説明

樹脂の処理方法

【課題】副資材を削減あるいは不要とした樹脂の処理方法を提供することにある。
【解決手段】熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂を、溶媒としてタールを用い可溶化処理して可溶化物を得る工程と、前記可溶化物を熱分解して液体生成物を得る工程と、前記液体生成物を蒸留してタールを生成する工程と、生成したタールを、熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂の溶媒として循環的に使用することを特徴とする樹脂の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂を可溶化する樹脂の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の如く、プリント基板等の各種電化部品には、電気絶縁性や耐熱性等に優れた熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が使用されている。これらの樹脂を使用した電化部品は、経時変化等により本来の機能を果たさなくなると、廃棄処分されることになる。従来、こうした廃棄処分の対象である電化部品は、リン酸などの触媒、アルコール系溶媒、バイオマスから製造したタールなどの可溶化溶媒により処理されている。しかしながら、可溶化させる際、リン酸などの触媒、アルコール系溶媒あるいはバイオマスなどの副資材を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−174150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態の目的は、副資材を削減あるいは不要とした樹脂の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂を、溶媒としてタールを用い可溶化処理して可溶化物を得る工程と、前記可溶化物を熱分解して液体生成物を得る工程と、前記液体生成物を蒸留してタールを生成する工程と、生成したタールを、熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂の溶媒として循環的に使用することを特徴とする樹脂の処理方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】エポキシ基板を加熱処理した時の温度を変えた場合の、液体生成物、残渣及びガス生成物と収率との関係を示す特性図。
【図2】タールに対するエポキシ基板の比率を変えた場合の、タール製造温度と可溶化率との関係を示す特性図。
【図3】(エポキシ基板+タール)に対するエポキシ基板の比率を変えた場合の、液体生成物とガス生成物と残渣の収率を示す特性図。
【図4】エポキシ樹脂を764℃で加熱処理して得たタールのGC−MASS分析結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本実施形態に係る樹脂の処理方法について説明する。なお、本実施形態は下記に述べることに限定されない。
本実施形態において、熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。ここで、フェノール樹脂は、芳香族化合物であるフェノールを構成要素に持つ樹脂であり、エポキシ樹脂も、例えば代表的なエポキシ樹脂であるビスフェノールA型エポキシ樹脂は芳香族化合物を構成要素として持っている。熱可塑性樹脂としては、例えば芳香族ポリアミド樹脂やスルホン化芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエーテルケトン等の芳香族化合物を含む熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0008】
本発明者らは、種々研究を重ねた結果、上述した芳香族を構成要素に持つ熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂を加熱処理により低分子化し、得られたタールにより熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂の可溶化を行うことにより、前記タールを可溶化溶媒として循環的に使用する樹脂の処理方法を究明するに至った。なお、本実施形態において、生成したタールを、熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂の溶媒として循環的に使用するが、タールの一部としてバイオマス由来のタールを補給することも可能である。また、加熱処理して得られるタールには、クレゾールやクレゾール誘導体などのフェノール性水酸基含有化合物を含んでいることが好ましい。ここで、タールにフェノール性水酸基含有化合物が含んでいることにより、タールが比較的低温でエポキシ基板等のプリント基板中の樹脂を容易に可溶化することができる。
【0009】
次に、本実施形態に係る樹脂の処理方法について説明する。
(実施形態)
まず、エポキシ樹脂とガラス繊維の複合材である数g〜数百gのエポキシ基板を、不活性ガス(窒素)雰囲気下で600〜900℃の反応温度で一定時間おいて加熱処理し、生成物を得た。つづいて、この生成物を室温まで冷却して、固体状の固体生成物(残渣)、液体生成物、気体状のガス生成物の3種を得た。各生成物の収率を図1に示す。図1で、横軸は反応温度を示し、縦軸は各生成物の収率を示す。エポキシ基板は重量割合で40%のエポキシ樹脂と60%のガラス繊維からなるが、ここでは各収率は加熱処理する前のエポキシ基板中の樹脂成分重量を100とした、樹脂基準の収率とした。なお、図1において、符号(a)は液体生成物を、符号(b)は固体生成物(残渣)を、符号(c)はガス生成物を示す曲線である。
【0010】
図1に示したように、反応温度600〜900℃で加熱処理することにより、エポキシ基板中に含まれた樹脂のうち、70〜80%の収率で液体生成物が得られた。
次に、得られた液体生成物を蒸留し、次工程である可溶化処理温度(150〜350℃)以下の沸点を有する軽質留分を除いてタールを製造した。つづいて、このタールに触媒として例えば硫酸を添加し、常圧で150〜350℃の温度範囲で再加熱し、当該タールにエポキシ基板を浸漬させて、エポキシ基板中の樹脂をタールに可溶化させ、溶解物を含んだタール(以下、可溶化物と呼ぶ)を得た。なお、可溶化物を得る際、エポキシ基板に使用されている例えば銅配線、金、ガラス繊維等の不溶物は、取り除く。
【0011】
図2は、硫酸0.24%を添加して250℃で再加熱した結果を示す。図2において、横軸は、エポキシ基板(ガラス繊維+エポキシ樹脂)とタールとの重量比を示している。縦軸の可溶化率は、エポキシ基板に含まれる樹脂成分を100とし、このうち、可溶化した樹脂(以下、溶解物とする)の割合を100分率で示した。
