説明

標的

【課題】レーザ光を模擬弾として用いる標的において、使用する受光素子を減らす。
【解決手段】レーザ光照射装置を備える発射装置3を使用し、実弾を模擬したレーザ光5の照射対象として射撃訓練に用いられる標的1であって、標的1は、射撃方向に面する標的面7の内部に空洞が形成され、空洞内に受光面を位置させて受光素子23が設けられ、標的面7を構成する表面部材9は光透過性及び光拡散性を有して形成され、標的面7に命中したレーザ光5を空洞内に拡散させることができ、受光素子23による命中位置の検出範囲を広げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実弾を模擬したレーザ光の照射対象として射撃訓練に用いられる標的に係り、少なくともレーザ光が標的に命中したか否かを判定できる標的に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、実弾を模擬したレーザ光を銃装置から標的に向けて照射する射撃訓練に用いられる標的装置が記載されている。同文献によれば、標的表面の標的部に複数の受光素子を密に配置し、いずれかの受光素子にレーザ光が当たると標的に命中したと判定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−250405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、実弾を模擬したレーザ光は、実弾の径に合わせて集束されているから、標的部に当たるレーザ光の照射範囲は狭く、受光素子を疎らに配置すると、受光素子の配置されていない標的部にレーザ光が命中しても命中していないと判定することになる。これに対し、特許文献1に記載のように、標的部に複数の受光素子を密に配置すれば命中の判定精度を向上できるが、受光素子が多く必要になるという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、レーザ光を模擬弾として用いる標的に使用する受光素子を減らすことにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明の標的は、レーザ光照射装置を備える火器又は模擬火器を使用し、実弾を模擬したレーザ光の照射対象として射撃訓練に用いられる標的であって、標的は、射撃方向に面する標的面の内部に空洞が形成され、空洞内に受光面を位置させて受光素子が設けられ、標的面を構成する表面部材は光透過性及び光拡散性を有して形成されていることを特徴とする。
【0007】
これによれば、標的面に命中したレーザ光は、表面部材で拡散して標的面内部の空洞に拡散光として導入されるから、空洞内に設けられた受光素子による命中位置の検出範囲を広げることができる。1つの受光素子による検出範囲は、空洞内のレーザ光の拡散度合いによるが、受光素子を密に配置しなくても、標的面にレーザ光が命中したことを精度良く判定できるので、標的に使用する受光素子を減らすことができる。
【0008】
この場合において、標的全体を光透過性及び光拡散性を有する合成樹脂、例えば、ポリエチレンで形成することが好ましい。
【0009】
また、表面部材を光透過性を有する材料で構成した場合は、表面部材の空洞側の内面に光透過性及び光拡散性を有する拡散膜を設けることが好ましい。
【0010】
また、空洞の表面部材に対向する内面以外の内面に、光反射性を有する反射膜設けることが好ましい。これによれば、空洞内に導入されたレーザ光の拡散光を反射膜で空洞内に反射拡散させることができるから、1つの受光素子によるレーザ光の命中位置の検出範囲を一層広くでき、受光素子を一層減らすことができる。
【0011】
この場合において、反射膜を、例えば、しわを形成したアルミ箔にし、反射膜に当たったレーザ光を空洞内で乱反射させることが好ましい。
【0012】
また、空洞を形成する表面部材を除く裏面及び側面部材の外表面に、遮光性を有する遮光膜を形成することができる。これによれば、標的の標的面以外の部位に照射されたレーザ光が空洞内に入射することを防止できるので、標的面にレーザ光が命中したか否かの判定精度を向上できる。
【0013】
一方、標的面のレーザ光の命中位置を特定したい場合は、標的の標的面に小さな第2標的を重ね合あわせ、第2標的の標的面の内部に空洞を形成し、空洞内に受光面を位置させて受光素子を設け、標的面を光透過性及び光拡散性を有する表面部材に形成し、空洞を表面部材と遮光性又は光反射性を有する裏面及び側面部材で形成することができる。
【0014】
これによれば、レーザ光が命中した場所によって、レーザ光を受光する受光素子が違うので、レーザ光が命中した場所を特定することができる。例えば、第2標的の標的面にレーザ光が命中した場合は、第2標的の空洞内のみでレーザ光が拡散して受光素子で検出されるから、レーザ光が第2標的に命中したと判定できる。
