説明

模様紙及びその製造方法

【課題】本発明の目的は、安定した形状を有し、シェアに対する強度がある凝集体を得ると共に、凝集体の色調及び配合量を任意に調整することによって、表裏の模様の色調、色彩及び形態を調整して多様なニーズに応え、かつ、紙面上に均一に凝集体を分布させた模様紙及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明に係る模様紙は、2層以上の多層抄きの模様紙であって、表層若しくは裏層のいずれか一方の層又は両方の層が、凝集体βを含有し、凝集体βは、アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤によって凝集体α同士が付着しあったより大きな凝集体であり、凝集体αは、ナトリウムカルボキシメチルセルロースが、ナトリウムイオンを他の金属イオンに置換することによって、顔料、セルロース繊維、化学繊維からなる集団の中から選択された1種類以上の物質を取り込んだ状態で、凝集してなる粒子状の凝集体であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外観及び風合いに優れた模様紙及びその製造方法に関し、表層と裏層とを有する2層以上の多層抄きであり、表層又は裏層の少なくとも一方の層に凝集体を混在させ、有用な模様を形成する模様紙及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
模様紙は、従来の紙に比べ、商品イメージの付与、商品価値の向上などを目的に用いられている。模様紙の製造方法としては、染色による方法、種々の型付けによる方法、特殊な形状物又は着色物を抄き込む方法、特殊な抄紙技術を応用した方法など多くの方法が知られている。また、種々の染色セルロースをパルプに配合して製造した模様紙、凝集物を抄紙原料に配合して模様を表現した模様紙なども知られており、包装紙、便箋などの用途に供されている。
【0003】
また、近年では、これら模様紙の用途は更に広がり、封筒、箱貼り、葉書などにも使用され、オフセット印刷、インクジェット印刷、トナー印刷などの加工を施される用途も増えてきている。このため、模様紙は、様々な用途、各種加工適性の付与など、そのニーズは多様化している。具体的な例としては、表裏で色調、色彩及び形態の異なる模様を有する模様紙が挙げられる。また、各種用途の多様化、加工工程のトラブル防止及び加工適性付与を目的として模様紙の表裏のいずれか一方の面にだけ模様を有する模様紙が望まれている。
【0004】
インクジェット印刷は、刷版を使用せずに、コンピュータで作成した文字、各種図形などの画像情報を直接印刷できるため小ロット印刷に適している。最近では、インクジェットプリンターの高解像度化に伴い、高画質な印刷が可能となっており、市場の要求に応えられる印刷方式として注目されている。近年、家庭用インクジェットプリンターの普及に伴い、葉書、印刷用紙などインクジェット印刷に対応した用紙の需要が高まっており、インクジェット印刷用の模様紙が求められている。
【0005】
模様として凝集物を抄紙原料に添加して抄造する模様紙の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1又は2を参照。)。特許文献1には、ナトリウムカルボキシメチルセルロースと繊維などとの混合液に金属塩水溶液を添加して凝集物を作製し、これを抄紙原料に添加して抄造する方法が提案されている。また、特許文献2には、カゼイン又は大豆タンパクにカチオン性電解質又は酸を添加し凝集物を作製し、これを抄紙原料に添加して抄造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−180591号公報
【特許文献2】特開平6−166998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1又は2に記載された技術をはじめとする凝集物混在の模様紙の製造方法は、凝集物を形成する工程と、凝集物の移送する工程と、凝集物を抄紙原料と混合して抄紙する工程と、を有する。しかし、模様紙を単層で抄紙した場合には、紙面の表裏で凝集物の量を調整することができず、模様の表裏差が発生し易い。特に、紙厚の厚い模様紙を得ようとした場合には、表裏差が顕著となるほか、表面に一定の模様量を得るために多量の凝集体を配合しなければならない。
【0008】
また、模様紙を単層で抄紙した場合には、紙の表裏で異なる色調又は模様の色調が異なる模様紙及び片面にだけ凝集物を有する模様紙を得ることができない。さらに、凝集物を抄紙原料と混合して抄紙する場合には、凝集体と抄紙原料との重さ及び大きさの違いから紙面に凝集物が不均一に分布し、均一な模様が得難い。
【0009】
凝集物は、ナトリウムカルボキシメチルセルロースに金属塩を添加することで形成し、最適な形状となるように薬品の添加、撹拌のシェアを操作することによって完成する。しかし、形成した凝集物は、形成時の撹拌シェア、移送時のポンプによるシェア及び抄紙原料との混合・抄紙時のシェアで特に破壊され易く、所望する大きさの凝集物を維持することができないという問題点があった。以上のように、凝集物を形成したとしても所望の大きさの模様を形成し、模様が均一に分布した模様紙を得るには種々の問題点があった。
【0010】
本発明の目的は、安定した形状を有し、凝集物(以降、凝集体という。)の形成時、移送時及び抄紙時のシェアに対する強度がある凝集体を得ると共に、凝集体の色調及び配合量を任意に調整することによって、表裏の模様の色調、色彩及び形態を調整して多様なニーズに応えることができ、かつ、紙面上に均一に凝集体を分布させた模様紙及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
模様紙に所望の形状の模様を形成するためには、凝集体にはシェアに対する強さが必要であるが、凝集体の形状及び強度を決定する要因としては、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの分子量、凝集作用のある金属塩及び液状高分子凝集剤の添加順序、配合する繊維の形状、分散濃度、撹拌子の形状、回転数、時間などの各要因が挙げられる。本発明者らは、鋭意検討した結果、凝集体が独立した個々の粒状乃至膜状安定的な形状を有し、かつ、機械的シェアに耐え得る強度を保持するために、前記の各要因のうち、最も重要な要因は、凝集剤の組成及び添加順であることを見出した。さらに、この凝集体を抄紙原料に配合して抄紙する工程において、2層以上の多層抄きとすることで、表裏の模様紙の色調及び模様としての凝集体の色調及び配合量を調整することによって、所望の模様紙を得ることができることを見出した。
【0012】
本発明に係る模様紙は、表層と裏層とを有する2層以上の多層抄きの模様紙であって、前記表層若しくは前記裏層のいずれか一方の層又は両方の層が、凝集体βを含有し、該凝集体βは、アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤によって凝集体α同士が付着しあったより大きな凝集体であり、該凝集体αは、ナトリウムカルボキシメチルセルロースが、ナトリウムイオンを他の金属イオンに置換することによって、顔料、セルロース繊維、化学繊維からなる集団の中から選択された1種類以上の物質を取り込んだ状態で、凝集してなる粒子状の凝集体であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る模様紙では、前記凝集体αは、更に染料を含有することが好ましい。各種の色調の凝集体とすることができ、結果として、各種の色調の模様を有する模様紙とすることができる。
【0014】
本発明に係る模様紙では、前記凝集体α及び前記凝集体βの両方又はいずれか一方の表面に、アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤が付着していることが好ましい。凝集体のシェアに対する強度を更に向上させることができ、模様紙に所望の形状の模様を有する模様紙とすることができる。
【0015】
本発明に係る模様紙では、前記アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤が、アニオン性ポリアクリルアミドであることが好ましい。凝集体のシェアに対する強度を更に向上させることができ、所望の形状の模様を有する模様紙とすることができる。
【0016】
本発明に係る模様紙では、前記ナトリウムカルボキシメチルセルロースの平均分子量が、45,000〜300,000であることが好ましい。凝集体のシェアに対する強度を更に向上させることができ、所望の形状の模様を有する模様紙とすることができる。また、凝集体の大きさを、模様紙に適したものにすることができる。
【0017】
本発明に係る模様紙では、前記凝集体αに取り込む前記セルロース繊維又は前記化学繊維の平均繊維長が、140〜3000μmであることが好ましい。得られる凝集体の大きさ及び形状を、模様紙として適したものにすることができ、所望の形状の模様を有する模様紙とすることができる。
【0018】
本発明に係る模様紙では、前記模様紙の少なくとも一方の面に非晶質合成シリカと水溶性高分子とを含有するインクジェットインク受容層を、更に有することが好ましい。インクジェット印刷に対応した模様紙とすることができる。
【0019】
本発明に係る模様紙の製造方法は、表層と裏層とを有する2層以上の模様紙の製造方法であって、ナトリウムカルボキシメチルセルロース水溶液に顔料、セルロース繊維、化学繊維からなる集団の中から選択された1種類以上の物質を混合する工程1と、該工程1で得られた混合物に金属塩水溶液を添加し、撹拌によって凝集体αを形成する工程2と、該工程2で得られた前記凝集体αを含む液にアクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤を添加して凝集体βを形成する工程3と、該工程3で得られた凝集体βを、前記表層用の抄紙原料若しくは前記裏層用の抄紙原料のいずれか一方又は両方に添加して表層用紙料及び裏層用紙料を調製する工程4と、該紙料を抄造する工程5と、を有することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る模様紙の製造方法では、前記工程5は、ドライバット方式円網抄紙機を用いて抄造することが好ましい。模様が均一に分布した模様紙を製造することができる。
【0021】
