説明

標識されたナノポアを使用する生物学的なポリマーの超高速配列決定

生体分子または生物学的なポリマー、例えば核酸を配列決定するための方法およびシステムが提供される。ポアまたはナノポアに付着している1種または複数種のドナー標識を照光すること、または別の方法で励起させることができる。1種または複数種のアクセプター標識で標識された単量体を有するポリマーを、ポアを通して移行させることができる。ポリマーの標識された単量体がポアを通過する、それから出る、またはそれに入る前、その後に、またはその間のいずれかに、単量体の励起したドナー標識からアクセプター標識にエネルギーが転移し得る。エネルギー転移の結果として、アクセプター標識からエネルギーが放出され、その放出されたエネルギーを、移行したポリマーの標識された単量体を同定し、それによってポリマーを配列決定するために検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2009年9月30日に出願された米国仮特許出願第61/277,939号(これは、その全体が参考として本明細書に援用される)の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
DNAは、ヌクレオチドと称される繰り返し単位からできた長い生体高分子である。DNAポリマーは、何百万のヌクレオチドを含有する巨大な分子であり得、例えばヒトゲノムは、合計30億のヌクレオチドを含有する。生物体では、DNAは通常、単一分子としてではなく、しっかりと会合した分子対として存在する。これらの2本の長い鎖は、つるのように、二重らせんの形状で絡み合う。ヌクレオチドの繰り返しは、鎖同士が一緒になるように保持するリン酸骨格と、へリックス内の他のDNA鎖と相互作用する塩基の両方を含有する。この2つのDNA鎖の塩基間の相互作用は水素結合と称され、この水素結合により二重らせんが一緒になるように保持される。アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)およびチミン(T)の4つの異なる種類の塩基がある。ある鎖内のそれぞれの種類の塩基は、相補鎖内のただ1種類の塩基としか水素結合を形成せず、AはTとのみ結合し、CはGとのみ結合する。
【0003】
4種の塩基の配列によってDNAに含有される遺伝情報が決まる。ポリ核酸の4種の構成要素の配列を明らかにすることは、配列決定と称されている。ポリ核酸は、直鎖状に化学的に結合したヌクレオシドの塩基を含む。「DNA」(デオキシリボ核酸)および「RNA」(リボ核酸)は、そのようなポリ核酸分子の例である。所与の遺伝子におけるこれらの塩基の特定の順序または「配列」により、その遺伝子にコードされるタンパク質の構造が決まる。さらに、遺伝子の周囲の塩基の配列は、一般には、どの細胞型で、どのくらいの頻度で特定のタンパク質が作られるべきかなどに関する情報を含有する。
【0004】
特定の個体における全てのDNAポリマーの完全なヌクレオチド配列は、個体の「ゲノム」として公知である。2003年にヒトゲノムプロジェクトが完了し、ヒトDNA配列のドラフト版が提示された。人類が月に到達したことの重要性と比較されたこの科学的な画期的な出来事を実現するために、13年、30億US$、および多数の配列決定をする施設の共同力がかかった。この巨大なプロジェクトのために使用された方法は、サンガー配列決定と称されている(非特許文献1およびSmithら、特許文献1)。この期間に主要な技術的な改善が行われたが、古典的な配列決定方法は、下記のいくつかの重要な不都合を有する:
・DNA断片を細菌にサブクローニングすることを含め、試料の調製が面倒であること
・自動化することが高価であること
・分子生物学試薬に法外な費用がかかること
・処理量が限られ、全ゲノムの配列決定を完了するために何年もかかること。
【0005】
多数の疾患は強力な遺伝成分を有する(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4)。ヒトゲノムプロジェクトが達成され、これまで疾患の分子基礎の理解が深まっていることにより、21世紀における医薬は「分子診断」と称される革新の態勢が整っている。分子診断における大部分の商業的手法および学術的手法では、DNAの異常を同定するために、単一ヌクレオチドの変異(SNP)または突然変異を査定する。これらの技術は有力であるが、解析されるのはゲノム全体のごく一部のみである。多量のDNAの配列を正確かつ急速に決定することができないことが、研究および薬物の開発の重要なネックのままである(非特許文献5)。明確に、より速く、より使いやすく、より安価な改善された配列決定技術の開発が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,821,058号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Sanger、F.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1977年)74巻、5463〜5467頁
【非特許文献2】Strittmatter、W.J.ら、Annual Review of Neuroscience、19巻(1996年):53〜77頁
【非特許文献3】Ogura、Y.ら、Nature、411巻、(2001年):603〜606頁
【非特許文献4】Begovich、A.B.ら、American Journal of Human Genetics、75巻、(2004年):330〜337頁
【非特許文献5】Shaffer、C.、Nat Biotech、25巻(2007年):149頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に記載のバリエーションは、生物学的なポリマーの配列組成を検出するための方法、システムおよび/またはデバイスに関する。例えば、標識されたポアまたはナノポア、および標識された単量体構成要素を有する生物学的なポリマーを利用する、超高速のポリマー配列決定をすることができる方法およびデバイスが、本明細書に記載されている。
【0009】
生体分子または生物学的なポリマー、例えば核酸を配列決定するための方法およびシステムが提供される。ポアまたはナノポアに位置づけられている、付着している、または接続されている1種または複数種のドナー標識を照光する、または別の方法で励起させることができる。1種または複数種のアクセプター標識で標識されたポリマーを、ナノポアを通して移行(translocate)させることができる。例えば、1種または複数種のアクセプター標識で標識された1つまたは複数の単量体を有するポリマーを、ナノポアを通して移行させることができる。ポリマーの標識された単量体または分子がナノポアを通過する、それから出る、またはそれに入る前、その後に、またはその間のいずれかに、アクセプター標識がドナー標識の近傍にくると、単量体またはポリマーの励起したドナー標識からアクセプター標識にエネルギーが転移し得る。エネルギー転移の結果として、アクセプター標識からエネルギーが放出され、その放出されたエネルギーを、単量体、例えば、検出されるアクセプター標識のエネルギー放出に関連づけられる移行した核酸分子のヌクレオチドを同定するために、検出または測定する。核酸または他のポリマーについて、検出または測定されたアクセプター標識からのエネルギー放出および単量体または単量体サブユニットの同定に基づいて推定または配列決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1Aは、ポア標識が付着している合成ナノポアのバリエーションを例示している。図1Bは、ポア標識が付着しているタンパク質ナノポアのバリエーションを例示している。
【図2−1】図2Aは、合成ナノポア上のポア標識と合成ナノポアを通って移行している核酸上の核酸標識との間のFRET(フェルスター共鳴エネルギー転移)相互作用の1つのバリエーションを例示している。図2Bは、FRETが起こっていない時点における、合成ナノポアを通る標識された核酸の移行を例示している。
【図2−2】図2Cは、タンパク質ナノポア上のポア標識とタンパク質ナノポアを通って移行している核酸上の核酸標識との間のFRET相互作用の1つのバリエーションを例示している。図2Dは、FRETが起こっていない時点における、タンパク質ナノポアを通る標識された核酸の移行を例示している。
【図3】図3は、タンパク質ナノポアのドナー標識(量子ドット)と核酸のアクセプター標識との間の多色FRET相互作用の1つのバリエーションを例示している。核酸上のそれぞれの形状は特定のアクセプター標識を表し、ここで、各標識は、各標識が特定のヌクレオチドに関連づけられる特定の波長において光を放出するように、特定のヌクレオチドに関連づけられる別個の放出スペクトルを有する。
【図4A】図4Aは、単独で標識された核酸を利用した核酸の配列決定からの部分的なコンティグを例示している。
【図4B】図4Bは、どのようにして部分的なコンティグアラインメントから最初のドラフト核酸配列を生成することができるかを例示している。
【図5−1】図5Aは、合成ナノポア上のポア標識と合成ナノポアを通って移行している核酸上の核酸標識との間のクエンチング相互作用の1つのバリエーションを例示している。図5Bは、クエンチングが起こっていない時点における、合成ナノポアを通る標識された核酸の移行を例示している。
【図5−2】図5Cは、タンパク質ナノポア上のポア標識とタンパク質ナノポアを通って移行している核酸上の核酸標識との間のクエンチング相互作用の1つのバリエーションを例示している。図5Dは、クエンチングが起こっていない時点における、タンパク質ナノポアを通る標識された核酸の移行を例示している。
【図6】図6は、ドナーである量子ドットおよびアクセプターであるフルオロフォアを含有するFRET対からの吸収/放出スペクトルの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
