説明

横編機の選針システム、セレクタ、および横編機

【課題】従来よりも安定的に選針を行なうことができる横編機の選針システムを提供する。
【解決手段】編針200の一部を構成するセレクタ4と、針床100の長手方向に往復するキャリッジ300に設けられる選針装置2と、を備える選針システム1である。セレクタ4は、歯口側とは反対側の尾端側に伸びる接極子43と弾性脚片44と、を備える。また、選針装置2は、選針アクチュエーター10と、割り込みカム20と、を備える。割り込みカム20は、選針アクチュエーター10に対向する位置に迫り出して設けられ、キャリッジ300が針床100上を走行したとき、セレクタ4の接極子43と弾性脚片44との間に割り込んで両者43,44の間隔を拡げる。その結果、セレクタ4は、割り込みカム20が設けられるキャリッジ300に支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来構成よりも選針ミスが生じ難い横編機の選針システムと、その選針システムを用いた横編機、および選針システムの一部を構成するセレクタに関する。
【背景技術】
【0002】
横編機は、少なくとも前後一対の針床と、各針床に並列される多数の針溝のそれぞれに配置される編針と、針床の長手方向(針溝の延伸方向と直交する方向)に沿って往復運動するキャリッジとを備える。キャリッジには編成カムが搭載されており、この編成カムにより編針に編成動作(ニット、タック、ミス、および前後の針床間での編目の受け渡し)を行なわせる。各編針にどのような編成動作を行なわせるかは、選針システムによって編針を選針することで決定される。このような選針システムとして、電磁選針方式を採用したものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
図7は、従来の電磁選針方式の選針システムを説明するための説明図であって、針床の横断面におけるセレクタ近傍を示す。この図7では、紙面奥行き方向にキャリッジ300が往復する。そのキャリッジ300の往復の際、針床100の針溝101に配置される編針201が選針され、その選針結果に基づいて編針201が針溝101の延伸方向(紙面左右方向)に移動して編成を行なう。この図7の選針システムは、各編針201に備わるセレクタ9と、キャリッジ300に設けられる選針装置2Tと、で構成される。
【0004】
編針201は、フックを有する針本体(図示略)と、針本体を針溝101の延伸方向に進退させるニードルジャック7と、ニードルジャック7を進退させるか否かを制御するセレクトジャック8と、針溝101の延伸方向におけるセレクトジャック8のポジションを変化させるセレクタ9とを有する。セレクトジャック8のポジションに応じて、ニードルジャック7に備わる編成用バット71とスライダに備わる駆動用バット(図示略)に対する編成カム30の作用状態が変化し、編針201の編成動作も変化する。
【0005】
セレクトジャック8は、針溝101の延伸方向に次の三つのポジション(B,H,A)をとり得る(横編機によっては二つの場合もある)。例えば、Bポジションはミス編成に対応する。Hポジションは、上記Bポジションよりも歯口側(紙面右側)のポジションであって、タック編成または目移しに対応する。Aポジションは、Hポジションよりも歯口側のポジションであって、ニット編成または目移しに対応する。これらのポジションは、セレクトジャック8の尾端側(歯口側とは反対側)にある二股に分かれた位置保持部82により維持される。位置保持部82には、三つの凹部が形成されており、各凹部に針床100の長手方向(紙面奥行方向)に伸びるワイヤ8wが係合することで、セレクトジャック8の位置決めがなされる。
【0006】
上記セレクトジャック8のポジションを変えるセレクタ9は、基体91と、基体91の歯口側に設けられる先端部92と、基体91の尾端側に設けられる接極子93と、基体91から尾端側に伸びる弾性脚片94と、を備える。また、接極子93の上端側(紙面上方側で針床101の表面側)には上げ用バット95が設けられ、基体91の上端側には下げ用バット96が設けられている。セレクタ9は、後述する選針カム39が上げ用バット95に作用することで歯口側に移動し、その先端部92でセレクトジャック8のバット81を歯口側に押圧して、セレクトジャック8をBポジションからHポジションまたはAポジションに移動させる。その後、セレクタ9は速やかにBポジションに戻され、次の選針に備える。なお、セレクタ9は常時は、Bポジションにあって、セレクタ9の上げ用バット95は、針溝101から突出した状態にある。
