説明

横型多管式熱交換器における管束の引出及び押込装置

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
この発明は、所定の場所に設置された横型多管式熱交換器の管束をメンテナンス等のために、そのシェル内から引き出し、またはメンテナンス後にシェル内に管束を押し込むための装置に係り、特に、引き出し時、または押し込み時にシェルに対する管束の芯振れの防止を図り、かつ引き出した管束の所定のメンテナンス場所までの運搬、および所定のメンテナンス場所からシェルの設置場所までの運搬を行う横型多管式熱交換器における管束の引出及び押込装置に関する。
[従来の技術]
一般に、石油精製プラントや化学プラント等のプロセスプラントにおいて使用される熱交換器としては、所定の箇所に横たえて設置される横型多管式熱交換器が多く用いられており、これら横型多管式熱交換器は数基以上が一箇所にまとめて設置されている。
これら横型多管式熱交換器は、多数の伝熱管(チューブ)を、それらの前端を円板状の管板(チューブシート)に貫通して取り付け、かつ伝熱管の中途部をじゃま板(バッフルプレート)に貫通して取り付けられた伝熱管の束からなる管束(チューブバンドル)が、円筒状のシェル内に挿入されて構成されており、そのチューブバンドルは、上記プラントの場合、長さが約6〜16m、重さが約10トンを越えるものがある。
そして、上記プラント等においては、これらチューブバンドルをメンテナンス等のために定期的に、シェル内から引き抜き、所定の場所(洗い場)に搬送して保守/点検し、点検されたチューブバンドルを再び、シェル内に挿入しなくてはならなかった。
従来、上記のような横型多管式熱交換器のチューブバンドルをシェル内から引き出し、またはシェル内にチューブバンドルを押し込む場合には、複数のクレーン車を使用して、その作業を行っていた。
すなわち、第6図に示すように、まず、シェルAの蓋(鏡板)を取り外し、1台のクレーン車1を熱交換器Aの正面に配置するとともに、もう1台のクレーン車2(本体は図示略)を熱交換器Aの側方付近に配置して、第1のクレーン車1のワイヤ3を滑車4,5を介してチューブバンドル6における前端のチューブシート7に連結固定して、第2のクレーン車2によってチューブバンドル6の一端を吊り下げつつ、第1のクレーン車1の前記ワイヤ3を巻き取ることにより、滑車4,5を介してチューブバンドル6を所定の長さだけ水平方向にゆっくりと引き出してゆく。
そして、チューブバンドル6を途中まで抜き出した時に、第1のクレーン車1から吊り下げられた他のワイヤ8をチューブバンドル6の一端に掛けて吊り下げ、第2のクレーン車2で中央付近を吊り直した状態で、上記と同様に、第1のクレーン車のワイヤ3を調節しつつ、抜き出し作業を続けてゆき、チューブバンドル6をシェルA内から完全に抜き出す。
そして、抜き出したチューブバンドル6を一旦地上に降ろし、クレーン車1,2を退避させて、抜き出したチューブバンドル6を運搬用のトラツクに積み込み洗い場に運んでいく。
そして、洗い場にて、掃除、点検されたチューブバンドル6は、再び、運搬用トラツクにてシェルAの設置位置まで運搬され、上記と同様に、2台のクレーン車1,2によって釣り上げられて、その一端部をシェルの端部に位置合わせしつつ、シェル内に押し込んでゆく。
[発明が解決しようとする課題]
しかしながら、従来の技術においては、複数のクレーン車を用いて、チューブバンドル6の引き出しおよび押し込みを行うので、各クレーン車の操作に個人差があると、チューブバンドル6が傾き易く、その場合には傾きに応じて特定のクレーンのみを作動させるなど、各運転者が相互に連携しながら運転する必要があり、熟練した操作技術が必要であるとともに、連携ミスが生じ易く、引き抜きまたは押し込み時にチューブバンドル6とシェルAとの間に芯振れが生じ、その際に、バッフルプレート9等でシェルAの内部をこすり、チューブバンドル6およびシェルAを損傷してしまうという問題があった。
