説明

標的物質検出装置及び標的物質検出方法

【課題】不透明層に隣接する部材が剥離することなく、簡便に製造することができ、なおかつ標的物質を高感度に検出可能な標的物質検出装置及び標的物質検出方法を提供すること。
【解決手段】本発明の標的物質検出装置は、ガラス基板上に、シリコン層と、酸化シリコン層とがこの順で配され、前記酸化シリコン層側の面を標的物質の検出面とする検出板と、前記ガラス基板の前記シリコン層が配される面と反対側の面上に配される光学素子と、前記光学素子を介して前記検出板に光を照射する光照射手段と、前記光の照射に基づき、前記標的物質又は前記標的物質を標識化する蛍光物質から発せられる蛍光を検出する光検出手段と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波モードを利用して、標的物質又は前記標的物質を標識化した蛍光物質からの蛍光発光を検出し、被検体液中の前記標的物質の有無を検出可能とする標的物質検出装置及び標的物質検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNA、たんぱく質、糖鎖などを検出する手法として、標的物質(被検出物質)を蛍光物質により標識化した上で前記標的物質に光を照射し、前記蛍光物質から生じる蛍光を検出する手法が知られている。
また、蛍光強度を高める手法として、光導波モードを利用する光導波モードセンサーが知られている(特許文献1〜4、非特許文献1参照)。
【0003】
従来の光導波モードセンサーの構成の一例を図1に示す。標的物質検出装置100は、一面側を検出面として蛍光物質で標識化された標的物質を捕捉する検出板101と、検出板101の検出面と反対側の面上に配される光学プリズム102と、該光学プリズム102に光を照射する光源103と、蛍光物質の蛍光発光を検出する蛍光検出器104とを有する。検出板101は、光学プリズム102側から透明基板105と、不透明薄膜106と、透明薄膜107と、がこの順に配されて形成される。
【0004】
この標的物質検出装置100において、光源103から光学プリズム102に光を入射させると、ある特定の入射角で不透明薄膜106と透明薄膜107の中で光導波モードが励起される。前記光導波モードが励起されると、透明薄膜107の表面から入射光の波長程度の距離の領域に、入射光に比して数倍から数10倍に増強された電場が生じる。これにより前記蛍光物質からの蛍光が増強され、前記標的物質の有無を高感度に検出できる。
ここで前記光導波モードとは、ある有限の空間内に電磁波が閉じ込められて伝搬していく状態のことである。透明薄膜107の露出面で全反射するように透明基板105側から不透明薄膜106に光が照射されると、該照射光は不透明薄膜106及び透明薄膜107内で多重反射する。この際、光が干渉して強め合う条件を満たすと、該照射光は不透明薄膜106及び透明薄膜107内に閉じ込められ、不透明薄膜106及び透明薄膜107中を伝搬する。その結果、入射光に比して数倍から数10倍に増強された電場を形成する。この状態が、ここでの光導波モードに該当する。
【0005】
しかしながら、従来の標的物質検出装置100には、以下の問題がある。
(1)不透明薄膜106の形成材料としては、金属材料が用いられ、化学的に安定で腐食しないという理由から一般に金が用いられている。したがって、透明基板105及び透明薄膜107の形成材料としてガラス材料を用いた場合、透明基板105及び透明薄膜107との密着性が低く、検出板101から透明基板105及び透明薄膜107が容易に剥離してしまうという問題がある。
(2)この問題を解決するものとして、透明基板105と不透明薄膜106との間及び不透明薄膜106と透明薄膜107との間に、クロムやニッケル等からなる薄い接着層を挿入することがあるが、この場合、検出板101を作製するための製造工程が増えることに加え、クロムやニッケルの光吸収率が高いことから、検出板101の電場増強度が著しく小さくなってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−8263号公報
【特許文献2】特表2002−542506号公報
【特許文献3】特開平8−285851号公報
