説明

模造イ草製造法

【課題】熱可塑性合成樹脂フィルムで形成したテープ原糸を収束成型ノズルで加熱成型して、シース、コア、タイプの模造イ草とする方法に於て、収束成型時に、融着斑を抑制して断面真円に成型し、成型後の熱膨張アニーリングによる形態整形処理を省略し、製造の画期的な合理化を図る。

【解決手段】長手方向に延伸した熱可塑性合成樹脂フィルムのテープ原糸12を、加熱された収束成型ノズル15に導通し、ノズルの絞り部15Mに配置した空気抜き孔15Pを介して、テープ原糸12と共に喰い込んだ余剰空気を放出して、ノズル成型部15D内での空気爆発を抑制しながら成型し、芯部22Cの外周に融着表皮22Sを供えたイ草原糸17とし、該イ草原糸17を冷却槽19を経由して引取りロール20,21で製品模造イ草22として引取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畳表、ござ等に用いるイ草をプラスチックシート材で製造する摸造イ草の製造方法に関するものであり、プラスチックの成形技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は、特許文献1に示す従来の摸造イ草製造方法の全体概略図であって、図6は従来の製造方法で得られた摸造イ草の説明図である。
図5に示す摸造イ草製造技術は、ポリオレフィン系プラスチックフィルムのテープ原糸をランダムに収束して加熱成形し、表面の融着層と空気ボイド包含芯部を備えた摸造イ草が得られ、該摸造イ草は、従来の他のプラスチックの紡糸成形イ草よりも、はるかに天然イ草に近い外観、触感を有する模造イ草であるため、従来例(図5)の製造方法で得られる摸造イ草は業界で高い評価を得ている。
【0003】
即ち、従来例は、図5(A)に示す如く、フイーダーから金型、冷却装置を介してインフレーション装置によって、中空状態の径400〜800mm、厚み35〜50μ程度のフィルム筒を形成し、ロールで2枚重ね形態のフィルム原反とし、カッターで摸造イ草の所望繊度(デニール)に応じた幅のテープ条片(原反テープ)に分割切断し、該分割したフィルムの原反テープを、加熱装置→ピンチロール→加熱装置、によって2段階の熱板加熱延伸を付与して、捲取ロールに2枚重ねテープ形態の合成樹脂テープ原糸として捲取る。
【0004】
次いで、図5(B)に示す如く、捲取ロールから原糸を加熱収束装置で、表面の融着層と空気ボイド包含の芯部を備えたイ草原糸に収束成形して引取り、送風機(第1冷却工程)で冷却した後、熱湯浴でのアニーリング処理により、成形時の加熱収縮で変形したり、偏平になったイ草原糸の外形を熱によって膨張整形して、断面をほぼ真円に近い状態にし、真円度、真直性を向上させた後、第2冷却工程を通して引取り、カッターで定尺に切断し、断片織機用の製品模造イ草としている。
従って、該方法によってテープ原糸は、図5(C)に示す如く、丸棒状で、芯部が空気内包の多孔質であって、融着表皮には縦皺や長手方向裂け目がある天然イ草風合の製品摸造イ草が得られる。
【特許文献1】特許第3195968号公報(特開平6−122163)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来例(図5)の方法で製造した製品摸造イ草は、顕微鏡的に観察すれば、図6(A),(B)に示す如き、融着表皮には、成形過程での空気の爆発による裂け目(キズ)や、図6(C)に示す如き、融着斑による融着塊と、融着塊から連なる未融着裂け目、更には未融着の開口溝等のキズが長手方向に散在している。
即ち、加熱収束成型したイ草原糸を熱湯浴でアニーリング処理しても、熱膨張によって真円度は向上するものの、融着斑に起因するキズの改善は、あまり期待出来ない。
