説明

樹脂ガラス用ポリウレタン接着剤組成物

【課題】難接着な被着体に対して下地処理を行うことなくガラス被着体を接着させることができ、常温で硬化後においても優れた接着性を有する樹脂ガラス用ポリウレタン接着剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂ガラス用ポリウレタン接着剤組成物は、数平均分子量1000〜7000のポリエーテルトリオールとポリエーテルジオールとの混合物に4,4’−MDIをNCO基/OH基が1.1〜2.5で反応させて得られるウレタンプレポリマーを含む予備組成物と、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシランとHDIのビウレット体とをNCO基/NH基が1.5/1.0〜9.0/1.0で付加させて得られる接着付与剤Aと、有機錫化合物とを含み、接着付与剤Aをウレタンプレポリマー100質量部に対して2〜10質量部含有し、有機錫化合物をウレタンプレポリマー100質量部に対して0.001〜0.5質量部含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂ガラス用ポリウレタン接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、湿気硬化を利用した各種のポリウレタン樹脂組成物は、シーリング材、接着剤等として自動車、建築など多方面で広く用いられている。特に、このようなポリウレタン樹脂組成物は、例えば車両の製造における車体への窓ガラスの取り付け等、塗装された被着体にガラス被着体を接着するための接着剤として用いる場合、一般に、接着剤の塗布に先だって、1種又は2種以上のシランの溶液を含む異なるプライマーが塗装された被着体やガラス被着体に塗布される。
【0003】
例えば、車両を組立てる操作において、フロントウィンドウ、リアウィンドウなどの窓ガラスを車両に接着させる際、1種または2種以上のシランの溶液を含む異なるプライマーは接着剤を窓ガラスに塗布する前に窓ガラスに塗布されている。そして、プライマー処理された窓ガラスに接着剤を塗布した後、窓ガラスを車両に取り付ける。
【0004】
車両を組立てる操作において車体側へのプライマーの塗布は、ほとんどの場合に手作業で行っているが、プライマーに含まれる溶媒は揮発性有機溶媒(VOC)であったため、VOCが組立ラインの作業員に与える影響、環境への影響等の観点からVOCの削減が求められていた。また、作業場においてプライマーが塗布すべき部分以外に付着した場合には、組立ラインの作業員は余分な化学薬品に晒され、その補修に余分な手間と費用を要するため、望ましくない。そのため、塗装された被着体にプライマーを用いることなくガラス被着体を接着させることが可能な一液湿気硬化型ウレタン組成物の要求があった。
【0005】
また、有機系の樹脂ガラスが、軽量化のために、使用されているが、樹脂ガラスはヌレが悪く非常に難接着な被着体であり、従来のポリウレタン樹脂組成物ではこうした難接着な被着体に対する接着性については検討されていなかった。そのため、従来の一液湿気硬化型ポリウレタン樹脂組成物ではこうした難接着な被着体に対して被着体を安定して接着させるためには、プライマー層を形成する必要がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−323214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため、塗装された被着体など難接着な被着体に対してプライマー層を形成する下地処理を行うことなく、常温で硬化後でも加熱処理することなく安定して高い接着性を有することができる樹脂ガラス用ポリウレタン接着剤組成物の出現が切望されている。
【0008】
本発明は、前記問題に鑑み、難接着な被着体に対して下地処理を行うことなくガラス被着体を接着させることができ、常温で硬化後においても優れた接着性を有する樹脂ガラス用ポリウレタン接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を解決すべく一液湿気硬化型ポリウレタン接着剤組成物の難接着な被着体に対する接着性について鋭意研究を行った。その結果、ポリエーテルトリオールとポリエーテルジオールとの混合物に4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートをソシアネート基/水酸基(NCO基/OH基)を所定の範囲内で反応させたウレタンプレポリマーを含む予備組成物と、特定の接着付与剤Aと、有機錫化合物とを含む組成物において、接着付与剤Aと有機錫化合物との各々の含有量を特定の関係にすると、難接着な被着体に対してプライマー処理等を行わなくても優れた接着性を有することができる樹脂ガラス用ポリウレタン接着剤組成物を提供することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、上記知見を基になされたものであり、以下の(1)を提供する。
