説明

横葺き用屋根材及び横葺き用屋根材の接続構造

【課題】腐食による劣化が少なく、風圧強度、防水性に優れ、一体感のある綺麗な横葺き用屋根材およびその接続構造を提供する。
【解決手段】左右一対の短辺部1a、1bと、これら各短辺部を上下に挟む一対の長辺部1c、1dとを有する矩形状の屋根材本体1とを備え、軒から棟に向けて隣接配置される屋根材の長辺部をつなぎ合わせる横葺き用屋根板材において、屋根材本体1は、長辺部の相互間に、かつ、短辺部に沿い間隔をおいて配設された少なくとも1つの谷部2を有するもので構成する。棟側に位置する長辺部1dに、その直上にて隣接配置される屋根材の上ハゼ4に嵌合する下ハゼ3を設ける。また、一対の短辺部のうちの一方に段下がり部5aを形成するとともに、軒、棟方向に沿って延伸する凹凸5b、5cを形成した下継手5を設け、隣接配置される屋根材を重ね合わさるとともに、その相互間にて谷部と同じ幅の谷部の形成を可能とする上継手6を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般住宅や事務所、マンション、福祉施設、リゾート施設、商業施設、公共施設等において幅広く使用される横葺き用屋根材及びその屋根材の接続構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
横葺き屋根は、妻方向に比較的長尺で、軒、棟方向において短尺な、矩形状をなす屋根材を使用するのが一般的であり、妻方向への接続作業を、軒から棟側に向けて順次繰り返し行うことによって葺きあげられる。
【0003】
従来、横葺き屋根に使用する屋根材としては、左右の端部と上下の端部にそれぞれハゼの如き継手を設け、これらの継手を利用して隣接する屋根材同士を上下(軒、棟方向)、左右(妻方向)につなぎ合わせるようにしている。
【0004】
この点に関する先行技術としては、特許文献1あるいは特許文献2に開示されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4131567号公報
【特許文献2】特開2000―110305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上掲の特許文献1、特許文献2に開示されている従来の屋根材は、以下に述べるような不具合を抱えている。
【0007】
すなわち、特許文献1に開示の屋根材は、屋根材主板に、一定間隔でもって目地溝が設けられているが、該目地溝は、板材をS字型、逆S字型にそれぞれ折り曲げ1〜2.5mm程度の段差(山高さ)を形成した袋状をなすものであり、その部位には雨水や泥水が溜まりやすく、また、乾燥し難いことから耐食性に関して悪影響を与えることが懸念される。
【0008】
また、板材は、過酷な曲げ加工が施されるため、該板材の表面に施された亜鉛層あるいは塗装膜に亀裂が生じるおそれがあり、その場合に耐食性が劣化するのが避けられない。
【0009】
また、目地溝を形成するに際しては、S字型、逆S字型に折り曲げるため、最低2工程が必要であり、屋根材の成型(製造)に手間がかかる。
【0010】
さらに、屋根材の横方向の縁部には、上ハゼ、下ハゼがそれぞれ設けられており、該上ハセ、下ハゼを嵌合させることによって屋根材同士を妻方向につないでいくが、該上ハゼ、下ハゼの成型に際しては、高い成型精度が要求されることから精度の管理が必要であり、効率的な製造が行い難い。
【0011】
とくに、上記ハゼのうち、下ハゼについては、折り返し長さが長くなるため、屋根材の重量増しにつながるとともに、材料の使用量が増えるためコストアップの上昇が避けられない。
【0012】
さらに、屋根の葺きあげ施工において、屋根材を妻方向につなげるに際しては、上ハゼと下ハゼを嵌合させる作業が必要となり、効率的な葺きあげ作業を行うのが難しく、その嵌合位置も予め決められた一定位置になるため、屋根材同士のつなぎ合わせに関して融通性がない。
【0013】
