され得る。標本の下のスライドの領域は、流動性を有する残留移転流体を標本から流し出すことによって、急速に乾燥させることができる。したがって、残留移転流体の一部のみが、標本に面したスライドの領域を乾燥させるように蒸発される。スライド乾燥器100は、スライドを乾燥させるとともにスライドへの標本の接合を促進するためにも熱を発生する。標本は、限定されないが、生体サンプル(例えば、組織サンプル)とサンプルがそこに埋め込まれる材料(例えば、埋め込み用材料)を含む。
【0022】
生体サンプルをスライドに直接接着させるように、埋め込み用材料の少なくとも一部は溶融し、スライドと接触し、固化する。埋め込み用材料は、顕微鏡スライドに向かって動き進むことができ、最終的にはスライド上に堆積させられ得る。その材料がスライドの材料と残留移転流体(例えば、水)に比べてより疎水性であれば、埋め込み用材料は流体のビード化を促進できる。埋め込み用材料がスライドの表面を覆うと、流体とスライドの間の接触角が増加する。顕微鏡スライドは直立した姿勢になっているので、重力のせいで、残留移転流体は標本の下端に貯留しがちである。標本の上端は、スライドの前面に物理的に接触可能であり、標本の望ましくない移動を最小にし、制限し、または実質的に防止できる。十分な量の残留移転流体が貯留した後、流体は標本から離れ下方へ流れ出ることができ、これによりスライドの前面にある標本から出てゆく。このような処理が、広い範囲にわたる個々の濡れた顕微鏡スライドで実施され得る。
【0023】
図1に図示したスライド乾燥器100は、伝導スライド加熱器110、制御部114、 及びスライド乾燥器100の内部構成要素を収容する本体118を含む。伝導スライド加熱器110は、一つ以上の顕微鏡スライドを接触しつつ支持する。本体118は、伝導スライド加熱器110に隣接するスライド支持部120を含む。
【0024】
伝導スライド加熱器110によって発生された熱が、乾燥期間などの所望の期間の間、顕微鏡スライドに伝達されるように、伝導スライド加熱器110とスライド支持部120は、顕微鏡スライドを実質的に垂直の姿勢に保つために協働できる。伝導スライド加熱器110は、標本を所望の温度に伝導的に加熱するように、制御部114からの信号に応じて十分な量の熱を発生することができる。残留移転流体は、標本から離れ流出可能あり、蒸発可能であり、及び/または他の形で標本担持顕微鏡スライドから除去可能である。加熱された標本は、顕微鏡スライドに物理的に接触した状態になる。図6〜図9に関連して述べるとおり、標本と顕微鏡スライドの間の接着を促進する温度まで標本の温度を上昇させることができる。
【0025】
図2と図3は、伝導スライド加熱器110に立てかけられて、スライド支持部120の上面136に載っている複数の顕微鏡スライド130a、130b、130c(まとめて130)を示す。顕微鏡スライド130は、光学機器(例えば、顕微鏡を用いたもの)などの機器を使用した検査に供する標本132を担持する、おおむね平面の透明な基板であり得る。例えば、各顕微鏡スライド130は、標本を受け止める前面とスライド乾燥器100に係合する裏面を有する、透明な材料(例えば、ガラス)のおおむね長方形片であり得る。顕微鏡スライド130は、用途に応じて変えられても、変えられなくてもよく、広範囲にわたる様々な寸法をもつことができる。いくつかの実施形態では、スライド130は、約3インチ(75 mm)の長さと約1インチ(25 mm)の幅をもち、ある種の実施形態では、バーコードなどのラベルを含むことができる。いくつかの実施形態では、スライドは、約75 mmの長さ、約25 mmの幅、及び約1 mmの厚さをもつ。顕微鏡スライド130は、標準の顕微鏡スライドの形態であり得る。図示した顕微鏡スライド130は、(例えば、カバースリップの付いていない)覆いのない標本132を担持する。いくつかの実施形態では、スライド支持部120の寸法は、スライド130上のラベルが、スライド支持部と反対側のスライドの面に、スライドのスライド支持部と接触している部位よりも上に位置されるようにした寸法である。このようにして、ラベルは乾燥処理中に熱から保護され得る。
【0026】
本体118は、顕微鏡スライド130がおおむね直立に保たれるように、おおむね水平な支持面140の上に載っている。制御部114は、スライド乾燥器100の動作を制御するために、ユーザによって便利にアクセスできるようになっている。図1〜図3は、筐体146、表示部150、及び入力装置154を含み、伝導スライド加熱器110に通信可能に接続された制御部114を示す。表示部150は、スクリーンまたはその他の表示装置であり得る。入力装置は154は、限定されないが、一つ以上のボタン、キーボード、入力パッド、ボタン、制御モジュール、またはその他の適当な入力素子を含み得る。図示した入力装置は154は、スライド乾燥器100をプログラムするために使用される、タッチ・パッドなどの入力パッドの形態になっている。
【0027】
制御部114は、限定されないが、一つ以上の中央処理装置、処理デバイス、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、中央処理装置、処理デバイス、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、読取り装置、等を通常は含み得る。情報(例えば、乾燥処理プログラム)を記憶するために、制御部114は、限定されないが、揮発性メモリー、不揮発性メモリー、リード・オンリー・メモリー(ROM)、ランダム・アクセス・メモリー(RAM)、等の一つ以上の記憶素子を含み得る。制御部114は、標本担持スライドの所望の処理に基づいてプログラムされ得る。動作の固定温度モードでは、制御部114は、伝導スライド加熱器110をおおむね一定の温度に維持するように使用される。動作の可変温度モードでは、制御部114は、伝導スライド加熱器110の温度を調整するように使用される。制御部114は、伝導スライド加熱器110の動作を制御するための一つ以上のプログラムを記憶できる。入力装置154は、異なるプログラム間、動作のモード、等の切り替えのために使用され得る。
【0028】
図1〜図3を参照すると、顕微鏡スライド130の厚さを通じて熱は効率的に伝達され得る。図2に図示した伝導スライド加熱器110は、スライド130の標本搭載領域の長さ以上の高さHをもつ。搭載領域全体にわたりおおむね一様な熱分配を容易にするために、各顕微鏡スライド130の縦の長さLSの大部分が伝導スライド加熱器110に接触可能である。いくつかの実施形態では、高さHは、少なくとも約2.5インチ(63.5 mm)、約2.75インチ(70 mm)、または約2.9インチ(74.7 mm)であり、並びにこれらの高さを含む範囲にわたる。スライド130a、130b、130cのそれぞれの上端 139a、139b、139cは、スライド130をつかむのに便利なように、乾燥器100を越えて上方に突き出すことができる。
【0029】
伝導スライド加熱器110の縦の長さLは、処理されるべき顕微鏡スライド130の所望の数に基づいて選択され得る。長さLは、処理可能な顕微鏡スライドの数、顕微鏡スライド間の間隔、等を増減するのに伴って増減され得る。図3に図示した実施形態は、3個の互いに隔てられた顕微鏡スライド130を有する。いくつかの実施形態では、少なくとも3個の顕微鏡スライド130を同時に処理可能なように、長さLは少なくとも6インチ(152 mm)である。その他の寸法も可能である。
【0030】
伝導スライド加熱器110は、横から見たとき、おおむね長方形の形状をもつ板であり得る(図3を参照)。伝導スライド加熱器110の熱的特性は、所望の処理温度、温度分布、加熱/冷却の速度、等といった処理基準に基づいて選択され得る。例えば、スライド加熱器110の係合面160は、その全面160にわたり熱を急速に伝達するために、比較的低い熱質量と高い熱伝導性をもち得る。スライド130のすべてまたは大部分が実質的に同じ温度に維持されることを確実にするように、係合面160は実質的に均等な熱分配をもち得る。
【0031】
伝導スライド加熱器110は、例えば、銅、鋼、アルミニウム、鉄またはこれらの組み合わせなどの金属、等の一つ以上の熱伝導性材料でその全体または一部を製造できる。いくつかの実施形態では、係合面160は、大部分が鋼(例えば、ステンレス鋼)で製造され、耐磨耗性と耐腐食性が高くなっている。他の実施形態では、係合面160は、内部加熱素子とスライド130の間で熱を急速に伝達するように大部分が銅で製造される。有利には、この急速な熱伝達のおかげで、加熱器110の抵抗加熱器などの内部加熱素子の数が減少され得る。伝導スライド加熱器110は、磨耗特性と熱的性能を向上させるために重層構造を有することができる。例えば、係合面160は鋼の薄板とすることができ、加熱器110中の銅の内部層が面160に熱を分配しやすく、伝えやすくできる。他の実施形態では、伝導スライド加熱器110は単層構造を有する。
【0032】
係合面160は、スライド130と面160の間の接触面域を増加させるために実質的に平面とすることができる。係合面160は、スライド130の上載部分の大部分または実質的に全部に接触するように極めて平らな高度に磨かれた面にすることができる。いくつかの実施形態では、係合面160は、顕微鏡スライド130の相対移動を最小にする、制限する、または実質的に防止するように構成される。例えば、移動防止形状(例えば、突起、隆起、溝、間仕切り、質感、等)を面160に組み込むことができる。
【0033】
図1〜図3の本体118は、表面140の上に載る基部170を有する。限定されないが、実験室またはその他の試験現場でしばしば見られる腐食性の環境を含む苛酷な環境においてスライド乾燥器100が使用される場合でも、本体118は内部構成要素を保護する。スライド支持部120は、本体118と一体に形成される。図示した実施形態では、上面136は、 係合面160に対しておおむね直角に延設する。顕微鏡スライド130の下端が上面136の上に載るとき、スライド130の裏面141(図2を参照)は係合面160に寄りかかり平らに置かれる。
【0034】
図4は、制御部114、電源200、伝導スライド加熱器110へ電力を供給する配線202、及びスライド加熱器110の動作を評価するためのセンサー212を示す。配線220は、制御部114をセンサー212に通信接続する。図示した伝導スライド加熱器110は、外面部210と熱電素子204を含む。「熱電素子」と言う用語は、限定されないが、熱を発生できる及び/または熱を吸収できる一つ以上の電気的装置を含む広義な用語である。
【0035】
素子204が作動されているとき、係合面160の実質的に全部または大部分は、実質的に均等な温度をもち得る。例えば、係合面160の実質的に全部または大部分は、摂氏約10度の温度範囲内にあることが可能である。ある種の実施形態では、係合面160はおおむね同じ温度に維持される。例えば、係合面160の平均温度が摂氏約5度の範囲にあることが可能である。他の実施形態では、異なる種類の組織を保持するスライドの乾燥や異なる埋め込み用材料を用いて埋め込まれた組織についてのスライドの乾燥に対応するために、係合面160の異なる部分は異なる温度に維持され得る。
【0036】
図4に図示した実施形態を含むいくつかの実施形態では、外面部210は中空の板であり、熱電素子204は電気エネルギーを熱エネルギーに変換するように適合された加熱素子である。加熱素子204が熱を発生するとき、熱は外面部210を通じて伝達され、顕微鏡スライド130によって吸収される。熱は、最終的に、スライド130から標本132へと伝達される。素子204へ供給される電気エネルギーの量は、標本132の温度を増減させるために増減され得る。
【0037】
加熱素子204は、抵抗加熱素子であり得る。広範囲にわたる様々な種類の抵抗加熱素子(例えば、プレート抵抗加熱器、コイル抵抗加熱器、帯状片加熱器、等)が、所望の動作パラメータに基づいて選択可能である。冷却素子、加熱/冷却素子などのその他の種類の熱素子も利用され得る。本文書で使用される「冷却素子」という用語は、限定されないが、伝導スライド加熱器110の少なくとも一部を効果的に冷却するために、熱を活発に吸収できる一つ以上の素子を含む広義な用語である。例えば、冷却素子は、冷却された流体がその中を流れる冷却管または冷却導水路であり得る。いくつかの実施形態では、伝導スライド加熱器110は、加熱期間中に熱を発生するための加熱素子と冷却期間中に熱を吸収するための冷却素子を含む。
【0038】
いくつかの実施形態では、素子204は、ペルチェ素子などの加熱/冷却素子である。ペルチェ素子は、その内部の通過電流の方向に依存して、片側が熱くなり、反対側が冷たくなる固体素子であり得る。電流の方向を単純に選択することによって、ペルチェ素子204は、所望の長さの時間の間、係合面160を加熱するために使用され得る。電流の方向を切り替えることによって、同素子204は係合面160を冷却する。他の実施形態では、加熱/冷却素子204は、作動流体がその中を流れる導水路の形態であり得る。加熱期間の間は加熱された流体が上記導水路を通過可能であり、冷却期間の間は冷却された流体が上記導水路を通過可能である。加熱/冷却素子204の位置、数、及びタイプは、伝導スライド加熱器210の所望の温度プロファイルに基づいて選択され得る。
【0039】
上記外面部210の熱的特性は、係合面160の壁211に沿った所望の温度分布を達成するように選択され得る。例えば、上記外面部210は、個々の加熱素子204に関係した何らかの顕著な局所的な温度不均等を減少させるまたは制限するために、十分な熱伝導性をもつ銅またはその他の適当な材料などの高伝導性の材料でその全体または一部を製造できる。熱は周囲の空気(例えば、室温の空気)へと損失されるので、上記素子204は一定流量を連続して発生可能である。加熱器の周縁面は露出しているため、熱はスライド加熱器110の外面からより早く消散されるので、スライド加熱器110の内部は加熱器110の外面よりも熱くなり得る。いくつかの実施形態では、表面160にわたりおおむね均等な温度を維持するために、近接した間隔で並べられた加熱素子204の配列が使用される。その他の構成も可能である。
【0040】
センサー212は、加熱器110の温度を検出し、その温度を示す一つ以上の信号を送信する温度センサーである。センサー212は、スライド加熱器110及び/または顕微鏡スライド130のいずれかの部分の温度を測定するために、伝導スライド加熱器110の裏面217に取り付けられたり、加熱器110に埋め込まれたり、係合面160に取り付けられるかまたは埋め込まれたり、またはその他の適当な箇所に配置されることが可能である。センサー212は、限定されないが、一つ以上のサーマル・カップル、サーモメーター(例えば、IRサーモメーター)、パイロメーター、抵抗温度検出器(RTD)、サーミスタ、等を含み得る。