(1) 数平均分子量が1000以上7000以下のポリエーテルトリオールとポリエーテルジオールとの混合物に4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートをイソシアネート基と水酸基との当量比が1.1以上2.5以下の範囲内で反応させて得られるウレタンプレポリマーを含む予備組成物と、
3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシランとヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体とをイソシアネート基とアミノ基との当量比が1.5/1.0以上9.0/1.0以下の範囲内で付加させて得られる接着付与剤Aと、
有機錫化合物と、を含み、
前記接着付与剤Aの含有量が前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して2質量部以上10質量部以下であり、
前記有機錫化合物の含有量が前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して0.001質量部以上0.5質量部以下であることを特徴とする樹脂ガラス用ポリウレタン接着剤組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、難接着な被着体に対して下地処理を行うことなくガラス被着体を接着させることができ、常温で硬化後においても優れた接着性を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明について詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0013】
本実施形態に係る樹脂ガラス用ポリウレタン接着剤組成物(以下、「本実施形態の組成物」という。)は、数平均分子量が1000以上7000以下のポリエーテルトリオールとポリエーテルジオールとの混合物に4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートをイソシアネート基と水酸基との当量比が1.1以上2.5以下の範囲内で反応させて得られるウレタンプレポリマーを含む予備組成物と、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシランとヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体とをイソシアネート基とアミノ基との当量比が1.5/1.0以上9.0/1.0以下の範囲内で付加させて得られる接着付与剤Aと、有機錫化合物と、を含み、前記接着付与剤Aの含有量が前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して2質量部以上10質量部以下であり、前記有機錫化合物の含有量が前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して0.001質量部以上0.5質量部以下であることを特徴とする。
【0014】
<予備組成物>
(ウレタンプレポリマー)
本実施形態の組成物に含有される予備組成物に配合されるウレタンプレポリマー(以下、「本実施形態に用いられるウレタンプレポリマー」ともいう。)は、数平均分子量が1000以上7000以下のポリエーテルトリオールとポリエーテルジオールとの混合物に、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートをイソシアネート基と水酸基との当量比(NCO基/OH基)が1.1以上2.5以下の範囲内で反応させて得られるものである。
【0015】
本実施形態に用いられるウレタンプレポリマーを合成するのに用いるポリエーテルトリオール(以下、「本実施形態に用いられるポリエーテルトリオール」ともいう。)は、数平均分子量が1000〜7000である。得られる本実施形態の組成物の粘度および組成物の硬化物の物性に優れるという点から、好ましくは、2000〜5000である。
【0016】
上記ポリエーテルトリオールは、具体的には、例えば、ポリオキシプロピレントリオール、ポリオキシエチレントリオール、ポリテトラメチレントリオール、ポリエチレントリオール、ポリプロピレントリオール、ポリオキシブチレントリオール等が挙げられる。これらの中でも、物性と費用のバランスの観点から、ポリオキシプロピレントリオールおよびポリオキシエチレントリオールが好ましい。本実施形態に用いられるポリエーテルトリオールは、上記ポリエーテルトリオールを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
本実施形態に用いられるウレタンプレポリマーを合成するのに用いるポリエーテルジオール(以下、「本実施形態に用いられるポリエーテルジオール」ともいう。)は、数平均分子量が1000〜7000である。得られる本実施形態の組成物の粘度および組成物の硬化物の物性に優れるという点から、好ましくは、2000〜5000である。
【0018】
