説明

樹脂シートの製造方法及び導電層付き樹脂シートの製造方法

【課題】自身の着色、および導電層との密着強度の低下、の少なくともいずれか一方を抑制することができる樹脂シートの製造方法を提供する。
【解決手段】液晶ポリエステルと、該液晶ポリエステルを溶解させる有機溶媒と、を含む液状組成物をシート状に成形する工程と、成形した液状組成物から有機溶媒を除去して仮成形体を形成する工程と、仮成形体を酸素濃度0.05体積%未満の環境下、240℃以上、且つ液晶ポリエステルの熱分解温度未満の温度条件で熱処理する工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートの製造方法及び導電層付き樹脂シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、耐熱性や強度が高く、吸湿性や誘電損失が低いことから、プリント配線板の絶縁層の材料として検討されている。具体的な形態としては、プリント配線板の材料として、液晶ポリエステルをシート状またはフィルム状に加工したもの(以下、樹脂シートと称することがある)が用いられている。
【0003】
このような樹脂シートを製造する方法として、特定の構造を有する液晶ポリエステルと溶媒とを含む液状組成物を用いる方法が検討されている。例えば、特許文献1には、前記液状組成物を支持基板上に流延した後、溶媒を除去し、熱処理することにより、樹脂シートを製造する方法が開示されている。このようにして製造された樹脂シートは、高い絶縁性を有し、且つ誘電正接が低いことから、例えばプリント配線板に好適に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第09/64121号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法は、安定した品質の樹脂シートを製造すると言う観点からは、まだ改良の余地があった。例えば、上記方法で製造した樹脂シートは、製造条件によっては、シートが着色し外観不良となることがあった。また、製造条件によっては、プリント配線板の配線パターンを構成する金属薄膜(導電層)との密着強度が低くなり、導電層の剥離や、配線パターンの断線などの不具合発生のおそれがあった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、自身の着色、および導電層との密着強度の低下、の少なくともいずれか一方を抑制することができる樹脂シートの製造方法を提供することを目的とする。また、樹脂シートの着色、および樹脂シートと導電層との密着強度の低下、の少なくともいずれか一方を抑制することができる導電層付き樹脂シートの製造方法を提供することをあわせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、液晶ポリエステルと、該液晶ポリエステルを溶解させる有機溶媒と、を含む液状組成物をシート状に成形する工程と、成形したシートから前記有機溶媒を除去して仮成形体を形成する工程と、前記仮成形体を酸素濃度0.05体積%未満の環境下、240℃以上、且つ前記液晶ポリエステルの熱分解温度未満の温度条件で熱処理する工程と、を有することを特徴とする樹脂シートの製造方法を提供する。
【0009】
本発明においては、前記シート状に成形する工程では、前記液状組成物を繊維シートに含浸させて成形することが望ましい。
【0010】
本発明においては、前記繊維シートが、ガラスクロスであることが望ましい。
【0011】
本発明においては、前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で示される繰返し単位とを有する液晶ポリエステルであることが望ましい。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0012】
本発明においては、前記液晶ポリエステルが、自身を構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記式(1)で表される繰返し単位を30モル%以上80モル%以下、前記式(2)で表される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下、前記式(3)で示される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下有することが望ましい。
【0013】
本発明においては、前記式(3)で示される繰返し単位において、X及びYのいずれか一方または両方が、イミノ基であることが望ましい。
【0014】
本発明においては、熱処理温度が、260℃以上320℃以下であることが望ましい。
【0015】
本発明においては、熱処理時間が、1時間以上30時間以下であることが望ましい。
【0016】
本発明においては、前記液状組成物は、熱伝導率が10W/m・K以上の無機充填材を含むことが望ましい。
【0017】
また、本発明は、液晶ポリエステルと該液晶ポリエステルを溶解させる有機溶媒とを含む液状組成物をシート状に成形したシートから、前記有機溶媒を除去して得られる仮成形体と、前記仮成形体の片面または両面に積層した導電層と、を有する導電層付き仮成形体を形成する工程と、前記導電層付き仮成形体を酸素濃度0.05体積%未満の環境下、240℃以上、且つ前記液晶ポリエステルの熱分解温度未満の温度条件で熱処理する工程と、を有することを特徴とする導電層付き樹脂シートの製造方法を提供する。
