説明

標的核酸を増幅して検出するための方法

【課題】本発明は、標的核酸の増幅および検出方法を提供する。
【解決手段】前記方法は、標的核酸を含有すると疑われる試料を、前記標的核酸に実質的に相補的である2種のプライマーおよび熱安定性DNAポリメラーゼと、前記標的核酸が増幅されるような条件下で接触させることを含む。次いで増幅された標的核酸を変性して、一本鎖核酸を形成する。増幅に続いて、前記試料を検出前インキュベーション工程にかける。前記試料を1秒間〜30分間、95℃〜120℃でインキュベートして、前記重合剤を不活性化する。最終的に、増幅された標的核酸の存在もしくは不存在を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的核酸の増幅および検出方法に関する。詳細には、増幅された核酸生成物を検出する改良方法に関する。本発明は、種々の医学的および学術的研究、法医学的調査、ならびに診断方法、例えば、遺伝子障害もしくは感染症の検出に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
増幅技術、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)にプローブを用いる非常に精巧なハイブリッド形成アッセイの発展を包含する、微量の核酸を検出するための技術は、この20年間で急速に進歩した。研究者らは、ヒトおよび動物の試験被検体中の疾患および遺伝的特徴を検出するためのそのような技術の価値を直ちに認めてきた。核酸の増幅および検出にプライマーおよびプローブを使用することは、相補性の概念、すなわち、相補的ヌクレオチド(ヌクレオチド対としても既知である)間の水素結合による二本鎖の核酸の結合に基づいている。
少量のDNAを増幅し検出する方法を見いだすために、多くの研究が行われてきた。種々の方法が既知であり、それらは、検出するために被検体中の核酸の数を増幅するかまたは著しく増大するのに使用されてきた。そのような増幅技術には、PCR、リガーゼ連鎖反応(LCR)、および分枝DNAが含まれる。
【0003】
PCRは、これらのうち最もよく知られている増幅方法である。PCRについての詳細は、例えば、米国特許第 4,638,195号明細書(Mullis他)、米国特許第 4,683,202号明細書(Mullis)および米国特許第 4,965,188号明細書(Mullis他)を包含する従来技術文献によく記載されている。あまり詳しくはないが、PCRでは、重合剤(例えば、DNAポリメラーゼ)およびデオキシリボヌクレオシド三リン酸が存在しており、適当な条件下で、ハイブリッド形成プライマーを標的核酸の鎖に巻き込む。その結果、鋳型に相補的であるヌクレオチドを加えたプライマー伸長生成物が、鋳型に沿って生成する。
【0004】
一度、プライマー伸長生成物を変性し、そして鋳型のコピーを1つ作り、標的核酸と同じ配列を有する核酸の量を指数関数的に増加させるのに望まれる回数だけ、プライミング、伸長および変性のサイクルを実施できる。実際には、標的核酸は、それがより容易に検出されるように何回も複製(または増幅)される。一度、標的核酸が十分に増幅されると、種々の検出方法を用いて、標的の存在を定性的および/または定量的に検出することができる。
一度、標的核酸が十分に増幅されると、種々の検出方法を用いて、その存在を検出することができる。PCR生成物を検出するのに使用される標準検出方法には、臭化エチジウム染色アガロースゲルが用いられる。しかしながら、臭化エチジウム染色ゲルの使用は、例えば、比較的乏しい感度および特異性を包含する幾つかの欠点を有する。
【0005】
放射性標識および電気泳動の使用を排除する、改良されたPCR生成物の検出方法が開発された。これらの非同位体オリゴヌクレオチド捕捉検出方法は、プローブに対する特異的ハイブリッド形成および酵素的信号発生による。そのような非同位体オリゴヌクレオチド捕捉検出方法(逆ドット・ブロット検出としても既知である)は、米国特許第 5,229,297号明細書(Schnepilsky 他)、同第 5,328,825号明細書(Warren他)および同第 5,422,271号明細書(Chen他)に記載されている。また、そのような方法は、Findlay 他,Clinical Chemistry, 39:1927-1933 (1993) に記載されている。
【0006】
これらの非同位体検出方法は、臭化エチジウム染色検出よりも高い感度および特異性を有し、そして放射能の使用を回避する。これらの方法は、ビオチニル化プライマー(複数)で増幅を行ってまたはビオチニル化プローブを用いて操作することで、増幅された核酸を検出する。ビオチニル化生成物もしくはプローブは、次いでアビジンもしくはストレプトアビジン接合酵素、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)と反応する。次いで色素前駆体(もしくは発光性信号試薬)を酵素と接触状態にして色素(ルミネセンス)に変換し、それにより検出可能な信号を発生させることができる。
【0007】
しかしながら、非同位体オリゴヌクレオチド捕捉検出方法は、それら自身に欠点を持たない訳ではない。非同位体オリゴヌクレオチド捕捉検出が標準PCR変性条件(95℃)を利用して実施され、濃縮されたかまたは最低限に希釈された増幅された核酸生成物を変性する場合、増幅反応を行うために利用される酵素、例えば、熱安定性ポリメラーゼもしくはDNAリガーゼは、まだなお存在しかつ活性であるだろう。検出の最中におけるそのような活性酵素の存在は、酵素とプローブとの間で増幅生成物に対する結合の競合を引き起こす。そのような競合は、プローブに結合する増幅された核酸生成物の量を低減し、そのために検出信号を低減しうる。
【0008】
この問題に対する1つの解決方法は、高レベルのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、Mg++のキレート化剤を、増幅を行った後であるが検出する前に、PCR増幅混合物に添加することである。EDTAは、DNAポリメラーゼおよびDNAリガーゼを包含する、活性にMg++を必要とする多数の酵素を阻害することができる。しかしながら、EDTAの使用は、PCR増幅および検出方法に追加段階を加えることになる。加えて、EDTAを使用すると、EDTAを添加するために反応容器を開ける必要がある。当業者らが承知のように、反応容器を開けることは、汚染を懸念して避けるべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、EDTAもしくは別のそのような酵素阻害剤の添加により検出中の増幅プロセスを妨害することは望ましくない。それよりは、汚染の危険性を増大することなく、検出する前に増幅酵素を不活性化する方法が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
検出する前に増幅後インキュベーション段階を用いて増幅酵素を不活性化することにより、前記課題を解決することが本発明の目的である。
ある態様では、本発明は、
(i)標的核酸を含有すると疑われる試料を、前記標的核酸の一部分に実質的に相補的である少なくとも2種のオリゴヌクレオチドおよび熱安定性増幅酵素と、前記標的核酸が増幅されるような条件下で接触させる工程、