上記ポリエーテルジオールは、具体的には、例えば、ポリプロピレンエーテルジオール、ポリエチレンエーテルジオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシブチレングリコール等が挙げられる。これらの中でも、物性と費用のバランスが良好である点から、ポリプロピレンエーテルジオール、ポリエチレンエーテルジオールが好ましい。本実施形態に用いられるポリエーテルジオールには、上記ポリエーテルジオールを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
本実施形態に用いられるウレタンプレポリマーを合成する際に用いられポリイソシアネート化合物は、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’−MDI)である。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、TDI(例えば、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI))、MDI(例えば、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート(2,2’−MDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’−MDI)、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’−MDI))、1,4−フェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート等のような芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、リジンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアナートメチル(NBDI)、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネートのような脂肪族ポリイソシアネート;トランスシクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)のような脂環式ポリイソシアネート;これらのカルボジイミド変性ポリイソシアネート;これらのイソシアヌレート変性ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0020】
上記ポリイソシアネート化合物の中でも、入手し易く、安価であるという観点から、本実施形態に用いられるウレタンプレポリマーを合成する際に用いられポリイソシアネート化合物としては、4,4’−MDIが用いられる。
【0021】
本実施形態に用いられるウレタンプレポリマーを製造する際のポリエーテルトリオールとポリエーテルジオールとの混合物と4,4’−MDIとの量は、4,4’−MDIのNCO基と上記混合物のOH基の当量比(NCO基/OH基)が1.1以上2.5以下の範囲内となるように混合させて行い、より好ましくは1.5以上2.2以下であり、より好ましくは1.5以上2.0以下である。NCO基/OH基とは、ポリオール化合物中の水酸基1個あたりのポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基の比(当量比)をいう。当量比がこのような範囲である場合、得られるウレタンプレポリマーの粘度が適当となり、組成物がより発泡しにくくなる。NCO基/OH基がこの範囲であれば、得られる本実施形態の組成物の接着性、架橋密度が良好となり、得られるウレタンプレポリマーの粘度が適当となり、硬化物がより発泡しにくくなり、硬化物が脆くならないため好ましい。
【0022】
本実施形態に用いられるウレタンプレポリマーは、その製造について特に制限されない。例えば、ウレタンプレポリマーは、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを混合し脱水した後、溶融した4,4’−MDIを4,4’−MDIのNCO基と上記混合物のOH基の当量比が上述の範囲内になる量を加え、窒素置換中撹拌して得ることができる。
【0023】
本実施形態の組成物に含有される予備組成物(以下、「本実施形態に用いられる予備組成物」ともいう。)は、上記ウレタンプレポリマーの他に、充填剤、可塑剤などを含んでもよい。
【0024】
