説明

模擬土壌を用いた土壌腐食試験方法

【課題】土壌環境と鋼材の腐食特性の明確な相関を示す要因が見出されておらず、促進試験等、実験室レベルでの腐食評価方法が確立されていない。
【解決手段】模擬土壌を用いた鋼材の土壌腐食試験方法において、前記模擬土壌が水に対して不溶であり、酸およびアルカリに対しても難溶性である性質を有する粒状物から構成され、さらに前記模擬土壌中の水分含有量を調整してpF値を任意の値に設定することを特徴とする鋼材の土壌腐食試験方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土壌環境中における鋼材の腐食特性を模擬土壌を用いて評価する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼材が土壌に埋設されて実際に使用される場合には、当該鋼材の開発改良等の観点で、土壌中での経年的な耐食性についての知見が必要である。これを簡便に評価できる試験方法があれば、鋼材の開発、設計に際して便利である。しかし、土壌中における鋼材の腐食試験方法は確立されておらず、そのため腐食因子も明確になっていないのが現状である。例えば、以下の先行技術文献は、いずれも実際の土壌中に長期間鋼材を埋設した状態で、鋼材の腐食性を評価している。非特許文献2では実験室にて土壌中の水分量をpF値として定義した腐食試験も実施しているが、実際の土壌を使用しているため、試験期間が長期間にわたる(例えば、特許文献1および非特許文献1では10年間)ばかりでなく、土壌環境が一定ではないためバラツキが大きく、他の土壌に変更したときに異なる結果になってしまうという問題点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−336463号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「防錆・防食技術総覧」(株)産業技術センター、2000年5月17日発行
【非特許文献2】「鋼製地中梁の利用技術の開発委員会」報告書、独立行政法人 建築研究所、社団法人 日本鉄鋼連盟、平成14年3月発行
【非特許文献3】「土の試験実習書」(社)土質工学会、昭和55年8月20発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、土壌環境と鋼材の腐食特性の明確な相関を示す要因が見出されておらず、促進試験等、実験室レベルでの腐食評価方法が確立されていない。特に、従来は、腐食に最も大きな影響を与えると考えられる土壌中の水分量を単に含水率(または含水比)で評価しているため、土壌の種類によりバラツキが大きく、明確な相関が得られていない。
【0006】
また、非特許文献2においては、従来の含水率に代えてpF値により水分量を定義した実験室レベルの試験が実施されているが、実際の土壌を使用しているため当該試験結果から他の鋼材の土壌腐食特性を推定し、種々の試験結果を比較検討することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、土壌環境中における鋼材の腐食特性を鋭意研究し、特に土壌中の鋼材の腐食の程度は土壌中の水分量の内の自由水分量が大きく関係すること、およびこの自由水分量はpF値と関係が密接であることを見出し、種々の試験結果を比較検討するためには、単純化した態様の模擬土壌を使用することが有効であるとの知見を得、上記課題を解決した。このような課題を解決するための手段は以下の通りである。
1)模擬土壌を用いた鋼材の土壌腐食試験方法において、前記模擬土壌が水に対して不溶であり、酸およびアルカリに対しても難溶性である性質を有する粒状物から構成され、さらに前記模擬土壌中の水分含有量を調整してpF値を任意の値に設定することを特徴とする鋼材の土壌腐食試験方法。
2)前記粒状物は、JIS規格に従う二酸化珪素(石英型)であることを特徴とする1)記載の鋼材の土壌腐食試験方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、鋼材の土壌腐食試験において、再現性の良い土中水分量と鋼材の腐食量に明確な相関があるデータを得ることができる。また、鋼材の土壌腐食試験の促進試験および実験室レベルでの腐食試験方法に適用でき、短期間で鋼材の土壌腐食性が評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】模擬土壌と実際の土壌による腐食試験結果の例。
