説明

模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置と、当該腐食環境測定装置を使用した腐食環境測定方法

【課題】既設鉄塔に用いられている腹材、水平材、補助材等の各種部材の径に対応している径を有する模擬鋼管部材の内部に腐食環境測定具を収容し、この模擬鋼管部材を既設鉄塔の特定の箇所に設置することにより、当該個所における模擬鋼管部材の腐食速度と腐食量を測定する、模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置と、当該腐食環境測定装置を使用した腐食環境測定方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置は、鉄塔を構成する腹材、水平材、補助材等の各種部材の径に対応している径を有する筒状の模擬鋼管部材の内部に腐食環境測定具を配置し、模擬鋼管部材の両端開口部に、開口部の一部を閉鎖する継ぎ手を取り付けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、架空送電鉄塔等の構造物に多用されている、腹材、水平材、補助材等の各種部材の径に対応している径を有する模擬鋼管部材の内部に腐食環境測定具を挿入し、この模擬鋼管部材を既設鉄塔の特定の箇所に固定して、当該箇所における模擬鋼管部材の腐食速度と腐食量を測定する、模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置と、当該腐食環境測定装置を使用した腐食環境測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、架空送電鉄塔等を構成する腹材、水平材、補助材等の各種部材内部の腐食環境は充分に解明されておらず、その測定方法も確立されていないのが実状である。
【0003】
腐食をもたらす環境因子としては、例えば、架空送電鉄塔等の構造物が海岸近くに設置されている場合や、降雨や光化学スモッグ、その他の腐食性ガス(例えば、ソックスSOx)等に晒されている場合において、大気中を飛来している海塩、降雨時の酸性雨、光化学スモッグや腐食性ガス等に含まれる各種成分等が挙げられる。これらの種々の環境因子によって、架空送電鉄塔等を構成する腹材、水平材、補助材等の各種部材内部が腐食するというトラブルが多発しているのである。
【0004】
この様な環境因子により、架空送電鉄塔等を構成する各種部材内部の腐食を防止するものとして、例えば、特許文献1に開示されているような、鋼管の断面形状や長手方向寸法等に拘わらず防食効果を良好に発揮させる、電気防食構造が存在する。
【0005】
この電気防食構造は、鋼管内に犠牲電極を貫通するように配置して成り、この犠牲電極は、鋼管に通される鋼線等からなる芯線(索状体)に一定の間隔で吹き流し状の電極束を取り付けたものである。この電極束は、鋼管の材料である鉄よりも電極電位の低い金属からなる多数の細長のシートを、それらの一端側で結束することにより構成されている。
【0006】
また、特許文献2に開示されているような、鉄塔建設の前段階や既設の鉄塔において施工が比較的に容易であり、鉄塔の鋼管内部の防食効果の高い腐食抑制方法も存在する。
【0007】
この腐食抑制方法は、鉄塔の構成部材である鋼管の内部の空気を窒素やアルゴンガスなどの不活性ガスと置換したうえで管端を密閉し、鋼管内部の空気を不活性ガスと置換する前に鋼管内部を乾燥させて水分を除去することにより、鋼管内面を空気および水と遮断して、鋼管内面に腐食が発生するのを防止することができ、また、それまでに発生していた腐食の進行も停止するものである。
【0008】
さらに、特許文献3に開示されているような、鉄塔の基礎の安定性が良好であり、低コスト化が図れる鋼管鉄塔内部防錆方法も存在する。
【0009】
この鋼管鉄塔内部防錆方法は、既設の中空鋼管鉄塔の鋼管内部の腐食を防止するために用いる場合には、中空鋼管鉄塔を構成する鉄塔鋼管の内部空間に挿入した押出機によって発泡スチロール(合成樹脂)を押し出しながら、ウインチを用いてケーブルを巻き取ることにより押出機を徐々に引き上げ、鉄塔鋼管の内部空間を、鉄塔鋼管の底部から頂部まで、押し出した発泡スチロールで充填するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−20405号公報
【特許文献2】特開2003−64490号公報
【特許文献3】特開2007−162406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記した特許文献1乃至特許文献3の内容は、いずれも鋼管内部の腐食を未然に防止するための構造や方法であることから、特許文献1乃至特許文献3の内容により、鋼管内部の腐食量・腐食性(腐食速度等)を正確に測定・監視(モニタリング)することができない。
【0012】
また、特許文献1乃至特許文献3による技術をもってしても、半永久的な腐食防止を期待することはできない。例えば、犠牲電極・不活性ガス・発泡スチロール等の寿命は限られており、これらの定期的な交換が必要となることから、腐食の進行状況を常に定期的に測定・監視(モニタリング)する必要があるのである。
【0013】
このため、例えば、腐食速度等を簡易に評価可能なACM(Atmospheric Corrosion Monitor)センサを使用して、鋼管部材内部の腐食量・腐食性を測定・監視(モニタリング)する方法が採用されている。
【0014】
金属の腐食性に影響を与える因子として、温度、湿度、降雨、大気中を飛来している海塩や腐食性ガス(ソックスSOx)等が挙げられるが、ACMセンサは、これらの複雑な環境因子により電気化学的に発生する鋼の腐食電流を直接計測できるので、ACMセンサの出力電流値を解析することにより、環境の腐食性を直接、且つ定量的に評価することができる。
【0015】
そのため、従来においては、上記したACMセンサを、温湿度センサと共に架空送電鉄塔等の鋼構造物の脚部や高所に設置し、時間毎の出力電流を測定したものを、電流を記録する装置(データロガー)に記録し、記録されたデータに基づいて、大気環境における腐食性を測定する方法が採られている。
【0016】
具体的には、所定の長さの薄板部材に複数の取付台を固定し、この複数の取付台に、ACMセンサと暴露試験片を取り付けた腐食環境測定具が使用されている。
この腐食環境測定具を、架空送電鉄塔等の鋼構造物に沿って固定して、腐食性を測定していたのである。
【0017】
しかし、架空送電鉄塔等の構造物において、例えば、腹材の両端に継ぎ手が存在し、さらに継ぎ手周辺は、他の部材と交わっていることが多いことから、腐食環境測定具を、腹材内部に挿入することができない事態が生じている。
【0018】
