説明

標示用蓄光塗料組成物

【課題】遊歩道のような、高度の耐摩耗性が要求されず、再帰反射による視認性を期待できない場合の舗装面の標示に適した標示用蓄光塗料組成物を提供すること。
【解決手段】熱可塑性結合材、体質材、可塑剤、ガラスビーズ及び蓄光材粉末を必須成分とする熱溶着型の標示用塗料組成物。熱可塑性結合材:10〜25質量%、可塑剤:0.5〜2.0質量%、体質材(体質顔料):20〜40質量%、可塑剤:ガラスビーズ:18〜50質量%、蓄光材粉末:5〜35質量%を含有し、かつ、ガラスビーズ/蓄光材粉末(質量混合比)=5/1〜1/3である。着色顔料0.8質量%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト面やコンクリート面の標示(マーキング)に使用する塗料組成物に関する。特に、夜間の公園や河川敷等の遊歩道の区画標示に適した熱溶着型の標示用蓄光塗料組成物に関する。
【0002】
ここでは、河川敷における遊歩道の区画標示を例に採り説明するが、テーマパーク、競技トラック、工場等における舗装面の標示にも、本発明の標示用蓄光塗料組成物は適用可能である。
【0003】
以下の説明で、配合単位を示す「%」は、特に断らない限り、「質量%」を意味する。
【背景技術】
【0004】
従来の路面標示用塗料は、車両運転手が、夜間でも路面標示を視認できるように、ヘッドライトの投射光が再帰反射するようにガラスビーズを混入させている。
【0005】
一方、歩行者や自転車は、それ自身が光を発することがないとともに、懐中電灯や自転車のライトでは、再帰反射光の光軸が目に入ることが少なく視認性に欠ける。
【0006】
ここで、再帰反射とは、ガラスビーズのレンズ効果により、入射光が入射方向に反射する現象をいう。歩行者が手に持った懐中電灯、自転車のライトに光は反えるが、目に直接光が向かわない。また、夜間の歩行に際して、懐中電灯を持たない場合も多い。
【0007】
昨今の健康ブームの高まりから、自動車が走行せず、安全でありかつ排気ガスの心配もない、河川敷等においてウォーキングやジョギングを、夜間行う人が多くなってきている。
【0008】
このとき、遊歩道の範囲が明瞭に標示されることが望まれるとともに、更に、防犯上も真っ暗でないことが望まれている。そのような場合に、河川敷の堤防に照明装置を設置することが考えられる。
【0009】
しかし、照明装置を設置するには堤防(土手)を工作する必要があり、法的制限がある。すなわち、官庁の許認可を受ける必要があるため、簡易に設置することはできなかった。
【0010】
このため、特許文献1〜3等に記載の蓄光材粉末を含有させた熱溶着型の路面標示用塗料、又は、特許文献4等に二液型蓄光性路面標示用塗料を使用して遊歩道の両側に沿って遊歩道標示をすることが考えられる。
【0011】
しかし、いずれの特許文献に記載された路面標示用塗料も、高度の耐摩耗性、及び、再帰反射による視認性確保を前提的に要求される蓄光塗料に関するものである。すなわち、本発明のような、遊歩道のような、余り耐摩耗性が要求されず、再帰反射による視認性を期待できない場合の舗装面標示に適しないことが分かった。
【特許文献1】特開2000−7952号公報(要約等参照)
【特許文献2】特開平11−209659号公報(要約等参照)
【特許文献3】特開昭58−1759号公報(要約等参照)
【特許文献4】特許第2858097号公報(要約等参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記にかんがみて、遊歩道のような、余り耐摩耗性が要求されず、再帰反射による視認性を期待できない場合の舗装面標示に適した標示用蓄光塗料組成物を提供することを目的(課題)とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意、開発に努力をする過程で、従来の熱溶着型の標示用塗料組成物において、体質材の組成の一部を蓄光材及びガラスビーズで置換して、蓄光材を所定量以上含有させるとともにガラスビーズの組成比率を相対的に増大させ、さらに、着色顔料を可及的に少なくすることにより、蓄光性が大幅に改善できることを知見して、下記構成の本発明に想到した。
【0014】
熱可塑性結合材、体質材、可塑剤、ガラスビーズ及び蓄光材粉末を必須成分とする熱溶着型の標示用蓄光塗料組成物であって、
