説明

樹皮粉砕物を含む成形品の製造方法

【課題】優れた吸水性と耐朽性とを併せ持つ成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】陽イオン置換容量が50meq/100g以上の表面活性処理物質(B)により表面活性処理が施された樹皮粉砕物(A)、及び樹脂エマルジョン(C)を混合してから加圧成形することを特徴とする成形品の製造方法とする。表面活性処理物質(B)が、粘土、シルト、活性炭粉末、燃焼灰、珪藻土及び鹿沼土からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。植生用、緩衝用、断熱用、防音用成形品の製造方法が好適な実施態様である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面活性処理物質により表面活性処理が施された樹皮粉砕物、及び樹脂エマルジョンを混合してから加圧成形することを特徴とする成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物の屋上やベランダ、傾斜地法面、運動場など、様々な場所の緑化が望まれるようになっていて、各種の植生基盤が提案されている。しかしながら、木質廃材の小片などを結合した成形品である木質ボードを植生基盤として用いた場合、耐朽性が不十分であり、植生を維持しながら長期間形態を保つことは困難であった。したがって、優れた吸水性と耐朽性を兼ね備えていて、植生基盤として用いた場合に長期間に亘って形態を保つことができる成形品が望まれていた。
【0003】
特許文献1には、熱可塑性樹脂により小片状材料を結合した加圧成型物であって、小片状材料の加圧成型温度T(℃)と熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg(℃)が、Tg+80≧T≧Tg+5であることを特徴とする成型物が記載されている。小片状材料として木材小片、木材繊維、樹皮などの木材に由来する木質材料が好適に使用されることが記載されている。また、熱可塑性樹脂として、酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、アクリル樹脂及びスチレン−ブタジエン共重合体を用いることも記載されている。また、そのような樹脂のエマルジョンまたはラテックスを用いる前記成形品の製造方法も記載されている。また、特許文献2には、特許文献1と同様の成型物中に種子又は農業用添加剤を含有する植生材が記載されている。しかしながら、吸水性と耐朽性とを高レベルで兼ね備えることはできていなかった。
【0004】
特許文献3には、難腐敗性天然樹皮及び繊維に燃焼灰を配合することを特徴とする植物栽培用緑化用資材が記載されている。燃焼灰を撥水性の強い樹皮繊維に加えることにより、樹皮の疎水性を容易に親水性表面に変え、水を撥水させることなくよく濡らし、植物の生育に必要な水を保水させられる。そして、当該緑化用資材は植物栽培用培土、土壌改良材、吹き付け材及びマルチ材として用いられることが記載されている。しかしながら、当該緑化用資材を用いた成形品については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−254457号公報
【特許文献2】特開2005−160447号公報
【特許文献3】特開平10−174518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、優れた吸水性と耐朽性とを併せ持つ成形品の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、陽イオン置換容量が50meq/100g以上の表面活性処理物質(B)により表面活性処理が施された樹皮粉砕物(A)、及び樹脂エマルジョン(C)を混合してから加圧成形することを特徴とする成形品の製造方法を提供することによって解決される。
【0008】