すなわち、腹材両端の開口部中央からは、長手方向に沿って略平板状の継ぎ手が突設され、この継ぎ手はボルト・ナットを介して、例えば、主柱材等の周面に突設した継ぎ手に連結されることから、腹材内部にACMセンサを入れる際に、継ぎ手周辺の主柱材等の他の部材である、継ぎ手を固定するボルト・ナット等が障害となって、複数のACMセンサと暴露試験片を取り付けている所定の長さの板片部材の挿入が非常に困難になっている。
【0019】
具体的には、図18(a)に示すように、鉄塔Pにおいて、主鋼管である主柱材SPには、継ぎ手であるガセットプレートGPが固定されており、このガセットプレートGPには補強用の腹材Kが接合されている。この接合は、腹材Kの端部に固定された連結プレートLPを、主柱材SPのガセットプレートGPに宛がって、ボルトV・ナットN等を介して、ガセットプレートGPに連結プレートLPを固定するのである。
【0020】
連結プレートLPは、所定の帯板を略U字状に折曲して形成されている。そして、腹材Kの端部には、対向するように一対の切り欠き溝を設け、この切り欠き溝に連結プレートLPの折曲部分を挿入し、その接合部分を溶接して、腹材Kの端部に連結プレートLPを固定している。また、連結プレートLPは、略U字状に折曲している開放部分の内部にガセットプレートGPを導入するように、連結プレートLPをガセットプレートGPに宛がい、ボルトV・ナットN等を介して、ガセットプレートGPに連結プレートLPを固定している。
【0021】
この際、腹材Kの連結プレートLPは、図18(a)に示すように、腹材Kの端部において、腹材Kの内部を分断して、腹材Kの内部を二分するように固定されていることから、腹材Kの端部には、略半円状の2つの開口部Qが、連結プレートLPを挟んで両側に形成されている。
【0022】
また、鉄塔Pを構成する腹材Kの接合部分において、このような開口部Qが存在することから、この開口部Qから鳥が侵入して、腹材K内に巣を作ってしまうことがある。さらに、開口部Qの存在により、所定の風音が発生してしまうこともある。
【0023】
この様な事態の発生を回避するために、図18(b)に示すように、腹材Kの開口部Qを塞ぐように、半月状の管端金具Hが、所定の接続片を介して腹材Kの端部に固定されている。
【0024】
その為、腹材Kの内部に向けて、複数のACMセンサを取り付けている所定の長さの板片部材を挿入するためには、腹材Kの端部から管端金具Hを撤去する必要がある。
【0025】
しかし、腹材Kの端部から管端金具Hを撤去した場合であっても、依然として、図18(a)に示すように、ガセットプレートGPに連結プレートLPを固定するボルトV・ナットNや、主柱材SP自体の存在が、所定の長さの板片部材の挿入に対して障害となり、腹材Kの内部に、複数のACMセンサと暴露試験片を取り付けている板片部材を挿入できない事態が生じている。
【0026】
そこで、本発明は如上のような従来存した諸事情に鑑み創出されたもので、既設鉄塔に用いられている腹材、水平材、補助材等の各種部材の径に対応している径を有する模擬鋼管部材の内部に腐食環境測定具を収容し、この模擬鋼管部材を既設鉄塔の特定の箇所に設置することにより、当該個所における模擬鋼管部材の腐食速度と腐食量を測定する、模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置と、当該腐食環境測定装置を使用した腐食環境測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明に係る模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置は、鉄塔を構成する腹材、水平材、補助材等の各種部材の径に対応している径を有する筒状の模擬鋼管部材の内部に腐食環境測定具を配置し、模擬鋼管部材の両端開口部に、開口部の一部を閉鎖する継ぎ手を取り付けていることで、上述した課題を解決した。
【0028】
また、筒状の模擬鋼管部材は、それぞれの両端開口部において、対向するように一対の切欠溝を設けると共に、この一対の切欠溝に交差する位置において対向するように一対の孔を設ける一方、継ぎ手は、所定の帯板を略U字状に折曲して形成し、折曲部分の近傍における略中央部分に対向するように一対の孔を設け、模擬鋼管部材の開口部における一対の切欠溝に継ぎ手の折曲部分を挿入し、模擬鋼管部材に設けている一対の孔と、継ぎ手に設けている一対の孔を軸線上に配置し、それぞれの孔にボルトの軸部を貫挿し、軸部の先端部にナットを螺合させて、模擬鋼管部材の両端開口部に継ぎ手を固定していることで、同じく上述した課題を解決した。
【0029】
さらに、筒状の模擬鋼管部材は、内部を開放する扉を備えていることで、同じく上述した課題を解決した。
【0030】
また、腐食環境測定具を内部に収容している模擬鋼管部材は、アダプタ部材を介して既設鉄塔の所定の位置に取り付けられ、該アダプタ部材は、模擬鋼管部材の外周面を挟持する一対のバンド部材と、既設鉄塔に固定されるアングル材から構成され、一対のバンド部材は、その中央部分に雌ネジ孔を設けており、アングル材は、短尺な水平部材と、水平部材の先端部において下向きに延設した長尺な垂設部材から形成され、水平部材と垂設部材には、いずれも長手方向に沿うように長孔が設けられ、垂設部材の長孔の所定の位置に、模擬鋼管部材を挟持しているバンド部材の雌ネジ孔を当接し、垂設部材の長孔の裏面側からボルトの軸部を貫挿し、軸部の先端をバンド部材の雌ネジ孔にねじ込んで、アングル材の垂設部材にバンド部材を固定していることで、同じく上述した課題を解決した。
【0031】
加えて、模擬鋼管部材の内部に挿入する腐食環境測定具は、所定の長さの薄板部材に、複数の取付台を固定し、この取付台にACMセンサと暴露試験片を取り付けて形成していることで、同じく上述した課題を解決した。
【0032】
また、腐食環境測定具の薄板部材は、所定以上の外力を加えると屈曲し、外力を取り去ると真っ直ぐな状態に復元するフレキシブル素材を用いて形成していることで、同じく上述した課題を解決した。
【0033】
この他、本発明に係る腐食環境測定方法は、前記した模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置を使用することで、同じく上述した課題を解決した。
【0034】
また、既設鉄塔の特定の箇所に、径の異なる模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置を複数設置して、それぞれの模擬鋼管部材の腐食速度と腐食量を測定することで、同じく上述した課題を解決した。
【0035】
