説明

樹状細胞、及び抗癌剤

【課題】特異的な免疫応答による強力な抗腫瘍効果を有し、VEGFの機能を阻害することができ、腹膜播種を治療可能な、腺癌に対する抗癌剤の提供。
【解決手段】Flt−1遺伝子が導入された組換えパラミクソウイルスベクターを含有することを特徴とする樹状細胞、及び該樹状細胞を含有することを特徴とし、VEGFの産生を抑制し、腫瘍を縮小させ、癌による体重増加、及び腹水の産生を抑制することができ、更に腹膜播種モデルマウスの生存率を高め、生存日数を延長させることが可能な抗癌剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Flt−1遺伝子が導入された組換えパラミクソウイルスベクターを含有する樹状細胞、及び該樹状細胞を含有する抗癌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍に対する免疫療法の歴史は古く、OK−432などの菌体成分やワクチンウイルスなどを用いた臨床試験が行われている。
しかし、これらの免疫療法は、腫瘍を縮小させる効果(奏功率)が低く、更に非特異的な炎症反応による巻き込み現象を期待したものであるため特異性も低い点で問題である。
【0003】
生体内における抗原特異的免疫応答のメカニズムとして、抗原提示細胞による免疫応答が挙げられる。抗原提示細胞の1種である樹状細胞は、未成熟樹状細胞が抗原を貪食することにより活性化され、樹状突起を有する成熟樹状細胞となり、リンパ器官に遊走する。前記成熟樹状細胞は、リンパ器官において貪食した抗原に特異的なT細胞やB細胞を活性化するため、免疫応答に非常に重要な細胞である。
【0004】
このような機構を利用して、1990年代半ば頃より、腫瘍抗原をパルスした樹状細胞(dendritic cells(DC))を用いた腫瘍特異的免疫療法に関する臨床研究成果が発表(非特許文献1〜2参照)され、前記腫瘍特異的免疫療法が腫瘍を縮小させる効果を示すことが明らかになりつつある。
しかし、樹状細胞による腫瘍特異的免疫療法の臨床成績は満足できるものではなく(非特許文献3参照)、新たな治療法の開発、及び確立が強く望まれている。
【0005】
近年、腫瘍特異的免疫療法に、組換えセンダイウイルスベクター(組換えSeVベクター)により活性化した樹上細胞を利用する試みが行われた。組換えSeVベクターを生体へ投与すると一連の免疫反応が惹起される。組換えSeVベクターが導入された樹状細胞は、樹状突起を伸ばし、強力に活性化された状態となる(特許文献4参照)。また、組換えSeVベクターが導入された樹状細胞は、担癌マウスモデルにおいて強力な抗腫瘍効果を示すことが知られている(非特許文献5〜6参照)。
【0006】
しかしながら、組換えSeVベクターが導入された樹状細胞を用いた癌治療は、我が国において最も発生頻度の高い腺癌(胃癌、大腸癌など)に対する治療においては、有効であるか否かは明らかとなっていない点で問題である。特に、腹膜播種をきたしやすい難治性消化器癌、及び女性器癌に対して新しい治療法の開発が望まれているのが現状である。
【0007】
腹膜播種は、各種消化器癌、及び女性器癌に認められる癌の症状が進行した病態の1つである。具体的には、癌細胞が、腹腔内に転移し、増殖し、多量の腹水を伴った病態を呈する。また腹膜播種をきたした癌は、癌細胞の完全切除が難しく、既存の治療法では対処できないため、完治させることが困難な点で問題である。
【0008】
癌の進行は、血管新生により促進されることが知られている。即ち、血管新生は、腫瘍細胞塊へ酸素や栄養を供給することで腫瘍細胞を増加させる。更に、血管新生により血管内に腫瘍細胞が侵入し、転移を促す。
このような、血管新生を誘導する血管新生因子の1つとして、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が知られている。前記VEGFは、血管新生を誘導するだけでなく、腹水の産生促進、血管透過性の亢進、更には前述した樹状細胞の免疫機能の抑制などの機能も有することが知られている。
【0009】
したがって、特異的な免疫応答による強力な抗腫瘍効果を有し、VEGFの機能を阻害することができ、腹膜播種を治療可能な、腺癌に対する抗癌剤の開発が強く望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2005/42737号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Nestle FO, et al., Nat Med, 1998, 4(3), p.328−32
【非特許文献2】O’ Neill DW, et al.,Blood, 2004, 104(8), p.2235−2246
【非特許文献3】Rosenberg SA, et al., Nat Med, 1998, 4, p.328−332
【非特許文献4】Hsu FJ, et al., Nat Med, 1996, 2(1), p.52−8
【非特許文献5】Shibata S, et al., J Immunol, 2006, 177(6), p.3564−3576
【非特許文献6】Yoneyama Y, et al., Biochem Biophys Res Commun, 2007, 355, p.129−135
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、特異的な免疫応答による強力な抗腫瘍効果を有し、VEGFの機能を阻害することができ、腹膜播種を治療可能な、腺癌に対する抗癌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、Flt−1遺伝子を導入した組換えセンダイウイルスベクターが樹状細胞を活性化すること、該組換えセンダイウイルスベクターを含有する樹状細胞がFLT−1タンパク質の産生量を増加させ、VEGFタンパク質の産生を抑制すること、該樹状細胞を投与した腹膜播種モデルマウスにおいて、腫瘍の縮小、体重増加の抑制、及び腹水産生の抑制が認められること、更に該樹状細胞を投与した腹膜播種モデルマウスは生存率が高く、生存日数が延長されることを知見し、本発明の完成に至った。
【0014】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> Flt−1遺伝子が導入された組換えパラミクソウイルスベクターを含有することを特徴とする樹状細胞である。
<2> 組換えパラミクソウイルスベクターが、組換えセンダイウイルスベクターである前記<1>に記載の樹状細胞である。
<3> Flt−1遺伝子が、配列番号:1で表される遺伝子を有する前記<1>から<2>のいずれかに記載の樹状細胞である。
<4> Flt−1遺伝子が導入された組換えパラミクソウイルスベクターにより活性化される前記<1>から<3>のいずれかに記載の樹状細胞である。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の樹状細胞を含有することを特徴とする抗癌剤である。
<6> 腺癌治療用である前記<5>に記載の抗癌剤である。
<7> 腺癌が、消化器癌、及び女性器癌の少なくともいずれかである前記<5>から<6>にいずれかに記載の抗癌剤である。
<8> 腹水産生を抑制する前記<5>から<7>のいずれかに記載の抗癌剤である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、特異的な免疫応答による強力な抗腫瘍効果を有し、VEGFの機能を阻害することができ、腹膜播種を治療可能な、腺癌に対する抗癌剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】図1Aは、DC/LPS、DC/rSeV/hFlt−1、DC/rSeV/GFP、及び未処理DCのCD40(活性化した樹状細胞のマーカー)の発現を、フローサイトメーターで測定した結果を表す図である。
