説明

標的化合物の検出方法

【課題】洗いの作業を行うことなく、試料溶液中の標的化合物を簡便に且つ迅速に検出する検出方法を提供する。
【解決手段】平均粒子サイズ50nm以下の磁性体ナノ粒子コロイド溶液中に、標的化合物を含む被検液を注入し、該被検液中の標的化合物と前記磁性体ナノ粒子とを結合させて100nm以上のサイズを有する磁性体ナノ粒子結合体を形成させ、この磁性体ナノ粒子結合体を含む分散液を、少なくとも磁気抵抗(MR)素子及び永久磁石からなる磁気センサーに近接させて磁気抵抗の変化を測定することにより、前記磁性体ナノ粒子結合体のみを検出し、間接的に前記標的化合物を検出することを特徴とする標的化合物の検出方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体ナノ粒子を用いて標的化合物を検出する検出方法に関し、特に、標的化合物が結合した磁性体ナノ粒子と結合していない磁性体ナノ粒子が混在する混合溶液中の標的化合物が結合した磁性体ナノ粒子結合体のみを検出する検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微量の標的化合物を効率よく収集する手段として、数μm程度のサイズを有する磁性体微粒子を用いた手段が提案されている。市販品としてはポリスチレンビーズの粒子(粒子径数μm程度)中にフェライト微粒子が分散したダイナビーズがある。このような磁性体微粒子は外部磁場を使用することによって簡便に且つ効率よく集めることができるため、生体物質などの検出方法に精度よい検出手段として用いられている(例えば、特許文献1、2及び3、非特許文献1参照)。しかし、粒子径が大きいために磁石への応答性は良いが目的物質(標的化合物)の吸着量や分析感度は十分なものとは言えない。一方、粒子径を数十nm以下に小さくすると強磁性が超常磁性に変化するため磁石による分離が困難になるという問題点を有している。磁性体ナノ粒子を用いて標的化合物を効率よく分離する手段として、下限臨界溶液温度(LCST)や上限臨界溶液温度(UCST)を有する高分子を利用した熱刺激応答性磁性体ナノ粒子等が提案されている(例えば、特許文献4、5及び6参照)。
【0003】
【特許文献1】国際公開第00/05357号パンフレット
【特許文献2】特開平5−292971号公報
【特許文献3】特表2003−523185号公報
【特許文献4】国際公開第02/16571号パンフレット
【特許文献5】国際公開第02/16528号パンフレット
【特許文献6】特開2002−60436号公報
【非特許文献1】「バイオインダストリー(Bio Industry)」,2004年、第21巻,第8号,p.39-47
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記熱などの外部刺激応答性磁性体ナノ粒子を用いて標的化合物の検出を効率よく行うためには、磁性体ナノ粒子と結合した標的化合物を磁力によって一旦補足し、それ以外の試料を流して、磁性体ナノ粒子と結合した標識化合物のみを抽出するという、いわゆる「洗い」の作業が必須となっている。
従って、本発明の目的は、洗いの作業を行うことなく、試料溶液中の標的化合物を簡便に且つ迅速に検出する検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、磁気センサーを用いた電気的特性の変化に着目することによって、磁性体ナノ粒子を補足することなく、簡便にかつ効率よく、混合液中の標的化合物を検出できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明の標的化合物の検出方法は、平均粒子サイズ50nm以下の磁性体ナノ粒子コロイド溶液中に、標的化合物を含む被検液を注入し、該被検液中の標的化合物と前記磁性体ナノ粒子とを結合させて100nm以上のサイズを有する磁性体ナノ粒子結合体を形成させ、この磁性体ナノ粒子結合体を含む分散液を、少なくとも磁気抵抗(MR)素子及び永久磁石からなる磁気センサーに近接させて磁気抵抗の変化を測定することにより、前記磁性体ナノ粒子結合体のみを検出し、間接的に前記標的化合物を検出することを特徴としている。
【0007】
本発明の標的化合物の検出方法においては、より具体的には、前記磁性体ナノ粒子と被検液中の標的化合物と結合させ、生成した磁性体ナノ粒子結合体を磁気分離により濃縮した後、この濃縮した分散液を前記磁気センサーに近接させて磁気抵抗の変化を測定することにより、前記磁性体ナノ粒子結合体のみを検出し、間接的に標的化合物を検出することが好ましい。
