説明

横方向放射損失を低減させ,横方向モードの抑制により性能を高めた電気音響変換器

本発明は,音響波の横方向放射による損失を低下させた電気音響変換器を提供する。そのために変換器は,中央励起領域(ZAB)と,中央励起領域(ZAB)の両側に隣接する内縁領域(IRB)と,内縁領域(IRB)に隣接する外縁領域(ARB)と,外縁領域(ARB)に隣接するバスバー領域(SB)とを備える。これら領域内における縦方向速度は,ピストンモードによる励起プロファイルが得られるよう設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,電気音響変換器に関するものであり,このような電気音響変換器は,例えばSAW‐又はGBAW‐HFフィルタに使用される。更に本発明は,このような電気音響変換器を構成するための方法にも関する。本発明に係る変換器は,横方向への音響波の放射を低減することにより損失を低減し,横方向モードの抑制により性能を向上させるものである。
【背景技術】
【0002】
音響波,例えば表面弾性波(SAW=Surface Acoustic Wave)又は指向性バルク弾性波(GBAW=Guided Bulk Acoustic Wave)をもって動作するデバイスは,高周波(HF)信号を音響波に変換し,音響波をHF信号に逆変換するものである。この目的のために,SAW又はGBAWデバイスは電極指を含み,これら電極指は,圧電基板上又は圧電層上に配置される。縦方向,すなわち音響波が伝播する方向においては,電極指が隣接して配置され,これら電極指は,第1及び第2バスバーに交互に接続される。音響トラックとは,基板又は圧電層において,表面弾性波がデバイスの動作時に伝播する領域である。電極指は,音響トラック内に,従って音響領域内に配置される。バスバーは,音響トラックにおける側方の縁部領域に配置される。通常,音響トラックは反射器により縦方向において限定される。これにより,縦方向における音響波放射によるエネルギ損失を回避する。
【0003】
音響波デバイスにおける損失は,音響波が音響トラックから縦方向又は横方向に放射されることに起因する。
【0004】
特に,音響トラックの端部アパーチャは,回折効果に基づいて横方向音響モードを生じさせる可能性がある。このようなモードは,伝送特性を損ない,損失要因となり得るものである。音響波デバイス,特にモバイルフォンに搭載される表面弾性波フィルタの開発において重要な点は,損失要因の少ないデバイス,例えば伝送特性を損なう横方向モードを消失又は低減させて良好な伝送特性を持たせたデバイスを実現することにある。
【0005】
特許文献1(独国特許出願公開第10331323号明細書)は,横方向への振動による損失を,バスバーに凹部を配置することにより低減させたSAW変換器を開示している。
【0006】
また,特許文献2(米国特許第7576471号明細書)は,電極指の厚さを中央励起領域とバスバー領域との間の領域で増大させたSAWデバイスを開示している。しかしながら,この場合,デバイスの適用はいわゆる「弱結合」の基板に限定される。電気音響的な結合定数k2は,音響波及びHF信号の間における結合強度の指標である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第10331323号明細書
【特許文献2】米国特許第7576471号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した事情により,本発明の課題は,横方向に低い損失を示し,結合係数の高い圧電基板にも適用可能な電気音響変換器を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は,本発明によれば,独立請求項に記載されている変換器によって解決することができる。有利な実施形態は,従属請求項に記載したとおりである。
【0010】
本発明は,その第1態様において,音響トラック上に配置される電気音響変換器を提案する。この変換器は,圧電基板と,この圧電基板上に配置され,かつバスバーに交錯させて接続された電極指とを備え,これにより音響波を励起するものである。変換器は,音響波が,音響トラックに平行に延在する複数の領域内で異なる縦方向伝播速度を示す構成とされている。ここに,縦方向伝播速度とは,音響波の縦方向における速度を指す。
【0011】
この変換器は,第1の縦方向速度を示す中央励起領域を備える。中央励起領域の両側には,内縁領域が隣接して配置されている。内縁領域内における縦方向速度は,中央励起領域内における縦方向速度とは異なる。内縁領域の外側には,外縁領域が隣接して配置されている。外縁領域内における縦方向速度は,内縁領域内における縦方向速度よりも速い。外縁領域は,導波特性を有することができる。その外縁領域は,例えば結合モードをゼロに減衰させるための導波を行うに十分な幅を有する。
【0012】
外縁領域の外側には,電気音響変換器のバスバー領域が隣接して配置されている。バスバー領域内における縦方向速度は,外縁領域内における縦方向速度よりも遅い。この場合に基板は凸状スローネスを示す。スローネスは速度の逆数であり,基板を伝播する音響波の波数ベクトルkに比例する。凸状スローネスは,基板の異方性係数Γが-1よりも大きい(Γ > -1)ことと同義である。異方性係数は,次式〔数1〕で定義される。
【数1】

ここにkx2は波数ベクトルの縦方向成分,ky2は波数ベクトルの横方向成分,k02は主伝播方向への音響波の波数である。縦方向xにおける主伝播方向は,電極指の配置により規定されるものであり,電極指に直交して延在する。上式は,ky/kx << 1にほぼ対応する。
【0013】
第1態様に係る変換器の一実施形態において,内縁領域内における縦方向速度は,中央励起領域内における縦方向速度よりも遅い。
【0014】
一実施形態において,バスバー領域内における縦方向速度は,内縁領域内における縦方向速度よりも遅い。
【0015】
一実施形態において,外縁領域内における縦方向速度は,中央励起領域内における縦方向速度よりも速い。
【0016】
本発明は,その第2態様において,音響トラック上に配置される電気音響変換器を提案する。この変換器は,圧電基板と,この圧電基板上に配置され,かつバスバーに交錯させて接続された電極指とを備え,これにより音響波を励起するものである。変換器は,音響波が,音響トラックに平行に延在する複数の領域内で異なる縦方向への伝播速度を示す構成とされている。
【0017】
この変換器は,第1の縦方向速度を示す中央励起領域を備える。中央励起領域の両側には,内縁領域が隣接して配置されている。内縁領域内における縦方向速度は,中央励起領域内における縦方向速度とは異なる。内縁領域の外側には,外縁領域が隣接して配置されている。外縁領域内における縦方向速度は,中央励起領域内における縦方向速度よりも速い。電気音響変換器の外縁領域には,バスバー領域が隣接して配置されている。バスバー領域内における縦方向速度は,外側領域内における縦方向速度よりも遅い。
【0018】
バスバー領域は,当該領域内で導波を可能とするに十分な大きさを有する。すなわち,第1態様の場合とは異なり,バスバー領域は導波特性を示す。
【0019】
この場合に基板は,凹状スローネスを示す。凸状スローネスは,基板の異方性係数Γが-1よりも小さい(Γ < -1)ことと同義である。
【0020】
第2態様に係る変換器の一実施形態において,内縁領域内における縦方向速度は,中央励起領域内における縦方向速度よりも速い。
【0021】
一実施形態において,外縁領域内における縦方向速度は,内縁領域内における縦方向速度よりも速い。
【0022】
一実施形態において,バスバー領域内における縦方向速度は,中央励起領域内における縦方向速度よりも遅い。
【0023】
このような,縦方向速度を横方向で異ならせた電気音響変換器においては,縦方向速度に関する横方向プロファイルが生成され,この横方向プロファイルは,いわゆる「ピストンモード」の伝播を可能とするものである。ピストンモードとは振動モードの1種であり,その特徴は,圧電材料の原子によるその最大偏差プロファイルが,音響トラックの中央励起領域においてほぼ一定であり,外部領域においては好適には生成されないことにある。音響トラックの中央励起領域及び外部領域の間においては,最大偏差が可及的に急勾配で減少する。定量的に「良好」なピストンモードの特徴は,基本モードの重なり積分,すなわち,次式〔数2〕:
【数2】

において,横方向励起プロファイルΦ(y)及び横方向偏差プロファイルΨ(y)が可及的に大きいことにある。この積分の他の表記法は,<Φ|Ψ>である。
【0024】
ピストンモードの更なる特徴は,横方向に伝播する音響波が全く,又は可及的に僅かにしか発生しないことにある。従って,ピストンモードの実現は,音響波がその横方向への放射に際して音響トラック外に漏れる際に生じるエネルギ損失を低減すると同時に,横方向モードを抑制することによりパフォーマンスを向上させる上で効果的な手段である。
【0025】
上述した変換器によれば,従来の変換器に比べてより良好なピストンモードの生成,すなわち基本モードの重なり積分値の増加が可能である。更に,本発明に係る変換器は,結合係数の大きい圧電基板に適用することが可能である。
【0026】
音響トラックにおける中央励起領域の横方向外側に配置される複数の領域において,その縦方向速度を調整することは,大きな重なり積分値を得る上で不可欠である。
【0027】
音響トラックの中央励起領域及びバスバー領域の間における領域を,異なる縦方向速度を示す複数の領域に分割することにより,より良好に調整可能としたピストンモードが得られる。この場合,特に偏差関数の勾配が急勾配となる。
