模型眼、光断層画像撮像装置の調整方法、及び評価方法
【課題】
光断層画像撮像装置の光学系から出射された光の光軸方向における分解能を評価するための情報を取得できるようにした技術を提供する。
【解決手段】
眼底の断層画像を撮像する光断層画像撮像装置における光学系の評価に用いられる模型眼は、光学系からの照射光が入射される第1の光学部材と、第1の光学部材からの照射光が入射される第2の光学部材とを具備する。ここで、第2の光学部材には、照射光の入射方向に散乱強度の異なる複数の層が形成される。
光断層画像撮像装置の光学系から出射された光の光軸方向における分解能を評価するための情報を取得できるようにした技術を提供する。
【解決手段】
眼底の断層画像を撮像する光断層画像撮像装置における光学系の評価に用いられる模型眼は、光学系からの照射光が入射される第1の光学部材と、第1の光学部材からの照射光が入射される第2の光学部材とを具備する。ここで、第2の光学部材には、照射光の入射方向に散乱強度の異なる複数の層が形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模型眼、光断層画像撮像装置の調整方法、及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の組織(例えば、眼の網膜)の断層画像を非侵襲で撮像(取得)する装置として光断層画像撮像装置(Optical Coherence Tomography:以下、OCTと呼ぶ場合もある)が知られている。
【0003】
光断層画像撮像装置では、偏向器により網膜上に光ビームを2次元走査し、干渉計によりその反射光及び後方散乱光を計測する。これにより、深達(縦)方向の情報を含めた3次元の画像を取得する。
【0004】
従来、OCTにより取得される断層画像の画質を向上させるため、高解像度化(高分解能化)を目指した努力が続けられている。3次元の画像の画質(空間分解能)の評価は、OCTから照射される光ビームの光軸方向に直交する方向の分解能を示す横方向分解能と、光軸方向の分解能を示す縦方向分解能とに分けて行なわれる。そのため、各々の空間分解能を評価する手法もそれぞれ異なってくる。
【0005】
眼底の画像における設計上の横方向分解能は、OCTやSLO(Scanning Laser Ophthalmoscope:走査レーザー検眼鏡)においては、網膜上で走査されるビームスポット径で決まる。また、眼底カメラにおいては、光学系のNAによって決まる。
【0006】
このような横方向分解能の評価には、一般に、模型眼が用いられる。模型眼には、単レンズ又は複数のレンズが配されており、網膜に相当する面には、解像度チャートが設けられる。横方向分解能の評価対象となる装置においては、このパターンを撮像し、各空間周波数に相当したパターンの濃淡(明暗)のコントラストを算出する。これにより、評価対象となる装置では、所望の横方向分解能が達成されているか評価される。
【0007】
例えば、特許文献1で開示される模型眼では、略筒状の模型眼の本体にレンズが組み込まれており、また、眼底カメラによる検眼時における眼底共役位置に解像度チャートが配置されている。この模型眼には、チャートの背面側にのみ光拡散用の反射部材が設けられており、オペレータは、これをモニタしながら、被検眼に対してピントを調整する。横方向分解能の評価は、合焦した状態で行なわれる。
【0008】
一方、OCTの縦方向分解能δは、理論的には、干渉計のコヒーレンス関数の半値幅として求められる。具体的には、以下の式で算出される。
δ=2・ln(2)・λ02/(π・△λ)・・・(1)
λ0は、照射光源の中心波長であり、△λは、波長スペクトルの半値幅である。
【0009】
一般に、OCTの光源には、低コヒーレンス光源が用いられるが、δの値を小さくするため、△λの大きい光源の開発も進められている。近年では、△λが100nmを超える光源を用いて、δが約3μmの縦方向分解能を実現しているという例も報告されている。
【0010】
しかし、これらはあくまで理論上の値であり、横方向分解能と同様に、縦方向分解能についても、実際の値を測定して評価を行なえるようにすることが望まれている。上述した通り、縦方向分解能の評価では、横方向分解能の評価で用いられるような解像度チャートは存在しない。実際の値を用いた縦方向分解能の評価としては、サイズのおおよそのオーダーが知られている植物の細胞や多層フィルムなどを測定する手法が知られている。非特許文献1では、シリコン中に平均粒径1μmのTiO2微粒子を分散させた薄膜を作成し、各微粒子の像のサイズによって断層画像の画質を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−165759号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】T.Ralston et.al.“Real-time interferometric synthetic aperture microscopy" Opt.Express(16)2555-2569(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述した式(1)で求められるδの値(OCTの縦方向分解能)は、光源の波長スペクトル分布がガウス形状であることを前提としている。図7(a)は、ガウス形状の光源スペクトル分布とそれに対応するコヒーレンス関数形状とを表すグラフである。この場合、△λは、50nmであり、導出されるδは、6μmとなる。
【0014】
ここで、OCTの光源には、例えば、SLD(Super Luminescent Diode)などが用いられることが多い。しかし、SLDのスペクトル分布は、ガウス形状でない場合が多い。図7(b)は、SLDのスペクトル分布とそれに対応するコヒーレンス関数形状とを表すグラフである。この場合、図7(b)の右側のグラフに示されるコヒーレンス関数の半値幅は、式(1)で求められるδの値と大きな差はないが、裾が大きく広がっており、尖鋭性が低下した状態となる。
【0015】
また、OCTの仕様にもよるが、縦方向のサンプリング間隔は、現実には、数μm程度にとどまることが多いため、測定されたコヒーレンス関数の幅を求めることによって縦方向分解能を評価しようとしても、必要な精度が得られない場合も多い。
【0016】
コヒーレンス関数は、断層画像の縦方向の成分を形成する上での最小単位となり、カメラなどの2次元画像を形成する光学系における点像分布関数に相当する。従って、観察される断層画像分布の縦方向成分は、実際の被検査対象物の散乱強度分布と、このコヒーレンス関数とのコンボリューションとして得られることになる。
【0017】
ここで、図8を用いて、図7(a)及び図7(b)のコヒーレンス関数をそれぞれ持つOCTにより、ある物体を測定した時に得られる断層画像のプロファイルについて説明する。ここで、点線は、矩形の周期的散乱強度分布を持つ物体を示している。細線は、図7(a)のコヒーレンス関数を持つOCTによる測定で得られた断層画像のプロファイルを示しており、太線は、図7(b)のコヒーレンス関数を持つOCTによる測定で得られた断層画像のプロファイルを示している。
【0018】
図8に示すように、図7(a)及び図7(b)に示すコヒーレンス関数の半値幅は殆ど変わらないにも関わらず、画像においては高周波の光に対応する位置のコントラストに大きな差が生じ、深さ方向位置が小さい(つまりは浅い)位置でのコントラストが小さくなっている。従って、縦方向分解能を示す指標として用いられるδ(コヒーレンス関数の半値幅)は、断層画像を画像化した際の縦方向分解能を表現する値として、必ずしも妥当であるとはいえない。
【0019】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、光断層画像撮像装置の光学系から出射された光の光軸方向における分解能を評価するための情報を取得できるようにした技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、眼底の断層画像を撮像する光断層画像撮像装置における光学系の評価に用いられる模型眼であって、前記光学系からの照射光が入射される第1の光学部材と、前記第1の光学部材からの照射光が入射される第2の光学部材とを具備し、前記第2の光学部材には、前記照射光の入射方向に散乱強度の異なる複数の層が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、光断層画像撮像装置の光学系から出射された光の光軸方向における分解能を評価するための情報を取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係わる模型眼100の断面構成の一例を示す図。
