説明

標的核酸の検出方法及びそれに用いるキット

【課題】より実用的な標的核酸の検出方法を提供する。
【解決手段】前記標的核酸に予め関連付けられた検出用プローブとハイブリダイズするタグ配列を備え、前記標的核酸に由来する増幅産物と、目視で視認可能な標識物質と前記増幅産物の一部とハイブリダイズする標識用配列とを備える標識用プローブと、前記検出用プローブを固相担体上に備えるアレイと、を用い、前記アレイにおける前記増幅産物と前記検出用プローブとをハイブリダイズ可能に接触させる第1のハイブリダイゼーションと、前記標識用プローブと前記増幅産物とをハイブリダイズ可能に接触させる第2のハイブリダイゼーションとを実施するハイブリダイゼーション工程と、前記第1のハイブリダイゼーションと前記第2のハイブリダイゼーションとによるハイブリダイズ産物を前記標識物質で検出する工程と、を備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、標的核酸の検出方法及びそれに用いるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
各種の生体由来の標的核酸を検出するための方法として、予め標的核酸を増幅して得た増幅産物と固相担体上に予め固定した検出用プローブとをハイブリダイゼーションさせ、そのハイブリダイズ産物に対してシグナル付与する方法が汎用されている。
【0003】
例えば、臨床現場で汎用性の高い結核菌の薬剤感受性の検査方法が開示されている(非特許文献1)。この方法では、菌から抽出したDNAをアレイを用いて目視で検出する。通常、この種の方法では、ハイブリダイズ産物を目視で簡易に検出するために、5段階程度の工程が必要であった。例えば、ビオチン標識した増幅産物を得て、この増幅産物と検出用プローブとのハイブリダイゼーションを行い、次いでハイブリダイズした増幅産物をペルオキシダーゼで標識し、さらに発色反応を行っていた。
【0004】
さらに、この種の方法では、発色工程のみならず、発色工程に至る標的核酸からの増幅産物の調製工程、ハイブリダイゼーション工程なども複数のサブステップを含んでいる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】臨床微生物迅速診断研究会誌、14:45−50
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の方法では、ハイブリダイゼーション産物を目視で判定するために、多段階にわたるシグナル付与工程を実施している。このため、操作の煩雑性や作業時間が増大していることはもとより、操作ミスの可能性や人為的誤差も増大するため、検出精度が低下するおそれもあった。
【0007】
また、従来の方法では、工程の煩雑さゆえに、検査を単一検体ないし少数の検体を個別かつ迅速に行うこと困難であった。一方、多数検体を一括して処理するのでは、専用の装置が必要であるほか一定以上の検体数がないと高コストになるという問題があった。
【0008】
さらに、通常、ハイブリダイゼーション工程や洗浄工程では、その工程温度を特定の一定温度に保たねばならないが、一般的に使用される気相で加温するインキュベーターでは、厳密な温度制御が難しく、非特異的結合による誤判定に繋がりやすいという問題があった。
【0009】
本明細書は、より実用的な標的核酸の検出方法及びそれに用いるキットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、より実用的な標的核酸の検出方法、すなわち、簡易性、迅速性及び低コスト性等を実現できる、検出方法及びそれに用いるキットの提供につき、検討した。その結果、反応系サイズのコンパクト化とともに、ハイブリダイズ産物の検出の簡便化を同時に実現できることを見出した。本明細書は、これらの知見に基づき以下の手段を提供する。
【0011】
本明細書は、標的核酸の検出方法を提供する。この検出方法は、前記標的核酸に予め関連付けられた検出用プローブとハイブリダイズするタグ配列を備え、前記標的核酸に由来する増幅産物と、目視で視認可能な標識物質と前記増幅産物の一部とハイブリダイズする標識用配列とを備える標識用プローブと、前記検出用プローブを固相担体上に備えるアレイと、を用いることができる。また、この検出方法は、前記アレイにおける前記増幅産物と前記検出用プローブとをハイブリダイズ可能に接触させる第1のハイブリダイゼーションと、前記標識用プローブと前記増幅産物とをハイブリダイズ可能に接触させる第2のハイブリダイゼーションとを実施するハイブリダイゼーション工程を備えることができる。さらに、前記第1のハイブリダイゼーションと前記第2のハイブリダイゼーションとによるハイブリダイズ産物を前記標識物質で検出する工程を備えることができる。この検出方法において、前記標識物質は、着色物質を備える粒子とすることができる。前記固定化領域は、2個以上200個以下であってもよい。また、前記検出用プローブは、正規直交配列である塩基配列を有するプローブであってもよい。
【0012】
また、前記増幅産物は、前記タグ配列と前記標識用配列とハイブリダイズする標識用タグ配列とを対合するそれぞれの鎖の5’突出末端に備えることができる。この態様において、前記ハイブリダイゼーション工程は、前記第1のハイブリダイゼーションと前記第2のハイブリダイゼーションとを同一の前記アレイ上で同時に実施する工程とすることができる。
【0013】
本検出方法の前記ハイブリダイゼーション工程は、前記アレイを用いて、前記アレイ毎に1ml以下の液中で前記第1及び第2のハイブリダイゼーションを実施する工程としてもよい。この態様において、前記ハイブリダイゼーション工程は、前記検出用プローブの固定化領域の大きさは、0.2mm2以上150mm2以下であり、前記固相担体が、平面積が150mm2以下、アスペクト比が1.5以上のシート状体である前記アレイを用いて、ハイブリダイゼーションを実施する工程とすることができる。この態様においては、また、前記ハイブリダイゼーション工程は、前記固相担体が、平面積が50mm2以下のシート状体である前記アレイを用いて、前記アレイ毎に0.3ml以下の液中でハイブリダイゼーションを実施する工程とすることができる。さらに、この態様において、前記アスペクト比が20以下であってもよい。
【0014】
本検出方法において、前記アレイは、前記固相担体上に前記標識物質による発色見本領域を別途備えることもできる。前記発色見本領域は、顔料系インクにより形成されていてもよい。さらに、前記固相担体が液体の浸透性又は透過性を有することもでき、この場合、前記固相担体の材料は、ポリエーテルスルホン、ニトロセルロース、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン及びセルロースから選択されてもよい。また、前記固相担体の厚みは、0.01mm以上0.3mm以下としてもよい。
【0015】
本検出方法において、前記アレイは、前記複数個の固定化領域の外縁の所定の一部にハンドリング部位を備えることができる。また、前記ハイブリダイゼーション工程を、前記アレイを所定の方向性で同一のチューブ状容器に投入した状態を維持して実施することもできる。さらに、前記ハイブリダイゼーション工程に先立って、前記容器内で核酸増幅反応により被験試料を調製する工程を備えることもできる。
【0016】
本明細書は、標的核酸の検出用キットを提供する。このキットは、標的核酸に予め関連付けられた検出用プローブとハイブリダイズするタグ配列を備え、前記標的核酸に由来する増幅産物を遺伝子増幅法により増幅する1又は2以上のプライマーセットと、目視で視認可能な標識物質と前記増幅産物の一部とハイブリダイズする標識用配列とを備える1又は2以上の標識用プローブと、前記検出用プローブを固相担体上に備えるアレイと、を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】標的核酸を検出するまでのフローの一例を示す図である。
【図2】検出用プローブにハイブリダイズするタグ配列と標識プローブにハイブリダイズする標識用タグ配列とをそれぞれ5’突出末端に備える増幅産物の取得の一例を示す図である。
【図3】本検出方法における最終的なハイブリダイズ産物の一例を示す図である。
【図4】実施例におけるゲノムDNAの増幅結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例で得られた検出結果を示す図である。
【図6】本発明の実施例で得られた検出結果を示す図である。
【図7】実施例における標的核酸の検出方法(上段)と従来の標的核酸の検出方法(下段)とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書は、標的核酸の検出方法及びそのためのキット等を開示する。本明細書に開示される検出方法は、第1のハイブリダイゼーションと第2のハイブリダイゼーションとを実施することで、迅速かつ簡易に標的核酸を検出することができる。さらに、本検出方法は、前記タグ配列と標識用配列とハイブリダイズ可能な標識用タグ配列とを対合する各鎖の5’末端側に突出して備える増幅産物を用いることで、増幅産物を変性して一本鎖化する工程を経なくても第1及び第2のハイブリダイゼーションを実施できる。さらに、第1及び第2のハイブリダイゼーションを同時に同一アレイ上で実施できる。
【0019】
この態様の増幅産物は、例えば、図2に示すように、第1のプライマー及び第2のプライマーのセットにより標的核酸を増幅することにより得られる。第1のプライマーは、標的核酸に予め関連付けられた検出用プローブに相補的なタグ配列などの第1の任意の塩基配列と標的核酸中の第1の塩基配列を識別する第1の識別配列とを含み、第1の任意の塩基配列と第1の認識配列との間に、DNAポリメラーゼ反応を抑制又は停止可能な連結部位を有しており、第2のプライマーは、標識用タグ配列と、標的核酸中の第2の塩基配列を識別する第2の識別配列を含み、標識用タグ配列と第2の識別配列との間に、DNAポリメラーゼ反応を抑制又は停止可能な連結部位を有している。
【0020】
連結部位は、DNAポリメラーゼの反応を抑制又は停止させる。すなわち、当該連結部位は、天然塩基等を含まないなどの理由により、DNAポリメラーゼによるDNA伸長反応の鋳型とはなりえない。このため、図2に示すように、第1のプライマーによって増幅されたDNA一本鎖が鋳型鎖となって、さらに第2のプライマーによって増幅されるとき、第2のプライマーからのDNA伸長反応は、当該連結部位に対合する部位より3’側において抑制又は停止される。
【0021】
また、第2のプライマーは、第1のプライマーと同様、第2のプライマーによって増幅されたDNA一本鎖が鋳型鎖となって、さらに第1のプライマーによって増幅されるとき、第1のプライマーからのDNA伸長反応は、当該連結部位に対合する部位より3’側において抑制又は停止される。このため、増幅工程により得られる増幅断片(DNA二重鎖断片)は、結果として、一方の端部にタグ配列を突出した一本鎖として備え、他方の端部に任意の塩基配列を突出した一本鎖として備えるとともに、塩基の対合による二重鎖部分を備えたものとなると推論される。
【0022】
以上のことは、第1の任意の塩基配列を、標的核酸に予め関連付けられた検出用プローブに相補的なタグ配列としたプライマーセットを用いて、標的核酸を含む試料に対してDNAポリメラーゼによる増幅工程を実施することで得られる増幅断片を、そのまま変性することなく、検出用プローブとハイブリダイゼーションさせるとき、極めて高感度にかつ迅速に標的核酸を検出できることでも支持されている。図1に示すように、得られたDNA二重鎖断片が、標的核酸中の第1の塩基配列及び第2の塩基配列において二重鎖部分を形成し、端部にタグ配列を一本鎖として有するDNA二重鎖断片となっているため、この一本鎖で効率的にプローブとハイブリダイゼーションしていると考えられる。ハイブリダイゼーション効率が上昇することにより感度は向上する。
【0023】
こうした増幅産物を用いることで本発明の検出方法は、以下の少なくとも一つの効果を実現できる。
(1)ハイブリダイゼーションの効率化(迅速化)
(2)ラベリング(標識用プローブとのハイブリダイズ)の効率化
(3)検出感度の高度化