一方、特許文献2に開示の屋根材は、金属板の平坦部の両側に半円筒形部を一定間隔で設けた形状からなるものにて構成されるものであって、該平坦部の前面より斜め下方に延設された嵌合部を、これとは別に配置される屋根材の被嵌合部に引っ掛けることにより、屋根材同士を軒から棟方向につなぎ合わせるようになっている。
【0014】
ところで、該半円筒形部には、別に配置される屋根材に嵌合する嵌合部がなく(単に重ね合わさるようになっている)、風の吹き上げに対する荷重は、もっぱら平坦部に設けられた嵌合部が集中的に受け持つこととなり、その対策としてその部位の板厚を厚くするか、屋根材の幅寸法を小さくする等の必要がある。
【0015】
また、半円筒形部の棟側は、別に配置される屋根材の半円筒形部と重ね合わさっているだけであり、しかも、屋根材の水下側、水上側には、屋根材を妻方向につなぎ合わせる際に、別の屋根材の折り返し部を嵌め込むための前部切り欠き部、後部切り欠き部がそれぞれ形成されているため、とくに台風時の強い風雨に曝された場合には、防水性に関しては非常に不安な状態となる。
【0016】
なお、従来のこの種の屋根材は、一枚板で所定の形状に成型されるのが普通であり、かかる屋根材に凹凸を付与すべくプレス加工を施す場合には、該屋根材に展開長さの異なる部分が生じることになり、その際、屋根材に反りや捩れが発生して品質に悪影響を与えることが懸念されるが、上記文献には、何れにおいても、この点に関しては何らの言及もされていない。
【0017】
そこで、本発明の目的は、横葺き用屋根材および横葺き用屋根材の接続構造につき、上述したような従来の屋根材において生じていた不都合を効果的に解消するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、左右一対の短辺部と、これら各短辺部を上下に挟む一対の長辺部とを有する矩形状の屋根材本体とを備え、前記短辺部を、妻方向に向けて隣接配置される屋根材の短辺部にそれぞれつなぎ合わせるとともに、前記長辺部を、軒から棟に向けて隣接配置される屋根材の長辺部につなぎ合わせることにより建築構造物の屋根を葺きあげる、横葺き用屋根板材であって、前記屋根材本体は、前記長辺部の相互間にわたって延伸し、かつ、前記短辺部に沿い間隔をおいて配設された少なくとも1つの谷部を有し、前記長辺部のうちの、棟側に位置する長辺部に、その直上にて隣接配置される屋根材の上ハゼに嵌合する下ハゼを設け、前記長辺部のうち、軒側に位置する長辺部に、その直下に隣接配置される屋根材の下ハゼに嵌合する上ハゼを設け、前記一対の短辺部のうちの一方に、前記屋根材本体の外表面との間で段下がり部を形成するとともに、軒、棟方向に沿って延伸する凹凸を形成した下継手を設け、前記一対の短辺部のうちの、もう一方の短辺部に、隣接配置される屋根材の前記下継手に重ね合わさるとともに、その相互間にて前記谷部と同じ谷幅の形成を可能とする上継手を設け、前記谷部の前記長辺部側に、前記屋根材本体の展開長さをほぼ一定に保持する凹凸を形成したことを特徴とする横葺き用屋根材である。
【0019】
上記の構成からなる横葺き用屋根材においては、
1)谷部は、逆台形状の断面形状からなり、軒側の長辺部に開放端を有するものとすること、
2)上継手に、谷部の側壁に沿った壁面を備えた先端曲げ部を設けること、
3)下ハゼを、軒側に向けて開放された凹部を形成する第一の折り返し部と、この第一の折り返し部の端部につながり棟側に向けて開放された凹部を形成する第二の折り返し部と、この第二の折り返し部の端部につながり屋根の下地材に連結して屋根材本体を固定、保持する固定片とにて構成し、上ハゼに、棟側に向けて開放された凹部を形成するとともに、前記下ハゼの第一の折り返し部に形成された凹部に嵌合する折り返し部を設けること、さらに、下ハゼの幅方向の縁部に、下継手の凹凸とほぼ同等の展開長さを有する凹凸を設けること、
4)上ハゼの折り返し部を、屋根材本体につながり屋根の小口を形成する縦壁と、この縦壁の下端につながり棟側に向けて折り返された横壁にて構成し、該上ハゼの幅方向の縁部に、該縦壁を内向きに押し込んだ、凹部を形成するとともに下継手の段下がり部につながる段下がり部を設けること、さらに、