さらに、既設鉄塔の特定の箇所において、腹材、水平材、補助材等の各種部材の内部に腐食環境測定具を挿入して当該部材内部の腐食速度と腐食量を測定しながら、その近傍において、径の異なる模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置を設置し、当該模擬鋼管部材の腐食速度と腐食量を測定することで、同じく上述した課題を解決した。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係る模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置は、鉄塔を構成する腹材、水平材、補助材等の各種部材の径に対応している径を有する筒状の模擬鋼管部材の内部に腐食環境測定具を配置していることから、既設鉄塔の所定の位置において模擬鋼管部材を固定したときには、当該設置環境における当該径の模擬鋼管部材内部の腐食速度と腐食量を正確に測定することができる。
【0037】
また、模擬鋼管部材の内部に腐食環境測定具を挿入していることから、例えば、鉄塔を構成する腹材の近傍において、ガセットプレートに連結プレートを固定するボルト・ナットや、主柱材等の障害物が存在する場合であっても、この腹材に隣接するように、腹材の径に対応している径を有する模擬鋼管部材を設置することにより、模擬鋼管部材内部の腐食速度と腐食量を正確に測定して、その測定結果を、腹材の内部の腐食速度と腐食量として利用することができる。
【0038】
さらに、模擬鋼管部材の両端開口部に、開口部の一部を閉鎖する継ぎ手を取り付けていることから、内部に収容している腐食環境測定具が、模擬鋼管部材から脱落することが無い。
【0039】
また、筒状の模擬鋼管部材は、それぞれの両端開口部において、対向するように一対の切欠溝を設けると共に、この一対の切欠溝に交差する位置において対向するように一対の孔を設ける一方、継ぎ手は、所定の帯板を略U字状に折曲して形成し、折曲部分の近傍における略中央部分に対向するように一対の孔を設けていることから、模擬鋼管部材の開口部における一対の切欠溝に継ぎ手の折曲部分を挿入し、模擬鋼管部材に設けている一対の孔と、継ぎ手に設けている一対の孔を軸線上に配置し、それぞれの孔にボルトの軸部を貫挿し、軸部の先端部にナットを螺合させることにより、模擬鋼管部材の両端開口部に継ぎ手を確実に固定できる。
【0040】
この模擬鋼管部材の両端開口部に取り付ける継ぎ手は、鉄塔において、例えば、腹材の端部に固定されている連結プレートと略同一のものである(図1・図18(a)参照)。
【0041】
この様に、模擬鋼管部材の両端開口部に、腹材の連結プレートに該当する継ぎ手を取り付けて、模擬鋼管部材の端部形状と、腹材の端部形状を略同一にしている。
【0042】
その結果、腐食環境測定具を収容する模擬鋼管部材の内部環境(通気性・温度・湿度等)は、鉄塔における腹材の内部環境(通気性・温度・湿度等)と略同一になる。
【0043】
その為、模擬鋼管部材の内部において、腐食環境測定具を介して測定した腐食速度と腐食量のデータを、鉄塔に用いられている腹材自体の腐食速度と腐食量を示すデータとして利用できるのである。
【0044】
また、筒状の模擬鋼管部材は、内部を開放する扉を備えていることから、模擬鋼管部材の扉を開くことにより、模擬鋼管部材の内部に腐食環境測定具を容易に配置できる。さらに、擬鋼管部材の扉を閉じたときには、腐食環境測定具を収容する模擬鋼管部材の内部環境(通気性・温度・湿度等)を、鉄塔における腹材の内部環境(通気性・温度・湿度等)と略同一にすることができる。
【0045】
加えて、腐食環境測定具を内部に収容している模擬鋼管部材は、アダプタ部材を介して既設鉄塔の所定の位置に取り付けられることから、鉄塔における任意の位置にアダプタ部材を取り付けて、このアダプタ部材を介して、模擬鋼管部材を適宜設置できる。
【0046】
また、アダプタ部材は、模擬鋼管部材の外周面を挟持する一対のバンド部材と、既設鉄塔に固定されるアングル材から構成され、一対のバンド部材は、その中央部分に雌ネジ孔を設けており、アングル材は、短尺な水平部材と、水平部材の先端部において下向きに延設した長尺な垂設部材から形成され、水平部材と垂設部材には、いずれも長手方向に沿うように長孔が設けられていることから、垂設部材の長孔の所定の位置に、模擬鋼管部材を挟持しているバンド部材の雌ネジ孔を当接し、垂設部材の長孔の裏面側からボルトの軸部を貫挿し、軸部の先端をバンド部材の雌ネジ孔にねじ込むことにより、アングル材の垂設部材にバンド部材を確実に固定できる。
【0047】
その結果、アダプタ部材を構成するアングル材とバンド部材を介して、腐食環境測定具を内部に収容している模擬鋼管部材を、鉄塔における任意の位置に適宜設置できる。
【0048】
さらに、模擬鋼管部材の内部に挿入する腐食環境測定具は、所定の長さの薄板部材に、複数の取付台を固定し、この取付台にACMセンサと暴露試験片を取り付けて形成しているので、この腐食環境測定具を介して、模擬鋼管部材内部の腐食速度と腐食量を正確に測定することができる。
【0049】
また、腐食環境測定具の薄板部材は、所定以上の外力を加えると屈曲し、外力を取り去ると真っ直ぐな状態に復元するフレキシブル素材を用いて形成したときには、例えば、腹材の端部近傍において、ガセットプレートに連結プレートを固定するボルト・ナットや、主柱材等の障害物が存在している場合であっても、薄板部材を適宜屈曲させることで、当該障害物を避けながら、腹材の内部に腐食環境測定具を挿入し、ACMセンサを取り付けている薄板部材を腹材の内部に配置して、腹材の腐食量・腐食性を具体的に測定することができる(図16(a)(b)(c)参照)。
【0050】
その結果、腐食環境測定具を収容している腹材の近傍に、腹材と径の異なる模擬鋼管部材を適宜設置して、同一の環境下において、腹材の内部と、腹材と径の異なる模擬鋼管部材の内部の腐食速度と腐食量を同時に測定することができる(図5参照)。
【0051】
この他、本発明に係る腐食環境測定方法は、前記した模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置を使用することにより、鉄塔における任意の位置に適宜設置した模擬鋼管部材により、その内部の腐食速度と腐食量を正確に測定することができる。
【0052】
また、既設鉄塔の特定の箇所に、径の異なる模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置を複数設置したときには、同一の環境下において、径の異なる模擬鋼管部材内部の腐食速度と腐食量を同時に測定することができる。同様に、既設鉄塔の特定の箇所に、設置する傾斜角度が異なったり、また、設置する方向が異なる模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置を複数設置したときには、同一の環境下において、それぞれの模擬鋼管部材内部の腐食速度と腐食量も同時に測定することができる。
【0053】