本実施形態に用いられる予備組成物に配合される充填剤は、特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、カーボンブラック、ホワイトカーボン、シリカ、ガラス、カオリン、タルク(ケイ酸マグネシウム)、フュームドシリカ、沈降性シリカ、無水ケイ酸、含水ケイ酸、クレー、焼成クレー、ガラス、ベントナイト、ガラス繊維、石綿、ガラスフィラメント、粉砕石英、ケイソウ土、ケイ酸アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、あるいはこれらの表面処理品等の無機質充填剤;カーボネート類、有機ベントナイト、ハイスチレン樹脂、クマロン−インデン樹脂、フェノール樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、変性メラミン樹脂、環化ゴム、リグニン、エボナイト粉末、セラック、コルク粉末、骨粉、木粉、セルローズパウダー、ココナッツ椰子がら、木材パルプ等の有機質充填剤;ランプブラック、チタンホワイト、ベンガラ、チタンイエロー、亜鉛華、鉛丹、コバルトブルー、鉄黒、アルミ粉等の無機顔料およびネオザボンブラック RE、ネオブラック RE、オラゾールブラック CN、オラゾールブラック Ba(いずれもチバ・ガイギー社製)、スピロンブルー2BH(保土ヶ谷化学社製)等の有機顔料等が挙げられる。中でも、所望の特性を付与するために、カーボンブラックと炭酸カルシウムを用いることが好ましい。これらのカーボンブラックおよび炭酸カルシウムとしては、特に限定されず、通常市販されているものを用いることができる。例えば、カーボンブラックは、米国材料試験協会規格における、N110、N220、N330、N550、N770等あるいはこれらの混合物が挙げられ、炭酸カルシウムは、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム等が挙げられる。中でも、得られる本実施形態の組成物に深部硬化性を付与できる観点から、重質炭酸カルシウムが好ましい。これらの充填剤は、1種単独でも2種以上を併用しても使用することができる。
【0025】
上記カーボンブラックの配合量は、得られる本実施形態の組成物が十分な機械的強度を有し、取扱い性に優れた粘度、チクソ性を付与できる点で、上記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、10〜100質量部であることが好ましい。この特性により優れる点で、20〜90質量部がより好ましい。
【0026】
上記炭酸カルシウムの配合量は、得られる本実施形態の組成物の深部硬化性が良好である点で、上記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、2質量部以上30質量部以下であることが好ましい。この特性により優れる点で、3質量部以上20質量部以下がより好ましい。
【0027】
本実施形態に用いられる予備組成物に配合される可塑剤は、特に限定されないが、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル等のフタル酸誘導体、テトラヒドロフタル酸、アゼライン酸、マレイン酸、トリメリット酸、イソフタル酸、アジピン酸、イタコン酸、クエン酸等の誘導体等が挙げられる。
【0028】
上記可塑剤の配合量は、得られる本実施形態の組成物が適度な柔軟性を有し、また、取扱い性に優れた粘度を有する観点から、上記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、3質量部以上40質量部以下であることが好ましい。この特性により優れる点で、5質量部以上30質量部以下がより好ましい。
【0029】
本実施形態に用いられる予備組成物の製造方法は、特に限定されず、各成分の配合量も本実施形態の目的を逸脱しない範囲であれば、特に限定されず、ウレタンプレポリマー、充填剤、可塑剤などを加えて、減圧下で撹拌して本実施形態に用いられる予備組成物を得ることができる。
【0030】
<接着付与剤A>
接着付与剤Aは、下記式(a)で表される構造を有する3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシランと下記式(b)で表される構造を有するヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体(HDIのビウレット体)との反応物であるイソシアネートシラン化合物である。接着付与剤Aは、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシランとHDIのビウレット体とを、イソシアネート基/アミノ基(NCO基/NH基)が1.5/1.0以上9.0/1.0以下の範囲内で付加させて得られる。NCO基/NH基とは、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン中のアミノ基1個あたりのHDI中のイソシアネート基の比をいう。
【0031】
【化1】

【0032】
【化2】

【0033】
NCO基/NH基は、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシランとHDIのビウレット体とを1.5/1.0以上9.0/1.0以下の範囲内となるように反応させているが、好ましくは1.5/1.0〜6.0/1.0であり、より好ましくは3.0/1.0〜6.0/1.0である。NCO基/NH基が上記範囲内であれば、接着付与剤Aの接着性は十分に発揮される。また、このとき、未反応のHDIのビウレット体が残っていてもよい。