5)屋根材本体の裏面に断熱材を設けること、
が本発明の課題解決のための具体的手段として好ましい。
【0020】
また、本発明は、上記の構成からなる横葺き用屋根材を用いて建築構造物の屋根を葺きあげる接続構造であって、下継手に、隣接配置される別の屋根材本体の上継手を重ね合わせるとともに、下ハゼ、上ハゼを、隣接配置される別の屋根材の下ハゼ、上ハゼにそれぞれ嵌合させて屋根材本体をそれぞれ妻方向に沿って接続する一方、下ハゼを、その直上にて隣接配置される別の屋根材の上ハゼに嵌合させるとともに該屋根材の上ハゼを、その直下にて隣接配置される別の屋根材の下ハゼに嵌合させて軒、棟方向に接続してなることを特徴とする横葺き用屋根材の接続構造である。
【発明の効果】
【0021】
上記の構成からなる本発明の横葺き用屋根材によれば、一対の短辺部のうちの一方に、屋根材本体の外表面との間で段下がり部を形成するとともに、軒、棟方向に沿って延伸する凹凸を形成した下継手を設け、もう一方の短辺部に、隣接配置される屋根材の下継手に重ね合わさるとともに、その相互間にて谷部と同じ開口幅の谷部の形成を可能とする上継手を設け、該下継手と上継手を重ね合わせることにより屋根材を妻方向に接続するようにしたため、断面形状が簡素化され、効率的な製造が可能となる。
【0022】
また、本発明にかかる横葺き用屋根材によれば、上継手と下継手の重ね合わせ代を適宜変更することが可能(融通性の改善)であり、屋根の効率的な葺きあげ施工が行える。また、切り欠き等を設ける必要がないため、防水性が損なわれることもない。
【0023】
本発明にかかる横葺き用屋根材によれば、屋根材本体には、棟側に位置する長辺部から軒側に位置する長辺部にわたって延伸する谷部を、短辺部に沿い少なくとも1つ配設するようにしたことにより、袋状になるような部位は形成されることがないため、雨水や泥水は谷部に沿って流れ落ちることとなり、屋根材の耐食性は安定的に保持される。
【0024】
なお、上記の構成からなる本発明の横葺き用屋根材によれば、棟側に位置する長辺部に設けられた下ハゼが、その直上に隣接配置される屋根材の上ハゼの全域に嵌合する一方、軒側位に位置する長辺側に設けられた上ハゼが、その直下に隣接破位置される屋根材の下ハゼの全域に嵌合するため、板厚を増したり、屋根材の働き幅を小さくすることなしに安定した耐風圧強度を確保することができる。
【0025】
また、本発明にかかる横葺き用屋根材によれば、谷部の長辺部側の縁部に、屋根材本体の展開長さをほぼ一定に保持する凹凸を形成するようにしたため、該谷部を押圧成型により形成しても、形状変形を起こすことがなく、品質の安定化を図ることができる。
【0026】
本発明にかかる横葺き用屋根材によれば、谷部を逆台形状の断面形状とし、軒側の長辺部に開放端を形成したことにより、雨水や泥水は、谷部から速やかに排出される。
【0027】
また、本発明による横葺き用屋根材によれば、上継手に、谷部の側壁に沿った形状を有する先端曲げ部を設けたことにより、屋根材の接続部においても谷部と同じ幅をもった谷部を形成することが可能となり、一体感のある屋根を葺き上げることができる。
【0028】
また、本発明による横葺き用屋根材によれば、下継手に形成された段下がり部の上面(重ね合わせ面)に、軒、棟方向に沿って延伸する凹凸を設けることにより、上継手との相互間からから雨水が侵入したとしても、該雨水は、屋根の勾配により該凹部に沿い軒側へと流れ落ちるため、防水性が高い。
【0029】
また、本発明にかかる横葺き用屋根材によれば、長辺部の下ハゼを、軒側に向けて開放された凹部を形成する第一の折り返し部と、この第一の折り返し部の端部につながり棟側に向けて開放された凹部を形成する第二の折り返し部と、この第二の折り返し部の端部につながり屋根の下地材に連結して屋根材本体を固定、保持する固定片にて構成し、上ハゼに、棟側に向けて開放された凹部を形成するとともに、下ハゼの第一の折り返し部に形成された凹部に嵌合する折り返し部を設けるようにしたため、軒、棟方向において屋根材を簡便につなぎ合わせることが可能となり、葺きあげ作業の簡便化が図られる。
