説明

樹脂シート、樹脂シートの継手構造及びコンクリート構造物の施工方法並びにコンクリートセグメント及びコンクリート中詰め鋼製セグメント

【課題】コンクリート打設時に継目部分からコンクリート成分が漏れ出すのを防止する。
【解決手段】ライニングシート1は、コンクリート構造物の表面を覆う板部2と、コンクリートに埋設されるリブ部3と、板部の端縁に沿って裏面側に後退するように形成された継目部5と、継目部に除去可能に配置された保護部6を有する。継目部5,5が対向するように一対のシート1を型枠10に配置し、コンクリートを打設する。型枠撤去後にシート1から保護部6を除去し、突き合わせた継目部に密閉シートを配置してシート1に固定する。継目部5,5には保護部6,6があるのでコンクリート打設時にコンクリート成分が漏れ出すことはなく、型枠撤去後のはつり作業は不要である。継目部5にシート1と同材質の密閉シートを設けるので全面について耐久性が均一になり、表面が面一となるのでライニング面の平滑性能が良好で流体の移動が阻害されない。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、コンクリート構造物の表面に添設される樹脂シートと、かかるコンクリート構造物における樹脂シートの継手構造と、かかるコンクリート構造物の施工方法と、互いに連結されてトンネルの内壁を構成するコンクリート中詰め鋼製セグメント等のコンクリートセグメントであって、そのコンクリートの表面が前記樹脂シートで覆われたタイプのコンクリートセグメントに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に下水道施設の汚水処理槽や浄化槽等の構築物は、コンクリート構造である。ところが、この種のコンクリート構造物の内壁面は、その中を流れる流通物より発生するガスや、下水および下水汚泥中の細菌等の影響によって腐食してしまうことがある。そこで従来より、コンクリート構造物の内壁面には、硬質塩化ビニル等の合成樹脂で成形されたライニング板が添設被覆され、コンクリート面の腐食に対する保護を行っている。
【0003】
このようなライニング構造としては、短冊平板状に形成された樹脂シートであるライニング板100が採用されている。図10(a)に示すように、このライニング板100には、一方の面(裏面)に多数のリブ部102が垂直、かつライニング板100の幅方向に等間隔かつ平行となるように、ライニング板100の長手方向に連続して一体に設けられている。そして、それぞれのリブ部102の先端には断面略楕円形状の膨出部102aが形成されている。また、他方の面 (表面)は平坦に形成されている。
【0004】
このライニング板100を、リブ部102がコンクリート103側となるように型枠の内面に沿って配置する。ここで、コンクリート構造物の壁面のサイズが大きい場合やその形状が複雑な場合等には、単一のライニング板ではカバーしきれずに中途で二枚のライニング板を接続して使用しなければならない場合がある。このような場合に隣接する二枚のライニング板100,100の継手構造としては、図10(a)、(b)、(c)に示すような構造が採用されていた。図10(a)は、継目部分に樹脂のシーリング105を設ける構造、図10(b)は、継目部分に別部材のあて板106を重ねて接着剤又は溶接で一体化する構造、図10(c)は、突き合わせた継目部分を溶接する構造(溶接部107)である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来のライニング板の継手構造では、コンクリート打設時にモルタル等のコンクリート成分が継目部分の隙間(目地)からライニング板の表側に漏れ出すことがあった。このため、型枠撤去後に当該隙間(目地)部分に固着したコンクリート成分をはつり取る必要があるという問題があった。
【0006】
また、特に図10(a)の継手構造によれば、通常は現場で使用するシーリング105の樹脂とライニング板100の材質を同一とすることはできず、耐久性が部分的に異なってしまうという問題もある。また、特に図10(b)、(c)の継手構造によれば、継目部分がかなり突出してしまい、水路や側溝の内面をライニングする場合においてはこのこの突出部 (シート106、溶接部107)が流体の移動を阻害したり有害な否を発生させる等の問題を生じる。
