標識遷移金属錯体
本発明は、遷移金属原子、化学的または生物学的物質が遷移金属原子に付着することを可能とするための反応性部分、安定化架橋としての不活性三座配位子部分、およびマーカを含む標識遷移金属錯体に関する。本発明はまた、標識遷移金属錯体に付着する化学的または生物学的物質を含む標識化学的または生物学的物質、物質の質量分析を容易にするために物質の分子量の規定推移を創出するための錯体の使用、質量分析によって化学的または生物学的物質を区別可能にする方法および化学的または生物学的物質の質量分析方法に関する。さらに、本発明はまた少なくとも2つの異なる分子量の遷移金属錯体のセット、異なる安定同位体を含有する遷移金属錯体、本発明の方法によって得られる化学的または生物学的物質ならびに本発明の使用および/または方法を支持する部品のキットに関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、標識遷移金属錯体、そのような錯体を含む標識された化学的または生物学的物質、およびその標識された化学的または生物学的物質を作製する方法に関し、そのような遷移金属錯体の具体的使用にも関する。
【0002】
DNA分子などの生物有機分子の標識は、組換えDNA技術などの分野における用途に所望される。しかし、多くの場合、当業者は核酸高分子を標識するのではなく、特定のヌクレオチドを標識することを所望する。ヌクレオチドを標識する主な目的は、これらの標識ヌクレオチドが核酸分子に組み込まれ得ることである。このようにすると、生じるポリ核酸上での標識の位置を変化させることが可能であるが、標識を高分子に付着させるときには、そのようなことはできない。
【0003】
ヌクレオチドを、充分な方法でシス白金錯体を利用して標識に結合することが可能であることが知られている。しかし、そのような標識ヌクレオチドは、仮に組込まれるとしても、DNAポリメラーゼによってDNA分子に満足には組込まれない。
【0004】
ポリ核酸に組み込むことが可能なヌクレオチドを標識する利用可能な別の方法は、より標準的な標識方法である。しかし、これらの方法もまた、あらゆるヌクレオチドの標識にも適しているわけではないので、重大な不利を有している。場合によっては、たとえば、少数の特定のヌクレオチド残基だけが特定のポリ核酸に存在するとき、またはポリ核酸の末端ヌクレオチド残基が標識されなければならないとき、あらゆるヌクレオチドを標識可能であることが所望される。そのような標準的方法の例が、Daleらによって、Biochemistry、第14巻、1975年、2447〜2457頁に記載されており、この方法は標識技術として直接共有結合水銀化を含む。Daleらは、シトシンおよびウラシルが穏和な条件下でそれらのC5-位置にて水銀化されることを報告している。しかし、Daleらはまた、アデニン、チミンおよびグアニン塩基について、ネガティブな結果が得られたと報告している。
【0005】
ゆえに、標識とすべての異なるヌクレオチドを含む生物有機分子とを結合するのに優れた普遍的標識システムであって、効果的にポリ核酸に、その標識システムによって標識されたあらゆるヌクレオチドを酵素的に組込むことを可能にする普遍的標識システムが必要である。
【0006】
驚いたことに、本発明者らは、少なくとも公知の方法と同じくらいに効果的な、化学的または生物学的物質に標識可能な遷移金属錯体の新規カテゴリを開発した。さらに、本発明の標識システムに結合したヌクレオチドは、非常に効果的にポリヌクレオチドに組込むことが可能であると考えられる。
【0007】
これらの標識遷移金属錯体は、安定化架橋としての不活性三座配位子部分、マーカ、および化学的または生物学的物質が遷移金属原子に付着することを可能とするための反応性部分を含む。
【0008】
したがって、本発明は、遷移金属原子、化学的または生物学的物質が遷移金属原子に付着することを可能とするための反応性部分、安定化架橋としての不活性三座配位子部分、およびマーカを含む標識遷移金属錯体に関する。
【0009】
これらの遷移金属錯体は、二座配位子部分に基づく錯体よりも高収量で作製可能であるが、それらの錯体はさらに、向上した安定性および純度を示す。しかも、本発明の金属錯体は、二座配位子部分に基づく遷移金属錯体と比較して、よりよく反応し、より効率的な標識をもたらす。さらに、本発明に従う遷移金属錯体の作製は1段階の手順で実行可能であるるため、非常に有利である。
【0010】
三座配位子を使用する利点に、キレート効果およびトランス効果がある。キレート効果とは、金属が同一分子の3つの部位に結合することによって、遷移金属原子が配位子により迅速かつ効率的に配位するということである。結果として、得られる錯体の純度はより高くなる。トランス効果とは、脱離基が三座配位子部分の結合部位のトランス位置に存在して、配位に極性を与えることによって、本発明に従う遷移金属錯体の反応性および標識効率が向上するということである。好ましくは、結合部位は二級または三級アミンであり、これによって上記の極性に寄与する。
【0011】
接近可能なS(硫黄)原子またはN(窒素)原子を含有するほぼすべての化学的または生物学的物質が、本発明に従う標識遷移金属錯体によって標識可能である。標識遷移金属錯体によって標識されるのに適した物質は、核酸(ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、ホモ二本鎖、ヘテロ二本鎖、または多重鎖)などの生物有機分子である。
遷移金属錯体はグアニン残基のN-7位置に非常に容易に(非共有結合で)結合する。この方法によって、DNAまたはRNA分子が、一本鎖でもそれ以外でも容易に同定され得(たとえば、検出され、分離され、精製され、単離される)、さらに、非標識DNA/RNA分子が標識プローブにハイブリダイズする、ハイブリダイゼーション技術用のプローブ生産をも可能にする。標識遷移金属錯体は、仮に妨害するとしても、ハイブリダイゼーションをほとんど妨害しない。また、この技術は、プローブの作製において、修飾されたヌクレオチドの使用を必要としない。ただし、たんぱく、ペプチドおよびその他の生物有機分子もまた、本発明に従う標識物質によって同定可能である。
【0012】
本発明に従う標識遷移金属錯体は、生物有機分子を、ニトロセルロース、ナイロンフィルタ、マイクロタイタープレート、ビーズ、ガラス、繊維などの固体表面に付着させるのにも非常に適している。
【0013】
本発明に従う遷移金属錯体を用いて修飾されたヌクレオチド、ならびにそのヌクレオチドが組み込まれているオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチド、またはこれらの新規白金化合物を用いて直接修飾されているオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドは、生物医学研究、臨床診断および組換えDNA技術においてプローブとして使用可能である。
【0014】
本発明に従う錯体の多種多様な有用性は、たとえば(ポリ)核酸または(ポリ)ペプチドおよびそれらの誘導体といった生物有機分子と安定した錯体を形成することのできる遷移金属錯体の能力に基づいており、それは言い換えると、生物有機分子に付着する検出可能部分、または生物有機分子と相互作用する検出可能部分のいずれかを利用して検出可能である、ということである。いくつかの使用には、たとえば細菌およびウイルスといった病原体を含む核酸を検出して同定し、細菌を抗生物質抵抗性に関してスクリーニングし、動物を薬剤効果に関する遺伝性疾患についてスクリーニングし、たとえば21トリソミー、鎌状赤血球貧血といった遺伝性疾患、染色体核型を診断し、癌細胞を同定することが含まれる。さらに、標識錯体は薬理学、特に薬剤スクリーニング、薬剤ターゲットの同定、薬剤モニタリングおよび薬剤送達において非常に有用である。
【0015】
本発明は、注目する生物学的物質を同定、決定および/または局限するための診断キットをも包含し、このキットは、本発明の遷移金属錯体と、任意で、検出用の他の適当な手段とを含む。もちろん、本発明は、標識遷移金属錯体の各要素が別々に、つまり非結合の形で存在しているキットをも含む。
【0016】
本発明に従う適当な遷移金属錯体の例は、遷移金属がバナジウム、クロム、鉄、ニッケル、銅、ルテニウム、パラジウム、白金、モリブデン、タングステン、コバルト、マンガン、オスミウム、ロジウム、イリジウム、亜鉛、およびカドミウムから成る群から選ばれる錯体である。好ましくは、本発明に従えば、遷移金属が鉄、ニッケル、ルテニウム、パラジウム、白金、モリブデン、タングステン、およびコバルトから成る群から選ばれる。より好ましくは、遷移金属が白金、コバルト、またはルテニウムである。
【0017】
遷移金属錯体の反応性部分は、好適には優れた脱離配位子である。好ましくは、反応性部分がCl−、NO3−、HCO3−、CO32−、SO32−、ZSO3−、I−、Br−、F−、酢酸イオン、カルボン酸イオン、リン酸イオン、硝酸エチルイオン、シュウ酸イオン、クエン酸イオン、ホスホン酸イオン、ZO−、および水の群から選ばれる。ここで、Zは水素部分または1〜10の炭素原子を有するアルキルまたはアリール基として定義される。これらの配位子のうち、Cl−およびNO3−が最も好ましい。
【0018】
本発明に従う標識遷移金属錯体は、安定化架橋としての不活性三座配位子を含む。ここで使用される不活性とは、配位子部分が標識処理中、遷移金属錯体に付着したままであり、その後物質と化学反応することがないということを表している。
【0019】
遷移金属は、三座配位子部分に存在する窒素、酸素、硫黄もしくはリン原子、またはこれらの原子のあらゆる組合せを利用して三座配位子部分に付着する。たとえば、遷移金属は2つの窒素原子および1つの酸素原子または硫黄原子を利用して三座配位子部分に付着させることが可能である。しかし、遷移金属が3つの窒素原子を利用して三座配位子部分に付着するのが好ましい。
【0020】
本発明においては、化学元素の硬度は酸化状態と原子の半径との比として定義される。この定義に基づくと、硬度は周期表の行においては左から右へ増加し、周期表の列においては上から下へ減少する。生じた錯体の安定性に有益な効果を及ぼすため、遷移金属は、その遷移金属の硬度と類似した硬度の原子(窒素、酸素、硫黄、またはリン)を介して遷移金属に結合する三座配位子と結合することが好ましい。この考え方に基づくと、白金は窒素または硫黄を介して三座配位子に結合するのが好ましい。
【0021】
遷移金属の酸化状態は、特定の三座配位子部分との安定した結合が達成されるように選ばれるのがさらに好ましい。たとえば、酸素を介して遷移金属に結合する三座配位子部分は、Pt(II)またはPd(II)よりも、Pt(IV)、Pd(IV)、Mo(VI)、W(VI)、Ru(III)、Co(III)、Fe(II)、およびFe(III)と結合するのが好ましい。窒素を介して遷移金属に結合する三座配位子部分は、遷移金属の特定の酸化状態を特に好むとは考えられないが、Cu(I)はあまり好ましくない。リンまたは硫黄を介して遷移金属に結合する三座配位子部分は、Pt(IV)、Fe(III)、またはRu(III)よりも、Pt(II)、Pd(II)、Fe(II)、およびCo(II)と結合するのが好ましい。
【0022】
一般に、本発明に従って使用することが可能な適当な三座配位子部分は、N、P、SおよびOから独立して選ばれ、1〜5の、好ましくは1〜3の原子によって分離された少なくとも3つのドナー原子を有する配位子部分を含有する。
【0023】
本発明に従って使用することが可能な好ましい三座配位子部分は、以下の化学式を有する配位子部分を含有し、この化学式は、X、YおよびZの種々の可能な組み合わせによって、各々がX、YおよびZの特異的組合せを有する種々の実施形態を生み出し、この個々の実施形態をここでは「ブロック」とよぶ。
【0024】
【化1】
【0025】
ブロックI
XはNR、PR、OまたはSである;RはH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、ヘテロ原子を介さずに、鎖または環の原子を介してXに結合する;YおよびZは、(CH2)nNR1R2、(CH2)nPR1R2、R3R4C=NR2、R3R4C=PR2、(CH2)nC(O)R2、(CH2)nC(O)NR2R3、(CH2)nC(O)PR2R3、(CH2)nC(O)N=R2、(CH2)nC(O)P=R2、(CH2)nC(O)OR5、(CH2)nC(S)R2、(CH2)nC(S)NR2R3、(CH2)nC(S)PR2R3、(CH2)nC(S)OR5、(CH2)nC(S)N=R2、(CH2)nC(S)P=R2、R6OR5、R6SR2、R7COO−Na+、R7CSO−Na+、R7CSS−Na+またはR8-R9から成る群から独立して選ばれ、nは1〜5、優先的には1〜3であり、R1はH、C(O)R3、C(S)R3、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、H、C、または鎖もしくは環の原子を介してN原子またはP原子に結合し、R1はXに結合しない。R2はH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、Hまたは鎖もしくは環の原子を介してN原子またはP原子に、またはC(O)、(CH2)nC(O)R2、(CH2)nC(S)R2のCに、ならびにR5がC(O)R2およびC(S)R2であるとき、R5のC(O)R2およびC(S)R2のCに、C(O)またはC(S)のあらゆる原子の一部をも介さずに、鎖もしくは環の原子、またはR2の鎖の置換基もしくは環の置換基のヘテロ原子を介して結合する。R2はXに結合しない。R3はH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、Hまたは鎖もしくは環の原子を介してN原子またはP原子に結合し、R1がC(O)R3およびC(S)R3の1つであるとき、C(O)またはC(S)のあらゆる原子の一部をも介さずに、鎖もしくは環の原子、または鎖の置換基もしくは環の置換基の原子を介してR1に結合し、R3はXに結合しない。R4はH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、Hまたは鎖もしくは環の原子または鎖の置換基もしくは環の置換基の原子を介してC原子に結合する。R4はXに結合しない。R5はH、C(O)R2、C(S)R2、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、H、C、または鎖もしくは環の原子を介してO原子に結合する。R5はXに結合しない。R6は置換または非置換の脂肪族鎖であり、XとR6OR7のOとの間、およびXとR6SR2のSとの間の炭素原子数は1〜5の間で変化し、優先的には2または3である。R6はCH2基を介してXに結合する。R7は、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、XとCOO−またはR7COO−Na+のO原子との間、XとR7COS−Na+のCOS−のS原子との間、XとR7CSS−Na+のCSS−のS原子の1つとの間の炭素原子数は、1〜5の間で変化し、優先的には2または3である。R7はXに結合しない。R8は置換または非置換の脂肪族環であって、Xと、R8をR9に結合する原子との間の炭素原子数は、1〜5の間で変化し、優先的には2または3である。R9は、置換または非置換の、5または6員環の、Nおよび/またはPおよび/またはOおよび/またはS含有の、ジエンまたは非ジエンの、芳香族または非芳香族の、5員環または6員環の、置換または非置換の環であって、Xと環の配位原子との間の原子数は、2〜10の間で変化し、優先的には2または3である。R9はXに結合しない。
【0026】
ブロックII
YとZとが同じで、X、YおよびZが、独立して、置換または非置換の、5員環または6員環の、Nおよび/またはPおよび/またはOおよび/またはS含有の、ジエンまたは非ジエン含有の、芳香族または非芳香族の環であって、Xの配位原子とYおよびZ双方との間の原子数が、1〜5、好ましくは2または3である。
【0027】
ブロックIII
XはNR、PR、OまたはSである;RはH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、ヘテロ原子を介さずに、鎖または環の原子を介してXに結合する;Zは、H、(CH2)nNR1R2、(CH2)nPR1R2、R3R4C=NR2、R3R4C=PR2、(CH2)nC(O)R2、(CH2)nC(O)NR2R3、(CH2)nC(O)PR2R3、(CH2)nC(O)N=R2、(CH2)nC(O)P=R2、(CH2)nC(O)OR5、(CH2)nC(S)R2、(CH2)nC(S)NR2R3、(CH2)nC(S)PR2R3、(CH2)nC(S)OR5、(CH2)nC(S)N=R2、(CH2)nC(S)P=R2、R6OR5、R6SR2、R7COO−Na+、R7CSO−Na+、R7CSS−Na+、および前述中で定義された(ブロックI)R8-R9から成る群から選ばれ;YはA2N(C2H4)NA(C2H4)、A2N(C2H4)NA(C2H4)、A2P(C2H4)NA(C2H4)、A2N(C2H4)PA(C2H4)またはA2P(C2H4)PA(C2H4)であり、AはZと同じ意味を有する。
【0028】
ブロックIV
XはNR、PR、OまたはSである;RはH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、ヘテロ原子を介さずに、鎖または環の原子を介してXに結合する;Zは、H、(CH2)nNR1R2、(CH2)nPR1R2、R3R4C=NR2、R3R4C=PR2、(CH2)nC(O)R2、(CH2)nC(O)NR2R3、(CH2)nC(O)PR2R3、(CH2)nC(O)N=R2、(CH2)nC(O)P=R2、(CH2)nC(O)OR5、(CH2)nC(S)R2、(CH2)nC(S)NR2R3、(CH2)nC(S)PR2R3、(CH2)nC(S)OR5、(CH2)nC(S)N=R2、(CH2)nC(S)P=R2、R6OR5、R6SR2、R7COO-Na+、R7CSO-Na+、R7CSS-Na+、および前述中で定義された(ブロックI)R8-R9から成る群から選ばれ;YはR2R3NC(O)CH2N(C2H4)R10、R2R3PC(O)CH2N(C2H4)R10、R5OC(O)CH2N(C2H4)R1、R1R2NC(O)CH2O(C2H4)、R1R2PC(O)CH2O(C2H4)、R5OC(O)CH2O(C2H4)、R1R2NC(O)CH2S(C2H4)、R1R2PC(O)CH2S(C2H4)、R5OC(O)CH2S(C2H4)、R2R3NC(O)CH2P(C2H4)R10、R2R3PC(O)CH2P(C2H4)R10、R5OC(O)CH2P(C2H4)R1、R1R2NCH2C(O)N(C2H4)R10、R1R2PCH2C(O)N(C2H4)R10、R5OCH2C(O)N(C2H4)R2、R2SCH2C(O)N(C2H4)R10、R1R2NCH2C(O)O(C2H4)、R1R2PCH2C(O)O(C2H4)、R5OCH2C(O)O(C2H4)、R2SCH2C(O)O(C2H4)、R1R2NCH2C(O)P(C2H4)R10、R1R2PCH2C(O)P(C2H4)R10、R5OCH2C(O)P(C2H4)R2、R2SCH2C(O)P(C2H4)R10、R1R2N(CH2)nO(CH2)nC(O)、R1R2P(CH2)nO(CH2)nC(O)、R5O(CH2)nO(CH2)nC(O)、R2S(CH2)nO(CH2)nC(O)、R1R2N(CH2)nS(CH2)nC(O)、R1R2P(CH2)nS(CH2)nC(O)、R5O(CH2)nS(CH2)nC(O)、R2S(CH2)nS(CH2)nC(O)、R1R2N(CH2)nO(CH2)n、R1R2P(CH2)nO(CH2)n、R5O(CH2)nO(CH2)n、R2S(CH2)nO(CH2)n、R1R2N(CH2)nS(CH2)n、R1R2P(CH2)nS(CH2)n、R5O(CH2)nS(CH2)n、R2S(CH2)nS(CH2)n、R1R2N(CH2)n(NR3)(CH2)nC(O)、R1R2P(CH2)n(NR3)(CH2)nC(O)、R5O(CH2)n(NR3)(CH2)nC(O)、R2S(CH2)n(NR3)(CH2)nC(O)、R1R2N(CH2)n(NR3)(CH2)nC(O)、R1R2P(CH2)n(NR3)(CH2)nC(O)、R5O(CH2)n(NR3)(CH2)nC(O)、R2S(CH2)n(NR3)(CH2)nC(O)、R1R2N(CH2)nN(CH2)nR3、R1R2P(CH2)nN(CH2)nR3、R5O(CH2)nN(CH2)nR3、R2S(CH2)nN(CH2)nR1、R1R2N(CH2)nN(CH2)nR3、R1R2P(CH2)nN(CH2)nR3、R5O(CH2)nN(CH2)nR1、R2S(CH2)nN(CH2)nR1、R1R2N(CH2)n(PR3)(CH2)nC(O)、R1R2P(CH2)n(PR3)(CH2)nC(O)、R5O(CH2)n(PR3)(CH2)nC(O)、R2S(CH2)n(PR3)(CH2)nC(O)、R1R2N(CH2)n(PR3)(CH2)nC(O)、R1R2P(CH2)n(PR3)(CH2)nC(O)、R5O(CH2)n(PR3)(CH2)nC(O)、R2S(CH2)n(PR3)(CH2)nC(O)、R1R2N(CH2)nP(CH2)nR3、R1R2P(CH2)nP(CH2)nR3、R5O(CH2)nP(CH2)nR1、R2S(CH2)nP(CH2)nR1、R1R2N(CH2)nP(CH2)nR3、R1R2P(CH2)nP(CH2)nR3、R5O(CH2)nP(CH2)nR1またはR2S(CH2)nP(CH2)nR1である。
【0029】
Yにおいて、R1〜R5のすべては、R1およびR3を除いて、ブロックIにおいてと同じ意味を有する。R1はH、C(O)R11、C(S)R11、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、H、C、または鎖もしくは環の原子を介してN原子またはP原子に結合し、R1はXに結合しない。R3はH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、Hまたは鎖もしくは環の原子または鎖の置換基もしくは環の置換基の原子を介してN原子またはP原子に結合し、R3はXに結合しない。R10はH、C(O)R12、C(S)R12、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、H、C、または鎖もしくは環の原子を介してN原子またはP原子に結合し、R10はXに結合しない。R11はH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、R1がC(O)R11またはC(S)R11であるとき、C(O)またはC(S)のあらゆる原子をも介さずに、鎖もしくは環の原子、または鎖の置換基もしくは環の置換基の原子を介してR1のCに結合する。R11はXに結合しない。R12はH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、R10がC(O)R12またはC(S)R12であるとき、C(O)またはC(S)のあらゆる原子をも介さずに、鎖もしくは環の原子、または鎖の置換基もしくは環の置換基の原子を介してR10のCに結合する。R12はXに結合しない。
【0030】
ブロックV
XはNR、PR、OまたはSである;RはH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、ヘテロ原子を介さずに、鎖または環の原子を介してXに結合する;YおよびZは、独立して、ABN(CH2)nまたはABP(CH2)nであり、nは2または3であり、AおよびBは、(CH2)nNR1R2、(CH2)nPR1R2、R3R4C=NR2、R3R4C=PR2、(CH2)nC(O)R2、(CH2)nC(O)NR2R3、(CH2)nC(O)PR2R3、(CH2)nC(O)N=R2、(CH2)nC(O)P=R2、(CH2)nC(O)OR5、(CH2)nC(S)R2、(CH2)nC(S)NR2R3、(CH2)nC(S)PR2R3、(CH2)nC(S)OR5、(CH2)nC(S)N=R2、(CH2)nC(S)P=R2、R6OR5、R6SR2、R7COO−Na+、R7CSO−Na+、R7CSS−Na+、またはR8-R9から成る群から選ばれ、前述中で定義されたように(ブロックI)、nは1〜5、優先的には2または3である。
【0031】
ブロックVI
N、P、OおよびSから独立して選ばれた最小でも3つのヘテロ原子を含有するあらゆる置換大員環。大員環とは、3つ以上の原子がドナーヘテロ原子である、最小でも9つの原子を含有する環状分子として定義される。
【0032】
ブロックVII
Xは置換または非置換の、5または6員環の、Nおよび/またはPおよび/またはOおよび/またはS含有の、ジエンまたは非ジエン含有の、芳香族または非芳香族の環である。YまたはZの少なくとも1つは、Nおよび/またはPおよび/またはOおよび/またはSヘテロドナー原子を含有し、置換または非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換の環であり、環上の置換基を介してXに結合している。YまたはZの1つのみがNおよび/またはPおよび/またはOおよび/またはSヘテロドナー原子を含有している場合、この基準を満たすYとZとの間の候補は、最小でも2つのNおよび/またはPおよび/またはOおよび/またはSヘテロドナー原子を含有し、これら2つのヘテロドナー原子間の原子数、およびこれらヘテロ原子のうちXに最も近い原子と、Xに含まれる最も近いヘテロドナー原子との間の原子数は、2または3である。YおよびZの双方がヘテロドナー原子を含有している場合、YおよびZのそれぞれが最小でも1つのN、P、OまたはSヘテロドナー原子を含有し、Yのヘテロドナー原子とXのヘテロドナー原子との間の原子数、およびZのヘテロドナー原子とXのヘテロドナー原子との間の原子数は2または3である。
【0033】
さらに、本発明に従って使用することが可能な好ましい三座配位子部分は、以下の化学式を有する配位子部分を含有する:
YXZ …(II)
【0034】
X、YおよびZは、独立して、置換または非置換の、5員環または6員環の、Nおよび/またはPおよび/またはOおよび/またはS含有の、ジエンまたは非ジエン含有の、芳香族または非芳香族の環であって、Xの配位原子とYおよびZ双方との間の原子数は1である。
【0035】
原理上、物質のあらゆる型の窒素、酸素、リンまたは硫黄を含む反応部位でも、本発明に従う方法を用いて標識することが可能である。好ましい反応部位は、アミン、ホスホアミン、チオール、チオエーテル、硫化物、チオアミド、チオール、アミド、ホスホアミド、チオホスホアミド、イミド、イミン、ホスホイミン、アルデヒド、ケトン、エステル、無水物、チオ無水物、アルコール、エーテル、尿素、チオ尿素、ホスホ尿素、アシル尿素、アシルホスホ尿素、オキソ尿素、チオアルデヒド、チオケトン、チオエステル、チオリン酸エステル、チオ無水物、カルボン酸もしくはチオカルボン酸およびそれらの塩、またはピリジン、イミダゾール、ピラゾール、ホスホピリジン、ホスホイミダゾール、ホスホピラゾール、フラン、またはチオフェンを含む反応部位を含有する。標識可能な物質の例は、アミノ酸(好ましくはメチオニン、システイン、およびヒスチジン)、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、たんぱく、免疫グロブリン、酵素、人工酵素、ホスホアミノ酸、リン脂質、脂質(たとえばホスファチジル コリン、スフィンゴ脂質)、糖たんぱく、核酸、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、ペプチド核酸、ペプチド核酸オリゴマ、ペプチド核酸ポリマ、アミン、アミノグリコシド、ヌクレオペプチド、および糖ペプチドの群から選ばれる物質である。本発明に従って、好ましくは、物質は、核酸、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、アミノ酸、ペプチド、オリゴペプチドおよびポリペプチドの群から選ばれる。
【0036】
本発明に従って、任意でスペーサによって、マーカが不活性三座配位子部分に適切に含まれるか、三座配位子部分に付着する。遷移金属の酸化状態が(II)より高い場合、マーカは遷移金属にも付着させることが可能である。
【0037】
マーカは、不活性部分に含まれ得るか、三座配位子部分に付着するスペーサに付着し得る限り、いずれの型のマーカであっても使用することが可能である。そのようなマーカは、放射性標識;酵素;アビジン、ストレプトアビジンまたはビオチン、ビオシチン、イミノビオチンなどの特異的結合ペア要素;コロイド状染料物質;リン光性発光標識(たとえばユーロピウムキレート、白金ポルフィリン);化学発光標識(たとえばルミノー);シアニン、Alex染料(Molecular Probes)、またはBodipy染料(Molecular Probes)、ローダミン、カルボキシローダミンなどの蛍光色素;ジニトロフェノール(DNP);tert-ブトキシカルボニル;たとえばキレート配位にあるまたはないユーロピウムまたはテルビウムといったランタニド;還元物質(エオシン、エリトロシンなど);(有色の)ラテックス ゾル;ジゴキシゲニン;金属(たとえば二核または多核錯体の場合、たとえばルテニウム);金属ゾルまたは別の粒子ゾル(セレン、炭素など);ダンシルリジン;紫外染料;可視染料;赤外染料;クマリン(たとえばアミノメチルクマリン);固体支持;細胞上または細胞内に生理学的効果を及ぼす、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、抗体、アミノ酸、たんぱくまたは(ポリ)ペプチド(たとえばプロテインA、プロテインG、膜シャトル分子)など、である。特殊分類のマーカは遷移金属それ自身である。そのような遷移金属マーカは、前述の他の型のマーカと共に存在するか否かに関わらず、他の遷移金属マーカなしに存在し得(単核)、または、ホモもしくはヘテロの配位の双方において、他の遷移金属マーカと共に存在し得る(二核または多核)。そのような標識錯体は、たとえばバイオセンサといった電気化学的検出手段において特に有用である。
【0038】
とりわけ、DNP、フルオレセイン、シアニン染料およびテトラメチルローダミンが特に好ましい。なぜなら、これらは物質に結合した白金と安定した錯体を形成することが可能だからである。他の好ましいマーカは、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジンおよびジゴキシゲニンを含む。
【0039】
本発明の1つの実施形態において、マーカはスペーサによって不活性三座配位子部分に連結する。好ましくは、そのようなスペーサは、少なくとも4原子、好ましくは最高で20原子を有する鎖であって、一端に電子供与部分を含み、マーカと反応する部分を含む鎖を含み、鎖は電子供与部分を介して三座配位子部分に付着する。スペーサが三座配位子部分と反応する前に、最初にスペーサをマーカに付着させることが可能である。スペーサの電子供与部分は、たとえば、アミン基またはチオラートアニオンである。鎖が少なくとも1つのヘテロ原子をさらに有することが好ましい。非常に好ましいスペーサは、ポリエチレングリコール、1,6-ジアミノヘキサンおよび1,8-ジアミノ-3,6-ジオキサオクタンである。本発明の好ましい実施形態において、マーカに付着する前の、中間体遷移金属-スペーサ錯体として、1,6-ジアミノヘキサンtert-ブトキシカルボニルが使用される。好ましい実施形態において、スペーサは、たとえば別の同位体と原子を置換することで、分子量の点で異なる。
【0040】
本発明の特に好ましい錯体は、添付の実施例において記載される三座配位子部分含有遷移金属錯体である。たとえば図6、化合物no.5および図9、化合物no.4などに示されるようなN3 トランス-C3三座配位子錯体;たとえば図8、化合物no.10および図13、化合物no.5などに示されるようなN3 シス-C2三座配位子錯体;たとえば図16、化合物no.4などに示されるようなN3 シス-C2三座配位子錯体;たとえば図17、化合物no.3などに示されるようなNS2 トランス-C2三座配位子錯体;たとえば図15、化合物no.7などに示されるような架橋(ピリジン)3トランス三座配位子錯体として、その中で参照される好ましい実施形態を特に参照する。ここでの「シス」という用語は、遷移金属上の脱離基およびマーカ(任意にスペーサアームを介して結合する)の位置が隣り合うことを示し、ここでの「トランス」という用語は、遷移金属上の脱離基およびマーカ(任意にスペーサアームを介して結合する)の位置が反対側であることを示す。C2またはC3は、個々のティース(teeth)を架橋する炭素原子数で表した大きさを示し、N3は三座配位子ティースがすべて窒素原子であることを示し、NS2は三座配位子ティースの2つが硫黄原子で、3番目が窒素原子であることを示す。ここでの「三座配位子ティース」という用語は、三座配位子部分のうち遷移金属への配位結合に実際に加わる部分を示す。
【0041】
本発明の錯体の特別な利点は、遷移金属錯体と化学的または生物学的物質との間で配位結合形成を可能にすることであり、それによって標識化合物としての使用への適性を大いに高められる。この標識化合物は、好ましくは、マーカ部分として、フルオレセイン;アミノメチルクマリン(AMCA);テトラメチルローダミン(TAMRA);ジエチルアミノメチルクマリン(DEAC);カルボキシ-フルオレセイン(FAM);カルボキシ-テトラメチルローダミン(TAMRA);カルボキシ-X-ローダミン(ROX);カスケードブルー(CB);フルオレセインイソチオシアネート(FITC);オレゴングリーン(OG);Alexa488(A488);ローダミングリーン(RGr);カルボキシ-ローダミン 6G(R6G);テキサスレッド(TxR);Cy3;Cy3.5;Cy5;Cy5.5;Cy7;カルボキシナフトフルオレセイン(CNF)およびBodipy(登録商標)染料などの蛍光標識、またはビオチン(BIO);ジゴキシゲニン(DIG);および2,4-ジニトロフェニル(DNP)などのハプテン標識を含む。したがって、本発明の遷移金属錯体は、全体として、標識化合物とよぶのに適している。標識化合物は核酸を標識するのに用いられるのに非常に適している。当然のことながら、たんぱく性分子などの、他の化学的または生物学的物質もまた、本発明の三座配位子錯体によって標識されるのに非常に適している。
【0042】
さらに、本発明は少なくとも1つの異なる安定同位体を含有する標識遷移金属錯体によって標識された化学的または生物学的物質に関する。この物質はアミノ酸、ペプチドまたはたんぱくであるのが好ましい。
【0043】
本発明の特別な側面は、生物系の機能を理解し、病状または薬物投与の効果を評価するのに重要な手段である、たんぱくの同定およびそれらの細胞間相互作用のマッピングにおける、本発明に従う標識遷移金属錯体の使用に関する。そのようにして、プロテオームの組成と、プロテオームにおける質的および量的変化とを決定することが可能である。ヒトプロテオームは、広く多様な特性を有し、9桁にまでわたる濃度レベルで自然に産する100000を超すたんぱくを含む。この数字はプロテオームの研究者が抱えるいくつかの難問を明らかにしている。細胞または組織で発現されるたんぱくの大規模な(究極的には国際的な)分析はプロテオーム分析(Penningtonら、1997年、Trends Cell Biol.、第7巻、168−173頁)またはプロテオミクスと称されている。ゲノム分析と比較して、プロテオーム分析は特有の難問を抱えている。