【0018】
本発明においては、前記導電層付き仮成形体を形成する工程は、前記液状組成物をシート状に成形する工程と、成形したシートから前記有機溶媒を除去して仮成形体を形成する工程と、前記仮成形体の片面または両面に導電層を積層する工程と、を有することができる。
【0019】
本発明においては、前記導電層付き仮成形体を形成する工程は、前記導電層として用いる金属箔の表面に、前記液状組成物を塗布してシート状に成形する工程と、成形したシートから前記有機溶媒を除去して、前記金属箔上に仮成形体を形成する工程と、を有することができる。
【0020】
本発明においては、前記液状組成物は、熱伝導率が10W/m・K以上の無機充填材を含むことが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、自身の着色、および導電層との密着強度の低下、の少なくともいずれか一方を抑制することができる樹脂シートの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る樹脂シートの製造方法について説明する。
【0023】
なお、明細書中において使用される用語「シート」および「シート状」とは、極薄のフィルム状の厚さであるものから肉厚のものまでを含有するものである。また、形状については、面方向の広がりを有する平板なもののみならず、瓶状の容器形態などを含有するものである。
【0024】
(液晶ポリエステル)
本実施形態で用いる液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0025】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0026】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0027】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)と、を有することがより好ましい。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0028】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に、好ましくは2個以下であり、より好ましくは1個である。
【0029】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は好ましくは1〜10である。
【0030】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0031】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arがm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0032】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0033】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは30モル%以上60モル%以下、よりさらに好ましくは30モル%以上40モル%以下である。
【0034】
同様に、繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上35モル%以下、よりさらに好ましくは30モル%以上35モル%以下である。
【0035】
同様に、繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上35モル%以下、よりさらに好ましくは30モル%以上35モル%以下である。
【0036】
これらは、繰返し単位(1)の含有量が多いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0037】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0038】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0039】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、XとYとのいずれか一方または両方がイミノ基であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位と、芳香族ジアミンに由来する繰返し単位と、のいずれか一方または両方を有することが、溶媒に対する溶解性が優れるので、好ましく、繰返し単位(3)として、XとYとのいずれか一方または両方がイミノ基であるもののみを有することが、より好ましい。
【0040】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0041】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは250℃以上、より好ましくは250℃以上350℃以下、さらに好ましくは260℃以上330℃以下である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり高いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易かったり、後述する液状組成物の粘度が高くなり易かったりする。