【図2】OCTの光学系の構成の一例を示す図。
【図3】断層画像の輝度プロファイルの一例を示す図。
【図4】実施形態2に係わる模型眼100の断面構成の一例を示す図。
【図5】実施形態3に係わる模型眼100の断面構成の一例を示す図。
【図6】図5に示す複数の層3の構成の一例を模式的に示した図。
【図7】従来技術の一例を説明するための図。
【図8】従来技術の一例を説明するための図。
【図9】OCTの光学系の構成の一例を示す図。
【図10】図1に示す模型眼100の断層画像の一例を示す図。
【図11】分散補償ガラス6の厚みの調整過程を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
(実施形態1)
まず、図1を用いて、本実施形態に係わる模型眼100の断面構成の一例について説明する。
【0025】
模型眼100は、眼底の断層画像を撮像するOCT(光断層画像撮像装置)の光学系の評価に使用される。より具体的には、OCTから出射された光の光軸方向に沿ってOCTにおける光学系の解像度(縦方向分解能)を評価するために使用される。
【0026】
ここで、OCTで撮像された画像の輝度は、被検体(被検眼)内部の反射・後方散乱の強度に対応する。当該撮像された画像に明るさを持たせるため、被検体(被検眼)の内部において、光軸方向に沿った所定位置に適当な散乱濃度を持たせる必要がある。
【0027】
そこで、本実施形態においては、この濃度が光の光軸方向に沿ってあるパターンで規則的に変化させるようにするため、光の光軸方向に沿って散乱強度の異なる層を形成する。これにより、本実施形態においては、横方向分解能(光軸方向に直交する方向への分解能)の評価時に用いられる解像度チャートに相当する構成を設け、縦方向分解能(光軸方向への分解能)の評価を可能にする。
【0028】
図1において、模型眼100は、レンズ1と、ガラス基板21と、複数の層3と、それらを保持する筒状の筐体5とを具備して構成される。レンズ1とガラス基板21との間の領域4には、例えば、空気が満たされている。なお、この領域は、水などの液体が満たされていても良いし、また、ガラスなどの透明な固体で形成されていても良い。
【0029】
ここで、模型眼100と(実際の)眼球との対応関係としては、レンズ1は、角膜及び水晶体に対応し、領域4及びガラス基板21は、ガラス体に対応し、複数の層3は、網膜に対応する。なお、図1では、説明の便宜上、複数の層3の厚みを実際よりも拡大して示している。
【0030】
模型眼100には、第1の光学部材としてレンズ1と、第2の光学部材としてガラス基板21とが設けられており、レンズ1には、OCTの光学系を介して照射光が入射され、ガラス基板21には、レンズ1を介したOCTの光学系からの照射光が入射される。
【0031】
ここで、ガラス基板21上には、照射光の入射側と逆方向に向けて複数の層3が積層されている。ガラス基板21は、照射光が順次入射されるように構成されている。複数の層3には、第1の散乱層31及び第2の散乱層32が交互に複数形成されている。第1の散乱層31は、第1の透明媒体(透過性を有する媒体)で構成されており、その中に、第1の微粒子が第1の濃度で分散している。第2の散乱層32は、第2の透明媒体で構成されており、その中に、第2の微粒子が第2の濃度で分散している。
【0032】
なお、第1の透明媒体及び第2の透明媒体は、OCTの光源波長λcに対して、例えば、90%以上の透過率を持つ。ここでは、紫外線硬化樹脂などの光硬化材に、それとは屈折率の異なる微粒子(第1の微粒子、第2の微粒子)を分散させ、薄膜化させた後に硬化させる。これにより、第1の透明媒体及び第2の透明媒体は、形成される。なお、微粒子が凝集したり析出したりしないように、分散剤を用いても良い。
【0033】
微粒子(第1の微粒子、第2の微粒子)の粒径は、例えば、OCTで用いられる光源の中心波長λcと同等であるか、又は、λcよりも大きく散乱層の厚みtよりも小さいのが望ましい。これは、粒径が、光源の中心波長λcよりも大幅に小さければ、所望の強度で散乱が発生せず、また、散乱層の厚みtよりも大きければ、層の境界が均一な平面(或いは曲面)にならないためである。
【0034】
微粒子(第1の微粒子、第2の微粒子)の材質は、例えば、ラテックス、シリカ粒子などが挙げられ、透明媒体(第1の透明媒体、第2の透明媒体)と異なる屈折率を持つものであればよい。
【0035】
なお、第1の微粒子及び第2の微粒子の粒径や材質(屈折率)には、同じものを用いても良いし、また、実際の眼底の各層の細胞の特性に合わせるなどして互いに異なるものを用いても良い。また、両微粒子の材質を同一にした場合には、例えば、第1の微粒子の粒径を、第2の微粒子よりも大きくして各層における散乱強度に違いを持たせる。また、両微粒子の粒径を同一にした場合には、例えば、第1の微粒子の数(又は濃度)を、第2の微粒子よりも大く(濃く)して各層における散乱強度に違いを持たせる。
【0036】
また、第1の散乱層31及び第2の散乱層32には、必ずしも微粒子を分散させる必要はなく、第1の散乱層31及び第2の散乱層32は、単一の材質から形成されても良い。第1の散乱層31及び第2の散乱層32は、例えば、単一の透明材質中に微細な球状の気泡を含んで構成されても良いし、また、多孔質で構成されても良い。
【0037】
第1の散乱層31及び第2の散乱層32の微粒子の濃度は、薄すぎた場合、撮像される画像のS/Nが悪くなり、また、濃すぎた場合、照射光の侵達度が悪くなる。撮像される画像の信号強度は、粒径にも依るため、実際の眼底を観察したときに得られる画像の信号強度と同程度になるように濃度を調整することが望ましい。
【0038】
ここでは、第1の散乱層31の濃度は、得られる画像の信号強度が眼底の色素上皮層を観察した時に得られる強度と同程度になるように調整される。第2の散乱層32の濃度は、内網状層を観察した時と同程度の強度になるように調整される。また、コントラストが最も大きい場合の解像度を評価するために、第2の散乱層32の粒子濃度をゼロにして透明にしてもよい。
【0039】
また、各層の境界面での反射率が大きいと、境界面からの反射光強度が強すぎて境界周辺領域が正しく画像化されない可能性がある。そのため、第1の透明媒体及び第2の透明媒体は、両者の屈折率の差による境界面での反射を防ぐため、同じものを用いるのが望ましい。
【0040】
なお、第1の微粒子及び第2の微粒子に異なる物質を用いる場合には、それらを透明媒体内で良好に分散させるため、それらの分子構造の違いに合わせて異なる透明媒体を用いてもよい。その場合、境界面での反射率を極力小さくするため、第1の透明媒体(第1の散乱層)の屈折率n1、第2の透明媒体(第2の散乱層)の屈折率n2の差ができるだけ小さくなる媒体を選ぶ必要がある。
【0041】
これは、ガラス基板21(屈折率n3とする)と複数の層3との境界面42についても同じことがいえる。上述した通り、散乱層からの信号強度が眼底からの信号と同程度になるように微粒子の濃度を設定した場合、(散乱光強度)/(照射光強度)の値は10−5程度となる。各境界面での反射率は、この値を下回ることが望ましい。
【0042】
ここで、ガラス基板21、第1の散乱層31の透明媒体、第2の散乱層32の透明媒体には、
{(nj−nk)/(nj+nk)}2≦0.00001
但し j、k=1〜3、j≠k
を満たす材質を選べば良い。
【0043】
これにより、各境界面における正反射光による画像への影響を低減できる。また、各散乱層内からの後方散乱光のみで形成された不要成分の少ない良好な画像が得られる。
【0044】
また、OCTにおける光学系の最大の縦方向分解能を評価できるようにするには、少なくとも光源スペクトルの半値幅から理想的に求まるコヒーレンス関数の半値幅δ(μm)に相当する空間周波数が得られる必要がある。そのため、模型眼100における第1の散乱層31及び第2の散乱層32には、δ(μm)以下の層厚の層を含める。なお、測定精度を上げるためには、δ/2(μm)を下回ることが望ましい。
【0045】
例えば、δ(μm)で解像しているか否かのみを把握したい場合は、第1の散乱層31及び第2の散乱層32の各層の厚みは、全てδ(μm)の層厚であれば良い。また、各空間周波数毎に縦方向分解能を評価したいのであれば、第1の散乱層31及び第2の散乱層32の各層の厚みは、それぞれ異なる層厚で構成すれば良い。
【0046】
ここで、図1に示す模型眼100によりOCTを評価する手法について説明する。図9は、OCTの光学系の構成の一例を示す図である。
【0047】