【0044】
広い範囲の技術が、たんぱくを同定し、その細胞間相互作用をマップするのに利用できる。未知のたんぱくの性質を明らかにし、その機能を評価するために、連続する多数の工程が一般に含まれる(PattersonおよびAebersold、2003年、Nat. Genet.、第33巻、別冊、311−323頁)。
【0045】
第1段階は、プロテオームディスプレイおよびマッピング技術によって形成される。たんぱくマップまたはフィンガープリントを得るのにもっとも広く使用される手順は、二次元ゲル電気泳動(2DE)である(Rabilloud、2000年、Anal. Chem.、第72巻(1)、48A−55A頁)。2DEにおいて、たんぱくは1次元においてその等電点(pI)によって分離され、続いて第2の次元において分子量(MW)によって分離される。分離されたたんぱくは、クマシーブルー、銀染色、蛍光染色、または放射性標識(Patton、2002年、J. Chromatogr. B, Analyt. Technol. Biomed. Life Sci.、第771巻(1−2)、3−31頁)などの一般的な染色を用いて視覚化することが可能である。生じたスポットの複雑なパターンは、さらなる処理のために高度な画像分析を必要とする。通常、たとえば異なる細胞分裂期を代表する2つまたは複数のたんぱくプロフィールが比較される。異なった形で発現された注目たんぱくのスポットが、後の分離分析のためにゲルから切出される。このような方法で、細胞の状態変化によるプロテオームの変化を視覚化することが可能であり、たんぱく発現の特徴的な変化を特定することが可能である。
【0046】
続く第2段階は、たんぱく同定技術、主として質量分析(MS)によって代表される。質量分析計は基本的にイオン化モジュール、質量分析器および検出器の組合せであり、イオン化された検体(たとえばペプチドまたはたんぱく)の質量電荷比(m/z)を測定する。検体は高速原子衝撃(FAB)、電子スプレーイオン化(ESI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)または大気圧化学イオン化(APcI)のいずれかによって帯電可能である。質量分析器は質量分析計の最もフレキシブルな部分である。電場が荷電粒子を偏向させ、エネルギポテンシャルが質量およびポテンシャルに基づいて慣性移動に変換され得るので、質量分析器は、電場ポテンシャルを変えることによって、その質量電荷比(m/z)に基づき、ある質量を検出器に向ける。分析器は、存在するイオンをリストに入れるために、m/zの狭い範囲を安定化させるか、m/zのある範囲にわたって走査するために使用することが可能である。様々な型式が存在し、飛行時間、イオントラップ、および四重極質量分析器を含む。検出器は単純に、イオンが表面を通り過ぎるか表面に衝突するかしたときに誘起される電荷を記録する。
【0047】
質量分析計は非特異的な検出器であるため、別の検体をMSに与えるために、質量分析計をガス(GC)または液体クロマトグラフ(LC)に連結するための特異的なインターフェースがしばしば使用される。タンデム質量分析計(MS-MSまたはMSn)は質量分析の複数ラウンドが可能なものである。たとえば、1つの質量分析器は、質量分析計に入った多数から1つのペプチドを分離することができる。その後、第2の質量分析器は、ガスがペプチドに衝突してフラグメントにする間、ペプチドイオンを安定化させる。その後、第3の質量分析器が、ペプチドから産生されたフラグメントをリストに入れる。衝突誘起解離とよばれるこの工程は、プロテオミクスにおける多数の実験の基礎である。現在では様々な質量分析計が利用でき、それぞれがある用途に関して特異的な利点を有している(GygiおよびAebersold、2000年、Curr. Opin. Chem. Biol.、第4巻(5)、489−494頁; Mannら、2001年、Ann. Rev. Biochem.、第70巻、437−473頁)。
【0048】
たんぱくの機能分析を評価する最終工程は、表面プラズモン共鳴(SPR)などの技術に関係するものであって、たとえば既知のたんぱくおよびそのターゲットの、生体分子の相互作用に関する詳細な情報を提供することが可能である。SPR現象は、特定の角度にて偏光が全反射される条件下で、光学インターフェースにて薄い金属膜中に生じる。その手順は、光学共鳴の微妙な変化を測定し、この膜の反対側の媒体の屈折率に感受性である。屈折率の変化は、分子が金属表面に付着している生体分子に結合するとき、または生体分子から解離するときに生じる。このように、リアルタイムの結合活性プロフィールが会合または解離の相互作用特性によって生成される(Greenら、2000年、Biomaterials、第21巻(18)、1823−1835頁; RichとMyszka、2000年、Curr. Opin. Biotechnol.、第11巻(1)、54−61頁; McDonnell、2001年、Curr. Opin. Chem. Biol.、第5巻(5)、572−577頁)。
【0049】
一般に、技術的進歩は種々のたんぱくの検出の感度および定量化を改良することに向けられてきた。さらに、進歩は、2DEを旧式のものとし得る、つまりゲルから独立した方法を提供することに向けられてきた。2DEパターンの複雑さ、および低い存在量の、小さい(10kDa未満の)または難溶性の(たとえば膜結合の)たんぱくに対する固有のバイアスが直接プロテオームにおけるたんぱくの(半)定量的測定を可能にする技術の開発を誘発してきた(Regnierら、2002年、J. Mass Spectrom.、第37巻(2)、133−145頁; BauerとKuster、2003年、Eur. J. Biochem.、第270巻(4)、570−578頁)。
【0050】
2DEの使用を避ける非常に適した手段は、Gygiら(1999年)(Nat. Biotechnol.、第17巻(10)、994−999頁)によって開発されたICAT(同位体コードアフィニティータグ)手順である。この手順は、安定同位体での特異的標識に基づくMSによって2つの異なる広範囲のたんぱく発現プロフィールを迅速に比較することができる。第1世代ICAT試薬は、i)たんぱくのシステイン(Cys)残基を標識できるチオール-特異的たんぱく反応基(ヨードアセトアミド)、ii)たんぱくの2集団の特異的標識のための8つの水素(1H)原子(d0、軽同位体)または8つの重水素(2H)原子(d8、重同位体)のいずれか一方を含有する2つの異なるリンカー部分、およびiii)標識ペプチドを選択的に単離できる、ほとんどがビオチンであるアフィニティタグ、から成っていた。
【0051】
ICAT手順それ自身は、たんぱくの複雑な混合物中のシステイン側鎖の還元およびアルキル化を含み、これによって、ある細胞状態のたんぱくはd0-標識タグで標識され、第2の細胞状態(たとえば病状)のたんぱくはd8型タグで標識される。その後、MS分析に適したフラグメントを提供するために、2つの混合物は統合され、たんぱく分解にかけられる。ペプチドの標識サブセットを取出すために、たんぱく分解ペプチドの複雑な混合物は、アフィニティカラムクロマトグラフィによって精製される。その後、サンプルは、d0およびd8同位体の相対存在量に基づいてたんぱくの定量的情報つまり存在量を提供するためのLC-MSと、ペプチド分子量およびアミノ酸配列情報に基づいて定性的情報を提供するためのLC-MS-MSとの組合せによって分析される。
【0052】
重ICAT試薬で標識されたペプチドと軽ICATで標識されたペプチドとの不適切な共溶出、およびアフィニティタグで捕獲された標識ペプチドの低い回収率が、第2世代のICAT試薬の開発をもたらした。これらのICAT試薬は、i)たんぱくのシステイン(Cys)残基を標識できるチオール-特異的たんぱく反応基(ヨードアセトアミド)、ii)たんぱくの2集団の特異的標識のための炭素原子(軽い)または炭素同位体(重い)のいずれか一方の規定数を含有するリンカー部分、iii)標識ペプチドを選択的に単離できる、ほとんどがビオチンであるアフィニティタグ、ならびにiv)MSおよびMS-MS分析に先立ちICAT試薬タグのビオチン部分を除去できる酸開裂部位、から成る。たんぱく反応基は遊離システインのアルキル化によって同位体コードアフィニティタグをたんぱくに共有結合させる。ICAT技術はたんぱくのシステイン残基の標識に基づいているので、システインを含有しないたんぱくはICATで検出されないだろう。さらに、システイン残基は御しやすいペプチド;つまり、たんぱく分解に由来するおよそ600〜3500Daの分子量(MW)のペプチド、に存在しなければならない。このMW範囲外のペプチドは、たんぱく同定のための必須の定性的情報を提供するのに充分な数のアミノ酸を含んでいないか、衝突活性化解離によるMS-MSフラグメント化に適していないほど大きいか、のどちらかだろう。さらに、システインに基づくICATタグは、修飾が偶発的にCys含有ペプチドに生じなければ、リン酸化反応などの翻訳後の修飾に基づくプロテオームにおける変化に関する情報を生成できない。
【0053】
化学的標識手順および代謝標識手順によってたんぱくを特異的に標識する別の種々の方法が開発されてきた(GosheとSmith、2003年、Curr. Opin. Biotechnol.、第14巻(1)、101−109頁)。化学的方法は、個々のペプチド、またはたんぱくのトリプシン消化物の、古典的なたんぱく修飾に基づいている。たとえば、リジン(Lys)残基は、4つの2H原子(d4)を含有する2-メチルオキシ-1H-イミダゾールの重誘導体を用いて、C-末端にて標識することが可能である(Petersら、2001年、Rapid Commun. Mass Spectrom.、第15巻(24)、2387−2392頁)。Lys残基はまた、mass-coded abundance tagging(MCAT;CagneyおよびEmili、2002年、Nat. Biotechnol.、第20巻(2)、163−170頁)とよばれる処理において、O-メチル-イソ尿素を用いる特異的グアニジン化によって標識することが可能である。メチオニン(Met)残基は、たとえば(d0/d4)-ニコチン酸の活性エステルを用いて標識することが可能である(Shenら、2003年、Molec. Cell Proteomics、第2巻、315−324頁)。Cys残基は、N-(d0/d5)-エチル-ヨードアセトアミドを用いる特異的アルキル化によって標識することが可能である。ペプチドの一級アミンは、N-アセトキシ-(d0/d3)-スクシンイミド誘導体を用いて特異的に標識することが可能である(ChakrabortyおよびRegnier、2002年)。
【0054】
しかし、一般に、前述の標識方法は、MS分析前に混合物の複雑さを軽減するために、2DE分離または−ICATの場合−アフィニティクロマトグラフィ精製を必要とする。iTRAQおよびiPROTは、特異的スクリーニングのために同位体ではなく標識試薬の異なる異性体を使用する同重同位の標識技術である。
【0055】
関連する標識化学反応はまた、1つには化学試薬の不安定さおよびその所望されない交差反応性によって、安定性を欠いており、これは得られるシグナル対に不均一性をもたらす。また、平均ヒトプロテオーム範囲は、たとえばICATについて85%と、比較的低い。これらの要因が、プロテオーム研究における、特に(自動化された)ハイスループット用途の場合の、特異的標識方法の利用を妨害している。
【0056】
現在、プロテオーム研究およびルーチン(診断)試験の双方における大規模な分析を支持できる、ペプチドの特異的標識のための安定した手順の必要性がある。したがって、そのような標識手順が、特異性の高いアミノ酸ターゲット残基の標識、プロテオームの広い範囲、および安定した標識条件を示すことが所望される。また、標識は、複雑な質量スペクトルをもたらすべきではなく、つまり、多すぎないアミノ酸残基が標識されるべきである。好ましくは、選ばれたアミノ酸の標識を飽和方法で実行することが可能であり、好ましくは、重同位体標識分子が軽標識分子と同一の、たとえば同じ保持時間といったクロマトグラフ特性を有するべきで、好ましくは、重同位体標識分子が軽標識分子と同一のイオン化特性を有するべきで、理想的には、標識がたんぱくの酵素消化を妨害すべきではない。
【0057】
さらに、特異的標識後、生成物は、重量分析にかけられる前に、アフィニティクロマトグラフィ以外の別の手段によって分離することが可能であることが所望される。現在の技術に対してさらに所望される改良は、MSに先立つ精製工程の省略である。あるいは、その代わりに、標識分子と非標識分子間の分別がMS-MS中になされ得るのが有利である。
【0058】
驚いたことに、本発明に従う標識遷移金属錯体が使用される標識方法は、これらの必要性の1以上を満たすことが分かった。この方法は、質量分析のイオン化処理を乗り切る、物質と標識間との結合をもたらすのが利点である。
【0059】
したがって、本発明に従う標識遷移金属錯体という新規カテゴリは、生物有機分子の特異的標識方法においてタグとして使用可能であることが利点である。その標識錯体は、特異的発現標識のための既存の試薬に対する改良を構成し、先行技術の試薬の種々の問題を回避する。
【0060】
本発明はまた、化学的または生物学的物質の質量分析による区別を可能にする方法に関し、その方法は、物質を本発明に従う少なくとも1つの標識遷移金属錯体で特異的に標識する工程を含む。
【0061】
さらに、本発明は、物質または物質を含有するサンプルの質量分析を容易にするために、化学的または生物学的物質の分子量に規定シフトを創出するための本発明に従う標識遷移金属錯体の使用に関する。
【0062】
標識遷移金属錯体の結合に際しての化学的または生物学的物質の分子量における規定シフトの創出は、最終的には標識遷移金属錯体の物質への付着に起因する。したがって、シフトは、基本的に、標識遷移金属錯体の質量マイナス脱離基の脱離部分の質量に比例する物質の質量の変化に一致する。この質量変化は質量分析によって決定することが可能である。
【0063】
本発明はまた、本発明に従う質量分析によって化学的または生物学的物質を区別可能にする方法に関し、物質を、少なくとも1つの標識遷移金属錯体で特異的に標識することを含み、適当な標識遷移金属錯体とは、先に記載されたものである。それぞれが独自の標識特異性を有する2つの異なる標識遷移金属錯体の使用は、1つのサンプル内の異なる物質を特異的に標識することを可能にする。
【0064】
別の側面において、本発明は化学的または生物学的物質の質量分析方法に関し、この方法は、物質を本発明に従う少なくとも1つの標識遷移金属錯体で特異的に標識する工程、および、質量分析によって物質を分析する工程を含む。
【0065】
本発明の方法の好ましい実施形態において、化学的または生物学的物質は異なるサンプルに由来する。
【0066】
本発明の方法のさらに他の好ましい実施形態において、物質を特異的に標識する工程は、本発明に従う少なくとも2つの標識遷移金属錯体によって実行され、この標識遷移金属錯体は分子量が異なり、この分子量差は1Daである。
【0067】
本発明の方法の好ましい実施形態において、標識遷移金属錯体は、同じ標識特性、液体クロマトグラフィ(LC)における、たとえば同じ疎水性または親水性などの、同じ性質、および同じ金属酸化状態を示す。
【0068】
本発明の方法のさらに他の好ましい実施形態において、スペーサを含有する標識遷移金属錯体は、質量分析における親イオンスキャニングまたはニュートラルロススキャニングに適している。
【0069】
本発明の方法のさらに他の好ましい実施形態において、遷移金属同位体フィンガープリントは標識物質の同定手段として使用することが可能である。
【0070】
標識遷移金属錯体間の分子量差は、遷移金属錯体またはこれに付着した配位子、スペーサ、反応性部分および/もしくはマーカのあらゆる部分における、特定の同位体、原子、原子団、分子、もしくは分子団の存在または不在による。
【0071】
本発明の好ましい実施形態において、標識遷移金属錯体間の分子量差は、たとえば第1の標識遷移金属錯体が軽同位体を含有し、少なくとも第2の標識遷移金属錯体が重同位体を含有するといった、錯体中の異なる安定同位体の存在による。
【0072】
分子量に差異を生じさせる安定同位体は、標識遷移金属錯体のあらゆる部分に含有されてもよい。安定同位体は、スペーサを利用して適切に、不活性三座配位子部分に含められるか、三座配位子部分に付着される。
【0073】
別の側面において、本発明は少なくとも2つの異なる分子量の標識遷移金属錯体のセットを提供する。
【0074】
本発明のさらなる側面は、少なくとも2つの異なる分子量の標識遷移金属錯体のセットを含む部品のキットに関する。好ましくは、分子量の差異は遷移金属錯体間の少なくとも1つの異なる安定同位体の存在に起因する。
【0075】
ここで使用される「化学的または生物学的物質」は、硫黄、酸素、リン、および/または窒素を含有する1つ以上の反応部位を含むものとして解釈されるべきであり、このような反応部位を含むように(たとえばセリン、トレオニン、またはチロシン残基の組み込みによって)修飾された物質を含んでいる。
【0076】
さらに、「物質」は、微生物、ウイルスもしくはプリオンに、または、硫黄反応型、リン反応型、酸素反応型もしくは窒素反応型の1つ以上の反応部位を含む物質、もしくは、それらによって作られた、マイクロアレイ、マイクロタイタープレート、試験紙もしくは試験管などの、製品に関する。特に、物質は生物有機化合物を含む、無機または有機化合物に関する。
【0077】
ここで使用される「生物有機分子」は、生物由来炭素含有分子を示す。また、生物有機分子は、たとえば治療効果または予防効果、免疫応答、代謝過程などを誘発する、またはそれらに影響を及ぼすことによって、生物系における作用を誘発する、または作用に影響を及ぼすことのできる化合物を示す。
【0078】
「標識」という用語は、ここでは、標識金属錯体を物質に結合させる/付着させるプロセスを示すために使用される。
【0079】
「特異的標識」という用語は、ここでは、反応部位間、物質間またはサンプル間にマーカの不均等な分布をもたらす標識反応を示すために使用される。特異的標識は、たとえば特異的に標識されたP-、O-、S-およびN-反応部位を有する物質などの、特徴的な反応部位にて異なるマーカを有する物質をもたらす。特異的標識はまた、1つのサンプルから異なるマーカまたは異なるマーカ密度を有する同一の物質をもたらし、たとえば、1つのサンプルは特異的に標識される同一のたんぱくを有し得る。特異的標識はまた、2つのサンプルから異なるマーカまたは異なるマーカ密度を有する同一の物質をもたらす。そのような特異的標識型は、細胞間のプロテオーム、ゲノムまたは代謝産物の比較分析に非常に適している。
【0080】
ここで同意語として使用される「マーカ」、「タグ」または「標識」は、遷移金属錯体を介して物質に付着することが可能であり、物質を検出、測定または視覚化するのに使用することが可能であるあらゆる部分である。
【0081】
ここで使用される化合物の「残基」は、化合物それ自体、またはより大きな物質の部分、たとえばたんぱく中のアミノ酸残基として解釈されるべきである。
【0082】
「異なる安定同位体」は、ここでは、原子の安定した同位体であって、自然界で最も多く存在するその原子の同位体とは別の同位体として定義される。C(炭素)の場合、13C(1.07%)は、通常存在する12C(98.93%)に対し、異なる安定同位体である。遷移金属の場合、たとえばPt(白金)については、192Pt(0.79%)、194Pt(32.9%)、196Pt(25.3%)、および198Pt(7.2%)は、通常存在する195Pt(33.8%)に対し、異なる安定同位体である。
【0083】
標識遷移金属錯体に結合される物質は、(硫黄含有反応部位に付着するとき)Me-S付加化合物として、(窒素含有反応部位に付着するとき)Me-N付加化合物として、または一般にMe-付加化合物として示される。
【0084】
今後、硫黄含有反応部位はS-反応部位として、窒素含有反応部位はN-反応部位として示される。同様に、酸素含有反応部位はO-反応部位として、リン含有反応部位はP-反応部位として示される。
【0085】
化学的または生物学的物質は、たとえば化学的、生物学的または医学的研究もしくは診断において、物質を同定、検出、視覚化、分離、精製、単離、定量化またはモニターするために、検出マーカで標識されることは当該技術において既知である。種々の標識方法が当該技術から既知である(レビューのため、Hermanson、1996年、Bioconjugate techniques、Academic Press、ISBN 0-12-342335-Xを参照されたい)。特定の検出マーカおよび特定の標識方法を選択する際には、多数の要因が関与する。そのような要因は、物質の性質、標識反応の条件、標識反応中の感度、物質に対する特異性および標識物質の検出限界を含む。
【0086】
種々の反応部位に対する標識遷移金属錯体の反応性は、広範な様々な物質に対する迅速な標識反応および優れた感度を可能にするので、多数の用途において利点がある。
【0087】
本願発明者は、標識反応におけるリンカーとして、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)およびマレイミドなどのリンカーに優る、標識遷移金属錯体を使用する特別の利点は、本発明に従う標識遷移金属錯体が質量分析にルーチンで適用できるということであると見出した。さらに、最も多く存在する遷移金属原子とその異なる安定同位体との間の特定の構成および比が、質量分析における標識物質の同定に規定手段を提供することが可能である。標識反応に本発明の標識遷移金属錯体を使用するさらなる利点は、使用される反応性部分に応じて、そのような錯体が広範な種々の化学的物質の標識を支持できることである。
【0088】
別の利点は、たんぱくが、ヒスチジン(His)、メチオニン(Met)および/またはシステイン(Cys)残基にて適当な標識遷移金属錯体によって標識されることである。これは、ペプチド鎖の側基をより多く標識し、よってより高い標識密度を達成できる可能性を提供する。これはまた、ペプチド鎖のさらなるアミノ酸残基の標識を可能にする。
【0089】
生体たんぱくおよび/またはペプチドは、システインを含むとは限らず、システイン標識は、プロテオームにおけるたんぱくの85%のみの検出を可能にするだけである。メチオニン残基を標識できれば、プロテオームにおけるたんぱくの97%の検出が可能になる。組合せにより、本発明の標識錯体の使用は98.35%のプロテオーム範囲を提供する。したがって、新しいターゲットアミノ酸を選択できるこの見込みは、プロテオーム研究において重要な利点である。
【0090】
さらに、本発明に従う標識遷移金属錯体での標識反応特異性は、化学的または生物学的物質の硫黄含有反応部位と窒素含有反応部位とを区別するように制御される。したがって、本発明に従う標識遷移金属錯体を用いることで、物質の標識を、種々の反応部位を一緒に含有する物質または物質団内の特定の反応部位に向かわせることができる。
【0091】
本発明に従う標識遷移金属錯体の使用の1つの実施形態において、サンプル中の化学的または生物学的物質は、欧州特許出願公開第1262778号明細書に記載される方法に従って特異的に標識される。
【0092】
好ましい実施形態において、本発明に従う標識遷移金属錯体の使用は、構成が比較されるべき2つの異なるサンプル中に存在する化学的または生物学的物質の特異的標識を含む。好ましい使用は、たんぱく発現プロフィールの測定、またはプロテオームの結果と、参照サンプル由来の対応結果とを比較するために、試験サンプル中のプロテオームの測定を含む。
【0093】
たんぱくの特異的標識手順における標識遷移金属錯体の使用のさらに別の利点は、後続のトリプシン消化に妨害がないことである。これは、MS分析に適当な長さのペプチドを提供するために、トリプシン消化にかけられる細胞プロテオームの標識手順において、特に有利である。
【0094】
1つのサンプルに由来する物質つまり混合物として生じる物質を標識できる見込みとは別に、化学的または生物学的物質は異なるサンプルに由来してもよい。たとえば、特異的標識は、参照サンプル中の物質を標識することなく試験サンプル中の物質を標識すること、またはその逆を含み得る。その後、両サンプル中に存在する同一の物質は、試験サンプル中の物質の分子量における規定シフトの結果として、質量分析によって区別することが可能である。あるいは、特異的標識は両サンプル中の物質の標識を含んでもよい。そのような例において、質量分析によって物質を区別可能にすることは、物質の、少なくとも2つの異なる分子量の標識遷移金属錯体による特異的標識を含む。
【0095】
特異的標識方法は、広範な種々のバッファ溶液中で、および幅広いpH範囲にわたって実行される。適したバッファ溶液は、TRIS/グリシンおよびリン酸バッファなどの一般に使用されるバッファをすべて含む。Tween-20、Triton X-100またはSDSなどの界面活性剤が標識混合物中に存在してもよい。バッファが、一般に使用される濃度にて、塩酸、硝酸、硫酸またはリン酸のナトリウム塩、カリウム塩またはアンモニウム塩などの塩の存在は、標識反応にほとんど影響を及ぼさない。MSにおいて好ましい標識用バッファは、蒸発後に痕跡残存物を残さない、たとえば酢酸アンモニウムなどを含有するバッファである。
【0096】
特異的標識反応に関する反応パラメータはまた、物質が特異的に標識されるように選択され、特定のpH値の選択を含む。ここで使用されるpHは、20℃の水溶液のpH値として解釈されるべきである。一般に、Me-S付加化合物の形成はpH非依存的で、Me-N付加化合物の形成はpH依存的である。好ましい実施形態において、1つ以上のS-反応部位は、そのpHを使用することによって、1つ以上の窒素含有部位に優先して選択的に標識される。
【0097】
指針として、物質の標識されるべきでないすべてのN-反応部位の最低pKaを下回るpHに標識反応のpHを選択することで、1つ以上のS-反応部位の特異的標識が可能になる。熟練者は、pKaに加えて、標識されるべき物質付近の微環境の影響を含む、他の要因が影響することを理解できよう。一般に、S-反応部位は、酸性pHにてN-反応部位に優先して特異的に標識される。
【0098】
理論的には、Me-S付加化合物の形成は1工程プロセスである。反応基は、Sが白金に電子対を提供すると、白金錯体を離れる。このプロセスは、Me-XのMe-Sへの直接変換であって、pH非依存的であると考えられる。他方、N供与体は、N置換に先立ち、酸素による白金錯体の反応基の置換を必要とする。初めに、Me-XはMe-Oになり、結果としてMe-Nを生じる。これは、pHを変化させることで第1工程が制御することが可能である2工程スキームである。したがって、溶液のpHに影響を及ぼす要因は、Me-N付加化合物の形成を妨害するかもしれない。
【0099】
イオンの存在はまた、N-反応部位に対する遷移金属錯体の選択性を制御するために用いることが可能である。実施形態において、1つ以上の脱離配位子、好ましくはアニオン部分が、S-反応部位の分別標識を増大するために、標識遷移金属錯体をN-反応部位に標識するのを阻害するのに用いられる。そのような脱離配位子の好ましい例は、Cl−、NO3−、HCO3−、CO32−、SO32−、ZSO3−、I−、Br−、F−、酢酸イオン、炭酸イオン、リン酸イオン、硝酸エチルイオン、シュウ酸イオン、クエン酸イオン、ホスホン酸イオン、ZO−および水を含む。ここで、Zは、水素部分または1〜10の炭素原子を有するアルキルまたはアリール基として定義される。特に良好な結果は、特に好ましくは塩化物イオンであるアニオン部分を含む塩を用いることで達成される。対イオンはアルカリカチオン、アルカリ土類カチオン、または標識するのにも用いられるカチオンであるのが好ましい。好ましい実施形態において、N-反応部位への標識の阻害に用いられるアニオン部分の総イオン強度は、少なくとも0.1mol/lである。より好ましくは、総イオン強度は0.1〜0.5mol/lの範囲にある。
【0100】
遷移金属イオンの存在もまた、標識されるべき反応部位の選択のために使用することが可能である。特に、そのようなイオンは、S-反応部位の標識を妨げるか鈍化させ、または標識Me-S付加化合物を不安定にさせて、効果的に1つ以上のN-反応部位がS-反応部位に優先して特異的に標識されるのに、適していることが見出されている。この物質またはサンプルの特異的標識の型式は、一部の物質のみが分析されなければならないときに、特に利点がある。
【0101】
前述のパラメータに加えて、本発明に従う方法はさらに、好ましくは0〜120℃の範囲で、より好ましくは20〜70℃の範囲で変化する温度;一般的に1分〜48時間の範囲の、好ましくは10分〜24時間の範囲の、より好ましくは25分〜15時間の範囲の反応時間;試薬の濃度、試薬のモル比、標識遷移金属錯体の総純荷電などのパラメータによって微調整される。これらのパラメータは、当該技術において既知であるいずれかの方法で、特定用途に応じて調整される。標識遷移金属錯体の総純荷電は、たとえば、中性pHでのヒスチジンにおけるMe-N付加化合物形成の特異性に影響を及ぼす。フルオレセイン-およびシアニン遷移金属錯体などの中性Me-錯体は、Me-N付加化合物を形成し、一方で、たとえばローダミン-およびジニトロフェノールMe錯体といった正荷電遷移金属標識錯体は、効果的でないか、効果が劣る。正荷電標識遷移金属錯体は、ペプチド、たんぱくなどの等電点以上では、N付加化合物に対して特異的標識を示す。N-反応部位のS-反応部位に優先する選択的標識、またはその逆を可能にすることとは別に、本発明に従う方法はまた、欧州特許出願公開第1262778号明細書に記載されるような正しい条件を選択することによって、特徴的なN-反応部位または特徴的S-反応部位を分別することができる。
【0102】
単一物質の特異的標識のための前述の指針はまた、異なる化合物、および異なる起源由来の化合物の特異的標識に必要な、または最適な標識を得るために採用することが可能である。
【0103】
本発明に従う化学的または生物学的物質の質量分析方法は、まず、MSによるそれらの物質の区別を可能にしなければならず、したがって、前述の少なくとも1つの標識遷移金属錯体で物質を特異的に標識する第1工程を含む。さらに、その方法は質量分析によって物質の分子量を分析する工程を含む。熟練者は、MS検出の種々の可能性に精通している。
【0104】
MS検出に先立ち、異なるサンプル由来の物質が任意に混合されて、混合物がMS分析にかけられる。特異的標識物質またはサンプルをMS分析に先立って混合する利点は、MS条件が、試験される物質すべてについて等しくなり、分子量のシフトが容易に識別することが可能であることである。
【0105】
また、MS検出に先立ち、標識物質は、たとえばアフィニティタグ物質のアフィニティ単離によって、または、特に本発明の方法においてはイオン交換クロマトグラフィによって、もしくは蛍光活性化細胞分類(FACS)との組合せにおいて蛍光マーカを用いることによって、非標識物質から精製することが可能である。さらに、本発明の標識遷移金属錯体は、先に精製することなく、MS-MS中に(特異的)標識物質を分離する機会を提供する。
【0106】
したがって、サンプル比較を含む方法において、両サンプルは、精製工程が両サンプルに実行することが可能であるようにするために、異なる分子量の標識遷移金属錯体で標識されるのが好ましい。このようにすることで、精製バイアスは両サンプルについて等しくなる。捕獲試薬に結合できる標識はすべて、アフィニティ標識として使用することが可能である。本発明の好ましい実施形態において、アフィニティ標識はビオチン、ジニトロフェノール(DNP)、フルオレセインまたはDyomics 647染料であり、好ましい捕獲試薬は、それぞれ、ストレプトアビジンもしくはアビジン、抗-DNP、抗-フルオレセイン、および抗- Dyomics 647である。アフィニティタグ物質のアフィニティ単離後、それらのいくつかは同位体で標識され、アフィニティ標識と捕獲試薬との相互作用は、単離材料のMS分析を可能にするように、崩壊すなわち切断される。アフィニティ標識は、置換配位子の添加によって捕獲試薬から置換されて、遊離アフィニティ標識またはアフィニティ標識の誘導体となり、また、溶媒(たとえば溶媒の種類またはpH)もしくは温度条件を変えることによって、結合錯体は、化学的、酵素的、熱的または光化学的に開裂されて、MS分析のために単離物質を放出することが可能である。
【0107】
MS検出に先立ち、標識物質は、予め選択された分子種の検出を可能にするために分離される。たとえば液体クロマトグラフィ(LC)またはガスクロマトグラフィ(GC)による事前の分離によって、たんぱくの複雑な混合物のMSによる分析が可能となる。熟練者は特定の用途に必要な、または最適な分離手順を決定することができるだろう。
【0108】
化学的または生物学的物質の質量分析方法は、試験サンプルおよび参照サンプルの比較分析を含んでもよい。特異的標識後、2つのサンプルが混合され、混合物がクロマトグラフの分離に続いて質量分析にかけられると、標識遷移金属錯体で標識された物質は、非標識物質と比較して予測可能な分子量シフトを示すだろう。このように、本発明の方法は、サンプル間の化学的または生物学的物質の比較質量分析を可能にする。
【0109】
そのような方法はまた、分子量に基づいて試験サンプルの物質を参照サンプルの物質から区別するために、少なくとも2つの異なる分子量の標識遷移金属錯体を用意し、サンプル間で物質を特異的に標識することを含む。言い換えれば、試験サンプル物質は第1の分子量の標識遷移金属錯体で標識され、参照サンプル物質は第2の分子量の標識遷移金属錯体で標識される。必要とされる分解能にもよるが、1Daという標識遷移金属錯体間の分子量差で充分である。先のセットにおける標識遷移金属錯体間の分子量差は2Daを超えるのが効果的で、4Daを超えるのがより効果的で、6Daを超えるのが好ましく、8Daを超えるのがより好ましく、10Daを超えるのがさらに好ましい。
【0110】
異なる分子量を有する2つの標識遷移金属錯体の目的は、化学的には実質的に同一でありながら、質量によって区別可能な試薬のペアまたはセットを生成することである。
【0111】
分子量の差異は、遷移金属錯体の原子または配位子を、より大きいまたはより小さい分子量の原子または配位子と置換することによってもたらすことが可能である。適当な質量変換配位子は、脂肪族基、炭水化物、アルコール官能基、およびたとえばF、ClおよびBrなどのハロゲンを含む。
【0112】
分子量の差異はまた、遷移金属錯体の原子を別の安定同位体と置換することによってもたらすことが可能である。加えて、たとえば錯体中の1つ以上の原子を安定同位体と置換することによって、遷移金属錯体は異なる態様で同位体標識することが可能である。たとえば、水素は重水素で、12Cは13Cで、14Nは15Nで、195Ptは192Pt、194Pt、196Ptまたは198Ptで、16Oは18Oで、置換することが可能である。錯体に存在するPまたはS原子もまた置換することが可能である。好ましい実施形態においては、1Hおよび2H、12Cおよび13C、14Nおよび15N、16Oおよび18O、またはそれらの組合せが使用される。さらに、遷移金属同位体、たとえばPt同位体の混合物の使用は、標識物質の識別をより容易にさせる質量分布の独特のパターンを提供する。
