説明

標的物質検出素子、検出装置および検出方法

【課題】 簡便で高感度な標的物質検出方法、検出素子、検出装置を提供する。
【解決手段】 微粒子によって修飾された二次抗体を用いて該微粒子を測定することによって標的物質を定量化するサンドイッチ法による抗原抗体反応検査において、液晶の配向状態を利用して基板に固定化された微粒子の数を定量的に評価することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中の標的物質を検出する検出材料、検出素子、検出装置、検出方法、及びその製造方法に関するものである。本発明は、特に、生体由来の物質またはその類似物質の特異的な分子認識能を利用した、いわゆるバイオセンサに好適に応用できる。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサは生体や生体分子の持つ、優れた分子認識能を活用した計測デバイスである。生体内には、互いに親和性のある物質の組み合わせとして、例えば酵素−基質、抗原−抗体、DNA−DNA等がある。バイオセンサはこれらの組み合わせの一方を基材に固定または担持し、用いることによって、もう一方の物質を選択的に計測できるという原理を利用している。近年では、バイオセンサは医療分野のみならず、環境や食料品等への幅広い応用が期待され、その使用領域を広げるためにも、あらゆる場所に設置または持ち運び可能な小型、軽量、高感度なバイオセンサが望まれている。
【0003】
その高感度センシング方式のひとつが、微粒子の周囲に抗体を担持させた標識物質を用いる方法である。これは、標識物質を検体中の標的物質と反応させ、かつ該標的物質と基材に付与された抗体とを反応させる方法を用いたセンサであって、標識物質の測定により標的物質を定量的に評価することができる評価方法である。標的物質を二つの抗体で挟み込む構造になることから、一般にサンドイッチ法と称され、盛んに研究が進められている。この方法では、標的物質の存在の有無やその濃度を、該標識物質の測定によって容易に検知できるため、簡便で高感度なバイオセンサとしての応用が期待されている。その一つとして盛んに研究されているのが、基材として磁気センサを用い、微粒子中に磁性体を含有させた磁性微粒子からなる標識物質を用いた磁気バイオセンサである。その動作原理は次のとおりである。
【0004】
サンドイッチ法によって検体中の標的物質の有無や濃度を検出するための素子は、具体的には次のような働きによってセンシングが可能となる。まず、標的物質に存在する二つの異なる領域に対して、それぞれに特異的に結合する抗体を採用する。ここで基材表面上に、標的物質の一方の領域(抗原抗体反応の場合はエピトープと呼ばれる)と特異的に結合することができる第一の標的物質捕捉分子(抗原抗体反応の場合は一次抗体と呼ばれる)を固定する。次いで、該一次抗体と標的物質を含む検体と接触せしめることによって、基材の表面と検体中の標的物質とで抗原抗体反応を行う。その後、前記標的物質の他方の領域と、第二の標的物質捕捉分子(抗原抗体反応の場合は二次抗体と呼ばれる)を接触させることによって、抗原が二つの抗体によってサンドイッチされた状態が実現できる。ここで、該二次抗体が表面上に担持されている磁性微粒子を用いて抗原抗体反応を行えば、センサ素子表面に磁性標識が固定されることになる。この磁性標識の数を何らかの手法で測定する事で、目的とする標的物質の数や濃度を求めることが可能となる。
【0005】
また上述の反応とは順序が異なるが、予め標的物質を含む検体中に第二の標的物質捕捉分子を加えて標的物質と第二の標的物質捕捉分子を接触せしめ、「標的物質−第二の標的物質捕捉分子」複合体を形成させる。そしてその複合体をセンサ素子上に固定された第一の標的物質捕捉分子と接触させる事によって、結果的に磁性標識をセンサ素子表面に固定するという方法をとることも可能である。
【0006】
このような磁気検出の手法を用いた標的物質検出素子として、以下の手法が提案されている。
【0007】
(方法1)
標識としての磁性体を抗原抗体反応により検体に結合させ、該標識を磁化した上で、磁気センサとしてのSQUID(超電導量子干渉計)により該標識を検出する免疫検査方法が開示されている(例えば特許文献1。)。
【0008】
(方法2)
結合した磁性分子により形成される磁場を検知するための検知素子が半導体ホール素子を含むものであり、特定された磁性分子の量に基づいて測定対象物の分析を行うことを特徴とするバイオセンサが開示されている(例えば特許文献2。)。
【0009】
(方法3)
センサ素子上の第一の捕捉分子と標的分子を介した第二の捕捉分子に標識された磁性微粒子の磁気信号を、磁気抵抗効果素子を用いて検出する方法が開示されている(例えば特許文献3。)。
【0010】
(方法4)
一方、方法1〜3とは異なるバイオセンサ技術として、液晶を用いた方法4が知られている。詳細は非特許文献1および2、さらに特許文献4に記載されている。これらは上記の抗原抗体反応のうち、基材表面上に設けた第一の標的物質捕捉分子(抗原抗体反応の場合は一次抗体と呼ばれる)のみを用いる方法である。この方法では上述の手法と比較して、該一次抗体と標的物質を含む検体と接触させ、基材の表面と検体中の標的物質とで抗原抗体反応を行うところまでは上記と同様の手順である。
【0011】
液晶を用いる方法4では、上記手順の後、一次抗体が存在する基板上にて液晶材料を配向させる。ここで、液晶材料のバルクの配向は、基板界面の配向状態によって支配されることが知られている。つまりこの場合、一次抗体のみが存在する界面の状態と、一次抗体上に標的物質が捕捉された界面状態では、基板と液晶との界面の様子が異なっている。したがって、検体中に標的物質が存在しており一次抗体上に標的物質が捕捉されている状態と、検体中には標的物質が存在していない状態との違いが、液晶分子の配向状態を光学的に観測することによって容易に検知することが可能となる。すなわちこの方法4では、液晶材料そのものが上記サンドイッチ法における二次抗体および標識物質の役割を担っていると言うことができる。なお、この方法は液晶アッセイと称されることもある。
【特許文献1】特開2001−033455号公報
【特許文献2】国際公開WO03−067258号公報
【特許文献3】米国特許5981297号
【特許文献4】特表2006−501860号公報
【非特許文献1】Science 279、2077(1998)
【非特許文献2】Materials Science and Engineering C 24 (2004)237−240
