説明

標示器具

【課題】SSTw等のテスト中に被験者から観た特定方向からの視認性に優れ、又可搬性良く開催容易な距離標示具セットを提供する。
【解決手段】予め定めた両端間に所定間隔で距離標示具を配置し運用するフィールドテストに用いる標示具セットで、各々を角錐状体とし、その各面が略同一の基板4枚からなるものとし、該基板を下底の長い非対称の略台形とし、各基板の隣り合う左右の側辺同士を連接して角錐状体を構成すること、更に角錐状体を上及び底面視した際の端面が略菱形をなし、上面視時の端面の鋭角を45〜75°とし、又角錐状体の各面には被験者が進むべき方向を標示する矢印を前記鋭角側から鈍角側に向かう様表記すると共に、各矢印を角錐状体を正面視したときと背面視したときで見分け得る様区分し、又上記各面に該標示具の配置位置を示す他、被験者の到達歩行距離等の指標となる数値を表記したものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標示器具に関するものであり、特に、体力水準を評価、測定するフィールドテストに供用するのに好適な距離標示器具セットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年における我が国の高齢者人口は増加の一途をたどっており、我が国でも本格的な長寿社会を迎えるにあたって、単に長生きするだけではなく生活の質の維持、向上を図ることが重要視され、健康問題に対する関心が高まっている
【0003】
高齢者が健康で活発に生活をおくる上では、行動力と体力水準の維持、増進が重要な要素であり、体力水準の維持を図り、その体力低下を防止する必要性が強く求められている。
このとき、対象者の体力水準を評価、測定した上で、それに基づき各個人の体力向上に役立つ運動メニュー等の策定を行うことも有用であると考えられている。
【0004】
対象者の体力水準を評価、測定するにあたっては、これまでに多くの手法、要領が提案されているところ、種々ある中でも対象者の全身持久力(いわゆるエアロビックパワーやスタミナ)を評価、測定することが有用とされている。全身持久力については、疾病との関連性も高いと報告されている。
【0005】
ところで、対象者の全身持久力の測定、評価には、直接法である最大酸素摂取量(VO2max)測定が最も信頼性が高いとされている。
しかしながら、その測定には特殊な機器や専門的な知識、技術が必要であるほか、多人数を安価に、安全に測定するには条件が困難とされ、評価基準として用いるのに適さない点が数多かった。
【0006】
以上を踏まえ、対象者の全身持久力の測定、評価を行うための簡便な手法として、踏み台昇降テスト、5分間走テスト、12分間走テスト等のフィールドテストがあり、又それらの中の1つとして、シャトル・スタミナテスト(SST)やシャトル・スタミナウォークテスト(SSTw)なるものが現在知られている。
【0007】
この、シャトル・スタミナテスト及びシャトル・スタミナウォークテストは、多人数の測定が短時間に容易にできる事を念頭に考案されたものである。なお、「走る」方法であったシャトル・スタミナテスト(SST)を原法として改変されたものがシャトル・スタミナウォークテスト(SSTw)である。これは、若年者においては全身持久力を測定するフィールドテストに「走る」運動が多く使われているが、高齢者においてはより安全で日常的に使用している「歩く」方法が使われるのが好ましいことによる。
【0008】
図4又は5に示す通り、上記したシャトル・スタミナウォークテストは、予め定められた両端間に置いて立てた2本のポールの間を自己ペースで往復歩行するという要領を基本とし、このとき一定時間内に到達できた歩行距離を測定するテスト方法である。シャトル・スタミナウォークテストでは、この歩行距離の多寡をみることにより、対象者の全身持久力を評価する。
【0009】
したがって、上記シャトル・スタミナウォークテスト等のフィールドテストの場においては通例、図4又は5に示す通り、予め定められた両端間に所定間隔で、進行方向と直交するラインを引いておいたり、或いはマーカーとなる距離標示器具(高さ数十cm程度のもの)を配置することが必要とされる。
【0010】
ここで、多人数の測定が短時間に容易にできる事を念頭に考案されたシャトル・スタミナウォークテストでは、図5に示す通り複数の対象者が並走する形でテストが実施されるのが殆どであり、その一方で上記距離表示器具はこれら複数列全てに配置されないことが通例であり、これらの事情を踏まえるとこの距離標示器具或いは距離標示器具セットについては、次のような機能が備わっていることが求められる。
【0011】