【0113】
さらに別の実施形態において、遷移金属錯体に付着したマーカが、前述の錯体に分子量差を提供する。このように、分子量差がマーカ(の存在)に起因してもよい。好ましい実施形態において、複雑性は単同位体白金および15N、13Cおよび/またはD標識配位子を使用することで軽減される。
【0114】
本発明は、前述のような少なくとも2つの異なる分子量の遷移金属錯体のセットに関する。そのようなセットは、細胞および組織中における広範囲のたんぱく発現プロフィールの定性分析、特に定量分析に使用することが可能である。
【0115】
さらに別の側面において、本発明は前述のような少なくとも1つの異なる安定同位体を含有する遷移金属錯体に関する。
【0116】
さらに、本発明は、少なくとも1つの異なる安定同位体を含有する標識遷移金属錯体で標識された化学的または生物学的物質に関する。その物質はアミノ酸、ペプチドまたはたんぱくであるのが好ましい。
【0117】
本発明に従う遷移金属錯体は、(絶対的)定量に非常に適している。これは、内部物質標準を用いて単一のサンプル中の物質の絶対量を決定する方法である。そのような方法の焦点は、注目する重要な物質、またはその修飾状態に合わせられる。この方法は、物質が標識されることを必要としないが、質量分析に先立ち特定の内部標準が作製されることを必要とする。適当な内部標準は、調査下の物質と同じではなく類似した特徴を有する物質である。
【0118】
本発明のさらなる側面は、少なくとも2つの異なる分子量の遷移金属錯体のセットを含む部品のキットに関する。好ましくは、分子量の差異は遷移金属錯体中の異なる安定同位体の存在に起因する。部品のキットはさらに、反応取扱説明書、1つ以上の試験サンプル、1つ以上の他の試薬、1つ以上の試験管または試験紙など、および、バッファ、マーカ調製品およびイオン強度を調整する調製品から形成される群から選ばれる1つ以上の調合物を含む。そのようなキットは本発明に従う方法を採用するのに非常に適している。
【0119】
本発明は、たんぱく混合物中のたんぱくまたはたんぱく機能の迅速な定量分析のための分析用試薬、およびこれらの試薬を用いる質量分析に基づく方法を提供する。分析法は、細胞および組織中における広範囲のたんぱく発現プロフィールの定性分析、特に定量分析、つまりプロテオームの定量分析のために使用することが可能である。この方法はまた、細胞、組織または生体液中の発現レベルが、サンプルが由来した細胞、組織または有機体の刺激(たとえば薬剤投与または潜在的に毒性の物質との接触)によって、環境変化(たとえば栄養水準、温度、時間の経過)によって、または条件もしくは細胞状態の変化(たとえば病状、悪性腫瘍、部位特定的突然変異、遺伝子ノックアウト)によって影響されるたんぱくをスクリーニングし、同定するために採用することが可能である。そのような選別において同定されたたんぱくは、変化した状況のためのマーカとして機能し得る。たとえば、正常および悪性細胞のたんぱく発現プロフィールの比較は、存在または不在が悪性腫瘍の特性および診断であるたんぱくの同定をもたらし得る。
さらに、本発明は以下の限定しない実施例によって説明される。
【0120】
実施例
I.三座配位子の作製および遷移金属錯体形成
以下の型の配位子、それらのK2PtCl4との錯体形成、ならびにそれに続く、NHSエステルとの反応およびマーカの組み込みのための錯体のBOC-脱保護が記載される。
【0121】
【化2】
【0122】
2の合成(図5:スキーム1)(ボールド体タイプの数字は、参照される図およびスキームに示される化合物を指す。たとえば本実施例では、図5:スキーム1の化合物が参照される)
【0123】
1,N-Boc-へキサン-1,6-ジアミン(140.5mg、649.5μmol)をH2O/EtOH 1/1(20ml)の混合物に溶解した。アクリロニトリル(425.5μl、6.495mmol)をその溶液に添加した。混合物を一夜60℃で還流し、乾固して、純粋な油性の薄茶色の物質が生じた。残さがCH2Cl2に溶解され、MgSO4上で乾燥された。ろ過および減圧下での溶媒の除去によって2が得られた。(収量:166.8mg、95%)。1H NMR (CDCl3):δ 1.35(4H、m、NH(CH2)2(CH2)2);1.43(13H、m、NH(CH2)(CH2)CH2)2(CH2)+tBu);2.60(6H、m、NH(CH2)(CH2)5+(CH2)(CH2)CN);2.94(4H、m、CH2CN);3.1(2H、m、(CH2)NHBoc);4.55(1H、ブロードピーク、NHBoc)。
【0124】
3の合成(図5:スキーム1)
2(153.0mg、474.5μmol)をCH2Cl2(20ml)に溶解した。溶液を0℃で30分間攪拌した後、Et2O中のLiAlH4溶液(1M、2.9ml、2900μmol)を滴加した。混合物を0℃で90分間攪拌し、室温になるまで静置した。過剰のLiAlH4を水4mlを滴加して注意深く分解した。Li塩をろ過によって除去し、水(10ml)およびCH2Cl2(10ml)で洗浄した。水層が分離し、CH2Cl2(3×10ml)で抽出した。有機抽出物を混合し、MgSO4上で乾燥し、減圧下で乾固して、無色の油として3を得た(収量:99.3mg、63%)。1H NMR (CDCl3):δ 1.23(4H、m、NH(CH2)2(CH2)2);1.38(13H、m、NH(CH2)(CH2)CH2)2(CH2)+tBu);1.52(4H、m、(CH2)(CH2)NH2);2.32(2H、m、N(CH2)(CH2)5);2.44(4H、m、N(CH2)(CH2)2NH2);2.74(4H、m、CH2NH2);3.02(2H、m、(CH2)NHBoc);3.30(4H、ブロードピーク、NH2);4.72(1H、ブロードピーク、NHBoc)。
【0125】
6の合成(図7:スキーム3)
CH2Cl2 70ml中の塩化クロルアセチル溶液165μl(233.97mg、2.072mmol)を、秒毎5滴の速度で、室温で、N-アセチルエチレンジアミン198.50μl(211.60mg、2.071mmol)、CH2Cl2 140mlおよび1M NaOH水溶液2071.6μl(80.77mg、2.072mmol)の混合物に添加した。添加の完了後、その混合物を一夜室温で攪拌した。溶媒を減圧下で除去した。固体をMeOHで洗浄し、NaCl塩を遠心分離によって分離した。澄明なMeOH抽出物を減圧下で乾燥し、MeOHによる洗浄および遠心分離工程を、NaClが分離されなくなるまで繰返した。MeOH抽出物を減圧下で乾固し、6を得た。
【0126】
7の合成(図7:スキーム3)
MeCN中の6の溶液(17mlあたり1mmol)を、秒毎5滴の速度で、75℃で(6の溶液を添加するフラスコの上端に還流冷却器が導入されている)、(6のモル数に対して)K2CO3の3M当量、(6のモル数に対して)KIの1M当量、および(6のモル数に対して)1、つまりMeCN中のN-Boc-へキサン-1,6-ジアミン(34mlで1は1mmol)の1M当量を含む混合物に添加した。添加の完了後、混合物を一夜還流した。その後、溶媒を減圧下で除去した。固体をCH2Cl2で洗浄し、K+塩をろ過した。CH2Cl2抽出物を減圧下で乾固し、7を得た。
【0127】
8の合成(図7:スキーム3)
3の作製に関して記載した手順を、3の代わりに7を用いて繰返し、7を得た。
【0128】
K2PtCl4とのBoc三座配位子(スキーム2の3(図6)およびスキーム4の8(図8))の錯体形成に関する一般的なプロトコール
K2PtCl4およびLの1M当量をDMFに添加した(mlあたりのK2PtCl4は4.69×10−6mol)。ここでLは使用した三座配位子である。その後、混合物を40℃で一夜熱し、その間に、赤色K2PtCl4塩が溶解した。溶液を乾固し、K+塩を水で洗浄した。不溶性固体をろ過し、Et2Oで洗浄し、減圧下で乾燥した。
4:195Pt NMR (MeOD):δPt-2520ppm。MS (EI+): m/z 561 [M−Cl]+
【0129】
Boc-脱保護および続くマーカのPt錯体への組み込みに関する一般的なプロトコール
[Pt(L)Cl] Cl 126μlを200mM HCl(3ml)に溶解した。その後、その溶液を50℃で一夜攪拌した。1M NaOHの添加によってpHを8に調整した。その後、5×スクシンイミド結合緩衝液(2ml)を溶液に添加した。DMF(5ml)中のNHS-スクシンイミドエステル(63μmol)を続いて滴加した。その溶液を遮光下で室温にて一夜攪拌した。その後、1mg/mlの濃度で溶解した種を、セファデックス カラム(G15)に通して精製し、減圧下で溶媒を除去して得た。
Boc脱保護後の4:195Pt NMR (MeOD):δPt-2512ppm。MS (EI+):m/z 461 [M−Cl]+
【0130】
II.K2PtCl4のジエチレントリアミンとの錯体形成
ジエチレントリアミンは市販のものが利用可能である(Aldrich、カタログ#D9,385-6)。K2PtCl4(1g)をミリQ(25ml)に溶解した。溶解しなかった小さな黄色の結晶および灰色の物質をろ過した。ジエチレントリアミン(0.5ml)をその澄明な赤色溶液に添加した。HCl水溶液(6M)を用いてpHを3に調整した。溶液を6.5時間還流した。反応の2時間後、NaOH水溶液(1および5M)を用いてpHを4に調整した。反応混合物を一夜室温にて冷却した。その後、HCl水溶液(6M)を用いてpHを1まで酸性にした。その後、反応混合物を72時間フリーザ(−20℃)内に置いた。生じた白色結晶をろ過した。ろ液のpHを6に調整し、溶媒をいくらか蒸発させて、その溶液を氷浴中で冷却した。これで2次結晶が得られ、ろ取した。
195Pt NMR (D2O):δPt-2722ppm
【0131】
III.APET錯体の作製
−4’−アミノペンチルエーテル−2,2’:6’,2”テルピリジン(2)の作製
【0132】
【化3】
【0133】
80℃の乾燥DMSO(20ml)中の粉末KOH 986mgの攪拌懸濁液(17.6mmol、4.7eq)に、5-アミノペンタノール 385.8mg(3.74mmol、1eq)を添加した。アルコールの添加後、溶液がオレンジ色から茶色に変化した。30分後、4’-クロロ-2,2’:6’,2買eルピリジン 1g(3.74mmol、1eq)を添加した。2については80℃での4時間の攪拌後、3については80℃での18時間30分の攪拌後、溶液を冷却ミリQ 200mlに注いだ。水層をCH2Cl2(3×20ml)で抽出した。混合有機相をNa2SO4上で乾燥し、ロータリーエバポレータによって蒸発させた。産物収量は黄色粒子 908.4mgであった(73%)。
【0134】
1H NMR (CDCl3)
δ 1.3 [ブロードピーク、2H、CH2]、1.9 [ブロードピーク、2H、CH2]、2.2 [ブロードピーク、2H、CH2]、2.5 [ブロードピーク、2H、CH2]、2.6 [ブロードピーク、2H、NH2]、3.6 [t、2H、CH2]、6.8 [dd、 2H、H4,4・/SUB>]、7.3 [t、2H、H5,5・/SUB>]、7.42 [s、2H、H3’,5’]、7.9 [dd、2H、H3,3・/SUB>]、8.1 [d、2H、H6,6・/SUB>]。
【0135】
13C NMR (CDCl3)
δ 23.5 [CH2]、29.09 [CH2]、33.4 [CH2]、42 [CH2-NH2]、68.4 [CH2-O]、107.5 [CH、C3’,5’]、121.5 [CH、C5, 5・/SUB>]、124.3 [CH、C3,3・/SUB>]、137.2 [CH、C4,4・/SUB>]、149.3 [CH、C6,6・/SUB>]、156.03 [C、C2,2・/SUB>]、157.1 [C、C2’,6’]、167.3 [C、C4’]。
【0136】
UV/可視吸収(CHCl3)
λmax245nm(ε16 500M−1.cm−1)
279nm(ε16 500M−1.cm−1)
−4’-ポリエチレングリコールエーテル-2,2’:6’,2・テルピリジン(3)の作製
【0137】
【化4】
【0138】
80℃の乾燥DMSO(20ml)中の粉末KOH 98.6mgの攪拌懸濁液(1.76mmol、4.7eq)に、PEG 300 112.2mg(0.374mmol、1eq)を添加した。30分後、4’-クロロ-2,2’:6’,2・テルピリジン 100mgを添加した(0.374mmol、1eq)。80℃での20時間の攪拌後、溶液を冷却ミリQ 200mlに注いだ。水層をCH2Cl2(3×20ml)で抽出した。混合有機相をNa2SO4上で乾燥し、ロータリーエバポレータによって蒸発させた。黄色い油が35%の収量で得られた(68.3mg)。
【0139】
1H NMR (CDCl3)
δ 3 [ブロードピーク、1H、OH]、3.67 [2H、CH2]、3.60 [m、6H、CH2]、3.86 [t、2H、CH2]、4.33 [t、2H、CH2]、7.24 [t、2H、H5,5”]、7.74 [dd、2H、H4,4”]、7.95 [s、2H、 H3’,5’]、8.5 [dd、2H、H3,3”]、8.6 [d、2H、H6,6”]。
【0140】
13C NMR (CDCl3)
δ 62.2 [CH2-O]、68.5 [CH2-O]、71.3 [CH2-O]、71.6 [CH2-O]、73.5 [CH2-O]、108.2 [CH、C3’,5’]、122.06 [CH、C5,5”]、124.60 [CH、C3,3”]、137.54 [CH、C4,4”]、149.73 [CH、C6,6”]、156.7 [C、C2,2”]、157.7 [C、C2’,6’]、167.7 [C、C4’]。
−蛍光色素(またはハプテン)のAPET(6a〜d)との結合
【0141】
【化5】
【0142】
磁気攪拌装置が備えられたミクロリアクタにおいて、APETを染料のDMF 1eq 300μlに溶解し、TEA 3eqを添加し、溶液を暗所にて室温で20時間攪拌した。溶媒を除去した。産物純度をRP HPLCによってチェックし、産物をLuna 10 C18 (2)上でのアセトニトリル/TEAAバッファによる分取用RP HPLCによって精製された。
収量:
【0143】
【表1】
【0144】
1H NMR (CDCl3)
>DEAC(6a):
δ 1.24 [t、6H、CH3]、1.66 [クインテット、2H、CH2]、1.73 [クインテット、2H、CH2]、1.87 [クインテット、2H、CH2]、3.47 [m、6H、CH2]、4.27 [t、2H、CH2-O]、6.48 [d、1H、J=6.48Hz、CH]、6.63 [dd、IH、JP=2.41およびJo=8.95Hz、CH]、7.33 [m、2H、H5,5”]、7.43 [d、1H、Jo=8.95Hz、CH]、7.84 [td、2H、J=1.77およびJ=7.71Hz、H4,4”]、7.97 [s、2H、H3’,5’]、8.58 [dd、2H、H3,3”]、8.69 [dd、2H、H6,6”]、8.71 [s、1H、CH]、8.86 [t、1H、アミド]。
【0145】
>DEAC(6a):
δ 1.24 [t、6H、CH3]、1.66 [クインテット、2H、CH2]、1.73 [クインテット、2H、CH2]、1.87 [クインテット、2H、CH2]、3.47 [m、6H、CH2]、4.27 [t、2H、CH2-O]、6.48 [d、1H、J=6.48Hz、CH]、6.63 [dd、IH、JP=2.41およびJo=8.95Hz、CH]、7.33 [m、2H、H5,5”]、7.43 [d、1H、Jo=8.95Hz、CH]、7.84 [td、2H、J=1.77およびJ=7.71Hz、H4,4”]、7.97 [s、2H、H3’,5’]、8.58 [dd、2H、H3,3”]、8.69 [dd、2H、H6,6”]、8.71 [s、1H、CH]、8.86 [t、1H、アミド]。
【0146】
>6 TAMRA (6b):
δ 1.29 [s、6H、CH3]、1.32 [s、6H、CH3]、1.57 [クインテット、2H、CH2]、1.66 [クインテット、2H、CH2]、1.87 [クインテット、2H、CH2]、4.22 [t、2H、CH2-O]、3.42 [m、2H、CH2-NH]、6.38 [m、1H、CH]、6.40 [m、1H、CH]、6.47 [s、1H、CH]、6.48 [s、1H、CH]、6.58 [m、1H、CH]、6.61 [m、1H、CH]、7.31 [t、2H、J=6.78Hz、H5,5”]、7.49 [s、1H、CH]、7.85 [t、2H、J=7.71Hz、H4,4”]、7.99 [s、2H、H3’,5’]、8.04 [d、1H、CH]、8.07 [d、1H、CH]、8.61 [d、2H、J=7.95Hz、H3,3”]、8.67 [d、2H、J=4.50Hz、H6,6”]。
【0147】
>LCビオチン(6c):
δ 1.54 [m、4H、CH2]、1.62 [m、12H、CH2]、1.92 [クインテット、2H、CH2]、2.20 [t、4H、CH2]、3.18 [t、4H、CH2-NH]、3.34 [m、3H、CH-NHおよびCH2-NH]、3.38 [m、2H、CH2-S]、4.32 [m、4H、NH]、4.53 [m、2H、CH-S]、7.55 [t、2H、J=1.55および5.08、H5,5”]、7.75 [s、2H、H3’,5’]、8.05 [td、2H、J=1.60および7.78Hz、H4,4”]、8.57 [d、2H、J=7.96Hz、H3,3”]、8.69 [d、2H、J=4.26Hz、H6,6”]。
DNP(6d):
δ 1.20 [m、4H、CH2]、1.50 [m、2H、CH2]、1.60 [m、2H、CH2]、1.76 [m、2H、CH2]、1.89 [m、2H、CH2]、2.22 [m、4H、CH2]、3.33 [m、2H、CH2-O]、3.37 [m、2H、 CH2-NH]、4.27 [ブロードピーク、1H、NH]、5.57 [m、1H、NH]、7.37 [t、2H、J=4.68Hz、H5,5”]、7.88 [t、2H、J=7.02Hz、H4,4”]、7.98 [s、2H、H3’,5’]、8.18 [dd、1H、Jm=2.61およびJo=9.48Hz、CH]、8.47 [m、1H、CH]、8.60 [d、2H、J=7.83Hz、H3,3”]、8.67 [d、2H、H6,6”]、9.06 [d、1H、Jm=2.64Hz、CH]。
13C NMR (CDCl3)
【0148】
>DEAC(6a):
δ 13.20 [CH3、CH3-CH2]、24.29 [CH2、CH2-CH2-CH2]、26.16 [CH2、CH2-CH2-CH2]、29.54 [CH2、CH2-CH2-CH2]、30.11 [CH2、CH2-NH]、40.33 [CH2、CH2-CH3]、45.83 [CH2、CH2-CH3]、68.84 [CH2、O-CH2]、108.33 [CH、C3’,5’]、110.68 [CH]、122.20 [CH、C5,5”]、124.52 [CH、C3,3”]、131.91 [CH]、137.50 [CH、C4,4”]、148.88 [CH]、149.76 [CH、C6,6”]、157.00 [C、C2,2”]、157.76 [C、C2’,6’]、168.00 [C、C4’]、173.00 [C、C=Oアミド]。
UV/可視吸収 (CHCl3)
【0149】
【表2】
【0150】
発光スペクトル
【0151】
【表3】
【0152】
−K2PtCl4の6c、LCビオチン APETとの錯体形成
K2PtCl4(6.0mg)をN,N’-ジメチルホルムアミド(1ml)に溶解した。その溶液をN,N’-ジメチルホルムアミド(2ml)中のDNP APET(8.3mg)溶液にゆっくり添加した。その溶液が遮光下で40℃にて一夜加熱した。その後、混合物を減圧化で乾固した。
195Pt NMR (D2O):δPt -2701, -2954および -2951ppm。
【0153】
−K2PtCl4の6d、DNP APETとの錯体形成
K2PtCl4(6.0mg)をN,N’-ジメチルホルムアミド(1ml)に溶解した。その溶液をプロパノール(1ml)およびN,N’-ジメチルホルムアミド(2ml)中のDNP APET(9.3mg)溶液にゆっくり添加した。その溶液を遮光下で40℃にて一夜加熱した。その後、混合物を減圧化で乾固した。
195Pt NMR (D2O):δPt -2686および -3442ppm。
【0154】
APET錯体の作製についての付加情報
4’-クロロ2,2’:6’,2’’ルピリジンおよび5-アミノペンタノールをAldrichから購入した。K2PtCl4をSigmaから購入した。EZ Link NHS LCビオチンをPierceから購入した。6 TAMRA-SE、DNP-SE、DEACをMolecular Probesから得た。配位子に関してカラムクロマトグラフィをFlukaのシリカゲル60上で実行した。錯体をIGN Biomedical GmbHのAlumina N上で精製した。全溶媒をMerckから得て、精製せずに使用した。使用した水は、脱塩されたミリQ水であった(R=18.2MΩ/cm)。RP HPLCによる全分析ランに使用した溶離液は:
> A:10% CH3CN/90% 0.1M TEAA pH 5
> B:70% CH3CN/30% 0.1M TEAA pH 5、であった。
【0155】
1M TEAAバッファ pH 5.0: 500mlのメスシリンダ内で、ミリQ水 200ml、酢酸 30mlおよびTEA 70mlを攪拌した。その後、ミリQ水を400mlまで添加した。溶液を室温で冷却し、pHを酢酸で5に調整した。容積をミリQで500mlに調整した。溶液を2〜6℃で保存した。
【0156】
アセトニトリルバッファ 10%/0.1M 酢酸トリエチルアンモニウム pH 5.0 90%: 1000mlのメスシリンダ内で、アセトニトリル 100ml、1M TEAA 90ml pH 5.0およびミリQ 810mlを室温で攪拌した。溶液を膜フィルタ 1.0μmでろ過した。その後、溶液を10〜20分間真空ポンプで脱気した。バッファを2〜6℃で保存した。
【0157】
アセトニトリルバッファ 70%/0.1M 酢酸トリエチルアンモニウム pH 5.0 30%: 1000mlのメスシリンダ内で、アセトニトリル 700ml、1M TEAA 30ml pH 5.0およびミリQ水 270mlを室温で攪拌した。溶液を膜フィルタ 1.0μmでろ過した。その後、溶液を10〜20分間真空ポンプで脱気した。バッファを2〜6℃で保存した。
【0158】
カラム:RP HPLC分析をPhenomex Luna 5a C18(2)カラムを備えるAmersham Pharmacia Biotech Akta explorerを用いて実行した。カラムおよび分析の特性は以下のとおりである:高さ 25cm、直径 0.46cm、カラム容積 4.155ml、圧力 14MPa、流速 1ml/min。
【0159】
波長:分析は一般に3つの波長で実行したが(254,280および215nm)、波長は、遊離した蛍光色素(またはハプテン)をより容易に検出するために、蛍光色素に適合させた。
【0160】
NMR:作製した化合物を1H NMRおよび13C NMR分光法によって特徴付けた。1H NMRは300MHzで、13C NMRは75MHzで、双方ともBruker DPX 300 スペクトロメータにて記録した。1H NMRスペクトルは内部テトラメチルシラン(TMS)を基準とした。13C NMRスペクトルは溶媒共鳴を基準とした。全サンプルを室温で測定した。
【0161】
UV/可視:UVスペクトルをAmersham Pharmacia Biotech Ultrospec 4000 スペクトロメータにて記録した。スペクトルを、配位子および錯体に関して、200〜700nmの間で石英キュベット内で測定した。
【0162】
発光スペクトル:発光スペクトルをPerkin Elmer LS 45Luminescence Spectrometerにて記録した。励起波長をモノクロメータで選択した。各励起波長を染料の最大吸収に選択した。スペクトルを室温で記録した。
【0163】
IV.核酸およびたんぱくの標識におけるAPET−Pt/Pd/Ru/Co試薬の使用
白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)およびコバルト(Co)を含む様々な金属をAPETスペーサに導入した。初めに、蛍光色素またはハプテンをAPETに付着させ、その後様々な金属を標識APET分子に導入した。化学分析をH-NMRによって行った。RP-HPLC精製試薬の純度は80〜99%間で変化させた。
【0164】
ビオチン-APET-錯体:
ビオチン-APETスペーサをCd2+、Co2+、Cu2+、Fe3+、Mn2+、Ni2+、Pd2+、Pt2+、Ru2+およびZn2+と錯体形成させた。DMFまたはDMSOに可溶であるPt、PdおよびRu錯体を除いて、全錯体が水溶性であった。これら試薬の純度は82〜99%で、80%を超える収量であった。Bio-APET-Pd錯体はあまり安定ではなかった(考えられる解釈:Pdの、別のBio-APET-Pd分子のビオチンのチオエーテルとの結合を介した鎖の形成があり、これはHPLCクロマトグラムにおいて見られた)。標識錯体を、異なる比、温度、インキュベーション時間およびpHにてたんぱくおよびDNAとインキュベートした。Pt、PdおよびRu含有Bio-APET-錯体はたんぱくおよびDNAの双方を標識し、Bio-APET-CoはDNAを標識しないがたんぱくを標識し(pH8.0にて)、他の金属はあまり反応しないか、安定した結合を形成しないことがわかった。
【0165】
図1は、Bio-APET-Ruが、基準となる二座配位子の白金標識錯体(Bio-BOC-Pt)よりもDNAとよく反応することを示す。DNAは、より速く、かなり低温で標識される。また、Bio-APET-Ruが基準となるFlu-BOC-Ptと1:1で混合されるとき、シグナルの大部分がビオチン検出によって発見される。Flu-BOC-PtがBio-BOC-Ptと混合される場合、シグナルの大部分がフルオレセイン検出によって発見される。Bio-APET-PtはBio-BOC-Ptと同様の反応をした(データ示さず)。興味深いことに、メチオニンビーズはPdおよびPt含有APET錯体によって標識されたが、Bio-APET-Ru錯体はメチオニンビーズに、反応をさほど、どちらかといえば全く示さなかった。Bio-APET-Ruは全RNAの標識を含むマイクロアレイ実験において首尾よく使用された。一般に、Bio-APET-Ruはより安定で、基準となるビオチン- BOC-Ptを凌ぐ。Bio-APET-RuはたんぱくおよびDNAの双方とよりよく反応する(たとえば、より低温で充分に標識する)。Ruが硫黄ではなく窒素とのみよく反応すると考えられることを考慮すれば、ビオチン-APET-Ruは基準となるビオチン-BOC-Pt錯体よりも安定した試薬であるかもしれない(たとえば、より低温で充分に標識しない)。
【0166】
DNP-APET-錯体:
Pt、PdおよびRu含有DNP-APET錯体はDNAおよびたんぱくに対してよく反応する(表1参照)。図2に示すように、40℃を超える温度でのDNAに対する反応は、基準となる二座配位子のDNP-BOC-Ptと同程度である。DNP-APET-Pdは、60℃を超える温度では標識がほとんど観察されないので、あまり安定してDNAに結合しなかった。
【0167】
全ヒト血清のターゲット標識を、基準となるDNP-BOC-PtおよびDNP-APET-Ru、Pt、Pd錯体を用いて実行した。IgA-、IgG-およびIgM キャプチャ ELISA分析を展開した。DNP-APET-Ptおよび-Pdで使用した標識比にて、ほとんどのたんぱくがすぐに沈澱した。Pt錯体はより速くたんぱくを沈殿させたが、Pd錯体よりもかなり標識されにくいことをデータは示している。真にポジティブの結果はDNP-APET-Ptでは見られなかった。IgG検出に関して、BOC-Pt=APET-Pd>APET-Ruであり、IgA検出に関して、BOC-Pt=APET-Pd=APET-Ruであった。使用した最も低い比率では、20%のIgGおよび50%のIgAのみが溶解し(1時間37℃での標識)、一方で、対照の二座配位子の標識錯体およびDNP-APET-Ruで得られた最良の結果は85%を超えるIgGおよび75%を超えるIgAを含む画分に由来したので(20時間37℃での標識)、DNP-APET-Pdは比率を低下させることで最適化することが可能である。
【0168】
Cy3/5-APET-錯体:
DNA標識は、Cy3-APET-Pt、Cy5-APET-PdおよびCy5-APET-Ruによって行った。全ヒト血清のターゲット標識を、基準となるCy5-BOC-Pt、Cy5-APET-RuおよびCy5-APET-Pdを用いて実行した。IgA キャプチャ ELISA分析を展開した。Cy5はハプテンとして機能した(HRP共役MoAb抗-Cy5によって検出された)。図3は、すべての場合において、Cy5標識IgAが検出されることを示す。最良の結果は対照のCy5-BOC-Pt錯体で得られた。
V.ペプチドマーカ-三座配位子-Pt錯体の合成
ペプチドは16個のアミノ酸長であって、細胞の原形質膜を超えて生体分子を移送するシャトル分子として機能する。このペプチドは固体支持として一端および他端に末端NH2基を有する。アミンを、溶液mlあたりアミン 0.02mgの濃度となるように、ミリQおよびエタノールの50:50混合物中に溶解した。アクリロニトリルの1000倍モル当量を溶液に添加した。溶液を一夜還流した(65℃の加熱)(水冷却機に連結された丸底フラスコの上端に還流冷却器が取り付けられている)。混合物をロータリー蒸発下で乾燥し、固化物を乾燥エタノール(3〜5ml)で洗浄し、再び乾固するまで蒸発させた。ニトリル化合物を、1:1のモル比で乾燥エタノール(ニトリル 20mmolについて20ml)中で塩化ニッケル(II)と混合した。新しく調製した水素化ホウ素ナトリウム溶液(ニトリル 1mmolあたり1mmol)を、かなり慎重に(少しずつ)添加した(2mmol)。溶液を室温で2時間攪拌した。次に、溶液をミリQでろ過し、金属ニッケルを磁石を用いて除去した。ろ液をDMF 2mlに溶解した。テトラクロロ白金(II)酸カリウム 5当量(100μmol)を添加し(粉末)、混合物を40℃に一夜保った。次に、混合物をろ過し、DMF(ジメチルホルムアミド)、ミリQおよびDCM(ジクロロメタン)で洗浄した。溶液をロータリー蒸発下で乾固した。固体支持は、ペプチドを固体支持に結合させるのに用いた化学反応型に応じて、基準的な化学反応によって除去することが可能である。この場合は、TFA化学反応を使用した。最終的に、遷移金属―三座配位子―(ペプチド)マーカから成る、単機能的なPt錯体が合成された。
【0169】
VI.マスタギング
ジエチレントリアミン Pt錯体(Pt[ジエン Cl−] Cl−; 5μM溶液を使用した)は、本化合物がMS中で安定し、PtおよびNの模擬同位体分布の同位体パターン特性を有することを明らかにした。光標識化合物に関して得られた最も多く存在する分子イオン(図4)は、m/z=334に分子イオン[M1+]を有する。本化合物の合成からの夾雑ピークは観察されなかった。他の唯一の可視ピークは、標識反応中に観察されたm/z=315のOH-基と置換されたCl−の損失であった。
【0170】
YGGFMKペプチドの3M 過剰Pt[ジエンCl] Clでの標識を、45および85℃で実行した。3M 過剰標識化合物との、5mM 酢酸アンモニウム pH6〜7中での1時間のインキュベーション後、メチオニン含有ペプチドであるペプチドは、両温度で完全に標識された。85℃での標識は45℃での標識よりも多くの副反応物をもたらさなかったものの、副反応物の強度は45℃よりも85℃で大きかった。しかし、これはナノスプレーキャピラリの位置に起因し得る。この単機能的な三座配位子標識化合物はペプチドの標識をもたらした。
【0171】
MS測定を、陽イオンモードで作動し、Z-スプレー ナノ電気スプレー源を備えた三連四重極機器(Micromass、マンチェスター、英国)にて実行した。ナノ電気スプレーニードルをP-97 プラー(Sutter Instruments、ナヴァト、カリフォルニア)上でホウケイ酸ガラスキャピラリー(Kwik- Fil、 World Precision Instruments、サラソータ、フロリダ)から作製した。このニードルを、Edwards Scancoat (Edwards Laboratories、ミルピタス、カリフォルニア)six Pirani 501 (200秒間で40mV、1kV)を用いて、薄い金層で被膜した(およそ500Å)。ナノスプレーニードルとマススペクトロメータオリフィスとの間のポテンシャルは通常1,200Vに設定した。コーン電圧は30Vであった。ナノスプレーニードルは常におよそ30℃に保った。MS/MS測定に関して、衝突エネルギは、充分な配列情報を得るために必要とされる適切な電圧に設定した(<20V)。衝突ガスとしてアルゴンを使用した。四重極質量分解能パラメータを、前駆イオンの全同位体エンベロープを選択するために、比較的大きなマスウィンドウに設定した。
【0172】
VII.N3トランス-C3三座配位子の合成(スキーム5)
1の作製−アクリロニトリルのマイケル付加:
N-Boc-ヘキサン-1,6-ジアミン(140.5mg、649.5μmol)をH2O/EtOH 1/1の混合物(20ml)中に溶解した。アクリロニトリル(425.5μl、6.495mmol)をその溶液に添加した。混合物を一夜60℃で還流し、乾固して、純粋な油性の薄茶色の物質を得た。残さをCH2Cl2に溶解し、MgSO4上で乾燥した。続くろ過および減圧下での溶媒の除去によって、1を得た。(収量:166.8 mg、95%)
1H NMR (CDCl3):δ 1.35 (4H、m、NH(CH2)2(CH2)2);1.43 (13H、m、NH(CH2)(CH2)CH2)2(CH2)+tBu);2.60 (6H、m、NH(CH2)(CH2)5+(CH2)(CH2)CN);2.94 (4H、m、CH2CN);3.1 (2H、m、(CH2)NHBoc);4.55 (1H、ブロードピーク、NHBoc)。
【0173】
2の作製−水素化リチウムアルミニウムでの還元:
1(151.0mg、5.129×10−4mol)をジクロロメタン(20ml)中に溶解した。その溶液を20分間氷浴(0℃)中で攪拌した。その後、水素化リチウムアルミニウム(ジエチルエーテル中の1M 溶液 5ml、5mmol)を添加した。白色固体が沈殿するのが直ちに観察された。その混合物を30分間0℃(氷浴)で攪拌し、その間に温度は室温と平衡になった。その後、ミリQ 7.5mlを慎重に添加して、過剰の水素化リチウムアルミニウムを中和した。ミリQの添加はより重要な量の白色固体の沈殿をもたらした。その後、混合物をろ過した。有機抽出物を水性抽出物から分離し、減圧下で乾燥して、無色の油を得た。(収量:23.5 mg、15.1%)。
【0174】