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これら従来手法はそれぞれ長所および短所を有している。方法1〜3の磁性微粒子を用いる方法は、実際の標的物質の有無や濃度を磁気標識により高感度に検出できる方法として有用である。ところが、方法1では超伝導を用いるために装置規模や装置コストが大きくなる。そのため設置できるのは大きな病院などの予算と場所にゆとりのある機関に限られる。また同様の理由によって診断コストが高くなる。
【0013】
方法2および方法3は、基材としてホール素子あるいは磁気抵抗(MR)素子を用いる方法である。ここで用いる基材は、半導体メモリなどと同様に、多くの成膜工程とフォトリソグラフィープロセスによるパターニング工程を経て素子が形成されるため、使用する部材の製造コストが高くなる。一般に生体中の物質を厳密に検知するための装置は、血液検査におけるシリンジや注射針などと同様に、他の患者の検査物質とのコンタミネーションを避けるために、その都度新しい部材を用いることが望まれる。ところがこれら二つの方法では、半導体メモリと同等のコストからなる高価な部材をいわゆる使い捨ての部材として用いる必要がある。したがって、方法1と比較して、装置全体の規模やコストは小さいものの、1回あたりのアッセイに必要な部材コストが高くなる。
【0014】
方法4は、基材の構成は腕時計や電卓などに用いられる一般的なセグメント型液晶素子と同様の単純な構成を用いることができることから、アッセイに用いる部材のコストは極めて安価である。また、標的物質の検知には偏光を用いた光学的な評価法を採用することができるため、装置規模もコンパクトで安価である。このため、低コストなアッセイを手軽に実現することが可能である。
【0015】
ところが、非特許文献1を鑑みると、標的物質の検知濃度は約0.5μM(=5×10-7モル/リットル)にて実験が行われており、この検知濃度は特許文献2などに記載の磁気バイオセンサの濃度よりも高い。この理由として、液晶のバルクの配向に影響を及ぼすためには界面の状態を有意に変化させなければならず、そのためには比較的高濃度な検体を作用させる必要があると推察される。また、濃度が低い場合、僅かに配向変化している領域が観測されるかもしれない。しかしこうした僅かな違いについては、一般的な液晶プロセスにおいて発生する配向不良との明確な区別をすることが困難と考えられる。すなわち濃度が低い領域では診断の確度が低下する懸念がある。
【0016】
そこで本発明は、上記課題を解決するような、簡便な診断方法の提供、およびそれに用いる素子、装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
即ち本発明は、基板上に担持された抗体(一次抗体)と、標的物質と、標識物質によって修飾された抗体(二次抗体)との反応により基板上に標識物質を担持し、該標識物質の周囲に液晶が配設されている標的物質検出素子である。
【0018】
また本発明は、基板上に担持された抗体(一次抗体)と、標的物質と、標識物質によって修飾された抗体(二次抗体)との反応により基板上に標識物質を担持し、該標識物質の周囲に配設された液晶の配向状態を検知することによって標識物質の有無、数を検知し、これにより検体中の標的物質の有無、濃度を検出する標的物質検出装置であって、少なくとも該液晶の配向状態を光学的に検知するための光源、偏光制御素子、撮像素子を有する標的物質検出装置である。
【0019】
また本発明は、基板上に担持された抗体(一次抗体)と、標的物質と、標識物質によって修飾された抗体(二次抗体)との反応により基板上に標識物質を担持し、該標識物質の周囲に配設された液晶の配向状態を光学的に検知することによって標識物質の有無、数を検知し、これにより検体中の標的物質の有無、濃度を検出する標的物質検出方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、高感度でありかつ簡便な診断方法を提供し、および標的物質検出材料、検出素子、検出装置、検出方法を提供することが可能と成る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
上述のように、バイオセンサでは抗体を基材に固定または担持して用いる。上記方法4で述べたように、従来報告されている液晶アッセイ法では、この抗体上に標的物質を担持させた後、標識物質として液晶材料を用いる方法が提案されている。それに対し、本発明のバイオセンサでは方法1〜3と同様に、微粒子を標識物質として用いたサンドイッチ法を採用し、さらに液晶材料を用いることを特徴とする。
【0023】
つまり本発明では、抗原抗体反応が生じた微小物質を次のプロセスによって検知する。
【0024】
まず基板上において一次抗体が配設されている部位に標的物質を含む検体を浸漬することによって、第一の抗原抗体反応を行う。次いでこの抗原抗体反応に寄与しなかった物質を洗浄する(第一の抗原抗体反応プロセス)。
【0025】
次に、微粒子によって標識された二次抗体を該基板上に接触させ、第二の抗原抗体反応を行う。これにより、標的物質が抗体によってサンドイッチされた構造が形成される。次いで、反応しなかった二次抗体を洗浄した後、水分を乾燥させる(第二の抗原抗体反応プロセス)。
【0026】
続いて、液晶材料を該基板上に塗布、滴下、または前記基板から所定の空隙を設けるようにもう一つの基板を配設し、これら2枚の基板間に液晶材料を注入する。こうして得られた素子において、液晶の配向状態を光学的に観測することによって、標的物質の有無を簡便に測定することが可能となる(液晶素子作製および光学評価プロセス)。
【0027】
それに加えて後述する評価手法を適用することによって、さらに高感度な測定を行うことが可能となる(高感度光学評価プロセス)。
【0028】
以下、上述のそれぞれのプロセスについて詳細に説明する。
【0029】
[第一の抗原抗体反応プロセス、および、第二の抗原抗体反応プロセス]
本発明に用いる一次抗体は、例えばイムノグロブリンG分子など、標的物質に対して特異的親和性、結合性を有する分子構造を含む物質を用いる。またその他、同様の性質を有するものであれば本発明に適用することが可能である。
【0030】
また、センサ素子の表面に位置する機能性膜に金の薄膜を用いる事により、国際出願WO2005/095461号公報に開示されているたんぱく質を第一の捕捉分子とすることができる。さらに標識物質である微粒子の表面の少なくとも一部を金とすることによって、第二の捕捉分子として用いることもできる。
【0031】
この金結合性たんぱく質とは、
(1)金に対する結合部位を有し、少なくともイムノグロブリンG軽鎖可変領域(VL)またはイムノグロブリンG重鎖可変領域(VH)の少なくとも一部を含む第一のドメイン、
(2)標的物質に対する結合部位を有し、少なくともイムノグロブリンG重鎖可変領域(VH)またはイムノグロブリンG軽鎖可変領域(VL)の少なくとも一部を含む第二のドメイン、