【0007】
一方、選針装置2Tは、セレクタ9の各バット95,96に対向する選針カム39と、セレクタ9の接極子93の下端面(被吸着端面93s)に対向する選針アクチュエーター10と、を備える。選針アクチュエーター10には、永久磁石が露出する吸着面10sが設けられており、この吸着面10sにセレクタ9の接極子93(被吸着端面93s)を吸着できるようになっている。ここで、吸着面10sには、その幅方向(紙面奥行方向)に二つの離脱領域が設定されており、その離脱領域では、選針アクチュエーター10へ通電することで発生する電磁力の作用によって永久磁石による磁力が弱められるようになっている。
【0008】
上記構成を備える横編機で編成を行なう場合、キャリッジが針床100上を走行して選針アクチュエーター10がセレクタ9に近づくと、選針アクチュエーター10の吸着面10sがセレクタ9の接極子93を吸着し(図7には吸着される前の状態が示されている)、上げ用バット95を針溝101内に沈み込ませる。この状態がいわゆる非選針状態である。選針アクチュエーター10への通電を行なわなければ、選針カム39は上げ用バット95に作用することができず、セレクタ9は歯口側に移動せずにBポジションに維持される。
【0009】
これに対して、セレクタ9の接極子93が吸着された状態でキャリッジが走行し、接極子93が吸着面93sの離脱領域に差しかかる際、選針アクチュエーター10への通電が行なわれると、接極子93は吸着面10sから離脱する。そうなると、セレクトジャック8の位置保持部82の上端面に当接する弾性脚片94の弾発力によって上げ用バット95が針溝101から浮上し、その上げ用バット95に選針カム39が作用できる選針状態になる。選針カム39がセレクタ9の上げ用バット95に作用すると、セレクタ9が歯口側に移動すると共に、セレクタ9の先端部92がセレクトジャック8の上げ用バット81を歯口側に押し出して、セレクトジャック8のポジションも変更される。なお、二つある離脱領域のどちらで接極子93を吸着面10sから離脱させるかによって、セレクタ9(セレクトジャック8)のポジションが変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3459514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年では、横編機における更なる編成効率の向上が望まれており、既存の選針システムを見直すことが検討されている。
【0012】
図7の選針装置では、編成速度を速くした場合、キャリッジ300の走行に伴うキャリッジ300と針床100の間隔の微小な変動によって、吸着面10sに対する接極子93の吸着と離脱が不安定となり、選針ミスが生じる恐れがある。それは、セレクタ9の接極子93が吸着面10sに吸着される際、セレクタ9が針床100とキャリッジ300の両方に支持されるからである。ここで、弾性脚片94の弾発力を発生させるバネ支点94bは、セレクタ9の弾性脚片94が当接するセレクトジャック8の位置保持部82の上面に位置しており、キャリッジ300の走行に伴って接極子93を針溝101から浮上させる方向に作用する弾性脚片94の弾発力が小刻みに変動して、上記吸着と離脱が不安定になる。
【0013】
また、図示する構成では、バネ支点94bの位置と接極子93の被吸着端面93sの位置とが針溝101の長手方向にズレているため、バネ支点94b回りに大きなモーメントが生じ易い。そのことも、吸着面10sに対する接極子93の吸着と離脱が安定しない要因である。
【0014】
その他、横編機をファインゲージ化したとき、セレクタ9の接極子93の幅が細くなり、被吸着端面93sの面積が小さくなる。その場合もやはり、吸着面10sに対する接極子93の吸着と離脱が不安定になる
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、従来よりも安定的に選針を行なうことができる横編機の選針システム、およびその選針システムに用いられるセレクタを提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記横編機の選針システムを適用した横編機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明横編機の選針システムは、横編機の針床の長手方向に並列される複数の針溝のそれぞれに配置される編針の一部を構成するセレクタと、前記針床の長手方向に往復するキャリッジに設けられ、前記針溝の延伸方向に沿ったセレクタのポジションを変更することで、前記編針に行なわせる編成動作を変化させる選針装置と、を備える。