説明

標識素子、標識化物品及び判別方法

【課題】高い偽造防止効果を達成可能な偽造防止技術を提供する。
【解決手段】本発明の標識素子10は、物品に取り付けて前記物品が真正品であることを確認するために使用する標識素子であって、自然光としての白色光を照射したときに選択反射を生じる選択反射層を具備し、前記標識素子10はこれを前記標識素子の前面側から観察したときに前記標識素子の背面側に位置した物体が透けて見える透過領域RTを含み、前記透過領域RTの少なくとも一部は前記前面側又は前記背面側から自然光としての白色光を照射したときに選択反射を生じることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
紙幣、小切手、クレジットカード、バンクカード、プリペイドカード、定期乗車券、預金及び貯金通帳、パスポート並びに身分証明書等は、偽造又は改ざんによって不正に使用されると、種々の支障を招くおそれがある。そのため、これら物品には、不正使用を防止又は抑制する目的で、偽造が困難であり且つそれ自体が真正品であることを目視によって又は装置を用いて確認可能な標識素子が取り付けられることがある。
【0003】
このような標識素子としては、特許文献1に記載されているように、ホログラムを使用したものが知られている。ホログラムには、複写物では再現不可能又は困難な干渉色を表示する、高い意匠性を実現できる、製造が困難であるなどの特徴がある。そのため、ホログラムは、偽造防止の目的で広く利用されている。
【特許文献1】特開平11−277962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年のホログラム製造技術の普及に伴い、ホログラムを利用した単純な構成の標識素子は偽造が可能となりつつある。
【0005】
そこで、本発明は、高い偽造防止効果を達成可能な偽造防止技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1側面によると、物品に取り付けて前記物品が真正品であることを確認するために使用する標識素子であって、自然光としての白色光を照射したときに選択反射を生じる選択反射層を具備し、前記標識素子はこれを前記標識素子の前面側から観察したときに前記標識素子の背面側に位置した物体が透けて見える透過領域を含み、前記透過領域の少なくとも一部は前記前面側又は前記背面側から自然光としての白色光を照射したときに選択反射を生じることを特徴とする標識素子が提供される。
【0007】
本発明の第2側面によると、真正品であることが確認されるべき物品と、第1側面に係る標識素子とを備え、前記物品と前記標識素子とは前記透過領域を前記前面側及び前記背面側の双方から観察できるように一体化されていることを特徴とする標識化物品が提供される。
【0008】
本発明の第3側面によると、真正品であるかが未知の対象物品を真正品と非真正品との間で判別する方法であって、前記真正品は第2側面に係る標識化物品であり、前記対象物品が、前面側から観察したときに背面側に位置した物体が透けて見え且つ前記前面側から光を照射して前記前面側から観察したときと前記前面側から光を照射して背面側から観察したときとで異なる色を表示する透過領域を含んだ標識素子を備えていない場合に、前記対象物品は非真正品であると判断することを含んだことを特徴とする方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、高い偽造防止効果を達成可能な偽造防止技術が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全ての図面を通じて、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、本発明の一態様に係る標識素子を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す標識素子のII−II線に沿った断面図である。
【0012】
なお、この標識素子10の2つの主面のうち、一方が「前面」であり、他方が「背面」である。以下の説明では、この標識素子10のうち、後述する印刷層112が設けられた面を「前面」と呼び、その反対側の面を「背面」と呼ぶ。
【0013】
図1及び図2に示す標識素子10は、例えば、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けるタグである。この物品に標識素子10を取り付けてなる標識化物品を真正品とすると、真正品であるか否かが未知の物品は、標識素子が取り付けられていなければ、偽造品又は模造品などの非真正品であると判断することができる。また、後で詳しく説明するように、真正品であるか否かが未知の物品に標識素子が取り付けられていたとしても、その標識素子が図1及び図2に示す標識素子10と同一でない場合には、その物品は非真正品であると判断することができる。