を含むことを特徴とし、金結合性Diabodyと称されることもある。
【0032】
この場合、上記の(1)がセンサ素子、或いは標識物質である微粒子に固定する場合のアンカーとなり、簡便且つ捕捉分子の捕捉能を保持した状態での固定が可能となる。この場合の例を概略図として図1に示す。金薄膜10により表面を被覆されたセンサ素子1上に、第一の捕捉分子として上記(1)および(2)の特徴を有する金結合性タンパク質12が固定され、そのたんぱく質に標的物質4が結合されている。同様に、標識微粒子6上には金薄膜11により被覆されており、第二の捕捉分子として上記(1)および(2)の特徴を有する金結合性タンパク質13が微粒子上の金薄膜が被覆されている部位に固定されている。そして、この第二の捕捉分子が、上記第一の捕捉分子に固定されている標的物質の他方の領域に結合する形で固定される。
【0033】
本発明に用いる標識微粒子の大きさは、素子の形状、大きさまたは用途によって選択する事が可能である。液晶分子の配向状態に影響を及ぼす微粒子の大きさが必要であるという点から、概ね十ナノメートルから数十マイクロメートルの直径を有するものが好適である。また、後述する高感度評価法に応じて適宜その微粒子を構成する物質を選択することができる。例えば上述の方法1〜3に記載の手法に用いる標識物質と同様に磁性微粒子を用いることが可能であり、通常用いられる常磁性、超常磁性を示す磁性微粒子、磁性ビーズを用いる事ができる。一例として、フェライトやマグネタイトといった鉄酸化物の粒子とスチレン系、デキストラン系、アクリルアミド系等のポリマーの混合物、被覆物が用いられる。また、例えば米国特許第3612758号に記載の電気泳動型表示素子として使用可能な帯電微粒子も可能である。あるいは本発明に用いる液晶材料と誘電率が異なる誘電体微粒子、吸収率の異なる微粒子など、後述の評価法に応じて微粒子の特性を選択し、標識物質とすることが好ましい。
【0034】
基板上に固定される一次抗体、または微粒子によって標識された二次抗体によって結合され、検出可能な標的物質は、上述の抗原抗体反応を行うことができる物質であれば如何なる物質も対象にする事が可能である。
【0035】
通常標的物質として適用される生体物質としては、核酸、タンパク質、糖鎖、脂質及びそれらの複合体から選択される生体物質が含まれる。詳しくは、核酸、タンパク質、糖鎖、脂質から選択される生体分子を含んでなるものである。具体的には、DNA、RNA、アプタマー、遺伝子、染色体、細胞膜、ウイルス、抗原、抗体、レクチン、ハプテン、ホルモン、レセプタ、酵素、ペプチド、スフィンゴ糖、スフィンゴ脂質の何れかから選択された物質を含むものであれば、如何なる物質にも適用することができる。さらには、前記の「生体物質」を産生する細菌や細胞そのものも、本発明が対象とする「生体物質」として標的物質となり得る。
【0036】
その中でも特に、タンパク質(脂質タンパク、糖タンパク、タンパク質複合体、タンパク質多量体)の具体例として、いわゆる疾病マーカーが挙げられる。
【0037】
例としては、胎児期に肝細胞で産生され胎児血中に存在する酸性糖蛋白であり、肝細胞癌(原発性肝癌)、肝芽腫、転移性肝癌、ヨークサック腫瘍のマーカーとなるα−フェトプロテイン(AFP)、肝実質障害時に出現する異常プロトロンビンであり、肝細胞癌で特異的に出現することが確認されるPIVKA−II、免疫組織化学的に乳癌特異抗原である糖蛋白で、原発性進行乳癌、再発・転移乳癌のマーカーとなるBCA225、ヒト胎児の血清、腸および脳組織抽出液に発見された塩基性胎児蛋白であり、卵巣癌、睾丸腫瘍、前立腺癌、膵癌、胆道癌、肝細胞癌、腎臓癌、肺癌、胃癌、膀胱癌、大腸癌のマーカーである塩基性フェトプロテイン(BFP)、進行乳癌、再発乳癌、原発性乳癌、卵巣癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるCA15−3、膵癌、胆道癌、胃癌、肝癌、大腸癌、卵巣癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるCA19−9、卵巣癌、乳癌、結腸・直腸癌、胃癌、膵癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるCA72−4、卵巣癌(特に漿液性嚢胞腺癌)、子宮体部腺癌、卵管癌、子宮頸部腺癌、膵癌、肺癌、大腸癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるCA125、上皮性卵巣癌、卵管癌、肺癌、肝細胞癌、膵癌マーカーとなる糖蛋白であるCA130、卵巣癌(特に漿液性嚢胞腺癌)、子宮体部腺癌、子宮頸部腺癌のマーカーとなるコア蛋白抗原であるCA602。卵巣癌(特に粘液性嚢胞腺癌)、子宮頸部腺癌、子宮体部腺癌のマーカーとなる母核糖鎖関連抗原であるCA54/61(CA546)、大腸癌、胃癌、直腸癌、胆道癌、膵癌、肺癌、乳癌、子宮癌、尿路系癌等の腫瘍関連のマーカー抗原として現在、癌診断の補助に最も広く利用されている癌胎児性抗原(CEA)、膵癌、胆道癌、肝細胞癌、胃癌、卵巣癌、大腸癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるDUPAN−2、膵臓に存在し、結合組織の弾性線維エラスチン(動脈壁や腱などを構成する)を特異的に加水分解する膵外分泌蛋白分解酵素であり、膵癌、膵嚢癌、胆道癌のマーカーとなるエラスターゼ1、ヒト癌患者の腹水や血清中に高濃度に存在する糖蛋白であり、肺癌、白血病、食道癌、膵癌、卵巣癌、腎癌、胆管癌、胃癌、膀胱癌、大腸癌、甲状腺癌、悪性リンパ腫のマーカーとなる免疫抑制酸性蛋白(IAP)、膵癌、胆道癌、乳癌、大腸癌、肝細胞癌、肺腺癌、胃癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるNCC−ST−439、前立腺癌のマーカーとなる糖蛋白質であるγ−セミノプロテイン(γ−Sm)、ヒト前立腺組織から抽出された糖蛋白であり、前立腺組織のみに存在し、それゆえ前立腺癌のマーカーとなる前立腺特異抗原(PSA)、前立腺から分泌される酸性pH下でリン酸エステルを水解する酵素であり、前立腺癌の腫瘍マーカーとして用いられる前立腺酸性フォスファターゼ(PAP)、神経組織及び神経内分泌細胞に特異的に存在する解糖系酵素であり、肺癌(特に肺小細胞癌)、神経芽細胞腫、神経系腫瘍、膵小島癌、食道小細胞癌、胃癌、腎臓癌、乳癌のマーカーとなる神経特異エノラーゼ(NSE)、子宮頸部扁平上皮癌の肝転移巣から抽出・精製された蛋白質であり、子宮癌(頸部扁平上皮癌)、肺癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌のマーカーとなる扁平上皮癌関連抗原(SCC抗原)、肺腺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、膵癌、卵巣癌、子宮癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるシアリルLeX−i抗原(SLX)、膵癌、胆道癌、肝癌、胃癌、大腸癌のマーカーとなる糖鎖抗原であるSPan−1、食道癌、胃癌、直腸・結腸癌、乳癌、肝細胞癌、胆道癌、膵癌、肺癌、子宮癌のマーカーであり、特に他の腫瘍マーカーと組み合わせて進行癌を推測し、再発予知・治療経過観察として有用である単鎖ポリペプチドである組織ポリペプタイド抗原(TPA)、卵巣癌、転移性卵巣癌、胃癌、大腸癌、胆道系癌、膵癌、肺癌のマーカーとなる母核糖鎖抗原であるシアリルTn抗原(STN)、肺の非小細胞癌、特に肺の扁平上皮癌の検出に有効な腫瘍マーカーであるシフラ(cytokeratin;CYFRA)、胃液中に分泌される蛋白消化酵素であるペプシンの2種(PG