OCTは、低コヒーレンス干渉計の原理に従って断層画像を構築するため、被検査対象物を含む観察光学系91と、参照光学系92とを具備して構成される。観察光学系91及び参照光学系92における光路長は、ほぼ同等にする必要がある。また、両光学系におけるトータルの分散の値、すなわち、Σ[−λ・{d2nk(λ)/dλ2}・dk](nkは、空気を含む各部の屈折率、dkは空気を含む各部の空間的距離)も同等にする必要がある。この値が異なれば、波長による光の伝搬速度の差によって可干渉距離、即ちコヒーレンス関数の幅が広がり、縦方向分解能が落ちてしまう。
【0048】
この分散の補償を行なう技術としては、例えば、眼を含む観察光学系91で発生する分散の値と等価な分散を持つ分散補償ガラス6を参照光学系92に設ける手法が知られている。接眼光学系の分散値は、既知であるため、分散補償ガラスの厚みd6も一義的に決まる。
【0049】
ここで、SLD光源12から出射された光(測定光)は、ファイバ71を介して伝搬され、カプラー11に入射する。カプラー11においては、当該入射光を所定の比率で分岐し、一方をファイバ73を介して観察光学系91へ伝搬し、他方をファイバ74を介して参照光学系92に伝搬する。
【0050】
観察光学系91においては、ファイバ73の端部から光線(ビーム)が射出される。このビームは、コリメータレンズ10により、平行化され、スキャナミラー9により、2次元方向に偏向される。偏向されたビームは、接眼レンズ8を介して模型眼100に入射し、複数の層3の近傍に集光し走査される。複数の層3の各点からの反射光及び後方散乱光は、レンズ1、接眼レンズ8、スキャナミラー9、コリメータレンズ10を介してファイバ73に入射する。ここで、分散補償ガラス6の厚みd6は、観察光学系91に人眼が配置されていることを前提に決められているため、模型眼100の分散量が人眼の分散と異なると、コヒーレンス関数が広がって縦分解能が劣化し、正しく評価することができなくなる。従って、模型眼100の分散量は、人眼の分散に等しくなるように設計されていることが望ましい。
【0051】
一方、参照光学系92においては、ファイバ74の端部から光線(ビーム)が射出される。このビームは、コリメータレンズ10により、平行化された後、分散補償ガラス6を透過し、折り返しミラー7に入射する。折り返しミラー7は、その入射光を元の光路に向けて反射する。これにより、反射光は、入射時と同一光路を経て、再度、ファイバ74に入射する。
【0052】
ファイバ73及びファイバ74に入射された各々の光は、カプラー11により、合波される。カプラー11により合波された光(干渉光)は、ファイバ72を介して分光器80へ伝搬される。分光器80に入射した干渉光は、レンズにより、平行化され、グレーティング14により、各波長の光に分光される。分光された光は、結像レンズの作用により1次元センサー15に結像される。
【0053】
1次元センサー15では、各波長に対応した光強度を検出し、電気信号を生成(変換)する。電気信号は、制御部13に送られる。電気信号は、波長を波数に変換した後、フーリエ変換され、縦方向の位置に対する散乱強度として求められる。これを走査された光線の位置各々に対して行なうことで、断層画像、3次元の画像が得られる。
【0054】
ここで、光源12の中心波長λ0が850nmであり、波長スペクトルの半値幅△λが50nmである場合について考えてみる。この場合、計算によって求められるコヒーレンス関数の半値幅δは、約6μmである。そのため、模型眼100の複数の層3における各層の層厚は、全て6μmで形成されている。
【0055】
ここで、第1の散乱層31は、所定の濃度で微粒子が分散され、第2の散乱層32は、微粒子の濃度をゼロにした透明層として形成されている。この模型眼の断層画像としては、例えば、図10に示す画像が得られる。ここで、散乱層面方向x=0での深さ方向(z)の位置に対する散乱強度情報を取得し、図3に示すように、その輝度プロファイルをディスプレイに表示する。すなわち、ディスプレイには、深さ方向の位置情報と散乱強度情報との関係が表示されている。
【0056】
このとき、輝度コントラスト値
△D=(Dmax−Dmin)/(Dmax+Dmin)
も同時に表示することで、断層方向の解像度を評価することが可能になっている。なお、図1に示すように散乱層が平面上に形成されている場合は、面方向の位置(x)によって照射ビームの入射角度が変わるため、各散乱層を通過する光路が異なる。従って、この場合、図3に示す深さ方向の座標(z)については補正が必要になる。
【0057】
このように取得した画像情報から直接、評価対象となるOCTにおける縦方向分解能を評価することができる。
【0058】
上述した通り、理想的には観察光学系91の分散は一定であるため、分散補償ガラス6の厚みd6は一義的に決まるが、実際には製造誤差などが発生するため、縦方向分解能が最も良好になるように、厚みd6を調整する必要がある。ここで、本実施形態の模型眼100を用いて、d6を微調整する手順について図2に示す構成に基づいて説明する。
【0059】
分散補償ガラス6における光軸方向の厚みが適切でなければ、コヒーレンス関数が広がって縦方向分解能が劣化する。そのため、以下のような手順により分散補償ガラス6の調整を行なう。
【0060】
まず、分散補償ガラス6の厚みd6を、装置の設計上の分散値に基づいて所定値に設定する。図2の構成は、基本的には、図9と同じ構成となるが、分散補償ガラス6が、2枚の楔型のプリズムを斜面で密着させた構成になっている点で異なる。そのため、オペレータは、操作部(不図示)を操作することにより斜面に沿って当該ガラス6を相互にスライドさせる。これにより、光軸方向の厚みを任意に調整できる。このとき、模型眼100は、眼に相当する位置に設置されており、複数の層3における各位置にビームが集光するように配置されている。
【0061】
このとき、輝度コントラスト値
△D=(Dmax−Dmin)/(Dmax+Dmin)
も同時にリアルタイムで表示され、オペレータは、この値を参照し、当該値が最も大きくなるように分散補償ガラス6の厚みを調整する。例えば、図11にその調整過程を示す。ガラス6の厚みd6の調整前には、断層画像における、あるx位置のプロファイルの強度分布が細線に示すようにリアルタイムで表示される。このとき、△Dの値は、約0.23であり、その値も表示されている。この△Dの値が、最も大きくなるようにd6の値を変えていくと、輝度プロファイル分布は太線に示す状態のようになり、△Dの値は約0.54となる。なお、この調整は、制御部13が自動的に行なうように構成しても良い。
【0062】
以上説明したように実施形態1に係わる模型眼によれば、OCTからの照射光の光軸方向(入射方向)に沿って散乱強度の異なる層が形成される。これにより、OCTにより取得された情報に基づいて、OCTの光軸方向における分解能を評価できる。また更に、当該評価に基づいてOCTの光学系を調整することができる。すなわち、OCT(光断層画像撮像装置)の光学系から出射された光の光軸方向における分解能を評価するための情報を取得できる。
【0063】
(実施形態2)
次に、実施形態2について説明する。実施形態1においては、複数の層3の端面43が外部(空気)との境界面となっていたが、実施形態2においては、当該端面43での光の反射率を考慮した場合について説明する。
【0064】
図4は、実施形態2に係わる模型眼100の断面構成の一例を示す図である。なお、実施形態1を説明した図1の構成と同一の構成については同じ符号を付し、その説明については省略する。
【0065】
実施形態2に係わる模型眼100には、実施形態1の構成に加えて、ガラス基板22が設けられる。ガラス基板22は、複数の層3の端面(OCTから照射光が入射する側の面と逆側の面)43側に第3の光学部材として設けられる。すなわち、ガラス基板22は、第2の散乱層32aの更に入射側から遠い位置に設けられる。ガラス基板22は、第1の散乱層31又は第2の散乱層32の透明媒体と屈折率が同じ、又はその差が小さい材質で構成される。これにより、端面43での反射率を低減する。
【0066】
ガラス基板22が外部と接する(外部との)境界面44は、空気との境界になるが、OCTが共焦点光学系であれば、ガラス基板22の厚みを大きくすれば、境界面44は、結像面から外れるため、境界面44からの反射光を低減することができる。なお、境界面41での反射に関するガラス基板21の厚みの設定に関しても同様のことがいえる。
【0067】
また、ガラス基板22は、正反射光がOCT側に戻らないようにするため、境界面44が光軸に対して傾けて構成される。なお、所定の曲面で境界面44を構成するなどしても良い。また、ガラス基板22は、第1の散乱層31又は第2の散乱層32の透明媒体と同じ材質を用いて構成されても良い。その場合、これらの層(第1の散乱層31、第2の散乱層32)よりも厚く形成すれば、上記同様に正反射光がOCT側に戻るのを抑制できる。
