説明

樹脂ファンのバランス調整構造

【課題】 環状部付き樹脂ファンのアンバランスを、騒音を起こすことなく解消する。
【解決手段】 環状部3の半径方向の外側の面の一部に、その面に沿って同一厚みで、肉厚を調整する肉厚調整部分4を一体に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製ファンの射出成形時に生じるアンバランスを調整する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン冷却用熱交換器のコアに対向し、樹脂製のファンが取り付けられ、自動車のアイドリング時や低速走行時に、そのファンにより起風し、熱交換器の外面を冷却していた。
この樹脂製ファンは、射出成形により量産されるが、各種条件の変化等によってその回転軸周りのバランスが崩れ、効率が悪くなるとともに、騒音等の原因となっていた。
【0003】
そのアンバランスを解消するため、下記特許文献に記載のものが提案されている。特許文献1に記載のファンは、ファンボスの内筒側にバランサを突出させている。
特許文献2に記載のファンは、多数の翼の外周を連結する環状部の内面側にバランスウェイトを断面円弧状に突出させたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−316661号公報
【特許文献2】特開2007−278190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前者のファンは、そのボス部にバランサを突出させるため、その効果を出すためにある程度以上の大きさを必要とし、バランスの微調整が面倒である欠点がある。
後者のバランスウェイトは、環状部の内面側にこぶ状に突出させるため、通風抵抗が生じ、騒音を発生させるおそれがある。それとともに、その射出成形用金型が複雑となる欠点がある。
そこで本発明は、それらの欠点を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の本発明は、射出成形により製造され、ボス部(1)から複数の翼部(2)が放射状に突設され、その各翼部(2)の先端間に環状部(3)が一体に連結された樹脂ファンであって、
その環状部(3)の半径方向の外側の面の一部に、その面に沿って同一厚みで肉厚を調整する肉厚調整部分(4)が一体に形成され、その肉厚調整部分(4)の厚さの調整により、樹脂ファンの動的バランスを調整することを特徴とする樹脂ファンのバランス調整構造である。
【0007】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の樹脂ファンのバランス調整構造において、
前記環状部(3)の外側の面に、周方向に互いに等間隔に離間して3以上の前記肉厚調整部分 (4)を配置し、少なくとも一つの肉厚調整部分(4)の厚さを調整した樹脂ファンのバランス調整構造である。
【0008】
請求項3に記載の本発明は、請求項1または請求項2に記載の樹脂ファンのバランス調整構造において、
前記環状部(3)の横断面は、その幅方向の両側の外側に一対の第1側壁(5)および第2側壁(6)が形成されると共に、その中間部に中間側壁(7)が形成された逆流防止のラビリンス効果を有する溝状であり、その溝底に前記肉厚調整部分(4)が形成された樹脂ファンのバランス調整構造である。
【0009】
請求項4に記載の本発明は、請求項3に記載の樹脂ファンのバランス調整構造において、
前記中間側壁(7)が前記幅方向に離間して複数形成され、その対向する一対の中間側壁(7)間に、前記肉厚調整部分(4)が形成された樹脂ファンのバランス調整構造である。
【0010】
請求項5に記載の本発明は、請求項4に記載の樹脂ファンのバランス調整構造において、
前記肉厚調整部分(4)が対向する一対の中間側壁(7)間の全幅に渡り形成された樹脂ファンのバランス調整構造である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂ファンのバランス調整構造は、その環状部3の半径方向の外側の面の一部に、その面に沿って同一の厚みで、肉厚調整部分4を一体に形成し、その肉厚調整部分(4)の厚さの調整により、樹脂ファンの動的バランスを調整することを特徴とするものである。
