説明

横軸ポンプ

【課題】ポンプケーシングを分解することなくインペラギャップを調整することができる横軸ポンプを提供する。
【解決手段】本発明に係る横軸ポンプは、回転軸33と、回転軸33に固定されたインペラ31と、インペラ31を収容するポンプケーシング32と、回転軸33とポンプケーシング32との間の隙間をシールする軸封装置50と、回転軸33を回転自在に支持し、回転軸33からのラジアル荷重およびスラスト荷重を受ける軸受52と、ポンプケーシング32の外に配置され、回転軸33の軸方向の位置を調整するアキシャル位置調整機構55と、回転軸33の端部に取り付けられ、回転軸33の軸方向の変位を許容しつつ、トルク伝達を行う自在軸継手38とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を汲み上げるポンプに関し、特に河川水や排水などの液体を汲み上げるポンプシステムに好適に使用される横軸ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、排水機場に用いられる一般的なポンプシステムを示す図である。図1に示すポンプシステムは、河川などの水源に接続される吸込水槽1内の水を汲み上げて、吐出水槽2に移送するためのポンプシステムである。このポンプシステムは、図1に示すように、水を汲み上げるポンプ10と、このポンプ10を駆動する駆動源15とを備える。ポンプ10は、水に運動エネルギーを与えるインペラ11と、インペラ11が収容されるポンプケーシング12とを有しており、インペラ11は回転軸13および減速機18を介して駆動源15に連結される。
【0003】
ポンプ10は、吸込水槽1内に吸込口20aを有する吸込管20と、吐出水槽2内に吐出口21aを有する吐出管21とに接続される。吐出管21には、吐出管21を流れる水の流量を制限する吐出弁25が設けられている。吐出口21aには、吐出水槽2に移送された水の逆流を防止するためのフラップ弁22が設けられている。
【0004】
図1から分かるように、吸込管20、ポンプケーシング12、および吐出管21は、全体としてサイフォン型通路を形成している。ポンプケーシング12の上部には、内部に電極棒を有する満水検知器27が設けられており、この満水検知器27によりポンプケーシング12内が水で満たされているかどうかが検知される。ポンプケーシング12の内部は満水検知器27を介して真空ポンプ28に連通している。
【0005】
ポンプシステムを起動するときは、まず、吐出弁25を全閉した後、電動機Mにより真空ポンプ28を駆動してポンプケーシング12の内部に負圧を形成し、吸込管20内の水位を上昇させる。ポンプケーシング12の内部が水で満たされていることを満水検知器27が検知すると、駆動源15によりインペラ11が回転し、吐出弁25が開かれ、これにより水が吸込水槽1から汲み上げられ、吐出水槽2に移送される。なお、ポンプシステムの条件によっては吐出弁25を開状態としてから真空ポンプを駆動する場合もある。
【0006】
ポンプ10は、回転軸13が水平方向に延びる、いわゆる横軸ポンプである。このタイプのポンプは吸込水槽1の上方に配置されるため、比較的メンテナンスがしやすいという利点がある。ポンプ10の点検事項としては、インペラ11とポンプケーシング12(またはケーシングライナ)との間の隙間(すなわちインペラギャップ)の測定が挙げられる。具体的には、図2に示すように、上ケーシング12aがクレーンなどにより引き上げられ、インペラギャップの測定および調整が行われる。点検作業の終了後は、上ケーシング12aが元の位置に戻され、組立てられる。インペラギャップはポンプ10の揚水性能に影響を与えるため、インペラギャップの測定および調整は定期的に行われる。
【0007】
図2に示すように、横軸ポンプは、上ケーシング12aを取り外すだけでポンプの内部の点検が可能になるため、比較的維持管理のしやすいポンプとして多くの排水機場に用いられている。しかしながら、大型のポンプシステムでは、上ケーシングの重量が数トンにも達するものがある。このため、ポンプの点検作業は、危険を伴う大がかりな作業となる。
【0008】
これに加え、インペラギャップの測定は、上ケーシングの開放、インペラギャップの測定、インペラギャップの調整、上ケーシングの取り付けなどの作業工程を経て行われるため、多くの作業日数を要する。この間、ポンプシステムの運転は停止されるため、排水機場に求められる規定排水量が確保できない場合がある。その結果、排水機場の信頼性が低下してしまう。
【0009】
