説明

標準ガス調製装置及びこれを用いた性能検査装置

【課題】 ユーザーの要望に応じた複数種のガスを任意に組合せることができ、複数種のガスが含まれる標準ガスを簡単且つ効率良く調製する。
【解決手段】 複数の液状試薬が収容可能な試薬容器2(例えば2a〜2n)有し、各試薬容器2からの液状試薬を適量分配して供給する試薬分配手段1と、この試薬分配手段1から分配された液状試薬が滴下される気化受4を有し、この気化受4に滴下された液状試薬を完全に気化させる気化チェンバー3と、この気化チェンバー3と連通し且つ気化チェンバー3にて気化された気化ガスを希釈する希釈チェンバー5と、この希釈チェンバー5に希釈ガスを適量供給する希釈ガス供給手段6と、希釈チェンバー5に連通接続され、気化チェンバー3内で気化された気化ガスと希釈チェンバー5内の希釈ガスとが混合された標準ガスを排出する標準ガス排出手段7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め決められた複数種のガスが含まれる標準ガスを調製する標準ガス調製装置に係り、特に、室内化学物質汚染低減策としての化学物質吸着系建材、同分解系建材や空気清浄機などの性能試験を行う上で有効な標準ガス調製装置及びこれを用いた性能検査装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
<シックハウス問題と改正建築基準法>
近年、室内化学物質汚染により引き起こされる健康被害が相次ぎ、シックハウス問題が社会問題として表面化してきている。この種の社会問題を解決するために、2003年7月に建築基準法が改正され、建築物内における化学物質汚染の低減策が示された。
<汚染低減建材、機材と生活用品>
この種の低減策に関しては、シックハウス防止の観点から、化学物質吸着系建材、化学物質分解系建材に対する期待が高まっている。このような背景から、各種建材の製品開発が盛んに行われており、製品の化学物質に対する除去・分解性能試験が求められている。
また、空気清浄機、オゾン分解利用機器に代表される製品(基材)の化学物質除去・分解機能に対する期待が高まっており、これについても性能試験が求められる。
更に、生活用品の中でも、例えば炭製品に代表される日用汚染対策品の化学物質除去・分解機能に対する期待も高く、同様の性能試験が求められている。
【0003】
<化学物質の除去・分解性能の確認>
汚染低減建材・機材と生活用品の化学物質除去・分解性能に関わる試験法が既に提示されている。例えば汚染低減建材・機材については、(財)ベターリング等の認定機関から性能試験法が提示されている。また、空気清浄機については、(社)日本電気工業会(JEMA)にて、同問題に対する性能試験法が提示されている。尚、同試験法よりも更に厳格な試験法案が(社)日本建築学会、関連4省庁と大学・研究機関等からなる室内空気対策研究会から既に提示されており、JIS制定を目的とした準備委員会が検討を行っている。
提示されている性能試験は、1日から数日にわたって行う短期試験と数週間から数ヶ月に及ぶ長期試験に分類される。特に、長期試験にあっては、長期にわたる効果の確認が必要とされており、これにより、製品の化学物質除去・分解効果の持続性が判明する点で有効である。
【0004】
<標準ガス調製装置の必要性>
このような状況下において、いずれの試験法(短期試験、長期試験)においても、ガス状汚染化学物質を定常的に試験チェンバーへ放出することが必要になり、この種の試験法を具現化する装置システムには、試験チェンバーに連通接続される要素として、予め決められたガス状汚染化学物質を標準ガスとする標準ガス定常発生装置(標準ガス調製装置)が必要不可欠である。
このように、標準ガス調製装置のニーズは大変大きなものになってきており、試験用途に応じた標準ガスを簡単且つ精度良く調製することが要請されている。
【0005】
従来における標準ガス調製装置としては、ボンベ詰めの所定の濃度の標準ガスを用意し、この標準ガスを一定の流量の希釈ガスで希釈する方式(ボンベ充填方式)のものや、市販のパーミエーションチューブやディフュージョンチューブを使用したパーミエーター(登録商標)を用いる方式(パーミエーター方式)がある(例えば特許文献1,非特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−35635号公報(従来の技術参照)
