説明

標識磁性粒子を用いた被検物質の検出方法、及び被検物質の検出システム

【課題】試験溶液中の被検物質の高感度な検出を迅速かつ簡便に行うことが可能な被検物質の検出方法、及び被検物質の検出システムを提供する。
【解決手段】本発明の被検物質の検出方法は、被検物質1の結合部位を介して該被検物質1と結合することのできる第1物質2を固定化しているテストライン7を有するテストストリップ3中において、試料と、前記結合部位とは異なる部位を介して前記被検物質1と結合することのできる第2物質4で表面修飾され標識物質で標識された標識磁性粒子5とを、磁力の制御下で展開させる工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標識磁性粒子を用いた被検物質の検出方法、及び被検物質の検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
試料中の微量の被検物質を検出する方法としては、ELISA(enzyme‐linked immunosorbent assay)法やMEIA(microparticle enzyme-based immunoassay)法等が普及しているが、これら検出法は、操作時間や反応時間に長時間を要し、また、測定操作が煩雑等の問題がある。
【0003】
そこで近年、ELISA法等に代わる分析法として、イムノクロマトグラフィー法を利用した分析法が注目されている。イムノクロマトグラフィー法とは、被検物質が毛細管現象により多孔質支持体内を移動し、標識粒子に捕捉され、更に多孔質支持体に局所的(例えば、ライン状)に固定化された捕捉物質と接触することによって前記被検物質が濃縮され、捕捉物質が固定化されたラインが発色することによって被検物質の有無を判定する免疫測定法をいう。イムノクロマトグラフィー法は、保存安定性、迅速測定、判定の容易さ、特別な付属装置が不要等の様々な点で優れているため、例えば妊娠検査薬やインフルエンザ検査薬に用いられており、新たなPOCT(Point Of Care Testing)の手法として注目を集めている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、イムノクロマトグラフィー法は感度の点で問題があり、測定対象物によっては充分な感度が得られない場合があり、測定不可能な場合もある。
現在、イムノクロマトグラフィー法では標識物質として金ナノ粒子が最もよく使用されている。試験溶液中の被検物質濃度が極めて低濃度であると、テストラインにおける金ナノ粒子の集積量が不十分となるため、発色が極めて薄くなり、陰性と誤判定されるおそれがある。
【0005】
そこで、イムノクロマトグラフィー法の検出感度向上を目的とした研究が各方面で進められている。
例えば、蛍光物質を含有したシリカナノ粒子に被検物質を認識する抗体を結合させ、被検物質と結合したシリカナノ粒子の蛍光を検出する方法(例えば、特許文献2参照)や、第1抗体を固定化したテストストリップに対して被検物質と該被検物質を認識する標識第2抗体を展開させた後、第1抗体を結合させた所定のシグナルを発する増感剤を展開させることで、被検物質の集積量を増加させ、被検物質濃度が低濃度の場合でもシグナルを得る方法(例えば、特許文献3参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−67979号公報
【特許文献2】特許第4514824号公報
【特許文献3】特許第4179419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、被検物質濃度が低濃度の場合に、反応効率が低くなり陰性と誤判定されるおそれがある。
また、特許文献3に記載の方法では、展開、検出操作が煩雑となるため、検出結果を得るまでに時間を要するという問題がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、試験溶液中の被検物質の高感度な検出を迅速かつ簡便に行うことが可能な被検物質の検出方法、及び被検物質の検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究を行った結果、標識磁性粒子を用いることにより、課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、下記(1)〜(16)を提供するものである。
(1)被検物質の結合部位を介して該被検物質と結合することのできる第1物質を固定化しているテストラインを備えたテストストリップ中において、試料と、前記結合部位とは異なる部位を介して前記被検物質と結合することのできる第2物質で表面修飾され標識物質で標識された標識磁性粒子とを、磁力の制御下で展開させる工程を含むことを特徴とする被検物質の検出方法。
