説明

標的物質の高感度検出方法、検出用キットおよび検出装置

【課題】極微量の標的物質を高感度に検出する。
【解決手段】標的物質または標的物質含有複合体とビオチン化物質の結合を利用して標的物質を測定する方法において、標的物質もしくは標的物質含有複合体とビオチン化物質からなる群から選ばれる少なくとも1種がタンパク質であり、かつ、以下の工程を含むことを特徴とする方法:
(i)該ビオチン化物質に標識されていてもよい多価アビジン系物質とビオチン多量体をこの順にあるいは同時に作用させる工程、
(ii)前記工程(i)を少なくとも2回繰り返す工程、必要に応じてさらに
(iii)標識された多価アビジン系物質を作用させる工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的物質を高感度に検出する方法、キットおよび装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液、血清などの生体由来の検体中の抗原、抗体、ペプチド、多糖などの標的物質を検出する手法としては、免疫学的測定法、特にELISA法が知られている。ELISA法は微量物質を高感度かつ簡便に検出できるため、汎用されているが、ELISA法の検出限界は100pM程度であり、より微量の物質の検出は困難であった。
【0003】
標的物質を抗体、ビオチン化二次抗体、蛍光標識されたアビジンを用いて検出する方法も知られているが、この方法でもELISA法と同様に、検出限界は不十分であった。
【0004】
近年、腫瘍マーカーなどの各種疾患マーカーとしてピコモルからフェムトモルオーダーの微量物質が見つかってきており、このような微量物質の検出には、より高感度の測定法が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、より検出限界が低く、より高感度に標的物質(特に生体由来の標的物質)を検出する方法、キットおよび装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の方法およびキットを提供するものである。
1. 標的物質または標的物質含有複合体とビオチン化物質の結合を利用して標的物質を測定する方法において、標的物質もしくは標的物質含有複合体とビオチン化物質からなる群から選ばれる少なくとも1種がタンパク質であり、かつ、以下の工程を含むことを特徴とする方法:
(i)該ビオチン化物質に標識されていてもよい多価アビジン系物質とビオチン多量体をこの順にあるいは同時に作用させる工程、
(ii)前記工程(i)を少なくとも2回繰り返す工程、必要に応じてさらに
(iii)標識された多価アビジン系物質を作用させる工程。
2. 多価アビジン系物質がストレプトアビジンである、項1に記載の方法。
3. 多価アビジン系物質の標識が、FITCなどの蛍光標識、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、β−グルクロニダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼなどの酵素標識からなる群から選ばれる、項1または2に記載の方法。
4. 工程(i)を2回以上繰り返す項1〜3のいずれかに記載の方法。
5. ビオチン化物質が、あらかじめブロッキングされた支持体に適用される、項1〜4のいずれかに記載の方法。
6. 前記支持体が、プレートまたはキャピラリーである、項5に記載の方法。
7. ビオチン化物質が、ビオチン化抗体である項1〜6のいずれかに記載の方法。
8. ビオチン多量体、標識された多価アビジン系物質、必要に応じてさらに非標識の多価アビジン系物を各々単独で、あるいは、ビオチン多量体と多価アビジン系物質を予め結合させた状態で含む、標的物質の測定用キット
9. ビオチン化抗体をさらに含む、項8に記載のキット。
10. 標的物質が疾患マーカーであり、該疾患の診断用である項1〜7のいずれかに記載の方法、あるいは項8〜9のいずれかに記載のキット。