まず、i)所定間隔で直線上に立設された複数の距離標示について、実際にテストを行っている被験者の視点から観た際に、可能な限り自らが向かっている一方の方向の距離標示のみをはっきりと視認し得る様になっており、かつ、上記標示器具の配列位置から離れたところで並走しテストを受ける者や視力の弱い高齢者等であっても上記距離標示が見通し易くなっている一方、
ii)反対側の距離標示については視認し辛く又は明確に見分け得る様になっており、テストを行っている間、被験者に自己の合計歩行距離等に関する無用の混乱等を招来させ難いものが求められる。このようなニーズは、上記距離標示器具の配列位置から離れたところで並走し、テストを受ける被験者より特に強く求められるものである。
【0012】
さらに、このような各種フィールドテストの更なる普及促進を図るという観点からは、iii)軽量かつ可搬性に優れ、シャトル・スタミナウォークテストをはじめとする各種フィールドテストの開催準備の負担軽減に寄与し得る距離標示器具セットを提供することも、求められている。
【0013】
ただ現状では、シャトル・スタミナウォークテスト等のフィールドテストに供用することを目的に開発された距離標示器具は市場に提供されておらず、ただ単純に、フィールドテストの開催準備の負担軽減に資するように紙等からなる各面同一形状の基板4枚を組み合わせたりして簡易的に角柱状のものを構成した上、各面には、被験者が向かうべき方向を標示する矢印を表記するとともに、この距離表示器具の配置された位置を示すほか、上記被験者の到達歩行距離等を表わす指標となる数値を表記し、これを、既存の空き缶等に被せたりしたものをとりあえず距離標示器具として用いていた。
【0014】
しかしながら、上記構成からなる距離標示器具では、実際にテストを行っている被験者、特に、被験者が上記距離標示器具の配列位置から離れたところで並走しテストを受ける者や視力の弱い高齢者等にとって次のような問題が生じていた。
i)実際にテストを行っている被験者の視点から観た際、前述の距離標示器具が殆どの場合、その各面が鉛直方向に屹立し、しかも隣接するそれぞれの面が直交するようなかたちで組み合わされたものばかりであることも影響して、自らが向かっている一方の方向の距離標示のみをはっきりと認識し、或いは所定間隔で直線上に立設された複数の距離標示を見通すことが難しいという状況が多々生じると言う問題があった。
ii)さらに、そのように距離表示の視認性が劣悪な環境の下では、結果として被験者に自己の合計歩行距離等に関して無用の混乱等を招来するおそれが高まると言う問題があった。
【0015】
iii)その他、簡易的に角柱状のものを形成した上、これを更に既存の空き缶等に被せたりするという従来通りの構成では、空き缶等も開催会場に持ち込む負担が生じたり、また空き缶等は会場毎で手配するにしてもやはり一々準備しなければならないという手間が発生し、フィールドテストの開催準備の負担軽減が図れないという問題があった。
なお、フィールドテストの開催準備の負担軽減を重視し、上記の空き缶等を省略して距離標示器具の軽量性や可搬性の向上を図ることも一策として考え得るが、この場合、フィールドテストに供用されるフロア面上における各距離標示器具の自立性が減殺される恐れが高く、そうなれば距離標示器具の本来の機能が発揮できず、本末転倒になりかねないというジレンマが生じていた、
【0016】
ところで、単に自立式の標識器具という観点でみれば、既に従来技術として特許文献1又は2として開示されるようなものもその一例として存在する。
しかしながら、特許文献1及び2記載のものはそもそも折りたたみ収納等を想定しておらず、搬送には手間が掛かる。なお、特許文献2記載のものには本体を上下開口、中空とし、積み重ね可能としたことが記載されているが、これも積み重ねを可能としただけに留まり、やはり十分な可搬性が得られていない。
さらに、両文献に開示された技術は何れも、フィールドテストに供される距離表示器具が求める上記i)及びii)の何れのニーズを満たすものでも、またこれらに関する何らかの開示や示唆を包含するものでもなく、両文献に拠っても求める距離表示器具を得ることはできなかった。
【0017】
要するに、現時点では、自立性に優れるとともに、上記i)〜iii)の要件を満足する距離表示器具或いは距離標示器具セットは世の中に提供されていなかったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】実公昭57−28200号公報
【特許文献2】実開昭60−104863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
そこで本発明は、体力水準を評価する為に行うフィールドテストとして多人数の測定が短時間に容易にできることを念頭に考案されたシャトル・スタミナウォークテスト(SSTw)等の場において、