【0034】
接着付与剤Aの含有量は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して2質量部以上10質量部以下であることが好ましく、より好ましくは3質量部以上8質量部以下であり、更に好ましくは5質量部以上8質量部以下である。
【0035】
また、接着付与剤Aの平均分子量は、600〜2000であることが好ましく、600〜1800であることがより好ましく、600〜1500であることが更に好ましい。
【0036】
接着付与剤Aの製造は、通常のポリウレタンの製造と同様の方法で行うことができ、例えば、上述の当量比の3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシランとHDIのビウレット体とを、常温で攪拌することによって行うことができる。また、必要に応じて、後述の有機錫化合物、有機ビスマス、アミン等のウレタン化触媒などを用いることもできる。
【0037】
<有機錫化合物>
本実施形態の組成物に含有される有機錫化合物は、ウレタンプレポリマーのイソシアネート基と被着体表面の活性水素との反応を触媒するので、本実施形態の組成物は、難接着性塗板等の種々の被着体との接着性に優れる。
【0038】
有機錫化合物の含有量は、上記予備組成物100質量部に対して0.001質量部以上0.5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.0010質量部以上0.05質量部以下であり、更に好ましくは0.002質量部以上0.03質量部以下である。有機錫化合物の含有量が上記範囲内であると、難接着性塗板等の種々の被着体との接着性に優れる。
【0039】
本実施形態の組成物に含有される有機錫化合物は、有機基を有する化合物であれば特に制限されないが、例えば、オクチル酸錫、ナフテン酸錫等の2価の錫のカルボン酸塩、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジウラレート、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエート、第一錫オクテート、ジブチル錫ジアセチルアセトネート、ジオクチル錫マレエートジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫ベンゾエート、ジブチル錫メルカプチド、ジブチル錫チオカルボキシレート、ジオクチル錫メルカプチド、ジオクチル錫チオカルボキシレート等の4価の錫のカルボン酸塩、ジブチル錫オキサイドとフタル酸エステルとの反応物;ジブチル錫ジアセチルアセトナート等が挙げられる。これらの有機錫化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を併用しても良い。これらの中でも、難接着性塗板等への接着性に優れるという点から、ジオクチル錫ジラウレートが好ましい。
【0040】
本実施形態の組成物に含有される有機錫化合物には、上記有機錫化合物を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
<有機溶媒>
本実施形態の組成物は、上記成分の他に、調製の容易性、塗布工程の作業性を改善するため、有機溶媒を含有することができる。有機溶媒としては、上記成分に対して不活性であり、かつ、適度な揮発性を有するものであれば特に限定されない。有機溶媒としては、具体的には、例えば、メチルエチルケトン、ジメチルアセトアミド、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ミネラルスピリット、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、イソヘキサン、メチレンクロリド、テトラヒドロフラン、エチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。これらの有機溶媒のなかでも、トルエン、ミネラルスピリット、メチルエチルケトンが好ましい。これらの有機溶媒は、十分に乾燥してから用いることが好ましい。本実施形態の組成物には、上記有機溶媒を1種用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。また、上記有機溶媒はVOC削減の観点から用いなくてもよい。
【0042】
本実施形態の組成物は、ウレタンプレポリマーと、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシランとHDIのビウレット体をNCO/NH=3/1の比で付加させた接着付与剤Aと、有機錫化合物以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、有機溶媒以外に他の添加剤を含有することができる。他の添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、増粘剤、安定剤、補強剤、硬化触媒、可塑剤、分散剤、溶剤、酸化防止剤、老化防止剤、顔料、チクソトロピー付与剤、染料、帯電防止剤、難燃剤、接着付与剤、分散剤等が挙げられる。