【0030】
また、下ハゼの幅方向の縁部に、前記下継手の凹凸と同等の凹凸を設けることにより、屋根材の長さ方向における展開長さをどの部位においてもほぼ同等とすることができ、屋根材を所定の断面形状に成型する場合において反りや捩れが生じることがない。
【0031】
さらに、上記の構成からなる本発明の横葺き用屋根材によれば、上ハゼを、屋根材本体につながり屋根の小口を形成する縦壁(小口を形成する壁)と、この縦壁の下端につながり棟側に向けて折り返された横壁とで構成し、下継手が位置する該上ハゼの幅方向の縁部に、下継手の段下がり部につながる段下がり部を設けるようにしたため、隣接配置される別の屋根材の上ハゼに嵌合させるだけの簡単な作業で屋根材同士を接続することができる。
【0032】
とくに、上ハゼの幅方向の縁部の横壁に、凹凸を設けておくことにより、下継手の凹凸とほぼ同じ展開長さにすることが可能となり、屋根材に反りや捩れが生じることがない。
【0033】
また、本発明によれば、屋根材本体の裏面に断熱材を設けておくことにより、断熱、保温効果等を高めることができる。
【0034】
上記の構成からなる本発明の横葺き用屋根材の接続構造によれば、下継手に、隣接配置される別の屋根材本体の上継手を重ね合わせるとともに、下ハゼ、上ハゼを、隣接配置される別の屋根材の下ハゼ、上ハゼにそれぞれ嵌合させて前記屋根材本体をそれぞれ妻方向に沿って接続する一方、下ハゼを、その直上にて隣接配置される別の屋根材の上ハゼに嵌合させるとともに該屋根材の上ハゼを、その直下にて隣接配置される別の屋根材の下ハゼに嵌合させて軒、棟方向に接続するようにしたため、簡便かつ効率的に横葺き屋根を葺きあげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、本発明に従う横葺き用屋根材の実施の形態を示した正面図である。
【図2】図2は、図1の平面図である。
【図3】図3は、図1の底面図である。
【図4】図4は、図1のA―A断面を示した図である。
【図5】図5は、図1のB−B断面を示した図である。
【図6】図6は、図1の外観斜視図である。
【図7】図7は、下ハゼと上ハゼの嵌合状態を示した図である。
【図8】図8は、図1のC−C部の拡大断面図である。
【図9】図9は、図1のA―A断面と、図1のD―D断面を重ね合わせて示した図である。
【図10】図10は、屋根材のつなぎ合わせ前の状態を示した図である。
【図11】図11は、図10に示す状態で屋根材同士をつなぎ合わせたときの状態を示した図である。
【図12】図12は、屋根材同士のつなぎ合わせにおける接続部の断面を示した図である。
【図13】図13は、本発明に従う横葺き用屋根材の他の例を要部について示した図である。
【図14】図14は、本発明に従う横葺き用屋根材の他の例(ストレートの谷部を形成した場合)を示した図である。
【図15】図15は、本発明に従う横葺き用屋根材のさらに他の例を示した図である。
【図16】図16は、本発明に従う横葺き用屋根材につき、断熱材を設けた例を示した図である。ある。
【図17】図17は、本発明に従う横葺き用屋根材の施工状況の説明図である。
【図18】図18は、屋根材を用いて葺きあげた屋根の完成状態を示した図である。
【図19】図19は、下ハゼと上ハゼの嵌合状態の他の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して、本発明をより具体的に説明する。
図1は、本発明に従う横葺き用屋根材の実施の形態を示した正面図であり、図2は図1の平面図、図3は図1の底面図である。
【0037】
また、図4は図1のA−A部の拡大断面図であり、図5は図1のB−B部の拡大断面図であり、
そして、図6は、図1に示した横葺き用屋根材の外観斜視図である。