i)所定間隔で直線上に立設された複数の距離標示について、実際にテストを行っている被験者の視点から観た際に、可能な限り自らが向かっている一方の方向の距離標示のみをはっきりと視認し得る様になっており、かつ、上記標示器具の配列位置から離れたところで並走しテストを受ける者や視力の弱い高齢者等であっても上記距離標示が見通し易くなっている一方、
ii)反対側の距離標示については視認し辛く又は明確に見分け得る様になっており、テストを行っている間、被験者に自己の合計歩行距離等に関する無用の混乱等を招来させ難い距離標示器具セットを提供することを課題とする。
【0020】
又本発明は、iii)確実な自立性が得られると共に軽量かつ可搬性に優れ、各種フィールドテストの開催準備の負担軽減に寄与し得る距離標示器具セットを提供することを課題とする。その他本発明は、以上の前提を念頭においた上で、フィールドテスト以外の諸分野においても有用な、外部より認識し易い構造の標示器具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決すべく種々検討した結果、本願発明者は、予め定めた両端間に所定間隔で距離標示器具を配置し運用するフィールドテストに用いる標示器具セットで、各々を角錐状体でその各面が略同一の基板4枚からなるものとし、該基板を下底の長い非対称の略台形とし、隣り合う各基板の互いに全長が等しい(右又は左の)側辺同士を連接して角錐状体を構成すること、更に角錐状体を上及び底面視した際の端面が略菱形をなし、上面視時の端面の鋭角を45〜75°とし、又角錐状体の各面には被験者が進むべき方向を標示する矢印を前記鋭角側から鈍角側に向かう様標記すると共に、各矢印を角錐状体を正面視したときと背面視したときで見分け得る様区分し、又上記基板各面に該標示器具の配置位置を示す他、被験者の到達歩行距離等の指標となる数値を標記したものとすることにより上記課題を解決し得ることを見い出し、本発明を完成した。
【0022】
上記課題を解決可能な本発明の標示器具は、(1)構成する各面が、略同一形状の4枚の基板の組み合わせからなっている角錐状体であって、前記角錐状体を上面視した際と底面視した際の端面が略菱形をなしており、さらに、前記上面視した際の端面の鋭角θが45°≦θ≦75°の範囲、鈍角θが105°≦θ≦135°の範囲であり、前記角錐状体を上面視した際と底面視した際の端面に現れる前記菱形の各辺が、それぞれ前記角錐状体を構成する各面の上辺又は下辺からなっており、前記上辺と下辺の比r(上辺/下辺)が0.50≦r≦0.70であることを特徴とするものである。
【0023】
また本発明の距離標示器具セットは、(2)体力水準を評価、測定する為に行うフィールドテストに使用するための距離標示器具セットであって、予め決められた一定距離の一端と他端との間に所定の間隔で前記距離表示器具を配置して使用するものであり、前記各距離標示器具が、それぞれ、
角錐状体からなっているとともに、前記角錐状体を構成する各面が、略同一形状の4枚の基板の組み合わせからなっていること、
前記角錐状体を上面視した際と底面視した際の端面が略菱形をなしており、さらに、前記上面視した際の端面の鋭角θが45°≦θ≦75°の範囲、鈍角θが105°≦θ≦135°の範囲であること、
前記角錐状体を上面視した際と底面視した際の端面に現れる前記菱形の各辺が、それぞれ前記角錐状体を構成する各面の上辺又は下辺からなっており、前記上辺と下辺の比r(上辺/下辺)が0.50≦r≦0.70であること、
前記角錐状体を構成する各面には、被験者が向かうべき方向を標示する矢印が、前記鋭角側から前記鈍角側に向かうように表記されているとともに、
前記矢印が、前記角錐状体を正面視した際と背面視した際で見分けがつく様区分けされていること、および、
前記角錐状体を構成する各面には、この距離表示器具の配置された位置を示すほか、前記被験者の到達歩行距離等を表わすこととなる数値が表記されていること、
を特徴とするものである。
【0024】
上記本発明の距離標示器具においては、(3)前記上面視した際の端面の鋭角θは略72°、前記上辺と下辺の比r(上辺/下辺)は略0.6であることが好ましい。
また、上記本発明の距離標示器具においては、(4)前記矢印が色、書体若しくは網掛け又はこれらの組み合わせによって前記角錐状体を正面視した際と背面視した際で見分けがつく様区分けされていることが好ましい。
【0025】