このとき、表面活性処理物質(B)が、粘土、シルト、活性炭粉末、燃焼灰、珪藻土及び鹿沼土からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。表面活性処理物質(B)の平均重量直径が0.1〜350μmであることも好ましい。また、樹脂エマルジョン(C)が、ポリビニルアルコールを分散剤とし、炭素−炭素二重結合を有する単量体を重合してなる熱可塑性樹脂を分散質とする水性エマルジョンであることが好ましく、樹脂エマルジョン(C)の分散質が、エチレン−酢酸ビニル共重合体であることがより好ましい。表面活性処理物質(B)を、樹皮粉砕物(A)と表面活性処理物質(B)の合計100重量部に対して、2〜80重量部配合することも好ましい。樹脂エマルジョン(C)を、その固形分量が樹皮粉砕物(A)と表面活性処理物質(B)の合計100重量部に対して、10〜60重量部となるように混合することも好ましい。前記成形品の密度が0.2〜0.8g/cmであることも好ましい。前記成形品が、植生用成形品、緩衝用成形品、断熱用成形品、防音用成形品からなる群から選択される少なくとも1種であることが好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の成形品の製造方法によれば、優れた吸水性及び耐朽性を併せ持つ成形品を、生産性良く製造することができる。また、本発明の製造方法は、一般の木質ボードを熱硬化性樹脂で硬化させる時のようにホルムアルデヒドを発生させることもないので、安全衛生上の問題も解消される。そして、該製造方法によって製造される成形品は、植生用、緩衝用、断熱用、防音用など、種々の用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例3において植物苗を植え込んだ直後の成形品の写真である。
【図2】実施例3において植え込んだ植物苗の種類と位置を示すものである。
【図3】実施例3において植物苗を植え込んでから61日経過後の成形品の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の成形品の製造方法は、表面活性処理物質(B)により表面活性処理が施された樹皮粉砕物(A)、及び樹脂エマルジョン(C)を混合してから加圧成形するものである。
【0012】
本発明で用いられる樹皮粉砕物(A)は、樹皮を粉砕したものであればよく、特に限定されない。このような樹皮粉砕物(A)を用いることによって、腐敗しにくい成形品が得られる。樹皮粉砕物(A)としては、スギ、ヒノキ、マツ、ヒバ、ユーカリ、ヤシガラ、ラワン、カポール、ポプラ、ヤナギ、ラン又はシクラメンの樹皮を粉砕したものが例示される。この中で、製材工程の廃棄物として入手が容易であり、耐朽性と強度に優れた成形品が得られることから、スギ又はヒノキが好ましい。
【0013】
樹皮を粉砕する方法としては、ハンマーミル、ナイフミルなどを用いる粉砕方法が例示される。樹皮粉砕物(A)の寸法は特に限定されないが、樹皮粉砕物(A)の80重量%以上が、長さ100mm以下、幅10mm以下かつ厚さ5mm以下の粒子からなることが好ましい。そのような寸法の粒子が占める割合が樹皮粉砕物(A)の80重量%未満であると、樹皮粉砕物(A)が表面活性処理物質(B)と混ざりにくくなるおそれがある。樹皮粉砕物(A)の80重量%以上が、長さ70mm以下、幅7mm以下かつ厚さ3mm以下の粒子からなることがより好ましく、長さ50mm以下、幅5mm以下かつ厚さ1mm以下の粒子からなることがさらに好ましい。また、樹皮粉砕物(A)の80重量%以上が、長さ3mm以上の粒子からなることが好ましい。長さ3mm以上の粒子が占める割合が樹皮粉砕物(A)の80重量%未満であると、得られる成形品の強度が低下する。樹皮粉砕物(A)の80重量%以上が、長さ5mm以上の粒子からなることがより好ましい。樹皮粉砕物(A)としては、1種類の樹皮を用いたものでもよいし、複数種の樹皮を用いたものでもよい。
【0014】
本発明の成形品の製造方法においては、樹皮粉砕物(A)及び樹脂エマルジョン(C)に加えて表面活性処理物質(B)が用いられる。本発明においては、表面活性処理物質(B)が、陽イオン置換容量が50meq/100g以上であることが重要である。陽イオン置換容量が50meq/100g以上である表面活性処理物質(B)を用いて、樹皮粉砕物(A)に表面活性処理を施すことによって、得られる成形品の吸水性が大幅に向上する。これは、このような表面活性処理物質(B)が樹皮粉砕物(A)の表面を疎水性から親水性に変えるためであると考えられる。また、表面活性処理物質(B)を用いることによって、得られる成形品の耐朽性が良好になる。樹皮粉砕物(A)は、天然の殺菌力及び殺虫力があるために腐敗しにくいが、さらに表面活性処理物質(B)を加えることによって、得られる成形品の耐朽性が格段に向上する。すなわち、吸水性を向上させながらも耐朽性を向上させるという、驚くべき効果が奏されるのである。加えて、表面活性処理物質(B)の添加により、得られる成形品の難燃性も改善される。
【0015】