【非特許文献1】校正用ガス調製装置(株式会社ガステック製のパーミエーター)[平成11年11月25日検索]、インターネット<http://www.gastec.co.jp/seihin/permeater/pd230_top.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、標準ガス調製装置のうち、前者の態様(ボンベ充填方式)にあっては、流量計や減圧弁等を備えた高価な希釈装置が必要になり、大量の希釈量の希釈ガスを用いる場合には、装置が大型化して高コスト化するという問題があり、多段階希釈の場合には、工程が複雑化するとともに、最終的に得られた標準ガスの濃度の信頼性が低下し易い。
また、ユーザーの要望する標準ガスが複数種にわたる場合には、共通ボンベ内に複数種の標準ガスを予め所定濃度で充填することが必要になる。このとき、共通ボンベ内に各種標準ガスを充填するに当たり、予め所定濃度の標準ガスを夫々作成して夫々の個別ボンベに保管しておき、保管された個別ボンベ内の各標準ガスを共通ボンベに充填することが必要であるため、複数種の標準ガスが充填された共通ボンベを製造する工程が複雑になり、その分、製造設備、製造コストが嵩んでしまい、製造された共通ボンベ自体が極めて高価にならざるを得ないという事態を生ずる。
【0008】
これに対し、後者の態様(パーミエーター方式)は、パーミエーションチューブ、ディフュージョンチューブに対象ガスの液状物質を挿入し、パーミエーションチューブ、ディフュージョンチューブを恒温に保持すると、パーミエーションチューブ内の液化ガスの浸透拡散する量が、また、ディフュージョンチューブ内の液の蒸発拡散する量が一定になることから、両チューブともこれを恒温に保ち、そこに空気・窒素などの希釈ガスを定流量送れば、微量濃度の標準ガスを連続的に生成するものである。
【0009】
しかしながら、このパーミエーター方式にあっては以下のような技術的課題がある。
(1)所定のチューブ内に対象ガスの液状物質を挿入しなければならず、しかも、チューブを恒温(例えば40℃)に保持することが必要になるため、標準ガスを安定的に大量に生成することが困難である。
(2)標準ガスの生成効率が低い分、標準ガスの生成コストが嵩む虞れがある。
(3)チューブ内の温度が安定するまで、液化ガスの浸透拡散量や液の蒸発拡散量を一定にできないため、標準ガスの生成に要する時間が嵩む虞れがある。
(4)パーミエーターの設置環境条件(気温、気圧)の変化が標準ガスの生成速度に影響を与えやすく、標準ガスを所定濃度に維持することが困難である。
【0010】
(5)例えば薬液が混合物の場合に標準ガス調製装置として使用することが困難であり、ユーザーの要望する標準ガスを生成できない場合が起こり得る。
一例としては、比重の異なる二物質(A,B)の混合薬液を用いた場合が挙げられる。
ここで、物質Aよりも物質Bの比重が小さい場合を想定すると、チューブ内では上方にB物質が存在し、下方にA物質が沈降する分離現象が生ずるという傾向が見られる。このような状況下において、両物質A,Bが完全混合された状態では、両物質が問題なく気化することになるが、時間の経過に伴い両物質A,Bの分離現象が生ずると、先にB物質が発生し、後にA物質が発生するという事態が生じ、標準ガスの均一性が損なわれる懸念がある。
また、他の例としては、異なる沸点の混合薬液の場合が挙げられる。
ここで、物質Aの沸点よりも物質Bの沸点が小さい場合を想定すると、先にB物質が発生し、後にA物質が発生するという事態を生じ、標準ガスの均一性が損なわれるという懸念がある。例えばホルムアルデヒドが同上のケースに当てはまる。すなわち、ホルムアルデヒドの発生には、市販されている30数パーセントのホルムマリンと純水とから構成されているホルマリン溶液を用いることになり、上述した沸点の相違に基づく不具合が生ずる虞れがある。
【0011】
本発明は、以上の技術的課題を解決するためになされたものであって、ユーザーの要望に応じた複数種のガスを任意に組合せることができ、複数種のガスが含まれる標準ガスを簡単且つ効率良く調製することができる標準ガス調製装置及びこれを用いた性能検査装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、図1(a)に示すように、複数の液状試薬が収容可能な試薬容器2(例えば2a〜2n)有し、各試薬容器2からの液状試薬を適量分配して供給する試薬分配手段1と、この試薬分配手段1から分配された液状試薬が滴下される気化受4を有し、この気化受4に滴下された液状試薬を完全に気化させる気化チェンバー3と、この気化チェンバー3と連通し且つ気化チェンバー3にて気化された気化ガスを希釈する希釈チェンバー5と、この希釈チェンバー5に希釈ガスを適量供給する希釈ガス供給手段6と、希釈チェンバー5に連通接続され、気化チェンバー3内で気化された気化ガスと希釈チェンバー5内の希釈ガスとが混合された標準ガスを排出する標準ガス排出手段7とを備えたことを特徴とする。
【0013】
このような技術的手段において、本発明は、複数種のガス成分を含む標準ガスを調製する標準ガス調製装置を前提とする。