なお構成上、上面視した際の端面の鋭角が現在値よりさらに小さく、鈍角がさらに大きくなるにしたがって、現在値より下辺が長くなるべきである一方、上面視した際の端面の鋭角が現在値よりさらに大きく(90°に近付き)、鈍角がさらに小さくなるにしたがって、現在値より下辺が短くなるべきである。これは、正四角柱(端面の四角の角度は全て90°)では、上辺と下辺が等長であることからも理解される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、シャトル・スタミナウォークテストをはじめとする各種フィールドテストの場において、
i)所定間隔で直線上に立設された複数の距離標示について、実際にテストを行っている被験者の視点から観た際に、可能な限り自らが向かっている一方の方向の距離標示のみをはっきりと視認し得る様になっており、かつ、上記標示器具の配列位置から離れたところで並走しテストを受ける者や視力の弱い高齢者等であっても上記距離標示が見通し易くなっている一方、
ii)反対側の距離標示については視認し辛く又は明確に見分け得る様になっており、テストを行っている間、被験者に自己の合計歩行距離等に関する無用の混乱等を招来させ難い距離標示器具セットを提供することが可能となる。
【0027】
又本発明によれば、iii)確実な自立性が得られると共に軽量かつ可搬性に優れ、各種フィールドテストの開催準備の負担軽減に寄与し得る距離標示器具セットを提供することが可能となる。その他本発明によれば、外部より認識し易い構造の標示器具を提供することが可能となる。
【0028】
本発明の構成から得られる距離表示器具セット及びその各距離表示器具は、テストフィールド上に列設した際に自立性が高く、さらに構造が簡便である一方で、折り畳まず通常の使用形態とした状態の下では、上面視した際と底面視した際の端面が略菱形をなしているため、上記距離標示器具セットの配列位置から離れたところで並走しテストを受ける被験者や視力の弱い高齢者等にも、各距離表示器具に標示された矢印や数値が視認し易く、さらに、上記矢印、或いは好ましくは各距離表示器具に標示された数値の組は、各距離表示器具を正面視した際と背面視した際で見分けがつく様に区分けされて標示されており、その結果極めて優れた視認性を誇るものとなっている。
【0029】
[用語について]
本明細書において「シャトル・スタミナウォークテスト」とは、体力水準を評価する為に行うフィールドテストとして、多人数の測定が短時間に容易にできる事を念頭に考案されたものをいう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の距離標示器具の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】(a)本実施形態の距離標示器具を折り畳んだ状態(右(又は左)側面視した状態)、及び(b)基板の一実施形態を示す図である。
【図3】本実施形態の距離標示器具の(a)正面視図、及び(b)右(又は左)側面視図である。
【図4】シャトル・スタミナウォークテストの測定モデル図(1人で実施する場合)である。
【図5】シャトル・スタミナウォークテストの測定モデル図(複数人で実施する場合)である。
【図6】本発明の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面に基づき、本発明の一実施形態につき説明する。図1は本発明の距離標示器具の一実施形態を示す斜視図、図2(a)は本実施形態の距離標示器具を折り畳んだ状態(右(又は左)側面視した状態)、また(b)は基板の一実施形態を示す図、図3は本実施形態の距離標示器具の(a)正面視図、及び(b)右(又は左)側面視図、図4はシャトル・スタミナウォークテストの測定モデル図(1人で実施する場合)、図5はシャトル・スタミナウォークテストの測定モデル図(複数人で実施する場合)である。
【0032】
[本実施形態の使用態様を含めた概要]
はじめに、本実施形態の説明にあたり、その前提につき説明する。本実施形態は、本発明に係る距離標示器具セットをシャトル・スタミナウォークテストにおいて使用することを想定した一例である。
図4又は図5に示す通り、本実施形態において想定するシャトル・スタミナウォークテストのテストフィールドFは、間隔X=20mを隔てて立てた2本のポールP1、P2の間に、1m間隔で以下に説明する距離標示器具セット1をマーカーとして配置したものである。このとき、被験者Tが往路から各距離標示器具2を見たときの状態を、距離標示器具2の正面視状態とし、復路から各距離標示器具2を見たときの状態を、距離標示器具2の後面視状態とする。
ここで、多人数の測定が短時間に容易にできる事を念頭に考案されたシャトル・スタミナウォークテストでは通常、図5に示す通り、一列に配列された距離標示器具セット1を挟んで複数人の被験者Tが並走する形でテストが実施される。
【0033】