生物学的なポリマーまたは生体分子(例えば、核酸)を配列決定するための方法および/またはシステムは、ポアまたはナノポアに付着している1種または複数種のドナー標識を励起させるステップを含んでよい。生物学的なポリマーを、ポアまたはナノポアを通して移行させることができ、ここで、生物学的なポリマーの単量体は1種または複数種のアクセプター標識で標識されている。標識された単量体が、ポアまたはナノポアを通過する、それから出る、またはそれに入るとともに、その後に、またはその前に、単量体の励起したドナー標識からアクセプター標識にエネルギーが転移し得る。エネルギー転移の結果としてアクセプター標識により放出されたエネルギーは、アクセプター標識により放出されたエネルギーが生物学的なポリマーの単一のまたは特定の単量体(例えば、ヌクレオチド)に対応し得る、またはそれに関連づけられ得る場合に検出することができる。次に、生物学的なポリマーの配列について、標識された単量体を同定することを可能にする単量体のアクセプター標識により放出されたエネルギーを検出することに基づいて推定または配列決定することができる。ポア、ナノポア、チャネルまたは通路、例えば、イオン浸透性のポア、ナノポア、チャネルまたは通路を、本明細書に記載のシステムおよび方法において利用することができる。
【0012】
ナノポアエネルギー転移配列決定(NETS)を使用して、核酸を配列決定することができる。NETSにより、全ゲノムの配列を、現在の費用の何分の1かで数日以内に決定することが可能であり得、これにより、疾患を理解すること、診断すること、モニターすること、および治療することが改革される。このシステムまたは方法では、ポアのシス(−)側面またはトランス(+)側面のいずれか一方の側面が、異なるエネルギー吸収体またはドナー標識、例えば、フルオロフォア、蛍光タンパク質、量子ドット、金属ナノ粒子、ナノダイヤモンドなどの1つまたは多数、またはその組み合わせで標識されているポアまたはナノポア(合成のまたはタンパク質ベースの)を利用することができる。ナノポアを標識する多数の標識および方法は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,528,258号に記載されている。
【0013】
ナノポアを通る電場を印加することによって、核酸を、ナノポアに通すことができる(Kasianowicz、J.J.ら、Characterization of individual polynucleotide molecules using a membrane channel. Proc. Natl.Acad. Sci USA、93巻(1996年):13770〜13773頁)。ナノポアを通して移行させる核酸に、天然に存在するヌクレオチドが、標識された、エネルギー放出性、もしくはエネルギー吸収性の対応物、または後でエネルギー放出性、もしくはエネルギー吸収性の標識、すなわち、アクセプター標識で修飾することができる修飾された対応物と交換される標識化反応を受けさせることができる。次に、標識された核酸はナノポアを通して移行し、ナノポアに入ったとき、それから出たとき、またはそれを通過している間に、標識されたヌクレオチドがナノポアまたはドナー標識の極めて近傍にくる。例えば、ナノポアのドナー標識の1〜10nmまたは1〜2nmの範囲内。ドナー標識に適切な波長の放射を連続的に照射して、ドナー標識を励起させることができる。FRETと称される双極子−双極子エネルギー交換機構(Stryer、L. Annu Rev Biochem.、47巻(1978年):819〜846頁)によって、励起したドナー標識から、バイパスする(bypassing)核酸またはアクセプター標識にエネルギーが転移する。次いで、励起したアクセプター標識から、例えば、ドナー標識を励起させるために使用した放射よりも低いエネルギーで放射が放出され得る。このエネルギー転移機構により、励起放射を、単一ヌクレオチドの規模でシグナルを生成するために十分な分解能でアクセプター標識と相互作用するように「焦点を合わせる」ことが可能になる。
【0014】
ナノポアは、分子が基材を通過することを可能にする、基材に位置する任意の開口を含んでよい。例えば、ナノポアにより、そうでなければその基材を通過することができない分子が通過することが可能になる。ナノポアの例としては、タンパク質性またはタンパク質ベースのポアまたは合成ポアが挙げられる。ナノポアは、1〜10nmまたは1〜5nmまたは1〜3nmの内径を有してよい。
【0015】
タンパク質ポアの例としては、これらに限らないが、アルファ溶血素、電位依存性のミトコンドリアのポリン(VDAC)、OmpF、OmpC、MspAおよびLamB(マルトポリン)が挙げられる(Rhee、M.ら、Trends in Biotechnology、25巻(4号)(2007年):174〜181頁)。単一の核酸分子の移行を可能にする任意のタンパク質ポアを使用することができる。ポアタンパク質は、ポアの外側の特定の部位において、または、ポア形成性のタンパク質を成している単量体単位の1つまたは複数の外側の特定の部位において、標識することができる。
【0016】
合成ポアは、さまざまな形態の固体基材に創出することができ、その例としては、これらに限らないが、シリコーン(例えば、Si3N4、SiO2)、金属、金属酸化物(例えばAl2O3)、プラスティック、ガラス、半導体材料、およびそれらの組み合わせが挙げられる。合成ナノポアは、脂質二重層膜内に位置づけられている生物学的なタンパク質ポアより安定であり得る。
【0017】
合成ナノポアは、種々の方法を使用して創出することができる。例えば、合成ナノポアは、数千電子ボルト(eV)のエネルギーを持つ大量のイオンが表面に発射されると、浸食プロセスが引き起こされ、最終的にナノポアが形成されるイオンビームスカルプティング(Li、J.ら、Nature、412巻(2001年):166〜169頁)によって創出することができる。合成ナノポアは、潜在的な飛跡エッチングによって創出することができる。例えば、単一の円錐形の合成ナノポアは、ポリマー基材において、単一の、エネルギーが大きいイオンの潜在的な飛跡を化学的にエッチングすることによって創出することができる。それぞれのイオンにより、ポリマー箔にエッチング可能な飛跡が生じ、1ポアの膜が形成される(Heins、E.A.ら、Nano Letters、5巻(2005年):1824〜1829頁)。合成ナノポアは、電子ビームに誘導される微調整と称される方法によって創出することもできる。種々の材料中のナノポアが、FIBによる穴あけおよび電子(E)ビームリソグラフィー、その後のEビームで補助する微調整の技法などの先進的なナノファブリケーション技法によって製作されている。適切な強度の電子ビームを印加すると、予め調製したナノポアは縮小し始める。ポアの直径の変化を、TEM(透過形電子顕微鏡)を使用してリアルタイムでモニターすることができ、これにより、ナノポアが任意の所望の寸法になったところで電子ビームのスイッチを切るためのフィードバック機構がもたらされる(Lo、C.J.ら、Nanotechnology、17巻(2006年):3264〜67頁)。
【0018】
合成ナノポアは、適切な基材、例えば、これらに限定されないが、重合したエポキシなどに包埋された炭素ナノチューブを使用することによって創出することもできる。炭素ナノチューブは、均一かつ明確に定義された化学的性質および構造的性質を有してよい。1〜数百ナノメートルにわたる種々の大きさにした炭素ナノチューブを得ることができる。炭素ナノチューブの表面電荷は、約ゼロであることが公知であり、結果として、ナノポアを通る核酸の電気泳動輸送が単純かつ予測可能になる(Ito、T.ら、Chem. Commun.、12巻(2003年):1482〜83頁)。
【0019】
ポアは、2つの側面を有してよい。一方の側面は、「シス」側面と称され、(−)負極または負に荷電した緩衝剤/イオンの区画または溶液に面する。他方の側面は、「トランス」側面と称され、(+)電極または正に荷電した緩衝剤/イオンの区画または溶液に面する。ナノポアを通して印加された電場、例えば、ナノポアのシス側面に入って、ナノポアのトランス側面から出る電場によって、標識された核酸分子または核酸ポリマーなどの生物学的なポリマーを、ポアを通して引き寄せる、または押し進めることができる。
【0020】
ナノポアまたはポアは、1種または複数種のドナー標識で標識することができる。例えば、ナノポアのシス側面もしくは表面および/またはトランス側面もしくは表面を1種または複数種のドナー標識で標識することができる。標識は、ポアまたはナノポアの基部に、またはナノポアもしくはポアを成している別の部分または単量体に付着させることができる。標識は、ナノポアがその全体にわたっている膜もしくは基材の一部に、または膜、基材もしくはナノポアに付着しているリンカーもしくは他の分子に付着させることができる。ナノポアまたはポア標識は、ポア標識が、ポアを通して移行する生物学的なポリマー、例えば核酸のアクセプター標識の近傍にくることが可能なように、ナノポア、基材または膜の上に位置づける、またはそれに付着させることができる。ドナー標識は、同じまたは異なる放出スペクトルまたは吸収スペクトルを有してよい。
【0021】
ポア構造の標識化は、共有結合性または非共有結合性の相互作用によって実現することができる。そのような相互作用の例としては、これらに限らないが、水素結合に基づく相互作用、疎水性の相互作用、静電気的な相互作用、イオン性の相互作用、磁気相互作用、ファンデルワールス力、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0022】
ドナー標識は、核酸がナノポアを通して移行することを害する遮蔽を引き起こすことなく、ナノポアの開口部のできるだけ近くに置くことができる(例えば、図1を参照されたい)。ポア標識は、種々の適切な性質および/または特性を有してよい。例えば、ポア標識は、特定の要件に適う、エネルギーを吸収する性質を有してよい。ポア標識は、例えば約0〜1000nmまたは約200〜500nmにわたる大きな放射エネルギー吸収断面を有してよい。ポア標識は、核酸標識のエネルギー吸収よりも高い特定のエネルギー範囲内の放射を吸収してよい。2つの標識間でエネルギー転移が起こり得る距離を調節するために、ポア標識の吸収エネルギーを核酸標識の吸収エネルギーに対してチューニングすることができる。ポア標識は、少なくとも10回または10回の励起およびエネルギー転移サイクルに対して安定かつ機能性であってよい。
【0023】
図1Aは、ポア/基材の集合体1のバリエーションを示す。ポア/基材の集合体1は、ポア標識6が付着している合成ポアまたはナノポア2を含む。集合体は、基材4、例えば、固体基材も含んでよく、合成ナノポア2が基材4に位置づけられている。合成ナノポア2はトランス(+)側面において1つまたは複数のポア標識6で修飾されている。ポア標識6は、合成ナノポア2の基部に、標識6が、核酸が合成ナノポア2を通して移行することに巻き込まれる、またはそれを害することのないように付着されている。
【0024】