【0043】
紫外線吸収剤としては、例えば、サイアソルブ(Cyasorb UV24Light Absorber、アメリカン・サイアナミド社製)、ウビヌル(Uvinul D−49、D−50、N−35、N−539、ジェネラル・アニリン社製)等が挙げられる。これらは、紫外線や可視光線を遮蔽または吸収し耐光性の向上に有効である。安定剤としては、例えば、マロン酸ジエチル等が挙げられる。
【0044】
本実施形態の組成物の製造方法は、特に限定されないが、具体的には、例えば、上記予備組成物に、上記化合物(A)を有機溶媒に溶かして加え、さらに上記有機錫化合物を加えて、減圧下で十分混練して本実施形態の組成物である一液湿気硬化型ウレタン組成物とするのが好ましい。
【0045】
このように、本実施形態の組成物は、ウレタンプレポリマーを含む予備組成物と、上記化合物(A)と、有機錫化合物とを、上述の範囲で含有することにより、有機系の樹脂ガラス、ハイソリッド塗料、耐酸性雨塗料、イージーメンテナンス塗料で塗装された難接着の塗板等のヌレが悪く非常に難接着な被着体に対して下地処理を行うことなく樹脂ガラス被着体を接着させることができ、常温で硬化後においても優れた接着性を有することができる。
【0046】
すなわち、近年の技術革新、材料等の最適化、製造工程の簡素化、短縮化等により、一液湿気硬化型ウレタン組成物に要求される特性等も高度化する現状にあり、従来の一液湿気硬化型ウレタン組成物では、上記のような難接着な被着体に対してプライマーを形成することなく接着性を高い水準で満たすものはなく、様々な被着体に対する接着性の更なる改善が求められている。この点、本実施形態の組成物は、難接着な被着体に対してプライマーを形成していなくても優れた接着性を有する。このため、実施形態の組成物は、自動車の塗装及びガラスに接着するための接着剤として用いることができ、プライマーを使用することなく車両に窓ガラスを接着でき、安定して強い接着力を示す接着剤として用いることができる。
【0047】
本実施形態の組成物は、その用途、適用条件等は、特に限定されないが、上述のような優れた特性を有することから、車体と窓ガラスとを接着するために用いる接着剤等の自動車の分野の他に、ハイソリッド塗料、耐酸性雨塗料、イージーメンテナンス塗料等で塗装されたいわゆる難接着性塗板の接着剤等として好適に用いられる。
【実施例】
【0048】
以下、本実施形態の組成物を実施例により具体的に説明する。ただし、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0049】
<ウレタンプレポリマーの合成>
ポリエーテルトリオールであるポリオキシプロピレントリオール(商品名:エクセノール5030、数平均分子量約5000、旭硝子社製)750gと、ポリエーテルジオールであるポリオキシプロピレンジオール(商品名:エクセノール2020、数平均分子量約2000、旭硝子社製)とを質量比70/30で混合し、混合物を120℃で減圧下脱水後、溶融した4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(商品名:アイソネート125M、三井武田ウレタン社製)を4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのNCO基と上記混合物のOH基の当量比が1.7になる量を加え、窒素置換中80℃で24時間混合撹拌後、ウレタンプレポリマーを得た。得られたウレタンプレポリマーのNCO基の含有量は、ウレタンプレポリマー全量中、1.1質量%であった。
【0050】
<予備組成物の調整>
このようにして得られたウレタンプレポリマーに、可塑剤、カーボンブラック、炭酸カルシウム、モルホリン系触媒を各々表1に示す量を添加し真空下でミキサーを用いて1時間混合し、予備組成物を得た。
【0051】
<接着付与剤Aの合成>
HDIのビウレット体(商品名:D165N、NCO基:23.4質量%、武田薬品社製)100gを撹拌しながら、N2気流中でNCO基/NH基が3/1となるように、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン(商品名:Y9669、日本ユニカー社製)26gをHDIのビウレット体に滴下しながら反応させることで接着付与剤A(平均分子量:720、NCO基:12.1質量%)を得た。
<接着付与剤B〜Dの合成>
接着付与剤Aと同様に、HDIのビウレット体と3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシランとを、NCO基/NH基が、1.5/1.0、6.0/1.0、9.0/1.0となるようにして接着付与剤B〜Dを合成した。
【0052】
<一液湿気硬化型ウレタン組成物の作製>
表1に示す各成分を同表に示す添加量(質量部)で配合し、これらを均一に混合して、表1に示される各一液湿気硬化型ウレタン組成物を作製した。各々の実施例、比較例における各成分の添加量(質量部)を表1に示す。