図4又は図3(a)に示す通り、以上の前提の下においては、各距離標示器具2を往路からすなわち正面視した際には、1、2、3、4、5、6…(中略)…14、15、16、17、18、19までの数値N1が順に表記されている一方、各距離標示器具2を復路から即ち後面視した際には、1、2、3、4、5、6…(中略)…14、15、16、17、18、19までの数値N2が順に表記されている(図2(a)又は図3(b)参照)。この結果、各距離標示器具2には、(1/19)、(2/18)、(3/17)、(4/16)、(5/15)、(6/14)…(中略)…(14/6)、(15/5)、(16/4)、(17/3)(18/2)(19/1)といった数値の組Nが、後述する通り、正面視した際と後面視した際で被験者Tから見分けがつく様なかたちで標示される(図2(a)、図3(b)及び図4参照)。
【0034】
ここで、上記各距離標示器具2に表記された数値N1又はN2は、(20mの間隔を隔てて立てた2本のポールP1、P2の間における)この距離表示器具の配置された位置を示すほか、被験者Tの到達歩行距離等を表わす役割を果たすものである。
例えば、一回も往復していない状態で往路を数値17の位置まで歩いた場合には、その被験者Tの歩行距離は17mであることを示し、復路を数値11の位置まで歩いた場合には、その被験者Tの歩行距離は31mであることを示す。同様に、1往復半(1往復が40mであるからこの場合60m)してさらに復路を数値12の位置まで歩いた場合には、その被験者Tの歩行距離は72mであることを示す。このような要領で、1往復が40mであることと、各数値N1又はN2の表記を参考にして、被験者T或いはテストにおける被験者Tのパートナーは、一定時間内に到達できた被験者Tの総歩行距離を把握或いは測定する。シャトル・スタミナウォークテストでは、この歩行距離の多寡をみることにより、被験者Tの全身持久力を評価する。
【0035】
さらに、各距離標示器具2には、被験者Tが向かうべき方向(往路又は復路)を標示する矢印Aが、往路側に標示された数値N1又は復路側に表示された数値N2と併せて表記されている(図1〜3のA1、A2参照)。上記数値の組Nと同様、この矢印Aも、各距離標示器具2を正面視した際と背面視した際で見分けがつく様なかたちで標示される。
【0036】
なお、本実施形態においては、上記数値Nや矢印Aについて、色、書体若しくは網掛け又はこれらの組み合わせの手段(図1〜図3では網掛けによる)を用いて、各距離標示器具2を正面視した際と背面視した際で区別がつく様にしている。
【0037】
[構成]
次に、本実施形態に係る各距離標示器具2の構成につき説明する。
図1に示す通り、各距離標示器具2は、上下を開口した角錐状体からなっている。本実施形態では、角錐状体の上下の端面が開口している例を示しているが、この端面には、形態維持や補強のために別途、板が(着脱可能に)備え設けられていても構わない。要するに、各距離標示器具2については、必ずしも上下を開口した角錐状体を準備する必要は無い。
この角錐状体は、図2(a)又は図3に示す通り、角錐状体を構成する各面が、図2(b)に示す同一形状の4枚の基板B(B1〜B4)の組み合わせからなっている
このとき、各基板B1〜B4は、左右非対称の台形状をなしている。なお、図1及び図2(b)に示す基板Bの表面に仮想線で示された枠内には、この距離表示器具の配置された位置を示すほか、被験者Tの到達歩行距離等を表わす適宜数値N(N1又はN2)が標示される。
本実施形態では、i)図2(a)及び図3(b)に示す通り、距離標示器具2を右(又は左)側面視したときには、下辺と側辺のなす挟角がより直角に近い角度θ(θS1とθS2(又はθS3とθS4))をもつ側の側辺同士を接合する一方、ii)図3(a)に示す通り、距離標示器具2を正(又は後)面視したときには、下辺と側辺のなす挟角がθより小さい角度θ(θL4とθL1(又はθL2とθL3))をもつ側の側辺同士を接合することにより、図1に示すような角錐状体を構成している。このとき、各基板B1〜B4の下辺がテストフィールドFの表面から浮き上がったりして各距離標示器具2の自立性が損なわれることが無いよう、各基板B1〜B4の下辺と側辺のなす挟角θ及びθ、並びにこれより説明する距離標示器具2を上面視した際の開口面の鋭角θ及び鈍角θの範囲を適宜調整することが好適である。
このような角錐状体は、各基板B1〜B4が鉛直方向に屹立することなく、実際にテストを行っている被験者Tの視点から観ても、可能な限り自らが向かっている方向の矢印や距離標示のみをはっきりと視認し得る様になっている一方、反対側の矢印や距離標示については視認し辛いものとなっている。
【0038】