【0041】
図5は、標本を用意し解析する一つの方法のフロー図である。一般に、水などの組織薄片移転流体を使用して、標本を顕微鏡スライドの上に置くことができる。標本担持顕微鏡スライドは、スライド乾燥器内に装着され、標本が顕微鏡スライドに接着されるように乾燥される。スライド乾燥器100は、顕微鏡スライドに相対した標本の望ましくない移動を最小にし、制限し、または実質的になくしながら、スライドを急速に乾燥させる。乾燥処理中に、標本はスライドに相対した概略同じ位置にとどまることができる。複数の標本がスライドに取り付けられる場合には、標本間の間隔は乾燥処理の間ずっと維持され得る。これは、標本が顕微鏡スライドから落ちるのではないかという医師の懸念を減じるまたはなくすことができる。標本担持スライドは、次に、便利に運ばれ、広範囲にわたる様々な検査技術及び機器を使用して解析され得る。この処理を以下に詳細に説明する。
【0042】
組織のサンプルなどの生体サンプルは、組織構造、細胞構造、等などのその特性を保つように処理される。この組織は、限定されないが、臓器の切片、腫瘍の切片、体液、塗抹標本、冷凍した切片、細胞のプレップ(cytology prep)、または細胞体を含む、顕微鏡スライドに取り付け可能な何らかの細胞集合であり得る。例えば、組織サンプルは、切開生検、コア生検、切除生検、針吸引生検、コア針生検、定位生検、直視下生検、外科的生検、等を使用して得られたサンプルであり得る。
【0043】
ステップ250において、サンプルを固着保存するために固定剤が使用される。固定剤は、細胞構造を固着保存でき、組織の浄化または自己分解等を引き起こす可能性がある酵素作用を抑止または実質的に阻止できる。固着処理は組織の剛性を増加できるため、これにより以下に詳述する切片化がよりしやすくなる。ホルムアルデヒド、エタノール、アセトン、パラホルムアルデヒド、またはその他の種類の固定剤が使用可能である。固定剤の種類と数は、染色、細胞染色、免疫組織化学、または切片上ハイブリッド形成などの実施されるべき所望の処理に基づいて選択され得る。組織サンプルを固着した後、所望の長さの時間の間、組織サンプルを保存できる。
【0044】
ステップ260では、切片化を容易にし得る機械的特性を有する材料にサンプルは埋め込まれる。埋め込み用の材料は、これらに限定されないが、パラフィン、樹脂(例えば、プラスチック樹脂)、ポリマー、アガロース、ニトロセルロース、これらの混合物、等を含む。いくつかの実施形態では、埋め込み用材料は、その大部分または全体がパラフィンからなる。パラフィンは、白色またはおおむね無色の不水溶性の固形物質であり、多くの試薬に耐性がある。例えば、パラフィンは、主として、石油から得たアルカリ系列の炭化水素の混合物であり得る。同様の炭化水素の広範囲にわたる様々な混合物がパラフィンを作るために使用可能であり、これらの混合物は、固体、半固体、及び/または油分の多いものであり得る。いくつかの実施形態では、パラフィンはワックスである。
【0045】
組織サンプルに物質を少なくとも部分的に組み込むために、広範囲にわたる様々な従来の含浸処理が使用可能である。組織サンプルは、切断処理を容易にする性質を与えるように組織サンプルに浸透できる物質と混合または合成され得る。このようにして、組織サンプルは埋め込まれる。組織サンプルがミクロトームまたは同様の装置によって切片化されるものとする場合、パラフィンまたはプラスチック樹脂などのその他の適当な材料に組織サンプルを埋め込むことができる。埋め込み用材料がパラフィンであるならば、パラフィンは加熱溶融され得る。熱い液体のパラフィンは、少なくとも部分的に生体サンプルに染み込み、その後、固化される。
【0046】
ステップ270では、標本は搭載可能な切片に切断され、顕微鏡スライドに置かれて、その後、乾燥される。ミクロトームは、薄片、例えば、約5ミクロン〜約6ミクロン程度の厚さのスライスに標本を切断できる。各切片は、組織サンプルの部分と埋め込み用材料の一部を含み得る。
【0047】
ステップ280において組織標本を顕微鏡スライドに移転するために、種々の技法が使用可能である。いくつかの実施形態では、切断された切片は、切片を広げるまたは平らにするために水に浮かべられる。切片がパラフィンに埋め込まれた組織片である場合には、おおむね平らな形状に切片を保つために温水槽に切片を浮かせることができ、こうすることによって、折り曲がったり、しわになったり、またはたわんだりすることを減少させるまたは防止する。顕微鏡スライドが温水槽の中に挿入される。スライドの前面が、組織標本を拾い上げるために使用される。一つのスライドを使って複数の組織サンプル(例えば、各々被検者の異なる部位で採取された一組の組織サンプルのセット)を検査するためには、複数の組織サンプルを順にスライドの上に浮かせるようにすることができる。これらの湿ったスライドは、次に、スライド乾燥器100を使用して乾燥される。
【0048】
図6は、移転流体の液滴282に位置付けられた標本286を示す。移転流体の液滴282は、何らかの添加物(例えば、湿潤剤、試薬、染料、等)を含むこともあり、含まないこともある水またはその他の適当な液体(水媒体を含む)であり得る。水が使用される場合には、水は、脱イオン化された水、再蒸留された脱イオン化された水、精製水、等であり得る。移転流体の液滴282は、スライド130が上述した水槽から引き上げられるときに形成され得る。代替的に、前面284に移転流体を直接滴らせて、その後液滴の上に標本を載せることによって、液滴282を堆積させることができる。表面284の上に直接載せられた液滴は、次に、前面284上の適切な位置に標本を置けるように機能する。たとえスライド130が、例えば、ワークステーション間または異なる機器間を移動される場合にも、標本286が概略同じ位置に保持されるように、移転流体282とスライド130の間の接触角は比較的小さい。
【0049】
折り曲がり、しわ、隆起、座屈、等などの標本286の望ましくない不規則性を制限し、減少し、または実質的に防止するために、移転流体282の表面張力は、標本286のおおむね平らな形状を維持するのに助けとなる。流体282は標本286と顕微鏡スライド130の間に閉じ込められるため、標本286は前面284から離れた状態に保たれる。
【0050】
乾燥時間を短縮するように流体282の流出を促進するために、顕微鏡スライド130は実質的に垂直の姿勢に保持される。図示したスライド130は、おおむね水平な仮想平面291(例えば、図2及び図3の支持面140におおむね平行な仮想平面)と係合面160によって定められた傾斜角度αになっている。スライド130は伝導スライド加熱器110に寄りかかり平らに置かれるので、スライド130は概略同じ傾斜角度に保たれる。図示した伝導スライド加熱器110は、約70度、80度、85度、または90度よりも大きい、上記仮想水平面291との間の角度βを定める仮想平面283におおむね沿って延設する。スライド13の縦軸295は、上記仮想平面283におおむね平行である。顕微鏡スライド130を約80度の傾斜角度αに保つには、角度βを約80度以上にすることができる。必要な場合または望ましい場合には、その他の角度も可能である。
【0051】
標本286を伝導的に加熱するために、係合表面160は標本286の埋め込み用材料の融点以上に維持される。埋め込み用材料が摂氏約50度から摂氏約57度の間の融点をもつパラフィンである場合には、上記表面160は摂氏約50度の温度以上に保たれる。矢印277は、加熱器110から標本286へ伝達されている熱を表わす。埋め込み用材料が溶融すると、溶融した材料が移転流体282の上面に沿って浮かび、前面284に堆積しだすことが可能である。埋め込み用材料が顕微鏡スライド130に比べてより疎水性であれば、移転流体282が上記表面と界面をなす接触角は増加することができ、それによって流体282は表面284に沿って移動しやすい不安定な液滴になる。傾斜したスライド130は、標本286の下部287付近に移転流体282が貯留することを促進する。流体282は標本286と顕微鏡スライド130の間の隙間285に集まり、やがて流体282は前面284を流れ落ちるようになる。
【0052】
図6はまた、顕微鏡130が垂直の姿勢ではなく水平の姿勢であったと仮定して、接触角が増加した後の流体282の位置296(想像線によって示される)も示す。図示した顕微鏡スライド130は直立の姿勢になっているので、図7に示すように、重力のせいで流体282は隙間285に貯留しやすい。標本286の移動を制限し、最小にし、または実質的に防止するように、標本286の上部293は加熱された表面284に物理的に接触することができる。上部293は、例えば、表面284に張り付くことができる。
【0053】
十分な量の流体282が貯留した後、矢印297によって示されるように、流体は標本286から離れて下方へ流れ出る傾向がある。流体282は標本286から離れて下方へ流れ、表面284を流下する。このようにして、標本286と表面284の間に閉じ込められた流体282の少なくとも一部または実質的に全部が除去される。標本286は、したがって、表面284上に留まり、表面にじかに物理的に接触した状態になる。流体282は、最終的に、スライド130の下端部まで完全に表面284を流れ落ちることができる。
【0054】
流体282と表面284の間の接触角を相当に増加するのに十分な量の埋め込み用材料の溶融後にビード化した移転流体282が流れ出るように、図7に図示した傾斜角度は約70度よりも大きい。いくつかの実施形態では、傾斜角度は約75度よりも大きい。このような実施形態は、コア針生検によって得られた組織サンプルを含む標本のような比較的小さな標本から残留移転流体(例えば、水)を離して流出させるのに特によく適している。残留移転流体は、比較的大きな標本や小さな標本を含む、様々な種類と大きさの標本から異なった速度で分離流出可能である。いくつかの実施形態では、標本286が加熱される間に移転流体282の迅速な貯留を促進するために、傾斜角度は約75度よりも大きい。いったん埋め込み用材料がその融点まで加熱されると、移転流体282は急速にビード化し、そこから流出される。
【0055】
図8は、乾燥期間終了後の標本担持スライド130を示す。係合面160は摂氏約50度以上の温度に維持可能であり、周囲空気は摂氏30度未満(例えば、摂氏約21度の温度)であり得る。スライド130は加熱器110に寄せかけて置かれる。例えば、約5分、1分、45秒、30秒、20秒以下、またはこれらの期間を含む範囲内における、比較的短時間の期間に標本286が表面284に接着されるように、係合面160はスライド130を加熱する。液滴を完全に蒸発させるのに伴う乾燥時間を避けるように、移転流体282の大部分は標本286から離れて流出される。乾燥期間の長さは、移転流体の量、標本286の組織の特徴、埋め込み用材料の特性、等により変わり得る。
【0056】
図7の係合面160は、摂氏約50度、摂氏約55度、または摂氏約65度の温度以上に、並びにこれらの温度を含む範囲(例えば、摂氏約50度〜摂氏約65度の範囲)内に維持可能である。上記の温度は、比較的低い融点をもつパラフィンまたはその他の材料を溶融するのに特によく適している。いくつかの実施形態では、約1分内に標本286は表面284に接着される。例えば、標本286は、約10秒〜約1分で接着可能である。いくつかの実施形態では、係合面160は摂氏約65度以上の温度に維持される。ある種の実施形態では、係合面160は摂氏約65度、摂氏約70度、摂氏約80度未満または以上の温度に、またはこれらの温度の範囲内に維持可能である。精度を維持する目的で係合面160の温度を測定するために、赤外線サーモメーターが使用される。乾燥時間を減少または増加させるために、サーモメーターからのフィードバックを用いて係合面160の温度を上昇または低下させることができる。
【0057】
一貫した乾燥を行なうために、係合面160は加熱期間中ある程度一定の温度に維持され得る。だから、スライド加熱器110は、目立った温度変化なしにスライドを乾燥できる。例として、短い乾燥時間を確実にするために、係合面160は埋め込み用材料の融点以上のおおむね一定の温度に維持可能である。いくつかの実施形態では、係合面160の温度は、融点よりも高い動作温度範囲内に保たれる。動作温度範囲は、摂氏50度〜摂氏60度、摂氏55度〜摂氏65度、または摂氏60度〜摂氏70度とすることができる。その他の範囲も可能である。
【0058】
接触時に瞬時に熱をスライド130に伝達するように、係合面160を予熱することができる。予熱は、周期的に行なう加熱処理に伴う立ち上げ時間を回避するために使用され得る。係合面160が所定の温度に達するまで待つことなく、スライド乾燥器100にスライドを繰り返し装着することができる。もちろん、係合面160の温度は、スライド130が熱を吸収するにつれて少し低下することはあり得る。このような影響は、スライド加熱器110で連続的に熱を発生させることによって最小にできる、または回避できる。
【0059】
他の実施形態では、スライド130を係合面160に寄せかけて置いた後に係合面160を加熱するようにできる。エネルギー消費を減少させるために、例えば、大体室温にまたは室温と乾燥のための所望の温度の間の温度にというような低い温度に係合面160を維持可能である。いくつかの実施形態では、この低い温度は待機温度である。例えば、摂氏約25度〜摂氏約50度の範囲の待機温度に係合面160を保つことができる。係合面160の温度は、スライド130の装着中または装着後に少なくとも摂氏約50度まで上げられる。乾燥終了後に、係合表面160は待機温度に戻る。乾燥処理中に使用されるエネルギー量を削減するまたは制限するために、広範囲にわたる様々な型の加熱サイクルが採用可能である。
【0060】
乾燥終了後に、スライド130はスライド乾燥器100から取り外される。標本286の冷却速度を上げ、それにより処理時間を短縮するために、伝導スライド加熱器110は、標本担持スライド130から熱を急速に吸収するために冷却素子(例えば、ペルチェ素子)も含むことができる。標本担持スライド130が十分に冷却されるとすぐに、スライド乾燥器100からスライドを取り外すことができる。
【0061】
ステップ289において、標本286は検査のために染色される。標本は、さらに、ベーキング、ワックス除去、パラフィン除去、等の処理を受け得る。いくつかの実施形態では、パラフィン除去を行なった後、染色剤が標本286に塗布される。顕微鏡スライドは、次に、その後の光学的検査のためにカバースリップを付けられる。
【0062】
