説明

標的化凝固因子およびそれを使用する方法

血球上の膜タンパク質に特異的に結合する少なくとも1つのドメインと結合している凝固因子を含む標的化凝固因子を提供する。記載されている標的化凝固因子は、凝固因子の効率を増加させ、それらの作用期間を延長し、したがって、血液病、例えば、血友病Aの処置に関して改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年5月16日に出願された米国仮出願第61/053,932号(これの内容は、その全体において出典明示により本明細書に包含させる)の利益を主張する。
【0002】
本発明の分野
本発明は増加した有効性を有する標的化凝固因子に関する。本発明はさらに、凝固因子を生物学的作用部位に選択的に標的化することにより、例えば、第VIII因子(FVIII)を赤血球および血小板に標的化することにより、凝固因子欠乏症に罹患している患者を処置する方法に関する。本発明の標的化凝固因子を含む医薬組成物も提供する。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景
生物学的薬物の有効性は、しばしば、特に疾患が薬物による持続的な調節を必要とするとき、患者における作用期間により限定される。結果として、薬物動態特性の増強は、しばしば、病院における治療剤の成功のために薬効の最適化よりも重要である。半減期を延長するようにクリアランスの種々のメカニズムから薬物を保護する1つの手段は、循環において長寿命のタンパク質、例えば、基質タンパク質への、または細胞、例えば、血球または内皮細胞の表面への薬物結合を促進する標的ドメインを加えることである。例えば、治療ペプチドまたはタンパク質の血球表面への局在化は、正常クリアランスメカニズムを防止することにより、それらの循環半減期を延長することが示されている(Chen, et al., Blood 105(10):3902-3909, 2005)。多種多様の分子が標的ドメインとして使用され得る。
【0004】
別の例では、ダニ抗凝固性タンパク質のクニッツ(Kunitz)タイプのプロテアーゼインヒビター(KPI)ドメインがアニオン性リン脂質、ホスファチジル−L−セリン(PS)結合タンパク質、アネキシンV(ANV)と結合したとき、融合タンパク質(ANV−KPI)は非融合対照物よりも良い活性であり、高いインビボ抗血栓活性を有することを示した(Chen, et al., 2005)。ANVがPSおよびホスファチジルエタノールアミン(PE)に対する強い親和力を有するため、融合タンパク質ANV−KPIは血栓形成の部位に存在するPS/PEリッチアニオン性膜関連凝固酵素複合体を特異的に標的化することができると仮定される。同様に、Dong, et al., は、フィブリン選択的ナミチスイコウモリ唾液PAα1(dsPAα1)をウロキナーゼ(uPA)/抗−P−セレクチン抗体(HuSZ51)に融合し、インビトロアッセイにおいて非融合対照物と同様の抗血栓活性で完全に機能性である融合タンパク質を生産したことを報告した。さらに、融合タンパク質HuSZ51−dsPAα1は、トロンビン活性化ヒトおよびイヌ血小板に結合することが示された(Dong, et al., Thromb. Haemost. 92:956-965, 2004)。
【0005】
他の試験によって、凝固を防止し、血栓症と関連する死亡率を減少させるための標的抗凝固剤が製造された(例えば、WO94/09034、参照)。因子Xa(FXa)インヒビターであるダニ抗凝固性ペプチド(TAP)は、血小板表面上に豊富に発現する糖タンパク質であるGPIIb/IIIa上のリガンド誘導結合部位(LIBS)に抗LIBS一本鎖抗体(scFv抗−LIBS)を介して標的化させることが、最近の研究Stoll, et al., (Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 27:1206-1212, 2007)により証明された。融合タンパク質scFv抗−LIBS−TAPは、非標的化対照物が機能しない低い用量でさえ、有効な抗凝固活性を有することが示された。
【0006】
前記標的化抗凝固剤は、特定の細胞を標的化するように設計された融合タンパク質であった。Stoll, et al., によると、標的化抗凝固剤は、抗体に融合されているが、非常に強い凝固阻害活性が維持されている小分子であるべきである。標的化部位における融合タンパク質からの抗凝固剤の放出は議論されていなかった。
【0007】
本発明は、血液病、例えば、血友病の処置のための治療タンパク質の標的化に注目している。例えば、血友病A患者のFVIII濃縮物または組換えFVIIIでの現在の処置は、これらの因子の高いコストおよび比較的短い作用期間により制限される。血友病A患者は現在、要求に応じてFVIIIの静脈内投与または1週間に数回の予防的治療投与により処置される。予防処置のために、FVIIIを1週間に3回投与する。残念ながら、この頻度は多数の患者に対して法外な費用がかかる。ヒトにおいて短い半減期であるため、FVIIIは頻繁に投与されなければならない。全長タンパク質に関して300kD以上の大型サイズにもかかわらず、FVIIIはヒトにおいてわずか約11−18(平均14)時間の半減期である(Gruppo, et al., Haemophila 9:251-260, 2003)。推奨される頻繁な投与をすることができる人でさえ、やはりタンパク質を頻繁に静脈内に注射することは非常に不便である。長い半減期を有し、投与頻度が少なくてよいFVIII産物が開発されることが患者に対してより都合がよい。さらに、必要とされる投与量がより少なくなるため、半減期が増加すれば処置費用を減少させることができる。したがって、有効な用量を少なくするか、または長期作用期間を有し、血友病に対する処置の選択を大きく改善することができるFVIIIのより有効な形態を得ることが望ましい。
【0008】
また、標的化FVIIIの持続血漿濃度は、トラフ値をFVIIIのピークレベルに低減し、したがって早期の時点にて超生理学的レベルのタンパク質を導入する必要性を除去することにより、副作用の程度を減少させ得る。したがって、現在市販されている形態よりも持続期間が維持され半減期の長いFVIIIの形態を得ることが望ましい。
【0009】
現在の治療のさらなる不利益は、約25−30%の患者がFVIII活性を阻害する抗体を産生することである(Saenko, et al., Haemophilia 8:1-11, 2002)。抗体産生は補充療法としてのFVIIIの使用を妨げるため、このグループの患者は、高用量の組換え第VIIa因子(FVIIa)および免疫寛容療法でのさらに費用のかかる処置を探索することを強いられる。したがって、免疫原性の低いFVIII代替品が望まれている。
【0010】
血友病に対する処置の改善における1つの手段は遺伝子治療を含む。血小板におけるFVIII発現を指向することによって血小板に異所的に標的化したFVIIIは、血友病Aの処置における治療効果を有することができる(Shi, et al., J. Clin. Invest. 116(7):1974-1982, 2006)。
【0011】