【0053】
<評価>
得られた各一液湿気硬化型ウレタン組成物の接着性、対発泡性を下記の方法に従って、評価した。結果を表1に示す。
【0054】
<難接着基板に対する接着性>
シロキサン樹脂が塗布された樹脂ガラスにプライマーを用いず直接一液湿気硬化型ウレタン組成物を3mm厚で塗布し試験体とした。この試験体を、20℃±2℃、60RH%±10RH%の雰囲気下で168時間放置させた。この試験体に形成された一液湿気硬化型ウレタン組成物の硬化物の一端を把持して180度剥離し、破壊状態を観察した。硬化物の凝集破壊をCF(数値は、該硬化物を剥離した部分の面積に対する硬化物の凝集破壊が起きた面積(%))、塗板/硬化物間の界面剥離をAF(数値は、該硬化物を剥離した部分の面積に対する塗板/硬化物間の界面剥離が起きた面積(%))とした。結果を表1に示す。
【0055】
<耐発泡性>
樹脂ガラスに塗布した一液湿気硬化型ウレタン組成物の硬化物を剥離した後の内部の空孔の状態を観察した。一液湿気硬化型ウレタン組成物が硬化する際に反応によりCO2が発生するが、CO2に起因して硬化物の内部に空隙を生じる虞がある。硬化物の内部に空隙が多いほど、硬化物は樹脂ガラスに対して十分な接着面積を有しないことになるため、接着強度が低下することになる。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示されている各成分は、以下のとおりである。
・可塑剤:フタル酸ジイソノニル(DINP)、三菱化学社製
・カーボンブラック:エルフテック8、キャボット社製
・炭酸カルシウム:重質炭酸カルシウム、商品名「SB青」、白石カルシウム社製
・モルホリン系触媒:U−CAT 660M、サンアプロ社製
・有機錫触媒:ネオスタンU−810、日東化成工業社製
・有機ビスマス触媒:ネオスタンU−600、日東化成工業社製
【0058】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜9の一液湿気硬化型ウレタン組成物の硬化物は、シロキサン樹脂が塗布された樹脂ガラスに対して全て凝集破壊(CF)となり、高い接着性を有した。また、硬化物の内部に硬化時に生じたCO2に起因した気泡も観察されず、耐発泡性は良好であった。一方、比較例1〜4の一液湿気硬化型ウレタン組成物の硬化物は、シロキサン樹脂が塗布された樹脂ガラスに対して全て界面破壊(AF)となるか、硬化物の内分に硬化時に生じたCO2に起因した気泡が観察された。よって、比較例1〜4の一液湿気硬化型ウレタン組成物の硬化物はシロキサン樹脂が塗布された樹脂ガラスに対する接着性が不十分か、耐発泡性が不良であった。
【0059】
したがって、ウレタンプレポリマーに、特定の接着付与剤Aと有機錫化合物とを各々所定量含有する組成物は、難接着な被着体に対して下地処理を行わなくてもガラス被着体を接着させることができ、常温で硬化後においても優れた接着性を有することが判明した。
【0060】
以上より、本発明の樹脂ガラス用ポリウレタン接着剤組成物は、プライマーを用いずともガラス、金属、プラスチック、塗装鋼板等との接着性に優れている。したがって、本発明の樹脂ガラス用ポリウレタン接着剤組成物は、車体と窓ガラスとを接着するために用いる接着剤、ハイソリッド塗料、耐酸性雨塗料、イージーメンテナンス塗料等の塗装された難接着な塗板の接着剤等として非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が1000以上7000以下のポリエーテルトリオールとポリエーテルジオールとの混合物に4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートをイソシアネート基と水酸基との当量比が1.1以上2.5以下の範囲内で反応させて得られるウレタンプレポリマーを含む予備組成物と、
3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシランとヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体とをイソシアネート基とアミノ基との当量比が1.5/1.0以上9.0/1.0以下の範囲内で付加させて得られる接着付与剤Aと、
有機錫化合物と、を含み、
前記接着付与剤Aの含有量が前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して2質量部以上10質量部以下であり、
前記有機錫化合物の含有量が前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して0.001質量部以上0.5質量部以下であることを特徴とする樹脂ガラス用ポリウレタン接着剤組成物。

【公開番号】特開2013−95759(P2013−95759A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236485(P2011−236485)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】