説明

樹脂シートの回収方法

【課題】樹脂シートと紙層からなる積層体から、紙繊維が高度に除去された樹脂シートを工業的に有利に回収する方法を提供する。
【解決手段】樹脂シートと紙層からなる積層体1に対して、例えば、ボールミル3により紙繊維を離解する処理を施す離解工程、上記離解工程より得られた解離した紙繊維と片状の樹脂シートの混合物より、離解した紙繊維と片状の樹脂シートとを、例えば、振動篩4によって分離する分離工程、上記分離工程によって分離された片状の樹脂シートを、セルロース分解酵素を含有する水性媒体中に分散させて、樹脂シートに残存する紙繊維を分解する処理を施す分解工程、上記分解工程より、セルロース分解酵素を含有する水性媒体に分散した状態で片状の樹脂シートを取出し、該水性媒体から片状の樹脂シートを分離する回収工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートと紙層からなる積層体から、樹脂シートを回収するための新規な方法に関する。詳しくは、回収された樹脂シート中の紙繊維の残存量が著しく低減された樹脂シートを効率よく得ることが可能な樹脂シートの回収方法である。
【背景技術】
【0002】
建築用の壁紙は、塩化ビニルを含むものが、壁紙全体の約90%を占めており、その生産量は、年間20万トンと推定される。この塩化ビニル系壁紙は、塩化ビニル樹脂からなる層と紙層とを張り合わせた積層体である。
【0003】
一方、塩化ビニル系壁紙廃材は、製造工場内、新築現場からの端材であるほか、リフォームや解体時に排出され、その排出量は、年間10万トンと推定される。
【0004】
壁紙廃材に含まれる樹脂を再利用するためには、余分な付着物である紙を除去しなければならない。ところが、紙を完全に分離することが困難であることから、そのリサイクル率は、1%未満と非常に低く、現在は、埋立て処分もしくは焼却処分されている。このような背景の下、壁紙廃材の発生量は、今後増加する傾向にあり、環境負荷の点から、壁紙廃材の有効な処理方法が求められている。
【0005】
従来、樹脂と紙からなる複合体をリサイクルした例としては、ポリエステル繊維とセルロース繊維を混用した繊維製品を、セルロース分解酵素を含有した水溶液で処理して、ポリエステル繊維を回収する方法が提案されている(特許文献1参照)。上記処理方法によれば、ポリエステル繊維と混用されたセルロース繊維を選択的に分解して、ポリエステル繊維を回収することができる。
【0006】
しかしながら、上記方法を前記の塩化ビニル系壁紙からの紙層の除去に適用しようとした場合、該壁紙は、全体に占める紙層の割合が比較的多く、紙層を除去するために、大量のセルロース分解酵素を必要としたり、長時間の分解処理が必要となったりすることが懸念される。また、前記壁紙は製造過程において、紙層を構成する紙繊維の一部が樹脂中に埋没しているため、かかる紙繊維に対してセルロース分解酵素が作用し難く、長時間処理したとしても、紙繊維を十分に分解除去することが困難であるという課題をも有する。
【0007】
一方、塩化ビニル系壁紙からの塩化ビニル樹脂の回収に関して、塩化ビニル樹脂を溶剤で溶解して、紙層と分離する方法が提案されている(特許文献2参照)。しかし、上記方法においては、有機溶媒の使用による環境対策に多大の設備が必要となり、しかも、塩化ビニル樹脂を有機溶媒と分離するための処理に多大の労力を必要とする。また、塩化ビニル樹脂中への有機溶媒の残存を免れ難く、工業的な実施において問題を残すものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−158265号公報
【特許文献2】特開2006−342347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、樹脂シートと紙層からなる積層体から、紙繊維が高度に除去された樹脂シートを効率よく回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、樹脂シートと紙層からなる積層体より、予め紙層の大部分を除去することにより、セルロース分解酵素の使用量と処理時間を減少できること、更には、上記紙層を除去する操作として、積層体に対して、圧縮、剪断等の変形力を与える処理を施すことにより、紙層を解して分離せしめる「離解」処理を行うことで、続くセルロース分解酵素による