【特許文献4】特開2004−279041号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】C.J.Huang,J.Dostalek,and W.Knoll,Biosens.Bioelectron.26,pp.1425−1431(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、不透明層に隣接する部材が剥離することなく、簡便に製造することができ、なおかつ標的物質を高感度に検出可能な標的物質検出装置及び標的物質検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> ガラス基板上に、シリコン層と、酸化シリコン層とがこの順で配され、前記酸化シリコン層側の面を標的物質の検出面とする検出板と、前記ガラス基板の前記シリコン層が配される面と反対側の面上に配される光学素子と、前記光学素子を介して前記検出板に光を照射する光照射手段と、前記光の照射に基づき、前記標的物質又は前記標的物質を標識化する蛍光物質から発せられる蛍光を検出する光検出手段と、を有することを特徴とする標的物質検出装置。
<2> シリコン層上に酸化シリコン層が配されてなり、前記酸化シリコン層側の面を標的物質の検出面とする検出板と、前記シリコン層の前記酸化シリコン層が配される面と反対側の面上に配され、ガラス材料で形成される光学素子と、前記光学素子を介して前記検出板に光を照射する光照射手段と、前記光の照射に基づき、前記標的物質又は前記標的物質を標識化する蛍光物質から発せられる蛍光を検出する光検出手段と、を有することを特徴とする標的物質検出装置。
<3> 光検出手段は、480nm〜620nm又は730nm以上の波長の光のみを検出する前記<1>から<2>のいずれかに記載の標的物質検出装置。
<4> 検出面の最表面に標的物質を特異的に捕捉する標的物質捕捉層が配される前記<1>から<3>のいずれかに記載の標的物質検出装置。
<5> 光照射手段は、少なくとも、光源と、該光源から発せられる光をS偏光に偏光する偏光板とを有する前記<1>から<4>のいずれかに記載の標的物質検出装置。
<6> シリコン層の厚みが1nm〜5,000nmである前記<1>から<5>のいずれかに記載の標的物質検出装置。
<7> シリコン層の形成材料が単結晶シリコンである前記<1>から<6>のいずれかに記載の標的物質検出装置。
<8> 酸化シリコン層がシリコン層を酸化することによって形成される前記<1>から<7>のいずれかに記載の標的物質検出装置。
<9> 検出面に、微細孔が形成される前記<1>から<8>のいずれかに記載の標的物質検出装置。
<10> 光検出手段は、480nm〜620nm又は730nm以上の波長の光以外を遮光する波長カットフィルタと、該波長カットフィルタを透過した光を受光する受光器とを有する前記<1>から<9>のいずれかに記載の標的物質検出装置。
<11> 前記<1>から<10>のいずれかに記載の標的物質検出装置を用いて標的物質を検出する標的物質検出方法であって、検出板の検出面に、前記標的物質を含む被検体液を導入する被検体液導入工程と、前記被検体液が導入された前記検出板に対して、光照射手段から光学素子を介して光を照射する光照射工程と、前記光の照射に基づき、前記標的物質又は前記標的物質を標識化する蛍光物質から発せられる蛍光のみを検出する光検出工程と、を有することを特徴とする標的物質検出方法。
<12>光検出工程では、480nm〜620nm又は730nm以上の波長の光のみを検出する前記<11>に記載の標的物質検出方法。
<13> 標的物質は、480nm〜620nm又は730nm以上の波長帯域で蛍光を発する物質である前記<11>から<12>のいずれかに記載の標的物質検出方法。
<14> 蛍光物質は、480nm〜620nm又は730nm以上の波長帯域で蛍光を発する物質である前記<11>から<12>のいずれかに記載の標的物質検出方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、不透明層に隣接する部材が剥離することなく、簡便に製造することができ、なおかつ標的物質を高感度に検出可能な標的物質検出装置及び標的物質検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来の標的物質検出装置を説明する説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る標的物質検出装置における検出板に光学プリズムを配した状態を示す断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係る標的物質検出装置における検出板に光学プリズムを配した状態を示す断面図である。
