標的物質の細胞導入効率を上昇させるための組成物および方法
本発明は、細胞に導入されることが難しい標的物質(例えば、DNA、ポリペプチド、糖、あるいはそれらの複合体など)を導入する(特に、トランスフェクション)際に、その導入効率をどのような状況にもとでも改善することができる方法を開発することを課題とする。
本発明は、標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物であって、(a)アクチン作用物質、を含む、組成物を提供する。本発明はまた、このような組成物を用いたデバイスおよび方法にも関する。
本発明は、標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物であって、(a)アクチン作用物質、を含む、組成物を提供する。本発明はまた、このような組成物を用いたデバイスおよび方法にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞生物学の分野に関する。より詳細には、本発明は、細胞への物質の導入効率を上げる化合物、組成物、デバイス、方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の細胞への導入、トランスフェクション、形質転換、形質導入などの遺伝子導入技術を含む標的物質の細胞への導入は、細胞生物学、遺伝子工学、分子生物学など広い分野において広く使用されている。
【0003】
トランスフェクションは、動物細胞などの細胞において一過的に遺伝子を発現させ、その影響を観察するためなどに利用される技術であり、ポストゲノム時代を迎えた現在、そのゲノムがコードする遺伝子の機能を解明するために頻繁に利用される技術となっている。
【0004】
トランスフェクションを達成するために種々の技術が開発されており、そのために利用される薬剤が種々開発されている。そのような技術として、カチオオン性の物質であるカチオン性ポリマー、カチオン性脂質などを利用する技術があり、広く使用されている。
【0005】
しかし、従来の薬剤を使用するのみでは、トランスフェクション効率が十分ではないことが頻繁に起こっており、固相、液相を問わずに使用することができるような薬剤は未だに開発されていない。従って、そのような薬剤に対する需要は多大に存在する。また、マイクロタイタープレート、アレイなどの固相上での標的物質の導入(例えば、トランスフェクション)を効率的に行うための技術の開発に対する需要はますます高まるばかりである。
【0006】
哺乳動物においてドミナントネガティブスクリーニングを開発する際の進行を妨げるもののうちの1つは、トランスフェクト細胞またはトランスジェニック生物の作製である。この問題に取り組むための1つの手段として高効率のレトロウイルストランスフェクションが開発されている。このレトロウイルストランスフェクションは、強力であるが、ウイルス中間体にパッケージングされるDNAの作製を必要とし、適用性に限界がある。あるいは、高密度トランスフェクションアレイも開発されつつあるが、これもまた、すべての細胞に適用可能というわけではない。液相トランスフェクションについても、種々の系が開発されているものの、付着細胞では効率が悪いなど、すべての細胞に適用可能というわけではない。
【0007】
このように、当該分野において、すべての系および細胞において適用可能な、トランスフェクション系の開発が望まれている。そのようなトランスフェクション系の開発は、例えば、マイクロタイタープレート、アレイなどを用いた大規模ハイスループットアッセイにおいて、種々の細胞および実験系に適用することへの応用が期待されることから、その需要は年々高まるばかりである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来拡散あるいは疎水性相互作用によっては細胞に導入されることが難しい標的物質(例えば、DNA、ポリペプチド、糖、あるいはそれらの複合体など)を導入する(特に、トランスフェクション)際に、その導入効率をどのような状況にもとでも改善することができる方法を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を、アクチン作用物質を用いた系によって標的物質を細胞に導入する効率が飛躍的に上昇することを予想外に見いだしたことによって解決した。上記課題の解決は一部、細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど)がアクチンへ作用することを予想外に見いだしたことにも起因する。
【0010】
従って、本発明は、以下の発明を提供する。
【0011】
(1) 標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物であって、
(a)アクチン作用物質、
を含む、組成物。
【0012】
(2) 上記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、項目1に記載の組成物。
【0013】
(3) 上記アクチン作用物質は、フィブロネクチン、ラミニンおよびビトロネクチンからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質またはその改変体もしくはフラグメントを含む、項目2に記載の組成物。
【0014】
(4) 上記アクチン作用物質は、
(a−1)Fn1ドメインである配列番号11のアミノ酸21位〜アミノ酸241位を少なくとも有するタンパク質分子またはその改変体;
(a−2)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質分子またはその改変体もしくはそのフラグメント;
(b)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
を含む、組成物。
【0015】
(5) 上記Fn1ドメインは、配列番号11のアミノ酸21位〜アミノ酸577位を含む、項目1に記載の組成物。
【0016】
(6) 上記Fn1ドメインを有するタンパク質分子は、フィブロネクチンまたはその改変体もしくはフラグメントである、項目1に記載の組成物。
【0017】
(7) さらに遺伝子導入試薬を含む、項目1に記載の組成物。
【0018】
(8) 上記遺伝子導入試薬は、カチオン性高分子、カチオン性脂質およびリン酸カルシウムからなる群より選択される、項目1に記載の組成物。
【0019】
(9) さらに、粒子を含む、項目1に記載の組成物。
【0020】
(10) 上記粒子は、金コロイドを含む、項目9に記載の組成物。
【0021】
(11) さらに、塩を含む、項目1に記載の組成物。
【0022】
(12) 上記塩は、緩衝剤に含まれる塩類および培地に含まれる塩類からなる群より選択される、項目11に記載の組成物。
【0023】
(13) 遺伝子導入効率を上昇させるためのキットであって、
(a)アクチン作用物質を含む組成物;および
(b)遺伝子導入試薬、
を備える、キット。
【0024】
(14) 標的物質を細胞内へ導入するための組成物であって、
A)標的物質、
B)アクチン作用物質、
を含む、組成物。
【0025】
(15) 上記標的物質は、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体からなる群より選択される物質を含む、項目14に記載の組成物。
【0026】
(16) 上記標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む、項目14に記載の組成物。
【0027】
(17) さらに、遺伝子導入試薬を含む、項目16に記載の組成物。
【0028】
(18) 上記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、項目14に記載の組成物。
【0029】
(19) 液相として存在する、項目14に記載の組成物。
【0030】
(20) 固相として存在する、項目14に記載の組成物。
【0031】
(21) 標的物質を細胞に導入するためのデバイスであって、
A)標的物質;および
B)アクチン作用物質、
を含む、組成物が、固相支持体に固定された、デバイス。
【0032】
(22) 上記標的物質は、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体からなる群より選択される物質を含む、項目21に記載のデバイス。
【0033】
(23) 上記標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む、項目21に記載のデバイス。
【0034】
(24) 遺伝子導入試薬をさらに含む、項目23に記載のデバイス。
【0035】
(25) 上記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、項目21に記載のデバイス。
【0036】
(26) 上記固相支持体は、プレート、マイクロウェルプレート、チップ、スライドグラス、フィルム、ビーズおよび金属からなる群より選択される、項目21に記載のデバイス。
【0037】
(27) 上記固相支持体は、コーティング剤でコーティングされる、項目21に記載のデバイス。
【0038】
(28) 上記コーティング剤は、ポリ−L−リジン、シラン、MAS、疎水性フッ素樹脂および金属からなる群より選択される物質を含む、項目27に記載のデバイス。
【0039】
(29) 標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための方法であって、
A)標的物質を提供する工程;
B)アクチン作用物質を提供する工程;
C)上記標的物質および上記アクチン作用物質を上記細胞に接触させる工程、
を包含する、方法。
【0040】
(30) 上記標的物質は、DNA、RNA、ポリペプチド、糖、およびこれらの複合体からなる群より選択される物質を含む、項目29に記載の方法。
【0041】
(31) 上記標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む、項目29に記載の方法。
【0042】
(32) 遺伝子導入試薬を提供する工程をさらに包含し、上記遺伝子導入試薬は、上記細胞に接触される、項目31に記載の方法。
【0043】
(33) 上記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、項目29に記載の方法。
【0044】
(34) 上記工程は、液相中で行われる、項目29に記載の方法。
【0045】
(35) 上記工程は、固相上で行われる、項目29に記載の方法。
【0046】
(36) 標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための方法であって、
I)A)標的物質;および
B)アクチン作用物質、を含む組成物、
を固体支持体に固定する工程、
II)上記固体支持体上の上記組成物に細胞を接触させる工程、
を包含する、方法。
【0047】
(37) 上記標的物質は、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体からなる群より選択される物質を含む、項目36に記載の方法。
【0048】
(38) 上記標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む、項目36に記載の方法。
【0049】
(39) 遺伝子導入試薬を提供する工程をさらに包含し、上記遺伝子導入試薬は、上記細胞に接触される、項目38に記載の方法。
【0050】
(40) 上記遺伝子導入試薬の提供後に、上記標的物質である上記DNAと複合体を形成する工程をさらに包含し、その後、上記アクチン作用物質が提供されることにより上記組成物が提供される、項目39に記載の方法。
【0051】
(41) 上記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、項目36に記載の方法。
【0052】
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
(発明の実施の形態)
以下に本発明の好ましい形態を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など、独語の場合の「ein」、「der」、「das」、「die」などおよびその格変化形、仏語の場合の「un」、「une」、「le」、「la」など、スペイン語における「un」、「una」、「el」、「la」など、他の言語における対応する冠詞、形容詞など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0054】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0055】
(アクチン作用物質)
本明細書において「アクチン作用物質」とは、細胞内のアクチンに対して直接的または間接的に相互作用して、アクチンの形態または状態を変化させる機能を有する物質をいう。そのような物質としては、例えば、細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど)が挙げられるがそれらに限定されない。そのようなアクチン作用物質には、以下のようなアッセイによって同定される物質が含まれる。本明細書において、アクチンへの相互作用の評価は、アクチン染色試薬(Molecular Probes, Texas Red−X phalloidin)などによりアクチンを可視化した後、顕鏡し、アクチン凝集や細胞伸展を観察することによってアクチンの凝集、再構成および/または細胞伸展速度の向上という現象が確認されることによって判定される。これらの判定は、定量的または定性的に行われ得る。本発明において用いられるアクチン作用物質が生体に由来する場合、その由来は何でもよく、例えば、ヒト、マウス、ウシなどの哺乳動物種があげられる。
【0056】
本明細書において「細胞外マトリクスタンパク質」とは「細胞外マトリクス」のうちタンパク質であるものをいう。本明細書において「細胞外マトリクス」(ECM)とは「細胞外基質」とも呼ばれ、当該分野において通常用いられる意味と同様の意味で用いられ、上皮細胞、非上皮細胞を問わず体細胞(somatic cell)の間に存在する物質をいう。細胞外マトリクスは、組織の支持だけでなく、すべての体細胞の生存に必要な内部環境の構成に関与する。細胞外マトリクスは一般に、結合組織細胞から産生されるが、一部は上皮細胞または内皮細胞のような基底膜を保有する細胞自身からも分泌される。細胞外マトリクスは一般に、線維成分とその間を満たす基質とに大別され、線維成分としては膠原線維および弾性線維がある。基質の基本構成成分はグリコサミノグリカン(酸性ムコ多糖)であり、その大部分は非コラーゲン性タンパクと結合してプロテオグリカン(酸性ムコ多糖−タンパク複合体)の高分子を形成する。このほかに、基底膜のラミニン、弾性線維周囲のミクロフィブリル(microfibril)線維、細胞表面のフィブロネクチンなどの糖タンパクも基質に含まれる。特殊に分化した組織でも基本構造は同一で、例えば硝子軟骨では軟骨芽細胞によって特徴的に大量のプロテオグリカンを含む軟骨基質が産生され、骨では骨芽細胞によって石灰沈着が起こる骨基質が産生される。従って、本発明において用いられる細胞外マトリクスとしては、例えば、コラーゲン、エラスチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、弾性繊維、膠原繊維などが挙げられるがそれに限定されない。本発明において用いられる場合、細胞外マトリクスタンパク質としては、例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0057】
本発明おいて使用される細胞外マトリクスタンパク質としては、例えば、フィブロネクチンおよびその改変体(例えば、プロネクチンF、プロネクチンL、プロネクチンPlusなど)、ラミニン、ビトロネクチンからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質またはその改変体もしくはフラグメントが挙げられるがそれらに限定されない。そのようなフラグメントは、ある一定の分子量を有する(例えば、少なくとも10kDa)ことが好ましい。そのようなフラグメントは、そのような好ましい分子量を有していれば、細胞外マトリクスタンパク質のわずか3アミノ酸(例えば、RGD配列)、好ましくは少なくとも5アミノ酸(IKVAV)を有していれば、アクチンへの相互作用が保持される限り、その他の配列を任意に変更したものであっても使用することができる。
【0058】
本明細書において「Fn1ドメイン」とは、通常、フィブロネクチンのアミノ酸配列のN末端から約29kDaまでの部分の配列(例えば、配列番号11のアミノ酸21位〜241)をいう。別の実施形態では、このドメインは、フィブロネクチンのアミノ酸配列のN末端から約72kDa間での部分の配列(例えば、配列番号11のアミノ酸21位〜577位)を含み得る。本発明において有用なアクチン作用物質の一例としては、このようなFn1ドメインを含むポリペプチドまたはその改変体が挙げられるがそれらに限定されない。
【0059】
本明細書において「フィブロネクチン」は、当該分野において使用される意味と同じ意味で用いられ、従来接着因子の一つとして分類されるタンパク質であり、細胞接着機能に注目されて研究が進められている。
【0060】
本明細書では、フィブロネクチンをコードする遺伝子は、
(a)配列番号1に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、を含む。ここで、生物学的活性としては、細胞接着活性、ヘパリン結合活性、コラーゲン結合活性、および本発明によって初めて発見されたアクチン作用活性があるがそれらに限定されない。好ましくは、そのような生物学的活性は、アクチン作用活性である。
【0061】
本明細書において「フィブロネクチン」または「フィブロネクチンポリペプチド」は、
(a)少なくとも配列番号2または11に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質分子またはその改変体;
(b)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、を含む。
【0062】
本明細書において「ビトロネクチン」は、当該分野において使用される意味と同じ意味で用いられ、従来接着因子の一つとして分類されるタンパク質であり、細胞接着機能に注目されて研究が進められている。
【0063】
本明細書では、ビトロネクチンをコードする遺伝子は、
(a)配列番号3に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号3に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、を含む。ここで、生物学的活性としては、細胞接着活性、ヘパリン結合活性、コラーゲン結合活性、補体活性化活性および本発明によって初めて発見されたアクチン作用活性があるがそれらに限定されない。好ましくは、そのような生物学的活性は、アクチン作用活性である。
【0064】
本明細書において「ビトロネクチン」または「ビトロネクチンポリペプチド」は、
(a)少なくとも配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質分子またはその改変体;
(b)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号3に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、を含む。
【0065】
本明細書において「ラミニン」は、当該分野において使用される意味と同じ意味で用いられ、従来接着因子の一つとして分類されるタンパク質であり、細胞接着機能に注目されて研究が進められている。
【0066】
本明細書では、ラミニンをコードする遺伝子は、
(a)配列番号5、7および9に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号5、7および9に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、を含む。ここで、生物学的活性としては、細胞接着活性、ヘパリン結合活性、コラーゲン結合活性、補体活性化活性および本発明によって初めて発見されたアクチン作用活性があるがそれらに限定されない。好ましくは、そのような生物学的活性は、アクチン作用活性である。
【0067】
本明細書において「ラミニン」または「ラミニンポリペプチド」は、
(a)少なくとも配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質分子またはその改変体;
(b)配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号5、7および9に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、を含む。
【0068】
本明細書において「細胞接着分子」(Cell adhesion molecule)または「接着分子」とは、互換可能に使用され、2つ以上の細胞の互いの接近(細胞接着)または基質と細胞との間の接着を媒介する分子をいう。一般には、細胞と細胞の接着(細胞間接着)に関する分子(cell−cell adhesion molecule)と,細胞と細胞外マトリックスとの接着(細胞−基質接着)に関与する分子(cell−substrate adhesion molecule)に分けられる。本発明の組織片では、いずれの分子も有用であり、有効に使用することができる。従って、本明細書において細胞接着分子は、細胞−基質接着の際の基質側のタンパク質を包含するが、本明細書では、細胞側のタンパク質(例えば、インテグリンなど)も包含され、タンパク質以外の分子であっても、細胞接着を媒介する限り、本明細書における細胞接着分子または細胞接着分子の概念に入る。
【0069】
細胞間接着に関しては、カドヘリン、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する多くの分子(NCAM、L1、ICAM、ファシクリンII、IIIなど)、セレクチンなどが知られており、それぞれ独特な分子反応により細胞膜を結合させることも知られている。
【0070】
他方、細胞−基質接着のために働く主要な細胞接着分子はインテグリンで,細胞外マトリックスに含まれる種々のタンパク質を認識し結合する。これらの細胞接着分子はすべて細胞膜表面にあり,一種のレセプター(細胞接着受容体)とみなすこともできる。従って、細胞膜にあるこのようなレセプターもまた本発明の組織片において使用することができる。そのようなレセプターとしては、例えば、αインテグリン、βインテグリン、CD44,シンデカンおよびアグリカンなどが挙げられるがそれに限定されない。細胞接着に関する技術は、上述のもののほかの知見も周知であり、例えば、細胞外マトリックス −臨床への応用− メディカルレビュー社に記載されている。
【0071】
ある分子が細胞接着分子であるかどうかは、生化学的定量(SDS−PAG法、標識コラーゲン法)、免疫学的定量(酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫組織学的検討)PDR法、ハイブリダイゼイション法などのようなアッセイにおいて陽性となることを決定することにより判定することができる。このような細胞接着分子としては、コラーゲン、インテグリン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、フィブリノゲン、免疫グロブリンスーパーファミリー(例えば、CD2、CD4、CD8、ICM1、ICAM2、VCAM1)、セレクチン、カドヘリンなどが挙げられるがそれに限定されない。このような細胞接着分子の多くは、細胞への接着と同時に細胞間相互作用による細胞活性化の補助シグナルを細胞内に伝達する。そのような補助シグナルを細胞内に伝達することができるかどうかは、生化学的定量(SDS−PAG法、標識コラーゲン法)、免疫学的定量(酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫組織学的検討)PDR法、ハイブリダイゼイション法というアッセイにおいて陽性となることを決定することにより判定することができる。
【0072】
細胞接着分子としては、例えば、カドヘリン、免疫グロブリンスーパーファミリー分子(CD 2、LFA−3、ICAM−1、CD2、CD4、CD8、ICM1、ICAM2、VCAM1など);インテグリンファミリー分子(LFA−1、Mac−1、gpIIbIIIa、p150、95、VLA1、VLA2、VLA3、VLA4、VLA5、VLA6など);セレクチンファミリー分子(L−セレクチン,E−セレクチン,P−セレクチンなど)などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明が開示される前は、このような物質がトランスフェクション効率を上昇させることは知られていなかった。
【0073】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0074】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0075】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0076】
本明細書において使用される用語「生体分子」とは、生体に関連する分子をいう。本明細書において「生体」とは、生物学的な有機体をいい、動物、植物、菌類、ウイルスなどを含むがそれらに限定されない。従って、本明細書では生体分子は、生体から抽出される分子を包含するが、それに限定されず、生体に影響を与え得る分子であれば生体分子の定義に入る。したがって、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(たとえば、低分子リガンドなど)もまた生体への効果が意図され得るかぎり、生体分子の定義に入る。そのような生体分子には、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカライド、オリゴサッカライド、脂質、低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子など)、これらの複合分子(糖脂質、糖タンパク質、リポタンパク質など)などが包含されるがそれらに限定されない。生体分子にはまた、細胞への導入が企図される限り、細胞自体、組織の一部も包含され得る。好ましくは、生体分子は、核酸(DNAまたはRNA)またはタンパク質を含む。別の好ましい実施形態では、生体分子は、核酸(例えば、ゲノムDNAまたはcDNA、あるいはPCRなどによって合成されたDNA)である。他の好ましい実施形態では、生体分子はタンパク質であり得る。
【0077】
本明細書において使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。フィブロネクチンのような細胞外マトリクスタンパク質の遺伝子産物は、通常ポリペプチド形態をとる。
【0078】
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」を含む。「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。フィブロネクチンのような細胞外マトリクスタンパク質などの遺伝子は、通常、このポリヌクレオチド形態をとる。また、トランスフェクションの対象となる分子もこのポリヌクレオチドである。
【0079】
用語「核酸分子」もまた、本明細書において、核酸、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用され、cDNA、mRNA、ゲノムDNAなどを含む。本明細書では、核酸および核酸分子は、用語「遺伝子」の概念に含まれ得る。ある遺伝子配列をコードする核酸分子はまた、「スプライス変異体(改変体)」を包含する。同様に、核酸によりコードされた特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を包含する。その名が示唆するように「スプライス変異体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされ得る。スプライス変異体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。したがって、本明細書では、たとえば、アクチン作用物質として有用な細胞外マトリクスタンパク質には、そのスプライス変異体もまた包含され得る。
【0080】
本明細書において、「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定するものを構造遺伝子といい、その発現を左右するものを調節遺伝子(たとえば、プロモーター)という。本明細書では、遺伝子は、特に言及しない限り、構造遺伝子および調節遺伝子を包含する。したがって、フィブロネクチン遺伝子というときは、通常、フィブロネクチンの構造遺伝子およびフィブロネクチンのプロモーターの両方を包含する。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を指すことがある。本明細書においてはまた、「遺伝子産物」は、遺伝子によって発現された「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を包含する。当業者であれば、遺伝子産物が何たるかはその状況に応じて理解することができる。
【0081】
本明細書において配列(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。本明細書において、配列(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「類似性」とは、上記相同性において、保存的置換をポジティブ(同一)とみなした場合の、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、保存的置換がある場合は、その保存的置換の存在に応じて同一性と類似性とは異なる。また、保存的置換がない場合は、同一性と類似性とは同じ数値を示す。
【0082】
本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるFASTAにおいてデフォルトパラメータを用いて算出される。
【0083】
本明細書において、「アミノ酸」は、本発明の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体アミノ酸」または「アミノ酸アナログ」とは、天然に存在するアミノ酸とは異なるがもとのアミノ酸と同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体アミノ酸およびアミノ酸アナログは、当該分野において周知である。用語「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体であるが、D体のアミノ酸を用いた形態もまた本発明の範囲内にある。用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。
【0084】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。
【0085】
本明細書において、「対応する」アミノ酸とは、あるタンパク質分子またはポリペプチド分子において、比較の基準となるタンパク質またはポリペプチドにおける所定のアミノ酸と同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸をいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。例えば、本発明において使用されるFn1ドメインであれば、そのドメインを含む分子(フィブロネクチン)に対応するオルソログにおける同様の部分(ドメイン)であり得る。
【0086】
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体ヌクレオチド」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
【0087】
本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または加減としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。本発明では、フラグメントは、ある一定の大きさ(例えば、5kDa)以上の大きさを有することが好ましい。理論に束縛されないが、アクチン作用物質として機能するためにはある程度の大きさが必要であるようであるからである。
【0088】
本明細書において、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、本発明で具体的に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0089】
本明細書において「塩」は、当該分野において通常用いられる意味と同じ意味で用いられ、無機塩および有機塩の両方を含む。塩は、通常、酸と塩基との中和反応によって生成する。塩には中和反応で生成するNaCl、K2SO4などといったもののほかに、金属と酸との反応で生成するPbSO4、ZnCl2など種々の種類があり、これらは、直接中和反応によって生成したものでなくても、酸と塩基との中和反応から生成したとみなすことができる。塩としては、正塩(酸のHや塩基のOHが塩に含まれていないもの、例えば、NaCl、NH4Cl、CH3COONa、Na2CO3)、酸性塩(酸のHが塩に残っているもの、例えば、NaHCO3、KHSO4、CaHPO4)、塩基性塩(塩基のOHが塩の中に残っているもの、例えば、MgCl(OH)、CuCl(OH))などに分類することができるがそれらの分類は、本発明においてはそれほど重要ではない。好ましい塩としては、培地を構成する塩(例えば、塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸、ビタミン、緩衝液を構成する塩(例えば、塩化カルウム、塩化マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム)などが好ましい。細胞に対する親和性を保持または改善する効果がより高いからである。これらの塩は、単独で用いてもよいし、複数用いてもよい。複数用いることが好ましい。細胞に対する親和性が高くなる傾向があるからである。従って、NaClなどを単独で用いるよりも、培地中に含まれる塩(例えば、塩化カルウム、塩化マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム)を複数を用いることが好ましく、より好ましくは、培地中に含まれる塩全部をそのまま使用することが有利であり得る。別の好ましい実施形態では、グルコースを加えてもよい。
【0090】
本明細書において、「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444−2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよび in situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、Fn1には、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応遺伝子も含まれるべきであることが意図される。
【0091】
本明細書において物質の細胞への「導入」とは、その物質が、細胞膜の内部へ進入することをいう。内部に導入されたかどうかは、例えば、その物質そのものを標識(例えば、蛍光標識、化学発光標識、燐光、放射能などを利用する)しその標識を検出することによるか、あるいは、その物質に起因する細胞内の変化(例えば、遺伝子発現、シグナル伝達、細胞内レセプターへの結合による事象、代謝変化など)を物理学的(例えば、目視)、化学的(分泌物の測定)、生化学的、生物学的に測定することによって判定することができる。従って、そのような「導入」には、単なるタンパク質などの物質の細胞内への移入の他、通常遺伝子操作とも呼ばれる、トランスフェクション、形質転換、形質導入などの操作も包含される。
【0092】
本明細書において「標的物質」とは、細胞内への導入が企図される物質をいう。本発明が企図する標的物質は、通常の条件下では、細胞内に導入されない物質をいう。従って、拡散または疎水性相互作用によって通常の条件下で細胞に導入されることができるような物質は、本発明の重要な局面では対象外となる。通常の条件下で細胞内に導入されない標的物質としては、例えば、タンパク質(ポリペプチド)、RNA、DNA、糖(特に多糖)、およびそれらの複合分子(例えば、糖タンパク質、PNAなど)、ウィルスベクター、他の化合物が挙げられるがそれらに限定されない。
【0093】
本明細書において「デバイス」とは、装置の一部または全部を構成することができる部分をいい、支持体(好ましくは固相支持体)およびその支持体に担持されるべき標的物質などから構成される。そのようなデバイスとしては、チップ、アレイ、マイクロタイタープレート、細胞培養プレート、シャーレ、フィルム、ビーズなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0094】
本明細書において使用される「支持体」は、生体分子のような物質を固定することができる材料(material)をいう。支持体の材料としては、共有結合かまたは非共有結合のいずれかで、本発明において使用される生体分子のような物質に結合する特性を有するかまたはそのような特性を有するように誘導体化され得る、任意の固体材料が挙げられる。
【0095】
支持体として使用するためのそのような材料としては、固体表面を形成し得る任意の材料が使用され得るが、例えば、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属(合金も含まれる)、天然および合成のポリマー(例えば、ポリスチレン、セルロース、キトサン、デキストラン、およびナイロン)などが挙げられるがそれらに限定されない。支持体は、複数の異なる材料の層から形成されていてもよい。例えば、ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、フォルステライト、酸化珪素、炭化珪素、窒化珪素などの無機絶縁材料を使用することができる。ポリエチレン、エチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、シリコーン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホンなどの有機材料を用いることができる。本発明においてはまた、ニトロセルロース膜、ナイロン膜、PVDF膜など、ブロッティングに使用される膜を用いることもできる。支持体を構成する材料が固相である場合、本明細書において特に「固相支持体」という。本明細書において、プレート、マイクロウェルプレート、チップ、スライドグラス、フィルム、ビーズ、金属(表面)などの形態をとり得る。支持体はコーティングされていてもよく、コーティングされていなくてもよい。
【0096】
本明細書において「液相」とは、当該分野において通常用いられる意味と同じ意味で用いられ、通常、溶液中での状態をいう。
【0097】
本明細書において「固相」とは、当該分野において用いられる意味と同じ意味で用いられ、通常、固体の状態をいう。本明細書において液体および固体を総合して流体ということがある。
【0098】
本明細書において「接触」とは、2つの物質(例えば、組成物および細胞)が互いに相互作用するに十分に至近距離に存在することをいう。
【0099】
本明細書において「相互作用」とは、2つの物体について言及するとき、その2つの物体が相互に力を及ぼしあうことをいう。そのような相互作用としては、例えば、共有結合、水素結合、ファンデルワールス力、イオン性相互作用、非イオン性相互作用、疎水性相互作用、静電的相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、相互作用は、水素結合、疎水性相互作用などの生体内で生じる通常の相互作用であり得る。
【0100】
(遺伝子の改変)
本発明において使用されるアクチン作用物質は遺伝子産物の形態をとることが多いが、そのような遺伝子産物は、上述のようにその改変体であってもよいことが理解される。従って、本発明は、以下のような遺伝子改変の技術で生産された物質も使用することができる。
【0101】
あるタンパク質分子において、配列に含まれるあるアミノ酸は、相互作用結合能力の明らかな低下または消失なしに、例えば、カチオン性領域または基質分子の結合部位のようなタンパク質構造において他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的機能を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がアミノ酸配列において、またはそのDNAコード配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的有用性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたペプチドまたはこのペプチドをコードする対応するDNAにおいて行われ得る。
【0102】
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
【0103】
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。
【0104】
親水性指数もまた、改変を行う際に考慮され得る。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0105】
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例としては、例えば、親水性指数または疎水性指数が、±2以内のもの同士、好ましくは±1以内のもの同士、より好ましくは±0.5以内のもの同士のものが挙げられるがそれらに限定されない。従って、保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0106】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。そのような対立遺伝子変異体は、通常その対応する対立遺伝子と同一または非常に類似性の高い配列を有し、通常はほぼ同一の生物学的活性を有するが、まれに異なる生物学的活性を有することもある。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトおよびマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子およびβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用である。オルソログは、通常別の種においてもとの種と同様の機能を果たしていることがあり得ることから、本発明のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
【0107】
「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての核酸配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント変異を記載する。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。このような塩基配列の改変法としては、制限酵素などによる切断、DNAポリメラーゼ、Klenowフラグメント、DNAリガーゼなどによる処理等による連結等の処理、合成オリゴヌクレオチドなどを用いた部位特異的塩基置換法(特定部位指向突然変異法;Mark Zoller and Michael Smith,Methods in Enzymology,100,468−500(1983))が挙げられるが、この他にも通常分子生物学の分野で用いられる方法によって改変を行うこともできる。
【0108】
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドを作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
【0109】
本明細書において使用される用語「ペプチドアナログ」または「ペプチド誘導体」とは、ペプチドとは異なる化合物であるが、ペプチドと少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ペプチドアナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のアミノ酸アナログまたはアミノ酸誘導体が付加または置換されているものが含まれる。ペプチドアナログは、その機能が、もとのペプチドの機能(例えば、pKa値が類似していること、官能基が類似していること、他の分子との結合様式が類似していること、水溶性が類似していることなど)と実質的に同様であるように、このような付加または置換がされている。そのようなペプチドアナログは、当該分野において周知の技術を用いて作製することができる。したがって、ペプチドアナログは、アミノ酸アナログを含むポリマーであり得る。