【図1B】図1Bは、DC/LPS、DC/rSeV/hFlt−1、DC/rSeV/GFP、及び未処理DCのCD83(活性化した樹状細胞のマーカー)の発現を、フローサイトメーターで測定した結果を表す図である。
【図2A】図2Aは、未処理DC、DC/LPS、DC/rSeV/GFP、DC/rSeV/hFlt−1、及びDC/CT26のmVEGFタンパク質の発現量を表す図である。
【図2B】図2Bは、未処理DC、DC/LPS、DC/rSeV/GFP、DC/rSeV/hFlt−1、及びDC/CT26のhFLT−1タンパク質の発現量を表す図である。
【図3】図3は、正常マウス、及びCT26投与後21日目の腹膜播種モデルマウスの全体像を表す図である。
【図4A】図4Aは、正常マウス、及び腹膜播種モデルマウスの、循環血漿中、及び腹水中におけるmVEGFタンパク質の発現量を表す図である。
【図4B】図4Bは、正常マウス、及び腹膜播種モデルマウスの、循環血漿中、及び腹水中におけるmFLT−1タンパク質の発現量を示す図である。
【図5A】図5Aは、腹膜播種モデルマウスへのDC/rSeV/GFP又はDC/rSeV/hFlt−1の投与後21日目、及び35日目の腹膜播種モデルマウスの全体像を表す図である。
【図5B】図5Bは、腹膜播種モデルマウスへのDC/rSeV/hFlt−1の投与後21日目の腸管の全体像を表す図である。
【図6】図6は、DC/rSeV/GFP、DC/rSeV/hFlt−1、及びDC/LPSのいずれかを週1回3週間投与した腹膜播種モデルマウスの寿命曲線を表す図である。
【図7A】図7Aは、DC/rSeV/GFPを投与した腹膜播種モデルマウスの寿命曲線を表す図である。
【図7B】図7Bは、DC/rSeV/hFlt−1を投与した腹膜播種モデルマウスの寿命曲線を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(樹状細胞)
本発明の樹状細胞は、Flt−1遺伝子が導入された組換えパラミクソウイルスベクターを含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0018】
<組換えパラミクソウイルスベクター>
前記組換えパラミクソウイルスベクターは、前記Flt−1遺伝子が導入されたウイルスベクターである(「組換えパラミクソウイルスベクター遺伝子」と称することがある。)。
【0019】
−Flt−1遺伝子−
前記Flt−1遺伝子は、可溶性のタンパク質であるヒトの血管内皮細胞増殖因子(hVEGF)の受容体(receptor)であり、VEGF receptor−1と呼ばれることもある(以下、「hFlt−1」と称することがある。)。
前記hFlt−1遺伝子の塩基配列としては、配列番号:1で表される塩基配列が好ましいが、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、配列番号:1で表される塩基配列の一部からなる塩基配列であってもよく、配列番号:1で表される塩基配列に、更にその他の塩基配列が付加された塩基配列であってもよい。
前記hFlt−1遺伝子の塩基配列が、配列番号:1で表される塩基配列の一部からなる場合、その一部の塩基配列としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記その他の塩基配列としても、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
また、前記hFlt−1遺伝子の塩基配列は、配列番号:1で表される塩基配列に、1若しくは数個の塩基が、欠失、置換、挿入された塩基配列からなるものであってもよい。
【0020】
−−入手方法−−
前記hFlt−1遺伝子を入手する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト肺cDNAライブラリーより入手する方法、市販品より入手する方法、ヒトなどの各種動物細胞より調製して入手する方法、合成により入手する方法などが挙げられる。
前記hFLT−1タンパク質を入手する方法としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記hFlt−1遺伝子を所望の発現ベクターに組み込み常法を用いて発現させる方法、市販品より入手する方法、ヒトなどの各種動物細胞より調製して入手する方法、合成により入手する方法、などが挙げられる。
【0021】
−−パラミクソウイルスベクター−−
パラミクソウイルスベクターは、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)のウイルスに由来するウイルスベクターである。
このベクターは、ゲノムに1本鎖RNAを有し、細胞質内で遺伝子を発現するため、染色体と相互作用せず、遺伝毒性のない安全なベクターである。また、標的細胞への高い遺伝子導入効率、及び発現効率を示す。
前記パラミクソウイルスベクターは、ウイルスベクターの一種であるため、標的細胞への遺伝子導入の際、高い遺伝子導入効率が得られる点で有利である。
前記パラミクソウイルス科のウイルスとしては、例えば、センダイウイルス(Sendai virus)、おたふくかぜウイルス(Mumps virus)、麻疹ウイルス(Measles virus)、RSウイルス(Respiratory syncytial virus)、牛疫ウイルス(rinderpest virus)、ジステンパーウイルス(distemper virus)、サルパラインフルエンザウイルス(SV5)、ヒトパラインフルエンザウイルス1,2,3型などが挙げられる。
前記パラミクソウイルスベクターの由来としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記センダイウイルス由来のウイルスベクターが、毒性が低い点、導入遺伝子の発現効率が高い点、導入遺伝子の宿主染色体への組み込みが行われず安全性に優れる点で好ましい。
【0022】
−−センダイウイルスベクター−−
前記センダイウイルスベクター(以下、「SeVベクター」、「SeVベクター遺伝子」と称することがある。)は、センダイウイルスに由来するベクターであり、所望の遺伝子を標的細胞である前記樹状細胞に導入することが可能な運搬体である。
【0023】
前記SeVベクターの塩基配列としては、前記hFlt−1遺伝子を導入した際、前記樹状細胞でhFlt−1遺伝子を発現することができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、欠陥干渉粒子(defective interfering particle、DI粒子)(J.Virol, 1994, 68, p.8413−8417参照)などの不完全ウイルスをコードする塩基配列を有するSeVベクター、F遺伝子を有するSeVベクター、F遺伝子を欠失しているSeVベクター、温度感受性の遺伝子を有するSeVベクターなどが挙げられる。
これらの中でも、F遺伝子を欠失しているSeVベクターが、伝播力を欠如している点で好ましく、配列番号:2で表される塩基配列が特に好ましい。
【0024】
前記SeVベクターの形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、遺伝子の形態であってもよく、リボ核タンパク質(RNP)の形態であってもよく、ウイルス様粒子(VLP)であってもよく、感染力を有するウイルス粒子の形態であってもよい。