【図4】シリコン層上に酸化シリコン層が配される検出板に光を照射したときの光反射率の入射角依存及び蛍光強度の光入射角依存を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る標的物質検出装置を説明する説明図である。
【図6(a)】実施例1及び比較例1の検出板の透明薄膜上に水を滴下する前の状態を示す写真である。
【図6(b)】実施例1及び比較例1の検出板の透明薄膜上の一部に水を滴下した後、その部分をワイプした状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(標的物質検出装置)
本発明の標的物質検出装置は、検出板と、光学素子と、光照射手段と、光検出手段とを有する。
【0013】
<検出板>
前記検出板の一の態様では、ガラス基板上に、シリコン層と、酸化シリコン層とがこの順で配され、前記酸化シリコン層側の面を標的物質の検出面としてなる。この場合、前記ガラス基板の前記シリコン層が配される面と反対側の面上に前記光学素子が配される。
また、前記検出板の他の態様として、前記シリコン層が前記光学素子上に形成されていてもよい。この態様では、前記シリコン層上に前記酸化シリコン層が配されてなる。
【0014】
−ガラス基板−
前記ガラス基板としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知のガラス材料からなるガラス基板を挙げることができるが、前記シリコン層との密着性、物理的安定性、化学的安定性及び透明度の観点から、シリカガラス基板が好ましい。
前記ガラス基板の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ハンドリングが容易である観点から、0.5mm〜3mmが好ましい。
【0015】
−シリコン層−
前記シリコン層の形成材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、ポリシリコン等、シリコンを主材料とした材料が挙げられるが、中でも、構造が均一で光エネルギーの損失が少ない単結晶シリコンが好ましい。
前記シリコン層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スパッタリング法、基板貼り合わせとスマートカットを組み合わせた手法などが挙げられる。
前記シリコン層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、広く近紫外域から近赤外域の間の波長領域の光源を用いて前記光導波モードを励起可能である観点から、1nm〜5,000nmが好ましく、10nm〜2,000nmがより好ましい。
【0016】
−酸化シリコン層−
前記酸化シリコン層の形成材料としては、前記光導波路層として機能するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱酸化シリコン、シリカガラスなどのシリコン酸化物が挙げられる。
前記酸化シリコン層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の形成方法を適用することができるが、剥離を生じさせない観点から、前記シリコン層を酸化させて形成することが好ましく、製造が容易である観点から、前記シリコン層を熱酸化させて前記熱酸化シリコンとして形成することが好ましい。
前記熱酸化の条件としては、特に制限はないが、800℃〜1,200℃の温度、640Torr〜760Torrの圧力にて、酸素で満たされた炉内に水蒸気を導入しながら15分間〜3時間の処理時間で、前記シリコン層を熱酸化することが好ましい。
前記酸化シリコン層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記光導波モードが励起可能である50nm以上が好ましく、製造が容易である観点から、200nm〜800nmがより好ましい。
【0017】
前記光導波モードの励起により生ずる電場の強度は、前記酸化シリコン層の表面よりも内部の方が大きい。
したがって、前記酸化シリコン層としては、特に制限はないが、その検出面側から内部に向けて、微細孔が形成されることが好ましい。
前記微細孔としては、前記酸化シリコン層を貫通させて形成してもよいし、貫通させなくともよい。