(4)工程の簡略化(迅速化)−特に二重鎖を一本鎖とする変性工程の省略による
【0024】
こうした連結部位を含んで塩基配列を有するオリゴヌクレオチド誘導体は、それ自体プライマー等の核酸増幅剤として有用である。また、こうしたプライマーを用いる核酸増幅方法、得られたDNA二重鎖断片及び当該断片を含むハイブリダイゼーション用組成物も、それぞれその形態に応じた少なくとも一つの効果を発揮することができる。
【0025】
さらにまた、本検出方法は、固相アレイの小スケール化と組み合わせることにより、試薬量の低減による低コスト化のほか、精度がよく迅速な温度制御が可能となる。さらに、可視光による検出は、装置コストを低減できるほか、リアルタイムに発色を観察できる点が検査の迅速性に適している。
【0026】
本明細書において、標的核酸は、ヌクレオチドの重合体を意味しており、その数は特に限定しない。したがって、標的核酸には、数十程度のヌクレオチドが連結したオリゴヌクレオチドが包含される。標的核酸は、例えば、体質、遺伝病、癌などの特定疾患についての発症、疾患診断、治療予後、薬剤や治療の選択などのヒト、非ヒト動物などの生物における遺伝子上の指標となる塩基あるいは塩基配列を含んでいる。典型的には、SNPなどの多型や先天的又は後天的変異が挙げられる。また、病原菌やウイルスなどの微生物由来の塩基配列も標的核酸が有する塩基配列として挙げられる。
【0027】
本明細書において、標的核酸が含まれ得る試料は、各種の生体由来の試料(血液、尿、痰、組織、細胞(各種の動物由来の培養動物細胞、培養植物細胞、培養微生物細胞を含む))あるいは、こうした生体試料からDNAを抽出したDNA抽出試料等が挙げられる。
【0028】
以下では、本明細書の開示の代表的かつ非限定的な具体例について、図面を参照して詳細に説明する。この詳細な説明は、本明細書の開示の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本明細書の開示の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴ならびに開示は、さらに改善された標的核酸の検出方法等を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。
【0029】
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本明細書の開示を実施する際に必須のものではなく、特に本明細書の開示の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本明細書の開示の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。
【0030】
本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。
【0031】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0032】
(標的核酸の検出方法)
本明細書に開示される標的核酸の検出方法は、標的核酸に予め関連付けられた検出用プローブとハイブリダイズするタグ配列を備え、標的核酸に由来する増幅産物と、目視で視認可能な標識物質と前記増幅産物の一部とハイブリダイズする標識用配列とを備える標識用プローブと、前記検出用プローブを固相担体上に備えるアレイと、を準備し、用いることができる。なお、本検出方法は、公知の種々のハイブリダイゼーション手法に適用される。例えば、平板状の固相担体にドット状の固定化領域がマトリックス状等に配置されたアレイを標識プローブや増幅産物を含むハイブリダイズ媒体に全体を浸漬して行うハイブリダイゼーション(以下、液中型ハイブリダイゼーションともいう。)に適用される。また、平板状の固相担体にストリーム状(帯状)等各種形態の固定化領域が配置されたアレイの一部に移動相でもあるハイブリダイズ媒体を供給して、アレイに対して所定の方向性で移動相を展開させて行うアフィニティークロマトグラフィーにおけるハイブリダイゼーション(以下、展開型ハイブリダイゼーションともいう。)にも適用される。以下、アレイ、増幅産物及び標識用プローブの順に説明する。
【0033】
(アレイ)
アレイは、標的核酸と予め関連付けられた検出用プローブの複数個の固定化領域を固相担体上に備えている。本アレイの形状やサイズは特に限定されないで、公知の各種形状やサイズとすることができる。アレイは、公知の種々のハイブリダイゼーションに応じた形態とされる。アレイを、液中型ハイブリダイゼーションに適用する場合、アレイは、アレイ一つにつき1ml以下の液中型ハイブリダイゼーション可能な程度の固有の形態を有している。すなわち、本アレイは、こうした固有の形態(サイズ及び形状)の固相担体を備えていることが好ましい。また、展開型ハイブリダイゼーションに適用する場合には、少なくとも、検査や研究用に汎用されているエッペンドルフチューブ(商標)のようなマイクロチューブに供給されるハイブリダイゼーション溶液に対してアレイの端部が浸漬可能なサイズ(幅方向)及び形状を備えていることが好ましい。好ましくは、この種のチューブの底部近傍から上端までに収容可能な部位を備える長尺体である。アレイは、どのように準備されてもよく、商業的に入手してもよいが、本検出方法は、アレイを準備するためのアレイ作製工程を備えていてもよい。
【0034】
アレイに1ml以下の液中型ハイブリダイゼーションないし1ml以下の移動相を用いた展開型ハイブリダイゼーションを可能とする形態は、ハイブリダイゼーション容器の大きさによっても異なるが、本発明では、当該容器として、例えば、先細りのあるいは寸胴状のチューブ状容器が意図されることが好ましい。すなわち、こうした容器を用いて本検出方法を実施することが好ましい。先細り状の容器の例としては、典型的には、エッペンドルフチューブ(商品名)が挙げられ、寸胴状の容器の例としては、典型的には一般的な試験管等が挙げられる。チューブ状容器は、例えば、1ml以下、0.5ml以下、0.3ml以下のハイブリダイゼーション液を充填できる容積を有することが好ましい。こうしたチューブ状容器としては、それぞれ、内径7〜9mm、典型的には8mm、深さ37〜39mm、典型的には38mm、内径5〜7mm、典型的には6mm、深さ29〜31mm、典型的には30mm及び内径4〜6mm、典型的には5mm、深さ19〜21mm、典型的には20mmのサイズを有するものが挙げられる。
【0035】
容器は、また、透明性であることが好ましい。内部のアレイの状態、ひいては標識物質を肉眼で視認するのに都合がよいからである。また、容器は、その開口部(通常は上部)を開閉するために脱着可能な蓋を備えていてもよい。こうした蓋を備えることで、少ない液量の蒸発等を防ぐとともに、温度制御を迅速かつ容易化できる。
【0036】
より具体的には、アレイの形態は、平面積が150mm2以下であることが好ましい。この平面積以下であると、十分に1ml以下の液中においても固定化領域においてハイブリダイゼーションが可能である。より好ましくは、100mm2以下であり、さらに好ましくは50mm2以下である。50mm2以下であると、0.3ml以下の液中でのハイブリダイゼーションにも有効である。
【0037】
また、好ましくは、アスペクト比が1.5以上の方形状である。こうした方形状であると、チューブ状容器に収まりやすく、ハンドリングも容易である。また、チューブ状容器内で反転したりせずに、容器内において投入時の形態が保持され、予め定めた一定の方向性が確保される。さらに、方形状であると、アレイの方向性を目視で簡易に判別することができ、ハイブリダイゼーション工程ほか、シグナル付与工程及び検出工程に都合がよい。より好ましくはアスペクト比は20以下である。アスペクト比が20を超えると固定化領域の検出パターンを把握しにくくなるからであり、20以下であると複数個の固定化領域におけるシグナルを目視でパターンとして把握しやすいため、検出精度を維持ないし向上させることができる。アスペクト比は好ましくは15以下であり、より好ましくは10以下であり、さらに好ましくは5以下であり、一層好ましくは3以下である。
【0038】
アレイは、シート状であることが好ましい。シート状であると、ハンドリング性が良く、検査データとしての保存にも有利である。さらに、シート状であると、一定の可撓性も付与しやすく、小スケールの容器への充填性、収納性及び反応性に有利に寄与することができる。アレイの厚みは、固相担体の厚みとして、0.01mm以上0.3mm以下であることが好ましい。
【0039】
(検出用プローブの固定化領域)
アレイは、固相担体上に標的核酸と予め関連付けられた検出用プローブを保持している。検出用プローブは、検出を容易にするため、通常、所定の形状の固定化領域を形成するように保持されている。検出用プローブは、検出する対象や検出手法、あるいは標的核酸の検出システムに応じて適宜選択される。例えば、感染症等の感染原因菌の菌種(型)判定には、複数の検出用プローブに対するハイブリダイゼーションによって検出する。変異の検出にあたっては、一つの変異に対して1又は複数の検出用プローブの固定化領域を対応させてもよい。
【0040】
検出用プローブは、それぞれプロービングのための固有の塩基配列である検出用配列を有している。このような検出用配列は、標的核酸に特徴的な配列、すなわち標的配列と、無関係に設定することができる。標的配列と無関係に設定することで、検出用プローブの検出用配列を、複数の検出用プローブ間での非特異的結合を抑制又は回避できるように、かつ、ハイブリダイゼーションに好適な温度及び時間等のハイブリダイゼーション条件を考慮して設定することができる。また、標的核酸の種類にかかわらず、いつも同じ検出用プローブを用いることができるようになる。
【0041】
検出用配列の長さは、特に限定しないが、20塩基以上50塩基以下であることが好ましい。この範囲であると、各検出用配列の特異性を確保しつつハイブリダイゼーション効率も確保できるからである。例えば、こうした塩基長の検出用配列は、後述する配列番号1〜100及びその相補配列から選択される各23塩基長の塩基配列を2つ組み合わせた46塩基長の配列や、当該組み合わせた塩基配列に対して適宜塩基を付加、欠失などすることにより得ることができる。より好ましくは、20塩基以上25塩基以下である。例えば、こうした塩基長の検出用配列は、配列番号1〜100の各23塩基長の塩基配列及びその相補配列又はこれらの塩基配列に対して適宜塩基を付加、欠失などすることにより得ることができる。なお、第1のプライマーにおけるタグ配列は、検出用配列と対合する塩基配列であるため、タグ配列の塩基長は、検出用配列と同様、20塩基以上50塩基以下であることが好ましく、より好ましくは、20塩基以上25塩基以下である。
【0042】
こうした検出用プローブの検出用配列としては、例えば、配列番号1〜配列番号100に記載の塩基配列又はこの塩基配列に相補的な塩基配列を用いることができる。これらの塩基配列は全て同一塩基長(23塩基長)であり、融解温度(Tm)が40℃以上80℃以下、好ましくは50℃以上70℃以下であって、同一条件でのハイブリダイズにおいて均質なハイブリダイズ結果が得ることができるようになっている。なお、上述したように、これらの塩基配列群から選択される2種を組み合わせることもできる。さらに、こうした配列に対して、特異性を失わない範囲で塩基を付加、欠失、置換等することができる。同時に用いる検出用プローブのための検出用配列は、配列番号1〜100で表される塩基配列(群)か、あるいはこれらに相補的な塩基配列(群)のいずれかの群から選択されることが好ましい。
【0043】
検出用プローブの検出用配列は、このような候補となる塩基配列又はその相補配列から適宜選択して用いることができるが、なかでも、以下の表に示す塩基配列又はその相補配列から選択される1種又は2種以上の塩基配列をそれぞれ検出用配列として有する1種又は2種以上のプローブのみからなるプローブセット、あるいは以下の全ての塩基配列又はその相補配列をそれぞれ検出用配列として有するプローブのみからなるプローブセットを用いることが好ましい。こうした塩基配列を検出用配列として選択することで、短時間のハイブリダイゼーションが可能であり、ハイブリダイゼーションの一層の迅速性を実現できる。
【0044】
【表1】