ここで、標準ガスとは用途に応じて予め決められたものであれば適宜選定して差し支えなく、例えば揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)を主として対象とするが、これ以外をも広く含むものである。
【0014】
また、試薬分配手段1は、複数のガス成分を含む標準ガスを調製する上で、複数の液状試薬が収容可能な試薬容器2(例えば2a〜2n)を有する態様を前提とし、少なくとも各液状試薬を適量分配できる構造であることを要する。このとき、複数種の液状試薬の混在を防止するという観点からすれば、複数種の液状試薬の供給経路を別個独立に設けることが好ましいが、試薬分配手段1の構成を簡略化するという観点からすれば、複数種の液状試薬の供給経路を一部共用する構造が好ましい。但し、液状試薬の供給経路を一部共用する態様にあっては、複数種の液状試薬の混在を有効に回避するという観点からすれば、各液状試薬の供給動作が終了する毎に供給経路を清掃するという清掃機構を付加することが好ましい。
【0015】
更に、気化チェンバー3は、試薬分配手段1から分配された液状試薬が滴下される気化受4を有することが必要である。この気化受4は気化させる試薬を受け止めるものであればよく、代表的には気化皿が用いられる。
更にまた、希釈チェンバー5は気化チェンバー3と連通口3aを介して連通していることが必要であり、気化チェンバー3で気化された気化ガスを希釈するために用いられる。
このように、気化チェンバー3と希釈チェンバー5とを別に設けることにより、気化ガスの生成と希釈処理とを効率的に行うことができる。従って、気化チェンバーと希釈チェンバーとを一つとする態様、例えば気化チェンバーとしての恒温槽に希釈ガスを導入する態様は除外される。
【0016】
また、希釈チェンバー5には希釈ガスを適量供給する希釈ガス供給手段6が連通接続される。この希釈ガス供給手段6としては、専用の希釈ガスを用いてもよいが、通常のエアを清浄処理して使用するようにしても差し支えない。
更に、標準ガス排出手段7としては、生成された標準ガスを希釈チェンバー5内から完全に排出可能なものであれば適宜選定して差し支えない。
【0017】
このような標準ガス調製装置において、気化チェンバー3の代表的態様としては、分配される各液状試薬の沸点以上に気化受4が加熱可能なヒータ4aを備えている態様が好ましい。本態様においては、気化受4にヒータ4aを具備する態様にて気化受4に滴下された液状試薬を完全に気化することができる。また、各液状試薬の沸点はまちまちであるため、ヒータ4aについては可変温度制御可能に構成することが好ましい。
更に、気化チェンバー3の好ましい態様としては、液状試薬が滴下される位置を含んだ状態で振動可能な気化受4を備えている態様が挙げられる。本態様によれば、振動可能な気化受4を使用することで、液状試薬の気化を促進することができる。
【0018】
また、希釈チェンバー5の代表的態様としては、気化チェンバー3を囲むように配設されている態様が挙げられる。ここで、希釈チェンバー5と気化チェンバー3とは連通していればよく、並列に配設して連通管を介して接続してもよいが、設置スペースや連通構造を簡略化するという観点からすれば、気化チェンバー3を囲むように希釈チェンバー5を配設する態様が好ましい。
更に、希釈チェンバー5の好ましい態様としては、気化ガスと希釈ガスとを強制的に撹拌混合する強制撹拌混合手段8を備えている態様が挙げられる。本態様によれば、希釈チェンバー5内での希釈混合処理を均一且つ確実に行うことができる。
【0019】
更にまた、希釈チェンバー5の好ましい態様としては、内部の雰囲気の湿度が調整可能な湿度調整器を備えている態様が挙げられる。本態様によれば、希釈チェンバー5内で調製される標準ガスの湿度条件を調整することができる。
そしてまた、希釈チャンバー5の好ましい態様としては、内部の雰囲気が加熱可能な加熱手段を備えている態様が挙げられる。本態様によれば、希釈チェンバー5内の雰囲気を適宜火加熱することにより、希釈チェンバー5内の標準ガスを確実に気化した状態に保って排出することができ、希釈チャンバー5内のセルフクリーニングを行うことも可能である。
また、標準ガスの濃度や流量を正確に調製する上で有効な態様としては、試薬分配手段1、希釈ガス供給手段6及び標準ガス排出手段7が夫々流量調製手段を備えている態様が挙げられる。本態様によれば、分配液状試薬や希釈ガス、標準ガスの流量や濃度を精度良く調製することができる。
【0020】
また、本発明は、標準ガス調製装置に限られるものではなく、これを用いた性能検査装置をも対象とする。