ステップ290では、標本286は光学機器(例えば顕微鏡)、光学器械、等を使用して検査され得る。病理学、組織組成、及び組織構造に関する情報を得るために使用される広範囲にわたる様々な組織解析を実施するために、様々な種類の検査処理が利用可能である。この情報は、様々な種類の病気を診断するために、そしていろいろな医学研究を行なうために医師によって利用可能である。
【0063】
図9を参照すると、スライド乾燥器300は、伝導スライド加熱器310、基部312、及びカバー314を含む。基部312は、伝導スライド加熱器310の動作を制御するための制御部320を含む。カバー314は、標本担持顕微鏡スライドに望ましくない汚染物質が付着するのを防ぐために、伝導スライド加熱器310を包み込み、囲むことができる。基部312は、スライド伝導加熱器310を包囲するコレクター337を含む。コレクター337は、スライドから除去される残留移転流体または材料を回収できる。
【0064】
図示した伝導スライド加熱器310は、互いに隔てられた複数の発熱支持素子330a〜h(まとめて330)を含む。上記支持素子330は、独立に作動されることも、または共同で作動されることもでき、同じ傾斜または異なる傾斜をもつよう姿勢付けられる。図示した各素子330は、互いにおおむね平行であり、少なくとも一つのおおむね垂直に姿勢付けられた顕微鏡スライドを隣接する素子330のペア間に挿入可能なように間隔をとられる。支持素子330の各々は、一つ以上の通電可能な熱素子(例えば、電熱素子)を含むことができる。他の実施形態では、支持素子330間を延設する背板441が、支持素子330を通じて伝導される熱を発生できる熱素子(例えば、内部熱素子)を有する。
【0065】
使用時には、各支持素子330に顕微鏡スライドをもたせかけることできる。矢印339によって示されるように、カバー314はスライド加熱器310の上方において移動可能である。伝導スライド加熱器310は、垂直に姿勢付けられた標本担持顕微鏡スライドの列全体を乾燥させることができる。顕微鏡スライドが処理された後、顕微鏡スライドに接近し取り外すためにカバー314は取り外される。
【0066】
図10は、フレーム361とフレーム361に結合された複数の伝導スライド加熱器362、364を含む加熱器アセンブリ360を示す。伝導スライド加熱器362、364は、図9のスライド伝導加熱器310とおおむね同様であり得る。加熱器アセンブリ360は、自動スライド処理システムまたは独立型スライド乾燥器などの様々な型のスライド処理システムに組み込むことが可能であり、そして制御部、電源、等を含むことができる。
【0067】
図11は、乾燥ステーション402と複数の処理ステーション404、406、408を含む装置400を示す。制御部410は、乾燥ステーション402と処理ステーション404、406、408の一つ以上の動作を制御する。図示した制御部410は、ステーション402、404、406、408の各々に通信接続され、コマンドを送る。本装置400を使用して、顕微鏡スライドは自動的に処理可能である(例えば、実質的に人の介入がない処理を介して)。例えば、制御部410は、好ましくは、組織サンプルへの熱損傷を所望のレベル以下に抑えつつ、ステーション402内のスライド乾燥器401(図13)によって発生される熱の量、乾燥の速度、乾燥期間の長さ、またはその他の処理パラメータを制御できる。
【0068】
本文書で使用される「処理ステーション」という用語は、限定されないが、ベーキング・ステーション、材料除去ステーション(例えば、ワックス除去ステーション、パラフィン除去ステーション、等)、染色ステーション、カバースリップ付けステーション、等を含む。例えば、処理ステーション404、406、408は、それぞれ、パラフィン除去ステーション、染色ステーション、及び カバースリップ付けステーションであり得る。
【0069】
搬送装置418は、乾燥ステーション402とその他のステーション404、406、408の間で標本担持顕微鏡スライドを搬送する。搬送装置418は、限定されないが、一つ以上の昇降機、スライド・ハンドラー、スライド・トレイ、スライド・ホルダー、等を含むことができる。スライド・ハンドラーは、これらに限定されないが、スライドを受け入れ搬送できる、スライド・マニピュレータ、X−Y−Z搬送システム、ロボット・システム、またはその他の自動システムを含むことができる。ロボット・システムは、限定されないが、一つ以上のピック・アンド・プレース・ロボット、ロボット・アーム、等を含むことができる。
【0070】
図11〜図13を参照すると、乾燥ステーション402は、スライド乾燥器401とロボット型のスライド・ハンドラーとして図示されているスライド・ハンドラー420を含む。スライド乾燥器401は、標本担持顕微鏡スライドを伝導的に加熱するための熱を発生させる。ロボット型のスライド・ハンドラー420は、図13に概略的に図示した、伝導スライド加熱器401とスライド搬送具424の間でスライドを拾い上げて運ぶことができる、アーム421とエンド・エフェクタ423を含む。スライド乾燥器401は、図1〜図3のスライド乾燥器100または図10のスライド乾燥器300とおおむね同様であり得る。いろいろな型のその他の自動スライド処理システムも、ここに開示されたスライド乾燥機及びその他の特徴をもつことが可能である。例えば、特許文献1(米国出願第10/414,804号)は、ここに開示された実施形態及び特徴と共に併用可能なまたはそれに組み込み可能な、いろいろな型のスライド搬送具、処理ステーション、等を開示する。
【0071】
切断したての組織標本を担持している濡れた顕微鏡スライドは、装置400を使用して処理され得る。アクセス・ドア430を開けることができ、ユーザは標本担持スライドを搬送装置418内に装着することができる。搬送装置418は、スライドを乾燥器ステーション402へ積み込むことができる。標本担持スライドを乾燥させた後、スライドは逐次にステーション404、406、408へ送られる。図13の搬送装置418は、昇降機システム430と可動プラットフォーム434を含み、これらがスライド搬送具424を運んでいるところが図示されている。昇降機システム430は、搬送具424をレール440に沿って上下に移動させる。
【0072】
装置400のいくつかの使用方法では、標本担持顕微鏡スライドは、プラットフォーム434に置かれたスライド・トレイに載せられる。スライド・ハンドラー420は、標本担持顕微鏡スライドをスライド乾燥器401へ積み込む。スライド乾燥器401は、標本担持顕微鏡スライドを乾燥させる。標本担持顕微鏡スライドが十分な量、乾燥された後、スライド・ハンドラー420は、搬送具424へスライドを運んで戻す。
【0073】
搬送具242は、垂直に下降され、パラフィン除去用の処理ステーション404の隣りに位置付けられる。ステーション404は、標本の埋め込み用材料の少なくとも一部を除去することができる。パラフィン除去ステーション404は、水槽型のパラフィン除去ステーションまたは噴霧器型のパラフィン除去ステーションであり得る。図示したパラフィン除去ステーション404は、モジュール式の構成要素414を含み、下向きの一つ以上の洗浄液散布ノズル416を含む。ノズル416を使用して、パラフィン除去物質が標本の上にかけられる。埋め込み用材料(例えば、パラフィン)を除去した後、パラフィン除去物質と顕微鏡スライドに接着された裸の組織サンプルから出た余分のパラフィンを除去するために、スライドを脱イオン水などの物質で洗い流すことができる。
【0074】
ステーション404では、いろいろなパラフィン除去物質が使用可能である。例えば、パラフィン除去物質は、脱イオン水、クエン酸塩緩衝液(pH 6.0〜8.0)、トリス酸塩緩衝液(pH 6〜10)、リン酸緩衝液(pH 6.0〜8.0)、酸性緩衝液または溶液(pH 1〜6.9)、塩基性緩衝液または溶液(pH 7.1〜14)、等を含む、2005年2月15日に発行された特許文献2及び2003年4月8日に発行された特許文献3に開示されたものなど、パラフィンと組織標本の分離を促進する流体、例えば、水性流体であり得る。上記物質は、一つ以上のイオン性または非イオン性界面活性剤を含んでもよい。パラフィン除去物質は加熱可能である。例えば、上記物質(例えば、流体)は、埋め込み用材料の融点よりも高い温度、例えば、摂氏60〜70度の間に加熱され得る。2007年12月4日に発行された特許文献4は、パラフィン除去物質を用いて使用されるいろいろな構成要素(例えば、プローブ、フィルタ、噴霧器、等)を開示する。
【0075】
いくつかの実施形態では、ステーション404は、埋め込み用材料をベーキングするための一つ以上の加熱素子も含む。材料除去を容易にするように埋め込み用材料を軟化するために、スライドを加熱することができる。
【0076】
ステーション404が標本担持スライドを処理した後、搬送システム424は標本担持スライドを染色用のステーション406へ送る。所望の染色剤が、組織サンプルに塗布される。染色剤は、組織中の標的分子に塗られたとき、器械の下でその組織を検出可能にする生物学的物質または化学物質であり得る。染色剤は、限定されないが、検出可能な核酸プローブ、抗体、ヘマトキシリン、エオシン、及び染料(例えば、ヨウ素、メチレンブルー、 ライト染料(Wright’s stain)、等)を含む。
【0077】
標本が染色された後、標本担持スライドはカバースリップ付けステーション408へ搬送される。他の実施形態では、ステーション408は乾燥ステーションである。ステーション408は、染色処理されたスライドを乾燥させて、スライドがカバースリップ付けできる状態にする。いくつかの実施形態では、乾燥ステーション408は、図1〜図10に関連して説明したようなスライド乾燥器を使用して、染色処理されたスライドを伝導的に加熱する。他の実施形態では、乾燥ステーション408は対流式オーブンまたはマイクロ波オーブンの形態になっている。
【0078】
装置400はまた、他の種類の処理ステーションも含むことがきる。処理ステーションの数、構成、及び種類は、実施されるべき処理の種類に基づいて選択され得る。例えば、特許文献5は、組織を染色し処理するための装置を開示する。特許文献5は、参照することにより本文書に全面的に援用される。いくつかの実施形態では、処理ステーション406は、特許文献5で開示された回転式コンベヤー・システムのような回転式コンベヤー型システムを含む。
【0079】
上述した様々な実施形態は、さらに他の実施形態を提供するために組み合わせることが可能である。本明細書中で参照された及び/または出願データシート(Application Data Sheet)にリストで示した、米国特許、米国特許出願公報、外国の特許、外国の特許出願及び非特許刊行物は、参照することにより本文書に全面的に援用される。さらに新たな実施形態を提供するために、これらのいろいろな特許、出願、公報、刊行物の概念を取り入れる必要があるならば、ここに示した実施形態の態様は修正可能である。
【0080】
上記に詳述した説明を踏まえて、ここに示した実施形態にこのような変更やその他の変更が行なえる。概して、以下に示す請求項(すべて)において、使用される用語と表現は、本仕様書及び特許請求の範囲で開示された具体的な実施形態にこれらの請求項を限定するものと解釈されるべきではなく、これら請求項が権利を与えられる内容に相当するものの全範囲に加えてすべての可能な実施形態を含むと解釈されるべきである。したがって、これらの請求項は本開示によって限定されない。
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2008年11月12日付申請の米国仮特許出願No. 61/113,964の米国特許法第119条に基づく便益を主張する。この仮出願は、参照することにより本文書に全面的に援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、概して、標本担持スライドを処理するための方法と装置に関係する。より詳しくは、本発明は標本を顕微鏡スライドに接着させることに関係する。
【背景技術】
【0003】
組織解析は、様々な種類の病気を診断するために病理医などの医師によって使用され、また病理学、組織組成、及び組織構造に関する情報を得るために医学研究者によって使用される診断ツールである。組織解析のための組織サンプルを用意するために、広範に及ぶ種々の手順が一般に使用される。多くの種類の組織は、比較的柔軟でしなやかであるので、切片化には不向きである。組織サンプルを用意するための方法は、組織を固着すること、組織をある材料に埋め込むこと、埋め込まれた組織を切片化すること、そして、染色、免疫組織化学、または切片上ハイブリッド形成などのその後の処理及び解析のために、組織切片を顕微鏡スライドに移転することを含む。光学顕微鏡検査のための組織サンプルを切片化するためには、大きな組織サンプルから、組織の比較的薄い帯片を切り取ることができ、光が組織のその薄帯片を透過可能にする。組織の帯片の平均的な厚さは、約2ミクロンから約8ミクロン程度であることが多い。
【0004】
組織の薄帯片を顕微鏡スライドへ移転しやすくするために、水がしばしば使用される。顕微鏡スライドと組織の薄帯片の間に水滴が閉じ込められると、残留水滴によってスライドの上で組織の薄帯片が浮く状態になる。このような濡れたスライドに浮いている組織切片は、顕微鏡スライドの前面に沿って移動しやすい。組織サンプルがあまりに遠くまで移動するならば、サンプルが顕微鏡スライドから落ちる可能性がある。顕微鏡スライドからサンプルが落ちたことに医師が気付かない場合には、不完全な試験結果に基づき診断が行なわれる可能性があり、それが最終的には誤診の一因になり得る。例えば、一組の組織サンプルのセットがスライド上の残留水に浮いているとすれば、これらの組織サンプルのうちの一つが乾燥処理中にスライドから落ちることがあり得る。落下した組織サンプルが、適切な診断に必要な組織サンプルである可能性がある。
【0005】
水平熱板と対流式オーブンが、濡れた顕微鏡スライドを加熱乾燥させるためにしばしば使用される。水平熱板が使用される場合には、水平に置かれたスライドの上の組織サンプルの下にある水を蒸発させるために比較的長い期間の時間がかかり得る。さらに、サンプルの埋め込み用材料が溶けてスライドの前面に到達すると、水とスライドの間の接触角がしばしば増加する。この乾燥処理中に顕微鏡スライドが動くまたは水平に保たれない場合、組織サンプルは、スライドに相対して相当な距離を移動する可能性があり、ある状況では、顕微鏡スライドから落ちる恐れがある。乾燥処理中に、互いに隔てられた組織サンプル(例えば、一定の間隔で互いに隔てられた組織サンプルの列)が互いに相対して相当な距離を移動するとすれば、組織サンプルのうちの一つ以上が顕微鏡スライドから落ちたことを医師は懸念するかもしれない。医師は、組織サンプルの完全なセットが解析されることを確実にするために、その標本担持スライドを廃棄し、完全に新しい標本担持スライドを用意することになろう。被検者から追加の組織サンプルを採取する必要があろう。対流式オーブンは、スライドを乾燥させるのに比較的長い時間を要する。従来の対流式オーブンは、スライドを乾燥できるまでに約30分〜約2時間かかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0002163号明細書
