説明

標識システム

【課題】水性液体(特に、ディーゼル排ガスからNOを除去すべく選択的触媒還元系に加えるために使用される尿素水溶液)をトレースするための方法が開示する。
【解決手段】所定量のフェノール類を含んだトレーサーを水性液体に加えることを含む。所定量の4−アミノアンチピリンを含有する試薬とサンプルとを、開始化合物の存在下にて、液体中における試薬とフェノール類との反応により発色団が生成するように反応させ、そして得られた発色団溶液の吸光度を測定することによって、水性液体を識別することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、水性液体を標識する際に使用するための標識法に関し、特に、排気物質(特に、ディーゼルエンジンからの排ガス)を処理するのに使用される選択的触媒還元系に使用するための尿素溶液を標識する際に使用するための標識法に関する。
【0002】
主として商用車に使用されている高馬力(heavy-duty)のディーゼルエンジンは、排ガスレベルに関して益々厳しい規制を受けている。したがって、有害な排ガス[特に、粒状物や窒素酸化物(NO)]を減らすための手段を有するエンジンを供給することが重要である。選択的触媒還元(SCR)は、NOを窒素に還元することによってNOの排出を減らすよう導入されている技術である。アンモニア−SCR系は、アンモニア(NH)とNOとを反応させて、窒素(N)と水(HO)を形成させる。この場合には、3つの反応経路が存在する。
【0003】
【化1】

【0004】
いかなるアンモニア源も使用することができるが、最も一般的なアンモニア源は尿素の水溶液である。尿素は、排気流れ中にて二段階で分解して、アンモニアと二酸化炭素(CO)を形成する。ヨーロッパにおいてこの目的用に販売されている尿素の商業規格形態は32.5%尿素水溶液[アドブルー(AdBlue)(商標)として知られている]であり、これはSCR系において使用するための尿素溶液に対するDIN70070基準に適合している。
【0005】
このような添加剤を導入する上で考慮すべき点は、容認された規制基準に適合した適切な品質の製品を使用する際の制御と監視である。多くの国における法的排ガス規制対策の導入に関して、SCR技術の使用が規制されるようになってきており、したがってこの技術の使用に対しては検査を受ける義務がある。SCR技術を使用して自動車によるNOの排出が適切にそして確実に制御されるよう、適合アドブルーの希釈や非適合供給源からのアドブルーの使用を、運輸当局の検査官が監視できるようになっていなければならない。本発明の目的は、SCR系に使用するための尿素溶液に対する標識システムを提供すること、および尿素を標識して、尿素溶液の供給源を測定する方法を提供することにある。
【0006】
本発明によれば、窒素酸化物の選択的触媒還元のプロセスに使用するのに適した尿素溶液が提供され、前記尿素溶液は、
a)30〜35%の尿素を含んだ尿素水溶液と、
b)フェノール類、任意の二次的トレーサー化合物、および任意の溶媒を含んだトレーサー組成物
との混合物を含む。
【0007】
本発明のさらなる態様によれば、30〜35%の尿素を含んだ尿素水溶液にトレーサー組成物を加えることを含む、窒素酸化物の選択的触媒還元のプロセスに使用するのに適した尿素溶液を製造する方法が提供され、ここで前記トレーサー組成物は、フェノール類、任意の二次的トレーサー化合物、および任意の溶媒を含む。
【0008】
本発明のさらに他の態様によれば、
a)少なくとも1種のフェノール類を含んだトレーサー組成物と水性液体とを混合して標識水性液体を作製すること;
b)所定量の4−アミノアンチピリンを含有する試薬と、前記標識水性液体のサンプルとを、開始化合物の存在下にて、液体中における該試薬とフェノール類との反応により発色団が生成するように反応させることによって、前記標識水性液体のサンプルを分析すること;および
c)得られた発色団溶液の光の吸収度を測定して、前記トレーサー化合物の濃度を決定すること;
を含む、水性液体を識別する方法が提供される。
【0009】
本発明のさらに他の態様によれば、
a)少なくとも1種のフェノール類を含有する所定量のトレーサー組成物と測定された量の水性液体とを混合して標識水性液体を作製すること;
b)前記標識水性液体の基準サンプルと、所定量の4−アミノアンチピリンを含有する試薬とを、開始化合物の存在下にて、液体中における該試薬とフェノール類との反応により発色団が生成するように反応させ、基準サンプルから作製した発色団溶液の吸光度を測定すること;
