説明

樹脂シート

【課題】 本発明の課題は、エンボス加工された受光面側ガラス板に対して、隙間まで精度よく流れ込み、かつ、充分な接着性を有する太陽電池封止樹脂層を備えることで、長期信頼性に優れた太陽電池モジュールを提供することである。
【解決手段】 本発明の太陽電池モジュールは、ポリオレフィン系樹脂組成物層を挟んで、受光面側ガラス板、及び太陽電池素子を備える太陽電池モジュールであって、前記ポリオレフィン系樹脂組成物層に接する該受光面側ガラス板の表面が、3mm以下のエンボス形状を有し、かつ、前記ポリオレフィン系樹脂組成物層の少なくとも該受光面ガラス板と接する接触層のポリオレフィン系樹脂組成物のJIS K7210に記載のMFRが20以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス、セラミック等の無機物に接着する熱溶着性シート成形体、及びその製造方法と、その成形体の太陽電池用封止材への応用、及びそれにより封止されてなる太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、異種材料を接着させるニーズが高まりつつある。自動車産業においては、意匠性を高めるために、金属材料と樹脂を接着させたり、太陽電池の分野においては、ガラスと結晶シリコンを接着させたりする例が挙げられる。一方で、金属への接着性に優れた樹脂としては、極性官能基を有するナイロン樹脂やポリエステル樹脂が挙げられるが、ポリオレフィンやポリスチレンといった汎用樹脂に比べると価格が高い。また、ナイロン樹脂やポリエステル樹脂は、金属には接着性を示すが、自動車部材に多用されているポリオレフィン樹脂に対する接着性は乏しい。また、ガラスに接着する樹脂としては、太陽電池の封止材に使用されているエチレン・酢酸ビニル共重合体(以下、EVAと略記)樹脂が挙げられるが、EVA樹脂そのもののガラスへの接着性は乏しく、シランカップリング剤等で接着強度を高めているのが現状である。
【0003】
特許文献1には、このEVA樹脂成分に有機過酸化物が架橋剤として併用されており、シランカップリング剤を配合することが記載されているが、ガラス基板との接着性は満足できるものではない。
【0004】
また、特許文献2には、EVAフィルムとFRP基板を用いた太陽電池モジュールにおいて、封止材樹脂へのシランカップリング剤の配合が記載されているが、太陽電池素子の封止工程では、太陽電池素子を樹脂製の封止材でカバーした後、数分程度加熱して仮接着し、オーブン内において有機過酸化物が分解する高温で数分から1時間加熱処理して接着させているが、基板との接着性は十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−116182号公報
【特許文献2】特開2003−204073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、充分な接着性を有する太陽電池封止樹脂層を備えることで、長期信頼性に優れた太陽電池モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の現状に鑑み鋭意検討した結果、特定の受光面側ガラス板、及び特定の樹脂組成物からなる接触層を含む太陽電池モジュールとすることで、上記課題の解決が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、ポリオレフィン系樹脂組成物層を挟んで、受光面側ガラス板、及び太陽電池素子を備える太陽電池モジュールであって、前記ポリオレフィン系樹脂組成物層に接する該受光面側ガラス板の表面が、3mm以下のエンボス形状を有し、かつ、前記ポリオレフィン系樹脂組成物層の少なくとも該受光面ガラス板と接する接触層の接触層ポリオレフィン系樹脂組成物のJIS K7210に記載のMFRが、20以上であることを特徴とする太陽電池モジュールに関する。このような本発明の太陽電池モジュールは、前記接触層と接する受光面側ガラス板の前記エンボスの隅々まで前記接触層ポリオレフィン系樹脂組成物が行きわたり、かつ、十分に接着する結果、長期信頼性に優れる太陽電池モジュールとなる。
【0009】
また、このような本発明に係る接触層の材料である特定の樹脂組成物は、加工流動性を有するので接着を効率よく行えるだけでなく、耐衝撃性、脆化温度、剛性、表面硬度、引っ張り破断伸びのバランスにも優れるので、本明細書で詳細に説明するように、太陽電池モジュールの封止シート材料として好適に用いられるだけでなく、インストルメントパネル、エアーバックカバー、ピラー等の自動車内装材料、バンパー等の自動車外装材料等としても好適に用いることができる。