すなわち、クレーン車1,2を用いて引き抜く場合は、各クレーン車1,2にて各運転手がチューブバンドル6のシェルAに対する芯振れが生じないようにクレーンの向きを調整しつつチューブバンドル6を吊り下げ、さらに正面のクレーン車1によって引き抜き方向をワイヤ3を介して調整するが、吊り下げているワイヤ8および引き抜きのワイヤ3による微調整が難しく、引出方向が振れ易く、引き出し方向が偏芯していると、シェルA内で伝熱管6a,6a…が曲げられて引き抜き力の他にシェルAとバッフルプレート9,9…との間に曲げによる圧縮力がはたらき、場合によってはバッフルプレート9,9……がシェルAの内壁をかじることにより過大な力で引っ張ることになり、伝熱管6aおよびバッフルプレート9が曲がってしまう。
さらに、偏芯していると、チューブシート7における伝熱管6aの貫通する拡管部がゆるんでしまい、液漏れの原因となって、その液漏れ部の修理が大へんであるとともに、その修理個所か管束挿入後に損傷し易く、この結果、液漏れし易くなるという問題があった。
そして、液漏れが生じると、プラントの緊急停止はもとより、可燃性液体用であれば、外に流出し火災の恐れがあり、また、その修復にも時間がかかるという各種の問題が生じてくる。
また、チューブバンドル6を押し込む時も、クレーン車1,2による従来の技術では、その最初の芯合わせおよび押し込み時の芯合わせが難しく、芯ずれが生じると、上記引き出し時と同様に、バッフルプレート9,9……によるシェル内壁のかじり、伝熱管の曲げ等が生じ具合が悪いという問題があった。
そして、チューブバンドル6をクレーン車1,2で吊持したまま、洗い場まで運ぶことができず、新たに運搬用のトラックに積み込んで運ばなければならず、短期間に多数の管束の引き出しおよび押し込みを行う場合に不便であった。
この発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、シェル内から管束を引き出す時に、管束がシェルに対して偏芯することなく引き出すことができるとともに、シェル内に管束を押し込む時に、シェルに対する管束の確実な芯決めを行って、いずれの場合にもシェル等を傷付けることなく管束の引き出しおよび押し込みを行うことができ、かつ他の運搬手段を用いることなく管束を所定の場所まで運搬することができる横型多管式熱交換器における管束の引出及び押込装置を提供することにある。
[課題を解決するための手段]
この発明に係る横型多管式熱交換器における管束の引出及び押込装置は、多数の伝熱管のそれぞれの一端部が管板に貫通し、かつ、中途部が複数のじゃま板を貫通して構成された管束を、円筒状のシェル内からその長手方向に沿って引き出しおよび押し込むための横型多管式熱交換器における管束の引出及び押込装置において、 方向を変更可能な複数の車輪を有する台車本体に、前記管束の引き出し及び押し込み時に台車本体の位置を熱交換器に対して固定する位置固定手段が設けられるとともに、該位置固定手段による台車の位置固定の前に台車本体を昇降させてその高さ位置を調整するための昇降手段が設けられてなり、 台車の上面には、該台車本体の幅方向にわたって延在し、かつ、その長手方向に沿って移動自在な複数のスライダが設けられているとともに、これらスライダには、前記管束における管板またはじゃま板の下端周縁を高さ調整自在に下方から支持する支持手段が設けられ、これらスライダのうち少なくとも最前列および最後列のスライダの支持手段は、スライダに対する該支持手段の前記幅方向における位置を調整するための幅方向位置調整手段を有し、さらに、台車本体には、前記管板に取り付けられた連結具に終結して管束を引出及び押込駆動するための駆動手段が設けられていることを特徴とする。
[作用]
この発明に係る横型多管式熱交換器における管束の引出及び押込装置によれば、管束の引き出しを行う場合は、まず、熱交換器の前に台車を移動させ、その延長線上に沿って位置合わせを行うとともに、昇降手段を駆動して台車本体を上昇させてその高さ調整を行い、次いで、熱交換器の支持脚に位置固定手段によって台車本体を固定する。
そして、台車上の全てのスライダをシェル前端側まで移動させる一方、連結具を管束の管板に固定する。
次に、連結具に連結された駆動手段により管板を引き出し方向に引っ張り、所定の距離(例えば60cm程度)管束を引き出した時点で、最前列のスライダを管板の下方に移動させ、その支持手段の高さを調整して管板の下端周縁を支持する。
このとき、支持手段の幅方向位置を調整して、正確な芯合わせを行う。
次に、芯合せを行った後、さらに、駆動手段を作動させて、管束を所定の長さまで引き出す。
