説明

標的細胞を光刺激するためのシステム、方法、および組成物

光反応性イオンチャネル分子に関連した方法、システム、およびデバイスを提供する。そのような方法の1つは、光刺激に反応する光活性化型イオンチャネル分子を用いて実施される。該方法は、細胞に光活性化型イオンチャネル分子を設計付与すること、およびイオンチャネル分子に与えられ且つChR2イオンチャネルを活性化する特性を有しない光刺激に反応してイオンチャネル分子を活性化し、イオンに光活性化型イオンチャネル分子を通過させることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連文書
本特許明細書は、「標的細胞を光刺激するためのシステム、方法、および組成物」というタイトルの2008年4月23日に提出された米国仮特許出願第61/047,219号の米国特許法第119条(e)に基づく利益を主張する。この基礎となる仮出願全体を本明細書に参照により取り込む。
【0002】
電子的に提出された資料の参照による取り込み
2009年4月7日に作成された「STFD_212PCT_ST25.txt」というファイル名の、8,345バイトのASCII(テキスト)ファイルである、本明細書と同時に提出されるコンピュータで読取り可能なヌクレオチド/アミノ酸配列リストの全体を参照により組み込む。
【背景技術】
【0003】
いくつもの有益な効果を発生させるために身体の種々の細胞を刺激することが利用されてきた。刺激方法の1つは、電極を用いて、外部で発生させたシグナルを細胞に導入に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電極を用いた脳刺激技術の問題の1つは、特定の精神的プロセスを生じさせるニューロンが散在していることである。逆に、異なる種類のニューロンが互いに近接して存在するため、特定の作業を行っている間、脳のある領域の中の特定の細胞のみが活性化される。言い換えると、異種の神経路が並列に働く狭い閉鎖空間中を並列に動くだけでなく、細胞体自体が、混ざりまばらに埋め込まれた形態で存在し得る。処理がこのように分散されていることにより、CNS内の正規順序を理解しようとする最良の試みさえも阻まれているようであり、神経調節を治療的に困難な試みにしている。電極は、電極が刺激するニューロンの根底にある生理機能に関して比較的無差別であるため、この脳の構造は電極を用いた刺激にとって問題となる。その代わり、しばしば、電極がニューロンに物理的に近接しているかが、どのニューロンが刺激されるかについての唯一の最大決定因子となる。したがって、通常、電極を用いて単一のクラスのニューロンに対してだけに刺激を完全に制限することは不可能である。
【0005】
刺激に電極を用いることのもう1つの問題は、電極の配置でどのニューロンが刺激されるかが決まるので、機械的安定性がしばしば不十分であり、その結果、電極のリードが標的部位から移動してしまう。更に、身体内でしばらく時間が経つと、電極のリードがしばしばグリア細胞で包まれ、電極の実効電気抵抗が上昇し、標的細胞に到達するために必要な電力導入量が増える。しかし、それを償うために電圧、周波数、パルス幅を増大させると電流が拡散し、別の細胞への意図しない刺激が増加し得る。
【0006】
別の刺激方法では、光に反応して標的細胞を刺激するために感光性生体分子構造体を用いる。例えば、光活性化されたタンパク質または分子は、細胞膜を介したイオンの流れを制御するために使用することができる。細胞膜を介した陽イオンまたは陰イオンの流れを促進または阻害することで、細胞を短時間だけ脱分極させたり、脱分極させてその状態を維持したり、過分極させたりすることができる。ニューロンは、脱分極によって生じる電流を用いて情報交換シグナル(すなわち神経インパルス)を発生する種類の細胞の例である。その他の電気的興奮性細胞としては、骨格筋、心筋、および内分泌細胞が含まれる。ニューロンは、素早い脱分極を用いて、運動制御(例えば筋肉収縮)、感覚反応(例えば、触覚、聴覚等の感覚)、計算的機能(例えば脳機能)等の種々の目的で身体中にシグナルを伝達する。したがって、細胞の脱分極制御は、心理療法、筋肉制御、および感覚機能を含む(ただしこれらに限定されない)多くの種々の目的に有益であり得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は、感光性生体分子構造体および関連方法に関する。本発明は複数の実施例および応用例で例示される。以下にそのいくつかを概説する。
【0008】
本発明の例示的な一実施形態によれば、光を発生するための光発生デバイスを有する植込み型の配置体が用いられる。配置体はまた、インビボで光発生手段によって発生された光に反応して刺激に対して標的細胞を修飾する生物学的部分を有する。
【0009】
本発明の別の例示的実施形態によれば、植込み型配置体を用いて標的細胞が刺激される。この配置体は、光を発生するための電気的光発生手段および生物学的部分を含む。生物学的部分は、発生した光に反応してインビボで標的細胞を刺激する感光性生体分子配置体を有する。刺激は、標的における活性のアップレギュレーションとして現れてもダウンレギュレーションとして現れてもよい。
【0010】
本発明の別の例示的実施形態によれば、植込み型デバイスは、感光性生体分子膜タンパク質の発現を誘導するウイルス等の遺伝子導入ベクターを送達する。デバイスは、外部シグナルに反応する(例えば外部シグナルで荷電されるか誘導される)光を発生するための発光器と、発生した光に反応してインビボで標的細胞と相互作用する感光性生体分子タンパク質を含む生物学的配置体とを備える。これにより、デバイスの電子部分を用いて標的細胞を光刺激することができる。刺激は、標的における活動のアップレギュレーション(例えば、ニューロン発火活動の増加)として現れてもダウンレギュレーション(例えば、ニューロンの過分極または慢性的脱分極)として現れてもよい。
【0011】
本発明の別の例示的実施形態によれば、標的細胞と結合する感光性タンパク質を用いて標的細胞を刺激する方法が実施される。この方法は、感光性タンパク質および光発生デバイスを標的細胞の近くに植込む工程を含む。光発生デバイスを活性化すると、発生した光に反応して感光性タンパク質が標的細胞を刺激する。
【0012】
応用例としては、ニューロン、骨格筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、インスリン分泌膵臓ベータ細胞等の任意の電気的興奮性細胞の集団に関連するものが含まれる。興奮−効果器のカップリングが変化している主要な疾患としては、心不全、筋ジストロフィー、糖尿病、疼痛、脳性麻痺、麻痺、うつ病、および統合失調症が含まれる。したがって、本発明は、パーキンソン病や脳損傷から不整脈、糖尿病、および筋痙縮までの幅広い医学的状態の治療に有用である。
【0013】
本発明の別の例示的実施形態によれば、興奮ニューロン電流を発生する方法は、ニューロン中に、光に反応して興奮電流を発生してニューロンの脱分極を促すタンパク質を設計付与することを含む。そのような方法の1つでは、タンパク質はボルボックス(Volvox carteri)に由来する。
【0014】
本発明の上記の概要は本発明の全ての実施形態または全ての実施例を記載することを意図するものではない。添付の図面および以下の説明でこれらの実施形態を更に具体的に例示する。
【0015】
添付の図面と合わせて、以下に記載する本発明の種々の実施形態の詳細な説明を考慮することで、本発明がより完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】本発明の例示的な実施形態に一致する、球状藻類ボルボックスを示す図である。
【図1B】本発明の例示的な実施形態に一致する、オールトランスレチナールシッフ塩基および関連するタンパク質配列を示す図である。
【図1C】本発明の例示的な実施形態に一致する、光強度に対して誘導された光電流を示す図である。
【図1D】本発明の例示的な実施形態に一致する、内向き整流性の電流−電圧関係を示す図である。
【図1E】本発明の例示的な実施形態に一致する、特定のイオンに関する膜電流を示す図である。
【図1F】本発明の例示的な実施形態に一致する、光の波長に対する活性化の割合を示す図である。
【図2A】本発明の例示的な実施形態に一致する、VChR1−EYFPを発現し且つ膜局在するEYFP蛍光を示すニューロンを示す図である。
【図2B】本発明の例示的な実施形態に一致する、531nmおよび589nmの光を照射した時のVChR1−EYFPニューロンの光電流を示す図である。
【図2C】本発明の例示的な実施形態に一致する、531nmおよび589nmの光に対するホールセル内向き電流を示す図である。
【図2D】本発明の例示的な実施形態に一致する、電流固定法においてVChR1−EYFPニューロンに種々の周波数で与えられた20発の5ms光パルスを示す図である。
【図2E】本発明の例示的な実施形態に一致する、種々の周波数においてスパイクが成功した割合を示す図である。
【図2F】本発明の例示的な実施形態に一致する、光パルスの周波数を増加させると定常状態の脱分極が増加することを示す図である。
【図2G】本発明の例示的な実施形態に一致する、膜抵抗を示す図である。
【図2H】本発明の例示的な実施形態に一致する、静止膜電位を示す図である。
【図3A】本発明の例示的な実施形態に一致する、種々の波長の光刺激に対する電圧反応を示す図である。
【図3B】本発明の例示的な実施形態に一致する、異なる波長および強度の光刺激においてスパイクが成功した割合を示す図である。
【図3C】本発明の例示的な実施形態に一致する、異なる波長および強度の光刺激においてスパイクが成功した割合を示す図である。
【図4】A〜Dは局所的な視床下核(STN)ニューロンの直接的光抑制を示す図である。
【図5】A〜Cは視床下核内のアストログリア細胞のターゲティングを示す図である。
【図6】A〜Cは種々の周波数における視床下核ニューロンの光脱分極を示す図である。
【図7】A〜Cは光学的インターベンションにより動員される組織体積の定量を示す図である。
【図8】A〜Cは視床下核内の求心性線維の選択的光制御を示す図である。
【図9】A〜Fは前側一次運動皮質中の第5層ニューロンの選択的光刺激を示す図である。
【図10】A〜Cは黒質の損傷およびカニューレの軌跡を示す図である。
【図11】A〜Cは更なる組織学的特徴解析を示す図である。
【図12】A〜Eは更なる行動試験結果を示す図である。
【図13】A〜Dは更なる電気生理学的結果を示す図である。
【図14】A〜Dは高時間分解オプトロードトレースを示す図である。
【図15】A〜Cは視床下核の光刺激に対するMI反応の潜時を示す図である。
【図16】A〜Fは光刺激により発生するニューロン活性の周波数特性の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は種々の修正例および代替的形態が可能であり、それらの詳細は、図面中に例として示されており、以下に詳細に記載されている。しかし、記載した特定の実施形態に本発明を限定することを意図するものではないと理解されるべきである。反対に、本発明の精神および範囲内に含まれる全ての修正例、均等物、および代替物が含まれることが意図される。
【0018】
本発明は、種々の感光性生体分子構造体の実用化の促進に有用であると考えられ、また、本発明は、細胞膜電圧の制御および刺激を扱う配置体および方法における使用に特に適していることが見出された。本発明は必ずしもそのような応用例に限定されるものではないが、この文脈で種々の例を議論することで本発明の種々の態様が理解されるであろう。
【0019】
本発明の例示的一実施形態では、細胞中に光反応性タンパク質/分子を設計付与する。このタンパク質は、光に反応して、細胞膜を横切るイオンの流れに影響を与える。このイオン流の変化は、細胞の電気的特性、例えば細胞膜電流および電圧に、対応する変化をもたらす。例えば、このタンパク質は、インビボで内因性の補因子を利用して、細胞膜を通るイオン流を調節するように機能する。別の例では、タンパク質は、細胞中で活動電位発火を鎮めるように、細胞膜を介した電圧を変化させる。更に別の例では、タンパク質は、光が導入されて数ミリ秒以内に細胞の電気的特性を変化させることができる。
【0020】
本発明のより具体的な例示的実施形態では、本発明でVChR1として特定されるボルボックス由来のタンパク質が、時間的に正確なニューロン活性の光制御に用いられる。VChR1は、素早いスパイク列の生成を含む単一の活動電位の選択的な興奮および数分にわたるスパイク生成の持続的な遮断を可能にする。VChR1の作用スペクトルは、ChR2に比べて強くレッドシフトしているが、ChR2と同様な光出力で作動し、外因性補因子なしで哺乳動物内で機能する。例えば、VChR1は標的細胞中でNpHRおよび/またはChR2と共発現させることができる。同様に、VChR1、NpHR、およびChR2は、C.elegansの筋肉およびコリン作動性運動ニューロンを標的にして移動運動を双方向的に制御することができる。この点で、VChR1、NphR、およびChR2は、多モードで高速な、遺伝的にターゲティングされる、全て光学的な、生きた神経回路を探索するための光遺伝学的システムを形成する。
【0021】
本発明の実施形態は、VChR1タンパク質に関する。種々の実施形態は、VChR1タンパク質を発現するDNAまたは塩基配列を含むプラスミドに関する。更に別の実施形態は、VChR1タンパク質を発現させるための発現ベクターに関する。発現ベクターの非限定的なリストには、細菌、ウイルス、および植物のプラスミドが含まれる。本発明の別の実施形態は、VChR1タンパク質を含む異種細胞に関する。
【0022】
本発明の態様は、図1Bに開示するVChR1の具体的実施形態のバリエーションに関する。そのような態様の1つには、タンパク質の変異が含まれる。これらの変異は、例えば、VChR1タンパク質の、このタンパク質を活性化する光の波長をシフトまたは変化させる部分を標的としたものであってもよい。
【0023】
チャネルロドプシンChR2およびハロロドプシンNpHR等の、神経科学に適合した急速に光で活性化される微生物タンパク質は、無傷の神経組織内で遺伝的に定義される細胞型をミリ秒精度で光制御することを可能にする。ChR2は、ニューロンを活性化できる青色光駆動型陽イオンチャネルであり、NpHRは、ニューロンを抑制できる黄色光駆動型クロライドポンプであるので、これら2種類のタンパク質を組み合わせることで、同じ標本中でニューロンの興奮および抑制を独立して行うことができる。第3の主要な光遺伝学的ツール、すなわち、ChR2に比べて作用スペクトルが大きくシフトしている第2の陽イオンチャネルがあれば、回路計算または行動における別個の2種類の細胞型の示差的寄与または相互作用の実験的試験が可能になる。
【0024】
球状藻類ボルボックス(Volvox carteri)(図1A)に由来するChR2関連配列の1つが報告されているが、このタンパク質の吸収スペクトルおよび光サイクルダイナミクスは実質的にChR2と同じである。クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)由来のChR1により関連のある第2のボルボックスChR(図1B)が発見された。この新規なタンパク質およびそのバリアントを本明細書ではVChR1と呼ぶ。
【0025】
実験的試験では、VChR1をアフリカツメガエル卵母細胞およびHEK293細胞で発現させ、VChR1がクラミドモナスChR1と同様な光電流を惹起することが見出された。この光電流は光強度に応じて段階的(graded)であり、早いピークから、わずかに低下した定常プラトーへの不活化を示した(図1C)。比較的強い強度の光で選択的に現れたピークは、予期される非伝導性の後期光サイクルの中間体の蓄積増加によるものと見られ(図1C)、光強度が飽和に近づくにつれ、惹起された電流は、定常状態に達する前に特徴的な極小値を示した。VChR1は、内向き整流性の電流−電圧関係を示し(図1D)、神経の生理的な条件下では、主にNa+を通過させたが、H+、K+、およびCa2+も通過させた(図1E)。
【0026】