(ii)増幅された標的核酸を変性して、一本鎖核酸を形成する工程、
(iii)増幅後インキュベーション工程として、前記試料を1秒間〜30分間、95℃〜120℃でインキュベートして、前記熱安定性増幅酵素を不活性化する工程、並びに
(iv)前記増幅された標的核酸の存在もしくは不存在を検出する工程、
を含む、標的核酸を増幅して検出するための方法に関する。
【0011】
更なる態様では、本発明は、
(i)標的核酸を含有すると疑われる試料を、異なる4種のヌクレオシド三燐酸、熱安定性DNAポリメラーゼ、および前記標的核酸に実質的に相補的である少なくとも2種のプライマーと、前記標的核酸が増幅されるような条件下で接触させる工程、
(ii)増幅された標的核酸を変性して、一本鎖核酸を形成する工程、
(iii)増幅後インキュベーション工程として、前記試料を1秒間〜30分間、95℃〜120℃でインキュベートして、前記重合剤を不活性化する工程、並びに
(iv)前記増幅された標的核酸の存在もしくは不存在を検出する工程、
を含む、標的核酸を増幅して検出するための方法に関する。
【0012】
別の態様では、本発明は、
(i)標的核酸を含有すると疑われる試料を、異なる4種のヌクレオシド三燐酸、熱安定性DNAポリメラーゼ、および少なくとも一方がビオチンで標識されており且ついずれも前記標的核酸に実質的に相補的である少なくとも2種のプライマーと、前記標的核酸が増幅されるような条件下で接触させる工程、
(ii)増幅後インキュベーション段階として、前記試料を0.5分間〜5分間、約105℃でインキュベートして、前記ポリメラーゼを不活性化する工程、並びに
(iii)前記ビオチニル化され増幅された標的核酸を、ストレプトアビジン酵素接合体と反応させ、続いて前記酵素を基質試薬と反応させて、検出可能な比色または化学ルミネセンス信号を生成することにより、前記ビオチニル化され増幅された標的核酸の存在もしくは不存在を検出する工程、
を含む、標的核酸を増幅して検出するための方法に関する。
本発明の様々な別の目的および利点が、以下の発明の説明から明らかであるだろう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ポリメラーゼ連鎖反応を用いる核酸の増幅および検出のための一般的な原理および条件は周知であり、その詳細は、米国特許第 4,683,195号明細書(Mullis他)、米国特許第 4,683,202号明細書(Mullis)および米国特許第 4,965,188号明細書(Mullis他)を包含する多数の文献に提供されている。これらはすべて引用することにより本明細書中に組み入れられる。従って、従来技術文献における教示および本明細書中に提供される特別な教示を考えると、当業者にとって、本明細書で教示したように、生成物検出の前に増幅後インキュベーション工程を加えて増幅酵素を不活性化することにより検出感度を増大する本発明の実施に際して困難はないはずである。
【0014】
熱安定性酵素を使用する別の増幅および検出方法を、本発明の実施に際して使用することもできる。本発明は、増幅中に使用される熱安定性酵素(複数)を不活性化する、増幅後,検出前のインキュベーション工程を提供する。従って、本発明は、熱安定性酵素を使用する任意の増幅方法と共に使用するのに適する。別の熱安定性増幅方法には、例えば、欧州特許第 0 320 308号明細書(1987年12月発行)および欧州特許第 0 439 182号明細書(1990年 1月発行)に記載された、熱安定性DNAリガーゼを用いて隣接したプローブを結合させそれによって相補的核酸配列を生成する、リガーゼ連鎖反応(LCR)が含まれる。LCRでは、標的核酸を、4種のオリゴヌクレオチド・プローブおよび熱安定性DNAリガーゼを用いて増幅する。オリゴヌクレオチド・プローブのうち2種が、増幅しようとするDNA鋳型の一本鎖上の隣接した部位に相補的である。これらのプローブは、2つのプローブ間にニックが形成されるように、そのDNA鎖とハイブリッド形成する。次いでニックを、熱安定性DNAリガーゼにより封じ、それによって標的に相補的な新しいDNA鎖を生成する。第3および第4のプローブは、DNA鋳型の第2の鎖に相補的であり、最初のプローブ対のように機能して相補的DNAを生成する。LCRの増幅された生成物は、標準検出方法を用いて検出できる。本発明の増幅後,検出前インキュベーション段階をLCRに用いると、検出する前にDNAリガーゼを不活性化できる。従って、本明細書に提供した教示により、当業者は、PCRで認められた増幅後酵素変性段階をこれらの別の既知増幅および検出方法に適応させることが可能だろう。この開示の残りは、説明の都合上PCRを用いる本発明の実施に向けられている。
【0015】
本発明は、検出感度を改良するために既知PCR方法を改良するものである。驚くべきことに、本発明によると、増幅後,検出前インキュベーション工程を採用することにより、重合剤を不活性化し、プローブと重合剤との間における増幅された標的核酸に対する結合の競合を低減できることがわかった。この競合の低減により、検出感度が高められる。
本発明は、試験被検体中に存在する1種以上の標的核酸の増幅および検出に向けられている。試験被検体には、細胞性もしくはウイルス性物質、体液または検出できる遺伝子DNAもしくはRNAを含有する別の細胞性物質が含まれうる。
【0016】
増幅し検出しようとする核酸は、プラスミド類並びにいずれかの供給源(例えば、細菌、酵母、ウイルス、植物、高等動物、もしくはヒト)由来の天然産DNAもしくはRNAを包含する種々供給源より得ることができる。それは、限定されるものではないが、既知方法を用いて、血液、末梢血液単核細胞(PBMC)、組織材料もしくは当該技術分野で既知である別の供給源を包含する様々な組織から抽出してもよい。本発明は、ゲノム(genomic )DNA、細菌DNA、真菌DNA、ウイルスRNAまたは細菌もしくはウイルス感染細胞中に見いだされるDNAもしくはRNA中に見いだされる1つ以上の核酸配列の増幅及び検出に特に有用である。
【0017】
本明細書に記載された方法を用いて、感染症、遺伝子障害および細胞障害、例えば、癌に関連する標的核酸を増幅し検出することができる。また、それを法医学的調査およびDNAタイピングに使用してもよい。感染性病原体、例えば、細菌およびウイルスに関連した核酸の検出による、それらの検出に特に有用である。非常に高い感度および/または定量性が必要とされるとき、それは特に有用である。
【0018】
