説明

樹状細胞活性化剤

【課題】本発明の目的は、樹状細胞の活性化の安全で効率のよい方法を提供すること、および当該手段となりうる樹状細胞活性化剤を提供することである。
【解決手段】本発明により、椎茸菌糸体抽出物を含む、樹状細胞活性化剤が提供される。また本発明により、当該樹状細胞活性化剤を含む医薬組成物、食品組成物、食品、飲料などが提供される。さらに、当該樹状細胞活性化剤により未成熟樹状細胞を処理することにより成熟樹状細胞を誘導する方法、当該方法により得られる成熟樹状細胞、および当該成熟樹状細胞を含む医薬組成物もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、椎茸菌糸体抽出物またはその分画物を含む樹状細胞活性化剤、特に樹状細胞成熟化促進剤に関する。さらに本発明は、当該樹状細胞活性化剤を含む経口摂取用組成物、医薬組成物、食品組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
樹状細胞は樹枝状の突起を持つという形態的な特徴を有する免疫細胞の一種であり、様々な組織(例えば、皮膚や粘膜など)に分布し、免疫監視細胞としての役割を果たしている。特に、樹状細胞は、体内に進入した抗原をリンパ組織に運び、T細胞を刺激して免疫反応を惹起させる機能を有し、リンパ球とともに免疫反応の中心的役割を担う細胞である。
【0003】
様々な生体内組織に分布する樹状細胞のうち、末梢組織に存在する樹状細胞はT細胞活性化能が低いことから、未成熟樹状細胞と呼ばれる。これに対して、リンパ器官に存在する樹状細胞は強力なT細胞活性化能を有することから成熟樹状細胞と呼ばれる。このような機能の差は、MHC(主要組織適合遺伝子複合体)分子に加えて細胞接着分子および共刺激分子(例えば、CD40、CD54、CD58、CD80およびCD86など)の発現量の増加ならびにサイトカインやケモカインなどの生産能の変化に起因する。また、成熟に伴って、樹状細胞は、細胞骨格の再構成により固着性の強い構造から運動性の高い構造となり、リンパ節への移動を開始する。所属リンパ器官のT領域において、樹状細胞はケモカインの産生などによりT細胞の活性化を促進する(非特許文献1:細胞工学、第19巻、第9号、2000年、第1311−1317頁)。
【0004】
生体内において、樹状細胞の成熟は、感染細菌やウイルス由来のLPS(リポ多糖)、DNA、二重鎖RNA、あるいは炎症応答の誘導によって組織細胞から産生されるTNFα(腫瘍壊死因子α)およびIL−1(インターロイキン−1)、さらに活性化血小板、好塩基球、肥満細胞などにおいて発現するCD40リガンド(CD40L)により誘導されることが知られている(非特許文献2:Banchereau J.ら、Nature、第392巻、1998年、第245−252頁)。
【0005】
また、インビトロ系の実験において、樹状細胞活性化作用を有する物質を探索する試みも行われている。例えば、カワラタケ菌糸体抽出物に由来するクレスチン(以下、「PSK」とも称す)およびA群溶血性連鎖球菌の弱毒性自然変異株(Su株)をペニシリンで処理した製剤であるOK−432が樹状細胞の成熟を促進する効果を有することが報告されている(非特許文献3:Biotherapy、第15巻、第3号、2001年、第385−388頁;非特許文献4:Cancer Immunology and Immunotherapy、第52巻、2003年、第207−214頁)。また、ある種のグラム陽性菌の細胞壁骨格により樹状細胞の成熟化が促進されることが報告されている(特許文献1:国際特許公報01/048154パンフレット)。さらに、化学合成により得られる特定の低分子化合物が樹状細胞活性化作用を有することについても報告されている(特許文献2:特開2004−210768号公報)
一方、日本および中国の代表的な食用キノコで、日本では300年前から人工栽培が行われている椎茸は、永年にわたって食品として摂取され続けられており、椎茸由来の生理活性物質は、ヒトに投与した場合の安全性、特に長期間経口的に投与した場合の安全性に優れていると考えられる。椎茸の薬理作用についていくつかの報告がされている(例えば、特許文献3:特開昭62−270532号公報;特許文献4:特開平2−237934号公報;特許文献5:特開平2−134325号公報;特許文献6:特開2003−12
538号公報、など)。特に、椎茸由来のβ−グルカンを活性成分として含むレンチナンは抗癌剤として市販されており、マクロファージ、キラーT細胞、ナチュラルキラー細胞などを誘導、活性化すると考えられているが、樹状細胞にほとんど影響を及ぼさないことが報告されている(非特許文献3:Biotherapy、第15巻、第3号、2001年、第385−388頁)。したがって、樹状細胞に対して何らかの効果を有する椎茸抽出物については、これまでに何らの報告もされていなかった。