I・PG II)の不活性型前駆体であり、胃潰瘍(特に低位胃潰瘍)、十二指腸潰瘍(特に再発、難治例)、ブルンネル腺腫、ゾーリンガーエリソン症候群、急性胃炎のマーカーとなるペプシノゲン(PG)、組織障害や感染により、血漿中で変化する急性相反応蛋白であり、急性心筋梗塞等により心筋に壊死が起こると、高値を示すC−反応性蛋白(CRP)、組織障害や感染により、血漿中で変化する急性相反応蛋白である血清アミロイドA蛋白(SAA)、主に心筋や骨格筋に存在する分子量約17500のヘム蛋白であり、急性心筋梗塞、筋ジストロフィー、多発性筋炎、皮膚筋炎のマーカーとなるミオグロビン、骨格筋,心筋の可溶性分画を中心に存在し、細胞の損傷によって血液中に遊出する酵素であって、急性心筋梗塞、甲状腺機能低下症、進行性筋ジストロフィー症、多発性筋炎のマーカーとなるクレアチンキナーゼ(CK)(骨格筋由来のCK−MM型、脳、平滑筋由来のCK−BB型、心筋由来のCK−MB型の3種のアイソザイム及びミトコンドリア・アイソザイムや免疫グロブリンとの結合型CK(マクロCK))、横紋筋の薄いフィラメント上でトロポニンI,Cとともにトロポニン複合体を形成し、筋収縮の調節に関与している分子量39000の蛋白であり、横紋筋融解症、心筋炎、心筋梗塞、腎不全のマーカーとなるトロポニンT、骨格筋・心筋いずれの細胞にも含まれる蛋白であり、測定結果の上昇は骨格筋、心筋の障害や壊死を意味するため、急性心筋梗塞症、筋ジストロフィー、腎不全のマーカーとなる心室筋ミオシン軽鎖I、また、近年ストレスマーカーとして注目されてきているクロモグラニンA、チオレドキシン、8−OhdG、等が挙げられる。
【0038】
上述の標的物質を第一の抗原抗体反応によって一次抗体と結合させた後、微粒子によって標識された二次抗体と第二の抗原抗体反応を行う。
【0039】
次いで、この第二の抗原抗体反応の後、反応に寄与しなかった微粒子を生理食塩水などによって洗浄する。つまり、一般に生体物質は水溶性であるので、標的物質または抗体であるたんぱく質なども水系の溶媒によって洗浄を行うことができる。
【0040】
洗浄に続き水分を乾燥させる。これは第二の抗原抗体反応させた後に液晶材料を該基板上に接触させ検査を行うためである。つまり、一般的な液晶材料は有機材料であって水との相溶性が良くないために、液晶を用いたアッセイの際には基板界面近傍が水分の無い状態に保つことが好ましい。
【0041】
さらに、この第二の抗原抗体反応の際、標識物質として磁性微粒子が用いられる場合には、公知の磁気マニピュレーション技術を用いることが可能である。これにより外部からの磁場の印加によって、磁性微粒子によって修飾された二次抗体を基板界面近傍に集め、反応を促進することが可能となる。さらに、反応に寄与しなかった磁性微粒子を、上記洗浄の際に磁場を用いて基板から離れた位置に移動させ、二次抗体の洗浄の効率を高めることが可能となる。
【0042】
同様に第二の抗原抗体反応の際、標識物質として荷電微粒子が用いられる場合には、公知の電気泳動技術を用いることも可能である。これにより、上記磁気マニピュレーション技術と同様の集積および洗浄の効果を高めることができる。
【0043】
これらの抗原抗体反応は、所定の大きさを有する反応ウェル中で行っても良いし、マイクロ流路の中で反応させても良い。つまり、上述のように標的物質を抗体によってサンドイッチさせた結合状態を実現させることが可能であれば、いずれの手法を用いることができる。
【0044】
本発明では、液晶材料を所定の方向に配向させることが、高精度の測定結果を得るために好ましい。このため、抗原抗体反応を行う側の基板において液晶配向膜が配設された基板を用いることが好ましい。上述のように、一次抗体は金に固定化される性質を有することから、例えば液晶配向膜領域の中の一部の領域に金の存在部位を共存させておくことで、配向性と抗体の固定化を両立させることができるため好ましい。この製法として例えば、液晶配向膜を塗布した後、金が海島状に成膜された状態となるよう、マスク蒸着などによって成膜しても良い。
【0045】
ここで用いる配向膜は、一般的な液晶ディスプレイに用いられるポリイミド配向膜でも良いし、酸化ケイ素の斜方蒸着膜など無機材料からなる配向膜でも良い。その他、液晶の配向状態を規定しうる性質を持つものであれば、いずれのものを用いることができる。
【0046】
金の成膜およびパターニングは、上述のマスク蒸着の他、フォトリソグラフィープロセス、リフトオフによるプロセスを用いることができる。
【0047】
一般に金表面では液晶の配向方位が規定されないため、ランダムな配向方位を有する状態となる。そのため、金表面に微細な凹凸形状を設けて液晶の配向方向を規定してもよい。または後述する円偏光を用いる手法を採用すれば、抗原抗体反応させた基板側での液晶がランダム配向であっても精度の高い測定が可能となる。上記のようなパターニングの必要が無いことから、基板の製造コストの点で有利である。
【0048】
液晶アッセイにおいて、2枚の基板間に液晶を挟んで評価する際、抗原抗体反応を行う基板とは異なるもう一方の基板に関しても、配向膜の使用が好ましい。この場合、上述のような金のパターニングは不要であるので、通常の液晶ディスプレイと同様の配向膜の成膜プロセスを採用することができる。
【0049】
後述の高感度測定のための手法を採用するか否かにもよるが、例えば、液晶に電圧を印加しながら配向状態を検知するには、電極を有する基板上に上記構成を形成する必要がある。ここで液晶の配向状態を透過状態で観測するには、透明電極付きの基板上に上記の金の厚みを光が透過できる程度に薄く成膜すれば、所定の透過率を得ることができる。一方、液晶の配向状態を反射状態にて観測するには、上記の金の厚みや用いる電極の透過率は不問であるので、素子製造のプロセスマージンの点で好ましい。
【0050】