本発明に係る模様紙の製造方法では、前記アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤が、アニオン性ポリアクリルアミド及びカチオン性ポリアクリルアミドであり、アニオン性ポリアクリルアミドを添加した後、カチオン性ポリアクリルアミドを添加することが好ましい。この順に添加することで、より強固な凝集体を形成することができ、所望の形状の模様を有する模様紙を製造することができる。
【0022】
本発明に係る模様紙の製造方法では、前記模様紙の少なくとも一方の面に非晶質合成シリカと水溶性高分子とを含有するインクジェットインク受容層を設ける工程6を、更に有することが好ましい。インクジェット印刷に対応した模様紙を製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、安定した形状を有し、凝集体の形成時、移送時及び抄紙時のシェアに対する強度がある凝集体を得ると共に、凝集体の色調及び配合量を任意に調整することによって、表裏の模様の色調、色彩及び形態を調整して多様なニーズに応えることができ、かつ、紙面上に均一に凝集体を分布させた模様紙及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】多層抄きバット式円網抄紙機を説明するための図であり、(a)は最後の抄き合せを行う円網部の拡大図であり、(b)は(a)のX部の拡大図である。
【図2】多層抄きドライバット式円網抄紙機を説明するための図であり、最後の抄き合せを行う円網部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0026】
本実施形態に係る模様紙の製造方法は、表層と裏層とを有する2層以上の模様紙の製造方法であって、ナトリウムカルボキシメチルセルロース水溶液に顔料、セルロース繊維、化学繊維からなる集団の中から選択された1種類以上の物質を混合する工程1と、工程1で得られた混合物に金属塩水溶液を添加し、撹拌によって凝集体αを形成する工程2と、工程2で得られた凝集体αを含む液にアクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤を添加して凝集体βを形成する工程3と、工程3で得られた凝集体βを、表層用の抄紙原料若しくは裏層用の抄紙原料のいずれか一方又は両方に添加して表層用紙料及び裏層用紙料を調製する工程4と、紙料を抄造する工程5と、を有する。ここで、工程1から工程3は、凝集体の製造工程であり、工程4及び工程5は、模様紙の製造工程である。
【0027】
工程1では、ナトリウムカルボキシメチルセルロース水溶液と、選択された1種類以上の物質とをよく攪拌して混合することが好ましい。工程2では、工程1で得られた混合物に、金属塩水溶液を添加した後、攪拌することで凝集体αを形成してもよいが、混合物を攪拌しながら、金属塩水溶液を添加して凝集体αを形成した方が、均一な凝集体αを得ることができる点で、より好ましい。工程3においても、工程2で形成した凝集体αを含む液(凝集体αスラリー)に、アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤を添加した後、攪拌してもよいが、凝集体αスラリーを攪拌しながら、アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤を添加するほうが、均一な凝集体βを得ることができる点で、より好ましい。
【0028】
工程1で用いるナトリウムカルボキシメチルセルロース水溶液の濃度は、0.05〜4.00質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.10〜3.00質量%である。0.05質量%未満では、凝集体の強度が弱くなる場合がある。4.00質量%を超えると、水溶液の流動性が低下して、均一な凝集体を得ることができなくなる場合がある。
【0029】
工程2で用いる金属塩水溶液の濃度は、1〜60質量%であることが好ましい。より好ましくは、3〜50質量%である。1質量%未満では、凝集力が不足して、粒子状の凝集体αを形成しにくくなる場合がある。60質量%を超えると、抄紙原料全体とフロックを形成して、粒子状の凝集体αを形成できない場合がある。本実施形態は、工程2で用いる金属塩水溶液の濃度に制限されない。
【0030】
工程3で用いるアクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤の濃度は、0.01〜2.00質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.03〜1.00質量%である。0.01質量%未満では、凝集体βの強度が弱くなる場合がある。2.00質量%を超えると、水溶液の流動性が低下して、均一な凝集体βを得ることができなくなる場合がある。
【0031】
工程3で添加するアクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤は、アニオン性ポリアクリルアミドであることが好ましい。シェアに対する強度がより高い凝集体βを形成することができる。
【0032】
さらに、より強固な凝集体β(以降、凝集体β´ということもある。)を形成するためには、アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤が、アニオン性ポリアクリルアミド及びカチオン性ポリアクリルアミドであり、アニオン性ポリアクリルアミドを添加した後、カチオン性ポリアクリルアミドを添加することが好ましい。
【0033】
凝集体βの形状及び強度を決定する要因としては、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの分子量、凝集作用のある金属塩及び液状高分子凝集剤の添加順序、配合する繊維の形状、分散濃度、撹拌子の形状、回転数、時間などの各要因が挙げられる。発明者らは、鋭意検討した結果、前記要因の中で、凝集体が独立した個々の粒状乃至膜状安定的な形状を有し、かつ、機械的シェアに耐え得る強度を保持するためには、凝集体の組成と添加順、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの分子量、繊維の形状であることを見出した。最も重要な要因は、凝集剤の組成及び添加順である。
【0034】
工程2において、ナトリウムカルボキシメチルセルロースに金属塩水溶液を添加すると、ナトリウムイオンと金属イオンとが置換してカチオン性を有した個々の凝集体αとなる。工程3において、凝集体αに、アニオン性ポリアクリルアミドを添加することで、荷電中和及び吸着架橋の作用によって、凝集体α同士が凝集し、よりシェアに対する強度の高い凝集体βとなる。その後、カチオン性ポリアクリルアミドを添加することで、イオン結合によって、更に強固な一粒ずつが独立した凝集体β´を形成することができる。工程2で形成した凝集体αスラリーは、静置すると沈殿するものの、攪拌時には白濁しているように見える。工程3において、凝集体αにアニオン性ポリアクリルアミドを添加すると、凝集体βのスラリーは攪拌時にも透明性がある状態となる。以上の状態から、個々の凝集体αは比較的粒子径が小さく、凝集体βは凝集体αよりも粒子径が大きくなっていると推測される。凝集体α及び凝集体βの大きさは、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの分子量、配合する繊維の形状・大きさ・種類、分散濃度、撹拌子の形状、回転数、時間などの各種凝集体の製造条件によって異なるが、例えば、凝集体αの平均直径は0.5〜3.0mmであり、凝集体βの平均直径は1.0〜5.0mmである。
【0035】
凝集体の製造工程において、攪拌子の形状は、例えば、プロペラ型、タービン型、アンカー型、櫂型、プラネット型、スクリュー型、リボン型、インテンシブ型、ヘリカルリボン型である。なお、攪拌装置の攪拌子の直径、形状は、スラリー全体を均一に攪拌できるものであれば、特に限定されない。回転数は、100〜800rpmであることが好ましく、より好ましくは、200〜600rpmである。攪拌時間は、スラリー全体が均一に攪拌されて、凝集体α又は凝集体βが形成されれば、特に限定されないが、必要最低限の短時間であることが望ましい。
【0036】
凝集体βは、ナトリウムカルボキシメチルセルロースが、そのナトリウムイオンと、他の金属イオンとの置換によって凝集してなり、かつ、顔料、セルロース繊維、化学繊維からなる集団の中から選択された1種類以上の物質を含有する粒子状の凝集体を凝集体αとし、凝集体α同士が、アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤によって付着しあってより大きな凝集体を形成している。
【0037】
凝集体αは、ナトリウムカルボキシメチルセルロースに金属塩を添加することによって、ナトリウムイオンと金属イオンとが置換し、凝集、不溶化するものである。このため、ナトリウムカルボキシメチルセルロースに、金属塩水溶液を添加せずに、最初にアクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤を添加した場合、液全体がゲル状に凝集して増粘してしまうため、粒子状の凝集体αを得ることができない。また、金属塩水溶液だけを添加し、その後にアクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤を添加しなかった場合、粒子状の凝集体αを得ることはできるものの、非常に脆いものであり、撹拌、移送及び抄紙の工程で生じるシェアによって破壊されてしまう。
【0038】
添加するアニオン性及びカチオン性アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤の平均分子量は、本実施形態では、特に限定されるものではないが、いずれも30万〜1500万のものが、凝集体βのシェアに対する強度向上及び凝集体β作製時の粘度の面から見て望ましい。アニオン性及びカチオン性アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤の平均分子量は、より好ましくは100万〜1300万であり、特に好ましくは300万〜1200万である。
【0039】