【0007】
そこで本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、コンクリート打設時に継目部分からコンクリート成分が漏れ出すのを確実に抑えることができるため、型枠撤去後のはつり作業が不要であり、また継目部分を含む全面について耐久性が均一であり、さらに継目部分に突出部がないために流体の移動を阻害しない樹脂シートと、かかる樹脂シートの継手構造及びかかる樹脂シートを用いたコンクリート構造物の施工方法、かかる樹脂シートを用いたコンクリート中詰め鋼製セグメント等のコンクリートセグメントを提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載された樹脂シートは、コンクリート構造物の表面を覆うための板部と、前記板部の端縁に沿って前記裏面側に向けて後退するように形成された継目部と、コンクリート成分の前記継目部への浸入を防止するために前記継目部に除去可能に配置された保護部とを有している。
【0009】
請求項2に記載された樹脂シートは、請求項1記載の樹脂シートにおいて、前記保護部の一端が前記板部に切断可能に連結され、その前面が前記板部の前面に一致するとともに、その裏面が前記継目部に密着するように構成されていることを特徴としている。
【0010】
請求項3に記載された樹脂シートの継手構造は、コンクリート構造物の表面を覆う板部と、前記板部の端縁に沿い前記裏面側に向けて後退するように形成された継目部とを各々有する一対の樹脂シートを、前記継目部の端縁を突き合わせて配置し、突き合わせた前記端縁を覆って前記継目部に密閉手段を設けて前記樹脂シートに固定したことを特徴としている。
【0011】
請求項4に記載されたコンクリート構造物の施工方法は、一対の請求項1記載の樹脂シートを前記継目部の端縁を突き合わせて型枠の内面に沿って配置し、前記樹脂シートの裏面側にコンクリートを打設し、前記型枠を撤去した後に前記樹脂シートから前記保護部を除去し、突き合わせた前記樹脂シートの端縁を覆って前記継目部に密閉手段を設けて前記樹脂シートに固定することを特徴としている。
【0012】
請求項5に記載されたコンクリートセグメントは、コンクリート躯体を有し、複数個が組み合わされて一の構造物を構成するコンクリートセグメントである。そして、その特徴は、前記コンクリート躯体の一表面を覆うための板部と、前記板部の端縁に沿って前記コンクリート躯体側に後退するように前記板部に連続して形成された継目部と、隣接する前記コンクリートセグメントとの隙間から流動体が前記継目部へ浸入するのを防止するために前記継目部に除去可能に配置された保護部とを有する樹脂シートを、前記コンクリート躯体の一表面に設けた点にある。
【0013】
請求項6に記載されたコンクリート中詰め鋼製セグメントは、内面側が開放された湾曲した鋼殻の内部にコンクリートが充填されてなり、互いに連結されてトンネルの内面に設けられることにより、該トンネルの内壁を構成するコンクリート中詰め鋼製セグメントである。そして、その特徴は、前記コンクリートの表面を覆うための板部と、前記板部の端縁に沿って前記トンネルの内面側に向けて後退するように前記板部に連続して形成された継目部と、前記トンネルの内壁と前記鋼殻の間に充填される充填材が前記継目部へ浸入するのを防止するために前記継目部に除去可能に配置された保護部とを有する樹脂シートを、前記コンクリートの表面に設けた点にある。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図1〜図4を参照して説明する。
本例のコンクリート構造物に用いられるライニングシート1(被覆用樹脂シート)の構造を図1を参照して説明する。このライニングシート1は、コンクリート構造物の表面を覆うための板部2を基体として備えている。このライニングシート1は、全体として一体に成形されており、その材質は用途に応じて要求されるコンクリートの防食性能、平滑性能、耐摩耗性能等を満足するために種々の樹脂材料等が採用可能である。本例では、特に高密度ポリエチレンを採用することにより、前記各性能とともにリサイクルも可能としている。