[液晶素子作製および光学評価プロセス]
上記プロセスによって、一次抗体および微粒子によって標識された二次抗体の間に標的物質がサンドイッチされた抗原抗体反応後の基板を得る。この基板上に図2に示すように液晶を配向させて、その配向状態から微粒子の存在の有無を検知する。
【0051】
液晶の配向評価の際には、前記抗原抗体反応後の基板上に液晶材料を塗布するなどし、その直後に偏光を用いた解析を行ってもよい。また、一般的な液晶ディスプレイと同様に上下2枚の基板間に液晶材料を狭持したセルを作製したのち偏光を用いて測定する手法を用いても良い。
【0052】
前者の方法では、液晶が基板の上に乗っただけの状態であり、液晶が有する一方の界面は基板と液晶との界面(固液界面)であり、残る一方の界面は空気−液晶界面(気液界面)である。気液界面における液晶の配向状態の報告例は少ないが、例えば特許第02587398号に記載のディスコチック液晶を用いた光学フィルムのように、液晶材料固有の物性にしたがって、ある決まった角度で配向することが知られている。このため、気液界面近傍における配向状態はほぼ均一になる。残る一方の固液界面では、微粒子の存在の有無によって液晶の配向状態が異なる。つまり一方の気液界面が均一であって、残る一方の固液界面が微粒子の有無にしたがって配向変化が生じることから、液晶を塗布する方法によって微粒子の存在、つまり標的物質の存在を検知することが可能となる。
【0053】
このとき用いる塗布法は、液晶の厚みが不均一であると正しい光学測定が困難であるので、基板上に液晶材料を垂らした後スピンコートする方法、スクリーン印刷、転写印刷法、インクジェット法など、一般的な液体の成膜方法を採用することができる。塗布は、一定の厚みに制御することが好ましい。
【0054】
一方、後者の液晶ディスプレイと同様のセル構成を作製し測定する手法では、イ.空セルを作製した後液晶を注入する方法、ロ.抗原抗体反応後の基板上に液晶材料を滴下した後に上基板を重ね合わせる方法、のいずれを用いてもよい。
【0055】
イ.の空セルの作製には、2枚の基板を所定の間隔の空隙を隔てた状態で維持させるプロセスが必要である。そのために、一般的な液晶ディスプレイと同様のセル作製プロセスを用いることができる。例えば、一方の基板の上に所定の径を有するスペーサビーズを散布し、残る一方の基板を重ね合わせる。あるいは一方の基板の外周の一部に、マイラーフィルムなどの所定の厚みを有するスペーサ材料を配設した後、残る一方の基板を重ね合わせる。あるいは一方の基板にあらかじめ重ね合わせたときに空隙が作られるよう、段差を形成しておけば、簡便性の点で好ましい。これらはいずれも通常の液晶ディスプレイの作製プロセスと同様である。
【0056】
あるいは、前記抗原抗体反応をマイクロ流路中にて行う場合に、このマイクロ流路そのものを液晶セルと見立てて評価することも可能である。
【0057】
こうして得られた空セルに対して液晶材料を注入する。この注入についても通常の液晶ディスプレイの製造プロセスと同様であって、真空下において前記の空セルと液晶を接触させ、雰囲気を大気に開放することによって気圧差によって加圧注入する方法を採用することができる。あるいは、より簡便に行うには、こうした真空プロセスを採用しなくても、大気下において毛細管現象を用いた注入を行っても良い。
【0058】
ロ.の方法も液晶ディスプレイの製造方法として用いられる、いわゆる滴下注入法である。この方法は一方の基板に液晶材料を垂らした後、残る一方の基板を重ね合わせることによって液晶素子を作り上げるプロセスであって、特に液晶の注入に時間のかかる大型の液晶パネルの製造工程として一般に採用されている。
【0059】
この場合も2枚の基板間を所定の間隔に設定するために、スペーサ材料を適宜選択し用いる。この方法はイ.における注入プロセスが不要であるので、評価に必要な時間および簡便性の点で有利である。
【0060】
こうして得られた抗原抗体反応後の基板を用いた液晶素子(以下、単に液晶素子と称する)は光学的に評価される。この光学評価の方法も一般的な液晶ディスプレイの表示原理と同様であるので簡便に行うことができる。
【0061】
液晶素子は、上述のとおり、透過型のものと反射型のものを作製することができる。
【0062】
透過型の場合には、素子を挟み込むようにして2枚の偏光板を用いて評価する。素子の下側から光を照射し、前記2枚の偏光板のうち最初の偏光板にて直線偏光とし、光が液晶素子を通過する際に複屈折効果によって楕円偏光となり、素子を通過後、第二の偏光板にて楕円偏光の状態によって透過率または着色状態の違いを生み出すことができる。
【0063】
このとき、前記抗原抗体反応によって標識物質すなわち微粒子が基板に固定されている場合には、その微粒子の存在部位周辺の液晶の配向状態が他の部分とは異なる。これにより、微粒子周囲を通過する光の楕円偏光の状態と、微粒子が存在しない部分を通過する光の楕円偏光の状態とが異なるために、微粒子周辺のみが透過率あるいは着色状態が異なって観測される。すなわち、微粒子の存在を光学的に検知することが可能となる。
【0064】
一方、反射型の場合には、一次抗体を固定化するための金の基板をそのまま反射層として用いることが可能である。より詳細に観測するために、金以外の部位にも反射層を形成しておくことが好ましい。配向状態の評価は上記透過型での測定原理と同様であって、微粒子周囲とそれ以外との偏光状態の違いを観測することで評価を行うことができる。このとき例えば、直線偏光板を素子上部に配設することによっても偏光変化を観測することが可能であるし、円偏光板を用いても良い。あるいはPBS(偏光ビームスプリッタ)を用いてクロスニコル下での偏光測定を行えば、コントラストの点で有利である。
【0065】
上記の液晶素子に用いる基板として、抗原抗体反応を行う側の基板では上述のとおり配向制御膜を設けることが好ましいが、対向する基板に関しても配向制御膜を設けることが好ましいことはいうまでもない。このとき、対向基板側は基板に対してほぼ平行に配向させるような配向膜を用いてラビングなどの一軸配向処理を行っても良いし、基板に対して垂直に配向させる垂直配向膜を用いても良い。
【0066】
特に抗原抗体反応させる側の基板に対して配向制御能を付与することが困難であって、基板に対して液晶が平行かつランダムに配向する場合、対向基板を垂直配向処理し、円偏光板を用いた構成を採用することが好ましい。つまり、この構成の場合、一方の対向基板側が垂直で残る一方が平行配向であるので、セル厚方向のリタデーション値はセル内で概ね均一となる。配向の方位角がランダムではあるが、入射偏光として円偏光を採用することによって、配向方位角に依存しない測定を行うことが可能となる。
【0067】
