標識検出装置及び標識検出方法
【課題】高精度で標識物質を検出し得る標識検出装置及び標識検出方法を提案する。
【解決手段】サンプル流SF2に、イオン化傾向の最も小さい金微粒子GPと、固有の振動数をもつ圧電体が標識された標的物質とを流す。一方、層流LFの経路に、金微粒子GPの直径よりも大きい波長のレーザ光をレーザ光光源21から印加し、サンプル流SF2を流れる金微粒子GPに対する電磁波の印加に応じて当該金微粒子表面に形成される準静電界(図5)によって、該振動性粒子に生じる振動を検出する。
【解決手段】サンプル流SF2に、イオン化傾向の最も小さい金微粒子GPと、固有の振動数をもつ圧電体が標識された標的物質とを流す。一方、層流LFの経路に、金微粒子GPの直径よりも大きい波長のレーザ光をレーザ光光源21から印加し、サンプル流SF2を流れる金微粒子GPに対する電磁波の印加に応じて当該金微粒子表面に形成される準静電界(図5)によって、該振動性粒子に生じる振動を検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は標識検出装置及び標識検出方法に関し、例えば、フローサイトメトリに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、数多くの種類の細胞群から、目的とする細胞だけを生きたまま分取するものとしてフローサイトメトリがある。このフローサイトメトリは、蛍光物質が標識される標的試料をフローに流し、該フローを流れる標的試料に対して、フローと直交する方向からレーザ光を照射する。
【0003】
またフローサイトメトリは、標的試料に対するレーザ光の照射により励起される散乱光及び蛍光を、光学系を介して特定の波長に分離して対応する検出器に導くことによって測定するようになされている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−508703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところがかかる構成のフローサイトメトリでは、フローと直交する方向からレーザ光を照射するため、標識物質が照射方向の裏側に位置することでその標識物質を検出できない場合があり、この結果、一定の検出精度を得ることができないという問題があった。
【0005】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、高精度で標識物質を検出し得る標識検出装置及び標識検出方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため本発明は、サンプル流に個別に流れる試料のうち標的試料に標識された標識物質を検出するものであって、サンプル流には、イオン化傾向の小さい金から銀までの間における金属微粒子と、固有の振動数をもつ粒子を標識物質とする標的物質とが流されており、当該金属微粒子の半径をその電磁波の波長よりも小さいことを条件として、サンプル流の経路に電磁波を印加する電磁波印加手段と、サンプル流を流れる標的物質のまわりにある金属微粒子に対して電磁波が印加された場合に、当該金属微粒子表面に形成される準静電界によって、標的物質に標識された粒子に生じる振動を検出する検出手段とを設けるようにした。
【0007】
したがって、本発明は、標的試料のまわりに散在する金属微粒子の周囲に準静電界を形成することができるため、当該標識物質が電磁波の照射方向の裏側に位置する場合であったとしても、準静電界内に標識物質を入れることができ、この結果、当該場合でも適切に標識物質を検出することができる。
【発明の効果】
【0008】
以上のように本発明は、標的試料のまわりに散在する金属微粒子の周囲に準静電界を用いて、当該標的試料に標識された粒子との逆圧電効果により得られる振動を検出するようにしたことにより、高精度で標識物質を検出し得る標識検出装置及び標識検出方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一実施の形態を詳述する。
【0010】
(1)フローサイトメトリの全体構成
本実施の形態によるフローサイトメトリを図1に示す。このフローサイトメトリ1は、水流系ユニット2、検出系ユニット3、データ処理系ユニット4及び分取系ユニット5によって構成される。
【0011】
水流系ユニット2は、シース流送出部2Aから所定のシース圧によりシースチューブを介してシース流を合流チャンバ2Xに送出するとともに、サンプル流送出部2Bから所定のサンプル圧によりサンプルチューブを介してサンプル流を合流チャンバ2Xに送出し、該合流チャンバ2Xにおけるノズルの噴出口OPから、内層をサンプル流とし、外層をシース流とする層流LFを噴出する。
【0012】
水流系ユニット2は、この層流LFを、ラミナフロー(laminar flow)の原理に則って、サンプル流とそれを包むシース流とが互いに混じりあうことのない状態、かつサンプル流の試料が個々に離れて流れる状態に形成するようになされている。
【0013】
ちなみに、層流LFの流体密度をρ、噴出口OPの内径(層流の直径)をa、流体速度をU、流体粘性をηとすると、次式
【0014】
【数1】
【0015】
の関係となり、「R>1000」の場合に層流LFは乱れ、「R<1000」の場合に層流LFは一定となる。この「R<1000」の状態を、ラミナフローという。流体粘性は温度依存が大きいため、シース流送出部ではシース流に対する温度コントロールが適宜行われる。
【0016】
検出系ユニット3は、層流経路に設けられており、1つ1つ離れてサンプル流に個別に流れる試料のうち標的試料に標識された標識物質を準静電界を利用して電気的に検出し、この検出結果をデータ処理系ユニット4に送出するようになされている。
【0017】
データ処理系ユニット4は、コンピュータ構成でなり、検出系ユニット3での検出結果に基づいて、対応する標的試料の種を識別するとともに、その識別結果に応じて、当該標的試料に印加すべきチャージ電圧を決定するようになされている。
【0018】
分取系ユニット5は、層流LFから分離して液滴を形成する時点(break off point)において、データ処理系ユニット4で決定されたチャージ電圧をサンプル流を通じて流し、対応する標的試料が含まれる液滴を荷電することによって、当該液滴を、陽極の固定電圧が印加される偏向板5A又は陰極の固定電圧が印加される偏向板5Bの方向に落下路を変えて所定のコレクションチューブCT1〜CTm(m=2、3、……)に振り分けるようになされている。
【0019】
このようにしてこのフローサイトメトリ1は、標的試料を識別するとともに、当該標的試料を種別することができるようになされている。
【0020】
(2)標識物質
次に、試料を識別するために標的試料に標識される標識物質について説明する。
【0021】
この実施の形態では、標識物質として、所定の振動数をもつ圧電体が採用される。具体的には、圧電結晶、圧電セラミック、圧電薄膜、圧電高分子材料、強誘電体(リラクサーと呼ばれるものも含む)などを適用することができる。
【0022】