【0028】
一実施形態において,バスバー及び電極指は,クォーツよりも大きい電気音響結合係数を有する基板上に配置されている。このような圧電基板には,タンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムを使用することができる。
【0029】
「凸状」スローネスは,縦方向への波数KXに対する横方向への波数Kの比に関連する。凸状スローネスは,KYに比例する横方向スローネスが,KXに比例する縦方向スローネスの関数であり,かつ,凸関数であることを意味する。すなわち,横方向スローネスに対する縦方向スローネスの二次導関数は正である。換言すれば,KYに対するKXの二次導関数は正であり,次式〔数3〕で表される。
【数3】

【0030】
凸状スローネスを示す圧電基板は,音響波に対する焦点効果を有し,これにより音響波の横方向放射を低減するものである。
【0031】
一実施形態において,内縁領域内の電極指は,少なくとも部分的に,中央励起領域内の電極指よりも横方向に拡幅している。
【0032】
一実施形態において,内縁領域内の電極指は,少なくとも部分的に,中央励起領域内の電極指よりも横方向に減幅している。
【0033】
圧電基板上における音響波の速度は,基板の質量密度,すなわち基板上に配置されている層の質量に依存する。このような層は,電極指材料により形成される。音響波の速度は,質量密度が大きいほど遅く,質量密度を規定する材料の弾性定数が大きいほど速い。電極指を拡幅することにより,原則的に質量密度が増大する。従って,内縁領域内において電極指を拡幅することは,内縁領域内の縦方向速度を遅延させる上で,簡単ではあるが効果的な手段である。材料によっては,質量密度により速度を速めることもできる。(このことは,例えばAl2O3又はダイヤモンドにより達成される。何れの材料も,比較的軽量であるが,高い剛性を有する。)
【0034】
同様に,電極指を減幅させ又は拡幅させることにより,速度を増減させることができる。
【0035】
一実施形態においては,内縁領域内の電極指幅が,少なくとも部分的に,横方向で線形的に変化している。電極指がステップ状ではなく線形的に変化することにより,偏差プロファイルだけでなくピストンモードの生成に関しても設計自由度が高まる。この場合,電極指は,内側から外側に向け拡幅又は減幅させることができる。
【0036】
一実施形態において,内縁領域内の電極指は,中央励起領域内の電極指よりも,横方向に少なくとも部分的に高く又は低く形成されている。電極指を拡幅させ又は減幅させることによっても質量密度を変化させ,より良好なピストンモードが得られる。
【0037】
一実施形態において,中央励起領域内の電極指は,内縁領域内の,外縁領域内の,又はバスバー領域内の電極指よりも高く形成され,より厚いメタライゼーションを有する。電極指の拡幅化又は減幅化は,材料パラメータに応じて,やはり質量密度の変化を可能とする。電極指厚を調整することにより,音響波の速度を容易に調整することができ,より良好なピストンモードが得られる。
【0038】
一実施形態においては,電極指の高さが変化する。すなわち,内縁領域内の基板上における電極層の厚さが,横方向で少なくとも部分的にステップ変化する。
【0039】
電極指及びバスバーは通常,堆積プロセス(例えば,リフトオフ法又はエッチング法)により圧電基板上に設けられる。その際,電極指を線形的に変化させることは一般的な方法では実現できない。電極指をステップ変化させる場合,段差を十分に小さくすれば好適な線形形状が得られる。
【0040】
一実施形態において,内縁領域内の電極指の高さは横方向で,すなわち外側又は内側において,少なくとも部分的に,線形的に増加する。ステップ状に変化させた厚さによる線形化が不十分であれば,層厚に関する線形関数又は他の連続関数は,堆積プロセスに際して材料のジェットを空間的に不均一とし,かつ堆積速度が基板の異なる領域で相違させることにより得られる。この場合,堆積速度の勾配は空間的な連続関数である。
【0041】
一実施形態においては,内縁領域内の電極指の側面部に,電極材料とは異なる導電性材料又は誘電性材料が配置されている。更に,電極指に配置されているこのような材料により,音響波の速度を,異なる質量密度に基づいて調整することが可能となる。
【0042】
変換器の一実施形態においては,誘電性材料が内縁領域内の電極指及び電極指間に配置されている。すなわち,例えばリフトオフ法又はエッチング法によりパターン化されたレール状の誘電性材料を,縦方向に電極指全体にわたって配置することができる。これにより質量密度が,従って縦方向速度が容易に調整可能となる。
【0043】
一実施形態においては,酸化ハフニウム又は酸化タンタルが,電極指又は電極指間に配置されている。
【0044】
酸化ハフニウム及び酸化タンタルは,比重が高い化合物であり,従って音響波の速度変化に大きな影響を及ぼす。更に,これらの化合物は絶縁材であるため,異なる極性を有する電極指間での短絡が防止される。
【0045】
ハフニウム又はタンタルも,すなわち金属自体も,速度を低下させる。それ故に,これら金属が電極,バスバー,スタブ状電極指又は電極指に配置されるのである。
【0046】
この場合,伝播速度は異方性に基づいて,伝播方向に焦点効果が生じるよう調整することができる。
【0047】
一実施形態においては,外縁領域内における縦方向速度が,中央励起領域内における縦方向速度よりも速い。
【0048】
一実施形態においては,内縁領域内における縦方向速度が,バスバー領域内における縦方向速度よりも速い。
【0049】
一実施形態においては,両内縁領域内における縦方向速度.両外縁領域内における縦方向速度,更にはバスバー領域内における縦方向速度が,それぞれ同一とされている。
【0050】
一実施形態においては,音響波の横方向基本モードに関する励起プロファイルと,横方向への音響波の偏差プロファイルとの間の整合性が可及的に高い。すなわち,重なり積分が可及的に大きい。正規化された重なり積分値は,好適には,0.9よりも大きく,又は0.95よりも大きく,又は0.99よりも大きい。正規化された重なり積分値は,次式〔数4〕で表される。
【数4】

【0051】
一実施形態において,音響波の横方向基本モードに関する励起プロファイルは,内縁領域における位相の重み付けにより,横方向への偏差プロファイルに整合されている。この位相の重み付けは,以下のように実現される。すなわち,個別領域,例えば横方向に配置される個別領域内の電極指において,原則的にその中央部に配置される中央励起部を,他の領域内における電極指の中央励起部に対して縦方向にシフトさせることにより実現される。このようなシフトは,電極指の拡幅部又は減幅部を,縦方向で電極指の中央部に対して非対称的に配置することにより実現される。
【0052】
電極指において中央励起部をシフトさせることにより,それまでの音響波の厳密な伝播経路に対する不整合,音響波の波長に対する不整合,更には中央励起部に対する不整合が生じ,複数の領域内における横方向の励起強度が減衰される。これにより,電気音響変換器の設計に当たり,励起プロファイルを調整し,従ってピストンモードを調整する上での自由度を更に高めることができる。
【0053】
一実施形態において,電極指又はスタブ状電極指は,誘電体層により被覆されている。この電気音響変換器の実施形態においては,誘電体層がSiO2で構成されている。更に,二酸化ケイ素は,基板における弾性要素の温度ドリフトを補償する上で適している。
【0054】
一実施形態において,電気音響変換器は,音響波が圧電層と圧電層上に配置された誘電体層との間を伝播するGBAWデバイスとして構成されている。
【0055】
一実施形態において,外縁領域の幅は,一方の電極における電極指端部と他方の電極における電極指端部との間の横方向間隔,すなわちバスバー自体の間隔により規定されている。このような実施形態においては,電気音響変換器にスタブ状電極指が設けられていない。代替的に,スタブ状電極指をバスバー領域に配置することが可能であり,その場合には質量密度を適切に調整することが可能である。スタブ状電極指とは,対向する電極の電極指に接触せず,従って縦方向に音響波を実質的に励起しない電極指を指す。
【0056】
凸状スローネスにおける中央励起領域及び外縁領域の間隔,又は,凹状スローネスにおける中央励起領域及びバスバー領域の間隔に対応する間隔Wは,次式〔数5〕で表される。
【数5】

【0057】
ここにfは動作周波数,ΔνAB=|νzABAB|,ΔνRB=|νzAB−νRB|,νzABは中央励起領域内における速度である。
【0058】
凸状スローネスの場合,νRBは内縁領域内における縦方向速度,νABは外縁領域内における縦方向速度である。
【0059】
凹状スローネスの場合,νRBは内縁領域内及び外縁領域内における平均速度,νABはバスバー領域内の速度である。
【0060】
一実施形態において,内縁領域の幅は,外縁領域の幅よりも実質的に広く設定されている(例えば2倍,5倍又は10倍)。
【0061】
凹状スローネスの場合,バスバー領域の幅は,次式〔数6〕の幅以上とすることができる。
【数6】

ここにkyABは次式〔数7〕で表される。
【数7】

【0062】
凸状スローネスの場合,外縁領域の幅は,次式(数8)と同等以上とすることができる。
【数8】

ここにkyABは次式〔数9〕で表される。
【数9】

【0063】
一実施形態において,外縁領域の幅は,横方向に,一方の電極における電極指の先端部と,他方の電極におけるバスバーに接続されたスタブ状電極指の先端部との間隔により規定されている。