前記微細孔の開口径としては、前記酸化シリコン層内に光の散乱が生じない限り、特に制限はなく、例えば、5nm〜200nm程度とすることができる。
【0018】
前記酸化シリコン層の検出面には、前記標的物質が導入される。
前記検出面に前記標的物質を導入する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記標的物質を前記検出面に堆積、塗布、滴下などによって直接接触させてもよく、前記検出面に前記標的物質を捕捉するための表面処理を施して捕捉することとしてもよい。
後者の場合、前記検出面の最表面に前記標的物質を特異的に捕捉する標的物質捕捉層が配される。
前記標的物質捕捉層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記標的物質と特異的に結合するリンカー、抗体、アプタマーなどを前記検出面に形成する方法が挙げられる。
前記リンカーとしては、前記標的物質に合わせて適宜選択することができる。
【0019】
前記標的物質は、該標的物質自身が蛍光を発する場合には必要ないが、そうでない場合には、蛍光物質で標識化する必要がある。また、前記標的物質自身が蛍光を発する場合でも、その蛍光波長が前記酸化シリコン層の蛍光波長領域と重なる場合には、前記酸化シリコン層からの蛍光と区別するために、前記蛍光物質で標識化することが好ましい。
前記蛍光物質は、前記標的物質の種類に応じて適宜選択されるとともに、前記酸化シリコン層からの蛍光と区別するために、その蛍光の波長帯域が480nm〜620nm又は730nm以上の波長領域に属するものから選択されることが好ましく、500nm以上600nm未満又は750nmを超える波長領域に属するものから選択されることがより好ましい。
このような蛍光物質としては、公知の蛍光物質から適宜選択することができ、例えば、Alexa Fluor 790(Invitrogen社製)が挙げられる。
なお、前記酸化シリコン層からの蛍光が生ずることについては、後で詳述する。
【0020】
<光学素子>
前記光学素子は、前記ガラス基板の前記シリコン層が配される面と反対側の面上に配される(A)。
或いは、前記検出板に前記ガラス基板を設けず、前記シリコン層を直接ガラス材料で形成される前記光学素子上に形成する場合には、前記光学素子は、前記シリコン層の前記酸化シリコン層が配される面と反対側の面上に配される(B)。
【0021】
前記光学素子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記光学プリズム、回折格子、シリンドリカルレンズなどが挙げられる。
前記光学プリズムの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、三角形プリズム、台形プリズム、半円柱プリズム、半球プリズムが挙げられる。
【0022】
前記(A)の態様の場合、前記光学素子の形成材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記検出板との界面における光の反射や屈折を抑える観点から、前記検出板のガラス基板材料と同じ材料か又は同等の屈折率を有する材料が好ましく、例えば、シリカガラス等のガラス材料が好ましい。
また、前記検出板に前記光学素子を配する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記検出板と前記光学素子との間に、屈折率調節オイルや屈折率調節ポリマーシートで満たし、これらが光学的に連続となるように密着させて配する方法が好ましい。
【0023】
前記(B)の態様の場合、前記光学素子としては、特に制限はないが、前記ガラス基板と前記光学素子との光学的連続性を簡便に得る観点から、前記光学素子を前記ガラス基板と一体的に形成したものが好ましく、前記ガラス基板を研磨して、プリズム形状にすることで形成することができる。
【0024】
前記(A)の態様を図2に示す。該図2に示すように検出板1は、ガラス基板5上に、シリコン層6と、酸化シリコン層7とがこの順に形成されてなり、前記光学素子としての光学プリズム2が、ガラス基板5のシリコン層6が配される面と反対側の面上に配される。
また、前記(B)の態様を図3に示す。該図3に示すように検出板11は、シリコン層16上に酸化シリコン層17が配されてなり、前記光学素子としての光学プリズム12が、シリコン層16の酸化シリコン層17が配される面と反対側の面上に配される。