【特許文献2】米国特許第6,855,559号明細書
【特許文献3】米国特許第6,544,798号明細書
【特許文献4】米国特許第7,303,725号明細書
【特許文献5】米国特許第7,396,508号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される少なくともいくつかの実施形態は、顕微鏡スライド上の標本を乾燥させるように構成された装置を含む。上記装置は、上記標本を担持する顕微鏡スライドの温度を制御する。上記装置は、標本とスライド間の接着を容易にし、かつ顕微鏡スライドに相対する標本の移動を、いくらかでもあれば、規制する位置に上記顕微鏡スライドが保持されている間に、上記標本を加熱する。
【0008】
上記装置は、いくつかの実施形態では、顕微鏡スライドに相対する標本の移動を制限し、最小にし、または実質的に防止するために、顕微鏡スライドを垂直に近い姿勢に保持する。乾燥処理の前及び/または最中で、標本は顕微鏡スライドに相対した概略同じ位置にとどまることができる。ある種の実施形態では、標本はスライドの上の標本が当初置かれた箇所に接着される。さらに、標本とスライドの間の残留移転流体が、標本をスライドに物理的に接触させるように流れ出ることによって、乾燥時間を短縮する。標本は、標本の裏面をスライドの前面に接合するように加熱され得る。
【0009】
いくつかの実施形態では、標本と担持体の間の残留移転流体が標本と担持体の間の界面から離れて移動できるように、乾燥器は担持体を直立の位置に保持するように適合される。乾燥器の伝導加熱器は、標本の少なくとも一部を融点まで伝導的に加熱するために十分な量の熱を発生可能である。標本は、組織の生体サンプルと、比較的低い融点をもつ埋め込み用材料などの他の物質を含む。溶融された埋め込み用材料は、標本を担持体に固定的に接合させるように冷却され得る。ある種の実施形態では、担持体は、顕微鏡スライドなどのスライドである。
【0010】
伝導加熱器は、担持体の裏面を支持するとともに、熱をその裏面に伝えることによって、熱は担持体の厚さを通じて担持体の前面の標本に伝導される。埋め込み用材料の少なくとも一部は溶融される。埋め込み用材料の溶融された部分は、標本を担持体の前面に物理的に接触させる。冷却されると、標本は担持体の前面にしっかりと接着される。
【0011】
いくつかの実施形態では、標本担持顕微鏡スライドを処理するための装置はスライド乾燥器を含む。上記標本は、生体サンプルと埋め込み用材料を含むことができる。上記スライド乾燥器は、生体サンプルの望ましくない移動を伴わずに上記標本と埋め込み用材料を乾燥できる。いくつかの実施形態では、上記スライド乾燥器は、顕微鏡スライドを実質的に垂直の姿勢に保持するように構成される。上記スライド乾燥器は、制御部と、この制御部に通信可能に接続された伝導スライド加熱器を含む。この伝導スライド加熱器は、上記顕微鏡スライド上の上記標本を上記埋め込み用材料の融点まで伝導的に加熱するように、上記制御部からの信号に応じて十分な量の熱を発生させるように適合される。周囲温度が比較的低い、例えば、室温であるような場合でも、上記スライド乾燥器は顕微鏡スライドを効率的に乾燥させることができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、スライド乾燥器は、濡れた搭載用の顕微鏡スライドが乾燥される間、顕微鏡スライドを垂直の姿勢に保持するように構成される。伝導スライド加熱器は、生体サンプルを顕微鏡スライドに接着するために、顕微鏡スライドとそこに担持された生体サンプルを選択に加熱する。
【0013】
他の実施形態では、スライド乾燥器は、係合面と少なくとも約75度の傾斜角度をもつ伝導スライド加熱器を含む。この伝導スライド加熱器は、摂氏約50度以上の温度に上記係合面を加熱するように適合される。
【0014】
いくつかの実施形態では、顕微鏡スライドを処理するための装置は、乾燥ステーション、処理ステーション、及び搬送装置を含む。いくつかの実施形態では、上記乾燥ステーションは、乾燥期間などのある期間中、 顕微鏡スライドを実質的に垂直の姿勢に保持し、上記顕微鏡スライドによって担持された少なくとも一つの標本を伝導的に加熱するための熱を発生させるように構成されたスライド乾燥器を含む。上記処理ステーションは、上記乾燥期間後に、上記顕微鏡スライド上の上記標本を処理するように適合される。上記搬送装置は、上記スライド乾燥器と上記処理ステーションの間で 顕微鏡スライドを搬送するように構成される。
【0015】
いくつかの実施形態では、顕微鏡スライド上の標本を処理するための方法が提供される。上記方法は、上記標本と上記顕微鏡スライドの間に残留移転流体が存在するように、標本を顕微鏡スライドの上に位置付けることを含む。上記標本と上記顕微鏡スライドの間から上記残留移転流体を追い出すために、上記顕微鏡スライドは実質的に垂直の姿勢に保持される。上記顕微鏡スライドに物理的に係合する伝導スライド加熱器を使用して、上記顕微鏡スライドが実質的に垂直の姿勢になっている間に、上記顕微鏡スライドは伝導的に加熱される。
【0016】
他の実施形態では、顕微鏡スライドによって担持された標本を処理するための方法は、標本担持顕微鏡スライドを実質的に垂直の姿勢に位置付けることを含む。上記標本は、上記顕微鏡スライド上に捉われた残留移転流体の上に浮いている。この残留移転流体は、浮いている標本の少なくとも一部と顕微鏡スライドの間から流出される。上記顕微鏡スライドは、伝導スライド加熱器を使用して伝導的に加熱される。
【0017】
スライド乾燥器は、いくつかの実施形態では、周囲空気の温度とはおおむね無関係に顕微鏡スライドを乾燥可能である。周囲空気の温度とはおおむね無関係に顕微鏡スライドを急速に加熱するために、熱は顕微鏡スライドに伝導的に伝えられる。スライド乾燥器に顕微鏡スライドを手動で装着し、乾燥期間後に顕微鏡スライドを取り外すために、ユーザはスライド乾燥器に容易に接近可能である。いくつかの実施形態では、スライド乾燥器は、様々な型の乾燥処理を実施するようにプログラム可能な制御部を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一つの実施形態による、顕微鏡スライドを加熱するためのスライド乾燥器の絵画図である。
【図2】複数の標本担持顕微鏡スライドを収納する、図1のスライド乾燥器の側面図である。
【図3】図2のスライド乾燥器及び標本担持顕微鏡スライドの正面図である。
【図4】スライド乾燥器及び標本担持顕微鏡スライドの構成要素の部分的な断面図である。
【図5】生体サンプルを処理する一つの方法のフローチャートである。
【図6】伝導スライド加熱器によって支持された顕微鏡スライド上のある位置に置かれた標本と残留移転流体の立面図である。
【図7】標本の裏面をスライドの前面に接着させる前の標本担持顕微鏡スライドの立面図である。
【図8】図7の標本が顕微鏡スライドに接着された状態の立面図である。
【図9】互いに隔てられた複数の顕微鏡スライドを収納できる、カバー付きスライド乾燥器及び伝導スライド加熱器の絵画図である。
【図10】2列の顕微鏡スライドを収納するための伝導スライド加熱器の絵画図である。
【図11】一つの図示した実施形態による、顕微鏡スライドを処理するための装置の絵画図である。
【図12】図11の装置の側面図である。
【図13】図12の13−13線に沿って描かれた図11の装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
非限定的かつ非包括的な実施形態を以下の図面を参照して説明する。特に明記されない限り、各図を通じて同じ参照番号は同様の部分または行為を示す。
【0020】
図1は、一つ以上の標本担持顕微鏡スライドを乾燥させることができるスライド乾燥器100を示す。スライド乾燥器100は、スライド及び/または標本を乾燥させるために、標本をスライドに接合させるために、及び/またはその他の所望の熱処理を実施するために、顕微鏡スライドとそれに担持された標本を加熱できる。標本担持顕微鏡スライドは、標本の望ましくない移動を制限し、最小にし、または実質的になくしながら、標本と各々の顕微鏡スライドの間の残留移転流体の除去を促進する姿勢に保持される。標本担持スライドは、標本を各々のスライドに固定的に接合させるように乾燥される。標本がスライドに固定的に接合された後、染色、免疫組織化学、切片上ハイブリッド形成、またはその他の処理などの後続の処理と組織分析のために、標本担持スライドはスライド乾燥器100から取り外される。図示したスライド乾燥器100は、可搬であり、人によって容易に運べる(例えば、手で持ち運べる)。実験室で設定する際には、スライド乾燥器100は、ワークステーション間を手で持ち運ぶことができる。
【0021】
顕微鏡スライドは、標本の下に閉じ込められた残留移転流体の除去を促進し、乾燥時間を短縮するために、実質的に垂直の姿勢に保持され得る。標本の下のスライドの領域は、流動性を有する残留移転流体を標本から流し出すことによって、急速に乾燥させることができる。したがって、残留移転流体の一部のみが、標本に面したスライドの領域を乾燥させるように蒸発される。スライド乾燥器100は、スライドを乾燥させるとともにスライドへの標本の接合を促進するためにも熱を発生する。標本は、限定されないが、生体サンプル(例えば、組織サンプル)とサンプルがそこに埋め込まれる材料(例えば、埋め込み用材料)を含む。
【0022】
生体サンプルをスライドに直接接着させるように、埋め込み用材料の少なくとも一部は溶融し、スライドと接触し、固化する。埋め込み用材料は、顕微鏡スライドに向かって動き進むことができ、最終的にはスライド上に堆積させられ得る。その材料がスライドの材料と残留移転流体(例えば、水)に比べてより疎水性であれば、埋め込み用材料は流体のビード化を促進できる。埋め込み用材料がスライドの表面を覆うと、流体とスライドの間の接触角が増加する。顕微鏡スライドは直立した姿勢になっているので、重力のせいで、残留移転流体は標本の下端に貯留しがちである。標本の上端は、スライドの前面に物理的に接触可能であり、標本の望ましくない移動を最小にし、制限し、または実質的に防止できる。十分な量の残留移転流体が貯留した後、流体は標本から離れ下方へ流れ出ることができ、これによりスライドの前面にある標本から出てゆく。このような処理が、広い範囲にわたる個々の濡れた顕微鏡スライドで実施され得る。
【0023】
図1に図示したスライド乾燥器100は、伝導スライド加熱器110、制御部114、 及びスライド乾燥器100の内部構成要素を収容する本体118を含む。伝導スライド加熱器110は、一つ以上の顕微鏡スライドを接触しつつ支持する。本体118は、伝導スライド加熱器110に隣接するスライド支持部120を含む。
【0024】
伝導スライド加熱器110によって発生された熱が、乾燥期間などの所望の期間の間、顕微鏡スライドに伝達されるように、伝導スライド加熱器110とスライド支持部120は、顕微鏡スライドを実質的に垂直の姿勢に保つために協働できる。伝導スライド加熱器110は、標本を所望の温度に伝導的に加熱するように、制御部114からの信号に応じて十分な量の熱を発生することができる。残留移転流体は、標本から離れ流出可能あり、蒸発可能であり、及び/または他の形で標本担持顕微鏡スライドから除去可能である。加熱された標本は、顕微鏡スライドに物理的に接触した状態になる。図6〜図9に関連して述べるとおり、標本と顕微鏡スライドの間の接着を促進する温度まで標本の温度を上昇させることができる。
【0025】
図2と図3は、伝導スライド加熱器110に立てかけられて、スライド支持部120の上面136に載っている複数の顕微鏡スライド130a、130b、130c(まとめて130)を示す。顕微鏡スライド130は、光学機器(例えば、顕微鏡を用いたもの)などの機器を使用した検査に供する標本132を担持する、おおむね平面の透明な基板であり得る。例えば、各顕微鏡スライド130は、標本を受け止める前面とスライド乾燥器100に係合する裏面を有する、透明な材料(例えば、ガラス)のおおむね長方形片であり得る。顕微鏡スライド130は、用途に応じて変えられても、変えられなくてもよく、広範囲にわたる様々な寸法をもつことができる。いくつかの実施形態では、スライド130は、約3インチ(75 mm)の長さと約1インチ(25 mm)の幅をもち、ある種の実施形態では、バーコードなどのラベルを含むことができる。いくつかの実施形態では、スライドは、約75 mmの長さ、約25 mmの幅、及び約1 mmの厚さをもつ。顕微鏡スライド130は、標準の顕微鏡スライドの形態であり得る。図示した顕微鏡スライド130は、(例えば、カバースリップの付いていない)覆いのない標本132を担持する。いくつかの実施形態では、スライド支持部120の寸法は、スライド130上のラベルが、スライド支持部と反対側のスライドの面に、スライドのスライド支持部と接触している部位よりも上に位置されるようにした寸法である。このようにして、ラベルは乾燥処理中に熱から保護され得る。
【0026】
本体118は、顕微鏡スライド130がおおむね直立に保たれるように、おおむね水平な支持面140の上に載っている。制御部114は、スライド乾燥器100の動作を制御するために、ユーザによって便利にアクセスできるようになっている。図1〜図3は、筐体146、表示部150、及び入力装置154を含み、伝導スライド加熱器110に通信可能に接続された制御部114を示す。表示部150は、スクリーンまたはその他の表示装置であり得る。入力装置は154は、限定されないが、一つ以上のボタン、キーボード、入力パッド、ボタン、制御モジュール、またはその他の適当な入力素子を含み得る。図示した入力装置は154は、スライド乾燥器100をプログラムするために使用される、タッチ・パッドなどの入力パッドの形態になっている。
【0027】