そのため、従来構造に比べて、最少量の樹脂量の調整で動的バランスをとることができる。これは、その肉厚調整部分4が回転軸から最も離れた外側にあるため、動的バランスの影響が大きいからである。従って、樹脂ファンの動的バランスの調整が極めて容易で、それを迅速に行うことができる。しかも、最少量の肉厚調整が環状部3の外面に、同一の厚さで部分的に形成されるから、樹脂ファンの回転に伴い、騒音を発生したり、空気抵抗を増したりするおそれがない。
【0012】
上記構成において、請求項2に記載のように、環状部3に、周方向に互いに等間隔に離間して3以上の前記肉厚調整部分4を配置した場合には、それらのうちのいずれか1以上で、その厚さ調整を行うことにより、容易にファンの動的バランスの調整ができる。
【0013】
上記構成において、請求項3に記載のように、環状部3に、一対の第1側壁5および第2側壁6を形成すると共に、その中間部に中間側壁7を形成した逆流防止のラビリンス効果を有する溝状とし、その溝底に肉厚調整部分4を形成した場合には、ラビリンスの効果と、動的バランスの調整効果とを同時に得る。
【0014】
上記構成において、請求項4および、請求項5に記載のように、中間側壁7を前記幅方向に離間して複数形成し、その対向する一対の中間側壁7間に、前記肉厚調整部分4を形成する場合、また肉厚調整部分4を対向する一対の中間側壁(7)間の全幅に渡り形成した場合、前記同様に、容易に動的バランスの調整ができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の樹脂ファンのバランス調整構造の要部横断面図。
【図2】図1のII−II矢視断面図。
【図3】同樹脂ファンの横断面図。
【図4】同図3のIV-IV矢視断面図。
【図5】同ファンを自動車用の熱交換器14に取り付けた横断面図。
【図6】同ファンの空気流の説明図。
【図7】同ファンの製造用金型の横断面図。
【図8】同縦断面図。
【図9】本発明の他の実施例のバランス調整構造の横断面図。
【図10】本発明の他の実施例のバランス調整構造の横断面図。
【図11】本発明の他の実施例のバランス調整構造の横断面図。
【図12】本発明の他の実施例のバランス調整構造の横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、図面に基づいて本発明の実施の形態につき、説明する。
本発明のバランス調整構造を有する樹脂ファンは、図1〜図5に示すごとく、ボス部1から複数の翼部2が放射状に突設され、その各翼部2の先端間に環状部3が一体に連結された樹脂製のものであり、射出成形により製造される。
この環状部3は、その幅方向の両縁全周がベルマウス状に形成された一対の第1側壁5と第2側壁6とを有し、且つ、それらの間の中間に一対の中間側壁7が一体に形成される。このボス部1には、図示しないモータの回転軸が連結され、或いは、ファンベルトを介してエンジンの回転軸に接続される。
【0017】
図1および図2に示すごとく、環状部3の外周面であって、一対の中間側壁7間の一部に肉厚調整部分4が形成される。肉厚調整部分4は、この例では、凸部4aを形成している。この凸部4aは、図4に示すごとく、等間隔に、一例として周方向に90度離間して4つ形成され、それぞれの肉厚調整部分4の凸部4aの厚みt1〜t4のいずれか一以上を変えることにより、ボス部1周りのバランス調整を行なう。これは、射出成形時において、各種条件により、ボス部1周りのバランスが僅かに狂う。それを凸部4aの突出量で調整するものである。この凸部4aは、環状部3の外面に沿って同一の厚みに調整される。一例として、その厚みは0.01mm〜0.5mm程度で十分である。その周方向の長さの一例は、中心角で5度〜40度程度とすることができる。
【0018】
このように薄く凸部4aを形成することにより、凸部4aでの渦の発生を可及的に少なくして、ファンの回転時の騒音の発生を防止する。なお、この例では肉厚調整部分4として凸部4aを設けたが、それに替えて、僅かに凹陥させることもできる。その場合にも、凹嵌の深さは0.01mm〜0.5mmで十分である。
【0019】
このような肉厚調整部分4を環状部3に形成するには、略図で示す図7および図8の金型を用いて射出成形することができる。即ち、図7、図8のごとく、上下方向(図7では左右方向)に相対移動する一対の上金型11、下金型12と、半径方向(図8)に移動する4つの中金型10(図8では3つのみ図示)と、その中金型10の各内部に挿通され、中金型10に対してさらに半径方向に僅かに移動できるスライド金型17とを具備する。そして、スライド金型17を中金型10に対して僅かに後退することにより、環状部3の外面側に肉厚調整部分4として凸部4aを形成できる。逆にスライド金型17を僅かに半径方向中心側に移動することにより、そこに凹嵌部を形成することができる。その詳細な構造は、射出成形金型の通常の設計方法を利用すればよい。