【0014】
標識素子10は、支持体11とコレステリック液晶層12とを含んでいる。
支持体11は、板形状を有しており、印刷基材111と印刷層112と光透過部113とを含んでいる。なお、図2では、印刷層112は省略している。
【0015】
印刷基材111は、印刷層112を形成するための遮光層である。基材111は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。基材111は、例えば、プラスチック、ガラス、紙、金属、又はそれらの複合材料からなる。基材111は、省略することができる。
【0016】
支持体111には、2つの貫通孔が設けられている。
一方の貫通孔は、識別素子10を真正品であることが確認されるべき物品に支持させるために利用する。例えば、この貫通孔を利用して識別素子10を紐などの留め具と一体化すると共に、この留め具を真正品であることが確認されるべき物品と一体化する。この貫通孔は、省略することができる。
【0017】
他方の貫通孔内には、光透過部113が設置されている。図1及び図2に示す識別素子10では、この貫通孔に対応した部分が透過領域RTに対応している。なお、「透過領域」は、識別素子10を前面側から観察したときに背面側に位置した物体が透けて見える領域である。
【0018】
印刷層112は、基材111上に形成されている。印刷層112は、文字及び図形などの像を表示する。印刷層112は、基材111の両面に形成してもよい。また、印刷層112は、標識素子10の光透過部113に対応した領域を前面側から観察したときに背面側に位置した物体の少なくとも一部が透けて見えれば、基材111上に形成する代わりに光透過部113及び/又はコレステリック液晶層12上に形成してもよく、基材111と光透過部113及び/又はコレステリック液晶層12との上に形成してもよい。印刷層112は、省略することができる。
【0019】
光透過部113は、コレステリック液晶層12に前面側から光を照射したときに背面側から透過光を観察可能とする窓の役割を果たしている。加えて、光透過部113は、例えば、コレステリック液晶層12を形成するための下地、及び/又は、コレステリック液晶層12を保護する保護層としての役割を果たしている。
【0020】
光透過部113は、典型的には透明である。光透過部113は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。光透過部113の材料としては、例えば、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系、塩化ビニル系、スチレン系、セルロース系、ポリアセテート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリオレフィン系、ポリカーボネート系、ポリスチレン系、ポリエーテル系、ポリエステル系、フェノール系若しくはメラミン系樹脂などの透明樹脂、ガラス若しくは石英などの透明無機材料、又はそれらの組み合わせを使用することができる。光透過部113は、省略することができる。
【0021】
コレステリック液晶層12は、基材111に設けられた貫通孔内に位置しており、光透過部113と向き合っている。典型的には、コレステリック液晶層12は、光透過部113上に形成される。
【0022】
コレステリック液晶層12は、選択反射性及び円偏光選択性を有する層である。選択反射性及び円偏光選択性については、後で詳しく説明する。
【0023】
コレステリック液晶層12は、コレステリック相を呈しているメソゲン基を含んでいる。メソゲン基が形成している螺旋構造の平均的な螺旋軸は、膜面に対して略垂直である。なお、ここでは、「コレステリック相」は、メソゲン基の配列を説明するためにのみ使用しており、これによって、流動性の有無に言及している訳ではない。
【0024】
コレステリック液晶層12は、例えば、メソゲン基がコレステリック相を呈している固体高分子材料からなる。或いは、コレステリック液晶層12は、透明樹脂などの透明マトリクスと、この中に分散したコレステリック液晶材料からなる粒子とを含んだ複合材料からなる。
【0025】