そして、次のスライダを引き出されたじゃま板の位置まで移動させ、その支持手段の高さ位置を調整することによって、該じゃま板の下端周縁を支持し、再び駆動手段を駆動して管束を引き出してゆき、所定の抜き出し毎に、引き出されたじゃま板を他のスライダの支持手段によって上記と同様に支持しつつ引き出してゆく。
このように、最前列のスライダの支持手段によって幅方向の調整を行い芯合わせをした後に、管束の長手方向に複数個所の支持を行いつつ、シェルの延長線上に沿ってスライダを移動させて、管束の引き出しを行うことにより、上下左右方向にほとんど芯ずれのない円滑な管束の引き出しを行うことができる。
次いで、上記のようにして管束を引き出し、管束を台車上に載置した状態で、その車輪を、例えば引き出し方向と直交する方向に向け、位置固定手段を解除し、昇降手段を駆動して、台車本体を降下させ、前記車輪を接地させて、その方向に台車を移動させていく。これにより、台車の方向転換を最小限に押さえて洗い場まで移動させていくことができる。
また、管束をシェル内に押し込む場合は、管束の複数個所を上記引出時と同様に、各スライダの支持手段により支持した状態で台車上に載置し、該台車をシェルの延長線上に沿って配置して、最後列のスライダの支持手段によりその幅方向位置および高さ方向位置を調整して芯合わせするとともに、駆動手段を押し込む方向に駆動して、移動させてゆき、シェル前端に達したスライダの支持を、順次取り外していくことにより、シェル内に管束を芯ずれの無い状態で正確に押し込んでいくことができる。
[実施例]
以下、この発明に係る横型多管式熱交換器における管束の引出及び押込装置の一実施例を第1図〜第4図を参照して説明する。
まず、第1図および第2図を参照して、その概略構成を説明すると、これらの図において、符号10は、台車本体であり、この台車本体10は、前後付近に各一対づつの車輪11,11……を有するとともに、該車輪11,11……付近および車輪11,11の間に、台車本体10を地面に支持し、かつ台車本体10の高さを調整するための6基のアウトリガ(昇降手段)12,12…を有し、かつ台車本体10の一方側を熱交換器の支持脚A′に固定するためのステー(固定手段)13を有している。
そして、台車本体10の上面には、その長手方向に沿って2本のレール10a,10aが敷設されており、該レール10a,10aに、3個のスライダ13a,13b,13cがそれぞれ台車本体10の幅方向に延在して、かつその長手方向に移動自在に配置されている。
一方、チューブバンドル(管束)Bにおける前端のチューブシート(管板)Cには、その前面にボルト等によって固定される円板状の連結具14が取り付けられるようになっている。
この連結具14の前部には、引き出しまたは押し込み時の引っ張りのためのワイヤ35が掛けられる4個のプーリー14a〜14dが取り付けられている。
そして、最前列のスライダ13aおよび残りのスライダ13b,13cには、それぞれチューブシートCまたはバッフルプレートDをその下端を高さ調整自在に支持するとともに、両側から抱え込むように、つまりチューブシートCまたバッフルプレートDの下端周縁を略三点支持するための支持治具(支持手段)15がそれぞれ配置されており、最前列および最後列のスライダ13a,13cの支持治具15は、その幅方向位置を強制的に調整するための幅方向位置調整手段23(第5図参照)を有している。
また、符号16は、前記スライダ13aに取り付けられた連結具14に掛けられるワイヤ35を巻き取るための巻取機(駆動手段)である。
符号17は、熱交換器の鏡板(カバー)を取り外した際に、該鏡板を吊り上げるための動力または手動にて駆動されるチェーンブロックである。
そして、台車本体10の一側部には、車輪11の操作、支持治具15の操作および台車10の運転を行うための操作台18a,18b,18c,18dがそれぞれ設置されている(第2図参照)。
次に、上記各部の詳細を説明すると、前記車輪11は、第2図に示すように、台車本体10の下面に回動自在に取り付けられている。すなわち、その回動軸と下面中央付近に配設されたギアボックス11bとに、ベルトまたチェーン11aが掛け渡され、該ギアボックス11bのギアを操作台18a(18d)に設けられた操作部11cにて操作して、車輪11の方向を任意の向きに変更できるようになっており、その向きは台車本体10に平行な向きと、該台車本体10に直交する向きとに位置固定できるようになっている。