【0038】
図1〜図6における符号1は、亜鉛めっき鋼板、アルミニウム亜鉛合金めっき鋼板、アルミニウム板、ステンレス鋼板、銅板あるいはそれらの塗装製品、被覆膜製品等によって構成することができる屋根材本体である。
【0039】
この屋根材本体1は、左右一対の短辺部1a、1bと、これら各短辺部1a、1bを上下(軒、棟方向)に挟む長辺部1c、1dとを有する矩形状の幅広、短尺材にて構成される。ここに、長辺部1cを軒側長辺部とし、長辺部1dを棟側長辺部とする。
【0040】
また、2は、長辺部1c、1dの相互間の全域にわたって延伸し、かつ、前記短辺部1a、1bに沿い間隔Lをおいて配設された谷部である。
【0041】
この谷部2は、この例では、溝状のものを例として示してある。該谷部2は、押圧成型によって形成されるものであって、底壁2aとこの底壁2aを両側に挟む側壁2bによって区画された逆台形状の断面形状からなり、軒側長辺部1cには扇状の開放端2cが形成されている。
【0042】
また、3は、棟側長辺部1dの全域に設けられた下ハゼである。この下ハゼ3は、その要部断面を図7に示すように、その直上(棟側)に隣接配置される別の横葺き用屋根材の上ハゼに嵌合することにより屋根材本体1同士を接続する。
【0043】
上記の下ハゼ3は、この例では、軒側に向けて開放された凹部を形成する第一の折り返し部3aと、この第一の折り返し部3aの端部につながり棟側に向けて開放された凹部を形成する第二の折り返し部3bと、この第二の折り返し部3bの端部につながり屋根の下地材に連結して前記屋根材本体1を固定、保持する固定片3cから構成されている(図4参照)。
【0044】
なお、下ハゼ3の幅方向の縁部(短辺部側)には、下ハゼ3よりも小さいサイズになる下ハゼ3′が形成されている(図5、図6参照)。この下ハゼ3′は、後述する下継手に形成される段下がり部と同等の段下がり代を有しており、これにより、別の屋根材の上ハゼを嵌合させても該下ハゼ3′が上ハゼに接触することがないようになっている。
【0045】
また、4は、軒側長辺部1cの全域に設けられた上ハゼである(図4、図6参照)。この上ハゼ4は、図7に示す如く、その直下(軒側)に隣接配置される別の横葺き用屋根材の下ハゼ3に嵌合して屋根材本体同士を接続する(屋根材本体が軒に位置する場合には、軒先水切り板と嵌合する。)。
【0046】
上ハゼ4は、屋根材本体1に斜面hを介してつながる縦壁(小口を形成する壁)4aと、この縦壁4aの下端につながり棟側に向けて折り返された横壁(折り返し部)4bから構成されている。上ハゼ4の幅方向の縁部(下継手が位置する部位)に位置する縦壁4aには、該縦壁4aの面よりも低い段下がり部4cが設けられている(図1、3参照)。
【0047】
上ハゼ4には、縦壁4a、横壁4bによって棟側に向けて開放された凹部が形成されていて、該横壁4bが下ハゼ3の第一の折り返し部3aに形成された凹部に嵌合することによって屋根材本体1が軒、棟方向につながる。
【0048】
また、5は、短辺部1aに設けられた下継手である。この下継手5は、図3に要部を拡大して示した如く、横葺き用屋根材の外表面よりも低くなる該段下がり部5aが形成されており、かつ、軒、棟方向に沿って延伸する凹5b、凸5cが設けられている。凹5b、凸5cは、押圧成型によって形成されるものであって、該凸5cの頂面は、屋根材本体1の外表面よりも低い位置にある。
【0049】
6は、短辺部1bに設けられた上継手である。この上継手6は、妻方向(横方向)に隣接配置される別の屋根材の下継手5に重ね合わさって接続部を形成するものであり、その先端部には、図1のC―C断面を拡大して図8に示すように、隣接配置される別の屋根材の下継手5の段下がり部5aの凹5bに位置して谷部2の側壁2bと同様の傾斜を形成する先端曲げ部6aが設けられている。
【0050】
上記上継手6の先端曲げ部6aには、強度の改善のために裏面側に向けて折り曲げた折り返し部6bが形成される。
【0051】
