説明

標的細胞の光学に基づく刺激及びそれに対する改変

標的細胞を、光を用いて、例えばin vivoまたはin vitroにて刺激することを、種々の方法及び装置を用いて実施する。一例として、光により活性化する分子をコードする核酸配列を含む、光により活性化する分子を送達するためのベクターが挙げられる。この光により活性化する分子は、例えば全トランスレチナールシッフ塩基の近くの位置への改変、すなわち開状態の持続時間を延ばすこと、を含む。他の態様及び実施形態は、イオンチャネルまたはポンプのための、または細胞において(例えば、in vivo環境及びin vitro環境において)電流をコントロールするための、システム、方法、キット、組成物及び分子に向けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連書類
本特許文書は、米国特許法(35 U.S.C.)第119条(e)に基づき、2008年11月14日に提出された「Systems, Methods and Compositions for Optical Stimulation of Target Cells and for Modifications Thereto」という発明の名称の米国仮特許出願第61/114,781号の利益を主張する。この仮文書は、それとともに提出された付属書類を含むものであり、参照により本明細書にその全体が組み入れられる。
【0002】
電子的に提出した資料の参照による組み入れ
本明細書と同時に提出された、次に示す通りの、コンピュータで読み取り可能なヌクレオチド/アミノ酸配列表は、参照によりその全体が組み入れられる:2009年11月13日に作成された「stfd225pct_ST25」というファイル名の31,298バイトのASCII(テキスト)ファイル1点。
【0003】
本発明は、一般的には、標的細胞を刺激するためのシステム及びアプローチに関し、また、より具体的には、光学を使用して標的細胞を刺激することに関する。
【背景技術】
【0004】
数々の有益な効果を生み出すために、身体の種々の細胞への刺激が利用されてきた。刺激方法の1つとしては、外部で発生させた信号を細胞中へと導く電極の使用が挙げられる。電極による脳刺激技術が抱える1つの問題は、ある所定の精神的プロセスに関与するニューロンの分布の性質である。反対に言えば、所定のタスクを実行する間、脳のある領域中の特定の細胞のみが活性化されるよう、異なる種類のニューロンが互いに近く存在するということである。言い換えれば、異種の神経路が並行して密接な空間的領域を通って移動しているだけでなく、それらの細胞体が、それ自身、混在してまばらに埋め込まれた配置で存在していることもある。このプロセシング分布様式のために、中枢神経系(CNS)内の規範的秩序(canonical order)を理解しようとする最良の試みは拒まれてしまうようであり、また、神経調節することは困難な治療上の努力を要する。脳のこの構造により、電極で刺激することに対して問題が生じる。それは、電極が、電極が刺激するニューロンの基礎的な生理機能に関して比較的無差別であるためである。代わりに、電極の極の、ニューロンへの物理的近接は、しばしば、いずれのニューロンが刺激されることとなるかを決める最も大きな唯一の要因となる。したがって、電極を使用して刺激をたった1種類のニューロンへと絶対的に限定するということは、一般的に実現不可能である。
【0005】
刺激するための電極の使用に伴うもう1つの問題は、電極の配置によりいずれのニューロンが刺激されることとなるかが決まることから、機械的安定性は、しばしば不十分となり、電極の、標的領域からの移動を引き起こす、ということである。さらに、体内にてある一定期間が経過すると、電極はしばしばグリア細胞によりカプセル化された状態となり、電極の実効電気抵抗が上昇し、ひいては標的とする細胞に達するのに必要な電力供給量が増加する。しかしながら、電圧、振動数またはパルス幅の代償的な上昇により、電流が広がり、さらなる細胞への意図しない刺激が増加することがある。
【0006】
もう1つの刺激方法は、感光性の生体分子構造を利用し、光に応答して標的細胞を刺激するものである。例えば、光により活性化するタンパク質を用いて、細胞膜を通るイオンの流れをコントロールしてもよい。細胞膜を通る陽イオンまたは陰イオンの流れを促進または阻害することにより、細胞を一時的に脱分極させてもよく、または、脱分極させかつその状態で維持してもよく、または過分極させてもよい。ニューロンは、脱分極によって生じる電流を利用して通信信号(すなわち神経インパルス)を発生させる種類の細胞の例である。電気的に興奮性の他の細胞としては、骨格筋細胞、心筋細胞、及び内分泌細胞が挙げられる。ニューロンは、急速な脱分極を利用して、信号を全身に、例えば運動制御(例えば、筋肉の収縮)、感覚応答(例えば、触覚、聴覚、及び他の感覚)及び計算的な機能(例えば、脳機能)などの種々の目的のために伝達する。よって、細胞の脱分極のコントロールは、例えば(これに限定されないが)心理療法、筋肉制御及び感覚機能などの数多くの様々な目的のために有益であり得る。
【0007】
用途に応じて、電気的な刺激及び/又は電流の流れの応答性の特定の特性が重要であり得る。特性の例としては、光刺激が除去された後の電流の持続時間、光刺激とイオンの流れの開始との間の遅延時間、及びイオンの流れを引き起こす(または阻害する)のに必要な光の強度または波長、が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の種々の態様は、上記で論じたような課題に対処するよう、光により活性化するタンパク質に関連する装置、方法及びシステムに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一の実施形態例によれば、本発明は、第一波長の光に応答して比較的長いオン時間を生じる階段関数オプシン(step−function opsin;SFO)に向けられたものである。これらのSFOは、オフにすることにより第二波長の光にも応答することができ、それにより、双安定スイッチとして機能する。
【0010】
特定の実施形態によれば、1つ以上のSFOは、神経細胞にて発現した場合には、光開口型(light−gated)膜チャネルとして機能する。SFOの活性化により、神経細胞の膜電圧/静止電位は、細胞の活動電位の閾値に向かって動き(例えば、その細胞が脱分極し)、それによりそこでの活動電位の発生を促進する。
【0011】
具体的な一実施形態によれば、本発明の態様は、神経病学または中枢神経系(CNS)に関連する疾患の特徴付けまたは治療のためのSFOの使用に向けられたものである。特定の態様は、疾患の治療または特徴付けのために、神経集団の、標的とする興奮を提供するための、SFOの使用に関する。他の態様は、神経回路の特徴付けに関するものであり、また、いくつかの場合においては、行動的な応答に関連していた。
【0012】
一実施形態によれば、本発明の態様は、オプシンのアミノ酸の変異/置換に向けられたものである。これには、変異オプシンをコードする分子及び/又は変異オプシン自体が含まれる。特定の一例では、これらの実施形態には、オプシンのオン時間及び/又はオンの流れ(on‐current)に影響を及ぼす置換が含まれる。例えば、置換は、ChR2またはVChR1に対してなされてもよい。特定の一実行形態では、これには、ChR2を例とすれば、C128及び/又はD156における置換が含まれてもよい。相同の置換がVChR1に対してなされてもよい。これらの置換及び他の置換は単独で用いられてもよく、または組み合わせて用いられてもよい。
【0013】
もう1つの実施形態によれば、本発明の態様は、神経疾患またはCNS系疾患の治療のための医薬に向けられたものである。この医薬は、患者に変異オプシンを導入するようデザインされる。この導入されたオプシンは、その後、それに対する光の適用を通して、治療計画の一部として制御されてもよい。
【0014】
特定の実施形態によれば、本発明の態様は、異なる神経集団内及び/又は同一細胞内における複数のオプシンのタイプの発現に向けられたものである。一実行形態では、これらのオプシンのタイプは、それぞれ、光の振動数/波長に対して異なる応答性を有し、それにより、刺激する光の波長のコントロールによる各タイプの個々のコントロールが可能となる。いくつかの実行形態において、これらのオプシンのタイプは、それぞれ、異なる時間的特性、異なる伝導特性を有し、かつ/または、過分極または脱分極する。
【0015】
もう1つの実施形態は、障害の治療のための方法に向けられた本発明の態様に関する。当該方法は、SFOと阻害分子の両方を利用して、ニューロンを選択的に助長または阻害する。当該方法は、障害を伴うニューロン群を標的とするものであり、また、この群において、当該方法には、抑制性電流を生じることにより該ニューロンの脱分極を制止するという光応答を、内因性の補因子を利用して行う、阻害タンパク質/分子を、設計する(enginerring)ことが含まれる。当該方法には、同じ群の、及び/又は異なる群の、ニューロンにおけるSFOを設計することも含まれる。この設計されたニューロンは、その後、光に曝露され、それにより、そのニューロンの脱分極が制止及び/又は助長される。
【0016】
上記概要は、本開示の各実施形態またはすべての実行形態を記述するよう意図されたものではない。以下に続く、図及び発明を実施するための形態は、種々の実施形態をより具体的に例示するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明は、以下に続く本発明の種々の実施形態の詳細な説明を考慮し、次の添付の図面と併せて、より完全に理解することができる。
【0018】
【図1a】高度好塩菌(H.salinarum)由来のバクテリオロドプシン(BR)に比した、いくつかのチャネルロドプシンのヘリックス3のアライメントを示す。保存された残基は強調表示された背景で示されており、発色団と相互作用するアミノ酸は102で示されており、また、ChR2のC128はアスタリスク()で印が付けられている。RSBの脱プロトン化及び再プロトン化のためのH+供与体または受容体として働くアミノ酸は、104で示されている。
【図1b】BRのD85、T90、及びD118がChR2のE123、C128、及びD156で置き換えわったBRのX線構造(1KGB13)に基づいたChR2の発色団モデルを示す。
【図1c】100mMのNaCl、pH7.4及び50mVにて、450nmの光パルス、240mWcm−2に応答した、アフリカツメガエル卵母細胞中で発現したChR2野生型(wt)、C128T、C128A及びC128Sから記録された光電流を示す。示されている時定数は、青色光刺激の終了後の電流の減衰に対するものである(平均値±s.e.m.;n=各トレースについて3個の細胞)。
【図1d】低光強度にて記録した定常状態の光電流の光依存性を示す。C128A及びSを発現する細胞は、wtのChR2を発現する細胞よりも約300倍感受性が高い。振幅は、飽和光における応答に正規化した(I/I飽和)。
【図1e】C128A変異体及びC128S変異体から記録した光電流を示す。オフの動態は、より長い波長を有する第二(オフ)光パルスが興奮(オン)パルスに続いた場合に、加速した(トレース:530nm;546nm;570nm;600nm)。
【図1f】C128A及びC128Sを発現する卵母細胞における、450nm及び546nmの光パルス(オフのパルス)を交互に発した場合、または450nmの光パルスのみを発した場合(オフのパルスなし)の応答を示す。上部及び下部のバーは、それぞれ、交互の青色/緑色(オン/オフ)及び青色のみ(オンのみ)のトレースに対する光刺激プロトコルを示している。
【図2a】αCaMKIIプロモーターの制御下でwtのChR2、C128S、C128A及びC128Tを発現する、培養した海馬ニューロンの共焦点画像を示す。ここでは、強度スケーリング及びピクセルサイズはすべての画像において同一であり、スケールバーは25μmである。
【図2b】wtのChR2及び変異体を発現するニューロンから記録した光電流の概要を示し、これらは平均値±s.e.mとして示される(wt、C128S、C128A及びC128Tについて、それぞれ、n=8、11、9及び10)。細胞は、470nmの青色光の10ミリ秒の1回のパルスで刺激した。
【図2c】ChR2変異体により誘発される脱分極を示す。電圧の記録は、C128S、A及びTを発現するニューロンにて、図2bと同一の刺激プロトコルの間に行った。ピーク脱分極レベルは、C128S、C128A及びC128Tについて、それぞれ、3個、7個及び7個の細胞から平均した。
【図2d】種々の長さの470nmの光パルスに応答した、C128A及びC128S変異体における脱分極の概要を示す(データは、各パルス長について少なくとも3個の細胞から平均されている)。
【図2e】wtのChR2、C128S、C128A、及びC128Tを発現するニューロンにおける470nmの青色光の10ミリ秒のパルスにより誘発された光電流の拡大図を示す。これは、これら変異体のより低いオンの動態を示している。
【図2f】10ミリ秒の青色光刺激に応答したオンの動態の概要を示す。電流トレースへの指数関数フィット(exponential fit)からの平均の時定数が示されており、;その一方、C128S及びC128Aのオンセットの(onset)動態は、図2eのトレースが類似しており、C128Sは、典型的には、ここに概略されているC128Aよりも低かった。
【図2g】C128変異体における、光電流のより低い減衰の時定数を示す。トレースは、各変異体においてピーク光電流に正規化されている。
【図2h】C128変異体におけるオフの動態の概要を示す。平均の時定数は、指数関数フィットから導き出した。