表面活性処理物質(B)の陽イオン置換容量は、100meq/100g以上であることが好ましく、150meq/100g以上であることがさらに好ましい。なお、該陽イオン置換容量は、セミミクロSchollenberger法により測定した値である。すなわち、酢酸アンモニウム溶液などを用いて、表面活性処理物質(B)の交換性陽イオンをアンモニウムイオンに交換させてから、過剰の酢酸アンモニウムをアルコールで洗浄して除いた後、塩化ナトリウム溶液などを用いてアンモニウムイオンを抽出し、該アンモニウムイオンを定量することによって求めることができる。
【0016】
本発明で用いられる表面活性処理物質(B)としては、粘土、シルト、活性炭粉末、燃焼灰、珪藻土、鹿沼土などが好ましく用いられる。これらのうち、燃焼灰は物を燃焼させたときにできる灰であり、石炭燃焼灰、木材燃焼灰、石油燃焼灰などが例示される。その中でも、安全性の点から木材燃焼灰が好ましい。表面活性処理物質(B)は、1種類のものを用いてもよいし、複数種のものを用いてもよい。
【0017】
表面活性処理物質(B)の寸法は、成形品が成形できればよく、特に限定されないが、その平均重量直径が0.1〜350μmであることが好ましい。平均重量直径が0.1μm未満では、成型品の製造時に粉じんが発生するおそれがある。該直径が0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。平均重量直径が350μmを超えると、成形品の強度が低くなるおそれがある。該直径が300μm以下であることがより好ましく、250μm以下であることがさらに好ましい。ここで、該平均重量直径は、JIS Z8820−2に準じて、アンドレアゼンピペット法により測定した粒子径分布から、下式によって算出される値である。
平均重量直径 = Σnd/Σnd
n:粒子数
d:粒子の直径
【0018】
本発明で用いられる樹脂エマルジョン(C)は、分散媒中に、分散質を構成する樹脂が微粒子状に分散しているものである。このような樹脂エマルジョン(C)を用いることによって、力学強度が十分な成形品を製造することができる。
【0019】
樹脂エマルジョン(C)の分散媒は特に限定されないが、作業環境、周辺環境への有機化合物の放出防止の点から水であることが好ましい。
【0020】
樹脂エマルジョン(C)の分散質は、炭素−炭素二重結合を有する単量体を重合してなる樹脂で構成されることが好ましい。熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよいが、加圧成形が容易である点から熱可塑性樹脂が好ましい。このような熱可塑性樹脂としては、ポリビニルエステル系樹脂、エチレン−ビニルエステル共重合体樹脂、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステル単位を含む重合体であるアクリル樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂などのスチレン系共重合体樹脂などが例示される。この中で、接着性及びコストの点で、ポリビニルエステル系樹脂またはエチレン−ビニルエステル共重合体樹脂が好ましく、さらに、耐水性にも優れることからエチレン−ビニルエステル共重合体樹脂が特に好ましい。
【0021】
前記ビニルエステル系樹脂としては、蟻酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、プロピオン酸ビニル系樹脂、ピバリン酸ビニル系樹脂などが例示される。この中で、入手容易である点で、酢酸ビニル系樹脂が好ましい。前記エチレン−ビニルエステル共重合体樹脂としては、エチレン−蟻酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−プロピオン酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−ピバリン酸ビニル共重合体樹脂などが例示される。この中で、入手容易である点で、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂が好ましい。
【0022】
前記エチレン−ビニルエステル共重合体樹脂は、その樹脂中のエチレン単位及びビニルエステル単位の総数に対するエチレン単位の含有率が、15〜70モル%であることが好ましい。エチレン単位の含有率が15モル%未満であると、成形品の耐水性が低下するおそれがあり、25モル%以上であることがより好ましい。エチレン単位の含有率が70モル%を超えると、接着力が低下するおそれがあり、60モル%以下であることがより好ましい。
【0023】