【0045】
このような検出用プローブにおける検出用配列は、正規直交化配列ともいい、たとえば乱数から得られた所定塩基長のDNA配列に対して連続一致長、Nearest-Neighbor法による融解温度予測、ハミング距離、二次構造予測の計算を行うことにより設計される。正規直交化配列は、核酸の塩基配列であって、その融解温度が均一であるもの、即ち融解温度が一定範囲内に揃うように設計された配列であって、核酸自身が分子内(intramolecular)で構造化して、相補的な配列とのハイブリッド形成を阻害することのない配列であり、尚且つこれに相補的な塩基配列以外とは安定したハイブリッドを形成しない塩基配列を意味する。1つの正規直交化配列群に含まれる配列は、所望の組み合わせ以外の配列間および自己配列内において反応が生じ難いか、または反応が生じない。また、正規直交化配列は、PCRにおいて増幅させると、たとえば上述のクロスハイブリダイズのような問題に影響されずに、当該正規直交化配列を有する核酸の初期量に応じた量の核酸が定量的に増幅される性質を有している。上記のような正規直交化配列は、H.Yoshida and A.Suyama,“Solution to 3-SAT by breadth first search”,DIMACS Vl.54, 9-20(2000)および特願2003−108126に詳細が記載されている。これらの文献に記載の方法を使用して正規直交化配列を設計することができる。
【0046】
一つの固定化領域は、好ましくは一種類のオリゴヌクレオチドプローブが固定化されている。検出用プローブは、その3’末端が担体に結合されていてもよいし、5’末端が結合されていてもよい。共有結合性であってもよいし非共有結合性であってもよい。オリゴヌクレオチドプローブの固相担体への固定化手法については、当業者であれば、公知の各種手法に必要に応じて適宜採用することができる。検出用プローブは、その3’末端が担体に結合されていてもよいし、5’末端が結合されていてもよい。共有結合性であってもよいし非共有結合性であってもよい。検出用プローブは、従来公知の各種の方法で担体の表面に固定化することができる。例えば、検出用プローブを含む溶液の微小液滴を吐出する方法で、担体に所定の平面形態を描くように供給する。そして、必要に応じて加熱等することで乾燥することで検出用プローブを固定化する。さらに、例えば、検出用プローブの固相担体への固定化のために、検出用プローブにアミノ基等を付加してもよいし、アルブミンなどのタンパク質を連結して担体への固着性を高めることもできる。また、加熱処理やUV照射などの各種放射線照射により固着性を高めることもできる。
【0047】
個々の固定化領域の大きさは、0.2mm2以上150mm2以下である。0.2mm2未満であると目視による視認性が低下しすぎ、150mm2を超えてはアレイのサイズ上問題がある。
【0048】
固定化領域の形状は特に限定しないで、円形状、方形状等、アレイにおいて適用される公知の各種の形態とすることができる。固定化領域の充填密度や視認性を考慮すると方形状であることが好ましく、より好ましくは正方形状である。
【0049】
固定化領域の個数は、固定化領域の個数は、検出意図や検出方法の用途に応じて適宜設定される。アレイのサイズ等を考慮すると、特に限定しないが、2個以上200個以下であることが好ましい。200個を超えると、アレイのサイズ上の観点及び目視による検出判定が困難になる可能性があるからである。1又は複数の固定化領域における目視によるシグナル検出を考慮すると、好ましくは150個以下であり、より好ましくは100個以下である。また、固定化領域の個数は、好ましくは20個以上であり、より好ましくは40個以上である。20個以上であると、例えば、各種診断等において汎用性が高い。
【0050】
複数個の固定化領域は、固相担体上に一つの区画を形成していることが好ましい。区画は、アレイの形状に応じた、たて列及びよこ列の組み合わせによる整列形態を備えていることが好ましい。典型的には、こうした区画は、方形状となっている。
【0051】
検出用プローブは、後述するハイブリダイゼーションの形態に応じて所定のパターンで固相担体に固定化される。液中型ハイブリダイゼーションでは、典型的には個々の検出用プローブに対応するドットが配列されたパターンとなる。また、展開型ハイブリダイゼーションでは、典型的には個々の検出用プローブに対応するストリーム(帯状体)が展開方向に添う1又は2以上の展開位置に配列されたパターンとなる。
【0052】
(発色見本領域)
アレイは、固相担体上に、複数の固定化領域の他に検出シグナルによる発色見本領域を別途備えることができる。こうした発色見本領域を備えることで、アレイが小スケール化されていても、また、目視によるシグナル判別によっても、検出精度及び正確性を確保することができる。発色見本領域は、後述するシグナル付与工程で付与するシグナルの発色見本であり、シグナルに応じた色調、明度や彩度をもって、予め付与されている。すなわち、検出方法を通じて維持できるように付与されている。発色見本領域は、インクによって、付与されており、好ましくは、固相担体への定着性や反応性を考慮して顔料インクが用いられる。こうしたインク類は、典型的には、オリゴヌクレオチドプローブを固相担体に付与して固定化領域を形成するときと同様の手法(例えば、ピエゾ素子によるインクジェット手法)で、固相担体に付与されている。そして、発色見本領域は、対比観察上の要請から、固定化領域と同様のサイズと形状で、固相担体上に付与されていることが好ましい。さらに、発色見本領域は、固定化領域におけるシグナルと対比観察がしやすいように、固定化領域に隣接して形成されていることが好ましい。
【0053】
発色見本領域は、検出シグナルの色調又は濃淡につき程度の異なる2種以上の領域から構成されていることが好ましい。こうした構成とすることで、目視によるシグナル検出をより容易にかつ確実に行うことができる。好ましくは、検出シグナルの色調又は濃淡の上限及び下限に相当する少なくとも2つの発色見本領域を備える。こうした発色見本領域を備えることで、上記上限及び下限を指標としてシグナルの検出を判断できるようになり、試験者の熟練程度や反応誤差に関わらず一層容易かつ確実な検出が可能となる。
【0054】
(ハンドリング部位)
アレイは、複数個の固定化領域からなる区画の外部にハンドリング部位を備えることができる。ハンドリング部位を有することで、小さいアレイであってもハンドリングを確実にするとともに、一定の方向性でアレイを取り扱うことが可能となり、実験精度ないし検出精度を高め、シグナル検出も容易化することができる。ハンドリング部位としては、典型的には、固相担体上の固定化領域や発色見本領域が形成されていないマージン領域を適用することができる。また、ハンドリング部位をアレイの一部、例えば、方形状シートの一端部(特に一方の短縁部)に設けることで、アレイの取り扱いに便利であるほか、アレイを容易に一定の方向性を維持して各種操作を実施できる。ハンドリング部位には、アレイを個別に識別するための検体識別情報を付与することが可能であり、予めこうした検体識別情報を、インク等に付与されていてもよい。検体識別情報は、数字、記号、文字又は図形、これらの組み合わせであってよい。
【0055】
そのほか、アレイは、操作及び識別に有用な情報を備えることができる。例えば、操作や検出時におけるアレイの方向性を定める方向識別情報を付与することができる。なお、上記したマージン領域(ハンドリング部位)や発色見本領域、検体識別情報を、方向識別情報として用いることもできる。
【0056】
アレイを構成する固相担体は、特に限定しないが、ダウンサイジング性、小スケールでの取り扱い性、反応性、検出シグナルの視認性等を考慮すると、液体の浸透性又は透過性を有することが好ましい。こうした材料としては、例えば、ポリエーテルスルホン、ニトロセルロース、ナイロン、ポリフッ化ビニリデンなどのポリマーを主体としたいわゆる多孔性のメンブランフィルターのほか、ろ紙などのセルロースを好ましく用いることができる。この種の多孔質体は、展開型ハイブリダイゼーションにも好適である。
【0057】
(増幅産物)
増幅産物は、試料中の標的核酸に由来して、核酸増幅反応により取得される産物である。核酸増幅反応としては、公知の各種の反応が利用できる。例えば、各種手法によるPCRのほか、LCR、SDA、ICAN等が挙げられる。増幅産物は、どのように準備されてもよいが、本検出方法は、増幅産物を準備するための増幅工程を備えていてもよい。
【0058】
増幅産物には、検出用プローブとハイブリダイズするタグ配列を備えるようにする。増幅産物は、通常、完全二重鎖形態を有している。この種の増幅産物の場合、いずれか一方の鎖の5’末端又は3’末端に増幅産物を得るためのプライマーに由来して備えられる。例えば、増幅産物を得るためのプライマーセットの一方のプライマーの5’末端側に予めタグ配列又はそれと相補的な配列となるオリゴヌクレオチド鎖を備えるようにすれば、増幅産物の一方の鎖の5’末端又は3’末端にはタグ配列が備えられるようになる。