前記アウトリガー12は、台車本体10の下面にその幅方向に延在して両側に突出する横機材12aに、その両側に中空な角柱状の柱体12bが地面に接触しない状態で垂直に立設され、該柱体12bの中に、第1図に示すように上下動自在に支持体12cが内蔵されている。
これら支持体12cは、それぞれ一対毎に対して配設された油圧ユニット20(第1図の中央部にのみ図示、第2図R>図においては図示略)によって同期して上下動するように構成されている。
また、支持体12cの下端部には、傾斜した地面においても台車本体10を水平に保持するように揺動自在な当接体12dがそれぞれ取り付けられている。
次に、最前列および最後列のスライダ13a,13cおよび他のスライダ13bは、第1図に示すように、両側に三角形状(最前列および最後列のスライダ13a,13cにおいては台形状)の側板21を有し、該側板21にそれぞれ2個づつの車輪22,22が取り付けられて、レール10a上をその長手方向に沿って移動自在に構成されている。
側板21,21間には、第4図に示すように断面コ字状の基板24が台車本体10の幅方向に延在するように取り付けられており、該基板24に、後述する支持治具15の支持体15a,15bが移動自在に嵌合するための矩形状の長孔24a,24b(第3図参照)が形成されている。
そして、第3図に示すように、各スライダ13a〜13cのそれぞれの側板21,21の間には、その上部付近に、シャフト25が回動自在に取り付けられており、該シャフト25には、中央部から所定の距離をおいて逆螺子の関係になる雄螺子25a,25bがそれぞれ形成されている。
該シャフト25の雄螺子25a,25bに、前記支持治具15の両側の支持体15a,15bが螺合して、管板Cまたはじゃま板Dを抱え込むように接近自在かつ離間自在に設けられており、また、基板24には、管板Cまたはじゃま板Dの下端部を支持する支持体15cが高さ調整自在に取り付けられて、これら支持体15a〜15cが前記支持治具15を構成している。
すなわち、支持体15a,15bは、第3図および第4図に示すように、シャフト25の雄螺子25a(25b)に螺合し、長孔24a(24b)内に嵌合する基幹部26と、該基幹部26の下端に回動自在に取り付けられ、かつスライダ13b(13a,13c)の基板24の裏面に摺動する車輪部27と、基幹部26上部に突出して形成された支持輪受け28と、該支持輪受け28に回動自在に取り付けられた支持輪29とから構成されている。
前記支持体15cは、前記基板24に埋設された雌螺子部30に、上下動自在に螺合する支持棒31が設けられ、該支持棒31の上部には二又に分岐する分岐部32が取り付けられ、該分岐部32のそれぞれの上端部に支持輪33a,33bが回動自在に取り付けられてなる。
そして、最前列および最後列のスライダ13a,13cの幅方向位置調整手段は、第5図に示すように、前記シャフト25に平行に位置調整用のシャフト37が側板21に設けられた雌螺子部21aに螺合して取り付けられてその長手方向に位置調整可能となっており、該シャフト37の先端部がシャフト25に、それぞれのシャフト25,37を回転自在に貫通させる連結部材39を介して連設されている。
すなわち、前記連結部材39は、大小2個の円筒部材をその一周縁にて一体に連結した2重円筒状に形成されており、一方をシャフト37に他方をシャフト25にそれぞれスラスト軸受38a,38bを介して貫通させて連設されている。
なお、他のスライダ13bは、前記幅方向位置調整手段23が設けられておらず、シャフト25の両端部付近が、側板21,21にそれぞれ幅方向に所定の長さだけ自由に移動できるように支持されている。
巻取機16は、2連式のドラム16aと、該ドラムを回転させるモータ部16bとから構成されている。また、この巻取機16の後部には、5個のプーリ35a〜35eが設けられ、管束Bを引き出す場合は、第2図の左部実線で示すように、ワイヤ35の一端部をドラム16aに巻き、該ワイヤ35をプーリ35c,35dに掛け、管板Cに取り付けた連結具14のプーリ14cを介して、プーリ35eに掛け、さらに連結具14のプーリ14bを介して巻取機16側のプーリ35a,35bに掛けて他端部をドラム16aに巻き、ドラム16aを巻き取り駆動することにより、管束Bを連結具14を介して引き出し方向に駆動することができるようになっている。
