説明

標的化酸化鉄ナノ粒子

酸化鉄ナノ粒子であって、上記ナノ粒子の外面上に式−X−NH2(式中、XはO、NR、NHまたはSから選択され、RはC1-7アルキルである)の官能基を含む、前記粒子、および式−C=N−X−(式中、XはO、NR、NHまたはSから選択され、RはC1-7アルキルである)の結合を介して細胞標的リガンドに連結する酸化鉄ナノ粒子を含む粒子複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的リガンド(targeting ligands)への結合に適する酸化鉄ナノ粒子、および細胞標識におけるそのような結合ナノ粒子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのタイプの糖質含有細胞標的分子(リガンド)が公知である。例には、糖タンパク質類、糖脂質類、多糖類、オリゴ糖類および細菌タンパク質が含まれる。これらのリガンドは、標的機能を補助し得るか、または単に構成の一部であってもよい、糖質分子を有する。
【0003】
糖質含有リガンドの特に重要なクラスは糖タンパク質である。これらはタンパク質および糖質(オリゴ糖)で構成される巨大分子である。糖鎖はアスパラギン(N−グリコシル化と呼ばれる)またはヒドロキシリジン、ヒドロキシプロリン、セリンまたはトレオニン(O−グリコシル化と呼ばれる)のいずれかに結合することができる。これらの鎖に含まれ得る、可能性のある糖質には、グルコース、グルコサミン、ガラクトース、ガラクトサミン、マンノース、フコースおよびシアル酸が含まれる。
【0004】
糖タンパク質は、特には哺乳動物における、免疫細胞認識に重要である。例えば、抗体は免疫系によって産生される糖タンパク質であり、特定の外来物質(抗原)を認識してそれらに結合する。抗原は細胞の表面上に存在することがあり、その場合、結合は細胞の凝集および破壊につながり得る。
【0005】
抗原、抗体相互作用は、長年、複合多細胞系における特定の細胞のターゲティングおよび標識の手段として、並びに特定の抗原の細胞表面分布の研究に用いられている(例えば、Raff et al., Immunology, 1970, 637; Taylor et al., Nature New Biol. 1971, 225)。重要な必要条件は、適切な標識(例えば、蛍光染料、放射性マーカー、磁気粒子)を、抗体の結合活性を維持するような方法で抗体に結合させることができることである。
【0006】
モノクローナル抗体を用いる免疫標識技術が神経組織における特定の細胞の同定および位置決定に用いられている(例えば、Eisenbarth et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 1979, 4913)。免疫学的方法は異なるタイプの細胞の分離にも適用されている。蛍光性抗体で標識された細胞が非標識細胞から蛍光活性化細胞選別(fluorescence-activated cell sorting)によって分離されている(例えば、Steinkamp et al., Rev. Sci. Instrum., 1973, 1301)。
【0007】
より最近では、細胞機能への磁気ナノ粒子の使用が関心の的となっている。抗体もしくは他の標的分子、例えば、補因子、ホルモンおよびタンパク質をナノ粒子に結合させ、特定の細胞型に対するターゲティングを可能にすることができる。
【0008】
ナノ粒子は磁気共鳴画像(MRI)診断において走査解像度を高める造影剤として用いることができる。この目的で用いられる薬剤は、最も一般的には、常磁性ガドリニウムキレート(ガドジアミド−OMNISCAN、Winthrop Pharm.;ガドテリドール−PROHANCE、Squibb)または超常磁性酸化鉄ナノ粒子(Ferumoxtran−10−COMBIDEX、Advanced Magnetics)である。酸化鉄ナノ粒子にはインビボでの毒性の可能性がより低いという利点がある。過去、これらの粒子のMRI造影剤としての臨床使用は一般には「受動的ターゲティング」に頼り、そこでは組織浸透性の差によってナノ粒子が沈積する。より最近では、標識技術、例えば、上記に論じられるものを用いる、「能動的ターゲティング」に向けた進歩がなされている。
【0009】
例えば、単結晶酸化鉄ナノ粒子(MION)が、MRI用の腫瘍細胞のターゲティングのため、タンパク質トランスフェリンに結合され(Hogemann et al., Bioconjugate Chem., 2000, 941-946)、膵臓受容体機能が、ペプチドセクレチンに間接的に結合されたMION粒子を用いるMRIによって観察されている(Shen et al., Bioconjugate Chem., 1996, 311-316)。ナノ粒子の表面を抗体で装飾することを含む、特定の癌の検出の例には、直腸癌(Toma et al., Br. J. Cancer, 2005, 93(1) 131-136)、癌胎児性抗原(Tiefenauer et al., Magn. Reson. Imaging, 1996, 14(4), 391-402)および小細胞肺癌(Go et al., Eur. J. Radiol., 1993, 16(3), 171-175)が含まれている。
【0010】
磁気ナノ粒子での細胞標識も細胞分離の目的に有用である。例えば、免疫特異的酸化鉄粒子がスタフィロコッカスアウレウス(Staphylococcus aureus)に由来するプロテインAへの結合によって調製され、電子顕微鏡による細胞表面抗原の可視化および標識された細胞の磁気的分離に用いられている(Molday et al., J. Immunol. Methods, 1982, 353-367)。
【0011】
上記で論じられるような磁気ナノ粒子は、典型的には、しばしば多糖、例えば、デキストランである、安定化層を伴って製造される。この層は凝集を防止し、それらの粒子の生体適合性を改善する。また、ナノ粒子表面を官能化するための部位をも提供し、抗体または他の分子が結合することを可能にする。
【0012】
糖タンパク質の標識部分、例えば、コート済みナノ粒子への結合は幾つかの方法で達成することができる。タンパク質中のリジン残基のアミノ基を用いて糖タンパク質を標識に結合させることができる。しかしながら、これには多くの不利益がある。特に、抗体の場合、リジン残基は典型的には抗体全体を通して均一に分布し、その結果、抗原ターゲティング領域(可変領域)がブロックされ、結合効率の低下が生じる。その上、しばしば、結合を行うのに多くの工程を必要とする。
【0013】
従って、抗体の定常領域を介して結合を行うことが結合に関与しないため、好ましいものと考えられる。ほとんどの抗体はこの領域でグリコシル化され、従って、糖質残基を選択的に酸化してアルデヒド基を生成することができる。そこで、スキーム1に示されるように、標識部分のアミノ基とのイミン形成により、定常領域における部位特異的結合を達成することができる。
【0014】
【化5】