本発明により検出できる細菌には、限定されるものではないが、ヒトの血液中に見いだされる細菌、例えば、サルモネラ種(Salmonella species)、ストレプトコッカス種(Streptococcus species )、クラミジア種(Chlamydia species )、ゴノコッカル種(Gonococcal species)、マイコバクテリア種(Mycobacteria species)(例えば、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)およびトリ型結核菌複合体(Mycobacterium avium complex )、マイコプラズマ種(Mycoplasma species)(例えば、マイコプラズマ・ヘモフィルス・インフルエンザ(Mycoplasma Hemophilus influenzae)およびマイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae ,肺炎マイコプラズマ))、在郷軍人病菌(Legionella pneumophila)、ボレリア・ブルグドルフェライ(Borrelia burgdorferei )、ニューモシスチス・カリニ(Pneumocystis carinii)、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile )、カンピロバクテリア種(Camplyobacteri species)、エルシニア種(Yersinia species)、シゲラ種(Shigella species)ならびにリステリア種(Listeria species)が含まれる。検出可能であるウイルスには、限定されるものではないが、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus )、単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus)、EBウイルス(Epstein Barr virus)、ヒトパピローマウイルス(human papilloma virus )、インフルエンザウイルス(influenza viruses )、肝炎ウイルス(hepatitis virus )ならびにレトロウイルス(例えば、HTLV-I、HTLV-II 、HIV-I およびHIV-II)が含まれる。原生動物寄生体、酵母およびかびも、本発明により検出可能である。別の検出可能な種は、当業者に容易に明らかであるだろう。
【0019】
「PCR試薬」とは、PCRに必須であるとみなされる試薬のいずれか、すなわち、各標的核酸につき一組のプライマー、DNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼ・コファクターおよび1つ以上のデオキシリボヌクレオシド−5′−三燐酸(dNTP類)を称する。PCRに使用される別の任意の試薬および材料を以下に記載する。
「プライマー」の語は、核酸鎖(すなわち、鋳型)に相補的なプライマー伸長生成物の合成が誘導される条件下に置かれた場合に合成の開始点として作用できる、天然産又は合成的に生成されたオリゴヌクレオチドを称する。そのような条件には、別のPCR試薬の存在ならびに適当な温度およびpHが含まれる。
【0020】
本発明のプライマーは、プライムおよび増幅しようとする特異的核酸配列に対して「実質的に相補的」であるように選択される。これは、それらが、それぞれの核酸配列とハイブリッド形成するのに十分に相補的であり、所望のハイブリッド形成生成物を形成し、次いでDNAポリメラーゼにより伸長可能でなければならないことを意味する。典型的には、「実質的に相補的」なプライマーは、標的配列に相補的である塩基を少なくとも70%以上含有するだろう。より好ましくは80%の塩基が相補的であり、さらにより好ましくは90%の塩基が相補的である。最も好ましい状態では、プライマーが標的核酸配列に対して90%〜100%の正確な相補性を有する。
【0021】
プライマーは、増幅で最大効率を発揮させるために好ましくは一本鎖であるが、所望であれば二本鎖領域を含有することができる。それは、DNAポリメラーゼの存在下で伸長生成物の合成をプライムするのに十分長くなければならない。各プライマーの正確なサイズは、予測される用途、プライマーの濃度および配列、標的とされる配列の複雑さ、反応温度、ならびにプライマーの供給源に応じて変化するだろう。一般的には、本発明に使用されるプライマーは、12〜60個のヌクレオチドを有し、そして好ましくはそれらが16〜40個のヌクレオチドを有する。より好ましくは、各プライマーが18〜35個のヌクレオチドを有する。
【0022】
本明細書中の有用なプライマーは、例えば、ABI DNA合成機(Applied Biosystemsより入手可能)またはバイオサーチ8600シリーズもしくは8800シリーズ合成機(Biosearch 8600 Series もしくは8800 Series Synthesizer )(Milligen-Biosearch, Inc.より入手可能)を包含する、既知技法および装置を用いて調製できる。この装置の使用方法は周知であり、例えば、米国特許第 4,965,188号明細書(Gelfand 他)に記載されている。それは、引用することにより本明細書中に組み入れられる。また、生物学的供給源から単離された天然プライマーが有用である(例えば、制限エンドヌクレアーゼ消化物)。通常、一組の少なくとも2つのプライマーが各標的核酸に使用される。従って、複数の組のプライマーを用いて、複数の標的核酸を同時に増幅することができる。
【0023】
本明細書中で用いられる「プローブ」とは、標的核酸の核酸配列に実質的に相補的であり、かつ増幅された標的核酸の検出または捕捉に用いられるオリゴヌクレオチドである。
本発明に用いられるプライマーおよび/またはプローブは、任意に標識することができる。当該技術分野で既知である方法を用いて、プライマーおよび/またはプローブを、特異的バインディング・リガンド(例えば、ビオチン)、酵素(例えば、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ウリカーゼ、およびアルカリ性ホスファターゼ)、放射性同位体、高電子密度試薬、色原体、発蛍光団、リン光体部分、またはフェリチンで標識できる。好ましくは、標識が特異的バインディング・リガンドである。より好ましくは、標識がビオチンもしくはその誘導体、ストレプトアビジンもしくはその誘導体、またはハプテンである。
【0024】
PCRに必要な更なるPCR試薬には、DNAポリメラーゼ(好ましくは熱安定性DNAポリメラーゼ)、DNAポリメラーゼ・コファクターおよび適当なdNTP類が含まれる。これらの試薬は、試験キットの一部として、または試験装置の試薬室に別個に提供できる。
DNAポリメラーゼは、プライマーと鋳型との複合体中のプライマーの3′−ヒドロキシ末端にデオキシリボクレオシド一燐酸分子を加える酵素であるが、しかしこの添加は、鋳型依存方式である。一般的には、伸長生成物の合成は、合成が終わるまで新たに合成される鎖の5′から3′方向に進行する。有用なDNAポリメラーゼには、例えば、大腸菌(E. coli )DNAポリメラーゼI、T4 DNAポリメラーゼ、クレノー(Klenow)ポリメラーゼ、逆転写酵素、および当該技術分野で既知の別のものが含まれる。好ましくは、DNAポリメラーゼが、熱に安定であり、より高い温度、特にDNA鎖のプライミングおよび伸長に用いられる高温で優先的に活性であることを意味する、熱安定性である。より詳細には、熱安定性DNAポリメラーゼは、本明細書に記載されるポリメラーゼ連鎖反応に用いられる高温で実質的に不活性化されない。そのような温度は、pH、ヌクレオチド組成、プライマーの長さ、塩濃度および当該技術分野で既知の別の条件を包含する多数の反応条件により変化するだろう。
【0025】