【0064】
一実施形態において,電気音響変換器は,音響トラックを縦方向で限定する反射器を含み,かつ音響波共振器の一部として構成されている
【0065】
音響トラックを縦方向に限定する反射器の間には,更なる電気音響変換器を配置してもよい。この場合,少なくとも1個の変換器は,HF信号を音響波に変換する入力側変換器として機能し,他の少なくとも1個の変換器は,音響波をHF信号に変換する出力側変換器として機能する。
【0066】
一実施形態においては,音響波共振器が,音響トラックを縦方向に限定する反射器を含む。反射器の少なくとも1個は,音響波の横方向速度プロファイルとして,変換器と同一のプロファイルを示す。
【0067】
一実施形態においては,変換器が反射器と共に圧電基板上に配置されている。その反射器は,横方向において変換器の電極指と同一構造の反射指を有する。
【0068】
本発明は,その第3態様において,音響トラック上に配置される電気音響変換器を提案する。この変換器は,圧電基板と,この圧電基板上に配置され,かつバスバーに交錯させて接続された電極指とを備え,これにより音響波を励起する。変換器は,音響波が,音響トラックに平行に延在する複数の領域内で異なる縦方向伝播速度を示す構成とされている。ここに縦方向伝播速度とは,音響波の縦方向への速度を指す。
【0069】
この態様に係る変換器は,第1の縦方向速度を示す中央励起領域を備える。中央励起領域の両側には,外縁領域が隣接して配置されている。外縁領域内における縦方向速度は,中央励起領域内における縦方向速度とは異なる。バスバー領域の外側には,電気音響変換器の外縁領域が隣接して配置されている。電気音響変換器のバスバー領域内における縦方向速度は,外縁領域内における縦方向速度よりも遅い。電極構造を有する基板は,自己焦点スローネスを示す。自己焦点スローネスは,基板が示す異方性係数Γが-1にほぼ等しい(Γ = -1)ことと同義である。
【0070】
以下,本発明に係る変換器の更なる特徴について述べる。これらの特徴に基づいて,より良好なモードを生成する音響波変換器が得られる。
【0071】
本発明に係る変換器は,中央励起領域と,所要に応じて中央励起領域の両側に隣接して配置される内縁領域と,所要に応じて内縁領域の外側に隣接して配置されるギャップ領域と,所要に応じてギャップ領域の外側に隣接して配置される外縁領域と,ギャップ領域又は外縁領域が配置された場合にその外側に隣接して配置されるバスバー領域とを備える。ギャップ領域の特徴は,少なくとも一方の電極において,当該ギャップ領域内で電極指が終端することにある。
【0072】
変換器内を伝播する音響波の縦方向への伝播速度は,異なる領域内で適切に調整し,これによりピストンモードを得るものである。このピストンモードを得るために,例えば内縁領域内の,ギャップ領域内の,外縁領域内の,又はバスバー領域内の波長λごとに質量密度を適切に調整することができる。質量密度の調整は,凸状スローネス(Γ > -1),凹状スローネス(Γ < -1)又は自己焦点スローネス(Γ = -1)の異方性係数を示す基板において可能とされている。質量密度を調整することにより,可及的に全音響エネルギが利用され,所望の基本モード,例えばピストンモードのみが励起される。これにより,フィルタデバイスにおける伝送機能の低下が低減され,しかも高次モードに係る電極指のせん断負荷が低減され,デバイスの耐力性が高められる。
【0073】
質量密度は,凸状スローネスを示す基板において内縁領域内で増大させることができ,また,凹状スローネスを示す基板においては以下に詳述するギャップ領域内で増大させることができる。
【0074】
質量密度は,凹状スローネスを示す基板においては外縁領域内及び中央励起領域内で増大させることもできる。
【0075】
質量密度は,凸状スローネスを示す基板においては内縁領域内で,少なくとも相対的に減少させることもできる。
【0076】
質量密度の増大は,以下の何れかの方法により実現可能とされている:
・電極指の拡幅,すなわちメタライゼーション比nを局所的に増大させる。
・好適には重い素子を配置することにより,電極指厚を増大させる。例えば,重み付け層とした金属又は誘電体を,電極層の上側,電極層の下側,又は多層構成とした電極層の間に配置する。
・ストライプ状の重み付け層とした一体的な誘電体層を,音響波伝播方向に対して平行に配置する。
・重み付け層とした一体的なストライプ状の金属又は誘電体を,誘電体被覆層上に配置する。
・音響トラックの残部における質量密度を減少させる。このことは,例えば誘電性の被覆層又は重み付け層を選択的に除去することで行う。このような選択的な除去により,除去のなされない領域における質量密度の相対的な増大につながる。
【0077】
質量密度の減少,例えば相対的減少は,以下の何れかの方法により実現可能である。
・例えば電極指厚を減少させることにより,メタライゼーション比nを減少させる。
・上述した何れかの方法により,音響トラックの残部における質量密度を増大させる。
【0078】
凸状スローネスを示す基板の場合,内縁領域内の質量密度を増大させることができる。内縁領域は,縦方向波の波長λを単位にして0.1〜0.3λの幅とすることができ,特に0.25〜1.0λの幅とすることができる。内縁領域内のメタライゼーション比nは,0.9以下とすることができ,かつ内縁領域内にわたって変化させることができる。
【0079】
重金属,例えば銅,金,銀,プラチナ,タングステン,タンタル,パラジウム又はモリブデン又は酸化タンタル,例えばTa2O5等の重い誘電体で重み付け層を構成し,この重み付け層を内側領域内の例えば電極指に配置することができる。このような重み付け層の層厚は,電極指厚の5%〜200%とすることができる。重み付け層は,単体要素又は合金より成る1つ又は複数の層で構成することができる。デバイス及び重み付け層の間におけるより良好な機械的結合のための1つ又は複数の接着層は,チタンで構成することができる。このような重み付け層は,電極指の下側に配置してもよい。
【0080】
上述の重み付け層は,特に電極指の上側に配置してよく,電極指と同一材料で構成することができる。重み付け層の層厚は,特に電極指厚の10%〜50%とすることができる。
【0081】
重み付け層は誘電体を含むことができ,内縁領域の全体を被覆することができる。この誘電体により,電極指間で短絡が防止される。Ta20sで構成されるこのような重み付け層の層厚は,電極指の5%〜200%とすることができる。
【0082】
内縁領域内の電極指の上側には絶縁層を配置することができ,その上部に層厚が10nm〜1μmの重み付け層を内縁領域全体にわたって配置することができる。
【0083】
代替的又は付加的には,内縁領域以外の領域に誘電体層,例えばSiO2で構成される補償層を薄層化して配置することができるが,この誘電体層の層厚は最大でも内縁領域内に配置される層の10%までとされている。
【0084】
本発明に係る変換器のギャップ領域の幅は,0.5〜5.0λとすることができる。これらギャップ領域の外側に隣接して配置される外縁領域は,バスバーに接続されたスタブ状電極指を含むことができる。外縁領域の幅は,1.0〜5.0λとすることができる。
【0085】
ギャップ領域の幅は,特に0.5〜5.0λとすることができる。この場合に外縁領域は,スタブ状電極指を含まない構成でもよい。
【0086】
外縁領域のメタライゼーション比nは,0.9以下とすることができる。このような高いメタライゼーション比nとした場合,電極指の抵抗損失が低減される。
【0087】
外縁領域内の電極指は,電極指厚を基準にして,例えば5%〜200%の層厚とした重み付け層により拡幅することができる。
【0088】
内縁領域内の電気音響的な励起は,例えば位相の重み付けにより低減される。この低減のために,中央励起部,すなわち電極指における端部間の中央部を縦方向においてずらすことが可能とされている。このシフトは,規則的又は不規則的とすることができる。中央励起部のシフト量は,λを単位として0.25λ以下とする。
【0089】
電気音響的な励起特性を適切に調整することにより,より良好なピストンモードが得られる。この実現のために,メタライゼーション比nを規則的又は不規則的に分散させて調整してもよく,例えば1つの領域内で0.1〜0.9の間で変化させることができる。
【0090】
更に,本発明においては,外縁領域内の質量密度を適切に調整することも可能とされている。この調整のために,例えば外縁領域は,縦方向又は横方向に見て,互いに隣接して配置された部分領域を含む。外縁領域の外側部分領域内においては,スタブ状電極指を配置することができる。2つの外縁領域の外側部分領域の間には,内側部分領域を配置することができ,これら内側部分領域にはスタブ状電極指が配置されない。ギャップ領域の幅は,0.1〜1λとすることができ,外縁領域の内側部分領域の幅は,0.1〜3.0λとすることができ,更に外縁領域の外側部分領域の幅は,1.0〜5.0λとすることができる。外縁領域内の質量密度を増大させるために,メタライゼーション比nを0.9まで増大させることができる。
【0091】
原則的に,調整された速度を示す領域内において速度を増減させるための方法は,調整された速度を示す他の領域内においても速度を増減させるために利用することができる。
【0092】
互いに隣接して配置された内縁領域,ギャップ領域及び外縁領域の全幅は,0.1〜3.0λとすることができる。
【0093】
本発明においては,ギャップ領域内の質量密度だけを増大させることが可能とされている。ギャップ領域内の質量密度を増大させるための方法としては,内縁領域内の又は外縁領域内の質量密度を増大させるための上述の方法を利用することができる。