(2)テストストリップ中において、前記第2物質を介して前記被検物質と結合している前記標識磁性粒子の展開速度を磁力により遅らせ、前記テストラインに固定化している前記第1物質と前記被検物質との接触時間を増大させる工程を含むことを特徴とする前記(1)の被検物質の検出方法。
(3)テストストリップ中において、磁力により前記被検物質と結合していない前記標識磁性粒子の展開速度を遅らせることにより、前記標識磁性粒子と、テストラインに固定化されている前記被検物質との接触時間を増大させる工程を含むことを特徴とする前記(1)又は(2)の被検物質の検出方法。
(4)テストストリップ中において、磁力により前記テストラインに集積した前記第2物質を介して前記被検物質と結合している前記標識磁性粒子を、磁力を外して展開させた後、展開方向とは反対側に磁力を作用させて展開させる工程、及び/又は、展開方向とは反対側に磁力を作用させて展開させた後、磁力を外して展開させる工程を少なくとも1回繰り返すことにより、前記テストラインに固定化している前記第1物質と前記被検物質との接触時間を増大させる工程を含むことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかの被検物質の検出方法。
(5)テストストリップ中において、磁力により前記試料及び前記標識磁性粒子を展開させた後、前記テストラインに捕捉されなかった標識磁性粒子を磁力により捕捉したまま、展開方向を反対にして、前記テストラインに捕捉されなかった前記被検物質を展開させることにより、前記標識磁性粒子と前記被検物質との接触時間、及び/又は、前記第1物質と前記被検物質との接触時間を増大させた後、展開方向とは反対側に磁力を作用させて前記標識磁性粒子を展開させることにより、前記標識磁性粒子と前記被検物質との接触時間を増大させる工程を含むことを特徴とする請求項(1)〜(3)のいずれかの被検物質の検出方法。
(6)テストストリップ中において、磁力により前記テストラインに集積した前記被検物質と結合していない前記標識磁性粒子を、磁力を外して展開させることにより、及び/又は、展開方向とは反対方向に磁力を作用させることにより、前記被検物質と結合していない前記標識磁性粒子を前記所定部分から除去する工程を含むことを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかの被検物質の検出方法。
(7)テストストリップ中において、磁力により前記被検物質と結合している前記標識磁性粒子の展開速度を速める工程を含むことを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかの被検物質の検出方法。
【0011】
(8)前記第1物質が、抗体、断片化抗体、完全抗原、およびハプテンからなる群から選ばれることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかの被検物質の検出方法。
(9)前記第2物質が、抗体、断片化抗体、完全抗原、およびハプテンからなる群から選ばれることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかの被検物質の検出方法。
(10)前記テストストリップが乾燥多孔質素材からなることを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれかの被検物質の検出方法。
(11)前記乾燥多孔質素材がガラスウール、セルロース、およびニトロセルロースからなる群から選ばれることを特徴とする前記(10)の被検物質の検出方法。
(12)前記第1物質及び前記第2物質が抗体であることを特徴とする前記(1)〜(11)のいずれかの被検物質の検出方法。
【0012】
(13)前記標識物質が、比色物質、発光物質、酸化還元物質、および磁性物質からなる群から選ばれることを特徴とする前記(1)〜(12)のいずれかの被検物質の検出方法。
(14)被検物質の結合部位を介して該被検物質と結合することのできる第1物質を固定化しているテストストリップ中において、試料と、前記結合部位とは異なる部位を介して前記被検物質と結合することのできる第2物質で表面修飾され発光物質で標識された標識磁性粒子とを、磁力の制御下で展開させる磁力制御展開手段と、前記発光物質で標識された標識磁性粒子が発する発光を検出する検出手段とを備えたことを特徴とする被検物質の検出システム。
(15)前記検出手段は、励起光源から特定の波長の励起光のみを透過するフィルタと、前記励起光を除去し蛍光のみを透過するフィルタとを備えることを特徴とする前記(14)の被検物質の検出システム。