この場合、本発明は、図1(b)に示すように、性能検査対象物15が収容される検査チェンバー12と、上述した標準ガス調製装置10にて調製された標準ガスを検査チェンバー12に適量供給する標準ガス供給装置11と、標準ガスが供給された検査チェンバー12からの排出ガスを捕獲して測定する測定装置13とを備えたことを特徴とする。
【0021】
このような技術的手段において、性能検査対象物15には、例えばシックハウス防止の観点から期待される化学物質吸着系建材、同分解系建材のほか、空気清浄機、オゾン利用分解機器などが挙げられる。
また、標準ガス供給装置11には、標準ガス調製装置10にて調製された標準ガスを直接的に検査チェンバー12に供給する態様は勿論、標準ガスをガスボンベに封入した後間接的に検査チェンバー12に供給する態様も含む。
前者の態様にあっては、標準ガス供給装置11は、標準ガス調製装置10を含み、標準ガス調製装置10にて調製された標準ガスを検査チェンバー12に直接供給するものであればよく、一方、後者の態様にあっては、標準ガス供給装置11は、標準ガス調製装置10にて調製された標準ガスが封入されたガスボンベを有し、このガスボンベ内の標準ガスを検査チェンバー12に供給するものであればよい。
更に、測定装置13には排出ガス成分の濃度、流量、温度、湿度などを測定するものが含まれる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る標準ガス調製装置によれば、気化チェンバー内に複数種の液状試薬を順次分配供給し、気化チェンバー内の気化受にて液状試薬を気化させた後、希釈チェンバー内に気化ガスを導いて希釈ガスにて希釈し、標準ガス排出手段を経て標準ガスとして排出するようにしたので、仮に薬液が混合物であったとしても気化受にて簡単に気化させることが可能になり、複数種のガス成分が含まれる標準ガスを簡単且つ精度良く調製することができる。
また、本発明に係る性能検査装置によれば、標準ガス調製装置にて複数種のガス成分が含まれる標準ガスを簡単且つ精度良く調製し、この標準ガスを性能検査に利用することができるため、性能検査を簡単且つ精度良く実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
◎実施の形態1
図2は本発明が適用された標準ガス調製装置の実施の形態1を示す。
同図において、標準ガス調製装置20は、例えば揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)からなる複数種のガス成分を含む標準ガスを調製するものであり、複数種の液状試薬を分配供給する分配供給器21と、この分配供給器21にて分配供給された液状試薬を気化させる気化チェンバー22と、この気化チェンバー22にて気化された気化ガスを希釈ガスにて希釈する希釈チェンバー23と、この希釈チェンバー23内にて生成された標準ガス(気化ガスと希釈ガスとの混合ガス)を排出する標準ガス排出器24とを備えている。
【0024】
ここで、標準ガスに含まれるガス成分としては用途に応じて適宜選定されるものであるが、例えば室内空気汚染物質測定用に用いられる標準ガスとしては、ホルムアルデヒド(HCHO)、ジクロロメタン(CHCl)、アセトン((CHCO)、クロロホルム(CHCl)、n−ヘキサン(n−C14)、エタノール(COH)、1,1,1−トリクロロエタン(1,1,1−CCl)、テトラクロロメタン(CCl)、酢酸エチル(CHCOOC)、メチルエチルケトン(CHCOC)、2,4−ジメチルペンタン(2,4−(CH10)、ベンゼン(C)、1,2−ジクロロエタン(1,2−CCl)、トリクロロエチレン(CHCl)、1,2−ジクロロプロパン(1,2−CCl)、n−ヘプタン(n−C16)、1−ブタノール(2−(CH)COH)、トルエン(C)、メチルイソブチルケトン〔2−メチル−4−ペンタン〕(2CHCO(1−C))、n−ブタノール(n−COH)、クロロジブロモメタン(CHClBr)、テトラクロロエチレン(CCl)、酢酸ブチル(CHCOOC)、n−オクタン(n−C18)、エチルベンゼン((C)C)、p−キシレン(p−C10)、m−キシレン(m−C10)、o−キシレン(o−C10)、スチレン((C)C)、n−ノナン(n−C20)、α−ピネン(α−C20)、1,3,5−トリメチルベンゼン〔メシチレン〕(1,3,5−(CH)、1,2,4−トリメチルベンゼン〔プソイドクメン〕(1,2,4−(CH)、p−ジクロロベンゼン(p−CCl)、n−デカン(n−C1022)、1,2,3−トリメチルベンゼン(1,2,3−(CH)、(+)リモネン((+)C1016)、n−ウンデカン(n−C1124)、n−ドデカン(n−C1226)、窒素(N)などを適宜混合したものが用いられる。