ちなみに圧電体の材料には、代表的なものとして、水晶(SiO2)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZN、三成分系含む)、メタニオブ酸鉛(PbNb2 O6)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、酸化亜鉛(ZnO)がある。
【0023】
この他にも、例えば、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸カリウム(K4NbO3)、リチウムテトラボレート(Li2B4O7)、ランガサイト(La3Ga5SiO14)、窒化アルミニウム(AlN)、電気石(トルマリン)
などがある。
【0024】
一方、標識物質(圧電体)を標的試料に標識するには、標的試料の特徴部分に対して特異的となるプローブに圧電体を結合させ、該圧電体が結合されたプローブを、その標的試料の特徴部分に結合させる。
【0025】
このプローブには、代表的なものとして抗体がある。これは対応する抗原と一次抗体法、二次抗体法、あるいは、ビオジン−アビジンのアフィニティー(親和性)の利用により特異的に結合するので、ある細胞を検出する場合に用いられる。
【0026】
この抗体以外にも、例えばAnnexin V、MHCクラスI−ペプチド四量体(テトラマー)などがある。これらはいずれもイムノグロブリンスーパーファミリーに属する高分子タンパク質であり、アポトーシス細胞や抗原特異的CD8+T細胞を検出する場合に用いられる。
【0027】
また、DNAやRNAの相補的結合を利用したプローブとして、DNAオリゴマーやRNAオリゴマーがある。これらは対応する配列とハイブリダイズにより特異的に結合するので、あるDNA又はRNAの配列を検出する場合に用いられる。
【0028】
他方、プローブに圧電体を結合するには、例えば、プローブに対して圧電体を直に吸着させる手法、あるいは、デキストラン、アルブミン、デンプン、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコールなどの有機高分子を介して圧電体を結合させる手法(稲田祐二、タンパク質ハイブリッド 第3巻、共立出版、1990年)を用いることができる。
【0029】
なお、2以上の標識が必要となる場合、標的細胞には、互いに異なる振動数をもつ圧電体が標識される。例えば、2つの特徴的な抗原をもつ標的試料を検出する場合、図2に示すように、それら抗原には、対応する抗体(プローブ)を介して、互いに異なる振動数をもつ圧電体(圧電体A、圧電体B)が標識される。つまり、標的試料には、その種に応じて、1又は2以上の固有の圧電体が標識される。
【0030】
この実施の形態の場合、圧電体が標識された標的試料は、金微粒子とともに、所定の溶液(一般には生理食塩水)に入れられ、水流系ユニット2のサンプル流送出部2Bにセットされる。したがって、例えば図3に示すように、層流LFのうち、サンプル流SF2には標的細胞及びその他の細胞の周囲に複数の金微粒子GPが混在する状態で流れることとなる。
【0031】
(3)検出系ユニットの具体的構成
次に、検出系ユニット3の具体的な構成について、図4を用いて説明する。この図4において、検出系ユニット3は、層流管10と、複数の標識物検出部201〜20nとによって構成される。
【0032】
層流管10は、水流系ユニット2の合流チャンバ2Xに連結され、該合流チャンバ2Xにおけるノズルの噴出口OPから噴出される層流LFの外層(シース流SF1)を、層流管10の内壁が接するように囲むようになされている。
【0033】
各標識物検出部201〜20n(n=2、3、……)は、レーザ光を照射するレーザ光光源211〜21nと、層流LFのサンプル流SF2に対して垂直方向からレーザ光があたるように該レーザ光を導く光学系221〜22nと、弾性波検出部231〜23nとからなっている。
【0034】
このレーザ光光源211〜21nから対応する光学系221〜22nを介して層流LFのサンプル流に導かれるレーザ光の波長が、そのサンプル流を流れる金微粒子GP(図3)の直径よりも大きい場合、当該レーザ光が金微粒子GPにあたると、図5に示すように、その金微粒子GP周囲には、表面局部に限定された状態で、準静電界(近接場)が形成される。
【0035】
ここで、レーザ光の周波数は、固有の振動数をもつ複数の圧電体のうち、検出対象として対応付けられた圧電体の振動数と同じ周波数(f1〜fn)がそれぞれ選定される。
【0036】
したがって、ある振動数をもつ圧電体により標識される標的試料がサンプル流SF2を流れる場合、当該振動数と同一の周波数(f1、f2、……、又はfn)のレーザ光が導かれる位置にまで標識試料が達し、該レーザ光によって複数の金微粒子GPの周囲に形成される準静電界(近接場)内に、標的試料に標識された圧電体が入っていると、その圧電体は、固有の振動数で振動し(逆圧電効果)、当該振動歪が弾性波として、対応する弾性波検出部231、……、又は23nに伝わることとなる。
【0037】
なお、この弾性波は、分取系ユニット5によってサンプル流SF2に流されるチャージ電圧(電荷)とはその周波数が大きく異なるため、互いに干渉するといった問題はない。
【0038】
他方、各弾性波検出部231〜23nは、対応するレーザ光が導かれる位置と同一面上であり、かつ層流管10(図4)の外壁と内壁との間にそれぞれ設けられており、それぞれ、図6に示すように、圧電板31と、該圧電板の表面に設けられたIDT(Inter Digital Transducer)32とでなる。この圧電板31は、標的試料から伝えられる弾性波に共振して表面波を発生する(圧電効果)。
【0039】
IDT32は、櫛状の2つの導体の櫛刃を交互に対向させたもので、特定の信号成分を抽出するフィルタとして機能するものである。このIDT32で抽出すべき信号成分は、圧電板の材料及び櫛刃の間隔によって設定される。これは、IDT32では、圧電板における表面波の伝播速度をvとし、櫛刃の間隔を2dとし、IDTの中心周波数をfとすると、次式
【0040】
【数2】
【0041】
の関係にあるからである。
【0042】
この実施の形態における各弾性波検出部のIDT32には、対応するレーザ光光源211〜21n(図4)から送出されるレーザ光の周波数と一致するように、圧電板の材料及び櫛刃の間隔がそれぞれ設定される。したがって各弾性波検出部231〜23nのIDT32は、圧電板31に発生する表面波のうち、対応する圧電体の振動数と同一成分を抽出し、これを検出信号S1としてデータ処理系ユニット4(図1)に送出するようになされている。
【0043】
このように検出系ユニット3は、サンプル流SF2に対して任意の間隔ごとに互いに異なる周波数のレーザ光を照射し、当該照射位置に流れる金微粒子の周囲に準静電界優位空間を形成させることで、標的試料に標識された圧電体を、対応する照射位置で振動させるとともに、その振動を対応する弾性波検出部231〜23nから検出信号S1(図6)として、データ処理系ユニット4(図1)に送出するようになされている。
【0044】
(4)データ処理系ユニットの具体的構成
データ処理系ユニット4は、図7に示すように、CPU(Central Processing Unit)41に対して、各種プログラムが格納されるROM(Read Only Memory)42、当該CPUのワークメモリとしてのRAM(Random Access Memory)43、信号入力部44及び記憶部45を接続することにより構成される。