【0059】
増幅産物は、後述する標識プローブの標識用配列とハイブリダイズ可能な標識用タグ配列を備えている。標識用タグ配列も、タグ配列と同様、いずれか一方の鎖の5’末端又は3’末端に、増幅産物を得るためのプライマーに由来して備えられる。ただし、完全二重鎖の増幅産物の場合には、一本鎖化した一方の鎖の各端部にタグ配列と標識用タグ配列とをそれぞれを備えるようにすることが好ましい。標識用タグ配列は、例えば、増幅産物を得るためのプライマーセットの一方のプライマーの5’末端側に予め標識用タグ配列又はその相補的な配列となるオリゴヌクレオチド鎖を備えるようにすれば、増幅産物の一方の鎖の5’末端又は3’末端には標識用タグ配列が備えられるようになる。こうした完全二重鎖形態の増幅産物にあっては、後述するように、これを一本鎖化した上で第1及び第2のハイブリダイゼーションを行うこととなる。
【0060】
本検出方法では、別の態様の増幅産物も用いることができる。すなわち、タグ配列を、5’末端であって、二重鎖部位から突出される一本鎖部分(5’突出末端)に備える増幅産物を用いることもできる。タグ配列を、5’突出末端に備えることで、対合した状態の二重鎖部位を含んだ増幅反応後の増幅産物でも、タグ配列は検出用プローブとハイブリダイズが可能である。このため、この増幅産物は、後述するように熱変性を経なくても第1のハイブリダイゼーションが可能となる。
【0061】
また、この態様の増幅産物は、標識用タグ配列を、5’末端であって、二重鎖部位から突出される一本鎖部分(5’突出末端)に備える増幅産物を用いることもできる。標識用タグ配列を、5’突出末端に備えることで、対合した状態の二重鎖部位を含んだ増幅反応後の増幅産物でも、標識用タグ配列は標識用プローブとハイブリダイズが可能である。このため、この増幅産物は、後述するように熱変性を経なくても第2のハイブリダイゼーションが可能となる。
【0062】
好ましくは、この態様の増幅産物は、タグ配列を一方の鎖の5’突出末端に有し、標識用ダグ配列を他方の鎖の5’突出末端に有する。こうした態様の増幅産物は、熱変性することなく、第1及び第2のハイブリダイゼーションが可能となる。
【0063】
この態様の増幅産物は、例えば、以下に示す第1のプライマーと第2のプライマーとを用いて核酸増幅を実施すればよい。ここでは、タグ配列を一方の鎖の5’突出末端に有し、標識用ダグ配列を他方の鎖の5’突出末端に有する増幅産物の取得について説明するが、一方の鎖の5’突出末端にのみタグ配列又は標識用タグ配列を有する増幅産物には、対のプライマーの一方を以下に示すプライマーとし他方を通常のプライマーとすればよい。
【0064】
(第1のプライマー)
第1のプライマーは、標的核酸に予め関連付けられた検出用プローブに相補的なタグ配列と標的核酸中の第1の塩基配列を識別する第1の識別配列とを含んでいる。これらの塩基配列の長さ等は特に限定されず、標的核酸の標的配列の内容に応じて適宜決定される。
【0065】
(第1の識別配列)
第1の識別配列は、核酸増幅により、標的核酸を増幅するための配列であり、標的核酸中の標的配列の一部を構成する第1の塩基配列と特異的にハイブリダイズできる。第1の識別配列は、第1の塩基配列と高い選択性でハイブリダイズ可能な程度に相補的に設定される。好ましくは完全に相補的(特異的)に設定される。
【0066】
(タグ配列)
タグ配列は、タグ配列は、増幅断片が検出用プローブとハイブリダイゼーションを可能とするための配列であり、標的核酸を検出するものであるため、標的核酸毎に検出用プローブの検出用配列にハイブリダイズ可能に設定される。典型的には、検出用配列に相補的な塩基配列となっている。したがって、一つの標的核酸は、一つの検出用プローブに対応付けられることになる。タグ配列の塩基長は、既に説明したように、好ましくは検出用プローブの検出用配列の塩基長に一致し、好ましくは、20塩基以上50塩基以下であり、より好ましくは、20塩基以上25塩基以下である。
【0067】
標的核酸中の第1の塩基配列と第2の塩基配列とは、標的核酸に対してどのような構成となっていてもよい。例えば、DNA上の変異を検出する場合、いずれか一方の塩基配列にのみ1又は2以上の塩基の変異部位が含まれるようにしてもよいし、双方に変異部位が含まれるようにしてもよい。なお、第1のプライマーは、こうしたタグ配列及び第1の識別配列を有しており、こうした塩基配列を構成する天然塩基あるいはこれに相同な人工塩基を有するとともに、天然核酸との間で塩基対合を可能とする骨格を有している。典型的にはオリゴヌクレオチド又はその誘導体である。
【0068】
(連結部位)
タグ配列を有するプライマーの一部と第1の識別配列を有するプライマーの他の一部とは直接連結されることはなく、これらの間には連結部位を有している。連結部位は、鋳型鎖に含まれたとき、DNAポリメラーゼ反応を抑制又は停止可能な部位である。DNAポリメラーゼ反応は、鋳型となる核酸(ないし塩基)がないとそれ以上DNA鎖を伸長しないとされている。このため、本発明の連結部位は、DNAポリメラーゼによるDNA伸長時の鋳型となりえない構造を有している。すなわち、本連結部位は、天然塩基又は天然塩基と対合する天然塩基の誘導体(天然塩基等)を含まない。
【0069】
連結部位は、天然塩基等を含まないなどの理由により、DNAポリメラーゼによるDNA伸長反応の鋳型とはなりえない。このため、図1に示すように、第1のプライマーによって増幅されたDNA一本鎖が鋳型鎖となって、さらに第2のプライマーによって増幅されるとき、第2のプライマーからのDNA伸長反応は、当該連結部位に対合する部位より3’側において抑制又は停止される。このため、増幅工程により得られる増幅断片(DNA二重鎖断片)は、結果として、一方の端部に第1の任意の塩基配列を突出する一本鎖として備えるとともに塩基の対合による二重鎖部分を備えたものとなる。
【0070】
本連結部位は、リン酸ジエステル結合を介してヌクレオチドに隣接される、元素数が2以上40以下である一重鎖構造を含む鎖状の連結基であってもよい。元素数が1以下では、DNAポリメラーゼ反応を抑制又は停止が不完全になりやすく、元素数が40を超えると、ヌクレオチドの溶解性が低下するおそれがあるからである。DNAポリメラーゼ反応の抑制又は停止の効果を考慮すると、鎖状の連結基の元素は、2以上36以下であることが好ましく、より好ましくは3以上16以下である。
【0071】
本連結部位が、一重結合を含むのは、連結部位における回転を容易にするためであり、一重結合は、炭素−炭素一重結合、炭素−酸素一重結合、炭素−窒素一重結合、S−S一重結合などが挙げられる。本連結部位は、こうした一重結合を主体とすることが好ましい。また、本連結部位は、一重結合を含む限り一部に芳香環あるいはシクロアルカンを含んでいてもよい。
【0072】
本連結部位としては、元素数が2以上40以下であって置換されていてもよいアルキレン鎖又はポリオキシアルキレン鎖を含むことが好ましい。こうした鎖状の連結構造は、構造的に簡易であるほか、連結部位としての導入も容易である。
【0073】
こうした連結部位としては、例えば、以下の式(1)で表される連結部位が挙げられる。
5’−O−Cm2m−O−3’ 式(1)
(式中、5’は、5’側のリン酸ジエステル結合の酸素原子を表し、3’は、3’側のリン酸ジエステル結合のリン酸原子を表し、mは2以上40以下の整数を表す。)
【0074】
式(1)においてmは、好ましくは2以上36以下であり、より好ましくは3以上16以下である。式(1)中のHの置換基は、典型的には、アルキル基、アルコキシ基、水酸基等が挙げられる。アルキル基及びアルコキシ基の炭素数は1〜8であることが好ましく、より好ましくは1〜4である。また、2以上の置換基を有する場合には、置換基は同一であっても異なっていてもよい。さらに、置換基を有していないことも好ましい。
【0075】
また、他の連結部位としては、以下の式(2)で表される連結部位が挙げられる。
5’−(OCn2nl−v3’ 式(2)
(式中、5’は、5’側のリン酸ジエステル結合の酸素原子を表し、3’は、3’側のリン酸ジエステル結合のリン酸原子を表し、nは2以上4以下の整数を表し、lは、2以上の整数であって、(n+1)×lは40以下となる整数を表す。)
【0076】
式(2)において(n+1)×lは、好ましくは2以上36以下であり、より好ましくは3以上16以下である。式(2)中のHの置換基は、式(1)中の置換基と同様の態様が適用される。
【0077】
本連結部位としては、例えば、以下の鎖状部位が挙げられる。
【0078】
【化1】