【0094】
より良好なピストンモードを示し,かつ音響波をもって動作するデバイスのための基板として,ニオブ酸リチウムLiNbO3(略称LN)又はタンタル酸リチウムLiTaO3(略称LT)を使用することができる。
【0095】
具体的には,特に以下の表に示す基板を使用することができる。
【表1】

【0096】
上述したオイラー角から十分の数度までシフトさせた角度を有する基板も使用に適している。
【0097】
オイラー角は,基板の結晶軸であるx軸,y軸,z軸に基づいて,以下のように規定される。
【0098】
第1角度λは,x軸及びy軸がz軸周りにシフト(回転)される角度であり,この場合にx軸はy軸方向にシフトされる。これにより,それぞれの軸は新たにx'軸,y'軸,z'軸で示される。この場合,z = z'である。
【0099】
更なるシフトにおいては,z'軸及びy'軸が角度μだけx'軸周りにシフトされる。この場合,y'軸はz'軸方向にシフトされる。これにより,それぞれの軸は新たにx''軸,y''軸,z''軸で示される。この場合,x' = x''である。
【0100】
3番目のシフトにおいては,x''軸及びy''軸がΘの角度でz``軸周りにシフトされる。この場合,x''軸がy''軸方向にシフトされる。これにより,それぞれの軸は新たにx'''軸,y'''軸,z'''軸となる。ここに,z'' = z'''である。
【0101】
X'''軸及びy'''軸は基板表面に対して平行に位置し,z'''軸は基板表面の法線である。X'''軸は,音響波の伝播方向である。
【0102】
この定義は,IEC62276規格, 2005-05, Annex Alと一致する。
【0103】
GBAW又は境界弾性波デバイスにおいては,例えば(λ=0°, μ=-75±15°, Θ=0°)のオイラー角を有するLiNbO3が使用される。
【0104】
本発明に係る変換器は,その主構成要素として,アルミニウムよりも高密度の金属,例えば銅,金,タングステン又はこれら金属による合金を含有することができる。
【0105】
本発明に係る変換器の電極又は電極指は,その主成分として,アルミニウムよりも高密度の金属,例えば銅,金,タングステン又はこれらの合金を含有することができる。
【0106】
本発明に係る変換器には,補償層を配置することが可能とされている。このような補償層は,デバイスの周波数帯に基づく温度変化を低減し,又は消失させるものである。補償層には,SiO2, SiN, AL2O3又はSiOxNyを含有することができる。更に補償層の層厚は,λを基準にして50 %以上とすることができる。
【0107】
SAWデバイス用の基板としては,例えば(λ=0°,μ=-90±3°,Θ=0°)のオイラー角を有するニオブ酸リチウムを使用することが可能とされている。
【0108】
変換器の電極は,個別的な成分で構成され,又は異なる合金で構成される複数の層を含むことができる。音響マイグレーションを低減する接着層又はバリア層は,特にチタン,酸化チタン又は窒化チタンを含有することができる。
【0109】
電極の全高は,λを基準にして4%〜7%とすることができる。全縁部領域及び中央励起領域におけるメタライゼーション比の平均値は,0.55〜0.7とすることができ,デバイスの周波数特性を実質的に規定する電極指の配置間隔は,0.8〜1.1μmとすることができる。
【0110】
平坦化されたSiO2を含有する補償層は,λを基準にして25%〜33%の層厚を有することができる。
【0111】
誘電体保護層又はトリム層(部分層)は,窒化ケイ素を含有することができる。このような保護層又はトリム層の層厚は,波長を基準にして7%以下とすることができる。
【0112】
ニオブ酸リチウムで構成される圧電基板においては,(0°, 37.85±3°, 0°)のオイラー角とすることもできる。
【0113】
電極の全高は,λを基準にして6%〜8%とすることができ,メタライゼーション比は,0.5〜0.65に調整することができ,電極指の配置間隔は,1.8〜2.1μmとすることができる。
【0114】
電極は,例えばSiO2を含有する平坦な誘電体層で被覆することができる。この誘電体層の層厚は,音響波の波長λを基準にして29%〜33%とすることができる。
【0115】
電極又はこの電極上に配置されている誘電体層は,例えばSi3N4又はSiO2を含有する付加的な誘電体保護層又はトリム層で被覆することができ,これら層厚は,音響波の波長λの5%までとすることができる。
【0116】
本発明の実施形態においては,(0°, 37.85±3°, 0°)のオイラー角を有するニオブ酸リチウム基板も使用される。
【0117】
電極の全高は,波長を基準にして6%〜12%とすることができ,メタライゼーション比は,0.5〜0.58とすることができる。
【0118】
このような電極を備える変換器は,WCDMAバンドII(1850‐1990MHz)及びバンドIII(1710‐1880MHz)のためのデュプレクサの一部を構成し得るものである。このために,動作周波数を規定する電極指の配置間隔は,0.8〜1.1μmとすることができる。
【0119】
ニ酸化ケイ素を含有する補償層の層厚は,λを基準にして30〜50%とすることができる。
【0120】
誘電体保護層又はトリム層は,窒化ケイ素を含有し,かつλを基準にして7%以下の層厚とすることができる。
【0121】
本発明の実施形態においては,内縁領域を配置することなく良好なピストンモードを得ることが可能である。このために,変換器は,内縁領域の代替として外縁領域及びギャップ領域を含むことができる。すなわち,調整された速度を示す領域数は,同一である。ギャップ領域の幅は0.1〜3.0 λとし,外縁領域の幅は1.0〜5.0 λとすることができる。
【0122】
メタライゼーション比を高めるため,波長ごとの電極指数を増やすことができる。
【0123】
誘電性を有する重み付け層又は金属で構成された重み付け層の層厚は,10nm〜1μmとすることができる。
【0124】
本発明に係る変換器の実施形態においては,内縁領域内の質量密度は,外縁領域内の質量密度又はギャップ領域内の質量密度よりも減少されている。内縁領域及びギャップ領域の全幅は,0.1〜3.0 λとすることができる。
【0125】
質量密度の減少は,メタライゼーション比nを例えば0.1以上まで減少させることにより達成されることだけでなく,誘電性を有する被覆層を1μm以下に薄層化することでも達成される。
【0126】
基板として,(0°, -48±7°, 0°)のオイラー角を有するタンタル酸リチウムを使用することができるが,オイラー角は(0°, 52 ≦ μ ≦ -35°, 0°)としてもよい。
【0127】
電極指の全高は,λを基準にして2.5〜12%とすることができ,メタライゼーション比nは0.4〜0.8とすることができ,電極指の配置間隔は0.7〜3.0μmとすることができる。
【0128】
本発明に係る変換器は,例えば窒化ケイ素を含有し,かつ層厚が波長を基準にして2%とされている誘電性保護層を含むことができる。
【0129】
音響トラックのアパーチャ幅は,10λ〜50λとすることができ,特に20λ以下とすることができる。
【0130】
アパーチャ幅と,中央励起領域,内縁領域,ギャップ領域,外縁領域又はバスバー領域におけるそれぞれの幅は,直列共振器及び並列共振器に関して異ならせてもよく,共振周波数及びアパーチャ自体により規定される。特に,異なる共振器の質量密度は,互いに相違するものであってもよい。
【0131】
本発明に係る電気音響変換器を製造するための方法は,以下のステップを含む。
・圧電基板を用意するステップ;
・基板上にバスバー及び電極指を形成するステップ;及び
・中央励起領域内の電極指材料を除去するステップ。
【0132】
この方法の一実施形態は,以下のステップを含む。
・圧電基板を用意するステップ;
・基板上にバスバー及び電極指を形成するステップ;及び
・内縁領域内の電極指材料を酸化させるステップ。
【0133】
横方向領域内における縦方向速度の調整は,横方向領域内の材料密度を適切に設定することにより実現される。原則的に,音響波の速度は,基板上の質量を増大させることにより減速され,高い剛性を有する材料(例えばAl2O3又はダイヤモンド)の密度により増速される。すなわち,質量密度を規定する材料の選択により,音響波の速度が増速されるだけでなく減速されるものでもある。
【0134】
以下,本発明に係る電気音響共振器を,添付図面に示す実施形態に基づいて詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】内縁領域内の縦方向速度が,中央励起領域内の縦方向速度よりも遅い場合の横方向速度プロファイルの説明図である。
【図2】内縁領域内の縦方向速度が中央励起領域内の縦方向速度よりも速い場合の横方向速度プロファイルの説明図である。
【図3】従来の電気音響変換器を示す略図である。
【図4】本発明に係る変換器を示す略図である。
【図5】本発明に係る変換器の代替的な実施形態を示す略図である。
【図6】本発明に係る電極指の実施形態を示す略図である。
【図7】本発明に係る電極指の他の実施形態を示す略図である。
【図8】図8a及び図8bは本発明に係る電極指の他の実施形態を示す略図,図8cは局所的拡幅部を有する電極指の断面図である。
【図9】内縁領域に材料をバスバー状に堆積させた,本発明に係る変換器の実施形態を示す説明図である。
【図10】凹状スローネスを示す基板において,kxに対するkyの依存性を示す説明図である。
【図11】本発明に係る電気音響共振器のアドミタンスを示す説明図である。