【0006】
また、樹状細胞の有する強力な抗原提示能を臨床に応用することを目的として、樹状細胞を用いた抗癌療法および抗感染症療法についての研究が進められている(非特許文献5:日経サイエンス、2003年2月号、第84−91頁;非特許文献6:現代医療、2003年8月号、第86−92頁)。このような療法においては、何らかの手段により樹状細胞を活性化することが必要であり、特に、安全で効率のよい樹状細胞活性化剤が求められている。
【特許文献1】国際特許公報01/048154パンフレット
【特許文献2】特開2004−210768号公報
【特許文献3】特開昭62−270532号公報
【特許文献4】特開平2−237934号公報
【特許文献5】特開平2−134325号公報
【特許文献6】特開2003−012538号公報
【非特許文献1】細胞工学、第19巻、第9号、2000年、第1311−1317頁
【非特許文献2】Banchereau Jら、Nature、第392巻、1998年、第245−252頁
【非特許文献3】Biotherapy、第15巻、第3号、2001年、第385−388頁
【非特許文献4】Cancer Immunology and Immunotherapy、第52巻、2003年、第207−214頁
【非特許文献5】日経サイエンス、2003年2月号、第84−91頁
【非特許文献6】現代医療、2003年8月号、第86−92頁
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を達成するために鋭意研究を進めたところ、椎茸菌糸体の抽出物が樹状細胞活性化作用を有することを発見して本発明を完成させた。
本発明の目的は、樹状細胞活性化作用を有する椎茸菌糸体由来の抽出物、および当該抽出物を含む樹状細胞活性化剤、免疫賦活剤、経口摂取用組成物、医薬組成物、食品組成物、食品および飲料を提供することである。
【0008】
すなわち本発明の一つの側面によれば、椎茸菌糸体抽出物を含む樹状細胞活性化剤が提供される。ここで、「樹状細胞の活性化」という用語は、樹状細胞が有する何らかの機能が強化され、または樹状細胞において発現するタンパク質などの分子の量が増幅されることを意味し、当該用語の意図するところには、例えば、樹状細胞の成熟化促進、抗原取り込み能増強、抗原提示能増強、Tリンパ球刺激能増強などが含まれる。当該活性化に伴って樹状細胞に観察される現象としては、接着分子/共刺激分子(例えば、CD40、CD54、CD58、CD80、CD86など)の発現量の増加、サイトカイン(例えば、インターロイキン−12、インターフェロンγおよびインターロイキン−1など)の生産能の増強、MHC分子の発現量の増加などが挙げられる。
【0009】
本発明の別の側面によれば、上記の樹状細胞活性化剤を含む医薬組成物が提供される。当該医薬組成物は、特に限定はされないが、例えば、免疫賦活化、癌もしくは悪性腫瘍の
治療もしくは予防、または感染症の治療または予防のために用いられうる。ここで、癌および悪性腫瘍としては、特に限定はされないが、例えば、大腸癌および胃癌などの消化器癌、骨髄腫、肝臓癌、白血病、メラノーマ、前立腺癌、乳癌、子宮癌、肺癌、口腔癌、脳腫瘍などが挙げられる。また、特に限定はされないが、感染症にはウイルス感染症などが含まれ、例えば、B型肝炎およびC型肝炎ウイルスによる慢性肝炎、HIV、インフルエンザなどが挙げられる。
【0010】
本発明における椎茸菌糸体は、特に限定はされないが、例えば、食用にされる子実体の前段階の菌糸の状態のものを使用することができる。当該菌糸体は、培養により生産されたものであっても天然より採取されたものであってもよい。本発明には、例えば、椎茸菌を固体培地で培養して得られる菌糸体を用いることができる。本発明において用いられる椎茸菌糸体抽出物は、当該技術分野において公知の方法により調製することができるが、菌糸体を粉砕後に熱水抽出して得られる抽出物を用いることができる。さらに、例えば、菌糸体を含む固体培地を水および酵素の存在下に粉砕、分解して得られる抽出物を用いることができる。抽出物の調製に用いられる溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール、ブタノール、イソプロパノールなど、好ましくは水を使用することができる。抽出は溶媒の加熱下(例えば、85〜105℃程度)で行うこともできるが、より低温(例えば、25〜50℃、好ましくは30〜45℃)で超音波を照射することにより行うこともできる。
【0011】