分解処理において、樹脂シート中に埋没している紙繊維と樹脂シートとの密着性をも低下でき、これにより、セルロース分解酵素を含む液の浸透を促進して、短時間で残存する紙繊維を高効率で除去することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、樹脂シートと紙層からなる積層体に対して紙繊維を離解する処理を施した後、上記離解した紙繊維と樹脂シートとに分離し、次いで、上記分離された樹脂シートにセルロース分解酵素を含有する水性媒体を接触させて樹脂シートに残存する紙繊維を分解する処理を施すことを特徴とする樹脂シートの回収方法である。
【0012】
尚、本発明において、「シート」は、厚みについて厳密な意味を有するものではなく、「フィルム」をも含むものであり、一般に、50〜500μm程度の厚みのものを包括する。
【0013】
上記方法において、紙繊維を離解する処理として、積層体に対して、圧縮又は剪断による変形を与えることができる装置、具体的には、ボールミル、ビーズミル、ハンマークラッシャー、離解機、揉捻機、又は、叩解機を使用した処理が好適に採用される。
【0014】
また、前記紙繊維を離解する処理(以下、離解処理ともいう。)、及び、セルロース分解酵素による分解処理において、前記処理対象とする積層体は、面積2〜100cmの大きさの片状に裁断することが好ましい。
【0015】
更に、本発明の回収方法は、樹脂シートと紙層からなる積層体を面積2〜100cmの大きさの片状に裁断する裁断工程、上記裁断工程より得られた片状の積層体に対して紙繊維を離解する処理を施す離解工程、上記離解工程より得られた解離した紙繊維と片状の樹脂シートの混合物より、離解した紙繊維と片状の樹脂シートとを分離する分離工程、上記分離工程によって分離された片状の樹脂シートを、セルロース分解酵素を含有する水性媒体中に分散させて、樹脂シートに残存する紙繊維を分解する処理を施す分解工程、上記分解工程より、セルロース分解酵素を含有する水性媒体に分散した状態で片状の樹脂シートを取出し、該水性媒体から片状の樹脂シートを分離する回収工程、及び、上記回収工程において分離されたセルロース分解酵素を含有する水性媒体の少なくとも一部を前記分解工程に循環する循環工程を含む方法により、実施することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の回収方法によれば、樹脂シートと紙層からなる積層体から、紙繊維が高度に除去された樹脂シートを効率よく回収することができる。かかる効果は、樹脂シートと紙層からなる積層体に圧縮、剪断等の変形力を与える処理である、離解による処理を施すことによって、紙層の大部分を除去できると共に、樹脂シートにも上記変形力が作用することによって達成される。即ち、紙層の大部分を除去できることにより、続くセルロース分解酵素による分解処理における紙繊維の処理量が低減される。また、離解による処理で、樹脂シートにも上記変形力が作用することによって樹脂シート中に埋没している紙繊維をも短時間で分解することができる。尚、樹脂シート中に埋没している紙繊維を短時間で分解できる作用について、本発明者は、次のように推定している。即ち、樹脂シートに対して離解による変形力が作用する結果、樹脂シートに埋没している紙繊維と樹脂との間に隙間が生じ、セルロース分解酵素を含有した液が浸透し易くなり、該樹脂シートに埋没して残存する紙繊維の分解を早める。
【0017】
そして、本発明の方法により回収された樹脂シートは、紙繊維がほぼ完全に除去されているため、そのまま、或いは、新樹脂と混合し、樹脂シートや、その他成形体を成形するための樹脂材料として再使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の方法を実施するための装置の一例を示した説明概略図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の方法が適用される積層体は、樹脂シートと紙層とが積層されたものであれば、特に制限されないが、特に、融着等により積層界面において紙繊維の一部が樹脂シートに埋没している状態の積層体に対して効果的である。かかる積層体としては、前記した塩化ビニル樹脂系壁紙を代表とする樹脂系の壁紙が最も代表的である。
【0020】