制御部114は、限定されないが、一つ以上の中央処理装置、処理デバイス、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、中央処理装置、処理デバイス、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、読取り装置、等を通常は含み得る。情報(例えば、乾燥処理プログラム)を記憶するために、制御部114は、限定されないが、揮発性メモリー、不揮発性メモリー、リード・オンリー・メモリー(ROM)、ランダム・アクセス・メモリー(RAM)、等の一つ以上の記憶素子を含み得る。制御部114は、標本担持スライドの所望の処理に基づいてプログラムされ得る。動作の固定温度モードでは、制御部114は、伝導スライド加熱器110をおおむね一定の温度に維持するように使用される。動作の可変温度モードでは、制御部114は、伝導スライド加熱器110の温度を調整するように使用される。制御部114は、伝導スライド加熱器110の動作を制御するための一つ以上のプログラムを記憶できる。入力装置154は、異なるプログラム間、動作のモード、等の切り替えのために使用され得る。
【0028】
図1〜図3を参照すると、顕微鏡スライド130の厚さを通じて熱は効率的に伝達され得る。図2に図示した伝導スライド加熱器110は、スライド130の標本搭載領域の長さ以上の高さHをもつ。搭載領域全体にわたりおおむね一様な熱分配を容易にするために、各顕微鏡スライド130の縦の長さLSの大部分が伝導スライド加熱器110に接触可能である。いくつかの実施形態では、高さHは、少なくとも約2.5インチ(63.5 mm)、約2.75インチ(70 mm)、または約2.9インチ(74.7 mm)であり、並びにこれらの高さを含む範囲にわたる。スライド130a、130b、130cのそれぞれの上端 139a、139b、139cは、スライド130をつかむのに便利なように、乾燥器100を越えて上方に突き出すことができる。
【0029】
伝導スライド加熱器110の縦の長さLは、処理されるべき顕微鏡スライド130の所望の数に基づいて選択され得る。長さLは、処理可能な顕微鏡スライドの数、顕微鏡スライド間の間隔、等を増減するのに伴って増減され得る。図3に図示した実施形態は、3個の互いに隔てられた顕微鏡スライド130を有する。いくつかの実施形態では、少なくとも3個の顕微鏡スライド130を同時に処理可能なように、長さLは少なくとも6インチ(152 mm)である。その他の寸法も可能である。
【0030】
伝導スライド加熱器110は、横から見たとき、おおむね長方形の形状をもつ板であり得る(図3を参照)。伝導スライド加熱器110の熱的特性は、所望の処理温度、温度分布、加熱/冷却の速度、等といった処理基準に基づいて選択され得る。例えば、スライド加熱器110の係合面160は、その全面160にわたり熱を急速に伝達するために、比較的低い熱質量と高い熱伝導性をもち得る。スライド130のすべてまたは大部分が実質的に同じ温度に維持されることを確実にするように、係合面160は実質的に均等な熱分配をもち得る。
【0031】
伝導スライド加熱器110は、例えば、銅、鋼、アルミニウム、鉄またはこれらの組み合わせなどの金属、等の一つ以上の熱伝導性材料でその全体または一部を製造できる。いくつかの実施形態では、係合面160は、大部分が鋼(例えば、ステンレス鋼)で製造され、耐磨耗性と耐腐食性が高くなっている。他の実施形態では、係合面160は、内部加熱素子とスライド130の間で熱を急速に伝達するように大部分が銅で製造される。有利には、この急速な熱伝達のおかげで、加熱器110の抵抗加熱器などの内部加熱素子の数が減少され得る。伝導スライド加熱器110は、磨耗特性と熱的性能を向上させるために重層構造を有することができる。例えば、係合面160は鋼の薄板とすることができ、加熱器110中の銅の内部層が面160に熱を分配しやすく、伝えやすくできる。他の実施形態では、伝導スライド加熱器110は単層構造を有する。
【0032】
係合面160は、スライド130と面160の間の接触面域を増加させるために実質的に平面とすることができる。係合面160は、スライド130の上載部分の大部分または実質的に全部に接触するように極めて平らな高度に磨かれた面にすることができる。いくつかの実施形態では、係合面160は、顕微鏡スライド130の相対移動を最小にする、制限する、または実質的に防止するように構成される。例えば、移動防止形状(例えば、突起、隆起、溝、間仕切り、質感、等)を面160に組み込むことができる。
【0033】
図1〜図3の本体118は、表面140の上に載る基部170を有する。限定されないが、実験室またはその他の試験現場でしばしば見られる腐食性の環境を含む苛酷な環境においてスライド乾燥器100が使用される場合でも、本体118は内部構成要素を保護する。スライド支持部120は、本体118と一体に形成される。図示した実施形態では、上面136は、 係合面160に対しておおむね直角に延設する。顕微鏡スライド130の下端が上面136の上に載るとき、スライド130の裏面141(図2を参照)は係合面160に寄りかかり平らに置かれる。
【0034】
図4は、制御部114、電源200、伝導スライド加熱器110へ電力を供給する配線202、及びスライド加熱器110の動作を評価するためのセンサー212を示す。配線220は、制御部114をセンサー212に通信接続する。図示した伝導スライド加熱器110は、外面部210と熱電素子204を含む。「熱電素子」と言う用語は、限定されないが、熱を発生できる及び/または熱を吸収できる一つ以上の電気的装置を含む広義な用語である。
【0035】
素子204が作動されているとき、係合面160の実質的に全部または大部分は、実質的に均等な温度をもち得る。例えば、係合面160の実質的に全部または大部分は、摂氏約10度の温度範囲内にあることが可能である。ある種の実施形態では、係合面160はおおむね同じ温度に維持される。例えば、係合面160の平均温度が摂氏約5度の範囲にあることが可能である。他の実施形態では、異なる種類の組織を保持するスライドの乾燥や異なる埋め込み用材料を用いて埋め込まれた組織についてのスライドの乾燥に対応するために、係合面160の異なる部分は異なる温度に維持され得る。
【0036】
図4に図示した実施形態を含むいくつかの実施形態では、外面部210は中空の板であり、熱電素子204は電気エネルギーを熱エネルギーに変換するように適合された加熱素子である。加熱素子204が熱を発生するとき、熱は外面部210を通じて伝達され、顕微鏡スライド130によって吸収される。熱は、最終的に、スライド130から標本132へと伝達される。素子204へ供給される電気エネルギーの量は、標本132の温度を増減させるために増減され得る。
【0037】
加熱素子204は、抵抗加熱素子であり得る。広範囲にわたる様々な種類の抵抗加熱素子(例えば、プレート抵抗加熱器、コイル抵抗加熱器、帯状片加熱器、等)が、所望の動作パラメータに基づいて選択可能である。冷却素子、加熱/冷却素子などのその他の種類の熱素子も利用され得る。本文書で使用される「冷却素子」という用語は、限定されないが、伝導スライド加熱器110の少なくとも一部を効果的に冷却するために、熱を活発に吸収できる一つ以上の素子を含む広義な用語である。例えば、冷却素子は、冷却された流体がその中を流れる冷却管または冷却導水路であり得る。いくつかの実施形態では、伝導スライド加熱器110は、加熱期間中に熱を発生するための加熱素子と冷却期間中に熱を吸収するための冷却素子を含む。
【0038】
いくつかの実施形態では、素子204は、ペルチェ素子などの加熱/冷却素子である。ペルチェ素子は、その内部の通過電流の方向に依存して、片側が熱くなり、反対側が冷たくなる固体素子であり得る。電流の方向を単純に選択することによって、ペルチェ素子204は、所望の長さの時間の間、係合面160を加熱するために使用され得る。電流の方向を切り替えることによって、同素子204は係合面160を冷却する。他の実施形態では、加熱/冷却素子204は、作動流体がその中を流れる導水路の形態であり得る。加熱期間の間は加熱された流体が上記導水路を通過可能であり、冷却期間の間は冷却された流体が上記導水路を通過可能である。加熱/冷却素子204の位置、数、及びタイプは、伝導スライド加熱器210の所望の温度プロファイルに基づいて選択され得る。
【0039】
上記外面部210の熱的特性は、係合面160の壁211に沿った所望の温度分布を達成するように選択され得る。例えば、上記外面部210は、個々の加熱素子204に関係した何らかの顕著な局所的な温度不均等を減少させるまたは制限するために、十分な熱伝導性をもつ銅またはその他の適当な材料などの高伝導性の材料でその全体または一部を製造できる。熱は周囲の空気(例えば、室温の空気)へと損失されるので、上記素子204は一定流量を連続して発生可能である。加熱器の周縁面は露出しているため、熱はスライド加熱器110の外面からより早く消散されるので、スライド加熱器110の内部は加熱器110の外面よりも熱くなり得る。いくつかの実施形態では、表面160にわたりおおむね均等な温度を維持するために、近接した間隔で並べられた加熱素子204の配列が使用される。その他の構成も可能である。
【0040】
センサー212は、加熱器110の温度を検出し、その温度を示す一つ以上の信号を送信する温度センサーである。センサー212は、スライド加熱器110及び/または顕微鏡スライド130のいずれかの部分の温度を測定するために、伝導スライド加熱器110の裏面217に取り付けられたり、加熱器110に埋め込まれたり、係合面160に取り付けられるかまたは埋め込まれたり、またはその他の適当な箇所に配置されることが可能である。センサー212は、限定されないが、一つ以上のサーマル・カップル、サーモメーター(例えば、IRサーモメーター)、パイロメーター、抵抗温度検出器(RTD)、サーミスタ、等を含み得る。
【0041】
図5は、標本を用意し解析する一つの方法のフロー図である。一般に、水などの組織薄片移転流体を使用して、標本を顕微鏡スライドの上に置くことができる。標本担持顕微鏡スライドは、スライド乾燥器内に装着され、標本が顕微鏡スライドに接着されるように乾燥される。スライド乾燥器100は、顕微鏡スライドに相対した標本の望ましくない移動を最小にし、制限し、または実質的になくしながら、スライドを急速に乾燥させる。乾燥処理中に、標本はスライドに相対した概略同じ位置にとどまることができる。複数の標本がスライドに取り付けられる場合には、標本間の間隔は乾燥処理の間ずっと維持され得る。これは、標本が顕微鏡スライドから落ちるのではないかという医師の懸念を減じるまたはなくすことができる。標本担持スライドは、次に、便利に運ばれ、広範囲にわたる様々な検査技術及び機器を使用して解析され得る。この処理を以下に詳細に説明する。
【0042】
組織のサンプルなどの生体サンプルは、組織構造、細胞構造、等などのその特性を保つように処理される。この組織は、限定されないが、臓器の切片、腫瘍の切片、体液、塗抹標本、冷凍した切片、細胞のプレップ(cytology prep)、または細胞体を含む、顕微鏡スライドに取り付け可能な何らかの細胞集合であり得る。例えば、組織サンプルは、切開生検、コア生検、切除生検、針吸引生検、コア針生検、定位生検、直視下生検、外科的生検、等を使用して得られたサンプルであり得る。
【0043】
ステップ250において、サンプルを固着保存するために固定剤が使用される。固定剤は、細胞構造を固着保存でき、組織の浄化または自己分解等を引き起こす可能性がある酵素作用を抑止または実質的に阻止できる。固着処理は組織の剛性を増加できるため、これにより以下に詳述する切片化がよりしやすくなる。ホルムアルデヒド、エタノール、アセトン、パラホルムアルデヒド、またはその他の種類の固定剤が使用可能である。固定剤の種類と数は、染色、細胞染色、免疫組織化学、または切片上ハイブリッド形成などの実施されるべき所望の処理に基づいて選択され得る。組織サンプルを固着した後、所望の長さの時間の間、組織サンプルを保存できる。
【0044】
ステップ260では、切片化を容易にし得る機械的特性を有する材料にサンプルは埋め込まれる。埋め込み用の材料は、これらに限定されないが、パラフィン、樹脂(例えば、プラスチック樹脂)、ポリマー、アガロース、ニトロセルロース、これらの混合物、等を含む。いくつかの実施形態では、埋め込み用材料は、その大部分または全体がパラフィンからなる。パラフィンは、白色またはおおむね無色の不水溶性の固形物質であり、多くの試薬に耐性がある。例えば、パラフィンは、主として、石油から得たアルカリ系列の炭化水素の混合物であり得る。同様の炭化水素の広範囲にわたる様々な混合物がパラフィンを作るために使用可能であり、これらの混合物は、固体、半固体、及び/または油分の多いものであり得る。いくつかの実施形態では、パラフィンはワックスである。
【0045】
組織サンプルに物質を少なくとも部分的に組み込むために、広範囲にわたる様々な従来の含浸処理が使用可能である。組織サンプルは、切断処理を容易にする性質を与えるように組織サンプルに浸透できる物質と混合または合成され得る。このようにして、組織サンプルは埋め込まれる。組織サンプルがミクロトームまたは同様の装置によって切片化されるものとする場合、パラフィンまたはプラスチック樹脂などのその他の適当な材料に組織サンプルを埋め込むことができる。埋め込み用材料がパラフィンであるならば、パラフィンは加熱溶融され得る。熱い液体のパラフィンは、少なくとも部分的に生体サンプルに染み込み、その後、固化される。
【0046】
ステップ270では、標本は搭載可能な切片に切断され、顕微鏡スライドに置かれて、その後、乾燥される。ミクロトームは、薄片、例えば、約5ミクロン〜約6ミクロン程度の厚さのスライスに標本を切断できる。各切片は、組織サンプルの部分と埋め込み用材料の一部を含み得る。
【0047】
ステップ280において組織標本を顕微鏡スライドに移転するために、種々の技法が使用可能である。いくつかの実施形態では、切断された切片は、切片を広げるまたは平らにするために水に浮かべられる。切片がパラフィンに埋め込まれた組織片である場合には、おおむね平らな形状に切片を保つために温水槽に切片を浮かせることができ、こうすることによって、折り曲がったり、しわになったり、またはたわんだりすることを減少させるまたは防止する。顕微鏡スライドが温水槽の中に挿入される。スライドの前面が、組織標本を拾い上げるために使用される。一つのスライドを使って複数の組織サンプル(例えば、各々被検者の異なる部位で採取された一組の組織サンプルのセット)を検査するためには、複数の組織サンプルを順にスライドの上に浮かせるようにすることができる。これらの湿ったスライドは、次に、スライド乾燥器100を使用して乾燥される。
【0048】