【0045】
信号入力部44は、各弾性波検出部231〜23nのIDT32(図6)から供給される検出信号S1を増幅した後にA/D(Analog/Digital)変換処理を施し、この結果得られる検出データD1をCPU41に出力する。
【0046】
また記憶部45には、図8に示すように、標的試料の種類と、標的試料に対する圧電体の標識状態と、標的試料に対して印加すべきチャージ電圧量との対応付けがデータベース(以下、これを試料識別表と呼ぶ)として格納されている。
【0047】
CPU41は、この試料識別表と、信号入力部44から供給される検出データD1と、ROM42のプログラムとに基づいて、シース流に流れる標的試料の種を識別するとともに、当該標的試料に印加すべきチャージ電圧量を決定する。
【0048】
このCPU41の処理は、具体的には図9に示すフローチャートにしたがって実行される。すなわちCPU41は、処理開始命令を受けると、水流系ユニット2、検出系ユニット3及び分取系ユニット5をそれぞれ動作させた後にステップSP1に移り、このステップSP1において、各弾性波検出部231〜23nからの検出信号S1の入力を待ち受ける。
【0049】
CPU41は、各弾性波検出部231〜23nから検出信号S1を受けた場合、続くステップSP2に移り、このステップSP2において、これら検出信号S1と、記憶部45に記憶された試料識別表(図8)とから、各弾性波検出部231〜23nを流れた標的試料の種を識別するとともに、当該標的試料に印加すべきチャージ電圧量を決定する。
【0050】
続いてCPU41は、ステップSP3において、ステップSP2で決定したチャージ電圧量を、液滴形成時点(break off point)に流すべき命令を分取系ユニット5に対して通知し、ステップSP1に戻る。ちなみに、分取系ユニット5では、この命令に応じて、チャージ電圧がサンプル流を通じて液滴形成時点(break off point)に流され、この結果、対応する標的試料が含まれる液滴が、帯電状態における静電力により偏向板5A又は5B引き寄せられ、所定のコレクションチューブCT1〜CTmに落下することになる。
【0051】
このようにしてデータ処理系ユニット4は、検出系ユニット3での検出結果に基づいて、対応する標的試料を解析するとともに、当該標的試料を対応するコレクションチューブCTに振り分けるように、分取系ユニット5を制御することができるようになされている。
【0052】
(5)動作及び効果
以上の構成において、このフローサイトメトリ1は、金微粒子GPの半径をその電磁波の波長よりも小さいことを条件として、層流LFの経路にレーザ光をレーザ光光源21から印加する。
【0053】
この層流LFにおけるサンプル流SF2には、イオン化傾向の最も小さい金微粒子GPと、固有の振動数をもつ圧電体が標識された標的物質とが流される(図3)。フローサイトメトリ1は、サンプル流SF2を流れる金微粒子GPにレーザ光が印加されることにより当該金微粒子表面に形成される準静電界(図5)によって、該粒子に生じる振動を検出する。
【0054】
したがって、このフローサイトメトリ1は、標的試料のまわりに散在する金微粒子GPの表面局部に限定して準静電界(近接場)を形成することができるため、当該標識物質がレーザ光の照射方向の裏側に位置する場合であったとしても、準静電界内に金微粒子GPを入れることができ、この結果、当該場合でも適切に標識物質を検出することができる。
【0055】
これに加えて、標的試料のまわりに散在する金微粒子GPの表面局部に限定して準静電界(近接場)を形成するため、外部からのノイズに起因する検出精度への影響を低減することもできる。
【0056】
また、このフローサイトメトリ1は、一のレーザ光光源21及び弾性波検出部23を、圧電体を検出する単位として、振動数の異なる複数の圧電体を検出するように、複数のレーザ光光源211〜21n及び弾性波検出部231〜23nを設ける。これらは、当該レーザ光光源21以外から生じるレーザ光の影響を受けない程度の距離だけ離間した状態で、層流方向に沿って位置させる。
【0057】
したがって、このフローサイトメトリ1は、振動数の異なる複数の圧電体を、検出単位ごとに層流経路上で独立して検出することができるため、標的物質に対して、振動数の異なる数多くの圧電体が標識されている場合であっても、当該圧電体を、個々の検出精度を維持しつつ検出することが可能となる。
【0058】
なお、従来のレーザ方式では、標的物質に対して、標的物質に標識される蛍光標識が多くなるほど、対応する散乱光を検出器に分離する光学系を構築することが困難となるとともに、全体として大型化するが、当該従来のレーザ方式に比して、このフローサイトメトリ1ではその程度を緩和できる点で有用である。
【0059】
さらに、このフローサイトメトリ1は、層流LFを囲む層流管10を設け、当該層流管10の内壁と外壁との間に、弾性波検出部23を設けている。したがって、このフローサイトメトリ1は、サンプル流SF2に対する弾性波検出部23までの距離を短くできる分だけ、標的物質に標識された圧電体の振動を、弾性波検出部23にまで確実に伝えることができるとともに、このような構成を採用しない場合に比して、外部からのノイズに起因する検出精度への影響を低減することができる。
【0060】
以上の構成によれば、標的試料のまわりに散在する金属微粒子の周囲に準静電界を用いて、当該標的試料に標識された粒子との逆圧電効果により得られる振動を検出するようにしたことにより、高精度で標識物質を検出し得るフローサイトメトリ1を実現できる。
【0061】
(6)他の実施の形態
上述の実施の形態においては、標識物質として圧電体を用いるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、電歪体を用いるようにしてもよく、要は、所定の振動数をもつ物質を適用することができる。なお、電歪体とは、広義には、結晶に電界を印加したとき、該電界の2乗に比例した歪を示すものをいう。この電歪体には、圧電体において必要とされる分極処理操作が不要である、電界の極性を問わない(歪の形が左右対称)などの特徴があるので、圧電体に比して有用となる場合もある。
【0062】
また上述の実施の形態においては、サンプル流SF2を流れる標的試料のまわりに散在させるものとして、金微粒子を用いるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、イオン傾向化の小さい金属物質を用いるようにしてもよい。具体的には、白金(Pt)、パラジウム(Pd)又は銀(Ag)の微粒子などがあるが、イオン化傾向の小さい金から銀までの間における金属微粒子であれば適用することができる。ただし、金属微粒子自体の安定化の観点や、生体(検査者又は試料の採取者)に対する安全面の観点からすれば、金微粒子又は白金微粒子が好ましい。
【0063】
さらに上述の実施の形態においては、検出系ユニット3として、ノズルから噴出される層流LFの外層(シース流SF1)を層流管の内壁が接するように囲む層流管10と、レーザ光光源211〜21nと、層流LFのサンプル流SF2に対して垂直方向からレーザ光があたるように該レーザ光を導く光学系221〜22nと、弾性波検出部231〜23nとによって構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、これ以外の構成であってもよい。