【0042】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kgf/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0043】
(液晶ポリエステル含有液状組成物)
本実施形態の樹脂シートの製造方法に用いる液晶ポリエステル含有液状組成物(液状組成物)は、前述のような液晶ポリエステルに加えて、有機溶媒を含むものである。有機溶媒としては、用いる液晶ポリエステルが溶解可能なもの、具体的には50℃にて1質量%以上の濃度([液晶ポリエステル]/[液晶ポリエステル+有機溶媒])で溶解可能なものが、適宜選択して用いられる。
【0044】
有機溶媒の例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;p−クロロフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタフルオロフェノール等のハロゲン化フェノール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;トリエチルアミン等のアミン;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物;アセトニトリル、スクシノニトリル等のニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒(アミド結合を有する有機溶媒)、テトラメチル尿素等の尿素化合物;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄化合物;及びヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン化合物が挙げられる。また、2種以上の有機溶媒を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
有機溶媒としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性化合物、特にハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主成分とする溶媒が好ましい。溶媒全体に占める非プロトン性化合物の割合は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下である。また、前記非プロトン性化合物としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒を用いることが好ましく、ハロゲン原子を有しないアミド系溶媒を用いることがより好ましい。
【0046】
また、有機溶媒としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、双極子モーメントが3〜5である化合物を主成分とする溶媒が好ましい。溶媒全体に占める双極子モーメントが3〜5である化合物の割合は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下である。本発明においては、特に、前記非プロトン性化合物として、双極子モーメントが3〜5(単位:デバイ)である化合物を用いることが好ましい。
【0047】
非プロトン性化合物であり、且つ双極子モーメントが3〜5である化合物としては、ジメチルスルホキシド(双極子モーメント:4.1デバイ)、N,N−ジメチルアセトアミド(3.7デバイ)、N,N−ジメチルホルムアミド(3.9デバイ)、N−メチルピロリドン(4.1デバイ)を例示することができる。
【0048】
また、有機溶媒としては、除去し易いことから、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を主成分とするとする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める1気圧における沸点が220℃以下である化合物の割合は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下であり、前記非プロトン性化合物として、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を用いることが好ましい。
【0049】
非プロトン性化合物であり、且つ1気圧における沸点が220℃以下である化合物としては、N,N−ジメチルアセトアミド(沸点:160℃)N,N−ジメチルホルムアミド(153℃)を例示することができる。
【0050】
液晶ポリエステル含有液状組成物中の液晶ポリエステルの含有量は、液晶ポリエステル及び有機溶媒の合計量に対して、好ましくは5質量%以上60質量%以下、より好ましくは10質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは15質量%以上45質量%以下であり、所望の粘度の液状組成物が得られるように、適宜調整される。
【0051】
また、液晶ポリエステル含有液状組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で充填材、添加剤、液晶ポリエステル以外の樹脂等の成分を1種以上含んでもよい。
【0052】