選針装置は、磁力によってセレクタの一部を吸着する吸着面に前記セレクタの一部を吸着させたままとするか、その吸着面から離脱させるかによって前記針溝の深さ方向における前記セレクタの位置を変化させることで、前記編針を選針する選針アクチュエーターを有する。この本発明選針システムのセレクタは、基体と、前記基体のうち、前記針床の歯口側に設けられる先端部と、前記基体のうち、前記歯口側とは反対側の尾端側に設けられ、かつ前記選針アクチュエーターの吸着面に対向して配置される接極子と、前記先端部に繋がり、前記尾端側に伸びる弾性脚片と、を備える。また、本発明選針システムの選針装置は、前記選針アクチュエーターに加え、前記選針アクチュエーターに対向する位置に迫り出して設けられ、前記キャリッジが前記針床上を走行したとき、前記セレクタの接極子と弾性脚片との間に割り込んで両者の間隔を拡げ、前記接極子を前記選針アクチュエーターの吸着面に吸着させる割り込みカムを備える。以上の構成を備える本発明横編機の選針システムでは、前記割り込みカムが前記セレクタを通過する間中、前記セレクタの弾性脚片は割り込みカムに当接し、その当接によって前記セレクタは前記割り込みカムに支持される。
【0017】
本発明横編機の選針システムの一形態として、前記セレクタの弾性脚片に設けられる当接部は、前記針溝の延伸方向における前記接極子の形成範囲内に配置されていることが好ましい。ここで、当接部とは、前記セレクタの弾性脚片のうち、前記割り込みカムに当接する部分であり、前記接極子を弾性脚片に近づく方向に付勢する弾発力を発生させるバネ支点となる部分のことである。
【0018】
本発明横編機の選針システムの一形態として、前記選針アクチュエーターは、前記針床の上面側から前記セレクタの接極子に臨むように前記キャリッジに設けられていることが好ましい。
【0019】
本発明横編機の選針システムの一形態として、前記セレクタの接極子のうち、前記選針アクチュエーターに吸着される被吸着端面と反対側には、上げ用バットが形成されており、前記割り込みカムには、前記上げ用バットに作用して、前記セレクタを前記歯口側に進出させるためのガイドが形成されていることが好ましい。
【0020】
一方、本発明セレクタは、横編機の針床の長手方向に並列される針溝のそれぞれに配置される編針の一部を構成する部材であり、前記針溝の延伸方向に沿ったポジションによって、前記編針が行なう編成動作を決定する部材である。この本発明セレクタは、基体と、前記基体の長手方向の一端側に設けられる先端部と、前記基体の長手方向の他端側に設けられる接極子と、前記先端部に繋がり、前記他端側に向かって伸びる弾性脚片と、を備える。そして、このセレクタの弾性脚片は、前記接極子と弾性脚片との間に横編機のキャリッジに固定される部材を介在させたときにその部材に当接し、前記接極子を前記弾性脚片に近づく方向に付勢する弾発力を発生させるバネ支点となる当接部を有する。
【0021】
本発明横編機は、少なくとも前後一対の針床を備え、当該針床に並列される複数の針溝のそれぞれに設けられる編針によって編成を行なう横編機であり、本発明横編機の選針システムを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明横編機の選針システムおよび横編機によれば、選針アクチュエーターの吸着面に対するセレクタの接極子の吸着と離脱を、従来構成よりも安定させることができる。それは、キャリッジに設けられる割り込みカムによって、セレクタがキャリッジ側で支持されるため、キャリッジと針床の間の微小な変動の影響を低減できるからである。
【0023】
本発明横編機の選針システムおよび横編機において、セレクタの長手方向における接極子の形成範囲内に、弾性脚片のバネ支点(当接部)を配置することで、選針アクチュエーターの吸着面による接極子の吸着と離脱をより安定させることができる。それは、接極子の真下にバネ支点があるため、バネ支点回りのモーメントが接極子に作用し難いからである。
【0024】
本発明横編機の選針システムおよび横編機において、選針アクチュエーターを針床上面側から接極子に臨ませる構成とすることで、選針システムをコンパクトにすることができる。選針アクチュエーターが搭載されるキャリッジは針床の上面側に配置されるからである。
【0025】