吸収特性の変化が予想ができるように、VChR1とクラミドモナスChRの一次構造の違いを特定した(図1B、配列番号001(ChR2)、002(ChR1)、および003(VChR1)を示す。一次構造の違いをハイライトで示す)。第1に、バクテリオロドプシン(BR、570nmに吸収極大)および感覚性ロドプシンII(SRII、500nmに吸収極大)の静電ポテンシャルについて先に行われた計算および更なる量子力学的分子力学計算(QM/MM)に基づくと、補因子オールトランスレチナールシッフ塩基(RSB;図1B)の対イオン錯体が、色の調整、光異性化、および光サイクルの動力学にとって最も重要であると考えられる。三次元構造が知られている他の微生物オプシン遺伝子との相同性に基づくと、ChR2中の対イオン錯体は、R120、E123、およびD253により規定されるはずである。しかし、これらの残基は、ChR1およびVChR1(図1B、ハイライトされた列104)の両方で完全に保存されている。第2に、以前の変異実験に従う理論的計算によれば、RSB結合ポケットの3つの残基が微生物ロドプシンタンパク質間の吸収の差に大きく寄与している可能性があることが予測される。これらのアミノ酸とは、ChR2ではG181、L182、およびS256(図1Bの配列、ハイライトされた列106)である。最初の2つはRSBのβイオノン環の近く(図1Bの構造、108)に位置すると予想され、C183と一緒に吸収スペクトルを決定し得る。一方、S256はRSBのプロトン化窒素に隣接する可能性が高い(図1Bの構造、110)。VChR1では、181位および183位の2ヶ所が極性のSerで置換されているため、RSBのβ−イオノン環末端がChR1およびChR2よりも極性が大きいことが予想され、逆に、256位がAlaであるため、RSBの窒素環境は極性が実際により低い。181位、183位、および256位におけるこれら3個の変換の組合せの結果、VChR1では、RSBポリエン系に沿った正電荷の再分布およびChR2と比べて40nmを超える大きなレッドシフトが予想される。
【0027】
その他の3個のアミノ酸H114、E235、およびE245(図1B、ハイライトされた列102)は、ロングレンジカップリングによりRSBの電荷分布を調節すると予想され、ここで、VChR1およびChR1の両方におけるH114Nへの置換は、β−イオノン末端におけるRSBの電位を増加させると更に予想される。ChR1(ニューロン中ではあまり発現しない)の495nmにおける吸収極大も実際はChR2よりわずかにレッドシフトしているが、VChR1における多くの重要な変更点の組合せからは、神経科学のツールの新たなクラスを定めるのに有用なスケールの大きい波長シフトが予測される。
【0028】
最初に波長依存性を調べるために、さまざまな波長で10nsのレーザーフラッシュを用いてVChR1発現卵母細胞を興奮させた。顕著にレッドシフトした作用スペクトルが描かれ、約535nmに極大があることおよび505nmにピークを有する第2の異性体のピークと一致する小さなショルダーが低波長側にあることが示された(図1F)。強力なタンパク質発現を駆動するアルファ−CaMKIIプロモーターを有するレンチウイルスを構築して、ニューロン中でのVChR1の機能を試験した。VChR1発現を可視化するために、VChR1の7回膜貫通ドメイン(残基1〜300、ChR2の最初の315残基との相同性に基づく)をインフレームで黄色蛍光タンパク質のアミノ末端に融合させた(VChR1−EYFP)。VChR1−EYFPを発現するニューロンは、ChR2−EYFPで以前に報告されているのと同様に、明確に膜局在するEYFP蛍光を示し(図2A)、同じレンチウイルスアルファCaMKII発現ベクターを用いたChR2−EYFPよりも発現レベルはわずかに弱かった。にもかかわらず、VChR1−EYFPニューロンは、531nm、更には589nmの光を照射された時にも、強い光電流を示した(図2B)。細胞全体の内向き電流の平均は、サンプルに531nmの光を15mW/mmで照射した時および589nmの光を13.8mW/mmで照射した時、それぞれ208.8±22.3pA(特に断りのない限り平均±s.e.m.、n=20)および177.6±24.7pA(n=10)であった(図2C)。光電流上昇の見かけの時定数は、吸収係数のシフトのため、活性化が最大になる波長に近いほど速く、対応する値は、τ531_on=2.8±0.3msおよびτ589_on=8.0±0.7ms(531nmはn=11、589nmはn=10)であった。対応する減衰時間定数は、τ531_off=133.4±11.7ms(n=11)およびτ589_off=135.7±9.8ms(n=10)であった。
【0029】
電流固定法でVChR1−EYFPニューロンに531nmまたは589nmの20発の5ms光パルス列を与え(589nmで興奮させた時の典型的なトレースを図2Dに示す。)、スパイク惹起におけるVChR1の周波数依存を調べた(図2D)。10Hzまでは、いずれの波長の列においても、試験した細胞の90%超で100%の活動電位が発火し、20Hzでは細胞は典型的には光パルスの約65%に反応して発火した(図2E)。これらの強発現細胞では、30Hzまで確実にスパイクを惹起することができ(図2D;培養中の錐体ニューロンは典型的には50Hz以上では電流注入またはChR2光刺激のいずれにも反応がついていかなかった。)、531nmでは、各光パルスに対して二重のスパイクが惹起されることがあり、これは、τoff減衰定数がChR210の12msに対して133msとゆっくりであるためであろう。ChR2同様、VChR1も弱い刺激の光強度で興奮性シナプス後電位(EPSP)様の閾値未満の脱分極を引き起こすことができた。連続光パルスの送達は、閾値未満の膜電圧変化の典型的な総和(typical sum)を惹起し、光パルスの周波数を大きくすると定常状態の脱分極も増加した(図2F)。
【0030】
膜の完全性に対する潜在的影響を調べるため、1)VChR1−EYFP発現ニューロン、2)非形質導入ニューロン、および3)典型的な光パルスプロトコール(20Hzで1s、5msの光フラッシュを1分に1回、10分間)にさらした24時間後に初めてパッチクランプしたVChR1−EYFP発現ニューロン間で、ホールセルパッチクランプにより膜抵抗および静止膜電位を比較した(図2Gおよび2H)。記録した全ての細胞で値はほぼ同じであった。このことは、VChR1−EYFP発現が膜の電気的特性を著しく変えないことを示唆している。細胞内分布は、ChR2同様、強く膜に局在しているように見え、VChR1はこれらのニューロンによく許容されていた。更に、ChR2およびNpHR同様、ニューロン中にVChR1を形質導入した後にオールトランスレチナールの補給は不要であった。これらの遺伝子は全て微生物のオプシンをコードしており、RSBを形成して機能性ロドプシンになるためにオールトランスレチナールを組み込むことが必要であるが、一貫して、脊椎動物ニューロンは化学的補因子を補給しなくても発現されたオプシンを機能性タンパク質に変換することが見出されている。
【0031】
ChR2およびVChR1の活性化の間にある顕著なスペクトルの分離が、異なる2つの波長の光を用いた別々の活性化を可能にするのに十分であるかを調べた。作用スペクトル(図1F)に基づき、ChR2およびVChR1の分離可能な活性化を探索するために最適と思われる興奮波長として406nmおよび589nmが選択された。ChR2またはVChR1を発現しているニューロンについて、5Hzで与えられる20発の5ms光パルス列(406nmおよび589nm)に反応して惹起された活動電位を調べた。各波長を複数の異なる光強度で試験し、ChR2活性化を最大化し且つVChR1活性化を最小限に抑えるパラメータを406nmと決定し、その逆のパラメータも同様に決定した。ChR2およびVChR1ニューロンはそれぞれ406nmおよび589nmの光で別々に活性化することができることを見出した(図3A)。実際、ChR2ニューロンは、589nmの吸収が実質的にゼロであるため、589nmの光パルスを照射された時に活動電位を発火せず、一方、VChR1ニューロンはこの波長で信頼性よく発火した。逆に、406nmの光を照射した時、3つの光強度の全てで、全ChR2ニューロンが20回の活動電位を発火させた(n=10、図3B)。VChR1細胞は、406nmのフラッシュに反応して時々活動電位を発火することができたが(一般的に、全てのロドプシンは、第2の電子状態への遷移(S0→S2遷移)により、この波長にいくらかの吸収を示す。)、406nmの光強度を1.2mW/mm(n=10、図3C)に低下させるとスパイクの割合を13±9%にまで減少させることができ、ChR2ニューロンにおいては、この光強度でもChR2ニューロンによるスパイク生成は強固に駆動し続けられた。
【0032】
ここで実施されるように、VChR1およびChR2の同時使用は、回路動作の制御における種々の細胞集団の漸進的動員の試験に用いることができる。例えば、最初に黄色光で集団Aを分離し、その後、青色光を加えて集団AおよびBを合わせて駆動することで、2つの異なる介在ニューロンまたは神経調節性集団を段階的に動員することができる。この種の実験は、波長がシフトしたチャネルロドプシン開発の背景にある主要な推進力であった。なぜなら、神経情報処理および異なる神経調節系の相互作用は複雑であり、神経回路のダイナミクスおよび挙動におけるの調節的ゲート開閉および組合せの計算の重要性を調べるためには2つ以上の波長による速い光学的興奮誘発が必要なためである。
【0033】
単一の細胞型の役割は別々の実験で調べることができるが、いくつかの実験での都合上、分けられた2つの集団を異なる時間に駆動することが有用であり得る。この種の実験のために、最適な戦略では、ChR2およびVChR1の確実なスパイクを別々に引き起こすのに十分な、それぞれ最低限の406nmおよび589nmの光強度を用い、(図3A〜Cに示すように)単に各実験標本について独立した較正が必要なだけである。モノクロメータまたは複数のフィルターを用いて、光の色の交差逓減(cross−taper)を利用することもでき、黄色の波長では、VChR1標識された集団だけが制御され、興奮誘発波長が535nmを超えて青色側に進むにつれて、ChR2標識された集団の寄与が安定的により優勢になる(図1F)。分子的改良(例えば、ChR2のブルーシフトおよびVChR1のスペクトルの尖鋭化)を実施してスペクトルの青色側の端で更なる分離を実現することができる。
【0034】
ここで黄色光による神経興奮についてのVChR1の同定及び特徴解析により、青色光で神経を興奮させるためのChR2および黄色光で神経を抑制するためのNpHRの導入にに続く、神経回路の機構および機能の探索に利用可能な機能的に別個な第3の大きなカテゴリーの高速な光遺伝学的ツールが定義される。機能的に有意にレッドシフトした作用スペクトルに加えて、VChR1はChR2に比べて定常状態の電流に対するピークの割合が低い等の興味深い更なる特性を示している(図1C、2B)。通常、チャネルロドプシン中でのピーク電流の大きさは光強度、外部pH、および膜電圧に依存するが、定常状態のピークに対する比率は本発明者らが実験した全ての条件下においてChR2よりVChR1の方が大きかった。
【0035】
独立して制御可能な2つの興奮刺激タンパク質の存在は、種々の応用への道を開き、そのような応用としては、限定されるものではないが、種々の疾患の治療への応用および複数のそれぞれの光の波長に反応するように選択できる複数の光反応性タンパク質の使用が含まれる。単一コンポーネントのタンパク質のファミリーは複数の光の波長および強度に反応することが示されている。本発明の態様は、更なる光波長用の配列および/または個々に制御可能なタンパク質チャネルを得るための更なる変異および/または更なる検索を可能にする。光刺激のバリエーション(例えば、波長、強度、または長さ(duration)特性)を用いることもできる。例えば、刺激のプロファイルは、2つの異なるイオンチャネルタンパク質の興奮波長における重なりを利用して、両方のタンパク質を同時に興奮させることができる。そのような場合、タンパク質は異なるレベルの反応性を有していてもよい。それにより、神経への応用では、1組のイオンチャネルは、第2の組のイオンチャネルと比較して異なる成功率でスパイクを生成してもよい。
【0036】
本発明のヒトへの応用の多くは、使用前に政府の承認が必要である。例えば、遺伝子治療のヒトへの使用はそのような承認が必要になり得る。しかし、ニューロンの同様な遺伝子治療(新生物のできない非増殖細胞)は急速に進んでおり、ヒトの脳へのウイルス遺伝子導入を含む、活発な、FDAに承認された臨床試験が既に進行中である。これは、幅広い用途への本発明の種々の実施形態の使用を促すであろう。以下に、そのような応用および実施形態の例の一部を非網羅的に挙げる。
【0037】
中毒は報酬および期待を含む種々の脳機能に関連している。更に、中毒を引き起こす原因は個体間でばらつき得る。一実施形態によれば、中毒、例えばニコチン中毒を、島の小さな領域を光遺伝学的に安定化することで治療してもよい。必要に応じて、島表面上にインターベンションする正確な標的場所を決定するために、脳機能イメージング、例えばcued−state PETまたはfMRIを用いて代謝が亢進している病巣を特定してもよい。
【0038】
側坐核および中隔の光遺伝学的興奮は、物質を用いる必要なしに患者に報酬および喜びを与えることができるため、中毒治療の鍵を握っていると考えられる。逆に、中毒と関連する薬物欲求を低下させるために、側坐核および中隔の光遺伝学的な安定化を用いてもよい。別の実施形態では、薬物欲求を低下させるために、前帯状回(BA32)の脳梁膝で観察される代謝亢進活性の光遺伝学的安定化を用いることができる。プロオピオメラノコルチン(POMC)およびコカイン・アンフェタミン調節転写産物(CART)のペプチド産物を含む視床下部内側野の弓状核内での細胞の光遺伝学的安定化も、薬物中毒行動を低下させるために用いることができる。この点に関する更なる情報については、参照により全体を本明細書に援用する。Naqvi NH, Rudrauf D, Damasio H, Bechara A. "Damage to the insula disrupts addiction to cigarette smoking." Science. 2007 Jan 26; 315(5811):531-534を参照することができる。
【0039】
例えば先端巨大症において、下垂体前葉からの成長ホルモンの分泌を抑制するために、ソマトスタチンを分泌する視床下部脳室周囲核の神経内分泌ニューロンの光遺伝学的刺激を用いることができる。ソマトスタチンまたは成長ホルモンを分泌する神経内分泌ニューロンの光遺伝学的安定化を用いて、成長および身体発育を強化することができる。「正常な」加齢に伴う変化の一つとして、40または50代以後の、血清成長ホルモンレベルの急激な低下が挙げられる。したがって、脳室周囲核の光遺伝学的安定化によって、加齢に伴う肉体の衰えが軽減され得る。
【0040】
視床下部の腹内側核(特に弓状核のプロオピオメラノコルチン(POMC)およびコカイン・アンフェタミン調節転写産物(CART))の光遺伝学的安定化を用いて、食欲を増加させ、それによって神経性食欲不振を治療することができる。あるいは、視床下部外側核の光遺伝学的刺激を用いて、食欲および摂食行動を増加させることができる。
【0041】
側頭葉、NBM(マイネルト基底核)、および後帯状回(BA31)を含む患部のコリン作動性細胞の光遺伝学的興奮は刺激をもたらし、したがって、悪化部分に神経栄養上のドライブを与える。これらの患部は脳内で広く拡散しているため、植込み型電極を用いた同様な治療は光遺伝学的アプローチよりも実現性が低いであろう。
【0042】
不安障害は通常、左側頭皮質、前頭皮質および扁桃体における活性増加に関連し、これは不安が解消すると正常になる傾向にある。したがって、患部の左側頭部および前頭部および扁桃体を光遺伝学的安定化を用いて治療して、これらの領域における活性を抑えるようにしてもよい。
【0043】