【図3a】αCaMKIIプロモーター下でC128Sを発現する培養ラット海馬ニューロンからの細胞全体の電流固定記録(whole−cell current clamp recording)を示す。閾値下の脱分極(sub−threshold depolarization)は、470nmの光の10ミリ秒の1回のパルス(上のトレース;囲み表示されていないダッシュ記号(unboxed dash)は刺激の時間を示している)により、または470nmの光の5ミリ秒の20回のパルスからなる一連の100Hzのトレーン(train)(下のトレース、各トレーンは囲み表示されていないダッシュ記号で示されており、囲み表示されているダッシュ記号(boxed dash)は緑色光を示している)により、誘発した。
【図3b】470nmと535nmとの光刺激の対により刺激した、C128Sを発現する海馬ニューロンからの細胞全体の電流固定記録を示す。上のトレースは、10ミリ秒の青色光(囲み表示されていないダッシュ記号)及び10ミリ秒の緑色光(囲み表示されているダッシュ記号)への応答を示しており、下のトレースは、10ミリ秒の青色光及び50ミリ秒の緑色光への応答を示している。刺激の対と対との間隔は20秒であり、刺激の各対内の間隔は5秒であった。
【図3c】50ミリ秒の緑色光による完全な不活性化を示す図3b中の下の刺激対から拡大したトレースを示す。静止膜電位は破線で示されている。
【図3d】左が、事前に記録したEPSPトレースで刺激したC128Aを発現する海馬ニューロンからの細胞全体の電流固定記録を示す。
【図4a】ChR2、ChR2(C128A/H134R)、VChR1及びVChR1(C123S)の励起スペクトルを示しており、また、特に、図4bは、ChR2(C128A/H134R)が、VChR1(C123S)に比してシフトしたスペクトルを維持していることを示している。
【図4b】ChR2(C128A/H134R)及びVChR1(C123S)の不活性化スペクトルを示しており、また、特に、図4bは、ChR2(C128A/H134R)が、VChR1(C123S)に比してシフトしたスペクトルを維持していることを示している。
【図4c】VChR1のSFO及びChR2の機能獲得型(gain−of−function;GF)SFO(C128A/H134R)についての、ピーク電流の大きさならびにオン及びオフの動態(例えば、初期光から、対応するこれらチャネルの(非)活性化までの時間)を示す。
【図5a】ChR2(C128A/H134R)を発現する細胞からの電流記録を示しており、特に、ゆっくりベースラインへと減衰する、10ミリ秒のオン/青色光パルスに応答した200pAの光電流を示している。
【図5b】図5aと同一の細胞からの電圧記録を示しており、10ミリ秒の470nmの光(オン/青色のパルス)と100ミリ秒の560nmの光(オフ/緑色のパルス)との対の繰り返し供給に対するこの細胞の応答が示されている。
【図6】ChR2(C128S/D156A)を発現する細胞における電流記録を示しており、オンのパルスに応答した遅い動態が示されている。
【0019】
本発明は種々の改変及び代替形態を受け入れることが可能であるが、その具体例は、これら図面において、例を挙げて示してきた。また、以下、詳細に説明する。しかしながら、その意図は、本発明を、記載した特定の実施形態へと限定するものではないと理解されるべきである。反対に、その意図は、本発明の精神及び範囲の範囲内に収まるすべての変形、代替物、及び代替をカバーしようというものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、種々の感光性の生体分子構造の実際の適用を促進するために有用であると考えられ、また、本発明は、特に、細胞膜の電圧コントロール及び刺激を扱う集成装置(arrangement)及び方法における使用に適しているということが分かっている。本発明は、必ずしもこのような用途に限定されるわけではない。本発明の様々な態様は、この背景を用いた種々の例に関する考察を通して理解され得るものである。
【0021】
本発明の一実施形態例に一致させて、光応答性タンパク質/分子を、細胞にて設計する。このタンパク質は、光に応答して、細胞膜を横切るイオンの流れに影響を及ぼす。イオンの流れのこの変化により、、細胞において対応する電気的性質(例えば、細胞膜を横断する電圧及び電流の流れ)に、変化が生じる。1つの例においては、このタンパク質は、内因性の補因子を利用してin vivoにて機能し、細胞膜を横切るイオンの流れを変更する。他の例においては、このタンパク質は、その細胞における活動電位発火(action potential firing)を制止するよう、細胞膜を横断する電圧を変化させる。さらにもう1つの例においては、このタンパク質は、その細胞の電気的性質を、光の導入の数ミリ秒以内に変化させる能力を有する。本発明の実施形態は、このような、光により活性化するタンパク質/分子を、特異的に変異させることに関する。これらの変異には、当該タンパク質内の1つ以上のアミノ酸の置換が含まれ、それにより、本明細書において提示された実験データにより証明されるような驚くべき結果が生じる。これらの置換は、タンパク質/分子をコードするヌクレオチド配列を改変することにより実施されてもよい。特定の実行形態は、哺乳類の神経細胞における発現のために、このヌクレオチド配列をデザインすることに関する。
【0022】
このようなタンパク質の送達に関する詳細については、2006年7月24日に提出された「Light‐Activated Cation Channel and Uses Thereof」という発明の名称を有する米国特許出願第11/459,636号を参照してもよく、この文献は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる。
【0023】
本発明の特定の実施形態の態様は、光開口型チャネルの特定の部分の同定及び改変に向けられたものである。これらの改変には、このチャネルの鍵になる部分を同定することが含まれる。このチャネルは、このチャネルの三次構造の高分解能イメージングにより同定されてもよい。あるいは、類似のチャネルの構造に関する知識を用いてもよい。以下の説明は、ある具体的な実験的実行形態及び方法論の詳細を提示するものである。本発明は、いずれか1つの実行形態に限定されるものではなく、また、本明細書における教示に一致する様々な位置における数多くの様々な分子改変について行われ得る。
【0024】
本発明の具体的な態様は、神経科学に適した微生物のオプシン遺伝子に関するものであり、これは、無処理の哺乳類の脳内の特定の細胞型において、光パルストレーンをミリ秒のタイムスケールの膜電位変化へと変換することを可能にするものである(例えば、1つの例が配列番号1として提示されているチャネルロドプシン(ChR2)、1つの例が配列番号2として提示されているボルボックスのチャネルロドプシン(VChR1)、及び、1つの例が配列番号3として提示されているハロロドプシン(NpHR))。ChR2は、単細胞緑藻である緑藻クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)由来のロドプシンである。本明細書において用いられる「ロドプシン」という語は、少なくとも2つの構成ブロック(building block)、すなわち、オプシンタンパク質と、共有結合した補因子(通常はレチナール(レチナールデヒド)である)と、を含むタンパク質を指す。ロドプシン(ChR2)は、もともとはクラミドモナスゲノム中のクラミオプシン(Chlamyopsin)‐4(Cop4)という名前であったチャネルオプシン‐2(Chop2)というオプシンに由来するものである。1つの脱分極チャネルロドプシンであるChR2の時間的特性としては、活性化及び不活性化が速いという動態が挙げられる。これにより、タイミングが正確な活動電位トレーン(train)の発生がもたらされる。長いタイムスケールの活性化を求める用途に対しては、このチャネルロドプシンの通常は速いオフの動態を遅くすることが可能であることが見出されている。例えば、チャネルロドプシンの特定の実行形態では、事実上、脱分極が望まれる全時間にわたり、1mW/mm2の光が適用される。これは、望ましいよりも少なくてもよい。
【0025】
本明細書における考察の多くは、ChR2に向けられたものである。別途明示されていない限り、本発明には、数多くの類似の変異体が含まれる。例としては、Chop2、ChR2‐310、Chop2‐310、及び、1つの例が配列番号2として提示されているボルボックスのチャネルロドプシン(VChR1)、が挙げられるが、これらに限定されない。VChR1に関するさらなる詳細については、「Red−shifted optogenetic excitation: a tool for fast neural control derived from Volvox carteri」、Nat Neurosci. June 2008, 11(6):631‐3. Epub 2008 Apr 23、を参照してもよく、これは、参照により本明細書にその全体が組み入れられる。他の実行形態では、類似の改変を、他のオプシン分子に対して行ってもよい。例えば、改変/変異を、ChR2またはVChR1変異体に対して行ってもよい。さらに、その改変した変異体を、例えば、これに限定されるものではないが、配列番号3〜13の配列に一致する分子などの、光により活性化するイオンポンプと組み合わせて用いてもよい。
【0026】
本発明の実施形態には、天然に存在する配列の、比較的マイナーな(minor)アミノ酸変異体が含まれる。1つの例においては、これら変異体は、天然に存在する配列のタンパク質配列に対して約75%よりも大きく相同である。他の変異体においては、その相同性は約80%よりも大きい。さらに他の変異体は、約85%よりも大きいか、90%よりも大きいか、またはさらには約93%〜約95%と同等の高さか、または約98%の、相同性を有する。この文脈における相同性とは、配列類似性または同一性を意味するが、同一性の方が好ましい。この相同性は、当該分野において公知の標準的な技術を用いて決定してもよい。本発明の実施形態の組成物には、本明細書において提示されるタンパク質及び核酸配列が含まれるが、例えば、その提示された配列に対する相同性が約50%より大きいか、その提示された配列に対する相同性が約55%より大きいか、その提示された配列に対する相同性が約60%より大きいか、その提示された配列に対する相同性が約65%より大きいか、その提示された配列に対する相同性が約70%より大きいか、その提示された配列に対する相同性が約75%より大きいか、その提示された配列に対する相同性が約80%より大きいか、その提示された配列に対する相同性が約85%より大きいか、その提示された配列に対する相同性が約90%より大きいか、または、その提示された配列に対する相同性が約95%より大きい、変異体、が挙げられる。
【0027】
本明細書で用いられているように、一般的には、標的細胞の刺激を用いて、その細胞の性質の改変を説明する。例えば、標的細胞の刺激は、その標的細胞の脱分極または分極を引き起こすことができるような細胞膜の性質の変化をもたらすものであってもよい。特定の1つの例においては、当該標的細胞はニューロンであり、当該刺激は、ニューロンによるインパルス(活動電位)の発生を促進または阻害することにより、インパルスの伝達に影響を及ぼす。
【0028】
本発明の具体的な一実施形態は、光の、短い1回のパルスによりゲートが開閉して活性状態になり、それと同時に、その光パルスよりも有意に長いある期間にわたり活性状態が維持される、双安定の(例えば、光学的な刺激の非存在下で長期化された伝導状態及び非伝導状態を有する)チャネルロドプシンの産生に関する。そのようなチャネルロドプシンは、光のデルタ関数を効率的に処理して、膜電位の階段関数にする。これらの及び他の特性は、外因性の化学的な補因子が望ましくない用途(例えばin vivoでの用途)など、長いタイムスケールの、神経調節性の、開発上の、及び前臨床/臨床の用途に特に有用であり得る。
【0029】
本発明の特定の実施形態の態様は、特に、脱分極の終了のオフセット(offset)が、当該引き金となった光パルスの終わりから有意に遅延する場合の、結果として生じる安定な脱分極の、指定した時間における、コントロールされた終了、に向けられたものである。例えば、オプシンの活性化により、ニューロンの膜の静止電位が、活動電位の閾値電圧に向かって一時的にシフトし、それによりそこでの活動電位が上昇し得る。その同じオプシンの非活性化により、その活動電位は「正常な」静止電位へと回復する。この不活性化は、適切な振動数及び強度の光学的な刺激によって行われてもよい。
【0030】
本発明の実施形態は、ChR2の1つ以上の改変により、そのタンパク質残基に、そのチャネルの動態に影響を及ぼす様式で、影響を及ぼすことに関する。本発明の実施形態は、光開口型チャネル及びポンプに対する改変のホスト(host)を生じさせるための機構を提供する。その三次構造が高分解能で入手可能な、例えば原核生物のプロトンポンプバクテリオロドプシン(BR)などの、類似したチャネル/ポンプとの配列比較を用いて、改変のための位置を同定する。例えば、微生物ロドプシンにおける7つの推定上の膜貫通ヘリックスに関するBRからの推論によると、ヘリックス3は、当該全トランスレチナールシッフ塩基(RSB)発色団と相互作用する可能性のあるほとんどのアミノ酸を含有し、それ故に、チャネルの開閉を支配している可能性があるということが指し示された。これらのアミノ酸のうちの多くがチャネルロドプシンにおいて保存されており(図1a)、これは、非伝導状態と伝導状態との相互変換を支配するRSBスイッチも高度に保存されているということを暗示するものである。したがって、当該RSBに干渉する変異は、色の調整に対してだけでなく、変化する動態及び伝導状態の蓄積に対しての、可能性のある候補である。当該RSBと相互作用するアミノ酸のうち、BRとChR2との間の最も目立つ配列の差は、BRのThr90に相当する、ChR2のCys128残基である。高分解能X線結晶学では、BR中のThr90が、当該プロトン化されたRSBのC11/C12炭素の近くに位置するということが示されてきた(図1b)。BRにおいてThr90をAlaまたはValへと変異させることにより、チャネルの動態が遅くなり、また、M及びOの光サイクル状態の蓄積がもたらされる。よって、本発明の実施形態は、チャネルの動態をコントロールするためのC128の改変に関する。