そこで、ポンプケーシングを分解せずにインペラギャップを監視する種々の方法が従来から提案されている。例えば、特許文献1は、小型カメラを立軸ポンプのケーシング内に導き、カメラからの映像を目視することによりケーシング内部を点検する方法を開示する。しかしながら、この方法では、水の汚濁や照度不足などに起因して、良好な画像が得られないことがある。
【0010】
一方、特許文献2は、ギャップセンサをインペラの近傍に設置し、このギャップセンサによりインペラギャップを測定する方法を開示する。しかしながら、インペラギャップは、通常、0.1mm以下の精度で測定することが求められる。このため、精度のよい高価なセンサが必要となり、コストが上昇する。さらに、センサそのものの定期的な較正が必要となるとともに、センサはポンプ本体に比べ短寿命であり、維持管理コストも増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−161790号公報
【特許文献2】特開平6−313712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたもので、ポンプケーシングを分解することなくインペラギャップを調整することができる横軸ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、回転軸と、前記回転軸に固定されたインペラと、前記インペラを収容するポンプケーシングと、前記回転軸と前記ポンプケーシングとの間の隙間をシールする軸封装置と、前記回転軸を回転自在に支持し、前記回転軸からのラジアル荷重およびスラスト荷重を受ける軸受と、前記ポンプケーシングの外に配置され、前記回転軸の軸方向の位置を調整するアキシャル位置調整機構と、前記回転軸の端部に取り付けられ、前記回転軸の軸方向の変位を許容しつつ、トルク伝達を行う自在軸継手とを備えたことを特徴とする横軸ポンプである。
【0014】
本発明の好ましい態様は、前記アキシャル位置調整機構は、前記回転軸の外周面に係合し、前記回転軸に対して軸方向に移動可能な調整ナットであることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記軸封装置は、非接触型軸封装置であることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記ポンプケーシングの側壁には通孔が形成され、該通孔は前記インペラの近傍に位置しており、前記通孔を塞ぐ閉止部材が前記ポンプケーシングに取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポンプケーシングの外に設置されたアキシャル位置調整機構により回転軸の軸方向の位置、すなわちインペラのポンプケーシングに対する相対位置を調整することができる。したがって、ポンプケーシングを分解することなく、インペラギャップを調整することができる。また、通孔により、現状のインペラギャップをポンプケーシングを分解することなく容易に測定することができるため、点検(測定)、補修(調整)とも容易に短期間に行うことができる信頼性及び経済性のよいポンプとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】排水機場に用いられる一般的なポンプシステムを示す図である。
【図2】上ケーシングを取り外した状態のポンプシステムを示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る横軸ポンプを備えたポンプシステムを示す図である。
【図4】図3に示すポンプの拡大断面図である。
【図5】インペラの軸方向の位置を調整するための機構を説明する拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図3は本発明の一実施形態に係る横軸ポンプを備えたポンプシステムを示す模式図である。なお、図1に示すポンプシステムと同一の要素には同一の符号を付し、その重複する説明を省略する。本実施形態に係るポンプシステムは、図3に示すように、水を汲み上げるポンプ30と、このポンプ30を駆動する駆動源15とを備えている。ポンプ30は、吸込水槽1内に吸込口20aを有する吸込管20と、吐出水槽2内に吐出口21aを有する吐出管21とに接続される。吸込管20は垂直に延び、その下端に形成された吸込口20aは吸込水槽1内の水中に位置している。吸込管20の下端部はベルマウスとして構成されている。
【0018】
ポンプ30は、水に運動エネルギーを与えるインペラ31と、インペラ31が収容されるポンプケーシング32とを有している。インペラ31は回転軸33に固定されており、回転軸33の端部は自在軸継手38を介して減速機(動力伝達装置)18に連結されている。減速機18は駆動源15に連結されている。駆動源15としては、モータ、ディーゼルエンジン、ガスタービンエンジンなどが用いられる。