図6は、移転流体の液滴282に位置付けられた標本286を示す。移転流体の液滴282は、何らかの添加物(例えば、湿潤剤、試薬、染料、等)を含むこともあり、含まないこともある水またはその他の適当な液体(水媒体を含む)であり得る。水が使用される場合には、水は、脱イオン化された水、再蒸留された脱イオン化された水、精製水、等であり得る。移転流体の液滴282は、スライド130が上述した水槽から引き上げられるときに形成され得る。代替的に、前面284に移転流体を直接滴らせて、その後液滴の上に標本を載せることによって、液滴282を堆積させることができる。表面284の上に直接載せられた液滴は、次に、前面284上の適切な位置に標本を置けるように機能する。たとえスライド130が、例えば、ワークステーション間または異なる機器間を移動される場合にも、標本286が概略同じ位置に保持されるように、移転流体282とスライド130の間の接触角は比較的小さい。
【0049】
折り曲がり、しわ、隆起、座屈、等などの標本286の望ましくない不規則性を制限し、減少し、または実質的に防止するために、移転流体282の表面張力は、標本286のおおむね平らな形状を維持するのに助けとなる。流体282は標本286と顕微鏡スライド130の間に閉じ込められるため、標本286は前面284から離れた状態に保たれる。
【0050】
乾燥時間を短縮するように流体282の流出を促進するために、顕微鏡スライド130は実質的に垂直の姿勢に保持される。図示したスライド130は、おおむね水平な仮想平面291(例えば、図2及び図3の支持面140におおむね平行な仮想平面)と係合面160によって定められた傾斜角度αになっている。スライド130は伝導スライド加熱器110に寄りかかり平らに置かれるので、スライド130は概略同じ傾斜角度に保たれる。図示した伝導スライド加熱器110は、約70度、80度、85度、または90度よりも大きい、上記仮想水平面291との間の角度βを定める仮想平面283におおむね沿って延設する。スライド13の縦軸295は、上記仮想平面283におおむね平行である。顕微鏡スライド130を約80度の傾斜角度αに保つには、角度βを約80度以上にすることができる。必要な場合または望ましい場合には、その他の角度も可能である。
【0051】
標本286を伝導的に加熱するために、係合表面160は標本286の埋め込み用材料の融点以上に維持される。埋め込み用材料が摂氏約50度から摂氏約57度の間の融点をもつパラフィンである場合には、上記表面160は摂氏約50度の温度以上に保たれる。矢印277は、加熱器110から標本286へ伝達されている熱を表わす。埋め込み用材料が溶融すると、溶融した材料が移転流体282の上面に沿って浮かび、前面284に堆積しだすことが可能である。埋め込み用材料が顕微鏡スライド130に比べてより疎水性であれば、移転流体282が上記表面と界面をなす接触角は増加することができ、それによって流体282は表面284に沿って移動しやすい不安定な液滴になる。傾斜したスライド130は、標本286の下部287付近に移転流体282が貯留することを促進する。流体282は標本286と顕微鏡スライド130の間の隙間285に集まり、やがて流体282は前面284を流れ落ちるようになる。
【0052】
図6はまた、顕微鏡130が垂直の姿勢ではなく水平の姿勢であったと仮定して、接触角が増加した後の流体282の位置296(想像線によって示される)も示す。図示した顕微鏡スライド130は直立の姿勢になっているので、図7に示すように、重力のせいで流体282は隙間285に貯留しやすい。標本286の移動を制限し、最小にし、または実質的に防止するように、標本286の上部293は加熱された表面284に物理的に接触することができる。上部293は、例えば、表面284に張り付くことができる。
【0053】
十分な量の流体282が貯留した後、矢印297によって示されるように、流体は標本286から離れて下方へ流れ出る傾向がある。流体282は標本286から離れて下方へ流れ、表面284を流下する。このようにして、標本286と表面284の間に閉じ込められた流体282の少なくとも一部または実質的に全部が除去される。標本286は、したがって、表面284上に留まり、表面にじかに物理的に接触した状態になる。流体282は、最終的に、スライド130の下端部まで完全に表面284を流れ落ちることができる。
【0054】
流体282と表面284の間の接触角を相当に増加するのに十分な量の埋め込み用材料の溶融後にビード化した移転流体282が流れ出るように、図7に図示した傾斜角度は約70度よりも大きい。いくつかの実施形態では、傾斜角度は約75度よりも大きい。このような実施形態は、コア針生検によって得られた組織サンプルを含む標本のような比較的小さな標本から残留移転流体(例えば、水)を離して流出させるのに特によく適している。残留移転流体は、比較的大きな標本や小さな標本を含む、様々な種類と大きさの標本から異なった速度で分離流出可能である。いくつかの実施形態では、標本286が加熱される間に移転流体282の迅速な貯留を促進するために、傾斜角度は約75度よりも大きい。いったん埋め込み用材料がその融点まで加熱されると、移転流体282は急速にビード化し、そこから流出される。
【0055】
図8は、乾燥期間終了後の標本担持スライド130を示す。係合面160は摂氏約50度以上の温度に維持可能であり、周囲空気は摂氏30度未満(例えば、摂氏約21度の温度)であり得る。スライド130は加熱器110に寄せかけて置かれる。例えば、約5分、1分、45秒、30秒、20秒以下、またはこれらの期間を含む範囲内における、比較的短時間の期間に標本286が表面284に接着されるように、係合面160はスライド130を加熱する。液滴を完全に蒸発させるのに伴う乾燥時間を避けるように、移転流体282の大部分は標本286から離れて流出される。乾燥期間の長さは、移転流体の量、標本286の組織の特徴、埋め込み用材料の特性、等により変わり得る。
【0056】
図7の係合面160は、摂氏約50度、摂氏約55度、または摂氏約65度の温度以上に、並びにこれらの温度を含む範囲(例えば、摂氏約50度〜摂氏約65度の範囲)内に維持可能である。上記の温度は、比較的低い融点をもつパラフィンまたはその他の材料を溶融するのに特によく適している。いくつかの実施形態では、約1分内に標本286は表面284に接着される。例えば、標本286は、約10秒〜約1分で接着可能である。いくつかの実施形態では、係合面160は摂氏約65度以上の温度に維持される。ある種の実施形態では、係合面160は摂氏約65度、摂氏約70度、摂氏約80度未満または以上の温度に、またはこれらの温度の範囲内に維持可能である。精度を維持する目的で係合面160の温度を測定するために、赤外線サーモメーターが使用される。乾燥時間を減少または増加させるために、サーモメーターからのフィードバックを用いて係合面160の温度を上昇または低下させることができる。
【0057】
一貫した乾燥を行なうために、係合面160は加熱期間中ある程度一定の温度に維持され得る。だから、スライド加熱器110は、目立った温度変化なしにスライドを乾燥できる。例として、短い乾燥時間を確実にするために、係合面160は埋め込み用材料の融点以上のおおむね一定の温度に維持可能である。いくつかの実施形態では、係合面160の温度は、融点よりも高い動作温度範囲内に保たれる。動作温度範囲は、摂氏50度〜摂氏60度、摂氏55度〜摂氏65度、または摂氏60度〜摂氏70度とすることができる。その他の範囲も可能である。
【0058】
接触時に瞬時に熱をスライド130に伝達するように、係合面160を予熱することができる。予熱は、周期的に行なう加熱処理に伴う立ち上げ時間を回避するために使用され得る。係合面160が所定の温度に達するまで待つことなく、スライド乾燥器100にスライドを繰り返し装着することができる。もちろん、係合面160の温度は、スライド130が熱を吸収するにつれて少し低下することはあり得る。このような影響は、スライド加熱器110で連続的に熱を発生させることによって最小にできる、または回避できる。
【0059】
他の実施形態では、スライド130を係合面160に寄せかけて置いた後に係合面160を加熱するようにできる。エネルギー消費を減少させるために、例えば、大体室温にまたは室温と乾燥のための所望の温度の間の温度にというような低い温度に係合面160を維持可能である。いくつかの実施形態では、この低い温度は待機温度である。例えば、摂氏約25度〜摂氏約50度の範囲の待機温度に係合面160を保つことができる。係合面160の温度は、スライド130の装着中または装着後に少なくとも摂氏約50度まで上げられる。乾燥終了後に、係合表面160は待機温度に戻る。乾燥処理中に使用されるエネルギー量を削減するまたは制限するために、広範囲にわたる様々な型の加熱サイクルが採用可能である。
【0060】
乾燥終了後に、スライド130はスライド乾燥器100から取り外される。標本286の冷却速度を上げ、それにより処理時間を短縮するために、伝導スライド加熱器110は、標本担持スライド130から熱を急速に吸収するために冷却素子(例えば、ペルチェ素子)も含むことができる。標本担持スライド130が十分に冷却されるとすぐに、スライド乾燥器100からスライドを取り外すことができる。
【0061】
ステップ289において、標本286は検査のために染色される。標本は、さらに、ベーキング、ワックス除去、パラフィン除去、等の処理を受け得る。いくつかの実施形態では、パラフィン除去を行なった後、染色剤が標本286に塗布される。顕微鏡スライドは、次に、その後の光学的検査のためにカバースリップを付けられる。
【0062】
ステップ290では、標本286は光学機器(例えば顕微鏡)、光学器械、等を使用して検査され得る。病理学、組織組成、及び組織構造に関する情報を得るために使用される広範囲にわたる様々な組織解析を実施するために、様々な種類の検査処理が利用可能である。この情報は、様々な種類の病気を診断するために、そしていろいろな医学研究を行なうために医師によって利用可能である。
【0063】
図9を参照すると、スライド乾燥器300は、伝導スライド加熱器310、基部312、及びカバー314を含む。基部312は、伝導スライド加熱器310の動作を制御するための制御部320を含む。カバー314は、標本担持顕微鏡スライドに望ましくない汚染物質が付着するのを防ぐために、伝導スライド加熱器310を包み込み、囲むことができる。基部312は、スライド伝導加熱器310を包囲するコレクター337を含む。コレクター337は、スライドから除去される残留移転流体または材料を回収できる。
【0064】
図示した伝導スライド加熱器310は、互いに隔てられた複数の発熱支持素子330a〜h(まとめて330)を含む。上記支持素子330は、独立に作動されることも、または共同で作動されることもでき、同じ傾斜または異なる傾斜をもつよう姿勢付けられる。図示した各素子330は、互いにおおむね平行であり、少なくとも一つのおおむね垂直に姿勢付けられた顕微鏡スライドを隣接する素子330のペア間に挿入可能なように間隔をとられる。支持素子330の各々は、一つ以上の通電可能な熱素子(例えば、電熱素子)を含むことができる。他の実施形態では、支持素子330間を延設する背板441が、支持素子330を通じて伝導される熱を発生できる熱素子(例えば、内部熱素子)を有する。
【0065】
使用時には、各支持素子330に顕微鏡スライドをもたせかけることできる。矢印339によって示されるように、カバー314はスライド加熱器310の上方において移動可能である。伝導スライド加熱器310は、垂直に姿勢付けられた標本担持顕微鏡スライドの列全体を乾燥させることができる。顕微鏡スライドが処理された後、顕微鏡スライドに接近し取り外すためにカバー314は取り外される。
【0066】
図10は、フレーム361とフレーム361に結合された複数の伝導スライド加熱器362、364を含む加熱器アセンブリ360を示す。伝導スライド加熱器362、364は、図9のスライド伝導加熱器310とおおむね同様であり得る。加熱器アセンブリ360は、自動スライド処理システムまたは独立型スライド乾燥器などの様々な型のスライド処理システムに組み込むことが可能であり、そして制御部、電源、等を含むことができる。
【0067】
図11は、乾燥ステーション402と複数の処理ステーション404、406、408を含む装置400を示す。制御部410は、乾燥ステーション402と処理ステーション404、406、408の一つ以上の動作を制御する。図示した制御部410は、ステーション402、404、406、408の各々に通信接続され、コマンドを送る。本装置400を使用して、顕微鏡スライドは自動的に処理可能である(例えば、実質的に人の介入がない処理を介して)。例えば、制御部410は、好ましくは、組織サンプルへの熱損傷を所望のレベル以下に抑えつつ、ステーション402内のスライド乾燥器401(図13)によって発生される熱の量、乾燥の速度、乾燥期間の長さ、またはその他の処理パラメータを制御できる。
【0068】
本文書で使用される「処理ステーション」という用語は、限定されないが、ベーキング・ステーション、材料除去ステーション(例えば、ワックス除去ステーション、パラフィン除去ステーション、等)、染色ステーション、カバースリップ付けステーション、等を含む。例えば、処理ステーション404、406、408は、それぞれ、パラフィン除去ステーション、染色ステーション、及び カバースリップ付けステーションであり得る。
【0069】
搬送装置418は、乾燥ステーション402とその他のステーション404、406、408の間で標本担持顕微鏡スライドを搬送する。搬送装置418は、限定されないが、一つ以上の昇降機、スライド・ハンドラー、スライド・トレイ、スライド・ホルダー、等を含むことができる。スライド・ハンドラーは、これらに限定されないが、スライドを受け入れ搬送できる、スライド・マニピュレータ、X−Y−Z搬送システム、ロボット・システム、またはその他の自動システムを含むことができる。ロボット・システムは、限定されないが、一つ以上のピック・アンド・プレース・ロボット、ロボット・アーム、等を含むことができる。
【0070】
図11〜図13を参照すると、乾燥ステーション402は、スライド乾燥器401とロボット型のスライド・ハンドラーとして図示されているスライド・ハンドラー420を含む。スライド乾燥器401は、標本担持顕微鏡スライドを伝導的に加熱するための熱を発生させる。ロボット型のスライド・ハンドラー420は、図13に概略的に図示した、伝導スライド加熱器401とスライド搬送具424の間でスライドを拾い上げて運ぶことができる、アーム421とエンド・エフェクタ423を含む。スライド乾燥器401は、図1〜図3のスライド乾燥器100または図10のスライド乾燥器300とおおむね同様であり得る。いろいろな型のその他の自動スライド処理システムも、ここに開示されたスライド乾燥機及びその他の特徴をもつことが可能である。例えば、特許文献1(米国出願第10/414,804号)は、ここに開示された実施形態及び特徴と共に併用可能なまたはそれに組み込み可能な、いろいろな型のスライド搬送具、処理ステーション、等を開示する。