【0025】
<光照射手段>
前記光照射手段は、前記光学素子を介して前記検出板に光を照射することとしてなる。
【0026】
前記光照射手段の構成としては、前記光学素子を介して前記検出板に光を照射可能で、かつ前記光にS偏光の成分があれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、レーザ、白色ランプ、LEDなどの光源、前記光源から照射される光をコリメート光とするコリメータ、前記光源から照射される光をS偏光にする偏光板、前記光源から照射される光を前記コリメータに導く光ファイバ、前記光源からの光を集光して前記光学プリズムに入射させる集光レンズなど、公知の光学部材から適宜選択して構成することができる。
【0027】
<光検出手段>
前記光検出手段は、前記光の照射に基づき、前記標的物質又は前記標的物質を標識化する前記蛍光物質から発せられる蛍光を検出することとしてなる。本発明の前記標的物質検出装置は、前記光検出手段において、480nm〜620nm又は730nm以上の波長の光のみを検出することが好ましく、500nm以上600nm未満又は750nmを超える波長の光のみを検出することがより好ましい。
このような波長の選定は、密着性を向上させるために、従来の不透明層をガラス材料との密着性が良好なシリコン層とし、透明層を光透過性が良好な酸化シリコン層としたとき、新たに以下の問題を生じたことによる。即ち、前記シリコン層上に前記酸化シリコン層が配される前記検出板に光を照射して、前記光導波モードを励起させると、該検出板自体から光が発せられることが確認されたことによる。
【0028】
この様子を図4を用いて説明する。図4は、透明基板として1.2mm厚のシリカガラスを選択し、不透明薄膜として約200nm厚の単結晶シリコン薄膜を選択し、透明薄膜として約500nm厚のシリカガラス薄膜(酸化シリコン層)を選択して形成された検出板と、頂角30°の二等辺三角形型シリカガラスプリズムと、光源としての波長632.8nmのヘリウムネオンレーザとを用いて測定した光反射率の入射角依存及び蛍光強度の光入射角依存を示す図である。ここで、入射光はS偏光に偏光されている。
なお、前記シリカガラスの発光を確認するために、検出面(前記シリカガラス薄膜の露出面)に蛍光物質を導入していない。
また、前記検出面は、リン酸緩衝液で覆うこととし、各測定点では、0.2秒間の露光を計5回行い、その平均値を算出している。また、前記ヘリウムネオンレーザからの散乱光の影響を軽減するため、光を検出する光検出器には、670±10nmの波長領域で光を透過するバンドパスフィルタを用いている。
図4において、68.8°付近に見られる反射率のディップは、前記光導波モードが励起されたことを示している。この光導波モードが励起される角度において、発光強度の増加が見られる。
これは、前記光導波モード励起により増強された電界を起源として、前記シリカガラス薄膜中の酸素過多に伴って生じた格子欠陥により発光が生じたものと推察され、こうした推察からは、前記シリカガラスの状態によって600nm〜750nmの波長領域の発光が生じることが想定される。
そのため、前記シリコン層上に前記シリカガラス(酸化シリコン層)が配される前記検出板を用いて、前記蛍光物質からの発光に基づき、前記標的物質の存在を検出しようとすると、前記シリカガラスからの発光であるのか、前記蛍光物質からの発光であるのかが判然とせず、前記標的物質の存在を検出し難いことがある。
以上から、前記光検出手段において、前記波長の光のみを検出することで、前記酸化シリコン層から発せられる光と、前記標的物質が存在することに由来する光とをより明確に区別して検出することができる。
【0029】
前記光検出手段の構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、480nm〜620nm又は730nm以上の波長の光を遮光する波長カットフィルタと、該波長カットフィルタを透過した光を受光する受光器とで構成することができる。
前記光検出手段の配置としては、前記蛍光を検出することが可能であれば特に制限はなく、例えば、前記検出面と対向する位置に配置する。
【0030】
本発明の一実施形態に係る標的物質検出装置50を図5に基づいて説明する。