【0010】
好ましい実施態様は、前記太陽電池素子を、少なくともその受光面側にフィンガー電極、及びタブ線を有し、かつ、前記ポリオレフィン系樹脂組成物層の前記太陽電池素子と接する接触層の接触層ポリオレフィン系樹脂組成物のJIS K7210に記載のMFRが、20以上である太陽電池モジュールとすることである。
【0011】
好ましい実施態様は、前記接触層の厚みを5〜100μmとし、かつ、前記接触層ポリオレフィン系樹脂組成物を下記(a)、(b)、(c)、及び(d)を溶融混練して得られる事を特徴とする変性ポリオレフィン系樹脂組成物とすることである。
(a)非変性のポリオレフィン系樹脂 100重量部、
(b)ラジカル重合開始剤 0.01重量部〜5重量部、
(c)エポキシ基含有ビニル単量体 0.01〜20重量部
(d)芳香族ビニル単量体 0〜2重量部
好ましい実施態様は、前記ポリオレフィン系樹脂組成物層を、前記接触層、及び基材層からなるポリオレフィン系樹脂組成物層とし、前記基材層の厚みを50μm〜300μmとし、かつ、前記基材層が、JIS K7210に記載のMFRが20以下の非変性ポリオレフィン系樹脂(a)からなる基材層とすることである。
【0012】
好ましい実施態様は、前記非変性のポリオレフィン系樹脂(a)を、LDPE、LLDPE、軟質ポリプロピレン系樹脂、エチレンブテン共重合体、又はエチレン−プロピレン共重合体とすることである。
【0013】
好ましい実施態様は、前記非変性のポリオレフィン系樹脂(a)を、融解熱量が10J/g以下の軟質ポリプロピレン系樹脂とすることである。
【0014】
好ましい実施態様は、前記非変性のポリオレフィン系樹脂(a)を、エチレン含有量が1〜30wt%であるエチレン−プロピレン共重合体とすることである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の太陽電池モジュールは、特定の受光面側ガラス板、及び優れた加工流動性を有する特定の樹脂組成物からなる接触層を含むので、エンボスの隅々まで行きわたりやすくかつ、接着を効率よく行える結果、長期信頼性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の詳細について述べる。
【0017】
(太陽電池モジュール)
本発明の太陽電池モジュールは、ポリオレフィン系樹脂組成物層を挟んで、受光面側ガラス板、及び太陽電池素子を備える太陽電池モジュールである。
【0018】
(受光面側ガラス板)
本発明に係る受光面側ガラス板は、本発明に係るポリオレフィン系樹脂組成物層に接する側の表面に3mm以下のエンボス形状がなされたガラス板であり、そのエンボスの深さの好ましい値は50μm〜600μm、より好ましくは200μm〜400μmである。
【0019】
(ポリオレフィン系樹脂組成物層)
本発明に係るポリオレフィン系樹脂組成物層は、好ましくは本発明に係る接触層、及び基材層からなり、この接触層の接触層ポリオレフィン系樹脂組成物のJIS K7210に記載のMFRが、20以上であることを特徴とする。MFRを20以上とするには、芳香族ビニル単量体の添加部数を少なくするのが好ましく、またラジカル重合開始剤の添加部数を請求の範囲内で多くする事が好ましい。
【0020】
(シートまたはフィルム状成形体について)
本発明に係るポリオレフィン系樹脂組成物層は、太陽電池モジュール封止部材として熱溶着性を有するポリオレフィン系樹脂組成物シートとして提供されることが好ましい。本発明でいう熱溶着性とは、熱で溶けて被着体と接合する性質のことである。その厚みとしては3μmから10mmが例示でき、好ましくは10μm〜5mmであり、より好ましくは100μm〜1mm、さらに好ましくは200μm〜600μmであり、シートあるいはフィルムとして利用することができる。
【0021】
このような熱溶着性ポリオレフィン系樹脂組成物シートは、各種の押出成形機、射出成形機、カレンダー成形機、インフレーション成形機、ロール成形機、あるいは加熱プレス成形機などを用いて製造可能である。
【0022】
(接触層)
本発明に係る接触層は、前記特定の接触層ポリオレフィン系樹脂組成物からなることを特徴とし、コストの観点からその厚みが5〜100μmであることが好ましく、より好ましくは10〜50μmである。
【0023】
(接触層ポリオレフィン系樹脂組成物)
本発明に係る接触層ポリオレフィン系樹脂組成物は、本発明に係るエンボスやフィンガー電極、タブ線に対して、隙間無く流れ込んで接着性を発揮せしめる観点から、JIS K7210に記載のMFRが20以上であり、好ましくは30以上とされる。