【0068】
以上説明したように実施形態2に係わる模型眼によれば、OCTから照射光が入射する側の面と逆側の面に所定の厚みを有するガラス基板22を設ける。そのため、実施形態1と同様に、評価及び調整を行なう際に不要な反射光が測定結果に含まれることを抑制できる。これにより、実施形態1の構成よりも更に、OCTの光軸方向における分解能を精度良く評価できるとともに、また、OCTの光学系を調整することができる。
【0069】
(実施形態3)
次に、実施形態3について説明する。図5は、実施形態3に係わる模型眼100の断面構成の一例を示す図である。
【0070】
実施形態3に係わる模型眼100は、ガラス基板21における照射光の入射側と反対側の面が球面で形成されており、その後方には、複数の層3が設けられている。複数の層3には、第1の散乱層31と、第2の散乱層32とが交互に積層されており、第2の散乱層32は、微粒子の濃度をゼロにした透明層で形成されている。
【0071】
第1の散乱層31及び第2の散乱層(以下、透明層と呼ぶ)32は、均一な厚さで形成されているが、最も外側に形成された透明層32aは、他の透明層32よりも厚く形成されており、その境界面44が光軸に対してシフトした球面形状で形成されている。これにより、どの画角で入射した光束に対しても、境界面44からの正反射光が戻らないように構成されている。
【0072】
ここで、レンズ1及びガラス基板21は、複合レンズを構成しており、この複合レンズの焦点距離は、Gullstrandの模型眼仕様に従って、例えば、22.785mmに設計されている。レンズ1の中心に入射した光は、ガラス基板21の後面42に集光する。
【0073】
ガラス基板21の材質は、例えば、波長840nmでの屈折率がn3=1.491477であるガラスである。第1の散乱層31及び透明層32で用いられる透明媒体は、例えば、波長840nmでの屈折率がn1=1.49である紫外線硬化樹脂が用いられる。この場合、境界面42での反射率は2.5×10−5%となる。
【0074】
図6は、図5に示す複数の層3の構成の一例を模式的に示した図である。
【0075】
ガラス基板21の境界面42には、上述した通り、透明層32、第1の散乱層31の順で交互に層が形成されている。ここで、透明層32及び第1の散乱層31は、隣り合う透明層32と第1の散乱層31とでペアを構成する。ペアを組む層各々は、同じ層厚を持つ。図6の場合、2ペアずつを1つのユニットとして、ユニット内に含まれる各層が同じ層厚を持つ。すなわち、複数の層には、異なる層厚を持つユニットが複数配置されており、その層厚は、光の光軸方向に沿って徐々に厚くなる。これは、各空間周波数毎の明暗コントラスト値を測定できるようにするためである。なお、ユニットは、必ずしも2ペアずつでなくてもよく、1ペアや3ペア等を単位としてユニットを組み、層厚を変化させるようにしても良い。
【0076】
ここで、式(1)で求められるコヒーレンス関数の半値幅δが6μmのOCTを評価する場合、それぞれのユニットの層厚は、境界面42側から、3μm、4.5μm、6μm、9μmとなる。
【0077】
このような構成の模型眼100を用いて断層画像を撮像することにより、各空間周波数毎のコントラスト値を算出できるため、評価したOCTが、どのくらいの周波数まで十分に解像できるかを把握できることになる。
【0078】
なお、厚い層厚のユニットを入射側に配置した場合には、光の光軸方向に沿って深い位置に配置された薄い層厚のユニットに届く光量が低下してしまう。また、戻り光(反射光、後方散乱光)の強度も低下してしまう。
【0079】
また、図3で説明したようなSD(Spectral-Domain)方式のOCTでは、使用する1次元センサー15の画素数により、原理的に深い位置になるほど信号強度が落ちてしまう。そのため、本実施形態においては、高周波におけるコントラスト値の測定精度の低下を抑制するために、照射光の入射側、つまり、ガラス基板22側に層厚の薄いユニットを配置している。
【0080】
なお、実施形態3に係わる模型眼100においても、実施形態1同様にOCTの評価及び調整を行なうことができる。その際、眼底に相当する層が球面を成しているため、2次元走査される光に対して、より現実的な評価及び調整を行なうことができる。
【0081】
以上が本発明の代表的な実施形態の一例であるが、本発明は、上記及び図面に示す実施形態に限定することなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施できるものである。
【0082】
なお、上述した実施形態1〜3の構成の一部を組み合わせて実施しても良い。例えば、実施形態3においても、複数の層3として、所定の濃度を持つ第1の散乱層31及び第2の散乱層32を設けても良い。また、実施形態2で説明した外部を覆うガラス基板22の代わりに、実施形態3で説明した透明層を用いても良いし、実施形態3で説明した透明層の代わりに、実施形態2で説明したガラス基板を用いても良い。その他、層厚の設定の仕方等についても同様のことがいえる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、模型眼、光断層画像撮像装置の調整方法、及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の組織(例えば、眼の網膜)の断層画像を非侵襲で撮像(取得)する装置として光断層画像撮像装置(Optical Coherence Tomography:以下、OCTと呼ぶ場合もある)が知られている。
【0003】
光断層画像撮像装置では、偏向器により網膜上に光ビームを2次元走査し、干渉計によりその反射光及び後方散乱光を計測する。これにより、深達(縦)方向の情報を含めた3次元の画像を取得する。
【0004】
従来、OCTにより取得される断層画像の画質を向上させるため、高解像度化(高分解能化)を目指した努力が続けられている。3次元の画像の画質(空間分解能)の評価は、OCTから照射される光ビームの光軸方向に直交する方向の分解能を示す横方向分解能と、光軸方向の分解能を示す縦方向分解能とに分けて行なわれる。そのため、各々の空間分解能を評価する手法もそれぞれ異なってくる。
【0005】
眼底の画像における設計上の横方向分解能は、OCTやSLO(Scanning Laser Ophthalmoscope:走査レーザー検眼鏡)においては、網膜上で走査されるビームスポット径で決まる。また、眼底カメラにおいては、光学系のNAによって決まる。
【0006】
このような横方向分解能の評価には、一般に、模型眼が用いられる。模型眼には、単レンズ又は複数のレンズが配されており、網膜に相当する面には、解像度チャートが設けられる。横方向分解能の評価対象となる装置においては、このパターンを撮像し、各空間周波数に相当したパターンの濃淡(明暗)のコントラストを算出する。これにより、評価対象となる装置では、所望の横方向分解能が達成されているか評価される。
【0007】
例えば、特許文献1で開示される模型眼では、略筒状の模型眼の本体にレンズが組み込まれており、また、眼底カメラによる検眼時における眼底共役位置に解像度チャートが配置されている。この模型眼には、チャートの背面側にのみ光拡散用の反射部材が設けられており、オペレータは、これをモニタしながら、被検眼に対してピントを調整する。横方向分解能の評価は、合焦した状態で行なわれる。
【0008】
一方、OCTの縦方向分解能δは、理論的には、干渉計のコヒーレンス関数の半値幅として求められる。具体的には、以下の式で算出される。
δ=2・ln(2)・λ02/(π・△λ)・・・(1)
λ0は、照射光源の中心波長であり、△λは、波長スペクトルの半値幅である。
【0009】
一般に、OCTの光源には、低コヒーレンス光源が用いられるが、δの値を小さくするため、△λの大きい光源の開発も進められている。近年では、△λが100nmを超える光源を用いて、δが約3μmの縦方向分解能を実現しているという例も報告されている。
【0010】