特に、本実施の形態では、標準ガス調製装置20は、主として液状試薬を気化させて得られるガス成分を生成するものであるから、前記ガス成分のうち、液状試薬を気化させるものを生成対象とする。尚、もともと気体状のガス成分を混合する場合には、本実施の形態の標準ガス調製装置20にて生成したガス成分と前記気体状のガス成分とを別途混合するようにすればよい。
【0025】
本実施の形態において、分配供給器21は、複数種の液状試薬が収容される複数の試薬容器31(31a,31b,31c……)を有し、各試薬容器31と気化チェンバー22との間を供給配管32にて連通接続したものである。
ここで、供給配管32は、気化チェンバー22につながる主供給配管33とこの主供給配管33から複数に分岐して各試薬容器31につながる分岐供給配管34(34a,34b,34c……)とを備え、主供給配管33と各分岐供給配管34との接続部には切替バルブ35を設け、この切替バルブ35にて供給配管経路を切替選択可能にしたものである。
更に、主供給配管33の一部には供給配管32内の液状試薬を気化チェンバー22に供給するための供給ポンプ36が配設されており、一方、各分岐供給配管34(34a,34b,34c……)には夫々液状試薬の供給量を調整するためのマスフローコントローラ37(37a,37b,37c……)が配設されている。
尚、本態様において、主供給配管33には複数の液状試薬が通過することになるため、夫々の液状試薬が相互に混在しないように配慮することが好ましい。例えば供給ポンプ36による供給圧をある程度高く設定して液状試薬の供給動作を安定させるようにしたり、必要に応じて、各液状試薬の供給動作が終了する毎に清掃機構により主供給配管33を清掃することが挙げられる。ここで、清掃機構としてはエア吹き付け方式や加熱方式等適宜選定することが可能であるが、例えば加熱方式を採用する場合には、例えばVOCは気化温度が50〜260℃の物質であるから、主供給配管33を300℃程度で加熱すると、VOCとSVOC(準揮発性有機化合物;Semi Volatile Organic Compounds)のほとんどを除去することができる。
【0026】
また、本実施の形態において、気化チェンバー22は例えば略ボックス状の空間部を有し、この気化チェンバー22の上壁の略中央部に配管挿入口22aが開設されると共に、この配管挿入口22aを通じて主供給配管33が挿入され、主供給配管33の一端が気化チェンバー22内に突出配置されるようになっている。
【0027】
本実施の形態において、気化皿40は、図3(a)に示すように、支持台41上に受け皿42を配設し、支持台41には受け皿42の直下に対応して例えば面状ヒータ43を配設すると共に、受け皿42の温度を検出するための温度センサ44を設け、温度センサ44からの温度情報に基づいて温度制御装置45にてヒータ43を加熱制御するようになっている。
ここで、受け皿42としては熱伝導性の良い耐食性材料(例えばステンレス、ガラスを始めとする各種セラミックスなど)が用いられる。また、温度制御装置45は、滴下される液状試薬の種類に応じてヒータ43の目標温度を可変設定するものであり、ヒータ43の目標温度としては、ヒータ43にて加熱された受け皿42の温度が滴下される液状試薬の気化温度以上になるように選定されている。
また、気化皿40の構成については、例えば支持台41を固定的に設けるなど適宜選定して差し支えないが、例えば図3(b)に示すように、駆動機構47にて例えば図中左右方向に高速往復動する可動テーブル46を配設すると共に、この可動テーブル46上に支持台41を固定し、気化皿40を振動可能に構成してもよい。本態様によれば、振動可能な気化皿40を使用することで、液状試薬の気化を促進することができる。
【0028】
更に、本実施の形態において、希釈チェンバー23は略ボックス状の空間部を有し且つ気化チェンバー22を囲むように配設されており、この希釈チェンバー23の上壁の略中央部に配管挿入口23aが開設されると共に、この配管挿入口23aを通じて主供給配管33が挿入されている。
そして、気化チェンバー22の側壁のうち気化皿40の配設箇所よりも上方に位置する一部には連通口48が開設されており、気化チェンバー22と希釈チェンバー23とが連通接続されるようになっている。
【0029】
更にまた、この希釈チェンバー23の側壁の一部には希釈ガス供給器60が連通接続されている。この希釈ガス供給器60は例えば一端が空気中に開口する希釈ガス供給配管61を有し、この希釈ガス供給配管61の一部に清浄器62を介在させると共に、希釈ガス供給用の供給ポンプ63を配設し、更に、希釈ガス供給配管61の一部には希釈ガスの流量調整用のマスフローコントローラ64を配設したものである。尚、希釈ガス供給器60として炭化水素ガスなどの専用ガスが充填された専用ボンベを用い、専用ボンベからの希釈ガスを直接供給する態様であってもよい。