【0008】
さらに本発明の標的化合物の検出方法においては、断面積10〜10μmの流路内を0.001〜100mL/分の流速で流れる磁性体ナノ粒子コロイド溶液中に、被検液を0.1〜1000μL注入した後、その混合液(前記磁性体ナノ粒子結合体を含有する分散液)を前記磁気センサーで測定し、前記磁性体ナノ粒子結合体のみを検出し、間接的に標的化合物を検出することが好ましい。
【0009】
前記磁性体ナノ粒子が、その粒子表面に標的化合物と特異的に結合するためのリガンドを有していることが好ましい。
前記磁気センサーと前記分散液とを近接させたときの距離を1mm以下とすることが好ましい。
前記永久磁石の表面磁束密度としては0.01〜10Tであることが好ましい。
前記磁気抵抗素子がn型InSb半導体を含むことが好ましい。
前記磁性体ナノ粒子は、酸化鉄又はフェライトからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁性体ナノ粒子を補足することなく、簡便にかつ効率よく、混合液中の標的化合物を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の標的化合物の検出方法は、平均粒子サイズ50nm以下の磁性体ナノ粒子コロイド溶液中に、標的化合物を含む被検液を注入し、該被検液中の標的化合物と前記磁性体ナノ粒子とを結合させて100nm以上のサイズを有する磁性体ナノ粒子結合体を形成させ、この磁性体ナノ粒子結合体を含む分散液を、少なくとも磁気抵抗(MR)素子及び永久磁石からなる磁気センサーに近接させて磁気抵抗の変化を測定することにより、前記磁性体ナノ粒子結合体のみを検出し、間接的に前記標的化合物を検出することを特徴としている。
【0012】
本発明の標的化合物の検出方法において、具体的には、前記磁性体ナノ粒子と被検液中の標的化合物と結合させ、生成した磁性体ナノ粒子結合体を磁気分離により濃縮した後、この濃縮した分散液を前記磁気センサーに近接させて磁気抵抗の変化を測定することにより、前記磁性体ナノ粒子結合体のみを検出し、間接的に標的化合物を検出する。
【0013】
本発明の標的化合物の検出方法において、さらに具体的には、断面積10〜10μmの流路内を0.001〜100mL/分の流速で流れる磁性体ナノ粒子コロイド溶液中に、被検液を0.1〜1000μL注入した後、その混合液(前記磁性体ナノ粒子結合体を含有する分散液)を、少なくとも磁気抵抗素子及び永久磁石からなる磁気センサーに近接させて磁気抵抗の変化を測定することにより、前記磁性体ナノ粒子結合体のみを検出し、間接的に標的化合物を検出する。
【0014】
まず、本発明の検出方法の概略について図面を参照して説明する。図1は、本発明の検出方法に用いる磁気センサー(一例)の断面図を示している。図1に示す磁気センサー10は、磁気抵抗素子11と、永久磁石12と、端子ピン13と、FG(フレームグランド)端子ピン14と、ホルダー15と、モールド材16と、を有する。必要に応じてカバーを取り付けても良い。さらに磁気センサーを含めた測定部全体を外部ノイズ遮蔽ケースに収納してもよい。図2は、図1に示す磁気センサー10を検出する液体が流れる流路20に配備し、磁気センサー10の端子側から見た図である。図2において、混合液が流れる方向は矢印方向である。磁気センサー10を通過した磁性体ナノ粒子結合体たる被検出磁性粒子は、磁気抵抗の変化を測定することによって検出される。以下、検出原理について説明する。
【0015】
InSbなどの半導体の板面に垂直方向に磁界が加わると磁界からのローレンツ力により電流の通路が曲げられ、その分、距離が長くなり抵抗値が増大する(磁気抵抗効果)。超常磁性への臨界径以下のサイズの磁性粒子(ナノ粒子)は、たとえ物質としては強磁性であったとしても超常磁性であり、磁石に応答しにくいので磁気センサーを通っても磁気抵抗効果をほとんど与えない。これに対し、臨界径以上の磁性体粒子(磁性体ナノ粒子結合体も含む)は、外部磁場により磁区が一定方向に揃う。磁性体ナノ粒子結合体は結合することで見かけの体積が増え、超常磁性への臨界径を超えたと考えられ、磁化されて強磁性体となりやすい。この結果、臨界径以上の磁性体粒子(磁性体ナノ粒子結合体)が磁気センサーを通過すると、磁気抵抗効果を与え、抵抗値が変化するので、これをモニターすることにより、磁性体ナノ粒子結合体のみを検出し、間接的に標的化合物を検出することができる。