【0110】
同様に、「ポリヌクレオチドアナログ」、「核酸アナログ」は、ポリヌクレオチドまたは核酸とは異なる化合物であるが、ポリヌクレオチドまたは核酸と少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ポリヌクレオチドアナログまたは核酸アナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のヌクレオチドアナログまたはヌクレオチド誘導体が付加または置換されているものが含まれる。
【0111】
本明細書において使用される核酸分子は、発現されるポリペプチドが天然型のポリペプチドと実質的に同一の活性を有する限り、上述のようにその核酸の配列の一部が欠失または他の塩基により置換されていてもよく、あるいは他の核酸配列が一部挿入されていてもよい。あるいは、5’末端および/または3’末端に他の核酸が結合していてもよい。また、ポリペプチドをコードする遺伝子をストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、そのポリペプチドと実質的に同一の機能を有するポリペプチドをコードする核酸分子でもよい。このような遺伝子は、当該分野において公知であり、本発明において利用することができる。
【0112】
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変位誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
【0113】
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、ホルモン、サイトカインの情報伝達機能など)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
【0114】
(相互作用因子)
本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対して「特異的に相互作用する因子」とは、そのポリヌクレオチドまたはそのポリペプチドに対する親和性が、他の無関連の(特に、同一性が30%未満の)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対する親和性よりも、代表的には同等またはより高いか、好ましくは有意に高いものをいう。そのような親和性は、例えば、ハイブリダイゼーションアッセイ、結合アッセイなどによって測定することができる。
【0115】
本明細書において「因子」としては、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、エネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0116】
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
【0117】
本明細書において「精製された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0118】
本明細書中で使用される用語「精製された」および「単離された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。
【0119】
(遺伝子操作)
本明細書において遺伝子操作について言及する場合、「ベクター」または「組み換えベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物個体および植物個体などの宿主細胞において自立複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。ベクターのうち、クローニングに適したベクターを「クローニングベクター」という。そのようなクローニングベクターは通常、制限酵素部位を複数含むマルチプルクローニング部位を含む。そのような制限酵素部位およびマルチプルクローニング部位は、当該分野において周知であり、当業者は、目的に合わせて適宜選択して使用することができる。そのような技術は、本明細書に記載される文献(例えば、Sambrookら、前出)に記載されている。
【0120】
本明細書において「発現ベクター」とは、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、動物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0121】
原核細胞に対する組換えベクターとしては、pcDNA3(+)、pBluescript−SK(+/−)、pGEM−T、pEF−BOS、pEGFP、pHAT、pUC18、pFT−DESTTM42GATEWAY(Invitrogen)などが例示される。
【0122】
動物細胞に対する組換えベクターとしては、pcDNAI/Amp、pcDNAI、pCDM8(いずれもフナコシより市販)、pAGE107[特開平3−229(Invitrogen)、pAGE103[J.Biochem.,101,1307(1987)]、pAMo、pAMoA[J.Biol.Chem.,268,22782−22787(1993)]、マウス幹細胞ウイルス(Murine Stem Cell Virus)(MSCV)に基づいたレトロウイルス型発現ベクター、pEF−BOS、pEGFPなどが例示される。
【0123】
植物細胞に対する組換えベクターとしては、pPCVICEn4HPT、pCGN1548、pCGN1549、pBI221、pBI121などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0124】
本明細書において「ターミネーター」とは、通常遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列をいう。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。
【0125】
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、通常RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。したがって、本明細書においてある遺伝子のプロモーターの働きを有する部分を「プロモーター部分」という。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモータ領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。
【0126】
本明細書において「エンハンサー」とは、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられる配列をいう。そのようなエンハンサーは当該分野において周知である。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
【0127】
本明細書において「サイレンサー」とは、遺伝子発現を抑制し静止する機能を有する配列をいう。本発明では、サイレンサーとしてはその機能を有する限り、どのようなものを用いてもよく、サイレンサーを用いなくてもよい。
【0128】
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、サイレンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0129】
本明細書において、核酸分子を細胞に導入する技術は、どのような技術でもよく、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。 そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.およびその第三版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
【0130】
また、ベクターの導入方法としては、細胞にDNAを導入する上述のような方法であればいずれも用いることができ、例えば、トランスフェクション、形質導入、形質転換など(例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法など)、リポフェクション法、スフェロプラスト法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,1929(1978)]、酢酸リチウム法[J.Bacteriol.,153,163(1983)]、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)記載の方法が挙げられる。
【0131】
本明細書において「遺伝子導入試薬」とは、遺伝子導入方法において、導入効率を促進するために用いられる試薬をいう。そのような遺伝子導入試薬としては、例えば、カチオン性高分子、カチオン性脂質、ポリアミン系試薬、ポリイミン系試薬、リン酸カルシウムなどが挙げられるがそれらに限定されない。トランスフェクションの際に利用される試薬の具体例としては、種々なソースから市販されている試薬が挙げられ、例えば、Effectene Transfection Reagent(cat.no.301425,Qiagen,CA),TransFastTM Transfection Reagent(E2431,Promega,WI),TfxTM-20 Reagent(E2391,Promega,WI),SuperFect Transfection Reagent(301305,Qiagen,CA),PolyFect Transfection Reagent(301105,Qiagen,CA),LipofectAMINE 2000 Reagent(11668-019,Invitrogen corporation,CA),JetPEI(×4)conc.(101-30,Polyplus-transfection,France)およびExGen 500(R0511,Fermentas Inc.,MD)などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0132】
本明細書「指示書」とは、本発明の標的物質導入方法などを、ユーザー(研究者、実験補助者、または治療においては医師、患者など投与を行う人など)に対して記載したものである。この指示書は、本発明の組成物などを例えば、使用する方法を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、医薬の場合通常いわゆる添付文書(package insert)の形態をとり、または実験用試薬の形態の場合マニュアルの形態をとり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0133】
「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部(組織など)をいう。形質転換体としては、原核生物、酵母、動物、植物、昆虫などの細胞などの生命体の全部または一部(組織など)が例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれる。本発明において用いられる細胞は、形質転換体であってもよい。
【0134】
本発明において遺伝子操作などにおいて原核生物細胞が使用される場合、原核生物細胞としては、Escherichia属、Serratia属、Bacillus属、Brevibacterium属、Corynebacterium属、Microbacterium属、Pseudomonas属などに属する原核生物細胞、例えば、Escherichia coli XL1−Blue、Escherichia coli XL2−Blue、Escherichia coli DH1が例示される。あるいは、本発明では、天然物から分離した細胞も使用することができる。
【0135】
本明細書において遺伝子操作などにおいて使用され得る動物細胞としては、マウス・ミエローマ細胞、ラット・ミエローマ細胞、マウス・ハイブリドーマ細胞、チャイニーズ・ハムスターの細胞であるCHO細胞、BHK細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞、ヒト白血病細胞、HBT5637(特開昭63−299)、ヒト結腸癌細胞株などを挙げることができる。マウス・ミエローマ細胞としては、ps20、NSOなど、ラット・ミエローマ細胞としてはYB2/0など、ヒト胎児腎臓細胞としてはHEK293(ATCC:CRL−1573)など、ヒト白血病細胞としてはBALL−1など、アフリカミドリザル腎臓細胞としてはCOS−1、COS−7、ヒト結腸癌細胞株としてはHCT−15、ヒト神経芽細胞腫SK−N−SH、SK−N−SH−5Y、マウス神経芽細胞腫Neuro2Aなどが例示される。あるいは、本発明では、初代培養細胞も使用することができる。
【0136】
本明細書において遺伝子操作などにおいて使用され得る植物細胞としては、カルスまたはその一部および懸濁培養細胞、ナス科、イネ科、アブラナ科、バラ科、マメ科、ウリ科、シソ科、ユリ科、アカザ科、セリ科などの植物の細胞が挙げられるがそれらに限定されない。
【0137】
本明細書において遺伝子発現(たとえば、mRNA発現、ポリペプチド発現)の「検出」または「定量」は、例えば、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。アレイ(例えば、DNAアレイ、プロテインアレイ)を用いた遺伝子解析方法によっても行われ得る。DNAアレイについては、(秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」)に広く概説されている。プロテインアレイについては、Nat Genet.2002 Dec;32 Suppl:526−32に詳述されている。遺伝子発現の分析法としては、上述に加えて、RT−PCR、RACE法、SSCP法、免疫沈降法、two−hybridシステム、インビトロ翻訳などが挙げられるがそれらに限定されない。そのようなさらなる分析方法は、例えば、ゲノム解析実験法・中村祐輔ラボ・マニュアル、編集・中村祐輔 羊土社(2002)などに記載されており、本明細書においてそれらの記載はすべて参考として援用される。
【0138】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなど遺伝子産物の「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一形態であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
【0139】
「発現量」とは、目的の細胞などにおいて、ポリペプチドまたはmRNAが発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。
【0140】
従って、本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」または「発現量」の「減少」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に減少することをいう。好ましくは、発現の減少は、ポリペプチドの発現量の減少を含む。本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」または「発現量」の「増加」とは、細胞内に遺伝子発現に関連する因子(例えば、発現されるべき遺伝子またはそれを調節する因子)を導入したときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に増加することをいう。好ましくは、発現の増加は、ポリペプチドの発現量の増加を含む。本明細書において遺伝子の「発現」の「誘導」とは、ある細胞にある因子を作用させてその遺伝子の発現量を増加させることをいう。したがって、発現の誘導は、まったくその遺伝子の発現が見られなかった場合にその遺伝子が発現するようにすること、およびすでにその遺伝子の発現が見られていた場合にその遺伝子の発現が増大することを包含する。
【0141】
本明細書において、遺伝子が「特異的に発現する」とは、その遺伝子が、植物の特定の部位または時期において他の部位または時期とは異なる(好ましくは高い)レベルで発現されることをいう。特異的に発現するとは、ある部位(特異的部位)にのみ発現してもよく、それ以外の部位においても発現していてもよい。好ましくは特異的に発現するとは、ある部位においてのみ発現することをいう。
【0142】
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリペプチドまたはタンパク質)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、転写促進活性)を発揮する活性が包含される。例えば、アクチン作用物質がアクチンと相互作用する場合、その生物学的活性は、アクチンの形態変化(例えば、細胞伸展速度の上昇など)または他の生物学的変化(例えば、アクチンフラメントの再構成など)などを包含する。このような生物学的活性は、アクチン染色試薬(Molecular Probes、Texas Red‐X phalloidin)などによりアクチンを可視化した後、顕鏡し、アクチン凝集や細胞伸展を観察すること)によって測定することができる。別の好ましい実施形態では、そのような生物学的活性は、細胞接着活性、ヘパリン結合活性、コラーゲン結合活性などであり得る。細胞接着活性は、細胞播種後に細胞の固相への接着速度を測定し、接着活性として取り扱うことによって測定することができる。ヘパリン結合活性は、ヘパリン固定化カラム等のアフィニティークロマトグラフィーを行い、これに結合するものとして確認できるものによって測定することができる。コラーゲン結合活性は、コラーゲン固定化カラム等のアフィニティークロマトグラフィーを行い、これに結合するものとして確認できるものによって測定することができる。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる(Molecular Cloning、Current Protocols(本明細書において引用)などを参照)。
【0143】
本明細書において「粒子」とは、一定の硬度を有し、一定の大きさ以上の大きさを有する物質をいい、本発明では、金属などによって構成されるものをいう。本発明において使用される粒子としては、例えば、金コロイド、銀コロイド、ラテックスコロイドなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0144】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、試薬、粒子など)が提供されるユニットをいう。混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、試薬、粒子など)をどのように処理すべきかを記載する説明書を備えていることが有利である。
【0145】
(ポリペプチドの製造方法)
本発明において使用されるポリペプチドは、そのポリペプチドをコードするDNAを組み込んだ組換え体ベクターを保有する微生物、動物細胞などに由来する形質転換体を、通常の培養方法に従って培養し、このポリペプチドを生成蓄積させ、その培養物よりその本発明のポリペプチドを採取することにより、製造することができる。
【0146】
形質転換体を培地に培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。大腸菌等の原核生物あるいは酵母等の真核生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、本発明の生物が資化し得る炭素源(例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、これらを含有する糖蜜、デンプンあるいはデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類など)、窒素源(例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の各種無機酸または有機酸のアンモニウム塩、その他含窒素物質、ならびに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕および大豆粕加水分解物、各種発酵菌体およびその消化物等など)、無機塩類(例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等など)等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地(例えば、RPMI1640培地[The Journal of the American Medical Association,199,519(1967)]、EagleのMEM培地[Science,122,501(1952)]、DMEM培地[Virology,8,396(1959)]、199培地[Proceedings of the Society for the Biological Medicine,73,1(1950)]またはこれら培地にウシ胎児血清等を添加した培地等)のいずれを用いてもよい。培養は、振盪培養または深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことが好ましいがそれに限定されない。培養温度は15〜40℃がよく、培養時間は、通常5時間〜7日間である。培養中pHは、3.0〜9.0に保持する。pHの調整は、無機あるいは有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行う。また培養中必要に応じて、アンピシリンまたはテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0147】
本発明において使用されるポリペプチドをコードする核酸配列で形質転換された形質転換体の培養物から、そのポリペプチドを単離または精製するためには、当該分野で周知慣用の通常のポリペプチド(例えば、酵素)の単離または精製法を用いることができる。例えば、本発明のポリペプチドが本発明のポリペプチド製造用形質転換体の細胞外に本発明のポリペプチドが分泌される場合には、その培養物を遠心分離等の手法により処理し、可溶性画分を取得する。その可溶性画分から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−Sepharose(Pharmacia)、DIAION HPA−75(三菱化成)等樹脂を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia)等の樹脂を用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、Butyl−Sepharose、Phenyl−Sepharose等の樹脂を用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用い、精製標品を得ることができる。
【0148】
本発明において使用されるポリペプチドが形質転換体の細胞内に溶解状態で蓄積する場合には、培養物を遠心分離することにより、培養物中の細胞を集め、その細胞を洗浄した後に、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモジナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。その無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−Sepharose、DIAION HPA−75等樹脂を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF等の樹脂を用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、Butyl−Sepharose、Phenyl−Sepharose等の樹脂を用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用いることによって、精製標品を得ることができる。
【0149】
本発明において使用されるポリペプチドが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより得られた沈澱画分より、通常の方法により本発明のポリペプチドを回収後、そのポリペプチドの不溶体をポリペプチド変性剤で可溶化する。この可溶化液を、ポリペプチド変性剤を含まないあるいはポリペプチド変性剤の濃度がポリペプチドが変性しない程度に希薄な溶液に希釈、あるいは透析し、本発明のポリペプチドを正常な立体構造に構成させた後、上記と同様の単離精製法により精製標品を得ることができる。
【0150】
また、通常のタンパク質の精製方法[例えば、J.Evan.Sadlerら:Methods in Enzymology,83,458]に準じて精製できる。また、本発明において使用されるポリペプチドが他のタンパク質との融合タンパク質として生産しても使用され得る場合、融合したタンパク質に親和性をもつ物質を用いたアフィニティークロマトグラフィーを利用して精製することもできる[山川彰夫,実験医学(Experimental Medicine),13,469−474(1995)]。あるいは、Loweらの方法[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227−8231(1989)、GenesDevelop.,4,1288(1990)]に記載の方法に準じて、そのようなポリペプチドをプロテインAとの融合タンパク質として生産し、イムノグロブリンGを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。また、本発明において使用されるポリペプチドをFLAGペプチドとの融合タンパク質として生産し、抗FLAG抗体を用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990)]。
【0151】
さらに、本発明のポリペプチド自身に対する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製することもできる。本発明のポリペプチドは、公知の方法[J.Biomolecular NMR,6,129−134、Science,242,1162−1164、J.Biochem.,110,166−168(1991)]に準じて、in vitro転写・翻訳系を用いてを生産することができる。
【0152】
上記で取得されたポリペプチドのアミノ酸情報を基に、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても本発明のポリペプチドを製造することができる。また、Advanced ChemTech、Applied Biosystems、Pharmacia Biotech、Protein Technology Instrument、Synthecell−Vega、PerSeptive、島津製作所等のペプチド合成機を利用し化学合成することもできる。
【0153】
(基板/プレート/チップ/アレイ)
本明細書において使用される「プレート」とは、抗体のような分子が固定され得る平面状の支持体をいう。本発明では、プレートは、プラスチック、金、銀またはアルミニウムを含む金属薄膜を片面にもつガラス基板を基材とすることが好ましい。
【0154】
本明細書において使用される「基板」とは、本発明のチップまたはアレイが構築される材料(好ましくは固体)をいう。したがって、基板はプレートの概念に包含される。基板の材料としては、共有結合かまたは非共有結合のいずれかで、本発明において使用される生体分子に結合する特性を有するかまたはそのような特性を有するように誘導体化され得る、任意の固体材料が挙げられる。
【0155】
プレートおよび基板として使用するためのそのような材料としては、固体表面を形成し得る任意の材料が使用され得るが、例えば、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属(合金も含まれる)、天然および合成のポリマー(例えば、ポリスチレン、セルロース、キトサン、デキストラン、およびナイロン)が挙げられるがそれらに限定されない。基板は、複数の異なる材料の層から形成されていてもよい。例えば、ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、フォルステライト、炭化珪素、酸化珪素、窒化珪素などの無機絶縁材料を使用できる。また、ポリエチレン、エチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、シリコーン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホン等の有機材料を用いることができる。基板として好ましい材質は、測定機器などの種々のパラメータによって変動し、当業者は、上述のような種々の材料から適切なものを適宜選択することができる。トランスフェクションアレイのためには、スライドグラスが好ましい。好ましくは、そのような基材は、コーティングされ得る。
【0156】
本明細書において「コーティング」とは、固相支持体または基板について用いられるとき、その固相支持体または基板の表面上にある物質の膜を形成させることおよびそのような膜をいう。コーティングは種々の目的で行われ、例えば、固相支持体および基板の品質向上(例えば、寿命の向上、耐酸性などの耐環境性の向上)、固相支持体または基板に結合されるべき物質の親和性の向上などを目的とすることが多い。本明細書において、そのようなコーティングのための物質は、「コーティング剤」と呼ばれる。そのようなコーティング剤としては、種々の物質が用いられ得、上述の固相支持体および基板自体に使用される物質のほか、DNA、RNA、タンパク質、脂質などの生体物質、ポリマー(例えば、ポリ−L−リジン、MAS(松浪硝子、岸和田、日本から入手可能)、疎水性フッ素樹脂)、シラン(APS(例えば、γ−アミノプロピルシラン))、金属(例えば、金など)が使用され得るがそれらに限定されない。そのような物質の選択は当業者の技術範囲内にあり、当該分野において周知の技術を用いて場合ごとに選択することができる。一つの好ましい実施形態では、そのようなコーティングは、ポリ−L−リジン、シラン、(例えば、エポキシシランまたはメルカプトシラン、APS(γ−アミノプロピルシラン))、MAS、疎水性フッ素樹脂、金のような金属を用いることが有利であり得る。このような物質は、細胞または細胞を含む物体(例えば、生体、臓器など)に適合する物質を用いることが好ましい。
【0157】
本明細書において「チップ」または「マイクロチップ」は、互換可能に用いられ、多様の機能をもち、システムの一部となる超小型集積回路をいう。チップとしては、例えば、DNAチップ、プロテインチップなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0158】
本明細書において「アレイ」とは、1以上(例えば、1000以上)の標的物質を含む組成物(例えば、DNA、タンパク質、トランスフェクト混合物)が整列されて配置されたパターンまたはパターンを有する基板(例えば、チップ)そのものをいう。アレイの中で、小さな基板(例えば、10×10mm上など)上にパターン化されているものはマイクロアレイというが、本明細書では、マイクロアレイとアレイとは互換可能に使用される。従って、上述の基板より大きなものにパターン化されたものでもマイクロアレイと呼ぶことがある。例えば、アレイはそれ自身固相表面または膜に固定されている所望のトランスフェクト混合物のセットで構成される。アレイは好ましくは同一のまたは異なる抗体を少なくとも102個、より好ましくは少なくとも103個、およびさらに好ましくは少なくとも104個、さらにより好ましくは少なくとも105個を含む。これらの抗体は、好ましくは表面が125×80mm、より好ましくは10×10mm上に配置される。形式としては、96ウェルマイクロタイタープレート、384ウェルマイクロタイタープレートなどのマイクロタイタープレートの大きさのものから、スライドグラス程度の大きさのものが企図される。固定される標的物質を含む組成物は、1種類であっても複数種類であってもよい。そのような種類の数は、1個〜スポット数までの任意の数であり得る。例えば、約10種類、約100種類、約500種類、約1000種類の標的物質を含む組成物が固定され得る。
【0159】
基板のような固相表面または膜には、上述のように任意の数の標的物質(例えば、抗体のようなタンパク質)が配置され得るが、通常、基板1つあたり、108個の生体分子まで、他の実施形態において107個の生体分子まで、106個の生体分子まで、105個の生体分子まで、104個の生体分子まで、103個の生体分子まで、または102個の生体分子までの個の生体分子が配置され得るが、108個の生体分子を超える標的物質を含む組成物が配置されていてもよい。これらの場合において、基板の大きさはより小さいことが好ましい。特に、標的物質を含む組成物(例えば、抗体のようなタンパク質)のスポットの大きさは、単一の生体分子のサイズと同じ小さくあり得る(これは、1−2nmの桁であり得る)。最小限の基板の面積は、いくつかの場合において基板上の生体分子の数によって決定される。本発明では、細胞への導入が企図される標的物質を含む組成物は、通常、0.01mm〜10mmのスポット状に共有結合あるいは物理的相互作用によって配列固定されている。
【0160】
アレイ上には、生体分子の「スポット」が配置され得る。本明細書において「スポット」とは、標的物質を含む組成物の一定の集合をいう。本明細書において「スポッティング」とは、ある標的物質を含む組成物のスポットをある基板またはプレートに作製することをいう。スポッティングはどのような方法でも行うことができ、例えば、ピペッティングなどによって達成され得、あるいは自動装置で行うこともでき、そのような方法は当該分野において周知である。
【0161】
本明細書において使用される用語「アドレス」とは、基板上のユニークな位置をいい、他のユニークな位置から弁別可能であり得るものをいう。アドレスは、そのアドレスを伴うスポットとの関連づけに適切であり、そしてすべての各々のアドレスにおける存在物が他のアドレスにおける存在物から識別され得る(例えば、光学的)、任意の形状を採り得る。アドレスを定める形は、例えば、円状、楕円状、正方形、長方形であり得るか、または不規則な形であり得る。したがって、「アドレス」は、抽象的な概念を示し、「スポット」は具体的な概念を示すために使用され得るが、両者を区別する必要がない場合、本明細書においては、「アドレス」と「スポット」とは互換的に使用され得る。
【0162】
各々のアドレスを定めるサイズは、とりわけ、その基板の大きさ、特定の基板上のアドレスの数、標的物質を含む組成物の量および/または利用可能な試薬、微粒子のサイズおよびそのアレイが使用される任意の方法のために必要な解像度の程度に依存する。大きさは、例えば、1−2nmから数cmの範囲であり得るが、そのアレイの適用に一致した任意の大きさが可能である。
【0163】
アドレスを定める空間配置および形状は、そのマイクロアレイが使用される特定の適用に適合するように設計される。アドレスは、密に配置され得、広汎に分散され得るか、または特定の型の分析物に適切な所望のパターンへとサブグループ化され得る。
【0164】
マイクロアレイについては、ゲノム機能研究プロトコール(実験医学別冊 ポストゲノム時代の実験講座1)、ゲノム医科学とこれからのゲノム医療(実験医学増刊)などに広く概説されている。
【0165】
マイクロアレイから得られるデータは膨大であることから、クローンとスポットとの対応の管理、データ解析などを行うためのデータ解析ソフトウェアが重要である。そのようなソフトウェアとしては、各種検出システムに付属のソフトウェアが利用可能である(Ermolaeva Oら(1998)Nat.Genet.20:19−23)。また、データベースのフォーマットとしては、例えば、Affymetrixが提唱しているGATC(genetic analysis technology consortium)と呼ばれる形式が挙げられる。
【0166】
微細加工については、例えば、Campbell,S.A.(1996).The Science andEngineering of Microelectronic Fabrication,Oxford University Press;Zaut,P.V.(1996).Micromicroarray Fabrication:a Practical Guide to Semiconductor Processing,Semiconductor Services;Madou,M.J.(1997).Fundamentals of Microfabrication,CRC1 5 Press;Rai−Choudhury,P.(1997).Handbook of Microlithography,Micromachining,& Microfabrication:Microlithographyなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0167】
(細胞)
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるがそれらに限定されない。
【0168】
本発明で用いられる細胞は、どの生物由来の細胞(たとえば、任意の種類の単細胞生物(例えば、細菌、酵母)または多細胞生物(例えば、動物(たとえば、脊椎動物、無脊椎動物)、植物(たとえば、単子葉植物、双子葉植物など)など))でもよい。例えば、脊椎動物(たとえば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)由来の細胞が用いられ、より詳細には、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)由来の細胞が用いられる。1つの実施形態では、霊長類(たとえば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)由来の細胞、特にヒト由来の細胞が用いられるがそれに限定されない。
【0169】
本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能を有し、多分化能(すなわち多能性)(「pluripotency」)を有する細胞をいう。幹細胞は通常、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。本明細書では幹細胞は、胚性幹(ES)細胞または組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得るがそれらに限定されない。また、上述の能力を有している限り、人工的に作製した細胞(たとえば、本明細書において記載される融合細胞、再プログラム化された細胞など)もまた、幹細胞であり得る。胚性幹細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞をいう。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞であり、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。本明細書において使用される場合は、幹細胞は胚性幹細胞であっても、組織幹細胞であってもよい。
【0170】
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。
【0171】
本明細書において「体細胞」とは、卵子、精子などの生殖細胞以外の細胞であり、そのDNAを次世代に直接引き渡さない全ての細胞をいう。体細胞は通常、多能性が限定されているかまたは消失している。本明細書において使用される体細胞は、天然に存在するものであってもよく、遺伝子改変されたものであってもよい。
【0172】
細胞は、由来により、外胚葉、中胚葉および内胚葉に由来する幹細胞に分類され得る。外胚葉由来の細胞は、主に脳に存在し、神経幹細胞などが含まれる。中胚葉由来の細胞は、主に骨髄に存在し、血管幹細胞、造血幹細胞および間葉系幹細胞などが含まれる。内胚葉由来の細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞、膵幹細胞などが含まれる。本明細書では、体細胞はどのような胚葉由来でもよい。好ましくは、体細胞は、リンパ球、脾臓細胞または精巣由来の細胞が使用され得る。
【0173】
本明細書において「単離された」とは、通常の環境において天然に付随する物質が少なくとも低減されていること、好ましくは実質的に含まないをいう。従って、単離された細胞とは、天然の環境において付随する他の物質(たとえば、他の細胞、タンパク質、核酸など)を実質的に含まない細胞をいう。核酸またはポリペプチドについていう場合、「単離された」とは、たとえば、組換えDNA技術により作製された場合には細胞物質または培養培地を実質的に含まず、化学合成された場合には前駆体化学物質またはその他の化学物質を実質的に含まない、核酸またはポリペプチドを指す。単離された核酸は、好ましくは、その核酸が由来する生物において天然に該核酸に隣接している(flanking)配列(即ち、該核酸の5’末端および3’末端に位置する配列)を含まない。
【0174】
本明細書において、「樹立された」または「確立された」細胞とは、特定の性質(例えば、多分化能)を維持し、かつ、細胞が培養条件下で安定に増殖し続けるようになった状態をいう。したがって、樹立された幹細胞は、多分化能を維持する。
【0175】
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、筋細胞、神経細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。
【0176】
(医薬・化粧品など、およびそれを用いる治療、予防など)
別の局面において、本発明は、細胞へ有効成分を導入するための医薬(例えば、ワクチン等の医薬品、健康食品、タンパク質または脂質は抗原性を低減した医薬品)、化粧品、農薬、食品などに関する。このような医薬および化粧品は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
【0177】
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバント挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、本発明の医薬は、化合物、またはその改変体もしくは誘導体を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。
【0178】
本明細書で使用される受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、そして以下が挙げられる:リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))。
【0179】
例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。
【0180】
本発明が医薬として使用される場合、そのような医薬は経口的または非経口的に投与され得る。あるいは、そのような医薬は、静脈内または皮下で投与され得る。全身投与されるとき、本発明において使用される医薬は、発熱物質を含まない、薬学的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能な組成物の調製は、pH、等張性、安定性などを考慮することにより、当業者は、容易に行うことができる。本明細書において、投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)であり得る。そのような投与のための処方物は、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。
【0181】
本発明の医薬は、必要に応じて生理学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤(日本薬局方第14版またはその最新版、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company,1990などを参照)と、所望の程度の純度を有する組成物とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水溶液の形態で調製され保存され得る。
【0182】
本発明の処置方法において使用される組成物の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被検体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0183】
本発明が化粧品、食品、農薬など別の用途で使用されるときもまた、当局の規定する規制を遵守しながら化粧品などを調製することができる。
【0184】
(好ましい実施形態の説明)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。
【0185】