ナトリウムカルボキシメチルセルロースは、本実施形態では、平均分子量に制限されないが、工程でのシェアに対する強度及び模様紙として適した大きさの凝集体βを得るためには、一定の平均分子量を有するナトリウムカルボキシセルロースを用いることが有効である。すなわち、本実施形態では、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの平均分子量が、45,000〜300,000であることが好ましい。より好ましくは50,000〜290,000であり、特に好ましくは60,000〜280,000である。ナトリウムカルボキシメチルセルロースの平均分子量は、凝集体βの強度及び形状に大きく影響する。平均分子量が45,000未満では、凝集体βの強度が弱く、撹拌や移送のシェアによって破壊され易くなる場合がある。また、凝集体βの粒子も微小なものができやすく、模様紙用凝集体に適さない場合がある。一方、平均分子量が300,000を超えると、凝集体βの強度としては問題ないが、ナトリウムカルボキシメチルセルロース水溶液の粘度が非常に高くなり、更には、金属塩水溶液を添加したとき、凝集体αの形状が非常に大きなものとなり、結果として凝集体βが模様紙用凝集体として適さなくなる場合がある。また、粘度上昇に伴い、撹拌を強くする必要があることから、撹拌子の周囲では小さい凝集体αが形成され、撹拌子から遠い部分は大きな凝集体αが形成され、結果として凝集体βの形状が不均一なものとなる場合がある。
【0040】
セルロース繊維又は化学繊維は、つなぎとしての役割を有しており、添加することで大きな凝集体βを得ることができる。本実施形態では、繊維の形態に特に限定されないが、繊維の長さは、得られる凝集体βの大きさ及び形状に影響する。例えば、繊維長が短いときは、凝集体βは小さく、粒子状のものが得られ、繊維長が長いときは、凝集体βは大きくて長いものが得られる。そこで、本実施形態では、セルロース繊維又は化学繊維の平均繊維長が140〜3000μmであることが好ましい。より好ましくは、160〜750μmであり、特に好ましくは、180〜300μmである。一般に、針葉樹さらしクラフトパルプ(N−BKP)の平均繊維長の上限値は、3000μm程度であり、広葉樹さらしクラフトパルプ(L−BKP)の平均繊維長の上限値は、750μm程度である。前記範囲にすることで、模様紙としてより適した凝集体βの大きさ及び形状を形成することができる。さらには、ナトリウムカルボキシメチルセルロース水溶液に金属塩水溶液を添加して、凝集させたときに、セルロース繊維及び化学繊維が、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの不溶化物の中に取り込まれるため、強度の強い凝集体αを形成でき、凝集体βの強度をより高めることができる。140〜300μmの短い平均繊維長を有するセルロース繊維又は化学繊維を添加することによって、特にシェアに強い凝集体αを形成でき、凝集体βのシェアに対する強度をより高めることができる。一方、3000μmを超えるような、大きく長い平均繊維長の繊維を用いた場合には、シェアに対する強度の弱い凝集体αとなり、凝集体βのシェアに対する強度が弱くなることがある。これは、繊維同士をナトリウムカルボキシメチルセルロースが繋ぎ止める形の凝集体になり、各工程でのシェアによって破壊され易いものとなるためと推測する。140μm未満の場合では、凝集体αの強度が弱く、微小になりやすいため、凝集体βを所望の形状にすることができず、所望の形状の模様を有する模様紙とすることができないことがある。
【0041】
セルロース繊維は、例えば、N−BKP、L−BKPなどの木材パルプ、微細化した粉末セルロースなどのセルロースパウダー、酢酸セルロース、再生セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、硝酸セルロースなどのセルロース誘導体である。化学繊維は、例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリオレフィンである。本実施形態では、セルロース繊維及び化学繊維の種類に限定されるものではないが、化学繊維を用いる場合には、水溶性であるナトリウムカルボキシメチルセルロースと結合し易いように水酸基を付加したものの方が、より強度の強い凝集体βを得ることができるため好ましい。
【0042】
顔料は、凝集体βを着色する役割又は凝集体βに不透明度を付与する役割を有しており、顔料を添加することで、有彩色、高不透明度など種々の特性をもった凝集体を形成することができる。顔料は、有彩色を付与する着色顔料、高不透明度を付与する白色顔料などが挙げられる。着色顔料は、例えば、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料である。白色顔料は、例えば、酸化チタン、合成シリカ、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、水酸化アルミニウムなどの無機顔料である。また、プラスチックピグメントなどの有機顔料を用いてもよい。本実施形態では、顔料の種類に限定されない。
【0043】
本実施形態に係る模様紙の製造方法では、ナトリウムカルボキシメチルセルロース水溶液に、更に染料を含有することが好ましい。染料は、例えば、ポリアゾ系染料、チアゾールモノアゾ系染料、フタロシアニン系、ジオキサジン系などの有機顔料スルホン化系染料、塩基性基含有系染料(塩基性直接染料)が挙げられる。本実施形態では、染料の種類に限定されない。
【0044】
金属塩水溶液の金属塩としては、例えば、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、塩化第二銅、硫酸亜鉛、酢酸鉛、塩化バリウムが挙げられる。本実施形態では、金属塩の種類に限定されないが、アルミニウム塩が、凝集する能力の面から好ましく、特に硫酸アルミニウムが凝集力及び価格の面からも好ましい。金属塩の配合量としては、固形分換算で、ナトリウムカルボキシメチルセルロース100質量部に対して、50〜300質量部であることが好ましい。より好ましくは65〜250質量部であり、特に好ましく80〜200質量部である。金属塩の配合量が、50質量部未満では、凝集力が不足し、微小な凝集は生じるが、粒状の凝集体αを形成しない場合がある。また、300質量部を超えると、抄紙原料と配合した際に抄紙原料全体とフロックを形成し、地合が悪化する場合がある。
【0045】
凝集体βの形成は、ナトリウムカルボキシメチルセルロースが金属塩とアクリル酸共重合体タイプの高分子凝集剤とによって不溶化凝集し、このときに繊維、顔料などを取り込んで行われる。その結果、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの配合比が少な過ぎる場合は、凝集体βの強度が不足することがある。そこで、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの配合量は、凝集体全体の乾燥質量100質量部に対して、7.50〜40.0質量部であることが好ましい。より好ましくは10.0〜35.0質量部であり、更に好ましくは12.5〜30.0質量部である。ナトリウムカルボキシメチルセルロースの配合比が、凝集体全体の乾燥質量100質量部に対して、40.0質量部を超えると、凝集体を抄紙原料と配合し抄造工程で抄紙、乾燥したときに、凝集体部分の乾燥収縮が大きくなり、凹凸のある面になる場合がある。7.50質量部未満では、凝集体βの強度が弱くなる場合がある。
【0046】
ナトリウムカルボキシメチルセルロース水溶液に混合するセルロース繊維又は化学繊維の配合量としては、固形分換算で、ナトリウムカルボキシメチルセルロース100質量部に対して、30.0〜350質量部であることが好ましい。より好ましくは50.0〜325質量部であり、特に好ましくは75.0〜300質量部である。30.0質量部未満では、セルロース繊維又は化学繊維を配合した効果が弱く、350質量部を超えると、凝集体βの形状は大きくなるが、シェアに対する強度が弱くなる場合がある。
【0047】
ナトリウムカルボキシメチルセルロース水溶液に配合する着色染料又は着色顔料の配合量としては、所望する色調に併せて適宜添加することができる。着色染料又は着色顔料の配合量は、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロースに100質量部に対して、1.00〜10.0質量部である。また、高不透明度の凝集体を得るために白色顔料を添加する場合は、固形分換算で、ナトリウムカルボキシメチルセルロース100質量部に対して、10.0〜300質量部であることが好ましい。より好ましくは25.0〜200質量部であり、特に好ましくは40.0〜125質量部である。10.0質量部未満では、不透明度が不足する場合がある。300質量部を超えると、凝集体βのシェアに対する強度が弱くなる場合がある。さらに、抄紙原料に凝集体を配合して抄造した模様紙において、凝集体の模様部分の表面強度が弱くなり、印刷工程などの後加工で模様部分が剥離する場合がある。また、白色顔料が過剰となり不経済である。
【0048】
凝集体αスラリーに配合するアクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤の配合量としては、アニオン性ポリアクリルアミドでは、固形分換算で、ナトリウムカルボキシメチルセルロース100質量部に対して、1.00〜15.0質量部であることが好ましい。より好ましくは1.50〜12.5質量部であり、特に好ましくは2.00〜10.0質量部である。1.00質量部未満では、凝集体βのシェアに対する強度向上が不十分となる場合がある。15.0質量部を超えると、凝集体αスラリーの粘度上昇が起こり、更には、形成された凝集体βの粒同士が、更なる凝集を起こして房状になり、模様紙用凝集剤に適さない形状となる場合がある。
【0049】
他方、カチオン性ポリアクリルアミドでは、ナトリウムカルボキシメチルセルロース100質量部に対して、0.100〜7.50質量部であることが好ましい。より好ましくは0.300〜5.00質量部であり、特に好ましくは0.500〜3.00質量部である。カチオン性ポリアクリルアミドは、少量であっても添加に比した効果を得ることができるが、ナトリウムカルボキシメチルセルロース100質量部に対して、0.100質量部未満では、添加の効果が得られない場合がある。5.00質量部を超えると、凝集体βを抄紙原料に配合するときに、過剰となったカチオン性ポリアクリルアミドが、抄紙原料とフロックを形成し、地合が不均一なものとなってしまう場合がある。地合が不均一な模様紙では、平滑性、透気性などの諸物性に部分的なムラが生じるため、印刷などの後加工で問題を生ずるおそれがある。また、アニオン性ポリアクリルアミドとカチオン性ポリアクリルアミドとの配合質量比は、固形分換算で100:2〜100:350であることが好ましい。より好ましくは、100:10〜100:150である。
【0050】