【0015】
最初に形成されるイミン結合は水性条件において不安定であり、従って、典型的には、インサイチューで二級アミンに還元される。本方法の不利な点は、用いられる還元剤(例えば、水素化ホウ素ナトリウム)が出発アルデヒドをも還元し得ることである。これは、より穏やかな還元剤である水素化シアノホウ素ナトリウムの使用によってある程度回避することができるが、これは毒性シアン化物副生物を生成することがある。この技術に関する別の問題は、それが選択的ではないということである。同じ、または異なる抗体のリジン残基に由来するアミンに加えて、標識部分に由来するものがアルデヒドと反応し得る。
【0016】
Fuentesらは、近年磁気ナノ粒子を含めて、様々な支持体上に抗体を固定化するための異なる結合手順を研究している(Fuentes et al., Biosensors & Bioelectronics, 2005, 1380-1387)。彼らは、グリコシル化領域を介してアミノ官能化ナノ粒子に結合された抗体がそれらの初期認識能力のほぼすべてを保持することを示した。これらの結合粒子は、高い親和性を長時間維持するため、生理学的塩溶液中に保持する必要があった。
【0017】
発明の概要
本発明者らは、今や、生理学的塩溶液中で改善された安定性を示す酸化鉄ナノ粒子を生成し、かつナノ粒子に糖質含有リガンド、好ましくは、糖タンパク質、例えば、抗体を結合させるための改善された方法を開発している。
【0018】
本発明の第1態様は、酸化鉄ナノ粒子であって、それらの外面上に−X−NH2官能基を含み、式中、Xは二価ヘテロ原子残基、例えば、O、S、NHまたはNRであり、RはC1-7アルキルである酸化鉄ナノ粒子を提供する。これらの官能基はナノ粒子への細胞標的リガンドの結合のための反応性部位として作用し得る。
【0019】
この第1態様のナノ粒子は架橋多糖のコーティングを任意に含むことができる。そのようなコーティングは酸化鉄ナノ粒子の生理学的安定性を改善するものと考えられる。
【0020】
本発明の第2態様は第1態様の酸化鉄粒子の合成方法を提供し、特には、この合成は式−X−NR12の官能基をそれらの外面上に含む中間酸化鉄ナノ粒子によって進行させることができ、式中、R1はHであり、かつR2はアミン保護基であり、またはR1およびR2は一緒になってアミン保護基を形成してもよい。
【0021】
本発明の第3態様は、本発明の第1態様のナノ粒子に糖質含有細胞標的リガンドを結合させるプロセスであって、前記リガンド上のアルデヒド基とナノ粒子表面上の前記官能基との反応による、前記プロセスを提供する。アルデヒド基は糖質含有リガンドの選択的酸化によって生成させることができる。この反応は抗体とナノ粒子との間に二重結合(−C=N−X−)を生成する。この結合は、従来の結合方法において生成される、イミンにおける対応二重結合よりも求核性攻撃に対する反応性が少なく、それが、水性条件における、より高い安定性を生じる。本発明のこの態様は引き続く還元工程の必要性を排除する。
【0022】
本発明の第4態様は、好ましくは糖タンパク質、最も好ましくは抗体である、上記のように二重結合によって酸化鉄ナノ粒子に結合する糖質含有細胞標的リガンドを含む、リガンドナノ粒子複合体を提供する。これらの複合体は、好ましくは、第3態様の方法によって生成される。
【0023】
本発明の第5態様は、細胞のターゲティングおよび標識のための、第4態様のリガンドナノ粒子複合体の使用を提供する。これらの複合体の使用は、それらをヒトまたは動物体内に導入することを含んでいてもいなくてもよい。この場合、それらが体内に導入されない場合、その使用はイン・ビトロと呼ぶことができ、すなわち、より容易に規定される環境、例えば、反応容器、培養容器またはプレートにおける生物学的プロセスの再生であり得る。
【0024】
定義
酸化鉄ナノ粒子:本出願書の文脈において、「酸化鉄ナノ粒子」という語句は、その全体的な流体力学的直径が動的光散乱(DLS)による測定で1μm未満であり、水酸化鉄、酸化鉄、酸化鉄水和物、混合酸化鉄または鉄の1以上から選択される核を含み、その核が安定化コーティングによって囲まれる超顕微鏡的粒子を指す。
【0025】
安定化コーティング:安定化コーティングは、ナノ粒子の外面を形成し、粒子の凝集を防止し、かつ粒子の生体適合性を改善する役目を果たす層である。このコーティングは、好ましくは、多糖で構成される。
【0026】
「Ficoll安定化酸化鉄ナノ粒子」という語句は、安定化コーティングが、FICOLLとして販売される、スクロースおよびエピクロロヒドリンの高度に分岐したコポリマーで構成される、上記の酸化鉄ナノ粒子を指す。
【0027】
ナノ粒子上のFicollコーティングは、例えばエピクロロヒドリンおよび水酸化ナトリウムとの反応により、架橋していてもよく、その結果生じるナノ粒子は架橋Ficoll安定化酸化鉄ナノ粒子と呼ぶことができる。架橋Ficoll安定化酸化鉄ナノ粒子をエピクロロヒドリンおよびアンモニアとさらに反応させ、粒子の表面上にアミノ(−NH2)基をもたらすことができる。そのようにして生成されるナノ粒子はアミノ化架橋Ficoll安定化酸化鉄ナノ粒子と呼ばれる。
【0028】
この文脈における「官能化ナノ粒子」という語句は、粒子の表面上に−X−NR12官能基がもたらされるように修飾されている酸化鉄ナノ粒子を指し、式中、R1およびR2は独立にHもしくはアミン保護基であり得、またはR1およびR2が一緒になってアミン保護基を形成していてもよい。官能化ナノ粒子の例には、アミノオキシ官能化ナノ粒子(X=O)、ヒドラジン官能化ナノ粒子(X=NH、NR(ここで、RはC1-7アルキルである))およびアミノスルフィド官能化ナノ粒子(X=S)が含まれる。好ましくは、ナノ粒子はアミノオキシ官能化され、かつ、ヒドロキシルアミン官能基として記載することもできる、−O−NR12基を含有する。
【0029】