固体高分子材料からなるコレステリック液晶層12は、例えば、コレステリック相を呈している低分子液晶材料を光反応又は熱反応などにより架橋して、それらのメソゲン基の配列を固定化することにより得られる。或いは、先のコレステリック液晶層12は、メソゲン基がコレステリック相を呈している側鎖型又は主鎖型のサーモトロピック高分子液晶材料をガラス転移点以下の温度に冷却して、メソゲン基の配列を固定化することにより得られる。或いは、先のコレステリック液晶層12は、溶媒とメソゲン基がコレステリック相を呈している側鎖型又は主鎖型のリオトロピック高分子液晶材料とを含有している液から溶媒を徐々に除去して、メソゲン基の配列を固定化することにより得られる。
【0026】
メソゲン基がコレステリック相を呈する高分子材料としては、例えば、側鎖にメソゲン基を有するポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリシロキサン及びポリマロネートなどの側鎖型ポリマー、又は、主鎖にメソゲン基を有するポリエステル、ポリエステルアミド、ポリカーボネート、ポリアミド及びポリイミドなどの主鎖型ポリマーを使用することができる。
【0027】
ここで、コレステリック相が示す選択反射性及び円偏光選択性について説明する。
メソゲン基がコレステリック相を呈している層は、メソゲン基が同一方向に配向した単分子層を、メソゲン基の配向方向が厚さ方向に平行な螺旋軸を有する螺旋構造を形成するように積み重ねた層である。このような層は、螺旋軸に平行に白色光を照射したときに、螺旋ピッチPとほぼ等しい波長λを有し且つ偏光面の回転方向が螺旋の捩れ方向と等しい円偏光を、螺旋の捩れ方向が逆向きである同一波長の円偏光並びに他の波長の右円偏光及び左円偏光と比較して強く反射する。即ち、上記の層は、選択反射性と円偏光選択性とを示す。
【0028】
選択反射性について、詳しく説明する。
選択反射性とは、入射光のうち特定の波長帯にある光を、他の波長帯にある光と比較して強く反射する性質をいう。この性質を利用すると、以下の等式(1)及び(2)から明らかなように、例えば、螺旋ピッチPを適切に選択することにより、反射光を色純度が高く所望の中心波長を有する有彩色とすることができる。
【0029】
λs=nm×P …(1)
Δλ=Δn×P/nm …(2)
ここで、λs及びΔλは、それぞれ、選択反射波長帯の中心波長及び帯幅を示している。Δnは、選択反射性を有する層の異常光屈折率neと常光線屈折率noとの差ne−noを示している。nmは、選択反射性を有する層の平均屈折率[(no2+ne2)/2]1/2を示している。
【0030】
なお、等式(1)及び(2)は、光を螺旋軸に対して平行に照射した場合における選択反射波長帯の中心波長λs及び帯幅Δλを与える。光を螺旋軸に対して平行に照射した場合には、見かけ上、螺旋ピッチPは減少する。それゆえ、中心波長λsは短波長側へシフトし、帯幅Δλは減少する。従って、観察方向と螺旋軸とが為す角度を大きくするのに応じて、表示光の波長は短波長側にシフトすると共に、その色純度が高くなる。
【0031】
次に、円偏光選択性について、詳しく説明する。
円偏光選択性とは、右円偏光及び左円偏光のうち、一方の円偏光をより高い透過率で透過し、他方の円偏光をより高い反射率で反射する性質である。例えば、螺旋の捩れ方向が右回りのコレステリック相の場合、右円偏光及び左円偏光のうち、左円偏光をより高い透過率で透過し、右円偏光をより高い反射率で反射する。なお、コレステリック相に起因した反射は、通常の反射とは異なり、螺旋の捩れ方向を反転させることなしに右円偏光又は左円偏光を反射する。即ち、螺旋の捩れ方向が右回りのコレステリック相に右円偏光を入射させた場合、反射光は理想的には右円偏光である。
【0032】
コレステリック液晶層12におけるメソゲン基の螺旋ピッチPは、例えば、約380nm乃至約780nmの可視領域内とし、典型的には、選択反射光の視覚による認識が容易な約400nm乃至約700nmの範囲内とする。真偽判定に光検出器を利用する場合は、螺旋ピッチPは可視領域内になくてもよい。
【0033】
次に、標識素子10が表示する像について説明する。
図3は、図1及び図2に示す標識素子が表示する像を観察する方法の一例を概略的に示す図である。図4は、図1及び図2に示す標識素子が表示する像を観察する方法の他の例を概略的に示す図である。図3及び図4において、LSは光源を示し、OSは観察者を示している。また、LI、LR及びLTは、それぞれ、照明光、反射光及び透過光を示している。
【0034】
図3には、標識素子10の前面を照明したときに標識素子10が表示する像を背面側から観察する様子を示している。図4には、標識素子10の前面を照明したときに標識素子10が表示する像を前面側から観察する様子を示している。図3及び図4では、光源LSは識別素子10の法線方向に照明光LIを放射し、観察者OSは標識素子10を法線方向から観察している。
【0035】
