説明

横行装置

【課題】ロンジの清掃作業などを行う場合、ロンジに取付けて掃除などの場所を替える際に、作業者が降りたり昇ったりすることなく横方向に移動することができ、安全で作業能率を大幅に向上することのできる横行装置を提供する。
【解決手段】前面板3、前面板3より短かい後面板4及び前面板3と後面板4の上部を所定の間隔で固定する固定軸5a,5b又は天面板からなる上部枠2と、前面板3の下部に回動可能に支持され上部枠2の下部を開閉するほぼL字状の下部枠17と、下部枠17をロックするロック部19とを有し、係止穴8を有し前面板3の前面側に設けられた支持腕7と、固定軸5a,5b又は天面板に設けられてロンジ55のフェイスプレート55bの上端面に当接する支持ローラ10a,10bと、前面板3の背面側及び後面板4の前面側に設けられてフェイスプレート55bの前面側及び背面側にそれぞれ当接するガイドローラ13,14とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、船舶であるタンカーのバラストタンクに設けた複数のロンジの清掃や塗装などの際に使用する横行装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6はタンカーの地上工事範囲の一部を示す説明図である。51は地表面(地上)、52は上甲板、53は外板、54は縦隔壁で、外板53と縦隔壁54の内壁面には、船首尾方向に沿って上下方向に所定の間隔で、壁面とほぼ直交して(ほぼ水平に)複数のロンジ55が設けられている。56は対向する縦隔壁54の間に形成された油タンク、57は外板53と縦隔壁54との間に形成されたバラストタンクである。
【0003】
このようなロンジ55は、一般に、外板53及び縦隔壁54の壁面から400〜500mm程度突出し、上下方向に800〜900mm程度の間隔で設けられており、例えば、地上工事では2〜10m、渠中工事では3〜30mの高さ範囲に設定されている。
そして、時々清掃したり必要に応じて塗装したりする必要があるが、従来は、図6に示すように、伸縮自在な梯子58をロンジ55に立て掛けて、作業者が梯子58に昇ってこれらの作業を行っていた。このようなロンジ55の清掃、塗装作業については、特許文献又は非特許文献を調査したが発見できなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来は、上記のように、ロンジ55に立て掛けた梯子58に作業者が昇って清掃や塗装などの作業を行っていたが、高所作業で危険を伴うため、下で梯子58を支える作業者が必ず必要であった。また、梯子58に乗った作業者が届く範囲の清掃、塗装などが終ったときは、その都度作業者が梯子58から降りて梯子58を船首尾方向(横方向)に移動し、再び作業者が梯子58に昇らなければならなかった。
このように、従来のロンジ55の清掃、塗装などは、高所作業のため危険が伴うばかりでなく、作業性がきわめて悪く多くの工数がかかるため、多額の費用がかかるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、ロンジの清掃、塗装などの作業を行う場合、ロンジに取付けて掃除などの場所を替える際に作業者が降りたり昇ったりすることなく、そのままの位置で横方向に移動することができ、安全で作業能率が大幅に向上し、コストを低減できる横行装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る横行装置は、船舶の側板などの上下方向に設けられた複数のロンジの清掃などを行う際に使用される装置であって、前面板、該前面板より短かい後面板及び前記前面板と後面板の上部を所定の間隔で固定する固定軸又は天面板からなる上部枠と、前記前面板の下部に回動可能に支持され前記上部枠の下部を開閉するほぼL字状の下部枠と、該下部枠をロックするロック部とを有し、係止穴を有し前記前面板の前面側に設けられた支持腕と、前記固定軸又は天面板に設けられて前記ロンジのフェイスプレートの上端面に当接する支持ローラと、前記前面板の背面側及び後面板の前面側に設けられて前記フェイスプレートの前面側及び背面側にそれぞれ当接するガイドローラとを備えたものである。
【0007】