そして、摸造イ草を用いて断片織物(畳表)とした際に、織物面への摩擦によって、毛羽立ちの原因となる裂け目、開口等のキズは、長さ3mm以上、幅0.5mm以上のもので、6000d〜4700dのものにあっては、10〜15個所/10m位発生しており、長さ3mm以下の小さなキズははるかに多く発生している。
そして、融着表皮のキズ発生は、繊度が細くなる程増大する傾向を呈している。
【0006】
また、摸造イ草は、融着斑によって、断面形状も真円度(短径/長径)90%以下の個所が各所に現出し、真円度の低い個所では、真直性が損なわれて長手方向に曲がりが生じ、繊度が細くなるにつれて、真円度低下や、曲がり発生が顕著となる。
そして、摸造イ草を断片緯条とし、断片織機で製織するにあたっては、真円度が、5500d(径:1.11mm)では85%以上、4000d(径:0.8mm)では95%以上でないと、1本針刺しによる緯条の取出しが正確に遂行出来なく、また、摸造イ草が曲がっておれば経糸開口内への飛走貫通が出来なく、緯入れミスを生じる。
即ち、模造イ草の先端10cm長で、5mm位の曲がり変位であれば、現状の断片織機での緯入れ飛走貫通が支障なく、先端10cm長で1cm以上の曲がり変位、即ち、真直度(イ草10cm/曲がり変位cm)が20位であれば緯入れ可能であり、真直度10以下であれば緯入れミスを多発する。
【0007】
従って、従来の方法で製造した製品摸造イ草は、5000d以上の太繊度であれば、若干の緯条取出しミス、緯入れミスは発生するものの、現状の断片織機での製織が可能であるが、4500d以下の細繊度では、例え、製造しても、摸造イ草表面融着層の融着斑によって、織成不可能なものとなり、現在、このタイプの摸造イ草にあっては、4500d以下の細繊度イ草は、業界では、製造不可能と認識され、市場に存在していない。
また、4700d以上の摸造イ草は、例え、断片織物になっても、耐用中の織物表面への摩擦作用によって、裂け目キズから毛羽が発生し、毛羽部分は、埃、汚れが発生し易く、毛羽部、裂け目部に発生した汚れは、雑巾掛けしてもきれいに除去出来ない。
しかも、製造上も、加熱収束装置から出て来るイ草原糸は、空気爆発に伴う融着斑によって断面が真円でなく、加熱収束変形したものであるため、冷却工程後に、熱湯浴アニーリング処理が必須であり、該熱湯浴アニーリング処理工程は、引出し速度管理、熱エネルギー消費、及び占有スペースの問題がある。
【0008】
本発明者等は、プラスチック製でありながら、シース、コア(鞘芯)タイプとなって天然イ草に近似の摸造イ草の得られる、従来例(図5)の製造方法に於いて、高い真円度で十分な真直性を備え、且つ、融着表皮に裂け目等のキズのない摸造イ草を製造するために、各種の試験、研究を重ねた結果、融着斑発生の主要原因である加熱収束ノズル部を新規な構成とすることにより本発明を完成したのであり、本発明は、4700dまでの市場に存在する模造イ草の画期的品質向上は勿論、現在、市場に存在しない、且つ、現状の断片織機では緯条として採用不可能とされていた4500d〜3000dの極細模造イ草ですら、織成可能な実用イ草として製造可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、例えば図1、図3に示す如く、長手方向に延伸した熱可塑性合成樹脂フィルムよりなるテープ原糸12を、加熱された収束成型ノズル15に導通し、ノズルの絞り部15Mに配置した空気抜き孔15Pを介して、テープ原糸12と共に喰い込んだ空気を放出除去することにより、ノズル成型部15D内の空気爆発を抑制しながら成型して、芯部22Cの外周に融着表皮22Sを備えたイ草原糸17とし、該成型イ草原糸17を冷却槽19を経由して引取りロール20,21により製品模造イ草22として取出すことにある。
【0010】
この場合、熱可塑性合成樹脂は、典型的にはP,P等のポリオレフィン系合成樹脂である。