樹脂エマルジョン(C)は、一般的に分散質の分散安定性を保持するために分散剤を含む。該分散剤としては、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアクリル酸誘導体、(無水)マレイン酸−ビニルエーテル共重合体、(無水)マレイン酸−酢酸ビニル共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−(メタ)アリルスルホン酸(塩)共重合体などが用いられるが、ポリビニルアルコールが好適に用いられる。これを用いることにより、分散質の分散安定性が良好になると同時に、樹脂エマルジョン(C)の機械的安定性や化学的安定性が改善され、適度な粘性が得られるからである。
【0024】
本発明で用いられるポリビニルアルコールとしては各種の粘度平均重合度(以下単に重合度ということがある)、けん化度のものが使用でき、一般的には重合度200〜4000、けん化度50〜100モル%である。好ましくは、重合度300〜2000、けん化度85〜99モル%である。また、α−オレフィン系単量体由来の疎水基、カルボキシル基、スルホン酸基、カチオン基、アセトアセチル基、シラノール基などで変性したポリビニルアルコールも使用可能である。なお、ポリビニルアルコールの粘度平均重合度はJIS K6726に準じて測定した値である。すなわち、ポリビニルアルコールをけん化度99.5モル%以上に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求めた値である。
P=([η]×1000/8.29)(1/0.62)
【0025】
前記ポリビニルアルコールの含有率は特に限定されないが、樹脂エマルジョン(C)を構成する分散質100重量部に対して、1〜50重量部であることが、樹脂エマルジョン(C)の安定性が高くなる点で好ましい。本発明で用いられる樹脂エマルジョン(C)の粘度は、特に限定されないが、30℃において通常50〜100000mPa・s程度である。
【0026】
樹脂エマルジョン(C)は、本発明の効果を損なわない範囲で、公知のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン性、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのノニオン性あるいはアルキルベンジルジメチルアンモニウム化合物などのカチオン性の乳化剤、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、多価イソシアネート化合物などの架橋剤などを含んでいてもよい。
【0027】
本発明で用いられる樹脂エマルジョン(C)の固形分率は、樹脂エマルジョン(C)の総重量に対する固形分量の割合が、40〜60重量%であることが好ましい。表面活性処理物質(B)により表面活性処理が施された樹皮粉砕物(A)などへの樹脂エマルジョン(C)のスプレーによる塗布及び混合が容易となるからである。また、表面活性処理物質(B)により表面活性処理が施された樹皮粉砕物(A)及び樹脂エマルジョン(C)の混合物の含水率が過多にならないからである。ここで、樹脂エマルジョン(C)の固形分量は、樹脂エマルジョン(C)の蒸発残留分の重量であって、例えば、JIS K6828に記載の方法によって測定することができる。
【0028】
本発明で用いられる表面活性処理物質(B)の配合量は、樹皮粉砕物(A)と表面活性処理物質(B)の合計100重量部に対して、2〜80重量部であることが好ましい。配合量が2重量部未満では、得られる成形品の吸水性が不十分となるとともに耐朽性が低下するおそれがある。また、難燃性が低下するおそれもある。配合量が7重量部以上であることがより好ましく、10重量部以上であることがさらに好ましい。該配合量が80重量部を超えると、得られる成形品の強度が低下するおそれがある。配合量が60重量部以下であることがより好ましく、50重量部以下であることがさらに好ましい。ここで、本発明において、樹皮粉砕物(A)と表面活性処理物質(B)の合計100重量部とは、乾燥重量のことをいう。
【0029】