【0024】
また、前記接触層ポリオレフィン系樹脂組成物は、ガラスへの接着性の観点から、下記(a)、(b)、(c)、及び(d)を溶融混練して得られる事を特徴とする変性ポリオレフィン系樹脂組成物とすることが好ましい。
(a)非変性のポリオレフィン系樹脂 100重量部、
(b)ラジカル重合開始剤 0.01重量部〜5重量部、
(c)エポキシ基含有ビニル単量体 0.01〜20重量部
(d)芳香族ビニル単量体 0〜2重量部
さらに、ガラスへの接着性を向上させるには、前記の芳香属ビニル単量体の添加部数を少なくする事が好ましい。好ましくは0〜1重量部、さらに好ましくは0〜0.5重量部である。
【0025】
(変性ポリオレフィン系樹脂組成物)
前記変性ポリオレフィン樹脂組成物は、(a)非変性のポリオレフィン系樹脂に対し、(c)エポキシ基含有ビニル単量体、さらに(d)芳香族ビニル単量体からなるグラフト鎖をグラフトさせた、グラフト重合反応により得られる樹脂組成物であることが、グラフト効率を高める点で好ましい。
【0026】
本発明の変性ポリオレフィン系樹脂組成物には必要に応じて、酸化防止剤、金属不活性剤、燐系加工安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、蛍光増白剤、金属石鹸、制酸吸着剤などの安定剤、または架橋剤、連鎖移動剤、核剤、滑剤、可塑剤、充填材、強化材、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤などの添加剤を本発明の効果を損なわない範囲内で添加してもよい。
【0027】
本発明に用いるグラフト重合反応としては、特に制限されないが、溶液重合、含浸重合、溶融重合などを用いることができる。特に、溶融重合が簡便で好ましい。溶融混練時の加熱温度は、100〜250℃であることが、ポリオレフィン樹脂が充分に溶融し、かつ熱分解しないという点で好ましい。また溶融混練の時間(ラジカル重合開始剤を混合してからの時間)は、通常30秒間〜60分間である。
【0028】
また、前記の溶融混練の装置としては、押出機、バンバリーミキサー、ミル、ニーダー、加熱ロールなどを使用することができる。生産性の面から単軸あるいは2軸の押出機を用いる方法が好ましい。また、各々の材料を充分に均一に混合するために、前記溶融混練を複数回繰返してもよい。
【0029】
(非変性のポリオレフィン系樹脂(a))
前記非変性のポリオレフィン系樹脂(a)としては、成形性の観点からJIS K7210に記載のMFRが20以下の樹脂が好ましく、低コストで優れた物性の組成物を得る観点から、ポリエチレン(低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、軟質ポリプロピレン系樹脂、又はエチレンブテン共重合体であるであることがより好ましく、透明性の観点から融解熱量が10J/g以下の軟質ポリプロピレン系樹脂であること、また、コストの観点からエチレン含有量が1〜30wt%であるエチレン−プロピレン共重合体であるがさらに好ましい。
【0030】
前記エチレン−プロピレン共重合体としては、エチレンと、プロピレンと、必要に応じて添加される1−ブテン、1−ヘキセン、及び1−オクテンからなる群から選ばれる1種以上と、のあらゆる比率でのランダム共重合体またはブロック共重合体であり、好ましくはエチレンとプロピレンのみからなるランダム共重合体である。
【0031】
前記エチレンブテン共重合体としては、エチレンと、1−ブテンと、必要に応じて添加される1−ヘキセン、及び1−オクテンからなる群から選ばれる1種以上と、のあらゆる比率でのランダム共重合体またはブロック共重合体が挙げられる。
【0032】
ここで軟質ポリプロピレン系樹脂としては、前記エチレン−プロピレン共重合体とは別に、エチレンプロピレンラバー(EPR)を用いても良く、このEPRとは、一般にブロックタイプと呼ばれるポリエチレンとポリプロピレンの混合体等(例えば、プライムポリマー社のプライムTPOや、サンアロマー社のリアクターTPOであるCatalloy等)を示す。
【0033】
前記エチレン−プロピレン共重合体としては、太陽電池封止剤として用いた場合に、必要な柔らかさを確保する観点、及び必要なラミネート加工性を確保する観点から、エチレン含有量が1〜30重量%とすることが好ましく、より好ましくは5〜30重量%とすることであり、さらに好ましくは5〜15重量%とすることである。
【0034】