1の1H NMR(CDCl3):δH 1.22 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来CH2)、1.41 (m、13H、tBuプロトンおよびヘキサンジアミンスペーサ由来残留CH2)、1.82 (ブロードシングレット、4H、NH2)、2.29 (m、8H、(CH2)2NH2)、2.68 (m、2H、NCH2(CH2)5NHBoc)、3.06 (m、2H、CH2NHBoc)、4.61 (m、2H、NHBoc)ppm。MS (ESI+) m/z: 303 [M+H]+。
【0175】
3の作製−テトラクロロ白金酸カリウムとの錯体形成:
2(829.2 mg、2.509mmol)をN,N’-ジメチルホルムアミド(535.4ml)中に溶解した。その後、固体の状態でテトラクロロ白金酸カリウム(1041.4mg、2.509mmol)を添加した。その混合物を40℃で一夜加熱した。加熱によって赤色白金塩が溶解するのが観察された。その後、混合物をろ過して、白色塩化カリウム固体を分離した。ろ液を減圧下での加熱によって乾固した。その後、ミリQ(約30ml)を添加して、残留塩化カリウム塩を除去した。水性抽出物をろ過した。茶色固体をジエチルエーテル(10ml)で洗浄し、減圧下で乾燥した。(収量:853.00mg、57.0%)。
【0176】
4aの作製および5のin-situ作製−Boc-保護基の除去およびEZ-link-LC-ビオチン スクシンイミジルエステルとの反応:
3(7.3mg、1.2×10−5mol)を200mM 塩酸(4ml)と混合した。その混合物を50℃で一夜加熱した。加熱中に茶色固体が溶解するのが観察された。ミリQ中の水酸化ナトリウム溶液(1M)および塩酸(200mM)を用いて、pHを約8.0に調整した。
【0177】
不溶性の茶色の物質はすべて、パスツールピペットを用いたN,N’-ジメチルホルムアミドの最小量の滴加によって溶解することが可能である。代わりに、N,N’-ジメチルホルムアミド中にスクシンイミジルエステルを添加して、茶色の残さを可溶化することもできる。その後、ミリQ(476μl)、ミリQ中の水酸化ナトリウム(1M 溶液、25μl)を添加した。
【0178】
N,N’-ジメチルホルムアミド(95.2μl)中のEZ-link-LC-ビオチン スクシンイミジルエステル(4.76 mg、1.0×10−5mol)を滴加した。ミリQ(381μl)、トリエチルアミン(3μl)、ミリQ(162μl)、N,N’-ジメチルホルムアミド(パスツールピペットによる4滴の滴加)、メタノール(パスツールピペットによる5滴の滴加)およびジクロロメタン(4滴)を添加した。pHが8.0前後であると確認した。トリエチルアミンをこのpH調整にために添加してもよい。その混合物を5分間遮光下にて室温で攪拌した後、pHが8.0前後であることが確認した。
【0179】
ここでも、トリエチルアミンをpH調整のために使用してもよい。その後、混合物を遮光下にて室温で一夜攪拌した。その後、不溶性物質をろ過した。ろ液を乾固させた。
【0180】
脱塩は、スクシンイミジルエステルとの反応後に、溶媒を除去することで達成することが可能である。その後、残さを最小量のミリQに溶解し、その溶液をSephadex G15カラムを通して処理する。
195Pt NMR (DMF-d7):δPt -3129および -2519ppm。MS (ESI+) m/z: 800 [M]+。
【0181】
たんぱく標識におけるN3 トランス-Bio ULS (4a)の使用
たんぱく 50μgを含むHELA細胞溶解物を、標識バッファ 50μl中の化合物4aで、3時間37℃にて標識した。4aの量はそれぞれ0.5,1,2,4または16μgであった。標識反応を還元サンプルバッファの添加によって停止した。BIO-APを検出抗体として使用した(1:1000)。ウェスタンブロットの結果を図10に示す。
【0182】
4bの作製および5のin-situ作製−Boc-保護基の除去および6-FAM フルオレセイン スクシンイミジルエステルとの反応
3(2.15mg、3.6×10−5mol)を200mM 塩酸(366.46μl)と混合した。その後、メタノール(パスツールピペットから3滴の滴下)およびN,N’-ジメチルホルムアミドを、総容積が約1mlになるよう添加した。
【0183】
その混合物を50℃で一夜加熱した。加熱中に茶色の個体が溶解するのが観察された。その後、ミリQ中の水酸化ナトリウム溶液(1M)および塩酸(200mM)を用いて、溶液の半分のpHを約8.0に調整した。その後、スクシンイミド結合バッファ(5×、65.70μl)を添加した。不溶性の茶色の物質はすべて、パスツールピペットを用いたN,N’-ジメチルホルムアミドの最小量の滴加によって溶解することが可能である。代わりに、N,N’-ジメチルホルムアミド中にスクシンイミジルエステルを添加して、茶色の残さを可溶化することもできる。
【0184】
N,N’-ジメチルホルムアミド(164.235μl)中のフルオレセイン スクシンイミジルエステル(0.82 mg、2.1×10−6mol)を滴加した。その後、混合物を遮光下にて室温で一夜攪拌した。脱塩は、スクシンイミジルエステルとの反応後に、溶媒を除去することで達成することが可能である。その後、残さを最小量のミリQに溶解し、その溶液をSephadex G15カラムを通して処理する。
【0185】
たんぱく標識におけるN3 トランス-Flu ULS (4b)の使用
4b 1,2,4,6,7.5,10,12.5および25μgを、異なる分子量の6つのたんぱく混合物(ラクトアルブミン、トリプシンインヒビタ、カルボニックアンヒドラーゼ、オボアルブミン、BSA、ホスホリラーゼB) 50μgを標識するのに使用した。この標識(1時間50℃)を、抗FLU-APで検出されるブロット上で12.5μgにて、FLU- ULSの基準となる標識量と比較した(図11)。
【0186】
核酸のN3 トランス-Flu ULS (4b)での標識
DNA [第1染色体のセントロメア周辺(1q12)に位置するヒト反復サテライトIII DNA配列を乗せる1.77kbインサートを有するpUC19プラスミド] を、4b 10μgを100μlの容積中のDNA 3μgに添加することで、4bによって標識した。混合物を85℃1時間でインキュベートし、非結合4bを標準的なエタノール沈殿によって除去した。DNA沈殿物は、UV光で照射されたとき、緑色蛍光発光を示した。精製4b標識DNAをin situハイブリダイゼーション分析においてプローブとして用いた。プローブを、60% ホルムアミド、1×SSCおよび10% 硫酸デキストランを含むハイブリゼーションバッファに溶解し、最終濃度 4ng/μlとした。10μlを、基準となる前処理ヒト中期分裂標本に適用し、ターゲットおよびプローブの双方が変性し得るように、80℃で5分間インキュベートした。次に、スライドを37℃で一夜インキュベートし、非結合または不完全な結合のプローブを、65℃の1×SSC/0.1% SDS中で洗浄して除去した。再水和後、標本をDAPIを含む抗退色試薬中に埋め込んだ。フルオレセイン画像を、デジタルカメラを備えたLeica蛍光顕微鏡を用いて記録した。
【0187】
図1は、4b標識プローブが蛍光in situハイブリダイゼーションによってヒト第12染色体の1q12-領域を視覚化するのに用いられ得ることを示す。4bのプローブDNA標識効率は、厳しい条件下でさえ直接の蛍光発光による視覚化を可能にする。
【0188】
4cの作製および5のin-situ作製−Boc-保護基の除去およびDNPスクシンイミジルエステルとの反応:
3(2.15mg、3.6×10−5mol)を200mM 塩酸(163.62μl)と混合した。その後、メタノール(パスツールピペットから3滴の滴下)およびN,N’-ジメチルホルムアミドを、総容積が約1mlになるように添加した。
【0189】
その混合物を50℃で一夜加熱した。加熱中に茶色の個体が溶解するのが観察された。その後、ミリQ中の水酸化ナトリウム溶液(1M)および塩酸(200mM)を用いて、溶液の半分のpHを約8.0に調整した。その後、スクシンイミド結合バッファ(5×、245.43μl)を添加した。
【0190】
不溶性の茶色の物質はすべて、パスツールピペットを用いたN,N’-ジメチルホルムアミドの最小量の滴加によって溶解することが可能である。代わりに、N,N’-ジメチルホルムアミド中にスクシンイミジルエステルを添加して、茶色の残さを可溶化することもできる。N,N’-ジメチルホルムアミド(245.43μl)中のDNP スクシンイミジルエステル(1.6 mg、3.34×10−6mol)を滴加した。その後、混合物を遮光下にて室温で一夜攪拌した。
【0191】
脱塩は、スクシンイミジルエステルとの反応後に、溶媒を除去することで達成することが可能である。その後、残さを最小量のミリQに溶解し、その溶液をSephadex G15カラムを通して処理する。
【0192】
VIII.N3シス-C2三座配位子の合成(スキーム6)
1の作製−塩化クロロアセチルとの反応:
N-Boc-1,6-ジアミノヘキサン(175.6mg、8.12×10−4mol)をジクロロメタン(15.4ml)、ミリQ(3883μl)および1M 水酸化ナトリウム水溶液(811.5μl、8.12×10−4mol)に溶解した。その混合物を20分間0℃(氷浴)で攪拌した。
【0193】
ジクロロメタン(2940.40μl)中の塩化クロロアセチル(64.5μl、8.10×10−4mol)を添加した。その混合物を30分間0℃で攪拌した。
【0194】
その後、有機層を分離し、硫酸マグネシウム上で乾燥し、ろ過し、減圧下で乾燥した。白色個体が得られた。(収量:161.4mg、67.9%)。
1の1H NMR (CDCl3):δH 1.35 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来CH2)、1.44 (s、9H、tBuプロトン)、1.53 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来残留CH2)、3.10 (m、2H、CH2NHBoc)、3.26 (m、2H、CH2C(O)NHCH2)、4.04 (s、2H、CH2C(O))、4.52 (ブロードs、1H、NHBoc)、6.61 (ブロードs、2H、ClCH2NHC(O))ppm。
【0195】
2の作製−エチレンジアミンとの反応:
エチレンジアミン(147.4mg、2.452mmol)をアセトニトリル(25ml)中に溶解した。1(161.4mg、5.51×10−4mol)をアセトニトリル(25ml)中に溶解した。その溶液を75℃でエチレンジアミン溶液に、5秒あたり約1滴の速度で滴加した。添加の完了後、その混合物を75℃で一夜加熱した。
【0196】
その後、固体をろ過した。ろ液を乾固した。不溶性の物質をジクロロメタン(3×3ml)中に抽出した。有機抽出物を水性残さから分離し、減圧下で乾燥し、無色の油を得た。(収量:41.3mg、23.7%)。
2の1H NMR (CDCl3):δH 1.09 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来CH2)、1.35 (s、9H、tBuプロトン)、1.39 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来残留CH2)、2.62 (t、2H、J= 7.14Hz、NH2CH2)、2.91 (t、2H、J=5.41Hz、C(O)NHCH2)、3.01 (m、2H、CH2NHBoc)、3.14 (ブロードs、1H、NH、NHCH2C(O))、3.26 (t、J=5.36Hz、2H、NH2CH2CH2)、3.40 (m、2H、CH2C(O))、4.79 (ブロードs、1H、NHBoc)、7.14 (ブロードs、1H、CH2C(O)NH)ppm。
【0197】
3の作製−水素化アルミニウムリチウムでの還元:
2(41.3mg、1.61×10−4mol)をジクロロメタン(5ml)中に溶解した。その溶液を20分間氷浴(0℃)中で攪拌した。その後、水素化アルミニウムリチウム(ジエチルエーテル中の1M 溶液 1ml、1mmol)を添加した。白色個体が沈殿するのが直ちに観察された。その混合物を30分間0℃(氷浴)で攪拌し、その間に温度は室温と平衡になった。その後、ミリQ 1.5mlを慎重に添加して、過剰の水素化リチウムアルミニウムを中和した。ミリQの添加はより重要な量の白色固体の沈殿をもたらした。その後、混合物をろ過した。有機抽出物を水性抽出物から分離し、減圧下で乾燥し、無色の油を得た。(収量:33.8mg、69.4%)。
【0198】
3の1H NMR (CDCl3):δH 1.29 (m、8H、ヘキサンジアミンスペーサ由来CH2)、1.41 (m、9H、tBuプロトン)、1.80 (ブロードs、4H、アミンNH)、2.62 (m、4H、NH2CH2およびNHCH2(CH2)5)、3.05 (m、6H、NH2CH2CH2NH(CH2)2NH)、3.21 (m、2H、NHBoc)ppm。
【0199】
4の作製−テトラクロロ白金酸カリウムとの錯体形成:
3(33.8mg、1.12×10−4mol)をN,N’-ジメチルホルムアミド(17.1ml)中に溶解した。固体のテトラクロロ白金酸カリウム(46.1mg、1.11×10−4mol)を添加した。その混合物を40℃で週末をまたいで加熱した。加熱中に赤色テトラクロロ白金酸カリウム固体が溶解するのが観察され、N,N’-ジメチルホルムアミド溶液が薄い茶色に変わるのが観察された。その後、溶媒を加圧下で除去し、茶色の固体を得た。固体をミリQ(20ml)で洗浄した。再度、茶色の固体をN,N’-ジメチルホルムアミド(17.1ml)中に溶解し、その溶液を40℃で一夜加熱した。その後、溶媒を減圧下で除去した。最後に、茶色の固体をメタノール 47.2ml中に溶解し、その溶液を60℃で週末をまたいで加熱した。(収量:34.3mg、59.8%)。
195Pt NMR (CD3OD):δPt -2523ppm。
【0200】
5の作製および6のin-situ作製−Boc-保護基の除去およびEZ-link-LC-ビオチン スクシンイミジルエステルとの反応:
4(34.3mg、6.69×10−5mol)を200mM 塩酸(980.88μl)と混合した。その混合物を50℃で一夜加熱した。加熱中に茶色固体が溶解するのが観察された。ミリQ中の水酸化ナトリウム溶液(1M)および塩酸(200mM)を用いてpHを約8.0に調整した。その混合物を1時間室温で静置した。不溶性の茶色の物質はすべて、パスツールピペットを用いたN,N’-ジメチルホルムアミドの最小量の滴加によって溶解することが可能である。
【0201】
N,N’-ジメチルホルムアミド(422μl)中のEZ-link-LC-ビオチン スクシンイミジルエステル(21.1mg、mol)を滴加した。pHが8.0前後であると確認した。トリエチルアミンをこのpH調整のために添加してもよい。その混合物を5分間遮光下にて室温で攪拌した後、pHが8.0前後であることを確認した。ここでも、トリエチルアミンをpH調整のために使用してもよい。その後、混合物を遮光下にて室温で一夜攪拌した。(収量:15mg、27.8%)。
【0202】
脱塩は、スクシンイミジルエステルとの反応後に、溶媒を除去することで達成することが可能である。その後、残さを最小量のミリQに溶解し、その溶液をSephadex G15カラムを通して処理する。
195Pt NMR (CD3OD):δPt -2630ppm。
標識化合物としてのN3 シス-Bio ULS (5)の使用
6つのたんぱく混合物(前記参照) 25μgを、標識バッファ 50μl中で16時間37℃にて標識した。5の量は、それぞれ5、10、12.5、15または20μgであった。標識反応を還元サンプルバッファの添加によって停止した。検出抗体:BIO-AP 1:1000。
標識の結果を図14に示す。
【0203】
7の合成−テトラクロロ白金酸カリウムとの錯体形成:
6c(5.8mg、8.6×10−6mol)をN,N’-ジメチルホルムアミド(11.2ml)中に溶解した。固体のテトラクロロ白金酸カリウム(3.6mg、8.8×10−6mol)を添加した。その混合物を40℃で一夜加熱した。加熱中に赤色テトラクロロ白金酸カリウム固体が溶解するのが観察され、N,N’-ジメチルホルムアミド溶液がオレンジ色に変わるのが観察された。その後、溶媒を加圧下で除去し、茶色の固体を得た。(収量:12.4mg、37.4%)
1の1H NMR (DMF-d7):δH 1.27 (m、4H、脂肪族CH2)、1.57 (m、8H、脂肪族CH2)、1.88 (m、4H、脂肪族CH2)、2.11 (m、4H、C(O)CH2)、3.11 (m、4H、CH2NHC(O))、4.29 (m、2H、CH2NHC(O)NH)、4.61 (m、2H、OCH2)、7.50 (m、2H、芳香族H)、7.80 (m、2H、芳香族H)、8.69 (m、 4H、芳香族H)ppm。195Pt NMR (DMF-d7):δPt -2707ppm。MS (ESI+) m/z: 867 [M]+。
図15はスキーム7の合成−テトラクロロ白金酸カリウムとの錯体形成−を示す。
【0204】
IX.N3トランス-C2三座配位子の合成(スキーム7)
1の作製−クロロアセトニトリルの付加:
N-Boc-1,6-ジアミノヘキサン(67.98mg、3.142×10−4mol)をジクロロメタンの最小量(1ml)中に溶解した。その後、アセトニトリルを添加した(25ml)。炭酸カリウム(224.1mg、1.621mmol)およびヨウ化カリウム(122.3mg、7.367×10−4mol)も、固体の状態で添加した。その後、クロロアセトニトリル(1.0ml、16mmol)を添加した。その混合物を75℃で一夜加熱した。加熱中溶液が黒色に変わるのが観察された。その後、固体をろ過した。ろ液を乾固した。不溶性の物質をジクロロメタン(3×3ml)中に抽出した。有機抽出物を混合し、ろ過し、減圧下で乾燥した。オレンジ色の固体が単離された。
【0205】
1の1H NMR (MeOD):δH 1.22 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来CH2)、1.36 (m、13H、tBuプロトンおよびヘキサンジアミンスペーサ由来残留CH2)、2.63 (m、2H、NCH2(CH2)5NHBoc)、2.99 (m、2H、CH2NHBoc)、3.76 (m、2H、CH2CN)、6.49 (ブロードs、1H、NHBoc)ppm。 2の作製−水素化アルミニウムリチウムでの還元:
1(151.0mg、5.129×10−4mol)をジクロロメタン(20ml)中に溶解した。その溶液を20分間氷浴(0℃)中で攪拌した。その後、水素化アルミニウムリチウム(ジエチルエーテル中の1M 溶液 5ml、5mmol)を添加した。白色個体が沈殿するのが直ちに観察された。その混合物を30分間0℃(氷浴)で攪拌し、その間に温度は室温と平衡になった。その後、ミリQ 7.5mlを慎重に添加して、過剰の水素化リチウムアルミニウムを中和した。ミリQの添加はより重要な量の白色固体の沈殿をもたらした。その後、混合物をろ過した。有機抽出物を水性抽出物から分離し、減圧下で乾燥し、無色の油を得た。(収量:23.5mg、15.1%)。
【0206】
1の1H NMR (CDCl3):δH 1.22 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来CH2)、1.41 (m、13H、tBuプロトンおよびヘキサンジアミンスペーサ由来残留CH2)、1.82 (ブロードシングレット、4H、NH2)、2.29 (m、8H、(CH2)2NH2)、2.68 (m、2H、NCH2(CH2)5NHBoc)、3.06 (m、2H、CH2NHBoc)、4.61 (m、2H、NHBoc)ppm。MS (ESI+) m/z: 303 [M+H]+。
【0207】
3の作製−テトラクロロ白金酸カリウムとの錯体形成:
2(23.5mg、7.77×10−5mol)をN,N’-ジメチルホルムアミド(12.5ml)中に溶解した。固体のテトラクロロ白金酸カリウム(32.4mg、7.80×10−5mol)を添加した。その混合物を40℃で一夜加熱した。加熱中に赤色テトラクロロ白金酸カリウム固体が溶解するのが観察され、N,N’-ジメチルホルムアミド溶液が薄い茶色に変わるのが観察された。その後、溶媒を加圧下で除去し、茶色の固体を得た。
195Pt NMR (DMF-d7):δPt -2586ppm。(収量:27mg、61.1%)。
【0208】
4の作製および5のin-situ作製−Boc-保護基の除去およびEZ-link-LC-ビオチン スクシンイミジルエステルとの反応:
3(13.5mg、4.13×10−5mol)を200mM 塩酸(670.03μl)と混合した。その混合物を50℃で一夜加熱した。加熱中に茶色固体が溶解するのが観察された。ミリQ中の水酸化ナトリウム溶液(1M)および塩酸(200mM)を用いてpHを約8.0に調整した。不溶性の茶色の物質はすべて、パスツールピペットを用いたN,N’-ジメチルホルムアミドの最小量の滴加によって溶解することが可能である。代わりに、N,N’-ジメチルホルムアミド中にスクシンイミジルエステルを添加して、茶色の残さを可溶化することもできる。N,N’-ジメチルホルムアミド(ml)中のEZ-link-LC-ビオチン スクシンイミジルエステル(18.76mg、4.13×10−5mol)を滴加した。pHが8.0前後であると確認した。トリエチルアミンをこのpH調整のために添加してもよい。その混合物を5分間遮光下にて室温で攪拌した後、pHが8.0前後であることを確認した。ここでも、トリエチルアミンをpH調整のために使用してもよい。その後、混合物を遮光下加熱中に室温で一夜攪拌した。その後、不溶性物質をろ過した。
【0209】
脱塩は、スクシンイミジルエステルとの反応後に、溶媒を除去することで達成することが可能である。その後、残さを最小量のミリQに溶解し、その溶液をSephadex G15カラムを通して処理する。
195Pt NMR (DMF-d7):δPt -2707ppm。 MS (ESI+) m/z: 772 [M]+。
【0210】
X.NS2トランス-C2三配位子の合成(スキーム8)
1の作製−2-クロロエチルメチルエーテルの付加:
N-Boc-1,6-ジアミノヘキサン(101.3mg、4.688×10−4mol)をジクロロメタンの最小量(1ml)中に溶解した。その後、アセトニトリルを添加した(30ml)。炭酸カリウム(327.1mg、2.367mmol)およびヨウ化カリウム(157.1mg、9.463×10−4mol)も、固体の状態で添加した。その後、2-クロロエチルメチルエーテル(93.3μl、9.35×10−4mol)を添加した。その混合物を75℃で一夜加熱した。その後、固体をろ過した。ろ液を乾燥した。残さをジクロロメタン(3×3ml)で抽出した。有機抽出物を混合し、ろ過し、減圧下で乾燥し、白色個体を得た。(収量:19.2mg、11.2%)。
【0211】
1の1H NMR (CDCl3):δH 1.27 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来CH2)、1.40 (m、9H、tBuプロトン)、1.44 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来残留CH2)、2.10 (s、6H、CH3)、2.54 (m、6H、NCH2(CH2)5NHBocおよびNCH2CH2S)、2.76 (m、2H、CH2NHBoc)、3.21 (m、2H、NHBoc)、4.54 (ブロードs、1H、NHBoc)ppm。
MS (ESI+) m/z: 365 [M+H]+。
【0212】
2の作製−テトラクロロ白金酸カリウムとの錯体形成:
1(19.2mg、5.26×10−5mol)をN,N’-ジメチルホルムアミド(11.2ml)中に溶解した。固体のテトラクロロ白金酸カリウム(21.7mg、5.23×10−5mol)を添加した。その混合物を40℃で一夜加熱した。加熱中に赤色テトラクロロ白金酸カリウム固体が溶解するのが観察され、N,N’-ジメチルホルムアミド溶液がオレンジ色に変わるのが観察された。その後、溶媒を加圧下で除去し、茶色の固体を得た。(収量:12.4mg、37.4%)。
【0213】
195Pt NMR (DMF-d7):δPt -3543ppm。
3の作製および4のin-situ作製−Boc-保護基の除去およびEZ-link-LC-ビオチン スクシンイミジルエステルとの反応:
2(12.4mg、1.97×10−5mol)を200mM 塩酸(1336.39μl)と混合した。その混合物を50℃で一夜加熱した。加熱中に茶色固体が溶解するのが観察された。ミリQ中の水酸化ナトリウム溶液(1M;240μl)および塩酸(200mM;10μl)を用いてpHを約8.0に調整した。不溶性の茶色の物質はすべて、パスツールピペットを用いたN,N’-ジメチルホルムアミドの最小量の滴加によって溶解することが可能である。代わりに、N,N’-ジメチルホルムアミド中にスクシンイミジルエステルを添加して茶色の残さを可溶化することもできる。
【0214】
N,N’-ジメチルホルムアミド(159.86μl)中のEZ-link-LC-ビオチン スクシンイミジルエステル(7.993mg、1.76×10−5mol)を滴加した。pHが8.0前後であると確認した。トリエチルアミンをこのpH調整のために添加してもよい。その混合物を5分間遮光下にて室温で攪拌した後、pHが8.0前後であることを確認した。ここでも、トリエチルアミンをpH調整のために使用してもよい。その後、混合物を遮光下にて室温で一夜攪拌した。その後、不溶性物質をろ過した。HPLCを用いて精製を実行した。ターゲット種が画分10に溶出するのがわかった(57.94〜62.94ml)。
【0215】
脱塩は、スクシンイミジルエステルとの反応後に、溶媒を除去することで達成することが可能である。その後、残さを最小量のミリQに溶解し、その溶液をSephadex G15カラムを通して処理する。
【0216】
1の1H NMR (D2O):δH 1.62 (m、12H、LC-ビオチンスペーサ由来)、1.77 (m、8H、ヘキサンジアミンスペーサ由来CH2)、2.94 (m、4H、C(O)CH2)、3.05 (s、6H、CH3)、3.30 (m、 6H、NCH2(CH2)5NHおよびNCH2CH2S)、3.54 (m、4H、NCH2CH2S)、3.86 (m、2H、CH2C(O)NH)、4.0 (m、2H、CH2NHC(O)NH)ppm。
【0217】
MS (ESI+) m/z: 782 [M+−Cl-+OH-]+。
分取用HPLC分析法の詳細:
分析用HPLC分析は、容積が88.247ml(250×21.2μl)の逆相Luna3 C18カラムで、NaCl (100mM; バッファA中で90%およびバッファB中で70%)/2-プロパノール (バッファA中で10%およびバッファB中で90%)によって実行した。総計で(およそ)803.0mlを5.0ml/min.の速度でカラムを通して溶出した。この方法では、30%濃度に達する94.25〜182.49ml(1.0 カラム容積)のB、80%濃度に達する182.49〜403.21ml(2.5 カラム容積)のB、100%濃度に達する403.21〜447.33ml(0.5 カラム容積)のB、および、再度、溶出する579.91〜624.03ml(0.5 カラム容積)の純粋なA、の直線勾配を組み込んだ。447.33〜579.81mlで、純粋なBが溶出された。
【図面の簡単な説明】
【0218】
【図1】全ヒトDNA(500〜1500bp)のBio-Boc-PtまたはBio-APET-Ruによる標識を示す図である。
【図2】全ヒトDNA(500〜1500bp)のDNP-BOC-PtまたはDNP-APET-ULSによる標識を示す図である。
【図3】Cy5-標識試薬で標識された全血清のIgAキャプチャELISAの結果を示す図である。
【図4】Pt [ジエン Cl−] Cl−のESI-MSスペクトルを示す図である。
【図5】3への経路(スキーム1)を示す図である。
【図6】3から標識Pt(II)錯体への経路(スキーム2)を示す図である。
【図7】8への経路(スキーム3)を示す図である。
【図8】8から標識Pt(II)錯体への経路(スキーム4)を示す図である。
【図9】N3 トランス-C3三座配位子の合成経路(スキーム5)を示す図である。
【図10】N3 トランス-Bio ULSで標識されたHELA細胞溶解物のウェスタンブロットを示す図である。
【図11】N3 トランス-Flu ULS(4b)で標識された6つのたんぱく混合物のウェスタンブロットを示す図である。
【図12】N3 トランス-Flu ULS(4b)で標識された1.q12 DNAプローブとハイブリダイズされたヒト中期分裂を示す図である。
【図13】N3 シス-C2三座配位子の合成経路(スキーム6)を示す図である。
【図14】N3 シス-Bio-ULS(5)で標識された6つのたんぱく混合物のウェスタンブロットを示す図である。
【図15】7の合成経路を示す図である。
【図16】N3 トランス-C2三座配位子の合成経路(スキーム7)を示す図である。
【図17】NS2 トランス-C2三座配位子の合成経路(スキーム8)を示す図である。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、標識遷移金属錯体、そのような錯体を含む標識された化学的または生物学的物質、およびその標識された化学的または生物学的物質を作製する方法に関し、そのような遷移金属錯体の具体的使用にも関する。
【0002】
DNA分子などの生物有機分子の標識は、組換えDNA技術などの分野における用途に所望される。しかし、多くの場合、当業者は核酸高分子を標識するのではなく、特定のヌクレオチドを標識することを所望する。ヌクレオチドを標識する主な目的は、これらの標識ヌクレオチドが核酸分子に組み込まれ得ることである。このようにすると、生じるポリ核酸上での標識の位置を変化させることが可能であるが、標識を高分子に付着させるときには、そのようなことはできない。
【0003】
ヌクレオチドを、充分な方法でシス白金錯体を利用して標識に結合することが可能であることが知られている。しかし、そのような標識ヌクレオチドは、仮に組込まれるとしても、DNAポリメラーゼによってDNA分子に満足には組込まれない。
【0004】
ポリ核酸に組み込むことが可能なヌクレオチドを標識する利用可能な別の方法は、より標準的な標識方法である。しかし、これらの方法もまた、あらゆるヌクレオチドの標識にも適しているわけではないので、重大な不利を有している。場合によっては、たとえば、少数の特定のヌクレオチド残基だけが特定のポリ核酸に存在するとき、またはポリ核酸の末端ヌクレオチド残基が標識されなければならないとき、あらゆるヌクレオチドを標識可能であることが所望される。そのような標準的方法の例が、Daleらによって、Biochemistry、第14巻、1975年、2447〜2457頁に記載されており、この方法は標識技術として直接共有結合水銀化を含む。Daleらは、シトシンおよびウラシルが穏和な条件下でそれらのC5-位置にて水銀化されることを報告している。しかし、Daleらはまた、アデニン、チミンおよびグアニン塩基について、ネガティブな結果が得られたと報告している。
【0005】
ゆえに、標識とすべての異なるヌクレオチドを含む生物有機分子とを結合するのに優れた普遍的標識システムであって、効果的にポリ核酸に、その標識システムによって標識されたあらゆるヌクレオチドを酵素的に組込むことを可能にする普遍的標識システムが必要である。
【0006】
驚いたことに、本発明者らは、少なくとも公知の方法と同じくらいに効果的な、化学的または生物学的物質に標識可能な遷移金属錯体の新規カテゴリを開発した。さらに、本発明の標識システムに結合したヌクレオチドは、非常に効果的にポリヌクレオチドに組込むことが可能であると考えられる。
【0007】
これらの標識遷移金属錯体は、安定化架橋としての不活性三座配位子部分、マーカ、および化学的または生物学的物質が遷移金属原子に付着することを可能とするための反応性部分を含む。
【0008】
したがって、本発明は、遷移金属原子、化学的または生物学的物質が遷移金属原子に付着することを可能とするための反応性部分、安定化架橋としての不活性三座配位子部分、およびマーカを含む標識遷移金属錯体に関する。
【0009】
これらの遷移金属錯体は、二座配位子部分に基づく錯体よりも高収量で作製可能であるが、それらの錯体はさらに、向上した安定性および純度を示す。しかも、本発明の金属錯体は、二座配位子部分に基づく遷移金属錯体と比較して、よりよく反応し、より効率的な標識をもたらす。さらに、本発明に従う遷移金属錯体の作製は1段階の手順で実行可能であるるため、非常に有利である。
【0010】
三座配位子を使用する利点に、キレート効果およびトランス効果がある。キレート効果とは、金属が同一分子の3つの部位に結合することによって、遷移金属原子が配位子により迅速かつ効率的に配位するということである。結果として、得られる錯体の純度はより高くなる。トランス効果とは、脱離基が三座配位子部分の結合部位のトランス位置に存在して、配位に極性を与えることによって、本発明に従う遷移金属錯体の反応性および標識効率が向上するということである。好ましくは、結合部位は二級または三級アミンであり、これによって上記の極性に寄与する。
【0011】
接近可能なS(硫黄)原子またはN(窒素)原子を含有するほぼすべての化学的または生物学的物質が、本発明に従う標識遷移金属錯体によって標識可能である。標識遷移金属錯体によって標識されるのに適した物質は、核酸(ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、ホモ二本鎖、ヘテロ二本鎖、または多重鎖)などの生物有機分子である。
遷移金属錯体はグアニン残基のN-7位置に非常に容易に(非共有結合で)結合する。この方法によって、DNAまたはRNA分子が、一本鎖でもそれ以外でも容易に同定され得(たとえば、検出され、分離され、精製され、単離される)、さらに、非標識DNA/RNA分子が標識プローブにハイブリダイズする、ハイブリダイゼーション技術用のプローブ生産をも可能にする。標識遷移金属錯体は、仮に妨害するとしても、ハイブリダイゼーションをほとんど妨害しない。また、この技術は、プローブの作製において、修飾されたヌクレオチドの使用を必要としない。ただし、たんぱく、ペプチドおよびその他の生物有機分子もまた、本発明に従う標識物質によって同定可能である。
【0012】
本発明に従う標識遷移金属錯体は、生物有機分子を、ニトロセルロース、ナイロンフィルタ、マイクロタイタープレート、ビーズ、ガラス、繊維などの固体表面に付着させるのにも非常に適している。
【0013】
本発明に従う遷移金属錯体を用いて修飾されたヌクレオチド、ならびにそのヌクレオチドが組み込まれているオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチド、またはこれらの新規白金化合物を用いて直接修飾されているオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドは、生物医学研究、臨床診断および組換えDNA技術においてプローブとして使用可能である。
【0014】