本発明における樹脂エマルジョン(C)の混合量は、樹皮粉砕物(A)と表面活性処理物質(B)の合計100重量部に対して、その固形分量が10〜60重量部であることが好ましい。混合量が10重量部未満では得られる成形品の強度が不十分になるおそれがある。混合量が15重量部以上であることがより好ましく、18重量部以上であることがさらに好ましい。一方、該固形分量の混合量が60重量部を超えると樹脂エマルジョン(C)の混合が不均一になり、局所的に樹脂エマルジョン(C)が過多になっている状態であるレジンスポットが増加する。また、プレス盤面への付着が生じ、成形品の表面性状が悪化する。混合量が55重量部以下であることがより好ましく、50重量部以下であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明の成形品の製造方法においては、本発明の目的を損なわない範囲で、樹皮粉砕物(A)、表面活性処理物質(B)及び樹脂エマルジョン(C)以外の成分を混合することができる。該成分としては、充填材、溶剤、顔料、染料、防腐剤、防虫剤、防かび剤、消泡剤などが例示される。植生用成形品の製造に際しては、肥料、種子、農薬、土壌改良剤、成長促進剤、成長抑制剤、発芽促進剤、水分保持材なども用いられる。本発明の製造方法においては、常温付近における加圧成形も可能であり、種子に悪影響を及ぼさずに成形品を製造することができる。本発明で得られた成形品に穴をあけて、前記成分を埋め込むこともでき、例えば、成形品に穴をあけて植物を植えて用いることができる。
【0031】
本発明の製造方法は、表面活性処理物質(B)により表面活性処理が施された樹皮粉砕物(A)及び樹脂エマルジョン(C)を混合する工程、及び得られた混合物を加圧成形する工程からなる。
【0032】
表面活性処理物質(B)により表面活性処理が施された樹皮粉砕物(A)の調製方法は、特に限定されない。通常、樹皮粉砕物(A)と表面活性処理物質(B)とを混合して撹拌することにより調製される。
【0033】
表面活性処理物質(B)により表面活性処理が施された樹皮粉砕物(A)及び樹脂エマルジョン(C)を混合するときは、それらが均質に混合できればよく、その方法は特に限定されない。混合に用いる装置及び混合する時間は、樹皮粉砕物(A)、表面活性処理物質(B)及び樹脂エマルジョン(C)の種類や混合量に応じて、適宜選択することができる。このとき樹皮粉砕物(A)及び表面活性処理物質(B)の表面全体に樹脂エマルジョン(C)が存在するように、十分に混合することが好ましい。樹脂エマルジョン(C)を添加する方法は、特に限定されない。スプレーによる塗布などの方法が用いられる。樹皮粉砕物(A)と表面活性処理物質(B)とを混合し、表面活性処理物質(B)により表面活性処理が施された樹皮粉砕物(A)を調製した同じ装置内でそのまま、樹脂エマルジョン(C)を混合してもよい。
【0034】
また、混合する工程の前または途中に、乾燥する工程を設けてもよい。例えば、樹皮粉砕物(A)を乾燥する工程を設けてもよいし、樹皮粉砕物(A)及び表面活性処理物質(B)を混合した後に乾燥する工程を設けてもよい。乾燥する方法は特に限定されず、室温における風乾、熱風乾燥、オーブン中における加熱乾燥などの方法が例示される。乾燥する工程を設ける場合は、得られる表面活性処理物質(B)により表面活性処理が施された樹皮粉砕物(A)の含水率が、乾量基準で30重量%以下になるように乾燥することが好ましい。含水率が30重量%を超えると、成形品の加圧成形直後に膨潤が生じやすく、成形品のハンドリングが困難になるおそれがあり、20重量%以下であることがより好ましい。
【0035】
表面活性処理物質(B)により表面活性処理が施された樹皮粉砕物(A)及び樹脂エマルジョン(C)を混合した後、加圧成形前に得られた混合物を水で湿らせる工程を設けてもよい。このような工程を設けることによって、該混合物の接着性が良好になり、力学強度が十分な成形品を得ることができる。該混合物を水で湿らせる方法や水の添加量は特に限定されない。また、表面活性処理物質(B)により表面活性処理が施された樹皮粉砕物(A)及び樹脂エマルジョン(C)を混合した後、乾燥させてから加圧成形することもできる。この場合は、加圧成形時に加熱することが好ましい。
【0036】
表面活性処理物質(B)により表面活性処理が施された樹皮粉砕物(A)及び樹脂エマルジョン(C)の混合物は、その後加圧成形される。加圧成形の圧力は、得られる成形品の密度に応じて適宜調整される。通常、5〜15MPa程度である。加圧成形するのに用いる装置は、圧力をかけて成形品を製造できるものであればよく、特に限定されない。同時に加熱できるものが好適であり、ホットプレスなどが用いられる。
【0037】
表面活性処理物質(B)により表面活性処理が施された樹皮粉砕物(A)及び樹脂エマルジョン(C)の混合物のみを加圧成形することもできるし、該混合物を合板や石膏ボードなど補強板の上に乗せ、補強板と一体成形することもできる。補強板を片面に有する成形品とすることにより、強度を確保することができ、成形品の密度が0.4g/cm程度以下であるような場合には特に有効である。
【0038】