本発明の目的は非標的化タンパク質と比較して作用期間の延長、より良い有効性、より少ない副作用およびより低い免疫原性を有する標的化凝固因子を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、所望の特定の作用部位に標的化されたタンパク質を有し、それにより望ましくない副作用をもたらし得る他の可能性のある生物学的に活性な部位へのタンパク質の暴露を減少させることにより、治療タンパク質の投与と関連する副作用を減少させることである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、治療タンパク質がインビボで作用部位のすぐ隣接にて標的ドメインから放出される標的化治療凝固因子を設計することにより、さらなる利点を得ることである。非融合の活性化タンパク質の高い局所濃度が達成され得る。したがって、タンパク質の治療有効性は増加する。
【発明の概要】
【0014】
発明の概要
本発明の標的化凝固因子は、血球上の膜タンパク質に特異的に結合する少なくとも1つのドメインと結合した凝固因子を含む。新たに開示された標的化凝固因子を含む医薬組成物および標的化凝固因子を使用する血液病を処置するための方法も提供する。本発明はさらに、凝固因子にて血液病を処置する効率を増加させるために新たに開示された標的化凝固因子を使用することにより、凝固因子を血球の表面へ標的化するための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1:全長FVIII(“全長FVIII)および標的ドメイン(“TD”)がBドメインに挿入され、Bドメインの大部分が除去されているBドメイン欠失FVIII(“FVIII−BDD−TD”)の概略図。
【図2】図2:Bドメインシステインを介してFVIIIに結合するための、修飾された環状ペプチドインテグリリン“BHRF−1”(A)および“BHRF−3”(B)の構造。
【図3】図3:固定化されたGPIIa/IIIbに対するBHRF−1およびBFRH−3の結合親和性。
【図4】図4:固定化されたGPIIa/IIIbに対するBHRF−1−FVIII結合アッセイ。
【図5】図5:FVIIIと比較したBHRF−1−FVIIIのインビトロ凝固活性。
【図6】図6:BHRF−1−FVIIIのヒト血小板へのインビトロでの結合。
【図7】図7:BHRF−1−FVIIIのマウス血小板へのインビトロでの結合。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の説明
本発明は、凝固因子をその作用部位、例えば、血球へ標的化することである。1つの態様において、因子が血球上の膜タンパク質に結合する少なくとも1つのドメインへ結合することを介して、血球へ特異的に標的化されている標的化凝固因子を提供する。凝固因子を血球へ標的化するためのドメインは、限定はしないが、血球の表面上の膜タンパク質に対する高親和性を有する抗体フラグメント、抗体、ペプチド、受容体リガンド、炭水化物または小分子であり得る。血球は、例えば、赤血球または血小板である。
【0017】
本明細書において使用される“凝固因子”は、凝固カスケードに関与し、大部分が凝固促進活性を有するタンパク質を示す。凝固因子は当分野で既知であり、凝固因子I、II、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XIIおよびXIIIならびにタンパク質Sを含むがこれらに限定されない。凝固因子は血漿から濃縮するか、または組換え的に生産され得る。組換え的に生産されるとき、凝固因子は、変異体が治療的に有効であるように十分な凝固促進活性が維持している限り、天然構造から変化しているアミノ酸構造を有し得る。1つの態様において、凝固因子は、機能性FVIIIポリペプチド、例えば、限定はしないが、血漿由来のFVIII濃縮物または組換え的に生産されたFVIIIまたは因子IX(FIX)である。
【0018】
本明細書において使用される“機能性FVIIIポリペプチド”は、インビボまたはインビトロにて、例えば、血友病Aにより特徴付けられるヒトFVIII欠乏を修正することが可能である機能性ポリペプチドまたはポリペプチドの組合せを示す。FVIIIは、天然状態における多数の分解物または加工された形態を有する。これらは前駆体の一本鎖タンパク質からタンパク質分解的に得られる。機能性FVIIIポリペプチドは、このような一本鎖タンパク質を含み、ヒトFVIII欠乏を修正する生物学的活性を有するこれらの種々の分解産物も提供する。アレル変異体が恐らく存在する。機能性FVIIIポリペプチドは、ヒトFVIIIの機能性セグメントおよび必須の特徴的なヒトFVIII機能活性を含む限り、FVIIIの誘導体となるすべてのこのようなアレル変異体、グリコシル化バージョン、修飾物およびフラグメントを含む。このような必要な機能活性を有するFVIIIの誘導体は、本明細書に記載されている直接的インビトロ試験により容易に同定することができる。さらに、機能性FVIIIポリペプチドは、因子IXa(FIXa)、カルシウムおよびリン脂質の存在下でのFXaへの因子X(FX)の変換を触媒すること、ならびに血友病A罹患個体由来の血漿における凝固障害を修正することが可能である。ヒトFVIIIアミノ酸配列の公開配列およびその機能性領域の公開情報から、DNAの制限酵素切断またはヒトFVIIIタンパク質のタンパク質分解もしくは他の分解を介して得ることができるフラグメントは、当業者に明らかである。限定はしないが、機能性FVIIIポリペプチドに特に含まれるものは、全長ヒトFVIII(例えば、配列番号:1および配列番号:2)およびBドメイン欠失第VIII因子(例えば、配列番号:3および配列番号:4)ならびにWO2006/053299に記載されているアミノ酸配列を有するものである。
【0019】
FVIIIの“凝固促進活性”は、凝固カスケードにおけるFVIIIの活性を示す。FVIIIそれ自体は凝固を引き起こさないが、凝固カスケードにおいて重要な役割を果たす。凝固におけるFVIIIの役割は、内因性FX活性化のための触媒補因子であるFVIIIaへ活性化されることである(Thompson, Semin. Thromb. Hemost. 29 :11-22, 2003)。FVIIIは、トロンビンまたはFXaによりタンパク質分解的に活性化され、フォン・ヴィレブランド因子(vWf)から分離し、カスケードにおけるその凝固促進機能を活性化する。その活性形態において、FVIIIaは血液凝固の内因性経路においてFX活性化酵素複合体に対する補因子として機能し、それは血友病Aを有する患者において減少しているか、または非機能性である。
【0020】
“FIX”は、ヒト凝固因子IXとしても知られている凝固因子IXまたは血漿トロンボプラスチン成分を意味する。
【0021】
本明細書において使用される“標的化凝固因子”なる用語は、血球上の膜タンパク質に特異的に結合する少なくとも1つのドメインと結合する凝固因子を示す。標的化凝固因子は、例えば、結合最大半量<10nMにて、血球に強く結合する。結合は、例えば、標的化細胞上で選択的に発現される膜タンパク質への結合を介して、標的化血球に特異的である。本明細書において使用される“ドメイン”または“標的ドメイン”は、標的細胞上の膜タンパク質に対して高親和性を有する部分を示す。本発明のために適当なドメインは、限定はしないが、血球の表面上の膜タンパク質に対して高い親和性を有する抗体、抗体フラグメント、例えば、一本鎖抗体(svFv)またはFABフラグメント、抗体模擬物およびペプチドまたは小分子を含む。1つの局面において、一本鎖抗体フラグメントまたはペプチドのコード配列をFVIIIコード配列と結合させて、組換え技術を使用して融合タンパク質を生産することができるため、一本鎖抗体フラグメントまたはペプチドが使用される。