【図12】位相の重み付けの原則を示す説明図である。
【図13】外側励起領域に種々の部分領域を有する変換器を示す説明図である。
【図14】図14aは種々の縦方向領域を備える変換器を示す説明図,図14bは内縁領域の種々の幾何学的形態を示す説明図である。
【図15】図15a〜図15cは種々の縦方向領域を備える変換器を示す説明図,図15dは内縁領域の種々の形態を示す説明図である。
【図16】図16a〜図16cは種々の縦方向領域を備える変換器の実施形態を示す説明図である。
【図17】図17a〜図17eは種々の縦方向領域を備える変換器の実施形態を示す説明図である。
【図18】図18a〜図18eは種々の縦方向領域を備える変換器の実施形態を示す説明図である。
【図19】図19a〜図19fは種々の縦方向領域を備える変換器の実施形態を示す説明図である。
【図20】図20a〜図20eは種々の縦方向領域を備える変換器の実施形態を示す説明図である。
【図21】図21a〜図21eは種々の縦方向領域を備える変換器の実施形態を示す説明図である。
【図22】図22a〜図22cは種々の縦方向領域を備える変換器の実施形態を示す説明図である。
【図23】各種構成の変換器における,周波数に応じた挿入損失を示す特性図である。
【図24】凸状スローネスを示すピストンモード・デバイスの機能説明図である。
【図25】凹状スローネスを示すピストンモード・デバイスの機能説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0136】
図1は,音響トラックの横方向に互いに隣接して配置された異なる領域に関して,縦方向速度の速度プロファイルを示している。音響トラックの内側には,中央励起領域ZABが配置されている。この中央励起領域ZABの両側には,内縁領域IRBが隣接して配置されている。これら内縁領域IRB内における縦方向速度は,中央励起領域ZAB内における縦方向速度よりも遅い。更に,内縁領域IRBの外側には,外縁領域ARBが隣接して配置されている。外縁領域ARB内における縦方向速度は,内縁領域IRB内における縦方向速度よりも速く,かつ中央励起領域ZAB内における縦方向速度よりも速くすることが可能とされている。更に,外縁領域ARBの外側には,バスバー領域SBが隣接して配置され,これらバスバー領域SB内における音響波の縦方向速度は,外縁領域ARB内における縦方向速度よりも遅い。
【0137】
図2は,横方向に沿う速度プロファイルを示し,この速度プロファイルにおいては,異なる領域内における縦方向の伝播速度が描かれている。図1に示す実施形態とは異なり,図示の実施形態においては,内縁領域IRB内の縦方向速度は,中央励起領域ZAB内の縦方向速度よりも速い。ただし,中央励起領域ZAB内及び内縁領域IRB内の縦方向速度は,これら内縁領域IRBに隣接する外縁領域ARB内の縦方向速度よりも遅い。
【0138】
図3は,従来の電気音響変換器を示すものであり,この電気音響変換器の中央励起領域ZABにおいては,2個の異なる電極の電極指が互いにオーバーラップし,一方でHF信号から音響波への変換が,他方では音響波からHF信号への変換がなされる。一方の電極における電極指は,他方の極性を有するバスバーに接触してはならない。なぜなら,接触により変換器構造体に短絡が生じるからである。従って,電極指の先端部及び対向するバスバーの間には,電気音響的変換がなされない縁部領域RBが配置されている。すなわち,従来の変換器においては,原則として,各側におけるバスバー領域SB及び中央励起領域ABの間に1つの縁部領域RBのみが配置される。
【0139】
図3に示す実施形態に対して,図4は,本発明に係る実施形態を示している。中央励起領域ZABにおいては,櫛状に配置された電極指が,一方でHF信号を音響波に,他方で音響波をHF信号に変換する。中央励起領域ZABの両側には,内縁領域IRBが隣接して配置されている。内縁領域IRBの電極指は,中央励起領域ZABの電極指よりも拡幅して形成されている。内縁領域IRBにおいても,HF信号及び音響振動の間の変換がなされる。例えば電極指厚がより厚く形成されていることに基づく質量密度の増大により,内縁領域IRB内の縦方向速度は,中央励起領域ZAB内の縦方向速度よりも遅い。
【0140】
外縁領域ARBは,内縁領域IRBの外側に隣接して配置されている。外縁領域ARBにおいては,HF信号及び音響波の間の変換は活発にはなされないが,音響波は支障なく伝播可能である。外縁領域ARBにおいては質量密度が相対的に低いため,外縁領域ARB内における縦方向速度は,内縁領域IRB内,反射器内、更には中央励起領域ZAB内における縦方向速度よりも速い。
【0141】
更に,バスバー領域SBが外縁領域の外側に隣接して配置されている。これらバスバー領域SBにおいては,質量密度が他の横方向領域との対比において最大であるため,縦方向速度は最小である。
【0142】
横方向における振動モードの発生は,幅が限定されている音響トラック内の回折効果に起因する。縦方向速度に関する本発明に係る横方向プロファイル(ピストンモード)の生成により,横方向速度を有する振動モードの発生を減少させることができる。
【0143】
図5に示されている代替的な実施形態においては,図4の実施形態とは異なり,内縁領域IRBの電極指幅が,中央励起領域ZABの電極指幅よりも狭く設定されている。これにより,内縁領域IRB内における縦方向速度は,中央励起領域ZAB内における縦方向速度よりも速い。内縁領域IRBは,励起領域の一部を構成する。なぜなら,内縁領域IRBにおいては,異なる極性を有する電極指がオーバーラップしているからである。
【0144】
図6,図7,図8a及び図8bは,電極指の異なる実施形態を示すものであり,これら実施形態においては,電極指が部分的に減幅するよう(図6参照)に,又は部分的に拡幅するよう(図7参照)に,又は電極指の先端部に向け線形的に減幅又は拡幅するよう(図8a及び図8b参照)に形成されている。
【0145】
図8cは,局所的な拡幅部を有する電極指EFを,横方向に対して平行に切断した断面図で示している。拡幅部LAを適切に形成することにより,電極指EFの質量密度だけでなく,場合によっては弾性パラメータも,所望の速度プロファイルが得られるよう調整することができる。
【0146】
図9に示す実施形態においては,中央励起領域ZABの両側に隣接する内縁領域IRBにおいて,誘電性材料が電極及び指状電極の間の基板領域に配置されている。これにより,内縁領域IRB内の縦方向速度が遅くなる。
【0147】
図10は,凹状スローネスに関する虚数部(破線)及び実数部(実線)の横方向及び縦方向の波数間関係を示している。この場合にβminは,値kx,の最小値を示すものであり,これらの値において,導波される振動モードが存在し得る。βmaxは,値kx, の最大値を示すものであり,これらの値において,導波される振動モードが存在し得る。特性曲線Aは,音響トラックにおける中央励起領域の波数ベクトルを示し,特性曲線Bは,外側領域,すなわち音響トラックの外側におけるバスバー領域の波数ベクトルを示す。
【0148】
図11は,周波数に応じた3種のアドミタンス特性曲線C〜Eにおける実数部を,凸状スローネスに関して示している。特性曲線Cは,従来の変換器におけるアドミタンス特性を示し,この変換器は基本モードの共振周波数よりも高い周波数で共振する。
【0149】
特性曲線Dは,電気音響共振器のアドミタンス特性を示し,この電気音響共振器においては,中央励起領域内の縦方向速度,内縁領域内の縦方向速度,外縁領域内の縦方向速度,更にはバスバー領域内の縦方向速度が,ピストンモードに整合されている。特性曲線Dの共振器においても,特性曲線Cの共振器と同一周波数で共振が生じるが,共振振幅が急激に増大するのは,共振周波数よりおよそ25MHz以上高い帯域からである。
【0150】
特性曲線Eは,電気音響変換器に関して,アドミタンス特性の周波数に応じて計算値を示すものであり,この電気音響変換器においては,中央励起領域内の縦方向速度,内側及び外縁領域内の縦方向速度,更にはバスバー領域内の縦方向速度が,ピストンモードに整合されている。更に,この電気音響変換器においては,Γ=-1の異方性により速度の分散性が消失している。
【0151】
図12は,電極指の拡幅部による位相の重み付けに関する原則を示している。内縁領域IRBの拡幅部のうち,電極指の先端部に配置されていない拡幅部は,電極指の中心を横方向に延在する軸線に対して対称的に配置されておらず,むしろ縦方向に電極指の各中央部からずらせて配置されている。このように拡幅部がシフトしていることにより,電極指の両端部間の中央部は,音響波と「同相」ではなくなる。これにより,励起強度Φが減衰され,ピストンモードの偏差Ψに基づく最適な波数に整合される。
【0152】
音響波を整合させるための他の選択肢は,いわゆるスタブ状電極指又はダミー電極指であり,これらの電極指はバスバー領域に配置され,異なる極性を有する電極指の先端部に対向している。
【0153】
図13に示す変換器の実施形態においては,ギャップ領域TG(横方向ギャップ)が内縁領域IRBの外側に隣接して配置されている。図示の実施形態における外縁領域は,異なる部分領域ARB1〜ARB3に分割され,これら外縁領域の部分領域ARB1〜ARB3の外側にバスバーSB領域が隣接して配置されている。所望のモードにおける縦方向の伝播速度を,縦方向の異なる領域において調整することにより,明確なピストンモードを得ることが可能とされている。
【0154】