また、7は、下ハゼ3の縁部(下ハゼ3′、固定片3c)に設けられた凹凸である。この凹凸7により、下継手5の凹5b、凸5cとほぼ同じ展開長さを確保して屋根材を成型する際に生じる反り等の形状変形を防止している(図1、2参照)。
【0052】
また、8は、谷部2の軒側長辺部1c、棟側長辺部1d側(下ハゼ3、上ハゼ4が形成されている部位)に設けられた凹凸である。この凹凸8は、その断面を、図1のA―A断面(図4参照)と重ね合わせて図9に示したように、谷部2の底壁2a、側壁2b、その近傍域を局所的に膨出させることによって形成された凸8a、あるいは陥没させることによって形成された凹8bから構成されている。
【0053】
該凹凸8は、谷部2を設けたことにより、屋根材の展開長さをほぼ同じくするために付与されるもの(谷部2の成型と同時に成型される。)であって、これにより屋根材の反りや捩れ等の形状変形を防止している。
【0054】
9は、上ハゼ4の幅方向縁部(下継手5が形成されている部位)の縦壁4aに設けられた凹凸、10は、上ハゼ4の幅方向縁部の横壁4bに設けられた凹凸、11は、下継手5の凸5cの頂面の全域にわたって設けられた舌片状の受座である(図1、図3参照)。
【0055】
受座11は、屋根材本体1の外表面と同様の平坦な面を有するものであり、屋根材をつなぎ合わせる際に、隣接配置される別の屋根材の上継手6の裏面にて該屋根材を支持してその配置姿勢の安定化を図る。
【0056】
受座11は、必要に応じて設けられるものであって、短辺部1bの端縁(下継手5の端縁)を上継手6側に向けて折り返して形成することにより、該受座11は、凸5cよりも高い位置となる。これにより、屋根材の接続部における雨水等の侵入を確実に防止することができる。
【0057】
上記の構成からなる横葺き用屋根材を、妻方向につなぎ合わせるに際しては、重ね代を適宜決定して、図10に示すように、屋根本体1に設けられている谷部2と同じ谷幅となるように上継手6を、隣接配置される屋根材の下継手5に重ね合わせる。
【0058】
そうすると、その相互間には、図11、図12に示すように、谷部2と同様の谷幅Wをもった谷部2′が形成された接続部が得られる。これにより、屋根材の接続部がどこに存在するか確認することができない美観に優れた屋根に葺きあげられることとなる。
【0059】
なお、上ハゼ4の幅方向の縁部(下継手5が存在する部位)には、下継手5の段下がり部5aとほぼ同等の下がり代をもった段下がり部4cが形成されているため、別の屋根材の上ハゼ4の縦壁4aが重ね合わさっても、この部位に段差が形成されることはない。
【0060】
屋根材の接続部(横方向)から雨水が侵入した場合、該雨水は段下がり部5aの上面(重ね合わせ面)に設けられた凹5bに沿いすぐさま軒側へと流れ落ちるため防水性が高い。
【0061】
凹5b、凸5cは横方向からの雨水に対し少なくとも1つ、より好ましくは複数設けるのが好ましい。
【0062】
屋根の勾配が緩い場合や大雨時の浸水を考慮し、中間部に位置する凸5cの頂面には、上継手6の裏面に当接する図13に示すような防水テープtを設けておくことでき、これにより雨水の侵入を確実に回避することができる。
【0063】
また、上ハゼ4の幅方向の縁部(下継手5が形成される部位)においては横壁4bに下継手5の凹凸4b、4cと同等の凹凸10を設けることとしたが(図3参照)、これにより、下継手5の展開長さとほぼ同じ展開長さに調節することが可能となり、屋根材に反りや捩れ等が生じるのを防止することができる。
【0064】
本発明においては、谷部2につき、軒側長辺部1cにおいて扇状の開放端2cを有するものを例として示したが、該谷部2は、図14に示すように、谷幅と同じ幅になる開放端2c′を設けたものを適用することもできる。
【0065】
また、屋根材のデザインに変化をもたせるために、谷部2の幅Wを拡大し該谷部2の相互間に陸部12を形成して該陸部12と谷部2を交互に配列した図15に示すような屋根材とすることもできる。なお、谷部2の幅Wについては、自由に変更、選択することが可能である。