太陽電池モジュールの封止材として用いる場合においては、透明性の観点から、ポリエチレンでは、LLDPEが好ましく、コモノマーとして含有されるα−オレフィンは長鎖である方が好ましい、ポリプロピレンではエチレンと共重合されたTPOなどが好ましい。
【0035】
(ラジカル開始剤(b))
前記ラジカル重合開始剤としては、一般に過酸化物またはアゾ化合物などがあげられるが、水素引き抜き能が高いものが好ましく、そのようなラジカル重合開始剤としては、たとえば1,1‐ビス(t‐ブチルパーオキシ)‐3,3,5‐トリメチルシクロヘキサン、1,1‐ビス(t‐ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n‐ブチル‐4,4‐ビス(t‐ブチルパーオキシ)バレレート、2,2‐ビス(t‐ブチルパーオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール;ジクミルパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α´‐ビス(t‐ブチルパーオキシ‐m‐イソプロピル)ベンゼン、t‐ブチルクミルパーオキサイド、ジ‐t‐ブチルパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐ブチルパーオキシ)ヘキシン‐3などのジアルキルパーオキサイド;ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド;t‐ブチルパーオキシオクテート、t‐ブチルパーオキシイソブチレート、t‐ブチルパーオキシラウレート、t‐ブチルパーオキシ‐3,5,5‐トリメチルヘキサノエート、t‐ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t‐ブチルパーオキシアセテート、t‐ブチルパーオキシベンゾエート、ジ‐t‐ブチルパーオキシイソフタレートなどのパーオキシエステルなどの1種または2種以上があげられる。
【0036】
前記ラジカル重合開始剤の添加量は、非変性のポリオレフィン系樹脂(a)100重量部に対して、0.01〜5重量部の範囲内にあることが好ましく、0.05〜3重量部の範囲内にあることがさらに好ましい。0.01重量部未満では変性が充分に進行せず、5重量部を超えるとポリオレフィンの流動性、機械的特性の著しい低下を招く。
【0037】
(エポキシ基含有ビニル単量体(c))
前記エポキシ基含有ビニル単量体としては、例えば、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノグリシジル、マレイン酸ジグリシジル、イタコン酸モノグリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルコハク酸モノグリシジル、アリルコハク酸ジグリシジル、p‐スチレンカルボン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、メタアリルグリシジルエーテル、スチレン‐p‐グリシジルエーテル、p‐グリシジルスチレン、3,4‐エポキシ‐1‐ブテン、3,4‐エポキシ‐3‐メチル‐1‐ブテンなどのエポキシオレフィン、ビニルシクロヘキセンモノオキシドなどの1種または2種以上が挙げられる。
【0038】
これらのうち、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジルが安価という点で好ましい。
【0039】
前記エポキシ基含有ビニル単量体の添加量は、非変性のポリオレフィン系樹脂(a)100重量部に対して、0.01〜20重量部であることが好ましく、5〜15重量部であることがさらに好ましい。添加量が少なすぎると接着性が充分に改善されない傾向があり、添加量が多すぎると好適な形状や外観を有する樹脂組成物として取得できない傾向がある。
【0040】
(芳香族ビニル単量体(d))
前記芳香族ビニル単量体としては、スチレン;o‐メチルスチレン、m‐メチルスチレン、p‐メチルスチレン、α‐メチルスチレン、β‐メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレンなどのメチルスチレン;o‐クロロスチレン、m‐クロロスチレン、p‐クロロスチレン、α‐クロロスチレン、β‐クロロスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレンなどのクロロスチレン;o‐ブロモスチレン、m‐ブロモスチレン、p‐ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレンなどのブロモスチレン;o‐フルオロスチレン、m