標的物質検出装置50は、ガラス基板55上に、シリコン層56と酸化シリコン層57とがこの順に配される検出板51と、ガラス基板55のシリコン層56が配される面と反対側の面上に配される光学プリズム52と、光源53と、光源から照射される光を偏光する偏光板58と、標的物質60の存在に由来する蛍光を検出する蛍光検出器54とを有して構成されている。
酸化シリコン層57側の表面、即ち検出面には、標的物質60と特異的に結合するリンカー61が形成され、リンカー61に蛍光物質62で標識化された標的物質60が結合した状態で、光源53からの光が偏光板58及び光学プリズム52を介して検出板51のガラス基板55側から照射されると、前記光導波モードが励起されて酸化シリコン層57の表面近傍における電場が増強され、蛍光物質62から発せられる蛍光を蛍光検出器54で高感度に検出可能となる。
このとき、蛍光物質62は、酸化シリコン層57から発せられる光の波長と重ならない蛍光波長の光を発する材料から選択されるとともに、蛍光検出器54は、例えば、入射光の散乱成分や酸化シリコン層57から発せられる光をカットする波長カットフィルタと、該波長カットフィルタを透過する光を受光する受光器とを有して構成される。
したがって、標的物質検出装置50は、シリコン層56により密着性が向上された検出板51からガラス基板55及び酸化シリコン層57が剥離することなく、容易に製造することができ、なおかつ標的物質60を高感度に検出することができる。
【0031】
(標的物質検出方法)
本発明の標的物質検出方法は、本発明の前記標的検出装置を用いて前記標的物質を検出し、被検体液導入工程と、光照射工程と、光検出工程と、を有する。
【0032】
<被検体液導入工程>
前記被検体液導入工程は、前記検出板の表面に、蛍光を発する前記標的物質、前記標的物質を標識化する蛍光物質、又は前記蛍光物質で標識化された前記標的物質を含む被検体液を導入する工程である。前記蛍光の波長は、480nm〜620nm又は730nm以上であることが好ましい。
前記被検体液としては、特に制限はないが、例えば、前記標的物質を含む液体として調製され、前記検出面上に滴下することにより導入することができる。
【0033】
<光照射工程>
前記光照射工程は、前記被検体液が導入された前記検出板に対して、前記光照射手段から前記光学素子を介して光を照射する工程である。
前記光は、S偏光の成分を有し、かつ前記検出板において前記光導波モードが励起される特定の角度で照射する必要がある。前記角度は、前記検出板から反射される反射光を観察し、その反射率のディップが生ずる角度を測定することで、決定することができる(図4参照)。
【0034】
<光検出工程>
光検出工程は、前記光の照射に基づき、前記標的物質又は前記標的物質を標識化する前記蛍光物質から発せられる前記蛍光のみを検出する工程である。具体的には、波長フィルタを導入するなどして、480nm〜620nm又は730nm以上の波長の光のみを検出することが好ましい。
前記蛍光は、前記標的物質の存在に由来するため、前記標的物質検出方法では、前記蛍光の検出をもって前記標的物質の有無を決定することができる。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
1.2mm厚のシリカガラス基板上に、貼り合せ技術により形成した単結晶シリコン層の一部を表面側から熱酸化させることで、約200nm厚の単結晶シリコン層と約500nm厚の酸化シリコン層(透明薄膜)を形成し、本発明の標的物質検出装置に用いる実施例1の検出板を作製した。
【0036】
(比較例1)
高屈折率ガラス基板(オハラ社製S−LAH66基板)上に、蒸着法で約50nm厚の金層を形成し、この金層上にスパッタリング法で約450nm厚のシリカガラス層(透明薄膜)を形成して、比較例1の検出板を作製した。
【0037】
<密着性試験>
実施例1及び比較例1の検出板の透明薄膜上に水を滴下後、ワイプした際の膜の剥離状況を調べた。
検証の結果、比較例1の検出板では剥離が確認されるものの、実施例1の検出板では剥離が確認されないことが目視にて確認された。この様子を図6(a)及び図6(b)に示す。図6(a)は、各検出板の透明薄膜上に水を滴下する前の状態を示す写真であり、図6(b)は、各検出板の透明薄膜上の一部に水を滴下した後、その部分をワイプした状態を示す写真である。これらの図で確認されるように、比較例1の検出板では剥離が確認されるものの、実施例1の検出板では剥離が確認されていない。
このように、金属層に代えてシリコン層を有する検出板を用いれば、膜の剥離がなく、安定して標的物質の検出を行うことができる。
