説明

樹脂パイプおよびその製造方法

【課題】結晶性樹脂を主体成分とする樹脂組成物を用い、押出成形によって、周方向に関し肉厚が均一でありかつナチュラル材の利点を発揮し得る樹脂パイプを製造する方法、ならびに得られた樹脂パイプを提供する。
【解決手段】結晶性樹脂と無機材料とからなる樹脂組成物を、押出成形してなる円筒状層を少なくとも備える樹脂パイプ、ならびに結晶性ポリエステルと無機材料とからなる樹脂組成物を、押出成形することを特徴とする樹脂パイプの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、結晶性樹脂を主体成分とする樹脂組成物を用いた樹脂パイプの製造方法、およびそれで得られた樹脂パイプに関する。
【0002】
【従来の技術】
撮影済みのフィルムや印画紙などを大量に写真現像するような写真現像機において、フィルムや印画紙などを連続的に現像液、停止液および定着液などの写真処理液中を搬送させるために、多数本の送り用ローラが使用されている。このような写真現像機の送り用ローラとしては、搬送物に傷をつけないことが要求される。このような要求を満たす送り用ローラとするための樹脂パイプを形成し得る樹脂組成物として、「ナチュラル材」などとも呼ばれる、添加剤を含有しない樹脂組成物が検討されている。中でも、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどの結晶性ポリエステルのナチュラル材の使用が要望されている。結晶性ポリエステルのナチュラル材にて樹脂パイプを形成する場合、射出成形によるのが一般的であるが、コスト、長尺化が可能であること(射出成形では長尺化が困難)、真直性が良好であることなどの理由から、押出成形により形成することが望まれてきている。
【0003】
しかしながら、結晶性ポリエステルのナチュラル材を用いて押出成形により樹脂パイプを形成しようとすると、周方向に不均一な肉厚を有する樹脂パイプが形成されてしまうという問題がある。これは、上記結晶性ポリエステルを主体成分とするナチュラル材が、通常、溶融粘度(メルトマスフローレート)が比較的低い(ISO1133の規定に準拠して測定された溶融粘度(260℃):1.5g/10min以上)ことに起因する。すなわち、上述のごとき溶融粘度であるため、押出成形で固化する前に、重力の影響によって上側に配置されていた樹脂が垂れて下側へと流れてしまうという現象が起こってしまう。このような肉厚が均一でない樹脂パイプでは、ローラの用に供することが困難であり、場合によっては肉厚の小さな部分で割れが生じてしまう虞がある。
【0004】
上記周方向に関し肉厚が均一でない樹脂パイプが形成されてしまうという不具合は、上述したように結晶性ポリエステルのナチュラル材の溶融粘度が通常低いことに起因するものである。したがって、成形時の設定温度を通常の成形温度よりも低めに設定する(たとえば、結晶性ポリエステルがポリブチレンテレフタレートであり、成形温度が220℃〜230℃である場合)ことで成形時における粘度を高め、かかる不具合を回避することも考えられる。しかしながら結晶性ポリエステルの粘度は、徐々に高まるものではなく、急激に上昇する性質を有するものであるため、上記のように設定温度を通常よりも低めに設定すると、樹脂の粘度が急激に高まることによって樹脂圧力が急激に上昇し、成形装置内に押出し素材が詰まってしまうという問題がある。かかる問題は、上記結晶性ポリエステルに限らず、ポリアセタールやポリフェニレンサルファイドといった、結晶構造を有し、融点を有する樹脂であって、融点まで加熱されるとすぐに液状となってしまうような樹脂(後述のように本明細書ではこれらを「結晶性樹脂」と呼ぶ。)についても同様に起こる。
【0005】
上記写真現像機送り用ローラ以外の用途、たとえばOA機器(コピー機、プリンター、ファックスなど)の紙搬送部などにおいても、結晶性樹脂を主体成分とする樹脂組成物を用いて押出成形したにもかかわらず肉厚が均一であり、かつナチュラル材の利点を保持し得るような樹脂パイプ、およびその製造方法の開発が求められている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、結晶性樹脂を主体成分とする樹脂組成物を用い、押出成形によって、周方向に関し肉厚が均一でありかつナチュラル材の利点を発揮し得る樹脂パイプを製造する方法、ならびに得られた樹脂パイプを提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)結晶性樹脂と無機材料とからなる樹脂組成物を、押出成形してなる円筒状層を少なくとも備える樹脂パイプ。