c)類似の水性液体の標的サンプルと、所定量の4−アミノアンチピリンを含有する試薬とを、開始化合物の存在下にて、液体中における該試薬とフェノール類との反応により発色団が生成するように反応させ、標的サンプルから作製した発色団溶液の吸光度を測定すること;および
d)標的サンプルから作製した発色団溶液の吸光度と、基準サンプルから作製した発色団溶液の吸光度とを比較して、基準サンプルに対する標的サンプルの類似性を決定すること;
を含む、水性液体の標的サンプルと類似の水性液体の基準サンプルとを比較する方法が提供される。
【0010】
この比較法においては、標的サンプルを分析するごとに、基準サンプルから作製した発色団溶液の吸光度を測定する必要はない。標的サンプルから作製した溶液からの吸光度と、標準的基準サンプル(a standard reference sample)からの予め測定してある吸光度測定値とを比較するのが簡便である。この吸光度測定値を、標的サンプルと標準的基準サンプルとの比較を容易にすべく適合されている測定機器に対してプログラムに組み込むことができる。比較法のステップb)とc)においては、必要に応じて、標的サンプルおよび/または基準サンプル中のトレーサー化合物の濃度を吸光度測定値から算出する(通常は、トレーサー化合物の既知標準濃度を使用して、吸光度のキャリブレーションと比較することによって)。標的サンプルが、トレーサー化合物を、基準化合物中のトレーサー濃度とほぼ同等もしくは全く同一の濃度で含有しているとどうかを調べるためにこの比較法が実施される場合は、トレーサー化合物の濃度の算出を行う必要はない。
【0011】
本発明のさらに他の態様においては、水性液体の標的サンプルと、類似の標識水性液体の基準サンプルとを比較するための識別システムは、
(i)少なくとも1種のフェノール類を含んだトレーサー組成物;
(ii)所定量の4−アミノアンチピリン;
(iii)4−アミノアンチピリン試薬と前記少なくとも1種のフェノール類との間にカップリング反応を起こさせて発色団溶液を生成させるための開始化合物;
(iv)前記発色団溶液を生成させるための反応時に、前記4−アミノアンチピリン、前記開始化合物、および前記サンプルを収容するための反応容器;ならびに
(v)(a)前記発色団溶液の吸収度を測定することができる比色計もしくは分光光度計、
(b)標的サンプルと試薬との反応によって形成される発色団溶液の吸光度と、基準サンプルと試薬との反応によって形成される発色団溶液の吸光度とを比較するためのデータ処理手段、および
(c)標的サンプル中のトレーサー化合物の濃度、および基準サンプル中のトレーサー化合物の濃度が、所定量より大きく異なっているかどうかを表示するための表示手段、
を含む、持ち運び可能な分析装置;
を含む。
【0012】
本発明のさらなる態様によれば、水性液体をトレースする方法は、所定量のフェノール類を含んだトレーサーを水性液体に加えること;引き続き前記液体をサンプリングすること;所定量の4−アミノアンチピリンを含有する試薬と前記サンプルとを、開始化合物の存在下にて、液体中における試薬とフェノール類との反応により発色団が生成するように反応させること;および、得られた発色団溶液の吸光度を測定すること;を含む。
【0013】
“標識水性液体”とは、一定量のトレーサー組成物と混合することによって変性されている水性液体を意味している。“基準サンプル”とは、既知濃度のトレーサー組成物を含有している標識水性液体のサンプルを意味している。“標的サンプル”とは、未知量のトレーサー組成物を含有しているか、あるいはトレーサー組成物を含有していない水性液体のサンプルを意味している。
【0014】
尿素溶液は、ディーゼルエンジンからの窒素酸化物の排出量を減らすためのSCR系用の尿素溶液に対するDIN70070基準にしたがって、32.5%尿素水溶液(アドブルー(登録商標)として商業的に知られている)を含むのが好ましい。
【0015】
“液体をトレースすること(tracing a liquid)”とは、液体に識別用トレーサーを加えること、そして引き続き液体のサンプル(標的サンプル)を分析してトレーサーを識別し、基準サンプルのトレーサー濃度と液体サンプルのトレーサー濃度とを比較し、液体サンプルが、トレーサーを加えた液体と実質的に同じであるかどうかを決定すること、を意味している。通常は、液体の製造時に、液体にトレーサーを加える。液体が流通用である場合は、そして流通経路を通して液体をトレースする必要がある場合は、流通の前にトレーサーを加える。液体がアドブルーであるときは、卸売り業者や小売業者(例えば、燃料販売店や給油場)に対して製造業者が、液体の流通の前にトレーサーを加えるのが好ましい。