【0022】
凝固因子は、化学的に、または融合タンパク質の組換え発現によりドメインと結合させることができる。化学結合は、凝固因子および標的ドメイン上に存在する化学部分に互いに結合することにより達成することができ、アミノ、カルボキシル、スルフヒドリル、ヒドロキシル基および炭水化物基のような部分を使用する化学結合を含む。種々のホモおよびヘテロ−二重機能性リンカーは、これらの部分に結合するために連結されるように活性化されるか、または活性化され得る基を有するものを使用することができる。リンカー分子におけるいくつかの有用な反応基は、マレイミド、N−ヒドロキシ−スクシン酸エステルおよびヒドラジドを含む。異なる化学組成物および長さの多数の異なるスペーサーがこれらの反応基を分離するために使用することができ、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、脂肪族基、アルキレン基、シクロアルキレン基、融合もしくは結合アリール基、長さで1から20アミノ酸もしくはアミノ酸アナログのペプチドおよび/またはペプチジル模擬物を含む。例えば、ドメインは、インビボにて凝固因子の機能性形態が標的化ドメインから放出されるか、または放出が体内における凝固因子の生物学的活性部位にて、または付近にて起こるように、凝固因子と結合され得る。
【0023】
したがって、本発明の1つの態様において、凝固因子を血球へ標的化するためのドメインと凝固因子の結合が、開裂または分解され、それにより凝固因子を複合体から放出することができる標的化凝固因子を提供する。
【0024】
複合体形態から(すなわち、標的化凝固因子から)の凝固因子の放出は、活性化プロセス中に除去される凝固因子上の部位に標的ドメインを結合することにより、または血液中の酵素による制御様式において分解するリンカーを使用することにより達成することができる。例えば、一般的な血液プロテアーゼまたはヒドラーゼに感受性である糖ポリマーまたはペプチドを使用することができる。種々のこのような技術は当分野で既知であり、プロドラッグを製造するために使用されている。リンカーは、凝固因子が非常に必要とされる部位、例えば、炎症または外傷により誘導される血液凝固の部位にて特異的に開裂されるようにさらに加工することができる。例えば、リンカーは、所望の作用部位のみで生産される特定のプロテアーゼ、例えば、炎症プロセスにより放出されるか、または血液凝固カスケードにより生産されるプロテアーゼに感受性であってよい。治療タンパク質のこの選択的放出は、副作用の可能性を低下させ、作用部位でのタンパク質の効率を増加させ得る。
【0025】
血球上の種々の膜タンパク質を本発明の標的とすることができる。凝固因子が血球に特異的かつ効率的に標的化するが、しかしながら、標的化膜タンパク質が血球表面上に豊富に存在することが好ましい。例えば、糖タンパク質GPIIb/IIIaは、血小板表面上で非常に豊富に発現される分子の1つであることが見出される。
【0026】
したがって、1つの態様において、凝固因子は、血小板膜タンパク質、例えば、糖タンパク質GPIIb/IIIaに特異的に結合するドメインを介して血小板へ標的化される。凝固因子をGPIIb/IIIaへ標的化するためのこのようなドメインの例は、限定はしないが、RGD含有ペプチドおよび模擬物(直鎖ペプチド、ヘビの毒のペプチドおよび環状ペプチド)、例えば、RGD模擬物配列、ホモアルギニン、グリシンアスパラギン酸を含むインテグリリン9)、非ペプチドRGD模擬物および抗−GPIIb/IIIa抗体を含む。抗体が標的ドメインとして使用されるとき、抗体の一本鎖フラグメント、例えば、svFvまたはFABフラグメントを使用することができる。
【0027】
FVIIIおよびFIXの標的化
FVIIIおよびFIXの血球、例えば、血小板または赤血球の表面への標的化は、これらの凝固因子のクリアランスを遅くするために役立ち得る。FVIIIの血小板の表面への標的化は特に興味深い。FVIIIはFXのFIX介在活性化における重要な補因子であり、これは凝固部位にて蓄積する活性化血小板の表面上で大部分が起こる。血小板の活性化は、その表面へのこれらの凝固因子の結合を引き起こし、FXa産生を促進する複合体を形成する。血小板は約9日間の平均循環寿命を有する。対照的に、血漿中のFVIII(大部分はフォン・ヴィレブランド因子に結合している)は約14時間の半減期を示す。したがって、FVIIIの血小板への結合は、分子の循環時間を大きく延長させる可能性を有する。FVIIIの本発明の標的ドメインを介する血小板の表面への標的化は、FVIII作用の効率を増加させ、FVIIIの半減期を延長すると予測される。
【0028】
GPIIb/IIIaに加えて、血小板上の他のタンパク質、例えば、GP1aおよびアネキシンVは標的化FVIIIに対する受容体として役立つ。血小板表面上で非常に豊富に発現される分子の1つであるため、糖タンパク質GPIIb/IIIaが好ましい。GPIIb/IIIaの血中濃度は、血小板上の表面密度に基づいて約75nMであると概算される。これは、FVIIIの治療適用後に達成されるFVIIIの最大濃度(Cmax約0.7nM)の100倍を越えることを示す。したがって、FVIIIの血小板への標的化は、血小板上の利用できるGPIIb/IIIa部位の約1%以下を占有する。ブロックするためにはGPIIb/IIIa分子の大部分(すなわち、>50−60%)を必要とするため、この低い占有レベルは血小板機能を変化させることは予期されない。また、高い濃度のGPIIb/IIIaは、標的化FVIIIと血小板表面との平衡的結合をもたらす。
【0029】
決して本発明を限定することなく、FVIIIのGPIIb/IIIaへの標的化は、また、凝固因子の一部がエンドサイトーシスを介して取り込まれ、血小板の開放小管系を介してGPIIb/IIIaが再利用され得るという利点を有し得ると考えられる。このFVIIIは、アルファ顆粒になり、血小板活性化時に再放出され、凝固のために必要なときFVIIIの源を提供することができる。血小板へ標的化された結合または内在化FVIIIは、多数の患者において存在するインヒビター(例えば、FVIII抗体)から保護され得る。したがって、標的化FVIIIはこの重要な群の患者に対する処置の選択肢を提供し得る。
【0030】
凝固を促進するための標的化FVIIIに関して、分子は機能性形態(FVIIIa)に処理され得て、そのGPIIb/IIIa結合部位から放出されるはずである。1つの態様において、これはGPIIb/IIIa標的ドメインをFVIIIのBドメインへ結合することにより達成される。Bドメインは、凝血促進環境下でトロンビンまたはFXa介在タンパク質分解により除去され、成熟FVIIIa分子を生産する。したがって、活性化時に、FVIIIaはGPIIb/IIIaから放出され、FX活性化複合体の形成に使用可能である。
【0031】