(2)上記円筒状層の周方向に関する厚みの差が0.10mm以下である上記(1)に記載の樹脂パイプ。
(3)添加剤を含有しない結晶性樹脂薄膜にて、上記円筒状層の外周面が被覆されたものである上記(1)または(2)に記載の樹脂パイプ。
(4)無機材料がガラス繊維である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の樹脂パイプ。
(5)結晶性樹脂が、ポリブチレンテレフタレートである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂パイプ。
(6)写真現像機においてフィルムまたは印画紙の搬送のために写真処理液に浸漬されて使用されるローラ用である、上記(3)に記載の樹脂パイプ。
(7)結晶性樹脂と無機材料とからなる樹脂組成物を、押出成形することを特徴とする樹脂パイプの製造方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂パイプは、結晶性樹脂と無機材料とからなる樹脂組成物を押出成形して得られた円筒状層を少なくとも備えるものである。本明細書中でいう「結晶性樹脂」とは、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱量変化ではなく、明確な吸熱ピークを有するような結晶構造を有し、融点以下30℃〜90℃の温度範囲に24時間以上保持して充分にアニールした状態における結晶化度が、通常5%以上(好ましくは、10%〜30%)であるものであって、融点にまで加熱されるとすぐに液状となる樹脂をいい、具体的には、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアセタール(POM)またはポリフェニレンサルファイド(PPS)を指す。中でも、耐薬品性、耐油性に優れているため、これを用いて形成した樹脂パイプを薬品、油を使う場所で好適に使用できることから、PBTが特に好ましい。上記結晶性樹脂は、いずれも自体公知の方法にて適宜合成することができ、また市販のものを用いてもよい。
【0009】
本発明における無機材料は、特に制限はなく、従来公知の適宜のものを用いることができ、たとえば、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、炭化ケイ素ウィスカー、カイノール、マイカ、ガラスビーズなどが例示される。中でも、溶融粘度(メルトマスフローレート)を高めることができ、また比較的安価であることから、ガラス繊維、カーボン繊維などが好ましく、ガラス繊維が特に好ましい。
【0010】
本発明に用いる樹脂組成物は、上述した結晶性樹脂と無機材料とからなることを特徴とするものである。ここで、「結晶性樹脂と無機材料とからなる樹脂組成物」は、添加剤を含有しない結晶性樹脂組成物、いわゆる結晶性樹脂の「ナチュラル材」に、無機材料を添加してなる樹脂組成物であることを指す。
本明細書における「添加剤」とは、樹脂組成物に一般的に添加される添加物を指し、強化剤、充填剤、難燃剤、帯電防止剤などを指す。ここで、上記例示したガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、炭化ケイ素ウィスカー、カイノール、マイカ、ガラスビーズなど、本発明における無機材料は、上記強化剤に包含されるものとする。
【0011】
また本発明における円筒状層は、上述した樹脂組成物を押出成形して得られたものであることをその特徴の一つとするものである。押出成形の条件としては、特に制限はなく、樹脂組成物の主体成分として用いる上記結晶性樹脂に応じて、適宜設定すればよい。たとえば、結晶性樹脂としてPBTを用いた場合、240℃〜265℃の温度条件にて押出成形を行えばよい。用いる押出成形機にも特に制限はないが、LLD(ロングランドダイス)タイプの押出成形機を用いた中空押出成形によって、本発明における樹脂パイプを好適に製造することができる。かかるLLDタイプの押出成形機を用いると、ランド部が通常の押出成形よりも長く、押出時、成形品により圧力をかけることができるため、真円性が良好となるというような利点がある。
なお押出成形にて得られた樹脂パイプは、射出成形にて得られた樹脂パイプとは異なり、真直性が良好となる、成形品にかかる圧力がほぼ一定となるためヒケの発生がほとんどないというような特徴があるので、樹脂パイプが押出成形で得られたものであるか、射出成形で得られたものであるかは、容易に判別することができる。