【0016】
トレーサーは、液体であっても固体であってもよいが、水性液体に対して可溶性であるか、または混和性でなければならない。トレーサーはフェノール類(すなわち、フェノールや置換フェノール)である。適切な置換フェノールとしては、アルキルフェノール(例えば、2−メチルフェノールや2−エチルフェノール);アルコキシフェノール(例えば3−エトキシフェノール);およびヒドロキシフェノール(例えば、カテコールやヒドロキノン);などがある。フェノール類は、アルキル基、アリール基、ニトロ基、ベンゾイル基、ニトロソ基、またはアルデヒド基でパラ置換されていないのが好ましい。水性液体中のフェノール類の濃度は、0.1〜20ppm w/vの範囲であるのが好ましい。
【0017】
水性液体サンプル中のトレーサーの量は、フェノール類と4−アミノアンチピリンとの間のカップリング反応を含めた分光光度法によって求めるのが好ましい。フェノール類と3−メチル−2−ベンゾチアゾールヒドラゾンとのカップリング反応を含む代替法(水中のフェノール類を測定するための公知の分析法)も使用することができる。フェノール類と4−アミノアンチピリンとをカップリング反応させて発色団を形成させるという方法は、廃水中のフェノール類の量を測定するための、または体液を分析する(例えば、血液中のコレステロールを測定する)ための酵素法において使用するための、よく知られている分析法である。したがってこのような分析法は当業者によく知られている。このような方法についての説明が、「Lupetti et al,Talanta 62(2004)463−467」、「ASTM D1783 Test method B」、「APHA Standard Method 5530D」、および「EPA Methods for Chemical Analysis of Water and Wastes,Method 420.2」に記載されている。
【0018】
フェノール類と4−アミノアンチピリン(4−AAP)とをカップリング反応させて発色団を形成させることは、開始剤の存在下においてアルカリ性溶液中にて行われる。このカップリング反応は、フェノール類1モル当たり1モルの4−AAPを必要とする。4−アミノアンチピリン溶液は、一般には水溶液であり、この水溶液は、1リットル当たり約0.5g〜約30gの、さらに好ましくは1リットル当たり約1g〜約20gの4−アミノアンチピリンを含有してよい。4−アミノアンチピリンの使用量は、サンプル中の全てのフェノール類をカップリングさせるに足る量でなければならず、過剰の4−AAP[例えば、フェノール類1モル当たり少なくとも1.5モルの4−AAP(例えば、フェノール類1モル当たり約2モル〜約5モルの4−AAP)]をもたらすに足る量にて存在するのが好ましい。サンプル中に存在すると考えられるフェノール類の量が既知であるので(なぜなら、水性液体に加えたトレーサーの量が既知であるので)、使用すべき4−AAPの必要な量と濃度を算出することができる。pHは、9.8〜10.2の範囲であるのが好ましい。
【0019】
開始化合物は、4−アミノアンチピリンとフェノール類とのカップリング反応を起こさせて発色団を形成させるに足る濃度にて使用される。開始化合物は、フェリシアン化カリウムであってよい。通常は、4−アミノアンチピリン1モル当たり、約1モル〜少なくとも2モルのフェリシアン化カリウムが供給される。カップリング溶液中のフェリシアン化カリウムの濃度は約0.05%〜約2%の範囲であるのが好ましく、典型的には約0.1%w/vである。遊離アンモニアがサンプル中に約100ppmより大きい濃度にて存在すると、フェリシアン化カリウムが開始剤として使用される場合は分析に問題が生じる、ということを我々は見出した。このような場合においては、あるいはアンモニアの存在が起こりそうな場合には、代替の開始剤[過硫酸塩(特に過硫酸ナトリウム)を含むのが好ましい]を使用することができる。過硫酸塩は、4−AAP試薬を酸化するに足る濃度にて溶液中に存在しなければならず、過硫酸塩の量は、約0.5%〜約10%w/v(典型的には約1%w/v)の範囲の濃度をもたらすに足る量であるのが好ましい。開始剤は水性液体のサンプルに、所定量の固体ユニットの形態(例えば、ピルや錠剤)にて、あるいは粉末形態にて(好ましくは、サッシェやアンプル等の容器中に入った所定用量にて)簡便に加えることができる。特に好ましい形態においては、開始剤は、粉末形態にて、あるいはディスペンサーを作動させたときに所定量の開始剤を分配すべく造られたディスペンサー容器中に入った圧縮錠剤の形態にて供給される。理解しておかなければならないことは、開始剤の量が必要十分であるならば、正確な量が分配されるかどうかは重要なことではない。これとは別に、開始剤は、4−AAP試薬の入ったアンプル内に供給することもできるし、あるいは4−AAP試薬の入ったアンプルの一部上に配置することもできる。市販の分析キットには、こうした集成体が見受けられる。