(16)被検物質の結合部位を介して該被検物質と結合することのできる第1物質を固定化しているテストストリップ中において、試料と、前記結合部位とは異なる部位を介して前記被検物質と結合することのできる第2物質で表面修飾され酸化還元物質で標識された標識磁性粒子とを、磁力の制御下で展開させる磁力制御展開手段と、前記酸化還元物質で標識された標識磁性粒子の酸化還元反応を検出する検出手段とを備えたことを特徴とする被検物質の検出システム。
【0013】
(17)被検物質の結合部位を介して該被検物質と結合することのできる第1物質を固定化しているテストストリップ中において、試料と、前記結合部位とは異なる部位を介して前記被検物質と結合することのできる第2物質で表面修飾され磁気物質で標識された標識磁性粒子とを、磁力の制御下で展開させる磁力制御展開手段と、前記磁気物質で標識された標識磁性粒子の磁性を検出する検出手段とを備えたことを特徴とする被検物質の検出システム。
【発明の効果】
【0014】
本発明の被検物質の検出方法によれば、試験溶液中の被検物質が低濃度の場合であっても、充分に強いシグナルを得ることができるため、検出感度の向上を図ることができる。
また、本発明の被検物質の検出システムによれば、被検物質の高感度検出が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の被検物質の検出方法を模式的に示した図である。
【図2】本実施形態の被検物質の検出方法において、試料と標識磁性粒子を展開した後のテストライン付近を模式的に示した図である。
【図3】本実施形態の被検物質の検出方法において、テストラインの下に磁力発生器を設置し、試料と標識磁性粒子を展開させた後のテストライン付近を模式的に示した図である。
【図4】比較例1の試験結果を示した図である。
【図5】実施例1の試験結果を示した図である。
【図6】実施例2の試験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の被検物質の検出方法、及び被検物質の検出システムについて、詳細に説明する。
【0017】
図1に示されるように、本実施形態の被検物質の検出方法は、被検物質1の結合部位を介して該被検物質1と結合することのできる第1物質2を固定化しているテストライン7を備えたテストストリップ3中において、試料と、前記結合部位とは異なる部位を介して前記被検物質1と結合することのできる第2物質4で表面修飾され標識物質で標識された標識磁性粒子5とを、磁力の制御下で展開させる工程を含むものである。
【0018】
本実施形態においては、生体物質、合成物質等あらゆる物質を被検物質1とすることができる。また、試料としては、例えば血液、血清、尿等の生体由来の試料溶液、これらを調製して得られた溶液等、任意のものを用いることができる。
【0019】
図1に示されるように、本実施形態においては、被検物質1と結合することのできる2種類の物質、すなわち第1物質2及び第2物質4を用いる。これらの物質は、検出対象となる被検物質1上の異なる部位をそれぞれ認識して特異的に結合するものである。
【0020】
第1物質2及び第2物質4は、それぞれ独立に抗体、断片化抗体、完全抗原、およびハプテンからなる群から選ばれるものであることが好ましい。
更に、第1物質2及び第2物質4は、互いに抗原認識部位が異なる抗体であることがより好ましい。
即ち、本実施形態の被検物質の検出方法はイムノクロマトグラフィー法であることが好ましい。
【0021】
また、本実施形態においては、テストライン7(判定部)に第1物質2を固定化しているテストストリップ3と、前記第2物質4で表面修飾され標識物質で標識された標識磁性粒子5を用意する。そして、テストストリップ3中に被検物質1を含む試料及び標識磁性粒子5を展開する際、磁力により、テストライン7上に標識磁性粒子5を集積させる。本実施形態においては、テストストリップ3の下に配設された磁力発生装置6から生じる磁力を用いることが好ましい。磁力発生装置に用いられる磁石としては、永久磁石であってもよく、電磁石であってもよい。
【0022】
本実施形態におけるテストストリップ3としては、第1物質2が固定化されているテストライン7を備えた構成であれば、イムノクロマトグラフィー法に用いられるテストストリップを制限無く用いることができる。
前記テストストリップ3としては、乾燥多孔質素材からなるものであることが好ましく、ガラスウール、セルロース、およびニトロセルロースからなる群から選ばれるものであることがより好ましい。
前記テストストリップ3への第1物質2の固定化は常法に従って行えばよく、例えば塗布すればよい。テストライン7の形状は図1では展開方向に略直交する帯状であるが、これに限定されるものではない。
【0023】