【0015】
この板部2の裏面には、前記コンクリート構造物に埋設されるリブ部3が一体に設けられている。リブ部3は、板部2に対して垂直であり、等間隔で互いに平行となるように複数本が列設されている。そして、リブ部3の先端には断面略円形乃至楕円形の膨出部4が一体に設けられており、コンクリート構造物に埋設された際の固着強度を高めている。
【0016】
板部2と板部2を接続するために継手構造が必要になる板部2の一又は二以上の端縁に沿って、継目部5が連続して板部2と一体に設けられている。この継目部5は、板部2の裏面側(コンクリートが打設される側)に向けて後退するように形成された段部である。即ち、この継目部5は板部2の表面に対して奥に凹んでいる。継目部5の段部の深さは、本例では板部2の厚さよりも若干大きい程度に設定されている。
【0017】
前記継目部5には、コンクリート成分が継目部5へ浸入するのを防止するための樹脂シートである保護部6が設けられている。保護部6の厚さは、継目部5の深さに相当し、その長さ(図1において紙面垂直方向の寸法)は、前記継目部5の長手方向の寸法と同等である。従って、継目部5内に配置された保護部6は、その裏面を前記継目部5の表面に密着させると、その表面は前記板部2の表面に一致することとなる。そして、保護部6の一端縁は、相対的に肉薄の連結部7を介して板部2(継目部5との境界部)に接続されている。この連結部7は肉薄なのでカッター等により容易に切り離して除去することができる。継目部5の表面に当接する保護部6の裏面側には、保護部6の長手方向に平行に複数本の溝8が適当な間隔をおいて形成されているので、保護部6は継目部5の表面に対して密着しやすくなる。
【0018】
次に、以上説明した構造のライニングシート1を用いて行なうコンクリート構造物の施工方法について説明する。
図1に示すように、コンクリート構造物を製造するための型枠10,11を組み立て、コンクリート構造物の被覆しようとする側の面に相当する型枠10の内面に、前記ライニングシート1を取り付ける。即ち、板部2の表面を型枠10の内面に接触させ、リブ部3を内方に向ける。保護部6は、凹んだ継目部5と型枠10の間に挟まれて継目部5の段部の空間の大部分を占め、継目部5の表面に密着する。
【0019】
コンクリート構造物を被覆する前記ライニングシート1の継手部分は、次のような構造とする。即ち、型枠10に沿って隣接して設けられる一対のライニングシート1,1は、図1R>1に示すように前記継目部5の端縁が互いに突き合わせられた状態となるように配置する。
【0020】
ここで型枠10,11内にコンクリート15を打設する。隣接する二枚のライニングシート1,1の対向する継目部5,5の端縁は、突き合わされて配置されてはいるが、若干の隙間が生じる場合があるので、この隙間からモルタル等のコンクリートの成分が継目部5内に漏れることは避けられない。しかし、本例の継手構造によれば、継目部5内の空間の大半は保護部6,6によって占められており、しかも保護部6は継目部5に密着しているので漏洩物が保護部6と継目部5の間を越えて広がることはなく、漏洩は最小限に抑えられる。
【0021】
打設したコンクリート15を養生した後、型枠10,11を撤去する。そして、ライニングシート1の表面側から連結部7を切断し、保護部6を継目部5から除去する。継目部5の漏洩物は少ないので、従来と異なり、漏洩物の除去のためにはつり作業を行なう必要はない。これで図2に図示する構造が得られる。
【0022】
次に、図3に示すように、突き合せた一対の継目部5の端縁を覆って密閉手段としての密閉シート20を配置する。密閉シート20の厚さは継目部5の深さと略等しく、その外形は突き合せた一対の継目部5,5の形状と略等しい。材質はライニングシート1と同じとする。そして、密閉シート20の周囲と継目部5の間を溶接して両者を一体化し、突き合せた一対の継目部5,5の間を完全に密閉する。なお、密閉シート20の継目部5に対する固定は溶接だけでなく、接着等の手法によってもよい。
【0023】