図1Bは、ポア/脂質二重層集合体10のバリエーションを示す。ポア/脂質二重層集合体10は、ポア標識16が付着しているタンパク質ナノポア12を含む。集合体は、脂質二重層14も含んでよく、タンパク質ナノポア12が脂質二重層14に位置づけられている。タンパク質ナノポア12は、トランス(+)側面において、1つまたは複数のポア標識16で修飾されている。ポア標識16はタンパク質ナノポア12の基部に、標識16が、核酸が合成ナノポア12を通して移行することに巻き込まれる、またはそれを害することのないように付着されている。
【0025】
タンパク質ナノポアは、リン脂質二重層またはその誘導体に包埋することができる。リン脂質は、これらに限定されないが、ジフィタノイルホスファチジルコリン(diphytanoyl−phospatidylcoline)、ダイズのアゾレクチン、1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンで構成される。脂質二重層は、異なるリン脂質の混合物で調製することもできる。リン脂質に対する可能性のある溶媒は、ヘキサデカン、ペンタン、クロロホルムまたは任意の他の適切な有機溶媒である。脂質二重層は、当業者に公知のさまざまなやり方で調製することができる。
【0026】
ポアタンパク質を有する脂質二重層(例えば、上記のリン脂質を含めた)は、以下の方法に従って調製することができる:1〜100μmの開口部を有する10〜25μmの厚いテフロン(登録商標)膜(隔膜)により、テフロン(登録商標)でできた2つの緩衝剤区画を分離する。それぞれの側面において隔膜/開口部をペンタン中10%のヘキサデカンで準備刺激し、溶媒を蒸発させた後、緩衝剤区画を1モル濃度のKClで満たす。1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(Avanti、ペンタン中10mg/mL)をそれぞれの緩衝剤区画に加え、脂質単分子層を残してペンタンを蒸発させる。必要に応じて、チャンバー内の液体のレベルを、開口部の上下まで上昇、低減させることにより、脂質二重層の形成を引き起こす。二重層の形成を、Ag/AgCl電極を介して電位を印加することによって測定する。
【0027】
二重層が形成されたら、イオン電流を完全に排除する。二重層を定位置にしてポアタンパク質の希薄溶液をシス−チャンバーに加える。ポアタンパク質は、例えば、これらに限定されないが、アルファ溶血素、電位依存性のミトコンドリアのポリン(VDAC)、炭疽ポリン(Anthrax porin)、OmpF、OmpCおよびLamB(マルトポリン)などのタンパク質のグループから選択される。ポアは自己組織化し、脂質二重層内に組み込まれる。ポアタンパク質の組み込みは、小さいが一定の電流によって測定することができる。一般には、1つの挿入された溶血素ポアに+120mV(ミリボルト)の電位を印加するとおよそ120pA(ピコアンペア)のイオン電流を流すことができる。膜は、これらに限定されないが、アガロース、ポリアクリルアミドなどを含めたポリマー構造の第2の層によって保護することができる(Kang、X.−F.ら、J Am Chem Soc.、129巻(2007年):4701〜4705頁)。
【0028】
膜が損傷を受けたら、ポア/膜集合体およびポアに追加的な安定性および支持を与えるように、種々のポリマーまたは分子を、内部にポアタンパク質を有する脂質二重層に付着させることができる。
【0029】
ポア標識は、1種または複数種の量子ドットを含んでよい。量子ドットは、適切なポア標識に見いだされる上記の性質および特性の多くまたは全てを有することが実証されている(Bawendi M.G.、US6,251,303)。量子ドットは、ナノメートル規模の半導体の結晶であり、その結晶半径がボーア(Bohr)励起子の半径よりも小さいので、強力な量子閉じ込めを示す。量子閉じ込めの効果に起因して、量子ドットのバンドギャップは、結晶サイズが減少すると共に増加し、したがって、結晶サイズを調節することによって光学的性質をチューニングすることが可能になる(Bawendi M.G.ら、US7,235,361およびBawendi M.G.ら、US6,855,551)。
【0030】
ポア標識として利用することができる量子ドットの1つの例は、水性に合成することができるCdTe量子ドットである。CdTe量子ドットは、第一級アミン、チオールなどの求核基またはカルボン酸などの官能基で官能性をもたせることができる。CdTe量子ドットは、量子ドットを、タンパク質ポアの外側の第一級アミンに共有結合的に連結させるために利用することができるカルボン酸官能基を有するメルカプトプロピオン酸キャップ形成リガンドを含んでよい。架橋反応は、バイオコンジュゲーションの当業者に公知の標準の架橋試薬(ホモ二官能性の試薬ならびにヘテロ二官能性の試薬)を使用して実現することができる。修飾により、核酸がナノポアを通して移行することが害されない、または実質的に害されないことを確実にするために気をつけることができる。これは、ドナー標識をナノポアに付着させるために使用する、使用架橋剤分子の長さを変動させることによって実現することができる。
【0031】
天然のアルファ溶血素タンパク質のリシン残基131の第一級アミン(Song、L.ら、Science、274巻、(1996年):1859〜1866頁)を使用して、カルボキシ修飾されたCdTe量子ドットを、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩/N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(EDC/NHS)カップリング化学によって共有結合させることができる。
【0032】
1つまたは複数のポア標識をポアタンパク質に付着させるための種々の方法、機構および/または経路を利用することができる。ポアタンパク質は、公知の性質または種々の官能基を有するアミノ酸が天然のタンパク質配列に導入されるように遺伝子操作することができる。天然に存在するタンパク質配列のそのような修飾は、量子ドットをポアタンパク質にバイオコンジュゲーションするために有利であり得る。例えば、システイン残基を導入することにより、直接的に量子ドットを結合させること、例えば、CdTe量子ドットをポアタンパクに結合させることを可能にし得るチオール基が導入されることになる。同様に、リシン残基を導入することにより、量子ドットを結合させるための第一級アミンが導入されることになる。グルタミン酸またはアスパラギン酸を導入することにより、量子ドットを結合させるためのカルボン酸部分が導入されることになる。これらの基は、ホモ二官能性架橋剤分子またはヘテロ二官能性架橋剤分子のいずれかを使用する、量子ドットとのバイオコンジュゲーションのために受け入れられる。バイオコンジュゲーションのための官能基を導入することを目的とする、ポアタンパク質に対するそのような修飾は、当業者に公知である。修飾により、核酸がナノポアを通して移行することが害されない、または実質的に害されないことを確実にするために注意を払うべきである。
【0033】
ナノポア標識は、前記ナノポアを脂質二重層に挿入する前、またはその後にタンパク質ナノポアに付着させることができる。脂質二重層に挿入する前に標識を付着させる場合、ナノポアの基部を標識し、ポアタンパク質がランダムに標識されることを回避するために注意を払うことができる。これは、ポアタンパク質を、ポア標識の部位特異的な付着を可能にするように遺伝子操作することによって実現することができる(0047節を参照されたい)。この手法の利点は、標識されたナノポアの大量生産である。あるいは、予め挿入されたナノポアの標識化反応により、ポアタンパク質を遺伝子操作せずに、標識がナノポアの基部(トランス−側面)に部位特異的に付着すること確実にすることができる。
【0034】
生物学的なポリマー、例えば、核酸分子または核酸ポリマーを、1種または複数種のアクセプター標識で標識することができる。核酸分子について、4種のヌクレオチドのそれぞれ、または核酸分子の構成要素を、アクセプター標識で標識し、それによって、それぞれの天然に存在するヌクレオチドに対する標識された(例えば、蛍光)対応物を創出することができる。アクセプター標識は、変換される核酸の部分または鎖全体の1つまたは複数のヌクレオチドに付着させることができるエネルギー受容分子の形態であってよい。
【0035】
種々の方法を利用して、核酸分子または核酸ポリマーの単量体またはヌクレオチドを標識することができる。標識されたヌクレオチドは、元の試料を鋳型として使用する新しい核酸の合成中に核酸に組み入れることができる(「合成による標識化」)。例えば、核酸の標識化は、PCR、全ゲノム増幅、ローリングサークル増幅、プライマー伸長などによって、または当業者に公知の上記の方法の種々の組み合わせおよび進展によって実現することができる。
【0036】
核酸の標識化は、標識を有する修飾されたヌクレオチド類似体の存在下で核酸を複製し、それによりその標識が新しく生成する核酸に組み入れられることによって実現することができる。標識化プロセスは、二次的な標識化ステップにおいてエネルギー受容部分に共有結合的に付着させるために使用することができる官能基を有するヌクレオチド類似体を組み入れることによっても実現することできる。そのような複製は、全ゲノム増幅(Zhang、L.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89巻(1992年):5847頁)または鎖置換増幅、例えば、ローリングサークル増幅、ニックトランスレーション、転写、逆転写、プライマー伸長およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、縮重オリゴヌクレオチドプライマーPCR(DOP−PCR)(Telenius、H.ら、Genomics、13巻(1992年):718〜725頁)など、または上記の方法の組み合わせによって実現することができる。
【0037】
標識は、求核試薬(アミン、チオールなど)などの反応性基を含んでよい。そこで、そのような天然の核酸には存在しない求核試薬を使用して、例えば、NHSエステル、マレイミド、エポキシ環、イソシアネートなどのアミンまたはチオール反応性化学によって蛍光標識を付着させることができる。そのような求核試薬反応性蛍光色素(すなわちNHS色素)は、種々の供給源から容易に購入することができる。核酸を小さな求核試薬で標識することの利点は、「合成による標識化」手法を使用したときに、そのような標識されたヌクレオチドが組み入れられる効率が高いことにある。かさのある蛍光標識された核酸構成要素は、重合プロセスの間の標識の立体障害に起因して、新しく合成されるDNAにポリメラーゼに組み入れられにくい可能性がある。