1つの局面において、本発明は、標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物を提供する。本発明の組成物は、(a)アクチン作用物質、を含む。本発明は、通常の条件下では、ほとんど細胞に導入されない物質(例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、糖鎖またはそれらの複合物質など)が、アクチン作用物質(代表的には、細胞外マトリクスタンパク質)の作用により、導入が促進されることを予想外に見いだしたことによって、上記目的を達成した。特に、トランスフェクションなどのDNAを用いた遺伝子操作の際に、このようなアクチン作用物質がその導入効率促進に顕著な効果があることは、従来全く知られておらず予想もされていなかったことから、本発明は、特に遺伝子研究において顕著なブレークスルーをもたらすものとして注目されるべきである。
【0186】
1つの好ましい実施形態において、本発明の組成物において含有されるアクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである。本発明において、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントが予想外にアクチン作用を有することが見いだされたことから、本発明では、細胞外マトリクスタンパク質による、物質の細胞への導入効率上昇という効果にも注目すべきである。
【0187】
従って、別の局面において、本発明は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントを含む、標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物を提供する。
【0188】
本発明のアクチン作用物質を含む組成物において含まれる好ましいアクチン作用物質としては、フィブロネクチン、プロネクチンF、プロネクチンL、プロネクチンPlus、ラミニン、ビトロネクチンなどまたはその改変体もしくはフラグメントが挙げられるがそれらに限定されない。
【0189】
好ましい実施形態において、本発明の組成物において含まれるアクチン作用物質は、
(a−1)少なくともFn1ドメインを有するタンパク質分子またはその改変体;
(a−2)配列番号2、4、6、8、10または11に記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質分子またはその改変体もしくはそのフラグメント;
(b)配列番号2、4、6、8、10または11に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1、3、5、7または9に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2、4、6、8、10または11に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a−1)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、を含む。
【0190】
1つの好ましい実施形態において、上記(b)における置換、付加および欠失の数は、限定され、例えば、50以下、40以下、30以下、20以下、15以下、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下であることが好ましい。ある特定の実施形態では、そのような置換、付加および/または欠失の数は1または数個であり得る。より少ない数の置換、付加および欠失が好ましいが、生物学的活性を保持する(好ましくは、アクチン作用物質と類似するかまたは実質的に同一の活性を有する)限り、多い数であってもよい。
【0191】
別の好ましい実施形態において、対立遺伝子変異体は、配列番号1、3、5、7または9に示す核酸配列と少なくとも90%の相同性を有することが好ましい。同一系統内のものなどでは、例えば、そのような対立遺伝子変異体は少なくとも99%の相同性を有することが好ましい。あるいは、別の好ましい実施形態において、上記(c)における対立遺伝子変異体は、配列番号2、4、6、8、10または11に示すアミノ酸配列と少なくとも約90%の相同性を有することが好ましい。好ましくは(c)における対立遺伝子変異体は、配列番号2、4、6、8、10または11に示すアミノ酸配列と少なくとも約99%の相同性を有する。
【0192】
上記種相同体は、その種の遺伝子配列データベースが存在する場合、そのデータベースに対して、本発明の細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン)の遺伝子配列の全部または一部をクエリ配列として検索することによって同定することができる。あるいは、本発明の細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン)の遺伝子の全部または一部をプローブまたはプライマーとして、その種の遺伝子ライブラリーをスクリーニングすることによって同定することができる。そのような同定方法は、当該分野において周知であり、本明細書において記載される文献にも記載されている。種相同体は、例えば、配列番号1、3、5、7または9に示す核酸配列と少なくとも約30%の相同性を有することが好ましい。種相同性は、好ましくは、配列番号1、3、5、7または9に示す核酸配列と少なくとも約50%の相同性を有する。あるいは、別の好ましい実施形態において、上記種相同体は、配列番号2、4、6、8、10または11に示すアミノ酸配列と少なくとも約30%の相同性を有することが好ましい。種相同体は、好ましくは、配列番号2、4、6、8、10または11に示すアミノ酸配列と少なくとも約50%の相同性を有する。
【0193】
好ましい実施形態において、上記(a−1)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性は、少なくとも約80%であり得、より好ましくは少なくとも約90%であり得、さらに好ましくは少なくとも約98%であり得、もっとも好ましくは少なくとも約99%であり得る。
【0194】
より好ましい実施形態では、上記核酸配列またはアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、2または11に関連するもの(フィブロネクチンの配列)であり得る。従って、上記好ましい実施形態において、その相同性などの記載は、より好ましくは、配列番号1、2または11と読み替えて適用することができる。
【0195】
1つの実施形態において、本発明のアクチン作用物質は、Fn1ドメインは、配列番号11のアミノ酸21位からアミノ酸577位を含んでいてもよい。
【0196】
さらに好ましい実施形態では、アクチン作用物質は、フィブロネクチンまたはその改変体もしくはフラグメントであり、なおさらに好ましくは、フィブロネクチンであり得る。
【0197】
アクチン作用物質の濃度は、当業者であれば、本明細書の記載を参照すれば、容易に決定することができる。例えば、そのような濃度の例としては、少なくとも約0.1μg/μLであり、好ましくは約0.2μg/μLであり、より好ましくは0.5μg/μLである。1つの実施形態では、約0.5μg/μLを超える濃度ではプラトーに達することから、約0.5μg/μL〜2.0μg/μLの濃度が好ましい濃度範囲であり得る。
【0198】
別の局面では、本発明は、接着因子を含む、標的物質の細胞導入効率を上昇させるための組成物に関する。フィブロネクチンは接着因子として知られていたが、そのような接着因子がトランスフェクションのような標的物質の細胞導入の効率上昇に使用することができることは知られていなかった。従って、本発明は、接着因子の驚くべき予想外の効果に起因するとみることもできる。そのような接着因子は、本明細書においてすでに詳述した。従って、下記種々の局面において、アクチン作用物質の代わりにそのような接着因子を用いることができる。
【0199】
遺伝子導入が企図される実施形態において、本発明の組成物は、遺伝子導入試薬をさらに含むことが好ましい。そのような遺伝子導入試薬を含むことによって、本発明の導入効率上昇効果が相乗的に発揮されるからである。
【0200】
好ましい実施形態において、そのような遺伝子導入試薬としては、例えば、カチオン性高分子、カチオン性脂質およびリン酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一種の物質を含むがそれに限定されない。より好ましくは、遺伝子導入試薬としては、Effectene、TransFastTM、TfxTM-20、SuperFect、PolyFect、LipofectAMINE 2000、JetPEIおよびExGen 500などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0201】
別の実施形態において、本発明の組成物は、粒子をさらに含む。粒子を含むことにより、物質の細胞内への導入、特に、標的化した導入が効率よく行うことができるからである。そのような粒子の好ましい例としては、例えば、金コロイドのような金属コロイドなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0202】
別の好ましい実施形態では、本発明の組成物は、塩をさらに含む。理論に束縛されることは望まないが、そのような塩を含むことにより、固相支持体が用いられる場合には、固定効果が増強され、あるいは、標的物質の三次元構造がより適切な形で保持される効果が奏されると考えられる。
【0203】
このような塩としては、無機塩または有機塩であればどのような塩でも使用することができるが、単塩よりも、複数の塩の混合物を使用することが好ましい。そのような複数の塩の混合物としては、例えば、緩衝剤に含まれる塩類および培地に含まれる塩類などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0204】
別の局面において、本発明は、遺伝子導入効率を上昇させるためのキットを提供する。そのようなキットは、(a)アクチン作用物質を含む組成物;および(b)遺伝子導入試薬、を備える。アクチン作用物質としては、上述の本発明の標的物質の細胞内への導入の効率を上昇させるための組成物において詳述した形態が適用され得る。そのような形態は、当業者は、本明細書の記載に基づけば、適切な形態を選択し実施することができる。このようなキットの形態で本発明が提供されるとき、そのようなキットは、さらに指示書を備えていてもよい。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記されていてもよいがそれに限定されない。指示書は、通常、マニュアルの形態をとり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。このようなアクチン作用物質としては、上述したように、本発明の標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物において適用される形態を当業者が任意に選択して本発明を実施することができる。したがって、好ましくは、アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど)またはその改変体であり得る。より好ましくは、フィブロネクチンまたはその改変体もしくはそのフラグメントが使用され得る。
【0205】
別の局面において、本発明は、標的物質を細胞内へ導入するための組成物を提供する。本発明は、通常の条件下では、ほとんど細胞に導入されない標的物質(例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、糖鎖またはそれらの複合物質など)が、アクチン作用物質(代表的には、細胞外マトリクスタンパク質)の作用により、導入が促進されることを予想外に見いだしたことによって完成されたものであり、この場合、本発明は、標的物質とアクチン作用物質とが含有された組成物の形式で提供される。このようなアクチン作用物質としては、上述したように、本発明の標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物において適用される形態を当業者が任意に選択して本発明を実施することができる。したがって、好ましくは、アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど)またはその改変体であり得る。より好ましくは、フィブロネクチンまたはその改変体もしくはそのフラグメントが使用され得る。
【0206】
本発明の標的物質を細胞内へ導入するための組成物において含まれる標的物質としては、好ましくは例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体などが挙げられるがそれらに限定されない。特定の好ましい実施形態では、標的物質としてDNAが選択される。このようなDNAは、遺伝子発現を目的とする場合、目的とする遺伝子をコードすることが好ましい。したがって、トランスフェクションを目的とする実施形態では、標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む。別の好ましい実施形態では、標的物質としてRNAが選択される。このようなRNAは、遺伝子発現を目的とする場合、目的とする遺伝子をコードすることが好ましい。この場合、RNAに適した遺伝子導入剤とともに遺伝子配列をコードするRNAを用いることが好ましい。
【0207】
遺伝子の導入を目的とする実施形態では、本発明の標的物質を細胞内へ導入するための組成物は、遺伝子導入試薬をさらに含んでいてもよい。理論に束縛されないが、1つの実施形態では、そのような遺伝子導入試薬と本発明において見出されたアクチン作用物質とが共同で作用することによって、従来にはない効率よい遺伝子の細胞内への導入がされると考えられる。
【0208】
好ましい実施形態において、本発明の組成物に含有され得る、そのような遺伝子導入試薬としては、例えば、カチオン性高分子、カチオン性脂質、ポリアミン系試薬、ポリイミン系試薬、リン酸カルシウムなどが挙げられるがそれらに限定されない
1つの好ましい実施形態において、本発明の標的物質を細胞内へ導入するための組成物は、液相として存在し得る。液相として存在する場合は、本発明は、例えば、液相トランスフェクション系として有用である。
【0209】
別の好ましい実施形態において、本発明の標的物質を細胞内へ導入するための組成物は、固相として存在し得る。固相として存在する場合は、本発明は、例えば、固相トランスフェクション系として有用である。固相トランスフェクションの好ましい実施形態としては、例えば、マイクロタイタープレートを用いたトランスフェクション系、またはアレイ(もしくはチップ)を用いたトランスフェクション系が挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドを導入する際にも、これらの液相および固相の形態は有用である。
【0210】
別の局面において、本発明はまた、標的物質を細胞に導入するためのデバイスを提供する。このデバイスでは、A)標的物質;およびB)アクチン作用物質、を含む、組成物が、固相支持体に固定されている。本発明のデバイスは、通常の条件下では、ほとんど細胞に導入されない標的物質(例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、糖鎖またはそれらの複合物質など)が、アクチン作用物質(代表的には、細胞外マトリクスタンパク質)の作用により、導入が促進されることを予想外に見いだしたことによって完成されたものであり、この場合、本発明は、標的物質とアクチン作用物質とが含有された組成物が固相支持体に固定された形式で提供される。このようなアクチン作用物質としては、上述したように、本発明の標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物において適用される形態を当業者が任意に選択して本発明を実施することができる。したがって、好ましくは、アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど)またはその改変体であり得る。より好ましくは、フィブロネクチンまたはその改変体もしくはそのフラグメントが使用され得る。
【0211】
本発明のデバイスにおいて含まれる標的物質としては、好ましくは例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体などが挙げられるがそれらに限定されない。特定の好ましい実施形態では、標的物質としてDNAが選択される。このようなDNAは、遺伝子発現を目的とする場合、目的とする遺伝子をコードすることが好ましい。したがって、トランスフェクションを目的とする実施形態では、標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む。
【0212】
遺伝子の導入を目的とする実施形態では、本発明のデバイスは、遺伝子導入試薬をさらに含んでいてもよい。理論に束縛されないが、1つの実施形態では、そのような遺伝子導入試薬と本発明において見出されたアクチン作用物質とが共同で作用することによって、従来にはない効率よい遺伝子の細胞内への導入がされると考えられる。デバイスでは固相支持体に組成物が固定されることから、遺伝子導入試薬としては、固相支持体への適合性があるものを使用することが好ましい。
【0213】
好ましい実施形態において、本発明のデバイスにおいて用いられる固相支持体は、プレート、マイクロウェルプレート、チップ、スライドグラス、フィルム、ビーズおよび金属からなる群より選択されるものであってもよい。
【0214】
特定の実施形態において、本発明のデバイスが固相支持体としてチップが用いられる場合、そのようなデバイスは、アレイとも称され得る。アレイには、通常、導入が意図される生体分子(例えば、DNA、タンパク質など)が基板上に整列またはパターン化されて配置されている。そのようなアレイのうち、トランスフェクションを目的とするものは、本明細書においてトランスフェクションアレイとも呼ばれる。本発明では、従来のシステムでは達成不可能であった、幹細胞などでもトランスフェクションが生じることが判明した。従って、本発明のアクチン作用物質を使用した組成物、デバイスおよび方法は、どのような細胞でも実施可能なトランスフェクションアレイを提供するという、従来にはなかった予想外の効果を達成することになる。
【0215】
ここで、本発明のデバイスにおいて使用される固相支持体はコーティングされることが好ましい。コーティングすることによって、固相支持体および基板の品質向上(例えば、寿命の向上、耐酸性などの耐環境性の向上)、固相支持体または基板に結合されるべき物質への親和性および細胞への親和性が高くなるからである。好ましい実施形態において、そのようなコーティングにおいて、ポリ−L−リジン、シラン(たとえば、APS(γ−アミノプロピルシラン))、MAS、疎水性フッ素樹脂、エポキシシランまたはメルカプトシランのようなシラン、金のような金属を含むコーティング剤が使用される。好ましくは、コーティング剤は、ポリ−L−リジンである。
【0216】
別の局面において、本発明は、標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための方法を提供する。本発明は、通常の条件下では、ほとんど細胞に導入されない標的物質(例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、糖鎖またはそれらの複合物質など)を、アクチン作用物質とともに細胞に提示する(好ましくは、接触させる)ことによって、その標的物質が効率よく細胞に導入されるという作用をはじめて見出したことによって完成された発明である。従って、本発明の方法は、A)標的物質を提供する工程;B)アクチン作用物質を提供する工程を順不同に包含し、C)該標的物質および該アクチン作用物質を該細胞に接触させる工程をさらに包含する。ここで、標的物質およびアクチン作用物質は、一緒に提供されてもよく、別々に提供されてもよい。アクチン作用物質としては、上述の本発明の標的物質の細胞内への導入の効率を上昇させるための組成物において詳述した形態が適用され得る。そのような形態は、当業者は、本明細書の記載に基づけば、適切な形態を選択し実施することができる。したがって、このようなアクチン作用物質としては、本発明の標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物において適用される形態を当業者が任意に選択して本発明を実施することができる。好ましくは、アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど)またはその改変体であり得る。より好ましくは、フィブロネクチンまたはその改変体もしくはそのフラグメントが使用され得る。
【0217】
本発明の方法において使用される標的物質としては、好ましくは例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体などが挙げられるがそれらに限定されない。特定の好ましい実施形態では、標的物質としてDNAが選択される。このようなDNAは、遺伝子発現を目的とする場合、目的とする遺伝子をコードすることが好ましい。したがって、トランスフェクションを目的とする実施形態では、標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む。
【0218】
遺伝子の導入を目的とする実施形態では、本発明の方法では、遺伝子導入試薬をさらに使用してもよい。理論に束縛されないが、1つの実施形態では、そのような遺伝子導入試薬と本発明において見出されたアクチン作用物質とが共同で作用することによって、従来にはない効率よい遺伝子の細胞内への導入がされると考えられる。遺伝子導入試薬の提供は、標的物質および/またはアクチン作用物質と一緒でもよく、別々であってもよい。好ましくは、標的物質と遺伝子導入試薬との間で複合体を形成させてからアクチン作用物質が提供されることが有利であり得る。理論に束縛されないが、そのような順番で行うことが導入効率を上げるようであるからである。
【0219】
好ましい実施形態において、本発明の方法において使用され得る、そのような遺伝子導入試薬としては、例えば、カチオン性高分子、カチオン性脂質、ポリアミン系試薬、ポリイミン系試薬、リン酸カルシウムなどが挙げられるがそれらに限定されない
本発明において対象となる細胞は、標的物質の導入が意図される限り、どのような細胞を包含してもよく、例えば、幹細胞、体細胞などが挙げられる。本発明の顕著な効果は、幹細胞、体細胞など細胞の種類を問わず、どのような細胞でもほぼ満遍なくトランスフェクションのような標的物質の導入が達成されることにあり、これは従来の方法にはなかった予想外の効果といえる。好ましくは、幹細胞のうち、対象には組織幹細胞が包含され得るがそれに限定されず、胚性幹細胞もまた対象として包含され得る。理論に束縛されないが、幹細胞のうちでは、組織幹細胞が胚性幹細胞よりも導入効率がよいようであるからである。
【0220】
1つの特定の実施形態において、本発明の標的物質細胞導入方法は、その一部または全部が液相中で行われ得る。別の特定の実施形態において、本発明の標的物質細胞導入方法は、その一部または全部が固相上で行われ得る。従って、本発明の標的物質細胞導入方法は、液相中と固相上との組み合わせで行うことも可能である。
【0221】
別の局面において、本発明は、固相支持体を利用した標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための方法を提供する。本発明は、通常の条件下では、ほとんど細胞に導入されない標的物質(例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、糖鎖またはそれらの複合物質など)を固相支持体上に固定し、アクチン作用物質とともに細胞に提示する(好ましくは、接触させる)ことによって、その標的物質が効率よく細胞に導入されるという作用をはじめて見出したことによって完成された発明である。固相支持体で標的物質(特にDNA、好ましくは、トランスフェクトされるべき遺伝子をコードする配列を含むDNA)の導入効率が上昇したという効果は、従来技術では達成不可能であり、その達成すら予測されていなかったことから、当該分野において顕著なブレークスルーをもたらすということができる。従って、本発明の固相支持体を利用した方法は、I)A)標的物質;およびB)アクチン作用物質、を含む組成物、を固体支持体に固定する工程;II)該固体支持体上の該組成物に細胞を接触させる工程、を包含する。アクチン作用物質としては、上述の本発明の標的物質の細胞内への導入の効率を上昇させるための組成物において詳述した形態が適用され得る。そのような形態は、当業者は、本明細書の記載に基づけば、適切な形態を選択し実施することができる。したがって、このようなアクチン作用物質としては、本発明の標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物において適用される形態を当業者が任意に選択して本発明を実施することができる。好ましくは、アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど)またはその改変体であり得る。より好ましくは、フィブロネクチンまたはその改変体もしくはそのフラグメントが使用され得る。
【0222】
標的物質として使用される場合、DNAは裸で提供されてもよいが、好ましくは、制御配列(プロモーターなど)とともにベクター(プラスミド)を用いて提供されることが有利であり得る。そのような場合、DNAは作動可能に制御配列に連結されることが好ましい。
【0223】
本発明の方法はまた、好ましくは、遺伝子導入試薬を提供する工程をさらに包含し、ここで、遺伝子導入試薬は、細胞に接触されるように提供される。遺伝子導入試薬の使用は、本発明の方法において導入効率をさらに向上させることから好ましい。遺伝子導入試薬の提供は、当該分野において周知であり、例えば、遺伝子導入試薬が溶解した溶液を実験系に添加することなどが挙げられるがそれに限定されない。好ましくは、遺伝子導入試薬は、標的物質であるDNAと複合体を形成させた後、アクチン作用物質が提供される。理論に束縛されないが、このような順序をとることによって、固相支持体上での標的物質の細胞への導入効率が飛躍的に上昇することが判明しているからである。
【0224】
1つの実施形態では、遺伝子導入試薬(例えば、カチオン性脂質)−標的物質複合体は、標的物質(例えば、発現ベクター中のDNA)および遺伝子導入試薬を含み、これは水または脱イオン水のような適切な溶媒中に溶解される。この溶液をスライドのような表面にスポットし、それにより特定の位置に遺伝子導入試薬−標的物質複合体が付着された表面を生成する。その後、適宜アクチン作用物質が添加される。スポットした遺伝子導入試薬−標的物質複合体がスライドに付着され、そしてこの方法のその後の工程で使用される条件下で、そのスポットがこの付着された位置に留まるように十分乾燥させる。例えば、遺伝子導入試薬−標的物質複合体を、ポリ−L−リジン(Sigma,Inc.などから入手可能)でコーティングしたガラススライドのようなスライドまたはチップ上に、例えば手動で、またはマイクロアレイ製造機を用いてスポットする。その後、このスライドまたはチップを室温もしくは室温より高い温度で、または減圧乾燥させることによって、DNAスポットをスライドに付着することができる。十分な乾燥が起こるのに必要な時間の長さは、表面に配置された混合物の量および使用された温度および湿度条件のようないくつかの因子による。本発明では、アクチン作用物質は、複合体が付着された後に提供されることが好ましい。
【0225】
混合物中に存在するDNAの濃度は、各用途のために実験的に決定されるが、一般的には約0.01μg/μlから約0.2μg/μlの範囲であり、特定の実施形態では約0.02μg/μlから約0.10μg/μlである。あるいは、遺伝子導入試薬−標的物質複合体中に存在するDNAの濃度は、約0.01μg/μlから約0.5μg/μl、約0.01μg/μlから約0.4μg/μl、および約0.01μg/μlから約0.3μg/μlであり得る。同様に、アクチン作用物質、または遺伝子導入試薬のような別のキャリア高分子の濃度は、各用途のために実験的に決定されるが、一般的には0.01%から0.5%の範囲であり、特定の実施形態では約0.05%から約0.5%、約0.05%から約0.2%、または約0.1%から約0.2%である。アクチン作用物質−標的物質複合体中のDNAの最終的な濃度(例えば、アクチン作用物質中のDNA)は、一般的には約0.02μg/μlから約0.1μg/μlであり、そして別の実施形態では、DNAは約0.05μg/μlに等しい最終DNA濃度とされ得る。
【0226】
使用されるDNAがベクターに担持されて提供される場合、ベクターはプラスミドまたはウイルスに基づくベクターのような任意の型であり得、そこに目的のDNA(細胞で発現されるべきDNA)が導入され得、そしてその後その細胞において発現され得る。そのようなベクターとしては、例えば、CMV駆動発現ベクターを使用し得る。市販で入手可能な、pEGFP(Clontech)またはpcDNA3(Invitrogen)のようなプラスミドに基づくベクターまたはウイルスに基づくベクターを使用し得る。この実施形態において、遺伝子導入試薬−標的物質複合体を含むスポットを乾燥させた後、スポットを有する表面を適切な量の脂質に基づいたトランスフェクション試薬で被覆し、そして生じた生成物をスポット中のDNAおよび遺伝子導入試薬(たとえば、カチオン性脂質などのトランスフェクション試薬)との間の複合体形成に適切な条件下で維持(インキュベート)する。その後にアクチン作用物質が提供されるか、または同時にアクチン作用物質が提供されることが好ましい。1つの実施形態では、生じた生成物を25℃で約20分間インキュベートする。続いて、遺伝子導入試薬を除去し、DNA(トランスフェクション試薬との複合体中のDNA)を有する表面を生成し、そして適切な培養液中の細胞を表面上にプレーティングする。生じた生成物(DNAおよびプレーティングした細胞を有する表面)を、プレーティングした細胞へのDNAの侵入を引き起こす条件下で維持する。
【0227】
本発明において使用される場合は、約1〜2細胞周期が、トランスフェクションが起こるのに十分であるが、これは使用される細胞の型および条件によって変動し、そして特定の組み合わせのために適切な時間の長さは、当業者が用意に実験的に決定され得る。十分な時間が経過した後、トランスフェクション効率、コードされた産物の発現、細胞への影響などに関して、公知の方法を用いて評価することができる。例えば、免疫蛍光の検出、または酵素免疫細胞学、インサイチュハイブリダイゼーション、オートラジオグラフィー、あるいはDNAの発現またはコードされた産物もしくはDNA自体による導入された細胞に対する影響を検出する他の手段によって、上記パラメータを判定することができる。コードされたタンパク質の発現を検出するために免疫蛍光を使用する場合、タンパク質に結合しかつ蛍光標識された抗体を使用し(例えば、抗体のタンパク質への結合に適切な条件下でスライドに加える)、そしてタンパク質を含む位置(表面上のスポットまたは領域)を、蛍光を検出することによって同定する。蛍光の存在は、蛍光を示す規定位置においてトランスフェクションが起こり、そしてコードされたタンパク質が発現したことを示す。使用された方法によって検出された、スライド上のシグナルの存在は、シグナルが検出された特定の位置において、トランスフェクションおよびコードされた産物の発現または細胞におけるDNA導入が起こったことを示す。各特定の位置に存在するDNAの正体は既知であってもよく未知であってもよい;従って、発現が起こった場合、発現したタンパク質の正体も既知であってもよく、未知であってもよい。そのような情報は既知であることが好ましい。従来の情報と相関付けすることができるからである。
【0228】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0229】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0230】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、この発明は以下の例に限定されるものではない。以下の実施例において用いられる試薬、支持体などは、例外を除き、Sigma(St.Louis,USA、和光純薬(大阪、日本)、松浪硝子(岸和田、日本)などから市販されるものを用いた。
【0231】
(実施例1:アクチン作用物質混合物の調製)
アクチン作用物質の候補として、種々の細胞外マトリクスタンパク質およびその改変体もしくはそのフラグメントを準備した。この実施例において調製したものは以下のとおりである。フィブロネクチンなどは、市販のものを用い、フラグメントおよび改変体は、遺伝子操作して改変したものを用いた。
1)フィブロネクチン(配列番号11);
2)フィブロネクチン29kDaフラグメント;
3)フィブロネクチン43kDaフラグメント;
4)フィブロネクチン72kDaフラグメント;
5)フィブロネクチン改変体(配列番号11のうち、152位のアラニンをロイシンに変化させたもの);
6)プロネクチンF(三洋化成、京都、日本);
7)プロネクチンL(三洋化成);
8)プロネクチンPlus(三洋化成);
9)ラミニン(配列番号6);
10)RGDペプチド(トリペプチド);
11)RGDを含んだ30kDaペプチド;
12)ラミニンの5アミノ酸IKVAV;
13)ゼラチン。
【0232】
DNAとしてトランスフェクションのためのプラスミドを調製した。プラスミドとして、pEGFP−N1およびpDsRed2−N1(ともにBD Biosciences,Clontech、CA、USA)を用いた。これらのプラスミドでは、遺伝子発現はサイトメガロウイルス(CMV)の制御下にある。プラスミドDNAを、E.coli(XL1 blue、Stratgene,TX,USA)中で増幅し増幅したプラスミドDNAを複合体パートナーの一方として用いた。DNAは、DNaseもRNaseも含まない蒸留水中に溶解した。
【0233】
使用したトランスフェクション試薬は以下の通りである:Effectene Transfection Reagent(cat.no.301425,Qiagen,CA),TransFastTM Transfection Reagent(E2431,Promega,WI),TfxTM-20 Reagent(E2391,Promega,WI),SuperFect Transfection Reagent(301305,Qiagen,CA),PolyFect Transfection Reagent(301105,Qiagen,CA),LipofectAMINE 2000 Reagent(11668-019,Invitrogen corporation,CA),JetPEI(×4)conc.(101-30,Polyplus-transfection,France)およびExGen 500(R0511,Fermentas Inc.,MD)。トランスフェクション試薬は、上記DNAおよびアクチン作用物質にあらかじめ加えるかあるいはDNAと複合体を先に生成してから使用した。
【0234】
このようにして調製した溶液を以下のトランスフェクション効率の改善試験に用いた。
【0235】
(実施例2:液相におけるトランスフェクション効率の改善)
本実施例では、液相におけるトランスフェクション効率の改善を観察した。
【0236】
液相トランスフェクションのプロトコルは、Effectene、LipofectAMINE 2000、JetPEI、TransFastについて、各々提供する指示書に従った。
【0237】
本実施例では、上述のように調製したアクチン作用物質の有り無しにより、液相トランスフェクションにおけるこれらの物質の効果を調べた。
【0238】
アクチン作用物質は、ddH2O中で10μg/μLのストックとして保存した。全ての希釈をPBS、ddH2OまたはダルベッコMEM培地を用いて行った。希釈系列として、例えば、0.2μg/μL、0.27μg/μL、0.4μg/μL、0.53μg/μL、0.6μg/μL、0.8μg/μL、1.0μg/μL、1.07μg/μL、1.33μg/μL、などを調製した。
【0239】
その結果、これらのアクチン作用物質は、液相トランスフェクションにおいて効率を上げることが明らかになった。特にフィブロネクチンがその効率の上昇に顕著な効果を有することが明らかになった。
【0240】
(実施例3:固相におけるトランスフェクション効率の改善)
本実施例では、固相におけるトランスフェクション効率の改善を観察した。そのプロトコルを以下に示す。
【0241】
(プロトコル)
DNAの最終濃度は、1μg/μLに調整した。アクチン作用物質は、ddH2O中で10μg/μLのストックとして保存した。全ての希釈をPBS、ddH2OまたはダルベッコMEM培地を用いて行った。希釈系列として、例えば、0.2μg/μL、0.27μg/μL、0.4μg/μL、0.53μg/μL、0.6μg/μL、0.8μg/μL、1.0μg/μL、1.07μg/μL、1.33μg/μL、などを調製した。
【0242】
トランスフェクション試薬は、それぞれの製造業者が提供する指示書に従って、使用した。
【0243】
プラスミドDNA:グリセロールストックから100mLのL−amp中で一晩増殖させ、Qiaprep MiniprepまたはQiagen Plasmid Purification Maxiを用いて製造業者が提供する標準プロトコールによって精製した。
【0244】
本実施例では、以下の5種類の細胞を利用して、効果を確認した:ヒト間葉系幹細胞(hMSCs、PT-2501、Cambrex BioScience Walkersville,Inc.,MD)、ヒト胚性腎細胞 (HEK293、RCB1637、RIKEN Cell Bank,JPN)、NIH3T3-3細胞 (RCB0150,RIKEN Cell Bank,JPN)、HeLa細胞(RCB0007、RIKEN Cell Bank,JPN)およびHepG2(RCB1648、RIKEN Cell Bank,JPN)。これらは、L−glutおよびpen/strepを含むDMEM/10%IFS中で培養した。
【0245】
(希釈およびDNAのスポット)
トランスフェクション試薬とDNAとを混合してDNA−トランスフェクション試薬複合体を形成させる。複合体形成にはある程度の時間が必要であることから、上記混合物を、アレイ作製機(arrayer)を用いて固相支持体(例えば、ポリ−L−リジンスライド)にスポットした。本実施例では、固相支持体として、ポリ−L−リジンスライドのほか、APSスライド、MASスライド、コーティングなしのスライドを用いた。これらは、松浪硝子(岸和田、日本)などから入手可能である。
【0246】
複合体形成およびスポット固定のために、真空乾燥機中で一晩スライドを乾燥させた。乾燥時間の範囲は、2時間から1週間とした。
【0247】
アクチン作用物質は、上記複合体形成時に使用してもよいが、本実施例では、スポッティングの直前に使用する形態も試験した。
【0248】
(混合液の調製および固相支持体への適用)
エッペンドルフチューブに、300μLのDNA濃縮緩衝液(EC緩衝液)+16μLのエンハンサーを混合した。これをボルテックスによって混合し、5分間インキュベートした。50μLのトランスフェクション試薬(Effecteneなど)を加え、そしてピペッティングによって混合した。トランスフェクション試薬を適用するために、スライドのスポットのまわりにワックス環状バリヤーを引いた。スポットのワックスで囲まれた領域に366μLの混合物を加え、室温で10から20分間インキュベートした。これにより、支持体への主導による固定が達成された。
【0249】
(細胞の分配)
次に、細胞を添加するプロトコルを示す。トランスフェクトのために細胞を分配した。この分配は、通常、フード内で試薬を減圧吸引して行った。スライドを皿に置き、そしてトランスフェクションのために細胞を含む溶液を加えた。細胞の分配は、以下のとおりである。
【0250】
細胞の濃度が25mL中107細胞になるように、増殖中の細胞を分配した。四角の100×100×15mmのペトリ皿または半径100mm×15mmの円形ディッシュ中で、スライド上に細胞をプレーティングした。約40時間、トランスフェクションを進行させた。これは、約2細胞周期にあたる。免疫蛍光のためにスライドを処理した。
【0251】
(遺伝子導入の評価)
遺伝子導入の評価は、例えば、免疫蛍光、蛍光顕微鏡検査、レーザー走査、 放射性標識および感受性フィルムまたはエマルジョンを用いた検出によって達成した。
【0252】
可視化されるべき発現されたタンパク質が蛍光タンパク質であるなら、それらを蛍光顕微鏡検査で見てそして写真を撮ることができる。大きな発現アレイに関しては、スライドをデータ保存のためにレーザースキャナーで走査し得る。発現されたタンパク質を蛍光抗体が検出し得るなら、免疫蛍光のプロトコールが引き続いて行うことができる。検出が放射能に基づくなら、スライドを上記で示したように付着し得、そしてフィルムまたはエマルジョンを用いたオートラジオグラフィーによって放射能を検出することができる。
【0253】
(レーザー走査および蛍光強度定量)
トランスフェクション効率を定量するために、本発明者らは、DNAマイクロアレイスキャナ(GeneTAC UC4×4、Genomic Solutions Inc.,MI)を使用した。総蛍光強度(任意の単位)を測定した後、表面積あたりの蛍光強度を計算した。
【0254】
(共焦点顕走査顕微鏡による切片観察)
使用した細胞を、組織培養ディッシュに最終濃度1×105細胞/ウェルで播種し、適切な培地を用いて(ヒト間葉系細胞の場合ヒト間葉系細胞基本培地(MSCGM、BulletKit PT−3001、Cambrex BioScience Walkersville,Inc.、MD,USA)を用いた)培養した。細胞層を4%パラホルムアルデヒド溶液で固定した後、染色試薬であるSYTOおよびTexas Red−Xファロイジン(Molecular Probes Inc.,OR,USA)を細胞層に添加して、核およびFアクチンを観察した。遺伝子産物によって発色するサンプルまたは染色されたサンプルを共焦点レーザー顕微鏡(LSM510、Carl Zeiss Co.,Lrd、ピンホールサイズ=Ch1=123μm, Ch2=108 μm;画像間隔=0.4)を用いて、切片像を得た。
【0255】
(結果)
図1に一例としてHEK293細胞を用いた場合の種々のアクチン作用物質およびコントロールとしてのゼラチンを用いた結果を示す。
【0256】
結果から明らかなように、ゼラチンを用いた系ではトランスフェクションがあまり成功していないのに対して、フィブロネクチン、フィブロネクチンの改変体であるプロネクチン(プロネクチンF、プロネクチンL、プロネクチンPlus)およびラミニンでは、顕著にトランスフェクションが起こっていた。従って、このような分子は、トランスフェクション効率を顕著に上昇させることが実証された。RGDペプチド単体では、その効果はほとんど見えなかった。
【0257】
図2および3に、フィブロネクチンのフラグメントを用いた場合のトランスフェクション効率の結果を示す。図4にその結果をまとめた図を示す。29kDaおよび72kDaのフラグメントは、トランスフェクション活性が顕著に示され、43kDaフラグメントは、活性はあるものの、その程度は、低かった。従って、29kDaに含まれるアミノ酸配列がトランスフェクション効率の上昇に役割を果たしていることが示唆される。29kDaフラグメントは、夾雑がほとんど見られなかったのに対して、他の二つのフラグメント(43kDaおよび72kDa)では、夾雑が見られた。従って、29kDaドメインのみをアクチン作用物質として使用することが好ましくあり得る。また、RGDペプチドのみではトランスフェクション効率上昇活性は示されなかったが、これをつけた30kDaのペプチドでは活性が見られた。また、ラミニンの6アミノ酸をつけ高分子量にした系でもトランスフェクション活性が見られた。従って、これらのペプチド配列もまた、トランスフェクション効率上昇活性において重要な役割を果たし得るがそれに限定されない。このような場合、少なくとも5kDa、好ましくは少なくとも10kDa,より好ましくは少なくとも15kDaの分子量を含むことがトランスフェクション効率上昇に必要であり得る。
【0258】
次に、種々の細胞におけるトランスフェクション効率を調べた結果を図5に示す。図5では、従来トランスフェクションが可能な細胞としてHEK293細胞、HeLa細胞、3T3細胞、ならびに従来トランスフェクションがほとんど不可能といわれていたHepG2細胞および間葉系幹細胞(MSC)を用いた本発明のトランスフェクション方法の効果を示す。縦軸にはGFPの強度を示した。
【0259】
図5では、本発明の固相支持体を用いたトランスフェクション法との比較対照として、従来の液相トランスフェクション法を示した対比した。従来型の液相トランスフェクションの方法は、各試薬会社の推奨する方法に従って行った。
【0260】
図5から明らかなように、従来トランスフェクション可能とされていたHEK293、HeLa、3T3はもちろん、トランスフェクション不可能とされていたHepG2およびMSCでも、HeLaおよび3T3に匹敵するトランスフェクション効率が達成された。このような効果は、従来のトランスフェクション系では決して達成されなかったことであり、事実上すべての細胞についてトランスフェクション効率を上昇させることができ、実用に耐え得るトランスフェクションをすべての細胞に提供する系が史上初めて提供されたことになる。また、固相条件を採用したことによって、相互夾雑も顕著に減少した。従って、固相支持体を使用する場合本発明は、集積化バイオアレイを製造するために適切な方法であることが実証された。