本例では、突き合せた一対の継目部5の端縁を覆う密閉手段として密閉シート20を配置したが、密閉手段はシート状の部材でなくてもよい。例えば、図4に示す変形例のように、加熱して溶解したポリエチレン樹脂等のような高粘性の流体である密閉材料21を継目部5の凹部に流し込み、除冷して固化・密着させることにより、継目部5を覆う密閉手段を構成してもよい。このように流動性のある密閉材料21を用いれば、継目部5内の空間を隙間無く充填して継目部5に高い密閉性を与えることができ、密閉シート20を用いる場合のように溶接する必要もない。
【0024】
以上のように構築されたコンクリート構造物によれば、製造時には突き合わせた継目部5,5に後で除去容易な保護部6,6を設けてコンクリート打設時に継手部分からコンクリート成分が漏れ出すのを確実に抑えることができるため、型枠撤去後のはつり作業が不要となり、従来に比べてコストの低減が図れる。また、このようにして得られたライニングシート1の継手構造によれば、凹段形状の継目部5に表面が面一となるように同材質の密閉シート20 (又は密閉材料21)を設けて固定するので、継手部分を含むライニング面の全面について均一な耐久性を得ることができ、さらに継手部分に突出部がないために平滑性能に優れ、流体の移動を阻害することがない。
【0025】
以上説明した例は、コンクリート構造物の壁面等を複数枚のライニングシート1で被覆する際のライニングシート1,1間の継手構造を示すものであるが、本発明はこのようにコンクリート構造物を構築する際に同時にライニングシートの継手構造が形成される場合にのみ適用されるものではない。
【0026】
例えば、本発明は、プレキャストされた単位体を連結して設置し使用する場合、例えば側溝やボックスカルバート、管類等についても適用可能である。その場合には、前記ライニングシート1の継目部5が各側溝・管類等の接続端となるように構成し、側溝・管類等を接続する際に前述した例のような密閉シート20を用いた継手構造を形成する。
【0027】
次に、本発明を適用した管の継手構造について図5〜図7を参照して説明する。図5に示すように、このコンクリート管25 (以下管25と呼ぶ)は、一端部には階段状に縮径された差し込み部26が形成され、他端部にはフランジを有する受け部27が形成されているものである。
【0028】
管25の内面には全周にわたって前記ライニングシート1が添設されており、両端部には前記継目部5が配置されている。この管25,25を接続して管路として設置する場合には、差し込み部26を受け部27にパッキン28を介して差し込む。管25の内面が面一となるように同材質の密閉シート20を継目部5,5に設けて、管25,25の隙間を覆う。そして、密閉シート20とライニングシート1を溶接・接着等の手法により固定する。
【0029】
次に、このような継手構造を端部に有する管の製造工程を図6及び図7を参照して説明する。
図6に示すように、型枠29を組み立て、管の内面側にライニングシート1を配置する。ライニングシート1の構造は第1の例と略同一であるが、本例では管25の端部に継目部5が来るようにする。従って、継目部5は型枠29に突き当てられた状態となり、継目部5内の保護部6は型枠29と継目部5に挟まれた状態となる。
【0030】
ここで、型枠29内にコンクリート15を打設する。継目部5の端縁は、型枠29に突き合わされているので、その隙間は微小であり、モルタル等のコンクリートの成分が継目部5内には漏れにくい。さらに、本例では継目部5の空間の大半は保護部6によって占められており、しかも保護部6は継目部5に密着しているので漏洩物が保護部6と継目部5の間を越えて広がることはなく、漏洩は確実に抑えられる。
【0031】
打設したコンクリート15を養生した後、型枠29を撤去する。そして、ライニングシート1の表面側 (管25の内面側)から連結部7を切断し、保護部6を継目部5から除去する。継目部5の漏洩物は少ないので、従来と異なり、漏洩物の除去のためにはつり作業を行なう必要はない。これで図7に図示する管の差し込み部26側の構造が得られる。管の受け部27側も同様に構成する。
【0032】