本実施形態に係る模様紙の製造方法では、工程2において、工程1で得られた混合液に、金属塩水溶液を添加するときの前記混合液のpHは、3.0〜8.0であることが好ましい。より好ましくは、3.5〜7.5であり、特に好ましくは、4.0〜7.0である。pHが3.0未満では、凝集体αが形成されにくい場合、又は凝集体αの強度が弱くなる場合がある。pHが8.0を超えると、凝集体αが形成されにくい場合がある。
【0051】
また、工程2で得られた凝集体αスラリーにアクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤を添加するときの凝集体αスラリーのpHは、3.0〜8.0であることが好ましい。より好ましくは、3.5〜7.5であり、特に好ましくは、4.0〜7.0である。pHが3.0未満では、形成される凝集体βの強度が弱くなる場合がある。pHが8.0を超えると、凝集体αスラリーの粘度上昇が起こり、更には、形成された凝集体βの粒同士が、更なる凝集を起こして房状になり、凝集体が、模様紙用凝集体として適さない形状となる場合がある。
【0052】
次に、模様紙の製造工程について説明する。工程4において、凝集体βは、表層用の紙料原料及び裏層用の紙料原料の両方に添加するか、又は表層用の紙料原料又は裏層用の紙料原料のいずれか一方に添加してもよい。表層及び裏層の両層に同一の模様を設ける場合には、各層の抄紙原料へ同一の凝集体βを配合し、表層用抄紙原料への凝集体βの配合量及び裏層用抄紙原料への凝集体βの配合量をそれぞれ調整することで、模様紙の表裏での模様量をより均一化できる。表層と裏層とに異なる模様を設ける場合には、各層の抄紙原料へ同一の凝集体βを配合し、表層用抄紙原料への凝集体βの配合量と裏層用抄紙原料への凝集体βの配合量とを変化させることで、表裏で模様の異なる模様紙とすることができる。さらに、表層用抄紙原料へ配合する凝集体βの種類と裏層用抄紙原料へ配合する凝集体βの種類を異なるものとすることで、表裏で模様の異なる模様紙とすることもできる。また、表層用抄紙原料又は裏層用抄紙原料のいずれか一方にだけ凝集体βを配合することで、表層又は裏層のいずれか一方にだけ模様を設けることが可能となる。さらに、抄紙原料に着色剤を配合し、異なる色調を有する凝集体βを配合することで、模様紙の色調と模様の色調とを、表層と裏層とで任意に調整することができる。
【0053】
凝集体βは、紙料原料にスラリーとして配合することが好ましい。この凝集体βスラリーの濃度は、0.2〜4.0質量%とすることが好ましい。より好ましくは、0.5〜3.0質量%である。0.2質量%未満では、凝集体βを紙料原料に均一に分散することができない場合がある。4.0質量%を超えると、スラリーの粘度が高くなり、作業性に劣る場合がある。
【0054】
また近年、紙製品の環境配慮として、古紙をリサイクルしたパルプ(古紙パルプ、脱墨パルプ)を多く使用することが重要となっている。古紙パルプを使用する場合には、表層と裏層との間に中層を設けた3層以上の多層抄きとして、表層及び裏層に比べて中層の古紙パルプの配合量を多くすることが好ましい。このように構成することで、夾雑物が少なく風合いに優れ、かつ、環境に配慮した模様紙を得ることができる。なお、3層以上の多層抄きとした場合には、少なくとも表層用の紙料原料又は裏層用の紙料原料のいずれか一方に凝集体βを添加するが、中層の紙料原料への凝集体βの配合は任意である。すなわち、中層の抄紙原料へ凝集体βを配合しないか、又は中層の抄紙原料へ凝集体βを配合してもよい。模様紙の形態及び風合いに応じて適宜選択可能である。
【0055】
本実施形態では、模様紙の各層の坪量は均等である必要はなく、2層抄きとする場合には、表層と裏層と同じ厚さとしてもよいし、表層を裏層よりも厚くするか、又はその反対としてもよい。また、3層以上の多層抄きとする場合には、例えば、中間層の坪量を、表面層の坪量及び裏面層の坪量よりも相対的に大きくすることも可能である。さらに、表面層及び裏面層を各1層とし中間層を2層以上にすることも可能である。なお、本実施形態では、各層の坪量に制限されない。
【0056】
工程5では、工程4で調製した各層の紙料を抄造する。本実施形態は、多層抄きであれば抄造方式に制限されないが、本実施形態に係る模様紙の製造方法では、ドライバット方式円網抄紙機を用いて抄造することが好ましい。一般的な抄紙機は、長網抄紙機と円網抄紙機とに大別される。多層抄きの場合には、層毎に抄紙設備が必要となるため、設置スペース、設置コスト、ランニングコストの面で有利なこと、また地合が良好なことから円網抄紙機が多く使用されている。一般的な円網抄紙機は、バット式とドライバット式とに大別される。
【0057】
図1は、多層抄きバット式円網抄紙機を説明するための図である。図1(a)は最後の抄き合せを行う円網部の拡大図であり、図1(b)は(a)のX部の拡大図である。図1(a)に示すように、バット式円網抄紙機10の円網部は、バット11と、円筒シリンダー12と、クーチロール13と、を備える。バット式円網抄紙機10は、流動する紙料原料がバット11内を回転する円筒シリンダー12のワイヤー表面に順次ウェットシート15を形成し、クーチロール13でフェルト16上にウェットシート15を移し取る。バット11内で形成されたウェットシート15が、紙料原料のバット11の液面21から大気中に出てクーチロール13に達するまで、図1(b)に示すように、バット11の液面21から大気中に出た部分でウェットシート15の流れ落ち24が発生し、ウェットシート15の表面を洗い流す。これは、バット式円網抄紙機特有の現象であるが、流れ落ち24はワイヤーへの付着力が弱いウェットシート15の表面ほど起こり易く、紙料原料に凝集体βを配合した場合、ウェットシート15の表面の凝集体βが流れ落ち易い。特に、凝集体βが大きいほど流れ落ち24が顕著であり、凝集体βの分布が不均一となる原因である。この現象は、幅方向での不均一分布にも起因する。これは、円筒シリンダー12内のアームによって、幅方向で流れ落ちし易い部分と比較的流れ落ちし難い部分とがあり、凝集体βが紙面上にスジ状に分布してしまうことがある。このため、バット式円網抄紙機10で凝集体βを配合した原紙紙料を用いて、表面の模様が均一な状態の模様紙を得るには、バット11の液面21と円筒シリンダー12の内液面22とのヘッド差、抄紙スピードの調整などのノウハウが必要である。また、凝集体βの流れ落ち24が起きた場合には、バット11内の紙料原料に対する凝集体βの濃度が高くなるほか、バット11内をオーバーフローした紙料原料は、再び循環してバット11内に供給されるが、この循環時のシェアで凝集体βが破壊されて小さくなってしまう。そこで、模様紙表面の模様の均一性を得るためには、凝集体βの流れ落ち24を少なくした操業が必要となる。
【0058】
前述のような流れ落ち24による模様紙の模様の不均一な分布を防ぐには、凝集体βを配合した紙料原紙をドライバット式円網抄紙機で抄紙することが好ましい。ドライバット式円網抄紙機には、例えば、各種円網フォーマ、スリットから円筒シリンダー表面に沿って紙料を流し込み、紙層を形成させるプレッシャーフォーマ、サクションフォーマ、シリンダー上面に紙料を乗せるオントップフォーマがある。図2は、多層抄きドライバット式円網抄紙機を説明するための図であり、最後の抄き合せを行う円網部の拡大図である。図2に示したドライバット式円網抄紙機50は、プレッシャーフォーマタイプであり、紙料供給スリット51と、円筒シリンダー52と、クーチロール53と、を備える。紙料供給スリット51から供給された紙料原料は、円筒シリンダー52に沿って紙層55を形成し、クーチロール53で紙層55をフェルト56上に写し取る。このように、ドライバット式円網抄紙機50は、供給した紙料を円筒シリンダー52にほぼ全量吸着、加圧又は乗せて抄紙するため、図1のバット式円網抄紙機10のように流れ落ち24が発生せず、凝集体βの脱落がなく、紙面上に均一な模様を形成することができる。さらに、バット式円網抄紙10に比べ、抄紙原料のオーバーフローもほとんど無い又は全く無いため、経時での凝集体模様の大きさについてもバラツキの少ない模様紙を得ることができる。
【0059】
抄紙原料は、木材パルプを最も好適に用いるが、その他の天然パルプ、古紙パルプ又は合成パルプを必要に応じて適宜用いてもよい。本実施形態では、天然パルプを主成分とすることが好ましい。天然パルプを主成分とするとは、各層の抄紙原料に含まれる絶乾パルプのうち、70%以上を天然パルプとすることが好ましい。より好ましくは、900%であり、特に好ましくは100%である。天然パルプは、塩素、次亜塩素酸塩、二酸化塩素漂白の通常の漂白処理、アルカリ抽出若しくはアルカリ処理、必要に応じた過酸化水素、オゾン漂白などの酸化漂白処理又はその組合せ処理を施した広葉樹パルプ、針葉樹パルプ若しくはそれらの混合パルプが好ましい。また、ソーダパルプ、機械パルプを用いることができる。古紙パルプは、その原料、脱墨方法、漂白方法を問わないが、原紙の強度を損なわない程度の配合量としなければならない。また、合成パルプも各種のものを使用することができる。
【0060】
前記のパルプは、ディスク型、コニカル型などの各種の叩解機によって適切なフリーネスとなるように必要に応じて叩解する。フリーネスは、原紙の物理的強度を決定する重要な要因であるので叩解が進むほどに強度が増すが、透気性、不透明度、嵩の低下などをもたらすため、350mlC.S.F.(JIS P 8121:1995 カナダ標準ろ水度)以上700mlC.S.F.以下にするのが一般的である。より好ましくは、400mlC.S.F.以上570mlC.S.F.以下である。なお、本実施形態ではカナダ標準ろ水度は、特に限定されない。
【0061】
前記原紙の紙料中には、前記のパルプ以外に、紙力剤、填料、硫酸バンド、歩留まり向上剤、サイズ剤、染料、蛍光染料などの各種抄紙用薬品を適宜用いることができる。紙力剤は、例えば、カチオン化澱粉、両性澱粉、ポリアクリルアマイドである。填料は、例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カルシウム・マグネシウム炭酸塩、カオリン、焼成クレー、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、タルクなどの天然珪酸塩、合成珪酸アルミニウム、合成珪酸カルシウムなどの合成珪酸塩、珪藻土、合成シリカなどの珪酸、水酸化アルミニウム、擬ベーマイトなどのアルミニウム水和物又は硫酸カルシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛である。歩留まり向上剤は、例えば、コロイダルシリカ、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンイミンである。サイズ剤は、例えば、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水琥珀酸(ASA)、中性ロジン、強化ロジン、鹸化ロジンであり、抄紙のpHなどに応じて適宜選択できる。染料、蛍光染料は、例えば、直接染料、塩基性染料、酸性染料であり、紙の色相を調整するために添加する。また、嵩高剤を含有させることも可能だが、表面強さの低下が問題とならない程度にとどめなければならない。本実施形態は、各紙料の調製方法、配合、各抄紙薬品の添加方法に制限されるものではない。