そして、テープ原糸12の供給量、即ち、充満率(供給テープ断面積/ノズル成型部の最小径面積)は50〜90%位であり、摸造イ草がシース・コアタイプとなるため、且つ、融着表皮(シース)22Sは均質で、芯部(コア)22Cは空気ボイドAVによる多孔質としてクッション性を付与する必要があることより、細繊度に成るにつれて充満率は増大させる必要がある(ex、5400dは52%、4700dは60%、4000dは71%)が、ノズル絞り部15Mは、図3(B)の如く、成型部15Dより若干大径であるに過ぎない。
【0011】
そして、テープ原糸12は、ランダムに収束されて、空気を包含した状態で絞り部15Mに到り、絞り部15Mから進むテープ原糸12内には充満率で決まる空気量が包含され、該空気量が芯部22Cの空気ボイドAVとなる。
そして、絞り部15Mを含むノズル15全体は加熱(典型的には290℃)されているため、包含空気は膨張し、そのままの状態で成形作用を受ければ融着表皮形成過程で表皮に爆発裂を生ずることとなる。
【0012】
しかし、本発明にあっては、加熱されたノズル15の絞り部15Mにテープ原糸が入った段階で、余剰空気が絞り部15Mで絞り出されて空気抜き孔15Pから放出されるため、成型部15Dでは、融着表皮形成過程での、包含空気の膨張爆発による融着表皮爆裂は抑制出来る。
従って、空気抜き孔15Pを備えたノズルで成型する模造イ草は、収束成型ノズル15を出たイ草原糸17の段階で融着斑の抑制された真円度の高い断面を備えているため、従来の製造法では必須であった、熱エネルギー、及び処理スペースの必要な成型後の熱湯アニーリング処理が、もはや不要となって、製造工程が合理化出来る。
しかも、得られる模造イ草は、繊度の大小(ex、5400d、3000d)に関わらず、外周面での融着斑や、融着時爆発に起因するキズが抑制され、融着斑による曲がりも抑制された、真円度(短径/長径)の高い、真直度(10cm/曲がり変位cm)10以上の真直ぐな製品摸造イ草となる。
【0013】
また、本発明にあっては、テープ原糸12は、原反テープ61を、屈曲形態で案内する複数の加熱ロール7,8,9によって、若干の幅方向延伸を伴った長手方向延伸したものが好ましい。
この場合、原反テープ61は、図1(A)の如く、従来例同様に、インフレーション成型で40〜50μ厚に形成したフィルム筒を2枚重ねの原反フィルム60とし、該フィルム60をスリッター6´でテープ状に裁断したもので良く、製品イ草の織度に応じて23〜30mm幅に裁断したものである。
【0014】
そして、図2(B)の如く、上下に加熱延伸ロール7,8,9を、屈曲経路を形成するように配置して原反テープ61を屈曲案内延伸すれば、原反テープ61と各加熱ロール7,8,9との界面圧力により、原反テープ61内にも、幅方向に発生する若干の拡開応力によって、構成高分子に幅方向のオリエンテーションが生じ、一軸延伸フィルムよりは、幅方向フイブリル化の抑制されたものとなる。
従って、5倍位延伸して薄膜フィルムとなっても、延伸方向に直交する応力に対してはフイブリル化し難くなり、製品模造イ草は、耐用中に毛羽の発生が抑制出来る。
【0015】
また、フィルム厚7〜10μで幅23〜30mmのフィルムテープの2枚重ねであれば、テープ原糸の製造が、スリッターと熱ロール延伸で合理的に遂行出来るばかりでなく、瞬時の熱融着が可能な極薄テープでありながら、細分化された空気ボイドAVの無数に分散した多孔質芯部22Cの形成が可能となり、ノズル成型部15Dでの融着表皮の瞬時形成も可能となる。
【0016】
また、本発明のテープ原糸12は、原反テープ61を加熱ロール7,8,9で延伸後、加熱ロール9と下流のアニールロール10間で、6〜12%の高リラックス率処理したものが好ましい。
この場合、原反テープ61を屈曲形態で案内する加熱ロール装置に、図2(B)の如く、水冷のアニールロール10をコンパクトに並設することにより6〜12%と高いリラックス率を付与することが可能となる。