本発明横編機の選針システムおよび横編機において、割り込みカムにセレクタの上げ用バットをガイドするガイドを設けることで、割り込みカムにセレクタのポジションを変更させる選針カムの役割を兼ねさせることができる。
【0026】
また、本発明セレクタによれば、本発明横編機の選針システムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態に記載の横編機における編針と編成カムと選針装置の対応関係を示す概略説明図である。
【図2】実施形態に記載の横編機の編針に備わるセレクタの概略図である。
【図3】(A)は選針装置の正面図、(B)は選針装置の左側面図、(C)は選針アクチュエーターの下面図、(D)は割り込みカムの上面図である。
【図4】針床に配置される編針と選針システムとの位置関係を示す概略図である。
【図5】図4におけるセレクタ近傍の部分拡大図であって、(A)は、セレクタの接極子が選針アクチュエーターの吸着面に吸着された状態を示す図、(B)は、当該接極子が吸着面から離脱された状態を示す図である。
【図6】図4におけるセレクタ近傍の部分拡大図であって、セレクタがAポジションに進出された状態を示す図である。
【図7】従来の電磁選針方式の選針システムを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明横編機の選針システムを適用した横編機を図に基づいて説明する。
【0029】
<全体構成>
本実施形態の横編機は、少なくとも前後一対の針床と、各針床に並列される複数の編針と、当該針床上を往復走行するキャリッジと、を備え、キャリッジに搭載される編成カムによって各編針を動作させることで編地を編成する機械である。本実施形態で説明する横編機の特徴とするところは、編針の編成動作を変化させるための選針システムにある。この選針システムは、後述するように、選針アクチュエーターと割り込みカムを備える選針装置、および編針の一部を構成するセレクタを備え、両者共に従来とは異なる構成を備える。以下、まず初めに図1を参照してこの実施形態の横編機の編成動作を簡単に説明し、次いで図2〜6を参照して編針に行なわせる編成動作を異ならせるための選針システムについて詳しく述べる。
【0030】
図1に示す本実施形態の編針200は、針本体5と、スライダ6と、ニードルジャック7と、セレクトジャック8と、セレクタ4と、を備える複合針である。針本体5は、編糸を係止するフックを有する。スライダ6は、針本体5のフックを開閉する。ニードルジャック7は、針本体5を針溝の延伸方向(紙面上下方向)に進退させる。セレクトジャック8は、針溝の延伸方向における自身のポジションによって、ニードルジャック7を進退させるか否かを制御する。セレクタ4は、針溝の延伸方向におけるセレクトジャック8のポジションを変化させる(選針システム1を構成するセレクタ4については後述する)。部材6,7,8,4には単数または複数のバットが設けられている。これらバットに、次に説明する編成カム30や、後述する選針装置2が作用することで、部材6,7,8,4が針溝の延伸方向に進退する。なお、本実施形態の横編機で使用する編針はべら針であっても構わない。
【0031】
一方、横編機のキャリッジ300には、複数のカム31〜36を備える編成カム30が取り付けられており、この編成カム30が編針200の各バットに作用することで編成動作が行なわれる。もちろん、編成カム30は、キャリッジ300に複数搭載されていても構わない。ここで、図1では、スライダ6の駆動用バット61に作用するスライダガイドカムを省略しており、編針200の向きは実際の向きとは異なる状態で示している。
【0032】
次に、図1に破線で示される編針200に備わるバット71,83,45,46の軌跡に基づいて編針200の編成動作を説明する。ここで、各バット71,83,45,46の軌跡は三つに分かれており、紙面下側から順に、それぞれBポジション、Hポジション、Aポジションのときの軌跡である。
【0033】
第一に、キャリッジ300が走行したとき、後述する選針装置2でセレクタ4がBポジションのまま維持された場合、セレクトジャック8の押圧バット83は、固定プレッサ33によって針溝内に沈み込まされ、それに伴ってニードルジャック7の編成用バット71も針溝内に沈み込まされる。その場合、編成用バット71は、ニードルレイジングカム31の作用を受けず、針溝の延伸方向の歯口側(紙面上方向)に移動しない。その結果、編成動作はミス編成となる。
【0034】