【0031】
一実行形態例では、チャネルロドプシンを、C128をThr、Ala、またはSerで置き換えることにより改変する。ChR2‐C128T、ChR2‐C128A、及びChR2‐C128Sは、アフリカツメガエルの卵母細胞において発現し、また、470nmの青色光のパルスに応答した光電流を記録した。驚いたことに、これらの改変によって、光刺激が終わった後に当該チャネルが閉じるのが、劇的に遅くなった(3〜4桁)。したがって、これらの遺伝子を、以下、階段関数オプシン(SFO)遺伝子と称する。野生型(wt)のChR2についての11.9±0.3ミリ秒である閉鎖時時定数(closing time constant)に比して、光の除去後の閉鎖時時定数(time constant for closure)は、C128T、C128A、及びC128S変異体について、それぞれ、2.0±0.5秒、52±2秒、及び106±9秒にて測定されたが、これは、伝導状態の存続期間が大幅に長期化されることを明らかにするものであった(図1c)。ある所定の光強度における光電流の振幅は、新たな開状態の動員(recruitment)と閉鎖状態への遷移とのバランスにより設定されるので、開状態の蓄積が増加しているのを、より低い光レベルにおける応答性の効率的増加の観点から試験した。定常光電流の光強度依存性は、増加する強度の光パルスに対する応答を記録することによって決定した。その結果は、飽和光パワーにおける応答に正規化した(図1d)。C128S及びC128Aを発現する細胞は、wtのChR2を発現する細胞よりも少なくとも300倍低い強度の光に対して応答性であった。これにより、これらSFOの驚くべきもう1つの特性が明らかとなった。
【0032】
本発明の態様には、時間的に正確なSFO電流の停止方法が含まれる。チャネル開状態を反映するChR2スペクトル中間体は、暗状態P470に比して赤方にシフトしている520nm(P520)付近を最大限に吸収する。この光中間体(photo‐intermediate)には、光反応が起こり得、開状態の間に適用した短時間の緑色光のフラッシュにより、時期尚早にチャネルが閉じる。この光中間体は通常は存続期間がとても短いために光化学的な逆反応を効率よく利用することはできないが、これらC128変異体においてはP520の存続期間が長期化されているため、当該双安定スイッチを切るための緑色光の使用が可能となる。実際に、C128A及びC128Sの不活性化の動態は、より長い波長の第二の光パルスが励起パルスの後に続いた場合に、大きく加速した(図1e、f)。530nmの光は「オフの」動態の最も高い加速度を示したが、電流は、暗状態によるこの波長のかなりの量の吸収に起因してゼロをはるかに超えるレベルへと低下した(図1e)。より長い波長の光では、P480によるより低い吸収に起因して、より遅いがより完全な不活性化が示され(ΣP520のΣP480に対する比が改善され)、また、546nmの光のパルスは、速い完全な不活性化に最適であることが分かった。450nmの光と546nmの光とを交互に用いることにより、ランダウンなく、可逆的なオン‐オフのスイッチングが可能となり、それにより、SFOの、速い双安定スイッチング機構が決定された(図1f)。
【0033】
この、新規の特性の集まりは、これらのチャネルの、複数の次元にまたがる量的な特性の進化における数桁の進歩を示す。多くのオプシン(例えば、チャネルオプシン‐1すなわちChR1)は、ニューロン中で発現しない。しかしながら、驚くべきことに、当該3つのSFO遺伝子(C128T、C128A及びC128S)は、CaMKIIαプロモーターにより駆動するレンチウィルスベクターを用いて、海馬ニューロンにおいて、EYFP融合物として発現させることができた。この3つの変異体を発現するニューロンは、ChR2‐EYFP(図2a)と同様の細胞内分布を示し、C128A及びC128Sは、量的に減少したレベルで発現したようであった。470nmの光の10ミリ秒のパルスにより誘発された光電流を記録した。C128Tにおいて記録されたピーク光電流は、野生型のChR2に類似していた(それぞれ、184±34pA及び240±59pA;それぞれ、n=10個の細胞及び8個の細胞;図2b)が、一方、C128A及びC128Sは、実際に、より小さい光電流振幅を示した(それぞれ、74±17pA及び61±9pA;それぞれ、n=11個の細胞及び9個の細胞;図2b)。しかしながら、10ミリ秒までの短時間のフラッシュは、すべての場合において、C128A/Sについて、ほぼ最大の電流(図2b)及び電圧変化(図2c、d)を誘発した。これは、暗状態及び伝導状態の平衡が、ある所定の光強度において、数ミリ秒以内に達成されたということを暗示するものである。3つの変異体すべてにおいて、オンの動態(光の第一の適用後のチャネルの応答時間)は、速いままであり、wtのChR2よりもわずかに遅いのみであった(ChR2、C128T、C128A及びC128Sについて、それぞれ、τオン=1.7±0.1ミリ秒、11.6±1.5ミリ秒、7.2±0.8ミリ秒及び20±1.4ミリ秒;図2f)。卵母細胞のデータに一致して、変異体の光電流は、光の除去後、その差が4桁以下である、より遅い動態を示して減衰した(wtのChR2、C128T、C128A及びC128Sについて、それぞれ、τオフ=10±0.8ミリ秒、1.8±0.3秒、49±3.5秒及び108±42秒;図2h)。これらの結果は、階段関数特性がニューロンにおいて保存されていた、ということを示している。
【0034】
ニューロン中のこれら変異チャネルの、短い光パルスに応答して、長期化された可逆的な膜の脱分極を生じさせる能力について検査した。その結果を図3に示す。C128Sを発現するニューロンでは、青色光(470nm)の10ミリ秒の1回のフラッシュにより、著しく長期化された閾値下の脱分極を誘発することができ(図3a、上のトレース)、また、15秒おきに、たった1回の10ミリ秒の光パルスからなる長期的な刺激プロトコルにより、535nmの光の1回のパルスで迅速に停止し得る数分間にわたる持続性の安定した脱分極が可能となった(図3a、下のトレース)。実際に、青色及び緑色の刺激の対を用いて、複数の正確な階段を、同一のニューロンにおいて確実に送達及び停止することができた(図3b)。最適な不活性化は、535nmの光の50ミリ秒の1回のパルスで生じることが分かった(図3b及び3c中の上のトレースと下のトレースとを比較。P520からP480への遷移に対する低下した量子効率に一致)。同時に、これらのデータは、ニューロンにおける双安定スイッチング挙動を示すものである。
【0035】
C128AまたはC128S発現ニューロンの、光刺激によって誘発される安定した閾値下の脱分極は、(WTのChR2のように)タイミングが正確なスパイクトレーンを駆動するのに特に有用であり得、また、長期的に上昇した興奮性(excitability)を送達し、調節された状態またはアップ状態(UP state)(興奮性及び情報スループットを調節する閾値下の5〜10mVの階段上の脱分極)を模倣するのにも特に有用であり得、また、遺伝学的に標的とされたニューロンの、天然の、内因性のシナプス入力に対する感受性を効率的に高めるのに特に有用であり得る。特定の実行形態では、これらの性質により、あるニューロン型の因果関係上の重要性を検査することが容易になる。これは、特定の細胞型がその機能を果たす際の神経スパイクコードが未知であることが神経科学者にはしばしばあるが、SFO遺伝子を発現させ、図3dに図示されているように、それらの細胞を通る情報の流れの天然のパターン/固有のパターンを安定かつ可逆的に増強することにより、その細胞型の因果関係上における十分条件を検査することが可能であり得ることによる。
【0036】
図3dは、左が、C128Aを発現する海馬ニューロンの、細胞全体の電流固定記録を示したものである。天然の興奮性シナプス後電位(EPSP)トレーンを、電流固定記録により、形質導入されていない海馬錐体ニューロンにて収集し、また、20秒の「アップ状態」が青色光パルス(10ミリ秒、470nm)によって誘発され、緑色光パルス(50ミリ秒、535nm)によって停止される前、間、及び後に、そのEPSPトレーンを、C128AまたはC128Sを発現する細胞中で再現した(図3d)。当該アップ状態の前または後では、EPSPトレーンはスパイク発生をほとんど生じなかった(20秒中3±1.1個のスパイク)が、その一方、アップ状態の間には、同一のEPSPトレーンが、大きく増加したスパイク発生を誘発した(その20秒の間に17±3.5個のスパイク;9/9個の細胞でスパイク発生が増加した。t検定:p=0.0006)。これは、実験者が正確に定義し得る長いタイムスケールで、実施最中のシナプス活動に対するニューロンの感受性を高める、神経調節性の、またはアップ状態様の光刺激に、これらのSFO遺伝子を使用することができる、ということを示すものであった。
【0037】
より具体的には、前期記録されたEPSPトレースは、5つの同一ブロック(一番下の2つの線)で送達された。ブロック1、3、及び5においては、470nm(オンのパルス)と535nm(オフのパルス)の光刺激の対(それぞれ、10ミリ秒、50ミリ秒;それぞれ、囲み表示されているダッシュ記号、囲み表示されていないダッシュ記号で記載されている)が送達され、閾値下の脱分極が誘発された。ブロック2及び4においては、光は送達されなかった。図3dの右は、光あり、及び光なしの際のEPSPに対する応答の拡大図(破線で囲われた黒い四角を重ね合わせたもの)を示しており、光によって誘発されたEPSP刺激に対するスパイク発生の増加を示している(下のトレース)。
【0038】
当該C128A及びC128Sプローブは、神経回路を操作するのに有用なプロパティーを提供する。新規の基礎科学用途を可能にすることに加えて、必要な光が低減されていることは、前臨床及び臨床実験における光学的なハードウェア要件に関して特に有用であり、電源の消費(power draw)、加熱、及び、長期的な光毒性の危険性、が減少する。さらなる拡張としては、より低いエネルギーの光子でより大きな容量の組織を動員するための赤方にシフトしたVChR1型、及び、eNpHRのような膜輸送増加させるための分子改変、が挙げられる。安定性と光応答性との両方における数桁分の改善は、チャネルロドプシンの正確なオン/オフのスイッチング及び化学的補因子非依存性と共に、協同して、哺乳類の神経回路に関する基礎研究及び前臨床/臨床研究の両方にとって鍵となるプロパティーの一群を提供する。
【0039】
本発明の実施形態は、ChR2における他の部分の改変を含む。上述のようにして、その性質の特徴決定を行ってもよい。例えば、C128の近傍になされた改変は、本発明の範囲内に入る。他に考えられるものとしては、E123及びH134における改変、該改変とC128における改変との組み合わせ、E123及びH134の近傍における改変、該改変とC128の近傍における改変との組み合わせ、E123及びH134における改変とC128の近傍における改変との組み合わせ、E123及びH134の近傍における改変とC128における改変との組み合わせ、が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
特定の一実行形態は、C128AまたはC128Tの変異を伴うH134R変異に関する。これらの変異によりコンダクタンスが増強され、一方、本明細書において言及した変異体に一致する時定数も得られる(C128Aについては42秒、C128Tについては2.5秒)ことが観察されている。図4cに示すように、電流の大きさは、より大きくなるため、ニューロンをスパイク発生の閾値を超えて脱分極させるのに特に有用であり得る。図4cでは、ターンオン時間(右上)、光なしでのターンオフ時間(左下)、及び、光に応答したターンオフ時間(右下)、も示されている。
【0041】
図5は、ChR2(C128A/H134R)を発現する細胞から記録したサンプル電流を示しており、この変異体の活性化に応答したスパイク発生も示されている。図5aは、ChR2(C128A/H134R)を発現する細胞からの電流記録を示しており、特に、ゆっくりベースラインへと減衰する、10ミリ秒のオン/青色光パルスに応答した200pAの光電流を示している。図5bは、図5aと同一の細胞からの電圧記録を示しており、10ミリ秒の470nmの光(オン/青色のパルス)と100ミリ秒の560nmの光(オフ/緑色のパルス)との対の繰り返し供給へのこの細胞の応答が示されている。
【0042】
本発明の実施形態は、ChR1またはVChR1の改変に向けられたものである。図1aで示されているように、当該改変は、ChR2に関して説明された位置と相同な位置に対してなされてもよい。例えば、VChR1のC123に対して改変がなされるが、この改変には、Thr、AlaまたはSerのうち1つによる置換が含まれる。
【0043】