上記樹脂シートは、熱可塑性樹脂よりなり、樹脂自体の特性、或いは、可塑剤等の柔軟性付与剤の添加により、可撓性を有するものであれば特に制限されない。上記熱可塑性樹脂は、例えば、前記樹脂系壁紙の場合、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、共役ジエン(共)重合体、スチレン(共)重合体等が使用される。
【0021】
一方、本発明において、紙層は、セルロース分解酵素によって分解可能な紙繊維を含有するものであれば、公知の紙が特に制限無く使用される。一般に、前記樹脂系の壁紙において使用される紙としては、普通紙、難燃紙等が挙げられ、積層体の紙層として機能する。
【0022】
尚、本発明において、処理の対象となる積層体は、紙層が完全な状態で存在するものでなくともよい。即ち、前記樹脂系の壁紙を例にとれば、製造時に積層された全ての紙層が存在するものであってもよいし、回収時、或いは前工程において、一部の紙層が除去された状態で存在するものであってもよい。但し、前工程において、紙層を過度に除去することは、本発明の方法を適用する効果が低減するので、一般には、樹脂シートに対して紙層が5質量%以上、特に、10質量%以上の量で積層或いは付着している積層体に対して本発明を適用するのが好ましい。また、紙層の上限は、処理される積層体の種類にもよるが、80質量%、好ましくは、60質量%である。
【0023】
ところで、上記積層体は、種々の廃材より回収される場合が多く、これらの廃材からの積層体の回収は、前処理として、公知の処理が特に制限なく採用される。例えば、前記樹脂系壁紙を例に挙げて説明すれば、壁紙の製造工場内や家屋の新築現場から生成する端材は、その状態で樹脂シートと紙層よりなる積層体であるため、そのまま、本発明の方法を適用することができる。一方、家のリフォームや解体時に排出される壁紙は、一般に、石膏ボード廃材の表面に付着した状態で存在することが多く、このような場合は、石膏ボードと壁紙とを分離して得られる壁紙に対して本発明を適用することが好ましい。
【0024】
石膏ボード廃材に付着した壁紙を分離回収する方法としては、例えば、特開平10−286553号公報に記載されたように、石膏ボード廃材の破砕および篩い分け等により行なう方法、特開2000−254531号公報に記載されたように、破砕機のロール対等の回転作用で、石膏ボード廃材から石膏芯材だけを破砕する方法などにより、石膏芯材を分離され、回収されたボード原紙に対して、更に、特許第3221939号公報に記載されたように、石膏ボード用原紙が付着した石膏ボード廃材を加熱した後、水を施して石膏ボード原紙と石膏とを分別回収する方法などにより、回収ボード原紙に微量に残存する付着石膏の量を、更に減じる方法が挙げられる。
【0025】
本発明の方法に供される樹脂シートと紙層からなる積層体は、面積2〜100cmの大きさの片状に裁断された状態で処理に供することが、取り扱い性や紙繊維の除去効率の面で好ましい。上記樹脂シートと紙層からなる積層体の裁断には、2軸破砕機が用いられる。
【0026】
本発明の方法において、上記の如き樹脂シートと紙層との積層体に対して、紙層の紙繊維を離解する処理が施される。上記離解処理は、絡まった状態にある複数の繊維につき、これを構成する各繊維をそれぞれ単一或いは数単位の繊維として取り出せる程度に解す処理であり、本発明において、かかる処理は、圧縮、或いは、剪断による変形を与えることによって行うことが好ましい。かかる離解による処理を施すことによって、紙層の紙繊維を、切断せず、その繊維の長さを殆ど維持した状態で除去できると共に、樹脂シートにも上記変形力が作用し、樹脂シートに埋没している紙繊維と樹脂との間、場合によっては、該埋没している紙繊維間に、後述のセルロース分解酵素を含む液が浸透し易い状態を作ることができる。
【0027】
本発明において、紙繊維を離解するための圧縮、或いは、剪断による変形を与える処理を具体的に示せば、ボールミル、ビーズミル、ハンマークラッシャー、離解機、揉捻機、又は、叩解機による処理が挙げられる。
【0028】
そのうち、離解する処理は、特に、ボールミルを用いて行うことが好ましい。ボールミルによる処理を行うことにより、樹脂シートに対して、適度な圧縮や剪断による変形を与えながら、離解処理を行うことができる。このため、過度の剪断力により、樹脂シートの小さな破砕片の生成を防止できる。また、連続工程で処理を行う場合、水性媒体の流速を調整することによって、原型を残した樹脂シートと離解された紙繊維を安定的にボールミル外に排出できる。連続で処理を行う場合は、滞留時間分布を考慮して、ボールミルを2器以上直列で経由させて処理することが好ましい。