当該椎茸菌糸体抽出物は、限定はされないが、例えば以下の方法により得られたものを使用することができる。すなわち、バガス(サトウキビのしぼりかす)と脱脂米糠を基材とする固体培地上に椎茸菌を接種し、次いで菌糸体を増殖して得られる菌糸体を含む固体培地を12メッシュ通過分が30重量%以下となるよう解束し、この解束された固体培地に水およびセルラーゼ、プロテアーゼまたはグルコシダーゼから選ばれる酵素の1種またはそれ以上を、前記固体培地を30〜55℃の温度に保ちながら添加するとともに、前記固体培地を前記酵素の存在下に粉砕、すりつぶしてバガス繊維の少なくとも70重量%以上が12メッシュ通過分であるようにし、次いで90℃までの温度に加熱することにより酵素を失活させるとともに滅菌し、得られた懸濁状液をろ過することによって椎茸菌糸体抽出液を得る。当該抽出液を椎茸菌糸体抽出物として用いてもよいが、これを濃縮、凍結乾燥して粉末として保存し、使用時に種々の形態で使用するのが便宜的である。凍結乾燥して得られる粉末は褐色粉末で、吸湿性があり、特異な味と臭いをもつ。このようにして得られる椎茸菌糸体抽出物はフェノール−硫酸法による糖質分析により糖質を15〜50%、好ましくは20〜40%(w/w)、Lowry法によるタンパク質分析によりタンパク質を10〜40%、好ましくは13〜30%(w/w)、没食子酸を標準とするFolin−Denis法によりポリフェノール類を1〜5%、好ましくは2.5〜3.5%(w/w)含む。椎茸菌糸体抽出物にはそのほかに脂質約0.1%、繊維約0.4%、灰分約20%を含むが、これに限定されない。
【0012】
また、椎茸菌糸体抽出物の構成糖組成(%)の一例は以下の通りであったが、この組成は培養条件などによって変動しうる:キシロース:15.2;アラビノース:8.2;マンノース:8.4;グルコース:39.4;ガラクトース:5.4;アミノ糖:12.0;ウロン酸:11.3。
【0013】
本発明における椎茸菌糸体抽出物は、椎茸菌糸体抽出物から得られる分画物であってもよい。当該分画物は、本発明の属する技術分野において通常用いられる分画方法により得られ、分画方法の例には、任意の溶媒を用いての抽出による分画、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー、イオン交換カラムを用いた分画、およびシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどが含まれる。分画方法は1種類の方法であってもよく、または複数の手段の組み合わせであってもよい。上記の分画方法で用いる溶媒としては、特に限定はされないが、
例えば、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、酢酸、アセトン、およびそれらの混合物を用いることができる。当該分画物は、必要に応じて濃縮および/または凍結乾燥などを行うことにより得られる濃縮液、粘稠物質または固体を可溶性画分として使用することができる。
【0014】
本明細書で用いられる用語「樹状細胞活性化剤」とは、一般的には、樹状細胞に作用することにより、樹状細胞が有する機能を強化する、または樹状細胞上または細胞内に発現する物質の量を増幅する作用を有する薬剤を意味し、樹状細胞活性化剤により、例えば、樹状細胞の成熟化促進作用、サイトカイン(例えば、インターロイキン−12など)産生能が高められるなどの効果を得ることができる。
【0015】
本発明の樹状細胞活性化剤は、医薬組成物の有効成分として使用することができる。当該医薬組成物は、種々の剤形、例えば、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁液、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤とすることができ、非経口剤としては、例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤などの注射剤とすることができるが、これらには限定されない。これらの製剤は、製剤工程において通常用いられる公知の方法により製造することができる。
【0016】
当該医薬組成物は、一般に用いられる各種成分を含みうるものであり、例えば、1種もしくはそれ以上の薬学的に許容され得る賦形剤、崩壊剤、希釈剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、懸濁化剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、補助剤、防腐剤、緩衝剤、結合剤、安定剤、コーティング剤等を含みうる。また本発明の医薬組成物は、持続性または徐放性剤形であってもよい。
【0017】