【0064】
例えば、図4との対応部分に同一符号を付した示す図10に示す検出系ユニットを採用することができる。この図13に示す検出系ユニットでは、単一周波数のレーザ光を照射する複数のレーザ光光源211〜21n(図4)に代えて、複数の周波数成分の混ざった微分ガウス波形でなるレーザ光を照射する1つのレーザ光光源21xが設けられた点で相違する。
【0065】
この図10に示す検出系ユニットでは、レーザ光光源21xから微分ガウス波形のレーザ光が導かれる位置にまで標識試料が達し、該レーザ光によって金微粒子GPの周囲に形成される準静電界(近接場)内に(図5)、標的試料に標識された圧電体が入っていると、その圧電体は、固有の振動数で振動し(逆圧電効果)、当該振動歪が弾性波として、各弾性波検出部231〜23nに伝わる。
【0066】
ここで、標的試料に2以上の圧電体が標識されている場合には、当該圧電体固有の振動数の弾性波が、対応する弾性波検出部231〜23nから検出信号S1(図6)として検出されることとなる。
【0067】
この図10に示す検出系ユニットによれば、検出系ユニット3に比して、レーザ光光源数を低減できるとともに、層流管10に対する配置スペースを小さくできる点で、有効となる。ただし、留意点として、金微粒子GPの周囲に形成される準静電界(近接場)内に、複数の弾性波検出部231〜23nが配置されるといった状態を構築する必要がある。
【0068】
なお、複数の周波数成分の混ざった波として、微分ガウス波形を適用したが、これに限らず、表面横波(STW)、レイリー波(SAW)、SH表面波(BGS波:Bleustein-Gulyaev-Shimizu wave)、ラム波、表面スキミングバルク波(SSB波:Surface-skimming wave)、SH(Shear horizontal)バルク波、ラム波などを含む様々な波を使用することが可能である。
【0069】
また上述の実施の形態においては、圧電体又は電歪体でなる粒子に生じる振動を検出する検出手段として、弾性波検出部23を適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、圧電体と、その圧電体に接続されたバンドパスフィルタ回路とでなるものを適用するようにしてもよい。要は、特定の弾性波(圧電体又は電歪体でなる粒子に生じる振動)を検出するSAW(Surface Acoustic Wave)デバイスであればよい。
【0070】
さらに上述の実施の形態においては、標的試料の種に応じたチャージ電圧を液滴形成時点(break off point)でサンプル流SF2に流して対応する標的試料が含まれる液滴を荷電することで、当該液滴を、固定電圧が印加された偏向板5A及び偏向板5Bを介して振り分けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、サンプル流SF2に固定のチャージ電圧を印加しておき、標的試料の種に応じて偏向板5A及び5Bに印加する電圧量を変化させて、対応する標的試料が含まれる液滴を、該標的試料の種に応じた量だけ偏向板5A又は偏向板5Bに引き寄せることで、液滴を振り分けるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、医薬を生成する場合などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本実施の形態によるフローサイトメトリの全体構成を示す略線図である。
【図2】標的細胞に標識される圧電体を示す略線図である。
【図3】サンプル流に流れる標的細胞及び金微粒子を示す略線図である。
【図4】検出系ユニットの構成を示す略線図である。
【図5】金微粒子表面に形成される準静電界(近接場)の説明に供する略線図である。
【図6】弾性波検出部の構成を示す略線図である。
【図7】データ処理系ユニットの構成を示すブロック図である。
【図8】試料識別表を示す略線図である。
【図9】解析分取処理手順を示すフローチャートである。
【図10】他の実施の形態による検出系ユニットを示す略線図である。
【符号の説明】
【0073】
1……フローサイトメトリ、3……検出系ユニット、10……層流管、201〜20n……標識物検出部、211〜21n……レーザ光光源、221〜22n……光学系、231〜23n……弾性波検出部、31……圧電板、32……IDT、41……CPU。
【技術分野】
【0001】
本発明は標識検出装置及び標識検出方法に関し、例えば、フローサイトメトリに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、数多くの種類の細胞群から、目的とする細胞だけを生きたまま分取するものとしてフローサイトメトリがある。このフローサイトメトリは、蛍光物質が標識される標的試料をフローに流し、該フローを流れる標的試料に対して、フローと直交する方向からレーザ光を照射する。
【0003】
またフローサイトメトリは、標的試料に対するレーザ光の照射により励起される散乱光及び蛍光を、光学系を介して特定の波長に分離して対応する検出器に導くことによって測定するようになされている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−508703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところがかかる構成のフローサイトメトリでは、フローと直交する方向からレーザ光を照射するため、標識物質が照射方向の裏側に位置することでその標識物質を検出できない場合があり、この結果、一定の検出精度を得ることができないという問題があった。
【0005】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、高精度で標識物質を検出し得る標識検出装置及び標識検出方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため本発明は、サンプル流に個別に流れる試料のうち標的試料に標識された標識物質を検出するものであって、サンプル流には、イオン化傾向の小さい金から銀までの間における金属微粒子と、固有の振動数をもつ粒子を標識物質とする標的物質とが流されており、当該金属微粒子の半径をその電磁波の波長よりも小さいことを条件として、サンプル流の経路に電磁波を印加する電磁波印加手段と、サンプル流を流れる標的物質のまわりにある金属微粒子に対して電磁波が印加された場合に、当該金属微粒子表面に形成される準静電界によって、標的物質に標識された粒子に生じる振動を検出する検出手段とを設けるようにした。
【0007】
したがって、本発明は、標的試料のまわりに散在する金属微粒子の周囲に準静電界を形成することができるため、当該標識物質が電磁波の照射方向の裏側に位置する場合であったとしても、準静電界内に標識物質を入れることができ、この結果、当該場合でも適切に標識物質を検出することができる。
【発明の効果】
【0008】