【0019】
ポンプシステムを起動するときは、まず、電動機Mにより真空ポンプ28を駆動してポンプケーシング32の内部に負圧を形成し、吸込管20内の水位を上昇させる。ポンプケーシング32の内部が水で満たされていることを満水検知器27が検知すると、駆動源15によりインペラ31が回転し、これにより水が吸込水槽1から汲み上げられ、吐出水槽2に移送される。
【0020】
図4は、図3に示すポンプ30の拡大断面図である。図4に示すように、このポンプ30は斜流ポンプである。ポンプケーシング32の一部は、吐出しボウル32aとして構成されており、この吐出しボウル32a内にインペラ31が収容されている。インペラ31は回転軸33に固定され、インペラ31の下流側には複数の案内羽根40が配置されている。インペラ31の羽根と吐出しボウル32aの円錐形の内周面との間には微小な隙間(すなわち、インペラギャップ)が形成されている。なお、インペラ31を囲むようにケーシングライナが吐出しボウル32aの内周面に取り付けられることもある。この場合は、インペラギャップは、インペラ31とケーシングライナとの間の隙間である。
【0021】
吐出しボウル32aの側壁には、小さな通孔42が形成されている。この通孔42はインペラ31の羽根の側端部の近傍に位置しており、通孔42を通じてインペラギャップが測定可能となっている。すなわち、インペラギャップは、マイクロメータや隙間ゲージなどの一般的な計測器を用いて直接測定することができる。したがって、高価な測定センサが不要であり、低コストのポンプが提供される。通孔42は、測定時以外は、蓋またはプラグなどの閉止部材43によって閉じられている。これらの通孔42および閉止部材43は、複数組設けることが好ましい。
【0022】
回転軸33は、ポンプケーシング32を貫通して延びており、回転軸33とポンプケーシング32との間には軸封装置50が設けられている。この軸封装置50としては、フローティングリングシールなどの非接触型軸封装置が好適に用いられる。なお、フローティングリングシールは、回転軸33とフローティングリングとの間に形成される微小な隙間により軸封作用を発揮する非接触型軸封装置である。
【0023】
軸封装置50の近傍には、回転軸33を回転自在に支持する軸受52が設けられている。この軸受52は、ポンプケーシング32の外側に配置されており、外軸受ともいう。なお、図示しないが、ポンプケーシング32内には回転軸33を支持する水中軸受が設けられている。ポンプ30の運転中は、水の流れとは逆方向のスラスト荷重がインペラ31から回転軸33に作用する。したがって、軸受52は、ラジアル荷重のみならず、回転軸33に作用するスラスト荷重も受けることができるように構成されている。なお、本実施形態では、軸受52としてボールベアリングが使用されている。ポンプケーシング32の外面には、軸受52を支持する台座53が固定されている。本実施形態では、ポンプケーシング32と台座53とは一体に形成されている。回転軸33には、インペラ31の軸方向の位置を調整するアキシャル位置調整機構としての調整ナット55が取り付けられている。
【0024】
図5は、インペラ31の軸方向の位置を調整するアキシャル位置調整機構を説明する拡大断面図である。図5に示すように、回転軸33の外周面には略円筒状のジャーナル56が取り付けられている。このジャーナル56と回転軸33とは、図示しないキー及びキー溝により一体に回転するようになっている。また、回転軸33はジャーナル56に対して相対的に軸方向にある程度移動可能となっている。ジャーナル56の外周面は、上述した軸受52によって回転自在に支持されている。回転軸33の外周面には、調整ナット55が取り付けられている。回転軸33の外周面の一部にはねじ山(図示せず)が形成されており、調整ナット55はこのねじ山に係合している。したがって、調整ナット55を回すことにより、調整ナット55は回転軸33に対して相対的に軸方向に移動する。
【0025】
調整ナット55は、ジャーナル56に隣接して配置されており、調整ナット55とジャーナル56との相対位置は、セットピン57によって固定されている。このセットピン57は、調整ナット55及びジャーナル56に形成された孔に挿入されており、取り外し可能となっている。このような構成により、調整ナット55の軸方向位置、すなわち回し量により、回転軸33及びインペラ31の軸方向位置を調整することができる。具体的には、セットピン57を取り外した状態で調整ナット55を回して回転軸33の位置を調整し、所定のインペラギャップとなるような位置でセットピン57を装着して調整ナット55とジャーナル56とを固定する。