図14aに示す変換器の実施形態においては,内縁領域及び外縁領域の間にギャップ領域TGが配置されている。図示の実施形態において,ギャップ領域TGの幅は,電極指及び対向するバスバーに接続されているスタブ状電極指の間隔により規定される。電極指は,内縁領域IRBにおいて,より高いメタライゼーション比nを有している。
【0155】
図14Bは,電極指における拡幅部の異なる実施形態を示すものであり,これら拡幅部は内縁領域に形成することが可能とされている。内縁領域においては,電極指幅を線形的に拡幅又は減幅させることができる。電極指には複数の拡幅部を形成することが可能であり,これら拡幅部の間における電極指幅は相対的に減幅している。更に,楕円状に形成された拡幅部を配置してもよい。
【0156】
図15aに示す変換器の実施形態においては,内縁領域の指状電極に拡幅部が形成され,かつ重み付け層により被覆されている。
【0157】
図15bに示す変換器の実施形態においては,内縁領域の指状電極に加えて,矩形状に形成した重み付け層の部分がこれら電極指に隣接して配置されている。
【0158】
図15cに示す変換器の実施形態においては,誘電性の重み付け層により,内縁領域がその全体にわたって被覆されている。
【0159】
図15dは,内縁領域における電極指の質量密度を増大させるための他の実施形態を示している。本発明においては,重み付け層の矩形状部分を,内縁領域内の電極指に配置することが可能とされている。これら矩形状に形成した重み付け層の幅は,電極指よりも拡幅させ,又は減幅させることができるだけでなく,同一幅としてもよい。更に,内縁領域内の電極指において,その先端部を部分的に被覆する重み付け層の矩形状部分を配置することも可能である。これに加えて,重み付け層の楕円状部分を,内縁領域内の電極指に配置してもよい。
【0160】
図16aに示す変換器の実施形態においては,外縁領域ARBにスタッド状電極指が配置されている。更に,外縁領域ARBの電極指は,ギャップ領域TG及び中央励起領域ZABの電極指よりも拡幅している。内縁領域は,重み付け層の矩形状又は正方形状部分を含み,これら重み付け層の矩形状又は正方形状部分は電極指に配置されている。
【0161】
図16bに示す変換器の実施形態においては,重み付け層の矩形状部分が,外縁領域内の電極指に配置されている。
【0162】
図16cに示す変換器の実施形態においては,重み付け層の矩形状部分が,内縁領域内の電極指だけでなく外縁領域内の電極指にも配置されている。この場合,重み付け層の部分は,電極指よりも減幅している。
【0163】
図17aに示す変換器の実施形態においては,重み付け層の矩形状部分が,内縁領域内の電極指に配置されている。重み付け層のこれら部分幅は,一方の電極の電極指に関しては一定とされているが,異なる電極の電極指に対しては互いに相違している。
【0164】
図17bに示す変換器の実施形態においては,重み付け層の矩形状部分が,内縁領域及び外縁領域内の電極指に配置されている。重み付け層の部分幅は,外縁領域及び内縁領域において異なっている。内縁領域に配置された重み付け層の部分により,位相の重み付けがもたらされる。
【0165】
図17cに示す変換器の実施形態においては,内縁領域内の電極指が,中央励起領域内の電極指よりも減幅している。更に,内縁領域は,誘電性の重み付け層で被覆されている。
【0166】
図17dに示す変換器の実施形態においては,内縁領域に配置されている重み付け層の部分が,電極指に非対称的に配置されることにより,位相の重み付けをもたらす。
【0167】
図17eに示す変換器の実施形態においては,重み付け層の台形状部分が,内縁領域内の電極指に配置されている。内縁領域に配置されたこれら重み付け層の部分は,一方の電極における電極指の先端部においてはその質量密度が線形的に増大しているのに対して,他方の電極における電極指の先端部においてはその質量密度が内側から外側に減少している。
【0168】
図18aに示す変換器の実施形態においては,外縁領域が2つの部分領域に分割されている。外縁領域のうち内側部分領域の電極指厚は,中央励起領域内の電極指厚と同一である。外縁領域のうち内側部分領域内の電極指は,拡幅している。外縁領域のうち外側部分領域内の電極指厚は,中央励起領域内の電極指厚と同一である。
【0169】
図18bに示す変換器の実施形態においては,外縁領域のうち内側部分領域の各電極における電極指が,導電性材料又は誘電性材料で互いに接続されている。
【0170】
図18cに示す変換器の実施形態においては,外縁領域のうち内側部分領域内の電極指に重み付け層が配置されている。
【0171】
図18dに示す変換器の実施形態においては,電極に非接続とされ,かつ電極材料の矩形状に形成した浮遊部分が,外縁領域のうち内側部分領域に配置されている。
【0172】
図18eに示す変換器の実施形態においては,重み付け層の矩形状部分が,外縁領域のうち内側部分領域に沿って等間隔で配置されている。これら部分の配置間隔に比べた電極指の配置間隔は2倍であり,互いに異なる配置間隔とされている。
【0173】
図19aに示す実施形態においては,内縁領域IRB及び外縁領域ARBの間にギャップ領域TGが配置されている。このギャップ領域では,電極指が拡幅している。外縁領域は,内側部分領域ARB1及び外側部分領域ARB2を含む。外縁領域ARBの内側部分領域ARB1は,電極材料により完全に被覆されている。外縁領域ARBの外側部分領域ARB2の電極指は,中央励起領域ZABの電極指と同一の幅を有する。
【0174】
図19bに示す変換器の実施形態においては,外縁領域ARB及び内縁領域IRBの間にギャップ領域TGが配置されている。ギャップ領域内の電極指厚は,該ギャップ領域内の部分領域にわたって一定である。電極指厚は,この部分領域及び内縁領域の間におけるギャップ領域において,線形的に減幅している。電極指の先端部は,ギャップ領域内において,線形に終端している。
【0175】
図19cに示す変換器の実施形態においては,外縁領域ARBが,内側部分領域ARB1及び外側部分領域ARB2に分割されている。内側部分領域ARB1は,重み付け層により被覆されている。電極指は,外縁領域及び内縁領域の間において,外側から内側に向けほぼ正弦状に減幅している。電極指の先端部は,ギャップ領域において,ほぼ曲線状に形成されている。
【0176】
図19dに示す変換器の実施形態においては,外縁領域及び内縁領域の間のギャップ領域TGにおける電極指の先端部に,誘電性材料の矩形状部分が配置されている。
【0177】
図19eに示す変換器の実施形態においては,ギャップ領域TGが誘電体層により被覆されている。更に,外縁領域のうち内側部分領域が,重み付け層の矩形状に形成し,かつ等間隔で配置した部分で被覆されている。これら部分の配置間隔は,波長λの1/2以下である。
【0178】
図19fに示す変換器の実施形態においては,ギャップ領域内の電極指部分が,重み付け層により被覆されている。
【0179】
図20aに示す変換器の実施形態においては,内縁領域の代わりにギャップ領域TGが,外縁領域ARB及び中央励起領域ZABの間に配置されている。ギャップ領域TGの電極指は,拡幅している。
【0180】
図20bに示す変換器の実施形態においては,ギャップ領域TG内の外側部分領域における電極指が一定に拡幅しているが,ギャップ領域TG内の内側部分領域における電極指は,バスバー側から先端部側に向け線形的に減幅している。
【0181】
図20cに示す変換器の実施形態においては,重み付け層の矩形状部分が,ギャップ領域TGの電極指に配置されている。
【0182】
図20dに示す変換器の実施形態においては,誘電性材料の矩形状部分が,(縦方向に)ギャップ領域TGに等間隔で配置されている。これら部分の配置間隔の長さは,音響波の波長λの1/6以下である。
【0183】
図20eに示す変換器の実施形態においては,外縁領域ARB及び中央励起領域ZABの間のギャップ領域TGが,誘電性材料により完全に被覆されている。
【0184】
図21aに示す変換器の実施形態においては,外縁領域ARBが,電極指の間にスタブ状電極指を含んでいる。更に,電極指は,外縁領域において拡幅している。スタブ状電極指及び電極指の拡幅部は,ほぼ同一の厚さを有する。
【0185】
図21bに示す変換器の実施形態においては,波長λの単位長ごとに3個を一体としたスタブ状電極指が,外縁領域ARBに配置されている。
【0186】
図21cに示す変換器の実施形態においては,外縁領域が,重み付け層により完全に被覆されている。
【0187】
図21dに示す変換器の実施形態においては,外縁領域ARBの電極指が,重み付け層の矩形状部分により被覆されている。これら重み付け層の部分は,電極指よりも厚い。
【0188】
図21eに示す変換器の実施形態においては,外縁領域に,重み付け層の矩形状部分が配置されている。これら部分は,電極指及び電極間領域を等間隔で被覆するものであり,電極指よりも厚く形成されている。部分の配置間隔の長さは,音響波λの波長の1/4以下である。
【0189】
図22aに示す変換器の実施形態においては,外縁領域ARBがスタブ状電極指を含んでいる。外縁領域及び中央励起領域のメタライゼーション比は,同一である。ギャップ領域TGのメタライゼーション比は,外縁領域のメタライゼーション比よりも小さいものとされている。
【0190】
図22bに示す変換器の実施形態においては,中央励起領域内の電極指が,重み付け層の矩形状部分により被覆されている。
【0191】
図22cに示す変換器の実施形態においては,中央励起領域が誘電体層により被覆されている。更に,外縁領域ARBが,重み付け層により被覆されている。
【0192】