充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等の無機充填材;及び硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリル樹脂等の有機充填材が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステルおよび無機充填材の総和に対して、好ましくは0体積%以上80体積%以下である。
【0053】
本実施形態の液晶ポリエステル含有液状組成物を放熱性に優れた電子基板(放熱基板)の材料として用いる場合、これらの充填材の中では、高い熱伝導性を示すため無機充填材が好ましい。さらには、放熱基板を作製した場合に十分な放熱性を確保することができるため、熱伝導率が10W/m・K以上の無機充填材がより好ましい。熱伝導率が10W/m・K以上の無機充填材としては、アルミナ、チタン酸ストロンチウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等を例示することができる。
【0054】
添加剤の例としては、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤及び着色剤が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0質量部以上5質量部以下である。
【0055】
液晶ポリエステル以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂;及びフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0質量部以上20質量部以下である。
【0056】
液状組成物は、液晶ポリエステル、溶媒、必要に応じて用いられる他の成分を、一括で又は適当な順序で混合することにより調製することができる。他の成分として充填材を用いる場合は、液晶ポリエステルを溶媒に溶解させて、液晶ポリエステル溶液を得た後、この液晶ポリエステル溶液に充填材を分散させることにより調製することが好ましい。
【0057】
(樹脂シートの製造方法)
本実施形態の樹脂シートの製造方法は、上述の液晶ポリエステル含有液状組成物を繊維シートに含浸させてシート状に成形する工程と、成形した液状組成物から有機溶媒を除去して仮成形体を形成する工程と、仮成形体を酸素濃度0.05体積%未満の環境下で熱処理する工程と、を有する。
【0058】
(繊維シート)
本実施形態で用いる繊維シートとしては、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維等の無機繊維、及び芳香族ポリアミド繊維、ポリイミド繊維、ポリゼンザゾール繊維、又は液晶ポリマー繊維などの有機繊維を用いて構成されたシートが挙げられる。有機繊維は、上記熱処理温度では溶融しない程度の耐熱性を有するものが好ましい。これらの繊維は、2種類以上を併用してもよい。中でもガラス繊維が好ましい。ガラス繊維の例としては、含アルカリガラス繊維、無アルカリガラス繊維、及び低誘電ガラス繊維が挙げられる。
【0059】
繊維シートは、織物(織布)であってもよいし、編物であってもよいし、不織布であってもよいが、樹脂含浸シートの寸法安定性が向上し易いことから、織物であることが好ましい。織物の織り方の例としては、平織り、朱子織り、綾織及びななこ織りが挙げられる。織物の織り密度は、好ましくは10〜100本/25mmである。
【0060】
繊維シートの厚さは、好ましくは10μm以上200μm以下、好ましくは10μm以上180μm以下である。繊維シートの単位面積あたりの質量は、好ましくは10g/m以上300g/m以下である。
【0061】
また、繊維シートは、含浸させる液状組成物に含まれる液晶ポリエステルとの密着性が向上するように、あらかじめシランカップリング剤、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等のカップリング剤で表面処理されていてもよい。
【0062】
これらの繊維からなる繊維シートを製造する方法としては、繊維シートを形成する繊維を水中に分散し、必要に応じてアクリル樹脂等の糊剤を添加して、抄紙機にて抄造後、乾燥させることで不織布を得る方法や、公知の織成機を用いる方法を挙げることが出来る。
【0063】
また、市場から容易に入手できる繊維シートとして、ガラスクロスを用いることも可能である。ガラスクロスとしては、電子部品の絶縁含浸基材として種々のものが市販されており、旭シュエーベル(株)、日東紡績(株)、有沢製作所(株)等から入手することができる。なお市販のガラスクロスにおいて、好適な厚みのものは、IPC呼称で1035、1078、2116、7628などが挙げられる。
【0064】
(樹脂シートの製造)
繊維シートに液状組成物を含浸させる方法としては、典型的には該液状組成物を仕込んだ浸漬槽を準備し、この浸漬槽に繊維シートを含浸する方法を示すことができる。このような方法においては、繊維シートに付着する液晶ポリエステルの量は、用いた液状組成物の液晶ポリエステル含有量、浸漬槽に繊維シートを含浸する条件、繊維シートに付着した余分な液状組成物を除去する条件、などを制御することにより調節することができる。
【0065】
なお、「浸漬槽に繊維シートを含浸する条件」としては、例えば、浸漬槽に浸漬する時間や、液状組成物が含浸された繊維シートを引き上げる速度、を挙げることができる。また、「繊維シートに付着した余分な液状組成物を除去する条件」としては、例えば、液状組成物を含浸させた繊維シートを一対のロール間に通して絞ることで余分は液状組成物を除去する場合に、当該ロール間の間隔、を挙げることができる。