FVIIIおよび標的ドメインの結合は、本明細書に記載されている架橋様式を使用して、アミノ、スルフヒドリル、カルボキシル基およびカルボニル基を含むFVIII上の反応基に標的ドメインを共有結合することにより達成することができる。標的ドメインは、また、FVIII分子のBドメイン上に大抵は存在する炭水化物に結合することができる。例えば、過ヨウ素酸塩でのFVIIIの穏やかな酸化によって炭水化物鎖上にアルデヒドを生じさせ、次にこれをアミンまたはヒドラジドと反応することができ、後に所望により還元することによって、より安定な結合を形成させることができる。
【0032】
遊離システインは、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)での穏やかな還元を介して組換えFVIIIのBドメイン上に選択的に生産され、遊離システインと反応する標的ドメイン、例えば、チオール、トリフラート、トレシラート、アジリジン、オキシラン、S−ピリジルまたはマレイミド部分を含むドメインとBドメインの特異的結合を可能にすることができる。さらに、FVIIIは、標的ドメインへの結合のための特定の位置を提供するために、アミノ酸残基をシステインで置き換える修飾をすることができる。Bドメイン欠失FVIIIが使用されるとき、Bドメイン欠失FVIIIの種々のシステイン変異タンパク質、例えば、WO2006/053299に記載されているものは、表面システイン残基での化学結合を介してFVIIIを標的ドメインと結合するために使用することができる。アミノ酸残基をシステインで置換して修飾され得るアミノ酸残基の例は、81、129、377、378、468、487、491、504、556、570、1648、1795、1796、1803、1804、1808、1810、1864、1911、2091、2118および2284番を含むが、これらに限定されない(このアミノ酸残基は全長FVIIIの配列における位置により示している)。
【0033】
凝固因子は、また、組換え技術を使用して標的ドメインに結合させてもよい。宿主細胞はFVIIIおよび標的ドメインの融合タンパク質を含むベクターをトランスフェクトされ得る。1つの態様において、標的ドメインはFVIIIのBドメインに挿入されていてよく、全長分子からBドメインを欠失させるBドメインの生物学的プロセシングを可能とするように、Bドメインのほんの一部をカルボキシおよびアミノ末端で残して、Bドメインの大部分は欠失させる。図1において説明されているとおり、生理学的条件下でBドメインの生物学的プロセシングおよび除去が可能であるBドメインの残す部分は特定されている。
【0034】
宿主細胞系は、凝固因子を生産するために有用な当業者に既知のあらゆる細胞、例えば、限定はしないが、FVIII CHO細胞、HEK細胞、BHK細胞およびHKB11細胞(ヒト胎児腎臓細胞系、HEK293およびヒトBurkitt B細胞リンパ腫系、2B8のハイブリッド)であり得る。
【0035】
多くのドメインは、化学的にFVIIIに結合するか、または組換え的にFVIIIと共に発現し、FVIIIが血小板の表面上のGPIIb/IIIaに標的化することができる。このようなドメインの例は、GPIIb/IIIaに対する抗体、RGDペプチド、ペプチド模擬物またはGPIIb/IIIaを標的とする小分子模擬物を含むが、これらに限定されない。抗体、例えば、GPIIb/IIIaを標的とする一本鎖抗体(svFv)またはFABフラグメントが標的ドメインとして特に有用である。
【0036】
FVIII機能の喪失無しにFVIIIのBドメインを除去することができることが示されている。さらに、また、他のタンパク質ドメインを有する種々のBドメイン切断型のFVIIIおよびBドメイン融合によって機能的に活性なFVIIIを得ることができることが示されている。1つの局面において、本発明は、活性なFVIIIを得るための分子の通常のプロセシングをブロックすることなく、FVIIIのBドメインに挿入、置換または部分的に置換されるように加工され得る標的ドメインを含む。例えば、組換えDNA技術を使用して、FVIII分子は一本鎖抗体フラグメントをFVIIIのBドメインのC−末端に融合させることにより生産することができる。また、svFvフラグメントが、FVIIIの全てのまたは一部のBドメインを置き換えるために使用することができる。これは、インフレームにおいてsvFvフラグメントをコードするDNA配列をBドメインコード配列の後へ挿入すること、またはBドメインコード配列の一部または全部を置換することを介して達成することができる。この戦略は、FVIIIの通常のタンパク質分解活性化のために必要とされるトロンビン切断部位を保存する。血小板へ効率的に局在するGPIIb/IIIaに対する種々の抗体は知られている(例えば、Schwarz, et al., Circ. Res. 99(1):25-33, 2006; Jacobin, et al., Clin. Immunol. 108(3):199-210, 2003; Christopoulos, et al., Blood Coagul. Fibrinolysis 4(5):729-37, 1993;およびChung, et al., FASEB J. 18(2):361-363, 2004、参照)。
【0037】
同様に、多くのペプチドがGPIIb/IIIaに対する高い結合親和性を有することが述べられているため、RGDまたはRGD模擬物含有ペプチドもFVIIIを標的化するために有用なリガンドである。これらは直鎖ペプチド、ヘビの毒のペプチドおよび環状ペプチドを含む。非ペプチドRGD模擬物も使用することができる。抗体フラグメントと同様に、RGDペプチドはFVIIIと化学的に結合することができる。あるいは、RGD配列は、Bドメインコード配列に挿入するか、または、全体または部分的に、FVIIIのBドメインコード配列を置き換えるために使用して、組換えDNA技術を使用して発現させることができる。
【0038】
標的化FIXは同様の方法を使用して製造することができる。例えば、標的ドメインは、FIXaへのFIXの活性化においてタンパク質分解的に除去されるFIX分子の活性化ドメイン(選択の好みに依存してアミノ酸残基191−226または145−180、すなわち、+/−シグナル配列)に結合させることができる。ドメインは、架橋剤を使用してアミノ酸側鎖基、例えば、活性化ドメインにおけるスルフヒドリル、アミンおよびカルボキシル基と反応させて化学的に結合させるか、またはFVIIIに対して上記されているとおりに炭水化物鎖を介して結合させることができる。また、融合分子は、標的ドメインのアミノ酸配列をFIX活性化ペプチドに挿入する組換え技術を使用するか、または活性化ペプチド配列の一部を置き換えて製造することができる。挿入される標的ドメイン配列は、一本鎖抗体または他の血小板結合ペプチド配列、例えば、RGD結合ペプチドをコードする。
【0039】
医薬組成物および使用
本発明は、また、治療有効量の本発明の標的化凝固因子および薬学的に許容される賦形剤または担体を含む医薬組成物に関する。“薬学的に許容される賦形剤または担体”は、製剤化を助けるか、または製造物を安定化させるために活性成分に加えられ得、患者に有意な毒性有害事象を引き起こさない物質である。このような賦形剤または担体の例は、当業者に知られており、水、糖、例えば、マルトースまたはスクロース、アルブミン、塩などを含む。他の賦形剤または担体は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences (Mack Publishing Co., Easton, Pa., 20th edition, 2000)に記載されている。このような組成物は、必要とする患者への有効な投与のために適当な薬学的に許容される組成物を製造するために、有効量の標的化凝固因子を適当な量の賦形剤または担体と共に含む。