本発明の他の実施形態によれば、ChR2に対する改変/置換は、D156にて、またはその近くでなされる。例えば、二重変異体C128S/D156Aは遅い閉鎖動態を有するということが、実験結果により示されてきた。培養細胞からの記録では、青色光の10ミリ秒の1回のフラッシュが引き金となった電流は、13分の記録の後に、その最初の大きさの約90%へと減衰したのみであった(図6)。この変異体の光感受性は、これまでに検査されたすべてのSFOよりも優れており、また、この変異体は、1μW/mm2までの光の最大光電流に応答し得る。
【0044】
他の本発明の実施形態には、同じように遅いものの、赤方にシフトしたチャネルを作製するための、VChR1に対する、類似した変異(1種類または複数種類)が含まれる(例えば、C123S/D151A)。例えば、VChR1中のC123Sの置換により、光の除去後のチャネル閉鎖の時定数が約30秒(図4c)である階段関数オプシンがもたらされ、これは該時定数がおよそ120ミリ秒程度である改変されていないVChR1に比して驚くべきものである。
【0045】
本発明の態様は、(ChR2に比して)赤方にシフトしたVChR1の励起(図4a)の使用に関する。この赤方シフトは、その比較的長い時定数に関連して、深部組織透過に特に有用であり得る。例えば、VChR1の階段関数型を用いて、光を、低い強度及び繰り返し率の両方にて送達して、標的とする細胞の長期的な活性化を達成してもよい。もう1つの態様は、ChR2及びChR2系SFOからのスペクトル分離に関する(図4a、4b)。例えば、改変VChR1が第一のニューロン集団中で発現し得、その一方で、改変ChR2は別のニューロン集団中で発現し得る。そのため、異なる波長の刺激光により、2つの異なるニューロン集団における、興奮性の、デュアル・チャネル制御が可能となり得る。
【0046】
図6は、本発明の一実施形態に一致する、ChR2変異体C128S/D156Aの長時間電流記録を示している。ここに示されているように、この変異体は、変異させていないChR2及び類似の光応答性チャネルに比して、遅い閉鎖動態を示す。
【0047】
本発明の実施形態は、それら自体が、広範囲にわたる用途に役立つ。以下、いくつかの例示的用途について論じるが、本発明は、これら具体例に限定されるものではない。これらの例はむしろ、実行形態の例を提示するものであり、また、本発明の態様が、それ自体、幅広い用途に役立つ、ということを示すものである。
【0048】
このような用途の1つは、長期化された期間に渡り且つ時間的精度の高い、神経系細胞における固有の活動電位の発生を、促進することに関する。種々の実験結果によって支持されているように、特定のSFOにより、双安定特性を伴う、速いオン/オフのコントロールが可能となる。刺激がニューロンの静止電位を乗り越えるのに十分である場合、固有の神経刺激により、そのニューロンにて活動電位が生じる。そのようなSFOを発現するよう設計された神経集団は、この静止電位の光学的なコントロールを提供し、それにより、自然発生刺激の結果、活動電位の発生が促進される。このコントロールは、特定のSFOが、長期間にわたり持続する速い時間的応答性を有する、という認識により促進され得る。例えば、それらSFOの活性化(伝導応答)は、光学的な刺激の適用後、ミリ秒のオーダーであってもよく、一方、それらSFOはまた、その光学的な刺激が除去された後の数百ミリ秒、またはさらには数百秒、にわたり活性化されたままであってもよい。これは、SFOの活性化を維持するのに必要な、不利益である可能性のある(例えば、細胞の健康、光学的に発生した熱、及び/又はバッテリー電源の消費(battery power drain))光学的な刺激の量を減少させつつ、SFOの活性化を正確にコントロールするに際して、特に有用であり得る。さらに、種々のSFOは、特定の波長の光に曝露された場合に、比較的速い時間的オフ時間を示した。よって、正確な時間的コントロールは、神経系細胞または神経集団の固有の活動を促進しながら、最小限の光学的な刺激により達成され得る。
【0049】
本発明のより具体的な一実施形態例に一致させて、さらなる分子、例えばナトロノモナス・ファラオニス(Natronomonas pharaonis)由来のNpHRなどを、時間的に正確である光学的な神経活動抑制に用いてもよい。NpHRにより、速いスパイクトレーン内の単一の活動電位、及び、スパイク発生の、何分間にもわたる持続的な遮断、の選択的な抑制が可能となる。NpHRの作用スペクトルは、チャネルロドプシン‐2(ChR2)(緑藻クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)由来)に比して、強く赤方にシフトしているが、同様の光パワーで作動する。また、NpHRは、哺乳類において、外因性の補因子なしで機能する。1つの例においては、NpHRとChR2の両方が標的細胞中で発現してもよい。同様に、NpHR及びChR2は、線虫(C. elegans)の筋肉及びコリン作動性運動ニューロンを標的として、移動運動を双方向性にコントロールするものであってもよい。この点に関しては、NpHR及びChR2は、生きている神経回路についての、マルチモードであり、高速であり、遺伝学的に標的が定められた、全光学的な(all−optical)調査のための、光遺伝学的システム(optogenetic system)を形成する。
【0050】
本発明の他の実施形態例によれば、抑制性ニューロンの電流の流れを発生させるための方法には、ニューロンにおいて、抑制性電流を生じることにより該ニューロンの脱分極を制止するという光応答を示すタンパク質を、設計することが含まれる。そのような方法の1つでは、当該タンパク質はハロロドプシンに基づくものであり、また、他の方法では、当該タンパク質は、内因性の補因子を利用する阻害タンパク質である。
【0051】
他の実施形態例においては、ニューロンの活動電位をコントロールするための方法には、次の工程が含まれる:該ニューロンにおける第一光応答性タンパク質を設計すること;光に応答して、該ニューロン中で、かつ、該第一光応答性タンパク質から、抑制性電流を生じること;該ニューロンにおける第二光応答性タンパク質を設計すること;及び、光に応答して、該ニューロン中で、該第二光応答性タンパク質から励磁電流を生じること。
【0052】
他の実施形態には、細胞の細胞膜にかかる電圧レベルをコントロールするための方法であって、次のことを含む方法が含まれる:その細胞における第一光応答性タンパク質を設計すること;その細胞膜にかかる電圧レベルを測定すること;及び、第一波長の光に応答して、かつ、その第一光応答性タンパク質を用いて、その測定された電圧レベルに応答性であるその細胞膜を横切る電流を生じること。
【0053】
本発明の他の態様は、in vivoにてニューロンの活動電位をコントロールするためのシステムに向けられたものである。このシステムには、運搬装置、光源、及び制御装置が含まれる。この運搬装置は光応答性タンパク質をニューロンへ導入し、この光応答性タンパク質は抑制性電流を生じる。この光源は、当該光応答性タンパク質を刺激するための光を発生させるものであり、また、この制御装置は、この光源による光の発生をコントロールするものである。
【0054】
より詳細な実施形態では、そのようなシステムをさらに適合させて、当該運搬装置によって、当該光応答性タンパク質が、トランスフェクション、形質導入及びマイクロインジェクションのうちのうち1つにより導入されるようにするか、及び/又は、当該光源により、光が、インプラント型光発生装置及び光ファイバーのうちの1つを介して当該ニューロンへと導入されるようにする。
【0055】
本発明の具体的な態様は、時間的に正確な、神経活動の光学的抑制のための、古細菌の光駆動クロライドポンプ(例えばナトロノモナス・ファラオニス(Natronomonas pharaonis)由来のハロロドプシン(NpHR)など)の使用に向けられたものである。NpHR系のポンプにより、速いスパイクトレーン内の単一の活動電位のノックアウト、及び、何分間にもわたりスパイク発生を持続的遮断すること、の両方が可能となる。また、このポンプは、ChR2またはVChR1に基づくSFOに比べて同様の光パワーにて、ただし、強く赤方にシフトした作用スペクトルで、作動する。このNpHRポンプは、哺乳類中で、外因性の補因子なしでも機能する。
【0056】
より詳細な実施形態は、このような技術に広がっている。例えば、本発明の他の態様は、種(例えば、マウス及び線虫(C. elegans))の中で、NpHRとSFO(例えば、ChR2またはVChr1変異体)とを共発現する。また、NpHR及びSFOは、神経活動の双方向性の光変調及び読出し(readout)のための哺乳類の脳の急性切片におけるカルシウムイメージングに統合される。同様に、NpHR及びSFOは、線虫(C. elegans)の筋肉及びコリン作動性運動ニューロンを標的として、移動運動の双方向性コントロールを提供するものであってもよい。同時に、NpHR及びSFOは、生きている神経回路についての、マルチモードであり、高速であり、遺伝学的に標的が定められた、全光学的な調査のための、完全かつ補完的な光遺伝学的システムとして用いられてもよい。
【0057】
NpHR、ChR2及びVChR1の変異体に加えて、細胞内のイオン流束または二次メッセンジャーを光学的に制御すべく設計可能な数多くのチャネルロドプシン、ハロロドプシン、及び微生物のオプシンが存在する。本発明の種々の実施形態には、そのようなイオンの光学的調節因子の、コドン最適化された、変異させた、切断された(truncated)、融合タンパク質、標的とされた型、またはそうでなければ改変された型が含まれる。よって、ChR2及びNpHR(例えば、GenBankのアクセッション番号は、当該「哺乳動物化(mammalianized)」NpHR配列についてはEF474018、また、当該「哺乳動物化」ChR2(1‐315)配列についてはEF474017である)ならびに変異体は、数多くの種々の実施形態の代表例として使用される。SFO、ChR2及びNpHRをを具体的に同定する考察は、本発明を、光学的調節因子のこのような具体的な例に限定することを意味するものではない。前述の配列に関するさらなる詳細については、Feng Zhangらによる「Multimodal fast optical interrogation of neural circuitry」、Nature(April 5, 2007) Vol. 446: 633‐639、を参照してもよく、この文献は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる。本明細書において論じられている様に、これらの配列は、それ故に、所望のチャネル動態を提示するよう改変されてもよい。
【0058】
本発明の一実施形態例によれば、in vivoで標的細胞を刺激するための方法は、感光性イオンチャネル増殖(例えば、SFO/ChR2系イオンチャネル)を引き起こすことができる遺伝子導入ベクター(例えば、ウィルス)を用いて行われる。当該ベクターは、体の中に植え込まれてもよい。
【0059】
本発明の特定の一実施形態によれば、タンパク質は、1つ以上の標的細胞に導入される。細胞に導入された場合、そのタンパク質は、ある特定の振動数を有する光に応答して、その細胞の電位を変化させる。これにより、活動電位発火のコントロールに使用可能な、静止電位の変化がもたらされ得る。ある具体例においては、当該タンパク質は、光に応答して、細胞膜を横切って、電荷を移動させるための膜ポンプとして作用するハロロドプシンである。膜ポンプは、電磁エネルギーまたは化学結合エネルギーを膜を横切る特定のイオンの移動のために利用するエネルギー変換器である。ハロロドプシン膜ポンプに関するさらなる情報については、Brigitte Schobertらによる「Halorhodopsin Is a Light‐driven Chloride Pump」、The Journal of Biological Chemistry Vol. 257, No. 17. September 10, 1982, pp. 10306‐10313、を参照してもよく、この文献は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる。
【0060】
当該タンパク質は、細胞の電位を、その細胞の活動電位の引き金となるレベル(action potential trigger level)から遠ざけることにより、活動電位の発火を制止する。多くのニューロンにおいて、これは、当該タンパク質により、その細胞膜にまたがって観察される負電圧が増加するということを意味する。ある具体例においては、当該タンパク質は、負に帯電しているクロライドイオンを能動的に細胞中へと移動させるクロライドイオンポンプとして作用する。このようにして、当該タンパク質は、細胞膜を横切る抑制性電流を発生させる。より詳細には、当該タンパク質は、その細胞にかかる電圧を低下させた結果、活動電位または脱分極が生じる可能性が減少することにより、光に応答する。
【0061】
上記で論じたように、本発明の一実施形態には、細胞中で発現される光学的応答性イオンポンプの使用が含まれる。特定の1つの例では、この細胞は、神経系細胞または幹細胞のいずれかである。具体的な一実施形態には、当該イオンポンプを発現するin vivoの動物細胞が含まれる。本発明の特定の態様は、時間的に正確な、神経活動の光学的抑制のための、古細菌の光駆動クロライドポンプ、例えばナトロノモナス・ファラオニス(Natronomonas pharaonis)由来のハロロドプシン(NpHR)など、の同定及び開発に基づくものである。当該ポンプにより、速いスパイクトレーン内の単一の活動電位のノックアウト、及び、何分間にもわたりスパイク発生を持続的遮断すること、の両方が可能となる。また、このポンプは、ChR2系変異体に比べて同様の光パワーにて、ただし、強く赤方にシフトした作用スペクトルで、作動する。このNpHRポンプは、哺乳類中で、外因性の補因子なしでも機能する。
【0062】