テストストリップ3は、テストライン7に捕捉されなかった標識磁性粒子5を捕捉するためのコントロールラインをテストライン7より下流側に備えていることが好ましい。コントロールラインは、標識磁性粒子5に表面修飾した第2物質4を認識する第3物質が塗布、固定化されて構成される。第2物質4が抗体である場合には、第3物質も抗体であることが好ましい。コントロールラインにおいて標識物質からのシグナルが観察されることにより、検査の終了が示される。またテストストリップ3は、メンブレンの下流側端部に吸収パットを備え、ここで余剰の展開液等を吸収させることが好ましい。
【0024】
被検物質1を検出するに際しては、まず被検物質1を含む試料と第2物質4で表面修飾され標識物質で標識された標識磁性粒子5を混合し、テストストリップ3中に展開してもよい。
図2左部に示されるように、試料中に被検物質1が存在する場合、混合物中で形成された被検物質1−第2物質4−標識磁性粒子5複合体が、テストライン7に固定化している第1物質2に捕捉される。その結果、テストストリップ3中に第1物質2−被検物質1−第2物質4−標識磁性粒子5複合体が形成される。この時点においてもテストライン7(判定部)に集積した標識磁性粒子5の標識物質からのシグナルが観察されるが、試験溶液中の被検物質1が低濃度の場合には標識物質の集積量が不十分となり、シグナルが得られない、または弱いシグナルしか得られないことがある。
【0025】
そこで、本実施形態では、テストストリップ3の下に配設された磁力発生装置6から発生する磁力により、試料と標識磁性粒子5を展開させることが好ましい。さらに、本実施形態においては、テストストリップ3中の被検物質1−第2物質4−標識磁性粒子5複合体の展開速度を遅らせ、テストライン7に固定化している第1物質2と被検物質1との接触時間を増大させる工程を含むことが好ましい。かかる工程により、テストストリップ3中の第1物質2−被検物質1−第2物質4−標識磁性粒子5複合体の反応効率が向上し、テストライン7における標識磁性粒子5の集積量が増大し、試験溶液中の被検物質1の濃度が低い場合であってもテストライン7において強いシグナルが得られる。
【0026】
また、本実施形態では、テストストリップ3中において、磁力により被検物質1と結合していない標識磁性粒子5の展開速度を遅らせることにより、前記標識磁性粒子5と、テストライン7に固定化された被検物質1との接触時間を増大させる工程を含むことが好ましい。すなわち、テストストリップ3中に被検物質1を含む試料を展開させた後に、標識磁性粒子5を展開させ、被検物質1と結合していない標識磁性粒子5の展開速度を遅らせてもよい。かかる工程により、該被検物質と磁性粒子との結合反応効率を向上させることができる。
【0027】
さらに、本実施形態では、テストストリップ3中において、磁力によりテストライン7に集積した前記第2物質4を介して前記被検物質1と結合している前記標識磁性粒子5(被検物質1−第2物質4−標識磁性粒子5複合体)を、磁力を外して展開させた後、展開方向とは反対側に磁力を作用させて展開させる工程、及び/又は、展開方向とは反対側に磁力を作用させて展開させた後、磁力を外して展開させる工程を少なくとも1回繰り返すことにより、テストライン7に固定化している前記第1物質2と前記被検物質1との接触時間を増大させる工程を含むことが好ましい。
本実施形態において、磁力を外して展開させることの具体例として、磁力発生装置6から磁石を外して展開させることが挙げられる。
このように、被検物質1−第2物質4−標識磁性粒子5複合体を、テストライン7上を往復させることにより、第1物質2−被検物質1−第2物質4−標識磁性粒子5複合体の反応効率が向上し、テストライン7における標識磁性粒子5の集積量が増大し、試験溶液中の被検物質1の濃度が低い場合であってもテストライン7において強いシグナルが得られる。
【0028】
また、本実施形態では、テストストリップ3中において、磁力により前記試料及び前記標識磁性粒子5を展開させた後、前記テストライン7に捕捉されなかった標識磁性粒子5を磁力により捕捉したまま、展開方向を反対にして、前記テストライン7に捕捉されなかった前記被検物質を展開させることにより、前記標識磁性粒子5と前記被検物質1との接触時間、及び/又は、前記第1物質2と前記被検物質1との接触時間を増大させた後、展開方向とは反対側に磁力を作用させて前記標識磁性粒子5を展開させることにより、前記標識磁性粒子5と前記被検物質1との接触時間を増大させる工程を含むことが好ましい。
本実施形態において、テストライン7に捕捉されなかった標識磁性粒子5は、磁力によりテストライン7よりも展開方向に対して後方に捕捉される。
また、磁力を外して展開させることの具体例として、磁力発生装置6から磁石を外して展開させることが挙げられる。