以上のように本発明は、標的試料のまわりに散在する金属微粒子の周囲に準静電界を用いて、当該標的試料に標識された粒子との逆圧電効果により得られる振動を検出するようにしたことにより、高精度で標識物質を検出し得る標識検出装置及び標識検出方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一実施の形態を詳述する。
【0010】
(1)フローサイトメトリの全体構成
本実施の形態によるフローサイトメトリを図1に示す。このフローサイトメトリ1は、水流系ユニット2、検出系ユニット3、データ処理系ユニット4及び分取系ユニット5によって構成される。
【0011】
水流系ユニット2は、シース流送出部2Aから所定のシース圧によりシースチューブを介してシース流を合流チャンバ2Xに送出するとともに、サンプル流送出部2Bから所定のサンプル圧によりサンプルチューブを介してサンプル流を合流チャンバ2Xに送出し、該合流チャンバ2Xにおけるノズルの噴出口OPから、内層をサンプル流とし、外層をシース流とする層流LFを噴出する。
【0012】
水流系ユニット2は、この層流LFを、ラミナフロー(laminar flow)の原理に則って、サンプル流とそれを包むシース流とが互いに混じりあうことのない状態、かつサンプル流の試料が個々に離れて流れる状態に形成するようになされている。
【0013】
ちなみに、層流LFの流体密度をρ、噴出口OPの内径(層流の直径)をa、流体速度をU、流体粘性をηとすると、次式
【0014】
【数1】
【0015】
の関係となり、「R>1000」の場合に層流LFは乱れ、「R<1000」の場合に層流LFは一定となる。この「R<1000」の状態を、ラミナフローという。流体粘性は温度依存が大きいため、シース流送出部ではシース流に対する温度コントロールが適宜行われる。
【0016】
検出系ユニット3は、層流経路に設けられており、1つ1つ離れてサンプル流に個別に流れる試料のうち標的試料に標識された標識物質を準静電界を利用して電気的に検出し、この検出結果をデータ処理系ユニット4に送出するようになされている。
【0017】
データ処理系ユニット4は、コンピュータ構成でなり、検出系ユニット3での検出結果に基づいて、対応する標的試料の種を識別するとともに、その識別結果に応じて、当該標的試料に印加すべきチャージ電圧を決定するようになされている。
【0018】
分取系ユニット5は、層流LFから分離して液滴を形成する時点(break off point)において、データ処理系ユニット4で決定されたチャージ電圧をサンプル流を通じて流し、対応する標的試料が含まれる液滴を荷電することによって、当該液滴を、陽極の固定電圧が印加される偏向板5A又は陰極の固定電圧が印加される偏向板5Bの方向に落下路を変えて所定のコレクションチューブCT1〜CTm(m=2、3、……)に振り分けるようになされている。
【0019】
このようにしてこのフローサイトメトリ1は、標的試料を識別するとともに、当該標的試料を種別することができるようになされている。
【0020】
(2)標識物質
次に、試料を識別するために標的試料に標識される標識物質について説明する。
【0021】
この実施の形態では、標識物質として、所定の振動数をもつ圧電体が採用される。具体的には、圧電結晶、圧電セラミック、圧電薄膜、圧電高分子材料、強誘電体(リラクサーと呼ばれるものも含む)などを適用することができる。
【0022】
ちなみに圧電体の材料には、代表的なものとして、水晶(SiO2)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZN、三成分系含む)、メタニオブ酸鉛(PbNb2 O6)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、酸化亜鉛(ZnO)がある。
【0023】
この他にも、例えば、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸カリウム(K4NbO3)、リチウムテトラボレート(Li2B4O7)、ランガサイト(La3Ga5SiO14)、窒化アルミニウム(AlN)、電気石(トルマリン)
などがある。
【0024】
一方、標識物質(圧電体)を標的試料に標識するには、標的試料の特徴部分に対して特異的となるプローブに圧電体を結合させ、該圧電体が結合されたプローブを、その標的試料の特徴部分に結合させる。
【0025】
このプローブには、代表的なものとして抗体がある。これは対応する抗原と一次抗体法、二次抗体法、あるいは、ビオジン−アビジンのアフィニティー(親和性)の利用により特異的に結合するので、ある細胞を検出する場合に用いられる。
【0026】
この抗体以外にも、例えばAnnexin V、MHCクラスI−ペプチド四量体(テトラマー)などがある。これらはいずれもイムノグロブリンスーパーファミリーに属する高分子タンパク質であり、アポトーシス細胞や抗原特異的CD8+T細胞を検出する場合に用いられる。
【0027】
また、DNAやRNAの相補的結合を利用したプローブとして、DNAオリゴマーやRNAオリゴマーがある。これらは対応する配列とハイブリダイズにより特異的に結合するので、あるDNA又はRNAの配列を検出する場合に用いられる。
【0028】
他方、プローブに圧電体を結合するには、例えば、プローブに対して圧電体を直に吸着させる手法、あるいは、デキストラン、アルブミン、デンプン、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコールなどの有機高分子を介して圧電体を結合させる手法(稲田祐二、タンパク質ハイブリッド 第3巻、共立出版、1990年)を用いることができる。
【0029】
なお、2以上の標識が必要となる場合、標的細胞には、互いに異なる振動数をもつ圧電体が標識される。例えば、2つの特徴的な抗原をもつ標的試料を検出する場合、図2に示すように、それら抗原には、対応する抗体(プローブ)を介して、互いに異なる振動数をもつ圧電体(圧電体A、圧電体B)が標識される。つまり、標的試料には、その種に応じて、1又は2以上の固有の圧電体が標識される。
【0030】
この実施の形態の場合、圧電体が標識された標的試料は、金微粒子とともに、所定の溶液(一般には生理食塩水)に入れられ、水流系ユニット2のサンプル流送出部2Bにセットされる。したがって、例えば図3に示すように、層流LFのうち、サンプル流SF2には標的細胞及びその他の細胞の周囲に複数の金微粒子GPが混在する状態で流れることとなる。
【0031】
(3)検出系ユニットの具体的構成
次に、検出系ユニット3の具体的な構成について、図4を用いて説明する。この図4において、検出系ユニット3は、層流管10と、複数の標識物検出部201〜20nとによって構成される。
【0032】
層流管10は、水流系ユニット2の合流チャンバ2Xに連結され、該合流チャンバ2Xにおけるノズルの噴出口OPから噴出される層流LFの外層(シース流SF1)を、層流管10の内壁が接するように囲むようになされている。
【0033】
各標識物検出部201〜20n(n=2、3、……)は、レーザ光を照射するレーザ光光源211〜21nと、層流LFのサンプル流SF2に対して垂直方向からレーザ光があたるように該レーザ光を導く光学系221〜22nと、弾性波検出部231〜23nとからなっている。