図1に示す通り、以上の基本構成からなる距離標示器具2は、折り畳まず通常の使用形態とした状態の下では、上記角錐状体を上面視した際と底面視した際の開口面が略菱形をなしている。
【0039】
ところで、各距離標示器具2の鋭角θ及び鈍角θの値及びその範囲の選定に関しては、図5に示す通り、一列に配列された距離標示器具セット1を挟んで複数人の被験者Tが並走する形でテストが実施されるのが一般的であることを考慮して、上記距離標示器具セット1の配列位置から離れたところで並走しテストを受ける被験者Tや視力の弱い高齢者等にも自らの進行方向に係る矢印や距離標示が見通し易くなっている一方、反対側の矢印や距離標示については視認し辛い値とすることが好ましい。
他方、各距離標示器具2の自立性が損なわれてしまうと、距離標示器具としての本来の機能を発揮できなくなってしまう。
【0040】
これらの事情を勘案すれば、前記上面視した際の開口面の鋭角θは45°≦θ≦75°の範囲程度、鈍角θは105°≦θ≦135°の範囲程度とすることが好ましい。
【0041】
ここで、上記角錐状体を上面視した際と底面視した際の開口面に現れる各菱形の各辺は、それぞれ上記角錐状体を構成する各面の上辺又は下辺からなっているところ、鋭角θ及び鈍角θの範囲を上述の通りとしたとき、前記上辺と下辺の比r(上辺/下辺)は0.50≦r≦0.70程度となる。
【0042】
本実施形態では、鋭角θ=略72°、また上辺と下辺の比r(上辺/下辺)を127mm/210mm≒0.6とした。
なお、各距離標示器具2の大きさを決める基板Bの高さや幅(上辺及び下辺の長さに相当する)については、上記の値(上辺127mm、下辺210mm)のほか、通常の使用形態とした状態の下での「視認性」と、折り畳んだ状態の下での「可搬性」といった相反する要素のバランスを考慮しつつ、距離標示器具セット1を提供する側(主催者、製造販売者等)の判断で適当な値を選択し得る。
【0043】
以上の基本構成の下では、各距離標示器具2は、上面視した際の開口面の鋭角θが現在値よりさらに小さく、鈍角θがさらに大きくなるにしたがって、現在値より下辺が長くなるべきである一方、上面視した際の開口面の鋭角θが現在値よりさらに大きく=(90°に近付き)、鈍角θがさらに小さくなるにしたがって、現在値より下辺が短くなるべきである。これは、正四角柱(開口面の四角の角度は全て90°)では、上辺と下辺が等長であることからも理解される。
【0044】
本実施形態の距離標示器具セット1を提供するに際しては、まずi)各距離標示器具2を上面視した際の開口面の鋭角θ(鈍角θ)を定めるとともに、ii)各距離標示器具2の大きさを決める基板Bの高さを定めることが好ましい。iii)これらi)及びii)の結果に応じて、基板Bの上辺と下辺の比r=(上辺/下辺)並びに上辺及び下辺の夫々の長さが定まるとともに、iv)各基板B1〜B4の下辺と側辺のなす挟角θ及びθの値が定まる。
このような要領によれば、各基板B1〜B4の下辺がテストフィールドFの表面から浮き上がったりせず、自立性に富んだ各距離標示器具2を得ることができる。
【0045】
図1〜3に示すように、上記の構造を有する各距離標示器具2の角錐状体を構成する基板B1〜B4の各面には、被験者Tが向かうべき方向を標示する矢印Aが、距離標示器具2を上面視した際の開口面の鋭角θ側から鈍角θ側に向かうように表記される。これは、各距離標示器具2を正(又は後)面視した際、角錐状体の上記鋭角θ側が現れること、また各距離標示器具2を右(又は左)側面視した際、角錐状体の上記鈍角θ側が現れることに基づくものである。
本実施形態では、往路を示す矢印A1が基板B1及びB4に表記される一方、復路を示す矢印A2が基板B2及びB3に表記される。
【0046】
ここで、基板B1〜B4の各面に表記された矢印A1又はA2は、上記角錐状体を正面視した際と背面視した際で見分けがつく様、適宜手段を用いて標記される。本実施形態では色、書体若しくは網掛け又はこれらの組み合わせ或いはその他の手法で区分けされる。図1〜3では、網掛けの手法を用いて上記角錐状体を正面視した際と背面視した際で見分けがつく様にしている。
【0047】
角錐状体を構成する基板B1〜B4の各面にはまた、各距離表示器具2の配置された位置を示すほか、被験者Tの到達歩行距離等を表わすこととなる数値が標示される。
【0048】
各距離表示器具2に記載される数値の組Nは、ポールP1、P2の間隔が20mの場合については上記した通りである。10mのときも同様に、往路側から見たときの数値N1と、往路側から見たときの数値N2の組み合わせは(1/9)、(2/8)(3/7)(4/6)(5/5)(6/4)(7/3)(8/2)(9/1)となる。その他、ポールP1、P2の間隔を変えた場合であっても、各距離表示器具2に記載される数値の組N(往路側から見たときの数値N1と、往路側から見たときの数値N2)の合計値がポールP1、P2の間隔値となっていればよい。