【0062】
抄紙原料には、凝集体βと抄紙原料とを混合する前に、凝集体βと異なる着色剤を添加して、原紙の色味付けを行うことによって、より効果的に凝集体βの模様パターンを際立たせることができる。また、凝集体βと抄紙原料とで異なった色味付けを行ったり、同様の色味であっても色濃度を変えたりすることによって、模様紙のパターンを際立たせることができる。着色剤は、例えば、前述の抄紙用薬品の染料又は蛍光染料、着色顔料である。着色顔料は、特に限定されず、例えば、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料である。着色剤の添加量は、所望する色調に応じて適宜選択可能であるが、絶乾パルプ100質量部に対して、0.005〜2.000質量部とすることが好ましい。より好ましくは、0.010〜1.000質量部である。
【0063】
凝集体βの添加量は、添加する層の抄紙原料の乾燥質量100質量部に対して、固形分換算で、0.001〜8.000質量部であることが好ましい。より好ましくは、0.005〜6.000質量部であり、特に好ましくは、0.010〜4.000質量部である。本実施形態では、凝集体βの添加量に、特に限定されない。また、本実施形態では、抄紙原料と凝集体βとが、全体として均一に混合していればよく、その混合方法に制限されるものではない。
【0064】
得られた模様紙は、耐水性、表面強さなどの表面特性を向上させることを目的として、表面サイズ処理を施してもよい。表面サイズ処理で使用する表面サイズ液は、例えば、酸化澱粉、カチオン化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、酵素変性澱粉、ポリアクリルアミド樹脂である。なお、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、その他樹脂ポリマーなど表面サイズ剤も使用できる。この表面サイズ液をサイズプレスで両面又は片面に、乾燥質量で片面あたり0.2〜5.0g/mの範囲で塗布することが好ましい。より好ましくは0.5〜3.0g/mの範囲で塗布する。表面サイズ液の塗布方法は、例えば、抄紙ワイヤー上で形成した紙匹に、サイズプレス、トランスファーロールコーターなどに代表される、紙を挟む2ロール間のニップで薬品を塗布する装置によって、表面サイズ液を塗布する。本実施形態では、表面サイズ液を塗布する方法、表面サイズ液の種類及び塗布量は問わない。
【0065】
また、表面の平滑性を制御する目的で、必要に応じてキャレンダー処理を行ってもよい。キャレンダーは、スーパーキャレンダー、マシンキャレンダー、ソフトキャレンダーなどが挙げられるが、本実施形態においては特に限定されない。
【0066】
本実施形態に係る模様紙は、表層と裏層とを有する2層以上の多層抄きの模様紙であって、表層若しくは裏層のいずれか一方の層又は両方の層が凝集体βを含有する。そして、凝集体βは、アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤によって凝集体α同士が付着しあったより大きな凝集体である。この凝集体αは、ナトリウムカルボキシメチルセルロースが、ナトリウムイオンを他の金属イオンに置換することによって、顔料、セルロース繊維、化学繊維からなる集団の中から選択された1種類以上の物質を取り込んだ状態で、凝集してなる粒子状の凝集体である。
【0067】
本実施形態に係る模様紙では、凝集体αは更に染料を含有することが好ましい。各種の色調の凝集体βを形成することができ、結果として、各種の色調の模様を有する模様紙とすることができる。
【0068】
本実施形態に係る模様紙では、凝集体α及び凝集体βの両方又はいずれか一方の表面に、アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤が付着していることが好ましい。例えば、凝集体αの表面に液状高分子凝集剤が付着している形態、凝集体α同士が液状高分子凝集剤によって付着しあって形成された凝集体βの表面に、液状高分子凝集剤が付着している形態、表面に液状高分子凝集剤が付着した凝集体α同士が、凝集体βを形成し、その凝集体βの表面に液状高分子凝集剤が付着した形態である。このように、凝集体α及び凝集体βの両方又はいずれか一方の表面に液状高分子凝集剤が付着することによって、シェアに対する強度を更に向上させることができる。したがって、模様紙に所望の形状の模様を有する模様紙とすることができる。
【0069】
本実施形態に係る模様紙では、アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤が、アニオン性ポリアクリルアミドであることが好ましい。凝集体βのシェアに対する強度を更に向上させることができ、所望の形状の模様を有する模様紙とすることができる。
【0070】
本実施形態に係る模様紙では、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの平均分子量が、45,000〜300,000であることが好ましい。より好ましくは50,000〜290,000、特に好ましくは60,000〜280,000である。ナトリウムカルボキシメチルセルロースの平均分子量は、凝集体の強度及び形状に大きく影響する。平均分子量が45,000未満では、凝集体αの強度が弱く、微小になりやすいため、凝集体βを所望の形状にすることができず、所望の模様を有する模様紙とすることができない場合がある。一方、平均分子量が300,000を超えると、凝集体βが大きく又は不均一になる傾向にあるため、所望の形状の模様を有する模様紙とすることができない場合がある。
【0071】
本実施形態に係る模様紙では、セルロース繊維又は化学繊維の平均繊維長が、140〜3000μmであることが好ましい。より好ましくは160〜750μmであり、特に好ましくは180〜300μmである。140μm未満では、凝集体αの強度が弱く、微小になりやすいため、凝集体βを所望の形状にすることができず、所望の形状の模様を有する模様紙とすることができない場合がある。3000μmを超えると、繊維同士をナトリウムカルボキシメチルセルロースが繋ぎ止める形の凝集体になり、各工程でのシェアによって破壊され易くなるため、所望の形状の模様を有する模様紙とすることができない場合がある。
【0072】
本実施形態で得られた模様紙をインクジェット印刷用の原紙として用いる場合は、少なくとも一方の面にインクジェットインク受容層を設けることによって、風合いに優れたインクジェット印刷対応の模様紙を得ることができる。本実施形態に係る模様紙の製造方法では、模様紙の少なくとも一方の面に非晶質合成シリカと水溶性高分子とを含有するインクジェットインク受容層を設ける工程6を、更に有することが好ましい。インクジェットインク受容層に、非晶質合成シリカと水溶性高分子とを含有させることでインクジェットプリンターの印字適性、インク吸収性及び印字濃度を効果的に得ることができる。また、インクジェットインク受容層の透明度が高いため、模様紙の凝集体βの模様を生かすことができる。
【0073】
前記非晶質合成シリカは、顔料であり、インクジェットインクを吸収する役割をもつ。非晶質合成シリカは、製造方法によって、乾式法、湿式法、ゾル法に分類される。本実施形態は、非晶質合成シリカの製造方法、種類及び形状に制限されない。また、2種以上の非晶質合成シリカを併用することができる。
【0074】
前記水溶性高分子は、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール誘導体、澱粉、カチオン化澱粉、酸化澱粉、グラフト化澱粉などの澱粉誘導体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースサルフェートなどのセルロース誘導体、ゼラチン、カゼイン、大豆蛋白、ポリアクリル酸ナトリウム、スチレン−無水マレイン酸共重合体ナトリウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、無水マレイン酸樹脂である。本実施形態は、水溶性高分子の種類に制限されない。また、本発明の効果を損なわない限り、水溶性高分子とその他のバインダーとを併用することができる。併用可能なバインダーは、親水性樹脂であることが好ましい。ここで、親水性樹脂とは、水へ容易に分散する樹脂をいい、エマルションなど水に分散させた分散液の状態で使用することができる。親水性樹脂は、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリルアミド、スチレン−ブタジエン共重合体である。インクジェットインクの吸収性、親和性などの点から、PVAとEVAとを併用することが好ましい。この場合、PVAとEVAとの配合割合は、15:85〜45:55とすることが好ましい。
【0075】
インクジェットインク受容層は、バインダーを、非晶質合成シリカ100質量部に対して40〜60質量部含有することが好ましい。より好ましくは、45〜55質量部である。40質量部未満では、塗工層の強度が弱くなる場合がある。60質量部を超えると、インク吸収性に劣る場合がある。
【0076】
インクジェットインク受容層は、非晶質合成シリカと水溶性高分子とを含むインク受容層用塗工液を模様紙上に塗工・乾燥して形成することができる。インクジェットインク受容層の塗工量は、乾燥後の質量で3〜15g/mであることが好ましい。より好ましくは5〜13g/mであり、特に好ましくは7〜11g/mである。3g/m未満では、効果的なインクジェットプリンター印字適性を得ることができない場合がある。15g/mを超えると、塗工層が厚過ぎ、原紙として用いた模様紙の風合いを生かすことができない場合がある。また、インク受容層用塗工液には、発明の効果を損なわない範囲で、各種無機顔料、接着剤、添加剤を配合してもよい。インク受容層用塗工液を2回以上塗工して、インク受容層を2層以上で構成してもよい。
【0077】
インク受容層用塗工液は、エアーナイフコーター、ロールコーター、ブレードコーター、ロッドブレードコーター、バーコーター、ダイコーターなどの一般的なコーターによって塗工することができる。本実施形態では、これに限定されるものではない。
【0078】