【0015】
また、標的面を複数に区画し、この区画に合わせて空洞を遮光部材で仕切り、各空洞に受光素子を設けることで、レーザ光が標的面のどの区画に命中したかを区別して判定できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、レーザ光を模擬弾として用いる標的に使用する受光素子を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1の標的を示す全体構成図である。
【図2】図1の標的の側断面図である。
【図3】実施形態2の標的を示す全体構成図である。
【図4】実施形態2の標的の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
(実施形態1)
図1は実施形態1の標的の全体構成図であり、図2は図1の標的の側断面図である。実施形態1の標的1は、例えば、敵が立てこもる建物などの屋内に射撃手を突入させて射撃させる突入訓練に好適な標的である。図示のように実施形態1の標的1は、人の上半身を模擬した人型に形成され、レーザ光照射装置を備える火器又は模擬火器である発射装置3から、実弾を模擬したレーザ光5が標的面7に向けて照射されるようになっている。レーザ光5の照射範囲は、実弾の径に合わせて、例えば、直径が5mm〜20mmに集束されている。
【0019】
標的1は、標的面7が形成される板状の表面部材9と、標的1の裏側に配置される板状の裏面部材11と、標的1の側面を覆う側面部材13で形成されている。標的面7の内部には、表面部材9、裏面部材11、側面部材13で囲まれた空洞15が形成されている。標的1を構成する表面部材9、裏面部材11、側面部材13は、光透過性及び光拡散性を有する合成樹脂、例えば、白色のポリエチレンで形成されている。
【0020】
表面部材9の射撃方向に面する面、言い換えると、射撃手が狙う標的1の面には標的面7が形成されている。表面部材9の空洞15側の面には、拡散膜17が貼り付けられている。拡散膜17は、光透過性及び光拡散性を有する、例えば、白色のポリエチレン製の薄いフィルムで形成されている。なお、拡散膜17は、ポリエチレン製に限定されず、光透過性及び光拡散性を有する周知の材料で拡散膜17を形成できる。また、拡散膜17を表面部材9に層状に形成することができる。
【0021】
裏面部材11は、表面部材9と同一形状に形成され、空洞15が形成されるように表面部材9と間隔を空けて配置されている。裏面部材11の空洞15側の面には、反射膜19が貼り付けられている。反射膜19は、光を乱反射するよう、例えば、無数の皺を設けたアルミ泊を使用することができる。裏面部材11の外表面には、遮光性を有する遮光膜21が貼り付けられている。遮光膜21は、遮光性を有する周知の材料や塗料で形成することができる。なお、反射膜19は、皺を設けたアルミ箔に限定されず、光を反射又は乱反射する周知の材料で反射膜19を形成できる。また、裏面部材11に反射膜19を層状に形成することができる
【0022】
側面部材13は、表面部材9と裏面部材11の外縁に沿って標的1の側面及び上面を覆うように形成されている。側面部材13の外表面には、遮光性を有する遮光膜21が形成されている。
【0023】
標的1の下側には、空洞15内に受光面を位置させた受光素子23が設けられている。受光素子23は、微小な光量を検出できる周知の受光素子、例えば、アバランシェフォトダイオードなどを用いることができる。受光素子23は、空洞15内の光量を常時受光できるようになっている。受光素子23の受光面には、レーザ光5に対応する波長の光を選択して透過させるフィルタ25が備えられている。なお、標的1の寸法などに応じて、フィルタ25を備えない受光素子23を使用することができる。
【0024】
標的1の下方には、標的1を隠顕動作させる隠顕駆動装置27が備えられている。隠顕駆動装置27の筐体内には、 隠顕駆動機構29と、隠顕駆動機構29を制御する隠顕制御装置31と、受光素子23に配線を介して接続される着弾検出装置33が収容されている。標的1は、T字型の標的ホルダー35を介して隠顕駆動機構29に保持され、隠顕制御装置31の指示で標的1を回転させる隠顕動作ができるようになっている。標的1と隠顕駆動装置27で1つの標的装置を構成している。なお、標的1の隠顕動作は回転動作に限定されず、例えば、倒れた状態で配置された標的1が起き上がる動作、標的1がレール上を走行する動作など適宜選択できる。
【0025】
着弾検出装置33には、受光素子23で受光した光量が電気信号に変換されて入力されるようになっている。着弾検出装置33は、入力される電気信号が設定値を超えた場合に、レーザ光5が標的面7に命中したと判定するようになっている。例えば、着弾検出装置33は、空洞15内の光量を示す電気信号が常時入力され、入力される光量が3倍以上に変化した場合に、レーザ光5が標的1に命中したと判定するよう設定値を設定できる。