【0016】
次に磁気センサーについて説明する。磁気抵抗素子には電子移動度の高い半導体を用いる。かかる半導体材料としては、InSb、InAs、GaAsなどのIII−V族化合物半導体が好ましく、その中でも電子移動度が78000cm/V・sと大きいn型InSbが特に好ましい。磁気抵抗素子は2端子構造で、高い抵抗値と高出力が得られるように、磁性又は非磁性の基板上の半導体面に多数の電極を付けたミアンダ構造に形成することが望ましい。
【0017】
磁気センサー回路は、磁気抵抗素子と永久磁石のバイアス型組合せで構成されるのが望ましい。回路構成は、磁気抵抗素子1個の単素子型でも、2個が直列に配置された2素子型でも、さらにこれらがブリッジを組んだ4素子型でもよい。図3は、代表例として2素子バイアス型の構成を示す。図3においては、2個の磁気抵抗素子22A、22Bが直列に配置されており、これら2個の磁気抵抗素子22A、22Bに近接して永久磁石24が配置されている。
【0018】
2素子型を例に、検知素子の好ましい寸法について説明する。図4は、2素子型の磁気センサーの検知部を示す図であり、(A)は上面図を、(B)は側面図を示す。図4に示す検知部は、基板30上に、2個の磁気抵抗素子(素子感磁部)32A、32Bが配されており、磁気抵抗素子32A、32Bのそれぞれの一端近傍には、電極34A、34Bが着接している。また、磁気抵抗素子32A、32Bのそれぞれの他端近傍には、電極36が各磁気抵抗素子を架橋する状態で着接している。
以上の図4において、素子間ピッチPは10〜5000μm、特に100〜1000μmが好ましく、素子幅Dは1〜1000μm、特に10〜500μmが好ましく、検知幅Lは0.01〜10mm、特に0.05〜3mmが好ましく、かつ後述の流路の内径に近い方が望ましい。
【0019】
永久磁石の表面磁束密度としては、素子の感度、実用面の点で、0.01〜10Tであることが好ましく、0.05〜1Tであることがより好ましい。
【0020】
本発明において、被検液中の標的化合物の濃度が低い場合には、磁性体ナノ粒子と被検液中の該標的化合物とを結合させ、生成した磁性体ナノ粒子結合体を磁気分離により濃縮させた後、磁気センサーで測定することができる。磁気分離に用いる磁石は、永久磁石でも電磁石でもよく、その表面磁束密度としては0.05〜1Tが望ましい。濃縮された分散液を、磁気センサー表面に設置された後述の流路に一定量(例えば、0.05〜10mL、流速0.001〜100mL/分)注入することにより、磁性体ナノ粒子結合体を検出し、間接的に標的化合物を検出することができる。
なお、濃縮後の濃度は、標的化合物の種類、サイズ、磁性体ナノ粒子と結合したリガンドの数、磁性体ナノ粒子のサイズ、磁気センサーの感度などで異なるため、条件に合わせて最適化されるが、例えば0.1mM以上が好ましい。
【0021】
本発明に用いる流路の寸法は、断面積が10〜10μm、好ましくは10〜10μmで、磁気センサー面側の肉厚は強度的に満足できれば薄いほど好ましく、一般的には10〜500μmであることが好ましい。断面は円形に限らず、楕円形や四角形でもよい。流路の材質は磁気に影響を与えないものであれば特には限定されず、例えば、ガラス、シリコーン樹脂、テフロン(登録商標)などのフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが好ましい。これらの流路の内壁は被検液中の成分の付着防止、磁性体ナノ粒子結合体の詰まり防止等の目的で適宜表面コートしてもよい。
【0022】
流路内を0.001〜100mL/分、好ましくは0.002〜10mL/分の流速で流れる磁性体ナノ粒子コロイド溶液中に、被検液を0.1〜1000μL、好ましくは0.2〜100μL注入した後、その混合液(磁性体ナノ粒子結合体を含有する分散液)を上記磁気センサーの検出素子真上を通過させることにより、磁束が変化し、それに伴う磁気抵抗の変化を検出する。被検体の注入は連続的であってもパルス状であってもよいが、検出感度からパルス状が好ましい。溶液の注入、混合は特開2005−288254号、同2005−46651号、同2005−46652号等のマイクロリアクターを用いることができる。混合部(分散液)から磁気センサーまでの距離は、標的化合物と磁性体ナノ粒子との結合反応速度、流速、流路の断面積などで異なり、最適値に設定するが、一定以上の検出感度を確保するため、1mm以下とすることが好ましく、0.5mm以下とすることがより好ましい。