【0020】
このような樹脂ファン13は、図5のごとく、熱交換器14のコアに対向して配置される。その外周にはシュラウド16が被嵌される。そして、樹脂ファン13を回転させることにより、空気流15が熱交換器14側から樹脂ファン13側に流通する。このとき、図6のごとく、空気流15に対して逆流18が、環状部3とシュラウド16との間に生じる。この逆流18は、一対の第1側壁5、第2側壁6並びに一対の中間側壁7によって弱められる。
【0021】
次に、図9は本発明の第2実施形態であり、この例が前記実施例と異なる点は、肉厚調整部分4が第2側壁6と中間側壁7との間に設けられたものである。
また、図10〜図12は本発明の第3実施例〜第5実施であり、これらの例では中間側壁が存在しない。図10の例では、肉厚調整部分4の幅が第1側壁5および第2側壁6の根元部分まで達し、図11の例では、肉厚調整部分4の幅がそれより短い。また図12の例では、環状部3の幅方向の一方の縁のみに第1側壁5が存在する。
【0022】
(変形例)
本発明は上記実施例に限定されるものでは勿論なく、例えば肉厚調整部分4の位置および数を任意に変えることができる。一例として、その位置を隣接する各翼部2の間に配置してもよい。また、各中金型10に一対づつのスライド金型17を設け、合計8つの肉厚調整部分を形成してもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 ボス部
2 翼部
3 環状部
4 肉厚調整部分
4a 凸部
5 第1側壁
6 第2側壁
7 中間側壁
【0024】
10 中金型
11 上金型
12 下金型
13 樹脂ファン
14 熱交換器
15 空気流
16 シュラウド
17 スライド金型
18 逆流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形により製造され、ボス部(1)から複数の翼部(2)が放射状に突設され、その各翼部(2)の先端間に環状部(3)が一体に連結された樹脂ファンであって、
その環状部(3)の半径方向の外側の面の一部に、その面に沿って同一厚みで肉厚を調整する肉厚調整部分(4)が一体に形成され、その肉厚調整部分(4)の厚さの調整により、樹脂ファンの動的バランスを調整することを特徴とする樹脂ファンのバランス調整構造。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂ファンのバランス調整構造において、
前記環状部(3)の外側の面に、周方向に互いに等間隔に離間して3以上の前記肉厚調整部分 (4)を配置し、少なくとも一つの肉厚調整部分(4)の厚さを調整した樹脂ファンのバランス調整構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の樹脂ファンのバランス調整構造において、
前記環状部(3)の横断面は、その幅方向の両側の外側に一対の第1側壁(5)および第2側壁(6)が形成されると共に、その中間部に中間側壁(7)が形成された逆流防止のラビリンス効果を有する溝状であり、その溝底に前記肉厚調整部分(4)が形成された樹脂ファンのバランス調整構造。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂ファンのバランス調整構造において、
前記中間側壁(7)が前記幅方向に離間して複数形成され、その対向する一対の中間側壁(7)間に、前記肉厚調整部分(4)が形成された樹脂ファンのバランス調整構造。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂ファンのバランス調整構造において、
前記肉厚調整部分(4)が対向する一対の中間側壁(7)間の全幅に渡り形成された樹脂ファンのバランス調整構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−113130(P2013−113130A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257600(P2011−257600)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000222484)株式会社ティラド (289)
【出願人】(391006083)三光合成株式会社 (67)
【Fターム(参考)】