【図2】模擬土壌と実際の土壌の含水率とpF値の関係の一例を示す図。
【図3】pF値2.3と2.4としたときの鋼材腐食量の経時的変化例。
【図4】pF値2.8としたときの鋼材腐食量の経時的変化例。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。
本発明において使用する模擬土壌を構成する個々の粒子は、化学的に安定であれば特に限定されるものではない。全体として粒径分布が明確であれば、なお好ましい。このような状態であれば再現性ある模擬土壌を作成できるからである。ここで、化学的に安定とは特に水に対して不溶であり、酸およびアルカリに対しても難溶性である性質を有することを意味している。最も一般的に用いる代表的なものを明示すれば、二酸化珪素、酸化チタン、カオリン、ベントナイト、スメクタイト(モンモリロナイト)などの物質が挙げられる。これらの物質は単独でも2種以上を混合して使用できる。
【0011】
また、これら粒子状物質は、特にJISで規定される特級、1級、2級試薬であれば特に制限されず、これらを使用することが、安価で純度が高く平均粒径が明確なので望ましいが、グレードが高いものであれば純度が高く、粒子の化学成分が明確であり、不純物の量が低いので試験の再現性の観点でさらに好ましい。また、JISに規定されない粒状物質でも、不純物量が低いものであれば使用することができる。
【0012】
種々のpF値の模擬土壌は水分を添加して作成する。
まず、模擬土壌の水分の状態をpF値で表した理由を以下に述べる。
【0013】
図1に含水率を15mass%で調整した模擬土壌(二酸化珪素)および関東ロームを使用した場合の土壌腐食試験の結果を示す。
【0014】
この試験を行うには、以下の供試材を用いた。また、模擬土壌粒子としてJIS特級二酸化珪素(石英型)を用い、実際の土壌として、関東ロームを50℃にて7日間乾燥させ、団粒状に固まったものを粉砕し、小石、草の根などの異物を除去するため、目開き1mmのフルイを通過するものを使用した。さらに、イオン交換水を用いて含水率15mass%とし、容量2Lの密封できるポリ容器の底面に上記鋼材を試験面が上になるように設置し、鋼材面が土壌に接するように、その上から約500mLの土壌を入れた後密閉して、40℃にて一定期間保持した。鋼材腐食量(平均板厚減少量)は後述する土壌試験方法に拠った。
【0015】
図1から、同一含水率であるにもかかわらず、鋼材腐食量は用いた土壌により差が生じていることがわかる。このように、土壌中の腐食に寄与する水分の量は、含水率(湿潤土壌中あたりの水分量)や含水比(乾燥土壌中あたりの水分量)とは必ずしも対応関係があるとはいえない。含水率や含水比から求めた水分量は、鋼材の腐食との関係で土壌粒子に強く拘束され鋼材の腐食には作用しないと考えられる水分(非自由水)量も含めてしまうことになるからである。つまり、これら含水率または含水比の値が同じであっても土壌が異なれば非自由水量が異なり、鋼材の腐食に作用する水分(自由水)量が異なる場合があり、含水率または含水比の値を土壌中腐食を評価するための要因として用いることは、適当ではない。そこで、前述の模擬土壌を用いて鋭意検討を行い以下の式で定義されるpF値が、腐食に関与する自由水量のみを客観的に評価するのに極めて適していることを見出した。
pF=log10
上記で示すpFは、土中水の負圧を示すパラメータとして一般に知られているものである(例えば非特許文献2)。土中水の負圧を、土から水を取り去るに要するエネルギーと考え、水柱高さh(cm)にて表し、pFはこの水柱高さhの常用対数にて表される。つまり、pF値が大きいと土壌中で腐食に関与すると考えられる自由水量が少ないことを示す。
【0016】
このpF値を用いると、実際に腐食に関与すると考えられる量の水分をpF値を用いて調整し添加することで、構成が明確な模擬土壌を作製して土壌腐食環境を実現できる。
【0017】
図2に模擬土壌(「二酸化珪素」;「SiO」と表記する場合もある)と関東ロームの場合の含水率とpF値の関係を示す。このpF値は同じ水分量であっても土壌を構成する粒子の種類によって異なることが確認できる。また、同一種類の土壌であれば実際の土壌(関東ローム)または模擬土壌(二酸化珪素)の区別によらず含水率とpF値には強い一次の相関が認められる。実際に腐食に関与すると考えられる量の水分をpF値を指標として用いて添加することで、模擬土壌を作製して土壌腐食環境を実現できる。したがって、実際の土壌のpF値を測定すれば、対象となる鋼材を埋設した際の腐食特性を比較推定することも可能となる。