‐フルオロスチレン、p‐フルオロスチレン、ジフルオロスチレン、トリフルオロスチレンなどのフルオロスチレン;o‐ニトロスチレン、m‐ニトロスチレン、p‐ニトロスチレン、ジニトロスチレン、トリニトロスチレンなどのニトロスチレン;o‐ヒドロキシスチレン、m‐ヒドロキシスチレン、p‐ヒドロキシスチレン、ジヒドロキシスチレン、トリヒドロキシスチレンなどのビニルフェノール;o‐ジビニルベンゼン、m‐ジビニルベンゼン、p‐ジビニルベンゼンなどのジビニルベンゼン;o‐ジイソプロペニルベンゼン、m‐ジイソプロペニルベンゼン、p‐ジイソプロペニルベンゼンなどのジイソプロペニルベンゼン;などの1種または2種以上が挙げられる。これらのうちスチレン、α‐メチルスチレン、p‐メチルスチレンなどのメチルスチレン、ジビニルベンゼン単量体またはジビニルベンゼン異性体混合物が安価であるという点で好ましいく、特に好ましくはスチレンである。
【0041】
前記(d)芳香族ビニル単量体の添加量は、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、3重量部以下であることが好ましく、ガラスへの接着性を向上させるため、又は、透明性を維持するためには、出来る限り少ない量であることがさらに好ましい。前記範囲の添加量において、ポリオレフィン樹脂に対する(c)エポキシ基含有ビニル単量体のグラフト効率を高く維持することでき好適である。一方、添加量が3重量部を超えると(c)エポキシ基含有ビニル単量体との共重合体が大きなドメインを形成するために、透明性が低下する傾向があるため、好ましくない。
【0042】
(基材層)
本発明に係る基材層は、JIS K7210に記載のMFRが20以下の前記非変性のポリオレフィン系樹脂(a)からなる厚みが50μm〜300μmの層であって、水分透過バリア層、及び前記シート形成時の基材層としての機能を有する層である。成形性の観点から、JIS K7210に記載のMFRが20以下であることがより好ましい。
【0043】
このような基材層の両側に本発明に係る接触層を有する前記シートは、好ましくは三層共押出により製造される。
【0044】
(三層共押出)
前記三層共押出においては、受光面ガラス板と接する接触層となる組成物、及び太陽電池素子と接する接触層となる組成物、の2種の変性ポリオレフィン系樹脂組成物と、非変性のポリオレフィン系樹脂(a)1種を、それぞれの押出機に供給し、該樹脂を加熱溶融させることが好ましい。
【0045】
これらの樹脂は、押出機に供給する前に、予備乾燥することが好ましい。このような予備乾燥を行うことにより、押出機から押し出される樹脂の発泡を防ぐことができる。
【0046】
予備乾燥の方法は特に限定されるものではないが、例えば、原料(すなわち、本発明にかかるエポキシ変性ポリオレフィン系樹脂)をペレット等の形態にして、熱風乾燥機等を用いて行うことができる。
【0047】
次に、押出機内で加熱溶融された該樹脂を、直前にフィードブロックを設けた共押出Tダイ、又はマルチマニホールド方式の共押出Tダイに供給する。このとき、ギアポンプを用いれば、樹脂の押出量の均一性を向上させ、厚みムラを低減させることができる。
【0048】
なお、フィードブロック方式で三層シートを成形する際、接触層が部分的に存在しないシートとならないように、加熱溶融させた3種それぞれの樹脂の溶融粘度を、押出機の設定温度等で合わせることが好ましい。
【0049】
Tダイより吐出されるポリオレフィン系樹脂の温度は、樹脂の溶融粘度が高過ぎてフィルムに厚みムラが生じたり、ラミネート後のフィルム間接着力が不足したりすることがないように、また、樹脂の溶融粘度が低過ぎて成形が困難になったりしにように、100〜300℃が好ましく、170〜280℃がより好ましい。
【0050】
三層シートの接触層/基材層/接触層の厚み比率が1/10/1よりも基材層の比率が高くなる場合、接触層の厚みを均一に制御できる観点でマルチマニホールド方式の共押出Tダイを用いることが好ましい。
【0051】
(太陽電池素子)
本発明に係る太陽電池素子としては、本発明の特定の樹脂組成物を接触層とする効果を最大限に活用する観点から、受光面側にフィンガー電極、及びタブ線を有する太陽電池素子が好ましく、より好ましくは、結晶シリコン太陽電池素子とすることである。
【実施例】
【0052】
以下に具体的な実施例を示すが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。下記実施例および比較例中「部」および「%」は、それぞれ「重量部」および「重量%」を表す。
【0053】
(一体成形の条件)