しかし、これらはあくまで理論上の値であり、横方向分解能と同様に、縦方向分解能についても、実際の値を測定して評価を行なえるようにすることが望まれている。上述した通り、縦方向分解能の評価では、横方向分解能の評価で用いられるような解像度チャートは存在しない。実際の値を用いた縦方向分解能の評価としては、サイズのおおよそのオーダーが知られている植物の細胞や多層フィルムなどを測定する手法が知られている。非特許文献1では、シリコン中に平均粒径1μmのTiO2微粒子を分散させた薄膜を作成し、各微粒子の像のサイズによって断層画像の画質を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−165759号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】T.Ralston et.al.“Real-time interferometric synthetic aperture microscopy" Opt.Express(16)2555-2569(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述した式(1)で求められるδの値(OCTの縦方向分解能)は、光源の波長スペクトル分布がガウス形状であることを前提としている。図7(a)は、ガウス形状の光源スペクトル分布とそれに対応するコヒーレンス関数形状とを表すグラフである。この場合、△λは、50nmであり、導出されるδは、6μmとなる。
【0014】
ここで、OCTの光源には、例えば、SLD(Super Luminescent Diode)などが用いられることが多い。しかし、SLDのスペクトル分布は、ガウス形状でない場合が多い。図7(b)は、SLDのスペクトル分布とそれに対応するコヒーレンス関数形状とを表すグラフである。この場合、図7(b)の右側のグラフに示されるコヒーレンス関数の半値幅は、式(1)で求められるδの値と大きな差はないが、裾が大きく広がっており、尖鋭性が低下した状態となる。
【0015】
また、OCTの仕様にもよるが、縦方向のサンプリング間隔は、現実には、数μm程度にとどまることが多いため、測定されたコヒーレンス関数の幅を求めることによって縦方向分解能を評価しようとしても、必要な精度が得られない場合も多い。
【0016】
コヒーレンス関数は、断層画像の縦方向の成分を形成する上での最小単位となり、カメラなどの2次元画像を形成する光学系における点像分布関数に相当する。従って、観察される断層画像分布の縦方向成分は、実際の被検査対象物の散乱強度分布と、このコヒーレンス関数とのコンボリューションとして得られることになる。
【0017】
ここで、図8を用いて、図7(a)及び図7(b)のコヒーレンス関数をそれぞれ持つOCTにより、ある物体を測定した時に得られる断層画像のプロファイルについて説明する。ここで、点線は、矩形の周期的散乱強度分布を持つ物体を示している。細線は、図7(a)のコヒーレンス関数を持つOCTによる測定で得られた断層画像のプロファイルを示しており、太線は、図7(b)のコヒーレンス関数を持つOCTによる測定で得られた断層画像のプロファイルを示している。
【0018】
図8に示すように、図7(a)及び図7(b)に示すコヒーレンス関数の半値幅は殆ど変わらないにも関わらず、画像においては高周波の光に対応する位置のコントラストに大きな差が生じ、深さ方向位置が小さい(つまりは浅い)位置でのコントラストが小さくなっている。従って、縦方向分解能を示す指標として用いられるδ(コヒーレンス関数の半値幅)は、断層画像を画像化した際の縦方向分解能を表現する値として、必ずしも妥当であるとはいえない。
【0019】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、光断層画像撮像装置の光学系から出射された光の光軸方向における分解能を評価するための情報を取得できるようにした技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、眼底の断層画像を撮像する光断層画像撮像装置における光学系の評価に用いられる模型眼であって、前記光学系からの照射光が入射される第1の光学部材と、前記第1の光学部材からの照射光が入射される第2の光学部材とを具備し、前記第2の光学部材には、前記照射光の入射方向に散乱強度の異なる複数の層が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、光断層画像撮像装置の光学系から出射された光の光軸方向における分解能を評価するための情報を取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係わる模型眼100の断面構成の一例を示す図。
【図2】OCTの光学系の構成の一例を示す図。
【図3】断層画像の輝度プロファイルの一例を示す図。
【図4】実施形態2に係わる模型眼100の断面構成の一例を示す図。
【図5】実施形態3に係わる模型眼100の断面構成の一例を示す図。
【図6】図5に示す複数の層3の構成の一例を模式的に示した図。
【図7】従来技術の一例を説明するための図。
【図8】従来技術の一例を説明するための図。
【図9】OCTの光学系の構成の一例を示す図。
【図10】図1に示す模型眼100の断層画像の一例を示す図。
【図11】分散補償ガラス6の厚みの調整過程を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
(実施形態1)
まず、図1を用いて、本実施形態に係わる模型眼100の断面構成の一例について説明する。
【0025】
模型眼100は、眼底の断層画像を撮像するOCT(光断層画像撮像装置)の光学系の評価に使用される。より具体的には、OCTから出射された光の光軸方向に沿ってOCTにおける光学系の解像度(縦方向分解能)を評価するために使用される。
【0026】
ここで、OCTで撮像された画像の輝度は、被検体(被検眼)内部の反射・後方散乱の強度に対応する。当該撮像された画像に明るさを持たせるため、被検体(被検眼)の内部において、光軸方向に沿った所定位置に適当な散乱濃度を持たせる必要がある。
【0027】
そこで、本実施形態においては、この濃度が光の光軸方向に沿ってあるパターンで規則的に変化させるようにするため、光の光軸方向に沿って散乱強度の異なる層を形成する。これにより、本実施形態においては、横方向分解能(光軸方向に直交する方向への分解能)の評価時に用いられる解像度チャートに相当する構成を設け、縦方向分解能(光軸方向への分解能)の評価を可能にする。
【0028】
図1において、模型眼100は、レンズ1と、ガラス基板21と、複数の層3と、それらを保持する筒状の筐体5とを具備して構成される。レンズ1とガラス基板21との間の領域4には、例えば、空気が満たされている。なお、この領域は、水などの液体が満たされていても良いし、また、ガラスなどの透明な固体で形成されていても良い。
【0029】
ここで、模型眼100と(実際の)眼球との対応関係としては、レンズ1は、角膜及び水晶体に対応し、領域4及びガラス基板21は、ガラス体に対応し、複数の層3は、網膜に対応する。なお、図1では、説明の便宜上、複数の層3の厚みを実際よりも拡大して示している。
【0030】
模型眼100には、第1の光学部材としてレンズ1と、第2の光学部材としてガラス基板21とが設けられており、レンズ1には、OCTの光学系を介して照射光が入射され、ガラス基板21には、レンズ1を介したOCTの光学系からの照射光が入射される。
【0031】
ここで、ガラス基板21上には、照射光の入射側と逆方向に向けて複数の層3が積層されている。ガラス基板21は、照射光が順次入射されるように構成されている。複数の層3には、第1の散乱層31及び第2の散乱層32が交互に複数形成されている。第1の散乱層31は、第1の透明媒体(透過性を有する媒体)で構成されており、その中に、第1の微粒子が第1の濃度で分散している。第2の散乱層32は、第2の透明媒体で構成されており、その中に、第2の微粒子が第2の濃度で分散している。
【0032】
なお、第1の透明媒体及び第2の透明媒体は、OCTの光源波長λcに対して、例えば、90%以上の透過率を持つ。ここでは、紫外線硬化樹脂などの光硬化材に、それとは屈折率の異なる微粒子(第1の微粒子、第2の微粒子)を分散させ、薄膜化させた後に硬化させる。これにより、第1の透明媒体及び第2の透明媒体は、形成される。なお、微粒子が凝集したり析出したりしないように、分散剤を用いても良い。
【0033】
微粒子(第1の微粒子、第2の微粒子)の粒径は、例えば、OCTで用いられる光源の中心波長λcと同等であるか、又は、λcよりも大きく散乱層の厚みtよりも小さいのが望ましい。これは、粒径が、光源の中心波長λcよりも大幅に小さければ、所望の強度で散乱が発生せず、また、散乱層の厚みtよりも大きければ、層の境界が均一な平面(或いは曲面)にならないためである。
【0034】
微粒子(第1の微粒子、第2の微粒子)の材質は、例えば、ラテックス、シリカ粒子などが挙げられ、透明媒体(第1の透明媒体、第2の透明媒体)と異なる屈折率を持つものであればよい。
【0035】
なお、第1の微粒子及び第2の微粒子の粒径や材質(屈折率)には、同じものを用いても良いし、また、実際の眼底の各層の細胞の特性に合わせるなどして互いに異なるものを用いても良い。また、両微粒子の材質を同一にした場合には、例えば、第1の微粒子の粒径を、第2の微粒子よりも大きくして各層における散乱強度に違いを持たせる。また、両微粒子の粒径を同一にした場合には、例えば、第1の微粒子の数(又は濃度)を、第2の微粒子よりも大く(濃く)して各層における散乱強度に違いを持たせる。