さらに、既設鉄塔の特定の箇所において、腹材、水平材、補助材等の各種部材の内部に腐食環境測定具を挿入して当該部材内部の腐食速度と腐食量を測定しながら、その近傍において、径の異なる模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置を設置したときには、同一の環境下において、腹材、水平材、補助材等の各種部材の内部と、これらの部材と径の異なる模擬鋼管部材内部の腐食速度と腐食量を同時に測定することができる(図5参照)。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】腐食環境測定具を内部に収容している模擬鋼管部材を、アダプタ部材を介して、鉄塔の構成部材に取り付ける状態を示す分解斜視図である。
【図2】腐食環境測定具を内部に収容している模擬鋼管部材を、アダプタ部材を介して、鉄塔の構成部材に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図3】腐食環境測定具を模擬鋼管部材に収容する状態を示すもので、(a)は模擬鋼管部材から継ぎ手を外している状態の側面図、(b)は腐食環境測定具を模擬鋼管部材に収容し、継ぎ手を取り付けている状態の側面図である。
【図4】それぞれ腐食環境測定具を内部に収容している径の異なる2つの模擬鋼管部材を、アダプタ部材を介して、鉄塔の構成部材に取り付ける状態を示す分解斜視図である。
【図5】腐食環境測定具を収容している腹材の近傍に、腹材と径の異なる模擬鋼管部材を適宜設置して、同一の環境下において、腹材の内部と、径の異なる模擬鋼管部材の内部の腐食速度と腐食量を同時に測定している状態を示す斜視図である。
【図6】腐食環境測定具を内部に収容している扉を備えている模擬鋼管部材を、アダプタ部材を介して、鉄塔の構成部材に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図7】扉が開いて、模擬鋼管部材の内部を開放している状態を示す斜視図である。
【図8】扉が閉じて、模擬鋼管部材の内部を閉鎖している状態を示す斜視図である。
【図9】扉の回動状態を示すもので、(a)は扉が開いて模擬鋼管部材の内部を開放している状態を示す斜視図、(b)は扉が閉じて、開口部側のボルト孔と接続片のボルト孔に、ボルト部材の軸部を捩じ込んでいる状態を示す斜視図である。
【図10】腐食環境測定装置を送電線用の既設鉄塔に複数設置し、腐食性を測定している状態を説明した概略の側面図である。
【図11】腐食環境測定具の構成を示す分解斜視図である。
【図12】ACMセンサの構成を示し、(a)は表面側の平面図、(b)はACMセンサの測定原理を示した概略の説明図である。
【図13】腐食環境測定具の取付台の構成を示すもので、(a)は表面側から見た斜視図、(b)は裏面側から見た斜視図である。
【図14】保持部材を介して、取付台を薄板部材に取り付ける状態を示す分解斜視図である。
【図15】複数のACMセンサと暴露試験片を取り付けている薄板部材の屈曲状態を示すもので、(a)はACMセンサを取り付けている2個の取付台の間に位置している薄板部材を屈曲させている状態を示す斜視図、(b)は薄板部材の略中間部分を屈曲させている状態を示す斜視図である。
【図16】複数の取付台を固定している薄板部材を腹材の内部に挿入する状態を示すもので、(a)はACMセンサを取り付けている2個の取付台の間に位置している薄板部材を屈曲させて、1個目の取付台を腹材内部に挿入している状態を示す斜視図、(b)は薄板部材の略中間部分を屈曲させて、2個の取付台を腹材内部に挿入している状態を示す斜視図、(c)は薄板部材の全体が腹材内部に挿入され、薄板部材が元の真っ直ぐな状態に復元して、ACMセンサが腹材内部の長手方向に沿った位置に配置されている状態を示す斜視図である。
【図17】鉄塔の鋼管構造を示すもので、(a)は開口部が露出している腹材の端部に、ボルト固定式の管端金具を取り付ける状態を示す分解斜視図、(b)は腹材の端部に、ボルト固定式の管端金具を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図18】鉄塔の鋼管構造を示すもので、腹材の端部に固定された連結プレートを、主柱材のガセットプレートに宛がって、ボルト・ナット等を介して、ガセットプレートに連結プレートを固定している状態を示す斜視図、(b)は腹材の開口部を塞ぐように、半月状の管端金具が固定されている状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
【0056】
本発明に係る模擬鋼管部材41を利用した腐食環境測定装置は、図1に示すように、鉄塔Pを構成する各種部材の径に対応している径を有する筒状の模擬鋼管部材41の内部に腐食環境測定具100を配置し、模擬鋼管部材41の両端開口部に、開口部の一部を閉鎖する継ぎ手42を取り付けて構成されている。この模擬鋼管部材41は、図10に示すように、鉄塔Pを構成する腹材K、水平材L、補助材M等の各種部材の径に対応している径を有している。
【0057】
腐食環境測定具100を内部に収容している模擬鋼管部材41は、図2に示すように、アダプタ部材43を介して、鉄塔Pの所定の位置に取り付けられる。
【0058】
この模擬鋼管部材41の内部に収容する腐食環境測定具100は、図11に示すように、所定の長さの薄板部材11に、複数の取付台12を固定して形成している。
【0059】
また、取付台12には、複数のACMセンサ1が取り付けられている。
【0060】
大気環境の腐食性を定量的に評価するACMセンサ1は、図12(a)(b)に示すように、鋼基板2の表面に絶縁性ペースト3と導電性ペースト4を積層したものであり、例えば、鉄(Fe)等の鋼基板2と銀(Ag)等の導電性ペースト4からそれぞれ導線2a,4aが引き出され、無抵抗電流計等の計測器5に接続されている。そして、鋼基板2表面の露出部がセンサのアノード(陽極)となり、導電性ペースト4がカソード(陰極)となる。
【0061】
ACMセンサ1の測定原理は、当該ACMセンサ1の置かれた環境が乾燥状態で、表面に何も堆積していない時(初期)には、絶縁性ペースト3によりアノード(鋼基板2)とカソード(導電性ペースト4)が絶縁されているので、その間に電位は発生せず、電流は計測されない。
【0062】
一方、ACMセンサ1表面の導電性ペースト4(Ag)と鋼基板2(Fe)を絶縁して配置した部分に、雨や露により水膜が形成されると、両金属間を水膜が連結するので、金属間の電位差によりガルバニック電流が生じる。このガルバニック電流は、鋼材料や亜鉛材料の腐食量に対して相関があることから、腐食速度を定量評価できるものである。
【0063】
このACMセンサ1を備えた腐食環境測定具100は、図1・図2に示すように、温湿度センサ21と共に模擬鋼管部材41の内部に配置される。そして、ACMセンサ1により、時間毎の出力電流を測定したものを、電流を記録する装置(データロガー)に記録し、記録されたデータに基づいて、大気環境における腐食性を測定するのである。
【0064】
腐食環境測定装置100において、複数の取付台12を固定する薄板部材11は、屈曲可能なものである。この薄板部材11としては、例えば、折り尺のように、複数の箇所で屈曲できる構成の物であっても良い。
【0065】