熱可塑性結合材:10〜25質量%、可塑剤:0.5〜2.0質量%、体質材(体質顔料):20〜40質量%、ガラスビーズ:30〜50質量%、蓄光材粉末:5〜35質量%を含有し、かつ、ガラスビーズ/蓄光材粉末(質量混合比)=5/1〜1/3であり、さらに、着色顔料0.8質量%以下とされていることを特徴とする。
【0015】
上記構成において、蓄光材粉末の平均粒径200〜1500μmのものが望ましい。蓄光材粉末として、粒径が大きいものを使用することにより蓄光性(残光性)が、更に、改善される。
【0016】
上記構成において、体質材の一部を、体質材と近似粒径である100μm以下の蓄光材粉末に置換することが、更に望ましい。体質材の適正組成を維持しながら、体質材の絶対組成を可及的に少なくすることができ、結果的に、塗膜の初期輝度を増大させることができる。
【0017】
上記各構成の塗料組成物は、普通、アルミ板に、塗料組成物で形成された1.5mmtの塗膜に対して、照度200LxのD65光源下にて20min励起させた後、45°方向の輝度が、1時間後において15mcd/m2以上を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の望ましい形態について説明する。
【0019】
本発明の路面標示用の塗料組成物は、熱可塑性結合材、体質材、可塑剤及びガラスビーズ及び蓄光材粉末を必須成分とする。
【0020】
そして、上記熱可塑性結合材は、光透過性(透明性)を有し、施工温度(たとえば200℃)で施工可能な粘度を有するものなら特に限定されない。普通、色相(ガードナー法)8以下(より普通には色相(ガードナー法)6以下)で、施工温度200℃における粘性率が1〜2.6 dPasのものを使用する。
【0021】
例えば、脂肪族系石油樹脂;ポリブテン等の石油系炭化水素樹脂;クマロン・インデン樹脂等のクマロン系樹脂;フェノール・ホルムアルデヒド樹脂等のフェノール系樹脂;テルペン・フェノール樹脂、ポリテルペン樹脂等のテルペン系樹脂;合成ポリテルペン樹脂;芳香族系炭化水素樹脂;不飽和炭化水素重合体;イソプレン系樹脂;水素添加炭化水素樹脂;炭化水素系粘着化樹脂;水素添加ロジン、水素添加ロジンのエステル樹脂、重合ロジン、硬化ロジン等のロジン誘導体等が使用可能である。上記熱可塑性結合材のうち、より淡色のもの(色相(ガードナー法)6以下)を安定して得易く、コスト的にも安定している脂肪族系石油樹脂等、石油系炭化水素樹脂を使用することが望ましい。
【0022】
また、熱可塑性結合材の配合量は、通常、10〜25%、より普通には13〜23%が望ましい。配合量が過少では、粘性率が高くて良好な流動性が得難く施工性(作業性)が低下し、他方、過多では、耐汚染性が低下したり、溶融時に体質材、ガラスビーズが沈降したりして(ガラスビーズの分散性が低下する。)、綺麗な塗膜を得難い。
【0023】
体質材としては、通常、塗膜に適度の強度を確保し、かつ、相対的に隠蔽性が低い(屈折率が低い)ものが望ましい。適度な塗膜中にあって適度な反射性を付与できるためである。
【0024】
具体的には、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム等の白色系フィラーを好適に使用できる。
【0025】
本実施形態では、本来の体質材の配合量40〜75%(より普通には45〜70%)よりはるかに少ない、約半分以下である40%以下(より普通には35%以下)とする。本実施形態では、車両が走行する舗装面と同程度の耐摩耗性は要求されない。このため、配合量が過少となってもほとんど問題がない。体質材の配合量の下限は、後述の小径蓄光材に置換しない場合は、20%以上(より普通には25%以上)とする。
【0026】
可塑剤としては、大豆油等の植物油、植物油変性アルキド樹脂、鉱物油、エポキシ化油、液状合成ゴム類等が使用できる。鉱物油としては、例えば、ナフテン系、パラフィン系、オレフィン系のものが使用できる。可塑剤の配合量は、0.5〜2%、さらには1〜2%が望ましい。配合量が過少では、耐衝撃性及び接着性において劣りやすく、他方、過多では、耐汚染性及び乾燥性に劣りやすい。
【0027】
ガラスビーズとしては、粒径100〜900μm、さらには106〜850μmのものを使用することが望ましい。ガラスビーズの配合量は、従来の路面標示用塗料における配合量10〜25%の約倍以上、18〜50%、より普通には、約20〜40%とする。配合量が過少では、相対的に本来の体質顔料の比率が増大して、塗膜中の蓄光材が蓄光エネルギーを蓄え難い。配合量が過多となると、良好な塗膜外観及び十分な塗膜強度を得難くなるとともに、溶融中にガラスビーズが沈降しやすくなって、施工性が低下する。