【0038】
DNAは、標識されたヌクレオチドのポリメラーゼに媒介される組み入れを伴わず、直接化学修飾することができる。修飾の1つの例としては、グアニン塩基をそれらのN7位において修飾する色素含有シス−白金が挙げられる(Hoevel、T.ら、Bio Techniques、27巻(1999年):1064〜1067頁)。別の例としては、ピリミジンを、C6位においてヒドロキシルアミンで修飾して6−ヒドロキシルアミノ誘導体を導くことが挙げられる。生じたアミン基は、アミン反応性色素(例えばNHS−Cy5)でさらに修飾することができる。
【0039】
核酸分子は、核酸と反応すると、5−ブロモシステイン、8−ブロモアデニンおよび8−ブロモグアニンをもたらすN−ブロモスクシンイミドで直接修飾することができる。修飾されたヌクレオチドは、ジアミン求核試薬とさらに反応し得る。次いで、残りの求核試薬をアミン反応性色素(例えばNHS色素)と反応させることができる(Hermanson G. in BioconjugateTechniques、Academic Press、1996年、ISBN978−0−12−342336−8)。
【0040】
核酸鎖内の1つ、2つ、3つまたは4つのヌクレオチドの組み合わせを、それらの標識された対応物と交換することができる。標識されたヌクレオチドの種々の組み合わせについて平行して配列決定すること、例えば、供給源の核酸またはDNAを、4つの単一標識された試料に加えて、2つの標識されたヌクレオチドの組み合わせで標識して、合計10個の違うように標識された試料核酸分子または試料DNA(G、A、T、C、GA、GT、GC、AT、AC、TC)をもたらすことができる。生じた配列パターンにより、重複している配列読み取りにおいて重なっているヌクレオチドの位置によって、より正確な配列アラインメントが可能になり得る。
【0041】
ポリマー、例えば核酸分子を配列決定するための方法は、膜または膜様構造または他の基材に挿入するナノポアまたはポアタンパク質(または合成ポア)を準備するステップを含む。ポアの基部または他の部分を、1つまたは複数のポア標識で修飾することができる。基部とは、ポアのトランス側面を称し得る。場合によって、ポアのシス側面および/またはトランス側面を、1つまたは複数のポア標識で修飾することができる。分析または配列決定される核酸ポリマーを、標識されたバージョンの核酸ポリマーを作製するための鋳型として使用することができ、それにより、生じたポリマーの4種のヌクレオチドの1つまたは4種のヌクレオチド全てに至るまでが、ヌクレオチドの標識された類似体(複数可)で置き換えられる。標識された核酸ポリマーをナノポアに強制的に通す電場を印加し、同時に外部の単色のまたは他の光源を使用してナノポアを照光し、それによってポア標識を励起させることができる。核酸の標識されたヌクレオチドがナノポアを通過する、それから出る、またはそれに入るとともに、その後に、またはその前に、ポア標識からヌクレオチド標識にエネルギーが転移し、それにより、より低いエネルギー放射放出がもたらされる。次いで、ヌクレオチド標識の放射を共焦点顕微鏡装置または他の光学検出システムまたは当業者に公知の、単一分子を検出することができる光学顕微鏡システムによって検出する。そのような検出システムの例としては、これらに限らないが、共焦点顕微鏡、落射蛍光顕微鏡および内部全反射蛍光(TIRF)顕微鏡が挙げられる。標識された単量体を有する他のポリマー(例えば、タンパク質および核酸以外のポリマー)も、本明細書に記載の方法に従って配列決定することができる。
【0042】
エネルギーは、標識された単量体がナノポアまたはポアから出る、それに入る、またはそれを通過するとともに、その後に、またはその前に、ポリマーのアクセプター標識された単量体(例えば、ヌクレオチド)のアクセプター標識がドナー標識と相互作用すると、ポアまたはナノポアのドナー標識(例えば、量子ドット)からポリマー(例えば、核酸)上のアクセプター標識に転移し得る。例えば、ドナー標識は、ドナー標識とアクセプター標識との間の相互作用またはエネルギー転移が、標識された単量体がナノポアを出て、ナノポアチャネルまたは開口の外側のドナー標識の付近または近傍にくるまで起こらないように、ナノポアのシスまたはトランスの側面または表面上に位置づける、またはそれに付着させることができる。結果として、標識間の相互作用、ドナー標識からアクセプター標識へのエネルギー転移、アクセプター標識からのエネルギーの放出および/またはアクセプター標識からのエネルギーの放出の測定または検出は、ナノポアを通って流れる通路、チャネルまたは開口の外側、例えば、ナノポアのシス側面またはトランス側面上のシスチャンバーまたはトランスチャンバー内で起こり得る。単量体のアクセプター標識から放出されたエネルギーを測定または検出することを利用して、単量体を同定することができる。
【0043】
ナノポア標識は、標識が目に見え、または露出して標識の励起または照光を助長することができるように、ナノポアの通路、チャネルまたは開口の外側に位置づけることができる。ドナー標識とアクセプター標識との間の相互作用およびエネルギー転移、ならびにエネルギー転移の結果としてのアクセプター標識からのエネルギーの放出は、ナノポアの通路、チャネルまたは開口の外側で起こり得る。これにより、アクセプター標識からのエネルギーまたは光の放出を、例えば、光学的な検出または測定デバイスによって検出または測定することをより容易に、より正確にすることができる。ドナー標識とアクセプター標識の相互作用はナノポアのチャネル内部で起こってよく、ドナー標識をナノポアのチャネル内に位置づけることができる。
【0044】
ドナー標識は、種々の様式で、かつ/またはナノポアの種々の部位に付着させることができる。例えば、ドナー標識は、ナノポアの部分または単位に直接的に、または間接的に付着させる、または接続することができる。あるいは、ドナー標識は、ナノポアの近接に位置づけることができる。
【0045】
ポリマー(例えば、核酸)のアクセプター標識された単量体(例えば、ヌクレオチド)のそれぞれは、ポリマーが移行するナノポアまたはチャネルに、もしくはその隣に位置する、または、それに直接もしくは間接的に付着しているドナー標識と逐次的に相互作用し得る。ドナー標識とアクセプター標識との間の相互作用は、ナノポアのチャネルまたは開口の外側で、例えば、アクセプター標識された単量体がナノポアを出た後で、または単量体がナノポアに入る前に起こり得る。相互作用は、ナノポアのチャネルまたは開口の内部で、または部分的にその内部で、例えば、アクセプター標識された単量体がナノポアを通過しているとき、それに入ったとき、またはそれから出たときに起こり得る。
【0046】
核酸の4種のヌクレオチドのうち1つを標識する場合、単一ヌクレオチド標識の放出から生じる時間依存的なシグナルを、核酸配列における標識されたヌクレオチドの位置に対応する配列に変換する。次いで、このプロセスを、4種のヌクレオチドのそれぞれに対して別々の試料中で繰り返し、次いで、4つの部分配列をアラインメントして全体の核酸配列を組み立てる。
【0047】
多色標識された核酸(DNA)配列を分析する場合、核酸分子に存在し得る1種または複数種のドナー標識から4種の別個のアクセプター標識のそれぞれにエネルギーが転移することにより、直接配列を読み取ることを可能にする4種の別個の波長または色の光(それぞれが4種のヌクレオチドの1つに関連づけられる)が放出され得る。
【0048】
核酸分子を配列決定する間、エネルギー転移シグナルを、単一ヌクレオチドがナノポアを通過する時間内に感度のよい検出システムに十分なシグナルが蓄積され得る十分な強度で生成して、標識されたヌクレオチドと標識されていないヌクレオチドを区別することができる。したがって、ポア標識は、安定であってよく、高吸収断面積、短い励起状態の寿命、および/または時間的に均一な励起およびエネルギー転移の性質を有してよい。ヌクレオチド標識は、ヌクレオチドがポアを通過する時間中に検出される十分な放射を放出すること、および吸収することができ得る。エネルギー転移断面の生成物、放出速度、および放出の量子収率により、単一ヌクレオチドが通過する時間内に検出されるために十分な放射強度がもたらされ得る。ヌクレオチド標識は、必要な放射強度を放出し、放射放出が一時的にならないためにも十分に安定であってよい。
【0049】
励起放射の供給源は、ナノポア上の回析限界に焦点を合わせたときに、放射束がポア標識を飽和させるために十分であるような十分に高い強度のものであってよい。検出システムにより、励起放射およびポア標識の放出を選別して取り除きながら、ポアが、標識されたヌクレオチドと標識されていないヌクレオチドを高い確実性で区別するために十分なシグナル対ノイズ比(S/N)で通り過ぎる間に核酸標識の放出を捕捉することができる。収集された核酸標識の放射は、単一ヌクレオチドのポア通過時間と等しい積分時間にわたって計数することができる。
【0050】
次に、ビンに入った放射強度シグナルを、特定のヌクレオチドに対応する配列に変換するソフトウェアシグナル解析アルゴリズムを利用することができる。4つの個々のヌクレオチド配列の組み合わせおよびアラインメント(それぞれの配列の4種のヌクレオチドのうちの1つを標識する場合)により、特別に設計されたコンピュータアルゴリズムによって完全な核酸配列を構築することが可能になる。
【0051】
1つまたは複数の生物学的なポリマー、例えば核酸分子を配列決定するためのシステムは、取付け具またはポア保持器を含んでよい。ポア保持器は、1つまたは複数のナノポアが脂質二重層膜を貫通しているナノポア膜集合体を含んでよい。ナノポア膜集合体は、シス(−)側面およびトランス(+)側面を有する。1種または複数種の標識をナノポアに付着させることができる。あるいは、標識を、ナノポアがその全体にわたっている膜もしくは基材の一部に、または膜、基材もしくはナノポアに付着しているリンカーもしくは他の分子に付着させることができる。ナノポア膜集合体を囲む緩衝水溶液が提供される。ポア保持器は、2つの電極を含有してよい。負極または負端子をナノポア膜集合体のシス側面に位置づけることができ、正極または正端子をナノポア膜集合体のトランス側面に位置づけることができる。
【0052】