数多くの熱安定性DNAポリメラーゼが従来技術文献に報告されており、それらには米国特許第 4,965,188号明細書(Gelfand 他)および米国特許第 4,889,818号明細書(Gelfand 他)に詳細に記載されているものが包含される。両方とも引用することにより本明細書に組み入れられる。特に有用なポリメラーゼは、種々のサーマス細菌種、例えば、サーマス・アクアティクス(Thermus aquaticus)、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、サーマス・フィリホルミス(Thermus filiformis)もしくはサーマス・フラバス(Thermus flavus)より得られるものである。別の有用な熱安定性ポリメラーゼが、サーモコッカス・リテラリス(Thermococcus literalis)、ピロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus )、サーモトガ種(Thermotoga sp.)およびWO-A-89/06691 (1989年 7月27日発行)に記載のものを包含する種々の微生物源より得られる。幾つかの有用な熱安定性ポリメラーゼが市販されている、例えば、アプリタック(AppliTaq)(商標)、ティース(Tth )、およびウルトマ(UlTma )(商標)がPerkin Elmerから、フー(Pfu )がStratageneから、そしてベント(Vent)およびディープベント(DeepVent)がNew England Biolabs から市販されている。また、天然のポリメラーゼを生物体から単離して、組換え技法を用いて遺伝子工学酵素を生成するための数多くの技法が既知である。
【0026】
DNAポリメラーゼ・コファクターは、活性について酵素が依存する非タンパク質化合物を称する。従って、酵素はコファクターが存在しないと触媒的に不活性である。限定されるものではないが、マンガン塩およびマグネシウム塩、例えば、塩化物、硫酸塩、酢酸塩および脂肪酸塩を包含する数多くのそのような物質が既知コファクターである。マグネシウムの塩化物および硫酸塩が好ましい。
また、2種以上のデオキシリボヌクレオシド−5′−三燐酸、例えば、dATP、dCTP、dGTP、dTTPおよびdUTPがPCRに必要とされる。類似体、例えば、dITPおよび7−デアザ−dGTPも有用である。好ましくは、4種の普通の三燐酸塩(dATP、dCTP、dGTPおよびdTTP)が一緒に使用される。
【0027】
本明細書中に記載されるPCR試薬は、標的核酸を増幅させるのに適する濃度でPCRに用いられる。増幅に必要とされるプライマー、DNAポリメラーゼ、コファクターおよびデオキシリボヌクレオシド−5′−三燐酸の最低量、ならびに各々の適当な範囲は、当該技術分野で周知である。一般的にはDNAポリメラーゼの最低量は少なくとも約0.5単位/100μLの溶液であるが、約2〜約25単位/100μLの溶液が好ましく、約7〜約20単位/100μLの溶液がより好ましい。所定の増幅系には別の量が有用であるかもしれない。「単位」は、30分間に74℃で総ヌクレオチド(dNTP類)10ナノモルを伸長核酸鎖に組み入れるのに必要とされる酵素活性の量として本明細書で定義される。プライマーの最低量は、少なくとも約0.075マイクロモル濃度であり、約0.1〜約2マイクロモル濃度が好ましいが、別の量が当該技術分野で周知である。一般的には、コファクターは約2〜約15ミリモル濃度の量で存在する。各dNTPの量は、一般的には約0.25〜約3.5ミリモル濃度である。
【0028】
PCR試薬は、個別に供給することもできるし、または種々の組合せで供給することもできるし、あるいはすべて任意の適当な緩衝剤を用いて約7〜約9の範囲のpHを有する緩衝液に含めて供給することもでき、そのようなことの多くが当該技術分野で既知である。
PCRに使用できる別の試薬には、例えば、熱安定性DNAポリメラーゼに特異的な抗体、エキソヌクレアーゼおよび/またはグリコシラーゼが含まれる。抗体を使用して、増幅の前にポリメラーゼを阻害できる。本発明に有用な抗体は、熱安定性DNAポリメラーゼに特異的であり、DNAポリメラーゼの酵素活性を約50℃より下の温度で阻害し、そしてより高い温度で非活性化される。有用な抗体には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体および抗体断片が含まれる。好ましくは、抗体がモノクローナルである。本発明に有用な抗体は、既知方法、例えば、Harlow他,抗体:実験マニュアル(Antibodies:A Laboratory Manual), Cold Spring Harbor, NY (1988) に記載のものを用いて調製できる。
【0029】
代表的なモノクローナル抗体は、米国特許第 5,338,671号明細書(Scalice 他)に記載されており、その内容は引用することにより本明細書に組み入れられる。2つのそのようなモノクローナル抗体が、従来の方法、およびアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)(Rockville, MD )に寄託されているハイブリドーマ・セルラインHB 11126もしくは11127 のいずれかを包含する出発物質を用いて当業者により容易に得られる。モノクローナル抗体は、DNAポリメラーゼに対するモル比約5:1〜約500:1の量で存在する。
【0030】
熱安定性DNAポリメラーゼに特異的な抗体は、単独で、またはSutherland他により1995年 2月 7日に出願された、「ポリメラーゼ連鎖反応における特異性を増強するための、抗ポリメラーゼ抗体に対する捕捉剤としてのエキソヌクレアーゼおよび/またはグルコシラーゼの使用(Use of Exonuclease and/or Glycosylase as Supplements to Anti-Polymerase Antibody to Increase Specificity in Polymerase Chain Reaction)」と題する米国特許出願番号第 08/385,019 号明細書に記載されているように、エキソヌクレアーゼおよび/またはグリコシラーゼと組み合わせて本発明に使用することができる。抗体、エキソヌクレアーゼおよびグリコシラーゼを組み合わせて使用すると、ゼロ・サイクル・アーチファクトの生成を低減する。PCRにおける使用に適するエキソヌクレアーゼには、限定されるものではないが、エキソヌクレアーゼIII、エキソヌクレアーゼI、エキソヌクレアーゼ、T7エキソヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼII、ポリヌクレオチド・ホスホリラーゼおよびBAL 31ヌクレアーゼが含まれる。そのようなエキソヌクレアーゼは、市販されているか、または当該技術分野で既知の方法により得ることができる。本発明に有用なグリコシラーゼは、通常のものとは異なる塩基、すなわち、DNA中のA、G、CもしくはTならびにRNA中のA、G、CおよびU以外の塩基を特異的に切断するものである。好ましいグリコシラーゼには、ウラシル−N−グリコシラーゼ(UNG)、ヒポキサンチン−DNAグリコシラーゼおよび3−メチアデニン−DNAグリコシラーゼIおよびIIが含まれる。好ましい態様では、Taqポリメラーゼ、Taqポリメラーゼに対するモノクローナル抗体、エキソヌクレアーゼIIIおよびウラシル−N−グリコシラーゼが使用される。
【0031】