【0018】
pF値の測定方法は、例えば非特許文献3に示されている吸引法、遠心法など、特に限定されるものではなく、多孔質セラミックスによる簡易型pFセンサーを用いることもできる。
【0019】
また、模擬土壌に添加する水分は、蒸留水、イオン交換水、電解質を加えて電気伝導度を調整した水などを用いることが好ましいが、鋼材の腐食に影響を及ぼす量の不純物成分を添加することは好ましくない。
【0020】
本発明において試験温度は特に限定されるものではなく、鋼材が実際に使用される温度条件で行うことが一般的ではあるが、加速促進試験を行う目的ではさらに高温で行うこともできる。本発明方法は、実験室でも簡易に実施できるので温度制御なども可能になるため、バラツキの少ない信頼性の高いデータが得られる。さらに、温度制御により腐食速度を制御できるため、促進試験が可能になり、短期間で鋼材の土壌腐食性が評価できる
また、評価対象の鋼材は炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼など特に鋼種に限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
JIS特級二酸化珪素(石英型)にイオン交換水を複数の任意の量を添加し、簡易型pFセンサー(PFC42、藤原製作所)によりpF値を測定した。その結果から、まず含水率とpF値との相関関係を求めた後、設定したpF値になるように模擬土壌を作製した。腐食試験に使用する鋼材は板厚6mmの普通鋼(JIS−SS400)を30mm×30mmサイズにファインカッターにて切断し、片面を十点平均粗さで50μm〜60μmにブラスト加工、トルエンにて脱脂した後、重量を測定した。その後、端面および裏面を腐食しないようにシールテープでシールし、その上からエポキシ樹脂(アラルダイト)で塗装した。容量2L(リットル)の密封できるポリ容器の底面に上記鋼材を試験面が上になるように設置し、鋼材面が模擬土壌に接するように、その上から約500mLの模擬土壌を入れた後密閉して、室温(23℃)にて一定期間保持した。一定期間経過後の試験片を取り出し、ナイロンブラシで大まかに錆を落とした後、除錆溶液(塩酸(塩化水素の35.0〜37.0%水溶液)500mL+イオン交換水500mL+ヘキサメチレンジアミン3.5g)に浸漬し、除錆した後、炭酸カルシウムの過飽和水溶液中に試験片を浸漬させて中和し、流水にて洗浄、乾燥後に重量を測定した。腐食試験前後の重量変化から平均腐食量(重量減少量g)を求め平均板厚減少量(μm)として以下の計算式に基づいて算出した。なお試験数はn=2とした。
【0023】
平均板厚減少量(μm)=重量減少量(g)/[サンプル試験面積(μm)×密度(g/μm)]
図3はpF値2.3(模擬土壌+イオン交換水)およびpF値2.4(関東ローム+イオン交換水)の場合の鋼材腐食量の経時変化を調査したものである。また、図4はpF値2.8とした場合の実際の土壌(関東ローム+イオン交換水)と模擬土壌(二酸化珪素+イオン交換水)の場合の鋼材腐食量の経時変化を調査したものである。これらの結果から、腐食速度のpF値依存性が認められた。また、pF値が同程度であれば模擬土壌と実際の土壌(関東ローム)とで鋼材の土壌腐食特性が同様となり、模擬土壌で実際の土壌を用いた場合を短期間で推定評価できることが確認できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
模擬土壌を用いた鋼材の土壌腐食試験方法において、前記模擬土壌が水に対して不溶であり、酸およびアルカリに対しても難溶性である性質を有する粒状物から構成され、さらに前記模擬土壌中の水分含有量を調整してpF値を任意の値に設定することを特徴とする鋼材の土壌腐食試験方法。
【請求項2】
前記粒状物は、JIS規格に従う二酸化珪素(石英型)であることを特徴とする請求項1記載の鋼材の土壌腐食試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−75477(P2011−75477A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229313(P2009−229313)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】