前記感染力とは、細胞への接着能、及び膜融合能の少なくともいずれかによって、センダイウイルス粒子が保持する核酸などを細胞内へ導入することができる能力をいう。
【0025】
また、前記SeVベクターは、本発明の効果を損なわない限り、その他の成分を含む組成物の形態であってもよい。
前記SeVベクター中のその他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脱イオン水、超純水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、5質量%デキストロース水溶液、生体適合性のポリオルなどが挙げられる。
前記生体適合性のポリオルとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、poloxamer407などが挙げられる。前記組成物が、前記ポリオルを含むと、前記SeVベクターの導入率を10倍〜100倍に上昇させることができる点で好ましい(March et al., Human Gene Therapy, 1995, 6, p.41−53参照)。
なお、前記ポリオルは、前記組成物に含まれていてもよく、前記SeVベクターと前記ポリオルとを別々に調製し、前記SeVベクターを前記樹状細胞へ導入する際、同時に導入してもよい。
【0026】
また、前記SeVベクターは、前記感染力を有している一方で伝播力を欠如していることが好ましい。
センダイウイルスの天然型の遺伝子は、3’末端の短いリーダー領域、ヌクレオキャプシドタンパク質(N)遺伝子、リン酸化タンパク質(P)遺伝子、マトリクスタンパク質(M)遺伝子、フュージョンタンパク質(F)遺伝子、ヘマグルチニン−ノイラミニダーゼ(HN)遺伝子、ラージタンパク質(L)遺伝子、及び5’末端の短いトレイラー領域を、前記した順序で有する。
前記伝播力を欠如させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記F遺伝子、HN遺伝子、及びM遺伝子の少なくともいずれかを欠失させておくことが好ましく、前記F遺伝子を欠失させることが特に好ましい。
前記伝播力を欠如させたSeVベクター遺伝子(cDNA)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、F遺伝子が欠失したセンダイウイルスZ株由来のSeVベクター遺伝子、pSeV18+b(+)(Yu D., et al., Genes to Cells, 1997, 2, p.457−466参照)、pSeV(+)(Kato A, et al., EMBO J, 1997, 16, p.578−587参照)などが挙げられる。
【0027】
−−入手方法−−
前記パラミクソウイルスベクターを入手する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パラミクソウイルス科に属するウイルスより調製して入手する方法、市販品より入手する方法、合成により入手する方法などが挙げられる。
【0028】
−含有量−
前記樹状細胞中の、前記組換えパラミクソウイルスベクターの含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0029】
<その他の成分>
前記樹状細胞中の前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記樹状細胞を所望の濃度に希釈するための水、生理食塩水、各種緩衝液などが挙げられる。
前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0030】
<製造方法>
前記樹状細胞の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記SeVベクターに前記hFlt−1遺伝子を導入した組換えSeVベクター(以下、「pSeV−hFlt−1」と称することがある。)を作製し、該pSeV−hFlt−1から組換えセンダイウイルス(以下、「rSeV/hFlt−1」と称することがある。)を作製し、該rSeV/hFlt−1を前記樹状細胞へ感染させることで、前記pSeV−hFlt−1を含有する樹状細胞を製造する方法などが挙げられる。
【0031】
−組換えSeVベクター(pSeV−hFlt−1)の作製−
−−hFlt−1遺伝子の調製−−
前記hFlt−1遺伝子を調製する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト肺cDNAライブラリー鋳型としてPCR法を行い、cDNAを合成する方法などが挙げられる。
前記PCR法に用いる酵素としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ExTaqポリメラーゼ(宝酒造(株)製)、Ventポリメラーゼ(NEB社製)などが挙げられるが、これらの中でも、Ventポリメラーゼが好ましい。
【0032】
前記PCR法に用いるフォワード側プライマー配列を設計する前記Flt−1遺伝子の位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、フォワード側のプライマー配列には、前記Flt−1遺伝子のcDNAの5’末端から25塩基近傍までを含むように選択することが好ましい。
前記フォワード側のプライマー配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5’末端に「ACTT」を含み、その3’末端側に「GCGGCCGC(NotI認識部位)」を付加し、更にその3’末端側にスペーサー配列として任意の9塩基又は該9塩基に6の倍数の塩基数を有する任意の塩基を付加した配列が特に好ましく、前記スペーサー配列の3’末端側に前記Flt−1遺伝子のcDNAの開始コドン(ATG)を含めた前記Flt−1遺伝子のORF(open redeing frame)の25塩基相当の配列を付加することが更に好ましい。
【0033】
前記PCR法に用いるリバース側プライマー配列を設計する前記Flt−1遺伝子の位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記リバース側のプライマー配列には、前記Flt−1遺伝子のcDNAの3’末端から25塩基近傍を含むように選択することが好ましい。
前記リバース側のプライマー配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5’末端に「ACTT」を含み、その3’末端側に「GCGGCCGC(NotI認識部位)」を付加し、更にその3’末端側に、SeVウイルスベクターのS配列の相補鎖配列(5’−CTTTCACCCT−3’)、I配列の相補鎖配列(5’−AAG−3’)、及びE配列の相補鎖配列(5’−TTTTTCTTACTACGG−3’)を連続して(EIS配列の相補的配列を)含ませることが好ましく、前記EIS配列の相補的配列の3’末端側に前記Flt−1遺伝子のcDNAの終止コドン(TGA)を含めたFlt−1遺伝子のORF(open redeing frame)の25塩基相当の配列を付加することが更に好ましい。
前記フォワード側のプライマー配列と、前記リバース側とのプライマー配列とを用いて、前記Flt−1遺伝子をPCR法にて増幅した後、前記フォワード側のプライマー配列に含まれるNotI認識部位から、前記リバース側のプライマー配列に含まれるNotI認識部位までの塩基数の合計が6の倍数になるように設計することが好ましい(いわゆる「6のルール」、Kolakofski D, et al., J. Virol, 1998, 72, p.891−899、及びCalain P, and Roux. L., J. Virol, 1993, 67, p.4822−4830参照)。