アミン保護基:保護基(また、マスキング基またはブロッキング基として公知である)は、反応性官能基、例えば、アミンに、その基の反応を防止するため、結合させることができる基である。反応性官能基を保護することにより、他の非保護反応性官能基を含む反応を、保護された基に影響を及ぼすことなく行うことができる;保護基は、通常は次の工程において、その分子の残留部に実質的に影響を及ぼすことなく、除去することができる。例えば、Protective Groups in Organic Synthesis(T. Green and P. Wuts, Wiley, 1999)の第7章(これは参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。好ましくは、アミン保護基は、ナノ粒子の安定性に影響を及ぼすことなく除去するのに適するもの、例えば、置換イミド、例えば、ジメチルイミド(−N=CMe2)もしくはNスクシンイミド;またはアミド、例えば、tブトキシアミド(N−CO−OC(CH33、NBoc)である。幾つかの実施形態においては、アミン保護基は糖タンパク質および/または抗体の存在下における除去に適するものであることが好ましい。
【0030】
1-7アルキル:本明細書で用いられるC1-7アルキルという用語は、脂肪族もしくは脂環式またはそれらの組み合わせであり得、かつ飽和、部分的不飽和または完全不飽和であり得る、1から7個の炭素原子を有するC1-7炭化水素から1個の水素原子を除去することによって得られる一価部分を意味する。C1-7アルキル基の例には、これらに限定されるものではないが、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピルが含まれる。
【0031】
リガンド:本出願の文脈において、リガンドという用語は、細胞の表面上の受容体に結合することができる分子である細胞標的分子を指す。好ましくは、これらの分子は糖質含有細胞標的分子であり、糖タンパク質、糖脂質、多糖、オリゴ糖(例えば、シアリルLewis X)およびウイルス性タンパク質であり得る。より好ましくは、それらは糖タンパク質であり、最も好ましくは抗体である。
【0032】
糖タンパク質:糖タンパク質はタンパク質および糖質(オリゴ糖)で構成される巨大分子である。糖鎖はアスパラギン(N−グリコシル化と呼ばれる)またはヒドロキシリジン、ヒドロキシプロリン、セリンもしくはトレオニン(O−グリコシル化と呼ばれる)のいずれかで結合することができる。糖鎖における可能性のある糖質には、グルコース、グルコサミン、ガラクトース、ガラクトサミン、マンノース、フコースおよびシアル酸が含まれる。糖タンパク質はグリコシル化タンパク質とも呼ばれる。
【0033】
抗体:抗体は、特定の抗原に結合する、ヒトまたは動物身体の免疫系によって産生されるタンパク質である。抗体は、特定の抗原への結合が生じる領域である「可変領域」および結合には関与しない「定常領域」を有するものと定義することができる。ほとんどの抗体は糖タンパク質であり、かつ定常領域内でグリコシル化され、これは糖鎖がこの領域内でタンパク質のアミノ酸残基に結合することを意味し、本発明における使用に適するものはこれらの抗体である。抗体という用語には、可変領域がナノ粒子への結合に適する領域と共に存在する抗体断片が含まれる。
【0034】
結合:結合は、リガンドを標識、例えば、ナノ粒子に、それらの間の化学結合の形成によって連結するプロセスである。リガンドが結合する、生成される粒子は、本明細書では、粒子複合体または複合体と呼ばれる。
【0035】
選択的酸化:本出願の文脈において、選択的酸化という用語は、糖質含有リガンドを、糖質残基上のヒドロキシル基が対応するアルデヒドには酸化されるが完全には(すなわち、カルボン酸には)酸化されない、十分に穏やかな条件下で酸化するプロセスを指す。その分子中に存在し得る他の官能基は、好ましくは、これらの条件下では酸化されない。
【0036】
活性化基:活性化基は、それが結合するカルボニル基を対応するカルボン酸(−C(O)OH)よりも求核性攻撃に対して反応性にする官能基を指す。カルボニル基は、酸塩化物(−C(O)Cl)、エステル(−C(O)OR)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)誘導体、混合アルデヒド(−C(O)OC(O)R、例えば、−OC(O)OCH2CH(CH3)CH3)もしくは対称性無水物、またはN−ヒドロキシスクシンイミド誘導体として活性化することができる。好ましくは、活性化カルボニル化合物は比較的長い水溶液中での半減期を有し、最も好ましくは、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルである。
【0037】
生理学的条件:「生理学的条件」という語句は、細胞または全身循環の内部に見出されるもののような条件を指す。これらの条件は、水性であり、生理学的pH(7.4)に近いpHを有し、かつ溶解した塩、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウム塩の存在を備えるものとして定義することができる。
【0038】
発明の詳細な説明
官能化ナノ粒子
上記で論じられ、かつ当業者に公知のように、部分、例えば、磁気ナノ粒子を抗体に結合する最も望ましい方法は定常領域を介するものである。これは、抗体上のグリコシル残基を穏やかな酸化剤、例えば、過ヨウ化ナトリウムを用いて選択的に酸化してアルデヒド残基を生成することによって行うことができ、そのアルデヒド残基は、次に、標識部分上の求核性官能基と反応させることができる(Fuentes et al, Biosensors & Bioelectronics, 2005, 20, 1380-1387;Molday et al, J. Immunol. Meth. 1982, 52, 353-367;Sanderson et al, Immunology, 1971, 20, 1061-1065)。これは抗体の完全な機能性を保持することが示されている(Abraham et al, J. Immunol. Meth., 1991, 144, 77-86)。この技術は、他のグリコシル化タンパク質および他の糖質含有リガンドへの標識分子の結合にも適する。
【0039】
代替結合法の必要性に対する対策において、官能化酸化鉄ナノ粒子が合成されている。−X−NH2官能基はアルデヒドと反応して二重結合−C=N−X−を形成することが公知である。アミン基との類似の反応によって形成されるイミン結合とは異なり、この場合に形成される結合は生理学的条件において安定であり、従って、還元剤の使用の必要性が回避される。
【0040】
【化6】