標的核酸(DNAもしくはRNAのいずれか)は、任意の様々な前記供給源から得ることができる。一般的には、試料を何らかの方法で処理して、DNAをプライマーおよび別のPCR試薬と接触可能にする。これは、通常、当該技術分野で既知である種々方法の1つを用いて試料から望ましくないタンパク質および細胞性物質を除去することを意味する。
増幅し検出しようとする核酸はしばしば二本鎖型であるので、プライミングおよび増幅を行う前に二本鎖を分離(すなわち、変性)しなければならない。変性は、熱処理のみ単独で用いて、または従来技術文献に記載されるように鎖を分離するための任意の別の適当な物理的、化学的もしくは酵素的手段と組み合わせて用いて達成できる。初期変性は、一般的には標的核酸を含有することが疑われる試料を、約85°〜約100℃の第1温度で適当な時間、例えば、約1秒間〜3分間加熱することにより実施される。
【0032】
次いで変性した鎖を、一般的には、鎖をプライミングするために約55°〜約70℃の範囲内である温度に冷却する。初期変性の後に鎖を冷却するのに要する時間は、PCR方法に使用される機器の型により変化するだろう。
一旦、変性した鎖を第2温度に冷却し、PCR試薬を含有する反応混合物と共に変性した鎖を、鎖に対するプライマーのアニーリング(ハイブリッド形成)およびプライマーの伸長を行ってプライマー伸長生成物を形成するのに適する温度でインキュベートする。一般的には、この温度は、少なくとも約50℃であり、好ましくは約62°〜約75℃の範囲である。インキュベーション時間は、インキュベーション温度および所望の伸長生成物の長さにより広範に変化できるが、好ましい態様では、約1〜約120秒間である。PCRの各サイクルは、2つまたは3つの異なる温度、1つは変性用、そして第2または第3の温度はプライミングおよび/またはプライマー伸長生成物形成用の温度のいずれかを用いて実施できる。
【0033】
少なくとも1つのプライマー伸長生成物の生成後の任意の時点で、増幅を停止し標的プライマー伸長生成物(前記「増幅された標的」)を検出することができる。しかしながら、次いでハイブリッド形成されたプライマー伸長生成物を変性する場合、プライミング、伸長および変性のサイクルを更に所望の回数、PCRを実施できる。実施されるPCRサイクルの回数は、幾分、増幅された所望の標的の量によるであろうし、当業者らにより容易に決定されうる。一般的には、少なくとも20回実施され、20〜50回が好ましい。
【0034】
複数の標的核酸を増幅するとき、特に標的の一方がより低いコピー数の標的でありかつ一方が高いコピー数の標的である場合、Backus他により1994年 6月 6日に出願され、「中間復元段階を用いる増幅方法(Method of Amplification Using Intermediate Renaturation Step)」と題する米国特許出願番号第08/264,102号明細書に記載されたように、第2の復元段階を第1PCRサイクルを実施した後に使用することができる。少なくとも15回の第1増幅サイクルの後(第1増幅サイクルは変性、プライミングおよび伸長を含む)、各変性段階後かつプライマー・アニーリング前に復元段階が含まれていることを除いて同じ段階を有する第2増幅サイクルを実施する。復元は、米国特許出願番号第08/264,102号明細書に記載されたように、反応混合物を第4温度に冷却することにより達成される。
【0035】
本発明では、所望の回数PCRサイクルを用いて標的核酸を増幅した後、増幅後,検出前インキュベーション段階を行ってDNAポリメラーゼを不活性化し、それにより検出感度を増大する。増幅後インキュベーション段階を実施する際の条件は、使用される熱安定性酵素に依存するが、温度およびインキュベーション期間を組み合わせて酵素を不活性化するようなものであるだろう。好ましくは、この増幅後インキュベーション段階が、増幅された標的を含有するPCR増幅混合物を約95℃〜約120℃の温度で約1秒間〜約30分間インキュベートすることにより実施される。好ましくは、増幅後インキュベーション段階が、100℃〜110℃の温度で15秒間〜10分間、より好ましくは約105℃の温度で5分間以下加熱することを含む。
【0036】
一度、増幅後インキュベーションを行うと、増幅された核酸標的を検出できる。検出は、数多くの既知方法、例えば、米国特許第 4,965,188号明細書(Gelfand 他)に記載されたもので達成できる。例えば、増幅された核酸を、サザン・ブロッティング、ドット・ブロット法または標識されたプローブを用いて非同位体オリゴヌクレオチド捕捉検出を用いて検出できる。あるいは、適当に標識されたプライマーを用いて増幅を実施することができ、そして標識を検出するための方法及び装置を用いて、増幅されたプライマー伸長生成物を検出できる。
【0037】
好ましい態様では、増幅された標的核酸が、検出のために標識され、かつ増幅された標的と直接的または間接的にハイブリッド形成できるオリゴヌクレオチド・プローブを用いて検出される。プローブは、可溶性であってもまたは固形支持体に付着していてもよい。別の好ましい態様では、標的核酸を増幅するのに用いられる1つ以上のプライマーが、例えば、特異的バインディング部分で標識される。標識されたプライマーが組み入れられている得られたプライマー伸長生成物は、プローブで捕捉することができる。プローブとハイブリッド形成した増幅された標的の検出は、当該技術分野で周知である適当な検出装置および方法を用いて、標識されたプローブもしくは標識され増幅された標的の存在を検出することにより達成できる。検出装置を使用することなく、所定の標識を目視可能にしてもよい。
【0038】
より好ましい態様では、標的核酸を増幅するのに使用される1つ以上のプライマーをビオチンで標識し、そしてビオチニル化され増幅された標識核酸を、固形支持体に付着されたプローブに対してハイブリッド形成させる。次いで結合した標的を、酸化剤、例えば、過酸化水素および適当な色素生成性組成物の存在下ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ接合体と接触させることにより、それらを検出する。例えば、有用な色素提供性試薬には、テトラメチルベンジジンおよびその誘導体、ならびにロイコ色素、例えば、米国特許第 4,089,747号明細書(Bruschi )に記載されたようなトリアリールイミダゾールロイコ色素が含まれる。
【0039】
本明細書中で用いられる語句「約」が時間に関する場合、その制限時間の±10%を意味する。温度に関して用いられる場合、語句「約」は±5℃を意味する。
以下の実施例は、本発明の実施を具体的に示すために含めるものであって、いずれにしても限定することを意味するものではない。すべてのパーセンテージは、特に断らないかぎり重量パーセントである。
【実施例】
【0040】
材料
サーマス・アクアティクス由来の組換えDNAポリメラーゼは、既知方法、例えば、EP-A-0 482 714に記載されたものを用いて調製したものであり、約250,000単位/タンパク質1mgの活性を有するものであった。
【0041】
以下の実施例で用いたプライマーは、以下の配列を有するものであった。
5′−CACCACGCAGCGGCCCTTGATGTTT −3′(配列番号:1)
5′−TGCACTGCCAGGTGCTTCGGCTCAT −3′(配列番号:2)
捕捉プローブは以下の配列を有する。