【0012】
本発明によれば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの結晶性樹脂のナチュラル材に近い組成としたことにより、ナチュラル材の利点を発揮し得る樹脂パイプでありながら、周方向に関し肉厚が均一な円筒状層を備える樹脂パイプを、押出成形によって製造することができる。ここで「肉厚が均一」とは、製造上の誤差を含んで均一という意味であり、具体的には、円筒状層の周方向の全周において肉厚の差(肉厚が最大となる部分と肉厚が最小となる部分との差)が0.10mm以下であることを指す。
このように肉厚の均一な円筒状層を備える樹脂パイプを製造できるという効果は、ナチュラル材に上述した無機材料を添加してなる樹脂組成物を用いることによって、押出成形時における樹脂組成物の溶融粘度が重力の影響を避け得る程度(ISO1133の規定に準拠して測定された溶融粘度(メルトマスフローレート)(260℃):15g/10min以下)にまで高められることに起因すると考えられる。
【0013】
上記円筒状層を形成する樹脂組成物における無機材料の含有量に特に制限はなく、用いる無機材料に応じて適宜選択される。
たとえば、無機材料としてガラス繊維を用いる場合、樹脂組成物中における含有率は、重力の影響を受けない溶融粘度が必要となるため、樹脂組成物中30重量%〜50重量%であるのが好ましい。ガラス繊維が樹脂組成物中30重量%未満であると、溶融粘度が低くなる(メルトマスフローレート:20g/10min以上)傾向にあるためである。またガラス繊維が樹脂組成物中50重量%を超えた樹脂材料は市販されておらず、入手が困難である。
【0014】
本発明の樹脂パイプは、上記のように無機材料を含有する円筒状層を備えるものであるが、写真現像機の送り用ローラやOA機器(コピー機、プリンター、ファックスなど)の紙搬送部など、搬送時の搬送対象の微細な損傷をも極力防止したいような用途に使用する場合には、その表面が平滑で添加剤、特に強化剤が配合されていないものであるのが好ましい。かかる性質をその表面に具備する本発明の樹脂パイプの好適な態様として、上記円筒状層の外周面が、添加剤を含有しない結晶性樹脂薄膜、換言すれば、結晶性樹脂のナチュラル材で形成された薄膜にて被覆されてなるように二層構造で実現される態様が挙げられる。
【0015】
上記薄膜に用いられる結晶性樹脂としては、上述した円筒状層に用いる結晶性樹脂が挙げられる。該薄膜を形成する結晶性樹脂としては、上述した円筒状層を形成する結晶性樹脂と同じものであっても、互いに異なるものであってもよいが、円筒状層と薄膜とを同時に押出成形することで、円筒状層を形成する樹脂組成物と薄膜を形成する樹脂組成物とが溶融している状態で被覆させて、円筒状層と薄膜との境界面が完全に固着された二層構造を実現できることから、円筒状層と同じ結晶性樹脂を用いるのが好ましく、薬品性、耐油性に優れ、かつ搬送時における搬送対象の微細な損傷をも確実に防止し得、写真現像機送り用として極めて適した特性を有するローラを実現し得ることから、円筒状層および薄膜を形成する主体成分がともにPBTであることが特に好ましい。
【0016】
上記薄膜は、その厚みに特に制限はないが、2.0mm以下であるのが好ましく、1.0mm以下であるのがより好ましい。薄膜の厚みを2.0mm以下とすることで、薄膜形成時の冷却効率を良好として薄膜を形成する樹脂組成物自体の固化の速度を高めることができ、薄膜を形成する樹脂組成物への重力の影響が緩和されて垂れを防止することができる。これにより、円筒状層だけでなく、薄膜に関しても周方向に関し均一な厚み(薄膜の周方向における最大厚みと最小厚みとの差が0.1mm以下)に実現することができる。
【0017】
本発明の樹脂パイプの長さは、その用途に応じて適宜選択すればよく、特に制限はないが、比較的長尺(たとえば、0.15m〜1.0m程度)であっても、肉厚の均一な樹脂パイプを確実に形成することができるという利点がある。また本発明の樹脂パイプの径にも特に制限はなく、その用途に応じて適宜選択すればよいが、外径が2.0cm〜3.0cm程度であり、内径が1.0cm〜2.0cm程度であるのが好ましい。
【0018】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
実施例1