そして、収束成型ノズル15に送り込む前に、十分なリラックス(弛緩)によって内部応力歪(残留歪)を消去しておけば、後工程の収束成型ノズル15によるイ草原糸17の成型時に、熱応力不均斉作用による曲がり発生が抑制出来、長手方向直線形態、かつ高真円度(短径/長径)のイ草原糸17が成型出来る。
【0017】
また、テープ原糸12は、ポリオレフィン系樹脂に、炭酸カルシウム、耐侯材等を混入した熱可塑性合成樹脂を、インフレーション成型で表面に長手方向凹凸皺を有する40〜60μ厚の筒状フィルムに成型後、原反フィルム60とし、該フィルムの2枚重ねで原反テープ61にカットし、加熱ロール7,8,9で長手方向延伸したものが好ましい。
この場合、図2(A)に示す如く、インフレーション成型による筒状薄膜成型が容易であると共に、薄い2枚重ねフィルム原反に取出せるので原反テープ61の形成が容易である。
【0018】
そして、フィルムが長手方向に凹凸皺を備えているため、加熱ロール延伸しても密着層着化は避けられ、且つ、収束成型ノズル15への供給時も嵩高性を保持し、該凹凸皺がノズル成型部15D内周面との接触摩擦を軽減して、融着膜塊の形成を抑制し、イ草原糸17は、外周に融着斑の抑制された均斉な融着表皮22Sが形成出来、内部には、空気ボイドAVの好適に分散した弾力性のある均斉な芯部22Cが形成出来る。
従って、併用する各フィルムの色を好適に選定すれば、艶消し状態で、耐侯性のある天然イ草近似の外観の製品が得られる。
【0019】
また、本発明にあっては、図3に示す如く、収束成型ノズル15が絞り部15Mと成型部15D間に空気溜り15Aを備え、テープ原糸12と共に喰い込んだ空気を、空気溜り15Aから外方に連通する空気抜き孔15Pを介して放出するのが好ましい。
この場合、ノズル15の入口のファンネル部15Fから先端15Tまでの挿通経路Oにあって、テープ原糸12は、ファンネル部15Fで空気と共に収束されて絞り部(前成型部)15Mに入るや否や、外周部の熱成型作用と、包含空気の膨張に伴う芯部22Cの形成作用が始まるが、膨張した過分の空気は、空気溜り15A内に放出されて空気抜き孔15Pより外部へ排出され、成型部15D内に入った少量の空気の若干の内部爆発は、芯部22Cの多孔質化を促進する。
【0020】
そして、イ草原糸17の融着表皮22Sはノズル成型部15Dの終端部で仕上げられる。
もし、空気溜り15Aを絞り部15M入口上流に配置すれば、余分な空気が成型部15D内に入り込む恐れがあり、テープ原糸12は、空気溜り15Aを通過後の融着表皮22S形成過程で、表皮22Sへの空気爆裂を生ずる恐れがある。
従って、空気溜り15Aを、絞り部15Mの下流の、且つ、下流に、融着表皮仕上げを行う成型部15Dを備えた位置、に配置すれば、イ草原糸17での、十分な多孔質コア(芯部)22Cと、均斉なシース(融着表皮)22Sの形成が可能である。
【0021】
また、テープ原糸12は、ノズル成型部15Dの内周に、長手方向の微細凹凸条を備えた収束成型ノズル15により成型して、縦皺22L´を備えた融着表皮22Sを形成するのが好ましい。
摸造イ草22には、テープ原糸12をランダムに収束して成型ノズル15で周面のみを融着して成型するため、図4の如く、融着表皮生長の不均斉、ノズルからの引抜き時での芯部22Cのランダム収束形態による影響、ノズル先端15Tから若干太くなって出たイ草原糸17の加熱成型状態からの冷却槽19での冷却縮径の影響、等により不規則な縦皺22Lが発生する。
【0022】
しかし、摸造イ草表皮の縦皺22Lは、合成樹脂製品特有のヌメリ、光沢を抑制して天然イ草に近似の風合を呈するため、むしろ、摸造イ草にとっては好ましい。
従って、収束成型ノズル15の成型部内周の微細凹凸条によって、強制的に、且つ、自然に発生する縦皺22Lより若干大きな、所望の縦皺22L´を付与すれば、該強制付与縦皺22L´は、均斉、且つ完全に連続して補強リブ機能すら奏するものとなり、より天然イ草に近似の風合の摸造イ草が得られる。