第二に、後述する選針装置2によってセレクタ4がHポジションに移動された場合、セレクトジャック8もHポジションになる。その場合、編成用バット71は、ニードルレイジングカム31の作用を受けて歯口側に移動する。ここで、Hポジションにある押圧バット83の軌跡に重複する位置に可動プレッサ34が配置されている。そのため、押圧バット83が可動プレッサ34によって針溝内に沈み込まされ、それに伴って編成用バット71も針溝内に沈み込まされ、編成用バット71は紙面下側のニードルレイジングカム31の中間部にある突起の作用を受けずに当該突起を通過する。その後、編成用バット71は、紙面左側の度山カム32により歯口とは反対側に引き下げられる。その結果、編成動作はタック編成となる。なお、Hポジションにある押圧バット83は、紙面左側のセレクトジャック下げカム36によりBポジションに下げられ、Hポジションにある下げ用バット46は、紙面右側にあるセレクタ下げカム35によりBポジションに引き下げられる。
【0035】
第三に、後述する選針装置2によってセレクタ4がAポジションに移動された場合、押圧バット83もAポジションになる。その場合、編成用バット71は、ニードルレイジングカム31の作用を受けて歯口側に突き上げられ、その後、度山カム32の作用を受けて歯口とは反対側に引き下げられる。その結果、編成動作はニット編成となる。なお、Aポジションにある押圧バット83,下げ用バット46はそれぞれ、カム36,35によりBポジションに引き下げられる。
【0036】
<選針システム>
上述したように、編針200のセレクタ4のポジションが、編針200の編成動作を規定している。そのセレクタ4と、セレクタ4のポジションを変化させる選針装置2とで、本実施形態の選針システム1が構成されている。
【0037】
≪セレクタ≫
図2,4に示すように、セレクタ4は、概略ヘアピン形状の板状部材であって、基体41、先端部42、接極子43、弾性脚片44、上げ用バット45、および下げ用バット46を備える。
【0038】
基体41は、セレクタ4を針溝101に配置したときに、当該針溝101の長手方向に沿って伸びる棒状の部分である。
【0039】
先端部42は、セレクタ4を針溝101に配置したときに、針床100の歯口側に配置される概略L字型の部分であって、上記セレクトジャック8の上げ用バット81を尾端側から歯口側に押し出すための部分である。この先端部42には、針床101の上方に向かって突出する下げ用バット46が形成されている。この下げ用バット46は、セレクタ4のポジションに依らず、常に針溝101から突出しており、図1を参照して既に述べたように、セレクタ下げカム35が作用する部分である。
【0040】
接極子43は、セレクタ4を針溝101に配置したときに、歯口とは反対側(尾端側)に配置される板状の部分である。接極子43の上端面は、後述する選針アクチュエーター10の吸着面10sに吸着される被吸着端面43sである。また、上げ用バット45は、この接極子43の下端面から針溝101の底部(針床100の下方)に向かって突出するように設けられている。上げ用バット45は、後述する割り込みカム20の作用を受ける部分である。
【0041】
弾性脚片44は、その一端が先端部42に繋がり、他端が自由端の棒状の部分であって、基体41との間に間隔を空けて基体41と並列される。弾性脚片44の他端は、セレクタ4の長手方向(つまり、針溝101の延伸方向)に、接極子43と対向する位置まで伸びている。弾性脚片44の他端のうち、接極子43と対向する側には、後述する割り込みカム20に当接して、接極子43を針溝101の底部に向かって付勢する弾発力を発生させるバネ支点となる当接部44bが設けられている。また、弾性脚片44の中間部には、半円弧状に屈曲した係合部44hが形成されている。係合部44hは、図4に示すように、セレクタ4を針溝101内に配置したときに、針床100の長手方向に伸びるワイヤ4w,5wに係合し、針溝101におけるセレクタ4の位置を決める。
【0042】
≪選針装置≫
選針装置2は、図3(A),(B)に示すように、選針アクチュエーター10と、割り込みカム20と、を備える。このうち、選針アクチュエーター10は、割り込みカム20を取り付けることができる係合部を有する以外、基本的な構成は従来のものと同じである。具体的には、選針アクチュエーター10は、複数の永久磁石11が露出した面であって、セレクタ4の接極子43を吸着する吸着面10sを備える(特に、図3(C)を参照)。当該吸着面10sには、選針アクチュエーター10の幅方向(キャリッジの走行方向に同じ)に並ぶ永久磁石11,11の間に離脱領域12a,12bが設けられている。選針アクチュエーター10に内蔵される電磁コイルに通電すると、離脱領域12a,12bにおける磁力が弱まるようになっている。