また、上記の上部枠の前面板の前面側上部にブラケットを設け、該ブラケットに前記支持腕を回動可能に装着したものである。
また、上記の上部枠の前面板の背面側下部にすべり止め部材を取付けたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る横行装置によれば、ロンジの清掃作業などを1人の作業者で行うことができ、また、清掃などの場所を替える際には作業者はそのまま横方向に移動するだけでよく、従来のように、梯子を移動するために降りたり昇ったりすることがないので、安全で作業能率を大幅に向上することができ、これにより清掃などのコストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1に係る横行装置の側面図、図2は図1の上面図である。
図1、図2において、3は鋼材からなる前面板、4は鋼材からなる前面板3より短かい後面板、5a,5bは前面板3と後面板4の上部を所定の間隔で固定する固定軸で、これらにより側面ほぼ逆J字状の上部枠2が構成されている。6は前面板3の前面側上部に設けられたブラケットで、係止穴8を有する支持腕7が軸9を介して回動可能に装着されている。
【0010】
10a,10bは例えば鋼材からなる支持ローラで、固定軸5a,5bの軸方向のほぼ中央部に、軸受(図示せず)を介して回転自在に設けられている。11は前面板3の背面側に取付けられたブラケット、12は後面板4の前面側に取付けられたブラケットで、両ブラケット11,12には、例えばウレタンゴムの如き弾性体からなる一対のガイドローラ13a,13b、14a,14b(以下、単に符号13,14で示すことがある)が、軸受(図示せず)を介して回転自在に支持されている。
【0011】
17は水平部17aと垂直部17bとからなり、水平部17aの一端が前面板3の背面側下部に設けたブラケット15に、軸16を介して回動可能に支持された例えば丸棒からなるほぼL字状の下部枠で、垂直部17bの先端部の前面側には、例えばウレタンゴムの如き弾性体18が取付けられている。19は一端が前面板3を介してブラケット15内に位置し、その先端部が下部枠17をロックするロック部で、つまみ20と前面板3との間にはばね21が介装されており、ロック部19を常時ブラケット15側に付勢し、下部枠17を図1の状態でロックする。
【0012】
次に、上記のように構成した横行装置1のロンジ55への取付手順の一例について、図1〜図3により説明する。なお、破線で示すロンジ55は、一端が外板53又は縦隔壁54にほぼ水平に取付けられるウエブ55aと、ウエブ55aの他端にこれと直交して設けられたフェイスプレート55bとにより、T字状に形成されている。
【0013】
先ず、図1の状態において、ロック部19のつまみ20を矢印方向に引っ張って下部枠17のロックを解除する。これにより、図3に示すように、下部枠17は自重により下方に回動し、横行装置1の下部を開放する。
この状態で、ロンジ55の上方から横行装置1のガイドローラ13,14の間をフェイスプレート55bに嵌合し、支持ローラ10a,10bをフェイスプレート55bの上端面に当接させる。ついで、下部枠17を上方に回動させると、ロック部19により自動的にロックされ、横行装置1はロンジ55に取付けられる。このときの状態を図1に示す。
【0014】
このとき、支持ローラ10a,10bはロンジ55のフェイスプレート55bの上端面に回転自在に当接して横行装置1を支持し、また、ガイドローラ13,14はフェイスプレート55bを回転自在に当接して挟持し、弾性体18はフェイスプレート55bの背面側に当接するので、ガタなく船首尾方向に移動可能に取付けられる。なお、上記の説明では、ガイドローラ13,14及び弾性体18がフェイスプレート55bに当接する場合を示したが、フェイスプレート55bの板厚によっては、僅かなすき間を介して対峙する場合もある(以下の説明では、このような場合を含めて当接という)。
【0015】
次に、上記のように構成した横行装置1を用いて、ロンジ55の清掃や塗装等(以下、単に清掃という)の作業の一例を、図4により説明する。
図において、40は先端部にフック42が設けられたロープ41が巻かれた巻取式墜落防止器具で、自動車のシートベルトと同様に、ロープ41を下方に引くと繰り出されるが、ロープ41に急な繰り出し力(遠心力)が加えられるとロープ41がロックされるようになっており、ロープ41が弛むと自動的に巻き取られるようになっている。