【0066】
なお、本発明に従う横葺き用屋根材は、断熱あるいは保温等の効果を高めることを目的として、図16に示すように、該屋根材の裏面に断熱材13を設けることができる。
【0067】
本発明に従う横葺き用屋根材を用いて屋根を葺きあげるには具体的に以下の施工手順に従う。
【0068】
まず、図17に示すように、野地板14にルーフィング15を敷設したのち、軒先に水切り板16を取り付け、屋根材本体1の上ハゼ4を該水切り板16に嵌合させる。
【0069】
次いで、屋根材の下ハゼ3の固定片3cを、ルーフィング15の上におき、釘やビス等で野地板14、垂木あるいは母屋17などに必要な間隔で固定する。そして、屋根材本体1が固定されたならば、固定された屋根材の下継手5に別の屋根材の上継手6を重ね合わせる。
【0070】
以降、この作業を繰り返して妻方向へと葺きあげていき、妻方向の端部(軒の端部)まで葺いたならば棟側で同じ作業を行う。
【0071】
軒、棟方向において屋根材を接続するには、上掲図7に示したように、固定し終えた屋根材の下ハゼ3の第一の折り返し部3aに、その直上に隣接配置される屋根材の上ハゼ4の横壁4bを差し込んで嵌合させ、取付けにかかる屋根材の下ハゼ3の固定部3cを野地板14に固定すればよく、この作業を軒、棟方向へ向けて繰り返し行えばよい。
【0072】
図18は、段差が付いた接続部を形成する横葺き屋根の葺きあげ状態(完成)を示したものである。本発明によれば、防水性が確保された美観の良好な屋根を葺き上げることが可能になる。
【0073】
本発明に従う横葺き用屋根材は、一枚板で構成されるものであり、該屋根材を成型するには、まず、ロール成型機により板材を図3に示すような断面形状となるように曲げ加工を施す。そして、その後、曲げ加工を施した板材をその上下から押圧し、谷部2、下継手5の凹5b、凸5c、下ハゼ3の縁部に設けられた凹凸7、凹凸8、上ハゼ4の横壁4bに設けられた凹凸10を形成する。
【0074】
なお、本発明では、図4、図5に示すように、小口を形成する上ハゼ4の縦壁4aの上端角部に、斜面hを設けたものを例として示したが、図19に示すように、斜面hを設けずに角形状にしたものを適用してもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、腐食による劣化が少なく、高い耐風圧強度、高い防水性を有する横葺き用屋根材が提供できる。
【0076】
また、本発明によれば、屋根材の妻方向の接続は、継手を重ね合わせるだけでよいため、効率的な葺きあげ施工を行うことができ、しかも、軒、棟方向を除いてハゼ掛けする部位が無い分、使用材料が少なくて済む(コストが5%程度削減される)とともに屋根材の軽量化が可能となる。
【0077】
また、本発明によれば、屋根材の接続部の見分けがつき難く、一体感のある綺麗な屋根を葺きあげることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 屋根材本体
1a 短辺部
1b 短辺部
1c 長辺部
1d 長辺部
2 谷部
2′ 谷部
2a 底壁
2b 側壁
2c 側壁
3 下ハゼ
3′ 下ハゼ
3a 第一の折り返し部
3b 第二の折り返し部
3c 固定片
4 上ハゼ
4a 縦壁
4b 横壁
4c 段下がり部
5 下継手
5a 段下がり部
5b 凹
5c 凸
6 上継手
6a 突き当て部
6b 背面接地部
7 凹凸
8 凹凸
8a 凸
8b 凹
9 凹凸
10 凹凸
11 受座
12 山部
13 断熱材
14 野地板
15 ルーフィング
16 水切り板
17 母屋
h 斜面
t 防水テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の短辺部と、これら各短辺部を上下に挟む一対の長辺部とを有する矩形状の屋根材本体とを備え、前記短辺部を、妻方向に向けて隣接配置される屋根材の短辺部にそれぞれつなぎ合わせるとともに、前記長辺部を、軒から棟に向けて隣接配置される屋根材の長辺部につなぎ合わせることにより建築構造物の屋根を葺きあげる、横葺き用屋根板材であって、