【0026】
回転軸33の端部には自在軸継手38が取り付けられており、回転軸33と減速機18とは自在軸継手38によって連結されている。上述した軸受52は自在軸継手38と軸封装置50との間に位置している。自在軸継手38は、回転軸33の軸方向の変位を許容しつつ、トルクを伝達する軸継手である。自在軸継手38の具体例としては、回転軸の軸方向の変位を吸収する弾性材を用いたスペーサ型自在軸継手やフローティングシャフト型自在軸継手が挙げられる。このような自在軸継手38を採用することにより、調整ナット55による回転軸33の軸方向の変位を自在軸継手38によって吸収することができる。
【0027】
インペラギャップは、次のようにして調整ナット55によって調整される。まず、自在軸継手38を回転軸33から外し、さらにセットピン57を調整ナット55から取り外す。次に、調整ナット55を回転させることにより、インペラ31がポンプケーシング32(またはケーシングライナ)に接触するまで、回転軸33を減速機18(反インペラ側)に向かって移動させる。その後、調整ナット55を反対方向に回しながら、インペラギャップが所定の値になるように調整ナット55の位置を決定する。このインペラギャップの調整は、回転軸33の移動量を測定しながら、または通孔42を通じてインペラギャップを直接測定しながら行われる。そして、自在軸継手38を回転軸33に取り付け、回転軸33を減速機18に連結する。このようにしてインペラギャップの調整がポンプケーシング32を分解することなく行われる。
【0028】
ポンプケーシング32に対して回転軸33を軸方向に移動させる観点からは、上述したように、軸封装置50として非接触型軸封装置を採用することが好ましい。しかしながら、回転軸33との接触部が取り外し可能に構成されているものであれば接触型軸封装置を用いてもよい。例えば、パッキンは、その交換時には回転軸33から取り外されるので、交換作業中は、軸封装置50と回転軸33とは非接触となる。したがって、パッキンの交換作業に併せて、調整ナット55によるインペラギャップの調整作業を行うことができる。
【0029】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。
【符号の説明】
【0030】
1 吸込水槽
2 吐出水槽
10,30 ポンプ
11,31 インペラ
12,32 ポンプケーシング
13,33 回転軸
15 駆動源
18 減速機
20 吸込管
21 吐出管
22 フラップ弁
25 吐出弁
27 満水検知器
28 真空ポンプ
38 自在軸継手
40 案内羽根
42 通孔
43 閉止部材
50 軸封装置
52 軸受
53 台座
55 調整ナット(アキシャル位置調整機構)
56 ジャーナル
57 セットピン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸に固定されたインペラと、
前記インペラを収容するポンプケーシングと、
前記回転軸と前記ポンプケーシングとの間の隙間をシールする軸封装置と、
前記回転軸を回転自在に支持し、前記回転軸からのラジアル荷重およびスラスト荷重を受ける軸受と、
前記ポンプケーシングの外に配置され、前記回転軸の軸方向の位置を調整するアキシャル位置調整機構と、
前記回転軸の端部に取り付けられ、前記回転軸の軸方向の変位を許容しつつ、トルク伝達を行う自在軸継手とを備えたことを特徴とする横軸ポンプ。
【請求項2】
前記アキシャル位置調整機構は、前記回転軸の外周面に係合し、前記回転軸に対して軸方向に移動可能な調整ナットであることを特徴とする請求項1に記載の横軸ポンプ。
【請求項3】
前記軸封装置は、非接触型軸封装置であることを特徴とする請求項1に記載の横軸ポンプ。
【請求項4】
前記ポンプケーシングの側壁には通孔が形成され、該通孔は前記インペラの近傍に位置しており、前記通孔を塞ぐ閉止部材が前記ポンプケーシングに取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の横軸ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−21512(P2011−21512A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165779(P2009−165779)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【出願人】(506236820)株式会社 荏原由倉ハイドロテック (31)
【Fターム(参考)】