【0023】
また、1本のイ草原糸17成型用のテープ原糸12が、色彩、材料、形態の異なる複数の原反テープ61を含むのが好ましい。
この場合、テープ原糸12の成型ノズル15への供給充満率(供給テープ断面積/ノズル成型部の最小径面積)を充足した状態の下では、テープ原糸12として複数本の色、幅、物性等の異なるテープ状フィルムを混合供給することにより、所望の色彩効果、物性効果を備えた模造イ草が得られる。
【0024】
即ち、薄緑色のフィルムテープと薄黄色のフィルムテープとを用いて、融着表皮に、長手方向2色が混在し、外観上、中間色の天然イ草近似の色感を得ることも、或いは異色の選択によって、天然イ草では得られない、斬新な色彩を現出することも可能である。
また、剛性のあるフィルムテープと、柔軟なフィルムテープの併用、材料費の異なるフィルムテープの併用等で、天然イ草では得られない斬新な模造イ草を合理的に得ることも可能である。
【0025】
また、模造イ草22は、引取りロール20,21から織機23に直接供給可能に、弛緩ゾーンZに弛緩形態で連続放出するのが好ましい。
本発明にあっては、新規な収束成型ノズル15から引出されたイ草原糸17は、融着斑の抑制された断面真円度の高い形態であるため、冷却工程を経れば、即、織成用緯条として使用可能な模造イ草となる。
従って、引取りロール20,21により、等速で連続引出しされる模造イ草22は、緯条を断続消費する織機23に対する対応速度の下に引出せば、弛緩ゾーンZの存在が、織機の断続高速消費に対応出来、製造される模造イ草22が直接織機23へ緯条として供給可能となり、製品模造イ草22の織成用緯条用としての製造が合理化出来る。
勿論、熱的安定性に欠ける模造イ草を織成すれば、織成後に熱アニーリング処理等で熱的安定化処理すれば良い。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、加熱された収束成型ノズル15にあって、収束成型中のテープ原糸12が喰い込んだ過分の空気を放出除去するため、ノズル成型部15内での成型中のテープ原糸の空気の熱膨張爆発が抑制出来、収束成型ノズル15からは、融着斑が抑制されて、裂け目22Wが少なくて、毛羽立ち発生の抑制された融着表皮22Sと、空気ボイドAVが分散して均斉な圧縮弾性を発揮する芯部22Cとを備えた、且つ、真円度及び真直性の高いイ草原糸17が引出せる。
従って、イ草原糸17は、冷却槽を経由させれば製品模造イ草となり、織成用緯条として必要な真円度、真直性を満たした模造イ草が得られる。
【0027】
そして、収束成型ノズル15によって、融着斑の無い、且つ真円度の十分高いイ草原糸17が引出せるため、従来の、第1冷却工程(送風機冷却)後の、熱湯浴によるアニーリング処理、が不要となり、熱湯浴槽配置スペースが不要となると共に、熱湯浴の熱管理、及び熱湯浴中の模造イ草の走行管理も不要となるため、製造工程が大幅に合理化出来る。
【0028】
しかも、本発明によって得られる模造イ草は、従来の加熱収束装置での収束成型による製造法では避けられなかった融着斑が極端に改善出来たため、均斉な融着表皮22Sと、空気ボイドAVを分散内包した芯部22Cとを備えた真円度、真直性の高い模造イ草となり、フィルム条体を収束成型した模造イ草製品の分野にあって、従来、不可能と認識されていた、織度が4000d以下の極細模造イ草の実用品としての提供も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
〔テープ原糸の製造〕
原反ロール6は、従来例同様に、ポリプロピレン樹脂に、慣用の耐侯剤、顔料、艶消し剤を混合した原料を、インフレーション加工でフィルム厚40〜60μ(ミクロン)の筒状フィルムを形成し、2枚重ねの600〜900mm幅の原反フィルム60を捲き取ったものである。