【0036】
また、第1の散乱層31及び第2の散乱層32には、必ずしも微粒子を分散させる必要はなく、第1の散乱層31及び第2の散乱層32は、単一の材質から形成されても良い。第1の散乱層31及び第2の散乱層32は、例えば、単一の透明材質中に微細な球状の気泡を含んで構成されても良いし、また、多孔質で構成されても良い。
【0037】
第1の散乱層31及び第2の散乱層32の微粒子の濃度は、薄すぎた場合、撮像される画像のS/Nが悪くなり、また、濃すぎた場合、照射光の侵達度が悪くなる。撮像される画像の信号強度は、粒径にも依るため、実際の眼底を観察したときに得られる画像の信号強度と同程度になるように濃度を調整することが望ましい。
【0038】
ここでは、第1の散乱層31の濃度は、得られる画像の信号強度が眼底の色素上皮層を観察した時に得られる強度と同程度になるように調整される。第2の散乱層32の濃度は、内網状層を観察した時と同程度の強度になるように調整される。また、コントラストが最も大きい場合の解像度を評価するために、第2の散乱層32の粒子濃度をゼロにして透明にしてもよい。
【0039】
また、各層の境界面での反射率が大きいと、境界面からの反射光強度が強すぎて境界周辺領域が正しく画像化されない可能性がある。そのため、第1の透明媒体及び第2の透明媒体は、両者の屈折率の差による境界面での反射を防ぐため、同じものを用いるのが望ましい。
【0040】
なお、第1の微粒子及び第2の微粒子に異なる物質を用いる場合には、それらを透明媒体内で良好に分散させるため、それらの分子構造の違いに合わせて異なる透明媒体を用いてもよい。その場合、境界面での反射率を極力小さくするため、第1の透明媒体(第1の散乱層)の屈折率n1、第2の透明媒体(第2の散乱層)の屈折率n2の差ができるだけ小さくなる媒体を選ぶ必要がある。
【0041】
これは、ガラス基板21(屈折率n3とする)と複数の層3との境界面42についても同じことがいえる。上述した通り、散乱層からの信号強度が眼底からの信号と同程度になるように微粒子の濃度を設定した場合、(散乱光強度)/(照射光強度)の値は10−5程度となる。各境界面での反射率は、この値を下回ることが望ましい。
【0042】
ここで、ガラス基板21、第1の散乱層31の透明媒体、第2の散乱層32の透明媒体には、
{(nj−nk)/(nj+nk)}2≦0.00001
但し j、k=1〜3、j≠k
を満たす材質を選べば良い。
【0043】
これにより、各境界面における正反射光による画像への影響を低減できる。また、各散乱層内からの後方散乱光のみで形成された不要成分の少ない良好な画像が得られる。
【0044】
また、OCTにおける光学系の最大の縦方向分解能を評価できるようにするには、少なくとも光源スペクトルの半値幅から理想的に求まるコヒーレンス関数の半値幅δ(μm)に相当する空間周波数が得られる必要がある。そのため、模型眼100における第1の散乱層31及び第2の散乱層32には、δ(μm)以下の層厚の層を含める。なお、測定精度を上げるためには、δ/2(μm)を下回ることが望ましい。
【0045】
例えば、δ(μm)で解像しているか否かのみを把握したい場合は、第1の散乱層31及び第2の散乱層32の各層の厚みは、全てδ(μm)の層厚であれば良い。また、各空間周波数毎に縦方向分解能を評価したいのであれば、第1の散乱層31及び第2の散乱層32の各層の厚みは、それぞれ異なる層厚で構成すれば良い。
【0046】
ここで、図1に示す模型眼100によりOCTを評価する手法について説明する。図9は、OCTの光学系の構成の一例を示す図である。
【0047】
OCTは、低コヒーレンス干渉計の原理に従って断層画像を構築するため、被検査対象物を含む観察光学系91と、参照光学系92とを具備して構成される。観察光学系91及び参照光学系92における光路長は、ほぼ同等にする必要がある。また、両光学系におけるトータルの分散の値、すなわち、Σ[−λ・{d2nk(λ)/dλ2}・dk](nkは、空気を含む各部の屈折率、dkは空気を含む各部の空間的距離)も同等にする必要がある。この値が異なれば、波長による光の伝搬速度の差によって可干渉距離、即ちコヒーレンス関数の幅が広がり、縦方向分解能が落ちてしまう。
【0048】
この分散の補償を行なう技術としては、例えば、眼を含む観察光学系91で発生する分散の値と等価な分散を持つ分散補償ガラス6を参照光学系92に設ける手法が知られている。接眼光学系の分散値は、既知であるため、分散補償ガラスの厚みd6も一義的に決まる。
【0049】
ここで、SLD光源12から出射された光(測定光)は、ファイバ71を介して伝搬され、カプラー11に入射する。カプラー11においては、当該入射光を所定の比率で分岐し、一方をファイバ73を介して観察光学系91へ伝搬し、他方をファイバ74を介して参照光学系92に伝搬する。
【0050】
観察光学系91においては、ファイバ73の端部から光線(ビーム)が射出される。このビームは、コリメータレンズ10により、平行化され、スキャナミラー9により、2次元方向に偏向される。偏向されたビームは、接眼レンズ8を介して模型眼100に入射し、複数の層3の近傍に集光し走査される。複数の層3の各点からの反射光及び後方散乱光は、レンズ1、接眼レンズ8、スキャナミラー9、コリメータレンズ10を介してファイバ73に入射する。ここで、分散補償ガラス6の厚みd6は、観察光学系91に人眼が配置されていることを前提に決められているため、模型眼100の分散量が人眼の分散と異なると、コヒーレンス関数が広がって縦分解能が劣化し、正しく評価することができなくなる。従って、模型眼100の分散量は、人眼の分散に等しくなるように設計されていることが望ましい。
【0051】
一方、参照光学系92においては、ファイバ74の端部から光線(ビーム)が射出される。このビームは、コリメータレンズ10により、平行化された後、分散補償ガラス6を透過し、折り返しミラー7に入射する。折り返しミラー7は、その入射光を元の光路に向けて反射する。これにより、反射光は、入射時と同一光路を経て、再度、ファイバ74に入射する。
【0052】
ファイバ73及びファイバ74に入射された各々の光は、カプラー11により、合波される。カプラー11により合波された光(干渉光)は、ファイバ72を介して分光器80へ伝搬される。分光器80に入射した干渉光は、レンズにより、平行化され、グレーティング14により、各波長の光に分光される。分光された光は、結像レンズの作用により1次元センサー15に結像される。
【0053】
1次元センサー15では、各波長に対応した光強度を検出し、電気信号を生成(変換)する。電気信号は、制御部13に送られる。電気信号は、波長を波数に変換した後、フーリエ変換され、縦方向の位置に対する散乱強度として求められる。これを走査された光線の位置各々に対して行なうことで、断層画像、3次元の画像が得られる。
【0054】
ここで、光源12の中心波長λ0が850nmであり、波長スペクトルの半値幅△λが50nmである場合について考えてみる。この場合、計算によって求められるコヒーレンス関数の半値幅δは、約6μmである。そのため、模型眼100の複数の層3における各層の層厚は、全て6μmで形成されている。
【0055】
ここで、第1の散乱層31は、所定の濃度で微粒子が分散され、第2の散乱層32は、微粒子の濃度をゼロにした透明層として形成されている。この模型眼の断層画像としては、例えば、図10に示す画像が得られる。ここで、散乱層面方向x=0での深さ方向(z)の位置に対する散乱強度情報を取得し、図3に示すように、その輝度プロファイルをディスプレイに表示する。すなわち、ディスプレイには、深さ方向の位置情報と散乱強度情報との関係が表示されている。
【0056】
このとき、輝度コントラスト値
△D=(Dmax−Dmin)/(Dmax+Dmin)
も同時に表示することで、断層方向の解像度を評価することが可能になっている。なお、図1に示すように散乱層が平面上に形成されている場合は、面方向の位置(x)によって照射ビームの入射角度が変わるため、各散乱層を通過する光路が異なる。従って、この場合、図3に示す深さ方向の座標(z)については補正が必要になる。
【0057】
このように取得した画像情報から直接、評価対象となるOCTにおける縦方向分解能を評価することができる。
【0058】
上述した通り、理想的には観察光学系91の分散は一定であるため、分散補償ガラス6の厚みd6は一義的に決まるが、実際には製造誤差などが発生するため、縦方向分解能が最も良好になるように、厚みd6を調整する必要がある。ここで、本実施形態の模型眼100を用いて、d6を微調整する手順について図2に示す構成に基づいて説明する。