【0040】
例えば、複合体は出血症状の重症度で変化し得る用量で血友病Aに罹患している対象に非経腸的に投与され得る。静脈内に投与される平均用量は、術前の適応に対してキログラムあたり40単位、軽度の出血に対してキログラムあたり15から20単位、および8時間にわたる持続投与に対してキログラムあたり20から40単位の範囲である。
【0041】
1つの態様において、本発明は、治療有効量の前記標的化凝固因子を必要とする患者に投与することを含む血液病を処置するための方法に関する。
【0042】
本明細書において使用される“治療有効量”は、血流または標的組織における所望のレベルの標的化因子(または標的化形態から放出される対応する非結合因子)を提供するために必要とされる標的化凝固因子の量を意味する。正確な量は、限定はしないが、治療組成物の成分および物理的特性、意図される患者集団、個々の患者の判断などを含む多数の因子に依存し、当業者により容易に決定することができる。
【0043】
本明細書において使用される、“患者”は医療および/または処置を受けるヒトまたは動物個体を示す。
【0044】
本明細書に記載されているポリペプチド、原料、組成物および方法は本発明の代表的な例であることを意図し、本発明の範囲が実施例の範囲に限定されないと理解する。本発明が記載されているポリペプチド、原料、組成物および方法を変化させて実施され得ることが当業者は理解でき、このような変化させたものは本発明の範囲内と見なされる。
【0045】
以下の実施例は本明細書に記載されている本発明を説明するために存在するが、多少なりとも本発明の範囲を限定するように解釈してはならない。
【実施例】
【0046】
実施例
本発明をより理解するために、以下の実施例を記載する。これらの実施例は説明の目的のみであり、どのような形であれ本発明の範囲を限定すると解釈すべきでない。本明細書に記載されているすべての文献は出典明示によりそれら全体を包含させる。
【0047】
実施例1:GPIIb/IIIa結合に対する高親和性を有する修飾されたRGDペプチド
環状ペプチドは、GPIIb/IIIaに強力にかつ選択的に結合することが述べられている。インテグリリンがGPIIb/IIIaへ選択的に結合することができることが示されているため、このようなペプチドの1つであるインテグリリンをFVIIIと結合するための標的ドメインとして使用した。インテグリリンは、短いPEGリンカーを加えることにより修飾され、タンパク質中の遊離システイン残基へ選択的に結合することができるマレイミド部分となった。修飾されたインテグリリンは、リンカーのみを有するものをBHRF−1(図2A)ならびにリンカーおよびフルオレセイン(FITC)を有するものをBHRF−3(図2B)と称する。図3に示されるとおり、固定化されたGPIIa/IIIbへのフィブリノーゲン(Fbn)結合を強くブロックしたため、修飾されたインテグリリンは、GPIIb/IIIaに対する親和性を維持している。
【0048】
GPIIb−IIIaへのペプチド結合を、試験化合物によるフィブリノーゲン結合の競合を測定する固相結合アッセイを使用して測定した。該アッセイは以下のように行った。精製されたGPIIb−IIIa(Innovative Research, Novi, MI)で、バッファーA(20mMのトリス pH7.5、0.15MのNaClならびにそれぞれ1mMのMgCl、CaClおよびMnCl)で希釈された0.mL/ウェル×2μg/mLにて、96ウェルImmulon−Bプレートを被覆した。4℃で一晩インキュベーション後、プレートを、バッファーB(50mMのトリス pH7.5、0.1MのNaClならびにそれぞれ1mMのMgCl、CaClおよびMnCl)中3.5%のBSAにて1時間30℃でブロックした。バッファーBで3回洗浄後、希釈されたペプチドまたはタンパク質溶液を0.1%のBSA/バッファーB中の3.5nMのビオチン化フィブリノーゲンと混合し、ウェルに加え、30℃で2時間インキュベートした。洗浄(3回、バッファーB)後、1:4000のストレプトアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を1時間30℃で加えた(Pierce Chemical Co., Rockford, IL)。最後の洗浄工程(3回、バッファーB)後、プレートをUltra TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)(Pierce Chemical Co., Rockford, IL)で5分展開し、同量の2Mの硫酸で停止した。プレート吸光度を450nmで読み、IC50値を4−パラメーターロジスティックフィットを使用して決定した。
【0049】
次に、修飾されたインテグリリンペプチド(BHRF1)をFVIIIのBドメインに位置するシステイン(Cys)残基を介してFVIIIと結合させる。
【0050】
実施例2:FVIIIへのGPIIb/IIIa結合ペプチドの結合
全長FVIIIのポリペプチド配列は当分野で知られている(例えば、配列番号:1、配列番号:2およびWO2006/053299に記載されているもの、参照)。
【0051】
FVIIIの濃縮および遊離スルフヒドリル基の脱離
組換えFVIIIのBドメインに位置するCys残基は、タンパク質発現中の培地において存在するシステインにより覆われているが、以下のとおり還元剤、例えば、TCEPでの処理により容易に除去することができる。FVIII(20mL)を解凍し、2つのAmicon(登録商標)−15カートリッジ(Millipore, Billerica, MA)で濃縮し、低温下で25分2000×g(約3153rpm)で回転させた。2.8mLの副産物の濃度は、NanoDrop(登録商標)分光光度計(ThermoFisher Scientific, Waltham, MA)を使用してA280により約0.8−0.9mg/mLである。次にバッファーを10mLのZeba desaltingカートリッジを使用して交換し、50mMのトリス、150mMのNaCl、2.5mMのCaClおよび100ppmのTween(登録商標)−80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)であらかじめ平衡にした。0.88mg/mLの濃度で2.8mLのタンパク質溶液を得た。次にTCEPを最終濃度0.68mMに加え、混合物を4℃で約3時間穏やかに回転させた。TCEPを2連続Zebaカートリッジスピンにより除去し、FVIIIを再酸化のために少なくとも30分放置し、ペプチドを加えた。TCEPの除去後、FVIII濃度は0.768mg/mLと測定された(“KG−R”)。
【0052】
RGD標的ペプチドの結合
修飾されたインテグリリンペプチドBHRF−1をFVIIIへ結合させるために、0.294mgのペプチド(M.W.1225)を48μLの乾燥ジメチルスルホキシド(DMSO)に加え、5mMの貯蔵溶液を製造した。次にこの貯蔵溶液(34.4μL)を2.8mLのKG−Rに加えた。80分後に反応を等モル量のシステインの添加によりクエンチした。次に反応混合物を開始Trisバッファー(2リットル)に対して大規模に透析した。BHRF−1−FVIIIの最終濃度は0.74mg/mLであり、そして収量は2mgであった。同様の方法をBHRF−3−FVIIIを製造するために使用した。