【0066】
このようにして、液状組成物を含浸させた繊維シートは、溶媒を除去することで、液晶ポリエステルを含有した繊維シート(本発明における「仮成形体」に該当する)を製造することが出来る。溶媒を除去する方法は特に限定されないが、操作が簡便である点で、溶媒を蒸発させて除去することが好ましい。このような溶媒の除去の際には、加熱、減圧、通風又はこれらを組み合わせることで、溶媒の蒸発を促進することが好ましい。
【0067】
また、本実施形態の樹脂シートの製造方法では、溶媒を除去した後、更に熱処理を行う。このような熱処理によると、仮成形体に含まれる液晶ポリエステルを高分子量化することができ、耐熱性や機械的強度の向上を図ることができる。
【0068】
この熱処理に係る条件は、処理温度が240℃以上且つ用いる液晶ポリエステルの熱分解温度未満であり、処理時間が1時間以上30時間以下である。処理温度が240℃よりも低いと、目的とする液晶ポリエステルの高分子量化(重合反応)が起こりにくい。また、処理温度が液晶ポリエステルの熱分解温度よりも高いと、当然のことながら用いる液晶ポリエステルが熱分解し、所望の樹脂シートが得られない。
【0069】
液晶ポリエステルの熱分解温度は、JIS K7120に準拠し、窒素雰囲気下、5℃/分で昇温したときの、5%重量減少温度を熱分解温度とした。
【0070】
なお、より良好な耐熱性を有する樹脂シートを得るといった観点からは、熱処理の処理条件としては、好ましくは処理温度が250℃以上であり、より一層好ましくは処理温度が260℃以上320℃以下の範囲である。
【0071】
また、熱処理の処理時間は、1時間以上10時間以下であることが、生産性の点で好ましい。
【0072】
本実施形態の樹脂シートの製造方法では、このような熱処理を、酸素濃度が500ppm(0.05体積%)未満の雰囲気下で行う。これにより、熱処理中の液晶ポリエステルの酸化を抑制し、物性低下を防ぐことができる。熱処理工程開始時の酸素濃度は、好ましくは100ppm(0.01体積%)未満であり、より好ましくは50ppm(0.005体積%)未満である。また、理論的には酸素濃度0ppm(0体積%)となると酸化劣化が起こらないため、熱処理工程開始時の酸素濃度の下限は「0ppm」である。
【0073】
このような酸素濃度の処理環境は、例えば、熱処理を行う処理炉内を不活性ガスで置換することにより整えることができる。不活性ガスとしては、窒素や、ヘリウム、アルゴン等の希ガスを用いることができる。
【0074】
具体的には、窒素で処理炉内を置換する場合、処理炉内に窒素を導入しながら処理炉内の空気を押し出して排出することで置換することができる。また、予め処理炉内を脱気した上で窒素を導入する操作を繰り返すことで置換してもよい。これらの置換操作は、処理炉を運転しながら(例えば、処理炉内を100℃に加熱しながら)行うこととしてもよい。そして、処理炉内の酸素濃度を測定し、これら窒素による置換操作により酸素濃度が所望の値以下になったこと確認した上で、処理炉を上述の熱処理温度に加熱し、熱処理を行うとよい。
【0075】
以上のような製造方法によれば、熱処理時の着色が抑制され、良好な外観を有する樹脂シートが得られる。
【0076】
また、こうして得られる樹脂シートは、必要に応じて複数枚積層した後、その少なくとも一方の面に金属薄膜などの導電層を形成することにより、導電層付きの樹脂シート(導電層付き樹脂シート)を得ることができる。
【0077】
(導電層付き樹脂シート)
導電層の形成は、金属箔を接着剤による接着、熱プレスによる融着等により積層することにより行ってもよいし、金属粒子をメッキ法、スクリーン印刷法、スパッタリング法等によりコートすることにより行ってもよい。金属箔又は金属粒子を構成する金属の例としては、銅、アルミニウム及び銀が挙げられるが、導電性やコストの点から、銅が好ましく用いられる。
【0078】
導電層付き樹脂シートを形成する場合、樹脂シートは、複数枚を熱プレスによって張り合わせ、多層化して使用してもよい。特に、樹脂シート1枚(1層)では、基材としての剛性が足りない場合は、多層化することで剛性を獲得することが好ましい。このような場合、予め導電層を形成した樹脂シートと、導電層を形成していない樹脂シートとを積層してもよく、予め多層化した樹脂シートに対して、前述の通り導電層を形成してもよい。
【0079】
樹脂シートを多層化する時の熱プレスの温度は、好ましくは300℃以上360℃以下、より好ましくは320℃以上340℃以下である。また、プレスの圧力は、好ましくは1MPa以上20MPa以下、より好ましくは3MPa以上10MPa以下である。さらに、プレスの時間は、好ましくは5分間以上60分間以下、より好ましくは10分間以上50分間以下である。プレスを行う際は、プレスを行う環境を5kPa以下に減圧して、減圧下にて行うことが好ましい。減圧下でプレス加工を行うことにより、プレス加工時の樹脂シートの酸化劣化を抑制することができる。
【0080】
以上のようにして得られる導電層付き樹脂シートは、樹脂シート作成時における熱処理時の劣化が抑制されている。そのため、樹脂シートと導電層との剥離が生じにくい。したがって、得られる導電層付き樹脂シートは、導電層に所定の配線パターンを形成して回路層とし、必要に応じて複数枚積層することにより、配線パターンの剥離や断線が起こりにくく、信頼性の高いプリント配線板とすることができる。