このように、被検物質1を、テストライン7上を往復させること、及び、被検物質1を標識磁性粒子5と繰り返し反応させることにより、第1物質2−被検物質1−第2物質4−標識磁性粒子5複合体の反応効率が向上し、テストライン7における標識磁性粒子5の集積量が増大し、試験溶液中の被検物質1の濃度が低い場合であってもテストライン7において強いシグナルが得られる。
【0029】
また、本実施形態では、磁力によりテストライン7に集積した被検物質1と結合していない標識磁性粒子5を、磁力を外して展開させることにより、具体的には上述したように、磁力発生装置6から磁石を外して展開させることにより、及び/又は展開方向とは反対側に磁力を作用させることにより、被検物質1と結合していない標識磁性粒子5をテストライン7から除去する工程を含むことが好ましい。すなわち、図2右部に示されるように、試料中に被検物質1が存在しなかった場合、テストライン7において標識磁性粒子5に起因するシグナルを発生することはない。したがって、本実施形態によれば、試料中に被検物質1が存在する場合のみテストライン7におけるシグナル強度を増強させるため、正確な検出が可能である。
【0030】
また、本実施形態では、テストストリップ3中において、磁力により被検物質1と結合している標識磁性粒子5の展開速度を速める工程を含むことが好ましい。かかる工程により、被検物質1−第2物質4−標識磁性粒子5複合体がテストライン7に到達するまでの時間が短くなり、試験溶液添加から検出測定までに要する時間が短縮されるため、迅速な測定が実現される。
【0031】
本実施形態における標識磁性粒子5の平均粒径は20〜600nmであることが好ましく、60〜300nmであることがより好ましい。粒径が小さすぎると、検出感度が低下し、粒径が大きすぎると、特にイムノクロマトグラフィー法に用いられる場合のメンブレンの目詰まりの原因となる。本発明者らは、蛍光色素化合物含有磁性粒子の調製方法について特許出願している(例えば、特願2006−313493)。本実施形態においては、その方法に準じて得られた、標識物質で標識された磁性粒子を用いることが好ましい。該磁性粒子の標識方法としては特に限定されないが、該磁性粒子に標識物質を含有させることがより好ましい。
本実施形態における標識磁性粒子5は、磁性粒子と、磁性粒子を被覆するポリマー層と、ポリマー層の内部に保持された標識物質とを備える磁性ポリマー粒子であることが好ましい。
【0032】
前記磁性ポリマー粒子には、1個の磁性ポリマー粒子に、複数個の磁性粒子が被覆されて存在していてもよく、構成する磁性粒子としては、水中での微粒子生成が可能なマグネタイトなどのフェライト粒子が好ましい。他方、フェライト以外の磁性粒子としては、例えば各種磁性金属の微粒子、又は各種磁性化合物が用いられ、これらの磁性粒子がそれぞれに有する特徴的な磁気的性質をさまざまに利用することもできる。
【0033】
また、磁性ポリマー粒子において、磁性粒子が磁性ポリマー粒子の中心に近い位置に存在し、ポリマー層はこの磁性粒子を覆うようにして磁性粒子よりも外周側に存在することが好ましい。
このポリマー層には、標識物質と親和性を有し、該標識物質を保持する性質が保たれる範囲で、このポリマーに官能基を有する他の物質が共重合した共重合体を用いることができる。こうしてポリマーに官能基を有するようにし、この官能基を粒子の表面に配置させることによって、磁性粒子の機能性を高めることができる。
例えばそのようなポリマー層として、スチレンにグリシジルメタクリレート(GMA)のように、エポキシ基などの官能基を有する物質を少量加えて共重合体としたものが挙げられる。このようなポリマー層を用いることにより、磁性粒子はこのエポキシ基などの官能基を通じて他の物質との結合ができるので、生理活性物質をポリマー層に選択的に結合させることができ、これらの物質の検出や分離などの用途に適したものとなる。
【0034】
標識物質は、比色物質、発光物質、酸化還元物質、および磁性物質からなる群から選ばれるものであることが好ましい。
発光物質としては、蛍光分子、リン光分子、化学発光分子、酵素結合分子等が挙げられ、蛍光分子が好ましく、希土類金属キレート錯体の蛍光分子がより好ましい。
希土類金属キレート錯体の蛍光分子は蛍光寿命が長く、ストークスシフトが大きく、またスペクトル幅が狭いという特徴がある。このため、このような希土類金属キレート錯体を蛍光分子として用いることにより、バッククラウンドの蛍光によるノイズを回避でき、また他の従来の蛍光体を用いた場合に比べ、著しく高感度の蛍光標識を得ることができる。このような蛍光を示す希土類金属キレート錯体を構成する希土類金属としては、ユーロピウム、サマリウム、テルビウム、ジスプロシウム等を挙げることができる。