また、台車10の後端部にも、2個のプーリ36a,36bが取り付けられており、管束Bを押し込むときは、第2図の右部の一点鎖線で示すように、ドラム16aに一端部が巻かれたワイヤ35をその後部のプーリー35c,35dに掛け、台車10の後端部のプーリ36aを介して連結具14のプーリ14a〜14dに掛け、さらにプーリー36bを介して巻取機16の後部のプーリ35a,35bに掛けてドラム16aに巻き、ドラム16aを巻き取り駆動することにより、管束Bを連結具14を介して押し込む方向に駆動するようになっている。
ステー13は、台車本体10の位置決め後に、台車本体10の後端部より突出されてその端部を支持脚A′にボルト等の連結手段により連結して台車本体10の位置固定を行う構成となっている。
上記のような構成の横型多管式熱交換器における管束の引出及び押込装置によれば、まず、昇降手段であるアウトリガ12の支持体12c(第1図参照)を縮めた状態で台車10をシェルAの前方に移動させるとともに、車輪11,11…の向きを変えながらシェルAの略延長線上になるようにその向きを調整し、シェルAに対する向きの位置決めを行なう。このとき、第1図に示すように、台車10の後端部がシェルAの下にわずかに入るように位置決めする。
そして、アウトリガ12を油圧ユニット20によって駆動して、その支持体12cを伸長させ、台車本体10を水平に保持した状態で、当接体12dを接地させて、台車10が左右に振れないようにその位置を固定し、かつシェルAの高さに対応した位置まで台車10を上昇させる。
次いで、熱交換器の支持脚A′にステー13を連結し、台車本体10を完全に位置決めする。
そして、チェーンブロック17を用いてシェルAの一端のカバーを取り外す。
また、全てのスライダー13a,13b,13cをシェルAの前端まで移動させる。
このとき、スライダ13a〜13cの支持治具15は、中央の支持体15cをシェルAよりも低く下降させて退避させ、両側の支持体15a,15bは両側に離間するように移動させて退避させておく。
また、管板Cに連結具14を取り付け、この連結具14に、第2図の左部実線に示すようにワイヤ35を掛ける。
そして、該ワイヤ35を巻取機16によって巻き取り、管板Cを引き出し方向に引っ張り、約60cm程度管束Bを引き出す。この位置にて最前列のスライダー13aを管板Cの下方に移動させ、その支持治具15によって管板Cを支持し、その芯合わせを行う。
すなわち、管板Cの下端に中央の支持体15cが当接するように上昇させて支持し、両側の支持体15a,15bを管板Cを両側から抱え込むように接近させて支持し、これらによって管板Cの下端周縁を略三点支持するようにする。このとき幅方向位置調整手段23によってシャフト37を移動させてシャフト25の幅方向を調整し、支持体15a,15bをその間の距離を一定に保った状態ですなわち管束Cを抱え込んだ状態で移動させ、シェルAに対する管束Cの正確な芯合わせを行う。
そして、再び巻取機16を駆動してワイヤ35を巻き取り、じゃま板Dが設けられた部分がシェルAの外に引き出された位置(第1図においては3番目のじゃま板D)にて、次のスライダー13bをじゃま板Dの下方に配置し、その支持治具15によって該じゃま板Dを上記管板Cと同様に略三点支持し、再び巻取機16を駆動して引き出してゆき、さらに所定の抜き出しが行なわれたところで、後部付近のじゃま板Dを最後部のスライダー13cの支持体15にて三点支持した後に、再び引き出して管束Bを全て引き出す。
このように、最前列のスライダ13aの支持手段15により、その芯合わせを行って、かつ管束Bの長手方向に沿って複数箇所の支持を行ないつつ引き出しを行うことにより、芯ずれのない円滑な引き出しを行うことができる。
次に、台車本体10は、管束Bが載置された状態で、ステー13の固定を解除するとともに、その車輪11,11……を例えば、シェルAと直交する方向に向けて、次に、アウトリガ12を駆動して降下させる。
車輪11,11が接地すると、車輪11,11……シェルAと直交する向きに向いているので、通路をそのままの状態で進行することができ、台車10の方向転換を最小限に押さえて台車10を洗い場まで移動させていくことができる。
次に、押し込む場合も、上記のように管束Bを支持した状態で、台車10をシェルAの設置箇所まで移動させて、車輪11,11で方向を調整しながら、シェルAへの位置を定め、アウトリガ12によって高さ調整を行って台車10をシェルAの前に配置し、さらに、ステー13によってシェルAに台車本体10を固定する。