正常な生理では、網膜の感光性神経細胞は、自身が受容した光に反応して脱分極し、受容した光パターンの視覚マップを作成する。光遺伝学的イオンチャネルを用いて、身体の多くの部位でこのプロセスを模倣することができ、目も例外ではない。網膜損傷による視力障害または失明の場合、機能的に新たな網膜を成長させることができ、これは、植込まれたデバイスからの閃光パターンではなく自然環境中の光を利用する。成長した人工網膜を、本来の網膜の位置(視覚皮質に戻る経路となる視神経を利用することができる)に配置してもよい。あるいは、脱分極シグナルのための経路が、光遺伝学的センサーマトリックスからの暗号化された情報を解読できる皮質組織に送られるのであれば、額等の別の位置に人工網膜を配置してもよい。視覚皮質の視覚路下流を刺激することで、皮質盲を治療することもできる。刺激は、視覚皮質の上流でまたは人工光センサーによって生成された視覚データに基づくものとすることができる。
【0044】
CN Xまたは迷走神経等の副交感神経系繊維への光遺伝学的刺激を用いて、頻脈の治療を行ってもよい。これは、洞房結節の拍速度を低下させ、それによって心拍数および収縮力を低下させる。同様に、脊髄神経T1〜T4内の交感神経系繊維の光遺伝学的安定化も心拍数を低下させる。病的徐脈の治療のためには、迷走神経の光遺伝学的安定化またはT1〜T4中の交感神経系繊維の光遺伝学的刺激が心拍数上昇に役立つ。洞房結節よりも速い異常な電気的病巣(electrical focus)により生じる心律動異常が、適度な光遺伝学的安定化を用いて異常な電気的病巣を治療することで、抑制され得る。これにより、治療された組織内での内的発火率が低下し、洞房結節に心臓の電気系をペーシングする役割を回復させる。同様な方法であらゆる種類の心不整脈が治療され得る。心筋症またはうっ血性心不全で起こる心臓組織の変性も本発明を用いて治療することができ、残った組織を本発明の種々の実施形態を用いて興奮させることができる。
【0045】
前頭葉、頭頂葉、および海馬を含む脳領域の光遺伝学的興奮刺激は、処理速度の上昇、記憶の向上、ならびに、神経前駆細胞の発達刺激を含むニューロンの成長および相互結合の刺激を起こし得る。例として、本発明のそのような応用の1つは、患者をほぼ植物状態(意識がほとんどない状態)から抜け出させることを目的とした、視床中の標的ニューロンの光遺伝学的興奮刺激に関する。標的視床神経の膜において光でゲート開閉されるイオンチャネルまたはポンプを成長させる。次いで、修飾されたニューロン上に閃光を向けることによって(例えば、同じ経路からアクセスできる光学部品を介して)修飾ニューロンを刺激し、それにより標的ニューロンおよび/または周囲の細胞の機能を調節する。適切な調節技術に関する更なる情報またはそのような患者の関連する脳領域に関する更なる情報については、Schiff ND, Giacino JT, Kalmar K, Victor JD, Baker K, Gerber M, Fritz B, Eisenberg B, O'Connor JO, Kobylarz EJ, Farris S, Machado A, McCagg C, Plum F, Fins JJ, Rezai AR "Behavioral improvements with thalamic stimulation after severe traumatic brain injury," Nature, Vol. 448, Aug 2, 2007, pp. 600-604を参照することができる。
【0046】
別の実施形態では、光遺伝学的興奮を用いて、うっ血性心不全等の状態における弱った心筋を治療してもよい。心臓壁が薄く伸びた脆弱な状態であり、また、電極と筋肉の間の均一に分布された電気的結合が困難であるため、CHFの不全心筋を電気的に補助するのは一般的に実用的ではない。このため、心収縮性を増大させるためのこれまでの好ましい方法には、ベータアゴニスト等の薬理学的方法および循環補助装置等の機械的アプローチが含まれた。本発明のこの実施形態では、心臓を囲む被覆物の内表面上の、または別の様式で患部心臓壁に対置された発光要素によって、弱った心筋に光遺伝学的興奮を与える。広範囲の筋肉を滑らかに覆うように、光を当該技術分野で公知の手段を用いて拡散させてもよく、それにより各光パルスによる収縮が促進される。
【0047】
帯状回膝下野(Cg25)の光遺伝学的安定化に、植込みデバイスを用いて黄色光を適用してもよい。その目的は、その全体を参照により本明細書に援用するMayberg HS et al. , "Deep Brain Stimulation for Treatment-Resistant Depression," Neuron, Vol. 45, 651-660, March 3, 2005, pp. 651-660に教示されているのと同様な様式で標的活性を抑制することでうつ病を治療することである。別の実施形態では、光遺伝学的興奮刺激方法は、その全体を参照により本明細書に援用するSchlaepfer et al., "Deep Brain stimulation to Reward Circuitry Alleviates Anhedonia in Refractory Major Depression," Neuropsychopharmacology 2007, pp. 1-10により教示されているのと同様な様式で同じ領域における活性を上昇させる。
【0048】
更に別の実施形態では、左背外側前頭前皮質(LDPFC)が光遺伝学的興奮刺激方法の標的となる。LDLPFCを5〜20Hzのペースとすると、回路の連絡を介してこの構造の基礎代謝レベルが上昇し、これはCg25中の活性を低下させ、進行中のうつ病を改善する。右背外側前頭前皮質(RDLPFC)の抑制もうつ病治療の有効な戦略である。この抑制は、RDLPFC上での光遺伝学的安定化により達成することができ、また、光遺伝学的興奮刺激および遅いパルス(例えば1Hz以下)を用いても達成することができ、進行中のうつ病が改善される。光遺伝学的アプローチを用いて迷走神経刺激(VNS)を改善することができる。節上神経節、頸静脈神経節等の脳への求心性迷走神経だけを刺激するために、光遺伝学的興奮を使用してもよい。脳からの遠心性神経はこのアプローチによる刺激を受けないため、のどの不快感、せき、嚥下困難、嗄声等のVNSの副作用の一部が取り除かれる。別の実施形態では、海馬を光遺伝学的に興奮させてもよく、これは、樹状細胞および軸索の発芽ならびに海馬の全体的な成長を引き起こす。本発明を用いて治療され得るうつ病に関連するその他の脳領域としては、扁桃体、側坐核、眼窩前頭皮質、眼窩皮質(orbitomedial cortex)、海馬、嗅皮質、ならびにドーパミン作動性、セロトニン作動性、およびノルアドレナリン作動性の神経投射が含まれる。光遺伝学的アプローチは、海馬等の構造体を介した活性の拡散を調節して抑うつ症状を調節するために用いることもできる。
【0049】
ランゲルハンス膵島中に生きたアルファまたはベータ細胞集団が存在する限り、膵島は糖尿病治療の標的となり得る。例えば血清グルコースが高い場合(手動でまたは閉ループグルコース検出システムによって決定される)、膵臓ランゲルハンス島ベータ細胞からのインスリン放出を引き起こすために光遺伝学的興奮を用いてもよく、一方、膵臓ランゲルハンス島アルファ細胞からのグルカゴン放出を防止するために光遺伝学的安定化が用いられる。逆に、血糖値が低すぎる場合(手動でまたは閉ループグルコース検出システムによって決定される)、ベータ細胞のインスリン分泌を停止させるために光遺伝学的安定化を用いてもよく、アルファ細胞のグルカゴン分泌を増加させるために光遺伝学的刺激を用いてもよい。
【0050】
てんかんの治療には、てんかん発作性活性のクエンチングまたはブロッキングが光遺伝学的アプローチに適している。ほとんどのてんかん患者は、てんかん病巣により、定型的な活性拡散パターンを有している。異常な活性が拡散する前にその活性を抑制するか、異常な活性をその拡散の初期で止めるために、光遺伝学的安定化を用いることができる。あるいは、光遺伝学的興奮刺激による興奮性組織の活性化を一連の意図的に非同期とされたパターンの形で導入して、出現しつつあるてんかん発作活性を止めることができる。別の方法では、GABA作動性ニューロン中で光遺伝学的興奮刺激を活性化して同様な結果を得る。異常なEEGパターンの検出を引き金とした光遺伝学的安定化を用いて、視床での中継を標的にしてもよい。
【0051】
別の実施形態では、消化器疾患を治療する。消化系は、感覚ニューロン、運動ニューロン、および介在ニューロンを含む独自の半自律的な神経系を有する。これらのニューロンは、GI管の動きを制御し、また、腸の特定の細胞による酸、消化酵素、ならびにガストリン、コレシストキニン、およびセクレチンを含むホルモンの放出を起こさせる。これら細胞産物のいずれかの不十分な分泌を含む症候群を、産生細胞型の光遺伝学的刺激またはそれらの活性を促すニューロンの光遺伝学的刺激を用いて治療してもよい。逆に、内分泌産物または外分泌産物が過剰生成される症候群を、光遺伝学的安定化を用いて治療してもよい。腸の運動ニューロンの光遺伝学的興奮を用いて、便秘(特に脊髄損傷患者における便秘)から巨大結腸症(megacolan)にわたる腸運動低下疾患を治療してもよい。運動を制御するニューロンの光遺伝学的安定化を用いて、いくつかの形態の過敏性腸症候群を含む腸運動過剰疾患を治療してもよい。幽門のニューロンおよび筋系の光遺伝学的安定化を用いて、神経性の幽門閉塞を治療してもよい。運動低下症候群(hypomobility syndrome)に対する別のアプローチは、腸壁にある伸長感受性のニューロンに光遺伝学的興奮を与え、腸がいっぱいであり排出が必要であるというシグナルを増加させることである。
【0052】
この同じパラダイムで、腸の過剰運動症候群に対するアプローチは、下部消化管の伸張受容ニューロンに光遺伝学的安定化を与えることで、腸が空であり排出の必要がないという「偽の合図」を与えることである。明らかな便失禁の場合、管全体の運動性を下げるために、内括約筋および外括約筋の調節向上が好ましいことがある。患者が大便を我慢する必要がある時間の間、内肛門括約筋を光遺伝学的に興奮させることで保持させることができるであろう。更に我慢できるように、外括約筋への光遺伝学的刺激を用いてもよい。患者が排便する必要がある場合には、光遺伝学的刺激を停止するか、光遺伝学的安定化を与えることで、内肛門括約筋、次いで外肛門括約筋をリラックスさせるべきである。
【0053】
光学的蝸牛インプラントを用いて伝音難聴を治療してもよい。光遺伝学的刺激用の蝸牛インプラントを製造したら、光をフラッシュする蝸牛インプラントを使用してもよい。聴覚伝導路の下流にある標的の光刺激によって感音難聴を治療してもよい。
【0054】
本発明の別の実施形態は、高血圧等の血圧疾患の治療に関する。大動脈(大動脈体および大動脈傍体)および頸動脈(「頸動脈小体」)等の領域の圧受容器および化学受容器は、迷走神経(CN X)およびその他の経路を介して髄および橋(特に孤束および孤束核)に求心性インパルスを送ることで、血圧および呼吸の制御に関与する。頸動脈小体、大動脈体、大動脈傍体の光遺伝学的興奮を用いて、「高血圧」という誤ったメッセージを孤束核および孤束に送って、血圧を下げるべきだという指令を出させることができる。血圧を下げるために脳幹の適切な部位への直接的な光遺伝学的興奮または安定化を用いてもよい。逆の様式では、光遺伝学的アプローチに昇圧薬としての役割をさせ、血圧を上昇させる。迷走神経の光遺伝学的興奮または脊髄神経T1〜T4内の交感神経線維の光遺伝学的安定化によって同様な効果を得てもよい。別の実施形態では、高血圧を、心臓の光遺伝学的安定化によって心拍出量を下げて血圧を低下させることで治療してもよい。別の実施形態によれば、副腎皮質内のアルドステロン産生細胞の光遺伝学的安定化を用いて血圧を低下させてもよい。更に別の代替的な実施形態では、血管平滑筋の光遺伝学的安定化によって高血圧を治療してもよい。活性光は、末梢血管床へと経皮的に通過するようにしてもよい。
【0055】
別の例示的実施形態は、視床下部−下垂体−副腎系の疾患の治療に関する。甲状腺機能低下症の治療では、室旁核および視床下部前核中の小細胞性神経内分泌ニューロンの光遺伝学的興奮を用いて甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の分泌を増加させることができる。TRHは下垂体前葉を刺激してTSHを分泌させる。逆に、甲状腺機能亢進症を、小細胞性神経内分泌ニューロンの光遺伝学的安定化を用いて治療してもよい。副腎不全またはアジソン病の治療では、視索上核および室傍核中の小細胞性神経内分泌ニューロンの光遺伝学的興奮を用いて、バソプレシンの分泌を増加させてもよい。バソプレシンは、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)に補助されて、ACTHを分泌させるよう下垂体前葉を刺激する。クッシング症候群はしばしばACTHの過剰分泌により引き起こされるが、視索上核の小細胞性神経内分泌ニューロンの光遺伝学的安定化を用いて、上記と同じ生理学的効果の連鎖を介して治療してもよい。弓状核の神経内分泌ニューロンはドーパミンを産生し、ドーパミンは下垂体前葉からのプロラクチンの分泌を抑制する。したがって、弓状核の神経内分泌細胞の光遺伝学的興奮を介して高プロラクチン血症を治療することができ、一方、光遺伝学的安定化を介して低プロラクチン血症を治療することができる。
【0056】
過自律状態(hyperautonomic state)、例えば不安障害の治療では、副腎髄質の光遺伝学的安定化を用いてノルエピネフリンの生産量を低下させてもよい。同様に、アドレナリンの急上昇が必要な患者(例えば重度のぜん息患者または慢性的な眠気として現れる障害を有する患者)で、副腎髄質の光遺伝学的刺激を用いてもよい。
【0057】
副腎皮質の光遺伝学的刺激は、コルチゾール、テストステロン、およびアルドステロンを含む化学物質の放出を引き起こす。副腎髄質と異なり、副腎皮質は下垂体および視床下部、肺、ならびに腎臓から分泌される神経内分泌ホルモンから指令を受ける。しかし、副腎皮質は光遺伝学的刺激が可能である。副腎皮質のコルチゾール産生細胞の光遺伝学的刺激をアジソン病の治療に用いてもよい。副腎皮質のコルチゾール産生細胞の光遺伝学的安定化をクッシング病の治療に用いてもよい。テストステロン産生細胞の光遺伝学的刺激を、女性の性的関心障害の治療に用いてもよく、テストステロン産生細胞の光遺伝学的安定化を、女性の顔の毛を薄くするために用いてもよい。副腎皮質内のアルドステロン産生細胞の光遺伝学的安定化を、血圧を低下させるために用いてもよい。副腎皮質内のアルドステロン産生細胞の光遺伝学的興奮を、血圧を上昇させるために用いてもよい。
【0058】
特定の患部脳領域の光遺伝学的興奮刺激を、処理速度の向上、神経前駆細胞の成熟刺激を含むニューロンの成長および相互結合の刺激に用いてもよい。そのような使用は、精神遅滞の治療に特に有用であり得る。
【0059】
本発明の別の実施形態によれば、種々の筋肉疾患および筋障害を治療することができる。筋損傷、末梢神経の損傷、およびジストロフィー疾患に関連する麻痺症を、光遺伝学的興奮により収縮させたり、光遺伝学的安定化により弛緩させることで、治療することができる。この後者の光遺伝学的安定化アプローチによる弛緩は、筋消耗を予防し、緊張を維持し、および反対側の筋肉群が収縮する際の協調運動を可能にするためにも用いることができる。同様に、光遺伝学的安定化を介して明らかな痙縮を治療することができる。
【0060】
末梢神経切断、脳卒中、外傷性脳損傷、および脊髄損傷といった幅広い領域で、新たなニューロンの増殖を促し、それらが他のニューロンおよび標的組織との機能的ネットワークに組み込まれるのを支援する必要がある。光遺伝学的興奮によって新たな神経路の再発達を促すことができ、光遺伝学的興奮は、幹細胞に軸索および樹状突起を発芽させて自身をネットワークに統合させるシグナルとして働く。(電極ではなく)光遺伝学的技術の使用は、無傷組織によるシグナルの受容を防ぎ、電極で発生する電流のような人工的シグナルとではなく発達中のニューロンと情報交換が行われることで、新しい標的組織が確実に成長する。
【0061】