【符号の説明】
【0038】
1,11,51,101 検出板
2,12,52,102 光学プリズム
5,55 ガラス基板
6,16,56 シリコン層
7,17,57 酸化シリコン層
53,103 光源
54,104 蛍光検出器
58 偏光板
60,110 標的物質
61 リンカー
62 蛍光物質
105 透明基板
106 不透明基板
107 透明薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板上に、シリコン層と、酸化シリコン層とがこの順で配され、前記酸化シリコン層側の面を標的物質の検出面とする検出板と、
前記ガラス基板の前記シリコン層が配される面と反対側の面上に配される光学素子と、
前記光学素子を介して前記検出板に光を照射する光照射手段と、
前記光の照射に基づき、前記標的物質又は前記標的物質を標識化する蛍光物質から発せられる蛍光を検出する光検出手段と、
を有することを特徴とする標的物質検出装置。
【請求項2】
シリコン層上に酸化シリコン層が配されてなり、前記酸化シリコン層側の面を標的物質の検出面とする検出板と、
前記シリコン層の前記酸化シリコン層が配される面と反対側の面上に配され、ガラス材料で形成される光学素子と、
前記光学素子を介して前記検出板に光を照射する光照射手段と、
前記光の照射に基づき、前記標的物質又は前記標的物質を標識化する蛍光物質から発せられる蛍光を検出する光検出手段と、
を有することを特徴とする標的物質検出装置。
【請求項3】
光検出手段は、480nm〜620nm又は730nm以上の波長の光のみを検出する請求項1から2のいずれかに記載の標的物質検出装置。
【請求項4】
検出面の最表面に標的物質を特異的に捕捉する標的物質捕捉層が配される請求項1から3のいずれかに記載の標的物質検出装置。
【請求項5】
光照射手段は、少なくとも、光源と、該光源から発せられる光をS偏光に偏光する偏光板とを有する請求項1から4のいずれかに記載の標的物質検出装置。
【請求項6】
シリコン層の厚みが1nm〜5,000nmである請求項1から5のいずれかに記載の標的物質検出装置。
【請求項7】
シリコン層の形成材料が単結晶シリコンである請求項1から6のいずれかに記載の標的物質検出装置。
【請求項8】
酸化シリコン層がシリコン層を酸化することによって形成される請求項1から7のいずれかに記載の標的物質検出装置。
【請求項9】
検出面に、微細孔が形成される請求項1から8のいずれかに記載の標的物質検出装置。
【請求項10】
光検出手段は、480nm〜620nm又は730nm以上の波長の光以外を遮光する波長カットフィルタと、該波長カットフィルタを透過した光を受光する受光器とを有する請求項1から9のいずれかに記載の標的物質検出装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の標的物質検出装置を用いて標的物質を検出する標的物質検出方法であって、
検出板の検出面に、前記標的物質を含む被検体液を導入する被検体液導入工程と、
前記被検体液が導入された前記検出板に対して、光照射手段から光学素子を介して光を照射する光照射工程と、
前記光の照射に基づき、前記標的物質又は前記標的物質を標識化する蛍光物質から発せられる蛍光のみを検出する光検出工程と、を有することを特徴とする標的物質検出方法。
【請求項12】
光検出工程では、480nm〜620nm又は730nm以上の波長の光のみを検出する請求項11に記載の標的物質検出方法。
【請求項13】
標的物質は、480nm〜620nm又は730nm以上の波長帯域で蛍光を発する物質である請求項11から12のいずれかに記載の標的物質検出方法。
【請求項14】
蛍光物質は、480nm〜620nm又は730nm以上の波長帯域で蛍光を発する物質である請求項11から12のいずれかに記載の標的物質検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6(a)】
image rotate

【図6(b)】
image rotate


【公開番号】特開2013−15393(P2013−15393A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148028(P2011−148028)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】