【0053】
図3に示されるとおり、修飾されたインテグリリンペプチドBHRF−1およびBHRF−3は、固定化されたGPIIa/IIIbへのフィブリノーゲン(Fbn)結合を強力にブロックするため、GPIIb/IIIaに対する親和性を維持している。BHRF−1へ結合したFVIII(FVIII−BHRF−1)は、固定されたGPIIb/IIIaへのフィブリノーゲン結合の阻害に対して高力価を示した(IC50=0.043+/−0.05nM(N=3))。これは親BHRF−1ペプチドよりもさらに強力であった。結果を表1に示す。
表1
【表1】

【0054】
Bドメイン欠失FVIIIへのRGD標的ペプチドの結合
Bドメイン欠失FVIII(“BDD”)を結合するために使用するとき、WO2006/053299に記載されているBドメイン欠失FVIIIの種々のCys変異タンパク質を、標的ドメイン、例えば、本明細書に記載されている修飾されたRGDペプチドへBDDを結合するために使用することができる。
【0055】
実施例3:BHRF−1−FVIIIは固定化されたGPIIb/IIIaに結合する
BHRF−1−FVIIIのGPIIb/IIIaへの結合活性を試験するために、ビオチン化GPIIb/IIIaをストレプトアビジンプレート上に固定し、結合バッファー(50mMのトリス、pH7.5、100mMのNaCl、1mMのCaCl、1mMのMgCl、1mMのMnClおよび1mg/mLのBSA)中でBHRF−1−FVIIIまたは非修飾FVIIIのいずれかと処理した。非結合タンパク質を結合バッファーで3回洗浄することにより除去した。アッセイバッファー(25μL)をプレートに加え、FVIII活性を発色アッセイキット(Coatest(登録商標) SP4, Chromogenix, Lexington, MA)を使用して測定した。図4に示されるとおり、BHRF−1−FVIIIの結合が存在するが、ほんの少しの非修飾FVIIIの結合が検出された。BHRF−1−FVIIIの結合の増加は、GPIIb/IIIaへのBHRF−1結合に対して競合する環状RGDペプチド(GpenGRGDSPCA;配列番号:5)の添加により完全に除去された。さらに、GPIIb/IIIaがプレート上に固定化されていないとき、非常に低いバックグラウンドレベルのタンパク質が結合した。これらのデータは、BHRF−1−FVIIIがペプチド標的ドメインを介してGPIII/IIIIaへ標的化され得ることを示す。
【0056】
非結合FVIIIをBHRF1−FVIIIの製造物から除去しなかったため、試験を行い、存在する非結合FVIIIの量を測定した。BHRF1−FVIII活性を過剰レベルの固定化されたGPIIb/IIIaを含むビーズを使用して枯渇させた。約80%のBHFR1−FVIIIの活性を枯渇させることができ、製造物における約20%のFVIII活性は非結合FVIII由来であることを示す。
【0057】
実施例4:BHRF−1−FVIIIおよびFVIIIでのインビトロ全血凝固活性アッセイ
止血活性におけるBHRF−1−FVIIIの血小板結合の効果を評価するため、その活性をLandskroner, et al., (Haemophilia 11:346-352, 2005)に記載されている全血凝固線溶分析装置(ROTEM(登録商標)、Pentapharm GmbH)システムを使用して非結合FVIIIの活性と比較した。凝固活性の測定、例えば、Coatest(登録商標)発色アッセイまたは活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)アッセイとは異なって、ROTEM(登録商標)アッセイは血小板の機能に依存し、したがって、血小板へのBHRF−1−FVIII結合の効果を示すことができる。アッセイを行うために、血友病Aマウスのクエン酸全血を室温で等量のBHRF−1−FVIII(1mIU)または非結合FVIII(Coatest(登録商標)発色アッセイに基づく)と混合した。自動ピペットにて300μLの処理血液を20μLのCaCl(200mmol)を有し、外因性アクチベーター(NATEM)を有さないROTEM(登録商標)カップへ分配することにより、サンプルを再石灰化した。測定を最後のピペッティング後即座に開始し、血液凝固形成を37℃で2時間(7200秒)連続的にモニタリングした。
【0058】
止血に関するROTEM(登録商標)分析パラメーターは、凝固時間(CT)、測定の開始後に2mmの凝固堅固を得るために必要である時間、凝固形成時間(CFT)、2mmの凝固堅固から20mmの凝固強度までの時間、およびα角度、凝固形成の速度を含む。
【0059】
図5に示されるとおり、BHRF−1−FVIIIは、ROTEM(登録商標)アッセイにおいて等量(発色アッセイに基づいて)の非結合FVIIIよりも凝固に必要な時間が少なく、凝固の効率が高いことを示した。CTの違いは約400秒であり、これはFVIII標準曲線に基づいて約2−3倍のFVIII活性に相当する。
【0060】
標的化凝固因子の止血活性および薬物動態パラメーターは、血友病Aマウスモデルを使用してインビボで評価することができる。標的化凝固因子は尾静脈内注射により投与することができる。処置後複数の時点で、血液を%のクエン酸ナトリウム中に回収し、マウスにおけるFVIIIの>6の半減期(t1/2)に相当する注入後48時間にわたって、止血活性をROTEMを使用して測定する。
【0061】
実施例5:ヒトおよびマウス血小板へのインビトロ結合アッセイ
FVIII−BHRF−1のヒト血小板への結合
ヒト血小板は、5×10の血小板/チューブで14mLの血漿でAllcells(Emeryville, CA)から得た。血小板およびすべての洗浄液、バッファー、試薬および遠心機を室温に温め、実験工程中、室温で維持した。血小板のための洗浄バッファー(WB)は、20mMのHEPES、0.5%のBSAおよび50ng/mLのPGE1および2.5U/mLのアピラーゼ、pH7.4を補ったTyrodeのバッファーである。
【0062】
細胞を700×gで15分25℃で遠心し、次に上清を注意深く除去し、14mLのWBを加えた。細胞を穏やかにWBに再懸濁し、記載のとおりに遠心した。
【0063】
第2の遠心分離後、上清を除去し、血小板を15mLのWBに再懸濁した。その時に、細胞をそれぞれ5mLの3つの等量のアリコートに分けた。3つのアリコートを前記のように遠心し、次に3つの血小板ペレットを下記のいずれかで再懸濁した:
A.5mLの結合バッファー+5mg/mLのBSA(BBB、50mMのトリス、100mMのNaCl、それぞれ1mMのCaCl、MgClおよびMnCl
B.FVIIIを欠いているがvWFは存在する5mLのHemA血漿
C.FVIIIおよびvWFの両方を欠いている5mLの免疫喪失血漿。
【0064】
バッファー(A)または血漿(BまたはC)に関して、以下の条件を使用した:
1.バッファー/血漿のみ+2.5nMのBHRF−1−FVIII(約20%の非結合FVIII(実施例3、参照)を含む)
2.バッファー/血漿+血小板+2.5nMのBHRF−1−FVIII(約20%の非結合FVIIIを含む)