また、薄板部材11を、所定以上の外力を加えると屈曲し、外力を取り去ると真っ直ぐな状態に復元するフレキシブル素材を用いて形成しても良い。例えば、コンベックススケール等のスチール製のスケールを用いると、薄板部材11として好ましいものとなる。このとき、薄板部材11は、任意の位置で屈曲できることは勿論のこと、屈曲部分を連続的に移動させるような屈曲も可能である。
【0066】
薄板部材11に固定されている取付台12は、図13(a)に示すように、矩形薄板状のACMセンサ1の左右両端を、側壁部14によって保持した状態で載置される扁平コ字枠状の載置部13によって形成されている。
【0067】
取付台12の側壁部14に直交する他の側辺には、ACMセンサ1の前後両端を保持するために、互いに内側に向けて略L字状に突設した押さえ部15が一体的に形成されている。
【0068】
このとき、押さえ部15自体の載置部13側辺に沿った長さを、当該側辺自体の長さよりも短くすることで、押さえ部15の端部と側壁部14の端部との間に、切除部16が形成される。
【0069】
そして、ACMセンサ1は、自身の一端側を、先ず一方の押さえ部15に係止させ、当該ACMセンサ1を若干押し込みながら、他端側を他方の押さえ部15の内側に潜らせて係止させることで、両押さえ部15及び側壁部14の間(載置部13上)に、ACMセンサ1が装着される。
【0070】
また、図13(b)に示すように、載置部13の裏面の前後2箇所には、帯板の中間部分を略コ字形に折り曲げて成る取手部17の両端部が、例えば、スポット溶接等の手段を用いて固定されて、前後一対の矩形孔が形成されている。
【0071】
これらの両取手部17により形成される各矩形孔には、保持部材18が挿入するように配置される。この保持部材18は、取付台12の長手方向の寸法よりも若干長めの帯板により形成され、保持部材18の両端部には、リベット孔19が設けられている。
【0072】
そして、図14に示すように、取付台12を上方に向けた状態で保持部材18を薄板部材11の所定の位置に配置し、リベット孔19にリベットRを打ち込んで薄板部材11に貫通させることで、取付台12が薄板部材11に固定される。この様にして、図11に示すように、薄板部材11に、例えば、4個の取付台12が固定される。
【0073】
取付台12には、基本的にACMセンサ1が取り付けられるが、図11に示すように、複数の取付台12のいずれかに、腐食絶対量を測定・監視(モニタリング)するための暴露試験片20を取り付けても良い。この暴露試験片20は、矩形薄板状のACMセンサ1と略同じ大きさと形状を有し、取付台12の載置部13への装着は、上記したACMセンサ1と同じ動作によって行われる。
【0074】
腐食環境測定具100には、図11に示すように、温湿度センサ21が付設されている。この温湿度センサ21は、取付台12の間に位置している薄板部材1の表面に、例えば、針金やバンド等の締結部材22を利用して薄板部材11に固定される。
【0075】
この様に形成された腐食環境測定具100を内部に収容する筒状の模擬鋼管部材41は、図10に示すように、鉄塔Pを構成する腹材K、水平材L、補助材M等の各種部材の径に対応している径を有している。
【0076】
筒状の模擬鋼管部材41は、図1に示すように、それぞれの両端開口部において、対向するように一対の切欠溝41aを設けている。また、この一対の切欠溝41aに交差する位置において、対向するように一対の孔41bを設けている。
【0077】
この模擬鋼管部材41の両端開口部において、一対の切欠溝41aに、開口部の一部を閉鎖する継ぎ手42を取り付けている。
【0078】
この継ぎ手42は、所定の帯板を略U字状に折曲して形成し、折曲部分の近傍における略中央部分に対向するように一対の孔42bを設けている。また、継ぎ手42には、折曲部分から離れた先端側における開放側部分に、対向するように一対の孔42aを設けている。さらに、孔42bと孔42aの間における上下の位置に、一対の孔42cをそれぞれ設けている。この孔42cは、継ぎ手42に2箇所設けられている。
【0079】
そして、図1・図3(a)に示すように模擬鋼管部材41から継ぎ手42を取り外している状態において、模擬鋼管部材41の内部に腐食環境測定具100を収容する。
【0080】
次に、図2・図3(b)に示すように、模擬鋼管部材41の開口部における一対の切欠溝41aに継ぎ手42の折曲部分を挿入し、模擬鋼管部材41に設けている一対の孔41bと、継ぎ手42に設けている孔42bを軸線上に配置し、それぞれの孔41b,42bにボルトVの軸部を貫挿し、軸部の先端部にナットNを螺合させて、模擬鋼管部材41の両端開口部に継ぎ手42を固定する。
【0081】
こうして、模擬鋼管部材41の両端開口部には、継ぎ手42を介して、略半円状の開口部が存在することとなる。そして、図2に示すように、この略半円状の開口部を閉鎖するために、ボルト固定式の管端金具60を取り付ける。
【0082】
このボルト固定式の管端金具60は、図1に示すように、閉鎖板61と、固定金具62により構成されている。
【0083】
閉鎖板61は、模擬鋼管部材41の開口部の輪郭に略合致した半円状に形成されている。また、固定金具62は、略三角形状で、閉鎖板61に対して、90度の角度を有するように垂設されている。
【0084】
さらに、固定金具62は、楕円状の取付孔63を備えている。この固定金具62の取付孔63は、閉鎖板61の端部側に位置するように配置されている。
【0085】
図1に示す模擬鋼管部材41において、鉄塔の構成部材Tと反対側に位置する
手前側の開口部にボルト固定式の管端金具60を取り付けるとき、図3(c)に示すように、開口部を閉鎖するように、閉鎖板61を配置する。そして、固定金具62の取付孔63を、継ぎ手42における下方の孔42cに宛がい、ボルトVの軸部を貫装させて、ナットNで絞め付ける。
【0086】
また、図1に示す模擬鋼管部材41において、鉄塔の構成部材T側に位置する開口部にボルト固定式の管端金具60を取り付けるとき、管端金具60を上下逆さまにして、固定金具62の取付孔63を、継ぎ手42における上方の孔42cに宛がい、ボルトVの軸部を貫装させて、ナットNで絞め付ける。
【0087】
この様に、模擬鋼管部材41の両端開口部を、腹材Kの端部と略同一に形成して、腐食環境測定具100を収容する模擬鋼管部材41の内部環境(通気性・温度・湿度等)を、鉄塔Pの腹材Kと同一にしている。
【0088】
その為、模擬鋼管部材41の内部において、腐食環境測定具100を介して測定した腐食速度と腐食量のデータを、鉄塔Pに用いられている腹材K自体の腐食速度と腐食量を示すデータとして利用できるのである。
【0089】
尚、模擬鋼管部材41の内部において、腐食環境測定具100を構成する個々の取付台12は、側壁部14が左右に位置した状態となり、個々の取付台12において、ACMセンサ1と暴露試験片20が上向きに配置される。また、模擬鋼管部材41の内部において、取付台12の側壁部14は、模擬鋼管部材41の内周壁に当接した状態となる。