こうした方法によって、微粒子の存在有無を評価することが可能となる。このときの配向の違いは顕微鏡を用いて観測してもよいし、液晶プロジェクタと同様の光学系を用いて像を拡大させて評価しても良い。この評価は目視評価も可能であるが、デジタル撮像素子とコンピュータからなる画像処理装置を用いた自動計算による評価を採用することもできる。
【0068】
[高感度光学評価プロセス]
上記で述べた評価は、抗原抗体反応後の基板を用いたセルに液晶を注入しただけの状態で観測する手法を述べた。ここでは液晶の特質を活かし、更なる高感度化を実現する評価プロセスを示す。
【0069】
本発明に用いる微粒子は、液晶の配向に影響を及ぼすことがその役割であるので、微粒子の素材や性質として特に制約は無い。一方、次のような素材の微粒子を用いた測定手法を採用することによって、高感度な測定が実現できる
(1)磁性微粒子を用いる方法
(2)荷電微粒子を用いる方法
(3)周囲の物質とは吸収係数の異なる微粒子を用いる方法。
【0070】
以下、順にその測定方法について説明を行う
(1)磁性微粒子を用いる方法
本方法では、冒頭に述べた方法1〜3に記載の磁気バイオセンサに使用される磁性微粒子を用いることができる。つまりこれらと同様に、一次抗体を有する基板上に標的物質を反応させ、次いで磁性微粒子によって標識された二次抗体とを反応させることによって、基板上に磁性微粒子を固定化することができる。上記の方法1〜3ではこの磁性微粒子を磁気センサによって検知しているのに対して、本発明では液晶を用いて高感度な検知を行う。
【0071】
基板と磁性微粒子との間には二つの抗体と標的物質とが存在しているので、磁性微粒子が基板上に固定化されているとはいうものの、それらの間には標的物質と二つの抗体が概ね直線状に並んだ長さ分の間隙が存在する。例えば、抗体として用いられる公知のイムノグロブリンGの分子の長さは概ね15nmであるので、標的物質の大きさにも依存するが、基板と磁性微粒子との間には30〜50nmの間隙が存在する。また、抗体や標的物質は完全に動かない状態で固定化されているのではなく、例えば各分子の炭素の一重結合部などは比較的自由に分子は回転していると考えられる。あるいは抗体と標的物質との結合状態は平衡反応によるものとされており、その結合状態は必ずしも強固なものではないと考えられる。このため、基板上に固定化されている磁性微粒子は外場によってその運動を制御することが可能である。
【0072】
この性質を利用して上記液晶素子を用いた評価を行う。つまり磁性微粒子が基板界面上に存在する液晶素子に対して、外場として例えば交流磁場を印加する。その結果、交流磁場に応答して磁性微粒子が振動する。つまり外場によって液晶素子の界面の一部が振動する。液晶素子のバルクの配向状態は界面の配向角度(プレチルト角)によって支配されることが知られているために、前記交流磁場によって液晶のバルクの配向状態を変調することが可能となる。
【0073】
なお、用いる磁性微粒子が十分大きい場合には液晶を用いなくても磁性微粒子を直接光学顕微鏡で数えることが可能であるが、2ミクロン以下の小さい微粒子を光学顕微鏡で数えることは困難である。特に可視光の波長以下の大きさの微粒子の測定は光学顕微鏡では不可能である。一方、本発明の方式では、微粒子の存在を液晶によって拡大して検知する手法であるので、微粒子の大きさによらずに検知することが可能となる。
【0074】
このとき外場の有無によって配向状態を比較することで、より高精度な測定が可能となる。例えば、外場が存在しない状態での配向の様子を画像として保存しておき、次いで外場を印加した状態での配向の様子を画像として保存する。これら二つの保存した画像を画像処理装置にて比較し演算すれば、外場に影響された部位のみを抽出することが可能となる。
【0075】
外部から与える磁場によって液晶分子自体が振動したり配向変化したりするなどの応答が生じてしまうと評価結果に影響を及ぼしてしまうので、磁化率異方性がゼロまたは十分小さい値の液晶材料を用いる。磁化率異方性がゼロの場合には、外部磁場に対して全く液晶は応答しないのでより好ましい。磁化率異方性が存在する場合、外部磁場が存在してもそれによって液晶が応答しないようフレデリクス転移の閾値以下の範囲内で評価を行うことが好ましい。このとき磁性微粒子を振動させるのに十分な外場を印加するためにも、磁化率異方性が十分小さい液晶材料を用いることが好ましい。
【0076】
評価の際、仮に外場を印加しないで測定した画像において微粒子らしきものが検知されたとしても、それが二次抗体を修飾している真の微粒子か、プロセス上発生するごみかの区別がつかない場合がある。それに対し本発明では、外場印加の有無を比較し抽出することから、ごみによる誤判定を排除し、磁性微粒子のみを定量化することが可能となる。
【0077】
例えば液晶パネルの欠陥検査装置を用いると、フルハイビジョン型の液晶パネルを検査する場合には600万画素の中から一つの画素の欠陥を抽出することが瞬時に測定可能である。つまり、ダイナミックレンジが概ね8桁の異物検査を高速で行うことができる。したがって本発明においてもこのような光学検査装置を用いると、本発明の微粒子測定においても容易に高感度測定を実現できる。つまり、前記欠陥検査装置の例に従えば、基板上に一つの微粒子が存在しているだけでも検知が可能であるため、超高感度な測定が可能となる。
【0078】
本発明の方法は定量性という点でも有利である。方法1〜3で述べた微粒子からの磁場を検知する磁気バイオセンサでは、抗体の長さや結合状態によって基板と磁性微粒子との距離が変化するため、信号強度が変化する懸念がある。また、磁気バイオセンサの素子上のどの位置に磁性微粒子が付着するかによっても信号強度が変化する懸念がある。それに対して、本発明の方法では、上記検査装置にて基板上の微粒子の数を光学的に測定できるので、簡便で正確に定量的な評価を行うことが可能である。
【0079】
この評価の際に印加する磁場の方向は、特定の方向に印加してもよい。しかし、抗原抗体反応した基板側の液晶分子の配列が定まっていない場合、特にランダムな配向状態の場合には、複数の磁場印加方位角から測定し、その結果を総合的に判断して微粒子をカウントしても良い。このときの磁場方位の変化は、磁場印加装置を回転させてもよいし、磁場印加装置を固定したまま液晶素子を回転してもよい。液晶素子を回転させる場合には、画像情報を正しく比較するために、画像取得のための撮像素子も同時に回転させることが好ましい。
【0080】
(2)荷電微粒子を用いる方法
上記(1)では磁性微粒子を用いたが、同様の概念で荷電微粒子を用いることも可能である。
【0081】
評価の原理は上記と同じく外場の有無による配向の差異を比較する。このとき、用いる微粒子として磁性微粒子の代わりに荷電微粒子を用いる点、および外場として磁場を印加する代わりに電場を印加する点が異なる。その際、上記(1)では磁化率異方性の注意点について述べたが、この方法では誘電率異方性に注意が必要である。