【0023】
本発明の検出方法において使用可能な測定回路のブロックダイアグラムを図5に示す。磁気センサー10からの出力電圧は、電源電圧と抵抗の変化に比例するので、磁性体ナノ粒子結合体の濃度に比例して出力電圧も大きくなる。出力電圧は増幅回路(出力アンプ)により増幅されてモニターされる。増幅回路にはセンサーの入力抵抗の温度変化による増幅率への影響を抑制するためにバッファアンプ(入力バッファーアンプ)を用いることが望ましい。また、磁束密度と抵抗変化の関係が直線領域になるように、磁気抵抗素子に適当なバイアス磁界をかけることが望ましい。
【0024】
本発明において、磁気センサーは多種類の標的化合物を同時に測定する等の目的で、マルチチャンネル型であってもよい。
【0025】
<磁性体ナノ粒子>
本発明における磁性体ナノ粒子は、個数平均粒子径が2〜50nmの磁性を有するナノ粒子である。平均粒子径が2nm以上であるので安定に作製可能であり、50nm以下であるので表面積が大きく、極微量の標的化合物を捉えることができる。磁性体ナノ粒子の平均粒子径は、安定性および磁力の観点から3〜50nmが好ましく、5〜40nmが特に好ましい。
【0026】
このような磁性体ナノ粒子は、例えば特表2002−517085号等に記載された方法に従って製造することができる。例えば鉄(II)化合物、または鉄(II)化合物および金属(II)化合物を含有する水溶液を、磁性酸化物の形成のために必要な酸化状態下に置き、溶液のpHを7以上の範囲に維持して、酸化鉄またはフェライト磁性体ナノ粒子を形成することができる。また、金属(II)化合物含有の水溶液と鉄(III)含有の水溶液をアルカリ性条件下で混合することによっても、本発明における磁性体ナノ粒子を得ることができる。さらに、バイオカタリシス(Biocatalysis)1991年、第5巻、61〜69頁に記載の方法を用いることもできる。磁性体ナノ粒子としては、FePd、FePt、CoPt、FePtCuなどの強磁性規則合金を使用することもできる。
【0027】
本発明では好ましい磁性体ナノ粒子は、金属酸化物、特に、酸化鉄およびフェライト(Fe,M)34からなる群から選択されるものである。ここで酸化鉄には、とりわけマグネタイト、マグヘマイト、またはそれらの混合物が含まれる。前記式中Mは、該鉄イオンと共に用いて磁性金属酸化物を形成することのできる金属イオンであり、典型的には遷移金属の中から選択され、最も好ましくはZn2+、Co2+、Mn2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+などであり、M/Feのモル比は選択されるフェライトの化学量論的な組成に従って決定される。金属塩は固形でまたは溶液状で供給されるが、塩化物塩、臭化物塩、または硫酸塩であることが好ましい。
このうち、安全性の観点から酸化鉄、フェライトが好ましい。
【0028】
例えばマグネタイトを形成するためには、溶液中に鉄が2種類の異なる酸化状態、Fe2+およびFe3+で存在することが好ましい。2つの酸化状態は、鉄(II)塩および鉄(III)塩の混合物を、好ましくは所望の磁性酸化物の組成に対してFe(II)塩をFe(III)塩より少し多いモル量で添加すること、または鉄(II)塩もしくは鉄(III)塩を添加して、必要に応じてFe2+またはFe3+の一部を他方の酸化状態に、好ましくは酸化または場合により還元によって変換することにより、溶液中に存在できるようになる。
【0029】
この磁性金属酸化物は、30℃から100℃の温度、好ましくは50℃から90℃の間の温度で熟成することが好ましい。 磁性金属酸化物を形成するために各種の金属イオン間の相互作用を起こさせるには溶液のpHが7以上である必要がある。pHは、適切なバッファー溶液を最初の金属塩の添加時の水溶液として用いるか、または必要な酸化状態にした後に溶液に塩基を添加することによって所望の範囲に維持される。ひとたびpH値としてその7以上の範囲にある特定の値を選択した後は、最終産物の大きさの分布が実質的に均一となることを確保するために、そのpH値を磁性体ナノ粒子の調製工程の全体にわたって維持することが好ましい。
【0030】
また磁性体ナノ粒子の粒子サイズを制御する目的で、追加の金属塩を溶液に添加する工程を設けてもよい。この場合、次の2つの異なる操作様式にて行うことができる。1つの操作様式は段階的増加によるもので、以後段階的様式の操作と呼ぶが、その操作様式では各成分(金属塩、酸化剤および塩基)を数回に分けて、好ましくは毎回等量で、定めた順序で溶液に連続的に添加し、それらの工程を所望のナノ粒子のサイズが得られるまで必要な回数繰り返し、その各回の添加量は溶液中(すなわち粒子の表面上以外)での金属イオンの重合を実質的に避けることのできる量とする。