【0081】
なお、本実施形態においては、液状組成物を繊維シートに含浸させることで、繊維シートを含む樹脂シートを製造することとしたが、これに限らない。例えば、液状組成物を支持体上に流延し、該流延物から溶媒を除去して仮成形体とした後に、上記と同様に酸素濃度500ppm未満の環境下で熱処理を行うことで樹脂シートを製造することとしても構わない。
【0082】
また、本実施形態においては、導電層付き樹脂シートを、液状組成物を形成材料として樹脂シートを製造した後、樹脂シートの少なくとも一方の面に導電層を形成することにより形成することとしたが、これに限らない。
【0083】
すなわち、まず、液晶ポリエステルと該液晶ポリエステルを溶解させる有機溶媒とを含む液状組成物をシート状に成形したシートから、前記有機溶媒を除去して得られる仮成形体と、前記仮成形体の片面または両面に積層した導電層と、を有する導電層付き仮成形体を形成し、その後、前記導電層付き仮成形体を酸素濃度0.05体積%未満の環境下、240℃以上、且つ前記液晶ポリエステルの熱分解温度未満の温度条件で熱処理することにより、上記実施形態のように樹脂シートを単離することなく導電層付き樹脂シートを形成することもできる。
【0084】
この場合、導電層付き仮成形体を形成する方法としては、第1に、本実施形態における仮成形体を作成した後に、仮成形体の片面または両面に導電層を積層して、導電層付き仮成形体を形成する方法が挙げられる。
【0085】
なお、本実施形態においては、仮成形体として、液晶ポリエステルを含有した繊維シートを用いたが、繊維シートの有無にかかわらず、例えば下記の方法により仮成形体の片面または両面に導電層を積層して、導電層付き仮成形体を形成することができる。
【0086】
すなわち、まず液状組成物を支持体上に流延し、支持体上に仮成形体を形成した後、この仮成形体の表面に金属箔を積層し、支持体と仮成形体と金属箔とがこの順に積層した第1の積層体を形成する。その後、第1の積層体を一対の熱ロール間に通過させることによって、熱および圧力を加え、仮成形体と金属箔とを貼り合わせる。
【0087】
次に、第1の積層体から支持体を剥離した後、露出する仮成形体の面に金属箔を積層し、金属箔と仮成形体と金属箔とがこの順に積層した第2の積層体を形成し、この第2の積層体を一対の熱ロール間に通過させることにより、熱および圧力を加えることで、目的とする導電層付き仮成形体を形成することができる。
【0088】
また、第2に、例えば金属箔の表面に液状組成物を塗布することにより、金属箔の表面において液状組成物をシート状に成形し、溶媒を除去することにより金属箔上に仮成形体を形成し、金属箔を導電層として用いる導電層付き仮成形体を形成する方法が挙げられる。この場合、金属箔上に形成した仮成形体の表面に、さらに導電層を形成し、仮成形体の両面に導電層が設けられた導電層付き仮成形体を形成することとしても構わない。
【0089】
仮成形体の表面に導電層を形成する方法としては、金属箔を接着剤で接着することとしてもよいし、金属粒子をメッキ法、スクリーン印刷法、スパッタリング法等によりコートすることにより行ってもよい。金属箔又は金属粒子を構成する金属の例としては、銅、アルミニウム及び銀が挙げられるが、導電性やコストの点から、銅が好ましく用いられる。また、金属箔を接着剤で接着する場合、必要に応じて、金属箔が接着された仮成形体を一対の熱ロール間に通過させることによって、熱および圧力を加え、金属箔と仮成形体とを融着させることとしてもよい。
【0090】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0091】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0092】
〔液晶ポリエステルの流動開始温度の測定〕
液晶ポリエステルの流動開始温度は、フローテスター((株)島津製作所製、CFT−500型)を用いて測定した。液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kgf/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を、流動開始温度として測定した。
【0093】
〔液晶ポリエステルの製造〕
トルクメーターを有する攪拌装置、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1976g(10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド1474g(9.75モル)、イソフタル酸1620g(9.75モル)及び無水酢酸2374g(23.25モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで15分かけて昇温し、150℃で3時間還流させた。
【0094】
次いで、上記還流中に副生する酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から300℃まで2時間50分かけて昇温し、300℃で1時間保持した後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状のプレポリマーを得た。このプレポリマーの流動開始温度は、235℃であった。
【0095】