この管25を接続して管路として設置する場合には、図5に示すように、差し込み部26を受け部27にパッキン28を介して差し込む。突き合せた一対の継目部5,5の端縁を覆って密閉シート20を配置する。密閉シート20の厚さは継目部5の深さと略等しく、その外形は突き合せた一対の継目部5,5の形状と略等しい。材質はライニングシート1と同じとする。そして、密閉シート20の周囲と継目部5,5の間を溶接し、両者を一体化して突き合せた一対の継目部5,5の間を完全に密閉する。なお、密閉シート20の継目部5に対する固定は溶接だけでなく、接着等の手法によってもよい。もちろん、密閉シート20の代わりに前記密閉材料21を用いても良い。
【0033】
以上のように、本例のライニングシート1を有する管25によれば、製造時には、継目部5に後で除去容易な保護部6を設けてコンクリート打設時に継目部5分からコンクリート成分が漏れ出すのを確実に抑えることができるため、型枠撤去後のはつり作業が不要となり、従来に比べてコストの低減が図れる。また、このような継手部を有する管25を接続する場合には、突き合わされた凹段形状の継目部5,5に表面が面一となるように同材質の密閉シート20 (又は密閉材料21)を設けて固定すれば、継目部を含むライニング面の全面について均一な耐久性を得ることができ、さらに継目部に突出部がないために平滑性能に優れ、管内を流れる流体の移動を阻害することがない。
【0034】
次に、本発明に係るコンクリートセグメントとしてのコンクリート中詰め鋼製セグメントについて図8及び図9を参照して説明する。
ここで、コンクリートセグメントとは、少なくともその一部がコンクリート躯体からなり、複数個を組み合わせて連続した一の構造物を構成する際の構成要素となるものを意味する。特に本例では、各コンクリートセグメントのコンクリート部分に樹脂シートを設け、該コンクリートセグメントを組み立てて構成した構造物のある面が、各コンクリートセグメントの樹脂シートによって覆われた状態となることにより、当該構造物の用途に応じて要求されるコンクリートの防食性能、平滑性能、耐摩耗性能等が満足されるように構成されており、その樹脂シートの継手構造に特徴を有している。
【0035】
図8は、樹脂シートが取り付けられていないコンクリート中詰め鋼製セグメントの斜視図であり、その鋼殻の構造を示すためにコンクリート躯体の一部を省略して示したものである。以下、この図を参照してコンクリート中詰め鋼製セグメントの基本構造を説明する。このコンクリート中詰め鋼製セグメント30は、内面側が開放された湾曲した鋼殻31の内部にコンクリート15を充填してなる部材であり、互いに連結してトンネルの内面に取り付けることにより、該トンネルの内壁を構成する部材である。鋼殻31は、円周面を周方向及び軸方向について複数に分割した所定の厚さを有する略帯状の箱型部材である。細長い扇形の主桁32と同形の中主桁33の組み合わせを2組平行に配置し、これらと直交する方向の両端にそれぞれ端板34を連結し、さらに複数の連結板35と連結ボルト36によって各主桁32及び中主桁33を連結し、枠状のフレームを得る。このフレームの凸面側に周状の外板37が溶接される。なお、主桁32等と外板37との溶接は完全止水溶接であり、水密性に優れている。従って、鋼殻31の外面側(凸側)は外板37の面で閉止され、内面側 (凹側)は開放された状態にある。鋼殻31の外板37の中央部には、桁32,33の高さよりも長い注入管38が外板37を貫通して設けられており、その内端は鋼殻31の内面側 (凹側)よりも内方に達している。鋼殻31の内面側 (凹側)の四隅には、隣接するコンクリート中詰め鋼製セグメント30と連結するための継手部40が設けられている。なお、これらの継手部40には止水材が設けられており、水密性に優れている。
【0036】
前記鋼殻31の内部には、注入管38と継手部40を除きコンクリート15が充填されてコンクリート躯体41が構成されている。コンクリート15の厚さは、主桁32、中主桁33、端板34及び連結板35の高さよりも大きく、コンクリート15は鋼殻31の内面側から盛り上がった状態にある。
【0037】
図9は、前記鋼殻31の内面側に前述した樹脂シートとしてのライニングシート1を設けてなる本例のコンクリート中詰め鋼製セグメント30の断面図であり、特に2つのコンクリート中詰め鋼製セグメント31,31を連結し、その継目を密閉する工程を示している。