視床下部腹内側核、特に弓状核のプロオピオメラノコルチン(POMC)およびコカイン・アンフェタミン調節転写産物(CART)への光遺伝学的興奮を用いて肥満を治療することができる。別の実施形態では、視床下部外側核の光遺伝学的安定化を介して肥満を治療することができる。別の実施形態では、視床下部内のレプチン産生細胞またはレプチン受容体を有する細胞の光遺伝学的刺激を用いて、食欲を低下させることによって肥満を治療することができる。
【0062】
前嚢の病変破壊および類似なその部位への脳深部刺激(DBS)が、重篤な難治性強迫性障害48(OCD48)の確立された治療手段である。内包前脚、またはOCDが寛解するにつれて代謝が低下するBA32およびCg24等の部位への光遺伝学的安定化によってこのようなアプローチを真似ることができる。
【0063】
本発明の別の実施形態を用いて慢性疼痛を治療することができる。電気刺激方法は、局所末梢神経刺激、局所脳神経刺激、および「閾下」運動皮質刺激を含む。合理的な自律性アプローチには、局所的有痛部位の光遺伝学的安定化が含まれる。プロモーターの選択に注意することで、他の感覚神経繊維および運動神経繊維が影響を受けないようにすることができよう。一次運動野での介在ニューロンの選択的光遺伝学的興奮も鎮痛に効果的であろう。また、感覚系視床(特に内側視床核)、脳室周囲灰白質、および腹側縫線核における光遺伝学的安定化を用いて鎮痛することもできる。別の実施形態では、標的戦略としてパルブアルブミン発現細胞標的の光遺伝学的安定化を用いて、サブスタンスPの産生を低下させることにより疼痛を治療してもよい。光遺伝学的興奮を用いて側坐核の活性を増大させることで内因性オピオイドの放出が達成され得る。別の実施形態では、視床下部内側野弓状核のPOMCニューロンを光遺伝学的に興奮させた時、ベータエンドルフィンが増加し、うつ病および慢性疼痛に対する実行可能な治療方法が実現される。
【0064】
境界型および反社会型を含むある種の人格障害は、「前頭葉機能低下」を含む脳障害における局所的障害を示す。これらの領域の直接的または間接的な光遺伝学的興奮は症状を改善することが期待される。扁桃体における活性の異常なバーストも、突発的で自発的な、怒りへの発作を引き起こすことが知られており、これは境界性人格障害およびその他の状態の症状であり、扁桃体の光遺伝学的安定化が有益であり得る。光遺伝学的アプローチは、扁桃体、線条体、および前頭皮質を含む脳の異なる部分の情報交換および同期化を向上させ得、これは衝動性の軽減および洞察の向上の助けとなり得る。
【0065】
扁桃体に焦点を当てた外傷後ストレス障害(PTSD)のモデルは、扁桃体の過覚醒ならびに内側前頭前皮質および海馬によるトップ−ダウン制御が不十分であることがPTSDに関連していると提唱している。したがって、PTSDを、扁桃体(amygdale)または海馬の光遺伝学的安定化を用いて治療してもよい。
【0066】
統合失調症は幻聴等の異常を特徴とする。これらは、光遺伝学的安定化を用いた聴覚皮質の抑制により治療され得る。統合失調症に付随する前頭葉機能低下は、前頭部患部における光遺伝学的興奮によって治療され得る。光遺伝学的アプローチは、脳の異なる部位間の情報交換および同期化を向上させ得、これは、自身が発生した刺激を誤って外来刺激に帰属することを減らす助けとなり得る。
【0067】
プロオピオメラノコルチン(POMC)およびコカイン・アンフェタミン調節転写産物(CART)のペプチド産物を含む視床下部内側野弓状核内の細胞の光遺伝学的安定化を、脅迫的性行動の低減に用いることができる。プロオピオメラノコルチン(POMC)およびコカイン・アンフェタミン調節転写産物(CART)のペプチド産物を含む視床下部内側野弓状核内の細胞の光遺伝学的刺激を、性欲障害の病状の治療において性的関心を増大させるために用いることができる。性的欲求低下障害の治療では、下垂体の光遺伝学的興奮を介して精巣および副腎によるテストステロン産生を増加させることができる。側坐核の光遺伝学的興奮は無オルガスム症の治療に用いることができる。
【0068】
視交差上核はメラトニンを分泌し、メラトニンには睡眠覚醒サイクルを制御する働きがある。視交差上核の光遺伝学的興奮を用いて、メラトニン生成を増加させ、睡眠を誘導し、それによって不眠症を治療することができる。オレキシン(ヒポクレチン)ニューロンは、覚醒状態を促進するために多くの脳神経核を強く興奮させる。オレキシン産生細胞集団の光遺伝学的興奮を用いて、ナルコレプシーおよび慢性的な日中の眠気を治療することができる。
【0069】
視索上核の光遺伝学的刺激は、オキシトシン分泌の誘導に用いることができ、出産中の分娩促進に用いることができ、社会性障害の治療に用いることができる。
【0070】
筋肉麻痺同様、脊髄損傷により求心路が遮断された運動機能も、収縮を起こさせる光遺伝学的興奮および弛緩を起こさせる光遺伝学的安定化により治療することができる。この後者の光遺伝学的安定化アプローチによる弛緩は、筋消耗の予防、緊張の維持、および反対側の筋肉群が収縮される際の協調運動可能化に用いてもよい。同様に、明らかな痙縮を光遺伝学的安定化で治療してもよい。光遺伝学的興奮によって新たな脊髄神経路の再発達を促すことができ、光遺伝学的興奮は、幹細胞に軸索および樹状突起を発芽させて自身をネットワークに統合させるシグナルとして働く。
【0071】
脳卒中障害(stroke deficit)には、人格変化、運動障害、感覚障害、認識障害、および情動不安定が含まれる。脳卒中障害を治療するための戦略の1つは、興奮性結合から求心路遮断された脳および身体構造に光遺伝学的刺激を与えることである。同様に、抑制性結合から求心路遮断された脳および身体構造に光遺伝学的安定化能を付与することができる。
【0072】
トゥレット症候群の根底にある病理は皮質領、皮質下領、視床、大脳基底核、および前頭皮質におけるドーパミン伝達の一過性の不全であることが研究により指摘されている。治療を提供するために、脳機能イメージングおよび脳磁図(MEG)等の技術を用いて最初に患部を特定することが好ましい。具体的に特定されてもされなくても、候補となる路の光遺伝学的安定化を、運動性チックを抑制するために用いてもよい。移植後にデバイスパラメータを実証的に調べることで、光遺伝学的安定化の部位および続ける必要のない部位が明らかになる。
【0073】
泌尿器障害または便失禁を治療するために、例えば膀胱排尿平滑筋またはその神経支配の光遺伝学的安定化を介して、括約筋に光遺伝学的安定化を用いることができる。排尿が必要な場合、(外)尿道括約筋を光遺伝学的に安定化し、膀胱排尿筋またはその神経支配を光遺伝学的に興奮させるようにすれば、これらの光遺伝学的プロセスをオフにするか、あるいは逆向きにすることができる。膀胱が求心路遮断されている場合、例えば、ヒトにおける脊髄癆等の後根の疾患によって仙椎の後根が切断または破壊されている場合、膀胱の反射収縮が全て消失しており、膀胱は拡張する。排尿筋の緊張を回復するため、腎臓の損傷を避けるため、および排尿プロセスを支援するために、筋肉の光遺伝学的興奮を直接用いることができる。膀胱が「神経中枢から隔離されて」運動に過敏になっている場合、したがって失禁しやすくなっている場合、膀胱のこの反応性を最小限に抑えるために膀胱筋への光遺伝学的安定化を用いることができる。
【0074】
特定のニューロン集団、例えばある疾病の病状に関わるニューロン集団を選択的に興奮/抑制するために、複数の戦略を用いて光遺伝学的タンパク質/分子を特定の集団にターゲティングすることができる。
【0075】
本発明の種々実施形態で、種々の光遺伝学的タンパク質または分子を発現させるために遺伝的ターゲティングを用いてもよい。そのようなターゲティングには、プロモーター(例えば、パルブアルブミン、ソマトスタチン、コレシストキニン、GFAP)、エンハンサー/サイレンサー(例えば、サイトメガロウイルス最初期エンハンサー)、およびその他の転写または翻訳調節因子(例えば、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節因子)等の遺伝調節領域を介した光遺伝学的タンパク質/分子の標的化された発現が含まれる。光遺伝学的プローブの発現を遺伝学的に定義された集団に制限するために、プロモーター+エンハンサー+調節因子の順列を用いることができる。
【0076】
空間的/解剖学的ターゲティングを用いて本発明の種々の実施形態を実施してもよい。そのようなターゲティングはニューロンの投射パターンを利用し、ウイルスまたは遺伝情報を保持するその他の試薬(DNAプラスミド、断片等)を特定のニューロン集団が投射される領域に局所的に送達することができる。遺伝材料は、その後ニューロン本体へと逆に輸送され、光遺伝学的プローブの発現を仲介する。あるいは、局所的領域の細胞を標識することが望ましい場合、局所的発現を仲介するために目的の領域にウイルスまたは遺伝的材料を局所的に導入してもよい。
【0077】
本発明の1または複数の実施形態の実施で種々の遺伝子導入システムが有用である。そのような導入システムの1つはアデノ随伴ウイルス(AAV)である。AAVは、プロモーター+光遺伝学的プローブカセットを目的の特定の領域に導入するために用いることができる。プロモーターは、特定のニューロン集団中での発現を促すように選択される。例えば、CaMKIIaプロモーターを用いると、興奮性ニューロン特異的な光遺伝学的プローブの発現が促される。AAVは、少なくとも1年以上にわたる光遺伝学的プローブの長期発現を仲介する。更なる特異性を達成するために、種々の細胞型に対してそれぞれ異なる栄養性を有する特異的な血清型1〜8を用いてAAVをシュードタイプ化してもよい。例えば、血清型2および5はニューロン特異的栄養性が高いことが知られている。
【0078】
別の遺伝子導入機構として、レトロウイルスの使用が挙げられる。目的の特定領域にプロモーター+光遺伝学的プローブカセットを導入するために、HIVまたはその他のレンチウイルス系レトロウイルスベクターを用いることができる。レトロウイルスも、軸索投射パターンに基づいて細胞を標識するための逆行性輸送を達成するために、狂犬病ウイルスエンベロープ糖タンパク質を用いてシュードタイプ化してよい。レトロウイルスは、宿主細胞ゲノムと一体化するので、光遺伝学的プローブの永久的発現を仲介することができる。非レンチウイルス系レトロウイルスベクターを用いて分裂細胞を選択的に標識することができる。
【0079】
ガットレス(gutless)アデノウイルスおよび単純ヘルペスウイルス(HSV)の2つも、脳の特定の領域にプロモーター+光遺伝学的プローブカセットを導入するために用いることができるDNAウイルスである。HSVおよびアデノウイルスははるかにパッケージング容量が大きいので、はるかに大きいプロモーター領域を載せることができ、また複数の光遺伝学的プローブまたは光遺伝学的プローブに加えて別の治療的遺伝子を導入するためにも用いることができる。
【0080】
ニューロンを一時的にトランスフェクトするために局所的なエレクトロポレーションを用いることもできる。DNAプラスミドまたは断片を脳の特定の領域に局所的に導入することができる。穏やかな電流を印加することで、周囲の局所細胞でDNA物質が受け取られ、光遺伝学的プローブ発現される。
【0081】
別の例では、局所細胞のトランスフェクションを仲介するために、遺伝物質を脂質試薬と混合し、その後脳に注入するリポフェクションを用いることができる。
【0082】
種々の実施形態で、種々の調節領域を用いる。遺伝的調節領域に加えて、その他の調節領域(特に、活性が化学的・磁気的刺激、または赤外照射に感受性であるプロモーターおよびエンハンサー)を、光遺伝学的プローブの時間制御発現の仲介に用いることができる。例えば、転写活性が赤外照射の影響を受けるプロモーターは、焦点を絞った照射を用いて、所望の時間だけ、局所領域での光遺伝学的プローブの発現を微調整することを可能にする。
【0083】
CaMKIIα等の興奮性特異的プロモーターを用いて、視床下核(STN)または淡蒼球内節(GPi)中のグルタミン酸作動性ニューロンにおいて光遺伝学的安定化を発現させ光遺伝学的安定化を与えることでパーキンソン病を治療することができる。全ての細胞型が影響を受ける電気的調節とは異なり、グルタミン酸作動性視床下核ニューロンだけが抑制される。
【0084】
本発明の態様は、神経回路または神経疾患のモデルの試験に関する。このモデルは、入力シグナルの関数として回路の出力反応を決定することができる。出力反応は、複数の異なる測定可能な特性を用いて評価することができる。例えば、特性には、下流ニューロンの電気的反応および/または患者の行動反応が含まれる。モデルを試験するために、モデルの入力位置で光遺伝的プローブを発現させる。光遺伝学的プローブを刺激し、出力特性をモニターし、モデルから予測される出力と比較する。
【0085】
特定の実施態様においては、光遺伝学的プローブを使用することで、電気的プローブを用いて決定されたモデルを微調整することができる。電気的プローブは刺激を向ける能力が限定され、近くの領域を直接刺激することなく特定の領域を刺激するのにはあまり適していない。本明細書に開示する光遺伝学的プローブは、刺激場所をより正確に選択する機構を提供する。例えば、光遺伝学的プローブからの刺激は、求心性線維等の非常に特定された種類の回路/細胞に向けることができる。以下の記載は、そのような実施形態に係る実施例を提供するものであり、本発明の態様の実行可能性および広い適用性を示すことを意図する。
【0086】
本発明の一実施形態によれば、本発明は、治療効果に関与する標的細胞型(激しく議論される領域であり、臨床的に極めて重要である。)を特定するために、脳深部刺激のモデル動物、例えばパーキンソン病ラット、において用いてもよい。この知見だけでも、ヒトの疾患を治療するための改善された薬理学的・外科的戦略の進展につながり得る。
【0087】
そのような応用の1つは、2つのニューロン群の間における長期増強(LTP)および/または長期抑圧(LTD)を含む。VChR1およびChR2の発現を異なるニューロン集団にターゲティングし、それぞれを異なる周波数の光で刺激することで、2群間でLTPまたはLTDを達成することができる。それぞれの波長の光を用いることで群を個別に制御することができる。これは、同じ波長の光を用いて個別に制御する際に2群の空間的配置が問題となる用途で特に有用であり得る。したがって、光送達デバイスは、間違ったニューロン群を興奮させにくく、光刺激の正確な空間的位置への依存が少なくなり得る。
【0088】
インビボでの細胞へのタンパク質導入は、複数の異なる導入デバイス、方法、およびシステムを用いて達成することができる。そのような導入デバイスの1つは、インビボで細胞を修飾するための塩基配列、例えばウイルスベクター、を導入する植込み型デバイスである。植込み型デバイスは光送達機構も備えてよい。光送達は、例えば発光ダイオード(LED)、光ファイバー、および/またはレーザーを用いて達成することができる。
【0089】
本発明の別の実施形態では、生存/死滅、分化、および複製を含む幹細胞の運命に影響を与えるためにVChR1を使用する。電気的特性を調節することで幹細胞の運命が制御されることが示されている。幹細胞の運命を調節する刺激パターンを与えるために種々の技術を用いることができる。具体例としては、その全体を参照により本明細書に援用するDeisseroth, K. et al. "Excitation-neurogenesis coupling in adult neural stem/progenitor cells," Neuron 42, pp. 535-552 (2004)で用いられている技術に従うものが挙げられる。
【0090】
本発明の別の実施形態は、治療効果を評価するためのVChR1の使用に関する。これには、薬物スクリーニング、治療レジメン、または治療/疾患のモデリングが含まれるが、これらに限定されるものではない。特定の実施形態では、そのような評価における主要な光反応性タンパク質としてVChR1が用いられる。別の実施形態では、VChR1は、異なる波長に反応する別の種類の光反応性タンパク質(例えばChR2および/またはNpHR)と一緒に用いられる。
【0091】
本発明の特定の実施形態では、哺乳動物のコドンに最適化されたcDNA配列を作製するためにVChR1を使用し、合成した(カリフォルニア州メンローパークのDNA2.0社)。
【0092】