【0026】
次に、実施形態1の標的1の動作を説明する。発射装置3から照射されたレーザ光5が標的面7に命中すると、表面部材9を拡散しながら透過する。表面部材9を透過したレーザ光5の拡散光は、拡散膜17でさらに拡散され、空洞15内に導入される。空洞15内に導入されたレーザ光5の拡散光は、反射膜19で乱反射され空洞15内全体に拡散される。これにより、レーザ光5の拡散光が受光素子23の受光面に入射される。受光面に入射されたレーザ光5の拡散光はフィルタ25でレーザ光5に対応する波長の光が選択され、選択された光が受光素子23で受光される。受光素子23がレーザ光5を受光すると、光量が増加したことを示す電気信号が着弾検出装置33に入力される。着弾検出装置33は、光量の増加が設定値以上になっていた場合に、レーザ光5が標的面7に命中したと判定する。着弾検出装置33が命中したと判定すると、隠顕制御装置31が標的駆動機構29を制御して標的1を隠顕動作させる。
【0027】
これによれば、標的面7に命中したレーザ光を、表面部材9及び拡散膜17で拡散して標的面7内部の空洞15に拡散光として導入できる。そして、空洞15に導入されたレーザ光5の拡散光は反射膜19に当たって乱反射されるので、標的面7に当たったレーザ光5を空洞15内全体に拡散できる。その結果、空洞15内の受光素子23による命中位置の検出範囲を広げることができるので、例えば、空洞15内に受光素子23を1つ配置するだけで、標的面7にレーザ光5が命中したか否かを精度よく判定できる。
【0028】
また、空洞15を形成する裏面部材11及び側面部材13の外表面に遮光性を有する遮光膜を形成したので、標的1の標的面7以外の裏面部材11及び側面部材13にレーザ光が照射されても、空洞15内に入射することを防止できるので、標的面7にレーザ光5が命中したか否かを、精度よく判定できる。
【0029】
また、突入訓練など屋内で射撃訓練を行う場合は、標的1の設置場所を大きく確保できない場合がある。しかし、受光素子23を標的1内に配置したから、レーザ光5を検出する装置を別途設ける必要がなく、狭い空間に標的1を設置することができる。
【0030】
なお、実施形態1は、標的1を人の上半身を模擬した人型に形成したが、標的1を人の全身を模擬した人型又は円形など適宜設計できる。
【0031】
また、標的1全体を光透過性及び光拡散性を有する合成樹脂で形成したが、表面部材9が光透過性及び光拡散性を有する材料であれば、標的1を構成する他の部材は適宜選択できる。例えば、裏面部材11と、側面部材13を光反射性又は遮光性を有する材料で形成することができる。
【0032】
また、表面部材9を光透過性を有する材料で構成し、表面部材9の空洞15側の内面に拡散膜17を形成することができる。
【0033】
また、反射膜19の設置面積は適宜増減することができる。例えば、側面部材13の空洞15側の内面に反射膜19を形成すること、又は、反射膜19を備えない裏面部材11を用いることができる。
【0034】
また、例えば、標的1の表面全体が標的面7である場合などは、遮光膜21を形成せず、標的1の外表面全体を標的面7とすることができる。この場合、標的1全体を光透過性及び光拡散性を有する合成樹脂製にすると、どの方向からレーザ光5が照射されても、レーザ光5を空洞15内に拡散でき、少ない受光素子23でレーザ光5の命中を検出できる。
【0035】
また、レーザ光5の波長は、室内の照明の影響を受けないよう、例えば、可視光帯域、近赤外帯域、近紫外帯域など適宜選択できる。発射装置3の照射距離は、例えば、照射されてから25mまで実弾の径と同程度の径のレーザ光5を照射できる装置を使用することができる。また、レンズにより非回折光ビームを生成して、25mを超える位置まで、実弾の径と同程度の径のレーザ光5を照射することができる。
【0036】
また、1回毎の射撃を区別できるよう、レーザ光照射装置の発振時間を200msとし、レーザ光5が標的面7に命中した回数に応じて標的1を隠顕動作させることができる。例えば、敵が防弾チョッキ、防弾ベストまたは防弾衣などの耐弾素材を着用している等の訓練を行う場合は、所定の回数命中するまで、標的1が隠れないよう制御することができる。
【0037】
(実施形態2)
図3に本発明の実施形態2の標的の全体構成図を示す。実施形態2の標的が実施形態1の標的と相違する点は、標的1の標的面7に、標的1を小さく形成した第2標的50を重ね合わせて1つの標的51を形成した点である。その他の構成は実施形態1と同一であるから同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