移行したポリマーまたは核酸が、ナノポアを通して移行した後に出てくるナノポアの側面に、流体または溶液の流れがもたらされる。流れは、流体または溶液が長期間にわたって変化がないままにならないように、連続的または一定であってよい。流体の流れ、または動きは、移行したポリマーがなかなか消えない、またはナノポアチャネルの出口または開口に蓄積され、ポリマーのアクセプター標識により放出されたエネルギーの正確な読み取り、測定または検出を攪乱する、または妨げる可能性がある蛍光バックラウンドまたはノイズが引き起こされることがないように、移行したポリマーをナノポアチャネルから離れて移動または転移させるのに役立つ。移行したポリマーは、完全に使い尽くされていない、すなわちそれらの蛍光の寿命に到達しておらず、なお光を放出することができる標識を含んでよい。そのような標識は、ドナー標識と、後の単量体標識との間のエネルギー転移に干渉し得るか、または他の標識からの放出に干渉し得るエネルギーを放出し、標識された単量体からのエネルギーの正確な読み取りまたは検出を攪乱する。
【0053】
分析される1つまたは複数のポリマー、例えば、核酸ポリマーまたは核酸分子も提供され得る。ポリマーまたは核酸ポリマーまたは核酸分子は、1種または複数種の標識、例えば、標識することができるポリマーの1つまたは複数の単量体またはヌクレオチドを含んでよい。核酸分子を、ナノポア膜集合体のシス側面に位置づけられたポートに負荷することができる。この膜により、分析される核酸がナノポア膜集合体のシス側面に隔離される。ナノポア標識を励起させるためのエネルギー供給源、例えば、照光源が提供される。例えば、電極に、または電極によって電場を印加して、標識された核酸を強制的に、一列で、膜のシス側面からトランス側面に、ナノポアのシス側面から入ってトランス側面から出るようにナノポアを通して移行させることができる(Kasianowicz、J.J.ら、Proc. Natl.Acad. Sci USA、93巻(1996年):13770〜13773頁)。場合によって、他の機構を利用して電場を印加して、標識された核酸を、強制的にナノポアを通して移行させることができる。核酸分子がナノポアを通して移行し、標識されたヌクレオチドが、例えば、ナノポアから出ると同時に、または出た後にナノポア標識の極めて近傍にくると、励起したナノポア標識からヌクレオチド標識にエネルギーが転移する。ナノポア標識からヌクレオチド標識にエネルギーが転移した結果としてヌクレオチド標識から放出されたエネルギーを検出または測定するための検出器または検出システム、例えば、光学検出システムも提供され得る。
【0054】
ポアは、量子ドット、金属ナノ粒子、ナノダイヤモンドまたはフルオロフォアの形態の1種または複数種のドナー標識で標識することができる。ポアは、単色のレーザー放射によって照光することができる。単色のレーザー放射により、回析限界スポットに焦点を合わせて量子ドットポア標識を励起させることができる。標識された核酸(例えば、フルオロフォアの形態のアクセプター標識で標識された)はナノポアを通して移行し、ポアのドナー標識(同様に「ポア標識」または「ドナー標識」)とヌクレオチドのアクセプター標識が互いに極めて近傍にきて、ポアのドナー標識と核酸のアクセプター標識との間のFRET(フェルスター共鳴エネルギー転移)エネルギー交換相互作用に関与する(Ha、T.ら、Proc. Natl.Acad. Sci USA、93巻(1996年):6264〜6268頁)。
【0055】
FRETは、ドナーからアクセプターであるフルオロフォアへの無放射双極子−双極子エネルギー転移機構である。FRETの効率は、ドナーとアクセプターとの間の距離、ならびにフルオロフォアの性質に左右され得る(Stryer、L.、Annu Rev Biochem.、47巻(1978年):819〜846頁)。
【0056】
フルオロフォアは、所与のエネルギーの光を吸収し、その光を異なるエネルギーで再放出することができる任意の構築物であってよい。フルオロフォアとしては、例えば、有機分子、希土類イオン、金属ナノ粒子、ナノダイヤモンドおよび半導体量子ドットが挙げられる。
【0057】
図2Aは、合成ナノポア22上のポアのドナー標識26と、合成ナノポア22を通って移行している核酸27(例えば、一本鎖核酸または二本鎖核酸)上の核酸のアクセプター標識28との間のFRET相互作用の1つのバリエーションを示す。合成ナノポア22は、基材24に位置づけられている。FRETは、ドナー標識26からアクセプター標識28(例えば、フルオロフォア)への無放射双極子−双極子エネルギー転移機構である。エネルギー転移の効率は、他の変数の中でも、アクセプター標識28とドナー標識との間の物理的な距離に左右される。
【0058】
核酸のヌクレオチド上に位置づけられている核酸のアクセプター標識28は、例えば、標識28または標識されたヌクレオチドがナノポア22から出るとともに、または出た後に、励起したナノポアのドナー標識26の極めて近傍に移動し、FRETによって励起される(ポア標識26から核酸標識28へのエネルギー転移を示す矢印Aによって示される)。結果として、核酸標識28によって特定の波長の光が放出され、次にそれを、放出された光の検出された波長に対応する、またはそれに関連づけられる標識されたヌクレオチドを同定するために、適切な光学的な機器または検出システムを用いて検出することができる。
【0059】
図2Bは、FRETが起こっていない時点(アクセプターとドナー標識が互いに十分に近傍になっていないことに起因する)における、標識された核酸27の移行を示す。これは、ポア標識26と核酸標識28との間のエネルギー転移を示すいかなる矢印もないことによって示される。
【0060】
図2Cは、タンパク質性またはタンパク質のナノポア32上のポアのドナー標識36とタンパク質ポアまたはナノポア32を通って移行している核酸37(例えば、一本鎖核酸または二本鎖核酸)上の核酸のアクセプター標識38との間のFRET相互作用の1つのバリエーションを示す。ポアタンパク質32は、脂質二重層34に位置づけられている。核酸のヌクレオチド上に位置づけられている核酸のアクセプター標識38は、例えば、標識38または標識されたヌクレオチドがナノポア32から出るとともに、または出た後に、励起したナノポアのドナー標識36の極めて近傍に移動し、FRETによって励起される(ポア標識36から核酸標識38へのエネルギー転移を示す矢印Aによって示される)。結果として、核酸標識38によって、放出された光の検出された波長に対応する、またはそれに関連づけられる標識されたヌクレオチドを同定するために適切な光学的な機器または検出システムを用いて検出することができる特定の波長の光が放出される。
【0061】
図2Dは、FRETが起こっていない時点(標識が互いに十分に近傍になっていないことに起因する)における、標識された核酸37の移行を示す。これは、ポアのドナー標識36と核酸標識38との間にエネルギー転移を示す矢印がないことによって示される。
【0062】
3つの方程式も以下に示す:方程式(1)は、ドナーからアクセプターへのエネルギー転移の効率が50%になる距離と定義されるフェルスター半径をもたらす。フェルスター距離は、屈折率(n)、ドナーの量子収率(Q)、空間的な方向(K)およびアクセプターのスペクトルとドナーのスペクトルの、スペクトルの重なり(I)に依存する。Nはアボガトロ数であり、N=6.022×1023mol−1である(下の方程式を参照されたい)。方程式(2)は、それぞれドナーおよびアクセプターの放出スペクトルおよび吸収スペクトルに不可欠な重なりを説明する;方程式(3)は、アクセプターとドナーの対の間の距離に応じたFRETエネルギー転移の効率を示す。この方程式により、スペクトルの重なりによって、FRET対間の所与の距離についてのエネルギー転移の効率を決定するフェルスター半径が調節されることが実証される。したがって、ドナーの放出波長をチューニングすることによって、エネルギー転移が起こる距離を調節することができる。
【0063】
【化1】

量子ドットに関して、量子ドットのサイズ依存的な光学的性質に起因して、ドナーの放出波長を調整することができる。これにより、ドナーによる放出とアクセプターによる吸収との間のスペクトルの重なりを調整することが可能になり、したがってFRET対についてフェルスター半径を調節することができる。量子ドットの放出スペクトルは幅が狭く(例えば、完全幅の最大半量、FWHMが25nmであることは個々の量子ドットに典型的である)、また、放出波長はサイズによって調整することができ、それにより、量子ドットのサイズを変更することによってドナー標識−アクセプター標識の相互作用の距離を調節することができる。量子ドットの別の重要な属性は、それらの広範な吸収スペクトルであり、それにより、アクセプター標識を直接励起させないエネルギーで量子ドットを励起させることが可能になる。この性質により、適正に選択されたサイズの量子ドットを使用して、個々の標識されたヌクレオチドを、標識されたヌクレオチドがドナー標識されたポアを進むとともに、その後に、またはその前に励起させるために十分な分解能を有するエネルギーを効率的に転移させることが可能になる。
【0064】
FRETエネルギー転移の後、ポアのドナー標識は電子の基底状態に戻り得、ヌクレオチドのアクセプター標識から、より低いエネルギーで放射が再放出され得る。フルオロフォア標識されたヌクレオチドを利用する場合、フルオロフォアアクセプター標識から転移したエネルギーにより、アクセプター標識の放出された光子がもたらされる。アクセプター標識の放出された光子は、ポア標識による放出よりも低いエネルギーを示し得る。蛍光ヌクレオチド標識を検出するためのシステムを、ドナー標識(例えば、量子ドットドナー)およびレーザー励起からの放出を選別して取り除きながら、アクセプター標識による放出波長において最大数の光子を収集するために設計することができる。この検出システムにより、時間に応じて、標識された単量体からの光子を計数する。光子の計数値を、例えば、ナノポアを横切る核酸ポリマー内の単一ヌクレオチドを含む単量体の移行時間に対応する時間間隔でビンに入れる。光子の計数値におけるスパイクは、ポアを渡って移行している標識されたヌクレオチドに対応する。核酸を配列決定するために、所与のヌクレオチドについての配列情報を、時間に応じた、光子の計数値におけるスパイクのパターンによって決定する。光子の計数値の増加が、標識されたヌクレオチドと解釈される。
【0065】
ナノポアを通る核酸ポリマーの移行は、ナノポアを通るイオンの流れから生じる電流を測定することによってモニターすることができる。移行している核酸により、ポアを通るイオンの流動が部分的に遮断され、それにより電流が測定可能に急降下する。したがって、電流の急降下が検出されることにより、ポアに入っている核酸が検出されることが表され、電流が元の値に回復することにより、ポアから出ている核酸が検出されることが表される。