本発明の医薬組成物の投与量は、投与経路、患者の体型、年齢、体調、疾患の度合い、発症後の経過時間等により、適宜選択することができ、本発明の医薬組成物は、治療有効量および/または予防有効量の樹状細胞活性化剤を含むことができる。椎茸菌糸体抽出物は元来食品として使用されてきたものであり過剰症に対する懸念の少ない比較的安全な物質であるので、必要に応じて高濃度で投与することも可能である。本発明において椎茸菌糸体抽出物は、一般に100〜5000mg/日/成人、好ましくは300〜3000mg/日/成人の用量で使用されうる。当該医薬組成物の投与は、単回投与または複数回投与であってもよく、例えば他の樹状細胞活性化剤、免疫賦活剤、抗癌剤、抗腫瘍剤、好感染症剤などの他の薬剤と組み合わせて使用することもできる。
【0018】
本発明のさらに別の側面によれば、上記の樹状細胞活性化剤により、未成熟樹状細胞を処理することにより成熟樹状細胞を誘導する方法が提供される。ここで、未成熟樹状細胞は、特に限定はされないが、例えば単球細胞をサイトカイン(例えば、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(以下、「GM−CFS」とも称す)およびインターロイキン−4(以下、「IL−4」とも称す))を含む培地で培養することにより調製することができる。ここで、単球細胞は特に限定はされないが、例えば血中単球細胞を使用することができ、好ましくはヒト血中単球細胞である。
【0019】
未成熟樹状細胞の成熟樹状細胞への変化は、当該技術分野において当業者に知られた方法により確認することができるが、例えば、樹状細胞に共通の共刺激因子(例えば、CD40、CD80、CD86)の発現量の増加や、成熟樹状細胞に特異的なタンパク質(例えば、CD83など)の発現量の増加を観測することにより判断されうる。これらのタンパク質の発現量は、例えばフローメトリー法などにより観測することができる。
【0020】
生体外で樹状細胞を活性化させる際に使用する本発明の樹状細胞活性化剤は、例えば、
1日に10〜1000μg/mL、好ましくは100〜500μg/mLの量で培養液中に添加することができる。また、例えば1〜5日、好ましくは2〜3日の期間培養することにより樹状細胞の活性化を誘導することができる。
【0021】
本発明の方法は、得られる成熟樹状細胞に特定の抗原を提示させるために、樹状細胞と抗原性物質を混合する工程をさらに含んでいてもよい。ここで、抗原性物質は特には限定されないが、腫瘍由来ペプチドまたはウイルス由来ペプチドなどを使用することができ、例えば、CEA由来ペプチド、MAGE由来ペプチドなどを使用することができる。樹状細胞と抗原性物質との混合は、樹状細胞の活性化の前後、または樹状細胞の活性化と同時であってもよいが、好ましくは樹状細胞の活性化と同時に行われる。
【0022】
本発明のさらに別の側面によれば、樹状細胞活性化剤により未成熟樹状細胞を処理することにより得られる成熟樹状細胞、および当該成熟樹状細胞を含む医薬組成物が提供される。ここで、当該医薬組成物は、特に限定はされないが、癌、悪性腫瘍または感染症を予防または治療するために使用することができ、例えば、大腸癌および胃癌などの消化器癌、骨髄腫、肝臓癌、白血病、メラノーマ、前立腺癌、乳癌、子宮癌、肺癌、口腔癌、脳腫瘍などの癌もしくは悪性腫瘍;またはB型またはC型肝炎ウイルスによる慢性肝炎、HIV、インフルエンザなどの感染症に適用することができる。
【0023】
本発明のさらなる側面によれば、上記の樹状細胞活性化剤を含む、免疫療法において使用する補助活性化剤が提供される。ここで、補助活性化剤とは、免疫療法の際に樹状細胞の活性化を誘導するために樹状細胞とともに生体内に投与する物質(アジュバント)であり、医薬組成物の1成分として含まれていてもよい。ここで、免疫療法が対象とする疾患は特に限定はされないが、例えば、大腸癌および胃癌などの消化器癌、骨髄腫、肝臓癌、白血病、メラノーマ、前立腺癌、乳癌、子宮癌、肺癌、口腔癌、脳腫瘍などの癌もしくは悪性腫瘍;またはB型またはC型肝炎ウイルスによる慢性肝炎、HIV、インフルエンザなどの感染症などが挙げられる。本発明の補助活性化剤は、一般に用いられる各種成分を含みうるものであり、またその投与量は、投与経路、患者の体型、年齢、体調、疾患の度合い、発症後の経過時間等により、適宜選択することができる。例えば、本発明の補助活性化剤は上述の本発明の医薬組成物と同様の実施態様により実施することができる。
【0024】