【0049】
図2(a)及び図3に示す通り、本実施形態では数値の組Nについても、角錐状体からなる各距離表示器具2を正面視した際と背面視した際で見分けがつく様、適宜手段を用いて標記される。その手段としては矢印A1又はA2と同様に、色、書体若しくは網掛け又はこれらの組み合わせ或いはその他の手法によることが好ましい。本実施形態では網掛けの手法を用いて上記角錐状体を正面視した際と背面視した際で見分けがつく様にしている。
【0050】
以上の構成からなる本実施形態に係る各距離表示器具2及び距離表示器具セット1は、テストフィールドF上に列設した際に自立性が高く、さらに構造が簡便である一方で、折り畳まず通常の使用形態とした状態の下では、上面視した際と底面視した際の開口面が略菱形をなしているため、上記距離標示器具セット1の配列位置から離れたところで並走しテストを受ける被験者Tや視力の弱い高齢者等にも各基板Bに標示された矢印Aや数値Nが視認し易く、さらに、上記矢印Aや数値の組Nは、角錐状体からなる各距離表示器具2を正面視した際と背面視した際で見分けがつく様適宜手段を用いて標示されており、その結果極めて優れた視認性を誇るものとなっている。
【0051】
[変形例]
本発明の距離標示器具及び距離標示器具セットについて、一実施形態を参考に順に説明したが、本発明は上記に限定されず、種々の変更が可能である。
【0052】
例えば、本実施形態では、鋭角θ=略72°、また上辺と下辺の比r(上辺/下辺)を127mm/210mm≒0.6としたが、各値は上記に何等限定されない。
【0053】
鋭角θ及び鈍角θの値及びその範囲は、各距離標示器具2が安定して自立し得る範囲で適宜選定することが可能である。なおこのとき、各距離標示器具2の鋭角θ及び鈍角θの値及びその範囲の選定に関しては、図5に示す通り、一列に配列された距離標示器具セット1を挟んで複数人の被験者Tが並走する形でテストが実施されるのが一般的であることを考慮して、上記距離標示器具セット1の配列位置から離れたところで並走しテストを受ける被験者Tや視力の弱い高齢者等にも自らの進行方向に係る矢印や距離標示が見通し易くなっている一方、反対側の矢印や距離標示については視認し辛い値とすることが好ましい。
【0054】
また、上記の通り各距離標示器具2の大きさを決める各基板Bの高さ及び幅についても、あまり大きすぎれば各距離標示器具2が結局大き過ぎてしまい可搬性に劣る一方、小さすぎれば視認性に欠けることを考慮して、両者のバランスを考えた適当な値を選定して構わない。
【0055】
さらに、本実施形態では、各距離標示器具2を基板B1〜B4の組み合わせからなるものとしたが、これに特に拘泥せず、一体成形からなるものとしても構わない。この場合であっても、距離標示器具2は、折り畳まず通常の使用形態とした状態の下では上面視した際と底面視した際の開口面が略菱形をなす角錐状体の構成を有している(図1参照)一方、折り畳んだ状態では図2(a)に示すのと同様の態様をなすこととなる。
また、各基板B1〜B4毎に分解して収納できるものとし、そして、使用時には、各基板B1〜B4を、ベルトとスナップ等により図1〜3に示すような態様に組み立て得るように構成しても構わない。
【0056】
さらに、本実施形態では、各基板B1〜B4を、下辺が直線からなる台形状のものとしたが、これに限らず、下辺について、その両端周辺部分を除いた部分が上方に向かっている結果、各基板についてその下方部分が一部抉れた様な形状となっていても構わない(図6参照)。このような構成によっても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態記載の要領に則り自立性、視認性、及び可搬性のいずれの性能をも満足し得る距離標示器具2及び距離標示器具セット1を得ることができる。
同様に、本実施形態では角錐状体の端面を略菱形としたが、端面については厳密な菱形に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変実施することができる。例えば、本実施形態では、各基板B1〜B4の端面を上又は下面から見たときは全て直線からなるものであったが、この端面を若干程度「く」字状に外方に向かって突出、或いは外方に向かって膨出させることにより、角錐状体の端面は純粋な菱形から多角形或いは紡錘形に近付いて行くが、これらであってもいずれも本発明の距離標示器具としての作用効果を発揮する限りは、本願発明の構成を具備するものといい得る。これついては、各距離標示器具2が、各基板B1〜B4に相当する部材を一体成形されたものからなっていても同様である。