塗工後の乾燥方式としては、熱風乾燥、赤外乾燥、ドラム乾燥などが挙げられるが、本実施形態においては特に限定されない。
【0079】
インクジェットインク受容層を設けた模様紙の平滑性を制御する目的で、必要に応じてキャレンダー処理を行ってもよい。キャレンダーは、スーパーキャレンダー、マシンキャレンダー、ソフトキャレンダーなどが挙げられるが、この方式は特に限定されない。また、エンボス加工、穴あけ加工、裏面のタック加工など、各種の製品外観に応じた後加工処理を行ってもよい。
【0080】
インクジェットインク受容層の最表層をキャストコート法による光沢層としてもよい。キャストコート法は、ウェット法、凝固法、リウェット法などの公知の方法を選択できる。さらに、光沢層の表面に、キャレンダー処理を施してもよい。キャレンダー処理は、スーパーカレンダー、ラスタープレス、高温ソフトニップカレンダーなどの公知の工程によって加工することができる。
【0081】
本実施形態に係る模様紙は、葉書用紙として好適である。葉書用紙として使用する場合には、表層及び裏層の両方の層に凝集体を配合して模様を設けてもよいが、表層又は裏層のいずれか一方だけに凝集体を配合して模様を設けることがより好ましい。さらには、模様を設けていない層側を宛名面とし、模様を設けた層側を通信面とすることが好ましい。宛名面は、模様のない無地として郵便番号、住所、宛名などの読み取り易さを有し、通信面には模様を設けて意匠性を有する商品価値の高い葉書用紙とすることができる。また、模様を設けた側にインクジェットインク受容層を設けることが好ましい。インクジェット対応の模様付きの葉書用紙とすることができ、更なる商品価値の向上が図れる。さらに、インクジェットインク受容層の最表層にキャストコート法による光沢層を設けることで、写真ライクな高精細な画像を表現することができる。
【実施例】
【0082】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を示す。なお、添加部数は、固形分換算の値である。
【0083】
(実施例1)
「白色凝集体aの調製」
(工程1)
1500リットルタンクにて水104kgと、0.30%濃度のナトリウムカルボキシメチルセルロース水溶液(セロゲンSG−F 3H セロゲン3H、平均分子量220,000:第一工業製薬社製)770kgと、酸化チタン(A−110:堺化学工業社製)2kgと、粉体セルロース繊維(KCフロックW−50S、日本製紙ケミカル社製)4kgと、を均一に撹拌し、混合液を得た。ここで、粉体セルロース繊維KCフロックW−50Sの平均繊維長を繊維長測定器(Fiber Lab Analyzer P423037:KAJAANI社製)で測定したところ長さ平均繊維長(Ll)で240μmであった。
【0084】
(工程2)
その後、工程1で得られた混合液を撹拌しながら、10%濃度硫酸バンド(テクノ北越社製)30kgを添加して凝集体αスラリーを得た。
【0085】
(工程3)
次いで、工程2で得られた凝集体αスラリーを攪拌しながら、0.1%濃度アニオン性アクリルアミド(ハイモロックSS−100:ハイモ社製)80kgを添加して更に凝集させた後、攪拌しながら、0.2%濃度カチオン性アクリルアミド(RD−7122:星光PMC社製)10kgを添加してスラリー状で白色の凝集体βを得て、これを白色凝集体aとした。全体量が1000kgになるように水を用いて調製して白色凝集体aのスラリーを得た。白色凝集体aのスラリーの濃度は、1.3質量%であった。なお、工程1〜工程3において、攪拌子は、羽の直径が75cmの櫂型を使用し、回転数は、400rpmとした。
【0086】
「赤色凝集体bの調製」
工程1において、1500リットルタンクにて水96kgと、0.30%濃度のナトリウムカルボキシメチルセルロース水溶液(SGセロゲン F−3H セロゲン3H、平均分子量220,000:第一工業製薬社製)770kgと、赤味顔料(TB1000Red FGN:大日精化社製)原液 100gと、粉体セルロース繊維(KCフロックW−50S:日本製紙ケミカル社製)4kgと、を均一に撹拌し、混合液を得た。工程2及び工程3は、白色凝集体aの調製と同様にして赤色の凝集体βを得て、これを赤色の凝集体bとした。全体量が1000kgになるように水を用いて調製して赤色凝集体bのスラリーを得た。赤色凝集体bのスラリーの濃度は、1.1質量%であった。
【0087】
「模様紙の作製」
「抄紙原料Aの調製」(工程4)
カナダ標準ろ水度500mlCSFの1.2%濃度L−BKPのパルプスラリー100部(絶乾パルプ換算)と、カチオン澱粉(商品名ネオタック40T:日本NSC社製)1.00部と、タルク(商品名太平タルク:太平タルク社製)5.00部と、酸性ロジンサイズ剤(商品名AL1200:星光PMC社製)0.400部と、液体硫酸バンド(テクノ北越社製)1.00部と、赤染料(KFレッドBリキッド:日本化薬社製)0.0200部と、を添加して調製した紙料に、白色凝集体aのスラリーを4.00部添加し、抄紙原料Aを得た。
【0088】
「抄紙原料Bの調製」(工程4)
抄紙原料Aの調製において、白色凝集体aのスラリー4.00部の代わりに、赤色凝集体bのスラリー2.00部を添加した以外は、抄紙原料Aと同様にして抄紙原料Bを得た。
【0089】
「抄紙」(工程5)
バット式円網多層抄紙機を用いて、第1層を抄紙原料Aとし、第2層を抄紙原料Bとして、1層当たりの坪量を60g/mとして合計坪量120g/mの2層抄紙をし、乾燥を行って紙匹を得た。前記紙匹の両面に酸化澱粉(王子エースA:王子コーンスターチ社製)6%をオンマシンサイズプレスによって乾燥塗布量が片面当たり1.5g/mとなるように塗布した後、乾燥して模様紙を作製した。ここで、第1層の表面を「表面」とし、表面の反対側の表面(実施例1においては、第2層の表面)を「裏面」という。以降、他の実施例及び比較例についても同様とする。得られた模様紙は、表面が桃色地に白色模様が設けられ、裏面が桃色地に赤色模様が設けられた模様紙であった。
【0090】
(実施例2)
実施例1において、紙料原料A及び紙料原料Bの抄紙を、長網多層抄紙機を用いて2層抄紙した以外は、実施例1と同様にして模様紙を得た。得られた模様紙は、表面が桃色地に白色模様が設けられ、裏面が桃色地に赤色模様が設けられた模様紙であった。なお、本実施例では長網式抄紙機は、小林製作所社製の多層抄き長網抄紙機を使用した。
【0091】
(実施例3)
実施例1において、第1層の抄紙をドライバット式円網抄紙機で行い、第2層の抄紙方法をバット式円網抄紙機で行った以外は、実施例1と同様にして模様紙を得た。得られた模様紙は、表面が桃色地に白色模様が設けられ、裏面が桃色地に赤色模様が設けられた模様紙であった。なお、本実施例ではドライバット式円網抄紙機は、外山造船社製のNEW.EASY.FORMERを使用した。ドライバット式円網抄紙機は、図2で示した構造を有する。
【0092】
(実施例4)
「抄紙原料Cの調製」(工程4)
抄紙原料Aの調製において、白色凝集体aのスラリーの添加量4.00部を2.00部とした以外は、抄紙原料Aと同様にして抄紙原料Cを得た。
【0093】
「抄紙」(工程5)
実施例3において、第2層を抄紙原料Cとした以外は、実施例3と同様にして模様紙を得た。得られた模様紙は、表面及び裏面ともに、桃色地に白色模様が設けられた模様紙であった。
【0094】
(実施例5)
「抄紙原料Dの調製」(工程4)
抄紙原料Aの調製において、白色凝集体aのスラリーの添加量4.00部を6.00部とした以外は、抄紙原料Aと同様にして抄紙原料Dを得た。
【0095】
「抄紙」(工程5)
実施例3において、第1層を抄紙原料Dとし、第2層を抄紙原料Aとした以外は、実施例3と同様にして模様紙を得た。得られた模様紙は、表面及び裏面ともに、桃色地に白色模様が設けられた模様紙であった。
【0096】
(実施例6)
「抄紙原料Eの調製」(工程4)
抄紙原料Aの調製において、白色凝集体aのスラリーの添加を行わなかったこと以外は、抄紙原料Aと同様にして抄紙原料Eを得た。
【0097】
「抄紙」(工程5)
実施例3において、第2層を抄紙原料Eとした以外は、実施例3と同様にして模様紙を得た。得られた模様紙は、表面が桃色地に白色模様が設けられ、裏面が桃色地に模様がない模様紙であった。
【0098】
(実施例7)
「抄紙原料Fの調製」(工程4)
抄紙原料Aの調製において、赤染料(KFレッドBリキッド:日本化薬社製)及び白色凝集体aのスラリーを添加しなかった以外は、抄紙原料Aと同様にして抄紙原料Fを得た。
【0099】
「抄紙」(工程5)
実施例3において、第2層を抄紙原料Fとした以外は、実施例3と同様にして模様紙を得た。得られた模様紙は、表面が桃色地に白色模様が設けられ、裏面が白色地に模様がない模様紙であった。
【0100】
(実施例8)
「抄紙原料Gの調製」(工程4)
抄紙原料Aの調製において、赤染料(KFレッドBリキッド:日本化薬社製)を添加せず、かつ、白色凝集体aのスラリーを4.00部の代わりに、赤色凝集体bのスラリーを4.00部添加した以外は、抄紙原料Aと同様にして抄紙原料Gを得た。
【0101】
「抄紙」(工程5)
実施例6において、第1層を抄紙原料Gとした以外は、実施例6と同様にして模様紙を得た。得られた模様紙は、表面が白色地に赤色模様が設けられ、裏面が桃色地に模様がない模様紙であった。
【0102】
(実施例9)
実施例8において、工程5で第1層を抄紙原料Eとし、第2層を抄紙原料Gとし、第1層の抄紙方法をバット式円網抄紙機とし、第2層の抄紙方法をドライバット式円網抄紙機として抄紙した以外は、実施例8と同様にして模様紙を得た。得られた模様紙は、表面が桃色地に模様がなく、裏面が白色地に赤色模様が設けられた模様紙であった。
【0103】
(実施例10)
「白色凝集体cの調製」
白色凝集体aの調製において、0.30%濃度のナトリウムカルボキシメチルセルロース水溶液(SGセロゲン F−3H セロゲン3H、平均分子量220,000:第一工業製薬社製)を0.28%濃度のナトリウムカルボキシルメチルセルロース水溶液(セロゲンF−815C、平均分子量260,000:第一工業製薬社製)に変更した以外は、白色凝集体aのスラリーと同様に調製して白色凝集体cのスラリーを得た。
【0104】
「白色凝集体dの調製」
白色凝集体aの調製において、0.30%濃度のナトリウムカルボキシメチルセルロース水溶液(SGセロゲン F−3H セロゲン3H、平均分子量220,000:第一工業製薬社製)を0.80%濃度のナトリウムカルボキシルメチルセルロース水溶液(セロゲンWS−A、平均分子量105,000:第一工業製薬社製)に変更した以外は、白色凝集体aのスラリーと同様に調製して白色凝集体dのスラリーを得た。
【0105】
「抄紙原料Hの調製」(工程4)