【0028】
蓄光材粉末としては、平均粒径200〜1500μm(より普通には400〜1000μm)のもの(以下「大径蓄光材」と称する場合がある。)を使用する。蓄光材粉末は、平均粒径が大きい方が、蓄光性が良好であることを本発明者らは確認している。ただし、平均粒径が1500μmを超えると、施工性に問題が発生し易くなる。通常、標示施工に使用するスリッター式塗布機のスリット幅が1.5mmであるためである。
【0029】
ここで、蓄光材の種類は、所望の耐候性と蓄光性(残光輝度、残光時間)を発揮するものなら特に限定されない。たとえば、アルカリ土類アルミン酸塩系のものが、蓄光性に優れており好適に使用できる。
【0030】
より具体的には、根本特殊化学株式会社から「ルミーバ」、株式会社ルミナスから「蓄光顔料201G」、イージーブライト株式会社から「蓄光顔料EZCB」の各商品名で上市されているものを挙げることができる。
【0031】
ここで、蓄光材粉末の配合量は、要求蓄光性に応じて異なるが、普通5〜35%(より普通には15〜25%)とする。
【0032】
このときの蓄光材粉末のガラスビーズに対する混合比率は、ガラスビーズ/蓄光材=5/1〜1/3(より普通には4.5/1〜1/3.5)とする。
【0033】
なお、前記体質材の一部又は全部を、体質材と近似粒径を有する小径蓄光材(通常、100μm以下)で置換することできる。この場合は、更に、蓄光性の向上、特に、残光輝度の増大が期待できる。残光輝度が増大することを、本発明者らは、確認している。ちなみに、代表的な体質材(体質顔料)である炭酸カルシウムの平均粒径は50μm前後である。
【0034】
また、上記各添加成分に加えて、着色のために、着色顔料を0.8%未満(より普通には0.5%未満)の量で配合してもよい。本実施形態では、着色顔料は、基本的には、無配合とすることが望ましい。体質顔料に比して隠蔽性の高い着色顔料を配合すると、ガラスビーズの再帰反射作用が増大して、光が塗膜内部まで透過せず、蓄光材が残光発揮のための蓄光エネルギーを蓄え難くなり、蓄光材の利用率が低下する。
【0035】
さらに、その他の添加剤として、適宜、沈降防止剤、表面改質剤、汚れ防止剤及び流動性付与剤等を配合することができる。具体的には、添加剤として、未変性ポリエチレンワックス、酸変性ポリエチレンワックス(例えば、マレイン酸変性)等が好適に使用できる。
【0036】
なお、上記塗料組成物で形成した遊歩道標示の蓄光性は、下記要件を満たすものとする。
【0037】
アルミ板に、塗料組成物で形成された1.5mmtの塗膜に対して、照度200LxのD65光源下にて20min励起させた後、45°方向の輝度が、1時間後において、少なくとも15mcd/m2以上、普通25mcd/m2以上、良好には30mcd/m2 以上を示す。
【0038】
上記塗料組成物は、通常、スリッター式塗布機(アプリケータ)を用いて、路面に塗布して遊歩道標示等の施工を行う。このとき、加熱溶融温度は、200℃前後とする。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。
【0040】
表1に記載の配合に基づいて、実施例及び比較例の各塗料組成物をそれぞれ調製する。なお、従来品は、JIS3種1号(JIS K 5665「路面標示用塗料」)おいて、ガラスビーズの表面散布をしない処方である。
【0041】
なお、各表における各処方は、従来例の基本処方において、体質材及び着色顔料の配合量を減量して(着色顔料は0%ないし1%)、ほぼ減量に相当する量を、ガラスビーズと蓄光材としたものである。
【0042】
【表1】

上記配合に基づいて調製した各実施例及び従来例・比較例の各塗料組成物について、下記方法に従って、蓄光性の試験を(1)屋内及び(2)屋外について行った。
【0043】
<供試体(試験片)の作成>
表1に示す処方の塗料組成物(1.0〜2.0kg)をホーロー鍋に少しずつ加え、ガスコンロで20分程度かけて、温度が、180±20℃になるように加熱溶融する。その際、局部加熱を起こさないよう、ステンレススプーンでかき混ぜる。そして、試験片は、溶融した塗料をアルミ板上に、アプリケータ(塗布機)で塗膜厚1.5mmtとなるように塗布して冷却硬化させる。なお、アルミ板として、室内試験用は、70×150×1mmtのものを、屋外試験用は、160×350×3mmtのものを使用した。