【0035】
本実施形態の被検物質の検出システムは、被検物質の結合部位を介して該被検物質と結合することのできる第1物質を固定化しているテストストリップ中において、試料と、前記結合部位とは異なる部位を介して前記被検物質と結合することのできる第2物質で表面修飾され発光物質で標識された標識磁性粒子とを、磁力の制御下で展開させる磁力制御展開手段と、前記発光物質で標識された標識磁性粒子が発する発光を検出する検出手段とを備えたものである。
【0036】
上述したように発光物質としては蛍光分子が好ましく、標識磁性粒子が発する蛍光を目視等によって検出する観点から、励起光源として、波長200nm〜400nmの励起光を発するものが好ましい。励起光源としては、水銀ランプ、ハロゲンランプ又はキセノンランプが挙げられる。
蛍光のみを目視等で検出する観点から、前記検出手段は、励起光源から特定の波長の励起光のみを透過するフィルタと、前記励起光を除去し蛍光のみを透過するフィルタとを備えることが好ましい。
また、前記検出手段は、前記蛍光を受光する光電子倍増管又はCCD検出器を備えることも好ましく、これにより目視では確認できない強度及び波長の蛍光も検出でき、高感度検出が可能となる。
【0037】
また、本実施形態の被検物質の検出システムは、被検物質の結合部位を介して該被検物質と結合することのできる第1物質を固定化しているテストストリップ中において、試料と、前記結合部位とは異なる部位を介して前記被検物質と結合することのできる第2物質で表面修飾され酸化還元物質で標識された標識磁性粒子とを、磁力の制御下で展開させる磁力制御展開手段と、前記酸化還元物質で標識された標識磁性粒子の酸化還元反応を検出する検出手段とを備えたものである。
【0038】
また、本実施形態の被検物質の検出システムは、被検物質の結合部位を介して該被検物質と結合することのできる第1物質を固定化しているテストストリップ中において、試料と、前記結合部位とは異なる部位を介して前記被検物質と結合することのできる第2物質で表面修飾され磁気物質で標識された標識磁性粒子とを、磁力の制御下で展開させる磁力制御展開手段と、前記磁気物質で標識された標識磁性粒子の磁性を検出する検出手段とを備えたものである。
【0039】
本実施形態の被検物質の検出システムは、前述の標識磁性粒子をイムノクロマトグラフィー法試薬として用いた場合、具体的には前述のようなテストストリップに好ましく使用される。
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
本実施例では、被検物質として前立腺癌のバイオマーカーである前立腺特異抗原(PSA)を用いてモデル実験を行った。第1抗体としてはPSAのEpitope4を認識するモノクローナル抗体(抗PSA抗体1H12)を用いた。第2抗体としては、PSAのEpitope6を認識するモノクローナル抗体(抗PSA抗体5A6)を用いた。
【0042】
先ず、メンブレンのテストラインに対応する領域に抗PSA抗体1H12を塗布し、コントロールラインに対応する領域に抗マウスIgG抗体を塗布した。その後、ブロッキング、ウォッシングを行い、テストストリップを得た。
また、蛍光標識物質としてユーロピウム錯体を含有させた磁性粒子表面に対して、抗PSA抗体5A6を結合させ、抗PSA抗体5A6修飾標識磁性粒子を得た。
【0043】
(比較例1)
前記テストストリップ、抗PSA抗体5A6修飾標識磁性粒子を用いて、PSAの検出を行った。先ず、抗原溶液(PSA濃度:0ng/ml,0.01ng/ml,0.1ng/ml,1ng/ml)に対して前記抗PSA抗体5A6修飾標識磁性粒子を加え混合した。混合した溶液をテストストリップに吸収させた後、ウォッシングを行った。次いで、テストストリップにキセノンランプを照射することにより、標識磁性粒子が発する蛍光をCCD検出器を用いて検出し、画像化を行った。その結果テストラインおよびコントロールラインの蛍光発色を確認した。結果を図4に示す。
【0044】
(実施例1)
実施例1では比較例1の操作を、テストライン下に磁石を配設したテストストリップを用いて、展開を行った。具体的には抗原溶液、抗PSA抗体5A6修飾標識磁性粒子混合溶液を、磁石を配設したテストストリップに吸収させた後、磁石を解除し、ウォッシングを行い、テストラインにおける標識磁性粒子の蛍光発色の画像化を行った。その結果テストラインおよびコントロールラインの蛍光発色を確認した。結果を図5に示す。
【0045】
比較例1の結果より、抗原と抗PSA抗体5A6修飾標識磁性粒子の混合溶液を展開しただけのテストラインにおいては、PSA濃度1ng/mlの検出が確認された。しかしながら、PSA濃度0.01ng/ml,0.1ng/mlの検出においては、テストラインの蛍光発色は確認されたが、PSA濃度0ng/mlとの蛍光発色との差が確認されず、検出が困難であることが確認された。