【0059】
分散補償ガラス6における光軸方向の厚みが適切でなければ、コヒーレンス関数が広がって縦方向分解能が劣化する。そのため、以下のような手順により分散補償ガラス6の調整を行なう。
【0060】
まず、分散補償ガラス6の厚みd6を、装置の設計上の分散値に基づいて所定値に設定する。図2の構成は、基本的には、図9と同じ構成となるが、分散補償ガラス6が、2枚の楔型のプリズムを斜面で密着させた構成になっている点で異なる。そのため、オペレータは、操作部(不図示)を操作することにより斜面に沿って当該ガラス6を相互にスライドさせる。これにより、光軸方向の厚みを任意に調整できる。このとき、模型眼100は、眼に相当する位置に設置されており、複数の層3における各位置にビームが集光するように配置されている。
【0061】
このとき、輝度コントラスト値
△D=(Dmax−Dmin)/(Dmax+Dmin)
も同時にリアルタイムで表示され、オペレータは、この値を参照し、当該値が最も大きくなるように分散補償ガラス6の厚みを調整する。例えば、図11にその調整過程を示す。ガラス6の厚みd6の調整前には、断層画像における、あるx位置のプロファイルの強度分布が細線に示すようにリアルタイムで表示される。このとき、△Dの値は、約0.23であり、その値も表示されている。この△Dの値が、最も大きくなるようにd6の値を変えていくと、輝度プロファイル分布は太線に示す状態のようになり、△Dの値は約0.54となる。なお、この調整は、制御部13が自動的に行なうように構成しても良い。
【0062】
以上説明したように実施形態1に係わる模型眼によれば、OCTからの照射光の光軸方向(入射方向)に沿って散乱強度の異なる層が形成される。これにより、OCTにより取得された情報に基づいて、OCTの光軸方向における分解能を評価できる。また更に、当該評価に基づいてOCTの光学系を調整することができる。すなわち、OCT(光断層画像撮像装置)の光学系から出射された光の光軸方向における分解能を評価するための情報を取得できる。
【0063】
(実施形態2)
次に、実施形態2について説明する。実施形態1においては、複数の層3の端面43が外部(空気)との境界面となっていたが、実施形態2においては、当該端面43での光の反射率を考慮した場合について説明する。
【0064】
図4は、実施形態2に係わる模型眼100の断面構成の一例を示す図である。なお、実施形態1を説明した図1の構成と同一の構成については同じ符号を付し、その説明については省略する。
【0065】
実施形態2に係わる模型眼100には、実施形態1の構成に加えて、ガラス基板22が設けられる。ガラス基板22は、複数の層3の端面(OCTから照射光が入射する側の面と逆側の面)43側に第3の光学部材として設けられる。すなわち、ガラス基板22は、第2の散乱層32aの更に入射側から遠い位置に設けられる。ガラス基板22は、第1の散乱層31又は第2の散乱層32の透明媒体と屈折率が同じ、又はその差が小さい材質で構成される。これにより、端面43での反射率を低減する。
【0066】
ガラス基板22が外部と接する(外部との)境界面44は、空気との境界になるが、OCTが共焦点光学系であれば、ガラス基板22の厚みを大きくすれば、境界面44は、結像面から外れるため、境界面44からの反射光を低減することができる。なお、境界面41での反射に関するガラス基板21の厚みの設定に関しても同様のことがいえる。
【0067】
また、ガラス基板22は、正反射光がOCT側に戻らないようにするため、境界面44が光軸に対して傾けて構成される。なお、所定の曲面で境界面44を構成するなどしても良い。また、ガラス基板22は、第1の散乱層31又は第2の散乱層32の透明媒体と同じ材質を用いて構成されても良い。その場合、これらの層(第1の散乱層31、第2の散乱層32)よりも厚く形成すれば、上記同様に正反射光がOCT側に戻るのを抑制できる。
【0068】
以上説明したように実施形態2に係わる模型眼によれば、OCTから照射光が入射する側の面と逆側の面に所定の厚みを有するガラス基板22を設ける。そのため、実施形態1と同様に、評価及び調整を行なう際に不要な反射光が測定結果に含まれることを抑制できる。これにより、実施形態1の構成よりも更に、OCTの光軸方向における分解能を精度良く評価できるとともに、また、OCTの光学系を調整することができる。
【0069】
(実施形態3)
次に、実施形態3について説明する。図5は、実施形態3に係わる模型眼100の断面構成の一例を示す図である。
【0070】
実施形態3に係わる模型眼100は、ガラス基板21における照射光の入射側と反対側の面が球面で形成されており、その後方には、複数の層3が設けられている。複数の層3には、第1の散乱層31と、第2の散乱層32とが交互に積層されており、第2の散乱層32は、微粒子の濃度をゼロにした透明層で形成されている。
【0071】
第1の散乱層31及び第2の散乱層(以下、透明層と呼ぶ)32は、均一な厚さで形成されているが、最も外側に形成された透明層32aは、他の透明層32よりも厚く形成されており、その境界面44が光軸に対してシフトした球面形状で形成されている。これにより、どの画角で入射した光束に対しても、境界面44からの正反射光が戻らないように構成されている。
【0072】
ここで、レンズ1及びガラス基板21は、複合レンズを構成しており、この複合レンズの焦点距離は、Gullstrandの模型眼仕様に従って、例えば、22.785mmに設計されている。レンズ1の中心に入射した光は、ガラス基板21の後面42に集光する。
【0073】
ガラス基板21の材質は、例えば、波長840nmでの屈折率がn3=1.491477であるガラスである。第1の散乱層31及び透明層32で用いられる透明媒体は、例えば、波長840nmでの屈折率がn1=1.49である紫外線硬化樹脂が用いられる。この場合、境界面42での反射率は2.5×10−5%となる。
【0074】
図6は、図5に示す複数の層3の構成の一例を模式的に示した図である。
【0075】
ガラス基板21の境界面42には、上述した通り、透明層32、第1の散乱層31の順で交互に層が形成されている。ここで、透明層32及び第1の散乱層31は、隣り合う透明層32と第1の散乱層31とでペアを構成する。ペアを組む層各々は、同じ層厚を持つ。図6の場合、2ペアずつを1つのユニットとして、ユニット内に含まれる各層が同じ層厚を持つ。すなわち、複数の層には、異なる層厚を持つユニットが複数配置されており、その層厚は、光の光軸方向に沿って徐々に厚くなる。これは、各空間周波数毎の明暗コントラスト値を測定できるようにするためである。なお、ユニットは、必ずしも2ペアずつでなくてもよく、1ペアや3ペア等を単位としてユニットを組み、層厚を変化させるようにしても良い。
【0076】
ここで、式(1)で求められるコヒーレンス関数の半値幅δが6μmのOCTを評価する場合、それぞれのユニットの層厚は、境界面42側から、3μm、4.5μm、6μm、9μmとなる。
【0077】
このような構成の模型眼100を用いて断層画像を撮像することにより、各空間周波数毎のコントラスト値を算出できるため、評価したOCTが、どのくらいの周波数まで十分に解像できるかを把握できることになる。
【0078】
なお、厚い層厚のユニットを入射側に配置した場合には、光の光軸方向に沿って深い位置に配置された薄い層厚のユニットに届く光量が低下してしまう。また、戻り光(反射光、後方散乱光)の強度も低下してしまう。
【0079】
また、図3で説明したようなSD(Spectral-Domain)方式のOCTでは、使用する1次元センサー15の画素数により、原理的に深い位置になるほど信号強度が落ちてしまう。そのため、本実施形態においては、高周波におけるコントラスト値の測定精度の低下を抑制するために、照射光の入射側、つまり、ガラス基板22側に層厚の薄いユニットを配置している。
【0080】
なお、実施形態3に係わる模型眼100においても、実施形態1同様にOCTの評価及び調整を行なうことができる。その際、眼底に相当する層が球面を成しているため、2次元走査される光に対して、より現実的な評価及び調整を行なうことができる。
【0081】
以上が本発明の代表的な実施形態の一例であるが、本発明は、上記及び図面に示す実施形態に限定することなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施できるものである。
【0082】