【0020】
発色団は、500〜510nmの光に対して強い吸収度を示す。ベール・ランバートの法則によれば、吸光度は溶液中の発色団の濃度に比例し、したがって吸光度はサンプル中のフェノール類の濃度に比例する。500〜510nmの範囲の特定の波長における該溶液の吸光度が、トレーサー化合物を加えたときの水性液体によって示される吸光度から変わったということは、該液体サンプルが希釈されたこと、さもなければその初期の組成から変化したことを示している。
【0021】
発色団の存在とその濃度は、比色計または分光光度計を使用して測定するのが好ましい。本発明の方法の好ましい実施態様においては、比色計または分光光度計は、持ち運び可能で、好ましくはハンドヘルド(hand-held)の機器である(すなわち、ユーザーの手で持ち運べて操作することができる)。本実施態様においては、小形機器の使用による測定を容易にするために、500〜510nmの領域でのサンプルの吸光度は、広範囲の透過光線を測定するよりむしろ、この範囲内の1つ以上の所定の波長にて測定するのが好ましい。好ましい測光器は、光度測定時にサンプルを保持するためのサンプルチャンバー;サンプルチャンバー中のサンプルを、500〜510nmの領域の所定の波長の光で照射するための手段;照射手段からサンプルチャンバーを通って進んできた前記波長の光の透過を検出するための手段;サンプルによる前記光の吸収度を測定するための手段;および、前記吸収度もしくは前記吸収度から算出される値を示すための表示手段;を含むのが好ましい。
【0022】
サンプルチャンバーを照射するための手段は、フィルターと連結した広いスペクトル源であってよい。または、レーザーや発光ダイオード等の狭いスペクトル源も使用することができる。
【0023】
ハンドヘルド機器は、予め較正されているのが好ましい(すなわち、フェノールトレーサーと4−アミノアンチピリンとのカップリング反応によって形成される発色団の検出に対して、1つ以上の較正曲線がプログラム化されているのが好ましい)。較正は、トレーサー中で使用される特定のフェノール類を使用して行うこともできるし、あるいは異なったフェノール類を使用して行うこともできる。異なったフェノール類を使用して較正を行う場合は、較正フェノールを使用する方法の応答と、トレーサーフェノールを使用する方法の応答との間の差異の原因となるファクターによって分析結果を調整してよい。機器の較正は、吸光度が測定される温度に応じて変わることがある、ということが見出された。従って、サンプルの温度での使用に適した較正を機器が使用できるということが有益である。ハンドヘルドの機器には、分析されるサンプルの温度をモニターするための手段を取り付けるが好ましい。これは、プローブであっても、あるいは、例えば温度反応性(temperature reactive)の化学物質であってもよい。ユーザーがサンプルの温度を直接入力するための手段を機器に取り付けることができる。または、使用すべき較正曲線をユーザーが選択するための機能を機器が提供してもよい。機器によって測定されるか、又はユーザーによって入力される温度に応じて、機器は適切な較正を適用できる、というのがさらに好ましい。
【0024】
発色団の吸光度から算出されるフェノール類の濃度を直接読み取れるよう設計されたソフトアェアとユーザーインターフェースをハンドヘルド機器に組み込むのが好ましい。置換フェノールのカップリングによって形成される発色団によって示される吸光度は、通常は、フェノール自体のカップリングによって形成される発色団の吸光度より小さい。このような置換フェノールからの結果は、“フェノール同等物(phenol equivalents)”として表わすことができる(すなわち、同等の波長にて同等の吸光度を生じるフェノールの濃度を示している)。ユーザーインターフェースは、標準サンプルからの水性液体の違いについてユーザーに注意が喚起されるよう、測定サンプル中のフェノールの濃度と、標準サンプル中のフェノールの濃度との差を直接読み取りできるのがさらに好ましい。この好ましい実施態様を使用すると、訓練されていない分析者であるスタッフによるサンプリング時点での、トレーサーフェノールの有無と濃度に関して液体を分析することができる。