【0261】
次に図6として、種々のプレートを用いた場合のトランスフェクションの状態を示す結果を提供する。図6の結果からも明らかなように、コーティングをした場合、コーティングをしていない場合よりも夾雑が少なくなっており、トランスフェクション効率も上昇しているようであることが明らかになった。
【0262】
次に、図7として、フィブロネクチンの濃度を0、0.27、0.53、0.8、1.07および1.33(それぞれμg/μL)としてトランスフェクションを行った場合の結果を示す。図7では、PLL(ポリ−L−リジン)およびAPSでコーティングされたスライドおよびコーティングされていないスライドについて示す。
【0263】
図7の結果から明らかなように、トランスフェクション効率は、フィブロネクチン濃度の上昇に伴って上昇することが明らかになった。ただし、PLLコーティングおよびコーティングなしの場合には、0.53μg/μLを超えると効率がプラトーに達していることがわかる。他方、APSの場合は、1.07μg/μLを超えても効果の上昇が見られた。
【0264】
次に図8として、フィブロネクチンの有無での、細胞接着プロファイルを示す写真を示す。図9には、切片写真を示す。接着細胞の形状は、顕著に異なることが明らかになった(図8)。細胞培養の最初の3時間で、フィブロネクチン有の方は、細胞が完全に伸展したのに対して、フィブロネクチン無のほうは、伸展が限られていた(図9)。アクチンフィラメントの挙動を観察した図9の結果について経時的に観察した結果を勘案すると、固相支持体上に沈着したフィブロネクチンのようなアクチン作用物質がアクチンフィラメントの形状および方向に影響を与え、トランスフェクション効率などの物質の細胞への導入効率を上昇させるものと考えられる。具体的には、フィブロネクチンの存在下では、アクチンフィラメントは、迅速に配置転換し、細胞伸展とともに核の下にある細胞質空間から消失する。フィブロネクチンのようなアクチン作用物質によって誘導される核周辺のアクチン枯渇によって、DNAなどの標的物質が細胞内および必要に応じて核内へ移行すると考えられる。理論に束縛されないが、これは、細胞質の粘性の低下および正に荷電したDNA粒子が負に荷電したアクチンフィラメントに捕捉されることを防止するという効果に起因すると考えられる。また、核の表面積は、フィブロネクチン存在下で顕著に拡大することから(図10)、DNAなどの標的物質の核への移行が容易になるものと考えられる。
【0265】
(実施例4:バイオアレイへの応用)
次に、上述の効果がアレイを用いた場合でも実証されるかどうかを確認するために規模拡大して実験を行った。
【0266】
(実験プロトコル)
(細胞供給源、培養培地、および培養条件)
この実施例では、5種類の異なる細胞株を使用した:ヒト間葉系幹細胞(hMSC、PT−2501、Cambrex BioScience Walkersville,Inc.,MD)、ヒト胚性腎細胞HEK293(RCB1637、RIKEN Cell Bank,JPN)、NIH3T3−3(RCB0150、RIKEN Cell Bank,JPN)、HeLa(RCB0007、RIKEN Cell Bank,JPN)、およびHepG2(RCB1648、RIKEN Cell Bank,JPN)。ヒトMSC細胞の場合、この細胞を、市販のヒト間葉細胞基底培地(MSCGM BulletKit PT−3001,Cambrex BioScience Walkersville,Inc.,MD)中で維持した。HEK293細胞、NIH3T3−3細胞、HeLa細胞およびHepG2細胞の場合、これらの細胞を、10% ウシ胎仔血清(FBS、29−167−54、Lot No.2025F、Dainippon Pharmaceutical CO.,LTD.,JPN)を有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、L−グルタミンおよびピルビン酸ナトリウムを有する高グルコース(4.5g/L);14246−25、Nakalai Tesque,JPN)中で維持した。全ての細胞株を、37℃、5% CO2に制御されたインキュベーター中で培養した。hMSCを含む実験において、本発明者らは、表現型の変化を回避するために、5継代未満のhMSCを使用した。
【0267】
(プラスミドおよびトランスフェクション試薬)
トランスフェクションの効率を評価するために、pEGFP−N1ベクターおよびpDsRed2−N1ベクター(カタログ番号6085−1、6973−1、BD Biosciences Clontech,CA)を使用した。共に遺伝子発現は、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下であった。トランスフェクトされた細胞は、それぞれ、連続的にEGFPまたはDsRed2を発現した。プラスミドDNAを、Escherichia coli、XL1−blue株(200249,Stratagene,TX)を使用して増幅し、そしてEndoFree Plasmid Kit(EndoFree Plasmid Maxi Kit 12362、QIAGEN、CA)によって精製した。全ての場合において、プラスミドDNAを、DNaseおよびRNaseを含まない水に溶解した。トランスフェクション試薬は以下のようにして得た:Effectene Transfection Reagent(カタログ番号301425、Qiagen、CA)、TransFastTM Transfection Reagent(E2431、Promega、WI)、TfxTM−20 Reagent(E2391、Promega、WI)、SuperFect Transfection Reagent(301305、Qiagen、CA)、PolyFect Transfection Reagent(301105、Qiagen、CA)、LipofectAMINE 2000 Reagent(11668−019、Invitrogen corporation、CA)、JetPEI(×4)conc.(101−30、Polyplus−transfection、France)、およびExGen 500(R0511、Fermentas Inc.,MD)。
【0268】
(固相系トランスフェクションアレイ(SPTA)生成)
「リバーストランスフェクション」につてのプロトコルの詳細は、ウェブサイト http://staffa.wi.mit.edu/sabatini_public/reverse_transfection.htm の「Reverse Transfection Homepage」J. Ziauddin, D. M. Sabatini, Nature, 411, 2001, 107;R. W. Zu, S. N.Bailey, D.M. Sabatini, Trends in Cell Biology, Vol 12, No. 10, 485に記載されていた。本発明者らの固相系トランスフェクション(SPTA方法)において、疎水性フッ素樹脂コーティングによって分離した48平方パターン(3mm×3mm)を有する3つの型のスライドガラス(シラン処理したスライドガラス;APSスライド、およびポリ−L−リジンでコーティングしたスライドガラス;PLLスライド、およびMASでコーティングしたスライド;Matsunami Glass Ind.,LTD.,JPN)を研究した。
【0269】
(プラスミドDNAプリンティング溶液の調製)
SPTAを生成するための2つの異なる方法を開発した。その主な違いは、プラスミドDNAプリンティング溶液の調製にある。
【0270】
(方法A)
Effectene Transfection Reagentを使用する場合、プリンティング溶液は、プラスミドDNAおよび細胞接着分子(4mg/mLの濃度で超純水に溶解したウシ血漿フィブロネクチン(カタログ番号16042−41、Nakalai Tesque、JPN))を含んだ。上記の溶液を、インクジェットプリンタ(synQUADTM、Cartesian Technologies,Inc.,CA)を用いてか、または手動で0.5〜10μLチップを用いて、スライドの表面に適用した。このプリントしたスライドガラスを安全キャビネットの内側で室温にて15分間かけて乾燥させた。トランスフェクションの前に、総Effectene試薬を、DNAプリントしたスライドガラス上に静かに注ぎ、そして室温にて15分間インキュベートした。過剰のEffectene溶液を、吸引アスピレーターを用いてスライドガラスから除去し、そして安全キャビネットの内側で室温にて15分間かけて乾燥させた。得られたDNAプリントしたスライドガラスを、100mm培養ディッシュの底に置き、そして約25mLの細胞懸濁液(2〜4×104細胞/mL)を、このディッシュに静かに注いだ。次いで、このディッシュを37℃、5% CO2のインキュベーターに移し、2〜3日間インキュベートした。
【0271】
(方法B)
他のトランスフェクション試薬(TransFastTM、TfxTM−20、SuperFect、PolyFect、LipofectAMINE 2000、JetPEI(×4)conc.またはExGen)の場合、プラスミドDNA、フィブロネクチン、およびトランスフェクション試薬を、製造業業者が配布する指示書に示される比率に従って1.5mLのマイクロチューブ中で均一に混合し、そしてチップ上にプリンティングする前に室温にて15分間インキュベートした。プリンティング溶液を、インクジェットプリンターまたは0.5〜10μLチップを用いてスライドガラスの表面上に適用した。このプリントしたスライドガラスを、安全キャビネットの内側で室温にて10分間かけて完全に乾燥させた。プリントしたスライドガラスを100mm培養ディッシュの底に置き、そして約3mLの細胞懸濁液(2〜4×104細胞/mL)を添加し、安全キャビネットの内側で室温にて15分間にわたってインキュベートした。インキュベーション後、新鮮な培地をこのディッシュに静かに注いだ。次いで、このディッシュを37℃、5% CO2のインキュベーターに移し、2〜3日間インキュベートした。インキュベーション後、本発明者らは、蛍光顕微鏡(IX−71、Olympus PROMARKETING,INC.,JPN)を用いて、増強された蛍光タンパク質(EFP、EGFP、およびDsRed2)の発現に基づいてトランスフェクト体を観察した。位相差画像を同じ顕微鏡を用いて撮った。両プロトコルにおいて、細胞をパラホルムアルデヒド(PFA)固定方法(PBS中の4% PFA、処理時間は、室温にて10分間)を用いることによって固定した。
【0272】
(レーザー走査および蛍光強度定量)
トランスフェクション効率を定量するために、本発明者らは、DNAマイクロアレイスキャナ(GeneTAC UC4×4、Genomic Solutions Inc.,MI)を使用した。総蛍光強度(任意の単位)を測定した後、表面積あたりの蛍光強度を計算した。
【0273】
(結果)
(フィブロネクチン支持局所的トランスフェクション)
トランスフェクションアレイチップを、図11に示されるように構築した。トランスフェクションアレイチップは、PLLコーティングされたスライドグラス上でDNA/トランスフェクション試薬およびフィブロネクチンを含む細胞培養液をマイクロプリントすることによって構築した。
【0274】
種々の細胞をこの実施例において用いた。これらの細胞は、通常使用される培養条件で培養した。これらの細胞はスライドガラスに付着することから、細胞は、効率よく取り込まれ、そしてアレイ上に与えられた位置でプリントされたDNAに対応する遺伝子を発現した。通常のトランスフェクション方法(例えば、カチオン性脂質またはカチオン性高分子媒介トランスフェクション)と比較すると、本発明の方法を用いた場合のトランスフェクション効率は、いずれも顕著に高かった。特に、トランスフェクトすることが困難とされていたHepG2、hMSCなどのような組織幹細胞でも、効率よくトランスフェクトされることが見出されたことは、特に重要である。hMSCの場合には、従来方法の約40倍以上の効率上昇が見られた。また、高密度アレイに必要な高い集積度も達成された(すなわち、アレイ上で隣接するスポット同士の間の夾雑が顕著に減っていた)。これは、EGFPおよびDs−REDのチェック状パターンのアレイを生成することによって確認した。ヒトMSCをこのアレイにおいて培養し、実質的にすべての空間解像度が示されるように対応する蛍光タンパク質を発現させた。その結果図12に示されるように、ほとんど夾雑していないことが明らかになった。プリント混合物の個々の成分の役割に関するこの研究に基づいて、種々の細胞に関して、トランスフェクション効率の最適化を行うことができる。
【0275】
(フィブロネクチンによる局所的トランスフェクションにおける効率化)
本発明者らの上述してきたデータを総合すると、フィブロネクチンなどの接着因子または細胞外マトリクスタンパク質と称されていたタンパク質は、細胞接着活性以外の活性を有することが明らかになった。そのような活性としては、種々の細胞によって異なるが、これらの活性は、トランスフェクション効率の上昇に関与していることがわかる。なぜなら、フィブロネクチンの有無で接着の様子を調べた結果(図8)によると、接着の状態自体は差異が見られなかったからである。
【0276】
(ヒト間葉系幹細胞の固相系トランスフェクションアレイ)
多様な種類の細胞に分化するヒト間葉系幹細胞(hMSC)の能力は、組織再生および組織復活を標的化する研究にとって特に興味深いものになっている。特に、これらの細胞の形質転換についての遺伝子解析は、hMSCの多能性を制御する因子を解明する上で、関心が高まっている。hMSCの研究は、所望の遺伝物質を用いたトランスフェクションが不可能な点にある。
【0277】
これを達成するために、従来の方法は、ウイルスベクターまたはエレクトロポレーションのいずれかの技術を含む。本発明者らが開発した複合体−塩という系を用いることにより、種々の細胞株(hMSCを含む)に対して高いトランスフェクション効率ならびに密集したアレイ中での空間的な局在の獲得を可能にする固相系トランスフェクションが達成された。固相系トランスフェクションの概略を、図13Aに示す。
【0278】
固相系トランスフェクションにより、インビボ遺伝子送達のために使用され得る「トランスフェクションパッチ」の技術的な達成ならびにhMSCにおける高スループットの遺伝子機能研究のための固相系トランスフェクションアレイ(SPTA)が可能になることが判明した。
【0279】
哺乳動物細胞をトランスフェクトするための多数の標準的な方法が存在するが、遺伝物質のhMSCへの導入については、HEK293、HeLaなどの細胞株を比較して不便かつ困難であることが知られている。従来使用されるウイルスベクター送達またはエレクトロポレーションのいずれも重要であるが、潜在的な毒性(ウイルス方法)、ゲノムスケールでの高スループット分析を受けにくいこと、およびインビボ研究に対して制限された適用性(エレクトロポレーションに関して)のような不便さが存在する。
【0280】
固相支持体に簡便に固定することができ、かつ徐放性および細胞親和性を保持した固相支持体固定系が開発されたことにより、これらの欠点のほとんど克服することができた。
【0281】
上述の実験の結果の一例を、図13Bに示す。マイクロプリンティング技術を使用する本発明者らの技術を用いて、選択された遺伝物質、トランスフェクション試薬および適切な細胞接着分子、ならびに塩を含む混合物を、固体支持体上に固定化し得た。混合物を固定化した支持体の上での細胞培養は、その培養細胞に対する、混合物中の遺伝子の取り込みを可能にした。その結果、支持体−接着細胞における、空間的に分離したDNAの取り込みを可能にした(図13B)。
【0282】
本実施例の結果、いくつかの重要な効果が達成された:高いトランスフェクション効率(その結果、統計学的に有意な細胞集団が研究され得る)、異なるDNA分子を支持する領域間の低い相互夾雑(その結果、個々の遺伝子の効果が、別々に研究され得る)、トランスフェクト細胞の長期生存、高スループットの互換性のある形式および簡便な検出方法。SPTAは、これらの基準を全て満たすことは、さらなる研究のための適切な基盤となることになる。
【0283】
これらの目的の達成を明確に確立するために、上述のように本発明者らは、5種類の異なる細胞株(HEK293、HeLa、NIH3T3、HepG2およびhMSC)を、本発明者らの方法論(固相系でのトランスフェクション)(図13Aおよび図13Cを参照のこと)および従来の液相系トランスフェクションの両方を用いて一連のトランスフェクション条件下で研究した。SPTAの場合、相互夾雑を評価するために、本発明者らは、チェック模様のパターンでガラス支持体上にプリントした赤色蛍光タンパク質(RFP)および緑色蛍光タンパク質(GFP)を使用し、一方、従来の液相系トランスフェクションを含む実験の場合(ここで、本来、トランスフェクト細胞の自発的な空間的分離は達成され得ない)、本発明者らは、GFPを使用した。いくつかのトランスフェクション試薬を評価した:4つの液体トランスフェクション試薬(Effectene、TransFastTM、TfxTM−20、LopofectAMINE 2000)、2つのポリアミン(SuperFect、PolyFect)、ならびに2つの型のポリイミン(JetPEI(×4)およびExGen 500)。
【0284】
トランスフェクション効率:トランスフェクション効率を、単位面積あたりの総蛍光強度として決定した(図14A。図14Bはそのイメージを示す。)。使用した細胞株に従って、最適な液相の結果を、異なるトランスフェクション試薬を用いて得た(図14C−Dを参照のこと)。次いで、これらの効率的なトランスフェクション試薬を、固相系プロトコルの最適化に使用した。いくつかの傾向が観察された:容易にトランスフェクト可能な細胞株(例えば、HEK293、HeLa、NIH3T3)の場合、固相系プロトコルで観察されたトランスフェクション効率は、標準的な液相系プロトコルと比較してわずかに優れていたが、本質的に類似したレベルで達成されている(図14)。
【0285】
しかし、細胞をトランスフェクトするのが困難な場合(例えば、hMSCおよびHepG2)においてSPTA方法論に最適化した条件を用いることによって、本発明者らは、細胞の特徴を維持しながら、トランスフェクション効率が40倍まで増加したことを観察した(上述のプロトコルおよび図14C−Dを参照のこと)。hMSCの特定の場合(図15)、最良条件は、ポリエチレンイミン(PEI)トランスフェクション試薬の使用を含んだ。予想したように、高いトランスフェクション効率を実現するための重要な因子は、ポリマー内の窒素原子(N)の数とプラスミドDNA内のリン酸残基(P)の数との間の電荷バランス(N/P比率)、ならびにDNA濃度である。一般的に、N/P比率および濃度における増大は、トランスフェクション効率の増大を生じる。並行して、本発明者らは、hMSCの溶液トランスフェクション実験における高いDNAおよび高いN/P比率の場合に、細胞生存率の有意な低下を観察した。これら2つの拮抗因子に起因して、hMSCの液相系トランスフェクションの効率は、かなり悪い非常に低い細胞生存率(N/P比率>10で観察された)であった。しかし、SPTAプロトコルは、細胞生存率にも細胞形態にも有意に影響を与えることなく、非常に高い(固体支持体に固定された)N/P比率およびDNA濃度を許容し(おそらく、細胞膜に対する固体支持体の安定化効果に起因する)、従って、このことがおそらく、トランスフェクション効率の劇的な改善の原因となっている。SPTAの場合、10のN/P比率が最適であることが見出され、細胞毒性を最小化しながら十分なトランスフェクションレベルを提供する。SPTAプロトコルにおいて観察されたトランスフェクション効率の増大に関するさらなる理由は、高い局所的なDNA濃度/トランスフェクション試薬濃度(これは、液相系トランスフェクション実験において使用される場合は細胞死を生成する)の達成である。
【0286】
チップ上での高いトランスフェクション効率の達成のための重要な点は、使用されるガラスコーティングである。PLLが、トランスフェクション効率および相互夾雑の両方に関して、最良の結果を提供することを発見した(下記に考察する)。フィブロネクチンコーティングしない場合、少数のトランスフェクト体を観察した(他のすべての実験条件は一定に保った)。完全に確立したわけではないが、フィブロネクチンの役割はおそらく、細胞接着プロセスを加速し(データは示していない)、ゆえに、表面を離れたDNA拡散が可能になる時間を制限するということである。
【0287】
低い相互夾雑:SPTAプロトコルで観察されたより高いトランスフェクション効率は別として、本技術の重要な利点は、別個に分離された細胞アレイの実現であり、その各位置では、選択した遺伝子が発現する。本発明者らは、フィブロネクチンでコーティングしたガラス表面上に、JetPEI(「実験プロトコル」を参照のこと)およびフィブロネクチンと混合した2つの異なるレポーター遺伝子(RFPおよびGFP)をプリントした。得られたトランスフェクションチップを適切な細胞培養に提供した。最良であると見出された実験条件下において、発現されたGFPおよびRFPは、それぞれのcDNAがスポットされた領域に局在した。相互夾雑はほとんど観察されなかった(図16)。しかし、フィブロネクチンまたはPLLの非存在下において、相互夾雑は重要であり、そしてトランスフェクション効率は、有意に低かった(図6)。このことは、接着した細胞の割合と、支持体表面から離れて拡散するプラスミドDNAとの相対的な割合が、高いトランスフェクション効率および高い相互夾雑の両方に対して重要な因子であるという仮説を立証する。
【0288】
相互夾雑のさらなる原因は、固体支持体上のトランスフェクション細胞の移動性であり得る。本発明者らは、数個の支持体上での細胞接着速度(図16C)およびプラスミドDNAの拡散速度の両方を測定した。その結果は、最適条件下においてDNA拡散はほとんど生じないが、高い相互夾雑条件下において、表面からのプラスミドDNAの涸渇は、細胞接着が完了する時間までに相当な量であることを示した。
【0289】
この確立された技術は、経済的な高スループットの遺伝子機能スクリーニングの状況において特に重要である。実際に、必要とされるトランスフェクション試薬およびDNAの量が少量であること、ならびに全プロセス(プラスミドの単離から検出まで)を自動化が可能であることは、上記の方法の有用性を増大する。
【0290】
結論として、本発明者らは、アクチン作用物を用いた系で、hMSCトランスフェクションアレイを好首尾に実現した。このことは、多能性幹細胞の分化を制御する遺伝子機構の解明など、固相系トランスフェクションを利用した種々の研究における高スループット研究を可能にすることになる。固相系トランスフェクションの詳細な機構ならびに高スループットのリアルタイム遺伝子発現モニタリングに対するこの技術の使用に関する方法論は種々の目的に応用可能であることが明らかになった。
【0291】
(実施例5:RNAiトランスフェクションマイクロアレイ)
上記実施例に記載のようにアレイを作製し、今度は、遺伝物質として、プラスミドDNAとshRNAとを混合して使用した。その組成を以下の表2に示す。
【0292】
【表2】
結果を図17に示す。この図の結果を数値化したデータを、5種類の細胞について、図18にまとめた。
【0293】
このように、どのような細胞を用いたとしても、本発明の技術が適用可能であることが判明した。
【0294】
(実施例6:RNAiマイクロアレイ=siRNAを用いた場合)
上記実施例と同様のプロトコールを用いて、今度はshRNAの代わりにsiRNAを用いて、RNAiトランスフェクションマイクロアレイを構築した。
【0295】
以下の表の18種類の転写因子レポーターおよびActinプロモータベクターを用いて、各転写因子に対してのsiRNAを合成した28種類。また、コントロールとして、EGFPに対するsiRNAを用いて、siRNAが標的転写因子をノックダウンするか評価した。また、ネガティブコントロールとしては、scrambleRNAを用いて、これらの比を取って評価した。
【0296】
【表3】
各細胞への固相系トランスフェクション後、2日間培養し、蛍光イメージスキャナーにて画像取得後、蛍光量を定量化した。
【0297】
(結果)
結果を図19に示す。この結果を各遺伝子ごとにまとめたものを図11に示す。
【0298】
図19〜20から明らかなように、RNAiを用いた場合、各遺伝子が特異的に発現が抑制されていることが示された。RNAiを用いた複数の遺伝物質のアレイを実現することができ、RNAiであっても、アクチン作用物質の遺伝子導入の増強効果が確認された。
【0299】
(実施例7:PCR断片を用いたトランスフェクションアレイ)
次に、PCR断片を遺伝物質として用いた場合でも、本発明が実現可能であることを実証した。以下にその手順を示す。
【0300】
PCRにより、図21に記載のような核酸断片を取得し、トランスフェクションマイクロアレイに用いる遺伝物質とした。その手順を以下に示す。
【0301】
PCRプライマーとしては、
GG ATAACCGTATTACCGCCATG CAT(配列番号12)と
ccctatctcggtctattcttttg CAAAAGAATAGACCGAGATA GGG(配列番号13)とを使用して、テンプレートとして、pEGFP−N1を用いた(図22を参照)。PCRの条件は、以下のとおりである。
【0302】
【表4】
サイクル条件:94℃2min→(94℃15sec→60℃30sec→68℃ 3min)→ 4℃(括弧内を30サイクル)
得られたPCR フラグメントは、フェノール/クロロフォルム抽出を行い、エタノール沈殿法にて精製した。そのPCR断片の配列は、
【0303】
【化1】
に記載のとおりである。
【0304】
これを用いて作製したチップに、MCF7を播種し、2日後に蛍光イメージスキャナーにて画像を取得した。その結果を図23に示す。図23では、環状DNAとPCRフラグメントとの比較を行っている。どちらの場合も、トランスフェクションがうまく行われており、PCR断片を遺伝物質として使用した場合でも、全長プラスミドと同様にトランスフェクションされ、塩の固定効果およびそれによる遺伝子導入の増強効果が確認された。
【0305】
(実施例8:支持体の種類)
次に、固相支持体として、ガラスの他に、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチックを用いた場合に、同様のアクチン作用物質の効果が見られることを確認する。
【0306】
これらの材料を松浪硝子などから入手する。そして、上記実施例に記載されるように、アレイを作製する。
【0307】
その結果、使用した材料において、同様のアクチンの効果が見られることが示される。
【0308】
(実施例9:テトラサイクリン依存性プロモーターを用いた遺伝子発現調節)
上記実施例と同様に、テトラサイクリン依存性プロモーターを用いて遺伝子発現調節がどのようになされるかをプロファイルとして生成することができることを実証した。使用した配列は以下のとおりである。
【0309】
テトラサイクリン依存性プロモーター(およびその遺伝子ベクター構築物)としては、BD BiosciencesのpTet offおよびpTet onベクター系を用いた(http://www.clontech.com/techinfo/vectors/cattet.shtmlを参照)。ベクターは、pTRE-d2EGFPを利用した(http://www.clontech.com/techinfo/vectors/vectorsT-Z/pTRE-d2EGFP.shtmlに記載されている)。
【0310】
【化2】
【0311】
【化3】
(プロトコル)
アレイ基板上に、テトラサイクリン依存性プロモーターと、非依存性プロモーターとをプリントし、同一基板上においてテトラサイクリンによる遺伝子発現調節がされるかどうかをリアルタイムで計測した。その結果を、図24に示す。図24に示されるように、依存性プロモーターでのみ遺伝子発現の変化が測定された。図25には、非依存性と依存性とにおける発現の実際の様子を写真として示す。このように、肉眼でもはっきりわかる程度に比較可能に変化が測定可能となる。
【0312】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0313】
本発明により、固相でも液相でも実施することができる、トランスフェクションの効率上昇が達成された。このようなトランスフェクション効率上昇試薬は、特に固相でのトランスフェクションを実施するために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0314】
【図1】図1は、HEK293細胞を用いた場合の種々のアクチン作用物質およびコントロールとしてのゼラチンを用いた結果の一例を示す。
【図2】図2は、フィブロネクチンのフラグメントを用いた場合のトランスフェクション効率の結果の一例を示す。
【図3】図3は、フィブロネクチンのフラグメントを用いた場合のトランスフェクション効率の結果の一例を示す。
【図4】図4は、図2および図3からまとめたフィブロネクチンのフラグメントを用いた場合のトランスフェクション効率の結果の一例を示す。
【図5】図5は、種々の細胞におけるトランスフェクション効率を調べた結果の一例を示す。
【図6】図6は、種々のプレートを用いた場合のトランスフェクションの状態を示す結果の一例を示す。
【図7】図7は、フィブロネクチンの濃度を0、0.27、0.53、0.8、1.07および1.33(それぞれμg/μL)として種々のプレート上でトランスフェクションを行った場合の結果を示す。
【図8】図8は、フィブロネクチンの有無での、細胞接着プロファイルを示す写真の一例を示す。
【図9】図9は、フィブロネクチンの有無での、細胞接着プロファイルを示す切片写真の一例を示す。
【図10】図10は、核の表面積の推移を示す。
【図11】図11は、トランスフェクションアレイチップとして構築した場合のトランスフェクション実験の結果の一例を示す。
【図12】図12は、アレイ上での各スポット間の夾雑の様子を示す一例である。
【図13−1】図13は、実施例4における本発明の固相トランスフェクションによって、空間的に分離したDNAの細胞内への取り込みを示す図である。図13Aは、固相系トランスフェクションアレイ(SPTA)作製方法を模式的に示した図である。この図は、固相トランスフェクションの方法論を示す。図13Bは、固相トランスフェクションの結果を示す。HEK293細胞株を用いてSPTAを作製した結果を示す。緑色の部分は、トランスフェクションされた付着細胞を示す。この結果から、本発明の方法によって、空間的に分離された、異なる遺伝子によってトランスフェクトされた細胞の集団を調製することが可能となった。
【図13−2】図13Cは、従来の液相トランスフェクションとSPTAとの差異を示す。
【図14−1】図14Aおよび図14Bは、液相トランスフェクションとSPTAの比較を示す結果である。図14Aは、実験に用いた5つの細胞株について、GFP強度/mm2を測定した結果を示す。図14Aは、トランスフェクション効率を、単位面積あたりの総蛍光強度として決定する方法を示す。図14Bは、図14Aの示すデータに対応する、EGFPを発現する細胞の蛍光画像である。図14Bにおいて、白丸で示された領域は、プラスミドDNAを固定化した領域を示す。プラスミドDNAを固定化した領域以外の領域では、細胞が固相に固定化されたにもかかわらず、EGFPを発現する細胞は観察されなかった。白棒は、500μmを示す。
【図14−2】図14Cは、本発明のトランスフェクション法の一例を示す。
【図14−3】図14Dは、本発明のトランスフェクション法の一例を示す。
【図15】図15は、チップのコーティングによって相互夾雑が低減された結果を示す。図15は、HEK293細胞、HeLa細胞、NIT3T3細胞(「3T3」として示す)、HepG2細胞、およびhMSCを用いて、液相トランスフェクション法およびSPTAを行った結果を示す。トランスフェクション効率を、GFP強度で示す。
【図16−1】図16は、各スポット間の相互夾雑に関する様子を示す図である。APSまたはPLL(ポリ−L−リジン)でコーティングしたチップに対して、所定の濃度のフィブロネクチンを含む核酸混合物を固定化し、その固定化したチップを用いて細胞トランスフェクションした結果、相互夾雑は観察されなかった(上段および中断)。これに対して、チップをコーティングしなかった場合、固定化核酸の有意な相互夾雑が観察された(下段)。
【図16−2】図16Cは、核酸の固定化において使用する混合物中に使用される物質の種類と、細胞接着速度との相関関係を示す。このグラフは、時間経過に伴う、接着細胞の割合の増加を示す。グラフの傾きが緩やかな場合は、グラフの傾き急な場合と比較して、より多くの時間が細胞接着に必要なことを示す。
【図16−3】図16Dは、図16C中のグラフを拡大して示したものである。
【図17】図17は、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を示す。固相基板上に表3に示す各レポーター遺伝子を一遺伝子あたり4スポットになるようプリントし、乾燥後、各転写因子に対してのsiRNA(28種類)を対応したレポーター遺伝子がプリントされている座標上にプリントし、乾燥させた。また、コントロールとして、EGFPに対するsiRNAを用い、ネガティブコントロールとしては、scrambleRNAをもちいた。その後、、LipofectAMINE2000を各遺伝子プリント同一座標にプリントし乾燥させた。その後、フィブロネクチン溶液を同一座標に重ねてプリントし乾燥させた。これに、HeLa-K細胞を播種し、2日間培養を行った後に、蛍光イメージスキャナにて画像を取得した。
【図18A】図18Aは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図18B】図18Bは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図18C】図18Cは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図18D】図18Dは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図18E】図18Eは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図19】図19は、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を示す。固相基板上に表3に示す各レポーター遺伝子発現ユニットPCR断片を一遺伝子あたり4スポットになるようプリントし、乾燥後、各転写因子に対してのsiRNA(28種類)を対応したレポーター遺伝子がプリントされている座標上にプリントし、乾燥させた。また、コントロールとして、EGFPに対するsiRNAを用い、ネガティブコントロールとしては、スクランブルRNAをもちいた。その後、、LipofectAMINE2000を各遺伝子プリント同一座標にプリントし乾燥させた。その後、フィブロネクチン溶液を同一座標に重ねてプリントし乾燥させた。これに、各細胞を播種し、2日間培養を行った後に、蛍光イメージスキャナにて画像を取得した。
【図20A】図20Aは、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図20B】図20Bは、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図20C】図20Cは、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図20D】図20Dは、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図21】図21は、実施例7において得たPCR断片の構造を示す。
【図22】図22は、pEGFP−N1の構造を示す。
【図23】図23は、環状DNAとPCR断片とを用いたトランスフェクションマイクロアレイのトランスフェクト効率の比較を示す。
【図24】図24は、テトラサイクリン依存性プロモーターを使用したときの変化の様子を示す。
【図25】図25は、テトラサイクリン依存性プロモーターおよびテトラサイクリン非依存性プロモーターを用いたときの、発現の様子を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0315】
(配列表の説明)
配列番号1:フィブロネクチンの核酸配列(ヒト)
配列番号2:フィブロネクチンのアミノ酸配列(ヒト)
配列番号3:ビトロネクチンの核酸配列(マウス)
配列番号4:ビトロネクチンのアミノ酸配列(マウス)
配列番号5:ラミニンの核酸配列(マウスα鎖)
配列番号6:ラミニンのアミノ酸配列(マウスα鎖)
配列番号7:ラミニンの核酸配列(マウスβ鎖)
配列番号8:ラミニンのアミノ酸配列(マウスβ鎖)
配列番号9:ラミニンの核酸配列(マウスγ鎖)
配列番号10:ラミニンのアミノ酸配列(マウスγ鎖)
配列番号11:フィブロネクチンのアミノ酸配列(ウシ)
配列番号12:実施例7で用いたプライマー1
配列番号13:実施例7で用いたプライマー2
配列番号14:実施例7のPCR反応できたPCR断片
配列番号15:実施例9において使用されるTet-Offの配列
配列番号16:実施例9において使用されるTet-onの配列
配列番号17:ラミニンの5アミノ酸分子(実施例1)
配列番号18:実施例9において使用されるpTRE−d2EGFPの配列
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞生物学の分野に関する。より詳細には、本発明は、細胞への物質の導入効率を上げる化合物、組成物、デバイス、方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の細胞への導入、トランスフェクション、形質転換、形質導入などの遺伝子導入技術を含む標的物質の細胞への導入は、細胞生物学、遺伝子工学、分子生物学など広い分野において広く使用されている。
【0003】
トランスフェクションは、動物細胞などの細胞において一過的に遺伝子を発現させ、その影響を観察するためなどに利用される技術であり、ポストゲノム時代を迎えた現在、そのゲノムがコードする遺伝子の機能を解明するために頻繁に利用される技術となっている。
【0004】
トランスフェクションを達成するために種々の技術が開発されており、そのために利用される薬剤が種々開発されている。そのような技術として、カチオオン性の物質であるカチオン性ポリマー、カチオン性脂質などを利用する技術があり、広く使用されている。
【0005】
しかし、従来の薬剤を使用するのみでは、トランスフェクション効率が十分ではないことが頻繁に起こっており、固相、液相を問わずに使用することができるような薬剤は未だに開発されていない。従って、そのような薬剤に対する需要は多大に存在する。また、マイクロタイタープレート、アレイなどの固相上での標的物質の導入(例えば、トランスフェクション)を効率的に行うための技術の開発に対する需要はますます高まるばかりである。
【0006】
哺乳動物においてドミナントネガティブスクリーニングを開発する際の進行を妨げるもののうちの1つは、トランスフェクト細胞またはトランスジェニック生物の作製である。この問題に取り組むための1つの手段として高効率のレトロウイルストランスフェクションが開発されている。このレトロウイルストランスフェクションは、強力であるが、ウイルス中間体にパッケージングされるDNAの作製を必要とし、適用性に限界がある。あるいは、高密度トランスフェクションアレイも開発されつつあるが、これもまた、すべての細胞に適用可能というわけではない。液相トランスフェクションについても、種々の系が開発されているものの、付着細胞では効率が悪いなど、すべての細胞に適用可能というわけではない。
【0007】
このように、当該分野において、すべての系および細胞において適用可能な、トランスフェクション系の開発が望まれている。そのようなトランスフェクション系の開発は、例えば、マイクロタイタープレート、アレイなどを用いた大規模ハイスループットアッセイにおいて、種々の細胞および実験系に適用することへの応用が期待されることから、その需要は年々高まるばかりである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来拡散あるいは疎水性相互作用によっては細胞に導入されることが難しい標的物質(例えば、DNA、ポリペプチド、糖、あるいはそれらの複合体など)を導入する(特に、トランスフェクション)際に、その導入効率をどのような状況にもとでも改善することができる方法を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を、アクチン作用物質を用いた系によって標的物質を細胞に導入する効率が飛躍的に上昇することを予想外に見いだしたことによって解決した。上記課題の解決は一部、細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど)がアクチンへ作用することを予想外に見いだしたことにも起因する。
【0010】
従って、本発明は、以下の発明を提供する。
【0011】
(1) 標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物であって、
(a)アクチン作用物質、
を含む、組成物。
【0012】
(2) 上記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、項目1に記載の組成物。
【0013】
(3) 上記アクチン作用物質は、フィブロネクチン、ラミニンおよびビトロネクチンからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質またはその改変体もしくはフラグメントを含む、項目2に記載の組成物。
【0014】
(4) 上記アクチン作用物質は、
(a−1)Fn1ドメインである配列番号11のアミノ酸21位〜アミノ酸241位を少なくとも有するタンパク質分子またはその改変体;
(a−2)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質分子またはその改変体もしくはそのフラグメント;
(b)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
を含む、組成物。
【0015】
(5) 上記Fn1ドメインは、配列番号11のアミノ酸21位〜アミノ酸577位を含む、項目1に記載の組成物。
【0016】
(6) 上記Fn1ドメインを有するタンパク質分子は、フィブロネクチンまたはその改変体もしくはフラグメントである、項目1に記載の組成物。
【0017】
(7) さらに遺伝子導入試薬を含む、項目1に記載の組成物。
【0018】
(8) 上記遺伝子導入試薬は、カチオン性高分子、カチオン性脂質およびリン酸カルシウムからなる群より選択される、項目1に記載の組成物。
【0019】
(9) さらに、粒子を含む、項目1に記載の組成物。
【0020】
(10) 上記粒子は、金コロイドを含む、項目9に記載の組成物。
【0021】
(11) さらに、塩を含む、項目1に記載の組成物。
【0022】
(12) 上記塩は、緩衝剤に含まれる塩類および培地に含まれる塩類からなる群より選択される、項目11に記載の組成物。
【0023】
(13) 遺伝子導入効率を上昇させるためのキットであって、
(a)アクチン作用物質を含む組成物;および
(b)遺伝子導入試薬、
を備える、キット。
【0024】
(14) 標的物質を細胞内へ導入するための組成物であって、
A)標的物質、
B)アクチン作用物質、
を含む、組成物。
【0025】
(15) 上記標的物質は、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体からなる群より選択される物質を含む、項目14に記載の組成物。
【0026】
(16) 上記標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む、項目14に記載の組成物。
【0027】
(17) さらに、遺伝子導入試薬を含む、項目16に記載の組成物。
【0028】
(18) 上記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、項目14に記載の組成物。
【0029】
(19) 液相として存在する、項目14に記載の組成物。
【0030】
(20) 固相として存在する、項目14に記載の組成物。
【0031】
(21) 標的物質を細胞に導入するためのデバイスであって、
A)標的物質;および
B)アクチン作用物質、
を含む、組成物が、固相支持体に固定された、デバイス。
【0032】
(22) 上記標的物質は、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体からなる群より選択される物質を含む、項目21に記載のデバイス。
【0033】
(23) 上記標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む、項目21に記載のデバイス。
【0034】
(24) 遺伝子導入試薬をさらに含む、項目23に記載のデバイス。
【0035】
(25) 上記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、項目21に記載のデバイス。
【0036】
(26) 上記固相支持体は、プレート、マイクロウェルプレート、チップ、スライドグラス、フィルム、ビーズおよび金属からなる群より選択される、項目21に記載のデバイス。
【0037】
(27) 上記固相支持体は、コーティング剤でコーティングされる、項目21に記載のデバイス。
【0038】