一例として、照明光LIが白色光であり、コレステリック液晶層12においてメソゲン基は螺旋の捩れ方向が右回りのコレステリック相を呈しているとする。また、簡略化のため、選択反射の効率は100%であるとする。
【0036】
この場合、先の選択反射性及び円偏光選択性に関する説明から明らかなように、コレステリック液晶層12及び光透過部113とからなる透過領域RTは、メソゲン基が形成している螺旋の螺旋ピッチPとほぼ等しい波長を有する右円偏光のみを反射し、螺旋ピッチPとほぼ等しい波長を有する左円偏光並びに他の波長の右円偏光及び左円偏光のみを透過する。即ち、反射光LRは、螺旋ピッチPとほぼ等しい波長を有する右円偏光であり、透過光LTは、螺旋ピッチPとほぼ等しい波長を有する左円偏光並びに他の波長の右円偏光及び左円偏光である。
【0037】
従って、図3に示すように識別素子10を観察した場合には、透過領域RTは、螺旋ピッチPとほぼ等しい波長を有する光成分の強度が弱められたこと以外は白色光とほぼ同様のスペクトルを有する光に対応した色を表示する。そして、図4に示すように識別素子10を観察した場合には、透過領域RTは、螺旋ピッチPとほぼ等しい波長を有する光成分に対応した色を表示する。例えば、螺旋ピッチPが赤色光の波長域内にあるとすると、透過領域RTは、図3に示すように識別素子10を観察した場合には白色と比較して赤色が弱められた色を表示し、図4に示すように識別素子10を観察した場合には赤色を表示する。
【0038】
このように、透過領域RTは、図3に示す方法で識別素子10を観察した場合と、図4に示す方法で識別素子10を観察した場合とで異なる色を表示する。従って、例えば、或る標識素子の外観が図1及び図2に示す標識素子10と同様又は類似していたとしても、図3及び図4を参照しながら説明した方法で観察して表示色の変化を確認することにより、その標識素子が図1及び図2を参照しながら説明した構造を有しているか否かを判別することができる。即ち、或る標識素子が上述した色変化を生じない場合には、その標識素子は、図1及び図2を参照しながら説明した構造を有していないことが分かる。
【0039】
また、透過領域RTは、図3に示す状態から、標識素子10を裏返して、コレステリック液晶層12を観察者OSに対向させ、光透過部113を光源LSに対向させた場合も、図3を参照しながら説明したのと同様の色を表示する。そして、透過領域RTは、図4に示す状態から、標識素子10を裏返して、コレステリック液晶層12を観察者OSに対向させ、光透過部113を光源LSに対向させた場合も、図4を参照しながら説明したのと同様の色を表示する。即ち、透過領域RTは、光源LSと観察者OSと透過領域RTとの相対位置及び標識素子10の法線方向を変更しない限り、標識素子10の前面を観察面とした場合と標識素子10の背面を観察面とした場合とで同一の色を表示する。
【0040】
このように、透過領域RTが表示する像は、特徴的な色変化を生じる。それゆえ、この標識素子10を物品に取り付けてなる標識化物品を真正品とすると、例え、真正品であるか否かが未知の物品に標識素子が取り付けられていたとしても、その標識素子が上述した特徴の少なくとも1つを有していなければ、その物品は非真正品であると判断することができる。
【0041】
そして、上述した特徴は、他の技術を用いて再現することは不可能又は困難である。従って、この標識素子10は、ホログラムを使用していないにも拘らず、高い偽造防止効果を達成する。
【0042】
また、上述した表示色の変化は、特殊な装置を使用することなしに確認することができる。即ち、例えば、偏光子や特殊な光源などを使用することなしに、標識素子を肉眼で観察することにより真偽判定を行うことができる。
【0043】
更に、上述した表示色の変化は、光検出器を利用して電気信号へと変換することができる。従って、上述した真偽判定は、機械化が容易である。
【0044】
真偽判定には、偏光子を利用してもよい。例えば、図3及び図4に示すように標識素子10を観察する場合、標識素子10と右円偏光板とを、右円偏光板の四分の一波長板が標識素子10と向き合い且つ右円偏光板の直線偏光子が光源LSと向き合うように重ね合わせる。この場合、この右円偏光子が螺旋ピッチPと等しい波長の自然光を右円偏光へと変換するように設計されているとすると、反射光LRは右円偏光子を使用しない場合と同様に螺旋ピッチPとほぼ等しい波長の右円偏光であるのに対し、透過光LTは、右円偏光子を使用しない場合とは異なり、螺旋ピッチPとは異なる波長の右円偏光及び先の右円偏光子によって右円偏光へと変換されない波長帯の左円偏光である。即ち、右円偏光子を使用することにより、透過光LTの光成分として、螺旋ピッチPとほぼ等しい波長を有する光が射出されるのを防止又は低減することができる。従って、透過光LTを観察する条件で透過領域RTが表示する色と、反射光LRを観察する条件で透過領域RTが表示する色との差を、より大きくすることができる。