出力情報は、ディスプレイ上に示すこともできるし、および/または、例えば一体型プリンターを使用してプリントアウトすることもできる。比色計または光度計(機器)に、サンプル識別子(a sample identifier)の入力を可能にするユーザーインターフェースを組み込むのが好ましい。機器は、分析の日付と時刻を記録するためのクロック機能を含むのが好ましい。ディスプレイは、光、画面、またはプリントアウト等の、従来の可視表示機能を含んでよい。さらに、あるいはこれとは別に、音響信号も使用することができる。さらに、あるいはこれとは別に、本発明のシステムはデータ伝送手段を含んでよく、このデータ伝送手段により、特定のサンプルに対する結果が、サンプリングと分析の時刻と場所やサンプル識別子等のサポート情報(supporting information)と共に、例えば公知の電話や無線送信手段によって遠く離れた場所に伝送される。このような伝送は、比較がなされるときには、必要に応じて自動的に行うことができる。
【0025】
4−アミノアンチピリン(適切な溶媒や緩衝液を含有)は、密閉された容器内に所定量にて供給するのが好ましく、この所定量は、1回の試験を行うに足る量である。密閉容器は、アンプルであっても、試験管であっても、あるいは瓶であってもよいが、試薬を含有する自動吸入式アンプルであるのが好ましく、操作時に、このアンプルに、サンプリングしようとする液体の所定量を充填することができる。試薬を含有する好ましいアンプルは、真空スペースと割れやすい先端部分を含む。サンプリングしようとする液体中に先端を浸漬して割ると、ある量の液体がアンプル中に引き込まれ、試薬と混ざり合う。このようなアンプルは、例えばUS−A−3634038中に記載されており、Vacu−バイアルズ(Vacu−vials)(登録商標)として市販されている。4−アミノアンチピリン試薬を含有する適切なアンプルは、フェノール類の分析用に市販されており、本発明の方法において使用するのに適している。このようなアンプルのある特定の形態は、サンプルがアンプル中の4−AAP試薬と混ざり合う前に、開始剤化合物がサンプル中にすぐに混ざり込むよう、アンプルの先端の外面上に所定量の開始剤化合物を組み込んでいる。
【0026】
トレーサー組成物は、標準的な分析法によって検出可能な、1種以上の追加のトレーサー化合物を必要に応じて含有してよい。追加のトレーサー化合物は、例えば、色素、またはトレーサー組成物が加えられる水性液体の天然もしくは通常の成分ではないが、使用されるレベルにおいて水性液体中に溶解する他の化合物を含んでよい。
【0027】
追加のトレーサー化合物は、目視分析によって、もしくは分光分析によって検出可能な色素を含んでよい。好ましい色素は、肉眼では確認できないが、分光学的手段によってのみ検出可能な色素である。色素は、蛍光測定法/蛍光分光法によって検出可能な蛍光色素であるのが好ましい。選定された色素は、色素における蛍光を励起することができる波長の光で照射されたときに、水性液体の天然成分(natural components)の蛍光と区別できるピーク波長にて蛍光を発するのが最も好ましい。トレーサーの業界においては適切な色素が知られており、キサンテン、フタロシアニン、ナフタロシアニン、ニッケル−ジチオラン錯体、シアニン、ポルフィリン、16,17−ジアルコキシビオランスロン、アルキル化ジベンズアントロン、アントラキノン、スクアリン、ローダミン、およびオキサジンなどがある。
【0028】
これらとは別の追加トレーサーは、例えば、ハロゲン化有機化合物、またはマーカー組成物が加えられる水性尿素物質(aqueous urea product)の天然もしくは通常の成分ではない他の化合物を含んでよい。適切なハロゲン化化合物としては、ブロモエタノール、ヨードプロパノール、3−ブロモ安息香酸、4−フルオロ安息香酸、2−ブロモベンジルアミン、2−ブロモ−4−クロロアニリン、ペルフルオロヘプタン酸、1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクタノール、ペルフルオロトリ−n−ブチルアミン、および/またはフルオロアミン等のハロゲン化脂肪族もしくは芳香族化合物がある。ハロゲン化されていないマーカー化合物は、例えば、下記の化合物の1種以上を含んでよい:ブタン−2−オール、プロパノン、1,3−プロパンジオール、アミノフェノール、アミノフェノン、アミノ安息香酸、ピリジン、ピリミジン、またはリン酸アルキルやリン酸アリール等のリン含有化合物(例えばリン酸トリエチル)。
【0029】