5′−GAACCGAGGGCCGGCTCACCTCTATGTTGG−3′(配列番号:3)
以下の実施例で用いたプライマー及びプローブは、標準ホスホルアミダイト化学及びABI 1μモル濃度スケール、第1サイクル・プロトコールを用いてApplied Biosystems Model 380B ,スリー・カラムDNA合成器(three column DNA synthesizer)を使用して、既知出発物質及び方法を用いて調製した。制御された孔質ガラス支持体(controlled pore glass supports)に導入されたヌクレオシド−3′−ホスホルアミダイト及びヌクレオシドは、Applied Biosystemsより入手した。プライマーは先に同定した配列を有するものであった。それらを、米国特許第 4,962,029号明細書に従って5′末端を2つのアミノテトラエチレングリコール・スペーサーで機能化し、続いて1つのDuPont市販のビオチンホスホルアミダイトで機能化した。プローブは、3′末端を2つのテトラエチレングリコール・スペーサーで機能化し、続いて米国特許第 4,914,210号明細書に従って1つのアミノジオール連結基で機能化した。核酸精製カラム、続いて逆相HPLC技法を用いて、すべての精製を実施した。デオキシリボヌクレオチド(dNTP類)は、Sigma Chemical Co.より入手した。
【0042】
ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ接合体溶液は、市販(Sigma Chemical Co.) のストレプトアビジンと西洋ワサビペルオキシダーゼの接合体、カゼイン( 0.5%)およびメルチオレート( 0.5%)を燐酸緩衝溶液(24ミリモル濃度の燐酸ナトリウムおよび75ミリモル濃度の塩化ナトリウム)に含むものを用いた。10ミリモル濃度の4′−ヒドロキシアセトアニリドを接合体安定剤として添加した。実施例1および2では、最終接合体濃度は1.1nMであった。実施例3では、最終接合体濃度は0.28nMであった。
【0043】
サイトメガロウイルス、菌株AD 169DNAは、Applied Biotechnology Inc.より受け取った。簡単には、従来の方法を用いてヒト包皮線維芽細胞セルラインからDNAを抽出した。
ウイルス・ロット明細書
ウイルス:サイトメガロウイルス,菌株AD 169
増殖のセルライン:ヒト包皮線維芽細胞
ウイルス調製:ショ糖密度勾配精製,1000×濃縮
ウイルス粒子カウント:1000×で1.65×1010vp/mL
活性ウイルスにおけるTCID50力価:1000×で107 TCID50単位/mL
DNA抽出明細書
容量:0.1mL
懸濁緩衝液:10mMトリス/1mMEDTA,pH8.0
抽出法:SDS、プロテイナーゼK消化、続いてフェノール/クロロホルム抽出 そしてエタノール沈殿。1mLの抽出物を1mLの精製ウイルスから調製した。
輸送および保管:6×0.1mLを−70℃で凍結して輸送した。−20℃以下で保管した。
【0044】
ロイコ色素分散体は、アガロース(0.5%)、4,5−ビス(4−ジメチルアミノフェニル)−2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)イミダゾールロイコ色素(250マイクロモル濃度)、ジエチレントリアミン五酢酸(100マイクロモル濃度)、3′−クロロ−4′−ヒドロキシアセトアニリド(5ミリモル濃度)、ポリビニルピロリドン(112ミリモル濃度)、および燐酸ナトリウム,一塩基性,一水和物(10ミリモル濃度)、ならびに過酸化水素(H22 )(8.82ミリモル濃度)を含有するものであった。
【0045】
洗浄溶液(pH7.4)は、塩化ナトリウム(373ミリモル濃度)、(エチレンジニトリロ)四酢酸二ナトリウム塩(2.5ミリモル濃度)、デシル硫酸ナトリウム(38ミリモル濃度)およびエチルセリチオサリチル酸ナトリウム塩(25マイクロモル濃度)を燐酸ナトリウム,一塩基性一水和物緩衝液(25ミリモル濃度)に含有するものであった。
モノクローナル抗体を反応混合物に用いた。これらの抗体「TP1−12.2」および「TP4−9.2」は、サーマス・アクアティクス由来のDNAポリメラーゼに特異的であり、Sutherland他により1995年 2月 7日に出願され、「ポリメラーゼ連鎖反応における特異性を増強するための抗ポリメラーゼ抗体に対する捕捉剤としてのエキソヌクレアーゼおよび/またはグリコシラーゼの使用(Use of Exonuclease and/or Glycosylase as Supplements to Anti-Polymerase Antibody to Increase Specificity in Polymerase Chain Reaction)」と題する米国特許出願番号第 08/385,019 号明細書により詳細に記載されている。
【0046】
ポリメラーゼ連鎖反応混合物(75mL)には、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(10ミリモル濃度,pH8)、塩化カリウム(50ミリモル濃度)、塩化マグネシウム(4ミリモル濃度)、dATP、dCTP、dGTPおよびdTTP(各々0.3mM)、配列番号:1および配列番号:2のプライマー(各々0.4マイクロモル濃度)、IV型ゼラチン(100mg/mL )、Taqポリメラーゼ(16単位/100μL )、およびグリセロール(9.5%)を含有するものであった。モル濃度が50倍過剰な(ポリメラーゼを越える)TP1−12.2および5×過剰なTP4−9.2を用いた。
PCR増幅は、米国特許第 5,089,233号明細書に記載の自動PCR処理装置を用いて実施した。
【0047】
捕捉試薬を形成するために、従来の乳化重合法を用いてポリ〔スチレン−−3(−ビニルベンジルチオ)プロピオン酸〕(重量比95:5,平均直径1μm )から調製したポリマー粒子(平均直径1μm )にプローブを共有結合させた。粒子の水への懸濁液を2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸緩衝液(0.1モル濃度,pH6)で洗浄し、そして約10%固体になるように懸濁した。洗浄した粒子の試料(3.3mL)を、緩衝液(0.1モル濃度)中3.33%固体になるように希釈し、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド ヒドロクロリド(84mg/mL の水溶液を2.1mL)およびプローブ(44.44OD/mL のナノピュア水で調製したものを983μL )を混合した。得られた懸濁液を水浴中50℃で約2時間時々混ぜながら加熱し、そして遠心分離した。次いで粒子を、(エチレンジニトリロ)四酢酸二ナトリウム塩(0.001モル濃度)を含有するトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(0.01モル濃度,pH8)で3回洗浄し、そして4%固体となるように再懸濁した。次いで粒子を、膠を加えて2%固体の状態で臨床診断用(Clinical Diagnostic's)PCRパウチの不連続なスポットに固定化した。PCR生成物を、臨床診断用パウチ検出システムを用いて検出した。