図2に示したように、エポキシ基板を反応温度600℃以上で加熱処理して製造したタールにより、150〜350℃と比較的低温でもエポキシ基板中の樹脂を可溶化できることがわかる。なお、比較的高温(800℃)で加熱処理して製造したタールの方が可溶化率は比較的高く、ほぼ100%の樹脂を可溶化し、エポキシ基板を樹脂とガラス繊維に分離できる。また、可溶化の際に、エポキシ基板以外の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂またはバイオマスを添加すると、可溶化物を多く製造することができる。
【0012】
ここで、図2において、タール製造温度(反応温度)800℃の可溶化率を見ると、エポキシ基板/タール比が大きくなると可溶化率が徐々に低下していく傾向がある。即ち、樹脂を可溶化していくと、タールが樹脂を可溶化する能力が低下していく傾向にある。このため、ある程度可溶化率が低下したタールは、全部あるいは一部を新規に作成したタールと交換・補充し、可溶化率を維持する必要がある。
【0013】
新規のタールの作成方法としては、前記と同様に熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂を加熱処理して作成する方法以外に、タール中に可溶化した熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂の溶解物を加熱処理して再度タールを作成する方法が考えられる。溶解物からタールを作成できれば、タールを製造するためだけに熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂またはバイオマスを加熱処理する必要はなく、また可溶化物を有効利用できるメリットがある。
【0014】
可溶化物を反応温度700℃で加熱処理し、液体生成物を得たときの収率を図3に示す。横軸は可溶化物のエポキシ基板とタールの比を示し、例えば0.4の場合は、タール1kgでエポキシ基板0.4kg(エポキシ樹脂0.16kg、ガラス繊維0.24kg)を可溶化処理した後の可溶化物を加熱処理したことを示す。縦軸は、得られた液体生成物と残渣の収率を示す。なお、図3において、符号(a)は液体生成物を、符号(b)は残渣を、符号(c)はガス生成物を夫々示す曲線である。
【0015】
図3より、可溶化物を加熱処理することにより、溶解物からもタールが得られることがわかる。しかしながら、プリント基板を可溶化させた可溶化物ほど、そのタール収率は徐々に低下していく。図3から、(エポキシ基板/タール)比<0.4以下の可溶化物であれば、液体生成物(タール)収率は70%以上であり、図1のプリント基板を700℃で加熱処理したときのタール収率とほぼ同じである。従って、この反応温度の場合は、(エポキシ基板/タール)比<0.6以下程度の可溶化物からタールを製造することが望ましい。
【0016】
なお、例えば、熱分解温度800℃で製造した溶媒(タール)10kgにエポキシ基板樹脂を6kg可溶化処理した場合、エポキシ基板/タール比=6kg/10kg=0.6の時のエポキシ樹脂の可溶化率は図2より95〜100%である。可溶化率95%とした場合、6×0.4×0.95=2.3kgのエポキシ樹脂が溶剤に溶けたことになる。この可溶化物を700℃で加熱処理して、タールを再度製造すると、図3よりエポキシ基板/タール比=0.6の時の液体生成物の収率は約71%なので、2.3kg×0.71=1.6kgのタールが得られることになる。
【0017】
可溶化率を維持することを目的に、タールの全部あるいは一部を新規に作成したタールと交換・補充する場合、交換・補充するタールは、前記プリント基板を加熱処理して得たタール以外に、前記溶解物を加熱処理して得ることも可能である。また、可溶化に必要なタールを多く製造するため、可溶化物に熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂あるいはバイオマスを添加して加熱処理することも可能である。
【0018】
ここで、前記タールが樹脂を可溶化できる理由について、タール中の成分をGC-MASSにより分析し考察をしてみた。エポキシ樹脂を反応温度764℃で加熱処理して得たタールの、GC-MASS分析結果を図4に示す。図4に示すように、タールの成分には、フェノール類、クレゾール類といったフェノール性水酸基含有化合物が含まれていた。今回、芳香族化合物を構成要素中に含むエポキシ樹脂を加熱処理してタールを製造したため、タール中にこれらフェノール性水酸基含有化合物が含まれたと考えられる。また、これらフェノール性水酸基含有化合物が存在することにより、タールが150〜350℃と比較的低温でエポキシ基板中の樹脂を可溶化出来たと推定される。
【0019】
なお、上記実施形態では、触媒として硫酸を用いた場合について述べたが、硫酸の他に硝酸や塩酸等の酸類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ類、三リン酸カリウムなどのリン酸塩類、およびリチウムアミド、N,N−ジメチルアミノ−4−ピリジン等のアミン類が有効であった。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂を、溶媒としてタールを用い可溶化処理して可溶化物を得る工程と、
前記可溶化物を熱分解して液体生成物を得る工程と、
前記液体生成物を蒸留してタールを生成する工程と、
生成したタールを、熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂の溶媒として循環的に使用する
ことを特徴とする樹脂の処理方法。
【請求項2】
熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂を初回に可溶化処理する際に溶媒として用いるタールは、熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂又はその溶解物を熱分解して液体生成物を得て、前記液体生成物を蒸留して生成したタールであることを特徴とする請求項1記載の樹脂の処理方法。
【請求項3】
前記タールは、フェノール性水酸基含有化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂の処理方法。
【請求項4】
前記タールの一部として、バイオマス由来のタールを補給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の樹脂の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−53256(P2013−53256A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193377(P2011−193377)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】