【0079】
さらに、本連結部位としては、例えば、以下の鎖状部位が挙げられる。
【0080】
【化2】

【0081】
第1のプライマーは、第1の識別配列及びタグ配列を有しており、こうした塩基配列を構成する天然塩基あるいはこれに相同な人工塩基を有するとともに、天然核酸との間で塩基対合を可能とする骨格を主体として有している。典型的にはオリゴヌクレオチド又はその誘導体である。
【0082】
第1のプライマーにおいては、その5’側からタグ配列、連結部位及び第1の識別配列の順でこれらを有していることが好ましい。こうした構成とすることで、こうしたプライマーによって増幅されたDNA鎖が鋳型鎖となって増幅されるとき、鋳型鎖中の第1のプライマー由来の連結部位よりも5’側、すなわち、DNAポリメラーゼによって伸長されるDNA鎖においてより先の3’側では伸長反応が停止されるか抑制される。この結果、鋳型鎖中の第1のプライマー由来の連結部位の3’側に隣接するヌクレオチドの塩基又はその近傍の塩基に対合する塩基を5’末端とし、第1のプライマー中のタグ配列の相補鎖を有しない増幅断片が得られることとなる。
【0083】
なお、連結部位近傍、すなわち、連結部位の3’側及び5’側には、タグ配列や第1の識別配列とは無関係の配列を含めることもできる。第1のプライマーが鋳型鎖となったとき、連結部位の存在のために、伸長鎖におけるタグ配列や第1の識別配列に対して意図しないDNA伸長反応の進行や停止の影響を低減又は回避できるからである。
【0084】
(第2のプライマー)
図2に示すように、第2のプライマーは、標的核酸中の第2の塩基配列を識別する第2の識別配列を含んでいる。これらの塩基配列の長さ等は特に限定されず、標的核酸の標的配列の内容に応じて適宜決定される。
【0085】
(第2の識別配列)
第2の識別配列は、核酸増幅により、第1のプライマーとともに標的核酸を増幅するための配列であり、標的核酸中の標的配列の他の一部を構成する第2の塩基配列と特異的にハイブリダイズできる。第2の識別配列は、第2の塩基配列と高い選択性でハイブリダイズ可能な程度に相補的に設定される。好ましくは完全に相補的(特異的)に設定される。
【0086】
(標識用タグ配列)
図2に示すように、標識用タグ配列が、標識物質を結合可能に構成されていてもよい。すなわち、所定の塩基配列を有しており、標識物質を有するとともに標識用配列を識別する塩基配列を有する標識プローブが結合可能であってもよい。こうした標識プローブは後述するハイブリダイゼーション工程や検出工程において固相体上の増幅産物に供給されて、これを標識することができる。
【0087】
第2のプライマーは、第2の識別配列の塩基配列を構成する天然塩基あるいはこれに相同な人工塩基を有するとともに、天然核酸との間で塩基対合を可能とする骨格を有している。典型的にはオリゴヌクレオチド又はその誘導体である。
【0088】
(連結部位)
標識用タグ配列を備えるとき、標識用タグ配列と第2の識別配列とは、直接連結されていてもよいが、これらの間には連結部位を有していることが好ましい。特に、図2に示すように、標識物質結合領域が標識プローブと相互作用してこれを結合する塩基配列を有しているときにおいて好ましい。連結部位は、既に第1のプライマーにおいて説明したとおりである。
【0089】
第2のプライマーにおいては、その5’側から、標識用タグ配列、連結部位及び第2の識別配列の順でこれらを有していることが好ましい。こうした構成とすることで、第2のプライマーによって増幅されたDNA鎖が鋳型鎖となって、第1のプライマーによって増幅されるとき、鋳型鎖中の第2のプライマーに由来する連結部位よりも5’側、すなわち、DNAポリメラーゼによって伸長される新たなDNA鎖においてはより先の3’側では伸長反応が停止されるか抑制される。この結果、鋳型鎖中の第2のプライマー由来の連結部位の3’側に隣接するヌクレオチドの塩基又はその近傍の塩基に対合する塩基を5’末端とし、第2のプライマー中の標識用タグ配列(の塩基配列)の相補鎖を有しないDNA増幅断片が得られることとなる。
【0090】
なお、連結部位近傍、すなわち、連結部位の3’側及び5’側には、標識用タグ配列や第2の識別配列とは無関係の配列を含めることもできる。第2のプライマーが鋳型鎖となったとき、連結部位の存在のために、伸長鎖における標識用タグ配列や第2の識別配列に対して意図しないDNA伸長反応の進行や停止の影響を低減又は回避できるからである。
【0091】
こうしたプライマーは、通常のオリゴヌクレオチド合成法にしたがって合成することができる。例えば、連結部位については、アルキレン鎖を有するホフォスホアミダイト試薬を用いて合成することができる。こうした試薬自体は、公知であり、例えば、GlenResearch社等から入手することができる。例えば、以下の試薬が挙げられる。なお、以下の式においてDMTは、水酸基保護基として典型的なジメトキシトリチル基を表すが、他の公知の水酸基保護基であってもよい。また、以下の式においてPAは、ホスホアミダイト基を表す。
【0092】
【化3】