以下の方法を用いてレンチウイルスベクターを構築した。NotI制限酵素部位を介してVChR1(1〜300)をEYFPと融合させることでVChR1−EYFPを構築した。次いで、融合遺伝子を、アルファ−CaMKIIレンチウイルスバックボーンのAgeI部位とEcoRI部位にライゲーションし、pLenti−CaMKIIa−VChR1−EYFP−WPREベクターを作製した。pLenti−CaMKIIa−ChR2−EYFP−WPREベクターの構築は以前に報告されている。組換えレンチウイルスを作製した。そのようなベクターの構築または使用に関する更なる詳細については、その全体を参照により本明細書に援用するZhang, F., et al. "Multimodal fast optical interrogation of neural circuitry," Nature 446, pp. 633-639 (2007)を参照することができる。
【0093】
その全体を参照により本明細書に援用するBoyden, E.S., Zhang, F., Bamberg, E., Nagel, G. & Deisseroth, K. "Millisecond-timescale, genetically targeted optical control of neural activity," Nat Neurosci 8, pp. 1263-1268 (2005)に記載されているように、培養した海馬ニューロンを準備した。
【0094】
培養海馬ニューロン中のホールセル記録では、細胞内液は、129mM グルコン酸カリウム、10mM HEPES、10mM KCl、4mM MgATP、および0.3mM Na3GTPを含んでおり、pH7.2に滴定された。培養海馬ニューロンでは、タイロード液を細胞外液として用いた(125mM NaCl、2mM KCl、3mM CaCl2、1mM MgCl2、30mM グルコース、および25mM HEPES、pH7.3に滴定)。記録は、40×水浸対物レンズを備えた縦型のライカDM−LFSA顕微鏡上で行った。ボロシリケートグラス(サッター・インスツルメンツ社(Sutter Instruments)製)ピペット抵抗は約5MΩであり、4〜6MΩの範囲であった。アクセス抵抗は10〜30MΩであり、記録している間、安定性をモニターした。全ての記録は、Boyden, E.S., Zhang, F., Bamberg, E., Nagel, G. & Deisseroth, K. "Millisecond-timescale, genetically targeted optical control of neural activity," Nat Neurosci 8, pp. 1263-1268 (2005)に記載されているように、シナプス伝達ブロッカー存在下で行った。
【0095】
海馬ニューロンの光刺激には、300Wキセノンランプを備えたラムダDG−4光スイッチ(サッターインスツルメンツ社製)中で以下の3つのフィルターを用いた:406nm(FF01−406/15−25)、531nm(FF01−531/22−25)、および589nm(FF01−589/15−25)(セムロック社(Semrock)製)。
【0096】
卵母細胞実験には、VChR1の1〜313に対応する合成DNA配列(vchop1;ヒトコドン使用頻度に適応;ドイツ、レーゲンスブルクのジーンアート社(Geneart)製)をVChR1 pGEMHEおよびpEGFP中にサブクローニングした。T7RNAポリメラーゼ(mMessage mMachine、アンビオン社(Ambion)製)によってpGEMHEプラスミドからインビトロで合成されたChR2およびVChR1をコードするcRNAを卵母細胞中に注入した(50ng/細胞)。卵母細胞は、1mg/ml ペニシリン、1mg/ml ストレプトマイシン、1μM オール−トランスレチナール、および0.5mM テオフィリン存在下、リンゲル液(96mM NaCl、5mM KCl、1.8mM CaCl2、1mM MgCl2、5mM MOPS−NaOH、pH7.5)中で、18℃、暗黒下にて3〜7日間保存した。
【0097】
アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞上で2電極電位固定法を行い、作用スペクトルを得た。Brilliant b Nd−YAG−Laser(フランス、レズリス(Les Ulis Cedex)のクォンテル社(Quantel)製)の第三高調波で出力してRainbow OPO(カリフォルニア州カールズバッドのOPOTEK社製)から放出された10nsのレーザーフラッシュ(400〜620nm、4〜9×1019フォトン・s−1−2)を1mmの光ガイドを用いて卵母細胞に当てた。増幅器Tec−05X(ドイツ、タムのNPIエレクトロニク社製)を補整して、1/2飽和レーザーフラッシュにおける電圧変化を0.05mV未満に維持した。データ取得および光始動(triggering)は、pCLAMPソフトウェア(米国サニーベールのモレキュラーデバイス社製)を用いてDigiData 1440Aインターフェースを介して調節した。
【0098】
以下の議論は、パーキンソン病(PD)の治療および特徴解析への応用例の結果に関する詳細な記載を含む。この具体的な実施例および対応する結果は限定することを意図するものではない。
【0099】
この分野で最も広く支持されている仮説に最初に取り組むために、局所回路興奮性視床下核ニューロンの直接的且つ可逆的な真の阻害がパーキンソン病の治療効果を有するかを調べた。ラットの視床下核は1mm未満であるが、視床下核は隣接領域と識別可能な特定の発火パターンにより特徴付けられるため、オプシンベクター導入中に細胞外記録することでターゲティング精度を上げることができる(図4A、図10C)。
【0100】
視床下核は、抑制性ネットワーク内に埋もれた主に興奮性の構造体である。この解剖学的配置により、抑制性細胞、通過繊維(fibers of passage)、グリア、および隣接構造体に選択的でなくグルタミン酸作動性興奮性ニューロンに選択的なCaMKIIαプロモーター制御下でeNpHRを発現させる、選択的視床下核抑制のためのターゲティング戦略が可能になる(図4B)。このようにすることで、真の光抑制が、視床下核内の優勢な局所的ニューロンタイプにターゲティングされる。
【0101】
右の内側前脳束(MFB)片側だけに6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)を注入して片側パーキンソン病にしたラットにおいて、光回路インターベンションを試験した。黒質緻密部の片側だけでチロシンヒドロキシラーゼレベルが低下していたことから、6−OHDA投与後の異質ドーパミン作動性細胞の消失が確認された(図10A)。これらの片側パーキンソン病げっ歯類は、反対側(左)の肢の使用に特定の欠陥を有し、損傷と同じ側(右方向)への回転を示し、これは、機能的評価を容易にするために対象にアンフェタミンを与えた時に頻度が増加し、ドーパミンアゴニストでの治療後または電気的脳深部刺激後には頻度が減少する(図4D、右)。このアンフェタミン誘発回転試験は、片側パーキンソン病げっ歯類の治療同定に広く用いられており、移動運動、よじ登り、および頭位置の偏り等のその他の行動試験で補うことができる。興奮性視床下核ニューロンを直接抑制するために、本発明者らは、CaMKIIαプロモーターの下にeNpHRを有するレンチウイルスを片側パーキンソン病ラットの右視床下核に導入した。CaMKIIα::eNpHR−EYFPの発現は、興奮性ニューロン特異的であり(CaMKIIαおよびグルタミン酸の発現により示される;図4B、右;図11A)、強く(n=220CaMKIIa陽性細胞で評価した感染率:95.73%±1.96s.e.m)、視床下核に限定されていた(図4B、左および真ん中)。得られた光制御の生理学的効果を確認するために、イソフルランで麻酔した動物にハイブリッド光刺激/電気記録デバイス(オプトロード)を用い、eNpHRがインビボで機能性であり、記録した視床下核中のニューロンのスパイク生成を強力に抑制する(>80%)ことを確認した(図4C;図13A、B;図14A)。この細胞型を標的とした抑制は時間的に正確、可逆的であり、全ての周波数帯のニューロン発火に及んだ(図4C、図16A)。
【0102】
片側パーキンソン病ラットの回転行動試験のために、視床下核標的光ファイバーを561nmレーザーダイオードに接続して、eNpHRを駆動した。電気的脳深部刺激は病的回転行動の減少に非常に効果的であった。しかし、eNpHR抑制の正確なターゲティングおよび強力な生理学的効果にも関わらず、局所的な興奮性視床下核ニューロンの真の直接的光抑制では、片側パーキンソン病動物は回転行動に最低限の変化も示さなかった(図4D)。更に、これらの実験中、移動距離および頭位置の偏りにも光に反応した影響は全くなかった(補足の方法参照)。サルおよびげっ歯類の視床下核領域へのムシモールおよびリドカインの投与は、パーキンソン病の症状を軽減することができる(30)が、図4のデータは、視床下核の興奮性局所ニューロンにおいて選択的に活性を低下させる、より特異的なインターベンションが、それだけでは運動症状に影響を与えるのに十分ではないようであることを示している。
【0103】
別の可能性として、脳深部刺激は、局所視床下核回路を調節する能力を有するグリア調節物質の分泌を刺激している可能性がある。これは、脳深部刺激中にグリア由来因子(アデノシン)が蓄積して、脳深部刺激が仲介する視床的振戦の減弱に一役買っていることを示す最近の知見と一致する。実際、視床下核は、視床下核のシナプス後電流を抑制できるグリア由来調節物質の受容体を発現する。ChR2は、グリアを動員する興味深い可能性を示し、光で開けられた場合、ChR2は、NaおよびKイオンと一緒に、Ca2+波を引き起こしChR2発現アストログリアを活性化することができるわずかなCa2+流も内側に通過させることができる。本発明者らは、GFAPプロモーターを用いてChR2を局所アストログリアにターゲティングし、GFAPおよびS100βの染色を用いて確認した(図5A、図11B)。オプトロード記録から、GFAP::ChR2を形質導入した後に視床下核を青色光刺激すると、秒単位での不定な遅延があるが、視床下核中のニューロン発火が可逆的に抑制されることが示された(図5B、図12A)。しかし、この機構によるアストログリア細胞の動員は、パーキンソン病げっ歯類の運動病態にわずかな反応すら生じさせるのに十分でなかった(図5C、図12B)。これらの実験中、移動距離および頭位置の偏りも光による影響は受けなかった。間接的なグリア調節により全ての視床下核ニューロンが同じように影響されていない可能性があるので、これらのデータは脳深部刺激反応における寄与因子としての局所視床下核抑制の重要性を否定するものではないが、局所的グリア細胞の直接的活性化は、パーキンソン病の症状を治療するには不十分なようであり、他の回路機構の存在が示唆される。
【0104】
特定の周波数でのネットワーク振動はパーキンソン病の病理および治療の両方で重要な役割を果たし得る。例えば、パーキンソン病は、大脳基底核中の病的レベルのベータ振動を特徴とし、ガンマ周波数で視床下核を同期させるとパーキンソン病の症状が回復し得、ベータ周波数は症状を悪化させ得る。視床下核中の興奮性細胞体を単純に抑制しても行動異常には影響せず、電気的脳深部刺激には高周波刺激(HFS:90〜130Hz)が用いられることから、本発明者らは、ChR2を用いて視床下核内でこの範囲の高周波振動を駆動した。本発明者らは、CaMKIIα::ChR2を視床下核に注入し(図6A)、パーキンソン病げっ歯類の行動試験(図6C、図12C)中に、473nmレーザーダイオードによるパルス照射を用いて視床下核中の興奮性ニューロンを活性化した(図6B、図14B)。麻酔動物の視床下核中における高周波出力はニューロンのスパイク率に強く影響したにも関わらず(図16B)、視床下核領域に局所的に導入された高周波数刺激(HFS)はパーキンソン病の行動症状に影響を与えることができなかった(移動距離および頭位置の偏りは光によって変わらなかった。補足の方法参照)。並行して行ったベータ周波数パルスを用いた試験の動物も行動的反応を示さなかった。このことは、視床下核興奮性ニューロン内で直接発生された振動は治療効果を説明するのに十分ではないことを示している(寄与的役割を否定するものではない)。
【0105】
本発明者らは以前に、皮質組織および視床下部組織中で、レーザーダイオード光ファイバー照射条件下での青色光伝播を測定し、生理学的に大きな微生物オプシン流を駆動するのに十分な光出力密度で、かなりの組織体積(視床下核とほぼ同じ)が確かに動員され得ることを観察した。これらの測定を繰り返してパーキンソン病の状況にも拡張することが重要であった。最初に、本発明者らは、561nmレーザーダイオードから送達される低エネルギー光子は散乱が少ないので、脳組織中の青色光(473nm)伝播測定値が、動員される組織体積の下限になることを確認した。その結果、いずれの波長の光でも、ファイバーから1.5mm以内であればオプシンを活性化するのに十分な光出力が存在することを確認した(図7A)。次に、本発明者らは、行動実験を模倣した条件下で組織の動員に対する機能的アッセイを用いてこれらの発見を拡張した(図7B、C)。自由行動下のラット中でCaMKIIα::ChR2発現視床下核を標的としたインビボ光刺激パラダイムの後、ニューロン活性化の生化学的マーカーであるc−fosの免疫組織化学を実施した。幅広い体積にわたる(図7C)視床下核中でc−fosの強い活性化が観察された(図7B)。実際、本発明者らの光散乱測定および組織の形状から予想されるように、光刺激によって少なくとも0.7mmの視床下核が動員されることを見出した。これは視床下核の実際の体積とかなり一致する(図7C)。したがって、図4〜6の光調節パラダイムにより視床下核全体が動員されるので、光の透過は制限ではなかった。
【0106】
脳深部刺激電極は局所細胞およびその遠心性繊維だけでなく求心性線維も強力に調節するので、治療効果は、視床下核に入る軸索投射の駆動から生じている可能性がある。レンチウイルスは求心性軸索には形質導入せず細胞体に形質導入するので、光遺伝学はこれら2つの可能性を区別する。視床下核への求心性投射を標的とすることでパーキンソン病の運動行動反応が調節されている可能性を評価するために、本発明者らは、投射ニューロン中でChR2を発現するThy1::ChR2トランスジェニックマウスを用い、Thy1::ChR2のライン18においてChR2−YFPが視床下核の細胞体からは排除されているが求心性線維には大量にあることを確認した(図8A)。
【0107】
本発明者らは、麻酔した6−OHDAマウス(図10B)でオプトロード記録を行い、求心性軸索を選択的に駆動することによる視床下核生理への局所的影響を評価し、周波数依存的影響を見出した(図8B)。最初に、本発明者らは、視床下核への求心性繊維の高周波数刺激が、全ての周波数帯にわたって視床下核のスパイク生成を強力に減少させることを観察した。刺激中、低振幅高周波数の振動が持続したことから、この効果は局所回路を完全には遮断していなかった(図8B;図13C、D;図14C)。次に、本発明者らは、求心性繊維の低周波数刺激(LFS)が、内因性のバーストには影響を与えずに視床下核中でベータ周波数の発火を増加させることを見出した(図8B、図14D)。次に、本発明者らは、6−OHDAマウスにおいて、パーキンソン病の行動に対するこれらの特異的なインターベンションの影響を評価し、光遺伝学的インターベンションでは初めて顕著な効果を観察した。高周波数刺激を用いた視床下核求心性繊維の駆動は、回転行動および頭位置の偏りによって測定されるパーキンソン病の症状を強力且つ可逆的に回復させた(図8C)。高周波数刺激の効果はわずかではなく、実際、ほとんど全ての症例で、これら重度のパーキンソン病動物は正常動物と行動的に区別できないほどに回復し、全ての症例において、治療効果はすぐに得られ、完全に可逆的であり、光パルスパラダイムを中断するとすぐに同側回転が戻った。特に、治療された動物は移動方向および頭位置を左から右および右から左に自由に変えることができた。光学的高周波数刺激とは顕著に対照的に、同じ求心線維の光学的低周波数刺激(20Hz)は、同側回転行動を増加させ、パーキンソン病症状を悪化させた(図8C)。このことは、観察された行動的効果が、単に一方向的な活性を駆動することによるものでないことを示している。したがって、直接的視床下核細胞インターベンションとは対照的に、高周波数刺激および低周波数刺激を用いた視床下核求心性線維の駆動は、刺激周波数に応じて異なる様式でパーキンソン病の症状を調節し、これは臨床的にはパーキンソン病症状の寛解または増悪に関連付けられる。