また、希釈チェンバー23内には希釈ガスと気化ガスとを強制的に撹拌混合する撹拌ファン70が配設されている。尚、希釈チェンバー23内の雰囲気汚れを抑えるという観点からすれば、撹拌ファン70のうちファン本体のみを希釈チェンバー23内に配置し、ファン本体の駆動部については希釈チェンバー23の外部に配置するようにすることが好ましい。
【0030】
更に、希釈チェンバー23には加熱装置71が付設されており、この加熱装置71は希釈チャンバー23内の雰囲気を加熱し、希釈チャンバー23内の標準ガスが気化した状態に保つようになっている。
また、この希釈チェンバー23には減圧配管74が連通接続されると共にこの減圧配管74には圧力調整器75が付設されており、この圧力調整器75は希釈チャンバー23及び気化チャンバー22内を減圧し、液状試薬の気化を促進させるようになっている。
【0031】
更に、本実施の形態において、標準ガス排出器24は、希釈チェンバー23の側壁の一部に付設される排出配管81を有し、この排出配管81の一部に排出ポンプ82を配設すると共に、排出されるガス成分の排出流量調整用のマスフローコントローラ83を配設したものである。
【0032】
次に、本実施の形態に係る標準ガス調製装置の作動について説明する。
図2において、分配供給器21は、切替バルブ35を順次切り替えることにより複数の試薬容器31(31a,31b,31c……)のいずれかに連通する供給配管32経路を選択し、供給ポンプ36及び対応するマスフローコントローラ37(37a,37b,37c……)にて対応する試薬容器31から所定の液状試薬を所定量だけ分配吸引し、気化チェンバー22へと供給する。
このとき、気化チェンバー22内は圧力調整器75にて減圧されて負圧状態であるから、主供給配管33内の液状試薬は、供給ポンプ36の供給圧に加えて気化チェンバー22内の負圧に引っ張られて気化チェンバー22へ供給される。
そして、気化チェンバー22内では液状試薬は主供給配管33の先端から滴下し、気化皿40に受け止められる。すると、気化皿40はヒータ43には気化可能温度まで上昇していることから、気化皿40に受け止められた液状試薬は瞬時に気化し、気化ガスG1が気化チェンバー22内に充満すると共に、連通口48を通じて希釈チェンバー23内にも充満する。
【0033】
一方、希釈チェンバー23には希釈ガス供給器60から所定量の希釈ガスG0が導入される。
この状態において、希釈チェンバー23(本例では気化チェンバー22を含む)内には気化ガスG1と希釈ガスG0とが混合した状態になるが、本実施の形態では、希釈チェンバー23内の雰囲気は撹拌ファン70にて強制的に撹拌混合されることから、希釈チェンバー23内では所定量の気化ガスG1と所定量の希釈ガスG0との混合ガスが均一な状態で且つ所定濃度に調製される。
【0034】
この後、標準ガス排出器24は、排出ポンプ82にて希釈チェンバー23内の混合ガスGmを標準ガスの一ガス成分として図示外の標準ガス収集部に排出すると共に、マスフローコントローラ83にて標準ガスの一ガス成分の排出流量を調整する。
尚、希釈チャンバー23内の雰囲気は加熱装置71にて所定温度に加熱されているため、希釈チャンバー23内の混合ガスGmのうち気化ガスG1が液化する懸念はなく、混合ガスGmは気化した状態を保つ。このため、本実施の形態では、希釈チャンバー23内に混合ガスGmが残存することはなく、希釈チャンバー23はセルフクリーニングされることになる。
【0035】
このようにして、上述した標準ガス調製装置20から各液状試薬を気化した標準ガスの各ガス成分が生成されることになり、図示外の標準ガス収集部に収集される。
【0036】
◎実施の形態2
図4は本発明が適用された標準ガス調製装置の実施の形態2を示す。
同図において、標準ガス調製装置20の基本的構成は実施の形態1と略同様であるが、実施の形態1と異なり、希釈チャンバー23には湿度調整器79が付設されている。
本実施の形態において、希釈チャンバー23は純水77が貯蔵されたタンク76と連通配管78を介して連通接続されており、この連通配管78の途中に湿度調整器79が介装され、希釈チャンバー23内の雰囲気の湿度を調整するようになっている。尚、実施の形態1と同様な構成要素については実施の形態1と同様な符号を付してここではその詳細な説明を省略する。
【0037】
本実施の形態によれば、実施の形態1と同様な作用を奏することに加えて、希釈チャンバー23内の雰囲気の湿度を調整することが可能になり、標準ガスの各ガス成分の湿度条件を一定にしたり、湿度条件の異なる標準ガスを簡単に調製することができる。
【0038】
◎実施の形態3
図5は標準ガス調製装置20を用いた性能検査装置の一例(実施の形態3)を示す。