本発明のさらに別の側面によれば、上記の樹状細胞活性化剤を含む食品組成物が提供される。本発明の食品組成物は、機能性飲料などの液体飲料を含む。当該食品組成物は、機能性食品として使用できるほか、医薬部外品、飲食物などの成分、食品添加物などとして使用することができる。また本明細書における食品組成物は、そのまま機能性食品として使用できるほか、飲食物、医薬品、医薬部外品、飲食物等の成分、食品添加物などとして使用することができる。当該使用により、樹状細胞活性化効果および免疫賦活化効果を有する飲食物、食品組成物または経口摂取用組成物の日常的および継続的な摂取が可能となり、効果的な樹状細胞活性化効果および免疫賦活化効果による体質改善、癌、悪性腫瘍および感染症などの疾患の治療および発症の予防が可能となる。本発明の樹状細胞活性化剤または免疫賦活化剤を含む食品組成物、食品または飲料の例としては、樹状細胞活性化効果もしくは免疫賦活化効果を有する機能性食品、健康食品、一般食品(ジュース、菓子、加工食品等)、栄養補助食品(栄養ドリンク等)などが含まれる。本明細書における食品または飲料は、限定はされないが、鉄およびカルシウムなどの無機成分、種々のビタミン類、オリゴ糖およびキトサンなどの食物繊維、大豆抽出物などのタンパク質、レシチンなどの脂質、ショ糖および乳糖などの糖類、椎茸などの植物抽出物などを含むことができる。
【発明の効果】
【0025】
以下の実施例で示すように、本発明の樹状細胞活性化剤は、未成熟樹状細胞の成熟化を
促進する作用および当該作用に起因する免疫賦活化作用を有する。したがって本発明により、免疫賦活化による癌、悪性腫瘍および感染症などを治療および/または予防するための有効な手段が提供される。
【0026】
さらに本発明により、未成熟樹状細胞を処理することにより成熟樹状細胞を誘導する方法が提供される。椎茸菌糸体抽出物は抗酸化作用も併せ持つので、本発明の方法により酸化ストレスの少ない環境下で効率よく樹状細胞を活性化することができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]椎茸菌糸体抽出物の調製
バガス90重量部、米糠10重量部からなる固体培地に純水を適度に含ませた後に、椎茸菌糸を接種し、温度および湿度を調節した培養室内に放置し、菌糸体を増殖させた。菌糸体が固体培地に蔓延した後、バガス基材の繊維素を解束し、12メッシュ通過分が24重量%以下となるようにした。この解束された培地1.0kgに、純水3.5Lを加え、40℃に保ちながら精製セルラーゼ2.0gを加え培地含有混合物とした。次いで培地含有混合物を変速付ギヤーポンプにより循環させながら、固体培地にギヤー部分における粉砕およびすりつぶし作用を200分間程度加え、バガス繊維の約80重量%が12メッシュ通過分となるようにした。培地含有混合物の粉砕およびすりつぶしは、該混合物の温度を徐々に上昇させながら行った。その後、培地含有混合物をさらに加熱して90℃として30分間放置し、酵素を失活せしめ、かつ殺菌を施した。得られた培地含有混合物を60メッシュろ布を用いてろ過して、濃縮した後、凍結乾燥粉末を椎茸菌糸体抽出物(L.E.M.)として得た。
[実施例2]椎茸菌糸体抽出物のヒト樹状細胞活性化効果の測定
(2−1)ヒト末梢血からの未熟樹状細胞の誘導
健常人末梢血をヘパリン採血し、RosetteSep Humon monocyte Enrichment cocktail キット(Stemcell社)を用い、キット付属のプロトコル通りに単球を調整し、RPMI1640培地(sigma、10%FBS含有)に5x105 cells/mlになるように細胞懸濁液を調製した。調製した
細胞懸濁液を24穴プレートに500μLずつ分注し、さらにGM-CSF(ペプロテック)、IL-4(ペプロテック)各40ng/mlになるように添加した。これを37℃、5% CO2 条件で3日間培養した。3日後に培養上清300μLを、細胞をすわないように注意深く吸い取り、新しいRPMI1640培地(sigma、10%FBS含有)300μLを加えた。さらにGM-CSF(ペプロテック)、IL-4(ペ
プロテック)各40ng/mlになるように添加し、さらに3日間培養(合計6日間)し、未熟
樹状細胞を誘導した。未熟樹状細胞の誘導は、細胞表面の単球マーカーであるCD14タンパクが発現低下、共刺激因子であるCD40、CD80、CD86タンパクが発現していることを、それぞれのタンパク特異的な抗体である、抗CD14抗体FITC標識、抗CD40抗体FITC標識、抗CD80抗体PE標識、抗CD86抗体PC5標識(ペプロテック)を用いて、フローサイトメーター(ベ
ックマンコールター Epics XL)で測定し確認した。
【0028】
(2−2)成熟樹状細胞の誘導
上記のように調製した未熟樹状細胞に、椎茸菌糸体抽出物及びPSKを最終濃度が200μg/mlになるように添加し、37℃、5% CO2条件で2日間培養した。また、コントロールとして何も添加せずに37℃、5% CO2条件で2日間培養した。2日後、各条件で培養した細胞の細胞表面の共刺激因子CD40、CD80、CD86タンパク及び成熟樹状細胞特異的マーカーであるCD83タンパクの発現量を抗CD40抗体FITC標識、抗CD80抗体PE標識、抗CD86抗体PC5標識(ペ