(28) 上記コーティング剤は、ポリ−L−リジン、シラン、MAS、疎水性フッ素樹脂および金属からなる群より選択される物質を含む、項目27に記載のデバイス。
【0039】
(29) 標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための方法であって、
A)標的物質を提供する工程;
B)アクチン作用物質を提供する工程;
C)上記標的物質および上記アクチン作用物質を上記細胞に接触させる工程、
を包含する、方法。
【0040】
(30) 上記標的物質は、DNA、RNA、ポリペプチド、糖、およびこれらの複合体からなる群より選択される物質を含む、項目29に記載の方法。
【0041】
(31) 上記標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む、項目29に記載の方法。
【0042】
(32) 遺伝子導入試薬を提供する工程をさらに包含し、上記遺伝子導入試薬は、上記細胞に接触される、項目31に記載の方法。
【0043】
(33) 上記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、項目29に記載の方法。
【0044】
(34) 上記工程は、液相中で行われる、項目29に記載の方法。
【0045】
(35) 上記工程は、固相上で行われる、項目29に記載の方法。
【0046】
(36) 標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための方法であって、
I)A)標的物質;および
B)アクチン作用物質、を含む組成物、
を固体支持体に固定する工程、
II)上記固体支持体上の上記組成物に細胞を接触させる工程、
を包含する、方法。
【0047】
(37) 上記標的物質は、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体からなる群より選択される物質を含む、項目36に記載の方法。
【0048】
(38) 上記標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む、項目36に記載の方法。
【0049】
(39) 遺伝子導入試薬を提供する工程をさらに包含し、上記遺伝子導入試薬は、上記細胞に接触される、項目38に記載の方法。
【0050】
(40) 上記遺伝子導入試薬の提供後に、上記標的物質である上記DNAと複合体を形成する工程をさらに包含し、その後、上記アクチン作用物質が提供されることにより上記組成物が提供される、項目39に記載の方法。
【0051】
(41) 上記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、項目36に記載の方法。
【0052】
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
(発明の実施の形態)
以下に本発明の好ましい形態を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など、独語の場合の「ein」、「der」、「das」、「die」などおよびその格変化形、仏語の場合の「un」、「une」、「le」、「la」など、スペイン語における「un」、「una」、「el」、「la」など、他の言語における対応する冠詞、形容詞など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0054】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0055】
(アクチン作用物質)
本明細書において「アクチン作用物質」とは、細胞内のアクチンに対して直接的または間接的に相互作用して、アクチンの形態または状態を変化させる機能を有する物質をいう。そのような物質としては、例えば、細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど)が挙げられるがそれらに限定されない。そのようなアクチン作用物質には、以下のようなアッセイによって同定される物質が含まれる。本明細書において、アクチンへの相互作用の評価は、アクチン染色試薬(Molecular Probes, Texas Red−X phalloidin)などによりアクチンを可視化した後、顕鏡し、アクチン凝集や細胞伸展を観察することによってアクチンの凝集、再構成および/または細胞伸展速度の向上という現象が確認されることによって判定される。これらの判定は、定量的または定性的に行われ得る。本発明において用いられるアクチン作用物質が生体に由来する場合、その由来は何でもよく、例えば、ヒト、マウス、ウシなどの哺乳動物種があげられる。
【0056】
本明細書において「細胞外マトリクスタンパク質」とは「細胞外マトリクス」のうちタンパク質であるものをいう。本明細書において「細胞外マトリクス」(ECM)とは「細胞外基質」とも呼ばれ、当該分野において通常用いられる意味と同様の意味で用いられ、上皮細胞、非上皮細胞を問わず体細胞(somatic cell)の間に存在する物質をいう。細胞外マトリクスは、組織の支持だけでなく、すべての体細胞の生存に必要な内部環境の構成に関与する。細胞外マトリクスは一般に、結合組織細胞から産生されるが、一部は上皮細胞または内皮細胞のような基底膜を保有する細胞自身からも分泌される。細胞外マトリクスは一般に、線維成分とその間を満たす基質とに大別され、線維成分としては膠原線維および弾性線維がある。基質の基本構成成分はグリコサミノグリカン(酸性ムコ多糖)であり、その大部分は非コラーゲン性タンパクと結合してプロテオグリカン(酸性ムコ多糖−タンパク複合体)の高分子を形成する。このほかに、基底膜のラミニン、弾性線維周囲のミクロフィブリル(microfibril)線維、細胞表面のフィブロネクチンなどの糖タンパクも基質に含まれる。特殊に分化した組織でも基本構造は同一で、例えば硝子軟骨では軟骨芽細胞によって特徴的に大量のプロテオグリカンを含む軟骨基質が産生され、骨では骨芽細胞によって石灰沈着が起こる骨基質が産生される。従って、本発明において用いられる細胞外マトリクスとしては、例えば、コラーゲン、エラスチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、弾性繊維、膠原繊維などが挙げられるがそれに限定されない。本発明において用いられる場合、細胞外マトリクスタンパク質としては、例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0057】
本発明おいて使用される細胞外マトリクスタンパク質としては、例えば、フィブロネクチンおよびその改変体(例えば、プロネクチンF、プロネクチンL、プロネクチンPlusなど)、ラミニン、ビトロネクチンからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質またはその改変体もしくはフラグメントが挙げられるがそれらに限定されない。そのようなフラグメントは、ある一定の分子量を有する(例えば、少なくとも10kDa)ことが好ましい。そのようなフラグメントは、そのような好ましい分子量を有していれば、細胞外マトリクスタンパク質のわずか3アミノ酸(例えば、RGD配列)、好ましくは少なくとも5アミノ酸(IKVAV)を有していれば、アクチンへの相互作用が保持される限り、その他の配列を任意に変更したものであっても使用することができる。
【0058】
本明細書において「Fn1ドメイン」とは、通常、フィブロネクチンのアミノ酸配列のN末端から約29kDaまでの部分の配列(例えば、配列番号11のアミノ酸21位〜241)をいう。別の実施形態では、このドメインは、フィブロネクチンのアミノ酸配列のN末端から約72kDa間での部分の配列(例えば、配列番号11のアミノ酸21位〜577位)を含み得る。本発明において有用なアクチン作用物質の一例としては、このようなFn1ドメインを含むポリペプチドまたはその改変体が挙げられるがそれらに限定されない。
【0059】
本明細書において「フィブロネクチン」は、当該分野において使用される意味と同じ意味で用いられ、従来接着因子の一つとして分類されるタンパク質であり、細胞接着機能に注目されて研究が進められている。
【0060】
本明細書では、フィブロネクチンをコードする遺伝子は、
(a)配列番号1に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、を含む。ここで、生物学的活性としては、細胞接着活性、ヘパリン結合活性、コラーゲン結合活性、および本発明によって初めて発見されたアクチン作用活性があるがそれらに限定されない。好ましくは、そのような生物学的活性は、アクチン作用活性である。
【0061】
本明細書において「フィブロネクチン」または「フィブロネクチンポリペプチド」は、
(a)少なくとも配列番号2または11に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質分子またはその改変体;
(b)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、を含む。
【0062】
本明細書において「ビトロネクチン」は、当該分野において使用される意味と同じ意味で用いられ、従来接着因子の一つとして分類されるタンパク質であり、細胞接着機能に注目されて研究が進められている。
【0063】
本明細書では、ビトロネクチンをコードする遺伝子は、
(a)配列番号3に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号3に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、を含む。ここで、生物学的活性としては、細胞接着活性、ヘパリン結合活性、コラーゲン結合活性、補体活性化活性および本発明によって初めて発見されたアクチン作用活性があるがそれらに限定されない。好ましくは、そのような生物学的活性は、アクチン作用活性である。
【0064】
本明細書において「ビトロネクチン」または「ビトロネクチンポリペプチド」は、
(a)少なくとも配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質分子またはその改変体;
(b)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号3に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、を含む。
【0065】
本明細書において「ラミニン」は、当該分野において使用される意味と同じ意味で用いられ、従来接着因子の一つとして分類されるタンパク質であり、細胞接着機能に注目されて研究が進められている。
【0066】
本明細書では、ラミニンをコードする遺伝子は、
(a)配列番号5、7および9に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号5、7および9に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、を含む。ここで、生物学的活性としては、細胞接着活性、ヘパリン結合活性、コラーゲン結合活性、補体活性化活性および本発明によって初めて発見されたアクチン作用活性があるがそれらに限定されない。好ましくは、そのような生物学的活性は、アクチン作用活性である。
【0067】
本明細書において「ラミニン」または「ラミニンポリペプチド」は、
(a)少なくとも配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質分子またはその改変体;
(b)配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号5、7および9に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号6、8および10に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、を含む。
【0068】
本明細書において「細胞接着分子」(Cell adhesion molecule)または「接着分子」とは、互換可能に使用され、2つ以上の細胞の互いの接近(細胞接着)または基質と細胞との間の接着を媒介する分子をいう。一般には、細胞と細胞の接着(細胞間接着)に関する分子(cell−cell adhesion molecule)と,細胞と細胞外マトリックスとの接着(細胞−基質接着)に関与する分子(cell−substrate adhesion molecule)に分けられる。本発明の組織片では、いずれの分子も有用であり、有効に使用することができる。従って、本明細書において細胞接着分子は、細胞−基質接着の際の基質側のタンパク質を包含するが、本明細書では、細胞側のタンパク質(例えば、インテグリンなど)も包含され、タンパク質以外の分子であっても、細胞接着を媒介する限り、本明細書における細胞接着分子または細胞接着分子の概念に入る。
【0069】
細胞間接着に関しては、カドヘリン、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する多くの分子(NCAM、L1、ICAM、ファシクリンII、IIIなど)、セレクチンなどが知られており、それぞれ独特な分子反応により細胞膜を結合させることも知られている。
【0070】
他方、細胞−基質接着のために働く主要な細胞接着分子はインテグリンで,細胞外マトリックスに含まれる種々のタンパク質を認識し結合する。これらの細胞接着分子はすべて細胞膜表面にあり,一種のレセプター(細胞接着受容体)とみなすこともできる。従って、細胞膜にあるこのようなレセプターもまた本発明の組織片において使用することができる。そのようなレセプターとしては、例えば、αインテグリン、βインテグリン、CD44,シンデカンおよびアグリカンなどが挙げられるがそれに限定されない。細胞接着に関する技術は、上述のもののほかの知見も周知であり、例えば、細胞外マトリックス −臨床への応用− メディカルレビュー社に記載されている。
【0071】
ある分子が細胞接着分子であるかどうかは、生化学的定量(SDS−PAG法、標識コラーゲン法)、免疫学的定量(酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫組織学的検討)PDR法、ハイブリダイゼイション法などのようなアッセイにおいて陽性となることを決定することにより判定することができる。このような細胞接着分子としては、コラーゲン、インテグリン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、フィブリノゲン、免疫グロブリンスーパーファミリー(例えば、CD2、CD4、CD8、ICM1、ICAM2、VCAM1)、セレクチン、カドヘリンなどが挙げられるがそれに限定されない。このような細胞接着分子の多くは、細胞への接着と同時に細胞間相互作用による細胞活性化の補助シグナルを細胞内に伝達する。そのような補助シグナルを細胞内に伝達することができるかどうかは、生化学的定量(SDS−PAG法、標識コラーゲン法)、免疫学的定量(酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫組織学的検討)PDR法、ハイブリダイゼイション法というアッセイにおいて陽性となることを決定することにより判定することができる。
【0072】
細胞接着分子としては、例えば、カドヘリン、免疫グロブリンスーパーファミリー分子(CD 2、LFA−3、ICAM−1、CD2、CD4、CD8、ICM1、ICAM2、VCAM1など);インテグリンファミリー分子(LFA−1、Mac−1、gpIIbIIIa、p150、95、VLA1、VLA2、VLA3、VLA4、VLA5、VLA6など);セレクチンファミリー分子(L−セレクチン,E−セレクチン,P−セレクチンなど)などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明が開示される前は、このような物質がトランスフェクション効率を上昇させることは知られていなかった。
【0073】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0074】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0075】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0076】
本明細書において使用される用語「生体分子」とは、生体に関連する分子をいう。本明細書において「生体」とは、生物学的な有機体をいい、動物、植物、菌類、ウイルスなどを含むがそれらに限定されない。従って、本明細書では生体分子は、生体から抽出される分子を包含するが、それに限定されず、生体に影響を与え得る分子であれば生体分子の定義に入る。したがって、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(たとえば、低分子リガンドなど)もまた生体への効果が意図され得るかぎり、生体分子の定義に入る。そのような生体分子には、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカライド、オリゴサッカライド、脂質、低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子など)、これらの複合分子(糖脂質、糖タンパク質、リポタンパク質など)などが包含されるがそれらに限定されない。生体分子にはまた、細胞への導入が企図される限り、細胞自体、組織の一部も包含され得る。好ましくは、生体分子は、核酸(DNAまたはRNA)またはタンパク質を含む。別の好ましい実施形態では、生体分子は、核酸(例えば、ゲノムDNAまたはcDNA、あるいはPCRなどによって合成されたDNA)である。他の好ましい実施形態では、生体分子はタンパク質であり得る。
【0077】
本明細書において使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。フィブロネクチンのような細胞外マトリクスタンパク質の遺伝子産物は、通常ポリペプチド形態をとる。
【0078】
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」を含む。「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。フィブロネクチンのような細胞外マトリクスタンパク質などの遺伝子は、通常、このポリヌクレオチド形態をとる。また、トランスフェクションの対象となる分子もこのポリヌクレオチドである。
【0079】
用語「核酸分子」もまた、本明細書において、核酸、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用され、cDNA、mRNA、ゲノムDNAなどを含む。本明細書では、核酸および核酸分子は、用語「遺伝子」の概念に含まれ得る。ある遺伝子配列をコードする核酸分子はまた、「スプライス変異体(改変体)」を包含する。同様に、核酸によりコードされた特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を包含する。その名が示唆するように「スプライス変異体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされ得る。スプライス変異体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。したがって、本明細書では、たとえば、アクチン作用物質として有用な細胞外マトリクスタンパク質には、そのスプライス変異体もまた包含され得る。
【0080】
本明細書において、「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定するものを構造遺伝子といい、その発現を左右するものを調節遺伝子(たとえば、プロモーター)という。本明細書では、遺伝子は、特に言及しない限り、構造遺伝子および調節遺伝子を包含する。したがって、フィブロネクチン遺伝子というときは、通常、フィブロネクチンの構造遺伝子およびフィブロネクチンのプロモーターの両方を包含する。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を指すことがある。本明細書においてはまた、「遺伝子産物」は、遺伝子によって発現された「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を包含する。当業者であれば、遺伝子産物が何たるかはその状況に応じて理解することができる。
【0081】
本明細書において配列(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。本明細書において、配列(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「類似性」とは、上記相同性において、保存的置換をポジティブ(同一)とみなした場合の、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、保存的置換がある場合は、その保存的置換の存在に応じて同一性と類似性とは異なる。また、保存的置換がない場合は、同一性と類似性とは同じ数値を示す。
【0082】
本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるFASTAにおいてデフォルトパラメータを用いて算出される。
【0083】
本明細書において、「アミノ酸」は、本発明の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体アミノ酸」または「アミノ酸アナログ」とは、天然に存在するアミノ酸とは異なるがもとのアミノ酸と同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体アミノ酸およびアミノ酸アナログは、当該分野において周知である。用語「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体であるが、D体のアミノ酸を用いた形態もまた本発明の範囲内にある。用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。
【0084】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。
【0085】
本明細書において、「対応する」アミノ酸とは、あるタンパク質分子またはポリペプチド分子において、比較の基準となるタンパク質またはポリペプチドにおける所定のアミノ酸と同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸をいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。例えば、本発明において使用されるFn1ドメインであれば、そのドメインを含む分子(フィブロネクチン)に対応するオルソログにおける同様の部分(ドメイン)であり得る。
【0086】
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体ヌクレオチド」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
【0087】
本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または加減としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。本発明では、フラグメントは、ある一定の大きさ(例えば、5kDa)以上の大きさを有することが好ましい。理論に束縛されないが、アクチン作用物質として機能するためにはある程度の大きさが必要であるようであるからである。
【0088】
本明細書において、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、本発明で具体的に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0089】
本明細書において「塩」は、当該分野において通常用いられる意味と同じ意味で用いられ、無機塩および有機塩の両方を含む。塩は、通常、酸と塩基との中和反応によって生成する。塩には中和反応で生成するNaCl、K2SO4などといったもののほかに、金属と酸との反応で生成するPbSO4、ZnCl2など種々の種類があり、これらは、直接中和反応によって生成したものでなくても、酸と塩基との中和反応から生成したとみなすことができる。塩としては、正塩(酸のHや塩基のOHが塩に含まれていないもの、例えば、NaCl、NH4Cl、CH3COONa、Na2CO3)、酸性塩(酸のHが塩に残っているもの、例えば、NaHCO3、KHSO4、CaHPO4)、塩基性塩(塩基のOHが塩の中に残っているもの、例えば、MgCl(OH)、CuCl(OH))などに分類することができるがそれらの分類は、本発明においてはそれほど重要ではない。好ましい塩としては、培地を構成する塩(例えば、塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、HEPES、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫化マグネシウム、硝酸鉄、アミノ酸、ビタミン、緩衝液を構成する塩(例えば、塩化カルウム、塩化マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム)などが好ましい。細胞に対する親和性を保持または改善する効果がより高いからである。これらの塩は、単独で用いてもよいし、複数用いてもよい。複数用いることが好ましい。細胞に対する親和性が高くなる傾向があるからである。従って、NaClなどを単独で用いるよりも、培地中に含まれる塩(例えば、塩化カルウム、塩化マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム)を複数を用いることが好ましく、より好ましくは、培地中に含まれる塩全部をそのまま使用することが有利であり得る。別の好ましい実施形態では、グルコースを加えてもよい。
【0090】
本明細書において、「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444−2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよび in situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、Fn1には、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応遺伝子も含まれるべきであることが意図される。
【0091】
本明細書において物質の細胞への「導入」とは、その物質が、細胞膜の内部へ進入することをいう。内部に導入されたかどうかは、例えば、その物質そのものを標識(例えば、蛍光標識、化学発光標識、燐光、放射能などを利用する)しその標識を検出することによるか、あるいは、その物質に起因する細胞内の変化(例えば、遺伝子発現、シグナル伝達、細胞内レセプターへの結合による事象、代謝変化など)を物理学的(例えば、目視)、化学的(分泌物の測定)、生化学的、生物学的に測定することによって判定することができる。従って、そのような「導入」には、単なるタンパク質などの物質の細胞内への移入の他、通常遺伝子操作とも呼ばれる、トランスフェクション、形質転換、形質導入などの操作も包含される。
【0092】
本明細書において「標的物質」とは、細胞内への導入が企図される物質をいう。本発明が企図する標的物質は、通常の条件下では、細胞内に導入されない物質をいう。従って、拡散または疎水性相互作用によって通常の条件下で細胞に導入されることができるような物質は、本発明の重要な局面では対象外となる。通常の条件下で細胞内に導入されない標的物質としては、例えば、タンパク質(ポリペプチド)、RNA、DNA、糖(特に多糖)、およびそれらの複合分子(例えば、糖タンパク質、PNAなど)、ウィルスベクター、他の化合物が挙げられるがそれらに限定されない。
【0093】
本明細書において「デバイス」とは、装置の一部または全部を構成することができる部分をいい、支持体(好ましくは固相支持体)およびその支持体に担持されるべき標的物質などから構成される。そのようなデバイスとしては、チップ、アレイ、マイクロタイタープレート、細胞培養プレート、シャーレ、フィルム、ビーズなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0094】
本明細書において使用される「支持体」は、生体分子のような物質を固定することができる材料(material)をいう。支持体の材料としては、共有結合かまたは非共有結合のいずれかで、本発明において使用される生体分子のような物質に結合する特性を有するかまたはそのような特性を有するように誘導体化され得る、任意の固体材料が挙げられる。
【0095】
支持体として使用するためのそのような材料としては、固体表面を形成し得る任意の材料が使用され得るが、例えば、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属(合金も含まれる)、天然および合成のポリマー(例えば、ポリスチレン、セルロース、キトサン、デキストラン、およびナイロン)などが挙げられるがそれらに限定されない。支持体は、複数の異なる材料の層から形成されていてもよい。例えば、ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、フォルステライト、酸化珪素、炭化珪素、窒化珪素などの無機絶縁材料を使用することができる。ポリエチレン、エチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、シリコーン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホンなどの有機材料を用いることができる。本発明においてはまた、ニトロセルロース膜、ナイロン膜、PVDF膜など、ブロッティングに使用される膜を用いることもできる。支持体を構成する材料が固相である場合、本明細書において特に「固相支持体」という。本明細書において、プレート、マイクロウェルプレート、チップ、スライドグラス、フィルム、ビーズ、金属(表面)などの形態をとり得る。支持体はコーティングされていてもよく、コーティングされていなくてもよい。
【0096】
本明細書において「液相」とは、当該分野において通常用いられる意味と同じ意味で用いられ、通常、溶液中での状態をいう。
【0097】
本明細書において「固相」とは、当該分野において用いられる意味と同じ意味で用いられ、通常、固体の状態をいう。本明細書において液体および固体を総合して流体ということがある。
【0098】
本明細書において「接触」とは、2つの物質(例えば、組成物および細胞)が互いに相互作用するに十分に至近距離に存在することをいう。
【0099】
本明細書において「相互作用」とは、2つの物体について言及するとき、その2つの物体が相互に力を及ぼしあうことをいう。そのような相互作用としては、例えば、共有結合、水素結合、ファンデルワールス力、イオン性相互作用、非イオン性相互作用、疎水性相互作用、静電的相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、相互作用は、水素結合、疎水性相互作用などの生体内で生じる通常の相互作用であり得る。
【0100】
(遺伝子の改変)
本発明において使用されるアクチン作用物質は遺伝子産物の形態をとることが多いが、そのような遺伝子産物は、上述のようにその改変体であってもよいことが理解される。従って、本発明は、以下のような遺伝子改変の技術で生産された物質も使用することができる。
【0101】
あるタンパク質分子において、配列に含まれるあるアミノ酸は、相互作用結合能力の明らかな低下または消失なしに、例えば、カチオン性領域または基質分子の結合部位のようなタンパク質構造において他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的機能を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がアミノ酸配列において、またはそのDNAコード配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的有用性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたペプチドまたはこのペプチドをコードする対応するDNAにおいて行われ得る。
【0102】
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
【0103】
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。
【0104】
親水性指数もまた、改変を行う際に考慮され得る。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0105】
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例としては、例えば、親水性指数または疎水性指数が、±2以内のもの同士、好ましくは±1以内のもの同士、より好ましくは±0.5以内のもの同士のものが挙げられるがそれらに限定されない。従って、保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0106】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。そのような対立遺伝子変異体は、通常その対応する対立遺伝子と同一または非常に類似性の高い配列を有し、通常はほぼ同一の生物学的活性を有するが、まれに異なる生物学的活性を有することもある。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトおよびマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子およびβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用である。オルソログは、通常別の種においてもとの種と同様の機能を果たしていることがあり得ることから、本発明のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
【0107】
「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての核酸配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント変異を記載する。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。このような塩基配列の改変法としては、制限酵素などによる切断、DNAポリメラーゼ、Klenowフラグメント、DNAリガーゼなどによる処理等による連結等の処理、合成オリゴヌクレオチドなどを用いた部位特異的塩基置換法(特定部位指向突然変異法;Mark Zoller and Michael Smith,Methods in Enzymology,100,468−500(1983))が挙げられるが、この他にも通常分子生物学の分野で用いられる方法によって改変を行うこともできる。
【0108】
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドを作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
【0109】
本明細書において使用される用語「ペプチドアナログ」または「ペプチド誘導体」とは、ペプチドとは異なる化合物であるが、ペプチドと少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ペプチドアナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のアミノ酸アナログまたはアミノ酸誘導体が付加または置換されているものが含まれる。ペプチドアナログは、その機能が、もとのペプチドの機能(例えば、pKa値が類似していること、官能基が類似していること、他の分子との結合様式が類似していること、水溶性が類似していることなど)と実質的に同様であるように、このような付加または置換がされている。そのようなペプチドアナログは、当該分野において周知の技術を用いて作製することができる。したがって、ペプチドアナログは、アミノ酸アナログを含むポリマーであり得る。
【0110】
同様に、「ポリヌクレオチドアナログ」、「核酸アナログ」は、ポリヌクレオチドまたは核酸とは異なる化合物であるが、ポリヌクレオチドまたは核酸と少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ポリヌクレオチドアナログまたは核酸アナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のヌクレオチドアナログまたはヌクレオチド誘導体が付加または置換されているものが含まれる。
【0111】
本明細書において使用される核酸分子は、発現されるポリペプチドが天然型のポリペプチドと実質的に同一の活性を有する限り、上述のようにその核酸の配列の一部が欠失または他の塩基により置換されていてもよく、あるいは他の核酸配列が一部挿入されていてもよい。あるいは、5’末端および/または3’末端に他の核酸が結合していてもよい。また、ポリペプチドをコードする遺伝子をストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、そのポリペプチドと実質的に同一の機能を有するポリペプチドをコードする核酸分子でもよい。このような遺伝子は、当該分野において公知であり、本発明において利用することができる。
【0112】
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変位誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
【0113】
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、ホルモン、サイトカインの情報伝達機能など)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
【0114】
(相互作用因子)
本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対して「特異的に相互作用する因子」とは、そのポリヌクレオチドまたはそのポリペプチドに対する親和性が、他の無関連の(特に、同一性が30%未満の)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対する親和性よりも、代表的には同等またはより高いか、好ましくは有意に高いものをいう。そのような親和性は、例えば、ハイブリダイゼーションアッセイ、結合アッセイなどによって測定することができる。
【0115】
本明細書において「因子」としては、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、エネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0116】
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
【0117】
本明細書において「精製された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0118】
本明細書中で使用される用語「精製された」および「単離された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。
【0119】
(遺伝子操作)
本明細書において遺伝子操作について言及する場合、「ベクター」または「組み換えベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物個体および植物個体などの宿主細胞において自立複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。ベクターのうち、クローニングに適したベクターを「クローニングベクター」という。そのようなクローニングベクターは通常、制限酵素部位を複数含むマルチプルクローニング部位を含む。そのような制限酵素部位およびマルチプルクローニング部位は、当該分野において周知であり、当業者は、目的に合わせて適宜選択して使用することができる。そのような技術は、本明細書に記載される文献(例えば、Sambrookら、前出)に記載されている。
【0120】
本明細書において「発現ベクター」とは、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、動物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0121】
原核細胞に対する組換えベクターとしては、pcDNA3(+)、pBluescript−SK(+/−)、pGEM−T、pEF−BOS、pEGFP、pHAT、pUC18、pFT−DESTTM42GATEWAY(Invitrogen)などが例示される。
【0122】
動物細胞に対する組換えベクターとしては、pcDNAI/Amp、pcDNAI、pCDM8(いずれもフナコシより市販)、pAGE107[特開平3−229(Invitrogen)、pAGE103[J.Biochem.,101,1307(1987)]、pAMo、pAMoA[J.Biol.Chem.,268,22782−22787(1993)]、マウス幹細胞ウイルス(Murine Stem Cell Virus)(MSCV)に基づいたレトロウイルス型発現ベクター、pEF−BOS、pEGFPなどが例示される。
【0123】
植物細胞に対する組換えベクターとしては、pPCVICEn4HPT、pCGN1548、pCGN1549、pBI221、pBI121などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0124】
本明細書において「ターミネーター」とは、通常遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列をいう。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。
【0125】
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、通常RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。したがって、本明細書においてある遺伝子のプロモーターの働きを有する部分を「プロモーター部分」という。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモータ領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。
【0126】
本明細書において「エンハンサー」とは、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられる配列をいう。そのようなエンハンサーは当該分野において周知である。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
【0127】
本明細書において「サイレンサー」とは、遺伝子発現を抑制し静止する機能を有する配列をいう。本発明では、サイレンサーとしてはその機能を有する限り、どのようなものを用いてもよく、サイレンサーを用いなくてもよい。
【0128】
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、サイレンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0129】
本明細書において、核酸分子を細胞に導入する技術は、どのような技術でもよく、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。 そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.およびその第三版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
【0130】
また、ベクターの導入方法としては、細胞にDNAを導入する上述のような方法であればいずれも用いることができ、例えば、トランスフェクション、形質導入、形質転換など(例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法など)、リポフェクション法、スフェロプラスト法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,1929(1978)]、酢酸リチウム法[J.Bacteriol.,153,163(1983)]、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)記載の方法が挙げられる。
【0131】