【0071】
切断したての組織標本を担持している濡れた顕微鏡スライドは、装置400を使用して処理され得る。アクセス・ドア430を開けることができ、ユーザは標本担持スライドを搬送装置418内に装着することができる。搬送装置418は、スライドを乾燥器ステーション402へ積み込むことができる。標本担持スライドを乾燥させた後、スライドは逐次にステーション404、406、408へ送られる。図13の搬送装置418は、昇降機システム430と可動プラットフォーム434を含み、これらがスライド搬送具424を運んでいるところが図示されている。昇降機システム430は、搬送具424をレール440に沿って上下に移動させる。
【0072】
装置400のいくつかの使用方法では、標本担持顕微鏡スライドは、プラットフォーム434に置かれたスライド・トレイに載せられる。スライド・ハンドラー420は、標本担持顕微鏡スライドをスライド乾燥器401へ積み込む。スライド乾燥器401は、標本担持顕微鏡スライドを乾燥させる。標本担持顕微鏡スライドが十分な量、乾燥された後、スライド・ハンドラー420は、搬送具424へスライドを運んで戻す。
【0073】
搬送具242は、垂直に下降され、パラフィン除去用の処理ステーション404の隣りに位置付けられる。ステーション404は、標本の埋め込み用材料の少なくとも一部を除去することができる。パラフィン除去ステーション404は、水槽型のパラフィン除去ステーションまたは噴霧器型のパラフィン除去ステーションであり得る。図示したパラフィン除去ステーション404は、モジュール式の構成要素414を含み、下向きの一つ以上の洗浄液散布ノズル416を含む。ノズル416を使用して、パラフィン除去物質が標本の上にかけられる。埋め込み用材料(例えば、パラフィン)を除去した後、パラフィン除去物質と顕微鏡スライドに接着された裸の組織サンプルから出た余分のパラフィンを除去するために、スライドを脱イオン水などの物質で洗い流すことができる。
【0074】
ステーション404では、いろいろなパラフィン除去物質が使用可能である。例えば、パラフィン除去物質は、脱イオン水、クエン酸塩緩衝液(pH 6.0〜8.0)、トリス酸塩緩衝液(pH 6〜10)、リン酸緩衝液(pH 6.0〜8.0)、酸性緩衝液または溶液(pH 1〜6.9)、塩基性緩衝液または溶液(pH 7.1〜14)、等を含む、2005年2月15日に発行された特許文献2及び2003年4月8日に発行された特許文献3に開示されたものなど、パラフィンと組織標本の分離を促進する流体、例えば、水性流体であり得る。上記物質は、一つ以上のイオン性または非イオン性界面活性剤を含んでもよい。パラフィン除去物質は加熱可能である。例えば、上記物質(例えば、流体)は、埋め込み用材料の融点よりも高い温度、例えば、摂氏60〜70度の間に加熱され得る。2007年12月4日に発行された特許文献4は、パラフィン除去物質を用いて使用されるいろいろな構成要素(例えば、プローブ、フィルタ、噴霧器、等)を開示する。
【0075】
いくつかの実施形態では、ステーション404は、埋め込み用材料をベーキングするための一つ以上の加熱素子も含む。材料除去を容易にするように埋め込み用材料を軟化するために、スライドを加熱することができる。
【0076】
ステーション404が標本担持スライドを処理した後、搬送システム424は標本担持スライドを染色用のステーション406へ送る。所望の染色剤が、組織サンプルに塗布される。染色剤は、組織中の標的分子に塗られたとき、器械の下でその組織を検出可能にする生物学的物質または化学物質であり得る。染色剤は、限定されないが、検出可能な核酸プローブ、抗体、ヘマトキシリン、エオシン、及び染料(例えば、ヨウ素、メチレンブルー、 ライト染料(Wright’s stain)、等)を含む。
【0077】
標本が染色された後、標本担持スライドはカバースリップ付けステーション408へ搬送される。他の実施形態では、ステーション408は乾燥ステーションである。ステーション408は、染色処理されたスライドを乾燥させて、スライドがカバースリップ付けできる状態にする。いくつかの実施形態では、乾燥ステーション408は、図1〜図10に関連して説明したようなスライド乾燥器を使用して、染色処理されたスライドを伝導的に加熱する。他の実施形態では、乾燥ステーション408は対流式オーブンまたはマイクロ波オーブンの形態になっている。
【0078】
装置400はまた、他の種類の処理ステーションも含むことがきる。処理ステーションの数、構成、及び種類は、実施されるべき処理の種類に基づいて選択され得る。例えば、特許文献5は、組織を染色し処理するための装置を開示する。特許文献5は、参照することにより本文書に全面的に援用される。いくつかの実施形態では、処理ステーション406は、特許文献5で開示された回転式コンベヤー・システムのような回転式コンベヤー型システムを含む。
【0079】
上述した様々な実施形態は、さらに他の実施形態を提供するために組み合わせることが可能である。本明細書中で参照された及び/または出願データシート(Application Data Sheet)にリストで示した、米国特許、米国特許出願公報、外国の特許、外国の特許出願及び非特許刊行物は、参照することにより本文書に全面的に援用される。さらに新たな実施形態を提供するために、これらのいろいろな特許、出願、公報、刊行物の概念を取り入れる必要があるならば、ここに示した実施形態の態様は修正可能である。
【0080】
上記に詳述した説明を踏まえて、ここに示した実施形態にこのような変更やその他の変更が行なえる。概して、以下に示す請求項(すべて)において、使用される用語と表現は、本仕様書及び特許請求の範囲で開示された具体的な実施形態にこれらの請求項を限定するものと解釈されるべきではなく、これら請求項が権利を与えられる内容に相当するものの全範囲に加えてすべての可能な実施形態を含むと解釈されるべきである。したがって、これらの請求項は本開示によって限定されない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本担持顕微鏡スライドを処理するための装置であり、前記標本は生体サンプルと埋め込み用材料を含み、前記装置は、
顕微鏡スライドを実質的に垂直の姿勢に保持するように構成されたスライド乾燥器を具備し、前記スライド乾燥器は、制御部と前記制御部に通信可能に接続された伝導スライド加熱器を含み、前記伝導スライド加熱器は、前記顕微鏡スライド上の前記標本を前記埋め込み用材料の融点まで伝導的に加熱するように、前記制御部からの信号に応じて十分な量の熱を発生させるように適合される、装置。
【請求項2】
前記スライド乾燥器は、前記標本の外縁と前記顕微鏡スライドの間の隙間付近での流体の貯留を促進するために、前記顕微鏡スライドを前記実質的に垂直の姿勢に保持するように適合される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記伝導スライド加熱器は、前記伝導スライド加熱器が熱を発生させるとき、摂氏約50度を上回る温度になる係合表面を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記伝導スライド加熱器は、互いに隔てられている複数の実質的に垂直に姿勢付けられた顕微鏡スライドを支持するように寸法が決められた、選択的に加熱可能な板を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記伝導スライド加熱器は複数の発熱支持素子を含み、隣接する支持素子の各ペア間に少なくとも一つの顕微鏡スライドが位置付けられるように、前記支持素子は互いに隔てられている、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記伝導スライド加熱器は少なくとも一つの抵抗加熱素子を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記スライド乾燥器が前記標本を加熱した後、前記顕微鏡スライドによって担持された前記標本を修正するように適合された処理ステーションと、
前記スライド乾燥器と前記処理ステーションの間で顕微鏡スライドを搬送するために配置された搬送装置と、
を具備する請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記処理ステーションは、少なくとも一つのパラフィン除去流体を前記標本に向けて浴びせるように構成されたパラフィン除去ステーションである、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記処理ステーションと前記搬送装置の少なくとも一つに通信可能に接続される、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記伝導スライド加熱器は、仮想水平面との間の角度を定める仮想平面に沿って延設し、前記角度は約75度よりも大きい、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記伝導スライド加熱器は、約75度よりも大きい傾斜角度で上方に傾斜する係合表面を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
約75度の傾斜角度の係合面を含む伝導スライド加熱器を具備するスライド乾燥器であり、前記伝導スライド加熱器は摂氏約50度以上の温度に前記係合面を加熱するように適合される、スライド乾燥器。
【請求項13】
前記伝導スライド加熱器は、摂氏約60度以上の温度に前記係合面を加熱するように適合される、請求項12に記載のスライド乾燥器。
【請求項14】
前記伝導スライド加熱器は、電気エネルギーを受け取り、その電気エネルギーを使用して熱を発生させるように構成される、請求項12に記載のスライド乾燥器。
【請求項15】
顕微鏡スライドを処理するための装置であり、
顕微鏡スライドを実質的に垂直の姿勢に保持し、乾燥期間の間、前記顕微鏡スライドによって担持された少なくとも一つの標本を伝導的に加熱するための熱を発生させるように構成されたスライド乾燥器を含む乾燥ステーションと、
前記乾燥期間後に、前記顕微鏡スライド上の前記標本を処理するように適合された処理ステーションと、
前記スライド乾燥器と前記処理ステーションの間で顕微鏡スライドを搬送するように構成された搬送装置と、
を具備する装置。
【請求項16】
前記スライド乾燥器、前記処理ステーション、及び前記搬送装置の少なくとも一つにコマンドを送る制御部をさらに具備する、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記スライド乾燥器は、前記制御部に通信可能に接続された温度センサーをさらに含む、請求項15に記載の装置。
【請求項18】
前記スライド乾燥器の伝導スライド加熱器によって発生される熱の量と前記乾燥期間の時間の長さの少なくとも一つを制御するために、前記スライド乾燥器に通信可能に接続された制御部をさらに具備する、請求項15に記載の装置。
【請求項19】
前記スライド乾燥器は、前記顕微鏡スライド上の標本を前記標本の埋め込み用材料の融点まで伝導的に加熱するために十分な量の熱を発生するように適合された伝導スライド加熱器を含む、請求項15に記載の装置。
【請求項20】
前記スライド乾燥器は、互いに隔てられた複数のスライド支持素子を含む、請求項15に記載の装置。
【請求項21】
前記処理ステーションは、パラフィン除去ステップまたはベーキング・ステーションである、請求項15に記載の装置。
【請求項22】
前記スライド乾燥器は、伝導スライド加熱器が熱を発生させるとき、乾燥期間中に摂氏約50度を上回る温度になる係合表面を有する伝導スライド加熱器を含む、請求項15に記載の装置。
【請求項23】
顕微鏡スライド上の標本を処理するための方法であり、
前記標本と前記顕微鏡スライドの間に流体が存在するように、標本を顕微鏡スライドの上に位置付けることと、
前記標本と前記顕微鏡スライドの間から搭載用の前記流体を追い出すために、前記顕微鏡スライドを実質的に垂直の姿勢に保持することと、
前記顕微鏡スライドに物理的に係合する伝導スライド加熱器を使用して、前記実質的に垂直の姿勢になっている前記顕微鏡スライドを伝導的に加熱することと、
を含んでなる方法。
【請求項24】
前記標本を顕微鏡スライドの上に位置付けることは、残留移転流体の上に前記標本を浮かせることを含み、前記標本はパラフィンと生体サンプルを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記伝導スライド加熱器によって発生された熱を用いて前記標本のパラフィンを溶融することによって、前記標本を前記顕微鏡スライドに接着させることをさらに含んでなる、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
約1分内に前記標本を前記顕微鏡スライドに接着させることをさらに含んでなる、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
スライド加熱器の、前記スライドに接触している係合面の温度を摂氏約60度以上に維持することをさらに含んでなる、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記実質的に垂直の姿勢になっている前記顕微鏡スライドは、約75度よりも大きい仰角を定める前面をもつ、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記顕微鏡スライドを伝導的に加熱することは、前記標本の埋め込み用材料を摂氏50度を上回る温度まで加熱することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記顕微鏡スライドを伝導的に加熱することは、前記伝導スライド加熱器の表面を前記標本の埋め込み用材料の融点以上に維持することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
前記標本と前記スライドの間から前記残留移転流体を流出させながら、前記標本を伝導的に加熱することによって、前記標本を前記顕微鏡スライドに接着させることをさらに含んでなる、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
顕微鏡スライドによって担持された標本を処理するための方法であり、
前記標本が前記顕微鏡スライド上の残留移転流体の液滴の上に浮いている状態の標本担持顕微鏡スライドを実質的に垂直の姿勢に位置付けることと、
前記浮いている標本の少なくとも一部と前記顕微鏡スライドの間から前記残留移転流体を流出させることと、