本発明の一実施形態例によれば、光学的応答性イオンポンプ及び/又はチャネルは、1つ以上の幹細胞、前駆細胞、または幹細胞もしくは前駆細胞の子孫において発現する。光学的な刺激を用いて、発現したポンプ/チャネルを活性化する。この活性化を用いて、その細胞内のイオン濃度(例えば、クロライド、カルシウム、ナトリウム、及びカリウム)をコントロールしてもよい。これは、生存、増殖、分化、脱分化、またはその細胞における分化の欠如に影響を及ぼすのに特に有用であり得る。よって、光学的な刺激を行って、幹細胞または前駆細胞(の成熟)に対するコントロールを提供する。
【0063】
特定の一実施形態では、光学的にコントロールされた刺激パターンを、当該幹細胞または前駆細胞に、数時間または数日の期間にわたり適用する。膜電位及びイオン濃度の、そういった細胞への効果に関するさらなる詳細については、Karl Deisserothらによる「Excitation‐Neurogenesis Coupling in Adult Neural Stem/Progenitor Cells」、Neuron(May 27, 2004) Neuron, Vol. 42, 535‐552、及び、Deisserothらによる、2005年5月19日に提出された「Coupling of Excitation and Neurogenesis in Neural Stem/Progenitor Cells」という発明の名称の米国特許公開第20050267011号(米国特許出願第11/134,720号)、を参照してもよく、これらの文献は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる。
【0064】
特定の一実施形態では、細胞における分化を駆動する方法を実行する。該細胞は、光により活性化するNpHR/ChR2系タンパク質を発現させられる。該細胞は、そのNpHR/ChR2系タンパク質を活性化するべく光に曝露される。この活性化により、その曝露された細胞またはその曝露された細胞の子孫の分化が駆動される。他の実施形態では、当該細胞には、幹細胞が含まれる。
【0065】
他の実施形態は、障害または回路モデルの治療/評価のための方法に向けられた本発明の態様に関する。そのような方法の1つは、SFO及び(ことによると)阻害分子を用いて、ニューロンを選択的に助長または阻害する。この方法は、障害に関係するニューロン群を標的としたものであり、また、該方法には、当該群において、抑制性電流を生じることにより該ニューロンの脱分極を制止するという光応答を行うために内因性の補因子を利用する、阻害タンパク質/分子を、設計することが含まれる。当該方法には、同じ群及び/又は異なる群のニューロンにおいて、SFOを設計することも含まれる。この設計されたニューロンを、その後、光に曝露させ、それにより、そのニューロンの脱分極を制止及び/又は助長する。次いで、この刺激の推定上の効果を、モニタリングし、評価する。種々の刺激プロファイル及び/又は標的位置について、実行、試験、及び評価してもよい。SFOの様々なプロパティー(例えば、双安定特性及び速い応答性)は、そのような用途に特に有用であり得る。以下、そのような用途の一部について、より詳細に考察する。
【0066】
本発明の多くのヒト用途は、それらの使用の前に、政府による承認が必要である。例えば、遺伝子治療のヒト使用には、そういった承認が必要であることがある。しかしながら、ニューロン(新生物になりにくい非増殖性の細胞)における類似の遺伝子治療は急速に進んでおり、ヒトの脳へのウィルス遺伝子運搬に関する活発な、FDA承認された臨床試験が既に進行中であり、それにより、本発明の種々の実施形態の、多種多様な用途への使用が促進される。以下は、そういった用途及び実施形態のいくつかの例の非網羅的なリスト(non‐exhaustive list)である。
【0067】
中毒は、報酬(reward)及び期待など、様々な脳機能に関係する。加えて、中毒を引き起こす原因は個体間で変動しうる。一実施形態によれば、中毒、例えばニコチン中毒、は、島(insula)上の小さな領域の光遺伝学的安定化により治療することができる。所望により、機能的脳イメージング―例えばcued‐state PETまたはfMRI―を用い、島表面上の介入のための正確な標的スポットを決定するべく代謝亢進焦点の位置を決めてもよい。
【0068】
側坐核及び中隔の光遺伝学的興奮は、物質の使用に頼る必要なく、報酬及び快楽を患者に与えうる。したがって、側坐核及び中隔の光遺伝学的興奮が中毒治療の鍵を握っている可能性がある。逆に言えば、側坐核及び中隔の光遺伝学的安定化を用いて、中毒を背景とする薬物渇望を低下させることができる。代替的な一実施形態においては、前帯状回(BA32)の膝(genu)にて観察された代謝亢進活性の光遺伝学的安定化を用いて、薬物渇望を低下させることができる。プロオピオメラノコルチン(POMC)及びコカイン・アンフェタミン調節転写産物(CART)のペプチド生成物を含有する視床下部内側部の弓状核内の細胞の光遺伝学的安定化を用いても、薬物中毒行動を減少させることができる。この件に関するさらなる情報については、Naqvi NH, Rudrauf D, Damasio H, Bechara A. 「Damage to the insula disrupts addiction to cigarette smoking」、 Science. 2007 Jan 26;315(5811):531‐534、を参照してもよく、この文献は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる。
【0069】
ソマトスタチンを分泌する視床下部室周核(hypothalamic periventricular nucleus)の神経内分泌ニューロンの光遺伝学的刺激を用いて、例えば末端肥大症において、下垂体前葉からの成長ホルモンの分泌を阻害することができる。ソマトスタチンまたは成長ホルモンを分泌する神経内分泌ニューロンの光遺伝学的安定化を用いて、成長及び身体的発達を増進することができる。「正常な」老化に伴う変化の中に、30代及び40代の後の、血清成長ホルモンレベルの急激な低下がある。したがって、室周核の光遺伝学的安定化により、老化に伴う身体的な衰えを低減し得る。
【0070】
視床下部の腹内側核の光遺伝学的安定化、特に、弓状核のプロオピオメラノコルチン(POMC)及びコカイン・アンフェタミン調節転写産物(CART)の光遺伝学的安定化を用いて、食欲を増加させることができ、それにより、神経性食欲不振を治療することができる。あるいは、視床下部の外側核の光遺伝学的刺激を用いて、食欲及び摂食行動を増加させ得る。
【0071】
側頭葉、NBM(Nucleus basalis of Meynert;マイネルト基底核)及び後帯状回(BA31)を含む、冒された領域のコリン作動性細胞における光遺伝学的興奮は、衰えている領域に対し、刺激を与え、ひいては、神経栄養性の動因(neurotrophic drive)を与える。当該冒された領域は脳内で広範囲に広がっているため、埋め込み電極を用いての類似の治療は、光遺伝学的アプローチよりも実現可能性が低いことがある。
【0072】
不安障害は、典型的には、左側頭及び前頭皮質ならびに扁桃体の活動上昇に関係しており、これは、不安が解消されるにつれ正常に向かう。したがって、この冒された左側頭及び前頭部ならびに扁桃体は、これらの部位の活動を静めるために、光遺伝学的安定化によって治療することができる。
【0073】
正常な生理機能では、受けた光に応答して脱分極する、網膜の感光性神経系細胞は、その受けた光のパターンの視覚地図を作り出す。光遺伝学的イオンチャネルを用いて、このプロセスを、体の多くの部分にて模倣することができ、眼も例外ではない。網膜損傷に起因する視覚障害または視覚喪失の場合、植え込まれた装置からの閃光パターンよりもむしろ天然の周辺光を利用する、機能的に新しい網膜を成長させることができる。この、成長させた人工網膜は、もともとの網膜の位置に配置し得る(この場所であれば、視覚皮質へと戻る導管として働いている視神経を活用することができる)。あるいは、この人工網膜は、別の位置、例えば前頭など、に置いてもよいが、但し、脱分極信号のための導管が、光遺伝学的センサーマトリックスからの符号化情報を解読する能力を有する皮質組織へと伝達されることを条件とする。皮質盲も、視覚皮質の下流の視覚経路を刺激することにより、治療可能であろう。当該刺激は、視覚皮質の上流で生成されたか、または人工の光センサーにより生成された視覚的データに基づくであろう。
【0074】
頻脈の治療は、CN X、すなわち迷走神経、を含む、副交感神経系の線維への光遺伝学的刺激により達成することができる。これは、洞房結節(SA node)の速度の減少を引き起こし、それにより、心拍数及び収縮力が減少する。同様に、脊髄神経T1〜T4の内の交感神経系の線維の光遺伝学的安定化は、心臓を遅くする働きをする。病的な徐脈の治療のためには、迷走神経の光遺伝学的安定化、またはT1〜T4の交感神経線維の光遺伝学的刺激が、心拍数を増加させる働きをするであろう。洞房結節より速度が速い、電気的な異常病巣(aberrant electrical foci)に起因する不整脈は、当該電気的な異常病巣を、中程度の光遺伝学的安定化で治療することにより抑制することができる。これは、治療される組織内の固有の発火速度を減少させ、かつ、当該洞房結節が、心臓の電気的システムのペース調整におけるその役割を取り戻すことを可能にする。同じようにして、あらゆるタイプの心不整脈を治療することができるであろう。心筋症またはうっ血性心不全において起きる心臓組織の変性も、残った組織を本発明の種々の実施形態を用いて興奮させることで治療し得よう。
【0075】
前頭葉、頭頂葉及び海馬などの脳部位の光遺伝学的興奮刺激により、処理速度を増加させ、記憶力を良くし、また、神経前駆細胞の発生に拍車をかけるなど、ニューロンの増殖及び相互接続を刺激することができる。一例として、本発明のそういった用途の1つは、ほぼ植物(ほとんど意識が無い)状態から患者を抜け出させることを目的とした、視床における標的ニューロンの光遺伝学的興奮刺激に向けられたものである。標的視床ニューロンの膜における光開口型イオンチャネルまたはポンプの増殖がもたらされる。次いで、これら改変されたニューロンは、標的ニューロン及び/又は周囲の細胞の機能を調節するべく、例えば同一通路によってもアクセスすることが可能な光学を用いて、光のフラッシュを向けることにより、刺激する。(電極による治療を用いた)適切な調節技術に関するさらなる情報について、または、そのような患者の関連脳部位に関するさらなる情報については、Schiff ND, Giacino JT, Kalmar K, Victor JD, Baker K, Gerber M, Fritz B, Eisenberg B, O’Connor JO, Kobylarz EJ, Farris S, Machado A, McCagg C, Plum F, Fins JJ, Rezai AR.「Behavioral improvements with thalamic stimulation after severe traumatic brain injury」、Nature. Vol 448. Aug 2, 2007 pp 600‐604、を参照してもよい。
【0076】
代替的な一実施形態においては、光遺伝学的興奮を用いて、例えばうっ血性心不全などの状況における弱った心筋を治療することができる。心臓壁が薄く伸張した脆弱な状態にあり、また電極と筋肉との間に均等に分布する電気的連結の提供が困難であることから、CHFの不全心筋の電気的補助は、一般的には実用的でない。こういう理由で、心筋収縮性を増加させるための、従来の好ましい方法には、例えばベータ作動薬などの薬理学的方法、及び例えば心室補助装置などの機械的アプローチ、のいずれもが含まれてきた。本発明の当実施形態においては、光遺伝学的興奮は、心臓の周囲の包被(jacket)の内部表面上の発光素子により、弱った心筋へと、または、そうでなければ当該冒された心臓壁に対して、送達される。光は、当該分野において周知の手段により拡散させて、筋肉の広い領域を平滑に覆ってもよく、その結果、各光パルスにより収縮が促される。
【0077】