図23は,周波数に応じる挿入損失の特性曲線を,3個の変換器に関して示している。特性曲線1は,従来技術の変換器における挿入損失を示している。特性曲線2は,コサイン状に重み付けされている変換器における挿入損失を示している。特性曲線3は,本発明に係る変換器の挿入損失を示している。 特性曲線1には,通過帯域の周波数よりも高い周波数及び低い周波数に及ぶ共振が明示されている。特性曲線2が示す挿入損失においては,これら共振が相当程度低減されているが,特性曲線1に示されている挿入損失の最小値よりも損失度合いが大きい。本発明に係る共振器に関する特性曲線3が示す挿入損失においては,共振の発生がやはり相当程度低減され,特性曲線1が示す挿入損失に示されている最小値に近似している。
【0193】
図24は,凸状スローネスを示すピストンモード・デバイスの機能性を示している。図面の下半部は,横方向に複数の領域を有するデバイス構造の一部を示している。このデバイスは,拡幅している電極指を有する内縁領域IRBと,ギャップ領域としての外縁領域ARBと,バスバーSB領域とを備える。図面の上半部は,ピストンモード・デバイスにおける横方向の速度プロファイルv(y)及びピストンモードの偏差プロファイルΨ(y)における振幅を示す。
【0194】
内縁領域IRB内の速度は,中央励起領域ZAB内の速度よりも遅く,外縁領域ARB内の速度は,中央励起領域内の速度よりも速い。図示の実施形態において,外縁領域ARBは減衰領域として機能し,ピストンモードの速度は,この減衰領域内で外側に向け指数関数的に減衰される。結合係数の大きい基板又は重い電極を有する基板上において,ギャップ領域TGとして配置される外縁領域ARBは,特に有利である。なぜなら,互いに交錯させた電極指において,ギャップ領域を電極指ごとに互いに対面させて配置することにより,ギャップ領域及び中央励起領域ZABの間で大きな速度差が実現されるからである。このギャップ領域を減衰領域として利用することは,本発明に係るものである。外縁領域ARBの幅は,少なくともその外縁内におけるピストンモードの振幅値が,中央励起領域ZAB内におけるピストンモードの振幅値に比べて,10%に減衰される幅とするのが好適である。内縁領域IRBは,中央励起領域ZAB内におけるピストンモードの偏差プロファイルが示すほぼ線形な振幅Ψ(y)変化を,外縁領域ARB内における指数関数的な振幅Ψ(y)変化に整合させるために機能する。この整合化のために,適切な幅Wが選択される。
【0195】
図25は,凹状スローネスを示すピストンモード・デバイスの機能性を示している。図面の下半部は,横方向に複数の領域を有するデバイス構造の一部を示している。このデバイスは,減幅している電極指を有する内縁領域IRBと,ギャップ領域としての外縁領域ARBと,バスバーSB領域とを備える。図面の上半部は,ピストンモード・デバイスにおける横方向の速度プロファイルv(y)及びピストンモードにおける偏差プロファイルΨ(y)の振幅を示す。内縁領域IRB内の速度は,中央励起領域ZAB内の速度よりも速く,外縁領域ARB内の速度は,中央励起領域ZAB内の速度よりも更に速い。図示の実施形態において,バスバー領域SBは減衰領域として機能し,ピストンモードの速度は,この減衰領域内で外側に向け指数関数的に減衰される。バスバー領域SBのメタライゼーションはギャップなく連続的に形成されているため,このメタライゼーションの層厚を厚くし,かつ結合係数を大きくした場合,増大された質量負荷により,中央励起領域ZAB内に対してバスバー領域SB内で大幅な速度減衰が実現される。バスバー領域SBの幅は,少なくともその外縁内におけるピストンモードの振幅値が,中央励起領域ZAB内におけるピストンモードの振幅値に比べて,10%に減衰される幅とするのが好適である。内縁領域IRB及び外縁領域ARBは共に,中央励起領域ZAB内におけるピストンモードの偏差プロファイルが示すほぼ線形な振幅Ψ(y)推移を,バスバー領域ARB内における指数関数的な振幅Ψ(y)推移に整合させるために機能する。この整合化のために,適切な幅Wが選択される。この幅Wは,内縁領域IRB及び外縁領域ARBを総合した幅に対応する。
【0196】
本発明に係る電気音響変換器は,上述した何れかの実施形態に限定されるものではない。例えば,横方向に配置された更なる速度領域や,適切に形成された電極指を含む代替案,又は異なる実施形態による組み合わせも,本発明の実施形態に含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0197】
ARB 外縁領域
ARB1〜3 外縁領域の部分領域
A 励起領域内の波数ベクトル
B 外側領域内の波数ベクトル
C〜E 各種アドミタンス特性曲線の実数部
1〜3 各種アドミタンス特性曲線の実数部
EF 電極指
IRB 内縁領域
LA 局所的な拡幅部
LASB バスバー領域
TG ギャップ領域
ZAB 中央励起領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響トラック上に配置された電気音響変換器であって,該電気音響変換器は,
圧電基板と,
該圧電基板上に配置され,音響波を励起するためにバスバーに接続され,かつ互いに交錯させた電極指(EF)を有する2個の電極とを備え,
前記電気音響変換器は,前記音響トラックに対して平行に延在する複数の領域(ZAB, IRB, ARB, SB)において,音響波が縦方向に異なる伝播速度で伝播するよう構成され,前記複数の領域(ZAB, IRB, ARB, SB)が,
・第1縦方向速度を示す中央励起領域(ZAB),
・前記中央励起領域(ZAB)が示す第1縦方向速度とは異なる速度を示し,かつ前記中央励起領域の両側に隣接する内縁領域(IRB),
・縦方向速度が前記内縁領域(IRB)内よりも速く,かつ該内縁領域(IRB)の外側に隣接する外縁領域(ARB),及び
・縦方向速度が前記外縁領域(ARB)内よりも遅く,かつ該外縁領域(ARB)の外側に隣接するバスバー領域(SB)を含み,
次式:kx2 + (1 + Γ)k2 = k02 及び Γ>-1を満足し,
ここに,kxは波数ベクトルの縦方向成分,kは波数ベクトルの横方向成分,k0は主伝播方向への波数ベクトルである,
ことを特徴とする電気音響変換器。
【請求項2】
音響トラック上に配置された電気音響変換器であって,該電気音響変換器は,
圧電基板と,
該圧電基板上に配置され,音響波を励起するためにバスバーに接続され,かつ互いに交錯させた電極指(EF)を有する2個の電極とを備え,
前記変換器は,前記音響トラックに対して平行に延在する複数の領域(ZAB, IRB, ARB, SB)において,音響波が縦方向に異なる伝播速度で伝播するよう構成され,前記複数の領域(ZAB, IRB, ARB, SB)が,
・第1縦方向速度を示す中央励起領域(ZAB),
・前記中央励起領域(ZAB)が示す第1縦方向速度とは異なる速度を示し,かつ前記中央励起領域の両側に隣接する内縁領域(IRB),
・縦方向速度が前記中央励起領域(ZAB)内よりも速く,かつ該内縁領域(IRB)の外側に隣接する外縁領域(ARB),及び
・縦方向速度が前記外縁領域(ARB)内よりも遅く,かつ該外縁領域(ARB)の外側に隣接するバスバー領域(SB)を含み,
次式:kx2 + (1 + Γ)k2 = k02及びΓ < -1を満足し,
ここに,kxは波数ベクトルの縦方向成分,kは波数ベクトルの横方向成分,k0は主伝播方向への波数ベクトルである,
ことを特徴とする電気音響変換器。
【請求項3】
請求項1に記載の電気音響変換器であって,前記内縁領域(IRB)内の縦方向速度が,前記中央励起領域(ZAB)内の縦方向速度よりも遅い電気音響変換器。
【請求項4】
請求項2に記載の電気音響変換器であって,前記内側領域(IRB)内の縦方向速度が,前記中央励起領域(ZAB)内よりも速い電気音響変換器。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,前記バスバー及び前記電極指(EF)が前記圧電基板上に配置され,該圧電基板は,クォーツよりも高い電気音響結合係数を有している電気音響変換器。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,前記電極指(EF)は,少なくとも横方向に沿う部分が,前記内縁領域(IRB)内で,前記中央励起領域(ZAB)におけるよりも拡幅している電気音響変換器。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,前記電極指(EF)は,少なくとも横方向に沿う部分が,前記内縁領域(IRB)内で,前記中央励起領域(ZAB)内におけるよりも減幅している電気音響変換器。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,前記電極指(EF)は,少なくとも横方向に沿う部分の幅が,前記内縁領域(IRB)内で線形的に変化している電気音響変換器。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,前記電極指(EF)は,少なくとも横方向に沿う部分が,前記内縁領域(IRB)内で,前記中央励起領域(ZAB)内におけるよりも高い電気音響変換器。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,前記電極指(EF)は,前記中央励起領域(ZAB)内で,前記内縁領域(IRB),前記外縁領域(ARB)又は前記バスバー領域(SB)内におけるよりも高い電気音響変換器。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,前記電極指(EF)の高さは,前記内縁領域(IRB)内で,少なくとも横方向に沿う部分においてステップ変化している電気音響変換器。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,前記電極指(EF)の高さは,前記内縁領域(IRB)内で,少なくとも横方向に沿う部分において線形的に増加している電気音響変換器。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,前記内縁領域(IRB)における前記電極指(EF)の少なくとも側面部には,電極材料とは異なる導電性材料又は誘電性材料が配置されている電気音響変換器。