3.バッファー/血漿のみ+2.5nMの組換えFVIII
4.バッファー/血漿+血小板+2.5nMの組換えFVIII。
【0065】
それぞれの条件1−4に関して、100μLのA、BまたはCを室温でマイクロチューブにピペットで移し、次にBHRF−1−FVIIIまたは非結合FVIIIをチューブに加えた。チューブを37℃で1.5時間(振とうなしで)インキュベートした。インキュベーション後、チューブを最高速度(16,000rpm)で5分遠心し、血小板をペレット化した。上清を回収し、FVIII活性をアッセイした。上清中の活性量は非結合FVIIIまたはBHRF−1−FVIIIの量を反映する。データはすべての状態におけるBHRF1−FVIIIのヒト血小板への結合を証明する(図6に示されている)。BHRF−1−FVIIIが条件AおよびCにおいて約20%の非結合FVIIIを含むため、データは、高い割合の複合体が結合していることを示す。FVIIIの結合は条件AおよびBにおいて観察されなかったが、35%のFVIII活性が条件Cにおいて結合した。図は、また、35%のFVIIIの非特異的結合に関して補正された条件Cに対して維持しているFVIII活性のレベルが、この条件において観察されたことを示す(すなわち、出発FVIII活性を、結合パーセントを計算するために35%引いた)。
【0066】
FVIII−BHRF−1のマウス血小板への結合
BHRF−1−FVIIIは、また、図7に示されるとおりマウス血小板へ結合した。同様の結合アッセイを、血小板リッチ血漿(PRP)を回収するためにマウスクエン酸血を200×gで15分遠心することを除いて、ヒト血小板に記載されたとおりに実施した。PRPをクエン酸洗浄バッファー(11mMのグルコース、128mMのNaCl、4.3mMのNaHPO、7.5mMのNaHPO、4.8mMのクエン酸Na、2.4mMのクエン酸、0.35%のBSA、pH6.5)+50ng/mLのPGE1で希釈し、クエン酸洗浄バッファー+50ng/mLのPGE1で2回洗浄した(1200×gで10分遠心することにより)。最後に血小板を結合バッファー(50mMのトリス、100mMのNaCl、それぞれ1mMのCaCl、MgClおよびMnCl)+5mg/mLのBSAに再懸濁した。非結合FVIIIおよびBHRF−1−FVIIIを血小板に加え、37℃で2時間後、血小板を遠心分離により回収し、上清における非結合FVIII活性を測定した。
【0067】
図7に示されるとおり、59%の非結合FVIIIの活性にて血小板に結合した。BHRF−1ペプチドを介する血小板への添加BHRF−1−FVIII活性結合のパーセントを計算するために、FVIIIの非特異的結合(ペプチドを介して起こらない)のレベルを反映するために、出発FVIII活性の量を59%によって補正した。BHRF−1−FVIIIに関する補正値は31%非結合であった(69%結合)。100uMのインテグリリンをペプチド結合を完了するために加えたとき、非結合活性は82%非結合に上がった(18%結合)(非特異的FVIII結合に関しても補正した)。これらのデータは、BHRF−1−FVIIIがBHRF−1標的ドメインを介してマウス血小板に結合し得ることを証明する。
【0068】
実施例6:薬物動態学的試験
血漿中の細胞(例えば、血小板)への結合におけるFVIII活性を反映する血友病Aマウスへの注射後の種々の時間での血液中のFVIIIのレベルを、全血凝固アッセイ、例えば、上記のROTEM(登録商標)を使用して測定する。
【0069】
実施例7:FVIII活性の評価のための発色アッセイ
精製されたタンパク質および複合体のFVIII活性をCoatest(登録商標)SPアッセイキット(Chromogenix, Lexington, MA)を使用して評価した。アッセイを、96−ウェルプレートフォーマットにおいて製造業者の指示にしたがって行った。簡潔には、FVIIIまたは複合体を含む希釈されたサンプルを、活性化FIX/FX/リン脂質の混合物、次に25mMのCaCl、発色基質S−2765/I−2581の順に混合した。それぞれの試薬添加中、サンプルを37℃で5分インキュベートした。最後の発色基質の添加後、反応を5分後に20%の酢酸を停止させ、プレート吸光度を405nmで読み、490nmバックグラウンドに対して標準化した。サンプル吸光度を、0.3−40mIU/mLの動作範囲でWHO/NIBSCの血漿由来FVIII標準曲線に対して調節した。
【0070】
実施例8:血友病マウスにおけるインビボ有効性アッセイ
血液凝固の促進における標的化FVIII分子の有効性を示すため、およびこれらの作用期間を評価するために、血友病(HemA)マウスの尾クリップ損傷または尾静脈切断モデルを下記のとおりに使用することができる。
【0071】
尾クリップ損傷モデル
試験サンプルを尾静脈注射を介したマウスに投与する。投与後、マウスをケタミン/キシラジン(100mg/kg、10mg/kg)にて腹腔内(IP)で麻酔する。動物を完全に麻酔後、尾を個々に13mLの37℃にあらかじめ温められた塩水中に約10分置く。尾カットを鋭利なメスにて行い、尾を9mLの37℃の温塩水を有する新しいチューブに即座に入れる。血液を30分間連続的に回収する。出血量を血液回収チューブの重量により、または血液回収チューブ中の血液/塩水混合物の光学濃度により測定する。
【0072】
尾静脈切断
HemAオスマウスを、それらの体重によって異なる処置グループにランダム化する。尾静脈の取り扱いの24時間前に、マウスに尾静脈注射によって投与する。尾静脈切断の前に、マウスを50μg/kgのケタミンおよび1mg/kgのメデトミジンを含む混合物にて麻酔する(IP)。尾にフレンチカテーテルを使用して直径2.7mMで印を付ける。メデトミジンの麻酔効果はIP注射による1mg/kgのアチパメゾールにて逆転される。尾静脈をメスの刃で切断する。次に尾を37℃の塩水チューブに入れ、血液を傷口から洗い流すためにチューブを回転させる。塩水が視覚化するためにあまりにも不透明になったとき、尾の出血が停止するまで新しいチューブと置き換える。出血が停止するためにかかる時間を急性凝固時間として記録する。次にマウスを4×8インチの湿布上に置かれた白色の紙寝具を備えた個々の透明なケージに戻す。再出血および瀕死の時間を、後の9−11時間を1時間毎に過剰血液喪失に関してモニタリングする。
【0073】
実施例9:標的化FVIIIの組換え発現
1つの態様において、HKB11細胞を、5%COインキュベーター中で37℃でタンパク質フリー培地中でオービタルシェーカー(100−125rpm)上で懸濁液培地中にて培養し、0.25から1.5×10細胞/mL密度で維持する。トランスフェクションのためのHKB11細胞を遠心分離により回収し、次に発現培地、例えば、FreeStyleTM293発現培地(Invitrogen, Carlsbad, CA)中で1.1×10細胞/mLで再懸濁した。細胞を6−ウェルプレート(4.6mL/ウェル)に播種し、37℃のCOインキュベーター中でオービタルローター(125rpm)上でインキュベートする。それぞれのウェルにおいて、5μgのプラスミドDNAを0.2mLのOpti−MEM(登録商標)I培地(Invitrogen, Carlsbad, CA)と混合する。それぞれのウェルにおいて、7μLの293fectinTM試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を0.2mLのOpti−MEM(登録商標)I培地と穏やかに混合し、室温で5分インキュベートする。希釈した293fectinTMを希釈したDNA溶液に加え、穏やかに混合し、室温で20−30分インキュベートし、次に5×10(4.6mL)のHKB11細胞で播種されたそれぞれのウェルに加える。次に細胞をCOインキュベーター中で37℃で3日間オービタルローター(125rpm)上でインキュベートし、その後に細胞を1000rpmで5分遠心分離によりペレット状にし、上清を回収する。