11. 標的物質を含む検体をキャピラリーに導入する手段、前記キャピラリーにビオチン多量体と標識されていてもよい多価アビジン系物質を各々含む処理液を各1回以上送液する手段、必要に応じてさらに標識された多価アビジン系物質を送液する手段、標識の検出手段を備えた、検体中の標的物質の検出装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、標識されていてもよい多価アビジン系物質とビオチンダイマーの結合反応を繰り返すことにより従来法では検出できない10ピコモル以下、例えば1ピコモルからサブピコモルないしフェムトモルレベルまでの非常に低濃度の標的物質を検出することができる。例えば癌や高血圧、動脈硬化、糖尿病などの成人病、さらには花粉症や食物アレルギーなどのマーカーは、非常に低濃度のものが多いが、本発明によれば、きわめて低濃度のマーカー物質を検出することができ、初期の段階での疾患の診断に有用であり、例えば癌の早期発見にもつながるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、「ビオチン化物質」とは、少なくとも1個のビオチン残基が結合された物質を広く包含する。ビオチン化物質は、標的物質と直接結合してもよいし、標的物質含有複合体と結合してもよい。ビオチン化される物質としては、タンパク質であるか、タンパク質と結合可能な物質である。具体的には、好ましいビオチン化物質として、抗体、抗原、あるいは、タンパク質と結合可能な任意の生物由来の物質(ペプチド、糖脂質、多糖、核酸など)が挙げられる。特に好ましいビオチン化物質はビオチン化抗体である。該抗体は、標識物質を直接認識する抗体(一次抗体)であってもよく、一次抗体を認識する二次抗体であってもよい。
【0009】
標的物質は、動物、微生物、ウイルス、植物などの生物由来の物質が挙げられ、例えば哺乳類(例えばヒト、ウシ、ブタ、トリ、サル、イヌ、ネコなど、特にヒト)に由来ないし関係する物質が例示される。標的物質の種類としては、タンパク質、核酸、脂質、糖鎖、あるいは低分子の生理活性物質など、任意の物質が挙げられる。好ましい標的物質としては、疾患または疾患の前段階、あるいは将来的に疾患に罹患する可能性、疾患の予後などに関係するマーカー、リンフォカイン、サイトカイン、ホルモン、アレルゲン、プリオン、病原性の微生物ないしウイルスに関係する物質、インターフェロンなどが挙げられる。標的物質の具体例としては、花粉症、食物アレルギー、ダニアレルギー等のアレルギーにおける抗原ないし抗体(特にIgE)、寄生虫や病原性の微生物やウイルス由来の物質(タンパク質、糖、糖タンパク、糖脂質など)を認識可能であり、寄生虫、微生物、ウイルスなどによる感染を検出可能な抗体あるいはこれら寄生虫、微生物、ウイルスに由来する抗原、癌、高血圧、自己免疫疾患(自己抗体)、糖尿病(HbA1c、あるいはインスリン抵抗性に関するタンパク質)、高血圧、認知症、動脈硬化などの疾患に関連するマーカーが挙げられる。例えば微量の癌マーカーを検出することで、癌の早期発見が可能になる。
【0010】
標的物質と標的物質含有複合体は、ビオチン化物質と標的物質の直接の結合ができない場合に、標的物質と該物質に結合可能な他の物質の複合体とし、該複合体とビオチン化物質を結合させて、標的物質の検出を可能にするためのものである。標的物質含有複合体は、該複合体の標的物質とビオチン化物質が結合してもよいが、複合体を予め形成させる場合には、複合体の形成に関与する「他の物質」と「ビオチン化物質」が結合するのが通常である。
【0011】
本発明の標的物質、標的物質と結合可能な他の物質、ビオチン化物質の組み合わせを以下に例示する:
【0012】
【表1】

【0013】
標的物質を含む検体としては、血液、血清、血漿、尿、唾液、汗、あるいは、生検サンプル、組織切片などの生体の一部などが挙げられ、これらは、直接、あるいは、希釈、抽出、可溶化、溶解(lysis)、遠心分離、ろ過、薬剤処理などの任意の前処理を行った後、本発明の方法に供せられる。
【0014】
多価アビジン系物質としては、ストレプトアビジンが挙げられるが、ニュートラアビジンの多量体などこれ以外にも複数のビオチンと結合可能なアビジン系物質は広く包含される。
【0015】
ビオチン多量体(ビオチンダイマー、ビオチントリマー、ビオチンテトラマーなど)としては、ビオチンを2個以上有するものであれば特に限定されず、例えばポリエチレンオキサイド(PEO)、N-ヒドロキシスクシンイミド残基,スルホン酸基を有していてもよいマレイミド残基などを含む適当なスペーサーを介して複数のビオチンが結合されたものが挙げられる。
【0016】
多価アビジン系物質の標識としては、蛍光標識、酵素標識などが挙げられる。蛍光標識としては、FITC、FAM、TxR、Cy5、TAMRAなどが挙げられ、酵素標識としては、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、β−グルクロニダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼなどが挙げられる。標識としては、蛍光標識が好ましく、特にFITCが好ましい。
【0017】
本発明方法は、標的物質とビオチン化物質が直接または間接に結合し、得られた複合体を標識多価アビジン系物質により検出できる限り、どのような物質の組み合わせでもよいが、標的物質またはその複合体とビオチン化物質の1つ以上は抗体であるのが好ましい。