【0093】
核酸増幅は、これらのプライマーを用いて実施する。核酸増幅法は既に説明したように各種公知の方法を適用できるが、典型的にはPCR、マルチプレックスPCR等の各種PCRである。核酸増幅工程を実施するにあたっての、溶液組成、温度制御等については、当業者であれば適宜設定することができる。
【0094】
以下に、こうした第1のプライマーと第2のプライマーとをプライマーセットとして用いる核酸増幅について図2に基づいて説明する。
すでに説明したように、たとえば、5’側からタグ配列、連結部位及び第1の識別配列の順でこれらを有する第1のプライマーと、5’側から、標識用タグ配列、連結部位及び第2の識別配列の順でこれらを有する第2のプライマーと、を用いて標的核酸を含む可能性のある試料に対してPCRを実施すると、図2の(a)〜(c)に示すように、DNAポリメラーゼのDNA伸長反応により、第1のプライマー及び第2のプライマーに由来して当該プライマーを含む鋳型鎖が形成される。
【0095】
そして、これらの鋳型鎖がそれぞれ由来するプライマーとは異なる第2のプライマー及び第1のプライマーによって再びDNAポリメラーゼによるDNA伸長反応が実施される。このとき、図2の(d)に示すように、第2のプライマーから始まり第1のプライマーを含む鋳型鎖に対するDNAポリメラーゼのDNA伸長反応は、鋳型鎖中の第1のプライマー由来の連結部位より5’側、すなわち、伸長鎖では連結部位よりも3’側ではDNAの伸長が抑制又は停止される。
【0096】
また、図2の(d)に示すように、第1のプライマーから始まり第2のプライマーを含む鋳型鎖に対するDNAポリメラーゼのDNA伸長反応は、鋳型鎖中の第2のプライマー由来の連結部位より5’側、すなわち、伸長鎖では連結部位よりも3’側ではDNAの伸長が抑制又は停止される。
【0097】
こうした結果、得られる増幅断片は、図2(e)に示すように、5’末端にそれぞれ突出する一本鎖のタグ配列と標識用タグ配列とを備え、第1の識別配列と第2の識別配列においては二重鎖を備えるDNA二重鎖断片となる。すなわち、このDNAに重鎖断片にあっては、一方のDNA鎖の5’側では、タグ配列が突出して一本鎖となり、他方のDNA鎖の5’側では、標識用タグ配列が突出している。
【0098】
(標識用プローブ)
標識用プローブは、増幅産物の一部(標識用タグ配列)とハイブリダイズする標識用配列と、標識物質と、を備えることができる。標識用配列は、標識用タグ配列と特異的にハイブリダイズ可能な程度の相補性を有しており、好ましくは完全に相補的である。標識用配列の塩基配列の長さ等は特に限定されず、標的核酸の標的配列の内容やハイブリダイゼーションに関わるそのTm等に応じて適宜決定される。
【0099】
標識物質は、目視で視認可能である。すなわち、直接それ自体が、他の成分を必要としないで目視で視認可能なシグナルを生成することができる物質である。こうした物質としては、典型的には、各種の顔料や染料などの各種の着色剤が挙げられる。また、これに準ずる、金、銀などの貴金属ほか、銅などの各種金属又は合金、あるいは当該金属を含む有機化合物(錯体化合物であってもよい)が挙げられる。また、着色剤に準ずる、マイカ等の無機化合物が挙げられる。
【0100】
標識物質としては、典型的には、各種染料、ルミノール、イソルミノール、アクリジニウム化合物、オレフィン、エノールエーテル、エナミン、アリールビニルエーテル、ジオキセン、アリールイミダゾール、ルシゲニン、ルシフェリン及びエクリオンを包含する化学発光物質が挙げられる。また、こうした標識物質でラベルされているラテックス粒子などの粒子が挙げられる。さらに、金コロイド若しくはゾル又は銀コロイド若しくはゾルを包含するコロイド若しくはゾル等が挙げられる。
【0101】
標識物質の一部を構成する粒子の平均粒子径は、通常、20nm以上20μm以下であり、典型的には、40nm〜10μm、好ましくは0.1〜10μm、特に好ましくは0.1〜5μm、さらに好ましくは0.15〜2μmの平均粒子径を有している。また、固相担体110の孔径によっては、500nm以下であることが好ましく、0.1nm以上100nm以下であることがより好ましく、1nm以上50nm以下であることがさらに好ましい。好ましい粒子は、水溶液に懸濁でき、そして水不溶性ポリマー材料、好ましくは置換されたポリエチレンからなる粒子である。特に好ましいものは、ラテックス粒子、例えばポリエチレン、アクリル酸ポリマー、メタクリル酸ポリマー、アクリロニトリルポリマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、ポリビニルアセテート−アクリレート、ポリビニルピロリドン又は塩化ビニル−アクリレートが挙げられる。それらの表面上に活性基、例えばカルボキシル、アミノ又はアルデヒド基を有するラテックス粒子である。
【0102】
こうした標識物質及び標識物質でラベルした粒子は、商業的に入手できるほか、標識物質の製造及び標識を粒子にラベルする方法も公知であり、当業者であれば適宜公知技術を利用して取得することができる。さらに、こうした標識物質又は標識物質でラベル化された粒子とDNA等のオリゴヌクレオチドとの結合もアミノ基等の官能基を介して適宜可能であり、それ自体は当該分野において周知である。
【0103】
(ハイブリダイゼーション工程)
本件出方法は、アレイにおいて、増幅産物と検出用プローブとをハイブリダイズ可能に接触させる第1のハイブリダイゼーションと、標識用プローブと増幅産物とをハイブリダイズ可能に接触させる第2のハイブリダイゼーションとを実施するハイブリダイゼーション工程を備えることができる。第1のハイブリダイゼーションを実施することで、タグ配列と検出用プローブとのハイブリダイズにより、検出用プローブと増幅産物とのハイブリダイズ産物が得られる。また、第2のハイブリダイゼーションを実施することで、標識用配列と標識タグ配列とのハイブリダイズにより増幅産物と標識用プローブとのハイブリダイズ産物が得られる。これら第1及び第2のハイブリダイゼーションの結果、図3に示すように、固相上に増幅産物と検出用プローブと標識用プローブとのハイブリダイズ産物が得られる。そして、標的核酸が予め関連付けられた検出用プローブの固定化領域に、標識物質が保持されることになるため、このハイブリダイズ産物の存在が目視で視認可能に可視化される。検出用プローブの固定化領域には、検出用プローブが固定化されていない領域に比べて標識物質が集積しあるいは濃縮されるため、目視による視認が容易になっている。
【0104】
第1及び第2のハイブリダイゼーションの順序等は特に問わない。第1のハイブリダイゼーションを先に実施し、その後第2のハイブリダイゼーションを実施してもよいし、その逆であってもよい。また、第1のハイブリダイゼーションと第2のハイブリダイゼーションとを同時に実施してもよい。いずれであっても、標的核酸が予め関連付けられた検出用プローブの固定化領域に、最終的なハイブリダイズ産物が保持される。
【0105】
増幅産物が、完全二重鎖の場合には、第1のハイブリダイゼーション及び/又は第2のハイブリダイゼーションに先立って、二重鎖を一本鎖化する変性工程を実施することが好ましい。一本鎖化しないと、検出プローブや標識用プローブとはハイブリダイズが困難であるからである。変性工程は、増幅産物の配列等に応じたTmに基づき適宜温度等が設定される。通常は、90℃〜95℃程度に加熱した上に急冷する。こうして増幅産物の由来の一本鎖(タグ配列と標識タグ配列を有する)がアレイ上の検出用プローブ又は標識用プローブとハイブリダイズ可能となる。したがって、この種の増幅産物には、まず変性工程を行い、その後、第1のハイブリダイゼーション及び第2のハイブリダイゼーションを順序を問わないで又は同時に実施できる。
【0106】
増幅産物が、二重鎖の一方の5’突出末端にタグ配列を備える、他方の5’突出末端に標識用タグ配列を備える場合には、このまま変性工程を実施することなく、第1のハイブリダイゼーション及び第2のハイブリダイゼーションを順序を問わないで又は同時に実施できる。
【0107】
以下、アレイ上で第1のハイブリダイゼーションと第2のハイブリダイゼーションとを1ml以下の液中で実施するハイブリダイゼーション工程の一例について適宜図1を参照しつつ説明する。
【0108】
以下のハイブリダイゼーション工程は、一つのアレイにつき1ml以下、好ましくは、0.5ml以下、より好ましくは0.3ml以下の液中で第1及び第2のハイブリダイゼーションを逐次あるいは同時にチューブ状容器で実施する例である。
【0109】
まず、第1のハイブリダイゼーションを実施する場合、容器に、検出用プローブが固定されたアレイと、増幅産物とが、適当なハイブリダイゼーション媒体中に存在する状体を形成し、予め設定された温度及び時間でハイブリダイゼーションを実施する。アレイは、所定の方向で容器に投入する。ハイブリダイゼーションは、チューブ状容器の内部形態に応じ、アレイの長辺が容器の深さ方向に沿う状態を維持して実施することが好ましい。上記したアスペクト比の方形状シートのアレイを用いることで、市販で入手できる1〜0.3ml程度の各種形態のチューブ状容器内に安定して保持される。
【0110】
ハイブリダイゼーションでチューブ状容器を用いる場合、既存のPCRのための温度制御装置に適用することができる。こうした温度制御を実施することで、精度よくかつ迅速に温度制御が可能となる。ハイブリダイゼーション工程の条件は特に限定しない。通常のハイブリダイズ媒体を用いることができる。また、適度な温度に設定することができる。
【0111】
第1のハイブリダイゼーションに引き続き第2のハイブリダイゼーションを実施する場合には、第2のハイブリダイゼーションに用いる標識用プローブを第1のハイブリダイゼーション実施後の容器に追加して、予め設定された温度及び時間でハイブリダイゼーションを実施する。上記したように、第1のハイブリダイゼーションと第2のハイブリダイゼーションとは逆の順序でも、同時にでも実施することもできる。すなわち、ハイブリダイゼーション工程を、増幅産物、アレイ(検出用プローブ)及び標識用プローブの存在下で一挙に実施することもできる。
【0112】
このように、第1のハイブリダイゼーションと第2のハイブリダイゼーションは、その順序等にかかわらず、同一容器内で実施することが好ましい。こうすることで、操作を簡略化して迅速性を向上させることができる。また、アレイを、同一容器に残しておくことで、アレイの容器への投入時(ハイブリダイゼーション工程時)の一定の方向性を容易に維持でき、第1のハイブリダイゼーション及び第2のハイブリダイゼーションをより安定した良好な条件で実施できる。
【0113】
図1(a)は、第1のハイブリダイゼーションの後、第2のハイブリダイゼーションを行う工程、図1(b)は、第2のハイブリダイゼーションの後、第1のハイブリダイゼーションを行う工程、図1(c)は、第1と第2のハイブリダイゼーションを同時に行う工程を、それぞれ示す。
【0114】
また、図1(d)に示すように、増幅産物を得るための核酸増幅反応もハイブリダイゼーション工程を実施する同一容器でハイブリダイゼーション工程に先立って行うことが好ましい。増幅反応実施後、その容器内の増幅反応液に標識用プローブ及び/又はアレイを供給することができ、また、ハイブリダイゼーションに適した媒体を適用することもできる。
【0115】
また、ハイブリダイゼーション工程に先立って増幅産物の変性工程が必要な場合には、変性工程を同一容器内で実施し、その後、引き続き同一容器内でハイブリダイゼーション工程を実施してもよい。こうすることで、操作を簡略化し、さらに操作の迅速化、温度制御の迅速化及び高精度化も実現できる。
【0116】
なお、ハイブリダイゼーション工程後に、過剰の被験試料を洗浄除去する洗浄工程を実施してもよい。例えば、洗浄工程は、ハイブリダイゼーション工程を実施した容器からハイブリダイゼーション液を除去してアレイのみを残留させた状態で、所定の温度条件で洗浄に適した液を供給して適当な時間接触させることを適数回繰り返すことによって実施できる。こうした洗浄工程を同一容器で実施することで、操作を簡略化し容器数を減らしてしかも、温度制御を迅速かつ精度よく行うことができる。
【0117】
図2に例示されるハイブリダイゼーション工程は、液中型ハイブリダイゼーションであるが、当該形態に限定されないで、展開型ハイブリダイゼーションにも適用される。
【0118】
(検出工程)
検出工程は、最終的なハイブリダイズ産物を、前記標識物質に基づいて検出する工程である。より具体的には、検出用プローブが固定化された固定化領域の着色及び位置を確認する工程である。本検出方法では、それ自体目視で確認可能な標識物質を用いているために、簡易にかつ迅速に標的核酸の有無を確認できる。
【0119】
検出にあたっては、アレイが充填されたままの容器内で行ってもよいし、アレイを容器から取り出して容器外で行ってもよい。また、ハイブリダイゼーション媒体が収容されたままの状態で行っても良い。本検出方法では、ハイブリダイゼーション工程後、特別なシグナル付与工程なく検出工程を実施でき、ハイブリダイゼーション工程に用いたのと同一のアレイの方向性が維持された状態で着色を検出できる。このため方向性の錯誤等に基づく誤判断がなく、確度も高いものとなる。
【0120】
アレイが、発色見本領域を備えるとき、検出用プローブ固定化領域の着色を見本領域の色調や濃淡と対比観察することで、迅速かつ確度の高い検出が可能となる。また、アレイが、想定される着色の色調又は濃淡の上限及び下限に相当する2つの発色見本領域を少なくとも備える場合には、上限及び下限を指標として、標的核酸を検出する工程とすることができる。こうすることで、熟練程度や反応誤差によらないで確度の高い検出が可能となる。
【0121】
検出工程は、検出対象や用途に応じて、試料中の複数の標的核酸の組み合わせを検出する工程であってもよい。例えば、肺炎の原因菌の型判別のように、複数の遺伝子の複数の配列を検出する場合には、複数の標的核酸に対応する複数の固定化領域の組み合わせが検出される。この場合、こうした組み合わせを、アレイ上において得られた記固定化領域の発色パターンと、その組み合わせに対応するオリゴヌクレオチドプローブの発色パターン見本と対比して検出するとしてもよい。こうした発色パターン見本は予め準備しておく。例えば、検出しようとするパターン毎に準備しておくことで、迅速かつ容易に確度の高い判別が可能となる。
【0122】
(アレイ及びアレイシート)
本発明によれば、また、本発明方法に用いるアレイが提供される。上記した各種態様のアレイも本発明に含まれる。さらに、本発明によれば、こうしたアレイをアレイ領域として複数個備えるアレイシートも提供される。すなわち、標的核酸を検出するためのアレイのシートであって、標的核酸と予め関連付けられた検出用プローブの複数個の固定化領域を含むアレイ領域を、このアレイ領域毎に分離可能に複数個備えたアレイシートが提供される。このシートによれば、本発明方法に用いられるアレイを簡単に製造、供給できる。アレイ領域毎に分離可能とするには、例えば、上記した好ましい固相担体を用いれば、一般的に使用されるカッターやはさみ等で切断が可能である。あるいは、切断可能に脆弱な部位をアレイ領域間に設けることで、容易に手操作によって、アレイ領域を分離可能である。
【0123】
本明細書に開示される標的核酸の検出用キットは、標的核酸に予め関連付けられた検出用プローブとハイブリダイズするタグ配列を備え、前記標的核酸に由来する増幅産物を遺伝子増幅法により増幅する1又は2以上のプライマーセットと、目視で視認可能な標識物質と前記増幅産物の一部とハイブリダイズする標識用配列とを備える1又は2以上の標識用プローブと、前記検出用プローブを固相担体上に備えるアレイと、を備えることができる。このキットによれば、簡易かつ迅速に標的核酸を判定できる。
【実施例】
【0124】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、以下の実施例は本発明を説明するものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0125】
以下の実施例では、本発明の検出方法による標的核酸の検出を次の手順で行った。以下、これらの順序に従って説明する。
(1)DNAマイクロアレイの作製
(2)標的核酸とプライマーの調製と増幅
(3)ハイブリダイズ
(4)スキャナーを用いた検出
【0126】
(1)DNAマイクロアレイの作製
プラスチック板に、3’末端をアミノ基で修飾した合成オリゴDNA(株式会社日本遺伝子研究所製)を溶かした水溶液を検出用プローブとして、日本ガイシ株式会社にてGENESHOT(登録商標である)スポッターを用いてスポットした。使用した合成オリゴDNA配列は、配列番号1〜100から高速ハイブリダイゼーションが可能な以下の33種を選択した。
【0127】
【表2】