【0034】
このレーザ光光源211〜21nから対応する光学系221〜22nを介して層流LFのサンプル流に導かれるレーザ光の波長が、そのサンプル流を流れる金微粒子GP(図3)の直径よりも大きい場合、当該レーザ光が金微粒子GPにあたると、図5に示すように、その金微粒子GP周囲には、表面局部に限定された状態で、準静電界(近接場)が形成される。
【0035】
ここで、レーザ光の周波数は、固有の振動数をもつ複数の圧電体のうち、検出対象として対応付けられた圧電体の振動数と同じ周波数(f1〜fn)がそれぞれ選定される。
【0036】
したがって、ある振動数をもつ圧電体により標識される標的試料がサンプル流SF2を流れる場合、当該振動数と同一の周波数(f1、f2、……、又はfn)のレーザ光が導かれる位置にまで標識試料が達し、該レーザ光によって複数の金微粒子GPの周囲に形成される準静電界(近接場)内に、標的試料に標識された圧電体が入っていると、その圧電体は、固有の振動数で振動し(逆圧電効果)、当該振動歪が弾性波として、対応する弾性波検出部231、……、又は23nに伝わることとなる。
【0037】
なお、この弾性波は、分取系ユニット5によってサンプル流SF2に流されるチャージ電圧(電荷)とはその周波数が大きく異なるため、互いに干渉するといった問題はない。
【0038】
他方、各弾性波検出部231〜23nは、対応するレーザ光が導かれる位置と同一面上であり、かつ層流管10(図4)の外壁と内壁との間にそれぞれ設けられており、それぞれ、図6に示すように、圧電板31と、該圧電板の表面に設けられたIDT(Inter Digital Transducer)32とでなる。この圧電板31は、標的試料から伝えられる弾性波に共振して表面波を発生する(圧電効果)。
【0039】
IDT32は、櫛状の2つの導体の櫛刃を交互に対向させたもので、特定の信号成分を抽出するフィルタとして機能するものである。このIDT32で抽出すべき信号成分は、圧電板の材料及び櫛刃の間隔によって設定される。これは、IDT32では、圧電板における表面波の伝播速度をvとし、櫛刃の間隔を2dとし、IDTの中心周波数をfとすると、次式
【0040】
【数2】
【0041】
の関係にあるからである。
【0042】
この実施の形態における各弾性波検出部のIDT32には、対応するレーザ光光源211〜21n(図4)から送出されるレーザ光の周波数と一致するように、圧電板の材料及び櫛刃の間隔がそれぞれ設定される。したがって各弾性波検出部231〜23nのIDT32は、圧電板31に発生する表面波のうち、対応する圧電体の振動数と同一成分を抽出し、これを検出信号S1としてデータ処理系ユニット4(図1)に送出するようになされている。
【0043】
このように検出系ユニット3は、サンプル流SF2に対して任意の間隔ごとに互いに異なる周波数のレーザ光を照射し、当該照射位置に流れる金微粒子の周囲に準静電界優位空間を形成させることで、標的試料に標識された圧電体を、対応する照射位置で振動させるとともに、その振動を対応する弾性波検出部231〜23nから検出信号S1(図6)として、データ処理系ユニット4(図1)に送出するようになされている。
【0044】
(4)データ処理系ユニットの具体的構成
データ処理系ユニット4は、図7に示すように、CPU(Central Processing Unit)41に対して、各種プログラムが格納されるROM(Read Only Memory)42、当該CPUのワークメモリとしてのRAM(Random Access Memory)43、信号入力部44及び記憶部45を接続することにより構成される。
【0045】
信号入力部44は、各弾性波検出部231〜23nのIDT32(図6)から供給される検出信号S1を増幅した後にA/D(Analog/Digital)変換処理を施し、この結果得られる検出データD1をCPU41に出力する。
【0046】
また記憶部45には、図8に示すように、標的試料の種類と、標的試料に対する圧電体の標識状態と、標的試料に対して印加すべきチャージ電圧量との対応付けがデータベース(以下、これを試料識別表と呼ぶ)として格納されている。
【0047】
CPU41は、この試料識別表と、信号入力部44から供給される検出データD1と、ROM42のプログラムとに基づいて、シース流に流れる標的試料の種を識別するとともに、当該標的試料に印加すべきチャージ電圧量を決定する。
【0048】
このCPU41の処理は、具体的には図9に示すフローチャートにしたがって実行される。すなわちCPU41は、処理開始命令を受けると、水流系ユニット2、検出系ユニット3及び分取系ユニット5をそれぞれ動作させた後にステップSP1に移り、このステップSP1において、各弾性波検出部231〜23nからの検出信号S1の入力を待ち受ける。
【0049】
CPU41は、各弾性波検出部231〜23nから検出信号S1を受けた場合、続くステップSP2に移り、このステップSP2において、これら検出信号S1と、記憶部45に記憶された試料識別表(図8)とから、各弾性波検出部231〜23nを流れた標的試料の種を識別するとともに、当該標的試料に印加すべきチャージ電圧量を決定する。
【0050】
続いてCPU41は、ステップSP3において、ステップSP2で決定したチャージ電圧量を、液滴形成時点(break off point)に流すべき命令を分取系ユニット5に対して通知し、ステップSP1に戻る。ちなみに、分取系ユニット5では、この命令に応じて、チャージ電圧がサンプル流を通じて液滴形成時点(break off point)に流され、この結果、対応する標的試料が含まれる液滴が、帯電状態における静電力により偏向板5A又は5B引き寄せられ、所定のコレクションチューブCT1〜CTmに落下することになる。
【0051】
このようにしてデータ処理系ユニット4は、検出系ユニット3での検出結果に基づいて、対応する標的試料を解析するとともに、当該標的試料を対応するコレクションチューブCTに振り分けるように、分取系ユニット5を制御することができるようになされている。
【0052】
(5)動作及び効果
以上の構成において、このフローサイトメトリ1は、金微粒子GPの半径をその電磁波の波長よりも小さいことを条件として、層流LFの経路にレーザ光をレーザ光光源21から印加する。
【0053】
この層流LFにおけるサンプル流SF2には、イオン化傾向の最も小さい金微粒子GPと、固有の振動数をもつ圧電体が標識された標的物質とが流される(図3)。フローサイトメトリ1は、サンプル流SF2を流れる金微粒子GPにレーザ光が印加されることにより当該金微粒子表面に形成される準静電界(図5)によって、該粒子に生じる振動を検出する。
【0054】
したがって、このフローサイトメトリ1は、標的試料のまわりに散在する金微粒子GPの表面局部に限定して準静電界(近接場)を形成することができるため、当該標識物質がレーザ光の照射方向の裏側に位置する場合であったとしても、準静電界内に金微粒子GPを入れることができ、この結果、当該場合でも適切に標識物質を検出することができる。
【0055】
これに加えて、標的試料のまわりに散在する金微粒子GPの表面局部に限定して準静電界(近接場)を形成するため、外部からのノイズに起因する検出精度への影響を低減することもできる。