【0090】
さらに、薄板部材11の両端部それぞれにおいて、薄板部材11の長手方向に沿った側方に向けて所定の長さの針金部材を延設すると、腐食環境測定具100として好ましいものとなる。
【0091】
即ち、この針金部材を操作して、模擬鋼管部材41の内部における薄板部材11と個々の取付台12の向きを自由に変更することにより、ACMセンサ1と暴露試験片20による測定条件を適宜変更することができる。また、針金部材の端部を折り曲げて、針金部材を模擬鋼管部材41の開口している端部に掛け止めすることにより、腐食環境測定具100を模擬鋼管部材41の内部に簡単に固定できる。
【0092】
腐食環境測定具100を内部に収容している模擬鋼管部材41を、鉄塔Pの所定の位置に取り付けるアダプタ部材43は、図1・図2に示すように、模擬鋼管部材41の外周面を挟持する一対のバンド部材44と、鉄塔P側に固定されるアングル材45から構成されている。
【0093】
一対のバンド部材44は、模擬鋼管部材41において、所定の間隔を開けて2個配置されている。また、アングル材45も、例えば、鉄塔Pの腹材K等において、所定の間隔を開けて2個固定されている。
【0094】
一対のバンド部材44は、図1に示すように、いずれも中間部分が略半円弧状に湾曲しており、その略半円弧状部分の中央に雌ネジ孔44aを設けている。
【0095】
アングル材45は、図1に示すように、短尺な水平部材45aと、水平部材45aの先端部において下向きに延設した長尺な垂設部材45bから形成され、水平部材45aと垂設部材45bには、いずれも長手方向に沿うように長孔45cが設けられている。
【0096】
このアングル材45は、図1に示すように、鉄塔Pの腹材Kにおいて、短尺な水平部材45aの長孔45cを、腹材Kに突設しているボルトVの軸部に宛がい、水平部材45aの長孔45cに貫挿している軸部の先端部にナットNを螺合させて、腹材Kに固定されている。
【0097】
そして、アングル材45おける垂設部材45bの長孔45cの所定の位置に、模擬鋼管部材41を挟持しているバンド部材44の雌ネジ孔44aを当接し、垂設部材45bの長孔45cの裏面側からボルトVの軸部を貫挿し、軸部の先端をバンド部材44の雌ネジ孔44aにねじ込んで、アングル材45の垂設部材45bにバンド部材44を固定している。
【0098】
そして、図2に示すように、鉄塔Pの所定の位置に配置されている構成部材Tに、腐食環境測定具100を内部に収容している模擬鋼管部材41を固定して、この構成部材Tの設置されている環境において、当該模擬鋼管部材41内部の腐食速度と腐食量を、腐食環境測定具100を介して測定する。
【0099】
また、図4に示すように、鉄塔Pの所定の位置に配置されている構成部材Tに、腐食環境測定具100を内部に収容している模擬鋼管部材41を固定し、さらに、腐食環境測定具100を内部に収容している径の異なる模擬鋼管部材41を併設して、それぞれの模擬鋼管部材41内部の腐食速度と腐食量を、腐食環境測定具100を介して個別に測定する。
【0100】
その結果、構成部材Tの設置されている環境において、径の異なる2個の模擬鋼管部材41内部の腐食速度と腐食量を、同時に測定することができる。
【0101】
また、図5に示すように、鉄塔Pの所定の位置において、斜行状に配置されている腹材K内に腐食環境測定具100を収容し、この腹材Kの近傍に配置されている構成部材Tに、腐食環境測定具100を内部に収容している腹材Kと径の異なる模擬鋼管部材41を固定して、同一の環境下において、斜行状に配置されている腹材Kと、腹材Kと径の異なる模擬鋼管部材41内部の腐食速度と腐食量を、腐食環境測定具100を介して個別に測定しても良い。
【0102】
尚、鉄塔Pの所定の位置において、斜行状に配置されている腹材K内に腐食環境測定具100を収容するときは、例えば、図18(a)に示すように、腹材Kの端部から管端金具Hを撤去して開口部Qが露出している状態において、腹材K内部に腐食環境測定具100を挿入する。
【0103】
具体的には、まず、図16(a)に示すように、ACMセンサ1と暴露試験片20を取り付けている全ての取付台12の側壁部14が上下に位置するように腐食環境測定具100を傾けて、取付台12における載置部13の裏面を連結プレートLPに沿うようにして、1個目の取付台12を腹材K内部に押し込みながら、図15(a)・図16(a)に示すように、1個目の取付台12と2個目の取付台12の間に位置している薄板部材11を略90度屈曲させて、ACMセンサ1を取り付けている1個目の取付台12の全体を腹材K内部に挿入する。
【0104】
次に、図15(b)・図16(b)に示すように、2個目の取付台12を腹材K内部に押し込みながら、薄板部材11の略中間部分を略90度屈曲させて、ACMセンサ1を取り付けている2個目の取付台12の全体を腹材K内部に挿入する。
【0105】
さらに、3個目の取付台12を腹材K内部に押し込みながら、3個目の取付台12と4個目の取付台12の間に位置している薄板部材11を略90度屈曲させて、暴露試験片20を取り付けている3個目の取付台12の全体を腹材K内部に挿入する。
【0106】
最後に、4個目の取付台12を腹材K内部に押し込みながら、薄板部材11の後端側部分を略90度屈曲させて、暴露試験片20を取り付けている4個目の取付台12の全体を腹材K内部に挿入する。
【0107】
このとき、図18(a)(b)に示すように、腹材Kの開口部Qの近傍に、ガセットプレートGPに連結プレートLPを固定しているボルトV・ナットNが存在している場合であっても、薄板部材11が屈曲することで、薄板部材11と、薄板部材11に配置している個々の取付台12は、これらの部材を避けながら、腹材Kの開口部Qを介して腹材K内に挿入される。
【0108】
また、薄板部材11を屈曲させたとき、取付台12の裏面側がボルトV・ナットNに面していることから、取付台12に載置されているACMセンサ1にボルトV・ナットNが当たることがなく、ACMセンサ1の破損を防止している。
【0109】
さらに、腹材K内部に腐食環境測定具100の全体を挿入すると、図16(c)に示すように、薄板部材11が元の真っ直ぐな状態に復元するので、個々の取付台12に取り付けているACMセンサ1と暴露試験片20は、腹材K内部の長手方向に沿った好ましい位置に配置される。
【0110】
尚、腐食環境測定具100を腹材K内部に固定した後には、図17(a)(b)に示すように、腹材Kの開口部Qにボルト固定式の管端金具50を取り付けて、腹材Kの開口部Qを閉鎖する。
【0111】
このボルト固定式の管端金具50は、図17(a)に示すように、閉鎖板51と、固定金具52により構成されている。
【0112】
閉鎖板51は、腹材Kの開口部Qの輪郭に略合致した半円状に形成されている。また、固定金具52は、閉鎖板51を固定している小半円状の板片53と、板片53に連設した基礎板54により構成されている。小半円状の板片53は、基礎板54に対して、90度の角度を有するように垂設されている。
