説明

樹勢回復方法

【課題】 衰えが著しい樹勢を確実に回復することができるようにした樹勢回復方法を提供する。
【解決手段】 樹木及び果樹の根を剪定断根し、発根想定箇所及び/又は新根の伸長想定箇所の土壌中に電気導体の粉粒を混合して土壌を改良し、改良土壌に低電流の高電圧を印加して電気刺激を与え、菌根菌を増殖させて菌根を形成させ、発根を促すことによって樹勢を回復させる。印加する低電流の高電圧は、10mA〜120mAの範囲内の低電流の10,000V〜100,000Vの範囲内の高電圧とし、0.3秒〜60秒の範囲内の時間印加するのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹勢回復方法に関し、特に衰えが著しい樹勢を確実に回復することができるようにした方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹木(果樹を含む)は、植栽条件、過度な剪定、化学肥料の連続使用、踏圧、病害虫による加害、異常気象など、様々な要因によって樹勢が衰える。
【0003】
このような樹木は一般に短期間での樹勢の回復が難しいとされているが、寺院や神社などの巨木や古木はときには信仰の対象にされるなど、大切にされており、樹勢を回復させて残したいという要望が多い。
【0004】
そこで、樹木回りの固くなった土壌をほぐし、ピートモスや泥炭を混ぜ込み、根の成長を促進して樹勢を回復する方法(特許文献1)、樹勢の衰えた樹木をクレーンなどによって持ち上げ、その下側に樹勢回復のための資材を投入するとともに、浅植えにして樹勢を回復する方法(特許文献2)、水分を十分に吸収させた泥炭を樹木の空洞箇所に埋め込むことによって不定根を生やさせ、樹勢を回復する方法(特許文献3)、などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−109771号公報
【特許文献2】特開2009−291162号公報
【特許文献3】特開2002−315435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1、2記載の方法では樹勢の衰えの程度が軽い場合には回復効果があるものの、樹勢の衰えが著しい場合には樹勢の回復が難しい。
【0007】
他方、特許文献3記載の方法では樹勢の衰えが土壌が固くなったことに起因する場合には樹勢回復の効果が少ない。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑み、衰えが著しい樹勢を確実に回復することができるようにした樹勢回復方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明に係る樹勢回復方法は、樹木及び果樹の根を剪定断根し、発根想定箇所及び/又は新根の伸長想定箇所の土壌中に電気導体の粉粒を混合して土壌を改良し、改良土壌に低電流高電圧を印加して電気刺激を与え、菌根菌を増殖させて菌根を形成させ、発根を促すことによって樹勢を回復するようにしたことを特徴とする。
【0010】
VA菌根菌などの共生微生物は土壌中の肥料成分を吸収して宿主に与え、土壌病害に対する抵抗性を向上させ、水分吸収能力を強化するという作用を営むことが知られている。そこで、多孔質炭化物などに共生微生物を高密度に担持させ、緑化を促進するようにした緑化資材が提案されているが(特開2007−74986号公報)、樹勢回復に電気刺激を利用するものではなかった。
【0011】
本発明の特徴の1つは樹木の根に剪定断根を行い、発根が想定される土壌及び/又は新根の伸長が想定される土壌に電気導体の粉粒を混合して土壌を改良し、改良土壌に高電圧の電気刺激を与えて菌根菌の増殖、胞子の発芽、菌糸の分化伸長、及び菌根の形成を促進するようにした点にある。
【0012】
これにより、新しい根が強制的に発根されるので、樹勢が著しく衰えた樹木についても樹勢を確実に回復させ維持することができる。この場合、必要に応じ、子実体を形成する樹種はその樹種と共生する子実体の胞子液を施工範囲に撒布し、その他の場合は菌根菌資材(例えば、特開2007−749865号公報、参照)を混合土壌に加えたり、固くなった土壌をほぐし、割竹などの通気管を埋設するなどの対処を行うのがよい。
【0013】
土壌への通電は地中に放電されてしまい、効率的な通電は難しい一方、高電圧大電流を通電すると、菌根菌や菌根あるいは樹木の根が損傷を受け、樹勢の衰えを加速させるおそれがある。本発明では電気導体の粉粒を土壌に混合し、必要な大きさの高電圧低電流によって菌根菌や菌根あるいは樹木の根に電気刺激を与えるようにした。
【0014】
本件発明者の実験によれば、印加する低電流の高電圧は、10mA〜120mAの範囲内の低電流の10,000V〜100,000Vの範囲内の高電圧がよく、印加時間は、0.3秒〜60秒の範囲内の時間がよいことが確認された。また、印加の回数は1カ月に1回以上であればよかった。
【0015】
ここで、電圧を10,000V〜100,000Vの範囲内の電圧としたのは、10,000V未満では電気刺激が小さすぎて効果が得られず、100,000Vを越えると、電気刺激が強すぎて逆効果になるからである。電流を10mA〜120mAの範囲内の電流としたのは、10mA未満では電気刺激が小さすぎて効果が得られず、120mAを越えると、電気刺激が強すぎて逆効果になるからである。印加時間は電気刺激の強さを考慮して0.3秒〜60秒の範囲内の時間とした。
【0016】
印加の仕方は改良土壌中に複数の電極を埋設し、電極間に高電圧を印加するようにするのがよい。電気導体は加水した土壌改良材でもよいが、粉炭、粒炭、導電性セラミック炭などの炭は多孔性で、菌根菌の担体としての機能も奏するので、粉炭、粒炭、導電性セラミック炭又はその混合物を用いるのがよい。