なお、上述した実施形態1〜3の構成の一部を組み合わせて実施しても良い。例えば、実施形態3においても、複数の層3として、所定の濃度を持つ第1の散乱層31及び第2の散乱層32を設けても良い。また、実施形態2で説明した外部を覆うガラス基板22の代わりに、実施形態3で説明した透明層を用いても良いし、実施形態3で説明した透明層の代わりに、実施形態2で説明したガラス基板を用いても良い。その他、層厚の設定の仕方等についても同様のことがいえる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼底の断層画像を撮像する光断層画像撮像装置における光学系の評価に用いられる模型眼であって、
前記光学系からの照射光が入射される第1の光学部材と、
前記第1の光学部材からの照射光が入射される第2の光学部材と
を具備し、
前記第2の光学部材には、
前記照射光の入射方向に散乱強度の異なる複数の層が形成される
ことを特徴とする模型眼。
【請求項2】
前記複数の層には、
透過性を有する媒体に該媒体と屈折率の異なる第1の微粒子を分散させて形成した第1の散乱層と、
透過性を有する媒体に該媒体及び前記第1の微粒子と屈折率の異なる第2の微粒子を分散させて形成した第2の散乱層と
が前記照射光の光軸方向に沿って交互に複数形成される
ことを特徴とする請求項1記載の模型眼。
【請求項3】
前記複数の層には、
透過性を有する媒体に該媒体と屈折率の異なる第1の微粒子を分散させて形成した第1の散乱層と、
透過性を有する媒体に前記第1の微粒子と同じ材質で構成される第2の微粒子を分散させて形成した第2の散乱層と
が前記照射光の光軸方向に沿って交互に複数配置され、
前記第1の散乱層における前記第1の微粒子と、前記第2の散乱層における前記第2の微粒子は、その粒径が異なる又はその濃度が異なる
ことを特徴とする請求項1記載の模型眼。
【請求項4】
前記第1の微粒子及び前記第2の微粒子の粒径は、
前記照射光の中心波長と同じ、又は
当該中心波長よりも大きく前記第1の散乱層及び前記第2の散乱層の前記光軸方向における厚みよりも小さい
ことを特徴とする請求項2又は3記載の模型眼。
【請求項5】
前記第1の微粒子及び第2の微粒子は、
その一方の濃度がゼロである
ことを特徴とする請求項2又は3記載の模型眼。
【請求項6】
前記第2の光学部材の屈折率n1、前記第1の散乱層の屈折率n2、前記第2の散乱層の屈折率n3は、
{(nj−nk)/(nj+nk)}2≦0.00001
(j、k=1〜3、j≠k)
を満たすことを特徴とする請求項2又は3記載の模型眼。
【請求項7】
隣り合う前記第1の散乱層及び前記第2の散乱層でペアを構成し、
前記ペアとなる散乱層は、
前記光軸方向における厚みが同一であり、
前記複数の層は、
1又は複数のペアを単位として前記光軸方向に沿ってその厚みが異なるように形成される
ことを特徴とする請求項2又は3記載の模型眼。
【請求項8】
前記第2の光学部材の前記照射光の入射側と逆方向の面は、球面で形成され、
前記複数の層は、
前記球面の一部を覆う形状で積層される
ことを特徴とする請求項1記載の模型眼。
【請求項9】
前記複数の層のうち、前記照射光の光軸方向に沿って前記照射光の入射側と逆側の端部に設けられる層は、他の層よりも前記光軸方向における厚みが大きい
ことを特徴とする請求項1記載の模型眼。
【請求項10】
前記複数の層のうち、前記照射光の光軸方向に沿って前記照射光の入射側と逆側の端部に設けられる層の更に前記入射側から遠い位置に設けられる第3の光学部材
を更に具備することを特徴とする請求項1記載の模型眼。
【請求項11】
眼底の断層画像を撮像する光断層画像撮像装置における光学系の評価方法であって、
請求項1から10のいずれか1項に記載の模型眼に形成された複数の層の断層画像を取得し、該断層画像から得られた画像情報を用いて断層方向の分解能を評価する
ことを特徴とする評価方法。
【請求項12】
光断層画像撮像装置の調整方法であって、
照射手段が、請求項1から10のいずれか1項に記載の模型眼に対して光学系を介して測定光を照射する工程と、
センサが、前記照射により前記模型眼から得られる散乱強度情報を取得する工程と、
制御手段が、前記散乱強度情報に基づき前記光学系を調整する工程と
を含むことを特徴とする光断層画像撮像装置の調整方法。
【請求項13】
表示手段が、前記取得した散乱強度情報と深さ方向の位置情報との関係を表示する工程を
更に含むことを特徴とする請求項12記載の光断層画像撮像装置の調整方法。
【請求項1】
眼底の断層画像を撮像する光断層画像撮像装置における光学系の評価に用いられる模型眼であって、
前記光学系からの照射光が入射される第1の光学部材と、
前記第1の光学部材からの照射光が入射される第2の光学部材と
を具備し、
前記第2の光学部材には、
前記照射光の入射方向に散乱強度の異なる複数の層が形成される
ことを特徴とする模型眼。
【請求項2】
前記複数の層には、
透過性を有する媒体に該媒体と屈折率の異なる第1の微粒子を分散させて形成した第1の散乱層と、
透過性を有する媒体に該媒体及び前記第1の微粒子と屈折率の異なる第2の微粒子を分散させて形成した第2の散乱層と
が前記照射光の光軸方向に沿って交互に複数形成される
ことを特徴とする請求項1記載の模型眼。
【請求項3】
前記複数の層には、
透過性を有する媒体に該媒体と屈折率の異なる第1の微粒子を分散させて形成した第1の散乱層と、
透過性を有する媒体に前記第1の微粒子と同じ材質で構成される第2の微粒子を分散させて形成した第2の散乱層と
が前記照射光の光軸方向に沿って交互に複数配置され、
前記第1の散乱層における前記第1の微粒子と、前記第2の散乱層における前記第2の微粒子は、その粒径が異なる又はその濃度が異なる
ことを特徴とする請求項1記載の模型眼。
【請求項4】
前記第1の微粒子及び前記第2の微粒子の粒径は、
前記照射光の中心波長と同じ、又は
当該中心波長よりも大きく前記第1の散乱層及び前記第2の散乱層の前記光軸方向における厚みよりも小さい
ことを特徴とする請求項2又は3記載の模型眼。
【請求項5】
前記第1の微粒子及び第2の微粒子は、
その一方の濃度がゼロである
ことを特徴とする請求項2又は3記載の模型眼。
【請求項6】
前記第2の光学部材の屈折率n1、前記第1の散乱層の屈折率n2、前記第2の散乱層の屈折率n3は、
{(nj−nk)/(nj+nk)}2≦0.00001
(j、k=1〜3、j≠k)
を満たすことを特徴とする請求項2又は3記載の模型眼。
【請求項7】
隣り合う前記第1の散乱層及び前記第2の散乱層でペアを構成し、
前記ペアとなる散乱層は、
前記光軸方向における厚みが同一であり、
前記複数の層は、
1又は複数のペアを単位として前記光軸方向に沿ってその厚みが異なるように形成される
ことを特徴とする請求項2又は3記載の模型眼。
【請求項8】
前記第2の光学部材の前記照射光の入射側と逆方向の面は、球面で形成され、
前記複数の層は、
前記球面の一部を覆う形状で積層される
ことを特徴とする請求項1記載の模型眼。
【請求項9】
前記複数の層のうち、前記照射光の光軸方向に沿って前記照射光の入射側と逆側の端部に設けられる層は、他の層よりも前記光軸方向における厚みが大きい
ことを特徴とする請求項1記載の模型眼。
【請求項10】
前記複数の層のうち、前記照射光の光軸方向に沿って前記照射光の入射側と逆側の端部に設けられる層の更に前記入射側から遠い位置に設けられる第3の光学部材
を更に具備することを特徴とする請求項1記載の模型眼。
【請求項11】
眼底の断層画像を撮像する光断層画像撮像装置における光学系の評価方法であって、
請求項1から10のいずれか1項に記載の模型眼に形成された複数の層の断層画像を取得し、該断層画像から得られた画像情報を用いて断層方向の分解能を評価する
ことを特徴とする評価方法。
【請求項12】
光断層画像撮像装置の調整方法であって、
照射手段が、請求項1から10のいずれか1項に記載の模型眼に対して光学系を介して測定光を照射する工程と、
センサが、前記照射により前記模型眼から得られる散乱強度情報を取得する工程と、
制御手段が、前記散乱強度情報に基づき前記光学系を調整する工程と
を含むことを特徴とする光断層画像撮像装置の調整方法。
【請求項13】
表示手段が、前記取得した散乱強度情報と深さ方向の位置情報との関係を表示する工程を
更に含むことを特徴とする請求項12記載の光断層画像撮像装置の調整方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−235084(P2011−235084A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44299(P2011−44299)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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