該原反フィルム60は、図2(B)の如く、スリッター6´で製造イ草の繊度に応じて20〜35mm幅(ex、5400d:34mm、3300d:21mm)に裁断分割して原反テープ61とし、上下に架設した第1加熱ロール7、第2加熱ロール8、第3加熱ロール9及び水冷のアニールロール10で熱延伸及びアニーリングする。
【0030】
各加熱ロール7,8,9を130〜140℃に加熱し、原反テープ61を上下屈曲案内して第1加熱ロール7と第2加熱ロール8間で3倍延伸、第2加熱ロール8と第3加熱ロール9間で2倍延伸し、延伸引取速度70mm/minで引取り、第3加熱ロール9と水冷アニールロール10間で6〜12%弛緩(リラクゼーション)してテープ原糸チーズ巻11を得る。
巻取った原反テープ61はフィルムの2枚重ね状態であり、1枚のフィルム厚は7〜10μ、2枚重ねの原反テープ61が14〜20μのテープ原糸12になる。
【0031】
但し、テープ原糸厚20μでも、太番手(太繊度)模造イ草の製造には支障ないが、フィルム厚が薄い程、後工程の収束成型ノズル15での迅速軟化による均一な融着表皮(皮膜)22Sの形成が可能となるため、無機剤混練プラスチックでの皮膜(フィルム)形成の限界である7μ厚にテープ原糸12を形成し、テープ原糸12の幅によって繊度差に対応させるのがベターである。
【0032】
そして、テープ原糸12は第1加熱ロール7、第2加熱ロール8、第3加熱ロール9での加熱延伸作用時に、各ロールとの圧接応力作用により、構成高分子はテープの長さ方向延伸による長さ方向配向(オリエンテーション)に加え、若干の幅方向配向を生じるため、熱板延伸したテープ原糸よりも、抗フイブリル化特性(縦裂けの生じ難い特性)を有するものとなる。
【0033】
〔模造イ草の製造〕
図1に示す如く、テープ原糸12をテープ原糸チーズ巻11から引出して、285〜300℃に設定された加熱装置16内に嵌着して270〜285℃に加熱された収束成型ノズル15に挿通してイ草原糸17に成型し、水中ロール18を介して冷却槽19の水(水道水)で冷却固定し、対向した引取り上ロール20と引取り下ロール21から成る強力引取装置によって50m/secで引取り、後方の弛緩ゾーンZに送り出す。
【0034】
この場合、収束ノズル15は、図3に示す如く、テープ原糸12をランダムに収束するファンネル部15Fと、ファンネル部15Fに引続く前成型部としての絞り部15Mと、成型部15Dを備え、前成型部15Mと成型部15D間には拡開した空気溜り15Aを配置し、空気溜り15Aからノズル先端15Tに通ずる空気抜き孔15Pの2本を穿設したものを使用する。
また、冷却槽19に案内する水中ロール18は、成型直後のイ草原糸17を偏平変形させないように、ロール18の表面に丸棒状のイ草原糸17を嵌入するための円弧断面の案内溝(図示せず)を配置したものを採用する。
【0035】
また、強力引取装置としての各駆動引取り下ロール21と引取り上ロール20対には、対応円弧溝(図示せず)を配置してイ草原糸17に押圧変形を生じない構造とし、駆動側の各引取り下ロール21は、金属製で円弧溝周面にはスリップ防止のためのローレット加工し、各引取り上ロール20はゴム製とし、イ草原糸17に対する加圧変形を抑制しながら、強力な把持力を付与したロール群を採用し、引取速度50m/secでイ草原糸17を引取る。
【0036】
テープ原糸12の収束ノズル15への供給は、例えば、模造イ草織度が5400dでは、ノズル成型孔径Ds1.09mmに対し、テープ原糸(フィルム2枚重ね)厚:14μ(1枚:7μ)、テープ原糸幅:34mmのテープ原糸を充満率:52%で、4700dでは、ノズル成型孔径Ds:0.95mm、テープ原糸厚:14μ、テープ原糸幅:30mm、充満率:60%で、4000dでは、ノズル成型孔径Ds:0.8mm、テープ原糸厚:14μ、テープ原糸幅:25mm、充満率:71%で、3300dでは、ノズル成型孔径Ds:0.66mm、テープ原糸厚:14μ、テープ原糸幅:21mm、充満率:86%で実施する。