本発明に従う錯体の多種多様な有用性は、たとえば(ポリ)核酸または(ポリ)ペプチドおよびそれらの誘導体といった生物有機分子と安定した錯体を形成することのできる遷移金属錯体の能力に基づいており、それは言い換えると、生物有機分子に付着する検出可能部分、または生物有機分子と相互作用する検出可能部分のいずれかを利用して検出可能である、ということである。いくつかの使用には、たとえば細菌およびウイルスといった病原体を含む核酸を検出して同定し、細菌を抗生物質抵抗性に関してスクリーニングし、動物を薬剤効果に関する遺伝性疾患についてスクリーニングし、たとえば21トリソミー、鎌状赤血球貧血といった遺伝性疾患、染色体核型を診断し、癌細胞を同定することが含まれる。さらに、標識錯体は薬理学、特に薬剤スクリーニング、薬剤ターゲットの同定、薬剤モニタリングおよび薬剤送達において非常に有用である。
【0015】
本発明は、注目する生物学的物質を同定、決定および/または局限するための診断キットをも包含し、このキットは、本発明の遷移金属錯体と、任意で、検出用の他の適当な手段とを含む。もちろん、本発明は、標識遷移金属錯体の各要素が別々に、つまり非結合の形で存在しているキットをも含む。
【0016】
本発明に従う適当な遷移金属錯体の例は、遷移金属がバナジウム、クロム、鉄、ニッケル、銅、ルテニウム、パラジウム、白金、モリブデン、タングステン、コバルト、マンガン、オスミウム、ロジウム、イリジウム、亜鉛、およびカドミウムから成る群から選ばれる錯体である。好ましくは、本発明に従えば、遷移金属が鉄、ニッケル、ルテニウム、パラジウム、白金、モリブデン、タングステン、およびコバルトから成る群から選ばれる。より好ましくは、遷移金属が白金、コバルト、またはルテニウムである。
【0017】
遷移金属錯体の反応性部分は、好適には優れた脱離配位子である。好ましくは、反応性部分がCl−、NO3−、HCO3−、CO32−、SO32−、ZSO3−、I−、Br−、F−、酢酸イオン、カルボン酸イオン、リン酸イオン、硝酸エチルイオン、シュウ酸イオン、クエン酸イオン、ホスホン酸イオン、ZO−、および水の群から選ばれる。ここで、Zは水素部分または1〜10の炭素原子を有するアルキルまたはアリール基として定義される。これらの配位子のうち、Cl−およびNO3−が最も好ましい。
【0018】
本発明に従う標識遷移金属錯体は、安定化架橋としての不活性三座配位子を含む。ここで使用される不活性とは、配位子部分が標識処理中、遷移金属錯体に付着したままであり、その後物質と化学反応することがないということを表している。
【0019】
遷移金属は、三座配位子部分に存在する窒素、酸素、硫黄もしくはリン原子、またはこれらの原子のあらゆる組合せを利用して三座配位子部分に付着する。たとえば、遷移金属は2つの窒素原子および1つの酸素原子または硫黄原子を利用して三座配位子部分に付着させることが可能である。しかし、遷移金属が3つの窒素原子を利用して三座配位子部分に付着するのが好ましい。
【0020】
本発明においては、化学元素の硬度は酸化状態と原子の半径との比として定義される。この定義に基づくと、硬度は周期表の行においては左から右へ増加し、周期表の列においては上から下へ減少する。生じた錯体の安定性に有益な効果を及ぼすため、遷移金属は、その遷移金属の硬度と類似した硬度の原子(窒素、酸素、硫黄、またはリン)を介して遷移金属に結合する三座配位子と結合することが好ましい。この考え方に基づくと、白金は窒素または硫黄を介して三座配位子に結合するのが好ましい。
【0021】
遷移金属の酸化状態は、特定の三座配位子部分との安定した結合が達成されるように選ばれるのがさらに好ましい。たとえば、酸素を介して遷移金属に結合する三座配位子部分は、Pt(II)またはPd(II)よりも、Pt(IV)、Pd(IV)、Mo(VI)、W(VI)、Ru(III)、Co(III)、Fe(II)、およびFe(III)と結合するのが好ましい。窒素を介して遷移金属に結合する三座配位子部分は、遷移金属の特定の酸化状態を特に好むとは考えられないが、Cu(I)はあまり好ましくない。リンまたは硫黄を介して遷移金属に結合する三座配位子部分は、Pt(IV)、Fe(III)、またはRu(III)よりも、Pt(II)、Pd(II)、Fe(II)、およびCo(II)と結合するのが好ましい。
【0022】
一般に、本発明に従って使用することが可能な適当な三座配位子部分は、N、P、SおよびOから独立して選ばれ、1〜5の、好ましくは1〜3の原子によって分離された少なくとも3つのドナー原子を有する配位子部分を含有する。
【0023】
本発明に従って使用することが可能な好ましい三座配位子部分は、以下の化学式を有する配位子部分を含有し、この化学式は、X、YおよびZの種々の可能な組み合わせによって、各々がX、YおよびZの特異的組合せを有する種々の実施形態を生み出し、この個々の実施形態をここでは「ブロック」とよぶ。
【0024】
【化1】
【0025】
ブロックI
XはNR、PR、OまたはSである;RはH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、ヘテロ原子を介さずに、鎖または環の原子を介してXに結合する;YおよびZは、(CH2)nNR1R2、(CH2)nPR1R2、R3R4C=NR2、R3R4C=PR2、(CH2)nC(O)R2、(CH2)nC(O)NR2R3、(CH2)nC(O)PR2R3、(CH2)nC(O)N=R2、(CH2)nC(O)P=R2、(CH2)nC(O)OR5、(CH2)nC(S)R2、(CH2)nC(S)NR2R3、(CH2)nC(S)PR2R3、(CH2)nC(S)OR5、(CH2)nC(S)N=R2、(CH2)nC(S)P=R2、R6OR5、R6SR2、R7COO−Na+、R7CSO−Na+、R7CSS−Na+またはR8-R9から成る群から独立して選ばれ、nは1〜5、優先的には1〜3であり、R1はH、C(O)R3、C(S)R3、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、H、C、または鎖もしくは環の原子を介してN原子またはP原子に結合し、R1はXに結合しない。R2はH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、Hまたは鎖もしくは環の原子を介してN原子またはP原子に、またはC(O)、(CH2)nC(O)R2、(CH2)nC(S)R2のCに、ならびにR5がC(O)R2およびC(S)R2であるとき、R5のC(O)R2およびC(S)R2のCに、C(O)またはC(S)のあらゆる原子の一部をも介さずに、鎖もしくは環の原子、またはR2の鎖の置換基もしくは環の置換基のヘテロ原子を介して結合する。R2はXに結合しない。R3はH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、Hまたは鎖もしくは環の原子を介してN原子またはP原子に結合し、R1がC(O)R3およびC(S)R3の1つであるとき、C(O)またはC(S)のあらゆる原子の一部をも介さずに、鎖もしくは環の原子、または鎖の置換基もしくは環の置換基の原子を介してR1に結合し、R3はXに結合しない。R4はH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、Hまたは鎖もしくは環の原子または鎖の置換基もしくは環の置換基の原子を介してC原子に結合する。R4はXに結合しない。R5はH、C(O)R2、C(S)R2、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、H、C、または鎖もしくは環の原子を介してO原子に結合する。R5はXに結合しない。R6は置換または非置換の脂肪族鎖であり、XとR6OR7のOとの間、およびXとR6SR2のSとの間の炭素原子数は1〜5の間で変化し、優先的には2または3である。R6はCH2基を介してXに結合する。R7は、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、XとCOO−またはR7COO−Na+のO原子との間、XとR7COS−Na+のCOS−のS原子との間、XとR7CSS−Na+のCSS−のS原子の1つとの間の炭素原子数は、1〜5の間で変化し、優先的には2または3である。R7はXに結合しない。R8は置換または非置換の脂肪族環であって、Xと、R8をR9に結合する原子との間の炭素原子数は、1〜5の間で変化し、優先的には2または3である。R9は、置換または非置換の、5または6員環の、Nおよび/またはPおよび/またはOおよび/またはS含有の、ジエンまたは非ジエンの、芳香族または非芳香族の、5員環または6員環の、置換または非置換の環であって、Xと環の配位原子との間の原子数は、2〜10の間で変化し、優先的には2または3である。R9はXに結合しない。
【0026】
ブロックII
YとZとが同じで、X、YおよびZが、独立して、置換または非置換の、5員環または6員環の、Nおよび/またはPおよび/またはOおよび/またはS含有の、ジエンまたは非ジエン含有の、芳香族または非芳香族の環であって、Xの配位原子とYおよびZ双方との間の原子数が、1〜5、好ましくは2または3である。
【0027】
ブロックIII
XはNR、PR、OまたはSである;RはH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、ヘテロ原子を介さずに、鎖または環の原子を介してXに結合する;Zは、H、(CH2)nNR1R2、(CH2)nPR1R2、R3R4C=NR2、R3R4C=PR2、(CH2)nC(O)R2、(CH2)nC(O)NR2R3、(CH2)nC(O)PR2R3、(CH2)nC(O)N=R2、(CH2)nC(O)P=R2、(CH2)nC(O)OR5、(CH2)nC(S)R2、(CH2)nC(S)NR2R3、(CH2)nC(S)PR2R3、(CH2)nC(S)OR5、(CH2)nC(S)N=R2、(CH2)nC(S)P=R2、R6OR5、R6SR2、R7COO−Na+、R7CSO−Na+、R7CSS−Na+、および前述中で定義された(ブロックI)R8-R9から成る群から選ばれ;YはA2N(C2H4)NA(C2H4)、A2N(C2H4)NA(C2H4)、A2P(C2H4)NA(C2H4)、A2N(C2H4)PA(C2H4)またはA2P(C2H4)PA(C2H4)であり、AはZと同じ意味を有する。
【0028】
ブロックIV
XはNR、PR、OまたはSである;RはH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、ヘテロ原子を介さずに、鎖または環の原子を介してXに結合する;Zは、H、(CH2)nNR1R2、(CH2)nPR1R2、R3R4C=NR2、R3R4C=PR2、(CH2)nC(O)R2、(CH2)nC(O)NR2R3、(CH2)nC(O)PR2R3、(CH2)nC(O)N=R2、(CH2)nC(O)P=R2、(CH2)nC(O)OR5、(CH2)nC(S)R2、(CH2)nC(S)NR2R3、(CH2)nC(S)PR2R3、(CH2)nC(S)OR5、(CH2)nC(S)N=R2、(CH2)nC(S)P=R2、R6OR5、R6SR2、R7COO-Na+、R7CSO-Na+、R7CSS-Na+、および前述中で定義された(ブロックI)R8-R9から成る群から選ばれ;YはR2R3NC(O)CH2N(C2H4)R10、R2R3PC(O)CH2N(C2H4)R10、R5OC(O)CH2N(C2H4)R1、R1R2NC(O)CH2O(C2H4)、R1R2PC(O)CH2O(C2H4)、R5OC(O)CH2O(C2H4)、R1R2NC(O)CH2S(C2H4)、R1R2PC(O)CH2S(C2H4)、R5OC(O)CH2S(C2H4)、R2R3NC(O)CH2P(C2H4)R10、R2R3PC(O)CH2P(C2H4)R10、R5OC(O)CH2P(C2H4)R1、R1R2NCH2C(O)N(C2H4)R10、R1R2PCH2C(O)N(C2H4)R10、R5OCH2C(O)N(C2H4)R2、R2SCH2C(O)N(C2H4)R10、R1R2NCH2C(O)O(C2H4)、R1R2PCH2C(O)O(C2H4)、R5OCH2C(O)O(C2H4)、R2SCH2C(O)O(C2H4)、R1R2NCH2C(O)P(C2H4)R10、R1R2PCH2C(O)P(C2H4)R10、R5OCH2C(O)P(C2H4)R2、R2SCH2C(O)P(C2H4)R10、R1R2N(CH2)nO(CH2)nC(O)、R1R2P(CH2)nO(CH2)nC(O)、R5O(CH2)nO(CH2)nC(O)、R2S(CH2)nO(CH2)nC(O)、R1R2N(CH2)nS(CH2)nC(O)、R1R2P(CH2)nS(CH2)nC(O)、R5O(CH2)nS(CH2)nC(O)、R2S(CH2)nS(CH2)nC(O)、R1R2N(CH2)nO(CH2)n、R1R2P(CH2)nO(CH2)n、R5O(CH2)nO(CH2)n、R2S(CH2)nO(CH2)n、R1R2N(CH2)nS(CH2)n、R1R2P(CH2)nS(CH2)n、R5O(CH2)nS(CH2)n、R2S(CH2)nS(CH2)n、R1R2N(CH2)n(NR3)(CH2)nC(O)、R1R2P(CH2)n(NR3)(CH2)nC(O)、R5O(CH2)n(NR3)(CH2)nC(O)、R2S(CH2)n(NR3)(CH2)nC(O)、R1R2N(CH2)n(NR3)(CH2)nC(O)、R1R2P(CH2)n(NR3)(CH2)nC(O)、R5O(CH2)n(NR3)(CH2)nC(O)、R2S(CH2)n(NR3)(CH2)nC(O)、R1R2N(CH2)nN(CH2)nR3、R1R2P(CH2)nN(CH2)nR3、R5O(CH2)nN(CH2)nR3、R2S(CH2)nN(CH2)nR1、R1R2N(CH2)nN(CH2)nR3、R1R2P(CH2)nN(CH2)nR3、R5O(CH2)nN(CH2)nR1、R2S(CH2)nN(CH2)nR1、R1R2N(CH2)n(PR3)(CH2)nC(O)、R1R2P(CH2)n(PR3)(CH2)nC(O)、R5O(CH2)n(PR3)(CH2)nC(O)、R2S(CH2)n(PR3)(CH2)nC(O)、R1R2N(CH2)n(PR3)(CH2)nC(O)、R1R2P(CH2)n(PR3)(CH2)nC(O)、R5O(CH2)n(PR3)(CH2)nC(O)、R2S(CH2)n(PR3)(CH2)nC(O)、R1R2N(CH2)nP(CH2)nR3、R1R2P(CH2)nP(CH2)nR3、R5O(CH2)nP(CH2)nR1、R2S(CH2)nP(CH2)nR1、R1R2N(CH2)nP(CH2)nR3、R1R2P(CH2)nP(CH2)nR3、R5O(CH2)nP(CH2)nR1またはR2S(CH2)nP(CH2)nR1である。
【0029】
Yにおいて、R1〜R5のすべては、R1およびR3を除いて、ブロックIにおいてと同じ意味を有する。R1はH、C(O)R11、C(S)R11、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、H、C、または鎖もしくは環の原子を介してN原子またはP原子に結合し、R1はXに結合しない。R3はH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、Hまたは鎖もしくは環の原子または鎖の置換基もしくは環の置換基の原子を介してN原子またはP原子に結合し、R3はXに結合しない。R10はH、C(O)R12、C(S)R12、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、H、C、または鎖もしくは環の原子を介してN原子またはP原子に結合し、R10はXに結合しない。R11はH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、R1がC(O)R11またはC(S)R11であるとき、C(O)またはC(S)のあらゆる原子をも介さずに、鎖もしくは環の原子、または鎖の置換基もしくは環の置換基の原子を介してR1のCに結合する。R11はXに結合しない。R12はH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、R10がC(O)R12またはC(S)R12であるとき、C(O)またはC(S)のあらゆる原子をも介さずに、鎖もしくは環の原子、または鎖の置換基もしくは環の置換基の原子を介してR10のCに結合する。R12はXに結合しない。
【0030】
ブロックV
XはNR、PR、OまたはSである;RはH、置換もしくは非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換もしくは非置換の環のうちの1つであって、これらは、ヘテロ原子を介さずに、鎖または環の原子を介してXに結合する;YおよびZは、独立して、ABN(CH2)nまたはABP(CH2)nであり、nは2または3であり、AおよびBは、(CH2)nNR1R2、(CH2)nPR1R2、R3R4C=NR2、R3R4C=PR2、(CH2)nC(O)R2、(CH2)nC(O)NR2R3、(CH2)nC(O)PR2R3、(CH2)nC(O)N=R2、(CH2)nC(O)P=R2、(CH2)nC(O)OR5、(CH2)nC(S)R2、(CH2)nC(S)NR2R3、(CH2)nC(S)PR2R3、(CH2)nC(S)OR5、(CH2)nC(S)N=R2、(CH2)nC(S)P=R2、R6OR5、R6SR2、R7COO−Na+、R7CSO−Na+、R7CSS−Na+、またはR8-R9から成る群から選ばれ、前述中で定義されたように(ブロックI)、nは1〜5、優先的には2または3である。
【0031】
ブロックVI
N、P、OおよびSから独立して選ばれた最小でも3つのヘテロ原子を含有するあらゆる置換大員環。大員環とは、3つ以上の原子がドナーヘテロ原子である、最小でも9つの原子を含有する環状分子として定義される。
【0032】
ブロックVII
Xは置換または非置換の、5または6員環の、Nおよび/またはPおよび/またはOおよび/またはS含有の、ジエンまたは非ジエン含有の、芳香族または非芳香族の環である。YまたはZの少なくとも1つは、Nおよび/またはPおよび/またはOおよび/またはSヘテロドナー原子を含有し、置換または非置換の脂肪族鎖、または、ジエンもしくは非ジエンの、芳香族もしくは非芳香族の、5員環もしくは6員環の、置換の環であり、環上の置換基を介してXに結合している。YまたはZの1つのみがNおよび/またはPおよび/またはOおよび/またはSヘテロドナー原子を含有している場合、この基準を満たすYとZとの間の候補は、最小でも2つのNおよび/またはPおよび/またはOおよび/またはSヘテロドナー原子を含有し、これら2つのヘテロドナー原子間の原子数、およびこれらヘテロ原子のうちXに最も近い原子と、Xに含まれる最も近いヘテロドナー原子との間の原子数は、2または3である。YおよびZの双方がヘテロドナー原子を含有している場合、YおよびZのそれぞれが最小でも1つのN、P、OまたはSヘテロドナー原子を含有し、Yのヘテロドナー原子とXのヘテロドナー原子との間の原子数、およびZのヘテロドナー原子とXのヘテロドナー原子との間の原子数は2または3である。
【0033】
さらに、本発明に従って使用することが可能な好ましい三座配位子部分は、以下の化学式を有する配位子部分を含有する:
YXZ …(II)
【0034】
X、YおよびZは、独立して、置換または非置換の、5員環または6員環の、Nおよび/またはPおよび/またはOおよび/またはS含有の、ジエンまたは非ジエン含有の、芳香族または非芳香族の環であって、Xの配位原子とYおよびZ双方との間の原子数は1である。
【0035】
原理上、物質のあらゆる型の窒素、酸素、リンまたは硫黄を含む反応部位でも、本発明に従う方法を用いて標識することが可能である。好ましい反応部位は、アミン、ホスホアミン、チオール、チオエーテル、硫化物、チオアミド、チオール、アミド、ホスホアミド、チオホスホアミド、イミド、イミン、ホスホイミン、アルデヒド、ケトン、エステル、無水物、チオ無水物、アルコール、エーテル、尿素、チオ尿素、ホスホ尿素、アシル尿素、アシルホスホ尿素、オキソ尿素、チオアルデヒド、チオケトン、チオエステル、チオリン酸エステル、チオ無水物、カルボン酸もしくはチオカルボン酸およびそれらの塩、またはピリジン、イミダゾール、ピラゾール、ホスホピリジン、ホスホイミダゾール、ホスホピラゾール、フラン、またはチオフェンを含む反応部位を含有する。標識可能な物質の例は、アミノ酸(好ましくはメチオニン、システイン、およびヒスチジン)、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、たんぱく、免疫グロブリン、酵素、人工酵素、ホスホアミノ酸、リン脂質、脂質(たとえばホスファチジル コリン、スフィンゴ脂質)、糖たんぱく、核酸、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、ペプチド核酸、ペプチド核酸オリゴマ、ペプチド核酸ポリマ、アミン、アミノグリコシド、ヌクレオペプチド、および糖ペプチドの群から選ばれる物質である。本発明に従って、好ましくは、物質は、核酸、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、アミノ酸、ペプチド、オリゴペプチドおよびポリペプチドの群から選ばれる。
【0036】
本発明に従って、任意でスペーサによって、マーカが不活性三座配位子部分に適切に含まれるか、三座配位子部分に付着する。遷移金属の酸化状態が(II)より高い場合、マーカは遷移金属にも付着させることが可能である。
【0037】
マーカは、不活性部分に含まれ得るか、三座配位子部分に付着するスペーサに付着し得る限り、いずれの型のマーカであっても使用することが可能である。そのようなマーカは、放射性標識;酵素;アビジン、ストレプトアビジンまたはビオチン、ビオシチン、イミノビオチンなどの特異的結合ペア要素;コロイド状染料物質;リン光性発光標識(たとえばユーロピウムキレート、白金ポルフィリン);化学発光標識(たとえばルミノー);シアニン、Alex染料(Molecular Probes)、またはBodipy染料(Molecular Probes)、ローダミン、カルボキシローダミンなどの蛍光色素;ジニトロフェノール(DNP);tert-ブトキシカルボニル;たとえばキレート配位にあるまたはないユーロピウムまたはテルビウムといったランタニド;還元物質(エオシン、エリトロシンなど);(有色の)ラテックス ゾル;ジゴキシゲニン;金属(たとえば二核または多核錯体の場合、たとえばルテニウム);金属ゾルまたは別の粒子ゾル(セレン、炭素など);ダンシルリジン;紫外染料;可視染料;赤外染料;クマリン(たとえばアミノメチルクマリン);固体支持;細胞上または細胞内に生理学的効果を及ぼす、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、抗体、アミノ酸、たんぱくまたは(ポリ)ペプチド(たとえばプロテインA、プロテインG、膜シャトル分子)など、である。特殊分類のマーカは遷移金属それ自身である。そのような遷移金属マーカは、前述の他の型のマーカと共に存在するか否かに関わらず、他の遷移金属マーカなしに存在し得(単核)、または、ホモもしくはヘテロの配位の双方において、他の遷移金属マーカと共に存在し得る(二核または多核)。そのような標識錯体は、たとえばバイオセンサといった電気化学的検出手段において特に有用である。
【0038】
とりわけ、DNP、フルオレセイン、シアニン染料およびテトラメチルローダミンが特に好ましい。なぜなら、これらは物質に結合した白金と安定した錯体を形成することが可能だからである。他の好ましいマーカは、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジンおよびジゴキシゲニンを含む。
【0039】
本発明の1つの実施形態において、マーカはスペーサによって不活性三座配位子部分に連結する。好ましくは、そのようなスペーサは、少なくとも4原子、好ましくは最高で20原子を有する鎖であって、一端に電子供与部分を含み、マーカと反応する部分を含む鎖を含み、鎖は電子供与部分を介して三座配位子部分に付着する。スペーサが三座配位子部分と反応する前に、最初にスペーサをマーカに付着させることが可能である。スペーサの電子供与部分は、たとえば、アミン基またはチオラートアニオンである。鎖が少なくとも1つのヘテロ原子をさらに有することが好ましい。非常に好ましいスペーサは、ポリエチレングリコール、1,6-ジアミノヘキサンおよび1,8-ジアミノ-3,6-ジオキサオクタンである。本発明の好ましい実施形態において、マーカに付着する前の、中間体遷移金属-スペーサ錯体として、1,6-ジアミノヘキサンtert-ブトキシカルボニルが使用される。好ましい実施形態において、スペーサは、たとえば別の同位体と原子を置換することで、分子量の点で異なる。
【0040】
本発明の特に好ましい錯体は、添付の実施例において記載される三座配位子部分含有遷移金属錯体である。たとえば図6、化合物no.5および図9、化合物no.4などに示されるようなN3 トランス-C3三座配位子錯体;たとえば図8、化合物no.10および図13、化合物no.5などに示されるようなN3 シス-C2三座配位子錯体;たとえば図16、化合物no.4などに示されるようなN3 シス-C2三座配位子錯体;たとえば図17、化合物no.3などに示されるようなNS2 トランス-C2三座配位子錯体;たとえば図15、化合物no.7などに示されるような架橋(ピリジン)3トランス三座配位子錯体として、その中で参照される好ましい実施形態を特に参照する。ここでの「シス」という用語は、遷移金属上の脱離基およびマーカ(任意にスペーサアームを介して結合する)の位置が隣り合うことを示し、ここでの「トランス」という用語は、遷移金属上の脱離基およびマーカ(任意にスペーサアームを介して結合する)の位置が反対側であることを示す。C2またはC3は、個々のティース(teeth)を架橋する炭素原子数で表した大きさを示し、N3は三座配位子ティースがすべて窒素原子であることを示し、NS2は三座配位子ティースの2つが硫黄原子で、3番目が窒素原子であることを示す。ここでの「三座配位子ティース」という用語は、三座配位子部分のうち遷移金属への配位結合に実際に加わる部分を示す。
【0041】
本発明の錯体の特別な利点は、遷移金属錯体と化学的または生物学的物質との間で配位結合形成を可能にすることであり、それによって標識化合物としての使用への適性を大いに高められる。この標識化合物は、好ましくは、マーカ部分として、フルオレセイン;アミノメチルクマリン(AMCA);テトラメチルローダミン(TAMRA);ジエチルアミノメチルクマリン(DEAC);カルボキシ-フルオレセイン(FAM);カルボキシ-テトラメチルローダミン(TAMRA);カルボキシ-X-ローダミン(ROX);カスケードブルー(CB);フルオレセインイソチオシアネート(FITC);オレゴングリーン(OG);Alexa488(A488);ローダミングリーン(RGr);カルボキシ-ローダミン 6G(R6G);テキサスレッド(TxR);Cy3;Cy3.5;Cy5;Cy5.5;Cy7;カルボキシナフトフルオレセイン(CNF)およびBodipy(登録商標)染料などの蛍光標識、またはビオチン(BIO);ジゴキシゲニン(DIG);および2,4-ジニトロフェニル(DNP)などのハプテン標識を含む。したがって、本発明の遷移金属錯体は、全体として、標識化合物とよぶのに適している。標識化合物は核酸を標識するのに用いられるのに非常に適している。当然のことながら、たんぱく性分子などの、他の化学的または生物学的物質もまた、本発明の三座配位子錯体によって標識されるのに非常に適している。
【0042】
さらに、本発明は少なくとも1つの異なる安定同位体を含有する標識遷移金属錯体によって標識された化学的または生物学的物質に関する。この物質はアミノ酸、ペプチドまたはたんぱくであるのが好ましい。
【0043】
本発明の特別な側面は、生物系の機能を理解し、病状または薬物投与の効果を評価するのに重要な手段である、たんぱくの同定およびそれらの細胞間相互作用のマッピングにおける、本発明に従う標識遷移金属錯体の使用に関する。そのようにして、プロテオームの組成と、プロテオームにおける質的および量的変化とを決定することが可能である。ヒトプロテオームは、広く多様な特性を有し、9桁にまでわたる濃度レベルで自然に産する100000を超すたんぱくを含む。この数字はプロテオームの研究者が抱えるいくつかの難問を明らかにしている。細胞または組織で発現されるたんぱくの大規模な(究極的には国際的な)分析はプロテオーム分析(Penningtonら、1997年、Trends Cell Biol.、第7巻、168−173頁)またはプロテオミクスと称されている。ゲノム分析と比較して、プロテオーム分析は特有の難問を抱えている。
【0044】
広い範囲の技術が、たんぱくを同定し、その細胞間相互作用をマップするのに利用できる。未知のたんぱくの性質を明らかにし、その機能を評価するために、連続する多数の工程が一般に含まれる(PattersonおよびAebersold、2003年、Nat. Genet.、第33巻、別冊、311−323頁)。
【0045】
第1段階は、プロテオームディスプレイおよびマッピング技術によって形成される。たんぱくマップまたはフィンガープリントを得るのにもっとも広く使用される手順は、二次元ゲル電気泳動(2DE)である(Rabilloud、2000年、Anal. Chem.、第72巻(1)、48A−55A頁)。2DEにおいて、たんぱくは1次元においてその等電点(pI)によって分離され、続いて第2の次元において分子量(MW)によって分離される。分離されたたんぱくは、クマシーブルー、銀染色、蛍光染色、または放射性標識(Patton、2002年、J. Chromatogr. B, Analyt. Technol. Biomed. Life Sci.、第771巻(1−2)、3−31頁)などの一般的な染色を用いて視覚化することが可能である。生じたスポットの複雑なパターンは、さらなる処理のために高度な画像分析を必要とする。通常、たとえば異なる細胞分裂期を代表する2つまたは複数のたんぱくプロフィールが比較される。異なった形で発現された注目たんぱくのスポットが、後の分離分析のためにゲルから切出される。このような方法で、細胞の状態変化によるプロテオームの変化を視覚化することが可能であり、たんぱく発現の特徴的な変化を特定することが可能である。
【0046】
続く第2段階は、たんぱく同定技術、主として質量分析(MS)によって代表される。質量分析計は基本的にイオン化モジュール、質量分析器および検出器の組合せであり、イオン化された検体(たとえばペプチドまたはたんぱく)の質量電荷比(m/z)を測定する。検体は高速原子衝撃(FAB)、電子スプレーイオン化(ESI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)または大気圧化学イオン化(APcI)のいずれかによって帯電可能である。質量分析器は質量分析計の最もフレキシブルな部分である。電場が荷電粒子を偏向させ、エネルギポテンシャルが質量およびポテンシャルに基づいて慣性移動に変換され得るので、質量分析器は、電場ポテンシャルを変えることによって、その質量電荷比(m/z)に基づき、ある質量を検出器に向ける。分析器は、存在するイオンをリストに入れるために、m/zの狭い範囲を安定化させるか、m/zのある範囲にわたって走査するために使用することが可能である。様々な型式が存在し、飛行時間、イオントラップ、および四重極質量分析器を含む。検出器は単純に、イオンが表面を通り過ぎるか表面に衝突するかしたときに誘起される電荷を記録する。
【0047】
質量分析計は非特異的な検出器であるため、別の検体をMSに与えるために、質量分析計をガス(GC)または液体クロマトグラフ(LC)に連結するための特異的なインターフェースがしばしば使用される。タンデム質量分析計(MS-MSまたはMSn)は質量分析の複数ラウンドが可能なものである。たとえば、1つの質量分析器は、質量分析計に入った多数から1つのペプチドを分離することができる。その後、第2の質量分析器は、ガスがペプチドに衝突してフラグメントにする間、ペプチドイオンを安定化させる。その後、第3の質量分析器が、ペプチドから産生されたフラグメントをリストに入れる。衝突誘起解離とよばれるこの工程は、プロテオミクスにおける多数の実験の基礎である。現在では様々な質量分析計が利用でき、それぞれがある用途に関して特異的な利点を有している(GygiおよびAebersold、2000年、Curr. Opin. Chem. Biol.、第4巻(5)、489−494頁; Mannら、2001年、Ann. Rev. Biochem.、第70巻、437−473頁)。
【0048】
たんぱくの機能分析を評価する最終工程は、表面プラズモン共鳴(SPR)などの技術に関係するものであって、たとえば既知のたんぱくおよびそのターゲットの、生体分子の相互作用に関する詳細な情報を提供することが可能である。SPR現象は、特定の角度にて偏光が全反射される条件下で、光学インターフェースにて薄い金属膜中に生じる。その手順は、光学共鳴の微妙な変化を測定し、この膜の反対側の媒体の屈折率に感受性である。屈折率の変化は、分子が金属表面に付着している生体分子に結合するとき、または生体分子から解離するときに生じる。このように、リアルタイムの結合活性プロフィールが会合または解離の相互作用特性によって生成される(Greenら、2000年、Biomaterials、第21巻(18)、1823−1835頁; RichとMyszka、2000年、Curr. Opin. Biotechnol.、第11巻(1)、54−61頁; McDonnell、2001年、Curr. Opin. Chem. Biol.、第5巻(5)、572−577頁)。
【0049】
一般に、技術的進歩は種々のたんぱくの検出の感度および定量化を改良することに向けられてきた。さらに、進歩は、2DEを旧式のものとし得る、つまりゲルから独立した方法を提供することに向けられてきた。2DEパターンの複雑さ、および低い存在量の、小さい(10kDa未満の)または難溶性の(たとえば膜結合の)たんぱくに対する固有のバイアスが直接プロテオームにおけるたんぱくの(半)定量的測定を可能にする技術の開発を誘発してきた(Regnierら、2002年、J. Mass Spectrom.、第37巻(2)、133−145頁; BauerとKuster、2003年、Eur. J. Biochem.、第270巻(4)、570−578頁)。
【0050】
2DEの使用を避ける非常に適した手段は、Gygiら(1999年)(Nat. Biotechnol.、第17巻(10)、994−999頁)によって開発されたICAT(同位体コードアフィニティータグ)手順である。この手順は、安定同位体での特異的標識に基づくMSによって2つの異なる広範囲のたんぱく発現プロフィールを迅速に比較することができる。第1世代ICAT試薬は、i)たんぱくのシステイン(Cys)残基を標識できるチオール-特異的たんぱく反応基(ヨードアセトアミド)、ii)たんぱくの2集団の特異的標識のための8つの水素(1H)原子(d0、軽同位体)または8つの重水素(2H)原子(d8、重同位体)のいずれか一方を含有する2つの異なるリンカー部分、およびiii)標識ペプチドを選択的に単離できる、ほとんどがビオチンであるアフィニティタグ、から成っていた。