【0128】
スポットの後、80℃、1時間のベークを行った。さらに、以下に記載した手順で、合成オリゴDNAの固定化を行った。すなわち、2×SSC/0.2%SDSで15分洗浄後、95℃の2×SSC/0.2%SDSで5分洗浄し、その後、滅菌水で洗浄(10回上下振とう)を3回繰り返した。その後、遠心(1000rpm×3分)により脱水した。
【0129】
(2)標的核酸の増幅
増幅に使用したゲノムDNAは、ヒト由来とし、ヒトゲノム中の6つの標的核酸((1)〜(6))に特異的な以下の表に示すプライマーP1−1〜P1−6(日本遺伝子研究所製)、P2−1〜P2−6(日本遺伝子研究所製)及びP3−1〜P3−6(日本遺伝子研究所製)を準備した。なお、各系列は以下の構成(5’から3’として表示)とした。なお、P3系のプライマーのプロピレン基部分は、以下の式に示すGlenResearch社のホスホアミダイト試薬であるSpacer PhophoamiditeC3を用いて通常のオリゴヌクレオチド合成方法に準じて合成された。
【0130】
【化4】

【0131】
P1系のプライマー:F,R:ヒトDNA中の特定の標的核酸(1)〜(6)に対する塩基配列を含む
P2系のプライマー:
F:標識プローブの結合配列(タグ配列)+P1系の各標的核酸に対する塩基配列
R:合成オリゴヌクレオチドプローブの塩基配列と同一の塩基配列からなるタグ配列+P1系の各標的核酸に対する塩基配列
(なお、P2系プライマーを用い場合には、このタグ配列と相補的な塩基配列の相補鎖も増幅されるため、当該相補鎖がプローブとハイブリダイズし、増幅断片を検出できる。)
P3系プライマー:
F:標識プローブの結合配列+連結部位X(プロピレン鎖)+P1系の各標的核酸に対する塩基配列
R:合成オリゴヌクレオチドプローブの塩基配列と相補的な塩基配列からなるタグ配列+連結部位X(プロピレン鎖)+P1系の各標的核酸に対する塩基配列
【0132】
【表3】

【0133】
【表4】

【0134】
【表5】

【0135】
次に、ゲノムDNAをこれらのプライマーを用いて以下のように増幅した。なお、サンプル増幅用試薬として、QIAGEN社のmultiplex PCR master mix を使用した。サーマルサイクラーとして、Applied Biosystems社のGeneAmp PCR System9700を使用した。
【0136】
まず、以下に示す試薬を個々のサンプルごとに調製した。
(試薬調製)
dHO 4.0μl
2×multiplex PCR master mix 5.0μl
プライマー混合物(各500nM) 0.5μl
ゲノムDNA(50ng/μl) 0.5μl
合計 10.0μl
【0137】
次に、増幅用試薬をサーマルサイクルプレートに移し、サーマルサイクル反応(95℃で15分後;95℃で30秒、80℃で1秒、64℃で6分を40サイクル、その後10℃に下げる)を行った。そして、増幅したサンプルはQIAGEN社のMinElute PCR Purification Kitにて精製を行った後、アガロース電気泳動により意図した長さで増幅していることを確認した。結果を図4に示す。図4の上段には、電気泳動結果を示し、その下段には、蛍光強度から算出した増幅量を示す。
【0138】
(3)ハイブリダイズ
(2)で得た増幅サンプルをマイクロアレイ上に固定した検出用プローブとハイブリダイズするために、以下のHybri controlとHybri solutionを調製し、これからハイブリダイズ用の試薬を調製した。PrimerMixには、標識用プローブ(蛍光修飾したオリゴヌクレオチドでありP2系及びP3系プライマーのFの5’側に結合する。)(25μM)を含んでいる。なお、Hybri controlに使用したAlexa555−rD1_100は、D1_100の対応する配列に相補な配列の5´末端をAlexa555で標識したものを用いた。
【0139】
(Hybri control)
Alexa555−rD1_100(100nM) 10μl
TE(pH8.0) 390μl
合計 400μl
【0140】
(Hybri solution)
20×SSC 2.0ml
10%SDS 0.8ml
100% Formamide 12.0ml
100mM EDTA 0.8ml
milliQ 24.4ml
合計 40.0ml
【0141】
(ハイブリダイズ用の試薬)
Hybri control 1.5μl
Primer Mix 1.0μl
Hybri solution 9.0μl
小計 10.5μl
増幅サンプル 3.0μl
合計 18.0μl
【0142】
調製したハイブリダイズ用試薬(標識サンプル溶液)を、変性等のために加熱することなく、各9μlずつ、マイクロアレイのスポットエリアにかけて、乾燥防止のためコンフォート/プラス用サーモブロックスライド(エッペンドルフ社)を使用し、37℃で30分間静置することによってハイブリダイズ反応を行った。
【0143】
(洗浄)
ハイブリダイズ後、以下の組成の洗浄液を満たしたガラス染色バットに、ハイブリダイズ反応終了後のマイクロアレイ基板を浸漬し、5分間上下振とうし、滅菌水を入れたガラス染色バットにマイクロアレイ基板を移し、1分間上下振とうし、2000rpmで1分間遠心乾燥し、マイクロアレイ基板表面に残った水分を除去した。
(洗浄液の組成)
milliQ 188.0ml
20×SSC 10.0ml
10%SDS 2.0ml
合計 200.0ml
【0144】
(4)スキャナーを用いた検出
Appleied Precision社ArrayWoRxを使用して適宜、露光時間を調節し、蛍光画像を取得した。プラスチック基板についての結果を、図5及び図6に示す。
【0145】
まず、図4の上段に示すように、タグ配列の有無にかかわらず、ゲノムDNA中の意図した標的核酸を増幅できることがわかった。また、図4の下段の表に示すように、タグ配列を識別配列に直接連結しても、プロピレン基を含む連結部位を介して連結してもその増幅量に大きな変化がないことがわかった。
【0146】
また、図5及び図6に示すように、P2系プライマー(タグ配列+識別配列)とP3系プライマー(タグ配列+連結部位+識別配列)を用いた場合とでは、明らかに、P3系プライマーを用いて増幅して得られたDNA断片とのハイブリダイゼーション結果において、個々のタグ配列にかかわらず、おおよそ一定の強い蛍光を観察できた。これに対して、P2系プライマーを用いたときのハイブリダイゼーション結果においては、タグ配列にかかわらずいずれもほとんど蛍光を観察できなかった。
【0147】
さらに、サンプル濃度を10倍希釈して得られたハイブリダイゼーション結果においては、P3系プライマーを用いた場合は、依然として蛍光を観察することができた。以上説明したプラスチック基板におけるのと同様の結果を、ガラス基板についても確認できた。
【0148】
以上のことから、P3系プライマーを用いることで、少なくとも検出感度が10倍以上向上することがわかった。以上の実施例では、増幅したサンプルの変性工程を行わずにアレイに適用したこと、及び図4に示すように、増幅サンプルの合成量がP2系プライマーによるものとほぼ同量である。以上のことからすると、P3系プライマーを用いることで高効率にハイブリダイゼーションし、かつラベル効率の良好な二重鎖断片が得られたことがわかる。
【実施例2】
【0149】
本実施例では、実施例1の(1)DNAマイクロアレイの作製において、基板として、プラスチック基板に替えてガラス基板(東洋鋼板社製geneslide)を用い、検出用プローブの塩基配列として以下の表に示す33種を選択し、(3)ハイブリダイズにおいて、ハイブリダイズ試薬として以下の組成の試薬を用いた以外は、実施例1の(1)DNAマイクロアレイの作製、(2)標的核酸とプライマーの調製と増幅、(3)ハイブリダイズ及び(4)スキャナーを用いた検出と同様に操作して、標的核酸を検出した。結果は、実施例1と同様に、変性工程を実施しなくても、P2系プライマー(タグ配列+識別配列)に比べてP3系プライマー(タグ配列+連結部位+識別配列)を用いた場合に、明らかに10倍以上の強い強度のハイブリダイゼーションシグナルを得ることができた。
【0150】
(ハイブリダイズ試薬の組成)
Hybri control 1.5μl
Primer Mix 3.5μl
Hybri solution 9.0μl
小計 14.0μl
増幅サンプル 4.0μl
合計 18.0μl
【0151】
【表6】

【実施例3】
【0152】
以下、本明細書の開示を具現化した実施例について説明する。
(1)メンブレンタイプDNAマイクロアレイの作製
メルクミリポア製Hi-Flow Plus メンブレンシート(60mm x 600mm)に以下の表に示す塩基配列からなる検出用プローブ溶液を、特開2003−75305号公報に記載されている吐出ユニット(インクジェット法)を用いた日本ガイシ株式会社GENESHOT(登録商標)スポッターを用いて、マトリックス状にスポットした。なお、全てのスポットが、前記シートを0.2mlチューブに収まるように3.5mm幅に切断したときに十分当該幅の範囲内にあるようにした。使用した検出用プローブの検出用配列は、文献(Analytical Biochemistry 364(2007)78-85)のSupplementary Table1記載のD1_1からD1_100の100種(配列番号1〜配列番号100)のうち任意の16種を選択し配列の3’末端側をアミノ基で修飾した配列を使用した。
【0153】
【表7】