【0045】
上述した標識素子10には、様々な変形が可能である。
図1及び図2に示す標識素子10はホログラムを使用していないが、この標識素子10は、ホログラムを更に含んでいてもよい。例えば、透過領域RTは、ホログラムを更に含んでいてもよい。この場合、より優れた偽造防止効果を達成できる。
【0046】
この標識素子10は、少なくとも一方の主面に保護層を更に含んでいてもよい。保護層を設けることにより、標識素子10の耐久性を向上させることができる。保護層の材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、又はセルロース系樹脂を使用することができる。
【0047】
この標識素子10では、螺旋の捩れ方向及び/又は螺旋ピッチPが異なる複数のコレステリック液晶層12を積層してもよい。即ち、選択反射を生じる層には、単層構造を採用してもよく、多層構造を採用してもよい。
【0048】
螺旋ピッチPが異なる複数のコレステリック液晶層12からなる多層構造を採用した場合、単層構造を採用した場合と比較してより複雑な色を透過領域RTに表示させることができる。
【0049】
また、螺旋ピッチPが同一であり且つ螺旋の捩れ方向が異なるコレステリック液晶層12からなる多層構造を採用した場合、右円偏光照射時と左円偏光照射時とで表示色を等しくすることができ、右円偏光又は左円偏光照射時と自然光照射時とで表示色をほぼ等しくすることができる。
【0050】
そして、螺旋の捩れ方向及び螺旋ピッチPの双方が異なる複数のコレステリック液晶層12を積層してなる多層構造を採用した場合、自然光を照射したときに単層構造を採用した場合と比較してより複雑な色を透過領域RTに表示させることができるのに加え、自然光照射時と右円偏光照射時と左円偏光照射時とで表示色を異ならしめることができる。
【0051】
螺旋の捩れ方向及び/又は螺旋ピッチPが異なる複数のコレステリック液晶層12を積層する代わりに、それらコレステリック液晶層12を同一面内に並べた構造を採用してもよい。或いは、螺旋の捩れ方向及び/又は螺旋ピッチPが異なる複数のコレステリック液晶層12を部分的に重ね合わせた構造を採用してもよい。こうすることにより、更に優れた意匠性を達成できる。
【0052】
透過領域RTのうちコレステリック液晶層12以外の部分、ここでは光透過部113は、光学的に等方性であってもよく、光学的に異方性であってもよい。透過領域RTのうちコレステリック液晶層12以外の部分が光学的に等方性である場合、先の部分が、コレステリック液晶層12が射出した円偏光の偏りに影響を及ぼすことはない。従って、例えば、円偏光板と標識素子10とを重ね合わせて標識素子10からの選択反射光を観察したときに、円偏光板をその法線の周りで回転させても、像に明るさの変化は生じない。また、透過領域RTのうちコレステリック液晶層12以外の部分が複屈折性を有している場合には、例えば、円偏光板と標識素子10とを重ね合わせた状態で円偏光板をその法線の周りで回転させながら標識素子10からの選択反射光を観察すると、像に明るさの変化を生じ得る。
【0053】
透過領域RTは、着色層を更に含んでいてもよい。
図5は、図1及び図2に示す標識素子の一変形例を概略的に示す平面図である。図6は、図5に示す標識素子のVI−VI線に沿った断面図である。
【0054】
図5及び図6に示す標識素子10は、以下の構成を採用したこと以外は、図1及び図2を参照しながら説明した標識素子10と同様の構造を有している。即ち、図5及び図6に示す標識素子10では、コレステリック液晶層12は、光透過部113の全面を被覆しておらず、一部のみを被覆している。ここでは、コレステリック液晶層12は、「I」字形のパターンを有している。そして、この標識素子10は、着色層13を更に含んでいる。
【0055】
着色層13は、コレステリック液晶層12と光透過部113とを被覆しており、光透過性を有している。着色層13は、例えば、透明樹脂とこの中に分散された顔料とを含んでいる。着色層13は、光透過部113の両主面のうちコレステリック液晶層12を設けた面とは反対側の面に設けてもよい。或いは、着色層13を設ける代わりに、光透過部113に着色層13の機能を付与してもよい。この場合、光透過部113として、例えば、遷移金属イオンや金属コロイドなどを用いて着色した着色ガラスを使用することができる。
【0056】
着色層13は、例えば、意匠性の向上に役立つ。また、着色層13を設けると、以下に説明するように、より優れた偽造防止効果を得ることが可能となる。