【0051】
ICAT手順それ自身は、たんぱくの複雑な混合物中のシステイン側鎖の還元およびアルキル化を含み、これによって、ある細胞状態のたんぱくはd0-標識タグで標識され、第2の細胞状態(たとえば病状)のたんぱくはd8型タグで標識される。その後、MS分析に適したフラグメントを提供するために、2つの混合物は統合され、たんぱく分解にかけられる。ペプチドの標識サブセットを取出すために、たんぱく分解ペプチドの複雑な混合物は、アフィニティカラムクロマトグラフィによって精製される。その後、サンプルは、d0およびd8同位体の相対存在量に基づいてたんぱくの定量的情報つまり存在量を提供するためのLC-MSと、ペプチド分子量およびアミノ酸配列情報に基づいて定性的情報を提供するためのLC-MS-MSとの組合せによって分析される。
【0052】
重ICAT試薬で標識されたペプチドと軽ICATで標識されたペプチドとの不適切な共溶出、およびアフィニティタグで捕獲された標識ペプチドの低い回収率が、第2世代のICAT試薬の開発をもたらした。これらのICAT試薬は、i)たんぱくのシステイン(Cys)残基を標識できるチオール-特異的たんぱく反応基(ヨードアセトアミド)、ii)たんぱくの2集団の特異的標識のための炭素原子(軽い)または炭素同位体(重い)のいずれか一方の規定数を含有するリンカー部分、iii)標識ペプチドを選択的に単離できる、ほとんどがビオチンであるアフィニティタグ、ならびにiv)MSおよびMS-MS分析に先立ちICAT試薬タグのビオチン部分を除去できる酸開裂部位、から成る。たんぱく反応基は遊離システインのアルキル化によって同位体コードアフィニティタグをたんぱくに共有結合させる。ICAT技術はたんぱくのシステイン残基の標識に基づいているので、システインを含有しないたんぱくはICATで検出されないだろう。さらに、システイン残基は御しやすいペプチド;つまり、たんぱく分解に由来するおよそ600〜3500Daの分子量(MW)のペプチド、に存在しなければならない。このMW範囲外のペプチドは、たんぱく同定のための必須の定性的情報を提供するのに充分な数のアミノ酸を含んでいないか、衝突活性化解離によるMS-MSフラグメント化に適していないほど大きいか、のどちらかだろう。さらに、システインに基づくICATタグは、修飾が偶発的にCys含有ペプチドに生じなければ、リン酸化反応などの翻訳後の修飾に基づくプロテオームにおける変化に関する情報を生成できない。
【0053】
化学的標識手順および代謝標識手順によってたんぱくを特異的に標識する別の種々の方法が開発されてきた(GosheとSmith、2003年、Curr. Opin. Biotechnol.、第14巻(1)、101−109頁)。化学的方法は、個々のペプチド、またはたんぱくのトリプシン消化物の、古典的なたんぱく修飾に基づいている。たとえば、リジン(Lys)残基は、4つの2H原子(d4)を含有する2-メチルオキシ-1H-イミダゾールの重誘導体を用いて、C-末端にて標識することが可能である(Petersら、2001年、Rapid Commun. Mass Spectrom.、第15巻(24)、2387−2392頁)。Lys残基はまた、mass-coded abundance tagging(MCAT;CagneyおよびEmili、2002年、Nat. Biotechnol.、第20巻(2)、163−170頁)とよばれる処理において、O-メチル-イソ尿素を用いる特異的グアニジン化によって標識することが可能である。メチオニン(Met)残基は、たとえば(d0/d4)-ニコチン酸の活性エステルを用いて標識することが可能である(Shenら、2003年、Molec. Cell Proteomics、第2巻、315−324頁)。Cys残基は、N-(d0/d5)-エチル-ヨードアセトアミドを用いる特異的アルキル化によって標識することが可能である。ペプチドの一級アミンは、N-アセトキシ-(d0/d3)-スクシンイミド誘導体を用いて特異的に標識することが可能である(ChakrabortyおよびRegnier、2002年)。
【0054】
しかし、一般に、前述の標識方法は、MS分析前に混合物の複雑さを軽減するために、2DE分離または−ICATの場合−アフィニティクロマトグラフィ精製を必要とする。iTRAQおよびiPROTは、特異的スクリーニングのために同位体ではなく標識試薬の異なる異性体を使用する同重同位の標識技術である。
【0055】
関連する標識化学反応はまた、1つには化学試薬の不安定さおよびその所望されない交差反応性によって、安定性を欠いており、これは得られるシグナル対に不均一性をもたらす。また、平均ヒトプロテオーム範囲は、たとえばICATについて85%と、比較的低い。これらの要因が、プロテオーム研究における、特に(自動化された)ハイスループット用途の場合の、特異的標識方法の利用を妨害している。
【0056】
現在、プロテオーム研究およびルーチン(診断)試験の双方における大規模な分析を支持できる、ペプチドの特異的標識のための安定した手順の必要性がある。したがって、そのような標識手順が、特異性の高いアミノ酸ターゲット残基の標識、プロテオームの広い範囲、および安定した標識条件を示すことが所望される。また、標識は、複雑な質量スペクトルをもたらすべきではなく、つまり、多すぎないアミノ酸残基が標識されるべきである。好ましくは、選ばれたアミノ酸の標識を飽和方法で実行することが可能であり、好ましくは、重同位体標識分子が軽標識分子と同一の、たとえば同じ保持時間といったクロマトグラフ特性を有するべきで、好ましくは、重同位体標識分子が軽標識分子と同一のイオン化特性を有するべきで、理想的には、標識がたんぱくの酵素消化を妨害すべきではない。
【0057】
さらに、特異的標識後、生成物は、重量分析にかけられる前に、アフィニティクロマトグラフィ以外の別の手段によって分離することが可能であることが所望される。現在の技術に対してさらに所望される改良は、MSに先立つ精製工程の省略である。あるいは、その代わりに、標識分子と非標識分子間の分別がMS-MS中になされ得るのが有利である。
【0058】
驚いたことに、本発明に従う標識遷移金属錯体が使用される標識方法は、これらの必要性の1以上を満たすことが分かった。この方法は、質量分析のイオン化処理を乗り切る、物質と標識間との結合をもたらすのが利点である。
【0059】
したがって、本発明に従う標識遷移金属錯体という新規カテゴリは、生物有機分子の特異的標識方法においてタグとして使用可能であることが利点である。その標識錯体は、特異的発現標識のための既存の試薬に対する改良を構成し、先行技術の試薬の種々の問題を回避する。
【0060】
本発明はまた、化学的または生物学的物質の質量分析による区別を可能にする方法に関し、その方法は、物質を本発明に従う少なくとも1つの標識遷移金属錯体で特異的に標識する工程を含む。
【0061】
さらに、本発明は、物質または物質を含有するサンプルの質量分析を容易にするために、化学的または生物学的物質の分子量に規定シフトを創出するための本発明に従う標識遷移金属錯体の使用に関する。
【0062】
標識遷移金属錯体の結合に際しての化学的または生物学的物質の分子量における規定シフトの創出は、最終的には標識遷移金属錯体の物質への付着に起因する。したがって、シフトは、基本的に、標識遷移金属錯体の質量マイナス脱離基の脱離部分の質量に比例する物質の質量の変化に一致する。この質量変化は質量分析によって決定することが可能である。
【0063】
本発明はまた、本発明に従う質量分析によって化学的または生物学的物質を区別可能にする方法に関し、物質を、少なくとも1つの標識遷移金属錯体で特異的に標識することを含み、適当な標識遷移金属錯体とは、先に記載されたものである。それぞれが独自の標識特異性を有する2つの異なる標識遷移金属錯体の使用は、1つのサンプル内の異なる物質を特異的に標識することを可能にする。
【0064】
別の側面において、本発明は化学的または生物学的物質の質量分析方法に関し、この方法は、物質を本発明に従う少なくとも1つの標識遷移金属錯体で特異的に標識する工程、および、質量分析によって物質を分析する工程を含む。
【0065】
本発明の方法の好ましい実施形態において、化学的または生物学的物質は異なるサンプルに由来する。
【0066】
本発明の方法のさらに他の好ましい実施形態において、物質を特異的に標識する工程は、本発明に従う少なくとも2つの標識遷移金属錯体によって実行され、この標識遷移金属錯体は分子量が異なり、この分子量差は1Daである。
【0067】
本発明の方法の好ましい実施形態において、標識遷移金属錯体は、同じ標識特性、液体クロマトグラフィ(LC)における、たとえば同じ疎水性または親水性などの、同じ性質、および同じ金属酸化状態を示す。
【0068】
本発明の方法のさらに他の好ましい実施形態において、スペーサを含有する標識遷移金属錯体は、質量分析における親イオンスキャニングまたはニュートラルロススキャニングに適している。
【0069】
本発明の方法のさらに他の好ましい実施形態において、遷移金属同位体フィンガープリントは標識物質の同定手段として使用することが可能である。
【0070】
標識遷移金属錯体間の分子量差は、遷移金属錯体またはこれに付着した配位子、スペーサ、反応性部分および/もしくはマーカのあらゆる部分における、特定の同位体、原子、原子団、分子、もしくは分子団の存在または不在による。
【0071】
本発明の好ましい実施形態において、標識遷移金属錯体間の分子量差は、たとえば第1の標識遷移金属錯体が軽同位体を含有し、少なくとも第2の標識遷移金属錯体が重同位体を含有するといった、錯体中の異なる安定同位体の存在による。
【0072】
分子量に差異を生じさせる安定同位体は、標識遷移金属錯体のあらゆる部分に含有されてもよい。安定同位体は、スペーサを利用して適切に、不活性三座配位子部分に含められるか、三座配位子部分に付着される。
【0073】
別の側面において、本発明は少なくとも2つの異なる分子量の標識遷移金属錯体のセットを提供する。
【0074】
本発明のさらなる側面は、少なくとも2つの異なる分子量の標識遷移金属錯体のセットを含む部品のキットに関する。好ましくは、分子量の差異は遷移金属錯体間の少なくとも1つの異なる安定同位体の存在に起因する。
【0075】
ここで使用される「化学的または生物学的物質」は、硫黄、酸素、リン、および/または窒素を含有する1つ以上の反応部位を含むものとして解釈されるべきであり、このような反応部位を含むように(たとえばセリン、トレオニン、またはチロシン残基の組み込みによって)修飾された物質を含んでいる。
【0076】
さらに、「物質」は、微生物、ウイルスもしくはプリオンに、または、硫黄反応型、リン反応型、酸素反応型もしくは窒素反応型の1つ以上の反応部位を含む物質、もしくは、それらによって作られた、マイクロアレイ、マイクロタイタープレート、試験紙もしくは試験管などの、製品に関する。特に、物質は生物有機化合物を含む、無機または有機化合物に関する。
【0077】
ここで使用される「生物有機分子」は、生物由来炭素含有分子を示す。また、生物有機分子は、たとえば治療効果または予防効果、免疫応答、代謝過程などを誘発する、またはそれらに影響を及ぼすことによって、生物系における作用を誘発する、または作用に影響を及ぼすことのできる化合物を示す。
【0078】
「標識」という用語は、ここでは、標識金属錯体を物質に結合させる/付着させるプロセスを示すために使用される。
【0079】
「特異的標識」という用語は、ここでは、反応部位間、物質間またはサンプル間にマーカの不均等な分布をもたらす標識反応を示すために使用される。特異的標識は、たとえば特異的に標識されたP-、O-、S-およびN-反応部位を有する物質などの、特徴的な反応部位にて異なるマーカを有する物質をもたらす。特異的標識はまた、1つのサンプルから異なるマーカまたは異なるマーカ密度を有する同一の物質をもたらし、たとえば、1つのサンプルは特異的に標識される同一のたんぱくを有し得る。特異的標識はまた、2つのサンプルから異なるマーカまたは異なるマーカ密度を有する同一の物質をもたらす。そのような特異的標識型は、細胞間のプロテオーム、ゲノムまたは代謝産物の比較分析に非常に適している。
【0080】
ここで同意語として使用される「マーカ」、「タグ」または「標識」は、遷移金属錯体を介して物質に付着することが可能であり、物質を検出、測定または視覚化するのに使用することが可能であるあらゆる部分である。
【0081】
ここで使用される化合物の「残基」は、化合物それ自体、またはより大きな物質の部分、たとえばたんぱく中のアミノ酸残基として解釈されるべきである。
【0082】
「異なる安定同位体」は、ここでは、原子の安定した同位体であって、自然界で最も多く存在するその原子の同位体とは別の同位体として定義される。C(炭素)の場合、13C(1.07%)は、通常存在する12C(98.93%)に対し、異なる安定同位体である。遷移金属の場合、たとえばPt(白金)については、192Pt(0.79%)、194Pt(32.9%)、196Pt(25.3%)、および198Pt(7.2%)は、通常存在する195Pt(33.8%)に対し、異なる安定同位体である。
【0083】
標識遷移金属錯体に結合される物質は、(硫黄含有反応部位に付着するとき)Me-S付加化合物として、(窒素含有反応部位に付着するとき)Me-N付加化合物として、または一般にMe-付加化合物として示される。
【0084】
今後、硫黄含有反応部位はS-反応部位として、窒素含有反応部位はN-反応部位として示される。同様に、酸素含有反応部位はO-反応部位として、リン含有反応部位はP-反応部位として示される。
【0085】
化学的または生物学的物質は、たとえば化学的、生物学的または医学的研究もしくは診断において、物質を同定、検出、視覚化、分離、精製、単離、定量化またはモニターするために、検出マーカで標識されることは当該技術において既知である。種々の標識方法が当該技術から既知である(レビューのため、Hermanson、1996年、Bioconjugate techniques、Academic Press、ISBN 0-12-342335-Xを参照されたい)。特定の検出マーカおよび特定の標識方法を選択する際には、多数の要因が関与する。そのような要因は、物質の性質、標識反応の条件、標識反応中の感度、物質に対する特異性および標識物質の検出限界を含む。
【0086】
種々の反応部位に対する標識遷移金属錯体の反応性は、広範な様々な物質に対する迅速な標識反応および優れた感度を可能にするので、多数の用途において利点がある。
【0087】
本願発明者は、標識反応におけるリンカーとして、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)およびマレイミドなどのリンカーに優る、標識遷移金属錯体を使用する特別の利点は、本発明に従う標識遷移金属錯体が質量分析にルーチンで適用できるということであると見出した。さらに、最も多く存在する遷移金属原子とその異なる安定同位体との間の特定の構成および比が、質量分析における標識物質の同定に規定手段を提供することが可能である。標識反応に本発明の標識遷移金属錯体を使用するさらなる利点は、使用される反応性部分に応じて、そのような錯体が広範な種々の化学的物質の標識を支持できることである。
【0088】
別の利点は、たんぱくが、ヒスチジン(His)、メチオニン(Met)および/またはシステイン(Cys)残基にて適当な標識遷移金属錯体によって標識されることである。これは、ペプチド鎖の側基をより多く標識し、よってより高い標識密度を達成できる可能性を提供する。これはまた、ペプチド鎖のさらなるアミノ酸残基の標識を可能にする。
【0089】
生体たんぱくおよび/またはペプチドは、システインを含むとは限らず、システイン標識は、プロテオームにおけるたんぱくの85%のみの検出を可能にするだけである。メチオニン残基を標識できれば、プロテオームにおけるたんぱくの97%の検出が可能になる。組合せにより、本発明の標識錯体の使用は98.35%のプロテオーム範囲を提供する。したがって、新しいターゲットアミノ酸を選択できるこの見込みは、プロテオーム研究において重要な利点である。
【0090】
さらに、本発明に従う標識遷移金属錯体での標識反応特異性は、化学的または生物学的物質の硫黄含有反応部位と窒素含有反応部位とを区別するように制御される。したがって、本発明に従う標識遷移金属錯体を用いることで、物質の標識を、種々の反応部位を一緒に含有する物質または物質団内の特定の反応部位に向かわせることができる。
【0091】
本発明に従う標識遷移金属錯体の使用の1つの実施形態において、サンプル中の化学的または生物学的物質は、欧州特許出願公開第1262778号明細書に記載される方法に従って特異的に標識される。
【0092】
好ましい実施形態において、本発明に従う標識遷移金属錯体の使用は、構成が比較されるべき2つの異なるサンプル中に存在する化学的または生物学的物質の特異的標識を含む。好ましい使用は、たんぱく発現プロフィールの測定、またはプロテオームの結果と、参照サンプル由来の対応結果とを比較するために、試験サンプル中のプロテオームの測定を含む。
【0093】
たんぱくの特異的標識手順における標識遷移金属錯体の使用のさらに別の利点は、後続のトリプシン消化に妨害がないことである。これは、MS分析に適当な長さのペプチドを提供するために、トリプシン消化にかけられる細胞プロテオームの標識手順において、特に有利である。
【0094】
1つのサンプルに由来する物質つまり混合物として生じる物質を標識できる見込みとは別に、化学的または生物学的物質は異なるサンプルに由来してもよい。たとえば、特異的標識は、参照サンプル中の物質を標識することなく試験サンプル中の物質を標識すること、またはその逆を含み得る。その後、両サンプル中に存在する同一の物質は、試験サンプル中の物質の分子量における規定シフトの結果として、質量分析によって区別することが可能である。あるいは、特異的標識は両サンプル中の物質の標識を含んでもよい。そのような例において、質量分析によって物質を区別可能にすることは、物質の、少なくとも2つの異なる分子量の標識遷移金属錯体による特異的標識を含む。
【0095】
特異的標識方法は、広範な種々のバッファ溶液中で、および幅広いpH範囲にわたって実行される。適したバッファ溶液は、TRIS/グリシンおよびリン酸バッファなどの一般に使用されるバッファをすべて含む。Tween-20、Triton X-100またはSDSなどの界面活性剤が標識混合物中に存在してもよい。バッファが、一般に使用される濃度にて、塩酸、硝酸、硫酸またはリン酸のナトリウム塩、カリウム塩またはアンモニウム塩などの塩の存在は、標識反応にほとんど影響を及ぼさない。MSにおいて好ましい標識用バッファは、蒸発後に痕跡残存物を残さない、たとえば酢酸アンモニウムなどを含有するバッファである。
【0096】
特異的標識反応に関する反応パラメータはまた、物質が特異的に標識されるように選択され、特定のpH値の選択を含む。ここで使用されるpHは、20℃の水溶液のpH値として解釈されるべきである。一般に、Me-S付加化合物の形成はpH非依存的で、Me-N付加化合物の形成はpH依存的である。好ましい実施形態において、1つ以上のS-反応部位は、そのpHを使用することによって、1つ以上の窒素含有部位に優先して選択的に標識される。
【0097】
指針として、物質の標識されるべきでないすべてのN-反応部位の最低pKaを下回るpHに標識反応のpHを選択することで、1つ以上のS-反応部位の特異的標識が可能になる。熟練者は、pKaに加えて、標識されるべき物質付近の微環境の影響を含む、他の要因が影響することを理解できよう。一般に、S-反応部位は、酸性pHにてN-反応部位に優先して特異的に標識される。
【0098】
理論的には、Me-S付加化合物の形成は1工程プロセスである。反応基は、Sが白金に電子対を提供すると、白金錯体を離れる。このプロセスは、Me-XのMe-Sへの直接変換であって、pH非依存的であると考えられる。他方、N供与体は、N置換に先立ち、酸素による白金錯体の反応基の置換を必要とする。初めに、Me-XはMe-Oになり、結果としてMe-Nを生じる。これは、pHを変化させることで第1工程が制御することが可能である2工程スキームである。したがって、溶液のpHに影響を及ぼす要因は、Me-N付加化合物の形成を妨害するかもしれない。
【0099】
イオンの存在はまた、N-反応部位に対する遷移金属錯体の選択性を制御するために用いることが可能である。実施形態において、1つ以上の脱離配位子、好ましくはアニオン部分が、S-反応部位の分別標識を増大するために、標識遷移金属錯体をN-反応部位に標識するのを阻害するのに用いられる。そのような脱離配位子の好ましい例は、Cl−、NO3−、HCO3−、CO32−、SO32−、ZSO3−、I−、Br−、F−、酢酸イオン、炭酸イオン、リン酸イオン、硝酸エチルイオン、シュウ酸イオン、クエン酸イオン、ホスホン酸イオン、ZO−および水を含む。ここで、Zは、水素部分または1〜10の炭素原子を有するアルキルまたはアリール基として定義される。特に良好な結果は、特に好ましくは塩化物イオンであるアニオン部分を含む塩を用いることで達成される。対イオンはアルカリカチオン、アルカリ土類カチオン、または標識するのにも用いられるカチオンであるのが好ましい。好ましい実施形態において、N-反応部位への標識の阻害に用いられるアニオン部分の総イオン強度は、少なくとも0.1mol/lである。より好ましくは、総イオン強度は0.1〜0.5mol/lの範囲にある。
【0100】
遷移金属イオンの存在もまた、標識されるべき反応部位の選択のために使用することが可能である。特に、そのようなイオンは、S-反応部位の標識を妨げるか鈍化させ、または標識Me-S付加化合物を不安定にさせて、効果的に1つ以上のN-反応部位がS-反応部位に優先して特異的に標識されるのに、適していることが見出されている。この物質またはサンプルの特異的標識の型式は、一部の物質のみが分析されなければならないときに、特に利点がある。
【0101】
前述のパラメータに加えて、本発明に従う方法はさらに、好ましくは0〜120℃の範囲で、より好ましくは20〜70℃の範囲で変化する温度;一般的に1分〜48時間の範囲の、好ましくは10分〜24時間の範囲の、より好ましくは25分〜15時間の範囲の反応時間;試薬の濃度、試薬のモル比、標識遷移金属錯体の総純荷電などのパラメータによって微調整される。これらのパラメータは、当該技術において既知であるいずれかの方法で、特定用途に応じて調整される。標識遷移金属錯体の総純荷電は、たとえば、中性pHでのヒスチジンにおけるMe-N付加化合物形成の特異性に影響を及ぼす。フルオレセイン-およびシアニン遷移金属錯体などの中性Me-錯体は、Me-N付加化合物を形成し、一方で、たとえばローダミン-およびジニトロフェノールMe錯体といった正荷電遷移金属標識錯体は、効果的でないか、効果が劣る。正荷電標識遷移金属錯体は、ペプチド、たんぱくなどの等電点以上では、N付加化合物に対して特異的標識を示す。N-反応部位のS-反応部位に優先する選択的標識、またはその逆を可能にすることとは別に、本発明に従う方法はまた、欧州特許出願公開第1262778号明細書に記載されるような正しい条件を選択することによって、特徴的なN-反応部位または特徴的S-反応部位を分別することができる。
【0102】
単一物質の特異的標識のための前述の指針はまた、異なる化合物、および異なる起源由来の化合物の特異的標識に必要な、または最適な標識を得るために採用することが可能である。
【0103】
本発明に従う化学的または生物学的物質の質量分析方法は、まず、MSによるそれらの物質の区別を可能にしなければならず、したがって、前述の少なくとも1つの標識遷移金属錯体で物質を特異的に標識する第1工程を含む。さらに、その方法は質量分析によって物質の分子量を分析する工程を含む。熟練者は、MS検出の種々の可能性に精通している。
【0104】
MS検出に先立ち、異なるサンプル由来の物質が任意に混合されて、混合物がMS分析にかけられる。特異的標識物質またはサンプルをMS分析に先立って混合する利点は、MS条件が、試験される物質すべてについて等しくなり、分子量のシフトが容易に識別することが可能であることである。
【0105】
また、MS検出に先立ち、標識物質は、たとえばアフィニティタグ物質のアフィニティ単離によって、または、特に本発明の方法においてはイオン交換クロマトグラフィによって、もしくは蛍光活性化細胞分類(FACS)との組合せにおいて蛍光マーカを用いることによって、非標識物質から精製することが可能である。さらに、本発明の標識遷移金属錯体は、先に精製することなく、MS-MS中に(特異的)標識物質を分離する機会を提供する。
【0106】
したがって、サンプル比較を含む方法において、両サンプルは、精製工程が両サンプルに実行することが可能であるようにするために、異なる分子量の標識遷移金属錯体で標識されるのが好ましい。このようにすることで、精製バイアスは両サンプルについて等しくなる。捕獲試薬に結合できる標識はすべて、アフィニティ標識として使用することが可能である。本発明の好ましい実施形態において、アフィニティ標識はビオチン、ジニトロフェノール(DNP)、フルオレセインまたはDyomics 647染料であり、好ましい捕獲試薬は、それぞれ、ストレプトアビジンもしくはアビジン、抗-DNP、抗-フルオレセイン、および抗- Dyomics 647である。アフィニティタグ物質のアフィニティ単離後、それらのいくつかは同位体で標識され、アフィニティ標識と捕獲試薬との相互作用は、単離材料のMS分析を可能にするように、崩壊すなわち切断される。アフィニティ標識は、置換配位子の添加によって捕獲試薬から置換されて、遊離アフィニティ標識またはアフィニティ標識の誘導体となり、また、溶媒(たとえば溶媒の種類またはpH)もしくは温度条件を変えることによって、結合錯体は、化学的、酵素的、熱的または光化学的に開裂されて、MS分析のために単離物質を放出することが可能である。
【0107】
MS検出に先立ち、標識物質は、予め選択された分子種の検出を可能にするために分離される。たとえば液体クロマトグラフィ(LC)またはガスクロマトグラフィ(GC)による事前の分離によって、たんぱくの複雑な混合物のMSによる分析が可能となる。熟練者は特定の用途に必要な、または最適な分離手順を決定することができるだろう。
【0108】
化学的または生物学的物質の質量分析方法は、試験サンプルおよび参照サンプルの比較分析を含んでもよい。特異的標識後、2つのサンプルが混合され、混合物がクロマトグラフの分離に続いて質量分析にかけられると、標識遷移金属錯体で標識された物質は、非標識物質と比較して予測可能な分子量シフトを示すだろう。このように、本発明の方法は、サンプル間の化学的または生物学的物質の比較質量分析を可能にする。
【0109】
そのような方法はまた、分子量に基づいて試験サンプルの物質を参照サンプルの物質から区別するために、少なくとも2つの異なる分子量の標識遷移金属錯体を用意し、サンプル間で物質を特異的に標識することを含む。言い換えれば、試験サンプル物質は第1の分子量の標識遷移金属錯体で標識され、参照サンプル物質は第2の分子量の標識遷移金属錯体で標識される。必要とされる分解能にもよるが、1Daという標識遷移金属錯体間の分子量差で充分である。先のセットにおける標識遷移金属錯体間の分子量差は2Daを超えるのが効果的で、4Daを超えるのがより効果的で、6Daを超えるのが好ましく、8Daを超えるのがより好ましく、10Daを超えるのがさらに好ましい。
【0110】
異なる分子量を有する2つの標識遷移金属錯体の目的は、化学的には実質的に同一でありながら、質量によって区別可能な試薬のペアまたはセットを生成することである。
【0111】
分子量の差異は、遷移金属錯体の原子または配位子を、より大きいまたはより小さい分子量の原子または配位子と置換することによってもたらすことが可能である。適当な質量変換配位子は、脂肪族基、炭水化物、アルコール官能基、およびたとえばF、ClおよびBrなどのハロゲンを含む。
【0112】
分子量の差異はまた、遷移金属錯体の原子を別の安定同位体と置換することによってもたらすことが可能である。加えて、たとえば錯体中の1つ以上の原子を安定同位体と置換することによって、遷移金属錯体は異なる態様で同位体標識することが可能である。たとえば、水素は重水素で、12Cは13Cで、14Nは15Nで、195Ptは192Pt、194Pt、196Ptまたは198Ptで、16Oは18Oで、置換することが可能である。錯体に存在するPまたはS原子もまた置換することが可能である。好ましい実施形態においては、1Hおよび2H、12Cおよび13C、14Nおよび15N、16Oおよび18O、またはそれらの組合せが使用される。さらに、遷移金属同位体、たとえばPt同位体の混合物の使用は、標識物質の識別をより容易にさせる質量分布の独特のパターンを提供する。
【0113】
さらに別の実施形態において、遷移金属錯体に付着したマーカが、前述の錯体に分子量差を提供する。このように、分子量差がマーカ(の存在)に起因してもよい。好ましい実施形態において、複雑性は単同位体白金および15N、13Cおよび/またはD標識配位子を使用することで軽減される。
【0114】
本発明は、前述のような少なくとも2つの異なる分子量の遷移金属錯体のセットに関する。そのようなセットは、細胞および組織中における広範囲のたんぱく発現プロフィールの定性分析、特に定量分析に使用することが可能である。
【0115】
さらに別の側面において、本発明は前述のような少なくとも1つの異なる安定同位体を含有する遷移金属錯体に関する。
【0116】
さらに、本発明は、少なくとも1つの異なる安定同位体を含有する標識遷移金属錯体で標識された化学的または生物学的物質に関する。その物質はアミノ酸、ペプチドまたはたんぱくであるのが好ましい。
【0117】
本発明に従う遷移金属錯体は、(絶対的)定量に非常に適している。これは、内部物質標準を用いて単一のサンプル中の物質の絶対量を決定する方法である。そのような方法の焦点は、注目する重要な物質、またはその修飾状態に合わせられる。この方法は、物質が標識されることを必要としないが、質量分析に先立ち特定の内部標準が作製されることを必要とする。適当な内部標準は、調査下の物質と同じではなく類似した特徴を有する物質である。
【0118】
本発明のさらなる側面は、少なくとも2つの異なる分子量の遷移金属錯体のセットを含む部品のキットに関する。好ましくは、分子量の差異は遷移金属錯体中の異なる安定同位体の存在に起因する。部品のキットはさらに、反応取扱説明書、1つ以上の試験サンプル、1つ以上の他の試薬、1つ以上の試験管または試験紙など、および、バッファ、マーカ調製品およびイオン強度を調整する調製品から形成される群から選ばれる1つ以上の調合物を含む。そのようなキットは本発明に従う方法を採用するのに非常に適している。
【0119】
本発明は、たんぱく混合物中のたんぱくまたはたんぱく機能の迅速な定量分析のための分析用試薬、およびこれらの試薬を用いる質量分析に基づく方法を提供する。分析法は、細胞および組織中における広範囲のたんぱく発現プロフィールの定性分析、特に定量分析、つまりプロテオームの定量分析のために使用することが可能である。この方法はまた、細胞、組織または生体液中の発現レベルが、サンプルが由来した細胞、組織または有機体の刺激(たとえば薬剤投与または潜在的に毒性の物質との接触)によって、環境変化(たとえば栄養水準、温度、時間の経過)によって、または条件もしくは細胞状態の変化(たとえば病状、悪性腫瘍、部位特定的突然変異、遺伝子ノックアウト)によって影響されるたんぱくをスクリーニングし、同定するために採用することが可能である。そのような選別において同定されたたんぱくは、変化した状況のためのマーカとして機能し得る。たとえば、正常および悪性細胞のたんぱく発現プロフィールの比較は、存在または不在が悪性腫瘍の特性および診断であるたんぱくの同定をもたらし得る。
さらに、本発明は以下の限定しない実施例によって説明される。
【0120】
実施例
I.三座配位子の作製および遷移金属錯体形成
以下の型の配位子、それらのK2PtCl4との錯体形成、ならびにそれに続く、NHSエステルとの反応およびマーカの組み込みのための錯体のBOC-脱保護が記載される。
【0121】
【化2】
【0122】
2の合成(図5:スキーム1)(ボールド体タイプの数字は、参照される図およびスキームに示される化合物を指す。たとえば本実施例では、図5:スキーム1の化合物が参照される)
【0123】
1,N-Boc-へキサン-1,6-ジアミン(140.5mg、649.5μmol)をH2O/EtOH 1/1(20ml)の混合物に溶解した。アクリロニトリル(425.5μl、6.495mmol)をその溶液に添加した。混合物を一夜60℃で還流し、乾固して、純粋な油性の薄茶色の物質が生じた。残さがCH2Cl2に溶解され、MgSO4上で乾燥された。ろ過および減圧下での溶媒の除去によって2が得られた。(収量:166.8mg、95%)。1H NMR (CDCl3):δ 1.35(4H、m、NH(CH2)2(CH2)2);1.43(13H、m、NH(CH2)(CH2)CH2)2(CH2)+tBu);2.60(6H、m、NH(CH2)(CH2)5+(CH2)(CH2)CN);2.94(4H、m、CH2CN);3.1(2H、m、(CH2)NHBoc);4.55(1H、ブロードピーク、NHBoc)。
【0124】
3の合成(図5:スキーム1)
2(153.0mg、474.5μmol)をCH2Cl2(20ml)に溶解した。溶液を0℃で30分間攪拌した後、Et2O中のLiAlH4溶液(1M、2.9ml、2900μmol)を滴加した。混合物を0℃で90分間攪拌し、室温になるまで静置した。過剰のLiAlH4を水4mlを滴加して注意深く分解した。Li塩をろ過によって除去し、水(10ml)およびCH2Cl2(10ml)で洗浄した。水層が分離し、CH2Cl2(3×10ml)で抽出した。有機抽出物を混合し、MgSO4上で乾燥し、減圧下で乾固して、無色の油として3を得た(収量:99.3mg、63%)。1H NMR (CDCl3):δ 1.23(4H、m、NH(CH2)2(CH2)2);1.38(13H、m、NH(CH2)(CH2)CH2)2(CH2)+tBu);1.52(4H、m、(CH2)(CH2)NH2);2.32(2H、m、N(CH2)(CH2)5);2.44(4H、m、N(CH2)(CH2)2NH2);2.74(4H、m、CH2NH2);3.02(2H、m、(CH2)NHBoc);3.30(4H、ブロードピーク、NH2);4.72(1H、ブロードピーク、NHBoc)。
【0125】
6の合成(図7:スキーム3)
CH2Cl2 70ml中の塩化クロルアセチル溶液165μl(233.97mg、2.072mmol)を、秒毎5滴の速度で、室温で、N-アセチルエチレンジアミン198.50μl(211.60mg、2.071mmol)、CH2Cl2 140mlおよび1M NaOH水溶液2071.6μl(80.77mg、2.072mmol)の混合物に添加した。添加の完了後、その混合物を一夜室温で攪拌した。溶媒を減圧下で除去した。固体をMeOHで洗浄し、NaCl塩を遠心分離によって分離した。澄明なMeOH抽出物を減圧下で乾燥し、MeOHによる洗浄および遠心分離工程を、NaClが分離されなくなるまで繰返した。MeOH抽出物を減圧下で乾固し、6を得た。