標的50は、人の胴及び腕部に対応する形状に形成され、標的1の胴及ぶ腕部に対応する位置に重ね合わせて取り付けられている。標的50の裏面部材11及び側面部材13には、反射膜19又は遮光膜21が備えられ、標的50の標的面7に当たったレーザ光5が、標的50の空洞15内から漏れないようになっている。
【0039】
これによれば、標的51のどこにレーザ光5が命中したかを特定することができる。例えば、第2標的50の標的面7にレーザ光が照射された場合、レーザ光5は第2標的50の空洞15内のみで拡散して、第2標的の受光素子23で検出されるので、レーザ光5が胴又は腕部に命中したと判定することができる。また、第2標的50が配置されていない標的1の標的面7(頭部)に当たった場合は、標的1の受光素子23のみでレーザ光5が検出されるから、レーザ光5が頭部に命中したと判定することができる。
【0040】
なお、実施形態2は、標的1の胴部及び腕部に第2標的50を配置しているが、複数の第2標的を標的1に配置することで、標的51のレーザ光5の命中位置を細かく特定することができる。
【0041】
また、実施形態2の標的51に代えて、図4に示すように、1つの標的1の標的面7を破線で示す複数の区画、例えば、頭部55、腕部57、胴部59に区画し、空洞15を標的面7の破線の区画に合わせて図示していない遮光部材で仕切り、各空洞15に受光素子23を設けた標的61を使用することができる。これによっても、レーザ光5が標的面7のどこに命中したかを特定できる。
【符号の説明】
【0042】
1 標的
3 発射装置
7 標的面
9 表面部材
11 裏面部材
13 側面部材
15 空洞
17 拡散膜
19 反射膜
21 遮光膜
23 受光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光照射装置を備える火器又は模擬火器を使用し、実弾を模擬したレーザ光の照射対象として射撃訓練に用いられる標的であって、
前記標的は、射撃方向に面する標的面の内部に空洞が形成され、該空洞内に受光面を位置させて受光素子が設けられ、前記標的面を構成する表面部材は光透過性及び光拡散性を有して形成されてなる標的。
【請求項2】
請求項1に記載の標的において、
前記標的は、合成樹脂で形成されてなることを特徴とする標的。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の標的において、
前記表面部材は、光透過性を有する材料で構成され、前記空洞側の内面に光透過性及び光拡散性を有する拡散膜が設けられてなることを特徴とする標的。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の標的において、
前記空洞の前記表面部材に対向する内面以外の内面には、光反射性を有する反射膜が設けられて成ることを特徴とする標的。
【請求項5】
請求項4に記載の標的において、
前記反射膜は、光を乱反射する膜であることを特徴とする標的。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の標的において、
前記空洞を形成する前記表面部材を除く裏面及び側面部材の外表面には、遮光性を有する遮光膜が形成されてなることを特徴とする標的。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の標的において、
前記標的の前記標的面には、前記標的より小さな第2標的が重ね合わされ設けられ、
前記第2標的は、射撃方向に面する標的面の内部に空洞が形成され、該空洞内に受光面を位置させて受光素子が設けられ、前記標的面を構成する表面部材は光透過性及び光拡散性を有して形成され、前記空洞を形成する前記表面部材を除く裏面及び側面部材は遮光性又は光反射性を有して形成されてなることを特徴とする標的。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の標的において、
前記標的面は複数に区画され、前記空洞は前記区画に合わせて遮光部材で仕切られ、前記各空洞に前記受光素子が設けられることを特徴とする標的。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−12938(P2011−12938A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160106(P2009−160106)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(391018639)バブ日立工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】