【0108】
広い脳領域の様々に配列された繊維が視床下核で収束する。これがおそらく局所的脳深部刺激標的として視床下核が有用である理由であろう。これらの求心性繊維の多くがおそらく一緒になって治療効果に寄与し、観察される行動効果が1つのソースの繊維で完全に説明されるとは考えにくい。しかし、本発明者らは、寄与し得る繊維の一般的なクラスを決定するために、これらの求心性繊維を更に詳細に調べた。
【0109】
Thy1::ChR2動物は主に興奮性投射ニューロン中でChR2発現を示す。実際、視床下核内のThy1::ChR2繊維中に抑制性マーカーGAD67およびGABAは検出されなかった(図9A、左)ので、GABA作動性淡蒼球投射(LGP/GPe)の寄与は事実上除外された。本発明者らはまた、主要な神経調節性マーカー(ドーパミンおよびアセチルコリン)が視床下核のThy1::ChR2繊維内に局在しないことを見出した(図11C)。これにより、ドーパミン作動性SNrも適切な繊維の起点から除外された。本発明者らは次に、可能性のある興奮性繊維の出所を調べ、視床下核への興奮性線維に寄与し得る興奮性の束傍核または大脳脚橋核の細胞体でChR2−YFPが発現していないことを見出した。しかし、これらのマウスの新皮質内では、視床下核に投射する興奮性ニューロン内でChR2−YFPが強く発現している。視床下核と一次運動皮質M1の間の強い病理学的関連がパーキンソン病回路不全の根底にあることが示唆されているので、寄与体である可能性があるM1を調べた。
【0110】
本発明者らは、第5層ニューロンおよび対応する先端樹状突起に主に制限された選択的且つ強いChR2発現が、Thy1::ChR2M1中には存在するが、その他の層の細胞中には存在しないことを確認した(図9A、右)。パーキンソン病動物においてこれらの第5層投射ニューロンと視床下核との機能的結合性を調べるために、Thy1::ChR2動物の異なる2ヶ所の脳領域に光ファイバーおよび記録電極を設置し、麻酔動物中で分離オプトロード実験を行った(図9B)。M1第5層投射ニューロンを駆動すると同時にM1および視床下核の両方で記録することで、この種の正確なM1刺激が視床下核中のニューロン活性に大きな影響を与えること(図9C、図16C、D)および視床下核中の光刺激によってM1第5層ニューロンが逆行的に動員され得ることを見出した(図15)。前述した通り、ZIからのものを含む視床下核領域中の多くの局所的求心性繊維が脳深部刺激の複雑な治療効果に寄与しているであろうが、M1第5層と視床下核との間の機能的影響は大きな寄与源であり得る。実際、本発明者らは、選択的なM1第5層の高周波数刺激光刺激が、回転行動(図9D)から頭位置の偏りおよび移動運動(図9E、F)の一連の測定において、視床下核刺激と同様な様式でパーキンソン病の症状を緩解するのに十分であることを見出した。視床下核刺激同様、M1への光学的高周波数刺激によって病的回転および頭位置の偏りが低減され、対照的に、M1への光学的な20Hz(低周波数刺激)の刺激は、病態を悪化させはしないものの、治療効果を全く有さず(図9D、E、F)、対側回転を惹起することができるM2低周波数刺激皮質刺激と異なり、てんかん発作を起こさずに可能な最も強い光強度でさえ、M1の低周波数刺激は回転行動を刺激または変更しなかった。最後に、パーキンソン病 Thy1::ChR2マウスにおける移動運動の距離および速度の増加の定量により、機能的移動性がM1の高周波数刺激では増加するが、低周波数刺激では増加しないことおよびアンフェタミン非存在下では、M1の高周波数刺激は、動作緩慢な動物が回転行動を惹起されずに自由に運動することを可能にすることが確認された(図9F)。
【0111】
図4は、局所視床下核ニューロンの直接的光抑制を示す。(A)サイレントな不確帯(ZI)および内包(IC)に囲まれた視床下核を記録することで、カニューレの配置、ウイルス注入、およびファイバーの深さをガイドした。(B)CaMKIIα::eNpHR−EYFPを発現し興奮性ニューロン特異的CaMKIIαで標識された視床下核ニューロンの共焦点画像(右)。(C)麻酔した6−OHDAラットにおいて、CaMKIIα::eNpHR−EYFPを発現する視床下核を連続的に561nm照射すると視床下核活性が低下した。代表的なオプトロードによるトレースおよび振幅スペクトルを示す。平均スパイク頻度は29±3Hzから5±1Hzに減少した(平均値±s.e.m、p<0.001、スチューデントのt検定、n=2頭の異なる視床下核座標からとった8トレース)。(D)これらの動物において視床下核刺激はアンフェタミン誘発回転に影響を与えなかった(p>0 .05、n=4ラット、μ=0のt検定)。赤色の矢印は病的影響の方向を表し、緑色の矢印は治療的影響の方向を表す。刺激電極の植込みの電気的制御は、高周波数刺激で治療的効果を示した(120〜130Hz、60μsパルス幅、130〜200μA、p<0.05、μ=0のt検定)。−100%の変化率は、このげっ歯類が完全に矯正されていることを示している。全ての図のデータは平均値±s.e.m.である。ns p>0.05、* p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001。
【0112】
図5は、視床下核内のアストログリアのターゲティングを示す図である。(A)共焦点画像は、GFAP::ChR2−mCherryを発現する視床下核アストロサイトを示し、GFAPと共染色している(右)。(B)麻酔した6−OHDAラットにけるGFAP::ChR2−mCherryを発現する視床下核の473nm照射。オプトロードの記録により、連続的照射で視床下核の活性が抑制され、発生までの遅れが404±39ms、停止までの遅れが770±82msであり(n=2頭の異なる視床下核座標からとった5つのトレース)、50%デューティサイクルもスパイク生成を抑制し、発生までの遅れが520±40ms、停止までの遅れが880±29msである(n=2頭の異なる視床下核座標からとった3トレース)ことが示された(p<0.001)。(C)これらの動物において、50%デューティサイクルの照射はアンフェタミン誘発回転に影響を与えなかった(右、p>0.05、n=7ラット、μ=0のt検定)。
【0113】
図6は、異なる周波数を用いた視床下核ニューロンの光脱分極を示す図である。(A)CaMKIIα::ChR2−mCherryを発現し興奮性ニューロン特異的CaMKIIαマーカーで標識された視床下核ニューロンの共焦点画像である。(B)473nmのレーザーダイオードに接続したオプトロードで記録した、6−OHDAラットにおけるCaMKIIα::ChR2−mCherryを発現する視床下核の光学的高周波数刺激(120Hz、5msパルス幅)(代表的なトレースおよび振幅スペクトルを示す)。スパイク生成頻度は41±2Hzから85±2Hzに増加した(高周波数刺激対pre、n=5トレース:p<0.001、t検定、post、n=3トレース;トレースは1頭の異なる視床下核座標からサンプリングした)。(C)アンフェタミン誘発回転は、高周波光刺激(左、130Hz、5ms、n=5ラット)または低周波光刺激(真ん中、20Hz、5ms、n=2ラット)による影響を受けなかった。
【0114】
図7は、光学的インターベンションにより動員された組織体積の定量を示す図である。(A)400μmのファイバーについて、脳組織の深さに対する473nm(青色)および561nm(黄色)の光強度の値を示す。1mW/mmの点線(30mW光源)は、チャネルロドプシンおよびハロロドプシンの活性化に必要な最低限の強度を示す。(B)CaMKIIα::ChR2−mCherryを発現し前初期遺伝子産物c−fos標識された視床下核ニューロンの共焦点画像は、光刺激により、インビボで強くニューロンが活性化されていることを示している。矢頭はc−fos陽性細胞を示す。視床下核においてChR2を発現する自由行動下のラット(図6と同じ動物)を473nmの光(20Hz、5msパルス幅)で刺激した。(C)強いc−fos活性化を示した視床下核体積は、少なくとも0.7mmと推定された(点線は視床下核の境界を示す)。強いc−fos活性化はDAPIで対比染色して共焦点顕微鏡で画像化した視床下切片上の内外方向(1.155mm)、前後方向(0.800mm)、および背腹方向(0.770mm)で観察された。
【0115】
図8は、視床下核中の求心性線維の選択的光制御を示す図である。(A)視床下核中でのThy1::ChR2−EYFP発現および核のDAPI染色の共焦点画像は、細胞体ではなく繊維での選択的発現を示している(右)。(B)麻酔したThy1::ChR2−EYFP 6−OHDAマウスにおける、473nmの光を用いた視床下核領域の光学的高周波数刺激(130Hz、5msパルス幅)は、視床下核の大きな振幅のスパイクを抑制し(サンプルトレース、左上)、小さな振幅の高周波数の振動を誘発した(図13C、D;14C)。光学的低周波数刺激(20Hz、5msパルス幅)は、20Hzで確かなスパイクを生成した(左下)。高周波数刺激はバースト発生を防止した(右上、p<0.001、n=3)が、低周波数刺激は2標本t検定でバースト頻度に何ら大きな影響を与えず(p>0.05、n=3トレース)、スパイク/バーストにも何ら大きな影響を与えなかった(右下、p>0.05、n=3トレース)。(C)これらの動物において視床下核への光学的高周波数刺激(左、100〜130Hz、5ms、n=5マウス)は、強い治療的効果を生み出し、同側回転を減少させ、動物は自由に方向を変えることができるようになった。対照的に、光学的低周波数刺激(左から2番目、20Hz、5ms、n=5マウス)は病的影響を増悪させ、同側回転を増加させた。どちらの影響も可逆的であった(Post)。変化は、高周波数刺激および低周波数刺激の両方で、μ=0のt検定でベースライン(光オフ)と比較して有意であった(高周波数刺激:p<0.001、n=5マウス;低周波数刺激:p<0.05、n=5マウス)。(F)2標本t検定で、対側の頭位置の偏りも高周波数刺激で強く矯正された(高周波数刺激対光オフ:p<0.05、n=2マウス)が、低周波数刺激では矯正されなかった(低周波数刺激対光オフ:p>0.05、n=2マウス)。
【0116】
図9は、前側一次運動皮質の第5層ニューロンの選択的光刺激を示す図である。(A)GAD67およびGABA染色は、視床下核でThy1::ChR2−EYFPとの共局在を示さなかった(左)。第5層ニューロンの先端樹状突起は、軟膜表面への上昇が見られた(22、23)(右)。(B)Thy1::ChR2マウスのM1の光刺激および視床下核における同時記録のための模式図。(C)麻酔したThy1::ChR2マウスのM1の光刺激(473nm)および視床下核における同時記録。M1の光学的高周波数刺激(130Hz、5msパルス幅)は、M1および視床下核の両方において活性を調節した。M1の光学的低周波数刺激(20Hz、5ms)は、M1および視床下核の両方において20Hzの持続性発火を発生させた。(D)光学的高周波数刺激(130Hz、5msパルス幅)は、6−OHDA Thy1::ChR2マウスのアンフェタミン誘発同側回転を減少させ(p<0.01、n=5マウス)、光学的低周波数刺激(20Hz、5msパルス幅)とは対照的であった(p>0.05、n=4マウス);μ=0のt検定。(E)対側頭位置の偏りは高周波数刺激で矯正されたが(高周波数刺激 vs.光オフ:p<0.001、n=4マウス)、低周波数刺激はほとんど影響しなかった(低周波数刺激 vs.光オフ:p>0.05、n=3マウス);2標本t検定。(F)M1への高周波数刺激は移動距離(高周波数刺激、p<0.01、n=2マウス)およびよじ登り(p<0.05、n=3マウス)を有意に増加させたが低周波数刺激は増加させなかった(2標本t検定)。高周波数刺激の前、最中、および後のサンプル経路を示す(それぞれ100秒、移動距離をcmで示す)。
【0117】
特定の実施例によれば、本明細書に記載の結果を得るために以下のステップが行われた。細胞の表現型を確認してc−fos活性を測定するために、げっ歯類を65mg/kgのペントバルビタールナトリウムで麻酔し、氷冷したPBS中4%パラホルムアルデヒド(PFA)(pH7.4)で経心臓的に灌流した。脳を4%PFA中で一晩固定し、その後、30%スクロースのPBS溶液中で平衡させた。凍結ミクロトーム上で40μm厚の冠状切片を切り出し、免疫組織化学用に処理するまで抗凍結剤中で4℃にて保存した。自由に浮遊している薄片をPBS中で洗浄した後、0.3%トリトンX−100(Tx100)および3%normal donkey serum(NDS)中で30分間インキュベートした。切片を、一次抗体を含む0.01%Tx100および3%NDSと共に一晩インキュベートした(ウサギ抗cfos 1:500、ウサギ抗GFAP 1:500、マウス抗MAP2 1:500、マウス抗GAD67 1:500、ウサギ抗GABA 1:200、マウス抗vGlut1 1:500、マウス抗vGlut2 1:500、マウス抗CaMKIIα 1:200、マウス抗S100β 1:250、ウサギ抗グルタミン酸 1:200、鶏抗チロシンヒドロキシラーゼ 1:500、およびヤギ抗コリンアセチルトランスフェラーゼ 1:200)。次いで、薄片を洗浄し、FITC、Cy3、またはCy5にコンジュゲートさせた二次抗体と共に室温で3時間インキュベートした(1:1000)。DAPIと20分間インキュベート(1:50,000)した後、薄片を洗浄し、PVA−DABCOで顕微鏡用スライドにマウントした。
【0118】
走査型レーザー顕微鏡で20×/0.70NAまたは40×/1.25NAの油浸対物レンズを用いて共焦点蛍光画像を得た。c−fos活性化の体積を決定するため、同様な設定を用いて複数の内外方向、前後方向、背腹方向の視床下切片の深さ20μmをカバーする連続スタック画像を得た。画像分析ソフトウェアで、背景レベルより強いc−fos免疫反応を閾値化し、DAPI染色で核を可視化することで、視野当たりのc−fos陽性細胞の数を算出した。ウイルスの形質導入率を求めるために、視床下切片の複数の連続スタック画像でeNpHR−YFP陽性でもあった、40倍の視野当たりのCaMKIIα免疫反応性ニューロンの割合を求めた。全切片の大きな視野画像をライカMZ16FA実体顕微鏡上で収集した。
【0119】
使用した遺伝子を載せたレンチウイルスベクターはクローニング技術を用いて構築した。以前に公開されているeNpHR−EYFPコンストラクトのPCR増幅によってCaMKIIα::eNpHRコンストラクトを作製し、CaMKIIαプロモーターを有するレンチウイルスのAgeIおよびEcoRI制限酵素部位にインフレームでクローニングした。ChR2−mCherryコンストラクトのPCR増幅によってCaMKIIα::ChR2コンストラクトを作製し、これもCaMKIIαプロモーターを有するレンチウイルスのAgeIおよびEcoRI制限酵素部位にインフレームでクローニングした。AgeIおよびPacI制限酵素部位を用いてCaMKIIα::ChR2−mCherryコンストラクト中のCaMKIIαプロモーターをGFAPプロモーターで置換することでGFAP::ChR2コンストラクトを作製した。
【0120】
次いで、リン酸カルシウム法を用いて293FT細胞にレンチウイルスベクターpCMVΔR8.74およびpMD2.Gを共トランスフェクションし、高タイターレンチウイルス(>10pfu/mL)を作製した(S2)。トランスフェクション24時間後、293FT細胞を5mM酪酸ナトリウムを含む無血清培地に移し、16時間後に上清を回収し、20%スクロースクッションを用いた50,000×gの超遠心で濃縮した。得られたウイルスペレットをリン酸バッファー生理食塩水に元の体積の1/1000になるように再懸濁した。