本明細書において、一体成形の条件は、170℃で3.5分脱気した後、170℃でプレス圧力1kg/cm、プレス時間10分で加熱圧着とした。加熱圧着には真空ラミネーター(NPC社製、LM−50×50−S)を使用した。
【0054】
シートサンプルとしてEVA系樹脂のシートを使用した場合は、上記条件で一体成形(加熱圧着)した後、更に150℃のオーブンで120分加熱してEVAを架橋させることとした。このEVAによる封止での150℃、120分の加熱は、EVAを架橋することで、太陽電池封止材料として必要な物性を太陽電池モジュール状態のEVA層が発揮するために必要とされる条件である。
【0055】
[太陽電池モジュールの作製と目視による流れ込み性評価]
太陽電池向けエンボス付きガラス(エンボス深さ300μm、175mm×155mm、AGC社製)を使い、エンボス付きガラス/シートサンプル/タブ線・フィンガー電極付き結晶セル/シートサンプル/太陽電池向けバックシート(イソボルタ社製)を重ね、前述の一体成形の条件で一体成形することで太陽電池モジュールを作製した。
【0056】
得られた太陽電池モジュールをガラス面から観察し、シートサンプルにつきガラスのエンボス表面や、結晶セル表面とタブ線及びフィンガー電極との段差への流れ込み性を評価した。以下の基準による評価結果を表1に示す。
○目視で気泡が観察されない。
×目視で気泡が観察される。
【0057】
[耐熱耐湿性評価]
25℃に保持した太陽電池モジュールにソーラーシミュレータからAM1.5及び照射強度1000mW/cmの擬似太陽光を照射し最大出力[W](JIS C8911 1998)の初期値を測定した。
【0058】
次に、太陽電池モジュールを、温度85℃湿度85%RHの環境下に放置する耐熱耐湿試験を実施した。
【0059】
一定時間放置後の太陽電池モジュールにつき上記と同様にして最大出力[W]の試験後値を測定し、試験後値の初期値に対する比率に基づき耐熱耐湿性の優劣につき評価した。以下の基準による評価結果を表1に示す。
○:放置1000時間以上で比率0.95以上を保持。
△:放置500h時間以上、1000時間未満で比率0.95未満となる。
×:放置500時間未満で比率0.95未満となる。
【0060】
[水蒸気バリア性]
JIS K7126−1(差圧法)に従い、0.4mm厚みのシートサンプルにつき、40℃/90%RH、透過面積15.2cm2、圧力差75cmHgの条件で透湿度を単位{(g/m・day)/0.4mm}で測定した。この値が小さい程、水蒸気バリア性に優れていることを示す。
【0061】
(実施例1)
エチレン−プロピレン共重合体(a)としてダウケミカル社製Versify3401.05(MFR=8、重量比(プロピレン:エチレン)=85:15のランダム重合体)100重量部、及びラジカル重合開始剤(b)として1,3−ジ(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油社製:パーブチルP、1分間半減期175℃)0.5重量部をシリンダー温度200℃、スクリュー回転数150rpmに設定したベント付き二軸押出機(40mmφ、L/D=38、日本製鋼所製、製品名TEX44)に供給することで溶融混練を開始し、その押出機のシリンダー途中より、エポキシ基含有ビニル単量体(c)グリシジルメタクリレート10重量部を加えることでこれらの成分を溶融混練し、変性ポリオレフィン系樹脂組成物のペレットを得た。MFRは50であった。
【0062】
この変性ポリオレフィン系樹脂組成物、及び非変性ポリオレフィン系樹脂組成物(a)である上述のVersify3401.05の2種の樹脂組成物に対応した押出機を用いて、直前にフィードブロックを設けた400mm幅共押出Tダイに溶融樹脂を供給し、三層のシート状溶融樹脂として押し出した。この三層シート状の表層2面は前記変性ポリオレフィン系樹脂組成物とし、これらの表層2層に挟まれる中間層を前記非変性ポリオレフィン系樹脂組成物とした。それぞれの厚みは、変性ポリオレフィン系樹脂組成物からなる表層が各々20μm、非変性ポリオレフィン系樹脂組成物からなる中間層が360μmとし合計400μmのシート厚みとなるように調整した。
【0063】
この3層シートサンプルにつき、上記[太陽電池モジュールの作製と目視による流れ込み性評価]を行った。一体成形後、3層シートサンプルの層は、ガラスのエンボス表面や、結晶セル表面とタブ線及びフィンガー電極との段差に良好に流れ込んでおり被着面外観は良好であった。
【0064】