抄紙原料Aの調製において、白色凝集体aのスラリー4.00部を白色凝集体cのスラリー4.00部に変更した以外は、抄紙原料Aと同様にして抄紙原料Hを得た。
【0106】
「抄紙原料Iの調製」(工程4)
抄紙原料Aの調製において、白色凝集体aのスラリー4.00部を白色凝集体dのスラリー4.00部に変更した以外は、抄紙原料Aと同様にして抄紙原料Iを得た。
【0107】
「抄紙」(工程5)
第1層を抄紙原料Hとしてドライバット式円網多層抄紙機を用いて抄紙し、第2層を抄紙原料Iとしてバット式円網抄紙機を用いて抄紙し、乾燥を行って1層当たりの坪量を60g/mとして合計坪量120g/mの2層の模様紙を得た。得られた模様紙は、表面及び裏面はともに、桃色地に白色模様が設けられた模様紙であった。
【0108】
(実施例11)
「白色凝集体fの調製」
白色凝集体aの調製において、粉体セルロース繊維を添加しなかった以外は、白色凝集体aのスラリーと同様にして白色凝集体fのスラリーを得た。
【0109】
「抄紙原料Lの調製」(工程4)
抄紙原料Aの調製において、白色凝集体aのスラリー4.00部を白色凝集体fのスラリー4.00部に変更した以外は、抄紙原料Aと同様にして抄紙原料Lを得た。
【0110】
「抄紙」(工程5)
実施例3において、第2層を抄紙原料Lとした以外は、実施例3と同様にして模様紙を得た。得られた模様紙は、表面及び裏面はともに、桃色地に白色模様が設けられた模様紙であった。
【0111】
(実施例12)
「白色凝集体gの調製」
白色凝集体aの調製において、カチオン性アクリルアミドを添加しなかった以外は、白色凝集体aのスラリーと同様にして白色凝集体gのスラリーを得た。
【0112】
「抄紙原料Mの調製」(工程4)
抄紙原料Aの調製において、白色凝集体aのスラリー4.00部を白色凝集体gのスラリー4.00部に変更した以外は、抄紙原料Aと同様にして抄紙原料Mを得た。
【0113】
「抄紙」(工程5)
実施例3において、第2層を抄紙原料Mとした以外は、実施例3と同様にして模様紙を得た。得られた模様紙は、表面及び裏面はともに、桃色地に白色模様が設けられた模様紙であった。
【0114】
(実施例13)
「抄紙原料Nの調製」(工程4)
抄紙原料Aの調製において、カナダ標準ろ水度500mlCSFの1.2%濃度L−BKPのパルプスラリー100部(絶乾パルプ換算)を、カナダ標準ろ水度500mlCSFの1.2%濃度未叩解上質系古紙パルプスラリー100部(絶乾パルプ換算)に変更し、かつ、赤染料(KFレッドBリキッド:日本化薬社製)を添加しなかった以外は、抄紙原料Aと同様にして抄紙原料Nを得た。
【0115】
「抄紙」(工程5)
ドライバット式円網多層抄紙機を用いて、第1層を抄紙原料Aとし、第2層を抄紙原料Nとし、第3層を抄紙原料Fとして、1層当たりの坪量を60g/mとして合計坪量180g/mの3層抄紙をし、乾燥を行って模様紙を得た。得られた模様紙は、表面が桃色地に白色模様が設けられ、裏面が白色地に模様がない模様紙であった。
【0116】
(比較例1)
「白色凝集体eの調製」
白色凝集体aの調製において、アニオン性アクリルアミド(ハイモロックSS−100:ハイモ社製)とカチオン性アクリルアミド(RD−7122:星光PMC社製)とを添加しなかったこと以外は、白色凝集体aのスラリーと同様にして白色凝集体eのスラリーを得た。
【0117】
「抄紙原料Jの調製」(工程4)
抄紙原料Aの調製において、白色凝集体aのスラリーを白色凝集体eのスラリーにした以外は、抄紙原料Aと同様にして抄紙原料Jを得た。
【0118】
「抄紙」(工程5)
実施例3において、第1層を抄紙原料Jとし、第2層を抄紙原料Eとした以外は、実施例3と同様にして模様紙を得た。得られた模様紙は、表面が桃色地に視認性に劣る微小な白色模様が設けられ、裏面が桃色地に模様がない模様紙であった。
【0119】
(比較例2)
「抄紙原料Kの調製」(工程4)
抄紙原料Aの調製において、白色凝集体aのスラリー4.00部の代わりに、白色凝集体aのスラリー2.00部と赤色凝集体bのスラリー2.00部とを添加した以外は、抄紙原料Aと同様に抄紙原料Kを得た。
【0120】
「抄紙」(工程5)
バット式円網抄紙機を用いて、抄紙原料Kを坪量120g/mの1層で抄紙し、乾燥を行い、模様紙を得た。得られた模様紙は、表面及び裏面が桃色地であり、白色模様と赤色模様とが混在し、模様の視認性の劣る模様紙であった。
【0121】
実施例及び比較例の模様紙の構成及び目視での色調について表1に示す。
【0122】
【表1】

【0123】
得られた実施例及び比較例の模様紙の評価結果を表2に示す。評価方法及び評価基準は次のとおりである。
【0124】
【表2】

【0125】
「模様量」
得られた模様紙の任意に選択した100mm×100mm角の範囲の紙面に現れた模様の総面積を画像解析によって求め、その総面積を模様量とした。実施例1の模様紙の表面における模様量を基準として多、中、少の評価を行った。
多:総面積が、実施例1の表面における総面積の125%を超えている。
中:総面積が、実施例1の表面における総面積の75%以上125%未満である。
少:総面積が、実施例1の表面における総面積の75%未満である。
−:凝集体を添加していない。
【0126】
「模様の均一性」
均一性は、実施例及び比較例の模様紙をA4サイズに切断したサンプルの模様の均一性を目視にて評価した。
◎:凝集体模様が紙面に非常に均一に分散しており、実用レベルである。
○1:凝集体模様がやや不均一に分布しているが、実用上問題ない実用下限レベルである。
○2:凝集体模様が細長い形状になっているが均一に分布しており、実用上問題ない実用下限レベルである。
○3:凝集体模様がややスジ状に分布しているが、実用上問題ない実用下限レベルである。
×:凝集体模様が不均一であり、実用不可レベルである。
−:凝集体を添加していないため、模様がない。
【0127】
「凝集体模様の大きさ」(模様の大きさ)
得られた模様紙の任意に選択した100mm×100mm角の範囲の紙面に現れた模様の1個ずつの面積を画像解析によって求め、凝集体1個あたりの平均面積によって、大、中、小、微小の評価を行った。
大:平均面積が、10mm以上である。
中:平均面積が、4mm以上10mm未満である。
小:平均面積が、1mm以上4mm未満である。
微小:平均面積が、1mm未満である。
【0128】
「視認性評価」(模様の視認性)
模様紙の紙面に現れた凝集体の形状を目視で判定した。
◎:凝集体の視認性が良好な風合いで実用レベルである。
○:凝集体がやや小さいが模様として視認でき、実用下限レベルである。
△:凝集体が破壊され小さいため、模様として見づらく模様紙としての風合いに劣る実用上不可レベルである。
×:凝集体が微小で所望の模様を形成していないため、実用不可レベルである。
−:凝集体を添加していないため、模様がない。
【0129】
次に、実施例8の模様紙にインクジェットインク受容層を設けて、インクジェット印刷対応の模様紙を作製した。
【0130】
(実施例14)
「インク受容層用塗工液Aの調製」(工程6)
顔料として平均粒径7μmの非晶質合成シリカ(サイロジェットP407:グレースデビソン社製)50.0部と平均粒径6μmの非晶質合成シリカ(74x6500:グレースデビソン社製)50.0部とを混合し、該混合物に水とpH調整剤として酢酸0.500部とを添加し、カウレス分散機(LABORTECHNK RW−28、寺井科学機器社製)で25%の顔料スラリーを調製した。この顔料スラリーに、顔料の乾燥質量100部に対し、ポリビニルアルコール(PVA−117:クラレ社製)を乾燥質量で17.5部とエチレン酢酸ビニルバインダー(スミカフレックス450:住友化学社製)24.0部とを添加・攪拌し、更に水を添加し、固形分濃度が23%のインク受容層用塗工液を得た。
【0131】
「インクジェットインク受容層Aの形成」
原紙として実施例8で得られた模様紙を用い、第1層の表面にインク受容層用塗工液Aを乾燥質量で8g/mとなるようにバー塗工し、乾燥機で120℃の熱風乾燥をしてインクジェットインク受容層Aを形成した。
【0132】
「平滑処理」
次いで、ソフトカレンダーを用いて線圧30kg/cm、25℃、2ニップ1パスの条件で表面処理を行い、インクジェットインク受容層付き模様紙を得た。
【0133】
(実施例15)
実施例14において、インクジェットインク受容層を形成する面を実施例8で得られた模様紙の第2層の表面とした以外は、実施例14と同様にインクジェットインク受容層付き模様紙を作製した。
【0134】
(実施例16)
実施例14において、インク受容層用塗工液Aを、乾燥質量で15g/mとなるように塗工した以外は、実施例14と同様にインクジェットインク受容層付き模様紙を作製した。
【0135】
(実施例17)
「インク受容層用塗工液A´の調製」(工程6)
インク受容層用塗工液Aの調製において、エチレン酢酸ビニルバインダー(スミカフレックス450:住友化学社製)を添加せず、ポリビニルアルコール(PVA−117:クラレ社製)を乾燥質量で41.5部とした以外は、インク受容層用塗工液Aと同様に固形分濃度が23%のインク受容層用塗工液A´を得た。
【0136】
実施例14において、インク受容層用塗工液Aをインク受容層用塗工液A´にした以外は、実施例14と同様にインクジェットインク受容層付き模様紙を作製した。
【0137】
(比較例3)
「インク受容層用塗工液Bの調製」
焼成カオリン(アンシレックス90:エンゲルハート社製)50.0部と、炭酸カルシウム(ハクエンカPZ:白石カルシウム社製)50.0部とを混合し、該混合物に水とpH調整剤として酢酸0.500部とを添加し、カウレス分散機(LABORTECHNK RW−28、寺井科学機器社製)で35%の顔料スラリーを調製した。この顔料スラリーにポリビニルアルコール(PVA−117:クラレ社製)17.5部と、エチレン酢酸ビニルバインダー(スミカフレックス450:住友化学社製)24.0部とを添加・攪拌し、更に水を添加し、固形分濃度が23%のインク受容層用塗工液Bを得た。
【0138】
実施例14において、インク受容層用塗工液Aをインク受容層用塗工液Bにした以外は、実施例14と同様にインクジェットインク受容層付き模様紙を作製した。
【0139】
(比較例4)
「インク受容層用塗工液Cの調製」
非晶質合成シリカ(サイロジェットP407:レースデビソン社製)50.0部と、非晶質合成シリカ(74x6500:グレースデビソン社製)50.0質量部とを混合し、該混合物に水とpH調整剤として酢酸0.500部とを添加し、カウレス分散機(LABORTECHNK RW−28、寺井科学機器社製)で28%の顔料スラリーを調製した。この顔料スラリーにエチレン酢酸ビニルバインダー(スミカフレックス450:住友化学社製)41.5質量部を添加・攪拌し、更に水を添加し、固形分濃度が23%のインク受容層用塗工液Cを得た。