【0044】
<蓄光性試験>
1)試験前日まで、試験片をビニルシート(黒)で包み、光を遮断して各試験片を同一条件としておく。
【0045】
2)照度200LXのD65光源下にて20min励起させる。
【0046】
3)水平に設置した試験片に45°の角度で輝度が測定できるように輝度計をセットする。このときの輝度計と試験体の距離は1mとする。
【0047】
4)励起20分後、光を遮断して輝度測定を開始し、その後、一定時間ごとに残光輝度を測定する。
(1)屋内試験
輝度測定を10分間隔で行った。それらの結果を、表2及び図1〜3に示す。
【0048】
表2及び図1から、着色顔料を少量であるが含む比較例1は、着色顔料を含まない実施例1に比して、初期輝度および残光輝度(60分後)ともに劣ることが分かる。
【0049】
表2及び図2から、大径蓄光材を用いた実施例1は、小径蓄光材を用いた比較例2に比して、初期輝度および残光輝度(60分後)ともに優ることが分かる。
【0050】
表2及び図3から、蓄光材の配合量が増大するに比例して、初期輝度に差がでるが、残光輝度の差が経時的に小さくなる乃至無くなることが分かる。特に、蓄光材配合量20%の実施例2と30%の実施例3とでは、40分経過後に差がなくなっている。
【0051】
【表2】

(2)屋外試験
平成18年10月13日(晴れ)の日(日没:17時21分頃)に、昼間一日放置した各試験片について、日没直前17:20から輝度を10min間隔で測定した。
【0052】
その結果を示す表3から、日没後2h経過後も十分に所望の残光輝度(25mcd/m2)を維持していることが分かる。
【0053】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】着色顔料含有の有無による蓄光性の影響を調べた試験結果を示すグラフ図である。
【図2】蓄光材粉末の粒径の蓄光性に与える影響を調べた試験結果を示すグラフ図である。
【図3】蓄光材粉末の配合量の蓄光性に与える影響を調べた試験結果を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性結合材、体質材、可塑剤、ガラスビーズ及び蓄光材粉末を必須成分とする熱溶着型の標示用蓄光塗料組成物であって、
熱可塑性結合材:10〜25質量%、可塑剤:0.5〜2.0質量%、体質材(体質顔料):20〜40質量%、ガラスビーズ:18〜50質量%、蓄光材粉末:5〜35質量%を含有し、かつ、ガラスビーズ/蓄光材粉末(質量混合比)=5/1〜1/3であり、さらに、着色顔料0.8質量%以下とされている、
ことを特徴とする標示用蓄光塗料組成物。
【請求項2】
前記蓄光材粉末の平均粒径が、200〜1500μmであることを特徴とする請求項1記載の標示用蓄光塗料組成物。
【請求項3】
前記蓄光材粉末の含有率が、15〜25質量%であることを特徴とする請求項2記載の標示用蓄光塗料組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性結合材が、石油系炭化水素樹脂であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の標示用蓄光塗料組成物。
【請求項5】
前記体質材の一部又は全部が、体質材と近似粒径を有する蓄光材で置換されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一記載の標示用蓄光塗料組成物。
【請求項6】
アルミ板に、塗料組成物で形成された1.5mmtの塗膜に対して、照度200LxのD65光源下にて20min励起させた後、45°方向の輝度が、1時間後において15mcd/m2以上を示す組成であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一記載の標示用蓄光塗料組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−189813(P2008−189813A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25890(P2007−25890)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000159021)株式会社キクテック (42)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】