【0041】
加えて、幾つかの糖質含有リガンド、例えば、オリゴ糖類、例えば、シアリルLewis Xは、糖鎖の還元末端を介して直接結合させることができる。
【0042】
【化7】

【0043】
−X−NH2官能性は、酸化鉄ナノ粒子の表面上に、エピクロロヒドリンおよびアンモニアを用いてナノ粒子の安定化コーティングをアミノ化した後、連結基、例えば、化合物IVと反応させることによって導入することができる(スキーム3)。
【0044】
【化8】

【0045】
連結基IVは、保護されたヒドロキシルアミン、ヒドラジンまたはアミノスルフィド基を含有する活性化エステル、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルIVa(式中、YはN−ヒドロキシスクシンイミド基であり、R1およびR2は一緒になってジメチルイミド保護基を形成する)である。
【0046】
【化9】

【0047】
式IV(およびIVa)の連結基は、下式4のものである、本発明における使用に適する連結基のクラスの実例である。
【0048】
【化10】

(式中、
Yは活性化基であり;
1およびR2はHおよびアミン保護基から独立に選択されるか、または一緒になってアミン保護基を形成していてもよく;
Xは本発明の第1態様において定義される通りであり(すなわち、O、S、NHまたはNR)、並びに
nは1から7である。)
【0049】
そのような連結基は式5、
【化11】

のものである官能化ナノ粒子および式6、
【化12】

のものである結合粒子を生じる。
【0050】
上記方法によってもたらされる官能化ナノ粒子はアルデヒド含有リガンド、例えば、調製された(酸化された)糖タンパク質との直接反応に適する。これは、糖タンパク質が結合可能となる前にしばしば幾つかの工程を含む事前の化学修飾を必要とする、現在商業的に入手可能なナノ粒子を上回る相当の利点を表す。
【0051】
リガンド、例えば、抗体がひとたび結合すると、そのリガンドナノ粒子複合体を患者に投与し、インビボ細胞追跡に用いることができる。複合体中のリガンドが標的とする細胞内に磁気ナノ粒子が組み込まれ、これらをMRIによって位置決定することができる。例えば、細胞がリガンド標識酸化鉄ナノ粒子で標的化される領域においては、T2(横)緩和時間の局所変化に起因する、信号強度の局所変化が存在する。その全体的な効果は、酸化鉄が沈積している低信号域である。従って、低信号域の領域において関心細胞の位置が特定される。
【0052】
別の用途は細胞の分離にある。リガンドナノ粒子複合体を特定の細胞型の標的化に用いることができ、次いでこれらの細胞の分離を磁場を用いて達成することができる。リガンドナノ粒子複合体は、そのリガンドが認識する抗原を提示する細胞に特異的に結合する。次に、その標識された細胞の分離を、それらの細胞を磁化可能なカラム(例えば、Macs Column、Milteny Biotech)を通過させることによって達成する。標識細胞は磁場によって保持されるのに対して、非標識細胞はカラムを通過する。
【0053】
別の見込みのある医療用途は、磁気誘導を用いて薬物を特定の部位に送達する手段としてのナノ粒子の使用である。選択的に酸化された糖質基または他のアルデヒドを含有する薬物分子にナノ粒子を結合させ、患者に投与する。薬物は磁石の局所適用で望ましい部位に集中する。この特別の用途は、癌治療における場合のように、細胞毒性薬剤の局所送達に適し、糖質またはアルデヒド基を組み込みやすい様々な薬剤に適用可能である。この技術は他のプラットフォームで研究されている(Eur Biophys J., 2006, Jan 31; 1-5)。
【0054】
上記のものに関連する他の医療用途には、貧血を治療する増血剤としての使用および磁性流体温熱療法による癌の熱治療(Prostate. 2006, Jan 1 ; 66(1): 97-104)が含まれる。
【0055】
ナノ粒子の生成
本発明のナノ粒子は、動的光散乱(DLS)による測定で、様々なサイズ(20〜120nm)で生成することができる。サイズは制御することが可能であり、最適サイズは具体的な目的に合わせることができる。一般には、大きい磁気モーメントが必要である場合、より大きな粒子が好ましい。
【0056】
結合法の方法論は、選択的に酸化された抗体とヒドラジン官能基を含有する蛍光マーカーとの反応に加えて、蛍光標識された抗体のナノ粒子への結合によって試験した。
【0057】
安定化コーティング
上記に論じられるように、Fuentesらは、抗体ナノ粒子複合体は抗体親和性を維持するのに生理学的塩溶液中に保存する必要があることを見出した。しかしながら、DVLO理論(DerjaguinおよびLandau(Acta Physicochim, URSS, 1941 14, 633)並びにVerweyおよびOverbeek(Theory and Stability of Lyophobic Colloids: The Interaction of Sol Particles Having an Electrical Double Layer. Elsevier, Inc,1948)によって独立に開発された)ではコロイド安定性が塩溶液中で低下することが予測される。
【0058】
しかしながら、本発明において有用なFicoll安定化酸化鉄ナノ粒子はそのような溶液中で安定であり、従って、長期保存に適することが本発明者らによって見出されている。
【0059】
長期間にわたる生理学的条件における固有のナノ粒子不安定性を克服するため、スクロースおよびエピクロロヒドリンの高度に分岐したコポリマーを用いるコーティング手順を用いた。理論によって束縛しようとするものではないが、高度の分岐性がナノ粒子の安定性を高めると理論付けられた。
【0060】