【0057】
まず、着色層13の可視領域における吸収波長帯がコレステリック液晶層12の選択反射波長帯を含んでいる場合に透過領域RTが表示する像について説明する。ここでは、図5及び図6に示す識別素子10を使用すること以外は図3及び図4に示す配置を採用することとする。また、ここでは、照明光LIは白色光であり、光透過部113を光源LSと向き合わせることとする。
【0058】
なお、本明細書では、「透過波長帯」とは、可視領域における吸収波長帯以外の大気のことをいう。
【0059】
図7は、図5及び図6に示す識別素子の透過領域が透過光を観察する条件のもとで表示し得る像の一例を概略的に示す平面図である。図8は、図5及び図6に示す識別素子の透過領域が反射光を観察する条件のもとで表示し得る像の一例を概略的に示す平面図である。
【0060】
例えば、着色層13は白色光を照射した場合に青緑色の光を透過し、コレステリック液晶層12において、メソゲン基が形成している螺旋の捩れ方向は右回りであり、その螺旋ピッチPは赤色光の波長と等しいとする。この場合、図3に示すように透過光を観察すると、透過領域RTのうちコレステリック液晶層12に対応した部分とそれ以外の部分とは、図7に示すように、照明光LIが自然光、右円偏光及び左円偏光の何れであっても青緑色を表示する。他方、図4に示すように反射光を観察すると、透過領域RTのうちコレステリック液晶層12に対応した部分は、照明光LIが自然光又は右円偏光であるときには図8に示すようにそれ以外の部分と比較して薄い青緑色を表示し、照明光LIが左円偏光であるときには図7に示すようにそれ以外の部分と同様の青緑色を表示する。
【0061】
次に、着色層13が可視領域内のうち選択反射波長帯の光のみを透過する場合に透過領域RTが表示する像について説明する。ここでは、図5及び図6に示す識別素子10を使用すること以外は図3及び図4に示す配置を採用することとする。また、ここでは、照明光LIは白色光であり、光透過部113を光源LSと向き合わせることとする。
【0062】
例えば、着色層13は白色光を照射した場合に赤色の光を透過し、コレステリック液晶層12において、メソゲン基が形成している螺旋の捩れ方向は右回りであり、その螺旋ピッチPは赤色光の波長と等しいとする。
【0063】
この場合、図3に示すように透過光を観察すると、透過領域RTのうちコレステリック液晶層12に対応した部分は、照明光LIが右円偏光であるときには黒色を表示し、照明光LIが左円偏光又は白色光であるときには赤色を表示する。また、透過領域RTの他の部分は、照明光LIが自然光、右円偏光及び左円偏光の何れであっても赤色を表示する。即ち、この場合、透過領域RTのうちコレステリック液晶層12に対応した部分とそれ以外の部分とは、照明光LIが右円偏光であるときには互いに異なる色を表示し、照明光LIが自然光又は左円偏光であるときには互いに等しい色を表示する。
【0064】
他方、図4に示すように反射光を観察すると、透過領域RTのうちコレステリック液晶層12に対応した部分とそれ以外の部分とは、照明光LIが自然光、右円偏光及び左円偏光の何れであっても赤色を表示する。即ち、この場合、透過領域RTのうちコレステリック液晶層12に対応した部分とそれ以外の部分とは、照明光LIが自然光、右円偏光及び左円偏光の何れであっても互いに等しい色を表示する。
【0065】
このように、着色層13を設けると、着色層13を設けない場合と比較して、より複雑な表示が可能となる。加えて、着色層13を設けると、着色層13の吸収波長帯がコレステリック液晶層12の選択反射波長帯を含んでいる場合と、着色層13が可視領域内のうち選択反射波長帯の光のみを透過する場合の双方において、透過領域RTのうちコレステリック液晶層12に対応した部分とそれ以外の部分とで、円偏光子を用いて観察することにより可視化する潜像を形成することができる。
【0066】
なお、ここでは、法線方向から観察した場合に透過領域RTが表示する像を説明している。観察方向を傾けると、コレステリック液晶層12の選択反射波長帯が変化する。したがって、透過領域RTのうちコレステリック液晶層12に対応した部分の表示色も変化する可能性がある。
【0067】
透過領域RTのうちコレステリック液晶層12に対応した部分とそれ以外の部分とにほぼ等しい色を表示させる場合、それらのu’v’色度図上での色差を、例えば0.015以内とし、典型的には0.01以内とする。こうすると、それら表示色の相違を観察者が知覚するのを防止できるか又は困難とすることができる。
【0068】
図5及び図6に示す識別素子10は着色層13を1つのみ含んでいるが、識別素子10は、透過波長帯又は吸収波長帯が異なる複数の着色層13を含んでいてもよい。透過波長帯又は吸収波長帯が異なる複数の着色層13を同一面内に並べた構造又は部分的に重ね合わせた構造を採用すると、更に優れた意匠性を達成できる。