【0140】
実施例16において、インク受容層用塗工液Aをインク受容層用塗工液Cにした以外は、実施例16と同様にインクジェットインク受容層付き模様紙を作製した。
【0141】
得られた実施例及び比較例のインクジェットインク受容層付き模様紙の評価結果を表3に示す。評価方法及び評価基準は、次のとおりである。
【0142】
【表3】

【0143】
「インクジェット印字適性」
得られた実施例及び比較例のインクジェットインク受容層付き模様紙をA4サイズに切断したサンプルについて、市販のフルカラーインクジェットプリンター(PM−A950:セイコーエプソン社製)を用いて写真画像を印刷し、境界部の印字滲み及び発色部の印字濃度についてインクジェット印字適性を評価した。評価方法及び評価基準は、次のとおりである。
【0144】
〔境界部の印字滲み〕(印字滲み)
◎:境界部の印字滲みがなく、非常に良好で実用レベルである。
○:境界部の印字滲みがやや見られるものの、良好で実用下限レベルである。
△:境界部の印字滲みが見られ、実用不可レベルである。
×:境界部の印字滲みが多く、実用不可レベルである。
【0145】
〔発色部の印字濃度)(印字濃度)
◎:発色部の印字濃度が非常に濃く非常に良好であり、実用レベルである。
○:発色部の印字濃度が濃く良好であり、実用レベルである。
△:発色部の印字濃度がやや薄く実用不可レベルである。
×:発色部の印字濃度が薄く実用不可レベルである。
【0146】
「風合い評価」(風合い)
インクジェットインク受容層付き模様紙の模様としての凝集体の視認性を目視で評価した。
◎:凝集体及び紙面の色調の視認性が良好な風合いであり、実用レベルである。
○:凝集体及び紙面の色調が視認でき、実用上問題ない(実用下限)。
△:凝集体の視認性に劣り、紙面の色調がくすんでいて模様紙としての風合いに劣り、実用不可レベルである。
×:インクジェットインク受容層に凝集体が隠蔽されて視認できず、実用不可レベルである。
【0147】
表1に示すように、本発明に係る模様紙は、紙面の色調と凝集体の色調との組合せによって、多様なヴァリエーションを実現可能である。例えば、実施例1〜実施例3の表面のような桃色地に白色模様の組合せ、実施例1〜実施例3の裏面のような桃色地に赤色模様を設けた組合せ、実施例8の表面及び実施例9の裏面のような白色地に赤色模様を設けた組合せである。また、実施例6〜実施例9に示すように片面だけに凝集体を添加することによって、模様を設けることも可能である。実施例1〜実施例3及び実施例7〜実施例9に示すように模様の色調及び模様紙自体の色調について模様紙表裏で変更することが可能となる。
【0148】
表1及び表2に示すように、抄紙原料への凝集体の添加量を調整することによって、模様量の調整が可能である。例えば、実施例4は、表面及び裏面が桃色地に白色模様が設けられた模様紙であるが、第1層用抄紙原料への凝集体の添加量よりも第2層用抄紙原料への凝集体の添加量を少なくしたため、表面よりも裏面の方が模様量の少ない模様紙となった。実施例5は、表面及び裏面が桃色地に白色模様が設けられた模様紙であるが、第1層用抄紙原料への凝集体の添加量よりも第2層用抄紙原料への凝集体の添加量を多くしたため、表面よりも裏面の方が模様量の多い模様紙となった。さらには、例えば、実施例10のようにカルボキシメチルセルロースの平均分子量によって、実施例11のようにカルボキシメチルセルロース水溶液にセルロース繊維又は化学繊維の添加の有無によって、凝集体の大きさを選択でき、模様紙表裏で模様の大きさを異なるものとすることが可能である。また、実施例13は、3層抄きとして、中層に古紙パルプを使用し、表層だけに凝集体を配合して模様を設けたため、紙厚を厚くしても、模様の分布が均一な模様紙を得ることができた。実施例13のような模様紙は、裏層を模様なしの白色としたため、葉書用として好適である。
【0149】
実施例1〜実施例13は、白色凝集体a、c、d、f及びg並びに赤色凝集体bがいずれも金属塩とアクリル酸共重合体タイプの凝集剤とを順次添加することによって安定した形状を有していたため、模様としての凝集体の大きさが模様紙用として適しており、模様の視認性に優れていた。
【0150】
抄紙方式としてドライバット式円網抄紙機を用いて抄紙することによって、模様紙用凝集体を紙面上に、より均一に凝集体を分布させることができることが確認できた。
【0151】
一方、アクリル酸共重合体タイプの凝集剤を用いずに調製した白色凝集体eを用いた比較例1では、凝集体の調製工程、ポンプ移送工程及び抄紙工程でのシェアによって凝集体が破壊されたため、得られた模様紙の模様の視認性が劣った。比較例2では、1層の単層抄きであったため、模様紙の紙面の色調及び模様の色調について表裏で異なる任意の色調とすることができない。さらに、単層抄きであるため、模様としての凝集体の配合量についても表裏で変えることができず、更に表裏どちらか一方の面にだけに模様を設けることもできない。
【0152】
表3に示すとおり、実施例14〜実施例17のインクジェット模様紙は、良好なインクジェット印字適性及び模様紙としての風合いを両立しており、今までにない多様なニーズへの利用が可能である。
【0153】
一方、比較例3は、実施例8の模様紙を使用したが、インクジェットインク受容層に非晶質合成シリカを含有しなかったため、インクジェット適性に劣るものとなった。比較例4は、原紙として実施例8の模様紙を使用したが、水溶性高分子を含有しなかったため、インクジェット適性に劣るものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明に係る模様紙は、その紙を使用する装飾、包装、印刷などの産業及び製紙産業において好適に使用できるものである。例えば、葉書用紙、印刷用紙、包装用紙に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0155】
10 バット式円網抄紙機
11 バット
12 円筒シリンダー
13 クーチロール
15 ウェットシート
16 フェルト
21 バットの液面
22 円筒シリンダーの内液面
24 流れ落ち
50 ドライバット式円網抄紙機
51 紙料供給スリット
52 円筒シリンダー
53 クーチロール
55 紙層
56 フェルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層と裏層とを有する2層以上の多層抄きの模様紙であって、
前記表層若しくは前記裏層のいずれか一方の層又は両方の層が、凝集体βを含有し、
該凝集体βは、アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤によって凝集体α同士が付着しあったより大きな凝集体であり、該凝集体αは、ナトリウムカルボキシメチルセルロースが、ナトリウムイオンを他の金属イオンに置換することによって、顔料、セルロース繊維、化学繊維からなる集団の中から選択された1種類以上の物質を取り込んだ状態で、凝集してなる粒子状の凝集体であることを特徴とする模様紙。
【請求項2】
前記凝集体αは、更に染料を含有することを特徴とする請求項1に記載の模様紙。
【請求項3】
前記凝集体α及び前記凝集体βの両方又はいずれか一方の表面に、アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤が付着していることを特徴とする請求項1又は2に記載の模様紙。
【請求項4】
前記アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤が、アニオン性ポリアクリルアミドであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の模様紙。
【請求項5】
前記ナトリウムカルボキシメチルセルロースの平均分子量が、45,000〜300,000であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の模様紙。
【請求項6】
前記凝集体αに取り込まれる前記セルロース繊維又は前記化学繊維の平均繊維長が、140〜3000μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の模様紙。
【請求項7】
前記模様紙の少なくとも一方の面に非晶質合成シリカと水溶性高分子とを含有するインクジェットインク受容層を、更に有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の模様紙。
【請求項8】
表層と裏層とを有する2層以上の模様紙の製造方法であって、
ナトリウムカルボキシメチルセルロース水溶液に顔料、セルロース繊維、化学繊維からなる集団の中から選択された1種類以上の物質を混合する工程1と、
該工程1で得られた混合物に金属塩水溶液を添加し、撹拌によって凝集体αを形成する工程2と、
該工程2で得られた前記凝集体αを含む液にアクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤を添加して凝集体βを形成する工程3と、
該工程3で得られた凝集体βを、前記表層用の抄紙原料若しくは前記裏層用の抄紙原料のいずれか一方又は両方に添加して表層用紙料及び裏層用紙料を調製する工程4と、
該紙料を抄造する工程5と、を有することを特徴とする模様紙の製造方法。
【請求項9】
前記工程5は、ドライバット方式円網抄紙機を用いて抄造することを特徴とする請求項8に記載の模様紙の製造方法。
【請求項10】
前記アクリル酸共重合体タイプの液状高分子凝集剤が、アニオン性ポリアクリルアミド及びカチオン性ポリアクリルアミドであり、アニオン性ポリアクリルアミドを添加した後、カチオン性ポリアクリルアミドを添加することを特徴とする請求項8又は9に記載の模様紙の製造方法。
【請求項11】
前記模様紙の少なくとも一方の面に非晶質合成シリカと水溶性高分子とを含有するインクジェットインク受容層を設ける工程6を、更に有することを特徴とする請求項8〜10のいずれか一つに記載の模様紙の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−12728(P2012−12728A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150307(P2010−150307)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000241810)北越紀州製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】