【0016】
先ず、梯子を掛けるなどして、横行装置1を清掃を行うロンジ(図には、最上部のロンジ55Aの場合が示してある)に前述の要領で取付ける。ついで、巻取式堕落防止器具40に設けたフック43を横行装置1の支持腕7に設けた係止穴8に係止させ、巻取式堕落防止器具40を横行装置1に吊下げる。そして、フック42を引っ張ってロープ41を下方に繰り出しておく。この状態で梯子を外す。この場合、例えばフェイスプレート55bの板厚に対応して支持腕7を回動させることにより、ロンジ55Aに対するロープ41の位置を調整することができる。
【0017】
次に、作業者は、腰に巻いた安全ベルト44にロープ41のフック42を引っ掛け、ロンジ55を伝わって所定の位置(ロンジ55Aの清掃作業を行える位置)まで昇る。このとき、作業者の上昇によって弛むロープ41は、巻取式堕落防止器具40に自動的に巻き取られ、ロープ41には常に張力がかかっている。この状態で、作業者はロンジ55aの清掃を行う。
【0018】
所定の範囲の清掃が終って、作業者が次の範囲の清掃を行う場合は、そのままロンジ55Aに沿って横方向に移動する。これにより、横行装置1は作業者の移動に伴ってロープ41に引かれ、支持ローラ10a,10bがフェイスプレート55bの上端面上を回転し、ガイドローラ13,14はフェイスプレート55bに沿って回転しながら横方向に移動し、停止する。若し、横行装置1が所望の位置まで移動しなかったときは、ロープ41を引っ張って移動させればよい。
【0019】
このようにして、横行装置1は作業者と共に順次ロンジ55に沿って横方向に移動し、作業者は引続きロンジ55の清掃を行う。なお、必要に応じて横行装置1に支持ローラ10a,10bを回転駆動するモータを設け、作業者が持つ操作器により遠隔制御してモータを駆動し、横行装置1を横方向に移動させるようにしてもよい。
【0020】
1本のロンジ55Aの清掃が終ったときは、作業者はロンジ55を伝わって地上51に降り、安全バンド44からロープ41のフック42を外す。これにより、ロープ41は巻取式堕落防止器具40に自動的に巻き取られる。
そして、横行装置1をロンジ55Aから取り外し、前述の要領で次に清掃を行うロンジ55に取付けて、再び清掃を行う。
【0021】
清掃作業中や移動中に、若し誤って作業者がロンジ55から足を踏み外しても、これにより、ロープ41に急激な繰り出し力が加えられてロープ41がロックされるため、作業者はその位置に停止し、地上51まで落下することはない。
【0022】
上記の説明では、横行装置1に巻取式堕落防止器具40を取付けて、そのロープ41に設けたフック42を作業者の安全バンド44に掛ける場合を示したが、これに限定するものではなく、例えば、低所のロンジ55を清掃する場合などにおいては、通常の安全帯を用い、その一端を横行装置の支持腕7に設けた係止穴8に係止させるようにしてもよい。
【0023】
本実施の形態によれば、横行装置1を使用することにより、ロンジ55の清掃作業を1人の作業者で行うことができ、また、清掃場所を替える際には作業者はそのまま横方向に移動するだけでよく、従来のように、梯子を移動するために降りたり昇ったりすることがないので、作業能率を大幅に向上することができ、また、これにより清掃コストを低減することができる。
【0024】
また、作業者は腰に巻いた安全バンド44に、横行装置1に取付けた巻取式堕落防止器具40のロープ41に設けたフック42を掛けて清掃作業を行い、上下方向のロンジ55に足を掛けて昇降するようにしたので、従来のように梯子を使用する場合に比べて安定しており、若し、誤ってロンジ55から足を滑らしてもその位置で停止し、地上51まで落下することがないので、きわめて安全である。
【0025】
[実施の形態2]
図5は本発明の実施の形態2に係る横行装置の側面図である。なお、実施の形態1と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、説明を省略する。
図において、25は鋼材からなる前面板26、前面板26より短かい後面板27及びこれらを連結する上面板28からなるほぼ逆J字状の上枠体で、前面板26の前面側上部には、ブラケット6に回動可能に装着された支持腕7が設けられている。