伝導スライド加熱器を使用して前記顕微鏡スライドを伝導的に加熱することと、
を含んでなる方法。
【請求項33】
前記標本を前記顕微鏡スライドに接着させるために、伝導された熱を用いることによって前記標本の一部を溶融することをさらに含んでなる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記顕微鏡スライドの前面のある部分の上に、前記標本と前記前面の前記部分の間に残留移転流体の前記液滴が存在するように前記標本を乗せることと、
前記顕微鏡スライドを伝導的に加熱しながら前記顕微鏡スライドを前記実質的に垂直の姿勢に維持することによって、前記標本と前記顕微鏡スライドの間から前記残留移転流体を追い出すことと、
をさらに含んでなる、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
残留移転流体の前記液滴が重力によって前記標本と前記スライド表面の間から抜け出る間に、前記標本を前記顕微鏡スライドの表面に物理的に接触した状態に移行させることをさらに含んでなる、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
少なくとも前記標本の外縁と前記顕微鏡スライドの間の隙間の付近での前記残留移転流体の貯留を促進するために、前記顕微鏡スライドを前記実質的に垂直の姿勢に支持することをさらに含んでなる、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
前記顕微鏡スライドを位置付けることは、約75度よりも大きい仰角に保持されるように前記顕微鏡スライドを支持することを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項38】
前記顕微鏡スライドを伝導的に加熱しながら、前記標本を前記顕微鏡スライドに接着させることと、
搬送装置を使用して、前記接着された標本を担持する顕微鏡スライドを処理ステーションへ移動することと、
をさらに含んでなる、請求項32に記載の方法。
【請求項39】
約5分内に前記標本を前記顕微鏡スライドに接着させることをさらに含んでなる、請求項38に記載の方法。
【請求項1】
標本担持顕微鏡スライドを処理するための装置であり、前記標本は生体サンプルと埋め込み用材料を含み、前記装置は、
顕微鏡スライドを実質的に垂直の姿勢に保持するように構成されたスライド乾燥器を具備し、前記スライド乾燥器は、制御部と前記制御部に通信可能に接続された伝導スライド加熱器を含み、前記伝導スライド加熱器は、前記顕微鏡スライド上の前記標本を前記埋め込み用材料の融点まで伝導的に加熱するように、前記制御部からの信号に応じて十分な量の熱を発生させるように適合される、装置。
【請求項2】
前記スライド乾燥器は、前記標本の外縁と前記顕微鏡スライドの間の隙間付近での流体の貯留を促進するために、前記顕微鏡スライドを前記実質的に垂直の姿勢に保持するように適合される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記伝導スライド加熱器は、前記伝導スライド加熱器が熱を発生させるとき、摂氏約50度を上回る温度になる係合表面を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記伝導スライド加熱器は、互いに隔てられている複数の実質的に垂直に姿勢付けられた顕微鏡スライドを支持するように寸法が決められた、選択的に加熱可能な板を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記伝導スライド加熱器は複数の発熱支持素子を含み、隣接する支持素子の各ペア間に少なくとも一つの顕微鏡スライドが位置付けられるように、前記支持素子は互いに隔てられている、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記伝導スライド加熱器は少なくとも一つの抵抗加熱素子を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記スライド乾燥器が前記標本を加熱した後、前記顕微鏡スライドによって担持された前記標本を修正するように適合された処理ステーションと、
前記スライド乾燥器と前記処理ステーションの間で顕微鏡スライドを搬送するために配置された搬送装置と、
を具備する請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記処理ステーションは、少なくとも一つのパラフィン除去流体を前記標本に向けて浴びせるように構成されたパラフィン除去ステーションである、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記処理ステーションと前記搬送装置の少なくとも一つに通信可能に接続される、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記伝導スライド加熱器は、仮想水平面との間の角度を定める仮想平面に沿って延設し、前記角度は約75度よりも大きい、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記伝導スライド加熱器は、約75度よりも大きい傾斜角度で上方に傾斜する係合表面を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
約75度の傾斜角度の係合面を含む伝導スライド加熱器を具備するスライド乾燥器であり、前記伝導スライド加熱器は摂氏約50度以上の温度に前記係合面を加熱するように適合される、スライド乾燥器。
【請求項13】
前記伝導スライド加熱器は、摂氏約60度以上の温度に前記係合面を加熱するように適合される、請求項12に記載のスライド乾燥器。
【請求項14】
前記伝導スライド加熱器は、電気エネルギーを受け取り、その電気エネルギーを使用して熱を発生させるように構成される、請求項12に記載のスライド乾燥器。
【請求項15】
顕微鏡スライドを処理するための装置であり、
顕微鏡スライドを実質的に垂直の姿勢に保持し、乾燥期間の間、前記顕微鏡スライドによって担持された少なくとも一つの標本を伝導的に加熱するための熱を発生させるように構成されたスライド乾燥器を含む乾燥ステーションと、
前記乾燥期間後に、前記顕微鏡スライド上の前記標本を処理するように適合された処理ステーションと、
前記スライド乾燥器と前記処理ステーションの間で顕微鏡スライドを搬送するように構成された搬送装置と、
を具備する装置。
【請求項16】
前記スライド乾燥器、前記処理ステーション、及び前記搬送装置の少なくとも一つにコマンドを送る制御部をさらに具備する、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記スライド乾燥器は、前記制御部に通信可能に接続された温度センサーをさらに含む、請求項15に記載の装置。
【請求項18】
前記スライド乾燥器の伝導スライド加熱器によって発生される熱の量と前記乾燥期間の時間の長さの少なくとも一つを制御するために、前記スライド乾燥器に通信可能に接続された制御部をさらに具備する、請求項15に記載の装置。
【請求項19】
前記スライド乾燥器は、前記顕微鏡スライド上の標本を前記標本の埋め込み用材料の融点まで伝導的に加熱するために十分な量の熱を発生するように適合された伝導スライド加熱器を含む、請求項15に記載の装置。
【請求項20】
前記スライド乾燥器は、互いに隔てられた複数のスライド支持素子を含む、請求項15に記載の装置。
【請求項21】
前記処理ステーションは、パラフィン除去ステップまたはベーキング・ステーションである、請求項15に記載の装置。
【請求項22】
前記スライド乾燥器は、伝導スライド加熱器が熱を発生させるとき、乾燥期間中に摂氏約50度を上回る温度になる係合表面を有する伝導スライド加熱器を含む、請求項15に記載の装置。
【請求項23】
顕微鏡スライド上の標本を処理するための方法であり、
前記標本と前記顕微鏡スライドの間に流体が存在するように、標本を顕微鏡スライドの上に位置付けることと、
前記標本と前記顕微鏡スライドの間から搭載用の前記流体を追い出すために、前記顕微鏡スライドを実質的に垂直の姿勢に保持することと、
前記顕微鏡スライドに物理的に係合する伝導スライド加熱器を使用して、前記実質的に垂直の姿勢になっている前記顕微鏡スライドを伝導的に加熱することと、
を含んでなる方法。
【請求項24】
前記標本を顕微鏡スライドの上に位置付けることは、残留移転流体の上に前記標本を浮かせることを含み、前記標本はパラフィンと生体サンプルを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記伝導スライド加熱器によって発生された熱を用いて前記標本のパラフィンを溶融することによって、前記標本を前記顕微鏡スライドに接着させることをさらに含んでなる、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
約1分内に前記標本を前記顕微鏡スライドに接着させることをさらに含んでなる、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
スライド加熱器の、前記スライドに接触している係合面の温度を摂氏約60度以上に維持することをさらに含んでなる、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記実質的に垂直の姿勢になっている前記顕微鏡スライドは、約75度よりも大きい仰角を定める前面をもつ、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記顕微鏡スライドを伝導的に加熱することは、前記標本の埋め込み用材料を摂氏50度を上回る温度まで加熱することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記顕微鏡スライドを伝導的に加熱することは、前記伝導スライド加熱器の表面を前記標本の埋め込み用材料の融点以上に維持することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
前記標本と前記スライドの間から前記残留移転流体を流出させながら、前記標本を伝導的に加熱することによって、前記標本を前記顕微鏡スライドに接着させることをさらに含んでなる、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
顕微鏡スライドによって担持された標本を処理するための方法であり、
前記標本が前記顕微鏡スライド上の残留移転流体の液滴の上に浮いている状態の標本担持顕微鏡スライドを実質的に垂直の姿勢に位置付けることと、
前記浮いている標本の少なくとも一部と前記顕微鏡スライドの間から前記残留移転流体を流出させることと、
伝導スライド加熱器を使用して前記顕微鏡スライドを伝導的に加熱することと、
を含んでなる方法。
【請求項33】
前記標本を前記顕微鏡スライドに接着させるために、伝導された熱を用いることによって前記標本の一部を溶融することをさらに含んでなる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記顕微鏡スライドの前面のある部分の上に、前記標本と前記前面の前記部分の間に残留移転流体の前記液滴が存在するように前記標本を乗せることと、
前記顕微鏡スライドを伝導的に加熱しながら前記顕微鏡スライドを前記実質的に垂直の姿勢に維持することによって、前記標本と前記顕微鏡スライドの間から前記残留移転流体を追い出すことと、
をさらに含んでなる、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
残留移転流体の前記液滴が重力によって前記標本と前記スライド表面の間から抜け出る間に、前記標本を前記顕微鏡スライドの表面に物理的に接触した状態に移行させることをさらに含んでなる、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
少なくとも前記標本の外縁と前記顕微鏡スライドの間の隙間の付近での前記残留移転流体の貯留を促進するために、前記顕微鏡スライドを前記実質的に垂直の姿勢に支持することをさらに含んでなる、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
前記顕微鏡スライドを位置付けることは、約75度よりも大きい仰角に保持されるように前記顕微鏡スライドを支持することを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項38】
前記顕微鏡スライドを伝導的に加熱しながら、前記標本を前記顕微鏡スライドに接着させることと、
搬送装置を使用して、前記接着された標本を担持する顕微鏡スライドを処理ステーションへ移動することと、
をさらに含んでなる、請求項32に記載の方法。
【請求項39】
約5分内に前記標本を前記顕微鏡スライドに接着させることをさらに含んでなる、請求項38に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2012−508888(P2012−508888A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536472(P2011−536472)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2009/064235
【国際公開番号】WO2010/056883
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(508176968)ヴェンタナ メディカル システムズ, インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】VENTANA MEDICAL SYSTEMS, INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2009/064235
【国際公開番号】WO2010/056883
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(508176968)ヴェンタナ メディカル システムズ, インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】VENTANA MEDICAL SYSTEMS, INC.
【Fターム(参考)】
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