PBT(ノバデュラン5710−G30(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)、ガラス繊維配合量:30重量%)を、LLDタイプ押出成形機を用いて、250℃の温度条件で、長さが0.4m、内径が0.9cm、外径が2.1cmの単層構造(円筒状層のみ)の樹脂パイプを作製した。
得られた樹脂パイプについて、長手方向に垂直な断面を周方向に8等分し、実体顕微鏡を用いて周方向に関する肉厚の差を測定したところ、0.1mmであった。
【0019】
実施例2
PBT(クラスティンSK609(デュポン(株)製)、ガラス繊維配合量:50重量%)を、LLDタイプ押出成形機を用いて、250℃の温度条件で、長さが0.4m、内径が0.9cm、外径が2.1cmの単層構造(円筒状層のみ)の樹脂パイプを作製した。
得られた樹脂パイプについて、実施例1と同様にして周方向に関する肉厚の差を測定したところ、0.1mmであった。
【0020】
実施例3
円筒状層の形成材料としてPBT(ノバデュラン5710−G30(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)、ガラス繊維配合量:30重量%)を、薄膜の形成材料としてPBT(ノバドュール5710T(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)、ガラス繊維配合量:0重量%)を用い、LLDタイプ押出成形機を用いて、250℃の温度条件で、長さが0.4m、内径が0.9cm、外径が2.1cmの円筒状層と、該円筒状層の外周面を被覆する厚み2mmの薄膜とを備える二層構造の樹脂パイプを作製した。
得られた樹脂パイプについて、実施例1と同様にして周方向に関する肉厚の差を測定したところ、0.1mmであった。
【0021】
実施例4
円筒状層の形成材料としてPBT(クラスティンSK609(デュポン(株)製)、ガラス繊維配合量:50重量%)を、薄膜の形成材料としてPBT(ノバドュール5710T(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)、ガラス繊維配合量:0重量%)を用い、LLDタイプ押出成形機を用いて、250℃の温度条件で、長さが0.4m、内径が0.9cm、外径が2.1cmの円筒状層と、該円筒状層の外周面を被覆する厚み2mmの薄膜とを備える二層構造の樹脂パイプを作製した。
得られた樹脂パイプについて、実施例1と同様にして周方向に関する肉厚の差を測定したところ、0.1mmであった。
【0022】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明によれば、結晶性樹脂を主体成分とする樹脂組成物を用い、押出成形によって、周方向に関し肉厚が均一でありかつナチュラル材の利点を発揮し得る樹脂パイプを製造する方法、ならびに得られた樹脂パイプを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性樹脂と無機材料とからなる樹脂組成物を、押出成形してなる円筒状層を少なくとも備える樹脂パイプ。
【請求項2】
上記円筒状層の周方向に関する厚みの差が0.10mm以下である請求項1に記載の樹脂パイプ。
【請求項3】
添加剤を含有しない結晶性樹脂薄膜にて、上記円筒状層の外周面が被覆されたものである請求項1または2に記載の樹脂パイプ。
【請求項4】
無機材料がガラス繊維である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂パイプ。
【請求項5】
結晶性樹脂が、ポリブチレンテレフタレートである請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂パイプ。
【請求項6】
写真現像機においてフィルムまたは印画紙の搬送のために写真処理液に浸漬されて使用されるローラ用である、請求項3に記載の樹脂パイプ。
【請求項7】
結晶性樹脂と無機材料とからなる樹脂組成物を、押出成形することを特徴とする樹脂パイプの製造方法。

【公開番号】特開2004−19939(P2004−19939A)
【公開日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−180547(P2002−180547)
【出願日】平成14年6月20日(2002.6.20)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】