Mayberg HS et al.,「Deep Brain Stimulation for Treatment−Resistant Depression」、Neuron, Vol. 45, 651‐660, March 3, 2005, 651‐660、により教示されているものと同様の様式で標的活動を抑制することによって抑うつを治療するために、帯状回(Cg25)の膝下(subgenual)部分における光遺伝学的安定化、黄色光が、植え込まれた装置により適用され得る。この文献は、参照により本明細書にその全体が組み入れられるものとする。代替的な一実施形態においては、光遺伝学的興奮刺激法は、Schlaepfer et al.,「Deep Brain stimulation to Reward Circuitry Alleviates Anhedonia in Refractory Major Depression」、Neuropsychopharmacology 2007 1‐10、により教示されているのと同様の様式で、その部位における活動を増加させることであり、この文献は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる。さらなるもう1つの実施形態では、左背側前頭前皮質(left dorsolateral prefrontal cortex;LDPFC)が、光遺伝学的興奮刺激法による標的となる。5〜20Hzの当該LDLPFCのペース調整は、連結している回路を介してCg25の活動を減少させる働きをしているこの構造の基礎代謝レベルを上昇させる働きをし、その結果、当該プロセスにおいて抑うつが改善される。右背側前頭前皮質(right dorsolateral prefrontal cortex;RDLPFC)の抑制も、効果的な抑うつ治療戦略である。これは、当該RDLPFCにおける光遺伝学的安定化により達成することができ、あるいは、抑制は、光遺伝学的興奮刺激を用い、かつ、1Hz以下のゆっくりとした速度でパルスを発することによっても達成することができ、その結果、当該プロセスにおいて抑うつが改善される。迷走神経刺激(vagus nerve stimulation;VNS)は、光遺伝学的アプローチを用いて改良することができる。光遺伝学的興奮の使用を、例えば節状神経節及び頚静脈神経節などの、脳への迷走神経求心路のみを刺激するために用いてもよい。脳からの遠心路は、このアプローチによる刺激を受けないであろう。よって、喉の不快感、咳、嚥下困難及び嗄声などの、VNSの副作用の一部が除去される。代替的な一実施形態においては、海馬を光遺伝学的に興奮させてもよく、これは、樹状突起及び軸索の発芽の増加ならびに海馬の全体的な成長を導く。本発明を用いて治療可能であろう抑うつに関連する他の脳部位としては、扁桃体、側坐核、眼窩前頭皮質及び眼窩内側(orbitomedial)皮質、海馬、嗅皮質、ならびに、ドーパミン作動性、セロトニン作動性、及びノルアドレナリン作動性の投射路、が挙げられる。光遺伝学的アプローチを用いて、抑うつ症状をコントロールするべく、海馬のような構造を介しての活動の広がりをコントロールし得よう。
【0078】
生存可能なアルファ及びベータ細胞集団が膵ランゲルハンス島中に存在する限り、糖尿病の治療のために、当該島を標的としてもよい。例えば、(手作業で、または閉ループグルコース検出システムにより決定した)血清グルコースが高い場合には、光遺伝学的興奮を用いて膵臓中のランゲルハンス島のベータ細胞からのインスリン放出を引き起こすことができ、その一方で、光遺伝学的安定化を用いて膵臓中のランゲルハンス島のアルファ細胞からのグルカゴン放出を妨げる。逆に言えば、(手作業で、または閉ループグルコース検出システムにより、決定した)血糖が低すぎる場合には、光遺伝学的安定化を用いてインスリンのベータ細胞分泌を停止させることができ、かつ、光遺伝学的興奮を用いてグルカゴンのアルファ細胞分泌を増加させることができる。
【0079】
てんかんの治療のために、てんかんを誘発する活動を抑えるかまたはブロックすることは、光遺伝学的アプローチによく適している。ほとんどのてんかん患者は、てんかんを誘発する病巣に起因する決まったパターンの活動の広がりを有するが、光遺伝学的安定化を用いて、広がる前に異常活動を抑制するか、又はその経過の早期にそれを打ち切ることができた。あるいは、光遺伝学的興奮刺激による興奮性組織の活性化を、一連の意図的な非同時的パターンで送達して、出現する発作活動を中断させることができた。別の代替案は、同様の結果を得るためのGABA作動性ニューロンにおける光遺伝学的興奮刺激の活性化に関連する。視床中継を、異常なEEGパターンが検出される場合に引き起こされる光遺伝学的安定化による標的としてもよい。
【0080】
もう1つの実施形態は、胃腸障害の治療に関連する。消化器系は、それ自体が、感覚ニューロン、運動ニューロン及び介在ニューロンを含有する半自律神経系を有する。これらのニューロンは、腸内の特定の細胞が酸、消化酵素、ならびに、ガストリン、コレシストキニン及びセクレチンなどのホルモンを放出する引き金を引くだけでなく、GI管の動きもコントロールする。これらの細胞のいずれかの生成物の分泌不全を含む症候群は、産生細胞型、またはそれらの活動を促進するニューロンの光遺伝学的刺激により治療することができる。逆に言えば、過剰な内分泌生成物及び外分泌生成物を作り出す症候群は、光遺伝学的安定化を用いて治療することができる。便秘(特に、脊髄損傷のある患者の便秘)から巨大結腸症にまで及ぶ、腸運動低下障害(disorders of lowered intestinal motility)は、腸内の運動ニューロンの光遺伝学的興奮により治療することができる。過敏性腸症候群のいくつかの形態を含む、腸運動過剰障害(disorders of intestinal hypermotility)は、運動性をコントロールするニューロンの光遺伝学的安定化により治療することができる。神経原性の胃流出路閉塞は、胃の幽門部におけるニューロン及び筋組織の光遺伝学的安定化により治療することができる。運動性低下症候群(hypomobility syndrome)に対する1つの代替的アプローチは、腸壁中の伸張感受性ニューロン(stretch−sensitive neuron)に対して光遺伝学的興奮を与え、それにより、その腸がいっぱいになっており、排出(emptying)を必要としているという信号を増加させることであろう。
【0081】
この同じパラダイムで、腸の運動過剰症候群(hypermobility syndromes of the gut)に対する1つのアプローチは、下部GI中の伸張受容体ニューロン(stretch receptor neuron)に対して光遺伝学的安定化を提供し、それにより、その腸が空であり、排出を必要としていなかったという「偽の合図(false cue)」を与えることであろう。明白な(frank)便失禁の場合には、内括約筋及び外括約筋のコントロールを改善することが、当該管全体の運動性を低下させるのに好ましいことがある。患者が便を体内にとどめておく必要がある間は、内肛門括約筋の光遺伝学的興奮は、保持力を提供する。光遺伝学的刺激を外括約筋に与えることにより、さらなる自制を与えることができる。患者が排便する必要があるときには、その光遺伝学的刺激を休止させるか、または光遺伝学的安定化を追加するかのいずれかによって、内肛門括約筋、次いで外肛門括約筋を弛緩させなければならない。
【0082】
伝音難聴は、光学的蝸牛インプラントの使用により治療することができる。ひとたび当該蝸牛が光遺伝学的刺激に対し準備されてしまえば、閃光を発する蝸牛インプラントを用いてもよい。感音難聴は、聴覚路における下流の標的の光学的な刺激を介して治療することができる。
【0083】
本発明のもう1つの実施形態は、血圧障害、例えば高血圧など、の治療に向けられたものである。例えば大動脈(大動脈体及び大動脈傍体)及び頸動脈(「頚動脈小体(carotic body)」)などの部位にある圧受容器及び化学受容器は、迷走神経(CN X)を介した求心路、及び他の経路を、髄及び橋、特に孤束及び孤束核、へと送ることにより、血圧及び呼吸の調整に関与する。頚動脈小体、大動脈体、大動脈傍体の光遺伝学的興奮を用いて、「高血圧」という偽のメッセージを、孤束核及び孤束へ送り、血圧を低下させるべきであるという報告をさせることができる。脳幹の適切な部分への直接的な光遺伝学的興奮または安定化を用いて血圧を下げることもできる。これと反対のモダリティーは、当該光遺伝学的アプローチを、昇圧作用のあるもの(pressor)として働かせ、それにより血圧が上昇する。迷走神経の光遺伝学的興奮を介しても、または脊髄神経T1〜T4内の交感神経線維の光遺伝学的安定化によっても、同様の効果を達成することができる。代替的な一実施形態においては、高血圧は、心臓の光遺伝学的安定化により治療可能であり、それにより、心拍出量の減少及び血圧の低下がもたらされる。もう1つの実施形態によれば、副腎皮質内のアルドステロン産生細胞の光遺伝学的安定化を用いて、血圧を低下させることができる。さらなるもう1つの代替的な実施形態では、高血圧は、血管平滑筋の光遺伝学的安定化により治療可能である。活性化している光は、末梢血管床へ、経皮的に通過させることができる。
【0084】
もう1つの実施形態例は、視床下部‐下垂体‐副腎系障害の治療に向けられたものである。甲状腺機能低下症の治療では、視床下部室傍核及び視床下部前核中の小細胞性の神経内分泌、ニューロンの光遺伝学的興奮を用いて、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin‐releasing hormone;TRH)の分泌を増加させることができる。TRHは、今度は、下垂体前葉を刺激し、甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone;TSH)を分泌する。逆に言えば、甲状腺機能亢進症は、小細胞性の神経内分泌ニューロンの光遺伝学的安定化により治療することができる。副腎不全またはアディソン病の治療には、視索上核及び室傍核中の小細胞性の神経内分泌ニューロンの光遺伝学的興奮を用いて、バソプレシンの分泌を増加させることができる。バソプレシンは、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(corticotropin‐releasing hormone;CRH)の助けを借りて、下垂体前葉を刺激して、副腎皮質刺激ホルモン(Adrenocorticotropic hormone;ACTH)を分泌する。クッシング症候群は、過剰なACTH分泌によって度々引き起こされるが、上述した同じ生理学的連鎖の効果を介して、視索上核の小細胞性の神経内分泌ニューロンの光遺伝学的安定化により治療可能である。弓状核の神経内分泌ニューロンはドーパミンを産生し、これが、下垂体前葉からのプロラクチンの分泌を阻害する。したがって、高プロラクチン血症は光遺伝学的興奮を介して治療可能であり、それと同時に、高プロラクチン血症は、弓状核の神経内分泌細胞の光遺伝学的安定化により治療可能である。
【0085】
自律神経過剰(hyperautonomic)状態、例えば不安障害、の治療では、副腎髄質の光遺伝学的安定化を用いて、ノルエピネフリンの分泌量(output)を減少させることができる。同様に、副腎髄質の光遺伝学的刺激を、例えば重症喘息を患っている人または慢性的な眠気として現れる障害を有する人など、アドレナリンの急増が必要な人に用いてもよい。
【0086】
副腎皮質の光遺伝学的刺激は、コルチゾール、テストステロン、及びアルドステロンなどの化学物質の放出を引き起こす。副腎髄質とは違い、副腎皮質は、下垂体及び視床下部、肺、ならびに腎臓から分泌される神経内分泌性ホルモンからの指令を受ける。しかし、副腎皮質は、光遺伝学的刺激に対し従順である。副腎皮質のコルチゾール産生細胞の光遺伝学的刺激を用いて、アディソン病を治療可能である。副腎皮質のコルチゾール産生細胞の光遺伝学的安定化を用いて、クッシング病を治療可能である。テストステロン産生細胞の光遺伝学的刺激を用いて、女性における性的関心の障害を治療可能であり、同細胞の光遺伝学的安定化を用いて、女性における顔ひげを減少可能である。副腎皮質内のアルドステロン産生細胞の光遺伝学的安定化を用いて、血圧を低下させることができる。副腎皮質内のアルドステロン産生細胞の光遺伝学的興奮を用いて、血圧を上昇させることができる。
【0087】
特定の冒された脳部位の光遺伝学的興奮刺激を用いて、処理速度を増加させ、また、例えば神経前駆細胞の成熟に拍車をかけるなど、ニューロンの増殖及び相互接続を刺激することができる。このような使用は、精神遅滞の治療に特に有用であり得る。
【0088】
本発明のもう1つの実施形態によれば、種々の筋肉疾患及び損傷を治療することができる。筋損傷、末梢神経損傷及びジストロフィー疾患に関連した麻痺は、収縮を引き起こすための光遺伝学的興奮、及び弛緩を引き起こすための光遺伝学的安定化により治療可能である。後者の、光遺伝学的安定化アプローチを介した弛緩を用いて、筋肉の消耗を防止し、緊張を維持し、また、対立筋群が収縮するので、協調運動が可能となり得る。同様に、明白な痙縮は、光遺伝学的安定化を介して治療し得る。
【0089】
末梢神経切断、脳卒中発作、外傷性脳損傷及び脊髄損傷などの種々の領域では、新たなニューロンの増殖を促進し、かつ、他のニューロンとの、及びそれらの標的組織との機能的ネットワークの中へそれらが統合されることを助ける必要性がある。新たなニューロン経路(neuronal tract)の再成長は光遺伝学的興奮を介して助長することができ、これは、幹細胞に信号を送って、軸索及び樹状突起を発芽させ、かつ、それら自身を当該ネットワークと統合させるのに役立つ。(電極に対立する技術としての)光遺伝学的技術の使用は、損傷を受けていない組織による信号の受け取りを予防し、かつ、電極から発生する電流の様な人工的な信号によって築かれたのではなく、発生中のニューロンによって築かれた連絡網(communication)による新たな標的組織の成長を確実にするのに役立つ。
【0090】
肥満は、視床下部の腹内側核への光遺伝学的興奮、特に、弓状核のプロオピオメラノコルチン(POMC)及びコカイン・アンフェタミン調節転写産物(CART)への光遺伝学的興奮により治療できる。代替的な一実施形態においては、肥満は、視床下部の外側核の光遺伝学的安定化を介して治療可能である。別の実施形態では、レプチン産生細胞への光遺伝学的刺激、または視床下部内のレプチン受容体を有する細胞への光遺伝学的刺激を用いて、食欲を低下させ、以って肥満を治療し得る。
【0091】
前嚢(anterior capsule)への破壊病変、及びその部位に対する類似のDBS、は、重度の難治性の強迫性障害48(obsessive‐compulsive disorder 48;OCD48)を治療する、確立された手段である。内包前脚への、またはOCDが軽減するにつれて代謝の低下を示す部位(例えばBA32及びCg24など)への、光遺伝学的安定化を用いて、このようなアプローチを模倣してもよい。
【0092】