【0043】
上記選針アクチュエーター10は、図4に示すように、その吸着面10sが針床100の上面に対向するようにキャリッジ300に配置されている。そのため、紙面奥行方向にキャリッジ300を走行させて、選針アクチュエーター10がセレクタ4に近づけば、吸着面10sはセレクタ4の接極子43(図2)の上端面である被吸着端面43sに臨む。なお、図4における選針装置2は、編針200よりも紙面奥側にある。
【0044】
一方、選針装置2を構成する割り込みカム20は、図3(A),(B),(D)に示すように、選針アクチュエーター10に取り付けられて、選針アクチュエーター10に対向する位置に迫り出す部材である。この割り込みカム20の役割は、セレクタ4の接極子43と弾性脚片44との間に割り込んで、両者43,44の間隔を拡げ、接極子43を選針アクチュエーター10の吸着面10sに吸着させることである(後述する図5とその説明を参照)。また、割り込みカム20には、セレクタ4に備わる弾性脚片44の当接部44bを支持して、セレクタ4を針床100に支持されない状態とする役割もある(後述する図5とその説明を参照)。さらに、本実施形態の割り込みカム20は、図7に示す従来構成の選針カム39の役割も備える。
【0045】
上記割り込みカム20のうち、選針アクチュエーター10の吸着面10sに対向する側には、傾斜面21、上段面22、中段面23、および下段面24が形成されている。割り込みカム20の傾斜面21は、割り込みカム20の幅方向端部から中間部に向かうに従って上がり、上段面22に連絡する。上段面22は、概略M型の形状をした平坦な面である。中段面23は、割り込みカム20の幅方向端部から中間部に向かうに従って尾端側(図3(D)では紙面上側)に屈曲する略M型の平坦な面である。下段面24は概略山型の平坦な面である。中段面23と下段面24との間には、両者23,24の高さの違いにより形成される段差以外に壁部20bが形成されている。壁部20bは、割り込みカム20の幅方向中間部よりも手前までしか形成されておらず、そのため中段面23から下段面24に下るルートが形成されている。その壁部20bの高さは、上段面22の高さにほぼ等しくなっている(図3(A),(B)参照)。
【0046】
上述したように、割り込みカム20の上面には高さが異なる複数の面21〜24が形成される。これらの面21〜24間の段差によって、セレクタ4の上げ用バット45をガイドする三つのガイドルートB,H,A(図3(D)の二点鎖線と四角囲みのアルファベットで示す)が形成される。各ガイドルートB,H,Aはそれぞれ、セレクタ4のB,H,Aポジションに対応している。つまり、本実施形態の割り込みカム20は、セレクタ4の上げ用バット45を歯口側に向かって突き上げる選針カムの役割を兼ねる。
【0047】
以上説明した構成を備える選針システム1により、どのように編針200の選針が行なわれるかを具体的に説明する。
【0048】
まず、図4の状態から、キャリッジ300を走行させて選針装置2が編針200に近づくと、選針装置2の割り込みカム20の幅方向端部が、セレクタ4の接極子43(図2)と弾性脚片44との間に割り込む。さらにキャリッジ300が進むと、図5(A)に示すように、割り込みカム20の傾斜面21が接極子43の下端にある上げ用バット45に、割り込みカム20の下端面29(図3(B))が弾性脚片44の上端面にある当接部44bに接触し、接極子43と弾性脚片44との間を押し拡げる。そして、上げ用バット45は、割り込みカム20の上段面22に到達し、接極子43は選針アクチュエーター10の吸着面10sに吸着される。このとき、セレクタ4の弾性脚片44は当接部44bの位置で割り込みカム20に当接し、セレクタ4はキャリッジ300に支持されるので、キャリッジ300の走行に伴って針床100とキャリッジ300の間隔が微小に変動しても、吸着面10sによるセレクタ4の吸着はその変動の影響を受け難くなる。その際、セレクタ4が完全にワイヤ4w,5wから離れて、セレクタ4が針床100に依存しない状態となることが好ましい。なお、上げ用バット45と上段面22とは、僅かながら離隔している。
【0049】