【0029】
本発明において、離解処理の程度は、樹脂シートにおける紙繊維の残存量(樹脂シートの樹脂の質量に対する紙繊維の質量の割合)が10質量%以下、好ましくは、5質量%以下となるまで行うことが好ましい。かかる処理時間は、使用する装置等によって一概に決定することはできないが、好ましくは15〜60分、より好ましくは20〜50分である。
【0030】
上記離解処理は、水性媒体中で行うことが好ましい。即ち、離解工程を水性媒体中で行うことにより、離解された紙繊維は離解されると同時に水性媒体中にほぐれ出ることとなり、離解を効率的に行うことができる。上記水性媒体としては、水が好ましい。
【0031】
離解処理を行う際の上記水性媒体の温度としては、30〜90℃であることが好ましく、特に40〜60℃であることがより好ましい。このような温度の水性媒体を使用することにより、離解された紙繊維がより効率的に水性媒体中にほぐれ出ることとなり、好ましい。尚、ボールミルなどで処理する際に、水温が上昇するが、この上昇分を考慮して適宜調整すればよい。
【0032】
離解処理を行う際に使用される水性媒体の割合は、樹脂シートに紙が付着した廃材10質量部に対して、好ましくは100質量部以上であり、より好ましくは120〜400質量部であることが好ましい。
【0033】
この範囲の使用割合とすることにより、離解工程の効率と、離解された紙繊維が水性媒体中にほぐれ出る効率とを、ともに高くすることができる。
【0034】
上記の如き離解処理によって、樹脂シートに付着した紙層は、これを構成する紙繊維が離解され、実質的に短繊維にほぐされた状態で、樹脂シートから離脱する。一方、樹脂シートは、上記離解工程によって付着していた紙は除去されるが、樹脂の可撓性のためにシートまたはフィルムの大きさとしては、実質的に処理前の大きさが維持されることとなる。従って、離解処理によって得られるこれらの混合物は、次いで機械的なふるいを行うことによって、大きな樹脂部分はふるい上に残り、ほぐされた紙繊維はふるい下に落下するため、単純かつ容易に、紙繊維と樹脂とをほぼ完全に分離することができる。その他、分離したいものの大きさに差がなく、ふるい分離が利用できない場合に採用される浮遊分離、沈降分離などの方法でも分離可能である。上記分離に用いられるふるいの目の大きさは、好ましくは1〜10mmであり、より好ましくは2〜5mmである。
【0035】
また、上記分離は、水洗を併用することが、樹脂シートに付着した紙繊維をも洗い流すことで一層分離精度が上がるため好ましい。また、水の存在により、静電気による分離効率の低下を避けることもできる。
【0036】
ふるい下の離脱した紙繊維を含む水溶液は、公知のろ過方法により、離脱した紙繊維を分離することができる。具体的には、ドラムフィルター、ディスクフィルター、フィルタープレス等のろ過装置;スクリュウデカンター、スクリーンデカンター等の遠心分離機等により、水と分離する方法を採用することができる。
【0037】
上記のように分離回収された紙繊維は、実質的に短繊維にほぐされているが、処理前の初期長さを実質的に維持しているため、故紙原料として有効に使用することができる。
【0038】
本発明の方法において、前記離解処理により紙繊維を殆ど分離された、紙繊維が残存した樹脂シートに対して、セルロース分解酵素を含有する水性媒体を接触させ、樹脂シートに残存する紙繊維を分解する。かかるセルロース分解酵素を含有する水性媒体の接触によって、樹脂シートに残存する紙繊維が効果的に除去され、高純度な樹脂が分離回収される。
【0039】
ここで用いる酵素は、セルロース繊維減量加工用等の名目で安価に市販されているセルロース分解酵素を用いる。この酵素を用いて紙繊維の分解を行う際のpH、温度等は、酵素の特性に応じて適宜決定すればよい。
【0040】
但し、上記温度決定においては、その仕様に表示された最適温度範囲より10〜20℃程度低い温度に設定することが、後述する、紙繊維の分解処理後のセルロース分解酵素を含有する水媒体の少なくとも一部を循環使用する態様において、酵素の失活を抑制し、且つ、紙繊維分解時の酵素の作用を維持しながら行うことができるため好適である。