【請求項14】
請求項1〜13の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,誘電性材料が,前記内縁領域(IRB)内の前記電極指(EF)上,及び電極指間に配置されている電気音響変換器。
【請求項15】
請求項1〜14の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,酸化ハフニウム又は酸化タンタルが,前記電極指(EF)上,及び電極指間に配置されている電気音響変換器。
【請求項16】
請求項1〜15の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,前記外縁領域(ARB)内の縦方向速度は,前記中央励起領域(ZAB)内よりも速い電気音響変換器。
【請求項17】
請求項1〜16の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,前記内縁領域(IRB)内の縦方向速度は,前記バスバー領域(SB)内よりも速い電気音響変換器。
【請求項18】
請求項1〜17の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,
・両内縁領域(IRB)内の縦方向速度が同一であり,
・両外縁領域(ARB)内の縦方向速度が同一であり,更に
・両バスバー領域内の縦方向速度が同一である,
電気音響変換器。
【請求項19】
請求項1〜18の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,音響波の横方向励起プロファイル及び音響波基本モードの横方向偏差プロファイルは,互いに可及的に一致させている電気音響変換器。
【請求項20】
請求項1〜19の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,音響波基本モードの横方向励起プロファイルが,前記内縁領域(IRB)内の重み付けにより横方向偏差プロファイルに適合している電気音響変換器。
【請求項21】
請求項1〜20の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,前記電極指(EF)又は前記バスバーが誘電体層により被覆されている電気音響変換器。
【請求項22】
請求項1〜21の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,前記電極指(EF)又は前記バスバーがSiO2層により被覆されている電気音響変換器。
【請求項23】
請求項1〜22の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,該電気音響変換器がGBAWデバイスとして構成されている電気音響変換器。
【請求項24】
請求項1〜23の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,前記外縁領域(ARB)の幅が,1つの電極における前記電極指(EF)の端部と,他の電極におけるバスバーとの間の横方向間隔により規定されている電気音響変換器。
【請求項25】
請求項24に記載の電気音響変換器であって,前記外縁領域(ARB)の幅が,1つの電極における前記電極指(EF)の端部と,他の電極におけるバスバーに接続されたスタブ状電極指の端部との間の横方向間隔により規定されている電気音響変換器。
【請求項26】
請求項1〜25の何れか一項に記載の電気音響変換器であって,音響波で動作する共振器部分が,前記音響トラックを縦方向に閉じ込める反射器として構成されている電気音響変換器。
【請求項27】
請求項26に記載の電気音響変換器であって,前記反射器は,前記変換器と同一の音響波横方向速度プロファイルを有している電気音響変換器。
【請求項28】
請求項27に記載の電気音響変換器であって,前記反射器は反射指を有し,該反射指は,横方向において,前記変換器の電極指(EF)と同一構造を有している電気音響変換器。
【請求項29】
音響トラック上に配置された電気音響変換器であって,該電気音響変換器は,
圧電基板と,
該圧電基板上に配置され,音響波を励起するためにバスバーに接続され,かつ互いに交錯させた電極指(EF)を有する2個の電極とを備え,
前記変換器は,前記音響トラックに対して平行に延在する複数の領域(ZAB, IRB, ARB, SB)において,音響波が縦方向に異なる伝播速度で伝播するよう構成され,前記複数の領域(ZAB, IRB, ARB, SB)が,
・第1縦方向速度を示す中央励起領域(ZAB),
・前記中央励起領域(ZAB)が示す第1縦方向速度とは異なる速度を示し,かつ前記中央励起領域の外側に隣接する外縁領域(ARB),及び
・縦方向速度が前記外縁領域(ARB)内よりも遅く,かつ該外縁領域(ARB)の外側に隣接するバスバー領域(SB)を含み,
次式:kx2 + (1 + Γ)k2 = k02及びΓ = -1を満足し,
ここに,kxは波数ベクトルの縦方向成分,kは波数ベクトルの横方向成分,k0は主伝播方向への波数ベクトルである,
ことを特徴とする電気音響変換器。
【請求項30】
請求項1〜29の何れか一項に記載の電気音響変換器を製造するための方法であって,
・圧電基板を用意するステップと,
・前記圧電基板上にバスバー及び電極指(EF)を形成するステップと,
・中央励起領域(ZAB)における電極指材料を除去するステップと,
を含む方法。
【請求項31】
請求項1〜29の何れか一項に記載の電気音響変換器を製造するための方法であって,
・圧電基板を用意するステップと,
・前記圧電基板上にバスバー及び電極指(EF)を形成するステップと,
・内縁領域において,電極指材料を酸化させるステップと,
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図8c】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14a】
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【図14b】
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【図15a−15c】
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【図15d】
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【図16a−16c】
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【図17a−17c】
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【図17d−17e】
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【図18a−18c】
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【図18d−18e】
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【図19a−19c】
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【図19d−19f】
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【図20a−20c】
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【図20d−20e】
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【図21a−21c】
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【図21d−21e】
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【図22a−22c】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公表番号】特表2013−518455(P2013−518455A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549265(P2012−549265)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/063562
【国際公開番号】WO2011/088904
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WCDMA
【出願人】(510263560)エプコス アーゲー (28)
【氏名又は名称原語表記】EPCOS AG
【Fターム(参考)】