他方は、連続した操作様式であり、各成分(金属塩、酸化剤、および塩基を定められた順序で、粒子表面以外の部位での金属イオンの重合を避けるために各成分毎に実質的に均一な流速で、連続的に溶液中に添加する。この段階的又は連続的操作様式を用いることによって、大きさの分布が狭い粒子を形成することができる。
【0031】
また磁性体ナノ粒子の粒子表面に、官能基を有する分子(表面修飾剤)を付着させて、後述するリガンドを結合可能にすることができる。このような分子は、アミノ酸(例えばL−グルタミン酸、アスパラギン酸など)、カルボン酸(例えばクエン酸、酒石酸、オレイン酸など)などの低分子化合物でも、多糖類、タンパク質、ペプチド、ポリアミンのごときポリマーでもよく、ω−シラン:Si(OR)3(CH2nX(式中、Rはアルキル置換基であり、nは1から18の整数であり(1、18を含む)、XはNH2、CN、およびSHからなる群から選択される官能基である)でもよい。該分子により供給される官能基、例えば、アミノ基、カルボキシル基、水酸基等を用いてリガンドを結合することが出来る。また、該分子の一端がスクシンイミドエステル等に活性化されていてもよい。官能基を有する化合物で表面修飾された磁性体はコロイド溶液として安定であり、後述のリガンドの結合も溶液反応として扱うことができる。
【0032】
<リガンド>
本発明における磁性体ナノ粒子と後述する標的化合物を結合させるために、リガンドを用いることが好ましい。換言すると、本発明に係る磁性体ナノ粒子が、その粒子表面に標的化合物と特異的に結合するためのリガンドを有していることが好ましい。このようなリガンドとしては、標的化合物に対して結合性(もしくは反応性を有する)を有する分子が好ましい。また、このような分子と外部刺激応答性化合物とが連結されたものであってもよい。
なお、標的化合物が生体関連分子である場合には、リガンドも生体関連分子を用いることが出来る。例えば、抗原を標的化合物とした場合、抗体をリガンドとして用いることが出来る。
また、特定の金属イオンに対してキレート能を有する錯形成化合物をリガンドとすることもできる。
【0033】
〜生体関連分子〜
生体関連分子には、核酸、抗原及び抗体(モノクローナルやポリクローナル)、ペプチドやその他のタンパク質、多糖類、酵素或いはその基質、脂質等の化合物、ウィルス若しくは細菌等の生物体若しくはその一部、等を挙げることができる。
【0034】
ここで、「核酸」は、狭義には、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)であり、広義には、PNA(Peptide Ncleic Acid)を含めても良い。RNAには、mRNA、tRNA、rRNAがある。また、DNA、RNA全体のみならず、そのDNA、RNAの断片である場合も含む。
【0035】
このようなリガンドは、磁性体ナノ粒子の表面の一部として存在してもよく、或いは、磁性体ナノ粒子の表面に直接的又は間接的に設けられたものであってもよい。
【0036】
<標的化合物>
本発明において、標的化合物とは検出すべき物質であり、標的物質と同義である。標的化合物は、磁性体ナノ粒子に結合したリガンドを介して磁性体ナノ粒子に結合し、磁性体ナノ粒子結合体を形成する。標的化合物は特に制約はないが、前記生体関連分子であることが好ましい。
例えば、核酸の場合には、種々のタンパク質の中から、種々の塩基配列に対して転写の制御を行うことができる転写制御因子を選択的に捕捉したり、相補的な塩基配列を設計することで異なる塩基配列を有するDNA断片を、迅速且つ容易に検出することができる。
その他、リガンドと相互作用を有し、磁性ナノ粒子の結合体を形成することの出来る標的化合物は容易に検出することができる。
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例について説明するが、これに限定されるものではない。また実施例中の%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0038】
[実施例1]
(ビオチン化磁性体ナノ粒子によるアビジン結合リポソームの検出)