【0082】
つまり上記と同様に、外場によって液晶が応答すると評価結果に影響を及ぼしてしまうので、誘電率異方性がゼロまたは十分小さい値の液晶材料を用いる。誘電率異方性がゼロの場合には、外部電場に対して全く液晶は応答しないのでより好ましい。誘電率異方性が存在する場合には、外部電場が存在してもそれによって液晶が応答しないよう、フレデリクス転移の閾値以下の範囲内で評価を行うことが好ましい。このとき荷電微粒子を振動させるのに十分な外場を印加するためにも、誘電率異方性が十分小さい液晶材料を用いることが好ましい。誘電率異方性を調整する際には、市販のポジ型(誘電率異方性が正)の液晶材料とネガ型(誘電率異方性が負)の液晶材料を混合して用いてもよい。
【0083】
高感度評価のプロセスは上記[1]と同様である。本方式では、磁場ではなく電場を印加するので、磁場を印加するためのコイル等が不要であることから、装置構成が簡便になるという点で好ましい。
【0084】
(3)周囲の物質とは物理的吸収係数の異なる微粒子を用いる方法
ここでは熱を利用した評価方法を述べる。用いる微粒子に関して、周囲の部材と比較して光などの物理的吸収係数が異なっている場合、外部から光などを照射したときの加熱の様子が微粒子近傍と微粒子の存在しない部位とで変化する。つまり微粒子有無による熱的変化の様子を液晶によって検知すれば、微粒子を定量的に評価できる。
【0085】
液晶材料には屈折率異方性が存在し、ネマティック液晶の場合には一般的に屈折率異方性の温度依存性を有している。スメクティック液晶の場合には屈折率の温度依存性がほとんど無いので、本発明ではネマティック液晶を用いることが好ましい。
【0086】
ここで、光吸収係数が大きい微粒子によって修飾された二次抗体にて抗原抗体反抗させた基板と、ネマティック液晶を用いた液晶素子を作製し、外部から光を照射すると、微粒子近傍に存在するネマティック液晶の屈折率異方製の値が減少する。これにより、光照射の有無によって微粒子周囲の偏光状態に差異が生じる。上記(1)および(2)と同様に、これら光照射の有無での画像を比較することによって微粒子を定量的に評価することが可能となる。
【0087】
これとは別に、相転移温度の分布を観測することによっても評価は可能である。光照射の有無によって微粒子近傍とそれ以外の場所とでは温度差が生じる。この性質を利用して、液晶の相転移温度近傍の様子を観測し、微粒子の有無を検知することができる。
【0088】
外部から光を照射していない場合には、雰囲気温度を変化させたときに液晶素子内でほぼ同じタイミングにて相転移が生じる。一方、外部から光を照射している場合には、雰囲気温度を変化させたとき、微粒子近傍とそれ以外の場所とでは局所的な温度差が生じているために、液晶素子内で相転移するタイミングが異なって観測される。これにより微粒子の有無を定量的に評価することが可能となる。
【0089】
また、上記例では光による物理的な吸収係数の違う微粒子について述べたが、外部からのエネルギーを吸収して微粒子近傍の温度を上昇させる性質を有するものであれば、同様の概念で評価することが可能である。つまり、本発明の物理的吸収として、例えば、ガンマ線からマイクロ波にいたるさまざまな波長の電磁波による吸収を用いてもよいし、超音波振動を用いてもよい。
【0090】
なお、上記(1)〜(3)は次の評価を行うことによって、さらに高感度な観測を行うことが可能となる。これらは外部からの摂動に対する微粒子の応答を用いて、液晶の界面近傍の配向状態を変化させると同時に、それを静的な状態で観測している。この観測結果と外部からの摂動が無い状態での静的な配向状態とを比較している。
【0091】
液晶素子の電気光学特性は、界面の液晶分子の状態によって大きく変化することが知られている。つまり液晶のプレチルト角や配向膜の表面配向力が僅かに異なるだけで、液晶素子の電気光学特性が異なって観測される。したがって、本発明の方式を用いるとともに、同時に電気光学特性も測定し、外部からの摂動の有無で電気光学特性を比較することによって、界面の配向の違いがより拡大されて評価できるために、高感度の測定という観点で好ましい。
【0092】
[標的物質検出装置]
次に本発明の標的物質を検出する装置について述べる。上記において説明した通り、基板上に担持された抗体(一次抗体)と、標的物質と、標識物質によって修飾された抗体(二次抗体)との反応により基板上に標識物質を担持する。該標識物質の周囲に配設された液晶の配向状態を検知することによって標識物質の有無、数を検知し、これにより検体中の標的物質の有無、濃度を検出する標的物質検出装置である。本発明の装置は、少なくとも該液晶の配向状態を光学的に検知するための光源、偏光制御素子、撮像素子を具備する。
【0093】
さらに、本発明の装置は、一次抗体および微粒子によって標識された二次抗体の間に標的物質がサンドイッチされた基板上に液晶を配向させて、その配向状態から微粒子の存在の有無を検知することから、標識物質周囲の液晶材料の配向状態を変化させる機能を有する。具体的に例示すると、基板上にある配向膜の表面エネルギーと標識物質の表面エネルギーの異なる物質を用いること、用いる液晶材料に応じてサイズが調整された標識物質を用いること、などを挙げることができる。
【0094】
また、検体中の標的物質の有無、濃度を検出するために、標識物質の周囲に配設された液晶の配向状態から検知することから、本発明の装置は、更に、(1)液晶材料の配向状態を画像情報として記憶するためのメモリと、(2)外場の有無で配向状態を比較するために演算する機能と、を有することができる。上記(1)および(2)を具備すると、既に述べたように、外場に影響された部位を抽出できるため、より高精度な測定が可能となるという点で好ましい。さらに高感度であり、且つ簡便な診断方法を提供するために、電気光学特性を評価する装置を具備することも可能である。
【実施例】
【0095】
本実施例では磁性微粒子を用いる。
【0096】
1cm角のガラス基板上に金を成膜したのち一次抗体を固定する。この基板の上にて、明細書中に記載した抗原抗体反応を行い、直径200nmの磁性微粒子を固定する。この固定化プロセスは以下の順で行う。
1.標的物質の入った検体および該検体の希釈液、磁性微粒子の入った標識試薬を準備する。
2.反応ウェルの底に上記ガラス基板を置く。
3.該反応ウェル中に、希釈液を規定量分注する。
4.次いで、検体を規定量分注する。
5.反応液を攪拌する。
6.反応液を廃棄する。
7.洗浄する。
8.洗浄液を廃棄する。
9.標識試薬を分注する。
10.標識試薬を攪拌する。
11.標識試薬を廃棄する。
12.洗浄する。
13.洗浄液を廃棄する。
14.乾燥させ、ガラス基板を取り出す。