【0113】
さらに、基礎板54は、図17(a)に示す状態において、若干下方を向いた傾斜状に板片53に固定されている。また、板片53は、所定の取付孔55を備えている。この取付孔55は、図17(a)に示すように、ナットNを貫装させる角状部分と、ボルトVの軸部を貫装させる円状部分を連接して形成されている。
【0114】
ボルト固定式の管端金具50を取り付けるとき、図17(a)(b)に示すように、腹材Kの開口部Qを閉鎖するように、閉鎖板51を配置する。そして、ナットNを若干緩めた状態で、基礎板54の取付孔55における角状部分に、ナットNを貫装させる。
【0115】
次に、基礎板54を若干開口部Q寄りに移動させて、ボルトVの軸部を、基礎板54の円状部分に貫装させる。この状態で、ナットNを絞め付けて、ボルト固定式の管端金具50を、腹材Kの開口部Qを閉鎖するように固定するのである。
【0116】
尚、ボルト固定式の管端金具50は、その取り外しと、再度の取り付けが可能である。その為、腹材K内部に配置している腐食環境測定具100のACMセンサ1を交換するとき等においては、管端金具50を随時取り外して、腐食環境測定具100を腹材Kから取り出し、腐食環境測定具100に新しいACMセンサ1を装着した後に、腐食環境測定具100を腹材K内部に配置して、腹材Kの開口部Qにボルト固定式の管端金具50を再度取り付けることとなる。
【0117】
そして、例えば、図10に示す送電線用の鉄塔Pにおいて、鉄塔Pの上部位置Aと、鉄塔Pの中部位置Bと、鉄塔Pの下部位置Cのそれぞれの位置において、腐食環境測定具100を内部に収容している模擬鋼管部材41を固定し、それぞれの模擬鋼管部材41内部の腐食速度と腐食量を、腐食環境測定具100を介して個別に測定する。
【0118】
このとき、上部位置Aにおいては、上部位置Aに存在する、例えば、腹材Kの径に対応している径を有する模擬鋼管部材41を用いる。また、中部位置Bにおいては、中部位置Bに存在する、例えば、腹材Kの径に対応している径を有する模擬鋼管部材41を用いる。さらに、下部位置Cにおいては、下部位置Cに存在する、例えば、腹材Kの径に対応している径を有する模擬鋼管部材41を用いる。
【0119】
この他、上部位置Aにおいて、上部位置Aに存在する、例えば、腹材Kの径に対応している径を有する模擬鋼管部材41と、径の異なる模擬鋼管部材41を併設しても良い。また、中部位置Bにおいて、中部位置Bに存在する、例えば、腹材Kの径に対応している径を有する模擬鋼管部材41と、径の異なる模擬鋼管部材41を併設しても良い。さらに、下部位置Cにおいては、下部位置Cに存在する、例えば、腹材Kの径に対応している径を有する模擬鋼管部材41と、径の異なる模擬鋼管部材41を併設しても良い。
【0120】
また、上部位置Aにおいて、上部位置Aに存在する、例えば、腹材Kの内部に腐食環境測定具100を配置し、この腹材Kの近傍に、当該腹材Kと径の異なる模擬鋼管部材41を設置しても良い。さらに、中部位置Bにおいて、中部位置Bに存在する、例えば、腹材Kの内部に腐食環境測定具100を配置し、この腹材Kの近傍に、当該腹材Kと径の異なる模擬鋼管部材41を設置しても良い。また、下部位置Cにおいて、下部位置Cに存在する、例えば、腹材Kの内部に腐食環境測定具100を配置し、この腹材Kの近傍に、当該腹材Kと径の異なる模擬鋼管部材41を設置しても良い。
【0121】
そして、腹材Kの内部に配置した腐食環境測定具100と、腹材Kの近傍に設置した模擬鋼管部材41の内部に配置した腐食環境測定具100により、当該部材内部の腐食速度と腐食量を個別に測定するのである。
【0122】
加えて、腐食環境測定具100による各ACMセンサ1によって時間毎の出力電流を測定したものを、例えば、データロガー30に記録し、この記録されたデータに基づいて、大気環境における腐食性を測定する。
【0123】
このとき、データロガー30を設置した地点におけるACMセンサ1の出力電流データと、適正な波形から求められる測定電流値との関係を示すデータを求める。
【0124】
具体的には、鉄塔Pの上部位置Aに設置された基準となるACMセンサ1の出力電流値と、鉄塔Pの中部位置B及び下部位置Cに設置された被評価となるACMセンサ1の出力電流値の比から、被評価のACMセンサ1の日平均電気量を求める。
【0125】
そして、求めた日平均電気量Q/day(C/day)と腐食速度(mm/year)との相関関係を示すデータを用いて、各地点の推定腐食速度を求める。これにより、各地点における腐食速度の相対評価を行う。
【0126】
以上のようにして、ACMセンサ1の恒温恒湿槽における測定電流値を求めることにより、予め求めておいた基準データによる腐食速度のデータを用いて、腐食速度を推定する。これと同時に腐食環境測定具100に備えられている暴露試験片20の表面状態を直視観察することにより、腐食の絶対量を確認する。
【0127】
尚、本発明は、前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での改良・変形等は、本発明に全て包含されるものである。
【0128】
例えば、腐食環境測定具100を内部に収容する模擬鋼管部材41について、図6乃至図9に示すように、自身の内部を開放する扉200を備える様に構成しても良い。
【0129】
具体的には、図7に示すように、筒状に形成されている模擬鋼管部材41において、略全体の半周部分を切除し、横長の開口部201を設けている。模擬鋼管部材41の扉200は、この開口部201を閉鎖する略半円筒状に形成されている。
【0130】
扉200は、開口部201に回動可能に取り付けられており、扉200が開いた状態で、図7に示すように、腐食環境測定具100の内部が開放され、模擬鋼管部材4の内部に腐食環境測定具100を容易に配置することができる。
【0131】
また、図8に示すように、扉200が閉じた状態で、腐食環境測定具100を収容する模擬鋼管部材41の内部環境(通気性・温度・湿度等)を、鉄塔Pにおける、例えば、腹材Kの内部環境(通気性・温度・湿度等)と略同一にすることができる。
【0132】
この扉200は、図7・図8に示すように、開口部201と扉200において、その両端部に設置した所定のヒンジ部202を介して、回動可能に取り付けられている。また、扉200は、図9(a)(b)に示すように、接続片203を介して、扉200が閉じた状態を維持するようになっている。
【0133】
接続片203は、図7に示すように、矩形の板状に形成され、扉200の略中央部に固定されている。この接続片203は、図9(a)(b)に示すように、扉200が閉じたとき、開口部201を形成している模擬鋼管部材41の内側に配置される。そして、開口部201の内側形状に沿うように、接続片203自身も
湾曲して形成されている。
【0134】