【0121】
非標的細胞型に大きなリーク発現がないように、loxPが2つ導入された逆方向オープンリーディングフレーム(ORF)を有するCre誘導AAVベクターを使用した。このアンチセンス方向にChR2−EYFP配列が存在する。形質導入されるとすぐに、Cre発現細胞はChR2−EYFPのORFを安定且つ不可逆的に反転し、それによって、強力且つ構成的に活性な伸長因子1α(EF−1α)プロモーターの制御下で持続的にChR2−EYFPの発現を活性化する(Feng Zhang、未発表の結果)。Cre活性化組換えAAVベクターを構築するために、2対の不適合なlox部位(loxPおよびlox2722)を有するDNAカセットを合成し、loxP部位とlox2722部位の間に逆向きに導入遺伝子ChR2−EYFPを挿入した。得られたloxPを2つ有する逆向きChR2−EYFPカセットを、発現を高めるためにEF−1αプロモーターおよびウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節因子(WPRE)を載せた改変型pAAV2−MCSベクターにクローニングした。組換えAAVベクターはAAV5コートタンパク質で血清型分類され、ノースカロライナ大学でウイルスベクターコアによってパッケージングした。最終ウイルス濃度は2×1012ゲノムコピー(gc)/mLであった。
【0122】
成体ラット(雌のフィッシャーラット、200〜300g)およびマウス(雌雄、C57BL/6バックグラウンド、15〜30g)をこれらの実験の対象とした。畜産および動物の実験操作の全ての操作はアメリカ国立保健研究所の指針に厳密に従い、スタンフォード実験動物委員会委員の承認を受けた。全ての手術は無菌状態で行った。げっ歯類は、1.5%イソフルランを用いて(手術では1時間超)またはi.p.投与(ラットには90mg/kgケタミンおよび5mg/kgキシラジン;マウスにはそれぞれ80mg/kgおよび15〜20mg/kg)により麻酔した。動物の頭頂を剃毛し、70%エタノールおよびベタジンで浄化し、その後、定位固定装置にかけた。眼軟膏剤を塗布して目の乾燥を防いだ。頭皮を正中切開した後、定位固定装置に取り付けられたドリルを用いて小さく開頭術を行い、内側前脳束に6−OHDAを注入し(ラット:−2 AP、2 ML、−7.5 DV;マウス:−1.2 AP、1.2 ML、−4.75 DV)、視床下核にウイルスを注入した(ラット:−3.6mm AP、2.5mm ML;マウス:−1.9mm AP、1.7mm ML)。
【0123】
視床下核にレンチウイルスを注入されるげっ歯類では、インビボ細胞外記録を用いて背腹軸に沿って視床下核の位置を正確に決定した。深さは、ラットでは約−7mm、マウスでは−4mmであった。10μlのシリンジおよび細い34ゲージ金属針を用いて、濃縮したレンチウイルス(前述)を視床下核に送達した。注入の体積および流速(背腹軸に沿って視床下核内で3ヶ所;各注入は、0.1μl/分で0.6μl)はインジェクションポンプで調節した。最後の注入の後、針は、更に10分間留置した後、ゆっくりと引抜いた。
【0124】
次いで、6−OHDAを用いて黒質を破壊してヘミパーキンソン病げっ歯類を作製した。デシプラミン(ラットでは20mg/kg;マウスでは10mg/kg;ノルアドレナリン作動性終末へのダメージを防止するためのノルアドレナリン作動性再取り込み阻害薬)を投与し、約30分後に6−OHDA(ラットでは8μg/4μl;マウスでは6μg/2μl)を0.1%アスコルビン酸と共に(6−OHDAの分解を防ぐため)を右内側前脳束に投与した(ラット:−2 AP、+2 ML、および−7.5 DV;マウス:−1.2 AP、+1.2 ML、および−4.75 DV)。6−OHDA注入(ラット:4μl、マウス、2μl)のための灌流は1.2μl/分の速度で4分間行い、針は更に5分間留置した。
【0125】
ファイバーガイド(ラット:C312G、マウス:C313G)を斜めに切って鋭い先端を形成し(より容易に脳組織を貫通して組織の移動を減らすため)、その後、開頭部を通して視床下核または前側一次運動皮質の上約400μmの深さに挿入した(マウス:2 AP、2 ML、0.5 DV)。1層の接着セメントの後にクラニオプラスチックセメントを用いて、頭蓋骨にファイバーガイドシステムを固定した。20分後、組織接着剤を用いて頭皮をふさいだ。麻酔から回復するまで動物を加熱パッドの上に保った。外科手技の後にブプレノルフィン(0.03mg/kg)を皮下投与して不快感を最小限に抑えた。ダミーのカニューレ(ラット:C312G、マウス:C313G)を挿入してファイバーガイドの開存性を維持した。
【0126】
電気的脳深部刺激対照げっ歯類には、刺激電極(MS303/3−B)を視床下核中に植え込んだ。続いてOHDA注入のために上記の手技を行い、次いでインビボ細胞外記録を用いて視床下核の深さを決定し、刺激電極をその深さまで挿入し、1層の接着セメントの後にクラニオプラスチックセメントを用いて固定した。組織接着剤を用いて頭蓋骨を再度ふさぎ、麻酔から回復するまで動物を加熱パッドの上に保ち、ブプレノルフィンを与えて不快感を最小限に抑えた。次いで、ちりよけキャップ(303DC/1)を用いて電極の接点を覆った。
【0127】
生きたげっ歯類の単一領域における同時の光刺激および電気的記録を、既に記載されているように、光ファイバー(約200μm)にしっかりと結合した細胞外タングステン電極からなるオプトロード(1MΩ、約125μm)を用いて行った。ここで、記録されるニューロンを確実に照射するために電極の先端はファイバーの先端よりも深くしている(約0.4mm)。2つの異なる領域で刺激および記録を行うために、両方の標的領域の上に小さく開頭術を行い、ファイバーまたはオプトロードを1つの開頭部を介して一方の領域の上に配置し、別の開頭部を介してもう一方の領域中にプレーン電極またはオプトロードを配置した(ダイアグラムについては図9B参照)。前側運動皮質の刺激は、脳表面のすぐ上に光ファイバーを配置して皮質の第5層を活性化することでなされた。視床下核刺激では、ファイバーは視床下核の300μm上方であった。視床下核は、その非常に決まった発火パターンおよび背腹側がサイレントな領域で囲まれていることを利用して特定した。光ファイバーはクリスタレーザから出る473nmまたは561nmレーザーダイオード(30mWのファイバー出力)に接続した。1.5%イソフルランで麻酔したラットおよびケタミン(80mg/kg)/キシラジン(15〜20mg/kg)カクテルの腹腔内注入で麻酔したマウスにおいて、単一ユニット記録を行った。データの収集およびファイバーを介した光パルスの生成の両方にpClamp10およびDigidata 1322Aボードを用いた。記録されたシグナルを、300Hz(low)/5kHz(high)でバンドパスフィルターに通した(1800 Microelectrode AC Amplifier)。ファイバー/電極対の正確な配置には、定位固定装置を用いた。
【0128】
行動試験のために、マルチモード光ファイバー(NA 0.37;ラット:400μmコア、BFL37−400;マウス:300μmコア、BFL37−300)を、光を受容する視床下核の体積が最大になる最適な長さに正確に切断した。行動試験の約1週間前に、細胞外記録電極を用いて、視床下核の背側境界の、ガイドカニューレの先端からの深さを決定し、ファイバーをそれより200〜300μm短く切断した。前側運動皮質の刺激用には、ファイバーを第5層の上に配置した(深さ1ミリメートル未満)。行動下の動物において試験中のファイバーの安定性を確保するために、剥いた光ファイバーに内部カニューレアダプターを接着した。ファイバーを挿入するために、げっ歯類を短時間イソフルラン下に置き、動物が麻酔から回復する間にファイバーを挿入した。内部カニューレアダプターをガイドカニューレにパチンと嵌め、また、ガイドカニューレ上部へのアダプターの連結を維持するために、ダミーカニューレのプラスチック部分の下半分も用いた。
【0129】
光刺激には、FC/PCアダプターを介してファイバーを473nmまたは561nmレーザーダイオード(20mWファイバー出力)に接続した。ファンクションジェネレーター(33220A)を用いて周波数、デューティサイクル、および強度を変えることでレーザー出力を調節した。Thy1::ChR2動物では、治療的行動を得るために用いられた平均最低強度は10mWであった。カスタムのアルミニウム回転型光学的コミュテーターを用いて、動物の回転によって生じるファイバー中でのねじれを解消した。
【0130】
アンフェタミン誘発回転、頭位置の偏り、よじ登り、および軌跡長(track length)を用いて運動行動を評価した。黒質の6−OHDA損傷を裏付ける同側方向への回転をアンフェタミンが確実に誘発した場合にのみ、動物を実験的研究に用いた。各刺激試行の前および後に、同じ長さの光オフの試行を対照として用いた。これらの試行はそれぞれ約3分間とし、オフ−オン−オフの順序で全体は9分間とした。アンフェタミン誘発行動には、アンフェタミン(ラット:2mg/kg;マウス2.6mg/kg)を行動測定の30分前に注入した。ファイバーをカニューレ中に挿入し、行動実験の10分前にげっ歯類を不透明な無反射のシリンダー(ラット:直径25cm、高さ61cm;マウス:直径20cm、高さ46cm)に入れた。6−OHDA損傷部と同じ側への回転(時計回り)を数え、逆側回転を引いた。変化のパーセンテージの計算には、刺激のない期間に関する回転傾向の変化を考慮した。頭位置の偏りは、期間中の頭部傾斜(正中線の左または右への偏位が10°超)の回数を計数することで決定した。げっ歯類が立ち上がり足のいずれかをシリンダーの壁に接触させる度によじ登りとして計数した。軌跡長はビューアーで測定した。行動実験完了後、スライスし、カニューレの配置を確認した。
【0131】
光刺激でげっ歯類の行動が変化しなかった実験について、本発明者らは、げっ歯類がアンフェタミン下にある間の移動距離および頭位置の偏りのデータも収集した。6−OHDAラットにおいてCaMKIIα::eNpHR−EYFPを発現する視床下核の連続的561nm照射は、移動距離(cm/分;光オン vs.光オフ:757.05±163.11 vs.785.74±157.56、p=0.90、n=4ラット;平均値±s.e.m.;2標本t検定)または頭位置の偏り(右に偏った時間の%;光オン vs.光オフ:99.92±0.08 vs.99.75±0.25、p=0.56、n=4ラット;平均値±s.e.m.;2標本t検定)に影響を与えなかった。6−OHDAラットにおいてCaMKIIα::ChR2−mCherryを発現する視床下核の光学的高周波数刺激(120Hz、5msパルス幅)または低周波数刺激(20Hz、5msパルス幅)は、移動距離(cm/分;高周波数刺激 vs.光オフ:803.82±129.04 vs.851.95±166.20、p=0.83、n=5ラット;低周波数刺激 vs.光オフ:847.15±141.95 vs.779.11±104.01、p=0.74、n=2ラット;平均値±s.e.m.;2標本t検定)または頭位置の偏り(右に偏った時間の%;高周波数刺激 vs.光オフ:93.97±3.78 vs.94.20±2.96、p=0.96、n=5ラット;低周波数刺激 vs.光オフ:98.50±1.50 vs.98.50±0.50、p=1.00、n=2ラット;平均値±s.e.m.;2標本t検定)に影響を与えなかった。6−OHDAラットにおいてGFAP::ChR2−mCherryを発現する視床下核の473nm照射も、移動距離(cm/分:光オン光 vs.オフ:1042.52±113.73 vs.1025.47±113.63、p=0.92、n=4ラット;平均値±s.e.m.;2標本t検定)または頭位置の偏り(右に偏った時間の%;光オン vs.光オフ:98.16±0.98 vs.98.98±0.65、p=0.52、n=4ラット;平均値±s.e.m;2標本t検定)に影響を与えなかった。
【0132】
300gのフィッシャーラット2頭から調製した脳組織ブロックを用いてすぐに試験を行い、光透過測定を行った。厚さ2mmの組織ブロックを0〜4℃のスクロース溶液中でビブラトームを用いてカットした。次いで、電力計の光検出器の上で、同じスクロース溶液の入ったペトリ皿中に組織を置いた。青色または黄色のダイオードレーザー(473nmまたは561nm、30mWファイバー出力)に接続した直径200μmの光ファイバーの先端をマイクロマニピュレーターに乗せた。最初に、溶液を通して出力を測定した。次いで、ファイバーの先端を100μmずつ組織中に入れていき、出力を測定した。ファイバーがペトリ皿に達した時、測定された出力を、最初の溶液を通した測定値と比較し、ファイバーを通る全出力を確認した。次いで、透過率のパーセントを、組織を通して測定された出力と溶液を通して測定された出力の比として算出した。次いで、ファイバーの開口数が0.37であることに基づいて、400μmファイバーからの30mW光出力の円錐形状による光強度の拡散を考慮して、出力強度を算出した。ファイバーの出力は円錐直径にわたって均一であると想定した。各波長について、3個の脳組織ブロックで灰白質の測定を行い、その際には各ブロックを、視床の前後方向、皮質の前後方向、および視床の背腹方向に動かした。
【0133】
Clampfitの閾値サーチを用い、複数ユニット記録におけるスパイクを自動検出し、次いで目視検査で確認した。Clampfitで示されたスパイク波形を観察してスパイク検出の質を確認した。複数のスパイク群のトレースには、全てのスパイクを捕捉するように閾値を設定した。バースト生成中は複数のニューロンが同時に記録されやすい。バーストはClampfitで同定し、300ms未満の間隔で生じている連続する2つのスパイクは全て同じバーストに属するものとして数え、少なくとも3スパイクのバーストのみを含めた。異なる周波数での神経活性を定量するために、トレースをバイナリスパイク列に変換した後にウェーブレット変換を用いて、インビボ細胞外記録トレースのスペクトルを生成した。次いで、このトレースを、期間を合わせた刺激前期、刺激期、および刺激後期のそれぞれの区間幅が0.5msのヒストグラムに変換した。各セグメントの開始時間および終了時間およびスパイク数を以下に記載する。
【0134】
【表1】

表1.各出力スペクトルの3個のセグメントを時間で合わせた。各トレースのセグメント(秒で表した開始時間および終了時間)および各期間中に検出されたスパイクの数を示す。生理学的影響の発生または停止の時間的遅れを補うために、時間間隔は、各トレースの刺激前、刺激中、刺激後の定常状態を反映するように選択した。
【0135】
次いで、スパイクのヒストグラムのウェーブレット畳み込みを行い、期間中の周波数が150Hz未満のスペクトルの振幅を測定した。各周波数について期間中の平均振幅をプロットした。用いたウェーブレットを以下に再現する。
【0136】
【数1】

【0137】
複数の周波数帯の活性変化を求めるために、複数の期間を合わせたベースラインおよび刺激のスイープについて、振幅スペクトルを上記のように計算した。各周波数帯の平均振幅を求め、この値の比(刺激/ベースライン)を計算した。Thy1::ChR2−EYFP 6−OHDAマウスのM1および視床下核の同時オプトロード記録における最初のピークの遅れを測定することで、視床下核の光刺激に対するM1の反応のスパイク潜時を求めた。視床下核の活性化には20Hz、5msパルス幅の473nm光を用いた。
【0138】
図10は、黒質の損傷およびカニューレの軌跡を示す図である。(A)ラットおよび(B)マウスにおける、6−OHDA投与後の黒質ドーパミン作動性細胞の消失。冠状切片(ラット:AP −5.8;マウス:AP −3)は、黒質緻密部の片側でチロシンヒドロキシラーゼレベルが低下していることを示している(赤色)。白色の角括弧でSNcを囲んだ。下の挿入図は、黒質の損傷した側(左)および損傷していない側(右)の、より解像度の高い画像を示す。(C)冠状切片中にカニューレの軌跡を見ることができ、カニューレが視床下核領域の上に正しく配置されたことを示している。
【0139】