【0056】
また、このフローサイトメトリ1は、一のレーザ光光源21及び弾性波検出部23を、圧電体を検出する単位として、振動数の異なる複数の圧電体を検出するように、複数のレーザ光光源211〜21n及び弾性波検出部231〜23nを設ける。これらは、当該レーザ光光源21以外から生じるレーザ光の影響を受けない程度の距離だけ離間した状態で、層流方向に沿って位置させる。
【0057】
したがって、このフローサイトメトリ1は、振動数の異なる複数の圧電体を、検出単位ごとに層流経路上で独立して検出することができるため、標的物質に対して、振動数の異なる数多くの圧電体が標識されている場合であっても、当該圧電体を、個々の検出精度を維持しつつ検出することが可能となる。
【0058】
なお、従来のレーザ方式では、標的物質に対して、標的物質に標識される蛍光標識が多くなるほど、対応する散乱光を検出器に分離する光学系を構築することが困難となるとともに、全体として大型化するが、当該従来のレーザ方式に比して、このフローサイトメトリ1ではその程度を緩和できる点で有用である。
【0059】
さらに、このフローサイトメトリ1は、層流LFを囲む層流管10を設け、当該層流管10の内壁と外壁との間に、弾性波検出部23を設けている。したがって、このフローサイトメトリ1は、サンプル流SF2に対する弾性波検出部23までの距離を短くできる分だけ、標的物質に標識された圧電体の振動を、弾性波検出部23にまで確実に伝えることができるとともに、このような構成を採用しない場合に比して、外部からのノイズに起因する検出精度への影響を低減することができる。
【0060】
以上の構成によれば、標的試料のまわりに散在する金属微粒子の周囲に準静電界を用いて、当該標的試料に標識された粒子との逆圧電効果により得られる振動を検出するようにしたことにより、高精度で標識物質を検出し得るフローサイトメトリ1を実現できる。
【0061】
(6)他の実施の形態
上述の実施の形態においては、標識物質として圧電体を用いるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、電歪体を用いるようにしてもよく、要は、所定の振動数をもつ物質を適用することができる。なお、電歪体とは、広義には、結晶に電界を印加したとき、該電界の2乗に比例した歪を示すものをいう。この電歪体には、圧電体において必要とされる分極処理操作が不要である、電界の極性を問わない(歪の形が左右対称)などの特徴があるので、圧電体に比して有用となる場合もある。
【0062】
また上述の実施の形態においては、サンプル流SF2を流れる標的試料のまわりに散在させるものとして、金微粒子を用いるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、イオン傾向化の小さい金属物質を用いるようにしてもよい。具体的には、白金(Pt)、パラジウム(Pd)又は銀(Ag)の微粒子などがあるが、イオン化傾向の小さい金から銀までの間における金属微粒子であれば適用することができる。ただし、金属微粒子自体の安定化の観点や、生体(検査者又は試料の採取者)に対する安全面の観点からすれば、金微粒子又は白金微粒子が好ましい。
【0063】
さらに上述の実施の形態においては、検出系ユニット3として、ノズルから噴出される層流LFの外層(シース流SF1)を層流管の内壁が接するように囲む層流管10と、レーザ光光源211〜21nと、層流LFのサンプル流SF2に対して垂直方向からレーザ光があたるように該レーザ光を導く光学系221〜22nと、弾性波検出部231〜23nとによって構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、これ以外の構成であってもよい。
【0064】
例えば、図4との対応部分に同一符号を付した示す図10に示す検出系ユニットを採用することができる。この図13に示す検出系ユニットでは、単一周波数のレーザ光を照射する複数のレーザ光光源211〜21n(図4)に代えて、複数の周波数成分の混ざった微分ガウス波形でなるレーザ光を照射する1つのレーザ光光源21xが設けられた点で相違する。
【0065】
この図10に示す検出系ユニットでは、レーザ光光源21xから微分ガウス波形のレーザ光が導かれる位置にまで標識試料が達し、該レーザ光によって金微粒子GPの周囲に形成される準静電界(近接場)内に(図5)、標的試料に標識された圧電体が入っていると、その圧電体は、固有の振動数で振動し(逆圧電効果)、当該振動歪が弾性波として、各弾性波検出部231〜23nに伝わる。
【0066】
ここで、標的試料に2以上の圧電体が標識されている場合には、当該圧電体固有の振動数の弾性波が、対応する弾性波検出部231〜23nから検出信号S1(図6)として検出されることとなる。
【0067】
この図10に示す検出系ユニットによれば、検出系ユニット3に比して、レーザ光光源数を低減できるとともに、層流管10に対する配置スペースを小さくできる点で、有効となる。ただし、留意点として、金微粒子GPの周囲に形成される準静電界(近接場)内に、複数の弾性波検出部231〜23nが配置されるといった状態を構築する必要がある。
【0068】
なお、複数の周波数成分の混ざった波として、微分ガウス波形を適用したが、これに限らず、表面横波(STW)、レイリー波(SAW)、SH表面波(BGS波:Bleustein-Gulyaev-Shimizu wave)、ラム波、表面スキミングバルク波(SSB波:Surface-skimming wave)、SH(Shear horizontal)バルク波、ラム波などを含む様々な波を使用することが可能である。
【0069】
また上述の実施の形態においては、圧電体又は電歪体でなる粒子に生じる振動を検出する検出手段として、弾性波検出部23を適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、圧電体と、その圧電体に接続されたバンドパスフィルタ回路とでなるものを適用するようにしてもよい。要は、特定の弾性波(圧電体又は電歪体でなる粒子に生じる振動)を検出するSAW(Surface Acoustic Wave)デバイスであればよい。
【0070】
さらに上述の実施の形態においては、標的試料の種に応じたチャージ電圧を液滴形成時点(break off point)でサンプル流SF2に流して対応する標的試料が含まれる液滴を荷電することで、当該液滴を、固定電圧が印加された偏向板5A及び偏向板5Bを介して振り分けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、サンプル流SF2に固定のチャージ電圧を印加しておき、標的試料の種に応じて偏向板5A及び5Bに印加する電圧量を変化させて、対応する標的試料が含まれる液滴を、該標的試料の種に応じた量だけ偏向板5A又は偏向板5Bに引き寄せることで、液滴を振り分けるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、医薬を生成する場合などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本実施の形態によるフローサイトメトリの全体構成を示す略線図である。