加圧成形の温度は、特に限定されないが、10〜120℃であることが好ましい。加圧成形の温度が120℃を超えると、加圧成形のために必要なエネルギーが大きくなる。また、プレス盤面に成形品が付着するおそれがある。該温度が110℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがさらに好ましい。加圧成形の温度が10℃未満であると、得られる成形品の力学強度が不十分になるおそれがある。該温度が30℃以上であることがより好ましく、60℃以上であることがさらに好ましい。加圧成形の時間は、通常5〜30分程度である。
【0039】
本発明の製造方法で製造される成形品の形状や寸法は、特に限定されない。板状のものが好適に成形される。本発明の製造方法で製造される成形品の密度は特に限定されないが、前記密度が、0.2〜0.8g/cmであることが好ましい。密度が0.2g/cm未満では、得られる成形品の強度が不足するおそれがある。密度が0.3g/cm以上であることがより好ましい。前記密度が0.8g/cmを超えると成形品の吸水率が低下するおそれがある。また、植生用成形品として用いる場合、植物の生育が悪くなるおそれがある。密度が0.7g/cm以下であることがより好ましい。ここで、成形品の密度は、成形品の重量を成形品の見かけ体積で除して求められる。
【0040】
本発明の製造方法によって製造される成形品は種々の用途に用いることができる。好適な実施態様は、植生用成形品、緩衝用成形品、断熱用成形品、防音用成形品である。植生用成形品は植物が生育する環境を提供することができる植生基盤であればよく、特に限定されない。植生用成形品としては、壁用植生ボード、水中用植生ボード、傾斜地法面緑化ボード、屋上やベランダの緑化用ボードなどが例示される。緩衝用成形品は衝撃や振動を和らげるために用いられる成形品であればよく、特に限定されない。緩衝用成形品としては、遊具用マット、遊歩道の安全性を高めるクッションボードなどが例示される。断熱用成形品は熱を遮断するために用いられる成形品であればよく、特に限定されない。断熱用成形品としては、屋根裏断熱シートなどが例示される。防音用成形品は音を遮断するために用いられる成形品であればよく、特に限定されない。防音用成形品としては、防音壁ボードなどが例示される。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。実施例中、測定及び評価は下記の方法にしたがって行った。
【0042】
(1)吸水率
縦50mm、横50mm、厚さ16mmの試験体を、温度20℃の水中に24時間浸漬して吸水させた。吸水前後の試験体の重量をそれぞれ測定した。吸水率(%)は各測定値から、吸水前の試験体の重量(g)に対する、吸水前後の試験体の重量差(g)の割合(%)として算出した。試験体数は5体とし、平均値を得るとともに標準偏差も求めた。
【0043】
(2)吸水厚さ膨張率
JIS A5908(パーティクルボード)に基づく吸水厚さ膨張率試験に準じて測定した。縦50mm、横50mm、厚さ16mmの試験体を、温度20℃の水中に24時間浸漬して吸水させた。吸水前後の試験体の厚さをそれぞれ測定し、各測定値から吸水厚さ膨張率を算出した。試験体数は5体とし、平均値を得るとともに標準偏差も求めた。
【0044】
(3)質量減少率(耐朽性試験)
JIS K1571(木材保存剤の性能試験方法及び性能基準)に基づくファンガスセラー試験に準じて測定した。試験体は幅20mm、長さ100mm、厚さ16mmとした。試験体と一緒に、腐朽菌の活性を確認するための対照材としてスギ製材(辺材部)(幅20mm、長さ100mm、厚さ20mm)を同時に供した。温度25〜30℃の部屋に設置した腐朽槽内の土壌菌床に、各試験体が隣接するように、深さ約80mmの位置に、長さ方向が垂直になるように埋設した。土壌水分は散水により常時、最大水保持量の50±5%になるように維持した。試験前及び8週間経過後の試験体の質量をそれぞれ測定し、各測定値から質量減少率を算出した。試験体数は各5体とし、平均値を得るとともに標準偏差も求めた。このとき、スギ製材の質量減少率は約15%であり、腐朽槽内の腐朽菌が活性であることを確認した。
【0045】
(4)総発熱量
JIS K2279(原油及び石油製品−発熱量試験方法及び計算による推定方法)に基づく発熱量試験にしたがって測定した。各試験体を粒径1mm以下に粉砕して得た試料について、株式会社島津製作所製燃研式自動ボンベ熱量計「CA−4AJ」を用いて総発熱量を測定した。試験を3回繰り返し行い、平均値を得るとともに標準偏差も求めた。
【0046】
(5)曲げ強度