【0046】
これに対して、実施例1の結果より、テストライン下に磁石を配設したテストストリップを用いて、展開を行ったテストラインにおいては、PSA濃度0.01ng/ml、0.1ng/mlの検出においても、テストラインにおける蛍光発色が増強され、PSA濃度0ng/mlとの蛍光発色との差が確認され、検出が確認された。
【0047】
以上の結果が示すように、磁石を配設したテストストリップ上で展開することで、標識磁性粒子の蛍光発色が増強され、通常のイムノクロマトグラフィー法では検出不可能であった低濃度の抗原(PSA)を検出することが可能となった。
【0048】
(実施例2)
実施例2では、磁石と標識物質としてユーロピウム錯体を含有させた磁性粒子を用いて、テストストリップ中での標識磁性粒子の磁気による展開制御を行った。
【0049】
抗体等を塗布していないテストストリップに対して、前記標識磁性粒子を用いて展開を行った。具体的には標識磁性粒子溶液を、磁石を配設したテストストリップに吸収させた後、テストストリップ全体における標識磁性粒子の蛍光発色を、紫外線ランプで照射し画像化を行った。その結果、磁石を配設した部分に標識磁性粒子の蛍光発色が確認された(図6上段)。
【0050】
さらに磁石を配設し標識磁性粒子を展開したテストストリップに対して、磁石の配設位置を移動させ、再展開を行った後、テストストリップ全体における標識磁性粒子の蛍光発色を、紫外線ランプで照射し画像化を行った。その結果、移設した磁石部分に標識磁性粒子の蛍光発色が確認された(図6中段)。
【0051】
さらに磁石を配設し標識磁性粒子を展開したテストストリップに対して、磁石を除去し、再展開を行った後、テストストリップ全体における標識磁性粒子の蛍光発色を、紫外線ランプで照射し画像化を行った。その結果、テストストリップ上に蛍光発色が確認されなかった(図6下段)。
【0052】
以上の結果が示すように、磁石を配設したテストストリップ上で標識磁性粒子を展開することにより、標識磁性粒子の展開挙動を任意に制御することが可能となった。
【符号の説明】
【0053】
1…被検物質、2…第1物質、3…テストストリップ、4…第2物質、5…標識磁性粒子、6…磁力発生装置、7…テストライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質の結合部位を介して該被検物質と結合することのできる第1物質を固定化しているテストラインを備えたテストストリップ中において、試料と、前記結合部位とは異なる部位を介して前記被検物質と結合することのできる第2物質で表面修飾され標識物質で標識された標識磁性粒子とを、磁力の制御下で展開させる工程を含むことを特徴とする被検物質の検出方法。
【請求項2】
テストストリップ中において、前記第2物質を介して前記被検物質と結合している前記標識磁性粒子の展開速度を磁力により遅らせ、前記テストラインに固定化している前記第1物質と前記被検物質との接触時間を増大させる工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の被検物質の検出方法。
【請求項3】
テストストリップ中において、磁力により前記被検物質と結合していない前記標識磁性粒子の展開速度を遅らせることにより、前記標識磁性粒子と、テストラインに固定化されている前記被検物質との接触時間を増大させる工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の被検物質の検出方法。
【請求項4】
テストストリップ中において、磁力により前記テストラインに集積した前記第2物質を介して前記被検物質と結合している前記標識磁性粒子を、磁力を外して展開させた後、展開方向とは反対側に磁力を作用させて展開させる工程、及び/又は、展開方向とは反対側に磁力を作用させて展開させた後、磁力を外して展開させる工程を少なくとも1回繰り返すことにより、前記テストラインに固定化している前記第1物質と前記被検物質との接触時間を増大させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の被検物質の検出方法。
【請求項5】
テストストリップ中において、磁力により前記試料及び前記標識磁性粒子を展開させた後、前記テストラインに捕捉されなかった標識磁性粒子を磁力により捕捉したまま、展開方向を反対にして、前記テストラインに捕捉されなかった前記被検物質を展開させることにより、前記標識磁性粒子と前記被検物質との接触時間、及び/又は、前記第1物質と前記被検物質との接触時間を増大させた後、展開方向とは反対側に磁力を作用させて前記標識磁性粒子を展開させることにより、前記標識磁性粒子と前記被検物質との接触時間を増大させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の被検物質の検出方法。