同図において、性能検査装置は、性能検査対象物90が収容される検査チェンバー100と、この検査チェンバー100内に標準ガス調製装置20にて調製された標準ガスを供給する標準ガス供給装置110と、検査チェンバー100からの排出ガスを捕獲して測定する測定装置120とを備えたものである。尚、本例では、性能検査対象物90として例えばシックハウス防止の観点から期待される空気清浄機を用いた態様が明示されているが、これに限られず、他の機器や化学物質吸着系若しくは分解系建材でもよい。
【0039】
本実施の形態において、検査チェンバー100は略ボックス状の空間部を有し、内壁の一部に一様拡散用の拡散ファン101を備えたものである。そして、この検査チェンバー100には図示外の可動台が進退移動自在に設けられており、検査チェンバー100の外部にて可動台上に性能検査対象物90が載置され、検査チェンバー100内に可動台が進出移動することにより、検査チェンバー100内に性能検査対象物90が収容されるようになっている。
【0040】
また、標準ガス供給装置110は実施の形態1又は実施の形態2で用いられる標準ガス調製装置20を含むものであり、標準ガス排出器24の排出配管81の排出端側を検査チェンバー100に連通接続したものである。尚、検査チェンバー100内の拡散ファン101は排出配管81の開口端近傍に配設されている。
本例では、標準ガス供給装置110は、標準ガス調製装置20にて生成されるガス成分を順次標準ガス収集部としての検査チェンバー100内に直接供給するようになっているが、例えば標準ガス調製装置20にて生成されたガス成分を一旦検査チェンバー100とは別の図示外の標準ガス収集部に収集した後、検査チェンバー100に供給するようにしてもよい。
【0041】
更に、測定装置120は、検査チェンバー100に測定配管121を連通接続し、この測定配管121にはサンプリング用のサンプラー122(例えば炭素系捕集管)を着脱自在に取り付けると共に定流量ポンプ123を配設し、更に、この測定配管121の一部にモニター用のガスメータ124を配設すると共に、測定配管121内の試料ガスの流量測定用の流量メータ125を配設したものである。
ここで、測定装置120による標準ガスの捕集分析方法としては、固体捕集−加熱脱着−ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)法や、光音響法が用いられる。
前者の方法は、例えば所定の捕集流量、採取時間を決め、サンプラー122にて試料ガス(検査チェンバー100内の試料空気)の捕集を行って分析試料とし、捕集された分析試料を加熱導入装置を用いてGC/MSに導入し、定性・定量分析を行う。
一方、後者の方法は、ガスメータ124に試料ガスを導入し、検査チェンバー100内の試料ガス濃度の経時変化をモニタリングする。
【0042】
次に、本実施の形態に係る性能検査装置の作動について説明する。
先ず、検査チェンバー100の内壁、拡散ファン101、性能検査対象物である空気清浄機90等の清浄を行う。
次いで、検査チェンバー100内に空気清浄機90をセットした後、検査チェンバー100内を数時間喚起し、検査チェンバー100の外気のVOC濃度及び検査チェンバー100内の温湿度を調整する。
この状態において、検査チェンバー100内のVOC初期濃度を測定した後、拡散ファン101で拡散させつつ検査チェンバー100内に標準ガスの各ガス成分を順次導入する。
この後、ガスメータ124にて試料ガスをモニタリングし、定常濃度に達したことを確認した後、検査チェンバー100内濃度の安定化を図る。
しかる後、空気清浄機90非運転期間の試料ガスのVOC濃度を測定し、更に、空気清浄機90を所定の条件下で運転させ、空気清浄機90運転期間の試料ガスのVOC濃度を測定する。
この試料ガスのVOC濃度の変化状態を見ることにより、空気清浄機90の性能を評価することが可能である。
【0043】
◎実施の形態4
図6は標準ガス調製装置20を用いた性能検査装置の他の例(実施の形態4)を示す。
同図において、性能検査装置は、実施の形態2と略同様に、検査チェンバー100、標準ガス供給装置110及び測定装置120を備えたものであるが、標準ガス供給装置110が実施の形態2と異なる態様になっている。
同図において、標準ガス供給装置110は、実施の形態1又は実施の形態2で用いられる標準ガス調製装置20にて調製された標準ガスの各ガス成分が封入されたガスボンベ130を有し、このガスボンベ130と検査チェンバー100との間を接続配管131にて接続し、この接続配管131中にマスフローコントローラ132を配設し、検査チェンバー100内にガスボンベ130内から一定量のガス成分を供給するようにしたものである。尚、ガスボンベ130としては必ずしも単数である必要はなく、複数であってもよい。