【0018】
以下、本発明を抗原(標的物質)、標的物質を認識する一次抗体、一次抗体を認識するビオチン化二次抗体を使用する免疫測定法を中心に説明するが、他の免疫測定法、あるいは、抗体を使用しない測定法にも本発明は適用することができる。
【0019】
例えば、マイクロタイタープレートなどのプレートあるいはキャピラリーなどの担体に一次抗体を結合させる。次に、該抗体に対する抗原(標的物質;検体中に含まれる)を結合させ、次に、二次抗体としてビオチン化抗体を抗原に結合させる。あるいは、担体に抗原を結合させた後、該抗原に対する抗体(標的物質;検体中に含まれる)を結合させ、次に、二次抗体としてビオチン化抗体を抗体(標的物質)に結合させても、同様にビオチン残基を有する複合体を担体に結合させることができる。
【0020】
抗体を使用しない場合には、酵素と実質的に非可逆的に結合する酵素阻害剤もしくは補酵素と酵素、受容体と実質的に非可逆的に結合するリガントと受容体、ウイルスのコート蛋白を構成する2種以上のタンパク質の組み合わせ、マルトース結合タンパク質とマルトースや糖鎖とレクチンなど、抗原抗体反応に類似した強固に結合した複合体を生じる組み合わせであれば、どのような組み合わせの場合でも同様に実施できる。ただし、得られたビオチン化複合体は、プレート(マイクロタイタープレートを含む)やキャピラリーなどの担体に結合し、洗浄液あるいは多価アビジン系物質、ビオチン多量体などを含む反応液を通液(担体がキャピラリーの場合)、あるいは添加および吸引除去(プレートの場合)などにより除去されない程度に担体に結合する必要がある。担体への結合は、吸着により好ましく行うことができるが、担体表面の官能基と共有結合などにより結合されてもよい。
【0021】
得られたビオチン化複合体に、多価アビジン系物質とビオチン多量体をこの順に反応させる。多価アビジン系物質とビオチン多量体のセットの処理を2回以上、好ましくは2〜20回、例えば6〜20回繰り返す。検体中のタンパク質の含有量が十分に多い場合には、多価アビジン系物質とビオチン多量体のセットの処理を2回繰り返すだけでも十分であるが、検体中のタンパク質の含有量が少なくなるにしたがって、繰り返しの回数を増やす必要がある。例えば0.01〜100pMのタンパク質の分子数は非常に多く、2〜5回の繰り返しで十分であるが、数分子から数十分子の極めて微量なタンパク質の検出を行う場合、繰り返しを増やす必要があり、例えば6回から20回、あるいはそれ以上(例えば50回まで)の繰り返しを行うこと望ましい。
【0022】
多価アビジン系物質とビオチン多量体の処理を1回行うごとに、ビオチン化抗原/抗体におけるビオチンの数を増加させることができる。また、多価アビジン系物質として蛍光物質ないし酵素などで標識された多価アビジン系物質を使用する場合には、その後の標識工程は不要になる。非標識の多価アビジン系物質を使用した場合には、最後に標識された多価アビジン系物質を作用させる。標識された多価アビジン系物質は、1つの標的物質に対して非常に多く結合することができ、高感度の測定が可能になる。
【0023】
本発明の1つの実施形態において、多価アビジン系物質とビオチン多量体の処理のセットは、1回行っただけでは効果が少なく、検出限界はせいぜい10nMであるが、2回行うと1pMまで大きく低下する。したがって、多価アビジン系物質とビオチン多量体の処理は、2回以上実施するのが特に好ましい。なお、標識されていてもよい多価アビジン系物質とビオチン多量体を予め1回または2回以上順次反応させておき、これをビオチン化複合体と反応させて、検出してもよい。
【0024】
ビオチン多量体/多価アビジン系物質を用いる処理を3回以上行う場合、ストレプトアビジンなどの多価アビジン系物質の濃度を一、二回目では低く抑え、三回、四回増幅時においてビオチンダイマーの濃度を高くすることで、シグナル増強と反復増幅回数を一致させ、シグナルを正確に増幅させることができる。このように、ビオチン多量体/多価アビジン系物質を用いる処理を2回以上行う場合、ビオチン多量体/多価アビジン系物質の使用量を段階的あるいは連続的に増加させるのが好ましい。
【0025】
図1に、従来の単純増幅法と本発明の増幅検出法の違いを模式的に示す。
【0026】
ビオチン化抗原/抗体に対して(標識されていてもよい多価アビジン系物質+ビオチン多量体)の処理を2回以上行い、次に、必要に応じて標識された多価アビジン系物質を作用させれば、該標識多価アビジン系物質はビオチン残基に結合して、複数の標識を導入することができる。標識がFITCなどの蛍光標識であれば、プレートリーダー等の蛍光検出器により、容易に高感度に検出できるので、好ましい。また標識が酵素の場合には、該酵素に対する基質を加えて、酵素の作用を受けた物質を対応する検出器で検出すればよい。