本明細書において「遺伝子導入試薬」とは、遺伝子導入方法において、導入効率を促進するために用いられる試薬をいう。そのような遺伝子導入試薬としては、例えば、カチオン性高分子、カチオン性脂質、ポリアミン系試薬、ポリイミン系試薬、リン酸カルシウムなどが挙げられるがそれらに限定されない。トランスフェクションの際に利用される試薬の具体例としては、種々なソースから市販されている試薬が挙げられ、例えば、Effectene Transfection Reagent(cat.no.301425,Qiagen,CA),TransFastTM Transfection Reagent(E2431,Promega,WI),TfxTM-20 Reagent(E2391,Promega,WI),SuperFect Transfection Reagent(301305,Qiagen,CA),PolyFect Transfection Reagent(301105,Qiagen,CA),LipofectAMINE 2000 Reagent(11668-019,Invitrogen corporation,CA),JetPEI(×4)conc.(101-30,Polyplus-transfection,France)およびExGen 500(R0511,Fermentas Inc.,MD)などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0132】
本明細書「指示書」とは、本発明の標的物質導入方法などを、ユーザー(研究者、実験補助者、または治療においては医師、患者など投与を行う人など)に対して記載したものである。この指示書は、本発明の組成物などを例えば、使用する方法を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、医薬の場合通常いわゆる添付文書(package insert)の形態をとり、または実験用試薬の形態の場合マニュアルの形態をとり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0133】
「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部(組織など)をいう。形質転換体としては、原核生物、酵母、動物、植物、昆虫などの細胞などの生命体の全部または一部(組織など)が例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれる。本発明において用いられる細胞は、形質転換体であってもよい。
【0134】
本発明において遺伝子操作などにおいて原核生物細胞が使用される場合、原核生物細胞としては、Escherichia属、Serratia属、Bacillus属、Brevibacterium属、Corynebacterium属、Microbacterium属、Pseudomonas属などに属する原核生物細胞、例えば、Escherichia coli XL1−Blue、Escherichia coli XL2−Blue、Escherichia coli DH1が例示される。あるいは、本発明では、天然物から分離した細胞も使用することができる。
【0135】
本明細書において遺伝子操作などにおいて使用され得る動物細胞としては、マウス・ミエローマ細胞、ラット・ミエローマ細胞、マウス・ハイブリドーマ細胞、チャイニーズ・ハムスターの細胞であるCHO細胞、BHK細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞、ヒト白血病細胞、HBT5637(特開昭63−299)、ヒト結腸癌細胞株などを挙げることができる。マウス・ミエローマ細胞としては、ps20、NSOなど、ラット・ミエローマ細胞としてはYB2/0など、ヒト胎児腎臓細胞としてはHEK293(ATCC:CRL−1573)など、ヒト白血病細胞としてはBALL−1など、アフリカミドリザル腎臓細胞としてはCOS−1、COS−7、ヒト結腸癌細胞株としてはHCT−15、ヒト神経芽細胞腫SK−N−SH、SK−N−SH−5Y、マウス神経芽細胞腫Neuro2Aなどが例示される。あるいは、本発明では、初代培養細胞も使用することができる。
【0136】
本明細書において遺伝子操作などにおいて使用され得る植物細胞としては、カルスまたはその一部および懸濁培養細胞、ナス科、イネ科、アブラナ科、バラ科、マメ科、ウリ科、シソ科、ユリ科、アカザ科、セリ科などの植物の細胞が挙げられるがそれらに限定されない。
【0137】
本明細書において遺伝子発現(たとえば、mRNA発現、ポリペプチド発現)の「検出」または「定量」は、例えば、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。アレイ(例えば、DNAアレイ、プロテインアレイ)を用いた遺伝子解析方法によっても行われ得る。DNAアレイについては、(秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」)に広く概説されている。プロテインアレイについては、Nat Genet.2002 Dec;32 Suppl:526−32に詳述されている。遺伝子発現の分析法としては、上述に加えて、RT−PCR、RACE法、SSCP法、免疫沈降法、two−hybridシステム、インビトロ翻訳などが挙げられるがそれらに限定されない。そのようなさらなる分析方法は、例えば、ゲノム解析実験法・中村祐輔ラボ・マニュアル、編集・中村祐輔 羊土社(2002)などに記載されており、本明細書においてそれらの記載はすべて参考として援用される。
【0138】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなど遺伝子産物の「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一形態であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
【0139】
「発現量」とは、目的の細胞などにおいて、ポリペプチドまたはmRNAが発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。
【0140】
従って、本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」または「発現量」の「減少」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に減少することをいう。好ましくは、発現の減少は、ポリペプチドの発現量の減少を含む。本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」または「発現量」の「増加」とは、細胞内に遺伝子発現に関連する因子(例えば、発現されるべき遺伝子またはそれを調節する因子)を導入したときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に増加することをいう。好ましくは、発現の増加は、ポリペプチドの発現量の増加を含む。本明細書において遺伝子の「発現」の「誘導」とは、ある細胞にある因子を作用させてその遺伝子の発現量を増加させることをいう。したがって、発現の誘導は、まったくその遺伝子の発現が見られなかった場合にその遺伝子が発現するようにすること、およびすでにその遺伝子の発現が見られていた場合にその遺伝子の発現が増大することを包含する。
【0141】
本明細書において、遺伝子が「特異的に発現する」とは、その遺伝子が、植物の特定の部位または時期において他の部位または時期とは異なる(好ましくは高い)レベルで発現されることをいう。特異的に発現するとは、ある部位(特異的部位)にのみ発現してもよく、それ以外の部位においても発現していてもよい。好ましくは特異的に発現するとは、ある部位においてのみ発現することをいう。
【0142】
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリペプチドまたはタンパク質)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、転写促進活性)を発揮する活性が包含される。例えば、アクチン作用物質がアクチンと相互作用する場合、その生物学的活性は、アクチンの形態変化(例えば、細胞伸展速度の上昇など)または他の生物学的変化(例えば、アクチンフラメントの再構成など)などを包含する。このような生物学的活性は、アクチン染色試薬(Molecular Probes、Texas Red‐X phalloidin)などによりアクチンを可視化した後、顕鏡し、アクチン凝集や細胞伸展を観察すること)によって測定することができる。別の好ましい実施形態では、そのような生物学的活性は、細胞接着活性、ヘパリン結合活性、コラーゲン結合活性などであり得る。細胞接着活性は、細胞播種後に細胞の固相への接着速度を測定し、接着活性として取り扱うことによって測定することができる。ヘパリン結合活性は、ヘパリン固定化カラム等のアフィニティークロマトグラフィーを行い、これに結合するものとして確認できるものによって測定することができる。コラーゲン結合活性は、コラーゲン固定化カラム等のアフィニティークロマトグラフィーを行い、これに結合するものとして確認できるものによって測定することができる。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる(Molecular Cloning、Current Protocols(本明細書において引用)などを参照)。
【0143】
本明細書において「粒子」とは、一定の硬度を有し、一定の大きさ以上の大きさを有する物質をいい、本発明では、金属などによって構成されるものをいう。本発明において使用される粒子としては、例えば、金コロイド、銀コロイド、ラテックスコロイドなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0144】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、試薬、粒子など)が提供されるユニットをいう。混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、試薬、粒子など)をどのように処理すべきかを記載する説明書を備えていることが有利である。
【0145】
(ポリペプチドの製造方法)
本発明において使用されるポリペプチドは、そのポリペプチドをコードするDNAを組み込んだ組換え体ベクターを保有する微生物、動物細胞などに由来する形質転換体を、通常の培養方法に従って培養し、このポリペプチドを生成蓄積させ、その培養物よりその本発明のポリペプチドを採取することにより、製造することができる。
【0146】
形質転換体を培地に培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。大腸菌等の原核生物あるいは酵母等の真核生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、本発明の生物が資化し得る炭素源(例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、これらを含有する糖蜜、デンプンあるいはデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類など)、窒素源(例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の各種無機酸または有機酸のアンモニウム塩、その他含窒素物質、ならびに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕および大豆粕加水分解物、各種発酵菌体およびその消化物等など)、無機塩類(例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等など)等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地(例えば、RPMI1640培地[The Journal of the American Medical Association,199,519(1967)]、EagleのMEM培地[Science,122,501(1952)]、DMEM培地[Virology,8,396(1959)]、199培地[Proceedings of the Society for the Biological Medicine,73,1(1950)]またはこれら培地にウシ胎児血清等を添加した培地等)のいずれを用いてもよい。培養は、振盪培養または深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことが好ましいがそれに限定されない。培養温度は15〜40℃がよく、培養時間は、通常5時間〜7日間である。培養中pHは、3.0〜9.0に保持する。pHの調整は、無機あるいは有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行う。また培養中必要に応じて、アンピシリンまたはテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0147】
本発明において使用されるポリペプチドをコードする核酸配列で形質転換された形質転換体の培養物から、そのポリペプチドを単離または精製するためには、当該分野で周知慣用の通常のポリペプチド(例えば、酵素)の単離または精製法を用いることができる。例えば、本発明のポリペプチドが本発明のポリペプチド製造用形質転換体の細胞外に本発明のポリペプチドが分泌される場合には、その培養物を遠心分離等の手法により処理し、可溶性画分を取得する。その可溶性画分から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−Sepharose(Pharmacia)、DIAION HPA−75(三菱化成)等樹脂を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia)等の樹脂を用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、Butyl−Sepharose、Phenyl−Sepharose等の樹脂を用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用い、精製標品を得ることができる。
【0148】
本発明において使用されるポリペプチドが形質転換体の細胞内に溶解状態で蓄積する場合には、培養物を遠心分離することにより、培養物中の細胞を集め、その細胞を洗浄した後に、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモジナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。その無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−Sepharose、DIAION HPA−75等樹脂を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF等の樹脂を用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、Butyl−Sepharose、Phenyl−Sepharose等の樹脂を用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用いることによって、精製標品を得ることができる。
【0149】
本発明において使用されるポリペプチドが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより得られた沈澱画分より、通常の方法により本発明のポリペプチドを回収後、そのポリペプチドの不溶体をポリペプチド変性剤で可溶化する。この可溶化液を、ポリペプチド変性剤を含まないあるいはポリペプチド変性剤の濃度がポリペプチドが変性しない程度に希薄な溶液に希釈、あるいは透析し、本発明のポリペプチドを正常な立体構造に構成させた後、上記と同様の単離精製法により精製標品を得ることができる。
【0150】
また、通常のタンパク質の精製方法[例えば、J.Evan.Sadlerら:Methods in Enzymology,83,458]に準じて精製できる。また、本発明において使用されるポリペプチドが他のタンパク質との融合タンパク質として生産しても使用され得る場合、融合したタンパク質に親和性をもつ物質を用いたアフィニティークロマトグラフィーを利用して精製することもできる[山川彰夫,実験医学(Experimental Medicine),13,469−474(1995)]。あるいは、Loweらの方法[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227−8231(1989)、GenesDevelop.,4,1288(1990)]に記載の方法に準じて、そのようなポリペプチドをプロテインAとの融合タンパク質として生産し、イムノグロブリンGを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。また、本発明において使用されるポリペプチドをFLAGペプチドとの融合タンパク質として生産し、抗FLAG抗体を用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990)]。
【0151】
さらに、本発明のポリペプチド自身に対する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製することもできる。本発明のポリペプチドは、公知の方法[J.Biomolecular NMR,6,129−134、Science,242,1162−1164、J.Biochem.,110,166−168(1991)]に準じて、in vitro転写・翻訳系を用いてを生産することができる。
【0152】
上記で取得されたポリペプチドのアミノ酸情報を基に、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても本発明のポリペプチドを製造することができる。また、Advanced ChemTech、Applied Biosystems、Pharmacia Biotech、Protein Technology Instrument、Synthecell−Vega、PerSeptive、島津製作所等のペプチド合成機を利用し化学合成することもできる。
【0153】
(基板/プレート/チップ/アレイ)
本明細書において使用される「プレート」とは、抗体のような分子が固定され得る平面状の支持体をいう。本発明では、プレートは、プラスチック、金、銀またはアルミニウムを含む金属薄膜を片面にもつガラス基板を基材とすることが好ましい。
【0154】
本明細書において使用される「基板」とは、本発明のチップまたはアレイが構築される材料(好ましくは固体)をいう。したがって、基板はプレートの概念に包含される。基板の材料としては、共有結合かまたは非共有結合のいずれかで、本発明において使用される生体分子に結合する特性を有するかまたはそのような特性を有するように誘導体化され得る、任意の固体材料が挙げられる。
【0155】
プレートおよび基板として使用するためのそのような材料としては、固体表面を形成し得る任意の材料が使用され得るが、例えば、ガラス、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属(合金も含まれる)、天然および合成のポリマー(例えば、ポリスチレン、セルロース、キトサン、デキストラン、およびナイロン)が挙げられるがそれらに限定されない。基板は、複数の異なる材料の層から形成されていてもよい。例えば、ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、フォルステライト、炭化珪素、酸化珪素、窒化珪素などの無機絶縁材料を使用できる。また、ポリエチレン、エチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、シリコーン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホン等の有機材料を用いることができる。基板として好ましい材質は、測定機器などの種々のパラメータによって変動し、当業者は、上述のような種々の材料から適切なものを適宜選択することができる。トランスフェクションアレイのためには、スライドグラスが好ましい。好ましくは、そのような基材は、コーティングされ得る。
【0156】
本明細書において「コーティング」とは、固相支持体または基板について用いられるとき、その固相支持体または基板の表面上にある物質の膜を形成させることおよびそのような膜をいう。コーティングは種々の目的で行われ、例えば、固相支持体および基板の品質向上(例えば、寿命の向上、耐酸性などの耐環境性の向上)、固相支持体または基板に結合されるべき物質の親和性の向上などを目的とすることが多い。本明細書において、そのようなコーティングのための物質は、「コーティング剤」と呼ばれる。そのようなコーティング剤としては、種々の物質が用いられ得、上述の固相支持体および基板自体に使用される物質のほか、DNA、RNA、タンパク質、脂質などの生体物質、ポリマー(例えば、ポリ−L−リジン、MAS(松浪硝子、岸和田、日本から入手可能)、疎水性フッ素樹脂)、シラン(APS(例えば、γ−アミノプロピルシラン))、金属(例えば、金など)が使用され得るがそれらに限定されない。そのような物質の選択は当業者の技術範囲内にあり、当該分野において周知の技術を用いて場合ごとに選択することができる。一つの好ましい実施形態では、そのようなコーティングは、ポリ−L−リジン、シラン、(例えば、エポキシシランまたはメルカプトシラン、APS(γ−アミノプロピルシラン))、MAS、疎水性フッ素樹脂、金のような金属を用いることが有利であり得る。このような物質は、細胞または細胞を含む物体(例えば、生体、臓器など)に適合する物質を用いることが好ましい。
【0157】
本明細書において「チップ」または「マイクロチップ」は、互換可能に用いられ、多様の機能をもち、システムの一部となる超小型集積回路をいう。チップとしては、例えば、DNAチップ、プロテインチップなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0158】
本明細書において「アレイ」とは、1以上(例えば、1000以上)の標的物質を含む組成物(例えば、DNA、タンパク質、トランスフェクト混合物)が整列されて配置されたパターンまたはパターンを有する基板(例えば、チップ)そのものをいう。アレイの中で、小さな基板(例えば、10×10mm上など)上にパターン化されているものはマイクロアレイというが、本明細書では、マイクロアレイとアレイとは互換可能に使用される。従って、上述の基板より大きなものにパターン化されたものでもマイクロアレイと呼ぶことがある。例えば、アレイはそれ自身固相表面または膜に固定されている所望のトランスフェクト混合物のセットで構成される。アレイは好ましくは同一のまたは異なる抗体を少なくとも102個、より好ましくは少なくとも103個、およびさらに好ましくは少なくとも104個、さらにより好ましくは少なくとも105個を含む。これらの抗体は、好ましくは表面が125×80mm、より好ましくは10×10mm上に配置される。形式としては、96ウェルマイクロタイタープレート、384ウェルマイクロタイタープレートなどのマイクロタイタープレートの大きさのものから、スライドグラス程度の大きさのものが企図される。固定される標的物質を含む組成物は、1種類であっても複数種類であってもよい。そのような種類の数は、1個〜スポット数までの任意の数であり得る。例えば、約10種類、約100種類、約500種類、約1000種類の標的物質を含む組成物が固定され得る。
【0159】
基板のような固相表面または膜には、上述のように任意の数の標的物質(例えば、抗体のようなタンパク質)が配置され得るが、通常、基板1つあたり、108個の生体分子まで、他の実施形態において107個の生体分子まで、106個の生体分子まで、105個の生体分子まで、104個の生体分子まで、103個の生体分子まで、または102個の生体分子までの個の生体分子が配置され得るが、108個の生体分子を超える標的物質を含む組成物が配置されていてもよい。これらの場合において、基板の大きさはより小さいことが好ましい。特に、標的物質を含む組成物(例えば、抗体のようなタンパク質)のスポットの大きさは、単一の生体分子のサイズと同じ小さくあり得る(これは、1−2nmの桁であり得る)。最小限の基板の面積は、いくつかの場合において基板上の生体分子の数によって決定される。本発明では、細胞への導入が企図される標的物質を含む組成物は、通常、0.01mm〜10mmのスポット状に共有結合あるいは物理的相互作用によって配列固定されている。
【0160】
アレイ上には、生体分子の「スポット」が配置され得る。本明細書において「スポット」とは、標的物質を含む組成物の一定の集合をいう。本明細書において「スポッティング」とは、ある標的物質を含む組成物のスポットをある基板またはプレートに作製することをいう。スポッティングはどのような方法でも行うことができ、例えば、ピペッティングなどによって達成され得、あるいは自動装置で行うこともでき、そのような方法は当該分野において周知である。
【0161】
本明細書において使用される用語「アドレス」とは、基板上のユニークな位置をいい、他のユニークな位置から弁別可能であり得るものをいう。アドレスは、そのアドレスを伴うスポットとの関連づけに適切であり、そしてすべての各々のアドレスにおける存在物が他のアドレスにおける存在物から識別され得る(例えば、光学的)、任意の形状を採り得る。アドレスを定める形は、例えば、円状、楕円状、正方形、長方形であり得るか、または不規則な形であり得る。したがって、「アドレス」は、抽象的な概念を示し、「スポット」は具体的な概念を示すために使用され得るが、両者を区別する必要がない場合、本明細書においては、「アドレス」と「スポット」とは互換的に使用され得る。
【0162】
各々のアドレスを定めるサイズは、とりわけ、その基板の大きさ、特定の基板上のアドレスの数、標的物質を含む組成物の量および/または利用可能な試薬、微粒子のサイズおよびそのアレイが使用される任意の方法のために必要な解像度の程度に依存する。大きさは、例えば、1−2nmから数cmの範囲であり得るが、そのアレイの適用に一致した任意の大きさが可能である。
【0163】
アドレスを定める空間配置および形状は、そのマイクロアレイが使用される特定の適用に適合するように設計される。アドレスは、密に配置され得、広汎に分散され得るか、または特定の型の分析物に適切な所望のパターンへとサブグループ化され得る。
【0164】
マイクロアレイについては、ゲノム機能研究プロトコール(実験医学別冊 ポストゲノム時代の実験講座1)、ゲノム医科学とこれからのゲノム医療(実験医学増刊)などに広く概説されている。
【0165】
マイクロアレイから得られるデータは膨大であることから、クローンとスポットとの対応の管理、データ解析などを行うためのデータ解析ソフトウェアが重要である。そのようなソフトウェアとしては、各種検出システムに付属のソフトウェアが利用可能である(Ermolaeva Oら(1998)Nat.Genet.20:19−23)。また、データベースのフォーマットとしては、例えば、Affymetrixが提唱しているGATC(genetic analysis technology consortium)と呼ばれる形式が挙げられる。
【0166】
微細加工については、例えば、Campbell,S.A.(1996).The Science andEngineering of Microelectronic Fabrication,Oxford University Press;Zaut,P.V.(1996).Micromicroarray Fabrication:a Practical Guide to Semiconductor Processing,Semiconductor Services;Madou,M.J.(1997).Fundamentals of Microfabrication,CRC1 5 Press;Rai−Choudhury,P.(1997).Handbook of Microlithography,Micromachining,& Microfabrication:Microlithographyなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0167】
(細胞)
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるがそれらに限定されない。
【0168】
本発明で用いられる細胞は、どの生物由来の細胞(たとえば、任意の種類の単細胞生物(例えば、細菌、酵母)または多細胞生物(例えば、動物(たとえば、脊椎動物、無脊椎動物)、植物(たとえば、単子葉植物、双子葉植物など)など))でもよい。例えば、脊椎動物(たとえば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)由来の細胞が用いられ、より詳細には、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)由来の細胞が用いられる。1つの実施形態では、霊長類(たとえば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)由来の細胞、特にヒト由来の細胞が用いられるがそれに限定されない。
【0169】
本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能を有し、多分化能(すなわち多能性)(「pluripotency」)を有する細胞をいう。幹細胞は通常、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。本明細書では幹細胞は、胚性幹(ES)細胞または組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得るがそれらに限定されない。また、上述の能力を有している限り、人工的に作製した細胞(たとえば、本明細書において記載される融合細胞、再プログラム化された細胞など)もまた、幹細胞であり得る。胚性幹細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞をいう。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞であり、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。本明細書において使用される場合は、幹細胞は胚性幹細胞であっても、組織幹細胞であってもよい。
【0170】
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。
【0171】
本明細書において「体細胞」とは、卵子、精子などの生殖細胞以外の細胞であり、そのDNAを次世代に直接引き渡さない全ての細胞をいう。体細胞は通常、多能性が限定されているかまたは消失している。本明細書において使用される体細胞は、天然に存在するものであってもよく、遺伝子改変されたものであってもよい。
【0172】
細胞は、由来により、外胚葉、中胚葉および内胚葉に由来する幹細胞に分類され得る。外胚葉由来の細胞は、主に脳に存在し、神経幹細胞などが含まれる。中胚葉由来の細胞は、主に骨髄に存在し、血管幹細胞、造血幹細胞および間葉系幹細胞などが含まれる。内胚葉由来の細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞、膵幹細胞などが含まれる。本明細書では、体細胞はどのような胚葉由来でもよい。好ましくは、体細胞は、リンパ球、脾臓細胞または精巣由来の細胞が使用され得る。
【0173】
本明細書において「単離された」とは、通常の環境において天然に付随する物質が少なくとも低減されていること、好ましくは実質的に含まないをいう。従って、単離された細胞とは、天然の環境において付随する他の物質(たとえば、他の細胞、タンパク質、核酸など)を実質的に含まない細胞をいう。核酸またはポリペプチドについていう場合、「単離された」とは、たとえば、組換えDNA技術により作製された場合には細胞物質または培養培地を実質的に含まず、化学合成された場合には前駆体化学物質またはその他の化学物質を実質的に含まない、核酸またはポリペプチドを指す。単離された核酸は、好ましくは、その核酸が由来する生物において天然に該核酸に隣接している(flanking)配列(即ち、該核酸の5’末端および3’末端に位置する配列)を含まない。
【0174】
本明細書において、「樹立された」または「確立された」細胞とは、特定の性質(例えば、多分化能)を維持し、かつ、細胞が培養条件下で安定に増殖し続けるようになった状態をいう。したがって、樹立された幹細胞は、多分化能を維持する。
【0175】
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、筋細胞、神経細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。
【0176】
(医薬・化粧品など、およびそれを用いる治療、予防など)
別の局面において、本発明は、細胞へ有効成分を導入するための医薬(例えば、ワクチン等の医薬品、健康食品、タンパク質または脂質は抗原性を低減した医薬品)、化粧品、農薬、食品などに関する。このような医薬および化粧品は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
【0177】
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバント挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、本発明の医薬は、化合物、またはその改変体もしくは誘導体を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。
【0178】
本明細書で使用される受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、そして以下が挙げられる:リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))。
【0179】
例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。
【0180】
本発明が医薬として使用される場合、そのような医薬は経口的または非経口的に投与され得る。あるいは、そのような医薬は、静脈内または皮下で投与され得る。全身投与されるとき、本発明において使用される医薬は、発熱物質を含まない、薬学的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能な組成物の調製は、pH、等張性、安定性などを考慮することにより、当業者は、容易に行うことができる。本明細書において、投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)であり得る。そのような投与のための処方物は、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。
【0181】
本発明の医薬は、必要に応じて生理学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤(日本薬局方第14版またはその最新版、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company,1990などを参照)と、所望の程度の純度を有する組成物とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水溶液の形態で調製され保存され得る。
【0182】
本発明の処置方法において使用される組成物の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被検体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0183】
本発明が化粧品、食品、農薬など別の用途で使用されるときもまた、当局の規定する規制を遵守しながら化粧品などを調製することができる。
【0184】
(好ましい実施形態の説明)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。
【0185】
1つの局面において、本発明は、標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物を提供する。本発明の組成物は、(a)アクチン作用物質、を含む。本発明は、通常の条件下では、ほとんど細胞に導入されない物質(例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、糖鎖またはそれらの複合物質など)が、アクチン作用物質(代表的には、細胞外マトリクスタンパク質)の作用により、導入が促進されることを予想外に見いだしたことによって、上記目的を達成した。特に、トランスフェクションなどのDNAを用いた遺伝子操作の際に、このようなアクチン作用物質がその導入効率促進に顕著な効果があることは、従来全く知られておらず予想もされていなかったことから、本発明は、特に遺伝子研究において顕著なブレークスルーをもたらすものとして注目されるべきである。
【0186】
1つの好ましい実施形態において、本発明の組成物において含有されるアクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである。本発明において、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントが予想外にアクチン作用を有することが見いだされたことから、本発明では、細胞外マトリクスタンパク質による、物質の細胞への導入効率上昇という効果にも注目すべきである。
【0187】
従って、別の局面において、本発明は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントを含む、標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物を提供する。
【0188】
本発明のアクチン作用物質を含む組成物において含まれる好ましいアクチン作用物質としては、フィブロネクチン、プロネクチンF、プロネクチンL、プロネクチンPlus、ラミニン、ビトロネクチンなどまたはその改変体もしくはフラグメントが挙げられるがそれらに限定されない。
【0189】
好ましい実施形態において、本発明の組成物において含まれるアクチン作用物質は、
(a−1)少なくともFn1ドメインを有するタンパク質分子またはその改変体;
(a−2)配列番号2、4、6、8、10または11に記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質分子またはその改変体もしくはそのフラグメント;
(b)配列番号2、4、6、8、10または11に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1、3、5、7または9に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2、4、6、8、10または11に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a−1)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、を含む。
【0190】
1つの好ましい実施形態において、上記(b)における置換、付加および欠失の数は、限定され、例えば、50以下、40以下、30以下、20以下、15以下、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下であることが好ましい。ある特定の実施形態では、そのような置換、付加および/または欠失の数は1または数個であり得る。より少ない数の置換、付加および欠失が好ましいが、生物学的活性を保持する(好ましくは、アクチン作用物質と類似するかまたは実質的に同一の活性を有する)限り、多い数であってもよい。
【0191】
別の好ましい実施形態において、対立遺伝子変異体は、配列番号1、3、5、7または9に示す核酸配列と少なくとも90%の相同性を有することが好ましい。同一系統内のものなどでは、例えば、そのような対立遺伝子変異体は少なくとも99%の相同性を有することが好ましい。あるいは、別の好ましい実施形態において、上記(c)における対立遺伝子変異体は、配列番号2、4、6、8、10または11に示すアミノ酸配列と少なくとも約90%の相同性を有することが好ましい。好ましくは(c)における対立遺伝子変異体は、配列番号2、4、6、8、10または11に示すアミノ酸配列と少なくとも約99%の相同性を有する。
【0192】
上記種相同体は、その種の遺伝子配列データベースが存在する場合、そのデータベースに対して、本発明の細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン)の遺伝子配列の全部または一部をクエリ配列として検索することによって同定することができる。あるいは、本発明の細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン)の遺伝子の全部または一部をプローブまたはプライマーとして、その種の遺伝子ライブラリーをスクリーニングすることによって同定することができる。そのような同定方法は、当該分野において周知であり、本明細書において記載される文献にも記載されている。種相同体は、例えば、配列番号1、3、5、7または9に示す核酸配列と少なくとも約30%の相同性を有することが好ましい。種相同性は、好ましくは、配列番号1、3、5、7または9に示す核酸配列と少なくとも約50%の相同性を有する。あるいは、別の好ましい実施形態において、上記種相同体は、配列番号2、4、6、8、10または11に示すアミノ酸配列と少なくとも約30%の相同性を有することが好ましい。種相同体は、好ましくは、配列番号2、4、6、8、10または11に示すアミノ酸配列と少なくとも約50%の相同性を有する。
【0193】
好ましい実施形態において、上記(a−1)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性は、少なくとも約80%であり得、より好ましくは少なくとも約90%であり得、さらに好ましくは少なくとも約98%であり得、もっとも好ましくは少なくとも約99%であり得る。
【0194】
より好ましい実施形態では、上記核酸配列またはアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、2または11に関連するもの(フィブロネクチンの配列)であり得る。従って、上記好ましい実施形態において、その相同性などの記載は、より好ましくは、配列番号1、2または11と読み替えて適用することができる。
【0195】
1つの実施形態において、本発明のアクチン作用物質は、Fn1ドメインは、配列番号11のアミノ酸21位からアミノ酸577位を含んでいてもよい。
【0196】
さらに好ましい実施形態では、アクチン作用物質は、フィブロネクチンまたはその改変体もしくはフラグメントであり、なおさらに好ましくは、フィブロネクチンであり得る。
【0197】
アクチン作用物質の濃度は、当業者であれば、本明細書の記載を参照すれば、容易に決定することができる。例えば、そのような濃度の例としては、少なくとも約0.1μg/μLであり、好ましくは約0.2μg/μLであり、より好ましくは0.5μg/μLである。1つの実施形態では、約0.5μg/μLを超える濃度ではプラトーに達することから、約0.5μg/μL〜2.0μg/μLの濃度が好ましい濃度範囲であり得る。
【0198】
別の局面では、本発明は、接着因子を含む、標的物質の細胞導入効率を上昇させるための組成物に関する。フィブロネクチンは接着因子として知られていたが、そのような接着因子がトランスフェクションのような標的物質の細胞導入の効率上昇に使用することができることは知られていなかった。従って、本発明は、接着因子の驚くべき予想外の効果に起因するとみることもできる。そのような接着因子は、本明細書においてすでに詳述した。従って、下記種々の局面において、アクチン作用物質の代わりにそのような接着因子を用いることができる。
【0199】
遺伝子導入が企図される実施形態において、本発明の組成物は、遺伝子導入試薬をさらに含むことが好ましい。そのような遺伝子導入試薬を含むことによって、本発明の導入効率上昇効果が相乗的に発揮されるからである。
【0200】
好ましい実施形態において、そのような遺伝子導入試薬としては、例えば、カチオン性高分子、カチオン性脂質およびリン酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一種の物質を含むがそれに限定されない。より好ましくは、遺伝子導入試薬としては、Effectene、TransFastTM、TfxTM-20、SuperFect、PolyFect、LipofectAMINE 2000、JetPEIおよびExGen 500などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0201】
別の実施形態において、本発明の組成物は、粒子をさらに含む。粒子を含むことにより、物質の細胞内への導入、特に、標的化した導入が効率よく行うことができるからである。そのような粒子の好ましい例としては、例えば、金コロイドのような金属コロイドなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0202】