【0126】
7の合成(図7:スキーム3)
MeCN中の6の溶液(17mlあたり1mmol)を、秒毎5滴の速度で、75℃で(6の溶液を添加するフラスコの上端に還流冷却器が導入されている)、(6のモル数に対して)K2CO3の3M当量、(6のモル数に対して)KIの1M当量、および(6のモル数に対して)1、つまりMeCN中のN-Boc-へキサン-1,6-ジアミン(34mlで1は1mmol)の1M当量を含む混合物に添加した。添加の完了後、混合物を一夜還流した。その後、溶媒を減圧下で除去した。固体をCH2Cl2で洗浄し、K+塩をろ過した。CH2Cl2抽出物を減圧下で乾固し、7を得た。
【0127】
8の合成(図7:スキーム3)
3の作製に関して記載した手順を、3の代わりに7を用いて繰返し、7を得た。
【0128】
K2PtCl4とのBoc三座配位子(スキーム2の3(図6)およびスキーム4の8(図8))の錯体形成に関する一般的なプロトコール
K2PtCl4およびLの1M当量をDMFに添加した(mlあたりのK2PtCl4は4.69×10−6mol)。ここでLは使用した三座配位子である。その後、混合物を40℃で一夜熱し、その間に、赤色K2PtCl4塩が溶解した。溶液を乾固し、K+塩を水で洗浄した。不溶性固体をろ過し、Et2Oで洗浄し、減圧下で乾燥した。
4:195Pt NMR (MeOD):δPt-2520ppm。MS (EI+): m/z 561 [M−Cl]+
【0129】
Boc-脱保護および続くマーカのPt錯体への組み込みに関する一般的なプロトコール
[Pt(L)Cl] Cl 126μlを200mM HCl(3ml)に溶解した。その後、その溶液を50℃で一夜攪拌した。1M NaOHの添加によってpHを8に調整した。その後、5×スクシンイミド結合緩衝液(2ml)を溶液に添加した。DMF(5ml)中のNHS-スクシンイミドエステル(63μmol)を続いて滴加した。その溶液を遮光下で室温にて一夜攪拌した。その後、1mg/mlの濃度で溶解した種を、セファデックス カラム(G15)に通して精製し、減圧下で溶媒を除去して得た。
Boc脱保護後の4:195Pt NMR (MeOD):δPt-2512ppm。MS (EI+):m/z 461 [M−Cl]+
【0130】
II.K2PtCl4のジエチレントリアミンとの錯体形成
ジエチレントリアミンは市販のものが利用可能である(Aldrich、カタログ#D9,385-6)。K2PtCl4(1g)をミリQ(25ml)に溶解した。溶解しなかった小さな黄色の結晶および灰色の物質をろ過した。ジエチレントリアミン(0.5ml)をその澄明な赤色溶液に添加した。HCl水溶液(6M)を用いてpHを3に調整した。溶液を6.5時間還流した。反応の2時間後、NaOH水溶液(1および5M)を用いてpHを4に調整した。反応混合物を一夜室温にて冷却した。その後、HCl水溶液(6M)を用いてpHを1まで酸性にした。その後、反応混合物を72時間フリーザ(−20℃)内に置いた。生じた白色結晶をろ過した。ろ液のpHを6に調整し、溶媒をいくらか蒸発させて、その溶液を氷浴中で冷却した。これで2次結晶が得られ、ろ取した。
195Pt NMR (D2O):δPt-2722ppm
【0131】
III.APET錯体の作製
−4’−アミノペンチルエーテル−2,2’:6’,2”テルピリジン(2)の作製
【0132】
【化3】
【0133】
80℃の乾燥DMSO(20ml)中の粉末KOH 986mgの攪拌懸濁液(17.6mmol、4.7eq)に、5-アミノペンタノール 385.8mg(3.74mmol、1eq)を添加した。アルコールの添加後、溶液がオレンジ色から茶色に変化した。30分後、4’-クロロ-2,2’:6’,2買eルピリジン 1g(3.74mmol、1eq)を添加した。2については80℃での4時間の攪拌後、3については80℃での18時間30分の攪拌後、溶液を冷却ミリQ 200mlに注いだ。水層をCH2Cl2(3×20ml)で抽出した。混合有機相をNa2SO4上で乾燥し、ロータリーエバポレータによって蒸発させた。産物収量は黄色粒子 908.4mgであった(73%)。
【0134】
1H NMR (CDCl3)
δ 1.3 [ブロードピーク、2H、CH2]、1.9 [ブロードピーク、2H、CH2]、2.2 [ブロードピーク、2H、CH2]、2.5 [ブロードピーク、2H、CH2]、2.6 [ブロードピーク、2H、NH2]、3.6 [t、2H、CH2]、6.8 [dd、 2H、H4,4・/SUB>]、7.3 [t、2H、H5,5・/SUB>]、7.42 [s、2H、H3’,5’]、7.9 [dd、2H、H3,3・/SUB>]、8.1 [d、2H、H6,6・/SUB>]。
【0135】
13C NMR (CDCl3)
δ 23.5 [CH2]、29.09 [CH2]、33.4 [CH2]、42 [CH2-NH2]、68.4 [CH2-O]、107.5 [CH、C3’,5’]、121.5 [CH、C5, 5・/SUB>]、124.3 [CH、C3,3・/SUB>]、137.2 [CH、C4,4・/SUB>]、149.3 [CH、C6,6・/SUB>]、156.03 [C、C2,2・/SUB>]、157.1 [C、C2’,6’]、167.3 [C、C4’]。
【0136】
UV/可視吸収(CHCl3)
λmax245nm(ε16 500M−1.cm−1)
279nm(ε16 500M−1.cm−1)
−4’-ポリエチレングリコールエーテル-2,2’:6’,2・テルピリジン(3)の作製
【0137】
【化4】
【0138】
80℃の乾燥DMSO(20ml)中の粉末KOH 98.6mgの攪拌懸濁液(1.76mmol、4.7eq)に、PEG 300 112.2mg(0.374mmol、1eq)を添加した。30分後、4’-クロロ-2,2’:6’,2・テルピリジン 100mgを添加した(0.374mmol、1eq)。80℃での20時間の攪拌後、溶液を冷却ミリQ 200mlに注いだ。水層をCH2Cl2(3×20ml)で抽出した。混合有機相をNa2SO4上で乾燥し、ロータリーエバポレータによって蒸発させた。黄色い油が35%の収量で得られた(68.3mg)。
【0139】
1H NMR (CDCl3)
δ 3 [ブロードピーク、1H、OH]、3.67 [2H、CH2]、3.60 [m、6H、CH2]、3.86 [t、2H、CH2]、4.33 [t、2H、CH2]、7.24 [t、2H、H5,5”]、7.74 [dd、2H、H4,4”]、7.95 [s、2H、 H3’,5’]、8.5 [dd、2H、H3,3”]、8.6 [d、2H、H6,6”]。
【0140】
13C NMR (CDCl3)
δ 62.2 [CH2-O]、68.5 [CH2-O]、71.3 [CH2-O]、71.6 [CH2-O]、73.5 [CH2-O]、108.2 [CH、C3’,5’]、122.06 [CH、C5,5”]、124.60 [CH、C3,3”]、137.54 [CH、C4,4”]、149.73 [CH、C6,6”]、156.7 [C、C2,2”]、157.7 [C、C2’,6’]、167.7 [C、C4’]。
−蛍光色素(またはハプテン)のAPET(6a〜d)との結合
【0141】
【化5】
【0142】
磁気攪拌装置が備えられたミクロリアクタにおいて、APETを染料のDMF 1eq 300μlに溶解し、TEA 3eqを添加し、溶液を暗所にて室温で20時間攪拌した。溶媒を除去した。産物純度をRP HPLCによってチェックし、産物をLuna 10 C18 (2)上でのアセトニトリル/TEAAバッファによる分取用RP HPLCによって精製された。
収量:
【0143】
【表1】
【0144】
1H NMR (CDCl3)
>DEAC(6a):
δ 1.24 [t、6H、CH3]、1.66 [クインテット、2H、CH2]、1.73 [クインテット、2H、CH2]、1.87 [クインテット、2H、CH2]、3.47 [m、6H、CH2]、4.27 [t、2H、CH2-O]、6.48 [d、1H、J=6.48Hz、CH]、6.63 [dd、IH、JP=2.41およびJo=8.95Hz、CH]、7.33 [m、2H、H5,5”]、7.43 [d、1H、Jo=8.95Hz、CH]、7.84 [td、2H、J=1.77およびJ=7.71Hz、H4,4”]、7.97 [s、2H、H3’,5’]、8.58 [dd、2H、H3,3”]、8.69 [dd、2H、H6,6”]、8.71 [s、1H、CH]、8.86 [t、1H、アミド]。
【0145】
>DEAC(6a):
δ 1.24 [t、6H、CH3]、1.66 [クインテット、2H、CH2]、1.73 [クインテット、2H、CH2]、1.87 [クインテット、2H、CH2]、3.47 [m、6H、CH2]、4.27 [t、2H、CH2-O]、6.48 [d、1H、J=6.48Hz、CH]、6.63 [dd、IH、JP=2.41およびJo=8.95Hz、CH]、7.33 [m、2H、H5,5”]、7.43 [d、1H、Jo=8.95Hz、CH]、7.84 [td、2H、J=1.77およびJ=7.71Hz、H4,4”]、7.97 [s、2H、H3’,5’]、8.58 [dd、2H、H3,3”]、8.69 [dd、2H、H6,6”]、8.71 [s、1H、CH]、8.86 [t、1H、アミド]。
【0146】
>6 TAMRA (6b):
δ 1.29 [s、6H、CH3]、1.32 [s、6H、CH3]、1.57 [クインテット、2H、CH2]、1.66 [クインテット、2H、CH2]、1.87 [クインテット、2H、CH2]、4.22 [t、2H、CH2-O]、3.42 [m、2H、CH2-NH]、6.38 [m、1H、CH]、6.40 [m、1H、CH]、6.47 [s、1H、CH]、6.48 [s、1H、CH]、6.58 [m、1H、CH]、6.61 [m、1H、CH]、7.31 [t、2H、J=6.78Hz、H5,5”]、7.49 [s、1H、CH]、7.85 [t、2H、J=7.71Hz、H4,4”]、7.99 [s、2H、H3’,5’]、8.04 [d、1H、CH]、8.07 [d、1H、CH]、8.61 [d、2H、J=7.95Hz、H3,3”]、8.67 [d、2H、J=4.50Hz、H6,6”]。
【0147】
>LCビオチン(6c):
δ 1.54 [m、4H、CH2]、1.62 [m、12H、CH2]、1.92 [クインテット、2H、CH2]、2.20 [t、4H、CH2]、3.18 [t、4H、CH2-NH]、3.34 [m、3H、CH-NHおよびCH2-NH]、3.38 [m、2H、CH2-S]、4.32 [m、4H、NH]、4.53 [m、2H、CH-S]、7.55 [t、2H、J=1.55および5.08、H5,5”]、7.75 [s、2H、H3’,5’]、8.05 [td、2H、J=1.60および7.78Hz、H4,4”]、8.57 [d、2H、J=7.96Hz、H3,3”]、8.69 [d、2H、J=4.26Hz、H6,6”]。
DNP(6d):
δ 1.20 [m、4H、CH2]、1.50 [m、2H、CH2]、1.60 [m、2H、CH2]、1.76 [m、2H、CH2]、1.89 [m、2H、CH2]、2.22 [m、4H、CH2]、3.33 [m、2H、CH2-O]、3.37 [m、2H、 CH2-NH]、4.27 [ブロードピーク、1H、NH]、5.57 [m、1H、NH]、7.37 [t、2H、J=4.68Hz、H5,5”]、7.88 [t、2H、J=7.02Hz、H4,4”]、7.98 [s、2H、H3’,5’]、8.18 [dd、1H、Jm=2.61およびJo=9.48Hz、CH]、8.47 [m、1H、CH]、8.60 [d、2H、J=7.83Hz、H3,3”]、8.67 [d、2H、H6,6”]、9.06 [d、1H、Jm=2.64Hz、CH]。
13C NMR (CDCl3)
【0148】
>DEAC(6a):
δ 13.20 [CH3、CH3-CH2]、24.29 [CH2、CH2-CH2-CH2]、26.16 [CH2、CH2-CH2-CH2]、29.54 [CH2、CH2-CH2-CH2]、30.11 [CH2、CH2-NH]、40.33 [CH2、CH2-CH3]、45.83 [CH2、CH2-CH3]、68.84 [CH2、O-CH2]、108.33 [CH、C3’,5’]、110.68 [CH]、122.20 [CH、C5,5”]、124.52 [CH、C3,3”]、131.91 [CH]、137.50 [CH、C4,4”]、148.88 [CH]、149.76 [CH、C6,6”]、157.00 [C、C2,2”]、157.76 [C、C2’,6’]、168.00 [C、C4’]、173.00 [C、C=Oアミド]。
UV/可視吸収 (CHCl3)
【0149】
【表2】
【0150】
発光スペクトル
【0151】
【表3】
【0152】
−K2PtCl4の6c、LCビオチン APETとの錯体形成
K2PtCl4(6.0mg)をN,N’-ジメチルホルムアミド(1ml)に溶解した。その溶液をN,N’-ジメチルホルムアミド(2ml)中のDNP APET(8.3mg)溶液にゆっくり添加した。その溶液が遮光下で40℃にて一夜加熱した。その後、混合物を減圧化で乾固した。
195Pt NMR (D2O):δPt -2701, -2954および -2951ppm。
【0153】
−K2PtCl4の6d、DNP APETとの錯体形成
K2PtCl4(6.0mg)をN,N’-ジメチルホルムアミド(1ml)に溶解した。その溶液をプロパノール(1ml)およびN,N’-ジメチルホルムアミド(2ml)中のDNP APET(9.3mg)溶液にゆっくり添加した。その溶液を遮光下で40℃にて一夜加熱した。その後、混合物を減圧化で乾固した。
195Pt NMR (D2O):δPt -2686および -3442ppm。
【0154】
APET錯体の作製についての付加情報
4’-クロロ2,2’:6’,2’’ルピリジンおよび5-アミノペンタノールをAldrichから購入した。K2PtCl4をSigmaから購入した。EZ Link NHS LCビオチンをPierceから購入した。6 TAMRA-SE、DNP-SE、DEACをMolecular Probesから得た。配位子に関してカラムクロマトグラフィをFlukaのシリカゲル60上で実行した。錯体をIGN Biomedical GmbHのAlumina N上で精製した。全溶媒をMerckから得て、精製せずに使用した。使用した水は、脱塩されたミリQ水であった(R=18.2MΩ/cm)。RP HPLCによる全分析ランに使用した溶離液は:
> A:10% CH3CN/90% 0.1M TEAA pH 5
> B:70% CH3CN/30% 0.1M TEAA pH 5、であった。
【0155】
1M TEAAバッファ pH 5.0: 500mlのメスシリンダ内で、ミリQ水 200ml、酢酸 30mlおよびTEA 70mlを攪拌した。その後、ミリQ水を400mlまで添加した。溶液を室温で冷却し、pHを酢酸で5に調整した。容積をミリQで500mlに調整した。溶液を2〜6℃で保存した。
【0156】
アセトニトリルバッファ 10%/0.1M 酢酸トリエチルアンモニウム pH 5.0 90%: 1000mlのメスシリンダ内で、アセトニトリル 100ml、1M TEAA 90ml pH 5.0およびミリQ 810mlを室温で攪拌した。溶液を膜フィルタ 1.0μmでろ過した。その後、溶液を10〜20分間真空ポンプで脱気した。バッファを2〜6℃で保存した。
【0157】
アセトニトリルバッファ 70%/0.1M 酢酸トリエチルアンモニウム pH 5.0 30%: 1000mlのメスシリンダ内で、アセトニトリル 700ml、1M TEAA 30ml pH 5.0およびミリQ水 270mlを室温で攪拌した。溶液を膜フィルタ 1.0μmでろ過した。その後、溶液を10〜20分間真空ポンプで脱気した。バッファを2〜6℃で保存した。
【0158】
カラム:RP HPLC分析をPhenomex Luna 5a C18(2)カラムを備えるAmersham Pharmacia Biotech Akta explorerを用いて実行した。カラムおよび分析の特性は以下のとおりである:高さ 25cm、直径 0.46cm、カラム容積 4.155ml、圧力 14MPa、流速 1ml/min。
【0159】
波長:分析は一般に3つの波長で実行したが(254,280および215nm)、波長は、遊離した蛍光色素(またはハプテン)をより容易に検出するために、蛍光色素に適合させた。
【0160】
NMR:作製した化合物を1H NMRおよび13C NMR分光法によって特徴付けた。1H NMRは300MHzで、13C NMRは75MHzで、双方ともBruker DPX 300 スペクトロメータにて記録した。1H NMRスペクトルは内部テトラメチルシラン(TMS)を基準とした。13C NMRスペクトルは溶媒共鳴を基準とした。全サンプルを室温で測定した。
【0161】
UV/可視:UVスペクトルをAmersham Pharmacia Biotech Ultrospec 4000 スペクトロメータにて記録した。スペクトルを、配位子および錯体に関して、200〜700nmの間で石英キュベット内で測定した。
【0162】
発光スペクトル:発光スペクトルをPerkin Elmer LS 45Luminescence Spectrometerにて記録した。励起波長をモノクロメータで選択した。各励起波長を染料の最大吸収に選択した。スペクトルを室温で記録した。
【0163】
IV.核酸およびたんぱくの標識におけるAPET−Pt/Pd/Ru/Co試薬の使用
白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)およびコバルト(Co)を含む様々な金属をAPETスペーサに導入した。初めに、蛍光色素またはハプテンをAPETに付着させ、その後様々な金属を標識APET分子に導入した。化学分析をH-NMRによって行った。RP-HPLC精製試薬の純度は80〜99%間で変化させた。
【0164】
ビオチン-APET-錯体:
ビオチン-APETスペーサをCd2+、Co2+、Cu2+、Fe3+、Mn2+、Ni2+、Pd2+、Pt2+、Ru2+およびZn2+と錯体形成させた。DMFまたはDMSOに可溶であるPt、PdおよびRu錯体を除いて、全錯体が水溶性であった。これら試薬の純度は82〜99%で、80%を超える収量であった。Bio-APET-Pd錯体はあまり安定ではなかった(考えられる解釈:Pdの、別のBio-APET-Pd分子のビオチンのチオエーテルとの結合を介した鎖の形成があり、これはHPLCクロマトグラムにおいて見られた)。標識錯体を、異なる比、温度、インキュベーション時間およびpHにてたんぱくおよびDNAとインキュベートした。Pt、PdおよびRu含有Bio-APET-錯体はたんぱくおよびDNAの双方を標識し、Bio-APET-CoはDNAを標識しないがたんぱくを標識し(pH8.0にて)、他の金属はあまり反応しないか、安定した結合を形成しないことがわかった。
【0165】
図1は、Bio-APET-Ruが、基準となる二座配位子の白金標識錯体(Bio-BOC-Pt)よりもDNAとよく反応することを示す。DNAは、より速く、かなり低温で標識される。また、Bio-APET-Ruが基準となるFlu-BOC-Ptと1:1で混合されるとき、シグナルの大部分がビオチン検出によって発見される。Flu-BOC-PtがBio-BOC-Ptと混合される場合、シグナルの大部分がフルオレセイン検出によって発見される。Bio-APET-PtはBio-BOC-Ptと同様の反応をした(データ示さず)。興味深いことに、メチオニンビーズはPdおよびPt含有APET錯体によって標識されたが、Bio-APET-Ru錯体はメチオニンビーズに、反応をさほど、どちらかといえば全く示さなかった。Bio-APET-Ruは全RNAの標識を含むマイクロアレイ実験において首尾よく使用された。一般に、Bio-APET-Ruはより安定で、基準となるビオチン- BOC-Ptを凌ぐ。Bio-APET-RuはたんぱくおよびDNAの双方とよりよく反応する(たとえば、より低温で充分に標識する)。Ruが硫黄ではなく窒素とのみよく反応すると考えられることを考慮すれば、ビオチン-APET-Ruは基準となるビオチン-BOC-Pt錯体よりも安定した試薬であるかもしれない(たとえば、より低温で充分に標識しない)。
【0166】
DNP-APET-錯体:
Pt、PdおよびRu含有DNP-APET錯体はDNAおよびたんぱくに対してよく反応する(表1参照)。図2に示すように、40℃を超える温度でのDNAに対する反応は、基準となる二座配位子のDNP-BOC-Ptと同程度である。DNP-APET-Pdは、60℃を超える温度では標識がほとんど観察されないので、あまり安定してDNAに結合しなかった。
【0167】
全ヒト血清のターゲット標識を、基準となるDNP-BOC-PtおよびDNP-APET-Ru、Pt、Pd錯体を用いて実行した。IgA-、IgG-およびIgM キャプチャ ELISA分析を展開した。DNP-APET-Ptおよび-Pdで使用した標識比にて、ほとんどのたんぱくがすぐに沈澱した。Pt錯体はより速くたんぱくを沈殿させたが、Pd錯体よりもかなり標識されにくいことをデータは示している。真にポジティブの結果はDNP-APET-Ptでは見られなかった。IgG検出に関して、BOC-Pt=APET-Pd>APET-Ruであり、IgA検出に関して、BOC-Pt=APET-Pd=APET-Ruであった。使用した最も低い比率では、20%のIgGおよび50%のIgAのみが溶解し(1時間37℃での標識)、一方で、対照の二座配位子の標識錯体およびDNP-APET-Ruで得られた最良の結果は85%を超えるIgGおよび75%を超えるIgAを含む画分に由来したので(20時間37℃での標識)、DNP-APET-Pdは比率を低下させることで最適化することが可能である。
【0168】
Cy3/5-APET-錯体:
DNA標識は、Cy3-APET-Pt、Cy5-APET-PdおよびCy5-APET-Ruによって行った。全ヒト血清のターゲット標識を、基準となるCy5-BOC-Pt、Cy5-APET-RuおよびCy5-APET-Pdを用いて実行した。IgA キャプチャ ELISA分析を展開した。Cy5はハプテンとして機能した(HRP共役MoAb抗-Cy5によって検出された)。図3は、すべての場合において、Cy5標識IgAが検出されることを示す。最良の結果は対照のCy5-BOC-Pt錯体で得られた。
V.ペプチドマーカ-三座配位子-Pt錯体の合成
ペプチドは16個のアミノ酸長であって、細胞の原形質膜を超えて生体分子を移送するシャトル分子として機能する。このペプチドは固体支持として一端および他端に末端NH2基を有する。アミンを、溶液mlあたりアミン 0.02mgの濃度となるように、ミリQおよびエタノールの50:50混合物中に溶解した。アクリロニトリルの1000倍モル当量を溶液に添加した。溶液を一夜還流した(65℃の加熱)(水冷却機に連結された丸底フラスコの上端に還流冷却器が取り付けられている)。混合物をロータリー蒸発下で乾燥し、固化物を乾燥エタノール(3〜5ml)で洗浄し、再び乾固するまで蒸発させた。ニトリル化合物を、1:1のモル比で乾燥エタノール(ニトリル 20mmolについて20ml)中で塩化ニッケル(II)と混合した。新しく調製した水素化ホウ素ナトリウム溶液(ニトリル 1mmolあたり1mmol)を、かなり慎重に(少しずつ)添加した(2mmol)。溶液を室温で2時間攪拌した。次に、溶液をミリQでろ過し、金属ニッケルを磁石を用いて除去した。ろ液をDMF 2mlに溶解した。テトラクロロ白金(II)酸カリウム 5当量(100μmol)を添加し(粉末)、混合物を40℃に一夜保った。次に、混合物をろ過し、DMF(ジメチルホルムアミド)、ミリQおよびDCM(ジクロロメタン)で洗浄した。溶液をロータリー蒸発下で乾固した。固体支持は、ペプチドを固体支持に結合させるのに用いた化学反応型に応じて、基準的な化学反応によって除去することが可能である。この場合は、TFA化学反応を使用した。最終的に、遷移金属―三座配位子―(ペプチド)マーカから成る、単機能的なPt錯体が合成された。
【0169】
VI.マスタギング
ジエチレントリアミン Pt錯体(Pt[ジエン Cl−] Cl−; 5μM溶液を使用した)は、本化合物がMS中で安定し、PtおよびNの模擬同位体分布の同位体パターン特性を有することを明らかにした。光標識化合物に関して得られた最も多く存在する分子イオン(図4)は、m/z=334に分子イオン[M1+]を有する。本化合物の合成からの夾雑ピークは観察されなかった。他の唯一の可視ピークは、標識反応中に観察されたm/z=315のOH-基と置換されたCl−の損失であった。
【0170】
YGGFMKペプチドの3M 過剰Pt[ジエンCl] Clでの標識を、45および85℃で実行した。3M 過剰標識化合物との、5mM 酢酸アンモニウム pH6〜7中での1時間のインキュベーション後、メチオニン含有ペプチドであるペプチドは、両温度で完全に標識された。85℃での標識は45℃での標識よりも多くの副反応物をもたらさなかったものの、副反応物の強度は45℃よりも85℃で大きかった。しかし、これはナノスプレーキャピラリの位置に起因し得る。この単機能的な三座配位子標識化合物はペプチドの標識をもたらした。
【0171】
MS測定を、陽イオンモードで作動し、Z-スプレー ナノ電気スプレー源を備えた三連四重極機器(Micromass、マンチェスター、英国)にて実行した。ナノ電気スプレーニードルをP-97 プラー(Sutter Instruments、ナヴァト、カリフォルニア)上でホウケイ酸ガラスキャピラリー(Kwik- Fil、 World Precision Instruments、サラソータ、フロリダ)から作製した。このニードルを、Edwards Scancoat (Edwards Laboratories、ミルピタス、カリフォルニア)six Pirani 501 (200秒間で40mV、1kV)を用いて、薄い金層で被膜した(およそ500Å)。ナノスプレーニードルとマススペクトロメータオリフィスとの間のポテンシャルは通常1,200Vに設定した。コーン電圧は30Vであった。ナノスプレーニードルは常におよそ30℃に保った。MS/MS測定に関して、衝突エネルギは、充分な配列情報を得るために必要とされる適切な電圧に設定した(<20V)。衝突ガスとしてアルゴンを使用した。四重極質量分解能パラメータを、前駆イオンの全同位体エンベロープを選択するために、比較的大きなマスウィンドウに設定した。
【0172】
VII.N3トランス-C3三座配位子の合成(スキーム5)
1の作製−アクリロニトリルのマイケル付加:
N-Boc-ヘキサン-1,6-ジアミン(140.5mg、649.5μmol)をH2O/EtOH 1/1の混合物(20ml)中に溶解した。アクリロニトリル(425.5μl、6.495mmol)をその溶液に添加した。混合物を一夜60℃で還流し、乾固して、純粋な油性の薄茶色の物質を得た。残さをCH2Cl2に溶解し、MgSO4上で乾燥した。続くろ過および減圧下での溶媒の除去によって、1を得た。(収量:166.8 mg、95%)
1H NMR (CDCl3):δ 1.35 (4H、m、NH(CH2)2(CH2)2);1.43 (13H、m、NH(CH2)(CH2)CH2)2(CH2)+tBu);2.60 (6H、m、NH(CH2)(CH2)5+(CH2)(CH2)CN);2.94 (4H、m、CH2CN);3.1 (2H、m、(CH2)NHBoc);4.55 (1H、ブロードピーク、NHBoc)。
【0173】
2の作製−水素化リチウムアルミニウムでの還元:
1(151.0mg、5.129×10−4mol)をジクロロメタン(20ml)中に溶解した。その溶液を20分間氷浴(0℃)中で攪拌した。その後、水素化リチウムアルミニウム(ジエチルエーテル中の1M 溶液 5ml、5mmol)を添加した。白色固体が沈殿するのが直ちに観察された。その混合物を30分間0℃(氷浴)で攪拌し、その間に温度は室温と平衡になった。その後、ミリQ 7.5mlを慎重に添加して、過剰の水素化リチウムアルミニウムを中和した。ミリQの添加はより重要な量の白色固体の沈殿をもたらした。その後、混合物をろ過した。有機抽出物を水性抽出物から分離し、減圧下で乾燥して、無色の油を得た。(収量:23.5 mg、15.1%)。
【0174】
1の1H NMR(CDCl3):δH 1.22 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来CH2)、1.41 (m、13H、tBuプロトンおよびヘキサンジアミンスペーサ由来残留CH2)、1.82 (ブロードシングレット、4H、NH2)、2.29 (m、8H、(CH2)2NH2)、2.68 (m、2H、NCH2(CH2)5NHBoc)、3.06 (m、2H、CH2NHBoc)、4.61 (m、2H、NHBoc)ppm。MS (ESI+) m/z: 303 [M+H]+。
【0175】
3の作製−テトラクロロ白金酸カリウムとの錯体形成:
2(829.2 mg、2.509mmol)をN,N’-ジメチルホルムアミド(535.4ml)中に溶解した。その後、固体の状態でテトラクロロ白金酸カリウム(1041.4mg、2.509mmol)を添加した。その混合物を40℃で一夜加熱した。加熱によって赤色白金塩が溶解するのが観察された。その後、混合物をろ過して、白色塩化カリウム固体を分離した。ろ液を減圧下での加熱によって乾固した。その後、ミリQ(約30ml)を添加して、残留塩化カリウム塩を除去した。水性抽出物をろ過した。茶色固体をジエチルエーテル(10ml)で洗浄し、減圧下で乾燥した。(収量:853.00mg、57.0%)。
【0176】
4aの作製および5のin-situ作製−Boc-保護基の除去およびEZ-link-LC-ビオチン スクシンイミジルエステルとの反応:
3(7.3mg、1.2×10−5mol)を200mM 塩酸(4ml)と混合した。その混合物を50℃で一夜加熱した。加熱中に茶色固体が溶解するのが観察された。ミリQ中の水酸化ナトリウム溶液(1M)および塩酸(200mM)を用いて、pHを約8.0に調整した。
【0177】
不溶性の茶色の物質はすべて、パスツールピペットを用いたN,N’-ジメチルホルムアミドの最小量の滴加によって溶解することが可能である。代わりに、N,N’-ジメチルホルムアミド中にスクシンイミジルエステルを添加して、茶色の残さを可溶化することもできる。その後、ミリQ(476μl)、ミリQ中の水酸化ナトリウム(1M 溶液、25μl)を添加した。
【0178】
N,N’-ジメチルホルムアミド(95.2μl)中のEZ-link-LC-ビオチン スクシンイミジルエステル(4.76 mg、1.0×10−5mol)を滴加した。ミリQ(381μl)、トリエチルアミン(3μl)、ミリQ(162μl)、N,N’-ジメチルホルムアミド(パスツールピペットによる4滴の滴加)、メタノール(パスツールピペットによる5滴の滴加)およびジクロロメタン(4滴)を添加した。pHが8.0前後であると確認した。トリエチルアミンをこのpH調整にために添加してもよい。その混合物を5分間遮光下にて室温で攪拌した後、pHが8.0前後であることが確認した。
【0179】
ここでも、トリエチルアミンをpH調整のために使用してもよい。その後、混合物を遮光下にて室温で一夜攪拌した。その後、不溶性物質をろ過した。ろ液を乾固させた。
【0180】
脱塩は、スクシンイミジルエステルとの反応後に、溶媒を除去することで達成することが可能である。その後、残さを最小量のミリQに溶解し、その溶液をSephadex G15カラムを通して処理する。
195Pt NMR (DMF-d7):δPt -3129および -2519ppm。MS (ESI+) m/z: 800 [M]+。
【0181】
たんぱく標識におけるN3 トランス-Bio ULS (4a)の使用
たんぱく 50μgを含むHELA細胞溶解物を、標識バッファ 50μl中の化合物4aで、3時間37℃にて標識した。4aの量はそれぞれ0.5,1,2,4または16μgであった。標識反応を還元サンプルバッファの添加によって停止した。BIO-APを検出抗体として使用した(1:1000)。ウェスタンブロットの結果を図10に示す。
【0182】
4bの作製および5のin-situ作製−Boc-保護基の除去および6-FAM フルオレセイン スクシンイミジルエステルとの反応
3(2.15mg、3.6×10−5mol)を200mM 塩酸(366.46μl)と混合した。その後、メタノール(パスツールピペットから3滴の滴下)およびN,N’-ジメチルホルムアミドを、総容積が約1mlになるよう添加した。
【0183】
その混合物を50℃で一夜加熱した。加熱中に茶色の個体が溶解するのが観察された。その後、ミリQ中の水酸化ナトリウム溶液(1M)および塩酸(200mM)を用いて、溶液の半分のpHを約8.0に調整した。その後、スクシンイミド結合バッファ(5×、65.70μl)を添加した。不溶性の茶色の物質はすべて、パスツールピペットを用いたN,N’-ジメチルホルムアミドの最小量の滴加によって溶解することが可能である。代わりに、N,N’-ジメチルホルムアミド中にスクシンイミジルエステルを添加して、茶色の残さを可溶化することもできる。
【0184】
N,N’-ジメチルホルムアミド(164.235μl)中のフルオレセイン スクシンイミジルエステル(0.82 mg、2.1×10−6mol)を滴加した。その後、混合物を遮光下にて室温で一夜攪拌した。脱塩は、スクシンイミジルエステルとの反応後に、溶媒を除去することで達成することが可能である。その後、残さを最小量のミリQに溶解し、その溶液をSephadex G15カラムを通して処理する。
【0185】
たんぱく標識におけるN3 トランス-Flu ULS (4b)の使用
4b 1,2,4,6,7.5,10,12.5および25μgを、異なる分子量の6つのたんぱく混合物(ラクトアルブミン、トリプシンインヒビタ、カルボニックアンヒドラーゼ、オボアルブミン、BSA、ホスホリラーゼB) 50μgを標識するのに使用した。この標識(1時間50℃)を、抗FLU-APで検出されるブロット上で12.5μgにて、FLU- ULSの基準となる標識量と比較した(図11)。
【0186】
核酸のN3 トランス-Flu ULS (4b)での標識
DNA [第1染色体のセントロメア周辺(1q12)に位置するヒト反復サテライトIII DNA配列を乗せる1.77kbインサートを有するpUC19プラスミド] を、4b 10μgを100μlの容積中のDNA 3μgに添加することで、4bによって標識した。混合物を85℃1時間でインキュベートし、非結合4bを標準的なエタノール沈殿によって除去した。DNA沈殿物は、UV光で照射されたとき、緑色蛍光発光を示した。精製4b標識DNAをin situハイブリダイゼーション分析においてプローブとして用いた。プローブを、60% ホルムアミド、1×SSCおよび10% 硫酸デキストランを含むハイブリゼーションバッファに溶解し、最終濃度 4ng/μlとした。10μlを、基準となる前処理ヒト中期分裂標本に適用し、ターゲットおよびプローブの双方が変性し得るように、80℃で5分間インキュベートした。次に、スライドを37℃で一夜インキュベートし、非結合または不完全な結合のプローブを、65℃の1×SSC/0.1% SDS中で洗浄して除去した。再水和後、標本をDAPIを含む抗退色試薬中に埋め込んだ。フルオレセイン画像を、デジタルカメラを備えたLeica蛍光顕微鏡を用いて記録した。