【0027】
本発明は、プレート上で実施してもよく、キャピラリーを用いて実施してもよい。例えば図2にキャピラリーチップを用いた本発明の実施の手順の一例を示す。
【0028】
キャピラリーに光誘導性架橋剤と抗原タンパク質または一次抗体などを導入し、キャピラリーの内壁に抗原タンパク質または一次抗体などの標的物質と特異的に結合可能な物質を結合させる。次に血液、血清、血漿などの標的物質を含む検体をキャピラリーに導入し、キャピラリー内壁に結合した物質と標的物質を結合させる。一方、標識されていてもよい多価アビジン系物質とビオチン多量体を含む処理液を交互に1回または2回以上繰り返して含むキャピラリーを別途作製しておき、検体が導入されたキャピラリーと、標識されていてもよい多価アビジン系物質処理液とビオチン多量体処理液を交互に含むキャピラリーを連結し、後者のキャピラリーから緩衝液などの液をポンプなどの送液手段により送液することにより、多数の標識多価アビジン系物質を標的物質に結合させることができる。この標識された標的物質を標識の検出器により測定することにより、検体中の標的物質を容易に検出することができる。もちろん、標識されていてもよい多価アビジン系物質とビオチン多量体を含む処理液を交互に充填したキャピラリーを使用する代わりに、検体を導入したキャピラリーに、切り替えバルブを介して標識されていてもよい多価アビジン系物質を含む処理液とビオチン多量体を含む処理液を交互に導入することにより、標識された標的物質をキャピラリー中で作製することも可能である。
【0029】
なお、プレートとキャピラリーのいずれを用いる場合でも、標的物質と結合可能な他の物質を吸着あるいは架橋剤により結合させた後、ブロッキング剤により非吸着/非結合表面をブロッキングするのが望ましい。ブロッキング剤としては、スキムミルク、カゼイン、BSA、HSAなどのアルブミン、ゼラチン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン重合体などの人工合成ポリマー、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0030】
本発明の1つの好ましい実施形態において、例えば0.01pM〜10pM程度の標的物質を検出する場合において、プレートまたはキャピラリーなどに結合される物質、標的物質、二次抗体、ビオチンダイマー、ストレプトアビジン、標識アビジンの好適な使用量を以下に例示する:
プレートまたはキャピラリーなどに結合される物質:
0.01〜100-pM標識物質:
0.01-pMビオチンダイマー:10-μM(1回目);10-μM(2回目);40-μM(3回目); 40-μM(4回目) ;40-μM(5回目)
標識ストレプトアビジン:1-μM(1回目);1-μM(2回目); 1-μM(3回目) ; 1-μM(4回目) ;5-μM(5回目) 。
【0031】
本発明のキットは、ビオチン多量体、標識された多価アビジン系物質、必要に応じてさらに非標識の多価アビジン系物質を各々単独で、あるいは、ビオチン多量体と多価アビジン系物質を予め結合させた状態で含む。標識された多価アビジン系物質は、1回のみ結合させてもよいが、2回以上(場合により全ての多価アビジン系物質として)標識された多価アビジン系物質を使用してもよいので、非標識の多価アビジン系物質を使用しなくてもよい。これらの各成分を緩衝液中に有する溶液としてキットに含まれるのが好ましい。
【0032】
該キットは、ビオチン化抗体をさらに含むことも可能である。例えば、標的物質がヒト抗体であり、抗原を標的抗体に結合させ、さらに、ヒト抗体を認識可能なビオチン化二次抗体を反応させる場合、標的物質の種類と無関係に、ヒト抗体を認識可能なビオチン化二次抗体が使用できる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。
実施例1
実験方法
ストレプトアビジン(Wako, 197-12853)を96穴プレート(Nunc社製、マキシソープ処理)に10-μmolから1-pmolを固定し、1-mg/ml BSAでブロッキング後、40-μl の10-μmol ビオチンダイマー(Pierce, 22020)、100μl の洗浄溶液(PBST, PBS (pH7.2). 1L, Tween 20. 0.5 ml.)、40μlの10-μmolストレプトアビジンtypeII (Wako, 198-11641)の各3溶液を交互に加えることでシグナル増幅反応を行い、さらに40μlの500-nmolのFITC-アビジンを加えた。シグナルの検出はバリアブルイメージアナライザーTyphoon(タイフーン、GEヘルスケアバイオサイエンス(株))を用いて検出を行った。ネガティブコントロール(対象実験)として40-μg BSAを貼付けたものでは3回増幅反応を行ってもシグナルの検出はされなかった。