【0017】
ここで、樹種と共生菌との関係を示すと、マツ科、ヒノキ科、クルミ科、ヤナギ科、カバノキ科、ブナ科、ニレ科、バラ科、マメ科、ムクロジ科、カエデ科、シナノキ科、フトモモ科、ツツジ科の樹種は、外生菌根菌と共生するが、カエデ科とフトモモ科はアーバスキュラー菌根菌とも共生する。
【0018】
また、アブラナ科、カヤツリグサ科、アナザ科及びタデ科を除く、バラ科、ヒノキ科、スギ科、ノチノキ科、イチョウ科、マキ科、ニレ科、クワ科、モクレン科、クスノキ科、トベラ科、ミカン科、トウダイグサ科、ツバキ科の樹種は、アーバスキュラー菌根菌と共生する。
【0019】
ツツジ科の樹脂はエリコイド菌根菌と共生するが、ツツジ科のうち、ドウダンツツジはアーバスキュラー菌根菌とも共生する。
【0020】
ハンノキ属、ヤマモモ属、グミ属及びモクマオウ属の樹種はフランキアと共生する。ハンノキ属の樹種は外生菌根菌のハンノキイグチ等とも共生する。ヤマモモ属の樹種はアーバスキュラー菌根菌とも共生すると言われており、又グミ属及びモクマオウ属の樹種はアーバスキュラー菌根菌とも共生する。
【0021】
マメ科の樹脂は根粒菌と共生するが、アーバスキュラー菌根菌とも共生する。ソテツ科の樹種はシアノドクテリアと共生するが、アーバスキュラー菌根菌とも共生する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る樹勢回復方法の好ましい実施形態を模式的に示す図である。
【図2】施工方法の1例を模式的に示す図である。
【図3】施工方法の他の例を模式的に示す図である。
【図4】施工方法のさらに他の例を模式的に示す図である。
【図5】根の内部に菌根を形成する場合の低電流高電圧の印加方法を模式的に示す図である。
【図6】根の表面に菌根を形成する場合の低電流高電圧の印加方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体例に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る樹勢回復方法の好ましい実施形態を模式的に示す。古木や巨木の樹勢を回復させる場合、図1の(a)に示されるように、樹木の根10を適切な箇所12で剪定断根する。図中、11が剪定断根した根である。次に、粉炭、粒炭、導電性のセラミック炭あるいはこれらの混合物と土壌を混合し、剪定断根を行った箇所を掘削して炭の混合土壌で埋め戻して土壌13を改良するとともに、改良土壌13内に電極14、14Gを埋設する。
【0024】
次に、電極14に10mA〜120mAの範囲内の低電流の10,000V〜100,000Vの範囲内の高電圧を、0.3秒〜60秒の範囲内の時間だけ電極14、14G間に印加し、根10、菌根及び菌根菌15、菌糸16、胞子17に電気刺激を与える。電気刺激は1カ月に1回以上加えるようにする。すると、残っていた健全な根10から新しい根18が発根して成長し、新しい根が共生している菌根菌15を介して栄養及び水分を確実に吸収し、幹を経て枝葉に与えるので、衰えていた樹勢が確実に回復し、その樹勢が維持されることとなる。
【0025】
ここで、改良土壌13は図2に示されるように、スポット的に埋め戻してもよく、図3に示されるように全面に埋め戻してもよく、あるいは図4に示されるように、適当な面積の任意の形状に埋め戻してもよい。
【0026】
なお、図1の(b)において電極14と電極14Gを逆に埋設し、根から細根、菌根、菌糸に刺激を与えるようにしてもよい。
【0027】
また、アーバスキュラー菌根菌など、菌根を根の内部に形成させる場合、図5に示されるように、アース電極14Gを根10に接するように埋設する一方、外生菌根菌など、菌根を根10の表面に形成する場合には図6に示されるように、アース電極14Gを改良土壌13に埋設する方法も併用して行うとよい。
【0028】
さらに、図5において、根の近くの菌糸が伸長する改良土壌中に、電極14及び電極14Gを共に埋設し、電気刺激によって菌糸の分断が起こり、分正胞子になり、菌糸断片だけでも増殖し、菌糸又は子実体原基が作られる。
【0029】
上記の例では樹勢の衰えた巨木や古木の場合について説明したが、本発明の方法は果樹園のモモ、ナシ、リンゴ、ミカン、クリなどの樹勢についても同様に回復させ維持できることが確認された。
【符号の説明】
【0030】
10 根
11 根を剪定断根した位置
13 混合土壌
14、14G 電極
15 菌根・菌根菌
16 菌糸
17 胞子
18 新根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹木及び果樹の根を剪定断根し、発根想定箇所及び/又は新根の伸長想定箇所の土壌中に電気導体の粉粒を混合して土壌を改良し、改良土壌に低電流の高電圧を印加して電気刺激を与え、菌根菌を増殖させて菌根を形成させ、発根を促すことによって樹勢を回復するようにしたことを特徴とする樹勢回復方法。
【請求項2】
上記印加する低電流の高電圧は、10mA〜120mAの範囲内の低電流の10,000V〜100,000Vの範囲内の高電圧である請求項1記載の樹勢回復方法。
【請求項3】
上記低電流の高電圧を0.3秒〜60秒の範囲内の時間印加するようにした請求項2記載の樹勢回復方法。
【請求項4】
上記電気導体が炭である請求項1記載の樹勢回復方法。
【請求項5】
上記改良土壌中に複数の電極を埋設し、高電圧を印加するようにした請求項1記載の樹勢回復方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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