【0034】
前記cDNAは、所望のベクター、例えば、pBluescript(インビトロジェン(株)製)などに導入し、シーケンサーにより塩基配列を確認することが好ましい。
【0035】
−−hFlt−1遺伝子のSeVベクターへの導入−−
前記hFlt−1遺伝子を前記SeVベクターに導入する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記hFlt−1遺伝子のcDNAを導入したpBluescriptと、前記SeVベクターとを所望の制限酵素で消化し、常法によりライゲーションすることにより導入する方法、前記pBluescriptに導入していないhFlt−1遺伝子のcDNAを直接前記SeVベクターへ導入する方法などが挙げられる。
このようにして導入した、hFlt−1遺伝子を有する組換えセンダイウイルスベクター(以下、「pSeV−hFlt−1」と称することがある。)の塩基配列としては、前記樹状細胞でhFlt−1遺伝子を発現することができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、配列番号:3で表される塩基配列が特に好ましい。
なお、前記配列番号:3で表される塩基配列は、F遺伝子を欠失しているSeVベクターに前記hFlt−1遺伝子が導入されており、伝播力を欠如している点で好ましい。
【0036】
−−組換えSeVウイルス(rSeV/hFlt−1)の作製−−
上記のようにして作製したpSeV−hFlt−1より、rSeV/hFlt−1を作製する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、試験管内又は培養細胞内で転写させる方法など、公知の方法を用いることができる(例えば、国際公開第97/16538号パンフレット、及び国際公開第97/16539号パンフレット参照)。
前記rSeV/hFlt−1は、後述する樹状細胞への導入にそのまま用いてもよいが、増幅させてから用いることが、ウイルス力価が高く、効率良く樹状細胞へ導入できる点で好ましい。
前記rSeV/hFlt−1がF遺伝子を欠失していない場合、前記rSeV/hFlt−1を増殖する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記rSeV/hFlt−1を培養細胞に接種し、数時間後、培養上清を回収することで前記rSeV/hFlt−1を回収し、該回収したrSeV/hFlt−1を、更に培養細胞へ接種し、同様の操作を数回繰り返して増幅する方法などが挙げられる。
前記ウイルス力価を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エンドポイント(endo−point)希釈法(Kato, A. et al., Genes Cells, 1996, 1, p.569−579参照)などが挙げられる。
【0037】
前記培養細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、LLCMK2細胞、ヒト由来の細胞、サル腎臓由来のCV−1細胞、ハムスター腎臓由来のBHK細胞などが挙げられる。なお、前記rSeV/hFlt−1がF遺伝子を欠失している場合は、前記培養細胞は、Fタンパク質を高発現しているパッケージング細胞が好ましい。
前記培養細胞内で転写させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記pSeV−hFlt−1を所望の培養細胞にトランスフェクションする方法などが挙げられる。
なお、前記rSeV/hFlt−1は、そのエンベロープ表面に特定の細胞に接着しうるように、接着因子、リガンド、受容体などが結合していてもよい。
【0038】
−−保存−−
前記rSeV/hFlt−1の保存方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、−80℃で保存する方法が、ウイルス力価を維持できる点で好ましい。
【0039】
−樹状細胞の調製−
前記樹状細胞を調製する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、造血前駆細胞を採取し、Flt−3L(FMS−like tyrosine kinase 3 ligand)、幹細胞因子(stem cell factor:SCF)、IL−3、及びIL−6(FS36)を含む10質量%FBS添加RPMI1640(例えば、インビトロジェン(株)製)で培養後、GM−SCF、及びIL−4を含む10質量%FBS添加RPMI1640で培養する方法などが挙げられる。前記培地で培養することにより、前記造血前駆細胞は、樹状細胞へと分化する。
前記造血前駆細胞の由来としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ヒト由来の造血前駆細胞が、前記樹状細胞をヒトに用いる場合、抗原性が少ない点で好ましい。
【0040】
−樹状細胞へのpSeV−hFlt−1の導入−
前述のように調製した樹状細胞へ、前記pSeV−hFlt−1を導入する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記樹状細胞に、前記rSeV/hFlt−1を感染させる方法などが挙げられる。
前記rSeV/hFlt−1を感染させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、樹状細胞の培養培地に前記rSeV/hFlt−1を添加する方法などが挙げられる。
前記rSeV/hFlt−1が前記樹状細胞に感染したか否かを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0041】
−−樹状細胞の活性化の確認−−
前記樹状細胞が、前記pSeV−hFlt−1の導入により活性化したか否かを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、樹状細胞のマーカーの発現により確認する方法などが挙げられる。
前記樹状細胞のマーカーは、例えば、CD1a、CD11c、CD40、CD83、CD86、HLA−DRなどが挙げられる。
前記マーカーを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、免疫学的測定法により確認する方法などが挙げられる。
前記免疫学的測定法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、免疫染色法、免疫沈降法、ウエスタンブロット法、ELISA法、フローサイトメーターで検出する方法などが挙げられる。
【0042】
−−pSeV−hFlt−1によるFlt−1遺伝子の発現の確認−−
前記樹状細胞において、前記pSeV−hFlt−1によりFlt−1遺伝子が発現しているか否かを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、RT−PCR法、免疫学的測定法などが挙げられる。
前記免疫学的測定法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、免疫染色法、免疫沈降法、ウエスタンブロット法、ELISA法などが挙げられる。
【0043】
<用途>
本発明の樹状細胞は、pSeV−hFlt−1によりhFlt−1遺伝子を発現しているため、VEGFタンパク質の機能を阻害し、血管新生、及び血管透過性を抑制でき、かつ、VEGFタンパク質による樹状細胞の免疫機能の抑制を阻害できることから、後述する抗癌剤へ好適に利用可能である。