【0154】
スポットの後、80℃、1時間のベークまたはUV照射を行うことで合成オリゴDNAの固定化を行うことが考えられるが今回、スポット後の処置としてSpectroline社のUV照射装置(XL−1500UV Crosslinker)を用いて、200〜500mJ/cm程度の紫外線光の照射を行って固定化を実施した。
【0155】
(2)標的核酸の増幅
増幅に使用したゲノムDNAは、ヒト由来とし、ヒトゲノム中の4つの標的核酸((1)〜(4))に特異的な以下の表に示すプライマーセットP3−1〜P3−4(日本遺伝子研究所製)を準備した。なお、各プライマーセットは以下の構成(5’から3’として表示)とした。なお、P3系のプライマーのプロピレン基部分は、以下の式に示すGlenResearch社のホスホアミダイト試薬であるSpacer PhophoamiditeC3を用いて通常のオリゴヌクレオチド合成方法に準じて合成された。
【0156】
【表8】

【0157】
【化5】

【0158】
P3系プライマー:
F:標識用タグ配列+連結部位X(プロピレン鎖)+各標的核酸に対する塩基配列
R:タグ配列+連結部位X(プロピレン鎖)+各標的核酸に対する塩基配列
【0159】
次に、ゲノムDNAをこれらのプライマーを用いて以下のように増幅した。なお、サンプル増幅用試薬として、QIAGEN社のmultiplex PCR master mix を使用した。サーマルサイクラーとして、Applied Biosystems社のGeneAmp PCR System9700を使用した。
【0160】
(試薬調製)
dHO 4.0μl
2×multiplex PCR master mix 5.0μl
プライマー混合物(各500nM) 0.5μl
ゲノムDNA(50ng/μl) 0.5μl
合計 10.0μl
【0161】
次に、増幅用試薬をサーマルサイクルプレートに移し、サーマルサイクル反応(95℃で15分後;95℃で30秒、80℃で1秒、64℃で6分を40サイクル、その後10℃に下げる)を行った。そして、増幅したサンプルはQIAGEN社のMinElute PCR Purification Kitにて精製を行った後、アガロース電気泳動により意図した長さで増幅していることを確認した。
【0162】
(3)メンブレンタイプDNAマイクロアレイ及びカラーラテックスを用いた検出
(2)にて増幅したサンプルを用いてメンブレンタイプDNAマイクロアレイへの反応(液中型ハイブリダイゼーション)及びその検出手順は以下の通りとした(図7の上段参照)。アレイに適用するハイブリダイゼーション液は、以下の組成とした。ラテックス液についてはエーエムアール株式会社製を使用した。なお、ラテックス液には青色系の着色剤を含有するポリスチレン系のラテックスビーズにED-1配列に相補な配列のDNAを固定したもの(5’アミノ基修飾のED-1に相補な配列の合成DNAとラテックス表面の官能基がカルボキシル基を有するものとで共有結合を形成させたもの)を任意の濃度となるようにPBSで調製した。
【0163】
アレイに適用するハイブリダイゼーション液は、以下の組成とした。
(ハイブリダイゼーション液組成)
Hybri Solution140.0μl
(0.5%Tween20−1%BSA−PBS)
ラテックス液 50.0μl
サンプル 10.0μl
total 200.0μl
【0164】
(1)で作製したDNAマイクロアレイを0.2mlチューブに入る大きさに切断し、チューブ内にセットし、上記調製ハイブリダイズサンプル各200μlを変性等のために加熱することなく加えて、ヒートブロック温度37℃で1時間反応(振とう)させて、液中型ハイブリダイゼーションを実施した。反応終了後、ハイブリダイゼーション液を排出し、DNAマイクロアレイを風乾させた。
【0165】
(4)メンブレンタイプDNAマイクロアレイ及び発色反応を用いた検出
(2)にて増幅したサンプルを用いてメンブレンタイプDNAマイクロアレイへの反応(液中型ハイブリダイゼーション)及びその検出手順は以下の通りとした(図7の下段参照)。アレイに適用するハイブリダイゼーション液は、以下の組成とした。
【0166】
(ハイブリダイズサンプル組成)
Hybri Solution* 200.0μl
(0.5%Tween20-1%BSA-PBS)
F側プライマーの標識用タグ配列に相補なビオチン標識オリゴDNA(25μM)
4.0μl
サンプル 4.0μl
合計 208.0μl
【0167】
(1)で作製したDNAマイクロアレイを0.2mlチューブに入る大きさに切断し、チューブ内にセットし、上記調製ハイブリダイズサンプル208μlを変性等のために加熱することなく加えて、ヒートブロック温度37℃で1時間反応させて、液中型ハイブリダイゼーションを実施した。
【0168】
ハイブリダイゼーション反応終了後、メンブレンタイプDNAマイクロアレイを洗浄液(0.1%Tween20−1mM EDTA−TBS)入り0.2mlチューブに移し、37℃のヒートブロック内で洗浄作業(37℃×1min、37℃×10min、37℃×1min)を行った。
【0169】
洗浄済みのメンブレンタイプDNAマイクロアレイをビオチン−HRPとストレプトアビジンとの混合液が入った0.2mlチューブに移して室温下で20分間の反応を行った。
【0170】
反応終了後、メンブレンタイプDNAマイクロアレイを洗浄液(0.1%Tween20−1mM EDTA−TBS)入り0.2mlチューブに移し、洗浄作業(室温×1min、室温×10min、室温×1min)を行った。
【0171】
洗浄済みメンブレンタイプDNAマイクロアレイをVector Laboratories社製TMB Peroxidase Substrate Kit,3,3’,5,5’−tetramethylbenzidineを用いて室温下で5分程度の発色反応を行った。その後、発色液を排出し、洗浄を行った後、DNAマイクロアレイを風乾させた。
洗浄を行った。
【0172】
(5)検出
(3)及び(4)の反応後のアレイの乾燥後の発色の有無を目視で確認した。いずれも、P3プライマーを用いることで、いずれも標的核酸を検出できた。また、図7の上段に示すように、(3)のカラーラテックスを用いた場合では、増幅反応後には、ハイブリダイゼーション工程のみで標的核酸を検出できた。これに対して、図7の下段に示すように、(4)の発色反応による場合では、増幅反応後に、多段階の発色工程が必要であり、作業も繁雑であり結果を迅速に得られないことがわかった。以上の結果から(3)のように直接にそれ自体が目視できるシグナルを呈する標識物質を用いることで、結果を得るまでの工程数を少なくし、かつ作業時間を短くしても、十分な検出が可能であることがわかった。
【配列表フリーテキスト】
【0173】
配列番号1〜136:プローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸の検出方法であって、
前記標的核酸に予め関連付けられた検出用プローブとハイブリダイズするタグ配列を備え、前記標的核酸に由来する増幅産物と、
目視で視認可能な標識物質と前記増幅産物の一部とハイブリダイズする標識用配列とを備える標識用プローブと、
前記検出用プローブを固相担体上に備えるアレイと、
を用い、
前記アレイにおける前記増幅産物と前記検出用プローブとをハイブリダイズ可能に接触させる第1のハイブリダイゼーションと、前記標識用プローブと前記増幅産物とをハイブリダイズ可能に接触させる第2のハイブリダイゼーションとを実施するハイブリダイゼーション工程と、
前記第1のハイブリダイゼーションと前記第2のハイブリダイゼーションとによるハイブリダイズ産物を前記標識物質で検出する工程と、
を備える、検出方法。
【請求項2】
前記標識物質は、着色物質を備える粒子である、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記増幅産物は、前記タグ配列と前記標識用配列にハイブリダイズする標識用タグ配列とを対合するそれぞれの鎖の5’突出末端に備える、請求項1又は2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記ハイブリダイゼーション工程は、前記第1のハイブリダイゼーションと前記第2のハイブリダイゼーションとを同一の前記アレイ上で同時に実施する工程である、請求項3に記載の検出方法。
【請求項5】
前記ハイブリダイゼーション工程は、前記アレイを用いて、前記アレイ毎に1ml以下の液中で前記第1及び第2のハイブリダイゼーションを実施する工程である、請求項1〜4のいずれかに記載の検出方法。
【請求項6】
前記ハイブリダイゼーション工程は、前記検出用プローブの固定化領域の大きさは、0.2mm2以上150mm2以下であり、前記固相担体が、平面積が150mm2以下、アスペクト比が1.5以上のシート状体である前記アレイを用いて、ハイブリダイゼーションを実施する工程とする、請求項5に記載の検出方法。
【請求項7】
前記ハイブリダイゼーション工程は、前記固相担体が、平面積が50mm2以下のシート状体である前記アレイを用いて、前記アレイ毎に0.3ml以下の液中でハイブリダイゼーションを実施する工程とする、請求項5又は6に記載の検出方法。
【請求項8】
前記アスペクト比が20以下である、請求項5又は6に記載の検出方法。
【請求項9】
前記アレイは、前記固相担体上に前記標識物質による発色見本領域を別途備える、請求項1〜8のいずれかに記載の検出方法。
【請求項10】
前記発色見本領域は、顔料系インクにより形成されている、請求項9に記載の検出方法。
【請求項11】
前記固相担体は、液体の浸透性又は透過性を有する、請求項1〜10のいずれかに記載の検出方法。
【請求項12】
前記固相担体は、ポリエーテルスルホン、ニトロセルロース、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン及びセルロースから選択される、請求項11に記載の検出方法。
【請求項13】
前記固相担体の厚みは、0.01mm以上0.3mm以下である、請求項1〜12のいずれかに記載の検出方法。
【請求項14】
前記アレイは、前記複数個の固定化領域の外縁の所定の一部にハンドリング部位を備える、請求項1〜13のいずれかに記載の検出方法。
【請求項15】
前記ハイブリダイゼーション工程を、前記アレイを所定の方向性で同一のチューブ状容器に投入した状態を維持して実施する、請求項1〜14のいずれかに記載の検出方法。
【請求項16】
前記ハイブリダイゼーション工程に先立って、前記容器内で遺伝子増幅反応により被験試料を調製する工程を備える、請求項15に記載の検出方法。
【請求項17】
前記固定化領域は、2個以上200個以下である、請求項1〜16のいずれかに記載の検出方法。
【請求項18】
前記検出用プローブは、正規直交配列である塩基配列を有するプローブである、請求項1〜17のいずれかに記載の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−59321(P2013−59321A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−175283(P2012−175283)
【出願日】平成24年8月7日(2012.8.7)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】