図11は、更なる組織学的特徴解析を示す図である。(A)興奮性ニューロン特異的グルタミン酸マーカー標識(赤色)に対する、CaMKIIα::eNpHR−EYFP(緑色)標識を発現する視床下核細胞。(B)GFAP::ChR2−mCherryを発現する視床下核細胞(赤色)の、アストログリア特異的マーカーS100β(緑色)との共染色。(A)および(B)の両方で、黄色は2つのマーカーの共局在を示す。(C)ドーパミンに対するTH染色(上)およびアセチルコリンに対するCHAT染色(下)の代表的な共焦点画像は、視床下核においてThy1::ChR2−EYFP発現との共局在を示さなかった。
【0140】
図12は、更なる行動試験結果を示す図である。(A)麻酔した6−OHDAマウスにおいてGFAP::ChR2−mCherryを発現する視床下核の連続的473nm照射は視床下核活性を完全に抑制した。(B)および(C):マウスの結果の拡張。(B)アンフェタミン誘発回転は、6−OHDAマウスにおいてGFAP::ChR2発現視床下核の50%デューティーサイクルの照射では影響を受けなかった(n=1マウスおよび2セッション)。(C)アンフェタミン誘発回転は、6−OHDAマウスにおいて、CaMKIIα::ChR2発現視床下核の高周波光刺激(130Hz、5msパルス幅、n=1マウスおよび2セッション)または低周波光刺激(20Hz、5ms、n=1マウスおよび1セッション)の影響を受けなかった。(D)および(C):行動中の抑制性ニューロンの調節。視床下核は主に興奮性であるが、GAD65/67およびパルブアルブミン等の抑制性ニューロンマーカーで染色される細胞を約7〜10%パーセント有する(Allen Brain Atlas)。GAD67またはパルブアルブミンニューロン中に特異的な発現を得るため、それぞれGAD67−Creマウスおよびパルブアルブミン−Creマウス(Sylvia Arberからの寄贈)に、ChR2−EYFPを有するCre誘導アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを注入した(方法)。Cre依存性のオプシン発現が視床下核領域中で観察されたが、光刺激によって行動は変化しなかった。(D)アンフェタミン誘発回転は、6−OHDA GAD67−Creマウスにおいて高周波光刺激(130Hz、5ms、n=2マウスおよび4セッション)または低周波光刺激(20Hz、5ms、n=1マウスおよび2セッション)の影響を受けなかった。(E)アンフェタミン誘発回転は、6−OHDA パルブアルブミン−Creマウスにおいて高周波光刺激(130Hz、5ms、n=2マウスおよび2セッション)または低周波光刺激(20Hz、5ms、n=2マウスおよび2セッション)の影響を受けなかった。
【0141】
図13は、更なる電気生理学的結果を示す図である。図4Cのトレースおよび対応する出力スペクトルからの大振幅単位(A)および小振幅単位(B)の分離。赤線は、70sのベースライン活性の間に生じた全スパイクの重畳の平均波形を表す(大振幅単位ではn=205スパイク、小振幅単位ではn=428スパイク)。大小どちらの振幅単位も、光照射中に活性低下を示し、刺激後には正常なベースラインレベルに戻った。(C)Thy1::ChR2−EYFP 6−OHDAマウスにおける視床下核の90Hz光刺激に対する視床下核の反応。視床下核は最初興奮するが、新たに生じた定常状態において活性は減少し、このことはベースライン中に見られる大振幅スパイクの消失から測定される。しかし、刺激の間中、かなりの低振幅活性が持続した。(D)Thy1::ChR2−EYFP 6−OHDAマウスにおける視床下核の130Hz光刺激に対する視床下核の反応の高時間分解トレース(完全なトレースについては図5B参照)。やはり、視床下核は最初反応して1個のスパイクを発生し、その後は刺激の間中、小振幅活性が続く。局所回路反応の振幅変化は、動員される細胞数の変化または動員される細胞要素の興奮性の変化を反映し得る。オプトロード記録では、活性の発生に関与する正確な細胞型は分からないが、電気刺激のアーチファクトを除去することで、これらの記録から、電気刺激では不可能な、視床下核領域中の局所的な興奮性または抑制性の細胞型および繊維から生じる局所回路電気反応の振幅およびタイミング特性を見ることができる。
【0142】
図14は、高時間分解オプトロードトレースを示す図である。(A)麻酔した6−OHDAラットにおいて連続的561nm光照射を用いた、CaMKIIα::eNpHR−EYFP発現視床下核における単一ユニットの活性(図4Cのトレースに対応)。(B)麻酔した6−OHDAラットにおける、高周波光刺激(120Hz、5msパルス幅、473nm)を用いたCaMKIIα::ChR2−mCherry発現視床下核におけるニューロン活性(図3Bのトレースに対応)。(C)および(D)麻酔したThy1::ChR2−EYFP 6−OHDAマウスにおける、473nmの光を用いた高周波光刺激(高周波数刺激、130Hz、5ms)および低周波光刺激(低周波数刺激、20Hz、5ms)に反応した視床下核領域の活性。高周波数刺激トレース中の低振幅の活性に注意されたい(図5Bのトレースに対応)。
【0143】
図15は、視床下核の光刺激に対するM1の反応の潜時を示す図である。(A)Thy1::ChR2−EYFP 6−OHDAマウスにおける、20Hz、5msパルス幅の視床下核光刺激に対するM1第5層(L5)の反応。(B)光で視床下核を刺激している間、視床下核(上のトレース)およびM1/L5(下のトレース)における光誘導活性の同時記録から、逆行性のスパイク生成と一致する第1ピーク間の短い潜時差が明らかになった。(C)刺激を16回行い、視床下核とM1/L5の第1ピーク間の個々の潜時差から、周知のM1−視床下核投射における逆行性スパイク生成と一致して、ジターが最小限であることが明らかになった(S.D.=0.032ms)。
【0144】
図16は、光刺激によって発生したニューロン活性の周波数特性の変化を示す図である。(A)麻酔した6−OHDAラットにおいてCaMKIIα::eNpHR−EYFPを発現する視床下核の連続的561nm照射によって全ての周波数帯の活性が低下した(n=5スイープ)。周波数帯は以下のように定義した:デルタ 1〜3Hz;シータ 4〜8Hz;アルファ 9〜12Hz;ベータ 13〜30Hz;ガンマ 31〜80Hz;高周波(HF) 81〜130Hz。(B)6−OHDAラットにおいてCaMKIIα::ChR2−mCherryを発現する視床下核の光学的高周波数刺激(120Hz、5msパルス幅)は、4〜80Hzの周波数では活性を低下させたが、HF帯では活性を上昇させた(n=3)。(C)6−OHDA Thy1::ChR2マウスにおいてM1の光学的高周波数刺激(130Hz、5ms)刺激によって生じたM1(左、n=4)および視床下核(右、n=4)の活性変化。M1および視床下核の両方でデルタ活性が低下した。(D)6−OHDA Thy1::ChR2マウスにおいてM1の光学的低周波数刺激(20Hz、5ms)刺激で生じたM1(左、n=4)および視床下核(右、n=4)の活性変化。M1および視床下核の両方でベータ、ガンマ、およびHF活性が上昇した。(E)6−OHDA Thy1::ChR2マウスにおいて視床下核の光学的低周波数刺激(20Hz、5ms)はベータ、ガンマ、およびHF帯で活性を上昇させた(n=3)。(F)各実験タイプの、期間を合わせたベースラインおよび光刺激セグメントのスパイク数。CaMKIIα::GFAP−mCherryを発現する視床下核の光刺激および6−OHDA Thy1::ChR2マウスにおける光学的高周波数刺激はスパイク生成活性を消失させ、全周波数にわたって活性をゼロに低下させた(示さず)。エラーバーはs.e.m.である。統計にはμ=100のt検定を用いた(* p<0.05)。
【0145】
上記した種々の実施形態は説明のために提供するものであり、本発明を限定するものと解釈されるべきではない。上記の議論および説明に基づいて、本明細書に説明および記載した例示的な実施形態および応用例に厳密に従わずに本発明に種々の修正および変更が加えられ得ることが当業者には容易に理解されよう。例えば、そのような変更には、VChR1をベースにした配列への更なる修飾が含まれる。そのような修正および変更は、添付の請求項に記載する本発明の真の精神および範囲から逸脱しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光刺激に反応する光活性化型イオンチャネル分子の使用方法であって、
細胞中に前記光活性化型イオンチャネル分子を設計付与すること;および
前記イオンチャネル分子に与えられ且つChR2イオンチャネルを活性化しない特性を有する光刺激に反応して、前記イオンチャネル分子を活性化し、イオンに前記光活性化型イオンチャネル分子を通過させること
を含む、方法。
【請求項2】
前記光刺激の特性が波長および強度である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオンチャネル分子が単一タンパク質コンポーネントである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞が幹細胞であり、前記活性化工程が、前記細胞の運命を制御する目的で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記活性化工程が関わる治療的効果を評価する工程を更に含み、前記評価が、前記細胞のモニタリング特性の関数として行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記活性化工程の前後の前記細胞の特性をモニターし比較することにより、薬物に影響を与えるイオンチャネルをスクリーニングする工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記光刺激を送達するために人工装具デバイスを追加する工程を更に含み、前記光刺激の波長が約530nmより大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
細胞中に第2の光活性化型イオンチャネル分子を設計付与する工程を更に含み、前記第2の光活性化型イオンチャネル分子が約530nmより大きい波長の光刺激に反応しない、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記光活性化型イオンチャネル分子を用いて2つのニューロン集団の少なくとも1つでスパイクを発生させることによって前記2つのニューロン集団間で長期増強および長期抑圧の一方を促進する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記光刺激が一連の光パルスを含み、各パルスの長さが、各光パルスに対して個々の活動電位を起こさせるのに十分である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記光活性化型イオンチャネル分子を通過する前記イオンにナトリウムイオンが含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記設計付与工程が、前記光活性化型イオンチャネル分子を含むウイルスベクターを用いた前記細胞の形質導入、前記細胞のトランスフェクション、前記細胞へのDNAのマイクロインジェクション、および特定のクラスの細胞への前記光活性化型イオンチャネル分子の遺伝的ターゲティングの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞中の生じたイオン濃度を光センサーを用いて測定する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記活性化工程が、外因性補因子を用いない、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記光活性化型イオンチャネル分子が、ボルボックス(Volvox carteri)に由来する遺伝子から発現される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
約530nmより大きい波長の光が当たると反応して活性化する光活性化型イオンチャネルを有する分子を発現するためのヌクレオチド配列。
【請求項17】
細胞中で異種(heterologous)分子を発現するためのヌクレオチド配列であって、前記分子が、約530nmより大きい波長の光が当たると反応して活性化する光活性化型イオンチャネル分子を有する、ヌクレオチド配列。
【請求項18】
細胞中で異種(heterologous)分子を発現するためのヌクレオチド配列を含むプラスミドであって、前記分子が、約530nmより大きい波長の光が当たると反応して活性化する光活性化型イオンチャネルを有する、プラスミド。
【請求項19】
細胞中で異種(heterologous)光活性化型イオンチャネル分子を発現する細胞であって、前記分子が、約530nmより大きい波長の光に反応して前記イオンチャネルを活性化する、細胞。
【請求項20】
配列番号3に示すタンパク質を異種(heterologous)発現するためのヌクレオチド配列。
【請求項21】
配列番号3に示す異種(heterologous)タンパク質を発現するための細胞。
【請求項22】
2種類の異種(heterologous)光活性化型イオンチャネル分子を発現する細胞であって、前記分子が、各イオンチャネルの独立制御ができるようにそれぞれの波長の光に反応して前記イオンチャネルを活性化する、細胞。
【請求項23】
パーキンソン病の治療方法であって、
視床下核(STN)の求心性軸索の局所的脱分極を与えるために刺激デバイスを配置する工程;および
前記刺激デバイスおよび刺激プロファイルを利用して前記求心性軸索を直接脱分極する工程
を含む方法。
【請求項24】
求心性軸索中に分子を設計付与する工程を更に含み、前記分子が光に反応してイオンチャネルを活性化する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記刺激デバイスが光送達デバイスである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記刺激プロファイルが約90〜130Hzである、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記刺激プロファイルが約20Hzである、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記求心性軸索の局所的脱分極が、一次運動皮質の求心性軸索を標的とする、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
光に反応して活性化するイオンチャネルを有する分子を発現し一次運動皮質の求心性軸索に標的化される遺伝子配列を設計付与する工程を更に含む、請求項23に記載の方法。

【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図2G】
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【図2H】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図1A】
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【図1B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2011−518560(P2011−518560A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506348(P2011−506348)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/039949
【国際公開番号】WO2009/131837
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(503115205)ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (69)
【Fターム(参考)】