【0066】
上記の通り、多色FRET相互作用を利用して、核酸などの分子を配列決定する。図3は、タンパク質ナノポア42(場合によって、合成ナノポアを利用することができる)の1種または複数種のドナー標識46(例えば、量子ドット)と核酸分子47(例えば、一本鎖核酸または二本鎖核酸)の1種または複数種のアクセプター標識48との間の多色FRET相互作用の1つのバリエーションを示す。核酸47上の各形状は、ヌクレオチドを標識している特定の種類のアクセプター標識を表し、それぞれの標識は、それぞれの標識から、特定のヌクレオチドに関連づけられる特定の波長または色の光が放出されるように、特定のヌクレオチドに関連づけられる、またはそれに対応する別個の放出スペクトルを有する。
【0067】
図3において、4つの形状(三角形、四角形、星印、円)のそれぞれは特異的なアクセプター標識48を表し、それぞれの標識は別個の放出スペクトル(例えば、4つの異なる放出スペクトル)を有する。アクセプター標識48のそれぞれが、ナノポアの基部に付着している対応するドナー標識または量子ドット46とFRET対を形成することができる。Qdot1およびQdot2は、核酸のアクセプター標識48と特異的なFRET対を形成するドナー標識46のような2つの異なる量子ドットを表す。量子ドットドナー標識46は、励起状態にあり、標識されたヌクレオチドが、ナノポア42を通って移行している間、その後に、またはその前に、量子ドットの近傍にくる特定のアクセプター標識48に依存し、ドナー標識46からヌクレオチドのアクセプター標識48へのエネルギー転移(矢印A)が起こり、その結果、ヌクレオチド標識48からエネルギーが放出される。結果として、それぞれのヌクレオチドから、特定の波長または色(ヌクレオチドの標識の別個の放出スペクトルに起因する)の光が放出され得、それを検出することができ(例えば、光学的に検出することによって)、それを使用して、核酸47のヌクレオチド配列を同定または推定し、核酸47を配列決定することができる。
【0068】
異なる最大吸収スペクトルを示す異なるポア標識を、単一のポアに付着させることができる。対応するアクセプター色素で標識されたヌクレオチドで核酸を修飾することができ、ここで、各ドナー標識は、1つのアクセプター標識されたヌクレオチドとFRET対を形成する(すなわち多色FRET)。4種のヌクレオチドのそれぞれは、ポアのドナー標識の1つまたは複数によって励起される特異的なアクセプター標識を含有してよい。ポアの基部を異なる色の光源で照光して、異なるドナー標識の励起を適応させることができる。あるいは、例えば、量子ドットをドナー標識として使用する場合、量子ドットの広範な吸収スペクトル特性により、単一の波長の光源によって異なるスペクトルの最大吸収を示す異なるドナー標識を十分に照光する/励起させることが可能になり得る。
【0069】
単一のポアのドナー標識(例えば、単一の量子ドット)は、1つの核酸のアクセプター標識を励起させるために適している可能性がある。例えば、4つの異なるポアのドナー標識を提供し、各ドナー標識によって4つの異なる核酸のアクセプター標識のうちの1つを励起させ、それにより4つの別個の波長を放出させることができる。単一のポアのドナー標識(例えば、単一の量子ドット)は、ドナー標識放出スペクトルと重なっている同様の吸収スペクトルを有し、異なる放出スペクトル(すなわち、異なるストークスシフト)を示す2つ以上の核酸のアクセプター標識を励起させるために適している可能性があり、ここで、それぞれのアクセプター標識は、単一のドナー標識によって励起された後、異なる波長で光を放出する。2つの異なるポアのドナー標識(例えば、異なる放出スペクトルまたは吸収スペクトルを有する2つの量子ドット)は、異なる放出スペクトルまたは励起スペクトルを有する4つの核酸のアクセプター標識を励起させるために適している可能性があり、それぞれから異なる波長で光が放出される。あるドナー標識または量子ドットにより、核酸のアクセプター標識の2つを励起させ、その結果それらから異なる波長で光を放出させることができ得、他の量子ドットにより、他の2つの核酸のアクセプター標識を励起させ、その結果それらから異なる波長で光を放出させることができ得る。上記の配置により、それぞれの核酸のアクセプター標識から、正確に検出するためのきれいな別個の波長が放出される。
【0070】
ナノポアは、1つまたは複数の単量体または付着ポイントを含んでよく、例えば、7つの単量体のそれぞれにおける約7つの付着ポイントが、アルファ溶血素などの特定のタンパク質ナノポアを成している。1つまたは複数の異なるドナー標識、例えば、付着ポイントのそれぞれに1つずつ量子ドットが付着してよい、例えば、ナノポアには、最大7つの異なる量子ドットが付着してよい。単一のドナー標識または量子ドットを使用して、4つの異なる核酸のアクセプター標識の全てを励起させ、その結果、例えば、バイオセンサーアプリケーションにおいて分子を検出するため、または分子の存在を検出するために適した一般的な波長を放出させることができる。
【0071】
多色FRET相互作用を利用する場合に生のシグナルデータを蓄積するために、4つの異なるアクセプター標識の放出波長を時間および放出波長に応じて選別し、記録することができ、それにより配列情報の直接的な読み取りがもたらされる。
【0072】
上記の通り、核酸を配列決定するために、核酸試料を4つの部分に分けることができる。4つの核酸またはDNAの試料を、標識された相補的な核酸ポリマーを合成するための鋳型として使用することができる。4つの核酸試料のそれぞれを、4種のヌクレオチド(グアニン、アデニン、シトシンまたはチミン)のうちの1つが、ヌクレオチドの標識された対応物で置き換えられるように変換することができる、またはそうでなければ、標識をそれぞれのヌクレオチドに付着させることによって標識することができる。それぞれのヌクレオチドに対して同じ標識を使用することができる、または場合によって、異なる標識を使用することができる。残りのヌクレオチドは、天然に存在する核酸の構成要素である。場合によって、2つの、3つのまたはそれぞれの核酸のヌクレオチドを、別個のアクセプター標識を保有するヌクレオチドで置き換えることができる。
【0073】
それぞれが同じアクセプター標識で、または場合によって、異なるアクセプター標識で標識された1つのヌクレオチドを有する4つの試料に分割した標的核酸と一緒に単一ヌクレオチド標識を利用して配列の読み取りを実施するために、4つの部分配列を1つのマスター配列に(i)補正し、(ii)定義し、(iii)アラインメントする、特別に設計されたアルゴリズムを利用することができる。各部分配列は、全ゲノム配列に照らして、4種のヌクレオチドの1つの相対的な位置を示し、したがって、各ヌクレオチドの位置を決定するために4つの配列決定反応が必要になり得る。
【0074】
アルゴリズムにより、核酸が非能率的に標識されたことに起因して欠けている塩基を補正することができる。DNA分子内の1種類のヌクレオチドを、ヌクレオチドの蛍光対応物で完全に置換することができる。標識化における種々の非能率により、この置換による適用範囲が100%未満になり得る。蛍光標識されたヌクレオチドは、通常、およそ99%の純度になる、すなわち、およそ1%のヌクレオチドが標識を保有しない。したがって、修飾されたヌクレオチドが100%組み入れられたときでさえ、1%のヌクレオチドは標識されていない可能性があり、ナノポア転移配列決定によって検出されない可能性がある。
【0075】
この問題の1つの解決法は、配列決定される核酸の適用範囲を重複させることである。各配列を多数回、例えば、配列決定反応当たり少なくとも50回読み取ることができる(すなわち、50倍の重複性)。したがって、アルゴリズムにより、50配列が比較され、それにより、各ヌクレオチドの呼び出しについての統計学的に有効な決定が可能になる。
【0076】
アルゴリズムにより、鋳型核酸における配列決定されたヌクレオチドの相対的な位置を規定することができる。例えば、移行プロセス中に電流を遮断する時間を使用して、検出されたヌクレオチドの相対的な位置を決定することができる。2つのシグナルの出現の相対的な位置および時間をモニターし、ヌクレオチドの互いに対する位置を決定するために使用することができる。場合によって、上記の方法の組み合わせを使用して、配列におけるヌクレオチドの位置を決定することができる。
【0077】
分析される核酸またはDNAを、4つの試料に分離することができる。各試料を使用して、ヌクレオチドの1つの形態(A、G、T、またはC)を、ヌクレオチドの蛍光対応物と交換する。4つの別々のナノポア配列決定反応により、光学的に検出することによってDNA試料における4種のヌクレオチドの相対的な位置を明らかにすることができる。次に、コンピュータアルゴリズムにより、4つのサブ配列を1つのマスター配列にアラインメントする。特定の波長または色の光を放出することができる同じアクセプター標識を4つの試料全てにおいて利用することができる。場合によって、異なる波長放出を有する異なる標識を利用することができる。
【0078】
例えば、図4Aは、単独で標識された核酸を利用した核酸の配列決定からの部分的なコンティグを示す。4つの別々のナノポア配列決定反応が起こる。同じ種類のヌクレオチドのアクセプター標識によって創出される4つの別々のナノポア配列決定反応のそれぞれにより、4種のヌクレオチドのうちの1つの相対的な位置を示すサブ配列が生成する。各配列の重複している適用範囲により、統計学的に有効な塩基の呼び出しおよび読み取りを確実にすることができる。コンピュータアルゴリズムを利用して、多数の網羅されているサブ配列(すなわち、G−コンティグ、A−コンティグ、T−コンティグおよびC−コンティグ)の一般的な共通因子である4つの部分的なコンティグ配列を推定することができる。
【0079】
図4Bは、どのようにして部分的なコンティグアラインメントから最初のドラフト核酸配列を生成することができるかを示す。例えば、第2のバイオインフォマティクス的なステップは、4つのコンティグのアラインメントを含む。ソフトウェアにより、互いに補完する4つのコンティグの適合する配列のひと続きが検索される。このステップにより、完成したドラフト配列がもたらされる。
【0080】