【図2】標的細胞に標識される圧電体を示す略線図である。
【図3】サンプル流に流れる標的細胞及び金微粒子を示す略線図である。
【図4】検出系ユニットの構成を示す略線図である。
【図5】金微粒子表面に形成される準静電界(近接場)の説明に供する略線図である。
【図6】弾性波検出部の構成を示す略線図である。
【図7】データ処理系ユニットの構成を示すブロック図である。
【図8】試料識別表を示す略線図である。
【図9】解析分取処理手順を示すフローチャートである。
【図10】他の実施の形態による検出系ユニットを示す略線図である。
【符号の説明】
【0073】
1……フローサイトメトリ、3……検出系ユニット、10……層流管、201〜20n……標識物検出部、211〜21n……レーザ光光源、221〜22n……光学系、231〜23n……弾性波検出部、31……圧電板、32……IDT、41……CPU。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル流に個別に流れる試料のうち標的試料に標識された標識物質を検出する標識検出装置であって、
上記サンプル流には、イオン化傾向の小さい金から銀までの間における金属微粒子と、固有の振動数をもつ圧電体又は電歪体でなる粒子を上記標識物質とする上記標的物質とが流され、
上記金属微粒子の半径をその電磁波の波長よりも小さいことを条件として、上記サンプル流の経路に電磁波を印加する電磁波印加手段と、
上記サンプル流を流れる上記標的物質のまわりにある上記金属微粒子に対して上記電磁波が印加された場合に、当該金属微粒子表面に形成される準静電界によって、上記標的物質に標識された粒子に生じる振動を検出する検出手段と
を具えることを特徴とする標識検出装置。
【請求項2】
上記電磁波印加手段は、
振動数の異なる複数の粒子における該振動数にそれぞれ対応する周波数成分が混在する電磁波を上記サンプル流の経路に印加し、
上記検出手段は、
各上記粒子の振動数に対応する数だけ、上記サンプル流の流方向に対して設けられた
ことを特徴とする請求項1に記載の標識検出装置。
【請求項3】
一の上記電磁波印加手段及び上記検出手段を、上記粒子を検出する単位として、複数の上記電磁波印加手段及び上記検出手段が、振動数の異なる複数の粒子を検出するように、上記サンプル流の流方向に設けられ、
各上記検出手段は、当該検出手段に対応する電磁波印加手段以外の電磁波印加手段の影響を受けない程度の距離だけ離間された
ことを特徴とする請求項1に記載の標識検出装置。
【請求項4】
上記サンプル流を囲む非導電性の管をさらに具え、
上記検出手段は、上記管の内壁と外壁との間に設けられた
ことを特徴とする請求項1に記載の標識検出装置。
【請求項5】
上記検出手段は、
圧電板と、該圧電板の表面に設けられたIDT(Inter Digital Transducer)と
を具え、
上記出力手段から出力される上記信号の周波数と、上記IDTの中心周波数とが一致するように、上記圧電板の材料及び上記IDTの形状が選択された
ことを特徴とする請求項1に記載の標識検出装置。
【請求項6】
サンプル流に個別に流れる試料のうち標的試料に標識された標識物質を検出する標識検出方法であって、
上記サンプル流には、イオン化傾向の小さい金から銀までの間における金属微粒子と、固有の振動数をもつ粒子が上記標識物質として標識された上記標的物質とが流され、
上記金属微粒子の半径をその電磁波の波長よりも小さいことを条件として、上記サンプル流の経路に電磁波を印加する第1のステップと、
上記サンプル流を流れる上記標的物質のまわりにある上記金属微粒子に対して上記電磁波が印加された場合に、当該金属微粒子表面に形成される準静電界によって、上記標的物質に標識された粒子に生じる振動を検出する第2のステップと
を具えることを特徴とする標識検出方法。
【請求項1】
サンプル流に個別に流れる試料のうち標的試料に標識された標識物質を検出する標識検出装置であって、
上記サンプル流には、イオン化傾向の小さい金から銀までの間における金属微粒子と、固有の振動数をもつ圧電体又は電歪体でなる粒子を上記標識物質とする上記標的物質とが流され、
上記金属微粒子の半径をその電磁波の波長よりも小さいことを条件として、上記サンプル流の経路に電磁波を印加する電磁波印加手段と、
上記サンプル流を流れる上記標的物質のまわりにある上記金属微粒子に対して上記電磁波が印加された場合に、当該金属微粒子表面に形成される準静電界によって、上記標的物質に標識された粒子に生じる振動を検出する検出手段と
を具えることを特徴とする標識検出装置。
【請求項2】
上記電磁波印加手段は、
振動数の異なる複数の粒子における該振動数にそれぞれ対応する周波数成分が混在する電磁波を上記サンプル流の経路に印加し、
上記検出手段は、
各上記粒子の振動数に対応する数だけ、上記サンプル流の流方向に対して設けられた
ことを特徴とする請求項1に記載の標識検出装置。
【請求項3】
一の上記電磁波印加手段及び上記検出手段を、上記粒子を検出する単位として、複数の上記電磁波印加手段及び上記検出手段が、振動数の異なる複数の粒子を検出するように、上記サンプル流の流方向に設けられ、
各上記検出手段は、当該検出手段に対応する電磁波印加手段以外の電磁波印加手段の影響を受けない程度の距離だけ離間された
ことを特徴とする請求項1に記載の標識検出装置。
【請求項4】
上記サンプル流を囲む非導電性の管をさらに具え、
上記検出手段は、上記管の内壁と外壁との間に設けられた
ことを特徴とする請求項1に記載の標識検出装置。
【請求項5】
上記検出手段は、
圧電板と、該圧電板の表面に設けられたIDT(Inter Digital Transducer)と
を具え、
上記出力手段から出力される上記信号の周波数と、上記IDTの中心周波数とが一致するように、上記圧電板の材料及び上記IDTの形状が選択された
ことを特徴とする請求項1に記載の標識検出装置。
【請求項6】
サンプル流に個別に流れる試料のうち標的試料に標識された標識物質を検出する標識検出方法であって、
上記サンプル流には、イオン化傾向の小さい金から銀までの間における金属微粒子と、固有の振動数をもつ粒子が上記標識物質として標識された上記標的物質とが流され、
上記金属微粒子の半径をその電磁波の波長よりも小さいことを条件として、上記サンプル流の経路に電磁波を印加する第1のステップと、
上記サンプル流を流れる上記標的物質のまわりにある上記金属微粒子に対して上記電磁波が印加された場合に、当該金属微粒子表面に形成される準静電界によって、上記標的物質に標識された粒子に生じる振動を検出する第2のステップと
を具えることを特徴とする標識検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2008−107110(P2008−107110A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287899(P2006−287899)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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