【0069】
標識素子10に関して説明した構造は、タグ以外の標識素子に適用することも可能である。例えば、上述した構造は、粘着ラベル及び転写箔などに採用してもよい。
【0070】
次に、上述した標識素子10を含んだ標識化物品について説明する。
図9は、標識化物品の一例を概略的に示す平面図である。図10は、図9に示す標識化物品のX−X線に沿った断面図である。
【0071】
図9及び図10には、標識化物品の一例として、磁気カード1を描いている。この磁気カード1は、標識素子10と、基材20と、印刷層30と、磁気記録層40と、粘着層50とを含んでいる。基材20は、カード本体201と光透過層202とを含んでいる。カード本体201及び光透過層202は、例えば、プラスチックからなる。カード本体201には貫通孔が設けられており、光透過層202は、カード本体201に設けられた貫通孔に嵌め込まれている。印刷層30と磁気記録層40とは、カード本体201上に設けられている。
【0072】
標識素子10は、粘着層50を介して基材20の光透過層202に対応した部分に貼り付けられている。これにより、磁気カード1を表側から観察した場合と裏側から観察した場合との双方において、標識素子10が表示する像を見えるようにしている。
【0073】
この磁気カード1は、上述した標識素子10を含んでいる。それゆえ、この磁気カード1の偽造又は模造は困難である。また、この磁気カード1は、標識素子10を含んでいるので、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。しかも、この磁気カード1は、標識素子10に加えて、印刷層30及び磁気記録層40を更に含んでいるため、それらを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0074】
なお、図9及び図10には、標識素子10を含んだ標識化物品として磁気カードを例示しているが、標識素子10を含んだ標識化物品は、これに限られない。例えば、標識素子10を含んだ標識化物品は、IC(integrated circuit)カード、無線カード及びID(identification)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、標識素子10を含んだ標識化物品は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、標識素子10を含んだ標識化物品は、紙幣又は預金若しくは貯金通帳であってもよい。このように、標識素子10は、様々な印刷物に適用することができる。
【0075】
また、図9及び図10では、標識素子10を基材20に貼り付けているが、標識素子10は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、標識素子10を紙に漉き込み、標識素子10の透過領域RTに対応した位置で紙を開口させてもよい。
【0076】
標識素子10は、真正品であることが確認されるべき物品に他の方法で支持させてもよい。例えば、標識素子10でタグを構成し、これを、例えば紐、鎖及び金輪などの留め具を介して、真正品であることが確認されるべき物品に支持させてもよい。
【0077】
また、標識化物品は、印刷物でなくてもよい。すなわち、印刷層を含んでいない物品に標識素子10を支持させてもよい。例えば、標識素子10は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
【0078】
標識化物品は、それ自体を単独で取り扱うことが可能な標識素子10を含んでいなくてもよい。即ち、標識化物品は、真正品であることが確認されるべき物品上に、標識素子10の構成要素を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の一態様に係る標識素子を概略的に示す平面図である。
【図2】図1に示す標識素子のII−II線に沿った断面図。
【図3】図1及び図2に示す標識素子が表示する像を観察する方法の一例を概略的に示す図。
【図4】図1及び図2に示す標識素子が表示する像を観察する方法の他の例を概略的に示す図。
【図5】図1及び図2に示す標識素子の一変形例を概略的に示す平面図。
【図6】図5に示す標識素子のVI−VI線に沿った断面図。
【図7】図5及び図6に示す識別素子の透過領域が透過光を観察する条件のもとで表示し得る像の一例を概略的に示す平面図。
【図8】図5及び図6に示す識別素子の透過領域が反射光を観察する条件のもとで表示し得る像の一例を概略的に示す平面図。