JIS A5908(パーティクルボード)に基づく曲げ試験に準じて測定した。
【0047】
(6)圧縮応力
JIS K7220(発泡プラスチック−硬質材料の圧縮試験)に準じて測定した。10%圧縮変形時の圧縮応力を測定した。
【0048】
(7)熱抵抗
JIS A1412(熱絶縁材の熱抵抗及び熱伝導率の測定方法(平板比較法))に準じて測定した。含水率約10%の試験体を用いた。
【0049】
実施例1
本実施例で使用した原料は以下のとおりである。
[樹皮]
スギ及びヒノキの樹皮。
[表面活性処理物質(B)]
木材燃焼灰。セミミクロSchollenberger法により測定した陽イオン置換容量は、185meq/100gである。また、JIS Z8820−2に準じて、アンドレアゼンピペット法により測定して求めた平均重量直径は、143μmである。
[樹脂エマルジョン(C)]
エチレン単位の含有率が40モル%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂を分散質とし、分散剤として粘度平均重合度800、けん化度88.2モル%のポリビニルアルコールを、分散質100重量部に対して5重量部含有するエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョン(固形分率が55.3重量%、30℃における粘度が2500mPa・sである)100重量部に対して、水10重量部を混合してなる樹脂エマルジョン。
【0050】
樹皮をハンマーミルを用いて粉砕した。粉砕の途中で、樹皮と木材燃焼灰との重量比が10/1になるように木材燃焼灰を加えた後、引き続き粉砕し、同時に混合した。こうして得られた混合物の含水率は乾量基準で80重量%であった。該混合物を、含水率が乾量基準で15重量%になるまで自然乾燥し、樹皮燃焼灰混合物を得た。該樹皮燃焼灰混合物の乾燥重量100重量部中の樹皮粉砕物(A)は乾燥重量で84重量部、表面活性処理物質(B)は乾燥重量で16重量部であった。該樹皮燃焼灰混合物中の樹皮粉砕物(A)の80重量%以上が、長さ50mm以下、幅5mm以下かつ厚さ1mm以下の粒子からなっていた。また、当該樹皮粉砕物(A)の80重量%以上が、長さ5mm以上の粒子からなっていた。
【0051】
該樹皮燃焼灰混合物2385gを内羽根の付いた回転ドラムで撹拌し、これに樹脂エマルジョン(C)1037gをエアレススプレーガンにより塗布した。このようにして得られた表面活性処理物質(B)により表面活性処理が施された樹皮粉砕物(A)及び樹脂エマルジョン(C)の混合物を、内寸600mmの正方形のフォーミングボックスの中に入れてフォーミングした。ホットプレスを用い、プレス温度を40℃、プレス時間を10分間とし、成形密度が0.6g/cm、厚さが16mmになるように加圧成形し、試験体を得た。
【0052】
こうして得られた試験体を用いて、上記方法に従って、吸水率、吸水厚さ膨張率、質量減少率及び総発熱量を測定した。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0053】
比較例1
実施例1において、樹皮燃焼灰混合物2385gの代わりに、表面処理活性物質(B)を含まない樹皮粉砕物(A)を2385g用いた以外は、実施例1と同様にして成形密度0.6g/cm、厚さ16mmの試験体を作製し、評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1の結果から、表面活性処理物質(B)により表面活性処理が施された樹皮粉砕物(A)、及び樹脂エマルジョン(C)を混合してから加圧成形することによって製造した成形品は、表面活性処理物質(B)を配合しなかったものに比べて、非常に優れた吸水性と耐朽性を併せ持っていることがわかる。しかも、吸水による変形も大きくなく、難燃性も改善されている。
【0056】
実施例2
実施例1において、樹皮燃焼灰混合物を4000g、樹脂エマルジョン(C)を1700g用い、フォーミングボックスの底に厚さ4mmの合板を敷いた上にフォーミングした後、プレス温度を20℃、プレス時間を10分間とし、合板と一体成形して、成形密度が0.4g/cm、厚さが35mmになるように変えた以外は、実施例1と同様にして試験体を作製した。得られた試験体の常態時及び20℃の水中で48時間吸水させた後の曲げ強度及び圧縮応力を測定した。
【0057】