【0038】
図9(a)に示すように、本例のコンクリート中詰め鋼製セグメント30は、前記鋼殻31の内面側に前述したライニングシート1を設けており、このライニングシート1はその裏面に設けられた多数のリブ部3がコンクリート15中に埋設・固定されて確実にコンクリート躯体41と一体化している。前述したように、コンクリート15の厚さは、鋼殻31の各鋼板(図示の端板34等)よりも大きいので、隣接する2つのコンクリート中詰め鋼製セグメント30,30をトンネルの内面に組み付けると、ライニングシート1の端面同士は当接する。
【0039】
図示はしないが、複数のコンクリート中詰め鋼製セグメント30を周方向に連結して環状に組立て、これをトンネルの長手方向について適当な数だけ並べて組み立てて該長手方向についても連結し、ある長さにわたってトンネルの内面を覆う円筒状の構造体を構成する。例えば、トンネルを掘削する発進立坑と到達立坑の間を一区間とし、当該区間でトンネルを掘削した後、その内面を上述したように多数のコンクリート中詰め鋼製セグメント30を組み立てて周状の構造物で覆う。
【0040】
コンクリート中詰め鋼製セグメント30をトンネルの内壁に取り付けただけでは、コンクリート中詰め鋼製セグメント30とトンネルの内壁との間には隙間があり、両者は固定されていない。そこで、該隙間を充填すると共にコンクリート中詰め鋼製セグメント30をトンネルの内壁に固定するために、該隙間に充填材を注入する。充填材は、該隙間の充填機能と、コンクリート中詰め鋼製セグメント30とトンネルの内壁との固着機能とを有する材料であり、本例ではグラウト材を採用する。グラウト材は、セメント、水、水ガラス、ベントナイトを含む。グラウト材を該隙間へ注入するには、トンネルの前記区間の両端である発進立坑と到達立坑において、コンクリート中詰め鋼製セグメント30の端部とトンネル内壁の隙間を閉止材で塞ぎ、各コンクリート中詰め鋼製セグメント30の注入管38からグラウト材を注入し、注入後に注入管38を閉止する。
【0041】
上述したグラウト材の注入工程時、隣接する二つのコンクリート中詰め鋼製セグメント30の間には若干の隙間が生じる場合があるので、この隙間からグラウト材が内面側に漏れる場合が考えられる。しかし、本例では、継目部5内の空間の大半は保護部6,6によって占められており、しかも保護部6は継目部5に密着しているので漏洩物が保護部6と継目部5の間を越えて広がることはなく、漏洩は最小限に抑えられる。
【0042】
注入したグラウト材が固化したら発進立坑と到達立坑の閉止材を撤去する。コンクリート中詰め鋼製セグメント30のライニングシート1の表面側から連結部7を切断し、保護部6を継目部5から除去する。継目部5の漏洩物は少ないので、従来と異なり、漏洩物の除去のためにはつり作業を行なう必要はない。これで図9(b)に図示する構造が得られる。
【0043】
次に、図9(c)に示すように、突き合せた一対の継目部5の端縁を覆って密閉手段としての密閉シート20を配置する。密閉シート20の厚さは継目部5の深さと略等しく、その外形は突き合せた一対の継目部5,5の形状と略等しい。材質はライニングシート1と同じとする。そして、密閉シート20の周囲と継目部5の間を溶接して両者を一体化し、突き合せた一対の継目部5,5の間を完全に密閉する。なお、密閉シート20の継目部5に対する固定は溶接だけでなく、接着等の手法によってもよい。もちろん密閉シート20の代わりに密閉材料21を設けても良い。
【0044】
以上の構成によれば、トンネルの内壁にコンクリート中詰め鋼製セグメント30の構造物を設ける際に、トンネル内壁とコンクリート中詰め鋼製セグメント30の間に注入したグラウト材がコンクリート中詰め鋼製セグメント30とコンクリート中詰め鋼製セグメント30の隙間から継目部5,5に漏れ出すことがなく、漏れ出て固化したグラウト材のはつり作業が不要となり、従来に比べてコストの低減が図れる。また、このようにして得られたトンネル内壁の構造物によれば、凹段形状の継目部5に表面が面一となる同材質の密閉シート20 (又は密閉材料21)を設けて固定するので、継手部分を含むトンネルの内面の全面について均一な耐久性を得ることができる。