そして、最後列のスライダ13cの支持手段15で正確な芯合わせを行った後、管束Bの押し込みを行う。
すなわち、ワイヤ35を第2図の右側の一点鎖線で示す状態に掛けて、巻取機16を巻き取り駆動することにより、管板Bがワイヤ35に押されることにより、スライダー13a,13b,13cは、じゃま板Dを支持した状態で押し込み方向に移動していく。
そして、シェルAの前端に達したスライダー13c,13b,13aの支持を順次取り外していくことにより、シェルA内に管束Bを芯ずれのない状態で正確に押し込んでいくことができる。
最後に、連結具14を解除し、カバーを取り付けて管束Bの挿入を終える。
しかして、上記実施例による横型多管式熱交換器における管束の引出及び押込装置によれば、台車10の車輪11,11を任意の方向に変更可能に設けたので、その向きを調整して移動させることにより、熱交換器の延長線上に対する位置決めを正確に行うことができるとともに、引き出し後の、その転換方向を最小限度に行うことができ、作業を能率よく行うことができる。
そして、台車10をアウトリガ12によって任意の高さに昇降させるようにするとともに、台車の位置決め後に、ステー13によって熱交換器の脚部A′に固定するようにしたので、管束Bの引き抜きまたは挿入作業時には、台車本体10を任意の高さに保持して、移動しないように固定することができ、その作業の際に管束Bの荷重による台車本体10の振れ等を防止して円滑な引出および押込作業を行うことができる。
なお、上記、実施例において、各々の車輪11,11の進行方向の変更は、個別に行っても、また、相互に連結して行ってもよいが、前輪と後輪、右輪と左輪など全車輪の方向が常にお互いに平行または同一線上にあればよく、車輪11,11……を台車本体10に取り付ける構造はきわめて簡単となる。また、この車輪のうち何対かは、動力により回転出来るようにしてもよい。
また、台車10の長手方向にそって移動可能な複数のスライダ13a,13b,13cに、管板Cまたじゃま板Dの下端周縁を略三点する3個の支持体15a,15b,15cが設けられて、その位置合わせも中央の支持体15cを管板Cまたはじゃま板Dの下端に当接するように上昇させ、かつ両側の支持体15a,15bを管板Cまたはじゃま板Dを近接させ抱え込むようにするだけであるから、シェルAに対する管束Bの芯合わせが容易で引き抜き、挿入時にシェルAの内壁へのじゃま板Dのかじり等がなく、余分な力がかからないため破損等の事故がほとんどおこることがなく、上記のようにその支持作業も簡単で、未熟練者でも短時間にかつ簡単に行うことができる。
そして、両側の支持体15a,15bで両側から抱え込むように支持するので、台車本体10上から転がることがなく、安全である。
このように、運転中の装置に接触、破損させたり、車両が転倒する危険性がないので、適切な防爆機器仕様にすることにより、操業中のプラントエリア内でも利用することができる。
なお、上記実施例においてはアウトリガ12の支持体12cを上下動させて台車本体10を昇降させるようにしたが、アウトリガ12を接地して固定させるだけの構造にして、台車10自体が支持柱に対して上下動するようにしてもよい。
また、上記実施例においては、駆動手段が巻取機16とワイヤ35による構成であったが、他の動力または連結手段による構成の駆動手段によって構成してもよい。
[発明の効果]
以上説明したように、この発明に係る多管式熱交換器の引出及び押込装置によれば、下記の各効果を奏することができる。
■ 台車上に長さ方向に沿って移動可能な複数のスライダを設け、これらスライダに管束における管板またはじゃま板の下端周縁を高さ調整自在に下方から支持する支持手段を設け、さらに、管板に取り付けられた連結具に連結して管束を引出及び押込駆動するための駆動手段を設けたため、管束をシェルから台車上に引き出すことと台車上の管束をシェルに押し込むことを台車を動かしたりクレーンを用いたりすることなく容易に行うことができる。