トレーサー組成物が、2種以上のトレーサー化合物および/または追加のトレーサー化合物を含むとき、トレーサー組成物中の各トレーサー化合物と他のそれぞれのトレーサー化合物との比は、それぞれの水性液体または標識付けしようとする水性液体源に対してユニークな識別子(a unique identifier)となるように選択することができる。トレーサー組成物中の各トレーサー化合物の性質と濃度を選択することによって、水性液体は、標識付けされると、物品を識別するのに使用できるユニークな“指紋”を有するようになり、そして、それは権限のない者が複製することが困難である。トレーサーの組み合わせに対する1つの特定の用途は、水性液体の特定のバッチの識別(例えば、物品が、確実に水性液体の保存期限内に販売されるよう製造日を確認するため)に対する用途である。
【0030】
追加のトレーサー化合物は、任意の適切な方法によって分析することができる。追加のトレーサーを“その場で(in the field)”識別する必要はない。なぜなら追加のトレーサーは、予測される結果との食い違いが見られるか、あるいはデータの改ざんが疑われる場合に、フェノールトレーサーの分析を確認するのに使用されるからである。したがって追加のトレーサーは、分光学的方法(例えば、赤外分光法、蛍光分光法、質量分光法、またはNMR分光法)を使用して、またはクロマトグラフィー(例えばガスクロマトグラフィー)を使用して、必要に応じて適切な検出器と組み合わせて使用することによって、または、標準的なクロマトグラムと比較することによって検出することができる。
【0031】
トレーサー組成物は、トレーサー化合物(または2種以上のトレーサー化合物)のほかに、必要に応じて1種以上の他の成分(例えば、希釈剤、溶媒、色素、分散剤、または界面活性剤)を含有してよい。トレーサー組成物の各成分の情報と量は、物品の供給源製造業者(source producer)に対して通常は機密である。トレーサー組成物は、液体であるのが好ましいが、水性液体中に容易に溶解するのであれば、固体形態にて供給することもできる。固体形態で供給される場合は、水性液体中へのトレーサー組成物の溶解を高め且つ容易にするために、添加剤を組み込んでよい。
【0032】
本発明の方法とシステムは、供給源から消費者までのサプライチェーンを通して、水性液体をマーキング、識別、およびトレースするのに特に有用である。したがって、本発明の方法とシステムを使用することで、粗悪品の可能性、または類似物品による置き換えの可能性があるときに、真正の物品であるかどうかを識別することができる。したがって、トレーサー組成物を使用することができる水性液体としては、尿素水溶液、水性プロセス流れ、および消費者製品(例えば洗浄剤製品等)などがある。本発明の方法とシステムは、高馬力でより軽量のディーゼルエンジンSCR装置に使用するための、真正のアドブルー尿素溶液を標識付け及び識別するのに特に適している。または、水性液体のマーキングを使用して、流出物の源をトレースすることもできるし、あるいはプロセスの監視用に水性液体のマーキングを使用することもできる。
【0033】
下記に実施例を挙げて、本発明の方法を詳細に説明する。
実施例1
0.1gのフェノールを正確に計量し、100gの水で希釈して、トレーサー組成物の原液を得た。100mlの32.5% w/v尿素水溶液に1mlのトレーサー組成物溶液を加えて、10ppm w/vのフェノールトレーサー/尿素溶液を得た。505nmの波長にて分析するように設定されたジェンウェイ(Jenway)6100分光光度計を使用して、このサンプルの分析を行った。0〜15ppm w/vの濃度範囲内にて7標準(0、2.5、5、7.5、10、12.5、および15ppm w/v)を使用して、機器の初期マニュアル較正(an initial manual calibration)を行った。標準はいずれも、フェノール物質の0.1% w/v原液から得た。調べようとする呈色錯体を形成させるための方法を以下に説明する。
【0034】
各フェノールトレーサー/尿素溶液の約25mlサンプルを、約0.03gのフェリシアン化カリウムを含有するガラスバイアル中に入れた。別個のガラスバイアル中に、0.005Mの4−アミノアンチピリンの2mlアリコートを入れた。第1のバイアルからのフェノール溶液4.5mlを、4−アミノアンチピリンを含有するバイアル中に移した。得られた赤色溶液(酸化カップリング反応によるもの)を、測光分析用の適切なキュベットに入れた。吸光度vs濃度の較正プロットを作成し、これにより、初期の10ppm w/vフェノールトレーサー/尿素溶液の濃度を求めることができた。