また、耐熱耐湿性評価の結果は1000時間以上保持できる事が確認できた。太陽電池モジュールの生産に必要な時間は、現行使用されているEVAシートの1/10程度であった。評価結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
(実施例2)
実施例1において、グリシジルメタクリレート(c)の添加量を2重量部としたこと以外は同様にして表層の材料を作製した。MFRは40であった。
【0067】
この材料を用いて実施例1と同様にして、実施例2の3層シートサンプルを得た。ドローダウン等の問題なく加工性は、良好であった。
【0068】
このシートサンプルにつき、上記[太陽電池モジュールの作製と目視による流れ込み性評価]を行った。一体成形後、3層シートサンプルの層は、ガラスのエンボス表面や、結晶セル表面とタブ線及びフィンガー電極との段差に良好に流れ込んでおり被着面外観は良好であった。
【0069】
また、耐熱耐湿性評価の結果は、1000時間以上保持できる事が確認できた。太陽電池モジュールの生産に必要な時間は、現行使用されているEVAシートの1/10程度でモジュールを作成できた。評価結果を表1に記載する。
【0070】
(実施例3)
実施例1において、グリシジルメタクリレート(c)の添加量を2重量部としたこと、及び、さらにスチレン(d)の添加量を0.1重量部添加したこと以外は同様にして表層の材料を作製した。MFRは30であった。
【0071】
この材料を用いて実施例1と同様にして、実施例3の3層シートサンプルを得た。ドローダウン等の問題なく加工性は、良好であった。
【0072】
このシートサンプルにつき、上記[太陽電池モジュールの作製と目視による流れ込み性評価]を行った。一体成形後、3層シートサンプルの層は、ガラスのエンボス表面や、結晶セル表面とタブ線及びフィンガー電極との段差に良好に流れ込んでおり被着面外観は良好であった。
【0073】
また、耐熱耐湿性評価の結果は、1000時間以上保持できる事が確認できた。太陽電池モジュールの生産に必要な時間は、現行使用されているEVAシートの1/10程度でモジュールを作成できた。評価結果を表1に記載する。
【0074】
(比較例1)
実施例1において、グリシジルメタクリレート(c)の添加量を5重量部としたこと、及び、さらにスチレン(d)の添加量を5重量部添加したこと以外は同様にして表層の材料を作製した。MFRは5であった。
【0075】
この材料を用いて実施例1と同様にして、比較例1の3層シートサンプルを得た。ドローダウン等の問題なく加工性は、良好であった。
【0076】
このシートサンプルにつき、上記[太陽電池モジュールの作製と目視による流れ込み性評価]を行った。一体成形後、3層シートサンプルの層は、ガラスのエンボス表面や、結晶セル表面とタブ線及びフィンガー電極との段差にエアがみ(気泡)が生じていた。また、エンボス付ガラスの端部に浮きが生じていた。
【0077】
耐熱耐湿性評価を行ったところ、500時間まで保持できなかった。太陽電池モジュールの生産に必要な時間は、現行使用されているEVAシートの1/10程度でモジュールを作成できた。評価結果を表1に示す。
【0078】
(比較例2)
実施例1において、グリシジルメタクリレート(c)の添加量を5重量部としたこと、及び、さらにスチレン(d)の添加量を3重量部添加したこと以外は同様にして表層の材料を作製した。MFRは7であった。
【0079】
この材料を用いて実施例1と同様にして、比較例2の3層シートサンプルを得た。ドローダウン等の問題なく加工性は、良好であった。
【0080】
このシートサンプルにつき、上記[太陽電池モジュールの作製と目視による流れ込み性評価]を行った。一体成形後、3層シートサンプルの層は、ガラスのエンボス表面や、結晶セル表面とタブ線及びフィンガー電極との段差にエアがみ(気泡)が生じていた。また、エンボス付ガラスの端部に浮きが生じていた。
【0081】
耐熱耐湿性評価を行ったところ、500時間まで保持できなかった。太陽電池モジュールの生産に必要な時間は、現行使用されているEVAシートの1/10程度でモジュールを作成できた。評価結果を表1に記載する。
【0082】
(比較例3)
実施例1と同様にして、表層の材料を三井化学社製の無水マレイン酸変性ポリプロピレンであるアドマーQE060(MFRは10)として比較例3の3層シートサンプルを得た。ドローダウン等の問題なく加工性は、良好であった。
【0083】
このシートサンプルにつき、上記[太陽電池モジュールの作製と目視による流れ込み性評価]を行った。一体成形後、3層シートサンプルの層は、ガラスのエンボス表面や、結晶セル表面とタブ線及びフィンガー電極との段差にエアがみ(気泡)が生じていた。また、エンボス付ガラスの端部に浮きが生じていた。