酸化鉄ナノ粒子は、水中の塩化鉄(II)および塩化鉄(III)と市販の多糖(Ficoll(商標))との混合物から、塩基(例えば、NaOHまたはNH4OH)での処理および不活性雰囲気下での加熱によって生成することができる。引き続く架橋と、それに続くエピクロロヒドリンとのさらなる反応で表面上に反応性部位が生成され、次にそれをアンモニアまたはアミン、例えば、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタンでの処理によってアミノ化することができる。
【0061】
表面上のアミン基の濃度は、それらのナノ粒子を一級アミン基と反応するフルオレスカミンで処理し、その蛍光がアミン基の数に比例する誘導体を生成することによって決定することができる。
【0062】
生理学的溶液中のナノ粒子の安定性も決定することができる。以下に例示される本発明の粒子は生理学的緩衝液中で安定であることが見出され、41日後でも不変であった。
【0063】
実施例
一般的な方法
すべての試薬および溶媒は最高市販グレードであり、さらなる精製なしに用いた。塩化鉄(III)6水和物(FeCl3.6H2O)、塩化鉄(II)4水和物(FeCl2.4H2O)、(アミノオキシ)酢酸ヘミ塩酸塩、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、エピクロロヒドリン、過ヨウ素酸ナトリウム、Toyopearl 65F、MOPC 21、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、塩酸およびアセトンはSigmaから購入した。N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N−2’−エタンスルホネート(HEPES)、フルオレスカミン、Ficoll(商標)400および1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタンはFlukaから購入した。水酸化ナトリウムおよび濃アンモニア溶液はBDHから購入した。脱酸素水は高真空下での複数回の凍結、解凍サイクルによって生成した。
【0064】
デキストランコート酸化鉄ナノ粒子は文献法(Molday et al; J. Immunol. Methods; 1982; 353-367)によって調製した。
【0065】
分析法
アミン基濃度/ナノ粒子gの決定
次の修飾に利用可能な一級アミン基の濃度を決定するため、フルオレスカミンアッセイを開発した。アミン官能化酸化鉄の溶液(97.5μL)を96ウェルプレートに等分し、そこにホウ酸塩緩衝液(0.1Mホウ酸ナトリウム、pH8.5、7.5μL)を添加した。フルオレスカミンの0.1%(w/v)溶液(45μL)をその緩衝塩溶液に添加し、5分間反応させた。タウリンの0.1M溶液の連続希釈によって標準曲線を生成した(図1)。サンプルの蛍光を測定し、標準曲線との比較によってアミノ基濃度に変換した。サンプルを凍結乾燥して秤量し、グラムあたりの一級アミンの濃度(mmol)を算出した。蛍光は、96ウェル蛍光光度計(flurimeter)、ex=390nm、em=460nmで読み取った。
【0066】
ナノ粒子安定性の決定
ナノ粒子(IIおよびIII)を2日間大規模に透析した。塩が透析されていることの検証は溶液の導電率を観察することによって確認した。10×HEPES緩衝塩溶液(1.5M NaCl、0.1M HEPES、pH7.2)を調製し、酸化鉄ナノ粒子溶液(IIおよびIII)およびデキストランコート酸化鉄の調製品で1:9に希釈した。粒子サイズはDLSにより様々な時点で測定した。粒子が安定である場合、平均粒子サイズの変化は観察されない。不安定な粒子は凝集し、経時的に溶液から沈降する。
【0067】
GC−MS法(実施例3(d)用)
反応混合物のサンプルを、アセトンを溶媒として用いて、反応バイアルに等分する。次に、そのサンプルをGC−MSに注入する(1μL、希釈1:20)(Agilent Technologies)。注入の最中、カラム温度を70℃に3分間保持した後、20分にわたって200℃まで上昇させる。
【実施例1】
【0068】
アミノ化架橋Ficoll安定化酸化鉄ナノ粒子(IIa)の1ポット合成
FeCl3.6H2O(0.32g、1.2mmol)、FeCl2.4H2O(0.12g、0.6mmol)およびFicoll(商標)400(1g、0.0025mmol)を脱酸素水(10ml)に溶解した。その鉄−Ficoll溶液を、N2の下で50℃に加熱されたNaOHの1M溶液(20ml)に急速にシリンジ注入した。添加直後、溶液は直ちに黒色になり、酸化鉄の形成が示された。その溶液をN2の下で1時間攪拌した。1時間後、熱を除去し、NaOH(2.8g)をこの酸化鉄溶液に溶解した後、エピクロロヒドリン(3.0ml)を添加した。生成した懸濁液を一晩攪拌した。
【0069】
生じる溶液にNaOH(1.4g、35mmol)およびエピクロロヒドリン(3.0ml、27mmol)を添加した。30分間反応させた後、濃アンモニア溶液(15mL)を添加し、反応を一晩進行させた。次に、その溶液を20%塩酸で中和し、ロータリーエバポレーションによって5mlまで濃縮した。その後、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を、Toyopearl 65Fを充填した10mm×300mmカラムで、0.15M NaCl、0.01M 炭酸Na、pH9を用いて0.75ml/分で溶出して行った。1.5mlの画分を集め、暗褐色に色づいた画分を、Malvern Nano ZSを用いる動的光散乱(DLS)による粒子サイズ決定のために保持した。
【0070】
サンプルをサイズ排除クロマトグラフィーに処することで(図2)、粒子を狭いサイズ範囲に仕分けして集めることが可能となった。表1は粒子サイズと溶出時間との関係を示す。多分散指数は所定の画分内のサイズ分布の指標である。
【0071】
【表1】