【0187】
図1は、4b標識プローブが蛍光in situハイブリダイゼーションによってヒト第12染色体の1q12-領域を視覚化するのに用いられ得ることを示す。4bのプローブDNA標識効率は、厳しい条件下でさえ直接の蛍光発光による視覚化を可能にする。
【0188】
4cの作製および5のin-situ作製−Boc-保護基の除去およびDNPスクシンイミジルエステルとの反応:
3(2.15mg、3.6×10−5mol)を200mM 塩酸(163.62μl)と混合した。その後、メタノール(パスツールピペットから3滴の滴下)およびN,N’-ジメチルホルムアミドを、総容積が約1mlになるように添加した。
【0189】
その混合物を50℃で一夜加熱した。加熱中に茶色の個体が溶解するのが観察された。その後、ミリQ中の水酸化ナトリウム溶液(1M)および塩酸(200mM)を用いて、溶液の半分のpHを約8.0に調整した。その後、スクシンイミド結合バッファ(5×、245.43μl)を添加した。
【0190】
不溶性の茶色の物質はすべて、パスツールピペットを用いたN,N’-ジメチルホルムアミドの最小量の滴加によって溶解することが可能である。代わりに、N,N’-ジメチルホルムアミド中にスクシンイミジルエステルを添加して、茶色の残さを可溶化することもできる。N,N’-ジメチルホルムアミド(245.43μl)中のDNP スクシンイミジルエステル(1.6 mg、3.34×10−6mol)を滴加した。その後、混合物を遮光下にて室温で一夜攪拌した。
【0191】
脱塩は、スクシンイミジルエステルとの反応後に、溶媒を除去することで達成することが可能である。その後、残さを最小量のミリQに溶解し、その溶液をSephadex G15カラムを通して処理する。
【0192】
VIII.N3シス-C2三座配位子の合成(スキーム6)
1の作製−塩化クロロアセチルとの反応:
N-Boc-1,6-ジアミノヘキサン(175.6mg、8.12×10−4mol)をジクロロメタン(15.4ml)、ミリQ(3883μl)および1M 水酸化ナトリウム水溶液(811.5μl、8.12×10−4mol)に溶解した。その混合物を20分間0℃(氷浴)で攪拌した。
【0193】
ジクロロメタン(2940.40μl)中の塩化クロロアセチル(64.5μl、8.10×10−4mol)を添加した。その混合物を30分間0℃で攪拌した。
【0194】
その後、有機層を分離し、硫酸マグネシウム上で乾燥し、ろ過し、減圧下で乾燥した。白色個体が得られた。(収量:161.4mg、67.9%)。
1の1H NMR (CDCl3):δH 1.35 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来CH2)、1.44 (s、9H、tBuプロトン)、1.53 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来残留CH2)、3.10 (m、2H、CH2NHBoc)、3.26 (m、2H、CH2C(O)NHCH2)、4.04 (s、2H、CH2C(O))、4.52 (ブロードs、1H、NHBoc)、6.61 (ブロードs、2H、ClCH2NHC(O))ppm。
【0195】
2の作製−エチレンジアミンとの反応:
エチレンジアミン(147.4mg、2.452mmol)をアセトニトリル(25ml)中に溶解した。1(161.4mg、5.51×10−4mol)をアセトニトリル(25ml)中に溶解した。その溶液を75℃でエチレンジアミン溶液に、5秒あたり約1滴の速度で滴加した。添加の完了後、その混合物を75℃で一夜加熱した。
【0196】
その後、固体をろ過した。ろ液を乾固した。不溶性の物質をジクロロメタン(3×3ml)中に抽出した。有機抽出物を水性残さから分離し、減圧下で乾燥し、無色の油を得た。(収量:41.3mg、23.7%)。
2の1H NMR (CDCl3):δH 1.09 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来CH2)、1.35 (s、9H、tBuプロトン)、1.39 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来残留CH2)、2.62 (t、2H、J= 7.14Hz、NH2CH2)、2.91 (t、2H、J=5.41Hz、C(O)NHCH2)、3.01 (m、2H、CH2NHBoc)、3.14 (ブロードs、1H、NH、NHCH2C(O))、3.26 (t、J=5.36Hz、2H、NH2CH2CH2)、3.40 (m、2H、CH2C(O))、4.79 (ブロードs、1H、NHBoc)、7.14 (ブロードs、1H、CH2C(O)NH)ppm。
【0197】
3の作製−水素化アルミニウムリチウムでの還元:
2(41.3mg、1.61×10−4mol)をジクロロメタン(5ml)中に溶解した。その溶液を20分間氷浴(0℃)中で攪拌した。その後、水素化アルミニウムリチウム(ジエチルエーテル中の1M 溶液 1ml、1mmol)を添加した。白色個体が沈殿するのが直ちに観察された。その混合物を30分間0℃(氷浴)で攪拌し、その間に温度は室温と平衡になった。その後、ミリQ 1.5mlを慎重に添加して、過剰の水素化リチウムアルミニウムを中和した。ミリQの添加はより重要な量の白色固体の沈殿をもたらした。その後、混合物をろ過した。有機抽出物を水性抽出物から分離し、減圧下で乾燥し、無色の油を得た。(収量:33.8mg、69.4%)。
【0198】
3の1H NMR (CDCl3):δH 1.29 (m、8H、ヘキサンジアミンスペーサ由来CH2)、1.41 (m、9H、tBuプロトン)、1.80 (ブロードs、4H、アミンNH)、2.62 (m、4H、NH2CH2およびNHCH2(CH2)5)、3.05 (m、6H、NH2CH2CH2NH(CH2)2NH)、3.21 (m、2H、NHBoc)ppm。
【0199】
4の作製−テトラクロロ白金酸カリウムとの錯体形成:
3(33.8mg、1.12×10−4mol)をN,N’-ジメチルホルムアミド(17.1ml)中に溶解した。固体のテトラクロロ白金酸カリウム(46.1mg、1.11×10−4mol)を添加した。その混合物を40℃で週末をまたいで加熱した。加熱中に赤色テトラクロロ白金酸カリウム固体が溶解するのが観察され、N,N’-ジメチルホルムアミド溶液が薄い茶色に変わるのが観察された。その後、溶媒を加圧下で除去し、茶色の固体を得た。固体をミリQ(20ml)で洗浄した。再度、茶色の固体をN,N’-ジメチルホルムアミド(17.1ml)中に溶解し、その溶液を40℃で一夜加熱した。その後、溶媒を減圧下で除去した。最後に、茶色の固体をメタノール 47.2ml中に溶解し、その溶液を60℃で週末をまたいで加熱した。(収量:34.3mg、59.8%)。
195Pt NMR (CD3OD):δPt -2523ppm。
【0200】
5の作製および6のin-situ作製−Boc-保護基の除去およびEZ-link-LC-ビオチン スクシンイミジルエステルとの反応:
4(34.3mg、6.69×10−5mol)を200mM 塩酸(980.88μl)と混合した。その混合物を50℃で一夜加熱した。加熱中に茶色固体が溶解するのが観察された。ミリQ中の水酸化ナトリウム溶液(1M)および塩酸(200mM)を用いてpHを約8.0に調整した。その混合物を1時間室温で静置した。不溶性の茶色の物質はすべて、パスツールピペットを用いたN,N’-ジメチルホルムアミドの最小量の滴加によって溶解することが可能である。
【0201】
N,N’-ジメチルホルムアミド(422μl)中のEZ-link-LC-ビオチン スクシンイミジルエステル(21.1mg、mol)を滴加した。pHが8.0前後であると確認した。トリエチルアミンをこのpH調整のために添加してもよい。その混合物を5分間遮光下にて室温で攪拌した後、pHが8.0前後であることを確認した。ここでも、トリエチルアミンをpH調整のために使用してもよい。その後、混合物を遮光下にて室温で一夜攪拌した。(収量:15mg、27.8%)。
【0202】
脱塩は、スクシンイミジルエステルとの反応後に、溶媒を除去することで達成することが可能である。その後、残さを最小量のミリQに溶解し、その溶液をSephadex G15カラムを通して処理する。
195Pt NMR (CD3OD):δPt -2630ppm。
標識化合物としてのN3 シス-Bio ULS (5)の使用
6つのたんぱく混合物(前記参照) 25μgを、標識バッファ 50μl中で16時間37℃にて標識した。5の量は、それぞれ5、10、12.5、15または20μgであった。標識反応を還元サンプルバッファの添加によって停止した。検出抗体:BIO-AP 1:1000。
標識の結果を図14に示す。
【0203】
7の合成−テトラクロロ白金酸カリウムとの錯体形成:
6c(5.8mg、8.6×10−6mol)をN,N’-ジメチルホルムアミド(11.2ml)中に溶解した。固体のテトラクロロ白金酸カリウム(3.6mg、8.8×10−6mol)を添加した。その混合物を40℃で一夜加熱した。加熱中に赤色テトラクロロ白金酸カリウム固体が溶解するのが観察され、N,N’-ジメチルホルムアミド溶液がオレンジ色に変わるのが観察された。その後、溶媒を加圧下で除去し、茶色の固体を得た。(収量:12.4mg、37.4%)
1の1H NMR (DMF-d7):δH 1.27 (m、4H、脂肪族CH2)、1.57 (m、8H、脂肪族CH2)、1.88 (m、4H、脂肪族CH2)、2.11 (m、4H、C(O)CH2)、3.11 (m、4H、CH2NHC(O))、4.29 (m、2H、CH2NHC(O)NH)、4.61 (m、2H、OCH2)、7.50 (m、2H、芳香族H)、7.80 (m、2H、芳香族H)、8.69 (m、 4H、芳香族H)ppm。195Pt NMR (DMF-d7):δPt -2707ppm。MS (ESI+) m/z: 867 [M]+。
図15はスキーム7の合成−テトラクロロ白金酸カリウムとの錯体形成−を示す。
【0204】
IX.N3トランス-C2三座配位子の合成(スキーム7)
1の作製−クロロアセトニトリルの付加:
N-Boc-1,6-ジアミノヘキサン(67.98mg、3.142×10−4mol)をジクロロメタンの最小量(1ml)中に溶解した。その後、アセトニトリルを添加した(25ml)。炭酸カリウム(224.1mg、1.621mmol)およびヨウ化カリウム(122.3mg、7.367×10−4mol)も、固体の状態で添加した。その後、クロロアセトニトリル(1.0ml、16mmol)を添加した。その混合物を75℃で一夜加熱した。加熱中溶液が黒色に変わるのが観察された。その後、固体をろ過した。ろ液を乾固した。不溶性の物質をジクロロメタン(3×3ml)中に抽出した。有機抽出物を混合し、ろ過し、減圧下で乾燥した。オレンジ色の固体が単離された。
【0205】
1の1H NMR (MeOD):δH 1.22 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来CH2)、1.36 (m、13H、tBuプロトンおよびヘキサンジアミンスペーサ由来残留CH2)、2.63 (m、2H、NCH2(CH2)5NHBoc)、2.99 (m、2H、CH2NHBoc)、3.76 (m、2H、CH2CN)、6.49 (ブロードs、1H、NHBoc)ppm。 2の作製−水素化アルミニウムリチウムでの還元:
1(151.0mg、5.129×10−4mol)をジクロロメタン(20ml)中に溶解した。その溶液を20分間氷浴(0℃)中で攪拌した。その後、水素化アルミニウムリチウム(ジエチルエーテル中の1M 溶液 5ml、5mmol)を添加した。白色個体が沈殿するのが直ちに観察された。その混合物を30分間0℃(氷浴)で攪拌し、その間に温度は室温と平衡になった。その後、ミリQ 7.5mlを慎重に添加して、過剰の水素化リチウムアルミニウムを中和した。ミリQの添加はより重要な量の白色固体の沈殿をもたらした。その後、混合物をろ過した。有機抽出物を水性抽出物から分離し、減圧下で乾燥し、無色の油を得た。(収量:23.5mg、15.1%)。
【0206】
1の1H NMR (CDCl3):δH 1.22 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来CH2)、1.41 (m、13H、tBuプロトンおよびヘキサンジアミンスペーサ由来残留CH2)、1.82 (ブロードシングレット、4H、NH2)、2.29 (m、8H、(CH2)2NH2)、2.68 (m、2H、NCH2(CH2)5NHBoc)、3.06 (m、2H、CH2NHBoc)、4.61 (m、2H、NHBoc)ppm。MS (ESI+) m/z: 303 [M+H]+。
【0207】
3の作製−テトラクロロ白金酸カリウムとの錯体形成:
2(23.5mg、7.77×10−5mol)をN,N’-ジメチルホルムアミド(12.5ml)中に溶解した。固体のテトラクロロ白金酸カリウム(32.4mg、7.80×10−5mol)を添加した。その混合物を40℃で一夜加熱した。加熱中に赤色テトラクロロ白金酸カリウム固体が溶解するのが観察され、N,N’-ジメチルホルムアミド溶液が薄い茶色に変わるのが観察された。その後、溶媒を加圧下で除去し、茶色の固体を得た。
195Pt NMR (DMF-d7):δPt -2586ppm。(収量:27mg、61.1%)。
【0208】
4の作製および5のin-situ作製−Boc-保護基の除去およびEZ-link-LC-ビオチン スクシンイミジルエステルとの反応:
3(13.5mg、4.13×10−5mol)を200mM 塩酸(670.03μl)と混合した。その混合物を50℃で一夜加熱した。加熱中に茶色固体が溶解するのが観察された。ミリQ中の水酸化ナトリウム溶液(1M)および塩酸(200mM)を用いてpHを約8.0に調整した。不溶性の茶色の物質はすべて、パスツールピペットを用いたN,N’-ジメチルホルムアミドの最小量の滴加によって溶解することが可能である。代わりに、N,N’-ジメチルホルムアミド中にスクシンイミジルエステルを添加して、茶色の残さを可溶化することもできる。N,N’-ジメチルホルムアミド(ml)中のEZ-link-LC-ビオチン スクシンイミジルエステル(18.76mg、4.13×10−5mol)を滴加した。pHが8.0前後であると確認した。トリエチルアミンをこのpH調整のために添加してもよい。その混合物を5分間遮光下にて室温で攪拌した後、pHが8.0前後であることを確認した。ここでも、トリエチルアミンをpH調整のために使用してもよい。その後、混合物を遮光下加熱中に室温で一夜攪拌した。その後、不溶性物質をろ過した。
【0209】
脱塩は、スクシンイミジルエステルとの反応後に、溶媒を除去することで達成することが可能である。その後、残さを最小量のミリQに溶解し、その溶液をSephadex G15カラムを通して処理する。
195Pt NMR (DMF-d7):δPt -2707ppm。 MS (ESI+) m/z: 772 [M]+。
【0210】
X.NS2トランス-C2三配位子の合成(スキーム8)
1の作製−2-クロロエチルメチルエーテルの付加:
N-Boc-1,6-ジアミノヘキサン(101.3mg、4.688×10−4mol)をジクロロメタンの最小量(1ml)中に溶解した。その後、アセトニトリルを添加した(30ml)。炭酸カリウム(327.1mg、2.367mmol)およびヨウ化カリウム(157.1mg、9.463×10−4mol)も、固体の状態で添加した。その後、2-クロロエチルメチルエーテル(93.3μl、9.35×10−4mol)を添加した。その混合物を75℃で一夜加熱した。その後、固体をろ過した。ろ液を乾燥した。残さをジクロロメタン(3×3ml)で抽出した。有機抽出物を混合し、ろ過し、減圧下で乾燥し、白色個体を得た。(収量:19.2mg、11.2%)。
【0211】
1の1H NMR (CDCl3):δH 1.27 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来CH2)、1.40 (m、9H、tBuプロトン)、1.44 (m、4H、ヘキサンジアミンスペーサ由来残留CH2)、2.10 (s、6H、CH3)、2.54 (m、6H、NCH2(CH2)5NHBocおよびNCH2CH2S)、2.76 (m、2H、CH2NHBoc)、3.21 (m、2H、NHBoc)、4.54 (ブロードs、1H、NHBoc)ppm。
MS (ESI+) m/z: 365 [M+H]+。
【0212】
2の作製−テトラクロロ白金酸カリウムとの錯体形成:
1(19.2mg、5.26×10−5mol)をN,N’-ジメチルホルムアミド(11.2ml)中に溶解した。固体のテトラクロロ白金酸カリウム(21.7mg、5.23×10−5mol)を添加した。その混合物を40℃で一夜加熱した。加熱中に赤色テトラクロロ白金酸カリウム固体が溶解するのが観察され、N,N’-ジメチルホルムアミド溶液がオレンジ色に変わるのが観察された。その後、溶媒を加圧下で除去し、茶色の固体を得た。(収量:12.4mg、37.4%)。
【0213】
195Pt NMR (DMF-d7):δPt -3543ppm。
3の作製および4のin-situ作製−Boc-保護基の除去およびEZ-link-LC-ビオチン スクシンイミジルエステルとの反応:
2(12.4mg、1.97×10−5mol)を200mM 塩酸(1336.39μl)と混合した。その混合物を50℃で一夜加熱した。加熱中に茶色固体が溶解するのが観察された。ミリQ中の水酸化ナトリウム溶液(1M;240μl)および塩酸(200mM;10μl)を用いてpHを約8.0に調整した。不溶性の茶色の物質はすべて、パスツールピペットを用いたN,N’-ジメチルホルムアミドの最小量の滴加によって溶解することが可能である。代わりに、N,N’-ジメチルホルムアミド中にスクシンイミジルエステルを添加して茶色の残さを可溶化することもできる。
【0214】
N,N’-ジメチルホルムアミド(159.86μl)中のEZ-link-LC-ビオチン スクシンイミジルエステル(7.993mg、1.76×10−5mol)を滴加した。pHが8.0前後であると確認した。トリエチルアミンをこのpH調整のために添加してもよい。その混合物を5分間遮光下にて室温で攪拌した後、pHが8.0前後であることを確認した。ここでも、トリエチルアミンをpH調整のために使用してもよい。その後、混合物を遮光下にて室温で一夜攪拌した。その後、不溶性物質をろ過した。HPLCを用いて精製を実行した。ターゲット種が画分10に溶出するのがわかった(57.94〜62.94ml)。
【0215】
脱塩は、スクシンイミジルエステルとの反応後に、溶媒を除去することで達成することが可能である。その後、残さを最小量のミリQに溶解し、その溶液をSephadex G15カラムを通して処理する。
【0216】
1の1H NMR (D2O):δH 1.62 (m、12H、LC-ビオチンスペーサ由来)、1.77 (m、8H、ヘキサンジアミンスペーサ由来CH2)、2.94 (m、4H、C(O)CH2)、3.05 (s、6H、CH3)、3.30 (m、 6H、NCH2(CH2)5NHおよびNCH2CH2S)、3.54 (m、4H、NCH2CH2S)、3.86 (m、2H、CH2C(O)NH)、4.0 (m、2H、CH2NHC(O)NH)ppm。
【0217】
MS (ESI+) m/z: 782 [M+−Cl-+OH-]+。
分取用HPLC分析法の詳細:
分析用HPLC分析は、容積が88.247ml(250×21.2μl)の逆相Luna3 C18カラムで、NaCl (100mM; バッファA中で90%およびバッファB中で70%)/2-プロパノール (バッファA中で10%およびバッファB中で90%)によって実行した。総計で(およそ)803.0mlを5.0ml/min.の速度でカラムを通して溶出した。この方法では、30%濃度に達する94.25〜182.49ml(1.0 カラム容積)のB、80%濃度に達する182.49〜403.21ml(2.5 カラム容積)のB、100%濃度に達する403.21〜447.33ml(0.5 カラム容積)のB、および、再度、溶出する579.91〜624.03ml(0.5 カラム容積)の純粋なA、の直線勾配を組み込んだ。447.33〜579.81mlで、純粋なBが溶出された。
【図面の簡単な説明】
【0218】
【図1】全ヒトDNA(500〜1500bp)のBio-Boc-PtまたはBio-APET-Ruによる標識を示す図である。
【図2】全ヒトDNA(500〜1500bp)のDNP-BOC-PtまたはDNP-APET-ULSによる標識を示す図である。
【図3】Cy5-標識試薬で標識された全血清のIgAキャプチャELISAの結果を示す図である。
【図4】Pt [ジエン Cl−] Cl−のESI-MSスペクトルを示す図である。
【図5】3への経路(スキーム1)を示す図である。
【図6】3から標識Pt(II)錯体への経路(スキーム2)を示す図である。
【図7】8への経路(スキーム3)を示す図である。
【図8】8から標識Pt(II)錯体への経路(スキーム4)を示す図である。
【図9】N3 トランス-C3三座配位子の合成経路(スキーム5)を示す図である。
【図10】N3 トランス-Bio ULSで標識されたHELA細胞溶解物のウェスタンブロットを示す図である。
【図11】N3 トランス-Flu ULS(4b)で標識された6つのたんぱく混合物のウェスタンブロットを示す図である。
【図12】N3 トランス-Flu ULS(4b)で標識された1.q12 DNAプローブとハイブリダイズされたヒト中期分裂を示す図である。
【図13】N3 シス-C2三座配位子の合成経路(スキーム6)を示す図である。
【図14】N3 シス-Bio-ULS(5)で標識された6つのたんぱく混合物のウェスタンブロットを示す図である。
【図15】7の合成経路を示す図である。
【図16】N3 トランス-C2三座配位子の合成経路(スキーム7)を示す図である。
【図17】NS2 トランス-C2三座配位子の合成経路(スキーム8)を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属原子と、化学的または生物学的物質が遷移金属原子に付着することを可能とするための反応性部分と、安定化架橋としての不活性三座配位子部分と、マーカとを含むことを特徴とする標識遷移金属錯体。
【請求項2】
遷移金属がバナジウム、クロム、鉄、ニッケル、銅、ルテニウム、パラジウム、白金、モリブデン、タングステン、コバルト、マンガン、オスミウム、ロジウム、イリジウム、亜鉛、およびカドミウムから成る群から選ばれることを特徴とする請求項1記載の錯体。
【請求項3】
遷移金属が鉄、ニッケル、ルテニウム、パラジウム、白金、モリブデン、タングステン、およびコバルトから成る群から選ばれることを特徴とする請求項2記載の錯体。
【請求項4】
遷移金属が白金、コバルト、またはルテニウムであることを特徴とする請求項3記載の錯体。
【請求項5】
マーカが三座配位子部分に含まれるか、または三座配位子部分に付着されており、任意であるが、スペーサを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の錯体。
【請求項6】
遷移金属原子が、3つのドナー原子を介して三座配位子部分に付着し、3つのドナー原子はそれぞれ窒素、酸素、硫黄、およびリン原子の群から独立して選ばれ、三座配位子部分に存在することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の錯体。
【請求項7】
遷移金属原子が3つの窒素原子を介して三座配位子部分に付着することを特徴とする請求項6記載の錯体。
【請求項8】
三座配位子部分のドナー原子は、1〜5、好ましくは1〜3の原子によって互いに分離されることを特徴とする請求項6または7記載の錯体。
【請求項9】
マーカが蛍光標識であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の錯体。
【請求項10】
反応性部分がCl−、NO3−、HCO3−、CO32−、SO32−、ZSO3−、I−、Br−、F−、酢酸イオン、炭酸イオン、リン酸イオン、硝酸エチルイオン、シュウ酸イオン、クエン酸イオン、ホスホン酸イオン、ZO−、および水から成る群から選ばれることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の錯体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の遷移金属錯体に付着した化学的または生物学的物質を含み、化学的または生物学的物質が反応性部分を置換していることを特徴とする標識化学的または生物学的物質。
【請求項12】
物質が、アミノ酸、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、たんぱく、免疫グロブリン、酵素、人工酵素、リン脂質、糖たんぱく、核酸、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、ペプチド核酸、ペプチド核酸オリゴマ、ペプチド核酸ポリマ、アミンおよびアミノグリコシドから成る群から選ばれることを特徴とする請求項11記載の標識化学的または生物学的物質。
【請求項13】
反応性部分が化学的または生物学的物質によって置換される条件下で、化学的または生物学的物質が請求項1〜10のいずれか1項に記載の遷移金属錯体に接触させられることを特徴とする請求項11または12記載の標識化学的または生物学的物質の作製方法。
【請求項14】
物質または物質を含有するサンプルの質量分析を容易にするために、化学的または生物学的物質の分子量に規定シフトを作出するための、請求項1〜10のいずれか1項で定義される遷移金属錯体の使用。
【請求項15】
質量分析による化学的または生物学的物質の区別を可能にする方法であって、請求項1〜10のいずれか1項に記載の少なくとも1つの遷移金属錯体による物質の特異的標識工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
化学的または生物学的物質の質量分析方法であって、請求項1〜10のいずれか1項に記載の少なくとも1つの遷移金属錯体による物質の特異的標識工程と、質量分析によって物質を分析する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
少なくとも2つの物質が標識され、物質が異なるサンプルに由来することを特徴とする請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
物質を特異的に標識する工程が請求項1〜9のいずれか1項に記載の少なくとも2つの遷移金属錯体によって実行され、遷移金属錯体が異なる分子量であり、分子量差が1Da以上であることを特徴とする請求項17記載の方法。
【請求項19】
少なくとも2つの異なる分子量の遷移金属錯体のセットであって、各遷移金属錯体が請求項1〜10のいずれか1項に記載の遷移金属錯体であることを特徴とするセット。
【請求項20】
請求項19に記載の少なくとも2つの異なる分子量の遷移金属錯体のセットを含むことを特徴とする部品のキット。
【請求項21】
さらに反応取扱説明書、試験サンプル、試験管または試験紙、バッファ、マーカ調製品およびイオン強度を調整する調製品から成る群から選ばれる少なくとも1つの品目を含むことを特徴とする請求項20記載の部品のキット。
【請求項22】
請求項15〜18のいずれか1項に記載の方法を採用する部品のキット。
【請求項1】
遷移金属原子と、化学的または生物学的物質が遷移金属原子に付着することを可能とするための反応性部分と、安定化架橋としての不活性三座配位子部分と、マーカとを含むことを特徴とする標識遷移金属錯体。
【請求項2】
遷移金属がバナジウム、クロム、鉄、ニッケル、銅、ルテニウム、パラジウム、白金、モリブデン、タングステン、コバルト、マンガン、オスミウム、ロジウム、イリジウム、亜鉛、およびカドミウムから成る群から選ばれることを特徴とする請求項1記載の錯体。
【請求項3】
遷移金属が鉄、ニッケル、ルテニウム、パラジウム、白金、モリブデン、タングステン、およびコバルトから成る群から選ばれることを特徴とする請求項2記載の錯体。
【請求項4】
遷移金属が白金、コバルト、またはルテニウムであることを特徴とする請求項3記載の錯体。
【請求項5】
マーカが三座配位子部分に含まれるか、または三座配位子部分に付着されており、任意であるが、スペーサを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の錯体。
【請求項6】
遷移金属原子が、3つのドナー原子を介して三座配位子部分に付着し、3つのドナー原子はそれぞれ窒素、酸素、硫黄、およびリン原子の群から独立して選ばれ、三座配位子部分に存在することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の錯体。
【請求項7】
遷移金属原子が3つの窒素原子を介して三座配位子部分に付着することを特徴とする請求項6記載の錯体。
【請求項8】
三座配位子部分のドナー原子は、1〜5、好ましくは1〜3の原子によって互いに分離されることを特徴とする請求項6または7記載の錯体。
【請求項9】
マーカが蛍光標識であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の錯体。
【請求項10】
反応性部分がCl−、NO3−、HCO3−、CO32−、SO32−、ZSO3−、I−、Br−、F−、酢酸イオン、炭酸イオン、リン酸イオン、硝酸エチルイオン、シュウ酸イオン、クエン酸イオン、ホスホン酸イオン、ZO−、および水から成る群から選ばれることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の錯体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の遷移金属錯体に付着した化学的または生物学的物質を含み、化学的または生物学的物質が反応性部分を置換していることを特徴とする標識化学的または生物学的物質。
【請求項12】
物質が、アミノ酸、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、たんぱく、免疫グロブリン、酵素、人工酵素、リン脂質、糖たんぱく、核酸、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、ペプチド核酸、ペプチド核酸オリゴマ、ペプチド核酸ポリマ、アミンおよびアミノグリコシドから成る群から選ばれることを特徴とする請求項11記載の標識化学的または生物学的物質。
【請求項13】
反応性部分が化学的または生物学的物質によって置換される条件下で、化学的または生物学的物質が請求項1〜10のいずれか1項に記載の遷移金属錯体に接触させられることを特徴とする請求項11または12記載の標識化学的または生物学的物質の作製方法。
【請求項14】
物質または物質を含有するサンプルの質量分析を容易にするために、化学的または生物学的物質の分子量に規定シフトを作出するための、請求項1〜10のいずれか1項で定義される遷移金属錯体の使用。
【請求項15】
質量分析による化学的または生物学的物質の区別を可能にする方法であって、請求項1〜10のいずれか1項に記載の少なくとも1つの遷移金属錯体による物質の特異的標識工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
化学的または生物学的物質の質量分析方法であって、請求項1〜10のいずれか1項に記載の少なくとも1つの遷移金属錯体による物質の特異的標識工程と、質量分析によって物質を分析する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
少なくとも2つの物質が標識され、物質が異なるサンプルに由来することを特徴とする請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
物質を特異的に標識する工程が請求項1〜9のいずれか1項に記載の少なくとも2つの遷移金属錯体によって実行され、遷移金属錯体が異なる分子量であり、分子量差が1Da以上であることを特徴とする請求項17記載の方法。
【請求項19】
少なくとも2つの異なる分子量の遷移金属錯体のセットであって、各遷移金属錯体が請求項1〜10のいずれか1項に記載の遷移金属錯体であることを特徴とするセット。
【請求項20】
請求項19に記載の少なくとも2つの異なる分子量の遷移金属錯体のセットを含むことを特徴とする部品のキット。
【請求項21】
さらに反応取扱説明書、試験サンプル、試験管または試験紙、バッファ、マーカ調製品およびイオン強度を調整する調製品から成る群から選ばれる少なくとも1つの品目を含むことを特徴とする請求項20記載の部品のキット。
【請求項22】
請求項15〜18のいずれか1項に記載の方法を採用する部品のキット。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図1】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図1】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【公表番号】特表2008−523054(P2008−523054A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545394(P2007−545394)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【国際出願番号】PCT/NL2005/000824
【国際公開番号】WO2006/062391
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(500267642)クレアテック バイオテクノロジー ベー.ファウ. (2)
【氏名又は名称原語表記】Kreatech Biotechnology B.V.
【住所又は居所原語表記】Vlierweg 20,Amsterdam NETHERLANDS
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【国際出願番号】PCT/NL2005/000824
【国際公開番号】WO2006/062391
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(500267642)クレアテック バイオテクノロジー ベー.ファウ. (2)
【氏名又は名称原語表記】Kreatech Biotechnology B.V.
【住所又は居所原語表記】Vlierweg 20,Amsterdam NETHERLANDS
【Fターム(参考)】
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