【0037】
発明者等は、本発明の効果確認のため各種試験を実施し、次の通りの試験結果を得た。
〔模造イ草の毛羽〕
イ草表面の裂け目22Wは、テープ原糸が長手方向延伸したものであるため、裂け目(キズ)22Wが摩擦作用を受ければフイブリル化し、3mm長以上のキズは軽い摩擦によっても毛羽を発生する。
【0038】
試験条件:テープ原糸としては、従来の熱板延伸を採用、
Aは、図5(C)に示す従来の収束成型ノズルでの成型イ草
Bは、図3に示す本発明の収束成型ノズルでの成型イ草
顕微鏡(10倍ルーペ)観察で、イ草10m長内に発生した5mm長以上のキズをカウントした。

A: キズ5mm 6mm 7mm 合計
4500d 4 1 2 7
4000d 2 3 3 8
3000d 4 2 3 9

B: キズ5mm 6mm 7mm 合計
4500d 3 1 2 6
4000d 2 1 2 5
3500d 2 1 1 4
【0039】
以上の結果、本件発明ノズルは従来ノズルに対して、3000dで66%、4000dで35%、4500dで15%、毛羽発生原因の5mm以上の大寸キズ(裂け目)が改善出来る。
尚、3mm長以下、特に1mm前後のキズは、Aの製品ではBの製品と比べて桁違いに多く発生していたが、このようなキズは、製品(織物)使用時に、即時に毛羽に転化するものでなく、またカウント作業が極めて煩雑困難なため、カウントから外した。
従って、従来の熱板延伸したフイブリル化し易いテープ原糸利用の模造イ草製造方法にあっても、本発明ノズルの利用は、極めて有効である。
【0040】
〔イ草織物摩擦テスト〕
本発明の収束成型ノズル15で成形した模造イ草織物に於いて、テープ原糸製造時の熱板延伸(5倍延伸)とロール延伸(5倍延伸)との延伸方法のみ相違する織物の摩擦テスト(ラビングテスト)を、硬度60度、重量500g、幅30mmのゴムロールを、移動距離5cm、35往復/minで15分間実施した。
【0041】
試験片:4500dは打込密度176本/10cm、4000d:182本/10cm、3300d:194本/10cm

4500d織物 4000d織物 3300d織物
熱板延伸 9個(欠陥) 10個 8個
ロール延伸 7個 7個 5個
尚、欠陥は、顕微鏡(10倍ルーペ)で観察し、10cm内の織物表面上の7mm長以上の毛羽欠陥をカウントした。
以上の結果、テープ原糸の製造時のロール延伸は、テープ構成高分子に若干の幅方向オリエンテーションを生じたことにより、熱板延伸による一軸延伸よりも、フイブリル化を抑制する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の要部概略説明図である。
【図2】本発明の概略説明図であって、(A)は原反ロール6の形成を、(B)はテープ原糸チーズ巻の形成を示す図である。
【図3】本発明に用いる収束成型ノズルの説明図であって、(A)は上面図、(B)は縦断側面図、(C)は底面図である。
【図4】本発明で得られる模造イ草説明図であって、(A)は断面図、(B)は斜視図である。
【図5】従来例説明図であって、(A)はテープ原糸製造工程略図、(B)は模造イ草製造工程略図、(C)は成型ノズル略図、(D)は得られる模造イ草略図である。
【図6】従来例で得られる模造イ草説明図であって、(A)は断面図、(B)は爆裂キズ説明図、(C)は融着斑説明図である。
【符号の説明】
【0043】
1 混合機
2 押出成型機
3 金型
4 インフレーション装置
5 ピンチロール
6 原反ロール
6´ スリッター
7 第1加熱ロール(加熱ロール)
8 第2加熱ロール(加熱ロール)
9 第3加熱ロール(加熱ロール)
10 アニールロール
11 テープ原糸チーズ巻