【0044】
(抗癌剤)
本発明の抗癌剤は、前述の樹状細胞を含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0045】
前記抗癌剤の標的となる癌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、腺癌であることが、我が国において最も発生頻度が高い癌を治療できる点で好ましい。
前記腺癌とは、上皮性の悪性腫瘍の一種であり、胃、腸、子宮体部、肺、乳房、卵巣、前立腺、甲状腺、肝臓、腎臓、膵臓、及び胆嚢などに発生する癌である。
前記抗癌剤は、これらの癌の中でも、腹膜播種をきたしやすい胃癌や大腸癌などの各種消化器癌、子宮癌などの女性器癌などを治療できることが好ましい。前記消化器癌や女性器癌は、多量の腹水を伴う症状を呈する。
前記腹水とは、正常な状態でごく少量の液体である腹腔内の液体が、血漿タンパク質の減少による膠質浸透圧の低下、門脈圧亢進、腹膜炎、悪性腫瘍の腹膜播種、肝癌の破裂などの原因により、多量に濾出、及び滲出し、腹腔内に異常に多量の液体が貯留した状態乃至その液体をいう。腹水が貯留すると、体重増加、腹部膨隆、尿量減少が認められる。
前記抗癌剤は、このような腹水の産生を抑制できる点で有利である。
【0046】
<樹状細胞>
前記抗癌剤中の樹状細胞は、前述したpSeV−hFlt−1を含有する樹状細胞であることが好ましい。
前記抗癌剤中の、前記樹状細胞の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記抗癌剤は、前記樹状細胞そのものであってもよい。
【0047】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、薬理学的に許容される担体の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプン、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤などが挙げられる。
前記安定剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルブミン、Prionex(登録商標)(ペンタファームジャパン(株)製)などが挙げられる。
前記抗癌剤中の、前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0048】
<使用>
前記抗癌剤は、1種単独で使用されてもよいし、他の成分を有効成分とする医薬と併用されてもよい。また、前記抗癌剤は、他の成分を有効成分とする医薬中に、配合された状態で使用されてもよい。
【0049】
<剤型>
前記抗癌剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口固形剤、経口液剤、注射剤、吸入散剤などが挙げられる。
【0050】
−経口固形剤−
前記経口固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などが挙げられる。
前記経口固形剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記樹状細胞に、必要に応じて、前記その他の成分、賦形剤、各種添加剤などを加えることにより、製造することができる。ここで、前記賦形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などが挙げられる。また、前記添加剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味/矯臭剤などが挙げられる。
前記結合剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
前記崩壊剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などが挙げられる。
前記滑沢剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
前記着色剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。
前記矯味/矯臭剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
【0051】
−経口液剤−
前記経口液剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤などが挙げられる。
前記経口液剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記樹状細胞に、必要に応じて、前記その他の成分、添加剤などを加えることにより製造することができる。ここで、前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、矯味/矯臭剤、緩衝剤、安定化剤などが挙げられる。
前記矯味/矯臭剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
前記安定化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチンなどが挙げられる。
【0052】
−注射剤−
前記注射剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤などが挙げられる。
前記注射剤の製造方法としては、特に制限はなく、常法を使用することができ、例えば、前記樹状細胞に、必要に応じて、前記その他の成分、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤などを添加することにより、製造することができる。ここで、前記pH調節剤及び前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。また、前記安定化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。前記等張化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。前記局所麻酔剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。
【0053】
<投与>
前記抗癌剤の投与方法、投与量、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口投与、直腸内投与、静脈内投与、皮下投与、経皮投与などの全身投与法、皮膚上投与、吸入投与、注腸投与、点眼、点耳、経鼻投与、膣内投与などの局所投与法などが挙げられるが、局所投与法が、前記抗癌剤が効率的に送達でき、かつ副作用を低減できる点で好ましい。
前記投与量としては、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の成分を有効成分とする医薬の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
前記投与時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、既に腺癌を発症した後に使用しもよく、前記腺癌と診断される前に使用してもよい。
前記投与対象となる動物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、トリなどが挙げられるが、これらの中でもヒトに好適に用いられる。