SPDPを用いリポソーム表面にタンパクを結合させ(Peter Walden, Zoltan A. Nagy, Jan Klein, J. Mol. Immunol.,2,191-197(1986) )、以下のようにして磁性体ナノ粒子による検出を行った。
【0039】
1)磁性体ナノ粒子分散液の調製
塩化鉄(III)6水和物10.8gおよび塩化鉄(II)4水和物6.4gをそれぞれ0.5mol/L(0.5N)−塩酸水溶液80mLに溶解し混合した。得られた溶液を攪拌しながらその中にアンモニア水(14質量%)96mLを2mL/分の速度で添加した。その後、80℃で60分加熱したのち室温に冷却した。得られた凝集物を磁気分離により水で精製した。結晶子サイズ約10nmのマグネタイト(Fe34)の生成をX線回折法により確認した。この凝集物にポリオキシエチレン(4.5)ラウリルエーテル酢酸2.3gを溶解した水溶液200mLを加えて分散し、磁性体ナノ粒子分散液(pH=5)を調製した。
【0040】
2)アビジン結合リポソームの調製
ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン(DPPE)、N−スクシミジル3−(−2−ピリジル−ジチオ)プロピオネート(SPDP)およびトリエチルアミンを1:2:2のモル比でメタノール−クロロホルム(9:1)に溶解し、室温で2時間反応させた。反応終了後100mMリン酸緩衝液(pH7.2)で洗浄後、窒素気流下乾燥させ、ジチオピリジン−ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン(DTP−DPPE)を得た。ジパルミトイルフォスファチジルコリン(DPPC)と混合し(DPPE:DPPC=2:8)、メタノール−クロロホルムに溶解し窒素気流下乾燥、薄膜とした後pH7.2のリン酸緩衝液(PBS)に懸濁させ、超音波照射、フィルターろ過により平均粒径120nmのDTPリポソーム(脂質濃度:25μM/mL)を得た。
【0041】
150mMのNaCl含有100mM炭酸緩衝液(pH8.0)で、アビジンとSPDPをモル比1:1で1時間反応させジチオスレイトール(DTT5mM)添加して、ジスルフィドを還元した後セファデックスG−25で精製し、DTPリポソーム溶液に加えた。ショ糖濃度勾配遠心分離により分離して100mMリン酸緩衝液(pH7.2)再分散させアビジン結合リポソーム溶液を得た。
【0042】
3)ビオチン化磁性体ナノ粒子の調製
前記磁性体ナノ粒子分散液2.5mLに0.1M MES緩衝液(pH6.0)7.5mLを加え、WSC(水溶性カルボジイミド)19mg、N−ヒドロキシスルホスクシミド(Sulfo−NHS)18mgを添加し室温で30分攪拌した。これにBiotin−PEO−Amine(Pierce)28mgを加え一晩沸騰した。1M Tris/HCl(pH8.0)200μLを加えて反応停止後、PD−10カラム(アマシャムバイオサイエンス)で精製し、ビオチン化磁性体ナノ粒子溶液を得た。
【0043】
4)ビオチン化磁性体ナノ粒子によるアビジン結合リポソームの検出
10倍に希釈した上記ビオチン化磁性体ナノ粒子溶液50mL中に、前記アビジン結合リポソーム溶液を100倍に希釈した液(サンプルA)、50倍に希釈した液(サンプルB)、20倍に希釈した液(サンプルC)をそれぞれ5mLずつ添加し、10分間撹拌した。0.3Tの表面磁束密度を有する磁石を用いて磁気分離により各液5mLになるように濃縮した。これらの液(サンプルA〜C)を内径0.5mm(断面積は約2×10μm)、肉厚0.2mmのポリスチレン流路に20μL/秒の速度で10μL注入し、磁気センサーを用いて各サンプルにおける出力電圧を測定した。結果を図6に示す。用いた磁気センサーは、磁気抵抗素子としてInSbを含む2素子バイアス型で、素子間ピッチP=0.75mm、素子幅D=0.3mm、検知幅L=3mm、永久磁石の表面磁束密度は0.45Tである。なお、磁気センサーと、ポリスチレン流路内を流れる分散液との距離は、0.4mmであった。図6より、出力電圧がアビジン結合リポソームの濃度にほぼ比例することがわかった。なお、ビオチン化磁性体ナノ粒子に結合したアビジン結合リポソームの平均粒子サイズは260nmであった。
【0044】
[実施例2]