【図9】標識化物品の一例を概略的に示す平面図。
【図10】図9に示す標識化物品のX−X線に沿った断面図。
【符号の説明】
【0080】
1…カード、10…標識素子、11…支持体、12…コレステリック液晶層、13…着色層、20…基材、30…印刷層、40…磁気記録層、50…粘着層、111…基材、112…印刷層、113…光透過部、201…カード本体、202…光透過層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品に取り付けて前記物品が真正品であることを確認するために使用する標識素子であって、自然光としての白色光を照射したときに選択反射を生じる選択反射層を具備し、前記標識素子はこれを前記標識素子の前面側から観察したときに前記標識素子の背面側に位置した物体が透けて見える透過領域を含み、前記透過領域の少なくとも一部は前記前面側又は前記背面側から自然光としての白色光を照射したときに選択反射を生じることを特徴とする標識素子。
【請求項2】
光透過性を有すると共に前記選択反射層と向き合った着色層を更に具備したことを特徴とする請求項1に記載の標識素子。
【請求項3】
前記選択反射層は前記着色層の一部のみと向き合っていることを特徴とする請求項2に記載の標識素子。
【請求項4】
前記選択反射層がその法線方向に選択反射する光の波長帯は前記着色層の吸収波長帯内にあることを特徴とする請求項2又は3に記載の標識素子。
【請求項5】
前記着色層の可視領域における透過波長帯は前記選択反射層がその法線方向に選択反射する光の波長帯又はその一部のみを含んでいることを特徴とする請求項2又は3に記載の標識素子。
【請求項6】
光透過性を有し且つ前記着色層とは透過波長帯が異なる他の着色層を更に具備し、前記他の着色層は前記選択反射層と向き合っており、これら着色層の各々は重なり合っていない部分を含んでいることを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載の標識素子。
【請求項7】
前記選択反射層は、螺旋の捩れ方向が右回りの第1コレステリック液晶層と、螺旋の捩れ方向が左回りの第2コレステリック液晶層とを含み、前記第1及び第2コレステリック液晶層の各々は重なり合っていない部分を含んでいることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の標識素子。
【請求項8】
前記第1及び第2コレステリック液晶層は螺旋ピッチが等しいことを特徴とする請求項7に記載の標識素子。
【請求項9】
前記選択反射層は螺旋ピッチが異なる複数のコレステリック液晶層を含んでいることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の標識素子。
【請求項10】
前記透過領域はホログラムを含んでいることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の標識素子。
【請求項11】
前記透過領域のうち前記選択反射層以外の部分は光学的に等方性であることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の標識素子。
【請求項12】
タグであることを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載の標識素子。
【請求項13】
真正品であることが確認されるべき物品と、請求項1乃至12の何れか1項に記載の標識素子とを備え、前記物品と前記標識素子とは前記透過領域を前記前面側及び前記背面側の双方から観察できるように一体化されていることを特徴とする標識化物品。
【請求項14】
真正品であるかが未知の対象物品を真正品と非真正品との間で判別する方法であって、
前記真正品は請求項13に記載の標識化物品であり、
前記対象物品が、前面側から観察したときに背面側に位置した物体が透けて見え且つ前記前面側から光を照射して前記前面側から観察したときと前記前面側から光を照射して背面側から観察したときとで異なる色を表示する透過領域を含んだ標識素子を備えていない場合に、前記対象物品は非真正品であると判断することを含んだことを特徴とする方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−34945(P2009−34945A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202830(P2007−202830)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】