【0054】
<用途>
前記抗癌剤は、腹水中のVEGFの機能を阻害し、かつ腹水の産生を抑制することができることから、消化器癌、女性器癌などの腺癌の予防乃至治療に好適に用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0056】
(実施例1:組換えSeVベクターを含む樹状細胞)
【0057】
<組換えSeVベクター(pSeV−hFlt−1)の作製>
−hFlt−1遺伝子の調製−
ヒト由来可溶性Flt−1(hFlt−1)のcDNAは、ヒト肺cDNAライブラリーを鋳型とし、Ventポリメラーゼ(NEB社製)を用いてPCR法により調製した。PCR法に用いたプライマーは、フォワードプライマーとして下記配列番号:4で表される塩基配列、リバースプライマーとして下記配列番号:5で表される塩基配列を用いた。前記プライマー配列は、3’末端側にNotI認識部位(GCGGCC)を含むように設計した。
なお、前記hFlt−1遺伝子中に含まれるNotI認識部位は、予め除去した。
【0058】
プライマー配列
5’−ATTGCGGCCGCCAAGGTTCACTTATGGTCAGCTACTGGGACACCGGGGT−3’ (配列番号:4)
5’−ATTGCGGCCGCGATGAACTTTCACCCTAAGTTTTTCTTACTACGGTTAATGTTTTACATTACTTTGTGTGGTACAATCATTCC−3’ (配列番号:5)
【0059】
PCR法により得られたhFlt−1のcDNAをNotIで切断した後、pBluescript(インビトロジェン(株)製)のNotI部位に挿入し(以下、「pBS−hFlt−1」と称することがある。)、クローニングを行った。
pBS−hFlt−1のクローンをシーケンサー(アプライドバイオシステムズ(株)製)で分析し、hFlt−1の塩基配列を解析したところ、配列番号:1で表される塩基配列を有することが確認された。
【0060】
−hFlt−1遺伝子のSeVベクターへの導入−
pBS−hFlt−1をNotIで切断して切り出したhFlt−1を、F遺伝子を欠失させ、伝播力を欠如した配列番号:2で表される塩基配列を有するセンダイウイルスベクター(「センダイウイルスベクター遺伝子(cDNA)」と称することがある。)のNotI部位に挿入後、クローニングを行い、hFlt−1遺伝子を有する組換えセンダイウイルスベクター(配列番号:3)(以下、「pSeV−hFlt−1」と称することがある。)を得た。
また、比較対照としては、配列番号:2で表される塩基配列を有するベクターの塩基番号7267と、塩基番号7268との間にGFP(GenBank U57609.1)を導入したベクター(以下、「pSeV/GFP」と称することがある。)を用いた。
なお、前記配列番号:2で表される塩基配列を有するセンダイウイルスベクターは、Ban H, et al., Gene Ther, 2007, 14(24), p.1688−1694を参照して作製した。
【0061】
<ウイルスの産生>
−サル腎臓由来細胞株LLCMK2の培養−
サル腎臓由来細胞株LLCMK2(ATCC社製)を6穴プラスチックプレートに播種し、10質量%ウシ胎児血清(FCS)(インビトロジェン(株)製)、及び抗生物質(100 units/mL ペニシリンG、及び100μg/mL ストレプトマイシン)(インビトロジェン(株)製)を含む最少必須培地(MEM)(インビトロジェン(株)製)にて、37℃、5%COの条件下で70%〜80%コンフルエント(約1×10細胞/穴)になるまで培養した。
【0062】
−pSeV−hFlt−1、及びpSeV/GFPの導入−
前記LLCMK2に、T7ポリメラーゼを発現するUV照射により不活化した組換えワクシニアウイルスvTF7−3(Fuerst TR, et al., Proc Natl Acad Sci USA, 1986, 83, p.8122−8126参照)を、2の感染多重度(MOI:multiplicity of infection)で感染させた。
vTF7−3の感染1時間後、1μgのpGEM−N(Kato A, et al., Genes Cells 1996, 1, p.569−579参照)、0.5μgのpGEM−P(Kato A, et al., Genes Cells 1996, 1, p.569−579参照)、及び1μgのpGEM−P(Kato A, et al., Genes Cells 1996, 1, p.569−579参照)と共に、3μgの前記pSeV−hFlt−1又は3μgの前記pSeV/GFPを、Superfect(QIAGEN社製)を用い、製造元の方法に従ってトランスフェクションした。
なお、前記pGEM−N(ヌクレオキャプシドタンパク質遺伝子)、前記pGEM−P(リン酸化タンパク質)、及び前記pGEM−L(ラージタンパク質遺伝子)は、全長センダイウイルスゲノムの再構成に必須な、トランスに作用するウイルスタンパク質を発現するプラスミドである。
【0063】
pSeV−hFlt−1又はpSeV/GFPをトランスフェクションしたLLCMK2は、100μg/mLのリファンピシン(Sigma社製)、及び40μg/mLのシトシンアラビノシド(AraC)(Sigma社製)を含むMEM(血清非添加)で48時間培養した。次いで、前記LLCMK2を回収し、凍結融解を3回繰り返して細胞を破砕することにより、hFlt−1遺伝子を含む組換えセンダイウイルス(以下、「rSeV/hFlt−1」と称することがある。)、及び比較対照としてのセンダイウイルス(以下、「rSeV/GFP」と称することがある。)を得た。
なお、vTF7−3は、前記AraCを含むMEM培地で除去できる。
【0064】
−ウイルスの増幅−
LLCMK2を225cmフラスコに播種し、10質量%ウシ胎児血清(FBS)(GIBCO BRL社製)、及びペニシリンストレプトマイシン(ナカライテスク(株)製)を含む最少必須培地(MEM)(GIBCO BRL社製)にて、37℃、5%COの条件下でコンフルエント(3×10細胞/フラスコ)になるまで培養した。
このLLCMK2に、rSeV/hFlt−1又はrSeV/GFPを、0.5の感染多重度(MOI:multiplicity of infection)で接種し、35.5℃、5%COの条件下で1時間放置することにより増幅した。1時間後、rSeV/hFlt−1又はrSeV/GFPを含む上清を除去し、0.0003質量%トリプシン(GIBCO社製)、及びペニシリンストレプトマイシン(ナカライテスク(株)製)を含むMEM(GIBCO BRL社製)(以下、「Trypsin/P/S含有MEM」と称することがある。)を添加し、35.5℃、5%COの条件下で培養した。24時間ごとに新鮮なTrypsin/P/S含有MEMに培地交換しながら3日間培養した。
3日後の培養上清を回収し、濃縮し、赤血球凝集活性(HA)測定することにより、rSeV/hFlt−1、及びrSeV/GFPの力価を測定した。結果を下記表1に示す。
前記HAは、エンドポイント(endo−point)希釈法(Kato, A. et al., Genes Cells, 1996, 1, p.569−579参照)により決定した。
【0065】
【表1】

【0066】
<樹状細胞への導入>
−樹状細胞の調製−