【0041】
また、前記セルロース分解酵素による紙繊維の分解は、一般的に、1〜5時間、特に、2〜3時間で行うことが好ましい。
【0042】
本発明によって回収される樹脂シートは、残存する紙繊維の量を著しく低減することができる。因みに、樹脂シートにおける紙繊維の残存量を0.1質量%以下とすることができる。従って、本発明の方法により回収された樹脂シートは、樹脂成形体の整形用の原料樹脂として好適に再使用することができる。
【0043】
図1は、本発明の方法の一態様を好適に実施するための代表的なフローシートを示す概略図である。図1に示すように、本発明の樹脂シートの回収方法は、樹脂シートと紙層からなる積層体1を例えば、2軸破砕機2によって、面積2〜100cmの大きさの片状に裁断する裁断工程、上記裁断工程より得られた片状の積層体に対して、例えば、ボールミル3により、紙繊維を離解する処理を施す離解工程、上記離解工程より得られた解離した紙繊維と片状の樹脂シートの混合物より、離解した紙繊維と片状の樹脂シートとを、例えば、振動篩4によって分離する分離工程、上記分離工程によって分離された片状の樹脂シートを、セルロース分解酵素を含有する水性媒体中に分散させて、樹脂シートに残存する紙繊維を分解する処理を施す分解工程、上記分解工程より、セルロース分解酵素を含有する水性媒体に分散した状態で片状の樹脂シートを取出し、該水性媒体から片状の樹脂シートを分離する回収工程、及び、上記回収工程において分離されたセルロース分解酵素を含有する水性媒体の少なくとも一部を前記分解工程に循環する循環工程を含む。
【0044】
尚、前記分離工程において、分離は水洗しながら行うことが好ましく、ふるい上に紙繊維が残存した片状の樹脂シート、ふるい下に離脱した紙繊維及び水がそれぞれ分離される。離脱した紙繊維および水は、ドラムフィルター5に投入され、離脱した紙繊維6およびろ液7とに分離される。一方、紙繊維が残存した片状の樹脂シートは、ドラムフィルター8に投入され、水分が除去される。ろ液7は離解工程で循環再使用される。分離工程を経た紙繊維が残存した片状の樹脂シートは、次いで酵素反応槽9に投入され、紙繊維の分解が行われる。分解工程を経た片状の樹脂シートは、振動篩10に投入され、ふるい上に片状の樹脂シート、ふるい下に分解された紙繊維を含んだ酵素溶液に分離される。分解された紙繊維を含んだ酵素溶液は、ドラムフィルター11に投入され、分解された紙繊維12と、ろ液13とに分離される。一方、片状の樹脂シートは、ドラムフィルター14に投入され、片状の樹脂シート15と、ろ液13とに分離される。ろ液13は、その少なくとも一部を必要に応じて新液を補充して分解工程に循環し、再使用される。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
尚、実施例及び比較例において、樹脂シートに残存する紙繊維の量(割合)は、以下の方法により測定した。
【0047】
即ち、繊維が残存する樹脂シートより、樹脂成分をテトラヒドロフランにより溶解し、残存する紙繊維と分取し、それぞれ分取した樹脂成分の紙繊維を乾燥後、樹脂成分の質量(A)と紙繊維の質量(B)を測定し、下記式により残存する紙繊維の割合(R(質量%))で示した。
【0048】
R=B/A×100
実施例1
4cmにカットした未使用の塩化ビニル系壁紙10gを温度20℃の水350g、直径10mmのアルミナボール100個と共に、遊星型ボールミルに投入して、速度300rpm、離解時間30分で離解した。次いで、上記離解工程によって得られる紙繊維が残存した樹脂シート、離脱した紙繊維および水との混合物を、篩目2mmの篩にかけ、篩上の塩化ビニル系壁紙の樹脂シートを更に水洗した。次いで、この樹脂シートを乾燥機にて乾燥させた。また、離脱した紙繊維を含む水溶液はろ過して回収した。前記水洗後、樹脂シートに残存する紙繊維の量は3質量%であることが分かった。
【0049】
次いで、水にセルロース分解酵素(洛東化成工業製エンチロンCM40−L)および緩衝溶液(洛東化成工業製ブライトBAFCONC)をそれぞれ1質量%になるよう添加し、さらに防腐剤(日本エンバイロケミカルズ製スラオフ72N)を0.1質量%になるよう添加して、酵素溶液を調製した。上記乾燥後の塩化ビニル系壁紙を酵素溶液に投入して、pH4.0〜5.0、温度40℃〜45℃の範囲で一定に保持しながら、撹拌した結果、投入から2.5時間で、塩化ビニル樹脂シートに残存する紙の量は、0.1質量%以下となった。