別の試薬および材料は、商業的供給源から入手するか、または容易に入手可能な出発物質および従来の方法を用いて調製した。
【0048】
検出感度を増強するための生成物検出前の増幅後インキュベーション段階
実施例1
本実施例は、PCRを用いて生成された核酸生成物を、増幅後インキュベーション段階を使用して、ポリメラーゼを変性することにより検出する本発明を具体的に示すものである。
陽性プールは、以下のPCRプロトコールを40〜45サイクル用いてCMV標的を増幅することにより生成した。
1.95℃で15秒間加熱することによる変性、そして
2.70℃で30秒間プライミングおよび伸長するサイクル。
生成物濃度は、既知濃度のDNA鎖と共にゲル電気泳動することにより定量した。次いで、得られた増幅後PCR反応混合物を下記のように用いた。
【0049】
PCR後反応混合物を生成することに加えて、前記PCRプロトコールを用いてCMV DNA標的を添加していないPCR反応混合物でPCR増幅を実施することにより、CMV陰性生成物プールを調製した。
増幅後PCR反応混合物(10-7〜10-8M )を、CMV陰性生成物プールで1:100〜1:5000に希釈して最終CMV DNA濃度が1×10-10 M 、2.5×10-11 M 、または5×10-11 M となるようにした。次いで希釈した増幅後PCR反応混合物を、増幅後インキュベーションにかけてポリメラーゼを不活性化した。増幅後インキュベーション段階を2分間97℃もしくは100℃で、または5分間100℃で実施した。
【0050】
増幅後インキュベーションの後に、58℃で5分間臨床診断用PCRパウチの内部で捕捉試薬を用いて標的核酸を捕捉することにより、増幅された生成物を検出した。次いで捕捉された生成物を、55℃で1分間ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ接合体溶液と接触させてインキュベートした。洗浄溶液を用いて1分間55℃で洗浄を実施し、その後色素提供性組成物を添加し、そして4分間40℃でインキュベートした。得られた信号を線配列スキャナーで読み取った。スキャナーは反射率濃度(ΔDr)の変化を測定した。ΔDrは、色素発色開始前の初期読み取り値と色素発色4分後の最終読み取り値との間の反射率濃度における差である。目視的に陰性な捕捉ビーズにおけるスキャナーのバックグラウンドは、0.05〜0.1Dr単位の範囲であった。
【0051】
以下の結果は、増幅後インキュベーション段階が検出感度を増強することを示している。
増幅後インキュベーション条件 生成物濃度 CMV ΔDr
(スキャナー)
97℃で2分間 1×10-10 M 0.175
97℃で2分間 5×10-11 M 0.14
97℃で2分間 2.5×10-11 M 0.11
100℃で2分間 1×10-10 M 0.265
100℃で2分間 5×10-11 M 0.19
100℃で2分間 2.5×10-11 M 0.13
100℃で5分間 1×10-10 M 0.435
100℃で5分間 5×10-11 M 0.31
100℃で5分間 2.5×10-11 M 0.21
【0052】
これらの結果は、100℃で5分間増幅後インキュベーション段階を行うと、バックグラウンドを越えて少なくとも4倍そして恐らく少なくとも5倍有効検出限界を増強することを示している。これらの結果に基づいて、特に、100℃でのインキュベーション期間を2分間から5分間に増加することによる改良の結果に基づいて、第2実験は、増幅後インキュベーションを100℃で15分間実施した。
【0053】
実施例2
この第2実験では、CMV DNAの増幅を、実施例1に記載されたように実施した。実施例1に記載したように、得られた増幅後PCR反応混合物を、CMV陰性生成物プールで希釈し、増幅後インキュベーションにかけてポリメラーゼを不活性化した。増幅後インキュベーション段階を15分間100℃で実施した。増幅後インキュベーションの後に、実施例1に記載したように増幅された生成物を検出した。
以下の結果は、増幅後インキュベーション段階が検出感度を増強することを示している。
増幅後インキュベーション条件 生成物濃度 CMV ΔDr
(スキャナー)
97℃で2分間 1×10-10 M 0.140
97℃で2分間 1×10-10 M 0.122
100℃で5分間 1×10-10 M 0.336
100℃で5分間 1×10-10 M 0.346
100℃で15分間 1×10-10 M 0.503
100℃で15分間 1×10-10 M 0.480
これらの結果は、100℃での増幅後インキュベーション時間を増加すると、更なる利益が得られることを示唆している。
【0054】
実施例3
インキュベーション温度を増加することにより更なる検出感度向上が実現できるかどうか測定するために、CMV DNAの増幅を、実施例1に記載されたように実施し、100℃もしくは103℃で増幅後インキュベーションを行った。103℃で様々なインキュベーション時間について調査した。加えて、最終接合体濃度もしくは0.28nM の低感度検出化学についてこの実験を実施した。この実験の結果は以下のとおりであった。
増幅後インキュベーション条件 生成物濃度 CMV ΔDr
(スキャナー)
100℃で5分間 1×10-10 M 0.152
100℃で15分間 1×10-10 M 0.270
103℃で2分間 1×10-10 M 0.264
103℃で5分間 1×10-10 M 0.318
これらの結果は、少なくとも更に2倍増強そして恐らく3倍増強が、増幅後インキュベーション段階温度を100℃から103℃に増加することにより、そして5分間インキュベーション期間を維持することにより達成されうることを具体的に示している。
【0055】
以上本明細書中に言及したすべての刊行物は、これにより引用することによって組み入れられる。
前記本発明を、明瞭にし理解する目的で幾らか詳細に記載してきたが、様式および細部の様々な変化が本発明の真の範囲から逸脱することなく可能であることは、この開示の解釈から当業者らに認められるだろう。
【配列表フリーテキスト】
【0056】
(1)一般情報
(i)出願人:バッカス,ジョン ダブリュ.(Backus, John W. )
クラマー,マルシア エル.(Kramer, Marcia L. )
ファルボ,ジョセフ(Falvo, Joseph )
(ii)発明の名称:標的核酸を増幅して検出するための方法
(iii)配列の数:3
(iv)通信用住所:
(A)名宛人:ステーシア エル.オグデン(Stasia L. Ogden )
(B)ストリート:ワン ジェイアンドジェイ プラザ(One J&J Plaza )
(C)シティー:ニューブロンスウィック(New Brunswick )
(D)ステート:ニュージャージー(New Jersey)
(E)国:USA
(F)ZIP:08933
(v)コンピューター読み取り可能なフォーム:
(A)媒体タイプ:フロッピーディスク
(B)コンピューター:IBM PC 互換性
(C)操作システム:PC−DOS/MS−DOS
(D)ソフトウェア:パテント イン リリース(Patent In Release )#1.0,バージョン#1.25
(vi)最新の出願データ:
(A)出願数:
(B)出願日:
(C)分類:
(viii)代理人/代理業者情報
(A)氏名:オグデン,ステーシア エル.(Ogden, Stasia L.)