【0084】
耐熱耐湿性評価を行ったところ、500時間まで保持できなかった。太陽電池モジュールの生産に必要な時間は、現行使用されているEVAシートの1/10程度でモジュールを作成できた。評価結果を表1に記載する。
【0085】
(比較例4)
実施例1と同様にして、表層の材料を住友化学社製のエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体であるボンドファーストE(MFRは3)として比較例4の3層シートサンプルを得た。ドローダウン等の問題なく加工性は、良好であった。
【0086】
このシートサンプルにつき、上記[太陽電池モジュールの作製と目視による流れ込み性評価]を行った。一体成形後、3層シートサンプルの層は、ガラスのエンボス表面や、結晶セル表面とタブ線及びフィンガー電極との段差にエアがみ(気泡)が生じていた。また、エンボス付ガラスの端部に浮きが生じていた。
【0087】
耐熱耐湿性評価を行ったところ、500時間まで保持できなかった。太陽電池モジュールの生産に必要な時間は、現行使用されているEVAシートの1/10程度でモジュールを作成できた。評価結果を表1に記載する。
【0088】
(比較例5)
EVAシート(サンビック社製、スタンダードキュア)を使用してモジュールを作成した。
【0089】
EVAシートは、エンボス付きガラスに対して、良好な流れ込み性を示しており、被着面の外観は良好であった。
【0090】
また、耐熱耐湿性評価の結果は、1000時間以上保持できる事が確認できた。評価結果を表1に記載する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂組成物層を挟んで、受光面側ガラス板、及び太陽電池素子を備える太陽電池モジュールであって、
該ポリオレフィン系樹脂組成物層に接する該受光面側ガラス板の表面が、3mm以下のエンボス形状を有し、かつ、
該ポリオレフィン系樹脂組成物層の少なくとも該受光面ガラス板と接する接触層の接触層ポリオレフィン系樹脂組成物のJIS K7210に記載のMFRが、20以上であることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項2】
前記太陽電池素子が、少なくともその受光面側にフィンガー電極、及びタブ線を有し、かつ、
前記ポリオレフィン系樹脂組成物層の前記太陽電池素子と接する接触層の接触層ポリオレフィン系樹脂組成物のJIS K7210に記載のMFRが、20以上である、請求項1に記載の太陽電池モジュール。
【請求項3】
請求項1、又は2に記載の太陽電池モジュールであって、
前記接触層の厚みが、5〜100μmであり、かつ、前記接触層ポリオレフィン系樹脂組成物が、下記(a)、(b)、(c)、及び(d)を溶融混練して得られる事を特徴とする変性ポリオレフィン系樹脂組成物である請求項1、又は2に記載の太陽電池モジュール。
(a)非変性のポリオレフィン系樹脂 100重量部、
(b)ラジカル重合開始剤 0.01重量部〜5重量部、
(c)エポキシ基含有ビニル単量体 0.01〜20重量部
(d)芳香族ビニル単量体 0〜2重量部
【請求項4】
前記ポリオレフィン系樹脂組成物層が、前記接触層、及び基材層からなり、
該基材層の厚みが50μm〜300μmであり、かつ、
該基材層が、JIS K7210に記載のMFRが20以下の非変性ポリオレフィン系樹脂(a)からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の太陽電池モジュール。
【請求項5】
前記非変性のポリオレフィン系樹脂(a)が、LDPE、LLDPE、軟質ポリプロピレン系樹脂、エチレンブテン共重合体、又はエチレン−プロピレン共重合体である、請求項1〜4のいずれかに記載の太陽電池モジュール。
【請求項6】
前記非変性のポリオレフィン系樹脂(a)が、融解熱量が10J/g以下の軟質ポリプロピレン系樹脂である、請求項1〜5のいずれかに記載の太陽電池モジュール。
【請求項7】
前記非変性のポリオレフィン系樹脂(a)が、エチレン含有量が1〜30wt%であるエチレン−プロピレン共重合体である、請求項1〜6のいずれかに記載の太陽電池モジュール。

【公開番号】特開2013−26235(P2013−26235A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156051(P2011−156051)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】