結果
1-pmol ストレプトアビジンを固定化したプレート上でもシグナルの検出が可能であった。また、一回のシグナル増幅でもコントロールに比べて有為な差がみられた。しかし、ストレプトアビジン100-nmol以上では二回増幅した反応より一回増幅した反応の蛍光強度が高くなっており反復増幅回数とシグナル増強が一致しなかった。三回反復増幅では一、二回の反復増幅したものよりシグナル増強がみられた。
解釈
シグナル増幅反応が反復回収と一致しない理由としては反応に使用しているストレプトアビジンとビオチンダイマーの濃度が10-molと高く、通常のストレプトアビジンとビオチンダイマーの結合は非常に強いために一度結合すればほぼ不可逆的反応といわれているが、それら基質を高濃度で加えているために競合が起きている可能性が示唆された。一回と二回の反復増幅反応では二回目の反応時にシグナルがあまり増幅されないか、一回目の反応に比べてシグナルが低くなる現象がみられた。
【0034】
実施例2
シグナル増強と反復増幅回数が一致させるために、増幅時に用いるストレプトアビジンの濃度を一、二回目では低く抑え、三回増幅時にビオチンダイマーの濃度を高くすることでシグナルを正確に増幅させることを試みた。また、最後にFITC-アビジンを加えずに増幅反応にFITCストレプトアビジンを加えることでリアルタイムにシグナル増幅が観察できるように実験方法を変更した。一回、二回目の増幅反応では10-μmol ビオチンダイマー、1-μmol FITC-ストレプトアビジン (Wako, 195-12011)を、三回目の増幅反応から40-μmolのビオチンダイマーをそれぞれ用いて3回の反復増幅反応を行った。ストレプトアビジンを96穴プレートに10-μmolから1-pmolを固定し、1-mg/ml BSAでブロキング後、上記の反応溶液と100μl の洗浄溶液の各3溶液を交互に加えることでシグナル増幅反応を行い、シグナルの検出は同様にイメージアナライザータイフーンを用いて行った。
結果
以前は3回増幅反応において2回目の増幅反応では安定した検出が出来なかったが改善がみられた。以前の条件では順次、シグナルの増幅反応が見られたときでも1回目の反応に比べて、2回目および3回目のシグナル増強は僅かであったが、加えるストレプトアビジンやビオチンダイマーの濃度を低くコントロールすることで二回目の増強でもストレプトアビジン1-pmolでも検出が可能となった。
解釈
増幅反応溶液にFITC-ストレプトアビジンを用いることでリアルタイムでシグナルの増強がモニター出来ることが明かとなった。この方法を用いることで増強具合をリアルタイムでモニターし、対象となるタンパク量を初期の増幅過程で推測することも今後検討したい。ネガティブコントロール(対象実験)として40-μg BSAを貼付けたものでは3回増幅反応を行ったときのシグナルは、ストレプトアビジンを貼りつけたものと比べて数値は引くいものの、バックランドの上昇が観察された。今後、増幅反応を数十回と繰り返すためにはバックランドを低く抑える必要があり、検討を行った。
【0035】
実施例3
プレートにストレプトアビジンを結合させずにビオチンダイマーまたはビオチンを直接インキュベートした後、反復増幅反応を行ったところ非常に強いシグナル増幅が認められた。これによりタンパク質に結合能力のあるマキシソープ処理は一方でビオチンダイマーにも結合能をもたらせるようだ。この結果によりシグナル反復増幅時にバックランドが検出されるのはビオチンダイマーがプレートに非特異的に結合することが原因であることが明らかになった。そこで、ビオチンおよびビオチンダイマーを加える前に10-mg/mlから1-mg/ml BSAや2%スキムミルクを用いてブロッキング処理を行ったところバックランドを抑える効果が認められた。また、洗浄液(PBST)やビオチンダイマー溶液、ストレプトアビジン溶液等使用する全ての溶液に1-mg/mlになるようにBSAを加えることでもバックランドの抑制効果があるこが明らかになった。実験としてストレプトアビジンを96穴プレートに100-pmolから100-fmolを固定し、1-mg/ml BSAでブロッキング後、40-lの10-nmol ビオチンダイマー(in 1-mg/ml BSA)、100μl の洗浄溶液(PBST with 1mg/ml BSA)および40-μlの20-nmol FITC-ストレプトアビジン (in 1-mg/ml BSA)の各3溶液を交互に5回繰り返すことでシグナル増幅反応を行った。シグナルの検出は同様にイメージアナライザータイフーンを用いて行った。