【0050】
また、前記酵素反応後の溶液をろ過して、分解した紙繊維を除去し、得られたpH5.2のろ液(酵素溶液)を撹拌しながら、0.1M硫酸を少量添加して、pH4.2に再調整し、前記酵素反応を再度行った。上記一連の操作を20回繰り返して行っても、殆ど同様の結果が得られた。
【0051】
比較例1
実施例1において、4cmにカットした未使用の塩化ビニル系壁紙10gを、遊星型ボールミルによる離解処理をすることなく、酵素溶液に投入して、同様の処理を行った。その結果、投入から2.5時間で、樹脂シートに残存する紙繊維の量は、20質量%となった。
【0052】
比較例2
比較例1において、投入から10時間酵素溶液中で処理した結果、樹脂シートに残存する紙繊維の量は、未だ0.5質量%にしか低減できなかった。
【0053】
実施例2
実施例1において、遊星型ボールミルに代えて、乳鉢に4cmにカットした未使用の塩化ビニル系壁紙0.2gと水20gを入れ、乳棒を使用した塩化ビニル系壁紙に対する変形を15分間断続的に与える操作により、離解処理を行った。この一連の操作を繰り返し、あわせて塩化ビニル系壁紙10gを離解処理した。次いで、上記離解工程によって得られる紙繊維が残存した樹脂シート、離脱した紙繊維および水との混合物を、篩目2mmの篩にかけ、篩上の塩化ビニル系壁紙の樹脂シートを更に水洗した。次いで、この樹脂シートを乾燥機にて乾燥させた。また、離脱した紙繊維を含む水溶液はろ過し、離脱した紙繊維を回収した。前記水洗後、樹脂シートに残存する紙繊維の量は9質量%であることが分かった。
【0054】
次いで、上記樹脂シートを実施例1と同様な酵素溶液を使用し、pH4.0〜5.0、温度40℃〜45℃の範囲で一定に保持しながら、処理した。その結果、投入から6.5時間で、樹脂シートに残存する紙繊維の量は、0.1質量%以下となった。
【符号の説明】
【0055】
1:樹脂シートと紙層との積層体
2:2軸破砕機
3:ボールミル
4:振動篩
5:ドラムフィルター
6:離脱した紙繊維
7:ろ液
8:ドラムフィルター
9:酵素反応槽
10:振動篩
11:ドラムフィルター
12:酵素反応により分解された紙繊維
13:ろ液
14:ドラムフィルター
15:片状の樹脂シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂シートと紙層からなる積層体に対して紙繊維を離解する処理を施した後、上記離解した紙繊維と樹脂シートとに分離し、次いで、上記分離された樹脂シートにセルロース分解酵素を含有する水性媒体を接触させて樹脂シートに残存する紙繊維を分解する処理を施すことを特徴とする樹脂シートの回収方法。
【請求項2】
紙繊維を離解する処理が、積層体に対して、圧縮又は剪断による変形を与える処理である請求項1記載の回収方法。
【請求項3】
積層体が、面積2〜100cmの大きさの片状に裁断されたものである請求項1記載の回収方法。
【請求項4】
樹脂シートと紙層からなる積層体を面積2〜100cmの大きさの片状に裁断する裁断工程、上記裁断工程より得られた片状の積層体に対して紙繊維を離解する処理を施す離解工程、上記離解工程より得られた解離した紙繊維と片状の樹脂シートの混合物より、離解した紙繊維と片状の樹脂シートとを分離する分離工程、上記分離工程によって分離された片状の樹脂シートを、セルロース分解酵素を含有する水性媒体中に分散させて、樹脂シートに残存する紙繊維を分解する処理を施す分解工程、上記分解工程より、セルロース分解酵素を含有する水性媒体に分散した状態で片状の樹脂シートを取出し、該水性媒体から片状の樹脂シートを分離する回収工程、及び、上記回収工程において分離されたセルロース分解酵素を含有する水性媒体の少なくとも一部を前記分解工程に循環する循環工程を含むことを特徴とする樹脂シートの回収方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−241074(P2010−241074A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95026(P2009−95026)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】