■ スライダの支持手段は管板またはじゃま板を高さ調整自在に支持するものであり、スライダのうち最前列および最後列のスライダの支持手段が、スライダに対する該支持手段の幅方向における位置を調整するための幅方向位置調整手段を有しているため、スライダの移動による管束のシェルからの引き出しおよびシェルへの押し込み時に、シェルに対する管束の高さ方向および幅方向の芯合わせが、台車を移動させることなくまたクレーンを用いることなくできるため、非常に容易であり、また、引き出しあるいは押し込み作業を停止させることなくこれら作業を実行しながら芯合わせすることができる。よって、引き出しおよび押し込み時にシェルの内壁へのじゃま板のかじり等がなく、余分な力がかからないため破損等の事故がほとんどおこることがなく、未熟練者でも短時間にかつ簡単に行うことができる。
■ 上記■,■により、管束をシェルから台車上に引き出すことと台車上の管束をシェルに押し込むことをその芯合わせを含めて、台車を移動させることなくまたクレーンを用いることもなくできるため、作業員数も少なくすみ、狭い場所での作業が安全かつ迅速にできる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、この発明に係る横型多管式熱交換器における管束の引出及び押込装置の一実施例を示す側面図、第2図R>図は同実施例の平面図、第3図は同実施例における支持手段を示す正面図、第4図は同支持手段の側面図、第5図R>図はこの発明に係る引出および押込装置の一実施例における最前列および最後列のスライダの幅方向位置調整手段を示す平面図、第6図は横型多管式熱交換器における管束を引き出しおよび押し込む場合の従来の技術を説明するための概略構成図である。
10……台車、11……車輪、
12……アウトリガ(昇降手段)、
13……ステー(位置固定手段)
13a,13b,13c……スライダ、
14……連結具、
15……支持治具、
15a,15b,15c……支持体、
16……巻取機(駆動手段)、
23……幅方向位置調整手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】多数の伝熱管のそれぞれの一端部が管板に貫通し、かつ、中途部が複数のじゃま板を貫通して構成された管束を、円筒状のシェル内からその長手方向に沿って引き出しおよび押し込むための横型多管式熱交換器における管束の引出及び押込装置において、方向を変更可能な複数の車輪を有する台車本体に、前記管束の引き出し及び押し込み時に台車本体の位置を熱交換器に対して固定する位置固定手段が設けられるとともに、該位置固定手段による台車の位置固定の前に台車本体を昇降させてその高さ位置を調整するための昇降手段が設けられてなり、台車の上面には、該台車本体の幅方向にわたって延在し、かつ、その長手方向に沿って移動自在な複数のスライダが設けられているとともに、これらスライダには、前記管束における管板またはじゃま板の下端周縁を高さ調整自在に下方から支持する支持手段が設けられ、これらスライダのうち最前列および最後列のスライダの支持手段は、スライダに対する該支持手段の前記幅方向における位置を調整するための幅方向位置調整手段を有し、さらに、台車本体には、前記管板に取り付けられた連結具に連結して管束を引出及び押込駆動するための駆動手段が設けられていることを特徴とする横型多管式熱交換器における管束の引出及び押込装置。

【第4図】
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【第5図】
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【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第6図】
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【特許番号】第2678075号
【登録日】平成9年(1997)7月25日
【発行日】平成9年(1997)11月17日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−22531
【出願日】平成2年(1990)2月1日
【公開番号】特開平3−230097
【公開日】平成3年(1991)10月14日
【前置審査】 前置審査
【出願人】(999999999)日揮株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭61−257723(JP,A)
【文献】特開 昭60−213439(JP,A)