ここで、セレクタ4を針床100に支持されない状態にしても、キャリッジ300の走行に伴うキャリッジ300の振動によって接極子43の被吸着端面43sにモーメントが作用し、セレクタ4の接極子43が吸着面10sから離脱する恐れもある。これに対して、本実施形態では、弾性脚片44のうち、割り込みカム20に当接する当接部44bが、接極子43を針溝101に向かって付勢するバネ支点となっており、しかもそのバネ支点(当接部44b)が、針溝101の延伸方向における接極子43の被吸着端面43sの形成範囲に重複する位置にあるため、バネ支点44bを中心にしたモーメントが発生し難い。そのため、選針アクチュエーター10の電磁力を用いることなく接極子43を吸着面10sから離脱させるには、相当程度の力を作用させる必要があり、キャリッジ300の走行に伴うキャリッジ300の振動程度では接極子43が吸着面10sから離脱することは殆どない。
【0050】
上述したように接極子43が吸着面10sに吸着されたまま離脱されずにいると、上げ用バット45は割り込みカム20の上段面22から浮いた状態で図3(D)に示すガイドルートBを移動し、割り込みカム20の作用を受けない。その結果、セレクタ4は針溝101の延伸方向に動かされることなく、Bポジションを維持する。その場合、編針200の編成動作はミス編成となる。
【0051】
一方、図3(D)に示す選針アクチュエーター10の一つ目の離脱領域12aで接極子43を離脱させると、上げ用バット45はガイドルートAを移動する。具体的には、図5(B)に示すように、離脱領域12aで離脱された上げ用バット45は、割り込みカム20の下端面29に支持される弾性脚片44の弾発力によって針溝101の底部に向かって付勢され、割り込みカム20の中段面23の位置に落ちる。さらにキャリッジ300が走行すると、図3(D)に示すように、上げ用バット45は、上段面22と中段面23との段差によって形成されるガイドg1に沿って歯口側に押され、下段面24に落ちる。下段面24に落ちた上げ用バット45は、さらに中段面23と下段面24との段差によって形成されるガイドg2に沿って歯口側に押され、その結果としてセレクタ4は、図6に示すようにAポジションとなる。ここで、下段面24と中段面23との間に壁部20bが形成されているため、キャリッジ300の振動などによって上げ用バット45がガイドg2を乗り越えてガイドルートHに乗ることはない。
【0052】
次に、図3(D)に示すように、接極子43が選針アクチュエーター10の一つ目の離脱領域12aを通過し、二つ目の離脱領域12bで離脱されると、上げ用バット45はガイドルートHを移動する。具体的には、上げ用バット45は、割り込みカム20の紙面右側の中段面23に落ち、上段面22と中段面23との段差により形成されるガイドg3に沿って歯口側に押される。その結果、セレクタ4はHポジションとなる。ここで、割り込みカム20に設けられる壁部20bによって、上げ用バット45が歯口側に移動しすぎてガイドルートAに乗ることがない。
【0053】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。例えば、選針アクチュエーター10が針床100の底面側からセレクタ4に臨んで、セレクタ4を針溝101内に沈み込ませることで非選針状態とする構成としても良い。その場合、割り込みカム20は、選針アクチュエーター10の吸着面10sよりも針床100の上面側に配置すると良い。また、セレクタ4における割り込みカム20が当接する当接部44bは、針溝101の延伸方向における接極子43の被吸着端面43sの形成範囲外に位置していても良い。その他、本実施形態の割り込みカム20は、ガイドg1〜g3を備えることで、セレクタ4のポジションを変化させる選針カムの役割を兼ねるが、当該選針カムの役割を持たない割り込みカムとしても良い。その場合、別途、選針カムを用意する必要がある。
【符号の説明】
【0054】
1 選針システム
2,2T 選針装置
10 選針アクチュエーター
10s 吸着面 11 永久磁石 12a,12b 離脱領域
20 割り込みカム
21 傾斜面 22 上段面 23 中段面 24 下段面 20b 壁部
29 下端面 g1〜g3 ガイド
4 セレクタ
41 基体 42 先端部 43 接極子 43s 被吸着端面
44 弾性脚片 45 上げ用バット 46 下げ用バット
44h 係合部 44b 当接部
100 針床
101 針溝 4w,5w,8w ワイヤ
200,201 編針
5 針本体
6 スライダ
61 駆動用バット
7 ニードルジャック
71 編成用バット
8 セレクトジャック
81 上げ用バット 82 位置保持部 83 押圧バット
9 セレクタ
91 基体 92 先端部 93 接極子 93s 被吸着端面