次いで、このプレポリマーを粉砕し粉末状としたものを、金属トレーに敷き詰め、熱風式乾燥機(エスペック社製、IPHH−201M)に入れた。窒素雰囲気下、室温から223℃まで6時間かけて昇温し、223℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、270℃であった。
【0096】
〔液状組成物の作成〕
上記液晶ポリエステル22質量部を、通風オーブンにより120℃で2時間乾燥した後、N,N−ジメチルアセトアミド78質量部に加え、窒素雰囲気下、100℃で2時間加熱した後、冷却することで、液晶ポリエステル含有液状組成物(以下、液状組成物と称することがある)を得た。
【0097】
(実施例1)
〔樹脂シートの製造〕
繊維シートとしてガラスクロス((株)有沢製作所、厚さ96μm、IPC名称2116)を用い、これに液状組成物を含浸させた後、熱風式乾燥機を用いて、160℃で溶媒を蒸発させ、液晶ポリエステルを含有した繊維シート(仮成形体)を得た。
【0098】
得られた仮成形体を、熱風式乾燥機(エスペック社製、IPHH−201M)内に配置し、室温にて乾燥機の窒素導入口から純度99.999%の窒素を40L/分で導入しつつ、排出口からオーバーフローさせ、30分間かけて庫内の窒素置換を行うことで、庫内の酸素濃度を0.05体積%未満(500ppm未満)とした。熱風式乾燥機内の酸素濃度は、東レエンジニアリング(株)製の酸素濃度計LC−300を用いて測定した。
【0099】
その後、熱風式乾燥機内の温度を290℃まで昇温後、3時間保持し、その後放冷することによって、樹脂シートを得た。得られた樹脂シートの着色について、目視評価を行った。
【0100】
〔銅箔付き樹脂シートの作製〕
得られた樹脂シートの両面に銅箔(三井金属(株)、3EC−VLP、厚み18μm)を配置し、高温真空プレス機(北川精機(株)製、VH1−1765)を用いて、340℃で30分、5MPaの圧力でプレスすることで、両面銅箔が付された銅箔付き樹脂シートを得た。
【0101】
〔ピール強度測定(密着強度測定)〕
得られた銅箔付き樹脂シートから、10mm幅の剥離試験片を切り出した。そして、この試験片について、銅箔を引き剥がす際の90°凸点平均試験力(島津製作所製オートグラフAG−5000D、50mm/分の剥離速度)を測定して、樹脂シートと銅箔との密着強度を測定した。
【0102】
(比較例1)
比較例1は、樹脂シート製造時の熱処理を空気中で行った以外は、実施例1と同様に行った。
【0103】
(実施例2)
上記液状組成物を銅箔(三井金属(株)、3EC−VLP、厚み18μm)に塗工し、60℃で120分乾燥させ、銅箔付き樹脂シートの中間体(導電層付き仮成形体1)を得た。このとき、乾燥後の樹脂厚みが20μmとなるように塗工を行なった。
【0104】
得られた導電層付き仮成形体1を熱風式乾燥機(エスペック社製、IPHH−201M)内に配置し、室温にて熱風式乾燥機の窒素導入口から純度99.999%の窒素を30L/分で導入しつつ、排出口からオーバーフローさせ、120分間かけて熱風式乾燥機内の窒素置換を行った。熱風式乾燥機内の酸素濃度が0.01体積%(100ppm)となったことを確認した後、昇温を開始した。
【0105】
その後、熱風式乾燥機内の温度を290℃まで昇温後、3時間保持し、その後放冷することによって、樹脂シートの片面に銅箔が付された銅箔付き樹脂シートを得た。
【0106】
(比較例2)
実施例2の熱処理時において純度99.9%の窒素を10L/分で導入したこと以外は、実施例2と同様に行い、熱風式乾燥機の内の窒素置換を行った。このとき、熱風式乾燥機内の酸素濃度は2.7体積%(27000ppm)であった。その後、実施例2と同様の操作にて、樹脂シートの片面に銅箔が付された銅箔付き樹脂シートを得た。
【0107】
(実施例3)
上記液状組成物に酸化アルミニウム(アルミナ)(住友化学株式会社製、「AA−5」、熱伝導率38W/mK)を添加して、遠心式攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、AR−500)で5分間攪拌することで分散液を調製した。ここで、酸化アルミニウムの充填量は、液晶ポリエステルおよび酸化アルミニウムの総和に対して50体積%とした。
【0108】
得られた分散液を銅箔(福田金属(株)、CF−T8G−UN−35、厚み35μm)に塗工し、120℃で10分乾燥させ、銅箔付き樹脂シートの中間体(導電層付き仮成形体2)を得た。このとき、乾燥後の樹脂厚みが100μmとなるように塗工を行なった。
【0109】
導電層付き仮成形体2を用いたこと以外は実施例2と同様に熱処理を行い、樹脂シートの片面に銅箔が付された銅箔付き樹脂シートを得た。
【0110】
(比較例3)
実施例3の熱処理時において純度99.9%の窒素を10L/分で導入したこと以外は、実施例3と同様に行い、熱風式乾燥機の内の窒素置換を行った。このとき、熱風式乾燥機内の酸素濃度は2.7体積%(27000ppm)であった。その後、実施例3と同様の操作にて、樹脂シートの片面に銅箔が付された銅箔付き樹脂シートを得た。
【0111】
実施例1〜3および比較例1〜3について、各銅箔付き樹脂シートにおける樹脂シートの着色、および樹脂シートと銅箔との密着強度の結果を下表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
測定の結果、実施例1で得た樹脂シートは、比較例1で得た樹脂シートと比べて、液晶ポリエステルが酸化されずに着色が抑制されていた。