【0045】
なお、本例のようなコンクリート中詰め鋼製セグメント30を用いたトンネル内壁の覆工によれば、次のような効果も得られる。
コンクリート中詰め鋼製セグメント30は、鋼の優れた強度とコンクリートの圧縮性能を合わせたセグメントであり、鉄筋コンクリート製のセグメントに比べて覆工厚の薄肉化が可能である。これにより、トンネル径の小断面化による掘削機械の外径の縮小や、掘削土量の低減が図れる。また、鋼構造の特質である本体や継手構造の設計自由度が高く、高強度化も容易なことから、用途や地盤条件に合わせ、構造の最適化を実現できる。また、工場内で予めコンクリートを鋼殻に中詰しているので二次覆工を必要とせず、工期の短縮が図れる。また、セグメントの周囲を鋼殻で覆っているため、搬入や組立作業時におけるコンクリートの割れ、欠け等の恐れがなく、施工の迅速化が図れる。
【0046】
【発明の効果】
本発明の樹脂シートによれば、凹状の継目部に除去可能な保護部が設けられているので、この樹脂シートをライニング材としてコンクリート構造物を構築する際に、コンクリート打設時に継目部分からコンクリート成分が漏れ出すのを保護部によって確実に抑えることができるため、型枠撤去後のはつり作業が不要となり、従来に比べてコストの低減が図れる。
【0047】
また、本発明の樹脂シートの継手構造によれば、樹脂シートの凹状の継目部を突き合わせて配置し、継目部に密閉手段を配置して固定するので、凹状の継目部に表面が面一となるように同材質の密閉シートを設けて固定でき、継目部分を含むライニング面の全面について均一な耐久性を得ることができ、さらに継目部分に突出部がないために平滑性能に優れ、流体の移動を阻害することがない。
【0048】
本発明のコンクリート構造物の施工方法によれば、一対の樹脂シートを継目部を突き合わせて型枠の内面に配置し、コンクリート打設後に型枠を撤去してから継目部の保護部を除去し、この継目部に密閉手段を固定する手順なので、継手部分を含むライニング面が面一で均一な耐久性を得ることができ、さらに継目部分に突出部がないために平滑性能に優れ、流体の移動を阻害することがない。
【0049】
本発明のコンクリートセグメントによれば、該セグメントを連結して一の構造物を構成する際、隣接するセグメントの隙間から何らかの流体が漏出するおそれがなく、漏れ出て固化した流体のはつり作業が不要となり、従来に比べてコストの低減が図れる。また、このようにして得られた構造物によれば、継手部分を含むトンネルの内面の全面が平滑であり、均一な耐久性を得ることができる。
【0050】
本発明のコンクリート中詰め鋼製セグメントによれば、トンネルの内壁にコンクリート中詰め鋼製セグメントの構造物を設ける際に、トンネル内壁とコンクリート中詰め鋼製セグメントの間に注入した充填材がコンクリート中詰め鋼製セグメントとコンクリート中詰め鋼製セグメントの隙間から継目部に漏れ出すことがなく、漏れ出て固化した充填材のはつり作業が不要となり、従来に比べてコストの低減が図れる。また、このようにして得られたトンネル内壁の構造物によれば、凹段形状の継目部に表面が面一となる同材質の密閉シートを設けて固定するので、継手部分を含むトンネルの内面の全面が平滑であり、均一な耐久性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るコンクリート構造物の施工方法の一例において、型枠を組んだ状態を示す断面図である。
【図2】本発明に係るコンクリート構造物の施工方法の一例において、コンクリート打設後に型枠を撤去した状態を示す断面図である。
【図3】本発明に係るコンクリート構造物の施工方法の一例において、型枠撤去後に継目部に密閉手段を設けた状態を示す断面図である。
【図4】本発明に係るコンクリート構造物の施工方法の一例において、型枠撤去後に継目部に密閉手段を設けた状態の変形例を示す断面図である。
【図5】本発明に係るコンクリート構造物の他の例であるコンクリート管の継手部分の構造を示す部分拡大断面図である。
【図6】本発明に係るコンクリート構造物の他の例であるコンクリート管の製造工程において、型枠を組んだ状態を示す断面図である。