(B)登録番号:36,228
(C)参照/ドケット番号:CDS−92
(ix)遠距離通信情報:
(A)電話:908−524−2819
(B)テレファックス:908−524−2808
【0057】
配列番号:1
配列の長さ:25
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:DNA(genomic )
配列
CACCACGCAG CGGCCCTTGA TGTTT 25
【0058】
配列番号:2
配列の長さ:25
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:DNA(genomic )
配列
TGCACTGCCA GGTGCTTCGG CTCAT 25
【0059】
配列番号:3
配列の長さ:30
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:DNA(genomic )
配列
GAACCGAGGG CCGGCTCACC TCTATGTTGG 30

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)標的核酸を含有すると疑われる試料を、前記標的核酸の一部分に実質的に相補的である少なくとも2種のオリゴヌクレオチドおよび熱安定性増幅酵素と、前記標的核酸が増幅されるような条件下で接触させる工程、
(ii)増幅された標的核酸を変性して、一本鎖核酸を形成する工程、
(iii)増幅後インキュベーション工程として、前記試料を1秒間〜30分間、95℃〜120℃でインキュベートして、前記熱安定性増幅酵素を不活性化する工程、並びに
(iv)前記増幅された標的核酸の存在もしくは不存在を検出する工程、
を含む、標的核酸を増幅して検出するための方法。
【請求項2】
4種のオリゴヌクレオチドおよび熱安定性DNAリガーゼを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(i)標的核酸を含有すると疑われる試料を、異なる4種のヌクレオシド三燐酸、熱安定性DNAポリメラーゼ、および前記標的核酸に実質的に相補的である2種のプライマーと、前記標的核酸が増幅されるような条件下で接触させる工程、
(ii)増幅された標的核酸を変性して、一本鎖核酸を形成する工程、
(iii)増幅後インキュベーション工程として、前記試料を1秒間〜30分間、95℃〜120℃でインキュベートして、前記重合剤を不活性化する工程、並びに
(iv)前記増幅された標的核酸の存在もしくは不存在を検出する工程、
を含む、標的核酸を増幅して検出するための方法。
【請求項4】
前記増幅後インキュベーション工程を、15秒間〜10分間、100℃〜110℃で実施する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記増幅後インキュベーション工程を、0.5分間〜5分間、約105℃で実施する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記標的核酸がDNAまたはRNAである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記標的核酸がDNAである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記標的核酸がRNAである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ヌクレオシド三燐酸がデオキシリボヌクレオシド三燐酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記デオキシリボヌクレオシド三燐酸が、dATP、dCTP、dGTPおよびdTTPである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記熱安定性DNAポリメラーゼが、サーマス・アクアティクス(Thermus aquaticus )ポリメラーゼ、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)ポリメラーゼおよびサーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)ポリメラーゼからなる群より選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
前記プライマーの少なくとも一方が標識されている、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
前記プライマーが標識されている、請求項3に記載の方法。
【請求項14】
前記プライマーの少なくとも一方が、特異的バインディング・リガンドで標識されている、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記特異的バインディング・リガンドがビオチンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記増幅された標的核酸を、1種以上の標的核酸のうちの1つとハイブリダイズし得る標識されたプローブを用いて検出する、請求項3に記載の方法。
【請求項17】
前記標識されたプローブを、固形支持体に付着してある、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記プライマーの少なくとも一方を、特異的バインディング部分で標識し、そして前記増幅された標的核酸を、1種以上の標的核酸のうちの1つとハイブリダイズし得るプローブを用いて検出する、請求項3に記載の方法。
【請求項19】
前記プローブを、固形支持体に付着してある、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
(i)標的核酸を含有すると疑われる試料を、異なる4種のヌクレオシド三燐酸、熱安定性DNAポリメラーゼ、および少なくとも一方がビオチンで標識されており且ついずれも前記標的核酸に実質的に相補的である2種のプライマーと、前記標的核酸が増幅されるような条件下で接触させる工程、
(ii)増幅後インキュベーション段階として、前記試料を0.5分間〜5分間、約105℃でインキュベートして、前記ポリメラーゼを不活性化する工程、並びに
(iii)前記ビオチニル化され増幅された標的核酸を、ストレプトアビジン酵素接合体と反応させ、続いて前記酵素を基質試薬と反応させて、検出可能な比色または化学ルミネセンス信号を生成することにより、前記ビオチニル化され増幅された標的核酸の存在もしくは不存在を検出する工程、
を含む、標的核酸を増幅して検出するための方法。
【請求項21】
前記ビオチニル化され増幅された標的核酸を、アビジン−ペルオキシダーゼ接合体を接触させ、続いて酸化剤の存在下、ペルオキシダーゼをルミノールと反応させて検出可能な化学ルミネセンス信号を生成するか、またはロイコ色素と反応させて検出可能な比色信号を生成することにより、前記ビオチニル化され増幅された標的核酸を検出する、請求項20に記載の方法。

【公開番号】特開2012−105663(P2012−105663A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−19550(P2012−19550)
【出願日】平成24年2月1日(2012.2.1)
【分割の表示】特願平9−56337の分割
【原出願日】平成9年3月11日(1997.3.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(594199337)オルソ−クリニカル ダイアグノスティクス,インコーポレイティド (14)
【Fターム(参考)】