樹状細胞の調製は、国際公開第2008/143047号パンフレットに記載の方法で行った。即ち、8週齢のBulb/cマウス(KBTオリエンタル社製)の骨髄細胞をSpinSep(登録商標) Mouse Progenitor Pre−Enrichment Cocktail(StemCell Technologies社製)で採取した。採取した骨髄細胞には造血系前駆細胞(hematopoietic progenitor cells)が含まれている。この造血系前駆細胞を、Flt−3L(Peprotech社製)、幹細胞因子(SCF)(Peprotech社製)、IL−3(Peprotech社製)、及びIL−6(FS36)(Peprotech社製)を含む10質量%FBS添加RPMI1640(インビトロジェン(株)製)(以下、「FS36添加培地」と称することがある。)で21日間培養した。次いで、FS36培地を、GM−SCF(Peprotech社製)、及びIL−4(Peprotech社製)を含む10質量%FBS添加RPMI1640(以下、「GMIL−4添加培地」と称することがある。)に交換し、更に7日間培養することにより、成熟樹状細胞(DC)を得た。
【0067】
−導入−
前述のようにして増幅したrSeV/hFlt−1又はrSeV/GFPを、それぞれ50の感染多重度(MOI:multiplicity of infection)で添加した10質量%FBS添加RPMI1640にて、前述のようにして調製した成熟樹状細胞(DC)を8時間又は48時間培養し、rSeV/hFlt−1又はrSeV/GFPを感染させることにより、rSeV/hFlt−1又はrSeV/GFPを成熟樹状細胞(DC)に導入した。次いで、rSeV/hFlt−1又はrSeV/GFPを導入した成熟樹状細胞(DC)を、それぞれピペッティングすることにより回収し、PBS(インビトロジェン(株)製)で洗浄し、rSeV/hFlt−1を導入した樹状細胞(以下、「DC/rSeV/hFlt−1」と称することがある。)、及びrSeV/GFPを導入した樹状細胞(以下、「DC/rSeV/GFP」と称することがある。)を得た。
また、ポジティブコントロールとしてはLPSで刺激した樹状細胞を用いた。即ち、10質量%FBSを含むIMDM(インビトロジェン(株)製)に1μg/mLのLPS(カタログNO.L7895−1MG、Sigma社製)を添加した培地で、前述のように調製した成熟樹状細胞(DC)を8時間又は48時間培養後、前述の方法と同様にして回収、洗浄することにより、LPS刺激した成熟樹状細胞(以下、「DC/LPS」と称することがある。)を得た。
なお、48時間培養した樹状細胞は、後述する樹状細胞の活性化の確認、及びhFlt−1発現の確認に、8時間培養した樹状細胞は、後述する腹水播種モデルマウスへの投与に用いた。
【0068】
(試験例1:rSeV/hFlt−1による樹状細胞の活性化の確認)
rSeV/hFlt−1、及びrSeV/GFPの導入により、DC/rSeV/hFlt−1、及びDC/rSeV/GFPが活性化しているか否かを確認するため、活性化樹状細胞のマーカーであるCD40、及びCD83の発現を確認した。
【0069】
<方法>
樹状細胞のみを解析するため、実施例1の48時間培養したDC/rSeV/hFlt−1、DC/rSeV/GFP、DC/LPS、及び未処理の樹状細胞(以下「未処理DC」と称することがある。)について、CD11c−APC、及びH−2Kd(MHCクラスI)−FITCでターゲティングを行った。次いで、PE標識抗マウスCD40抗体(Becton Dickinson社製)、及びPE標識抗マウスCD83抗体(Becton Dickinson社製)を用い、フローサイトメーター(Becton Dickinson社製)で解析し、CD40陽性細胞、及びCD83陽性細胞の割合を調べた。なお、死細胞の選別には、PI染色(Sigma Aldorich社製)を用いた。
【0070】
<結果>
フローサイトメーターの結果を、下記表2に示す。下記表2中、「MFI」は、平均蛍光強度(Mean Fluorescence Intensity)を示す。
また、CD40陽性細胞を示すヒストグラムを図1Aに、CD83陽性細胞を示すヒストグラムを図1Bに示す。
【0071】
【表2】

表2、及び図1A〜Bの結果より、DC/rSeV/hFlt−1、及びDC/rSeV/GFPは、未処理DCと比較して、いずれも活性化していることが認められた。また、その活性化の強度は、DC/rSeV/GFPと比較してDC/rSeV/hFlt−1の方が強かった。
【0072】
(試験例2:rSeV/hFlt−1によるhFLT−1タンパク質発現の確認)
rSeV/hFlt−1を導入することにより、DC/rSeV/hFlt−1でhFLT−1タンパク質が産生されているか否かについて、確認を行った。
【0073】
<方法>
1×10個/mLのマウス大腸癌細胞株CT26(colon26)(九州大学大学院 病理病態学より供与)を添加した10質量%FBSを含むIMDMで成熟樹状細胞(DC)を48時間培養し、CT26を感染させた樹状細胞(以下、「DC/CT26」と称することがある。)を得た。
DC/rSeV/hFlt−1、DC/rSeV/GFP、及びDC/LPSは、実施例1の48時間培養した細胞を用いた。また、コントロールとしては、未処理DCを用いた。
48時間培養後のDC/rSeV/hFlt−1、DC/rSeV/GFP、DC/LPS、DC/CT26、及び未処理DCを回収し、RPMI1640に1×10細胞/mLとなるように希釈し、更に24時間培養した。
24時間培養後の培養上清を回収し、培養上清中のマウスVEGF(mVEGF)タンパク質の発現量、及びhFLT−1タンパク質の発現量を、マウスVEGF ELISAキット、及びマウスFlt−1 ELISAキット(共に、R&D Systems社製)により、製造元の方法に従い測定した。
【0074】
<結果>
結果を下記表3に示す。また、図2AにmVEGFタンパク質の発現量を、図2BにhFLT−1タンパク質の発現量を示す。
【0075】
【表3】

これらの結果より、DC/rSeV/hFlt−1では、pSeV−hFlt−1によりhFLT−1タンパク質が過剰発現していることが確認された。更に、DC/rSeV/hFlt−1では、pSeV−hFlt−1によりmVEGFタンパク質の発現が抑制されていることが認められた。
【0076】
(実施例2:腹膜播種モデルマウスへの抗腫瘍効果)
<腹膜播種モデルマウスの作製>
−順化−
試験動物として、8週齢のBulb/cマウス(KBTオリエンタル社製)を使用した。前記マウスが到着後、一般的な健康状態について評価し、試験前に3日間順化した。
【0077】
−飼育−
前記マウスは、順化の間は集団で収容し、その後生存中は米国国家研究会議のガイドライン「試験動物の管理と使用に関する指針」に従い、個体ごとに収容した。
動物室の環境は、温度24℃、相対湿度50%、昼夜それぞれ12時間となるように制御し、温度、及び相対湿度は毎日測定した。給餌は、全ての試験動物に自由給餌で与えた。
【0078】
−マウス大腸癌細胞株CT26の投与−
順化したBulb/cマウスに、マウス大腸癌細胞株CT26を1×10個/個体を腹腔内投与することにより、腹膜播種モデルマウスを作製した。
【0079】
<腹膜播種モデルマウスの病態の検討>
−方法−
CT26投与後21日目の腹膜播種モデルマウス、及び正常Bulb/cマウスより、循環血液、及び腹水を採取した。採取した循環血液は、2,000×gで20分間遠心することにより、循環血漿を分離した。この循環血漿、及び腹水中のmVEGFタンパク質、及びマウスFLT−1(mFLT−1)のタンパク質の発現量をマウスVEGF ELISAキット、及びマウスFlt−1 ELISAキット(共に、R&D Systems社製)により、製造元の方法に従い測定した。なお、正常マウスには腹水が存在しなかったため、正常マウスの腹水については測定しなかった。
図3にCT26投与後21日目の腹膜播種モデルマウスの全体像、及び正常Bulb/cマウスの全体像を示す。
【0080】
−結果−