結果
図5(A)および(B)は5回反復増幅反応を行ったときの結果を示す。現在のところ5回まで増幅反応しか行っていないが、原理的には20回でも50回でも増幅をコントロールすることが可能であろう。3回目の増幅反応は理想通りのシグナル増強が見られた。また、図5(B)の表にあるコントロールは1-mg/ml BSAを固定後、3回反復増幅したときの値を示している。BSAをコントロールに用いたシグナルの増幅ではバックランドがある程度抑えられているようである。
解釈
ストレプトアビジンを固定化した時、4回から5回の反応のシグナル増幅ではシグナルの伸び悩みが見られさらなる濃度の検討が必要である。一方、非特異的な反応についてはコントロールの3回の反復増幅ではストレプトアビジンを用いた時の増幅反応1回の値の三分の一程度のシグナルが認められ、今後、増幅を繰り返すとバックランドが急上昇する可能性もあり、さらなるバックランドを低く抑える必要があるようだ。
【0036】
応用例1、前立腺ガン確定診断
ELISA(イライザ)と呼ばれる分析方法は結果を得るまでほぼ1日を要する。イライザ法による分析結果は、検査限界までの含まれているタンパク質の含有量を定量出来る。しかし、限界検出量は100pg程度であり一分子レベルでの検出は困難である。他の検出手法でも多くの検出機器が開発されているが非常に高価であり安価で高感度検出ができる検出機器の開発が待たれている。反復シグナル増幅法は従来法では検出できないタンパク質の検出が容易に行うことが出来る画期的な方法である。この検査システムは少量のサンプル溶液を吸入するだけで検査が可能であり、超高感度の本システムは癌検診等に非常に有効である。例えば前立腺癌細胞で特異的に発現する遺伝子PCA-1は優れた前立腺腫瘍マーカーとして注目されている。通常の前立腺ガン検査は腫瘍マーカーであるPSA検査が行なわれるが前立腺肥大等の症状でも高い値を示すことがある。それに比べてPCA-1の有無により前立腺癌の同定が可能である(参考文献1, 2)。このPCA-1は血液中にも尿中にも排出されることが明らかとなっているがそれらに含まれる絶対量が少ないために検出するのが困難であった。高感度ELISA法を用いてもPCA-1を検出する限界量は100pg程度であり、前立腺ガン患者の約2割程度でしか確定診断が出来ない。本手法を用いてタンパク質分子の検出において約0.2-pgのタンパク質においても検出が可能であり、PCA-1マーカー分子による前立腺ガンの確定診断を実現できる可能性が高い。また、本方法を用いた検出システムとしてキャピラリー内で本手法の一連の増幅反応を繰り返すことは用意であり、キャピラリーに溶液を流すポンプ付シグナル検出器を組合せばall-in-one型の安価な装置の作成が可能である。
【0037】
応用例2、高血圧のモニター
CGRP(Calcitoningene-related peptide)は37個のアミノ酸からなるニューロペプチドであり、強力な血管弛緩作用を示す。このペプチドは高血圧症の誘導・進行・維持に重要な役割を担っていることが知られている(参考文献3)。このCGRPの増減をモニターすることが可能なら高血圧症の進行を把握できる。CGRPの血中濃度は100pg/ml以下であり、従来の方法ではモニターすることは困難であった。本反復シグナル増幅法を用いることにより簡便にCGRPの血中濃度を調べることが実現できる可能性がある。
【0038】
応用例3、アレルギー疾患確定診断
本反復シグナル増幅法による検出システムを使用することにより高速のアレルギー疾患の確定診断が可能になる。喘息や花粉症などアレルギー疾患の多くはアレルギー反応の原因物質がIgE抗体であることが明らかにされ、以後血液検査によりアレルゲンに対する特異的IgE抗体 を検査することにより、アレルギー反応が関係した疾患かどうか判定できる。現在行われている血液検査RAST (Radioallergosorbent test)は特定のアレルゲンに対する特異的IgE抗体を測定し病因アレルゲンを特定する。反復シグナル増幅法およびキャピラリーを用いた診断の高速化により従来のELISA法(検査に数日を要し、必要とされる血液量も数百μl)に比べて必要血液量が数μlと少なく、時間・コストを大幅に削減したアレルギー疾患診断装置が実現できる可能性が高い。
【0039】
参考文献1: Konishi N, Nakamura M, Ishida E, Shimada K, Mitsui E, Yoshikawa R, Yamamoto H, TsujikawaK. High expression of a new marker PCA-1 in human prostate carcinoma., Clin Cancer Res.,11(14):5090-7.(2005)