場合によって、光学的な読み取り/検出および電気的な読み取り/検出の両方を利用して、核酸を配列決定することができる。電気的な読み取りを利用して、配列内の標識されていないヌクレオチドの数を測定して、核酸配列における検出された標識されたヌクレオチドの相対的な位置の査定に役立たせることができる。ナノポアを通る電流の変化およびその電流の変化の持続時間を測定することによって核酸の長さを算出することができる。本明細書に記載の方法およびシステムでは、光学的な読み取りまたは標識された単量体によるエネルギー放出または光の放出を光学的に検出することを単独で利用して、単量体を同定し、その配列を決定すること、および単量体を含むポリマーを配列決定することができる。場合によって、光学的な読み取りまたは検出および電気的な読み取りまたは検出の組み合わせを使用することができる。
【0081】
ヌクレオチドのアクセプター標識は、転移したエネルギーをクエンチすることができるクエンチャーの形態であってよい。クエンチングヌクレオチド標識の場合では、ポアのドナー標識からの放射放出は、標識されたヌクレオチドがドナー標識の近傍にあるときに減少する。クエンチングポア標識を検出するためのシステムを、レーザー励起放射を選別して取り除きながらポア標識から収集される放射を最大にするために設計する。クエンチング標識について、ポア標識、例えば量子ドットの光子の計数値の減少は、標識されたヌクレオチドと解釈される。
【0082】
図5Aは、合成ポアまたはナノポア52上のポアのドナー標識56と合成ナノポア52を通って移行している核酸57(例えば、一本鎖核酸または二本鎖核酸)上の核酸クエンチング標識58との間のクエンチング相互作用のバリエーションの1つを示す。合成ナノポア52は、基材54、例えば、固体基材に位置づけられている。
【0083】
ポア標識56を連続して、または実質的に連続して照光している間、ポア標識56によって、適切な光学検出システムまたは他の検出システムで検出されるある特定の波長の光が放出される。核酸57のヌクレオチド上に位置づけられているクエンチング標識58が、例えば、標識58または標識されたヌクレオチドがナノポア52から出るとともに、または出た後にポア標識56の極めて近傍にきて、それによってポア標識56がクエンチされる。クエンチング標識58は、照光されたポア標識56からのエネルギーを吸収することによって働き(矢印Bによって示されている)、ポア標識56から光子放出を引き起こして変化する。例えば、クエンチングは、変化、例えば、ナノポア標識により放出される光子の減少または縮小などを検出することによって検出することができる。ある程度の光子放出の変化は、核酸分子の単一ヌクレオチドに関連づけられる、またはそれに対応する可能性があり、したがって、核酸分子の配列を、クエンチング標識によって引き起こされる、ドナー標識による光子放出における変化を検出することに基づいて推定することができる。
【0084】
図5Bは、クエンチングが起こっていない時点における(標識が互いに十分に近傍になっていないことに起因する)、標識された核酸57の移行を示す。これは、ポア標識56と核酸標識58との間にエネルギー転移を示すいかなる矢印もないことによって示される。
【0085】
図5Cは、タンパク質性またはタンパク質のポアまたはナノポア62上のポアのドナー標識66とタンパク質ナノポア62を通って移行している核酸67(例えば、一本鎖核酸または二本鎖核酸)上の核酸クエンチング標識68との間のクエンチング相互作用の1つのバリエーションを示す。タンパク質ナノポア62は、脂質二重層64に位置づけられている。
【0086】
ポア標識66を連続して照光している間、ポア標識66により、適切な光学検出システムまたは他の検出システムで検出されるある特定の波長の光が放出される。核酸67のヌクレオチド上に位置づけられているクエンチング標識68は、例えば、標識68または標識されたヌクレオチドがナノポア62から出るとともに、または出た後にポア標識66の極めて近傍にきて、それによって、ポア標識66がクエンチされる(矢印Bによって示されている)。このクエンチングを、ナノポア標識から放出された、測定された光子の減少または激減によって検出する。
【0087】
図5Dは、クエンチングが起こっていない時点における(標識が互いに十分に近傍になっていないことに起因する)、標識された核酸67の移行を示す。これは、ポア標識66と核酸標識68との間にエネルギー転移を示すいかなる矢印もないことによって示される。
【0088】
上記のエネルギー転移反応、エネルギー放出またはポア標識のクエンチングは、標識または標識されたヌクレオチドがナノポアに、例えば、ナノポアのシス側面から入るとともに、またはその前に起こり得る。
【0089】
フルオロフォアの間欠性または急速な光退色を伴わずにエネルギーを連続的に放出させるように標識化システムを設計することができる。例えば、ポア保持器の緩衝剤区画は、酵素的、化学的または電気化学的な手段によってシステムから溶存酸素を除去し、それによって、フルオロフォアで標識された核酸の光退色を低下させる酸素枯渇システムを含有してよい。
【0090】
酸素枯渇システムは、溶存酸素と選択的に反応する構成成分を含有する緩衝溶液である。配列決定用緩衝溶液から酸素を除去することは、フルオロフォア標識の光退色を防ぐために役立つ。酸素枯渇緩衝剤の組成の例は、以下の通りである:10mMのトリス−Cl、pH8.0、50mMのNaCl、10mMのMgCl2、1%(v/v)の2−メルカプトエタノール、4mg/mlのグルコース、0.1mg/mlのグルコースオキシダーゼ、および0.04mg/mlのカタラーゼ(Sabanayagam、C.R.ら、J. Chem. Phys.123巻(2005年):224708頁)。緩衝剤を使用する前に超音波処理によって脱気して、まず酸素を機械的に除去することによって緩衝剤の有用な寿命を延長する。次に、緩衝剤システムにより、グルコースオキシダーゼによってグルコースを酵素的に酸化することによって酸素を除去する。
【0091】
配列決定用緩衝剤は、量子ドットで標識されたポアおよびフルオロフォアで標識された核酸の一方、または両方における、「明滅」とも称される蛍光間欠性を防ぐ構成成分も含有してよい。明滅の現象は、励起したフルオロフォアが無放射のトリプレットの状態に移行する際に起こる。個々のフルオロフォアが、フルオロフォアが、フルオロフォアの放出と暗闇状態を行ったり来たりする明滅として公知の蛍光間欠性を示し得る。明滅は、配列決定スキームのある特定の態様に干渉し得る。明滅は、防ぐことができる、またはそのままにすることができる。トリプレットの状態が、多くの有機フルオロフォアにおける明滅の原因であり、その明滅は、トリプレットの状態をクエンチする化学物質で抑制することができる。
【0092】
Trolox(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸)などの分子が、フルオロフォアまたはCy5などの色素に対する明滅を排除することにおいて有効である(Rasnik、I.ら、Nat Methods、11巻(2006年):891〜893頁)。ある特定の量子ドットは明滅を示し得るが、メルカプトプロピオン酸の存在下で水相合成によって作製されたCdTe量子ドットは、明滅せずに連続的に放出することが最近示された(He、H.ら、Angew. Chem. Int.編、45巻(2006年):7588〜7591頁)。CdTe量子ドットは、水溶性であり、量子収率が高く、メルカプトプロピオン酸リガンドの末端カルボン酸基を通して直接コンジュゲートすることができるので、本明細書に記載の方法において利用される標識として申し分なく適している。
【0093】
標識は、光退色および明滅に耐性にすることができる。効率的な酸素枯渇システムを用いて、Cy5フルオロフォアを、不可逆的に分解する前に約10サイクルの励起および放出にかけることができる。入射レーザー光が十分に高い効率のものであれば、そのCy5フルオロフォアの励起は、Cy5フルオロフォアの蛍光の寿命によって決定される光子放出の速度よりも飽和している(放出のすぐ後に再励起される)。Cy5フルオロフォアは1nsのオーダーの寿命および想定されるFRET効率10%を有するので、10,000個に至る光子が、ナノポアを横断するCy5で標識されたヌクレオチドとして放出され得る。単一分子を検出するために使用する顕微鏡の光収集における効率は一般にはおよそ3%である。これにより、所与の標識に対して約300個の光子を検出することができ、これにより、単一の塩基を検出するための、十分に高いシグナル対ノイズ比が提供される。
【0094】
ポリマーまたは核酸を、適切な直径を有する(直径は、変動してよく、例えば、直径は約2〜6nmであってよい)ナノポアを通して、毎秒およそ1,000〜100,000ヌクレオチドまたは毎秒1,000〜10,000ヌクレオチドのスピードで移行させることができる。核酸の各塩基を、別個のフルオロフォアで蛍光標識することができる。ナノポアの基部を量子ドットで標識することができる。ヌクレオチド標識が量子ドットの極めて近傍にくると、無放射の、量子共鳴エネルギー転移が起こり、その結果、ヌクレオチド標識から特定の波長の光が放出される。
【0095】
図6は、ドナーである量子ドットおよびアクセプターであるフルオロフォアを含有するFRET対からの吸収/放出スペクトルの例を示す。量子ドットの特徴的な広範な吸収ピーク(細い破線)により、より長い放出波長を検出することに干渉しない短い励起波長が可能になる。量子ドットの放出ピーク(細い実線)は、アクセプターであるフルオロフォア(太い破線)の吸収ピークを伴う有意なスペクトルの重なりを有する。この重なりにより、量子ドットからフルオロフォアにエネルギーが転移し得、次いでフルオロフォアから特定の波長の光子(太い実線)が放出される。その後に、これらのフルオロフォアから放出された光子を適切な光学系によって検出する。エネルギー転移の効率は、ドナーとアクセプターとの間の距離に大いに左右され得、フェルスター半径と称されるところでの効率は50%である。
【0096】
配列決定は、1つまたは複数のポアまたはナノポアを同時に利用することによって実施することができる。例えば、配列決定プロセスを促進し、多くの核酸分子または他の生物学的なポリマーについて同時に配列決定するために、複数のナノポアを、1つまたは複数の脂質二重層または基材において、平行して、または任意の立体配置に位置づけることができる。
【0097】
複数のポアは、回転可能な円板または基材上に構成することができる。ドナー標識または量子ドットが実質的に、または完全に使用された、消耗しきった、または使い尽くされたとき(すなわち、それらが、それらの蛍光の寿命に到達したとき)、円板または基材を回転させ、それによって、新鮮なドナー標識または量子ドットを有する新鮮なポアを、核酸を受けとる場所に置き、配列決定を続ける。ポアを通して核酸を引き寄せる電場は、円板を回転している間はオフにし、その後、新しいポアが配列決定のための位置についたら、オンに戻すことができる。場合によって、電場は連続したままにすることができる。