94 弾性脚片 94b バネ支点 95 上げ用バット 96 下げ用バット
300 キャリッジ
30 編成カム
31 ニードルレイジングカム 32 度山カム 33 固定プレッサ
34 可動プレッサ 35 セレクタ下げカム
36 セレクトジャック下げカム 39 選針カム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横編機の針床の長手方向に並列される複数の針溝のそれぞれに配置される編針の一部を構成するセレクタと、
前記針床の長手方向に往復するキャリッジに設けられ、前記針溝の延伸方向に沿ったセレクタのポジションを変更することで、前記編針に行なわせる編成動作を変化させる選針装置と、を備え、
前記選針装置は、磁力によって前記セレクタの一部を吸着する吸着面に前記セレクタの一部を吸着させたままとするか、その吸着面から離脱させるかによって前記針溝の深さ方向における前記セレクタの位置を変化させることで、前記編針を選針する選針アクチュエーターを有する横編機の選針システムにおいて、
前記セレクタは、
基体と、
前記基体のうち、前記針床の歯口側に設けられる先端部と、
前記基体のうち、前記歯口側とは反対側の尾端側に設けられ、かつ前記選針アクチュエーターの吸着面に対向して配置される接極子と、
前記先端部に繋がり、前記尾端側に伸びる弾性脚片と、
を備え、
前記選針装置は、
前記選針アクチュエーターに対向する位置に迫り出して設けられ、前記キャリッジが前記針床上を走行したとき、前記セレクタの接極子と弾性脚片との間に割り込んで両者の間隔を拡げ、前記接極子を前記選針アクチュエーターの吸着面に吸着させる割り込みカムを備え、
前記割り込みカムが前記セレクタを通過する間中、前記セレクタの弾性脚片は割り込みカムに当接し、その当接によって前記セレクタは前記割り込みカムに支持されることを特徴とする横編機の選針システム。
【請求項2】
前記セレクタの弾性脚片のうち、前記割り込みカムに当接する部分であり、前記接極子を弾性脚片に近づく方向に付勢する弾発力を発生させるバネ支点となる当接部は、前記針溝の延伸方向における前記接極子の形成範囲内に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の横編機の選針システム。
【請求項3】
前記選針アクチュエーターは、前記針床の上面側から前記セレクタの接極子に臨むように前記キャリッジに設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の横編機の選針システム。
【請求項4】
前記セレクタの接極子のうち、前記選針アクチュエーターに吸着される被吸着端面と反対側には、上げ用バットが形成されており、
前記割り込みカムには、前記上げ用バットに作用して、前記セレクタを前記歯口側に進出させるためのガイドが形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の横編機の選針システム。
【請求項5】
横編機の針床の長手方向に並列される針溝のそれぞれに配置される編針の一部を構成する部材であり、前記針溝の延伸方向に沿ったポジションによって、前記編針が行なう編成動作を決定するセレクタにおいて、
基体と、
前記基体の長手方向の一端側に設けられる先端部と、
前記基体の長手方向の他端側に設けられる接極子と、
前記先端部に繋がり、前記他端側に向かって伸びる弾性脚片と、を備え、
前記弾性脚片は、前記接極子と弾性脚片との間に横編機のキャリッジに固定される部材を介在させたときにその部材に当接し、前記接極子を前記弾性脚片に近づく方向に付勢する弾発力を発生させるバネ支点となる当接部を有することを特徴とするセレクタ。
【請求項6】
少なくとも前後一対の針床を備え、当該針床に並列される複数の針溝のそれぞれに設けられる編針によって編成を行なう横編機において、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の横編機の選針システムを備えることを特徴とする横編機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−64207(P2013−64207A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203289(P2011−203289)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】