従って、本実施の形態においても、検査チェンバー100内に所定の標準ガスを充填することが可能になり、実施の形態3と略同様に、検査チェンバー100に収容した性能検査対象物90の性能を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】(a)は本発明に係る標準ガス調製装置の概要を示す説明図、(b)は本発明に係る性能検査装置の概要を示す説明図である。
【図2】本発明に係る標準ガス調製装置の実施の形態1を示す説明図である。
【図3】(a)(b)は実施の形態1で用いられる気化皿の代表的態様を示す説明図である。
【図4】本発明に係る標準ガス調製装置の実施の形態2を示す説明図である。
【図5】本発明に係る性能検査装置の実施の形態3を示す説明図である。
【図6】本発明に係る性能検査装置の実施の形態4を示す説明図である。
【符号の説明】
【0045】
1…試薬分配手段,2(2a〜2n)…試薬容器,3…気化チェンバー,3a…連通口,4…気化受,4a…ヒータ,5…希釈チェンバー,6…希釈ガス供給手段,7…標準ガス排出手段,8…強制撹拌混合手段,10…標準ガス調製装置,11…標準ガス供給装置,12…検査チェンバー,13…測定装置,15…性能検査対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の液状試薬が収容可能な試薬容器を有し、各試薬容器からの液状試薬を適量分配して供給する試薬分配手段と、
この試薬分配手段から分配された液状試薬が滴下される気化受を有し、この気化受に滴下された液状試薬を完全に気化させる気化チェンバーと、
この気化チェンバーと連通し且つ気化チェンバーにて気化された気化ガスを希釈する希釈チェンバーと、
この希釈チェンバーに希釈ガスを適量供給する希釈ガス供給手段と、
希釈チェンバーに連通接続され、気化チェンバー内で気化された気化ガスと希釈チェンバー内の希釈ガスとが混合された標準ガスを排出する標準ガス排出手段と、
を備えたことを特徴とする標準ガス調製装置。
【請求項2】
請求項1記載の標準ガス調製装置において、
気化チェンバーは、分配される各液状試薬の沸点以上に気化受が加熱可能なヒータを備えていること特徴とする標準ガス調製装置。
【請求項3】
請求項1記載の標準ガス調製装置において、
気化チェンバーは液状試薬が滴下される位置を含んだ状態で振動可能な気化受を備えていることを特徴とする標準ガス調製装置。
【請求項4】
請求項1記載の標準ガス調製装置において、
希釈チェンバーは、気化チェンバーを囲むように配設されていることを特徴とする標準ガス調製装置。
【請求項5】
請求項1記載の標準ガス調製装置において、
希釈チェンバーは気化ガスと希釈ガスとを強制的に撹拌混合する強制撹拌混合手段を備えていることを特徴とする標準ガス調製装置。
【請求項6】
請求項1記載の標準ガス調製装置において、
希釈チェンバーは内部の雰囲気の湿度が調整可能な湿度調整器を備えていることを特徴とする標準ガス調製装置。
【請求項7】
請求項1記載の標準ガス調製装置において、
希釈チャンバーは内部の雰囲気が加熱可能な加熱手段を備えていることを特徴とする標準ガス調製装置。
【請求項8】
請求項1記載の標準ガス調製装置において、
試薬分配手段、希釈ガス供給手段及び標準ガス排出手段は夫々流量調製手段を備えていることを特徴とする標準ガス調製装置。
【請求項9】
性能検査対象物が収容される検査チェンバーと、
請求項1記載の標準ガス調製装置にて調製された標準ガスを検査チェンバーに適量供給する標準ガス供給装置と、
標準ガスが供給された検査チェンバーからの排出ガスを捕獲して測定する測定装置とを備えたことを特徴とする性能検査装置。
【請求項10】
請求項9記載の性能検査装置において、
標準ガス供給装置は、標準ガス調製装置を含み、標準ガス調製装置にて調製された標準ガスを検査チェンバーに直接供給するものであることを特徴とする性能検査装置。
【請求項11】
請求項9記載の性能検査装置において、
標準ガス供給装置は、標準ガス調製装置にて調製された標準ガスが封入されたガスボンベを有し、このガスボンベ内の標準ガスを検査チェンバーに供給するものであることを特徴とする性能検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−194694(P2006−194694A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5470(P2005−5470)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(301071022)
【Fターム(参考)】