慢性疼痛は、本発明のもう1つの実施形態を用いて治療し得る。電気刺激法としては、局所的な末梢神経刺激、局所的な脳神経(cranial nerve)刺激及び「閾値下の」運動皮質刺激が挙げられる。適切な光遺伝学的アプローチには、局所的な有痛性部位における光遺伝学的安定化が含まれる。プロモーター選択に注意することにより、他の感覚及び運動線維への影響を確実に回避し得よう。一次運動皮質における介在ニューロンの選択的な光遺伝学的興奮によっても、効果的に疼痛を軽減し得よう。また、感覚系視床(特に内側視床核)、脳室周囲灰白質(periventricular grey matter)、及び腹側縫線核(ventral raphe nuclei)における光遺伝学的安定化を用いて、疼痛軽減をもたらすことができる。代替的な一実施形態においては、標的戦略として標的としているパルブアルブミン発現細胞の光遺伝学的安定化を用いて、疼痛を、サブスタンスP産生を減少させることにより治療し得る。内因性オピオイドの放出は、光遺伝学的興奮を用いて側坐核の活動を上昇させることにより達成し得る。代替的な一実施形態においては、視床下部内側部の弓状核のPOMCニューロンを光遺伝学的に興奮させた場合、ベータ・エンドルフィンが増加し、抑うつ及び慢性疼痛に対する実行可能な治療アプローチが提供される。
【0093】
パーキンソン病は、興奮特異的プロモーター、例えばCaMKIIαなど、を用いて、視床下核(subthalamic nucleus;STN)または淡蒼球内節(globus pallidus interna;GPi)のいずれかにおけるグルタミン酸作動性ニューロンにて光遺伝学的安定化を発現させることにより治療することが可能であり、光遺伝学的安定化に適合しうる。すべての細胞型が影響を受ける電気的な調節とは異なり、グルタミン酸作動性のSTNニューロンのみが抑制されるであろう。
【0094】
境界性及び反社会性のタイプを含む、特定の人格障害は、「前頭葉機能低下(hypofrontality)」などの脳障害における局所的欠陥を示す。これらの部位の直接的または間接的な光遺伝学的興奮は、症状の改善をもたらすことが予想される。扁桃体における活動の異常なバーストが、突然の自発的な激怒:境界性人格障害の1つの症状、ならびに他の状態、を引き起こすことも知られているが、これには、扁桃体の光遺伝学的安定化が有益であり得る。光遺伝学的アプローチは、例えば扁桃体、線条体、及び前頭皮質など、脳の異なる部分同士の連絡及び同期を改善するであろうが、このことは衝動性の軽減及び洞察力の改善に役立つであろう。
【0095】
外傷後ストレス障害(post‐traumatic‐stress disorder;PTSD)の扁桃中心(amygdalo‐centric)モデルは、それが、内側前頭前皮質(medial prefrontal cortex)及び海馬による、不十分なトップダウンコントロール、及び扁桃体の過覚醒、に関連しているということを提起する。したがって、PTSDは、扁桃体または海馬の光遺伝学的安定化により治療し得る。
【0096】
統合失調症は、幻聴などの異常を特徴とする。これらは、光遺伝学的安定化を用いた聴覚皮質の抑制により治療できる可能性がある。統合失調症に付随する前頭葉機能低下は、冒された前頭部における光遺伝学的興奮により治療できる可能性がある。光遺伝学的アプローチは、脳の異なる部分同士の連絡及び同期を改善するであろうが、このことは、自己生成した(self‐generated)刺激を外来性のものと解してしまう誤帰属(misattribution)の軽減に役立つであろう。
【0097】
プロオピオメラノコルチン(POMC)及びコカイン・アンフェタミン調節転写産物(CART)のペプチド生成物を含有する視床下部内側部の弓状核内の細胞の光遺伝学的安定化を用いて、強迫的性行動を減少させることができる。プロオピオメラノコルチン(POMC)及びコカイン・アンフェタミン調節転写産物(CART)のペプチド生成物を含有する視床下部内側部弓状核内の細胞の光遺伝学的興奮を用いて、性的欲求の障害の症例の治療において、性的関心を増加させることができる。性的欲求低下(hypoactive sexual desire)の障害の治療では、精巣及び副腎によるテストステロン産生は、下垂体の光遺伝学的興奮により増加させることができる。側坐核の光遺伝学的興奮は、無オルガスム症の治療に用いてもよい。
【0098】
視交叉上核は、睡眠/覚醒サイクルを調整する働きをするメラトニンを分泌する。視交叉上核への光遺伝学的興奮を用いて、睡眠など、メラトニン産生を増加させることができ、それにより不眠症を治療することができる。オレキシン(ヒポクレチン)ニューロンは、覚醒状態を促進するべく、多数の脳核(brain nucleus)を激しく興奮させる。オレキシン産生細胞集団の光遺伝学的興奮を用いて、ナルコレプシー及び慢性的な日中の眠気を治療することができる。
【0099】
視索上核の光遺伝学的刺激を用いてオキシトシンの分泌を誘発することができ、視索上核の光遺伝学的刺激を用いて出産(childbirth)の最中に分娩(parturition)を促進してもよく、また、視索上核の光遺伝学的刺激を用いて社会的愛着における障害(disorder of social attachment)を治療してもよい。
【0100】
筋肉の麻痺と同様に、脊髄損傷により求心路遮断されてしまった運動機能は、収縮を引き起こすための光遺伝学的興奮、及び弛緩を引き起こすための光遺伝学的安定化により治療可能である。後者の、光遺伝学的安定化アプローチを介した弛緩を用いて、筋肉の消耗を防止し、緊張を維持し、また、対立筋群が収縮するので、協調運動も可能となる。同様に、明白な痙縮は、光遺伝学的安定化を介して治療することが可能である。新たな脊髄ニューロン路の再成長は光遺伝学的興奮を介して助長可能であり、これは、幹細胞に信号を送って、軸索及び樹状突起を発芽させ、かつ、それら自身を当該ネットワークと統合させるのに役立つ。
【0101】
脳卒中発作による欠陥としては、人格変化、運動欠陥、感覚欠陥、認知欠損、及び情緒不安定が挙げられる。脳卒中発作による欠陥の治療のための1つの戦略は、興奮性のつながりから求心路遮断されてしまった脳及び身体構造に、光遺伝学的刺激を与えることである。同様に、抑制性のつながりから求心路遮断されてしまった脳及び身体構造に、光遺伝学的安定化能を与えてもよい。
【0102】
トゥレット症候群の根底にある生物病理は、皮質領域及び皮質下領域、視床、大脳基底核ならびに前頭皮質におけるドーパミン伝達の相動性の(phasic)機能障害である、ということが研究により示されている。治療を施すために、冒された領域を、まず、機能的脳イメージング及び脳磁図(MEG)といった技術を用いて同定することが好ましい。具体的に同定されてもされなくても、候補経路の光遺伝学的安定化により、運動性チックを抑制することができる。装置パラメータの、移植後実験的(empirical)試験により、いずれの部位で光遺伝学的安定化がなされ、またいずれが継続の必要性がないかが明らかとなる。
【0103】
尿失禁または便失禁の障害を治療するために、光遺伝学的安定化を、括約筋に対して、例えば膀胱排尿平滑筋の光遺伝学的安定化またはその筋肉の神経支配を介して、用いることができる。排尿が必要なときは、これらの光遺伝学的プロセスをオフにするか、またはあるいは、(外)尿道括約筋への光遺伝学的安定化、及び膀胱排尿筋の光遺伝学的興奮またはその神経支配とともに、逆進させてもよい。膀胱が求心路遮断されている場合、例えば、仙骨背根(sacral dorsal root)が、その背根の疾患(例えばヒトにおける脊髄癆など)により切断または破壊されている場合には、膀胱のすべての反射収縮が消失し、膀胱は膨張する。直接的に筋肉の光遺伝学的興奮を用いて、排尿に対する緊張を回復させ、腎臓損傷を防止し、また、排尿プロセスを補助することができる。当該膀胱は、「分散化」され、動きに対して過敏(hypersensitive)になり、ひいては失禁しやすくなるので、当該器官のこの反応性を最小にするべく膀胱筋に光遺伝学的安定化を施してもよい。
【0104】
ニューロンの、ある所定の集団、例えばある病気の病状に関連するものなど、を選択的に興奮させる/阻害するのに、いくつかの戦略を用いて、特定の集団に対する光遺伝学的タンパク質/分子を標的としてもよい。
【0105】
本発明の種々の実施形態については、遺伝学的なターゲティングを用いて、種々の光遺伝学的タンパク質または分子を発現させることができる。このようなターゲティングには、遺伝学的な制御エレメント、例えばプロモーター(例えば、パルブアルブミン、ソマトスタチン、コレシストキニン、GFAP)、エンハンサー/サイレンサー(例えば、サイトメガロウィルス即時型初期エンハンサー(Cytomegalovirus Immediate Early Enhancer))、及び他の転写または翻訳調節エレメント(例えば、ウッドチャック肝炎ウィルス転写後調節エレメント(Woodchuck Hepatitis Virus Post−transcriptional Regulatory Element))など、を介しての光遺伝学的タンパク質/分子の標的発現を用い得る。プロモーター+エンハンサー+調節エレメントの組み合わせの入れ替え(permutation)により、光遺伝学的プローブの発現を、遺伝学的に定義された集団に限定することができる。
【0106】
本発明の種々の実施形態は、空間的/解剖学的なターゲティングを用いて実施してもよい。このようなターゲティングは、ニューロンの投射パターン、ウィルス、または、遺伝情報(DNAプラスミド、フラグメント等)を運ぶ他の試薬が、ニューロンのある所定の集団が投射する領域へと、局所的に送達されることがある、という事実を巧みに利用したものである。この遺伝物質は、その後、輸送されて該ニューロンの細胞体へと戻され、当該光遺伝学的プローブの発現を仲介する。あるいは、ある局所部位中の細胞を標識することが所望される場合には、ウィルスまたは遺伝物質を、目的の部位へと局所的に送達して、局在化された発現を仲介させてもよい。
【0107】
本発明の1つ以上の実施形態を実施する際には、種々の遺伝子運搬システムが有用である。このような運搬システムの1つは、アデノ随伴ウィルス(Adeno−Associated Virus;AAV)である。AAVを用いて、プロモーター+光遺伝学的プローブカセットを、目的の特異的部位へと送達することができる。プロモーターの選択により、ニューロンの、ある特定の集団における発現が駆動されることとなる。例えば、CaMKIIaプロモーターを使用することにより、光遺伝学的プローブの、興奮性ニューロン特異的発現が駆動される。AAVは、少なくとも1年以上にわたる、当該光遺伝学的プローブの長期的な発現を仲介する。より高い特異性を達成するために、AAVは、異なる細胞型に対する異なる栄養機能(trophism)をそれぞれが有する特異的な血清型1〜8を有する偽型(pseudo‐typed)であってもよい。例えば、血清型2及び5は、良好なニューロン特異的栄養機能を有することが知られている。
【0108】
もう1つの遺伝子運搬機構は、レトロウィルスの使用である。HIVまたは他のレンチウィルス由来レトロウィルスベクターを用いて、プロモーター+光遺伝学的プローブカセットを、目的の特異的部位へと送達することができる。レトロウィルスも、細胞を標識するための、それらの軸索の投射パターンに基づく逆行性輸送を達成するべく、狂犬病ウィルスエンベロープ糖タンパク質を有する偽型であってもよい。レトロウィルスは、宿主細胞のゲノム中へと一体化し、以って当該光遺伝学的プローブの永続的発現を仲介し得る。非レンチウィルス由来レトロウィルスベクターを用いて、分裂細胞を選択的に標識してもよい。
【0109】
Gutlessアデノウィルス及び単純ヘルペスウイルス(Herpes Simplex Virus;HSV)は2本鎖DNAに基づくウィルスであり、これらを用いても、プロモーター+光遺伝学的プローブカセットを、脳の特異的部位へと送達することができる。HSV及びアデノウィルスは、よりずっと大きなパッケージング容量を有しており、よりずっと大きなプロモーターエレメントを収容可能であり、それらを用いることで、光遺伝学的プローブとともに、複数の光遺伝学的プローブまたは他の治療用遺伝子を送達することも可能である。
【0110】
局所的エレクトロポレーションを用いて、ニューロンを一時的にトランスフェクションすることもできる。DNAプラスミドまたはフラグメントは、脳の特異的部位へと局所的に送達することができる。穏やかな(mild)電流を印加することにより、周囲の局所細胞は、当該DNA物質と当該光遺伝学的プローブの発現とを受けることとなる。
【0111】
他の例においては、リポフェクションが、遺伝物質を脂質試薬と混合することにより用いられ、次いで、引き続き脳へと注入されて、局所細胞のトランスフェクトを仲介してもよい。
【0112】
種々の実施形態には、種々の制御エレメントの使用が含まれる。遺伝学的な制御エレメントに加え、他の制御エレメント(特に、化学的な磁気刺激または赤外線照射に対して感受性である活性を有する、プロモーター及びエンハンサー)を用いて、当該光遺伝学的プローブの、時間的に制御された発現を仲介してもよい。例えば、赤外線照射の影響を受けやすい転写活性を有するプロモーターにより、集中的な照射を用いて、所望のときにのみ局所部位において光遺伝学的プローブの発現を微調整することが可能となる。
【0113】
本発明の一実施形態によれば、本発明を、DBSの動物モデル、例えばパーキンソン病様のラット、にて用いて、治療効果に関与する標的細胞型(激しい議論を呼び、かつ臨床上、計り知れないほど重要である領域)を同定することができる。例えば、刺激は、刺激に応答して治療効果が提供されることが知られている、より大きな集団内の、特定の/小さな神経集団を標的とするものであってもよい。これら標的とされた集団をその後刺激して、治療効果の源を定量してもよい。当該ターゲティングは、脳内において、当該タンパク質の、空間的に制御された適用法を用いて、及び/又は、当該タンパク質を、特定の神経系細胞型における発現に適合するようにすることにより、実施してもよい。当該ターゲティングは、空間的位置、波長、強度及び/又は時間的な刺激特性の観点から光の送達を制御することによって行うことも可能である。このような特徴付けにより得た知識を、次いで、ヒトの疾患を治療するための薬理学的戦略及び手術戦略の開発に用いてもよい。こうしたモデリング及び特徴付けは、パーキンソン病に限られるものではなく、無数の疾患及び回路モデリングに対して適用することができる。