【0072】
粒子安定性
Ficoll安定化酸化鉄ナノ粒子は等張緩衝液(0.15M NaCl、0.01M HEPES、pH7.2)中で安定であることが見出された(図3)。Ficoll安定化酸化鉄ナノ粒子の流体力学的直径は試験の41日を超えても不変のままであった(図3)。
【実施例2】
【0073】
a)Ficoll安定化酸化鉄ナノ粒子(I)の合成
(i)ナノ粒子の形成
FeCl3.6H2O(1.13g、4.2mmol)、FeCl2.4H2O(0.48g、2.4mmol)およびFicoll(商標)70(3.75g、0.053mmol)の15mL溶液にアンモニア(7.5%溶液)を滴下によりpH10まで添加した。滴定は自動滴定装置で、10μlの7.5%アンモニア溶液を2秒毎に送液しながら行った。7.5%アンモニアの滴定の最中に幾つかのpH終末点が観察されたが(図5)、おそらくは、このプロセスの最中に幾つかの形態の酸化鉄が形成されたことを示唆するものである。次に、その溶液を50℃で1時間加熱した。その後、生じる黒色溶液を1500rpmで15分間遠心した。上清を保持し、沈殿を廃棄した。最後に、その溶液を0.45μmフィルターを通して濾過した。未結合Ficoll(商標)70を除去するため、その溶液をToyopearl 65Fを充填したカラム(10mm×300mm)でのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)に300μlずつ処した。生じる黒色/褐色画分を動的光散乱(DLS)によるサイズ決定に用いた。図4に示されるような粒子サイズの範囲が生成した。
【0074】
(ii)Ficoll(商標)コーティングの架橋
純粋なFicoll安定化酸化鉄ナノ粒子の溶液(I、30ml、0.3mmol)に水酸化ナトリウム(3.6g、90mmol)を添加した。ひとたび水酸化ナトリウムが溶解したら、エピクロロヒドリン(3ml、27mmol)を添加し、生じる懸濁液を24時間攪拌した。その後、SECを、Toyopearl 65Fを充填した10mm×300mmカラムで、0.15M NaCl、0.01M NaCO3、pH9を用いて0.75ml/分で溶出して行った(図6)。
【0075】
b)アンモニアを用いるFicoll(商標)安定化酸化鉄ナノ粒子のアミノ化(IIb)
水酸化ナトリウム(1.4g)をFicoll安定化酸化鉄ナノ粒子(I)の溶液(30ml)に溶解した後、エピクロロヒドリン(3.0ml)を添加した。30分後、濃アンモニア溶液(15ml)を添加し、その溶液を一晩攪拌した。
【0076】
次に、その溶液を20%塩酸で中和し、ロータリーエバポレーションによって5mlに濃縮した。その後、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を、Toyopearl 65Fを充填したXK16カラムで、炭酸塩緩衝液(0.2M炭酸ナトリウム、pH10)を用いて1ml/分で溶出して行った(図7)。3mlの画分を集め、暗褐色に色づいた画分を、Malvern Nano ZSを用いる動的光散乱(DLS)による粒子サイズ決定に用いた。
【0077】
c)1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタンを用いるFicoll安定化酸化鉄ナノ粒子のアミノ化(III)
水酸化ナトリウム(1.4g)をFicoll安定化酸化鉄ナノ粒子の溶液(I、30ml)に溶解した後、エピクロロヒドリン(3.0ml)を添加した。30分の攪拌後、濃1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタンの30%(v/v)溶液(15ml)を添加し、その溶液を一晩攪拌した。
【0078】
工程(b)におけるように、その溶液を中和し、SECに処した。
【0079】
d)連結基(IVa)の調製
アミノオキシ酢酸(0.03g、0.33mmol)をアセトン(2ml)に溶解した。その反応を薄層クロマトグラフィーによって観察した(溶媒系 クロロホルム:メタノール4:1、酸化合物はブロモクレゾールグリーンによって可視化した)、Rf=0.65.IR(KCl):2926cm-1(b);1728cm-1(s);1442cm-1(s);1382cm-1(s)。
【0080】
この反応にDCC(0.068g、0.33mmol、1eq.)、NHS(0.038g、0.828mmol、2.5eq.)およびジイソプロピルエチルアミン(200μl、1.5mmol、5eq.)を添加した。その反応物を2時間攪拌した。尿素副生物を濾別し、NHS活性化イソプロピリデン誘導体(IVa)を得て次工程において用いた。
【0081】
e)アミノオキシ官能化ナノ粒子(V)の調製
アミン官能化酸化鉄ナノ粒子(IIa、IIbまたはIII)の溶液(アミン濃度=0.02mmol)にNHS活性化イソプロピリデン(IV)(0.2mmol、10eq.)を添加し、その混合物を室温で2時間攪拌した。次に、1Mメトキシルアミン(1ml)を添加し、溶液を90分間攪拌した。その溶液を2mlまでの濃縮し、sephadex G10 XK26カラムで脱塩した(HEPES緩衝液(0.15M NaCl、0.01M HEPES、pH7.2)中、1ml/分の流速)。
【0082】
f)酸化抗体、例えば、MOPC IgM(VI)の調製
凍結乾燥MOPC(PBS中5mg)を2ml中に戻し、4つのアリコートに分割した。次に、アリコートの1つに、遠心濾過(Centricon、排除限界=30kDa)により、アセトン緩衝液(0.15M NaCl、0.01M酢酸ナトリウム、pH5.5)との緩衝液交換を処した。5回の緩衝液交換の後、MOPC 21を酢酸緩衝液中2.5mg/mlの濃度にし、氷で0℃に冷却した。この冷却MOPC溶液に20mM過ヨウ化ナトリウム(250μl)を添加し、生じる混合物を暗所で30分間反応させた。グリセロール(2μl、過ヨウ化物に対して1.5当量)を添加することによって反応を停止させた。次に、その反応物を、酢酸塩緩衝液に対して、緩衝液を5回交換しながら、遠心濾過(centricon、排除限界=30kDa)によって透析した。
【0083】
g)蛍光性ヒドラジン誘導体を用いる蛍光性抗体の調製
フルオレセイン−5−チオセミカルバジド(DMSO中40mM、250μl)を酸化抗体(VI)の新たに調製した溶液(500μlの酢酸緩衝液中に約1.25mgの抗体)に添加し、2時間反応させた。カップリングを確認するため、生成物を蛍光によって監視するサイズ排除クロマトグラフィーに処した(ex=490nm、Em=520nm)(図8)。図8に示されるように、標識抗体の溶出に対応する蛍光ピークおよび未反応蛍光プローブに対応する第2ピークが観察された。
【0084】
h)ナノ粒子−抗体複合体(VII & VIII)の調製
新たに調製した抗体(VI)(0.15M NaCl、0.1M NaAc、pH5.5中に200μg、200μL)を酸化鉄ナノ粒子(V)の溶液(300μgの鉄、500μL)に添加し、反応を一晩進行させる。その反応混合物を磁気分離カラム(Macs、Miltenyl Biotech)を通過させることにより、結合した抗体を非結合抗体から分離する。
【実施例3】
【0085】
a)連結基(IVa)の代替調製(実施例2dを参照)
【0086】
【化13】