特開2005−46652号実施例に記載のマイクロミキサーを用い、10倍に希釈した実施例1で用いたビオチン化磁性体ナノ粒子溶液(L1)を5mL/分の流速で流体供給路26から連続的に流した。この中に上記アビジン結合リポソーム溶液(L2)を5倍に希釈した液(サンプルD)または10倍に希釈した液(サンプルE)をそれぞれ1mL/分の流速で5秒間流体供給路28から注入(注入量83μL)した。反応流路22(断面積は約7×10μm)を通る際に混合され、その混合液(LM)を吐出路32(断面積は約8×10μm)からマイクロ流路(断面積は約8×10μm)に導入して磁気センサーを用いて出力電圧を測定した。アビジン結合リポソームの濃度にほぼ比例した出力電圧が得られた。用いた磁気センサーは、磁気抵抗素子としてInSbを含む単素子型で、素子幅D=0.3mm、検知幅L=1mm、永久磁石の表面磁束密度は0.45Tである。なお、磁気センサーと、マイクロ流路内を流れる分散液との距離は、0.5mmであった
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の検出方法に用いる磁気センサーの断面図である。
【図2】本発明の検出方法に用いる磁気センサーの端子側から見た図である。
【図3】本発明の検出方法に用いる磁気センサーの回路構成を示す図である。
【図4】本発明の検出方法に用いる磁気センサーの検知素子の寸法を示す図である。
【図5】本発明の検出方法に用いる測定回路のブロックダイアグラムである。
【図6】実施例1のサンプルの出力電圧を測定した図である。
【符号の説明】
【0046】
10 磁気センサー
11 磁気抵抗素子
12 永久磁石
13 端子ピン
14 FG端子ピン
15 ホルダー
16 モールド材
22A 22B 磁気抵抗素子
24 永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子サイズ50nm以下の磁性体ナノ粒子コロイド溶液中に、標的化合物を含む被検液を注入し、該被検液中の標的化合物と前記磁性体ナノ粒子とを結合させて100nm以上のサイズを有する磁性体ナノ粒子結合体を形成させ、この磁性体ナノ粒子結合体を含む分散液を、少なくとも磁気抵抗(MR)素子及び永久磁石からなる磁気センサーに近接させて磁気抵抗の変化を測定することにより、前記磁性体ナノ粒子結合体のみを検出し、間接的に前記標的化合物を検出することを特徴とする標的化合物の検出方法。
【請求項2】
前記磁性体ナノ粒子と被検液中の標的化合物と結合させ、生成した磁性体ナノ粒子結合体を磁気分離により濃縮した分散液を得た後、この濃縮した分散液を前記磁気センサーに近接させて磁気抵抗の変化を測定することにより、前記磁性体ナノ粒子結合体のみを検出し、間接的に標的化合物を検出することを特徴とする請求項1に記載の標的化合物の検出方法。
【請求項3】
断面積10〜10μmの流路内を0.001〜100mL/分の流速で流れる磁性体ナノ粒子コロイド溶液中に、被検液を0.1〜1000μL注入した後、その混合液(前記磁性体ナノ粒子結合体を含有する分散液)を前記磁気センサーで測定することを特徴とする請求項1に記載の標的化合物の検出方法。
【請求項4】
前記磁性体ナノ粒子が、その粒子表面に標的化合物と特異的に結合するためのリガンドを有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の標的化合物の検出方法。
【請求項5】
前記磁気センサーと前記分散液とを近接させたときの距離を1mm以下とすることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の標的化合物の検出方法。
【請求項6】
前記永久磁石の表面磁束密度は0.01〜10Tであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の標的化合物の検出方法。
【請求項7】
前記磁気抵抗素子がn型InSb半導体を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の標的化合物の検出方法。
【請求項8】
前記磁性体ナノ粒子が酸化鉄又はフェライトからなることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の標的化合物の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−256024(P2007−256024A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79734(P2006−79734)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】