【0114】
本発明のもう1つの実施形態によれば、遺伝学的に定義された細胞型は、数多くの異なる脳部位における種々の細胞型の、高次生体機能(high‐level organismal functioning)に対する正確な寄与の解明を可能にするべく、複雑系レベルの挙動に関連したものであってもよい。
【0115】
他の態様及び実施形態は、イオンポンプのための、または細胞において(例えば、in vivo環境及びin vitro環境について)抑制性電流を制御するための、システム、方法、キット、組成物及び分子に向けられたものである。特許請求の範囲を含む本開示の全体にわたって記載されているように、このようなシステム、方法、キット、組成物は、本明細書に一致する様式で実現される。例えば、一実施形態では、本発明は、NpHR系分子変異体及び別のオプシン系分子(SFO/VChR1/ChR2系及び/又はNpHR系)を、(本明細書中で例示したような、ある特定の障害または障害型カテゴリーとしての)神経学的障害またはCNS障害の疾患の治療における使用のための組み合わせ調製物(combined preparation)として含有する生成物を有する、アセンブリまたはキット・オブ・パーツ(kit of parts)に向けられたものであり、ここでは、少なくともNpHR系分子変異体は、抑制性電流を生じた結果として細胞の脱分極を制止するという光応答を示す、光により活性化するNpHR系分子を発現するのに有用であり、また、ここでは、当該分子の高発現は、約75%未満の毒性レベルを表す(例えば配列番号4〜13のうちの1つ以上)。
【0116】
本発明のある実施形態では、in vivo使用において、インプラント型集成装置を採用する。これらの集成装置としては、例えば発光ダイオード、レーザーまたは類似の光源などの光発生装置、及び、標的細胞を改変して、その結果、当該光発生装置により発生させた光に応答してその標的細胞の刺激を促進する生物学的部分、が挙げられる。
【0117】
本発明の一実施形態では、生物学的部分は、感光性となるよう改変されている標的細胞で構成されていてもよい。本発明のもう1つの実施形態では、生物学的部分は、標的細胞を光に対して感受性にする、例えば遺伝子導入ベクターなどの、生物学的素子を含有していてもよい。この一例は、SFO(ChR2/VChR1変異体)発現のための遺伝子を運搬するレンチウィルスである。このようにして、標的細胞の刺激は、インプラント型装置により制御することができる。例えば、制御回路を、光源の活性化または非活性化、または、光源に動力を供給するバッテリーの充電により、外部信号に応答するようにしておいてもよい。ある例では、当該外部信号は電磁放射線であり、これは制御回路によって受け取られる。例えば、無線周波数(radio frequency;RF)信号は、外部RF送信機によって伝達されて、制御回路によって受け取られてもよい。別の例では、磁場を用いて当該制御回路を活性化するか、及び/又は当該制御回路に動力を供給してもよい。
【0118】
制御回路は、様々な程度の複雑度を用いて実施することができる。ある例では、当該回路は、磁場に曝露された場合に電流を発生する単一コイルである。次いで、この電流を用いて、光源に動力を供給する。このような一実行形態は、当該装置の寿命の増加の為のみならず、大きさ及び複雑度を限定するためにも特に有用であり得る。別の例においては、制御回路は、RFアンテナを含んでいてもよい。所望により、バッテリーまたは類似の電源(例えば容量性素子など)は、当該制御回路によって使用されてもよい。充電されている間、当該回路は、当該電源により、体外からの同時的なエネルギー供給を必要とせずに動作し続けることが可能となる。これは、光源によって発せられた光の正確な制御のために特に有用であり得、また、その発せられた光の強度の増加の為にも特に有用であり得る。
【0119】
本発明の一実施形態では、光源は、発光ダイオード(light‐emitting‐diode;LED)を用いて実施される。LEDは、低出力用途に有用であることが立証されており、また、電気的な信号に対して比較的速く応答することも立証されている。
【0120】
本発明の別の実施形態では、生物学的部分として、遺伝学的に標的細胞を光感受性にコードする遺伝子導入ベクターを含有するゼラチンまたは類似の物質が挙げられる。1つの例では、当該ベクターは、体内に植え込まれてすぐに放出される。これは、例えば、これらのベクターが、(例えば、脱水された(dehydrated)材料または水溶性の材料、例えばゼラチンなど、を用いて)水溶液中へと放出されることを可能にする封じ込め材料(containment material)を用いることにより達成されてもよい。当該ベクターの放出により、標的細胞が改変され、その結果、それらは光源からの光に応答して刺激される。
【0121】
本発明の別の実施形態では、生物学的部分としては、感光性細胞を含有する合成メッシュが挙げられる。1つの例では、当該細胞は、感光性であるよう改変されているニューロンである。当該合成メッシュは、ニューロン全体(例えば細胞体)が通るのを許すことなく樹状突起及び軸索がこのメッシュを通過できるよう構成されていてもよい。このようなメッシュの例の1つは、直径がおよそ3〜7マイクロメートル程度である細孔を有し、ポリエチレンテレフタレートでできている。もう1つの実施形態例では、当該生物学的部分としては、標的とされる送達のための注入機構が挙げられる。
【0122】
種々の実行形態において、システムを適合させて、当該運搬装置によって、当該光応答性タンパク質が、トランスフェクション、形質導入またはマイクロインジェクションのうちの1つにより導入されるようにするか、及び/又は、当該光源により、光が、インプラント型光発生装置及び光ファイバーのうちの1つを介してSFO発現ニューロンへ導入されるようにする。
【0123】
上述の種々の実施形態は、単なる例示として提示されたものであり、本発明を限定すると解釈されるべきではない。上記の記載及び例示に基づけば、当業者は、本明細書に例示及び記載されている好例の実施形態や適用法に厳密に従わずとも、本発明に対して種々の改変及び変更を行うことが可能であるとのことを容易に理解するであろう。例えば、そのような変更には、本明細書において列挙されている以外のさらなる改変が含まれ得る。そのような改変及び変更は、添付の特許請求の範囲に記載されている本発明の真の精神及び範囲から逸脱しないものとする。
【図1−1】

【図1−2】

【図2−1】

【図2−2】

【図3−1】

【図3−2】

【図4−1】

【図4−2】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
C128及びD156のうち少なくとも1つが置換されている、配列番号1の分子またはその変異体。
【請求項2】
前記置換が、T、A及びSのうち1つによるC128の置換を含む、請求項1に記載の分子。
【請求項3】
前記置換が、AによりD156を置換することを含む、請求項1に記載の分子。
【請求項4】
E123における置換をさらに含む、請求項1に記載の分子。
【請求項5】
H134における置換をさらに含む、請求項1に記載の分子。
【請求項6】
C128及びD156のうち少なくとも1つが置換されている、配列番号1の分子をコードする配列またはその変異体。
【請求項7】
前記置換が、T、A及びSのうち1つによるC128の置換を含む、請求項6に記載の配列。
【請求項8】
前記置換が、A及びNのうち1つによるD156の置換を含む、請求項6に記載の配列。
【請求項9】
E123における置換をさらに含む、請求項6に記載の配列。
【請求項10】
H134における置換をさらに含む、請求項6に記載の配列。
【請求項11】
C123及びD151のうち少なくとも1つが置換されている、配列番号2の分子。
【請求項12】
光応答性イオンチャネルを設計する方法であって、
配列番号1の分子またはその変異体を、C128及びD156のうち1つ以上の近傍にて改変すること、
を含む方法。
【請求項13】
前記改変に、T、A及びSのうち1つによる、配列番号1のC128の置換が含まれる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記改変に、A及びNのうち1つによる、配列番号1のD156の置換が含まれる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記改変に、配列番号1の、AによるD156の置換、及び、SによるC128の置換が含まれる、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
配列番号1を、E123にて、またはその近傍にて、改変する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
配列番号1を、H134にて、またはその近傍にて、改変する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
光応答性イオンチャネルを有する分子を設計する方法であって、
配列番号2またはその変異体を、C123及びD151のうち少なくとも1つの近傍にて改変すること、
を含む方法。
【請求項19】
前記改変する工程が、T、A及びSのうち1つによる、配列番号2のC123の置換を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記改変する工程が、A及びNのうち1つによる、配列番号2のD151の置換を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
C128及びD156のうち1つ以上の近傍にて発現する改変を有する、ChR2またはその相同変異体を発現する核酸配列を送達するためのベクター。
【請求項22】
前記核酸配列が、E123及びH134のうち少なくとも1つの近傍にて発現する改変をさらに含む、請求項21に記載のベクター。
【請求項23】
神経集団内の神経細胞の固有の神経活動を促進する方法であって、:
前記神経細胞において、配列番号1及び配列番号2のうち1つまたはその変異体に一致し、かつ、C128、D156、C123及びD151のうち1つ以上の近傍に変異を有する、1つ以上の分子を、設計すること;ならびに、
前記1つ以上の分子を、前記神経集団の固有の神経活動に応答して活動電位の発生を促進するのに十分な、光学的な刺激に曝露すること、
を含む方法。
【請求項24】
前記光学的な刺激が、前記固有の神経活動からのさらなる刺激の非存在下では活動電位を引き起こすのに十分ではない、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
配列番号1及び配列番号2のうち1つまたはその変異体に一致し、かつ、C128、D156、C123及びD151のうち1つ以上の近傍に変異を有するアミノ酸をコードする分子を、神経学的障害または中枢神経系障害の治療のための医薬の製造において用いること、
を含む方法であって、前記分子が前記アミノ酸を発現可能であり、それにより、電流を生じさせることにより光に応答して、ニューロンの脱分極をもたらす、方法。
【請求項26】
配列番号1及び配列番号2のうち1つまたはその変異体に一致し、かつ、C128、D156、C123及びD151のうち1つ以上の近傍に変異を有する分子をコードする前記分子を含有する生成物を含む、神経学的障害またはCNS障害の疾患の治療における使用のための組み合わせ調製物としての、アセンブリ。
【請求項27】
光に対する応答性を有する別のオプシン系分子をさらに含む、請求項26に記載のアセンブリ。
【請求項28】
前記生成物が、プロモーター+光遺伝学的プローブを送達するためのウィルス性の運搬システムを含む、請求項26に記載のアセンブリ。
【請求項29】
前記生成物が、プロモーター+光遺伝学的プローブを運搬するためのアデノ随伴ウィルスを含む、請求項26に記載のアセンブリ。
【請求項30】
神経疾患モデルの特徴を決定する方法であって、
配列番号1及び配列番号2のうち1つまたはその変異体に一致し、かつ、C128、D156、C123及びD151のうち1つ以上の近傍に変異を有する分子であって、標的とする神経集団において発現し、前記神経疾患モデルに対する公知の治療効果を有する分子、を発現させること;
前記発現した分子を刺激すること;及び
前記刺激の効果または効力を、前記神経疾患モデルの機能として評価すること、
を含む方法。

【図6】
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【公表番号】特表2012−508581(P2012−508581A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536505(P2011−536505)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/064355
【国際公開番号】WO2010/056970
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(503115205)ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (69)
【Fターム(参考)】