【0074】
HKB11細胞の安定なトランスフェクションを以下の方法を使用して得る。HKB11細胞に一過性トランスフェクションに記載されている293fectinTM試薬を使用してプラスミドDNAをトランスフェクトする。トランスフェクト細胞を種々の希釈(1:100、1:1000、1;10,000)で100mmの培養皿に分配し、5%のFBSおよび200ug/mLのハイグロマイシン(Invitrogen, Carlsbad, CA)を補ったDMEM−F12培地中で約2週間維持する。個々の単一コロニーを採取し、滅菌クローニングディスク(Scienceware(登録商標)、Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)を使用して6ウェルプレートへ移した。クローンを確立し、預ける。これらのクローンを、FVIII活性アッセイ(例えば、Coatest(登録商標)およびaPTTアッセイ)により、ならびにFVIII ELISAにより、高い発現の融合タンパク質をスクリーニングする。
【0075】
培養上清および精製画分における第VIII因子の活性レベルは、上記96ウェルフォーマットにおいて市販の発色アッセイキット(Coatest(登録商標) SP4 FVIII、Chromogenix, Lexington, MA)を使用して測定され得る。第VIII因子の凝固活性は、また、Electra(登録商標)1800C自動凝固分析器(Beckman Coulter, Fullerton, CA)によるFVIII欠失ヒト血漿におけるaPTTアッセイを使用して測定され得る。簡潔には、凝固希釈液中の上清サンプルの3つの希釈物を器具により製造し、次に100μLを100μLのFVIII欠失血漿および100μLの自動aPTT試薬(ウサギ脳のリン脂質および微粉化シリカ、Biomerieux, Durham, NC)と混合する。100μLの25mMのCaCl溶液の添加後、凝固形成の時間を記録する。標準曲線を同じ精製FVIIIの連続希釈物を使用してそれぞれの時間に対して作成し、ELISAアッセイにおける標準として使用する。
【0076】
本発明が特定の態様および実施例と関連して記載されているが、種々の修飾および変化が作成され得て、均等は本発明の精神および範囲から逸脱することなく置き換えられ得ると理解すべきである。したがって、明細書および実施例は、限定的意味というよりはむしろ説明と考えるべきである。さらに、本明細書に挙げられている全ての文献、特許出願および特許はそれら全体を出典明示により本明細書に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血球上の膜タンパク質に特異的に結合する少なくとも1つのドメインと結合している凝固因子を含む標的化凝固因子。
【請求項2】
凝固因子が機能性FVIIIポリペプチドまたはFIXである、請求項1に記載の標的化凝固因子。
【請求項3】
ドメインが抗体フラグメント、ペプチド、ペプチド模擬物または小分子である、請求項1に記載の標的化凝固因子。
【請求項4】
血球が血小板であり、膜タンパク質がGPIIb/IIIaである、請求項1に記載の標的化凝固因子。
【請求項5】
凝固因子が機能性FVIIIポリペプチドである、請求項4に記載の標的化凝固因子。
【請求項6】
ドメインが抗GPIIb/IIIa抗体のRGDペプチドまたは一本鎖フラグメントである、請求項4に記載の標的化凝固因子。
【請求項7】
凝固因子が機能性FVIIIポリペプチドであり、ドメインがFVIIIのBドメインに結合している抗体フラグメント、ペプチド、ペプチド模擬物または小分子である、請求項1に記載の標的化凝固因子。
【請求項8】
血球が血小板であり、ドメインが抗GPIIb/IIIa抗体のRGDペプチドまたは一本鎖フラグメントである、請求項7に記載の標的化凝固因子。
【請求項9】
治療有効量の請求項1に記載の標的化凝固因子および薬学的に許容される賦形剤または担体を含む医薬組成物。
【請求項10】
有効量の請求項1に記載の標的化凝固因子を必要とする患者に投与することを含む、血液病を処置するための方法。
【請求項11】
凝固因子が血球上の膜タンパク質に結合する少なくとも1つのドメインと結合することを含む、凝固因子を血球の表面に標的化するための方法。
【請求項12】
凝固因子が機能性FVIIIポリペプチドまたはFIXである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
血球が血小板または赤血球である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
ドメインが抗体フラグメント、ペプチド、ペプチド模擬物または小分子である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
血球が血小板であり、膜タンパク質がGPIIb/IIIaである、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
凝固因子が機能性FVIIIポリペプチドである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ドメインが抗GPIIb/IIIa抗体のRGDペプチドまたは一本鎖フラグメントである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
凝固因子がFVIIIであり、ドメインがFVIIIのBドメインに関連する抗体フラグメント、ペプチド、ペプチド模擬物または小分子である、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
血球が血小板であり、ドメインが抗GPIIb/IIIa抗体のRGDペプチドまたは一本鎖フラグメントである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
凝固因子がさらに血球の表面から放出される、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−520913(P2011−520913A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509738(P2011−509738)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2009/044148
【国際公開番号】WO2009/140598
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(503106111)バイエル・ヘルスケア・エルエルシー (154)
【Fターム(参考)】