別の好ましい実施形態では、本発明の組成物は、塩をさらに含む。理論に束縛されることは望まないが、そのような塩を含むことにより、固相支持体が用いられる場合には、固定効果が増強され、あるいは、標的物質の三次元構造がより適切な形で保持される効果が奏されると考えられる。
【0203】
このような塩としては、無機塩または有機塩であればどのような塩でも使用することができるが、単塩よりも、複数の塩の混合物を使用することが好ましい。そのような複数の塩の混合物としては、例えば、緩衝剤に含まれる塩類および培地に含まれる塩類などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0204】
別の局面において、本発明は、遺伝子導入効率を上昇させるためのキットを提供する。そのようなキットは、(a)アクチン作用物質を含む組成物;および(b)遺伝子導入試薬、を備える。アクチン作用物質としては、上述の本発明の標的物質の細胞内への導入の効率を上昇させるための組成物において詳述した形態が適用され得る。そのような形態は、当業者は、本明細書の記載に基づけば、適切な形態を選択し実施することができる。このようなキットの形態で本発明が提供されるとき、そのようなキットは、さらに指示書を備えていてもよい。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記されていてもよいがそれに限定されない。指示書は、通常、マニュアルの形態をとり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。このようなアクチン作用物質としては、上述したように、本発明の標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物において適用される形態を当業者が任意に選択して本発明を実施することができる。したがって、好ましくは、アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど)またはその改変体であり得る。より好ましくは、フィブロネクチンまたはその改変体もしくはそのフラグメントが使用され得る。
【0205】
別の局面において、本発明は、標的物質を細胞内へ導入するための組成物を提供する。本発明は、通常の条件下では、ほとんど細胞に導入されない標的物質(例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、糖鎖またはそれらの複合物質など)が、アクチン作用物質(代表的には、細胞外マトリクスタンパク質)の作用により、導入が促進されることを予想外に見いだしたことによって完成されたものであり、この場合、本発明は、標的物質とアクチン作用物質とが含有された組成物の形式で提供される。このようなアクチン作用物質としては、上述したように、本発明の標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物において適用される形態を当業者が任意に選択して本発明を実施することができる。したがって、好ましくは、アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど)またはその改変体であり得る。より好ましくは、フィブロネクチンまたはその改変体もしくはそのフラグメントが使用され得る。
【0206】
本発明の標的物質を細胞内へ導入するための組成物において含まれる標的物質としては、好ましくは例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体などが挙げられるがそれらに限定されない。特定の好ましい実施形態では、標的物質としてDNAが選択される。このようなDNAは、遺伝子発現を目的とする場合、目的とする遺伝子をコードすることが好ましい。したがって、トランスフェクションを目的とする実施形態では、標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む。別の好ましい実施形態では、標的物質としてRNAが選択される。このようなRNAは、遺伝子発現を目的とする場合、目的とする遺伝子をコードすることが好ましい。この場合、RNAに適した遺伝子導入剤とともに遺伝子配列をコードするRNAを用いることが好ましい。
【0207】
遺伝子の導入を目的とする実施形態では、本発明の標的物質を細胞内へ導入するための組成物は、遺伝子導入試薬をさらに含んでいてもよい。理論に束縛されないが、1つの実施形態では、そのような遺伝子導入試薬と本発明において見出されたアクチン作用物質とが共同で作用することによって、従来にはない効率よい遺伝子の細胞内への導入がされると考えられる。
【0208】
好ましい実施形態において、本発明の組成物に含有され得る、そのような遺伝子導入試薬としては、例えば、カチオン性高分子、カチオン性脂質、ポリアミン系試薬、ポリイミン系試薬、リン酸カルシウムなどが挙げられるがそれらに限定されない
1つの好ましい実施形態において、本発明の標的物質を細胞内へ導入するための組成物は、液相として存在し得る。液相として存在する場合は、本発明は、例えば、液相トランスフェクション系として有用である。
【0209】
別の好ましい実施形態において、本発明の標的物質を細胞内へ導入するための組成物は、固相として存在し得る。固相として存在する場合は、本発明は、例えば、固相トランスフェクション系として有用である。固相トランスフェクションの好ましい実施形態としては、例えば、マイクロタイタープレートを用いたトランスフェクション系、またはアレイ(もしくはチップ)を用いたトランスフェクション系が挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドを導入する際にも、これらの液相および固相の形態は有用である。
【0210】
別の局面において、本発明はまた、標的物質を細胞に導入するためのデバイスを提供する。このデバイスでは、A)標的物質;およびB)アクチン作用物質、を含む、組成物が、固相支持体に固定されている。本発明のデバイスは、通常の条件下では、ほとんど細胞に導入されない標的物質(例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、糖鎖またはそれらの複合物質など)が、アクチン作用物質(代表的には、細胞外マトリクスタンパク質)の作用により、導入が促進されることを予想外に見いだしたことによって完成されたものであり、この場合、本発明は、標的物質とアクチン作用物質とが含有された組成物が固相支持体に固定された形式で提供される。このようなアクチン作用物質としては、上述したように、本発明の標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物において適用される形態を当業者が任意に選択して本発明を実施することができる。したがって、好ましくは、アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど)またはその改変体であり得る。より好ましくは、フィブロネクチンまたはその改変体もしくはそのフラグメントが使用され得る。
【0211】
本発明のデバイスにおいて含まれる標的物質としては、好ましくは例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体などが挙げられるがそれらに限定されない。特定の好ましい実施形態では、標的物質としてDNAが選択される。このようなDNAは、遺伝子発現を目的とする場合、目的とする遺伝子をコードすることが好ましい。したがって、トランスフェクションを目的とする実施形態では、標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む。
【0212】
遺伝子の導入を目的とする実施形態では、本発明のデバイスは、遺伝子導入試薬をさらに含んでいてもよい。理論に束縛されないが、1つの実施形態では、そのような遺伝子導入試薬と本発明において見出されたアクチン作用物質とが共同で作用することによって、従来にはない効率よい遺伝子の細胞内への導入がされると考えられる。デバイスでは固相支持体に組成物が固定されることから、遺伝子導入試薬としては、固相支持体への適合性があるものを使用することが好ましい。
【0213】
好ましい実施形態において、本発明のデバイスにおいて用いられる固相支持体は、プレート、マイクロウェルプレート、チップ、スライドグラス、フィルム、ビーズおよび金属からなる群より選択されるものであってもよい。
【0214】
特定の実施形態において、本発明のデバイスが固相支持体としてチップが用いられる場合、そのようなデバイスは、アレイとも称され得る。アレイには、通常、導入が意図される生体分子(例えば、DNA、タンパク質など)が基板上に整列またはパターン化されて配置されている。そのようなアレイのうち、トランスフェクションを目的とするものは、本明細書においてトランスフェクションアレイとも呼ばれる。本発明では、従来のシステムでは達成不可能であった、幹細胞などでもトランスフェクションが生じることが判明した。従って、本発明のアクチン作用物質を使用した組成物、デバイスおよび方法は、どのような細胞でも実施可能なトランスフェクションアレイを提供するという、従来にはなかった予想外の効果を達成することになる。
【0215】
ここで、本発明のデバイスにおいて使用される固相支持体はコーティングされることが好ましい。コーティングすることによって、固相支持体および基板の品質向上(例えば、寿命の向上、耐酸性などの耐環境性の向上)、固相支持体または基板に結合されるべき物質への親和性および細胞への親和性が高くなるからである。好ましい実施形態において、そのようなコーティングにおいて、ポリ−L−リジン、シラン(たとえば、APS(γ−アミノプロピルシラン))、MAS、疎水性フッ素樹脂、エポキシシランまたはメルカプトシランのようなシラン、金のような金属を含むコーティング剤が使用される。好ましくは、コーティング剤は、ポリ−L−リジンである。
【0216】
別の局面において、本発明は、標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための方法を提供する。本発明は、通常の条件下では、ほとんど細胞に導入されない標的物質(例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、糖鎖またはそれらの複合物質など)を、アクチン作用物質とともに細胞に提示する(好ましくは、接触させる)ことによって、その標的物質が効率よく細胞に導入されるという作用をはじめて見出したことによって完成された発明である。従って、本発明の方法は、A)標的物質を提供する工程;B)アクチン作用物質を提供する工程を順不同に包含し、C)該標的物質および該アクチン作用物質を該細胞に接触させる工程をさらに包含する。ここで、標的物質およびアクチン作用物質は、一緒に提供されてもよく、別々に提供されてもよい。アクチン作用物質としては、上述の本発明の標的物質の細胞内への導入の効率を上昇させるための組成物において詳述した形態が適用され得る。そのような形態は、当業者は、本明細書の記載に基づけば、適切な形態を選択し実施することができる。したがって、このようなアクチン作用物質としては、本発明の標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物において適用される形態を当業者が任意に選択して本発明を実施することができる。好ましくは、アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど)またはその改変体であり得る。より好ましくは、フィブロネクチンまたはその改変体もしくはそのフラグメントが使用され得る。
【0217】
本発明の方法において使用される標的物質としては、好ましくは例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体などが挙げられるがそれらに限定されない。特定の好ましい実施形態では、標的物質としてDNAが選択される。このようなDNAは、遺伝子発現を目的とする場合、目的とする遺伝子をコードすることが好ましい。したがって、トランスフェクションを目的とする実施形態では、標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む。
【0218】
遺伝子の導入を目的とする実施形態では、本発明の方法では、遺伝子導入試薬をさらに使用してもよい。理論に束縛されないが、1つの実施形態では、そのような遺伝子導入試薬と本発明において見出されたアクチン作用物質とが共同で作用することによって、従来にはない効率よい遺伝子の細胞内への導入がされると考えられる。遺伝子導入試薬の提供は、標的物質および/またはアクチン作用物質と一緒でもよく、別々であってもよい。好ましくは、標的物質と遺伝子導入試薬との間で複合体を形成させてからアクチン作用物質が提供されることが有利であり得る。理論に束縛されないが、そのような順番で行うことが導入効率を上げるようであるからである。
【0219】
好ましい実施形態において、本発明の方法において使用され得る、そのような遺伝子導入試薬としては、例えば、カチオン性高分子、カチオン性脂質、ポリアミン系試薬、ポリイミン系試薬、リン酸カルシウムなどが挙げられるがそれらに限定されない
本発明において対象となる細胞は、標的物質の導入が意図される限り、どのような細胞を包含してもよく、例えば、幹細胞、体細胞などが挙げられる。本発明の顕著な効果は、幹細胞、体細胞など細胞の種類を問わず、どのような細胞でもほぼ満遍なくトランスフェクションのような標的物質の導入が達成されることにあり、これは従来の方法にはなかった予想外の効果といえる。好ましくは、幹細胞のうち、対象には組織幹細胞が包含され得るがそれに限定されず、胚性幹細胞もまた対象として包含され得る。理論に束縛されないが、幹細胞のうちでは、組織幹細胞が胚性幹細胞よりも導入効率がよいようであるからである。
【0220】
1つの特定の実施形態において、本発明の標的物質細胞導入方法は、その一部または全部が液相中で行われ得る。別の特定の実施形態において、本発明の標的物質細胞導入方法は、その一部または全部が固相上で行われ得る。従って、本発明の標的物質細胞導入方法は、液相中と固相上との組み合わせで行うことも可能である。
【0221】
別の局面において、本発明は、固相支持体を利用した標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための方法を提供する。本発明は、通常の条件下では、ほとんど細胞に導入されない標的物質(例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、糖鎖またはそれらの複合物質など)を固相支持体上に固定し、アクチン作用物質とともに細胞に提示する(好ましくは、接触させる)ことによって、その標的物質が効率よく細胞に導入されるという作用をはじめて見出したことによって完成された発明である。固相支持体で標的物質(特にDNA、好ましくは、トランスフェクトされるべき遺伝子をコードする配列を含むDNA)の導入効率が上昇したという効果は、従来技術では達成不可能であり、その達成すら予測されていなかったことから、当該分野において顕著なブレークスルーをもたらすということができる。従って、本発明の固相支持体を利用した方法は、I)A)標的物質;およびB)アクチン作用物質、を含む組成物、を固体支持体に固定する工程;II)該固体支持体上の該組成物に細胞を接触させる工程、を包含する。アクチン作用物質としては、上述の本発明の標的物質の細胞内への導入の効率を上昇させるための組成物において詳述した形態が適用され得る。そのような形態は、当業者は、本明細書の記載に基づけば、適切な形態を選択し実施することができる。したがって、このようなアクチン作用物質としては、本発明の標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物において適用される形態を当業者が任意に選択して本発明を実施することができる。好ましくは、アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど)またはその改変体であり得る。より好ましくは、フィブロネクチンまたはその改変体もしくはそのフラグメントが使用され得る。
【0222】
標的物質として使用される場合、DNAは裸で提供されてもよいが、好ましくは、制御配列(プロモーターなど)とともにベクター(プラスミド)を用いて提供されることが有利であり得る。そのような場合、DNAは作動可能に制御配列に連結されることが好ましい。
【0223】
本発明の方法はまた、好ましくは、遺伝子導入試薬を提供する工程をさらに包含し、ここで、遺伝子導入試薬は、細胞に接触されるように提供される。遺伝子導入試薬の使用は、本発明の方法において導入効率をさらに向上させることから好ましい。遺伝子導入試薬の提供は、当該分野において周知であり、例えば、遺伝子導入試薬が溶解した溶液を実験系に添加することなどが挙げられるがそれに限定されない。好ましくは、遺伝子導入試薬は、標的物質であるDNAと複合体を形成させた後、アクチン作用物質が提供される。理論に束縛されないが、このような順序をとることによって、固相支持体上での標的物質の細胞への導入効率が飛躍的に上昇することが判明しているからである。
【0224】
1つの実施形態では、遺伝子導入試薬(例えば、カチオン性脂質)−標的物質複合体は、標的物質(例えば、発現ベクター中のDNA)および遺伝子導入試薬を含み、これは水または脱イオン水のような適切な溶媒中に溶解される。この溶液をスライドのような表面にスポットし、それにより特定の位置に遺伝子導入試薬−標的物質複合体が付着された表面を生成する。その後、適宜アクチン作用物質が添加される。スポットした遺伝子導入試薬−標的物質複合体がスライドに付着され、そしてこの方法のその後の工程で使用される条件下で、そのスポットがこの付着された位置に留まるように十分乾燥させる。例えば、遺伝子導入試薬−標的物質複合体を、ポリ−L−リジン(Sigma,Inc.などから入手可能)でコーティングしたガラススライドのようなスライドまたはチップ上に、例えば手動で、またはマイクロアレイ製造機を用いてスポットする。その後、このスライドまたはチップを室温もしくは室温より高い温度で、または減圧乾燥させることによって、DNAスポットをスライドに付着することができる。十分な乾燥が起こるのに必要な時間の長さは、表面に配置された混合物の量および使用された温度および湿度条件のようないくつかの因子による。本発明では、アクチン作用物質は、複合体が付着された後に提供されることが好ましい。
【0225】
混合物中に存在するDNAの濃度は、各用途のために実験的に決定されるが、一般的には約0.01μg/μlから約0.2μg/μlの範囲であり、特定の実施形態では約0.02μg/μlから約0.10μg/μlである。あるいは、遺伝子導入試薬−標的物質複合体中に存在するDNAの濃度は、約0.01μg/μlから約0.5μg/μl、約0.01μg/μlから約0.4μg/μl、および約0.01μg/μlから約0.3μg/μlであり得る。同様に、アクチン作用物質、または遺伝子導入試薬のような別のキャリア高分子の濃度は、各用途のために実験的に決定されるが、一般的には0.01%から0.5%の範囲であり、特定の実施形態では約0.05%から約0.5%、約0.05%から約0.2%、または約0.1%から約0.2%である。アクチン作用物質−標的物質複合体中のDNAの最終的な濃度(例えば、アクチン作用物質中のDNA)は、一般的には約0.02μg/μlから約0.1μg/μlであり、そして別の実施形態では、DNAは約0.05μg/μlに等しい最終DNA濃度とされ得る。
【0226】
使用されるDNAがベクターに担持されて提供される場合、ベクターはプラスミドまたはウイルスに基づくベクターのような任意の型であり得、そこに目的のDNA(細胞で発現されるべきDNA)が導入され得、そしてその後その細胞において発現され得る。そのようなベクターとしては、例えば、CMV駆動発現ベクターを使用し得る。市販で入手可能な、pEGFP(Clontech)またはpcDNA3(Invitrogen)のようなプラスミドに基づくベクターまたはウイルスに基づくベクターを使用し得る。この実施形態において、遺伝子導入試薬−標的物質複合体を含むスポットを乾燥させた後、スポットを有する表面を適切な量の脂質に基づいたトランスフェクション試薬で被覆し、そして生じた生成物をスポット中のDNAおよび遺伝子導入試薬(たとえば、カチオン性脂質などのトランスフェクション試薬)との間の複合体形成に適切な条件下で維持(インキュベート)する。その後にアクチン作用物質が提供されるか、または同時にアクチン作用物質が提供されることが好ましい。1つの実施形態では、生じた生成物を25℃で約20分間インキュベートする。続いて、遺伝子導入試薬を除去し、DNA(トランスフェクション試薬との複合体中のDNA)を有する表面を生成し、そして適切な培養液中の細胞を表面上にプレーティングする。生じた生成物(DNAおよびプレーティングした細胞を有する表面)を、プレーティングした細胞へのDNAの侵入を引き起こす条件下で維持する。
【0227】
本発明において使用される場合は、約1〜2細胞周期が、トランスフェクションが起こるのに十分であるが、これは使用される細胞の型および条件によって変動し、そして特定の組み合わせのために適切な時間の長さは、当業者が用意に実験的に決定され得る。十分な時間が経過した後、トランスフェクション効率、コードされた産物の発現、細胞への影響などに関して、公知の方法を用いて評価することができる。例えば、免疫蛍光の検出、または酵素免疫細胞学、インサイチュハイブリダイゼーション、オートラジオグラフィー、あるいはDNAの発現またはコードされた産物もしくはDNA自体による導入された細胞に対する影響を検出する他の手段によって、上記パラメータを判定することができる。コードされたタンパク質の発現を検出するために免疫蛍光を使用する場合、タンパク質に結合しかつ蛍光標識された抗体を使用し(例えば、抗体のタンパク質への結合に適切な条件下でスライドに加える)、そしてタンパク質を含む位置(表面上のスポットまたは領域)を、蛍光を検出することによって同定する。蛍光の存在は、蛍光を示す規定位置においてトランスフェクションが起こり、そしてコードされたタンパク質が発現したことを示す。使用された方法によって検出された、スライド上のシグナルの存在は、シグナルが検出された特定の位置において、トランスフェクションおよびコードされた産物の発現または細胞におけるDNA導入が起こったことを示す。各特定の位置に存在するDNAの正体は既知であってもよく未知であってもよい;従って、発現が起こった場合、発現したタンパク質の正体も既知であってもよく、未知であってもよい。そのような情報は既知であることが好ましい。従来の情報と相関付けすることができるからである。
【0228】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0229】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0230】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、この発明は以下の例に限定されるものではない。以下の実施例において用いられる試薬、支持体などは、例外を除き、Sigma(St.Louis,USA、和光純薬(大阪、日本)、松浪硝子(岸和田、日本)などから市販されるものを用いた。
【0231】
(実施例1:アクチン作用物質混合物の調製)
アクチン作用物質の候補として、種々の細胞外マトリクスタンパク質およびその改変体もしくはそのフラグメントを準備した。この実施例において調製したものは以下のとおりである。フィブロネクチンなどは、市販のものを用い、フラグメントおよび改変体は、遺伝子操作して改変したものを用いた。
1)フィブロネクチン(配列番号11);
2)フィブロネクチン29kDaフラグメント;
3)フィブロネクチン43kDaフラグメント;
4)フィブロネクチン72kDaフラグメント;
5)フィブロネクチン改変体(配列番号11のうち、152位のアラニンをロイシンに変化させたもの);
6)プロネクチンF(三洋化成、京都、日本);
7)プロネクチンL(三洋化成);
8)プロネクチンPlus(三洋化成);
9)ラミニン(配列番号6);
10)RGDペプチド(トリペプチド);
11)RGDを含んだ30kDaペプチド;
12)ラミニンの5アミノ酸IKVAV;
13)ゼラチン。
【0232】
DNAとしてトランスフェクションのためのプラスミドを調製した。プラスミドとして、pEGFP−N1およびpDsRed2−N1(ともにBD Biosciences,Clontech、CA、USA)を用いた。これらのプラスミドでは、遺伝子発現はサイトメガロウイルス(CMV)の制御下にある。プラスミドDNAを、E.coli(XL1 blue、Stratgene,TX,USA)中で増幅し増幅したプラスミドDNAを複合体パートナーの一方として用いた。DNAは、DNaseもRNaseも含まない蒸留水中に溶解した。
【0233】
使用したトランスフェクション試薬は以下の通りである:Effectene Transfection Reagent(cat.no.301425,Qiagen,CA),TransFastTM Transfection Reagent(E2431,Promega,WI),TfxTM-20 Reagent(E2391,Promega,WI),SuperFect Transfection Reagent(301305,Qiagen,CA),PolyFect Transfection Reagent(301105,Qiagen,CA),LipofectAMINE 2000 Reagent(11668-019,Invitrogen corporation,CA),JetPEI(×4)conc.(101-30,Polyplus-transfection,France)およびExGen 500(R0511,Fermentas Inc.,MD)。トランスフェクション試薬は、上記DNAおよびアクチン作用物質にあらかじめ加えるかあるいはDNAと複合体を先に生成してから使用した。
【0234】
このようにして調製した溶液を以下のトランスフェクション効率の改善試験に用いた。
【0235】
(実施例2:液相におけるトランスフェクション効率の改善)
本実施例では、液相におけるトランスフェクション効率の改善を観察した。
【0236】
液相トランスフェクションのプロトコルは、Effectene、LipofectAMINE 2000、JetPEI、TransFastについて、各々提供する指示書に従った。
【0237】
本実施例では、上述のように調製したアクチン作用物質の有り無しにより、液相トランスフェクションにおけるこれらの物質の効果を調べた。
【0238】
アクチン作用物質は、ddH2O中で10μg/μLのストックとして保存した。全ての希釈をPBS、ddH2OまたはダルベッコMEM培地を用いて行った。希釈系列として、例えば、0.2μg/μL、0.27μg/μL、0.4μg/μL、0.53μg/μL、0.6μg/μL、0.8μg/μL、1.0μg/μL、1.07μg/μL、1.33μg/μL、などを調製した。
【0239】
その結果、これらのアクチン作用物質は、液相トランスフェクションにおいて効率を上げることが明らかになった。特にフィブロネクチンがその効率の上昇に顕著な効果を有することが明らかになった。
【0240】
(実施例3:固相におけるトランスフェクション効率の改善)
本実施例では、固相におけるトランスフェクション効率の改善を観察した。そのプロトコルを以下に示す。
【0241】
(プロトコル)
DNAの最終濃度は、1μg/μLに調整した。アクチン作用物質は、ddH2O中で10μg/μLのストックとして保存した。全ての希釈をPBS、ddH2OまたはダルベッコMEM培地を用いて行った。希釈系列として、例えば、0.2μg/μL、0.27μg/μL、0.4μg/μL、0.53μg/μL、0.6μg/μL、0.8μg/μL、1.0μg/μL、1.07μg/μL、1.33μg/μL、などを調製した。
【0242】
トランスフェクション試薬は、それぞれの製造業者が提供する指示書に従って、使用した。
【0243】
プラスミドDNA:グリセロールストックから100mLのL−amp中で一晩増殖させ、Qiaprep MiniprepまたはQiagen Plasmid Purification Maxiを用いて製造業者が提供する標準プロトコールによって精製した。
【0244】
本実施例では、以下の5種類の細胞を利用して、効果を確認した:ヒト間葉系幹細胞(hMSCs、PT-2501、Cambrex BioScience Walkersville,Inc.,MD)、ヒト胚性腎細胞 (HEK293、RCB1637、RIKEN Cell Bank,JPN)、NIH3T3-3細胞 (RCB0150,RIKEN Cell Bank,JPN)、HeLa細胞(RCB0007、RIKEN Cell Bank,JPN)およびHepG2(RCB1648、RIKEN Cell Bank,JPN)。これらは、L−glutおよびpen/strepを含むDMEM/10%IFS中で培養した。
【0245】
(希釈およびDNAのスポット)
トランスフェクション試薬とDNAとを混合してDNA−トランスフェクション試薬複合体を形成させる。複合体形成にはある程度の時間が必要であることから、上記混合物を、アレイ作製機(arrayer)を用いて固相支持体(例えば、ポリ−L−リジンスライド)にスポットした。本実施例では、固相支持体として、ポリ−L−リジンスライドのほか、APSスライド、MASスライド、コーティングなしのスライドを用いた。これらは、松浪硝子(岸和田、日本)などから入手可能である。
【0246】
複合体形成およびスポット固定のために、真空乾燥機中で一晩スライドを乾燥させた。乾燥時間の範囲は、2時間から1週間とした。
【0247】
アクチン作用物質は、上記複合体形成時に使用してもよいが、本実施例では、スポッティングの直前に使用する形態も試験した。
【0248】
(混合液の調製および固相支持体への適用)
エッペンドルフチューブに、300μLのDNA濃縮緩衝液(EC緩衝液)+16μLのエンハンサーを混合した。これをボルテックスによって混合し、5分間インキュベートした。50μLのトランスフェクション試薬(Effecteneなど)を加え、そしてピペッティングによって混合した。トランスフェクション試薬を適用するために、スライドのスポットのまわりにワックス環状バリヤーを引いた。スポットのワックスで囲まれた領域に366μLの混合物を加え、室温で10から20分間インキュベートした。これにより、支持体への主導による固定が達成された。
【0249】
(細胞の分配)
次に、細胞を添加するプロトコルを示す。トランスフェクトのために細胞を分配した。この分配は、通常、フード内で試薬を減圧吸引して行った。スライドを皿に置き、そしてトランスフェクションのために細胞を含む溶液を加えた。細胞の分配は、以下のとおりである。
【0250】
細胞の濃度が25mL中107細胞になるように、増殖中の細胞を分配した。四角の100×100×15mmのペトリ皿または半径100mm×15mmの円形ディッシュ中で、スライド上に細胞をプレーティングした。約40時間、トランスフェクションを進行させた。これは、約2細胞周期にあたる。免疫蛍光のためにスライドを処理した。
【0251】
(遺伝子導入の評価)
遺伝子導入の評価は、例えば、免疫蛍光、蛍光顕微鏡検査、レーザー走査、 放射性標識および感受性フィルムまたはエマルジョンを用いた検出によって達成した。
【0252】
可視化されるべき発現されたタンパク質が蛍光タンパク質であるなら、それらを蛍光顕微鏡検査で見てそして写真を撮ることができる。大きな発現アレイに関しては、スライドをデータ保存のためにレーザースキャナーで走査し得る。発現されたタンパク質を蛍光抗体が検出し得るなら、免疫蛍光のプロトコールが引き続いて行うことができる。検出が放射能に基づくなら、スライドを上記で示したように付着し得、そしてフィルムまたはエマルジョンを用いたオートラジオグラフィーによって放射能を検出することができる。
【0253】
(レーザー走査および蛍光強度定量)
トランスフェクション効率を定量するために、本発明者らは、DNAマイクロアレイスキャナ(GeneTAC UC4×4、Genomic Solutions Inc.,MI)を使用した。総蛍光強度(任意の単位)を測定した後、表面積あたりの蛍光強度を計算した。
【0254】
(共焦点顕走査顕微鏡による切片観察)
使用した細胞を、組織培養ディッシュに最終濃度1×105細胞/ウェルで播種し、適切な培地を用いて(ヒト間葉系細胞の場合ヒト間葉系細胞基本培地(MSCGM、BulletKit PT−3001、Cambrex BioScience Walkersville,Inc.、MD,USA)を用いた)培養した。細胞層を4%パラホルムアルデヒド溶液で固定した後、染色試薬であるSYTOおよびTexas Red−Xファロイジン(Molecular Probes Inc.,OR,USA)を細胞層に添加して、核およびFアクチンを観察した。遺伝子産物によって発色するサンプルまたは染色されたサンプルを共焦点レーザー顕微鏡(LSM510、Carl Zeiss Co.,Lrd、ピンホールサイズ=Ch1=123μm, Ch2=108 μm;画像間隔=0.4)を用いて、切片像を得た。
【0255】
(結果)
図1に一例としてHEK293細胞を用いた場合の種々のアクチン作用物質およびコントロールとしてのゼラチンを用いた結果を示す。
【0256】
結果から明らかなように、ゼラチンを用いた系ではトランスフェクションがあまり成功していないのに対して、フィブロネクチン、フィブロネクチンの改変体であるプロネクチン(プロネクチンF、プロネクチンL、プロネクチンPlus)およびラミニンでは、顕著にトランスフェクションが起こっていた。従って、このような分子は、トランスフェクション効率を顕著に上昇させることが実証された。RGDペプチド単体では、その効果はほとんど見えなかった。
【0257】
図2および3に、フィブロネクチンのフラグメントを用いた場合のトランスフェクション効率の結果を示す。図4にその結果をまとめた図を示す。29kDaおよび72kDaのフラグメントは、トランスフェクション活性が顕著に示され、43kDaフラグメントは、活性はあるものの、その程度は、低かった。従って、29kDaに含まれるアミノ酸配列がトランスフェクション効率の上昇に役割を果たしていることが示唆される。29kDaフラグメントは、夾雑がほとんど見られなかったのに対して、他の二つのフラグメント(43kDaおよび72kDa)では、夾雑が見られた。従って、29kDaドメインのみをアクチン作用物質として使用することが好ましくあり得る。また、RGDペプチドのみではトランスフェクション効率上昇活性は示されなかったが、これをつけた30kDaのペプチドでは活性が見られた。また、ラミニンの6アミノ酸をつけ高分子量にした系でもトランスフェクション活性が見られた。従って、これらのペプチド配列もまた、トランスフェクション効率上昇活性において重要な役割を果たし得るがそれに限定されない。このような場合、少なくとも5kDa、好ましくは少なくとも10kDa,より好ましくは少なくとも15kDaの分子量を含むことがトランスフェクション効率上昇に必要であり得る。
【0258】
次に、種々の細胞におけるトランスフェクション効率を調べた結果を図5に示す。図5では、従来トランスフェクションが可能な細胞としてHEK293細胞、HeLa細胞、3T3細胞、ならびに従来トランスフェクションがほとんど不可能といわれていたHepG2細胞および間葉系幹細胞(MSC)を用いた本発明のトランスフェクション方法の効果を示す。縦軸にはGFPの強度を示した。
【0259】
図5では、本発明の固相支持体を用いたトランスフェクション法との比較対照として、従来の液相トランスフェクション法を示した対比した。従来型の液相トランスフェクションの方法は、各試薬会社の推奨する方法に従って行った。
【0260】
図5から明らかなように、従来トランスフェクション可能とされていたHEK293、HeLa、3T3はもちろん、トランスフェクション不可能とされていたHepG2およびMSCでも、HeLaおよび3T3に匹敵するトランスフェクション効率が達成された。このような効果は、従来のトランスフェクション系では決して達成されなかったことであり、事実上すべての細胞についてトランスフェクション効率を上昇させることができ、実用に耐え得るトランスフェクションをすべての細胞に提供する系が史上初めて提供されたことになる。また、固相条件を採用したことによって、相互夾雑も顕著に減少した。従って、固相支持体を使用する場合本発明は、集積化バイオアレイを製造するために適切な方法であることが実証された。
【0261】
次に図6として、種々のプレートを用いた場合のトランスフェクションの状態を示す結果を提供する。図6の結果からも明らかなように、コーティングをした場合、コーティングをしていない場合よりも夾雑が少なくなっており、トランスフェクション効率も上昇しているようであることが明らかになった。
【0262】
次に、図7として、フィブロネクチンの濃度を0、0.27、0.53、0.8、1.07および1.33(それぞれμg/μL)としてトランスフェクションを行った場合の結果を示す。図7では、PLL(ポリ−L−リジン)およびAPSでコーティングされたスライドおよびコーティングされていないスライドについて示す。
【0263】
図7の結果から明らかなように、トランスフェクション効率は、フィブロネクチン濃度の上昇に伴って上昇することが明らかになった。ただし、PLLコーティングおよびコーティングなしの場合には、0.53μg/μLを超えると効率がプラトーに達していることがわかる。他方、APSの場合は、1.07μg/μLを超えても効果の上昇が見られた。
【0264】
次に図8として、フィブロネクチンの有無での、細胞接着プロファイルを示す写真を示す。図9には、切片写真を示す。接着細胞の形状は、顕著に異なることが明らかになった(図8)。細胞培養の最初の3時間で、フィブロネクチン有の方は、細胞が完全に伸展したのに対して、フィブロネクチン無のほうは、伸展が限られていた(図9)。アクチンフィラメントの挙動を観察した図9の結果について経時的に観察した結果を勘案すると、固相支持体上に沈着したフィブロネクチンのようなアクチン作用物質がアクチンフィラメントの形状および方向に影響を与え、トランスフェクション効率などの物質の細胞への導入効率を上昇させるものと考えられる。具体的には、フィブロネクチンの存在下では、アクチンフィラメントは、迅速に配置転換し、細胞伸展とともに核の下にある細胞質空間から消失する。フィブロネクチンのようなアクチン作用物質によって誘導される核周辺のアクチン枯渇によって、DNAなどの標的物質が細胞内および必要に応じて核内へ移行すると考えられる。理論に束縛されないが、これは、細胞質の粘性の低下および正に荷電したDNA粒子が負に荷電したアクチンフィラメントに捕捉されることを防止するという効果に起因すると考えられる。また、核の表面積は、フィブロネクチン存在下で顕著に拡大することから(図10)、DNAなどの標的物質の核への移行が容易になるものと考えられる。
【0265】
(実施例4:バイオアレイへの応用)
次に、上述の効果がアレイを用いた場合でも実証されるかどうかを確認するために規模拡大して実験を行った。
【0266】
(実験プロトコル)
(細胞供給源、培養培地、および培養条件)
この実施例では、5種類の異なる細胞株を使用した:ヒト間葉系幹細胞(hMSC、PT−2501、Cambrex BioScience Walkersville,Inc.,MD)、ヒト胚性腎細胞HEK293(RCB1637、RIKEN Cell Bank,JPN)、NIH3T3−3(RCB0150、RIKEN Cell Bank,JPN)、HeLa(RCB0007、RIKEN Cell Bank,JPN)、およびHepG2(RCB1648、RIKEN Cell Bank,JPN)。ヒトMSC細胞の場合、この細胞を、市販のヒト間葉細胞基底培地(MSCGM BulletKit PT−3001,Cambrex BioScience Walkersville,Inc.,MD)中で維持した。HEK293細胞、NIH3T3−3細胞、HeLa細胞およびHepG2細胞の場合、これらの細胞を、10% ウシ胎仔血清(FBS、29−167−54、Lot No.2025F、Dainippon Pharmaceutical CO.,LTD.,JPN)を有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、L−グルタミンおよびピルビン酸ナトリウムを有する高グルコース(4.5g/L);14246−25、Nakalai Tesque,JPN)中で維持した。全ての細胞株を、37℃、5% CO2に制御されたインキュベーター中で培養した。hMSCを含む実験において、本発明者らは、表現型の変化を回避するために、5継代未満のhMSCを使用した。
【0267】
(プラスミドおよびトランスフェクション試薬)
トランスフェクションの効率を評価するために、pEGFP−N1ベクターおよびpDsRed2−N1ベクター(カタログ番号6085−1、6973−1、BD Biosciences Clontech,CA)を使用した。共に遺伝子発現は、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下であった。トランスフェクトされた細胞は、それぞれ、連続的にEGFPまたはDsRed2を発現した。プラスミドDNAを、Escherichia coli、XL1−blue株(200249,Stratagene,TX)を使用して増幅し、そしてEndoFree Plasmid Kit(EndoFree Plasmid Maxi Kit 12362、QIAGEN、CA)によって精製した。全ての場合において、プラスミドDNAを、DNaseおよびRNaseを含まない水に溶解した。トランスフェクション試薬は以下のようにして得た:Effectene Transfection Reagent(カタログ番号301425、Qiagen、CA)、TransFastTM Transfection Reagent(E2431、Promega、WI)、TfxTM−20 Reagent(E2391、Promega、WI)、SuperFect Transfection Reagent(301305、Qiagen、CA)、PolyFect Transfection Reagent(301105、Qiagen、CA)、LipofectAMINE 2000 Reagent(11668−019、Invitrogen corporation、CA)、JetPEI(×4)conc.(101−30、Polyplus−transfection、France)、およびExGen 500(R0511、Fermentas Inc.,MD)。
【0268】
(固相系トランスフェクションアレイ(SPTA)生成)
「リバーストランスフェクション」につてのプロトコルの詳細は、ウェブサイト http://staffa.wi.mit.edu/sabatini_public/reverse_transfection.htm の「Reverse Transfection Homepage」J. Ziauddin, D. M. Sabatini, Nature, 411, 2001, 107;R. W. Zu, S. N.Bailey, D.M. Sabatini, Trends in Cell Biology, Vol 12, No. 10, 485に記載されていた。本発明者らの固相系トランスフェクション(SPTA方法)において、疎水性フッ素樹脂コーティングによって分離した48平方パターン(3mm×3mm)を有する3つの型のスライドガラス(シラン処理したスライドガラス;APSスライド、およびポリ−L−リジンでコーティングしたスライドガラス;PLLスライド、およびMASでコーティングしたスライド;Matsunami Glass Ind.,LTD.,JPN)を研究した。
【0269】
(プラスミドDNAプリンティング溶液の調製)
SPTAを生成するための2つの異なる方法を開発した。その主な違いは、プラスミドDNAプリンティング溶液の調製にある。
【0270】
(方法A)
Effectene Transfection Reagentを使用する場合、プリンティング溶液は、プラスミドDNAおよび細胞接着分子(4mg/mLの濃度で超純水に溶解したウシ血漿フィブロネクチン(カタログ番号16042−41、Nakalai Tesque、JPN))を含んだ。上記の溶液を、インクジェットプリンタ(synQUADTM、Cartesian Technologies,Inc.,CA)を用いてか、または手動で0.5〜10μLチップを用いて、スライドの表面に適用した。このプリントしたスライドガラスを安全キャビネットの内側で室温にて15分間かけて乾燥させた。トランスフェクションの前に、総Effectene試薬を、DNAプリントしたスライドガラス上に静かに注ぎ、そして室温にて15分間インキュベートした。過剰のEffectene溶液を、吸引アスピレーターを用いてスライドガラスから除去し、そして安全キャビネットの内側で室温にて15分間かけて乾燥させた。得られたDNAプリントしたスライドガラスを、100mm培養ディッシュの底に置き、そして約25mLの細胞懸濁液(2〜4×104細胞/mL)を、このディッシュに静かに注いだ。次いで、このディッシュを37℃、5% CO2のインキュベーターに移し、2〜3日間インキュベートした。
【0271】
(方法B)