結果を下記表4に示す。また、図4Aに腹膜播種モデルマウスの循環血漿中、及び腹水中のmVEGFタンパク質の発現量を、図4Bに腹膜播種モデルマウスの循環血漿中、及び腹水中のmFLT−1タンパク質の発現量を示す。
【0081】
【表4】

これらの結果より、腹膜播種モデルでは、正常マウスと比較して、循環血漿中のmVEGFタンパク質、及びmFLT−1タンパク質の発現量が増加していることが認められた。
また、腹膜播種モデルマウスの循環血漿中ではmFLT−1タンパク質の発現量の方がmVEGFタンパク質の発現量より多かったのに対し、腹水中ではmVEGFタンパク質の発現量の方がmFLT−1タンパク質の発現量より多く、腹水中ではmFLT−1タンパク質とVEGFタンパク質とのバランスが変化し、mVEGFタンパク質の発現が有利な環境となっていることが示唆された。
【0082】
<樹状細胞(DC)の抗癌作用の検討>
前述したような病態を有する腹膜播種モデルマウスを用い、実施例1で作製したDC/rSeV/hFlt−1の抗癌作用について検討を行った。
【0083】
−投与−
0日目に、1×10個/個体のCT26と、1×10細胞/個体のDC/rSeV/hFlt−1(実施例1で8時間培養した細胞)、DC/rSeV/GFP(実施例1で8時間培養した細胞)、DC/LPS(実施例1で8時間培養した細胞)、及びPBSのいずれかとを同時に投与した。ここでの「コントロールのマウス」とは、結果的には、1×10個のCT26及びPBSのみが投与されたマウスをいう。なお、前記「同時に投与」とは、CT26投与後、5分間以内にDC/rSeV/hFlt−1、DC/rSeV/GFPDC/LPS、及びPBSのいずれかを投与することをいう。
以下、コントロールのマウスを「未投与群」、DC/rSeV/hFlt−1を投与したマウスを「DC/rSeV/hFlt−1投与群」、DC/rSeV/GFPを投与したマウスを「DC/rSeV/GFP投与群」、DC/LPSを投与したマウスを「DC/LPS群」、と称することがある。
各投与群について、DC/rSeV/hFlt−1、DC/rSeV/GFP、DC/LPS、及びPBSのいずれかを、更に週1回3週間投与した群、週2回3週間投与した群、週1回6週間投与した群に分け、それぞれの生存日数を観察した。投与スケジュールを下記表5に示す。
また、週1回6週間投与した群は、平均体重も測定した。週1回6週間投与した群の投与後28日目の平均体重、及び生存日数を、下記表6に示す。
なお、各投与群について、DC/rSeV/hFlt−1、DC/rSeV/GFP、DC/LPS、及びPBSのいずれかを、週2回6週間のスケジュール(表5参照)で投与したマウスについては、臨床所見の観察に用いた(図5A〜B参照)。
【0084】
【表5】

【0085】
【表6】

【0086】
−結果−
図5Aに、投与後21日目、及び35日目のマウスの全体像を、図5Bに、投与後21日目の腸管の全体像を示す。図5Bの腸管全体像中の矢印は、腫瘍部分を示す。
また、図6に週1回3週間投与した場合の寿命曲線を、図7AにDC/rSeV/GFP投与群の寿命曲線を、図7BにDC/rSeV/hFlt−1投与群の寿命曲線を示す。図6、及び図7A〜Bの生存率は、下記計算式より算出した。
生存率 = 各日数の生存個体数 / 0日目の生存個体数
【0087】
図5A〜Bより、DC/rSeV/GFP投与群では、未投与群と比較して腫瘍が縮小していることが認められたが、DC/rSeV/hFlt−1投与群では、更に腫瘍が縮小していた。投与後21日目の腸管を観察しても、DC/rSeV/hFlt−1投与による腫瘍の縮小は明らかであった(図5B)。
また、図6より、DC/rSeV/GFP投与群、及びDC/rSeV/hFlt−1投与群では、未投与群と比較して有意に生存日数の延長が認められた(p<0.01)。更に、DC/rSeV/hFlt−1投与群では、DC/rSeV/GFP投与群と比較して生存率が高く、生存日数も長かった。
図7Aより、DC/rSeV/GFP投与群は、週1回3週間投与群、週2回3週間投与群、及び週1回6週間投与群のいずれの投与群においても、未投与群と比較して有意な生存日数の延長が認められた(p<0.05)。また、3週間投与した群と、6週間投与した群とを比較すると、投与期間を長くした方が生存日数の延長が認められ、週1回6週間投与した群の生存日数は95日を超えていた。
図7Bより、DC/rSeV/hFlt−1投与群においても、DC/rSeV/GFP投与群(図7A)と同様の傾向が認められ、DC/rSeV/hFlt−1投与群は、週1回3週間投与群、週2回3週間投与群、及び週1回6週間投与群のいずれの投与群においても、未投与群と比較して有意な生存日数の延長が認められた(p<0.01)。また、DC/rSeV/hFlt−1投与群(図7B)ではDC/rSeV/GFP投与群(図7A)と比較して明らかに生存率が高く、生存日数も延長されており、週1回3週間投与した群でも、生存日数は95日を超えていた。
【0088】
表6より、週1回6週間投与した場合、DC/rSeV/GFP投与群では、未投与群と比較して平均体重の減少が認められ、DC/rSeV/hFlt−1投与群では、更に平均体重が減少していた。これより、DC/rSeV/hFlt−1により癌による体重増加が抑制され、更に腹水産生が抑制されていることが示唆された。
また、生存日数は、DC/rSeV/GFP投与群では、未投与群と比較して生存日数の延長が認められ、DC/rSeV/hFlt−1投与群では、更に延長していることが認められた。
【0089】
実施例1〜2の結果より、本発明の樹状細胞(DC/rSeV/hFlt−1)は、hFLT−1タンパク質の発現量を増加させることでmVEGFタンパク質の産生を抑制できること、腹膜播種モデルマウスにおいて、従来用いられていたDC/rSeV/GFPと比較して、有意な腫瘍縮小効果、体重増加の抑制作用、及び腹水産生の抑制作用を有し、更に生存率を高め、生存日数を延長させることができることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の樹状細胞を含む抗癌剤は、特異的な免疫応答による強力な抗腫瘍効果を有し、VEGFの機能を阻害することができることから、腹膜播種を伴う腺癌の治療乃至予防に好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Flt−1遺伝子が導入された組換えパラミクソウイルスベクターを含有することを特徴とする樹状細胞。
【請求項2】
組換えパラミクソウイルスベクターが、組換えセンダイウイルスベクターである請求項1に記載の樹状細胞。
【請求項3】
請求項1から2のいずれかに記載の樹状細胞を含有することを特徴とする抗癌剤。
【請求項4】
腺癌治療用である請求項3に記載の抗癌剤。
【請求項5】
腹水産生を抑制する請求項3から4のいずれかに記載の抗癌剤。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2010−263859(P2010−263859A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119333(P2009−119333)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年11月16日 国立大学法人九州大学医学部外科第二講座主催の「九州大学医学部外科第二講座 第105回 開講記念会」において文書をもって発表
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(505048482)ディナベック株式会社 (5)
【Fターム(参考)】