参考文献2: Sedgwick B., Repairing DNA-methylation damage.,Nat Rev Mol Cell Biol., 5(2):148-57. (2004)

参考文献3: Deng P.Y. and Li Y.J., Calcitonin gene-related peptide and hypertension.
Peptides., 26(9):1676-85. (2005)

参考文献4:眞鍋昇,後藤康文, 鈴木哲朗, Polymerase chain reaction(PCR)の応用:In situ PCR法., Journal of Reproduction and Development., 50(1), (2004)
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】プロテインチップにおける特異的IgE抗体の検出原理
【図2】キャピラリーチップによる特異的IgE抗体の検出の手順
【図3】実施例1の結果を示す。
【図4】実施例2の結果を示す。
【図5】実施例3の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質または標的物質含有複合体とビオチン化物質の結合を利用して標的物質を測定する方法において、標的物質もしくは標的物質含有複合体とビオチン化物質からなる群から選ばれる少なくとも1種がタンパク質であり、かつ、以下の工程を含むことを特徴とする方法:
(i)該ビオチン化物質に標識されていてもよい多価アビジン系物質とビオチン多量体をこの順にあるいは同時に作用させる工程、
(ii)前記工程(i)を少なくとも2回繰り返す工程、必要に応じてさらに
(iii)標識された多価アビジン系物質を作用させる工程。
【請求項2】
多価アビジン系物質がストレプトアビジンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
多価アビジン系物質の標識が、FITCなどの蛍光標識、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、β−グルクロニダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼなどの酵素標識からなる群から選ばれる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(i)を2回以上繰り返す請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ビオチン化物質が、あらかじめブロッキングされた支持体に適用される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記支持体が、プレートまたはキャピラリーである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ビオチン化物質が、ビオチン化抗体である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ビオチン多量体、標識された多価アビジン系物質、必要に応じてさらに非標識の多価アビジン系物を各々単独で、あるいは、ビオチン多量体と多価アビジン系物質を予め結合させた状態で含む、標的物質の測定用キット。
【請求項9】
ビオチン化抗体をさらに含む、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
標的物質が疾患マーカーであり、該疾患の診断用である請求項1〜7のいずれかに記載の方法、あるいは請求項8〜9のいずれかに記載のキット。
【請求項11】
標的物質を含む検体をキャピラリーに導入する手段、前記キャピラリーにビオチン多量体と標識されていてもよい多価アビジン系物質を各々含む処理液を各1回以上送液する手段、必要に応じてさらに標識された多価アビジン系物質を送液する手段、標識の検出手段を備えた、検体中の標的物質の検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−64475(P2008−64475A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239607(P2006−239607)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(899000046)関西ティー・エル・オー株式会社 (75)
【Fターム(参考)】