12 テープ原糸
13,14 案内ロール
15 収束成型ノズル(ノズル)
15A 空気溜り
15D 成型部
15F ファンネル部
15M 絞り部(前成型部)
15P 空気抜き孔
15T 先端(出口)
16 加熱装置
17 イ草原糸
18 水中ロール
19 冷却槽
20 引取り上ロール(従動ロール)
21 引取り下ロール(駆動ロール)
22 模造イ草(製品模造イ草、製品イ草)
22C 芯部(コア)
22S 融着表皮(融着皮膜、シース)
22L,22L´ 縦皺(皺)
22W キズ(裂け目)
23 織機
60 原反フィルム
61 原反テープ(テープ条片)
AV 空気ボイド
Ds 成型孔径
FL フィルム
Ta 拡開テーパー
Ts 成型孔径
Z 弛緩ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延伸した熱可塑性合成樹脂フィルムよりなるテープ原糸(12)を、加熱された収束成型ノズル(15)に導通し、ノズルの絞り部(15M)に配置した空気抜き孔(15P)を介して、テープ原糸(12)と共に喰い込んだ空気を放出除去することにより、ノズル成型部(15D)内の空気爆発を抑制しながら成型して、芯部(22C)の外周に融着表皮(22S)を備えたイ草原糸(17)とし、該成型イ草原糸(17)を冷却槽(19)を経由して引取りロール(20,21)により製品模造イ草(22)として取出す、模造イ草製造法。
【請求項2】
テープ原糸(12)は、原反テープ(61)を、屈曲形態で案内する複数の加熱ロール(7,8,9)によって、若干の幅方向延伸を伴った長手方向延伸したものである、請求項1の模造イ草製造法。
【請求項3】
テープ原糸(12)は、原反テープ(61)を加熱ロール(7,8,9)で延伸後、加熱ロール(9)と下流のアニールロール(10)間で、6〜12%の高リラックス率処理したものである、請求項1又は2の模造イ草製造法。
【請求項4】
テープ原糸(12)は、ポリオレフィン系樹脂に、炭酸カルシウム、耐侯材等を混入した熱可塑性合成樹脂を、インフレーション成型で表面に長手方向凹凸皺を有する40〜60μ厚の筒状フィルムに成型後、原反フィルム(60)とし、該フィルムの2枚重ねで原反テープ(61)にカットし、加熱ロール(7,8,9)で長手方向延伸したものである、請求項1又は2又は3の模造イ草製造法。
【請求項5】
収束成型ノズル(15)が絞り部(15M)と成型部(15D)間に空気溜り(15A)を備え、テープ原糸(12)と共に喰い込んだ空気を、空気溜り(15A)から外方に連通する空気抜き孔(15P)を介して放出する、請求項1乃至4のいずれか1項の模造イ草製造法。
【請求項6】
テープ原糸(12)は、ノズル成型部(15D)の内周に、長手方向の微細凹凸条を備えた収束成型ノズル(15)によって成型し、外周に縦皺(22L´)を備えた融着表皮(22S)を形成する、請求項1乃至5のいずれか1項の模造イ草製造法。
【請求項7】
1本のイ草原糸(17)成型用のテープ原糸(12)が、色彩、材料、形態の異なる複数枚の原反テープ(61)を含む、請求項1乃至6のいずれか1項の模造イ草製造法。
【請求項8】
模造イ草(22)は、引取りロール(20,21)から織機(23)に直接供給可能に、弛緩ゾーン(Z)に弛緩形態で連続放出する、請求項1乃至7のいずれか1項の模造イ草製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−69060(P2006−69060A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255672(P2004−255672)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(599081853)有限会社三谷原護商店 (2)
【Fターム(参考)】