さらに、接続片203の両端部に位置するように、2個のボルト孔204が設けられている。また、開口部201側にも、2個のボルト孔205が設けられている。この接続片203のボルト孔204と、開口部201側のボルト孔205は、扉200が閉じたとき、合致した状態となる。
【0135】
この扉200が閉じた状態で、図9(b)に示すように、開口部201側のボルト孔205と接続片203のボルト孔204に、ボルト部材206の軸部を捩じ込んで、扉200が閉じた状態を維持させるのである。
【0136】
尚、扉200が開いた状態で、図7に示すように、腐食環境測定具100の内部が開放され、模擬鋼管部材4の内部に腐食環境測定具100を容易に配置できることから、模擬鋼管部材4に設置する管端金具60は、固定タイプのものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は、架空送電鉄塔等の構造物に多用されている各種部材(腹材、水平材、補助材等)の径に対応している径を有する模擬鋼管部材を用いて、鉄塔の構成部材の腐食速度と腐食量を測定することの他に、例えば、橋梁や通信用タワー・パビリオン等の構成部材の腐食を測定・監視(モニタリング)するための装置・方法等として、様々な分野に幅広く応用することができる。
【符号の説明】
【0138】
P…鉄塔
K…腹材
L…水平材
M…補助材
SP…主柱材
GP…ガセットプレート(継ぎ手)
LP…連結プレート(継ぎ手)
V…ボルト
N…ナット
Q…開口部
H…管端金具
R…リベット
T…鉄塔の構成部材
1…ACMセンサ
2…鋼基板
2a…導線
3…絶縁性ペースト
4…導電性ペースト
4a…導線
5…計測器
11…薄板部材
12…取付台
13…載置部
14…側壁部
15…押さえ部
16…切除部
17…取手部
18…保持部材
19…リベット孔
20…暴露試験片
21…温湿度センサ
22…締結部材
30…データロガー
41…模擬鋼管部材
41a…切欠溝
41b…孔
42…継ぎ手
42a…孔
42b…孔
42c…孔
43…アダプタ部材
44…バンド部材
44a…雌ネジ孔
45…アングル材
45a…水平部材
45b…垂設部材
45c…長孔
50…ボルト固定式の管端金具
51…閉鎖板
52…固定金具
53…板片
54…基礎板
55…取付孔
60…ボルト固定式の管端金具
61…閉鎖板
62…固定金具
63…取付孔
100…腐食環境測定具
200…扉
201…開口部
202…ヒンジ部
203…接続片
204…ボルト孔
205…ボルト孔
206…ボルト部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄塔を構成する腹材、水平材、補助材等の各種部材の径に対応している径を有する筒状の模擬鋼管部材の内部に腐食環境測定具を配置し、模擬鋼管部材の両端開口部に、開口部の一部を閉鎖する継ぎ手を取り付けていることを特徴とする、模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置。
【請求項2】
筒状の模擬鋼管部材は、それぞれの両端開口部において、対向するように一対の切欠溝を設けると共に、この一対の切欠溝に交差する位置において対向するように一対の孔を設ける一方、
継ぎ手は、所定の帯板を略U字状に折曲して形成し、折曲部分の近傍における略中央部分に対向するように一対の孔を設け、
模擬鋼管部材の開口部における一対の切欠溝に継ぎ手の折曲部分を挿入し、模擬鋼管部材に設けている一対の孔と、継ぎ手に設けている一対の孔を軸線上に配置し、それぞれの孔にボルトの軸部を貫挿し、軸部の先端部にナットを螺合させて、模擬鋼管部材の両端開口部に継ぎ手を固定している請求項1に記載の模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置。
【請求項3】
筒状の模擬鋼管部材は、内部を開放する扉を備えている請求項1または2に記載の模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置。
【請求項4】
腐食環境測定具を内部に収容している模擬鋼管部材は、アダプタ部材を介して既設鉄塔の所定の位置に取り付けられ、該アダプタ部材は、模擬鋼管部材の外周面を挟持する一対のバンド部材と、既設鉄塔に固定されるアングル材から構成され、
一対のバンド部材は、その中央部分に雌ネジ孔を設けており、
アングル材は、短尺な水平部材と、水平部材の先端部において下向きに延設した長尺な垂設部材から形成され、水平部材と垂設部材には、いずれも長手方向に沿うように長孔が設けられ、
垂設部材の長孔の所定の位置に、模擬鋼管部材を挟持しているバンド部材の雌ネジ孔を当接し、垂設部材の長孔の裏面側からボルトの軸部を貫挿し、軸部の先端をバンド部材の雌ネジ孔にねじ込んで、アングル材の垂設部材にバンド部材を固定している請求項1乃至3のいずれかに記載の模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置。
【請求項5】
模擬鋼管部材の内部に挿入する腐食環境測定具は、所定の長さの薄板部材に、複数の取付台を固定し、この取付台にACMセンサと暴露試験片を取り付けて形成している請求項1に記載の模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置。
【請求項6】
腐食環境測定具の薄板部材は、所定以上の外力を加えると屈曲し、外力を取り去ると真っ直ぐな状態に復元するフレキシブル素材を用いて形成している請求項5に記載の模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置。
【請求項7】
請求項1乃至6に記載の模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置を使用した、腐食環境測定方法。
【請求項8】
既設鉄塔の特定の箇所に、径の異なる模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置を複数設置して、それぞれの模擬鋼管部材の腐食速度と腐食量を測定する、請求項7に記載の腐食環境測定方法。
【請求項9】
既設鉄塔の特定の箇所において、腹材、水平材、補助材等の各種部材の内部に腐食環境測定具を挿入して当該部材内部の腐食速度と腐食量を測定しながら、その近傍において、径の異なる模擬鋼管部材を利用した腐食環境測定装置を設置し、当該模擬鋼管部材の腐食速度と腐食量を測定する、請求項7に記載の腐食環境測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−189476(P2012−189476A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53920(P2011−53920)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】