【0087】
イソプロピリデンアミノオキシ酢酸(150mg、1.1mmol)をDMF(500μL)に溶解した。その反応混合物にDCC(240mg、1.1mmol、1eq.)およびNHS(180mg、1.6mmol、1.4eq)を添加した。その反応物を室温で2時間攪拌した。不溶性DCU生成物を濾過によって除去し、活性化エステルを直ちに用いた。
【0088】
b)保護アミノオキシ官能化ナノ粒子(Vprot)の代替調製(実施例2eを参照)
【0089】
【化14】

【0090】
50nmアミン官能化Ficoll(登録商標)コート酸化鉄ナノ粒子(IIa、IIbまたはIII)の溶液(3mL、0.01mmolの一級アミン基、0.15M塩化ナトリウム、0.01Mホウ酸塩緩衝液、pH8)にイソプロピリジンアミノオキシ酢酸のNHS活性化エステル(IVa)(約251mg、1.1mmol、10eq.)を添加し、反応物を1時間攪拌した。次に、その反応物をSephadex(登録商標)G−10(カラム:15mm×200mm、0.15M NaCl、0.01M酢酸ナトリウム、pH5;1mL/分)で脱塩した。
【0091】
c)イソプロピリデン保護アミノオキシ官能化ナノ粒子の代替脱保護(実施例2eを参照)
(i)N−イソプロピリデン保護アミノオキシ官能化ナノ粒子の溶液(500μL)(Vprot)に0.5Mメトキシアミン(500μL、pH4.6)を添加した。その溶液を気密サンプルバイアル内に1時間保持した。サンプルバイアルの上部空間を吸引し、GC−MSによって分析した。脱保護生成物、プロパン−2−オン−O−メチルオキシム(m/z=87)を検出できることが見出され、イソプロピリデンの上出来の脱保護が示された(図9および10)。この化合物が溶媒ピーク(3.2分)の直後に検出されたことを考えると、プロパン−2−オン−O−メチルオキシムを脱保護の最中にその場で検出できることが推定された。
【0092】
(ii)脱保護のin situ監視の可能性を探るため、N−イソプロピリデン保護アミノオキシ官能化ナノ粒子(Vprot)を密封バイアル内、0.25Mメトキシアミン中でインキュベートした。その後、脱保護反応の上部空間をサンプリングし、GC−MSによって分析した(図11)。監視の感度を高めるため、質量選択的検出(86<m/z<89)を用いた。図10に示されるように、プロパン−2−オン O−メチルオキシムのものと同じ位置の、同じ主質量を有するピークが検出された。従って、脱保護をGC−MSによってin situ監視できることが示された。
【0093】
d)代替連結基の合成:6−イソプロピリデンアミノオキシ−ヘキサン酸
【0094】
【化15】

【0095】
(i)6−ブロモヘキサン酸(500mg、2.56mmol)を氷冷水(2mL)に溶解した。その溶液に40%水酸化ナトリウム(4mL)を添加した。その溶液をすべての試薬が溶解するまで攪拌した。最後に、アセトオキシム(187mg、2.56mmol)を添加した。その後、反応物を滴下により20分間にわたって蒸気過熱Leibigコンデンサーを通過させ、丸底フラスコに集めた。その反応混合物を氷上でpH2に酸性化し、エーテルで抽出した。その生成物をGC−MSによって分析したところ、様々な副反応が生じていることが示された。そのGC−MSスペクトルを、下記表に示される割当で、図12に示す。
【0096】
【表2】

【0097】
(ii)副反応の数に加えて反応時間を減少させる試みにおいて、マイクロ波加熱を用いた。6−ブロモヘキサン酸(500mg、2.56mmol)を氷水(2mL)に溶解した。その溶液に40%水酸化ナトリウム(4mL)を添加した。その溶液をすべての試薬が溶解するまで攪拌した。最後に、アセトオキシム(187mg、2.56mmol)を添加した。その後、反応混合物を市販マイクロ波オーブン(800W)に入れ、75%出力で5×15s照射した。反応混合物をpH3に酸性化し、クロロホルムで抽出してGC−MSによって分析した。エーテルの蒸発で無色油が生成した。IR(KCl):2926cm-1(b);1728cm-1(s);1442cm-1(s);1382cm-1(s)。1H NMR(CDCl3):4.002(t);1.859(s);1.835(s);1.669(m);1.413(m)。質量(El):(予想/実際)187.12/187。
【0098】
図13に示されるGC−MSスペクトルは、この方法で1種類の主要生成物が生成したことを示す。3.531分の小ピークは除去生成物であり、クロロホルム抽出で除去することができた。化合物の純度を1H NMRおよび13C NMRによって検証した;1H NMR(約3.5ppmおよび1.5ppm)によってはビニル性プロトンは検出されなかった。
【0099】
還流は典型的には60分を要し、かつ様々な生成物を生じるのに対して、マイクロ波加熱は75秒を要し、1種類の主要生成物を生じた。
【0100】
e)蛍光標識された酸化抗体の代替合成
(i)MOPC−21抗体(500μL、1.25mg、0.1M炭酸ナトリウム、pH9)にフルオレセインイソチオシアネート(50μL、DMSO中に1mg/mL)を添加し、6時間反応させた。その後、未反応フルオレセインイソチオシアネートを0.15M塩化ナトリウム/0.01M酢酸ナトリウム、pH5.5に対する遠心濾過(MWカットオフ−30kDa)によって除去した。
【0101】
(ii)蛍光標識されたMOPC抗体(300μL、1.25mg、0.15M塩化ナトリウム/0.01M酢酸ナトリウム)に過ヨウ化ナトリウム(230mM、8μL、0.1M酢酸ナトリウム、pH5.5)を添加した。反応を4℃、暗所で90分間行った。その後、グリセロール(10μL)を添加することによって反応を停止させた。次に、その反応混合物を0.15M塩化ナトリウム/0.01M酢酸ナトリウムに対する遠心濾過(MWカットオフ−30kDa)によって脱塩した。
【0102】
f)蛍光標識されたMOPC抗体のナノ粒子への結合
実施例3(e)において生成された酸化抗体(約1.25mg)を実施例2(e)の方法において生成されたアミノオキシ官能化酸化鉄ナノ粒子の溶液(1mL)に添加し、一晩反応させた。次に、その反応混合物を、蛍光検出(490nmでのEx/540nmでのEm)を用いる、Superose(商標)6でのサイズ排除クロマトグラフィー(15mm×300mm、0.1mL/分の流速、溶離液−0.1M炭酸ナトリウム、pH8.5)によって分析したところ、抗体の結合が確認された(図14を参照)。抗体を過剰に用いたが故に、フリー抗体の相対蛍光がより大きい。抗体に結合したフルオレセインの失活による蛍光効率の低下もあり得そうである。失活は、抗体が近くに接近しているものと思われるため、フルオレセイン分子の近接相互作用から生じる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】タウリンの0.1M溶液の連続希釈によって生成された標準蛍光曲線である。
【図2】実施例1において生成されたナノ粒子のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)クロマトグラム(Toyopearl 65Fカラム、溶離液=0.15M NaCl、0.01M NaCO3、pH9、流速0.75ml/分)である。
【図3】Ficollコートナノ粒子の2つの時点でのサイズ分布を示す。
【図4】実施例2(a)(i)において生成されたナノ粒子のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)クロマトグラム(Toyopearl 65Fカラム、溶離液=0.15M NaCl、0.01M NaCO3、pH9、流速0.75ml/分)である。
【図5】実施例2(a)におけるアンモニア添加のpH滴定曲線である。
【図6】実施例2(a)(ii)において生成されたナノ粒子のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)クロマトグラム(Toyopearl 65Fカラム、溶離液=0.15M NaCl、0.01M NaCO3、pH9、流速0.75ml/分)である。
【図7】実施例2(b)において製造されたナノ粒子のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)クロマトグラム(Toyopearl 65Fカラム、溶離液=0.15M NaCl、0.01M NaCO3、pH9、流速0.75ml/分)である。
【図8】実施例2(g)の蛍光標識抗体のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)クロマトグラム(phenomenex s2000カラム、溶離液=0.15M NaCl、0.01M NaCO3、pH9、流速1ml/分;蛍光検出 Ex=490nm/Em=520nm)である。
【図9】イソプロピリデン保護アミノオキシ官能化ナノ粒子の脱保護生成物の経時的GC−MSを示す。
【図10】イソプロピリデン保護アミノオキシ官能化ナノ粒子の脱保護生成物の経時的GC−MSを示す。
【図11】イソプロピリデン保護アミノオキシ官能化ナノ粒子の脱保護生成物の質量選択検出を示す。
【図12】6−イソプロピリデンアミノオキシ−ヘキサン酸の合成生成物の、Leibigコンデンサーを用いて生成された場合のGC−MSである。
【図13】6−イソプロピリデンアミノオキシ−ヘキサン酸の合成生成物の、マイクロ波加熱を用いて生成された場合のGC−MSである。
【図14】SECにより、Superose(商標)6で分析された、抗体、酸化物反応混合物の蛍光追跡である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄ナノ粒子であって、前記ナノ粒子の外面上に式−X−NH2の官能基を含み、式中、XはO、NR、NHまたはSから選択され、RはC1-7アルキルである、前記粒子。
【請求項2】
XがOまたはNHから選択される、請求項1に記載の酸化鉄ナノ粒子。
【請求項3】
XがOである、請求項2に記載の酸化鉄ナノ粒子。
【請求項4】
官能基が基、
【化1】