【0035】
実施例2
10gのリン酸トリエチルを正確に計量し、100mlのエタノールで希釈して、二次的トレーサー組成物の原液を得た。1000mlの32.5% w/v尿素水溶液に2mlのトレーサー組成物溶液を加えて、200ppb w/vの二次的トレーサー/尿素溶液を得た。アイソルート(Isolute)(商標)ENVSPEカラム上にてサンプルを予め濃縮し、アセトンを使用して溶離した。このサンプルの分析は、標的分子の化学イオン化を起こすようにセットされたマスセレクティブディテクター(アジレント5973)に連結されたガスクロマトグラフィー(アジレント6890)によって行った。
【0036】
使用したカラムと条件は下記の通りであった:
GCカラム: 100%ジメチルポリシロキサン 15m0.25mm0.25μmフィルム厚さ(バリアン(商標)VF−1)
GCオーブン温度: 8分で50℃から130℃に上げた。分析実験時間を少なくするために、温度をより短い時間枠で速やかに上昇させることもできるが、良好なカラム負荷を達成するために、出発温度は100℃を超えてはならない。キャリヤーガス(H)の流量:2ml/分。
【0037】
実施例3
0.1gのフェノールを正確に計量し、100gの水で希釈して、トレーサー組成物の原液を得た。100mlの32.5% w/v尿素水溶液に1mlのトレーサー組成物溶液を加えて、10ppm w/vのフェノールトレーサー/尿素溶液を得た。505nmの波長にて分析するように設定されたジェンウェイ6100分光光度計を使用して、このサンプルの分析を行った。0〜15ppm w/vの濃度範囲内にて7標準(0、2.5、5、7.5、10、12.5、および15ppm w/v)を使用して、機器の初期マニュアル較正を行った。標準はいずれも、フェノール物質の0.1% w/v原液から得た。調べようとする呈色錯体を形成させるための方法を以下に説明する。
【0038】
各フェノールトレーサー/尿素溶液の約25mlサンプルを、約0.25gの過硫酸ナトリウムを含有するガラスバイアル中に入れた。別個のガラスバイアル中に、0.005Mの4−アミノアンチピリンの2mlアリコートを入れた。第1のバイアルからのフェノール溶液4.5mlを、4−アミノアンチピリンを含有するバイアル中に移した。得られた赤色溶液(酸化カップリング反応によるもの)を、測光分析用の適切なキュベットに入れた。吸光度vs濃度の較正プロットを作成し、これにより、初期の10ppm w/vフェノールトレーサー/尿素溶液の濃度を求めることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)30〜35%の尿素を含んだ尿素水溶液と、
b)フェノール類を含んだトレーサー組成物
との混合物を含有する、窒素酸化物の選択的触媒還元のプロセスに使用するのに適した尿素溶液。
【請求項2】
前記尿素水溶液が、SCR系用の尿素溶液に対するDIN70070基準に従った32.5%尿素水溶液を含む、請求項1に記載の尿素溶液。
【請求項3】
前記フェノール類が、フェノール、アルキルフェノール、アルコキシフェノール、ヒドロキシフェノール、および前記フェノール類の混合物からなる群から選択される、請求項1または請求項2に記載の尿素溶液。
【請求項4】
尿素溶液中のフェノール類の濃度が0.1〜20ppm w/vの範囲である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の尿素溶液。
【請求項5】
前記トレーサー組成物が、色素、ハロゲン化有機化合物、ブタン−2−オール、プロパノン、1,3−プロパンジオール、アミノフェノン、アミノ安息香酸、ピリジン、ピリミジン、リン酸アルキルまたはリン酸アリールから選択される追加のトレーサー化合物をさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の尿素溶液。
【請求項6】
前記色素が、キサンテン、フタロシアニン、ナフタロシアニン、ニッケル−ジチオラン錯体、シアニン、ポルフィリン、16,17−ジアルコキシビオランスロン、アルキル化ジベンズアントロン、アントラキノン、スクアリン、ローダミン、およびオキサジンから選択される、請求項5に記載の尿素溶液。
【請求項7】
前記色素が、色素に蛍光を発生させることができる波長にて照射されると蛍光を発する、請求項6に記載の尿素溶液。
【請求項8】
フェノール類を含有するトレーサー組成物を30〜35%の尿素を含んだ尿素水溶液に加える工程を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の尿素溶液の製造法。