【図7】本発明に係るコンクリート構造物の他の例であるコンクリート管の製造工程において、コンクリート打設後に型枠を撤去した状態を示す断面図である。
【図8】ライニングシートが取り付けられていないコンクリート中詰め鋼製セグメントの斜視図である。
【図9】鋼殻の内面側にライニングシートを設けてなる本例に係るコンクリート中詰め鋼製セグメントの断面図であり、特に2つのコンクリート中詰め鋼製セグメントを連結し、その継目を密閉する工程を示す図である。
【図10】(a)〜(c)は、それぞれ従来のコンクリート構造物におけるライニング材の継手構造を示す断面図である。
【符号の説明】
1…樹脂シートとしてのライニングシート、2…板部、3…リブ部、4…膨出部、5…継目部、6…保護部、7…連結部、8…溝、10,11,29…型枠、15…コンクリート、20…密閉手段としての密閉シート、21…密閉手段としての密閉材料、25…コンクリート管 (管)、30…コンクリートセグメントとしてのコンクリート中詰め鋼製セグメント、41…コンクリート躯体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の表面を覆うための板部と、前記板部の端縁に沿って前記裏面側に向けて後退するように形成された継目部と、コンクリート成分の前記継目部への浸入を防止するために前記継目部に除去可能に配置された保護部とを有する樹脂シート。
【請求項2】
前記保護部は、その一端が前記板部に切断可能に連結され、その前面が前記板部の前面に一致するとともに、その裏面が前記継目部に密着するように構成されている請求項1記載の樹脂シート。
【請求項3】
コンクリート構造物の表面を覆う板部と、前記板部の端縁に沿い前記裏面側に向けて後退するように形成された継目部とを各々有する一対の樹脂シートを、前記継目部の端縁を突き合わせて配置し、突き合わせた前記端縁を覆って前記継目部に密閉手段を設けて前記樹脂シートに固定した樹脂シートの継手構造。
【請求項4】
一対の請求項1記載の樹脂シートを前記継目部の端縁を突き合わせて型枠の内面に沿って配置し、
前記樹脂シートの裏面側にコンクリートを打設し、
前記型枠を撤去した後に前記樹脂シートから前記保護部を除去し、
突き合わせた前記樹脂シートの端縁を覆って前記継目部に密閉手段を設けて前記樹脂シートに固定することを特徴とするコンクリート構造物の施工方法。
【請求項5】
コンクリート躯体を有し、複数個が組み合わされて一の構造物を構成するコンクリートセグメントにおいて、
前記コンクリート躯体の一表面を覆うための板部と、前記板部の端縁に沿って前記コンクリート躯体側に後退するように前記板部に連続して形成された継目部と、隣接する前記コンクリートセグメントとの隙間から流動体が前記継目部へ浸入するのを防止するために前記継目部に除去可能に配置された保護部とを有する樹脂シートを、前記コンクリート躯体の一表面に設けたことを特徴とするコンクリートセグメント。
【請求項6】
内面側が開放された湾曲した鋼殻の内部にコンクリートが充填されてなり、互いに連結されてトンネルの内面に設けられることにより、該トンネルの内壁を構成するコンクリート中詰め鋼製セグメントにおいて、
前記コンクリートの表面を覆うための板部と、前記板部の端縁に沿って前記トンネルの内面側に向けて後退するように前記板部に連続して形成された継目部と、前記トンネルの内壁と前記鋼殻の間に充填される充填材が前記継目部へ浸入するのを防止するために前記継目部に除去可能に配置された保護部とを有する樹脂シートを、前記コンクリートの表面に設けたことを特徴とするコンクリート中詰め鋼製セグメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2005−42328(P2005−42328A)
【公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−200525(P2003−200525)
【出願日】平成15年7月23日(2003.7.23)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(390021197)テイヒュー株式会社 (9)
【Fターム(参考)】