【0057】
さらに、本実施形態では、距離標示器具セット1をシャトル・スタミナウォークテストに適用する場合の一例につき説明したが、本発明の距離標示器具セットの適用用途はこれに限定されず、様々なフィールドテストに適用することが可能である。本発明の標示器具は、構造上外部より認識し易く、フィールドテスト以外の諸分野においても有用なるものである。一例としては、マラソンやジョギングのコース標識、ゲレンデ案内標識等各種のスポーツ現場での案内標識、また交通標識や危険区域表示標識等への適用が想定され得る。
【0058】
その他、本実施形態の各距離標示器具2においては、数値Nや矢印Aについて、正面視した際と背面視した際で見分けがつく様にするための手段を、色、書体若しくは網掛け又はこれらの組み合わせによるとしたが、区別手段はこれらに何等限定されない。
例えば、文字の太さやローマ数字(正(又は後)面視)と漢数字(後(又は前)面視)を組み合わせとするなど、様々な区別手段を適用することが可能である。
【0059】
また、本実施形態では、角錐状体の上面又は下面の端面が開口している例を示しているが、この端面に、形態維持や補強のために別途、上下端面の形状に合わせた形状の板が(着脱可能に)備え設けられていても構わない。なおこれは、角錐状体の上下端面の角度(鋭角、鈍角)を決め、保持する補助手段にもなり得る。
このように、本発明は、自立性に富み、構造が簡便である一方で極めて優れた視認性を誇る新規かつ有用なる発明であることが明らかである。
【符号の説明】
【0060】
1 距離標示器具セット
2 距離標示器具
A、A1、A2 矢印
B、B1〜B4 基板
F テストフィールド
N、N1、N2 数値
P1、P2 ポール
T 被験者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成する各面が、略同一形状の4枚の基板の組み合わせからなっている角錐状体であって、前記角錐状体を上面視した際と底面視した際の端面が略菱形をなしており、さらに、前記上面視した際の端面の鋭角θが45°≦θ≦75°の範囲、鈍角θが105°≦θ≦135°の範囲であり、前記角錐状体を上面視した際と底面視した際の端面に現れる前記菱形の各辺が、それぞれ前記角錐状体を構成する各面の上辺又は下辺からなっており、前記上辺と下辺の比r(上辺/下辺)が0.50≦r≦0.70であることを特徴とする標示器具。
【請求項2】
体力水準を評価、測定する為に行うフィールドテストに使用するための距離標示器具セットであって、予め決められた一定距離の一端と他端との間に所定の間隔で前記距離表示器具を配置して使用するものであり、前記各距離標示器具が、それぞれ、
角錐状体からなっているとともに、前記角錐状体を構成する各面が、略同一形状の4枚の基板の組み合わせからなっていること、
前記角錐状体を上面視した際と底面視した際の端面が略菱形をなしており、さらに、前記上面視した際の端面の鋭角θが45°≦θ≦75°の範囲、鈍角θが105°≦θ≦135°の範囲であること、
前記角錐状体を上面視した際と底面視した際の端面に現れる前記菱形の各辺が、それぞれ前記角錐状体を構成する各面の上辺又は下辺からなっており、前記上辺と下辺の比r(上辺/下辺)が0.50≦r≦0.70であること、
前記角錐状体を構成する各面には、被験者が向かうべき方向を標示する矢印が、前記鋭角側から前記鈍角側に向かうように表記されているとともに、
前記矢印が、前記角錐状体を正面視した際と背面視した際で見分けがつく様区分けされていること、および、
前記角錐状体を構成する各面には、この距離表示器具の配置された位置を示すほか、前記被験者の到達歩行距離等を表わすこととなる数値が表記されていること、
を特徴とする距離標示器具セット
【請求項3】
前記上面視した際の端面の鋭角θは略72°、前記上辺と下辺の比r(上辺/下辺)は略0.6であることを特徴とする請求項2に記載の距離標示器具セット。
【請求項4】
前記矢印が色、書体若しくは網掛け又はこれらの組み合わせによって前記角錐状体を正面視した際と背面視した際で見分けがつく様区分けされていることを特徴とする請求項2又は3に記載の距離標示器具セット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−213844(P2010−213844A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62807(P2009−62807)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)