【請求項9】
請求項1に記載の尿素溶液を分析する方法であって、
a)所定量の4−アミノアンチピリンを含有する試薬と、尿素溶液のサンプルとを、開始化合物の存在下にて、溶液中における試薬とフェノール類との反応により発色団が生成するように反応させること、および
b)得られた発色団溶液の光の吸収度を測定して、前記フェノール類の濃度を決定すること、
を含む方法。
【請求項10】
光が500nm〜510nmの波長を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
サンプル中のフェノール類の濃度と、基準サンプル中のフェノール類の濃度とを比較して、基準サンプルに対する当該サンプルの類似性を決定することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記比較が、サンプルから作製した発色団溶液と、同じ条件下にて基準サンプルから作製した発色団溶液との、500nm〜510nmの波長での光の吸収度を比較することによって行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
尿素溶液の標的サンプルと、類似の標識尿素溶液の基準サンプルとを比較するための識別システムであって、
(i)少なくとも1種のフェノール類を含有するトレーサー組成物;
(ii)所定量の4−アミノアンチピリン;
(iii)4−アミノアンチピリン試薬と前記少なくとも1種のフェノール類との間にカップリング反応を起こさせて発色団溶液を生成させるための開始化合物;
(iv)前記発色団溶液を生成させるための反応時に、前記4−アミノアンチピリン、前記開始化合物、および前記サンプルを収容するための反応容器;ならびに
(v)(a)前記発色団溶液の吸光度を測定することができる比色計もしくは分光光度計、
(b)標的サンプルと試薬との反応によって形成される発色団溶液の吸光度と、基準サンプルと試薬との反応によって形成される発色団溶液の吸光度とを比較するためのデータ処理手段、および
(c)標的サンプル中のトレーサー化合物の濃度、および基準サンプル中のトレーサー化合物の濃度が、所定量より大きく異なっているかどうかを表示するための表示手段、
を含む、持ち運び可能な分析装置;
を含む、識別システム。
【請求項14】
分光光度計が、500nm〜510nmの波長の光を前記反応容器に通すべく適合されている、請求項13に記載の識別システム。
【請求項15】
尿素溶液の標的サンプルと、既知濃度のフェノール類を含有する尿素水溶液の基準サンプルとを比較する方法であって、
a)前記基準サンプルと、所定量の4−アミノアンチピリンを含有する試薬とを、開始化合物の存在下にて、液体中における該試薬とフェノール類との反応により発色団が生成するように反応させ、基準サンプルから作製した発色団溶液の吸光度を測定すること、
b)前記標的サンプルと、所定量の4−アミノアンチピリンを含有する試薬とを、開始化合物の存在下にて、液体中における該試薬とフェノール類との反応により発色団が生成するように反応させ、標的サンプルから作製した発色団溶液の吸光度を測定すること、および
c)標的サンプルから作製した発色団溶液の吸光度と、基準サンプルから作製した発色団溶液の吸光度とを比較して、基準サンプルに対する標的サンプルの類似性を決定すること、
を含む方法。
【請求項16】
a)工程が、標的サンプルが分析されるたびに行なわれない、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
トレーサー組成物が溶媒をさらに含有する、請求項1に記載の尿素溶液。

【公開番号】特開2012−229695(P2012−229695A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−138544(P2012−138544)
【出願日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【分割の表示】特願2008−527520(P2008−527520)の分割
【原出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(590004718)ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー (152)
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】