によって前記ナノ粒子の外面に連結し、式中、nは1から11である、請求項1から3のいずれか一項に記載の酸化鉄ナノ粒子。
【請求項5】
酸化鉄ナノ粒子であって、前記ナノ粒子の外面上に式−X−NR12の官能基を含み、式中、XはO、NH、NRまたはSから選択され;RはC1-7アルキルであり;R1はHであり、かつR2はアミン保護基であるか、またはR1およびR2は一緒になってアミン保護基を形成する、前記粒子。
【請求項6】
1およびR2が一緒になってジメチルイミド保護基を形成する、請求項5に記載の酸化鉄ナノ粒子。
【請求項7】
XがOまたはNHから選択される、請求項5または請求項6のいずれかに記載の酸化鉄ナノ粒子。
【請求項8】
XがOである、請求項6に記載の酸化鉄ナノ粒子。
【請求項9】
官能基が基、
【化2】

によって前記ナノ粒子の外面に連結し、式中、nは1から11である、請求項5から8のいずれか一項に記載の酸化鉄ナノ粒子。
【請求項10】
アミン官能化酸化鉄ナノ粒子を式4の連結基と反応させる工程を含み、式中、Yは活性化基であり、nは1から7であり、かつX、R1およびR2は請求項9に記載の通りである、請求項4のナノ粒子の製造方法。
【化3】

【請求項11】
アミン官能化酸化鉄ナノ粒子を請求項10に記載の式4の連結基と反応させる工程、およびそれに続く、アミン保護基を除去する脱保護工程を含む、請求項4のナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
YがN−ヒドロキシスクシンイミドである、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
細胞標的リガンドを請求項1から4のいずれか一項に記載の酸化鉄ナノ粒子に結合させるためのプロセスであって、前記リガンド上のアルデヒド基とナノ粒子の外面上の前記−X−NH2官能基とを反応させて式−C=N−X−の結合をリガンドとナノ粒子との間に形成することによる、前記プロセス。
【請求項14】
リガンドが糖質含有リガンドである、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
糖質含有リガンドがグリコシル化タンパク質である、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
グリコシル化タンパク質が抗体である、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
式−C=N−X−の結合を介して細胞標的リガンドに連結する酸化鉄ナノ粒子を含む結合粒子であって、式中、XはO、NR、NHもしくはSから選択され、RはC1-7アルキルである、粒子複合体。
【請求項18】
リガンドが糖質含有リガンドである、請求項17に記載の複合体。
【請求項19】
糖質含有リガンドが糖タンパク質である、請求項18に記載の複合体。
【請求項20】
糖タンパク質が抗体である、請求項18に記載の複合体。
【請求項21】
ナノ粒子がFicoll安定化酸化鉄ナノ粒子である、請求項17から20のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項22】
XがNHまたはOから選択される、請求項17から21のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項23】
XがOである、請求項22に記載の複合体。
【請求項24】
結合−C=N−X−が基、
【化4】

によって前記ナノ粒子の外面に連結し、式中、nは1から11である、請求項17から23のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項25】
細胞のターゲティングおよび標識のための、請求項17から24のいずれか一項に記載の複合体の使用。
【請求項26】
MRIコントラストイメージング(MRI contrast imaging)のための、細胞分離のための、または医学的処置の一部としての、請求項25に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2009−531302(P2009−531302A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556838(P2008−556838)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000526
【国際公開番号】WO2007/099289
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(503276997)メディカル リサーチ カウンシル (10)
【Fターム(参考)】