プロテック)及び抗CD83抗体FITC標識(ペプロテック)を用いて、フローサイトメーター(ベックマンコールター Epics XL)で測定した。その結果、コントロールに対して、椎
茸菌糸体抽出物、PSK共に高いCD40、CD80、CD83、CD86の発現量の増加が認められた。結
果を図1に示す。
【0029】
測定の結果、椎茸菌糸体抽出物およびPSKのいずれを添加した場合も、コントロールと比較してすべてのマーカーについて発現量の増加が認められ、椎茸菌糸体抽出物およびPSKの添加により樹状細胞が活性化され、成熟化が促進されたことが確認された。また、すべてのマーカーについて椎茸菌糸体を添加した系の発現量はPSKの系の発現量を上回り、特に、成熟樹状細胞特異的マーカーであるCD83の椎茸菌糸体抽出物を添加した系における発現量は、PSKを添加した系と比して2倍以上であることが確認された。このこと
から、本発明の樹状細胞活性化剤は、従来知られていた樹状細胞活性化剤と比べて、高い活性化効果を有することが示唆された。
【0030】
また上記手順により得られた成熟樹状細胞を顕微鏡により観察した(x400倍)。その結果を図2に示す。
椎茸菌糸体により誘導された成熟樹状細胞はPSKにより誘導された成熟樹状細胞に比べ、細胞が大きく伸張した細胞が含まれていることが確認された。このことから、本発明の樹状細胞活性化剤は、従来知られていた樹状細胞活性化剤と比べて、高いT細胞相互作用活性を有することが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】椎茸菌糸体抽出物とPSKの樹状細胞活性化能を比較する試験結果の一例である。
【図2】椎茸菌糸体抽出物およびPSKの添加により活性化された樹状細胞を顕微鏡で観察した結果の一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椎茸菌糸体抽出物を含む樹状細胞活性化剤。
【請求項2】
樹状細胞の活性化により樹状細胞の成熟化が促進される、請求項1に記載の樹状細胞活性化剤。
【請求項3】
樹状細胞の活性化により樹状細胞のインターロイキン−12、インターフェロンγまたはインターロイキン−1の産生能が増強される、請求項1または2に記載の樹状細胞活性化剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹状細胞活性化剤を含む医薬組成物。
【請求項5】
免疫賦活化に用いられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹状細胞活性化剤を含む医薬組成物。
【請求項6】
癌または悪性腫瘍を治療または予防するための、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹状細胞活性化剤を含む医薬組成物。
【請求項7】
感染症を治療または予防するための、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹状細胞活性化剤を含む医薬組成物。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹状細胞活性化剤を含む食品組成物。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹状細胞活性化剤を用いて未成熟樹状細胞を処理することにより成熟樹状細胞を誘導する方法。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹状細胞活性化剤を用いて未成熟樹状細胞を処理することにより得られる成熟樹状細胞。
【請求項11】
請求項10に記載の成熟樹状細胞を含む医薬組成物。
【請求項12】
癌、悪性腫瘍または感染症を予防または治療するための、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1〜3に記載の樹状細胞活性化剤を含む、免疫療法において使用する補助活性化剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−141346(P2006−141346A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339184(P2004−339184)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第17回日本バイオセラピィ学会学術集会総会事務局発行、第17回日本バイオセラピィ学会学術集会総会プログラム&抄録集、平成16年10月21日発行
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【出願人】(390041243)
【Fターム(参考)】