【0098】
本明細書に記載され、例示されている個々のバリエーションのそれぞれは、容易に、任意の他のバリエーションの特徴から分離すること、またはそれと組み合わせることができる別個の構成成分および特徴を有する。改変を行って特定の状況、材料、組成物、プロセス、プロセスの行為(複数可)またはステップ(複数可)を本発明の目的(複数可)、主旨または範囲に適合させることができる。
【0099】
本明細書に列挙されている方法では、列挙されている事象を、事象が列挙されている順序で行うだけでなく、論理的に可能性がある任意の順序で行うことができる。さらに、さまざまな値が提供される場合、その範囲の上限と下限の間に入るあらゆる値および任意の他の明示された値、またはその明示された範囲の間に入る値は、本発明の範囲内に包含される。また、記載されている本発明のバリエーションのいかなる任意選択の特徴も、それぞれ独立に、または本明細書に記載の特徴の任意の1つまたは複数と組み合わせて規定し、特許請求することができる。
【0100】
本明細書で言及した全ての現存する主題(例えば、刊行物、特許、特許出願およびハードウェア)は、その主題が本発明の主題と矛盾する可能性がある場合(その場合、本明細書に存在するものがまさる)を除く限りではその全体が参照により本明細書に組み込まれる。参照された項目は、単に本出願の出願日前のそれらの開示についてのみ提供される。本明細書におけるいずれも、先行発明によって本発明がそのような材料に先行する権利がないことを容認するものであると解釈されるべきではない。
【0101】
単数形の項目を参照することは、同じ項目が複数存在する可能性を包含する。より詳細には、本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される、単数形、「a(1つの)」、「an(1つの)」、「前記」および「the(その)」は、文脈によりそうでないことが明確に規定されない限り、複数の指示対象を包含する。特許請求の範囲は、いかなる任意選択の要素も排除するように立案することができることにも留意する。そのように、この記述は、特許請求の範囲の要素の列挙に関連して「単に」、「のみ」などの排他的な用語を使用すること、または、「否定的な」限定を使用することの先行詞としての機能を果たすものとする。別段の定義のない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。
【0102】
本開示は、記載されている特定の形態の範囲に限定されるものではないが、本明細書に記載のバリエーションの代替形態、改変形態、および均等物を包含するものとする。さらに、本開示の範囲は、本開示を考慮すれば当業者に明白になり得る他のバリエーションを完全に包含する。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーを配列決定するための方法であって、
ナノポアに付着しているドナー標識を励起させるステップと;
アクセプター標識で標識された単量体を含むポリマーを、前記ナノポアを通して移行させるステップと;
標識された前記単量体が前記ナノポアを通過し、前記ナノポアから出た後に、励起した前記ドナー標識から前記単量体の前記アクセプター標識にエネルギーを転移させるステップと;
前記エネルギー転移の結果として前記アクセプター標識により放出されたエネルギーを検出するステップであって、前記アクセプター標識により放出された前記エネルギーが単一の単量体に関連づけられる、ステップと;
前記アクセプター標識により放出された前記エネルギーの前記検出、および前記単量体の同定に基づいて前記ポリマーの配列を推定するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記ナノポアを通る電場を印加することによって、標識された前記ポリマーを前記ナノポアに通す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ドナー標識が量子ドットである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アクセプター標識がフルオロフォアである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
異なる最大放出スペクトル(spectral emission maxima)を示す複数のドナー標識がナノポアに付着し、それぞれが特定の単量体と関連づけられる別個の吸収/放出スペクトルを有する複数のアクセプター標識がポリマーに付着し、前記ポリマーのそれぞれのアクセプター標識された単量体が、検出され、前記ポリマーの配列決定に使用される特定の波長を放出するように、各ドナー標識および対応するアクセプター標識がFRET(フェルスター共鳴エネルギー転移)相互作用を起こす、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記アクセプター標識により放出された前記エネルギーを検出するステップが、前記アクセプター標識により放出され、特定のヌクレオチドに関連づけられる特定の波長を光学的に検出することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマーが核酸であり、前記単量体がヌクレオチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
4種のヌクレオチド塩基のうちの1つを標識し、ヌクレオチド標識の放出から生じる時間依存的なシグナルを、核酸配列における標識された前記ヌクレオチドの位置に対応する核酸配列に変換する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記4種のヌクレオチドのそれぞれについて別々の試料で繰り返され、4つの部分配列が推定され、次にアラインメントされて、全体の核酸配列が組み立てられる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ポリマーを配列決定するためのシステムであって、
脂質二重層膜を貫通するドナー標識されたナノポアを有し、負に荷電した側面および正に荷電した側面を有するナノポア膜集合体と;
前記ナノポア膜集合体の周囲の緩衝水溶液と;
前記ナノポア膜集合体の前記負に荷電した(シス)側面に位置づけられた負極と;
前記ナノポア膜集合体の前記正に荷電した(トランス)側面に位置づけられた正極と;
前記ナノポア膜集合体の前記負に荷電した側面に位置づけられたポートに負荷される、アクセプター標識を有する単量体を含むポリマーと;
前記ナノポア標識を励起させるためのエネルギー供給源と;
標識された前記ポリマーを、一列で、前記負に荷電した側面から前記正に荷電した側面まで、前記ナノポアを通して強制的に移行させるための、前記電極によって印加される電場であって、標識された前記単量体が前記ナノポアを通過し、前記ナノポアを出て前記ナノポア標識の近傍にきた後に、前記ナノポア標識から前記単量体標識にエネルギーが転移する、電場と;
前記ナノポア標識から前記単量体標識への前記エネルギー転移の結果として前記単量体標識から放出されたエネルギーを検出するための光学検出器であって、前記放出されたエネルギーが単一の単量体に関連づけられ、前記ポリマーの前記配列決定を促進する、光学検出器と
を含む、システム。
【請求項11】
前記ナノポアが1種または複数種の量子ドットで標識されており、前記ポリマーが1種または複数種のフルオロフォアで標識されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
複数のポリマーを同時に配列決定することができるように、複数のナノポアが平行して前記膜に組み入れられている、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記ナノポアを回転させて相互交換(interchange)することができるように、回転可能な円板に複数のナノポアが組み入れられている、請求項10に記載のシステム。
【請求項14】
前記ポリマーが核酸であり、前記単量体がヌクレオチドである、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
ポリマーを配列決定するための方法であって、
ナノポアに付着しているドナー標識を励起させるステップと;
クエンチング標識で標識された単量体を含むポリマーを、前記ナノポアを通して移行させるステップと;
標識された前記単量体が前記ナノポアを通過し、前記ナノポアから出た後に、励起した前記ドナー標識のエネルギー放出を前記単量体の前記クエンチング標識でクエンチするステップと;
前記ドナー標識を前記クエンチング標識でクエンチした結果としての、前記ドナー標識による光子放出における変化を検出するステップであって、ある程度の光子放出の変化が前記ポリマーの単一の単量体に関連づけられるステップと;
前記ドナー標識による光子放出における前記変化の前記検出、および前記単量体の同定に基づいて前記ポリマーの配列を推定するステップと
を含む、方法。
【請求項16】
前記ポリマーが核酸であり、前記単量体がヌクレオチドである、請求項15に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2−1】
image rotate

【図2−2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5−1】
image rotate

【図5−2】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2013−506418(P2013−506418A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532069(P2012−532069)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2010/034809
【国際公開番号】WO2011/040996
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(512074375)クアンタポール, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】