前記屋根材本体は、前記長辺部の相互間にわたって延伸し、かつ、前記短辺部に沿い間隔をおいて配設された少なくとも1つの谷部を有し、
前記長辺部のうちの、棟側に位置する長辺部に、その直上にて隣接配置される屋根材の上ハゼに嵌合する下ハゼを設け、
前記長辺部のうち、軒側に位置する長辺部に、その直下に隣接配置される屋根材の下ハゼに嵌合する上ハゼを設け、
前記一対の短辺部のうちの一方に、前記屋根材本体の外表面との間で段下がり部を形成するとともに、軒、棟方向に沿って延伸する凹凸を形成した下継手を設け、前記一対の短辺部のうちの、もう一方の短辺部に、隣接配置される屋根材の前記下継手に重ね合わさるとともに、その相互間にて前記谷部と同じ幅の谷部の形成を可能とする上継手を設け、
前記谷部の前記長辺部側に、前記屋根材本体の展開長さをほぼ一定に保持する凹凸を形成したことを特徴とする横葺き用屋根材。
【請求項2】
前記谷部は、逆台形状の断面形状からなり、前記軒側に位置する長辺部に開放端を有することを特徴とする請求項1に記載した横葺き用屋根材。
【請求項3】
前記上継手は、前記谷部の側壁に沿った壁面を備えた先端曲げ部を有することを特徴とする請求項1または2に記載した横葺き用屋根材。
【請求項4】
前記下ハゼは、軒側に向けて開放された凹部を形成する第一の折り返し部と、この第一の折り返し部の端部につながり棟側に向けて開放された凹部を形成する第二の折り返し部と、この第二の折り返し部の端部につながり屋根の下地材に連結して前記屋根材本体を固定、保持する固定片からなり、
前記上ハゼは、棟側に向けて開放された凹部を形成するとともに、前記下ハゼの第一の折り返し部に形成された凹部に嵌合する折り返し部を有し、
前記下ハゼの幅方向の縁部に、前記下継手の凹凸とほぼ同等の展開長さを有する凹凸を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載した記載の横葺き用屋根材。
【請求項5】
前記上ハゼの折り返し部は、前記屋根材本体につながり屋根の小口を形成する縦壁と、この縦壁の下端につながり棟側に向けて折り返された横壁からなり、該上ハゼの幅方向の縁部に、該縦壁を内向きに押し込んだ、凹部を形成するとともに前記下継手の段下がり部につながる段下がり部を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載した横葺き用屋根材。
【請求項6】
前記屋根材本体は、その裏面に貼着される断熱材を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載した横葺き用屋根材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1に記載した横葺き用屋根材を用いて建築構造物の屋根を葺きあげる接続構造であって、
前記下継手に、隣接配置される別の屋根材本体の上継手を重ね合わせるとともに、前記下ハゼ、上ハゼを、隣接配置される別の屋根材の下ハゼ、上ハゼにそれぞれ嵌合させて前記屋根材本体をそれぞれ妻方向に沿って接続する一方、前記下ハゼを、その直上にて隣接配置される別の屋根材の上ハゼに嵌合させるとともに該屋根材の上ハゼを、その直下にて隣接配置される別の屋根材の下ハゼに嵌合させて軒、棟方向に接続してなることを特徴とする横葺き用屋根材の接続構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2013−67984(P2013−67984A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206735(P2011−206735)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000200323)JFE鋼板株式会社 (77)
【Fターム(参考)】