他のトランスフェクション試薬(TransFastTM、TfxTM−20、SuperFect、PolyFect、LipofectAMINE 2000、JetPEI(×4)conc.またはExGen)の場合、プラスミドDNA、フィブロネクチン、およびトランスフェクション試薬を、製造業業者が配布する指示書に示される比率に従って1.5mLのマイクロチューブ中で均一に混合し、そしてチップ上にプリンティングする前に室温にて15分間インキュベートした。プリンティング溶液を、インクジェットプリンターまたは0.5〜10μLチップを用いてスライドガラスの表面上に適用した。このプリントしたスライドガラスを、安全キャビネットの内側で室温にて10分間かけて完全に乾燥させた。プリントしたスライドガラスを100mm培養ディッシュの底に置き、そして約3mLの細胞懸濁液(2〜4×104細胞/mL)を添加し、安全キャビネットの内側で室温にて15分間にわたってインキュベートした。インキュベーション後、新鮮な培地をこのディッシュに静かに注いだ。次いで、このディッシュを37℃、5% CO2のインキュベーターに移し、2〜3日間インキュベートした。インキュベーション後、本発明者らは、蛍光顕微鏡(IX−71、Olympus PROMARKETING,INC.,JPN)を用いて、増強された蛍光タンパク質(EFP、EGFP、およびDsRed2)の発現に基づいてトランスフェクト体を観察した。位相差画像を同じ顕微鏡を用いて撮った。両プロトコルにおいて、細胞をパラホルムアルデヒド(PFA)固定方法(PBS中の4% PFA、処理時間は、室温にて10分間)を用いることによって固定した。
【0272】
(レーザー走査および蛍光強度定量)
トランスフェクション効率を定量するために、本発明者らは、DNAマイクロアレイスキャナ(GeneTAC UC4×4、Genomic Solutions Inc.,MI)を使用した。総蛍光強度(任意の単位)を測定した後、表面積あたりの蛍光強度を計算した。
【0273】
(結果)
(フィブロネクチン支持局所的トランスフェクション)
トランスフェクションアレイチップを、図11に示されるように構築した。トランスフェクションアレイチップは、PLLコーティングされたスライドグラス上でDNA/トランスフェクション試薬およびフィブロネクチンを含む細胞培養液をマイクロプリントすることによって構築した。
【0274】
種々の細胞をこの実施例において用いた。これらの細胞は、通常使用される培養条件で培養した。これらの細胞はスライドガラスに付着することから、細胞は、効率よく取り込まれ、そしてアレイ上に与えられた位置でプリントされたDNAに対応する遺伝子を発現した。通常のトランスフェクション方法(例えば、カチオン性脂質またはカチオン性高分子媒介トランスフェクション)と比較すると、本発明の方法を用いた場合のトランスフェクション効率は、いずれも顕著に高かった。特に、トランスフェクトすることが困難とされていたHepG2、hMSCなどのような組織幹細胞でも、効率よくトランスフェクトされることが見出されたことは、特に重要である。hMSCの場合には、従来方法の約40倍以上の効率上昇が見られた。また、高密度アレイに必要な高い集積度も達成された(すなわち、アレイ上で隣接するスポット同士の間の夾雑が顕著に減っていた)。これは、EGFPおよびDs−REDのチェック状パターンのアレイを生成することによって確認した。ヒトMSCをこのアレイにおいて培養し、実質的にすべての空間解像度が示されるように対応する蛍光タンパク質を発現させた。その結果図12に示されるように、ほとんど夾雑していないことが明らかになった。プリント混合物の個々の成分の役割に関するこの研究に基づいて、種々の細胞に関して、トランスフェクション効率の最適化を行うことができる。
【0275】
(フィブロネクチンによる局所的トランスフェクションにおける効率化)
本発明者らの上述してきたデータを総合すると、フィブロネクチンなどの接着因子または細胞外マトリクスタンパク質と称されていたタンパク質は、細胞接着活性以外の活性を有することが明らかになった。そのような活性としては、種々の細胞によって異なるが、これらの活性は、トランスフェクション効率の上昇に関与していることがわかる。なぜなら、フィブロネクチンの有無で接着の様子を調べた結果(図8)によると、接着の状態自体は差異が見られなかったからである。
【0276】
(ヒト間葉系幹細胞の固相系トランスフェクションアレイ)
多様な種類の細胞に分化するヒト間葉系幹細胞(hMSC)の能力は、組織再生および組織復活を標的化する研究にとって特に興味深いものになっている。特に、これらの細胞の形質転換についての遺伝子解析は、hMSCの多能性を制御する因子を解明する上で、関心が高まっている。hMSCの研究は、所望の遺伝物質を用いたトランスフェクションが不可能な点にある。
【0277】
これを達成するために、従来の方法は、ウイルスベクターまたはエレクトロポレーションのいずれかの技術を含む。本発明者らが開発した複合体−塩という系を用いることにより、種々の細胞株(hMSCを含む)に対して高いトランスフェクション効率ならびに密集したアレイ中での空間的な局在の獲得を可能にする固相系トランスフェクションが達成された。固相系トランスフェクションの概略を、図13Aに示す。
【0278】
固相系トランスフェクションにより、インビボ遺伝子送達のために使用され得る「トランスフェクションパッチ」の技術的な達成ならびにhMSCにおける高スループットの遺伝子機能研究のための固相系トランスフェクションアレイ(SPTA)が可能になることが判明した。
【0279】
哺乳動物細胞をトランスフェクトするための多数の標準的な方法が存在するが、遺伝物質のhMSCへの導入については、HEK293、HeLaなどの細胞株を比較して不便かつ困難であることが知られている。従来使用されるウイルスベクター送達またはエレクトロポレーションのいずれも重要であるが、潜在的な毒性(ウイルス方法)、ゲノムスケールでの高スループット分析を受けにくいこと、およびインビボ研究に対して制限された適用性(エレクトロポレーションに関して)のような不便さが存在する。
【0280】
固相支持体に簡便に固定することができ、かつ徐放性および細胞親和性を保持した固相支持体固定系が開発されたことにより、これらの欠点のほとんど克服することができた。
【0281】
上述の実験の結果の一例を、図13Bに示す。マイクロプリンティング技術を使用する本発明者らの技術を用いて、選択された遺伝物質、トランスフェクション試薬および適切な細胞接着分子、ならびに塩を含む混合物を、固体支持体上に固定化し得た。混合物を固定化した支持体の上での細胞培養は、その培養細胞に対する、混合物中の遺伝子の取り込みを可能にした。その結果、支持体−接着細胞における、空間的に分離したDNAの取り込みを可能にした(図13B)。
【0282】
本実施例の結果、いくつかの重要な効果が達成された:高いトランスフェクション効率(その結果、統計学的に有意な細胞集団が研究され得る)、異なるDNA分子を支持する領域間の低い相互夾雑(その結果、個々の遺伝子の効果が、別々に研究され得る)、トランスフェクト細胞の長期生存、高スループットの互換性のある形式および簡便な検出方法。SPTAは、これらの基準を全て満たすことは、さらなる研究のための適切な基盤となることになる。
【0283】
これらの目的の達成を明確に確立するために、上述のように本発明者らは、5種類の異なる細胞株(HEK293、HeLa、NIH3T3、HepG2およびhMSC)を、本発明者らの方法論(固相系でのトランスフェクション)(図13Aおよび図13Cを参照のこと)および従来の液相系トランスフェクションの両方を用いて一連のトランスフェクション条件下で研究した。SPTAの場合、相互夾雑を評価するために、本発明者らは、チェック模様のパターンでガラス支持体上にプリントした赤色蛍光タンパク質(RFP)および緑色蛍光タンパク質(GFP)を使用し、一方、従来の液相系トランスフェクションを含む実験の場合(ここで、本来、トランスフェクト細胞の自発的な空間的分離は達成され得ない)、本発明者らは、GFPを使用した。いくつかのトランスフェクション試薬を評価した:4つの液体トランスフェクション試薬(Effectene、TransFastTM、TfxTM−20、LopofectAMINE 2000)、2つのポリアミン(SuperFect、PolyFect)、ならびに2つの型のポリイミン(JetPEI(×4)およびExGen 500)。
【0284】
トランスフェクション効率:トランスフェクション効率を、単位面積あたりの総蛍光強度として決定した(図14A。図14Bはそのイメージを示す。)。使用した細胞株に従って、最適な液相の結果を、異なるトランスフェクション試薬を用いて得た(図14C−Dを参照のこと)。次いで、これらの効率的なトランスフェクション試薬を、固相系プロトコルの最適化に使用した。いくつかの傾向が観察された:容易にトランスフェクト可能な細胞株(例えば、HEK293、HeLa、NIH3T3)の場合、固相系プロトコルで観察されたトランスフェクション効率は、標準的な液相系プロトコルと比較してわずかに優れていたが、本質的に類似したレベルで達成されている(図14)。
【0285】
しかし、細胞をトランスフェクトするのが困難な場合(例えば、hMSCおよびHepG2)においてSPTA方法論に最適化した条件を用いることによって、本発明者らは、細胞の特徴を維持しながら、トランスフェクション効率が40倍まで増加したことを観察した(上述のプロトコルおよび図14C−Dを参照のこと)。hMSCの特定の場合(図15)、最良条件は、ポリエチレンイミン(PEI)トランスフェクション試薬の使用を含んだ。予想したように、高いトランスフェクション効率を実現するための重要な因子は、ポリマー内の窒素原子(N)の数とプラスミドDNA内のリン酸残基(P)の数との間の電荷バランス(N/P比率)、ならびにDNA濃度である。一般的に、N/P比率および濃度における増大は、トランスフェクション効率の増大を生じる。並行して、本発明者らは、hMSCの溶液トランスフェクション実験における高いDNAおよび高いN/P比率の場合に、細胞生存率の有意な低下を観察した。これら2つの拮抗因子に起因して、hMSCの液相系トランスフェクションの効率は、かなり悪い非常に低い細胞生存率(N/P比率>10で観察された)であった。しかし、SPTAプロトコルは、細胞生存率にも細胞形態にも有意に影響を与えることなく、非常に高い(固体支持体に固定された)N/P比率およびDNA濃度を許容し(おそらく、細胞膜に対する固体支持体の安定化効果に起因する)、従って、このことがおそらく、トランスフェクション効率の劇的な改善の原因となっている。SPTAの場合、10のN/P比率が最適であることが見出され、細胞毒性を最小化しながら十分なトランスフェクションレベルを提供する。SPTAプロトコルにおいて観察されたトランスフェクション効率の増大に関するさらなる理由は、高い局所的なDNA濃度/トランスフェクション試薬濃度(これは、液相系トランスフェクション実験において使用される場合は細胞死を生成する)の達成である。
【0286】
チップ上での高いトランスフェクション効率の達成のための重要な点は、使用されるガラスコーティングである。PLLが、トランスフェクション効率および相互夾雑の両方に関して、最良の結果を提供することを発見した(下記に考察する)。フィブロネクチンコーティングしない場合、少数のトランスフェクト体を観察した(他のすべての実験条件は一定に保った)。完全に確立したわけではないが、フィブロネクチンの役割はおそらく、細胞接着プロセスを加速し(データは示していない)、ゆえに、表面を離れたDNA拡散が可能になる時間を制限するということである。
【0287】
低い相互夾雑:SPTAプロトコルで観察されたより高いトランスフェクション効率は別として、本技術の重要な利点は、別個に分離された細胞アレイの実現であり、その各位置では、選択した遺伝子が発現する。本発明者らは、フィブロネクチンでコーティングしたガラス表面上に、JetPEI(「実験プロトコル」を参照のこと)およびフィブロネクチンと混合した2つの異なるレポーター遺伝子(RFPおよびGFP)をプリントした。得られたトランスフェクションチップを適切な細胞培養に提供した。最良であると見出された実験条件下において、発現されたGFPおよびRFPは、それぞれのcDNAがスポットされた領域に局在した。相互夾雑はほとんど観察されなかった(図16)。しかし、フィブロネクチンまたはPLLの非存在下において、相互夾雑は重要であり、そしてトランスフェクション効率は、有意に低かった(図6)。このことは、接着した細胞の割合と、支持体表面から離れて拡散するプラスミドDNAとの相対的な割合が、高いトランスフェクション効率および高い相互夾雑の両方に対して重要な因子であるという仮説を立証する。
【0288】
相互夾雑のさらなる原因は、固体支持体上のトランスフェクション細胞の移動性であり得る。本発明者らは、数個の支持体上での細胞接着速度(図16C)およびプラスミドDNAの拡散速度の両方を測定した。その結果は、最適条件下においてDNA拡散はほとんど生じないが、高い相互夾雑条件下において、表面からのプラスミドDNAの涸渇は、細胞接着が完了する時間までに相当な量であることを示した。
【0289】
この確立された技術は、経済的な高スループットの遺伝子機能スクリーニングの状況において特に重要である。実際に、必要とされるトランスフェクション試薬およびDNAの量が少量であること、ならびに全プロセス(プラスミドの単離から検出まで)を自動化が可能であることは、上記の方法の有用性を増大する。
【0290】
結論として、本発明者らは、アクチン作用物を用いた系で、hMSCトランスフェクションアレイを好首尾に実現した。このことは、多能性幹細胞の分化を制御する遺伝子機構の解明など、固相系トランスフェクションを利用した種々の研究における高スループット研究を可能にすることになる。固相系トランスフェクションの詳細な機構ならびに高スループットのリアルタイム遺伝子発現モニタリングに対するこの技術の使用に関する方法論は種々の目的に応用可能であることが明らかになった。
【0291】
(実施例5:RNAiトランスフェクションマイクロアレイ)
上記実施例に記載のようにアレイを作製し、今度は、遺伝物質として、プラスミドDNAとshRNAとを混合して使用した。その組成を以下の表2に示す。
【0292】
【表2】
結果を図17に示す。この図の結果を数値化したデータを、5種類の細胞について、図18にまとめた。
【0293】
このように、どのような細胞を用いたとしても、本発明の技術が適用可能であることが判明した。
【0294】
(実施例6:RNAiマイクロアレイ=siRNAを用いた場合)
上記実施例と同様のプロトコールを用いて、今度はshRNAの代わりにsiRNAを用いて、RNAiトランスフェクションマイクロアレイを構築した。
【0295】
以下の表の18種類の転写因子レポーターおよびActinプロモータベクターを用いて、各転写因子に対してのsiRNAを合成した28種類。また、コントロールとして、EGFPに対するsiRNAを用いて、siRNAが標的転写因子をノックダウンするか評価した。また、ネガティブコントロールとしては、scrambleRNAを用いて、これらの比を取って評価した。
【0296】
【表3】
各細胞への固相系トランスフェクション後、2日間培養し、蛍光イメージスキャナーにて画像取得後、蛍光量を定量化した。
【0297】
(結果)
結果を図19に示す。この結果を各遺伝子ごとにまとめたものを図11に示す。
【0298】
図19〜20から明らかなように、RNAiを用いた場合、各遺伝子が特異的に発現が抑制されていることが示された。RNAiを用いた複数の遺伝物質のアレイを実現することができ、RNAiであっても、アクチン作用物質の遺伝子導入の増強効果が確認された。
【0299】
(実施例7:PCR断片を用いたトランスフェクションアレイ)
次に、PCR断片を遺伝物質として用いた場合でも、本発明が実現可能であることを実証した。以下にその手順を示す。
【0300】
PCRにより、図21に記載のような核酸断片を取得し、トランスフェクションマイクロアレイに用いる遺伝物質とした。その手順を以下に示す。
【0301】
PCRプライマーとしては、
GG ATAACCGTATTACCGCCATG CAT(配列番号12)と
ccctatctcggtctattcttttg CAAAAGAATAGACCGAGATA GGG(配列番号13)とを使用して、テンプレートとして、pEGFP−N1を用いた(図22を参照)。PCRの条件は、以下のとおりである。
【0302】
【表4】
サイクル条件:94℃2min→(94℃15sec→60℃30sec→68℃ 3min)→ 4℃(括弧内を30サイクル)
得られたPCR フラグメントは、フェノール/クロロフォルム抽出を行い、エタノール沈殿法にて精製した。そのPCR断片の配列は、
【0303】
【化1】
に記載のとおりである。
【0304】
これを用いて作製したチップに、MCF7を播種し、2日後に蛍光イメージスキャナーにて画像を取得した。その結果を図23に示す。図23では、環状DNAとPCRフラグメントとの比較を行っている。どちらの場合も、トランスフェクションがうまく行われており、PCR断片を遺伝物質として使用した場合でも、全長プラスミドと同様にトランスフェクションされ、塩の固定効果およびそれによる遺伝子導入の増強効果が確認された。
【0305】
(実施例8:支持体の種類)
次に、固相支持体として、ガラスの他に、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチックを用いた場合に、同様のアクチン作用物質の効果が見られることを確認する。
【0306】
これらの材料を松浪硝子などから入手する。そして、上記実施例に記載されるように、アレイを作製する。
【0307】
その結果、使用した材料において、同様のアクチンの効果が見られることが示される。
【0308】
(実施例9:テトラサイクリン依存性プロモーターを用いた遺伝子発現調節)
上記実施例と同様に、テトラサイクリン依存性プロモーターを用いて遺伝子発現調節がどのようになされるかをプロファイルとして生成することができることを実証した。使用した配列は以下のとおりである。
【0309】
テトラサイクリン依存性プロモーター(およびその遺伝子ベクター構築物)としては、BD BiosciencesのpTet offおよびpTet onベクター系を用いた(http://www.clontech.com/techinfo/vectors/cattet.shtmlを参照)。ベクターは、pTRE-d2EGFPを利用した(http://www.clontech.com/techinfo/vectors/vectorsT-Z/pTRE-d2EGFP.shtmlに記載されている)。
【0310】
【化2】
【0311】
【化3】
(プロトコル)
アレイ基板上に、テトラサイクリン依存性プロモーターと、非依存性プロモーターとをプリントし、同一基板上においてテトラサイクリンによる遺伝子発現調節がされるかどうかをリアルタイムで計測した。その結果を、図24に示す。図24に示されるように、依存性プロモーターでのみ遺伝子発現の変化が測定された。図25には、非依存性と依存性とにおける発現の実際の様子を写真として示す。このように、肉眼でもはっきりわかる程度に比較可能に変化が測定可能となる。
【0312】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0313】
本発明により、固相でも液相でも実施することができる、トランスフェクションの効率上昇が達成された。このようなトランスフェクション効率上昇試薬は、特に固相でのトランスフェクションを実施するために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0314】
【図1】図1は、HEK293細胞を用いた場合の種々のアクチン作用物質およびコントロールとしてのゼラチンを用いた結果の一例を示す。
【図2】図2は、フィブロネクチンのフラグメントを用いた場合のトランスフェクション効率の結果の一例を示す。
【図3】図3は、フィブロネクチンのフラグメントを用いた場合のトランスフェクション効率の結果の一例を示す。
【図4】図4は、図2および図3からまとめたフィブロネクチンのフラグメントを用いた場合のトランスフェクション効率の結果の一例を示す。
【図5】図5は、種々の細胞におけるトランスフェクション効率を調べた結果の一例を示す。
【図6】図6は、種々のプレートを用いた場合のトランスフェクションの状態を示す結果の一例を示す。
【図7】図7は、フィブロネクチンの濃度を0、0.27、0.53、0.8、1.07および1.33(それぞれμg/μL)として種々のプレート上でトランスフェクションを行った場合の結果を示す。
【図8】図8は、フィブロネクチンの有無での、細胞接着プロファイルを示す写真の一例を示す。
【図9】図9は、フィブロネクチンの有無での、細胞接着プロファイルを示す切片写真の一例を示す。
【図10】図10は、核の表面積の推移を示す。
【図11】図11は、トランスフェクションアレイチップとして構築した場合のトランスフェクション実験の結果の一例を示す。
【図12】図12は、アレイ上での各スポット間の夾雑の様子を示す一例である。
【図13−1】図13は、実施例4における本発明の固相トランスフェクションによって、空間的に分離したDNAの細胞内への取り込みを示す図である。図13Aは、固相系トランスフェクションアレイ(SPTA)作製方法を模式的に示した図である。この図は、固相トランスフェクションの方法論を示す。図13Bは、固相トランスフェクションの結果を示す。HEK293細胞株を用いてSPTAを作製した結果を示す。緑色の部分は、トランスフェクションされた付着細胞を示す。この結果から、本発明の方法によって、空間的に分離された、異なる遺伝子によってトランスフェクトされた細胞の集団を調製することが可能となった。
【図13−2】図13Cは、従来の液相トランスフェクションとSPTAとの差異を示す。
【図14−1】図14Aおよび図14Bは、液相トランスフェクションとSPTAの比較を示す結果である。図14Aは、実験に用いた5つの細胞株について、GFP強度/mm2を測定した結果を示す。図14Aは、トランスフェクション効率を、単位面積あたりの総蛍光強度として決定する方法を示す。図14Bは、図14Aの示すデータに対応する、EGFPを発現する細胞の蛍光画像である。図14Bにおいて、白丸で示された領域は、プラスミドDNAを固定化した領域を示す。プラスミドDNAを固定化した領域以外の領域では、細胞が固相に固定化されたにもかかわらず、EGFPを発現する細胞は観察されなかった。白棒は、500μmを示す。
【図14−2】図14Cは、本発明のトランスフェクション法の一例を示す。
【図14−3】図14Dは、本発明のトランスフェクション法の一例を示す。
【図15】図15は、チップのコーティングによって相互夾雑が低減された結果を示す。図15は、HEK293細胞、HeLa細胞、NIT3T3細胞(「3T3」として示す)、HepG2細胞、およびhMSCを用いて、液相トランスフェクション法およびSPTAを行った結果を示す。トランスフェクション効率を、GFP強度で示す。
【図16−1】図16は、各スポット間の相互夾雑に関する様子を示す図である。APSまたはPLL(ポリ−L−リジン)でコーティングしたチップに対して、所定の濃度のフィブロネクチンを含む核酸混合物を固定化し、その固定化したチップを用いて細胞トランスフェクションした結果、相互夾雑は観察されなかった(上段および中断)。これに対して、チップをコーティングしなかった場合、固定化核酸の有意な相互夾雑が観察された(下段)。
【図16−2】図16Cは、核酸の固定化において使用する混合物中に使用される物質の種類と、細胞接着速度との相関関係を示す。このグラフは、時間経過に伴う、接着細胞の割合の増加を示す。グラフの傾きが緩やかな場合は、グラフの傾き急な場合と比較して、より多くの時間が細胞接着に必要なことを示す。
【図16−3】図16Dは、図16C中のグラフを拡大して示したものである。
【図17】図17は、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を示す。固相基板上に表3に示す各レポーター遺伝子を一遺伝子あたり4スポットになるようプリントし、乾燥後、各転写因子に対してのsiRNA(28種類)を対応したレポーター遺伝子がプリントされている座標上にプリントし、乾燥させた。また、コントロールとして、EGFPに対するsiRNAを用い、ネガティブコントロールとしては、scrambleRNAをもちいた。その後、、LipofectAMINE2000を各遺伝子プリント同一座標にプリントし乾燥させた。その後、フィブロネクチン溶液を同一座標に重ねてプリントし乾燥させた。これに、HeLa-K細胞を播種し、2日間培養を行った後に、蛍光イメージスキャナにて画像を取得した。
【図18A】図18Aは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図18B】図18Bは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図18C】図18Cは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図18D】図18Dは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図18E】図18Eは、実施例5におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図19】図19は、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を示す。固相基板上に表3に示す各レポーター遺伝子発現ユニットPCR断片を一遺伝子あたり4スポットになるようプリントし、乾燥後、各転写因子に対してのsiRNA(28種類)を対応したレポーター遺伝子がプリントされている座標上にプリントし、乾燥させた。また、コントロールとして、EGFPに対するsiRNAを用い、ネガティブコントロールとしては、スクランブルRNAをもちいた。その後、、LipofectAMINE2000を各遺伝子プリント同一座標にプリントし乾燥させた。その後、フィブロネクチン溶液を同一座標に重ねてプリントし乾燥させた。これに、各細胞を播種し、2日間培養を行った後に、蛍光イメージスキャナにて画像を取得した。
【図20A】図20Aは、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図20B】図20Bは、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図20C】図20Cは、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図20D】図20Dは、実施例6におけるRNAiトランスフェクションアレイのトランスフェクション結果を細胞ごとに示す。各レポーターの蛍光輝度を画像解析によって定量化した後に、ネガティブコントロールであるスクランブルRNAをプリントした各レポーターの輝度に対する比率を算出した。これを、各レポーター・各細胞に対してすべて行った結果を示している。
【図21】図21は、実施例7において得たPCR断片の構造を示す。
【図22】図22は、pEGFP−N1の構造を示す。
【図23】図23は、環状DNAとPCR断片とを用いたトランスフェクションマイクロアレイのトランスフェクト効率の比較を示す。
【図24】図24は、テトラサイクリン依存性プロモーターを使用したときの変化の様子を示す。
【図25】図25は、テトラサイクリン依存性プロモーターおよびテトラサイクリン非依存性プロモーターを用いたときの、発現の様子を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0315】
(配列表の説明)
配列番号1:フィブロネクチンの核酸配列(ヒト)
配列番号2:フィブロネクチンのアミノ酸配列(ヒト)
配列番号3:ビトロネクチンの核酸配列(マウス)
配列番号4:ビトロネクチンのアミノ酸配列(マウス)
配列番号5:ラミニンの核酸配列(マウスα鎖)
配列番号6:ラミニンのアミノ酸配列(マウスα鎖)
配列番号7:ラミニンの核酸配列(マウスβ鎖)
配列番号8:ラミニンのアミノ酸配列(マウスβ鎖)
配列番号9:ラミニンの核酸配列(マウスγ鎖)
配列番号10:ラミニンのアミノ酸配列(マウスγ鎖)
配列番号11:フィブロネクチンのアミノ酸配列(ウシ)
配列番号12:実施例7で用いたプライマー1
配列番号13:実施例7で用いたプライマー2
配列番号14:実施例7のPCR反応できたPCR断片
配列番号15:実施例9において使用されるTet-Offの配列
配列番号16:実施例9において使用されるTet-onの配列
配列番号17:ラミニンの5アミノ酸分子(実施例1)
配列番号18:実施例9において使用されるpTRE−d2EGFPの配列
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物であって、
(a)アクチン作用物質、
を含む、組成物。
【請求項2】
前記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アクチン作用物質は、フィブロネクチン、ラミニンおよびビトロネクチンからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質またはその改変体もしくはフラグメントを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アクチン作用物質は、
(a−1)Fn1ドメインである配列番号11のアミノ酸21位〜アミノ酸241位を少なくとも有するタンパク質分子またはその改変体;
(a−2)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質分子またはその改変体もしくはそのフラグメント;
(b)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
を含む、組成物。
【請求項5】
前記Fn1ドメインは、配列番号11のアミノ酸21位〜アミノ酸577位を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記Fn1ドメインを有するタンパク質分子は、フィブロネクチンまたはその改変体もしくはフラグメントである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
さらに遺伝子導入試薬を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記遺伝子導入試薬は、カチオン性高分子、カチオン性脂質およびリン酸カルシウムからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
さらに、粒子を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記粒子は、金コロイドを含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
さらに、塩を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記塩は、緩衝剤に含まれる塩類および培地に含まれる塩類からなる群より選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
遺伝子導入効率を上昇させるためのキットであって、
(a)アクチン作用物質を含む組成物;および
(b)遺伝子導入試薬、
を備える、キット。
【請求項14】
標的物質を細胞内へ導入するための組成物であって、
A)標的物質、
B)アクチン作用物質、
を含む、組成物。
【請求項15】
前記標的物質は、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体からなる群より選択される物質を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
さらに、遺伝子導入試薬を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、請求項14に記載の組成物。
【請求項19】
液相として存在する、請求項14に記載の組成物。
【請求項20】
固相として存在する、請求項14に記載の組成物。
【請求項21】
標的物質を細胞に導入するためのデバイスであって、
A)標的物質;および
B)アクチン作用物質、
を含む、組成物が、固相支持体に固定された、デバイス。
【請求項22】
前記標的物質は、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体からなる群より選択される物質を含む、請求項21に記載のデバイス。
【請求項23】
前記標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む、請求項21に記載のデバイス。
【請求項24】
遺伝子導入試薬をさらに含む、請求項23に記載のデバイス。
【請求項25】
前記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、請求項21に記載のデバイス。
【請求項26】
前記固相支持体は、プレート、マイクロウェルプレート、チップ、スライドグラス、フィルム、ビーズおよび金属からなる群より選択される、請求項21に記載のデバイス。
【請求項27】
前記固相支持体は、コーティング剤でコーティングされる、請求項21に記載のデバイス。
【請求項28】
前記コーティング剤は、ポリ−L−リジン、シラン、MAS、疎水性フッ素樹脂および金属からなる群より選択される物質を含む、請求項27に記載のデバイス。
【請求項29】
標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための方法であって、
A)標的物質を提供する工程;
B)アクチン作用物質を提供する工程;
C)該標的物質および該アクチン作用物質を該細胞に接触させる工程、
を包含する、方法。
【請求項30】
前記標的物質は、DNA、RNA、ポリペプチド、糖、およびこれらの複合体からなる群より選択される物質を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
遺伝子導入試薬を提供する工程をさらに包含し、該遺伝子導入試薬は、前記細胞に接触される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記工程は、液相中で行われる、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
前記工程は、固相上で行われる、請求項29に記載の方法。
【請求項36】
標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための方法であって、
I)A)標的物質;および
B)アクチン作用物質、を含む組成物、
を固体支持体に固定する工程、
II)該固体支持体上の該組成物に細胞を接触させる工程、
を包含する、方法。
【請求項37】
前記標的物質は、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体からなる群より選択される物質を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
遺伝子導入試薬を提供する工程をさらに包含し、該遺伝子導入試薬は、前記細胞に接触される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記遺伝子導入試薬の提供後に、前記標的物質である前記DNAと複合体を形成する工程をさらに包含し、その後、前記アクチン作用物質が提供されることにより前記組成物が提供される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、請求項36に記載の方法。
【請求項1】
標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための組成物であって、
(a)アクチン作用物質、
を含む、組成物。
【請求項2】
前記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アクチン作用物質は、フィブロネクチン、ラミニンおよびビトロネクチンからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質またはその改変体もしくはフラグメントを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アクチン作用物質は、
(a−1)Fn1ドメインである配列番号11のアミノ酸21位〜アミノ酸241位を少なくとも有するタンパク質分子またはその改変体;
(a−2)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質分子またはその改変体もしくはそのフラグメント;
(b)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2または11に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
を含む、組成物。
【請求項5】
前記Fn1ドメインは、配列番号11のアミノ酸21位〜アミノ酸577位を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記Fn1ドメインを有するタンパク質分子は、フィブロネクチンまたはその改変体もしくはフラグメントである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
さらに遺伝子導入試薬を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記遺伝子導入試薬は、カチオン性高分子、カチオン性脂質およびリン酸カルシウムからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
さらに、粒子を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記粒子は、金コロイドを含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
さらに、塩を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記塩は、緩衝剤に含まれる塩類および培地に含まれる塩類からなる群より選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
遺伝子導入効率を上昇させるためのキットであって、
(a)アクチン作用物質を含む組成物;および
(b)遺伝子導入試薬、
を備える、キット。
【請求項14】
標的物質を細胞内へ導入するための組成物であって、
A)標的物質、
B)アクチン作用物質、
を含む、組成物。
【請求項15】
前記標的物質は、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体からなる群より選択される物質を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
さらに、遺伝子導入試薬を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、請求項14に記載の組成物。
【請求項19】
液相として存在する、請求項14に記載の組成物。
【請求項20】
固相として存在する、請求項14に記載の組成物。
【請求項21】
標的物質を細胞に導入するためのデバイスであって、
A)標的物質;および
B)アクチン作用物質、
を含む、組成物が、固相支持体に固定された、デバイス。
【請求項22】
前記標的物質は、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体からなる群より選択される物質を含む、請求項21に記載のデバイス。
【請求項23】
前記標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む、請求項21に記載のデバイス。
【請求項24】
遺伝子導入試薬をさらに含む、請求項23に記載のデバイス。
【請求項25】
前記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、請求項21に記載のデバイス。
【請求項26】
前記固相支持体は、プレート、マイクロウェルプレート、チップ、スライドグラス、フィルム、ビーズおよび金属からなる群より選択される、請求項21に記載のデバイス。
【請求項27】
前記固相支持体は、コーティング剤でコーティングされる、請求項21に記載のデバイス。
【請求項28】
前記コーティング剤は、ポリ−L−リジン、シラン、MAS、疎水性フッ素樹脂および金属からなる群より選択される物質を含む、請求項27に記載のデバイス。
【請求項29】
標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための方法であって、
A)標的物質を提供する工程;
B)アクチン作用物質を提供する工程;
C)該標的物質および該アクチン作用物質を該細胞に接触させる工程、
を包含する、方法。
【請求項30】
前記標的物質は、DNA、RNA、ポリペプチド、糖、およびこれらの複合体からなる群より選択される物質を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
遺伝子導入試薬を提供する工程をさらに包含し、該遺伝子導入試薬は、前記細胞に接触される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記工程は、液相中で行われる、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
前記工程は、固相上で行われる、請求項29に記載の方法。
【請求項36】
標的物質の細胞への導入効率を上昇させるための方法であって、
I)A)標的物質;および
B)アクチン作用物質、を含む組成物、
を固体支持体に固定する工程、
II)該固体支持体上の該組成物に細胞を接触させる工程、
を包含する、方法。
【請求項37】
前記標的物質は、DNA、RNA、ポリペプチド、糖およびこれらの複合体からなる群より選択される物質を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記標的物質は、トランスフェクトされるべき遺伝子配列をコードするDNAを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
遺伝子導入試薬を提供する工程をさらに包含し、該遺伝子導入試薬は、前記細胞に接触される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記遺伝子導入試薬の提供後に、前記標的物質である前記DNAと複合体を形成する工程をさらに包含し、その後、前記アクチン作用物質が提供されることにより前記組成物が提供される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記アクチン作用物質は、細胞外マトリクスタンパク質またはその改変体もしくはそのフラグメントである、請求項36に記載の方法。
【図4】
【図5】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13−2】
【図14−2】
【図14−3】
【図16−2】
【図16−3】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図18D】
【図18E】
【図19】
【図20A】
【図20B】
【図20C】
【図20D】
【図21】
【図24】
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図8】
【図9】
【図13−1】
【図14−1】
【図15】
【図23】
【図25】
【図5】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13−2】
【図14−2】
【図14−3】
【図16−2】
【図16−3】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図18D】
【図18E】
【図19】
【図20A】
【図20B】
【図20C】
【図20D】
【図21】
【図24】
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図8】
【図9】
【図13−1】
【図14−1】
【図15】
【図23】
【図25】
【公表番号】特表2006−519026(P2006−519026A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507661(P2006−507661)
【出願日】平成16年3月3日(2004.3.3)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002696
【国際公開番号】WO2004/079332
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年3月3日(2004.3.3)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002696
【国際公開番号】WO2004/079332
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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