【0097】
こうした抗原抗体反応プロセスによって、検体中の標的物質の濃度に応じて磁性微粒子が固定化されているガラス基板を得る。
【0098】
なおこの10のプロセスにおいて、公知の磁気マニピュレーション技術を採用し、外場によって磁性微粒子を操作すると、より効果的に二次抗体を反応させることができる。
【0099】
一方、対向基板として1cm角のITO付きガラス基板を用意する。この基板には垂直配向処理がなされており、対向する二つの辺には、厚さ5μm、幅0.5mm、長さ1cmのマイラーフィルムが貼り付けられている。
【0100】
上記抗原抗体反応させた基板と、前記対向基板とを重ね合わせ、液晶材料として誘電率異方性が負の材料であるMLC6608(メルク社製)を、毛細管現象を利用して注入する。
【0101】
こうして得られた液晶素子の配向状態は、広帯域円偏光板を対向基板側に貼り付けることによって観測することができる。このときの画像をデジタルカメラにて撮影し、保存する。ここで用いる装置を図3に示す。
【0102】
一方、この液晶素子に対して外部から交流磁場を印加する。この磁場を印加しながら画像をデジタルカメラにて取得し保存する。本実施例では、この交流磁場の方向として、基板面に対して方位角方向が30度刻みで6点(1.0時・6時方向、2.1時・7時方向、3.2時・8時方向、4.3時・9時方向、5.4時・10時方向、6.5時・11時方向)測定して、それぞれの画像を保存する。
【0103】
その後、これら6画像と外部磁場を印加していない状態での画像とを比較して相違点を抽出する。このとき、外場有無の画像間で排他的論理和を取得することで画像の違いが抽出できる。
【0104】
次いで、抽出された6画像間での論理和を計算することで、微粒子の存在を精度よく求めることが可能となる。
【0105】
このとき、上下基板間に電圧を印加しないで取得する方法とともに、上記基板の金およびITOの間に電圧を印加しながら測定する。0V(電圧無印加)から5Vまで、0.5V刻みでデータを取得し、これらの結果を解析することによって、より正確な微粒子の数を求めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明に用いるサンドイッチ法を説明する模式図である。
【図2】本発明の液晶を用いた標的物質検出素子を説明する模式図である。
【図3】本発明の実施例に用いる標的物質検出装置をあらわす模式図である。
【符号の説明】
【0107】
1 センサ素子
4 標的物質
6 標識微粒子
10、11 金薄膜
12 金結合性タンパク質(第一の捕捉分子)
13 金結合性タンパク質(第二の捕捉分子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に担持された抗体(一次抗体)と、標的物質と、標識物質によって修飾された抗体(二次抗体)との反応により基板上に標識物質を担持し、
該標識物質の周囲に液晶が配設されている標的物質検出素子。
【請求項2】
前記標識物質が磁性微粒子である請求項1に記載の標的物質検出素子。
【請求項3】
前記標識物質が荷電微粒子である請求項1に記載の標的物質検出素子。
【請求項4】
前記標識物質の物理的吸収係数が、標識物質の存在しない部位の物理的吸収係数より高い請求項1に記載の標的物質検出素子。
【請求項5】
基板上に担持された抗体(一次抗体)と、標的物質と、標識物質によって修飾された抗体(二次抗体)との反応により基板上に標識物質を担持し、該標識物質の周囲に配設された液晶の配向状態を検知することによって標識物質の有無、数を検知し、これにより検体中の標的物質の有無、濃度を検出する標的物質検出装置であって、
少なくとも該液晶の配向状態を光学的に検知するための光源、偏光制御素子、撮像素子を有する標的物質検出装置。
【請求項6】
外場によって前記標識物質を振動または加熱させ、該標識物質周囲の液晶材料の配向状態を変化させる機能を有する請求項5に記載の標的物質検出装置。
【請求項7】
請求項6に記載の標的物質検出装置において、
(1)液晶材料の配向状態を画像情報として記憶するためのメモリと、
(2)外場の有無で配向状態を比較するために演算する機能と、
を有する標的物質検出装置。
【請求項8】
標識物質が磁性微粒子である請求項5から7のいずれかに記載の標的物質検出装置。
【請求項9】
少なくとも標的物質と二次抗体との反応の時に、前記磁性微粒子を外部からの磁場で操作し、反応を促進させる機能を有する請求項8に記載の標的物質検出装置。
【請求項10】
標識物質が荷電微粒子である請求項5から7のいずれかに記載の標的物質検出装置。
【請求項11】
前記標識物質の物理的吸収係数が、標識物質の存在しない部位の物理的吸収係数より高い請求項5から7のいずれかに記載の標的物質検出装置。
【請求項12】
基板上に担持された抗体(一次抗体)と、標的物質と、標識物質によって修飾された抗体(二次抗体)との反応により基板上に標識物質を担持し、
該標識物質の周囲に配設された液晶の配向状態を光学的に検知することによって標識物質の有無および数を検知し、これにより検体中の標的物質の有無およびその濃度を検出する標的物質検出方法。
【請求項13】
外場によって前記標識物質を振動または加熱させ、該標識物質周囲の液晶材料の配向状態を変化させて標識物質を検知する請求項12に記載の標的物質検出方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の標的物質検出方法であって、
(1)外場が存在しないときの液晶の配向状態を測定するステップ、
(2)外場が存在するときの液晶の配向状態を測定するステップ、
(3)(1)と(2)を比較し演算することで標識物質の有無、数を特定するステップ、
からなる標的物質検出方法。
【請求項15】
標識物質が磁性微粒子である請求項12から14のいずれかに記載の標的物質検出方法。
【請求項16】
少なくとも標的物質と二次抗体との反応の時に、前記磁性微粒子を外部からの磁場で操作し、反応を促進させる機能を有する請求項15に記載の標的物質検出方法。
【請求項17】
標識物質が荷電微粒子である請求項12から14のいずれかに記載の標的物質検出方法。
【請求項18】
前記標識物質の物理的吸収係数が、標識物質の存在しない部位の物理的吸収係数より高い請求項12から14のいずれかに記載の標的物質検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−103455(P2009−103455A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272678(P2007−272678)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】