また、実施例1で得た樹脂シートを用いて作製された銅箔付き樹脂シートの密着強度は、比較例1で得た樹脂シートを用いて作製された銅箔付き樹脂シートの密着強度と比べて、優れていた。
【0114】
実施例2で得た銅箔付き樹脂シートは、比較例2で得た銅箔付き樹脂シートと比べて、液晶ポリエステルが酸化されずに着色が抑制されていた。
また、実施例2で得た銅箔付き樹脂シートの密着強度は、比較例2で得た銅箔付き樹脂シートの密着強度と比べて、優れていた。
【0115】
実施例3で得た銅箔付き樹脂シートは、比較例3で得た銅箔付き樹脂シートと比べて、液晶ポリエステルが酸化されずに着色が抑制されていた。
また、実施例3で得た銅箔付き樹脂シートの密着強度は、比較例3で得た銅箔付き樹脂シートの密着強度と比べて、優れていた。
これらの結果から、本発明の有用性が確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステルと、該液晶ポリエステルを溶解させる有機溶媒と、を含む液状組成物をシート状に成形する工程と、
成形したシートから前記有機溶媒を除去して仮成形体を形成する工程と、
前記仮成形体を酸素濃度0.05体積%未満の環境下、240℃以上、且つ前記液晶ポリエステルの熱分解温度未満の温度条件で熱処理する工程と、を有することを特徴とする樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記シート状に成形する工程では、前記液状組成物を繊維シートに含浸させて成形することを特徴とする請求項1に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
前記繊維シートが、ガラスクロスであることを特徴とする請求項2に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で示される繰返し単位とを有する液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の樹脂シートの製造方法。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【請求項5】
前記液晶ポリエステルが、自身を構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記式(1)で表される繰返し単位を30モル%以上80モル%以下、前記式(2)で表される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下、前記式(3)で示される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下有することを特徴とする請求項4に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
前記式(3)で示される繰返し単位において、X及びYのいずれか一方または両方が、イミノ基であることを特徴とする請求項4または5に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項7】
熱処理温度が、260℃以上320℃以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項8】
熱処理時間が、1時間以上30時間以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項9】
前記液状組成物は、熱伝導率が10W/m・K以上の無機充填材を含むことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項10】
液晶ポリエステルと該液晶ポリエステルを溶解させる有機溶媒とを含む液状組成物をシート状に成形したシートから、前記有機溶媒を除去して得られる仮成形体と、前記仮成形体の片面または両面に積層した導電層と、を有する導電層付き仮成形体を形成する工程と、
前記導電層付き仮成形体を酸素濃度0.05体積%未満の環境下、240℃以上、且つ前記液晶ポリエステルの熱分解温度未満の温度条件で熱処理する工程と、を有することを特徴とする導電層付き樹脂シートの製造方法。
【請求項11】
前記導電層付き仮成形体を形成する工程は、前記液状組成物をシート状に成形する工程と、
成形したシートから前記有機溶媒を除去して仮成形体を形成する工程と、
前記仮成形体の片面または両面に導電層を積層する工程と、を有することを特徴とする請求項10に記載の導電層付き樹脂シートの製造方法。
【請求項12】
前記導電層付き仮成形体を形成する工程は、前記導電層として用いる金属箔の表面に、前記液状組成物を塗布してシート状に成形する工程と、
成形したシートから前記有機溶媒を除去して、前記金属箔上に仮成形体を形成する工程と、を有することを特徴とする請求項10に記載の導電層付き樹脂シートの製造方法。
【請求項13】
前記液状組成物は、熱伝導率が10W/m・K以上の無機充填材を含むことを特徴とする請求項10から12のいずれか1項に記載の樹脂シートの製造方法。

【公開番号】特開2012−180509(P2012−180509A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−19199(P2012−19199)
【出願日】平成24年1月31日(2012.1.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】