【0026】
そして、上面板28の内壁には図の垂直方向に並設されたブラケット29a,29bが設けられており、それぞれ支持ローラ10a,10b(ブラケット29b、支持ローラ10bは図示してない)が回転自在に設けられている。
30は水平部30aと垂直部30bからなるほぼL字状で板状の下部枠で、垂直部30bの前面側に設けたブラケット31には、例えばウレタンゴムからなるガイドローラ32が回転可能に設けられている。
【0027】
35は前面板26の背面側において、ブラケット11の下方に取付けられた例えばゴムの如き弾性体からなる断面ほぼ台形状のすべり防止部材で、常時はその先端部(背面側の面)が、フェイスプレート55bに近接して位置している。
【0028】
実施の形態1の横行装置1においては、ロンジ55のフェイスプレート55bに取付けて清掃作業中に、横方向の力がかかると横すべりするおそれがあった。
本実施の形態においては、清掃作業のため横行装置1の支持腕7に荷重がかかると、前面板26の下部が僅かに背面側(フェイスプレート55b側)に変位するため、これに取付けられたすべり防止部材35がフェイスプレート55bに圧着され、その摩擦抵抗により横行装置1の横すべりが防止される。
【0029】
本実施の形態に係る横行装置1のロンジ55への取付手順、及びその他(横すべり防止作用以外)の作用、効果は、実施の形態1の横行装置1の場合とほぼ同様である。なお、上記の横すべり防止部材35は、実施の形態1の横行装置1にも適用することができる。
また、上記の各実施の形態においては、係止穴8を有する支持腕7を、前面板3,26に設けたブラケット6に回動可能に装着した場合を示したが、ブラケット6を省略し、支持腕7を直接前面板3,26に固定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態1に係る横行装置の側面図である。
【図2】図1の上面図である。
【図3】図1の作用説明図である。
【図4】本実施の形態に係る横行装置を使用したロンジの清掃作業の説明図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係る横行装置の説明図である。
【図6】従来のロンジの清掃作業の説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 横行装置、2,25 上部枠、3,26 前面板、4,27 後面板、5a,5b 固定軸、7 支持腕、8 係止穴、10a,10b 支持ローラ、13,14,32 ガイドローラ、17,30 下部枠、19 ロック部、28 天面板、35 すべり止め部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の側板などの上下方向に設けられた複数のロンジの清掃などを行う際に使用される装置であって、
前面板、該前面板より短かい後面板及び前記前面板と後面板の上部を所定の間隔で固定する固定軸又は天面板からなる上部枠と、前記前面板の下部に回動可能に支持され前記上部枠の下部を開閉するほぼL字状の下部枠と、該下部枠をロックするロック部とを有し、
係止穴を有し前記前面板の前面側に設けられた支持腕と、前記固定軸又は天面板に設けられて前記ロンジのフェイスプレートの上端面に当接する支持ローラと、前記前面板の背面側及び後面板の前面側に設けられて前記フェイスプレートの前面側及び背面側にそれぞれ当接するガイドローラとを備えたことを特徴とする横行装置。
【請求項2】
前記上部枠の前面板の前面側上部にブラケットを設け、該ブラケットに前記支持腕を回動可能に装着したことを特徴とする請求項1記載の横行装置。
【請求項3】
前記上部枠の前面板の背面側下部にすべり止め部材を取付けたことを特徴とする請求項1又は2記載の横行装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−214706(P2009−214706A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60450(P2008−60450)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)