得られた試験体の曲げ強度は、常態時においては、合板貼り付け面の上下方向に関わらず1.1N/mmであり、ハンドリングに十分耐える曲げ強度を有していた。また、吸水させた後においては0.4N/mmであり、常態時の4割以下に低下するものの、成形して重量が増加した状態であっても、ハンドリングに十分耐える曲げ強度を有していた。このように、本発明によって製造された成形品は、吸水時においても曲げ強度が確保され、良好な耐水性を有することがわかる。
【0058】
得られた試験体の10%圧縮変形時の圧縮応力は、常態時において0.32N/mmであり、吸水後において0.30N/mmであった。このことから、本発明によって製造された成形品は、吸水時においても踏圧に十分耐え、良好な耐水性を有することがわかる。
【0059】
得られた試験体の常態時における熱抵抗は、0.4mK/Wであり、木質系材料として良好な断熱性を有していることがわかる。
【0060】
実施例3
実施例1において、樹皮燃焼灰混合物を5000g、樹脂エマルジョン(C)を3700g用い、フォーミングボックスの底に厚さ4mmの合板を敷いた上にフォーミングした後、プレス温度を90℃、プレス時間を10分間とし、合板と一体成形して、成形密度が0.52g/cm、厚さが35mmになるように変えた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製した。得られた成形品(縦600mm、横600mm、厚さ35mm)に、直径25mm、深さ25mmの穴を約70mm間隔で64個開けた。穴を開けた成形品12体を建物南側の垂直壁面に対してビスで固定し、図2に示す14種類の植物苗を穴に植え込んだ。植物苗を植え込んだ直後の成形品の写真を図1に示す。灌水システムにより、毎朝30分の散水を実施し、61日間植物を生育させた。植物苗を植え込んでから61日経過後の成形品の写真を図3に示す。図3の写真からわかるように植物が極めて良好に生育していた。また、成形品自体の損傷、脱落などの不具合も発生していなかった。このことから、該成形品は、植生基盤として優れた性能を有しており、壁面緑化ボードとしても使用できることがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン置換容量が50meq/100g以上の表面活性処理物質(B)により表面活性処理が施された樹皮粉砕物(A)、及び樹脂エマルジョン(C)を混合してから加圧成形することを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項2】
表面活性処理物質(B)が、粘土、シルト、活性炭粉末、燃焼灰、珪藻土及び鹿沼土からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1記載の成形品の製造方法。
【請求項3】
表面活性処理物質(B)の平均重量直径が0.1〜350μmである請求項1又は2記載の成形品の製造方法。
【請求項4】
樹脂エマルジョン(C)が、ポリビニルアルコールを分散剤とし、炭素−炭素二重結合を有する単量体を重合してなる熱可塑性樹脂を分散質とする水性エマルジョンである請求項1〜3のいずれか記載の成形品の製造方法。
【請求項5】
樹脂エマルジョン(C)の分散質が、エチレン−酢酸ビニル共重合体である請求項4記載の成形品の製造方法。
【請求項6】
表面活性処理物質(B)を、樹皮粉砕物(A)と表面活性処理物質(B)の合計100重量部に対して、2〜80重量部配合する請求項1〜5のいずれか記載の成形品の製造方法。
【請求項7】
樹脂エマルジョン(C)を、その固形分量が樹皮粉砕物(A)と表面活性処理物質(B)の合計100重量部に対して、10〜60重量部となるように混合する請求項1〜6のいずれか記載の成形品の製造方法。
【請求項8】
前記成形品の密度が0.2〜0.8g/cmである請求項1〜7のいずれか記載の成形品の製造方法。
【請求項9】
前記成形品が、植生用成形品、緩衝用成形品、断熱用成形品、防音用成形品からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜8のいずれか記載の成形品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−222434(P2010−222434A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69859(P2009−69859)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(301064507)株式会社ジャパン緑化 (1)
【出願人】(591060980)岡山県 (96)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】