【請求項6】
テストストリップ中において、磁力により前記テストラインに集積した前記被検物質と結合していない前記標識磁性粒子を、磁力を外して展開させることにより、及び/又は、展開方向とは反対側に磁力を作用させることにより、前記被検物質と結合していない前記標識磁性粒子を前記所定部分から除去する工程を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の被検物質の検出方法。
【請求項7】
テストストリップ中において、磁力により前記被検物質と結合している前記標識磁性粒子の展開速度を速める工程を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の被検物質の検出方法。
【請求項8】
前記第1物質が、抗体、断片化抗体、完全抗原、およびハプテンからなる群から選ばれることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の被検物質の検出方法。
【請求項9】
前記第2物質が、抗体、断片化抗体、完全抗原、およびハプテンからなる群から選ばれることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の被検物質の検出方法。
【請求項10】
前記テストストリップが乾燥多孔質素材からなることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の被検物質の検出方法。
【請求項11】
前記乾燥多孔質素材がガラスウール、セルロース、およびニトロセルロースからなる群から選ばれることを特徴とする請求項10に記載の被検物質の検出方法。
【請求項12】
前記第1物質及び前記第2物質が抗体であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の被検物質の検出方法。
【請求項13】
前記標識物質が、比色物質、発光物質、酸化還元物質、および磁性物質からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の被検物質の検出方法。
【請求項14】
被検物質の結合部位を介して該被検物質と結合することのできる第1物質を固定化しているテストストリップ中において、試料と、前記結合部位とは異なる部位を介して前記被検物質と結合することのできる第2物質で表面修飾され発光物質で標識された標識磁性粒子とを、磁力の制御下で展開させる磁力制御展開手段と、前記発光物質で標識された標識磁性粒子が発する発光を検出する検出手段とを備えたことを特徴とする被検物質の検出システム。
【請求項15】
前記検出手段は、励起光源から特定の波長の励起光のみを透過するフィルタと、前記励起光を除去し蛍光のみを透過するフィルタとを備えることを特徴とする請求項14記載の被検物質の検出システム。
【請求項16】
被検物質の結合部位を介して該被検物質と結合することのできる第1物質を固定化しているテストストリップ中において、試料と、前記結合部位とは異なる部位を介して前記被検物質と結合することのできる第2物質で表面修飾され酸化還元物質で標識された標識磁性粒子とを、磁力の制御下で展開させる磁力制御展開手段と、前記酸化還元物質で標識された標識磁性粒子の酸化還元反応を検出する検出手段とを備えたことを特徴とする被検物質の検出システム。
【請求項17】
被検物質の結合部位を介して該被検物質と結合することのできる第1物質を固定化しているテストストリップ中において、試料と、前記結合部位とは異なる部位を介して前記被検物質と結合することのできる第2物質で表面修飾され磁気物質で標識された標識磁性粒子とを、磁力の制御下で展開させる磁力制御展開手段と、前記磁気物質で標識された標識磁性粒子の磁性を検出する検出手段とを備えたことを特徴とする被検物質の検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−189453(P2012−189453A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53415(P2011−53415)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構ナノテク・先端部材実用化研究開発/高機能性蛍光磁性ビーズによる高速・高感度疾患診断システムの開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】