説明

樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の製造方法および成形用金型

【課題】
低コストにて、寸法精度の高い樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の製造方法および樹脂フィルムを成形するための成形用金型を提供する。
【解決手段】
コア材の表面を樹脂フィルム10で覆う形態を有する樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材1の製造方法であって、金属製の凸金型26と金属製の凹金型22とを備えると共に、当該凸金型26における凸部25に隣接するベース面27に弾性体30が配置される成形用金型20を用いて、樹脂フィルム10を絞り成形する工程を含む樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材1の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器等の押釦スイッチに好適な樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の製造方法およびその製造工程において使用する成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、携帯情報端末装置等の電子機器において、入力部に用いられる押釦スイッチ用部材の構成は多種多様化している。多種多様な押釦スイッチ用部材の中でも、コア材の表面を樹脂フィルムで覆った樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材は、外観のデザインバリエーションが豊富であり、低コストにて製造できること等から、ユーザのニーズが極めて高くなってきている。
【0003】
従来から、樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材は、例えば、次のような方法で製造されている。まず、予め印刷層を形成した樹脂フィルムを用意する。次に、凹部を有する金属製の凹金型と、凸部を有する金属製の凸金型とからなる成形用金型を用いて、当該樹脂フィルムを絞り成形する。続いて、その樹脂フィルムの凹部に、コア材となる樹脂を射出し、樹脂フィルム付きコア材が得られる。最後に、この樹脂フィルム付きコア材の裏面側に、印刷および/またはホットスタンプにて加飾する(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
また、次のような方法で製造される樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材も知られている。まず、弾性材からなる凸金型と、金属製の凹金型とからなる成形用金型を用いて、当該凹金型と凸金型とで可撓性フィルムを挟んで、絞り成形する際、凹金型に、可撓性フィルムを介して、凸金型を密着させる。次に、当該凹金型を加熱して、樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材を製造する (例えば、特許文献2を参照。)。
【特許文献1】特開2002−197933号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2002−011729号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材には、次のような問題がある。特許文献1に開示される樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材を製造する場合には、成形用金型を構成する金属製の凹金型と、金属製の凸金型とを型閉めすることによって、印刷層を有する樹脂フィルムを絞り成形する。ところが、凸金型と凹金型の寸法精度の誤差あるいは樹脂フィルムの厚さの不均一に起因して、樹脂フィルムにかかる力が不均一になることが多い。このため、延伸するために大きな力が加わる箇所と、あまり力が加わらない箇所との間に、皺が発生しやすい。このような皺が発生した場合、コア材の射出成形あるいは接着等の次工程において、金型または治具に、絞り加工後の樹脂フィルムを正確にセットできないという問題につながる。この問題を解決するため、絞り加工後の樹脂フィルムの皺のある部分を切り取る方法も考えられる。しかし、キートップ部の外周部に発生した皺であれば、これを切り取ることはできるが、切り取ることができない箇所、例えば、キートップ部の隙間に皺が存在すると、この問題を解消することができない。また、皺の部分を切り取る場合に、切り取る工程を導入すると、製造コストが高くなるという問題もある。
【0006】
また、特許文献2に開示される樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材を製造する場合には、弾性材からなる凸金型を用いるため、多少の寸法精度の誤差等があっても、樹脂フィルムにかかる力がほぼ均一となり、成形された樹脂フィルムに皺が発生しにくい。しかし、凸金型を構成している弾性材より剛性の高い樹脂フィルムを成形する場合には、キートップ部の外周が変形して所望の形状よりも丸みを帯びるという問題がある。かかる問題を解消するためには、絞り加工の対象となる樹脂フィルムの材料を、凸金型を構成する弾性材よりも剛性の低い材料としなければならない。このような制約が存在すると、キートップ表面の剛性を高くすることができなくなる。
【0007】
そこで、上述の問題を解決するため、特許文献1に開示される金属製の成形用金型を用いて成形した樹脂フィルムを、特許文献2に開示される弾性材からなる凸金型を含む成形用金型を用いて成形するという方法も考えられる。しかし、樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材のキートップ部の外周が丸くなるという問題を解消することは難しい。加えて、薄い剛性の高い樹脂フィルムを用いる場合、成形部の周辺が破断する可能性が高くなる。さらに、成形を2回行うと、成形に多くの時間を要し、製造工程が煩雑となり、コストアップおよび生産性の低下を引き起こすという問題もある。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、低コストにて、寸法精度の高い樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の製造方法および樹脂フィルムを成形するための成形用金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、コア材の表面を樹脂フィルムで覆う形態を有する樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の製造方法であって、金属製の凸金型と金属製の凹金型とを備えると共に、当該凸金型における凸部に隣接するベース面に弾性体が配置される成形用金型を用いて、樹脂フィルムを絞り成形する工程を含む樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の製造方法としている。
【0010】
このような製法を採用することにより、寸法精度の高い樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材を、容易に、かつ低コストにて製造できる。さらに、金属製の凸金型のベース部の表面に弾性体を配置することによって、樹脂フィルムを絞り成形する際に、樹脂フィルムにかかる力がほぼ均一化し、樹脂フィルムの一部へ加重集中が発生しにくくなる。したがって、樹脂フィルムを、凸金型のベース部に配置された弾性体と凹金型の金属面に十分に密着させることができる。その結果、成形された樹脂フィルムにおけるキートップ部に隣接するベース部では、皺が発生しにくく、平滑な表面形態を有する樹脂フィルム絞り成形体が得られる。また、キートップ部が金属製の金型を介して形成されるため、剛性の高い樹脂フィルムを成形する場合でも、キートップ部の形状が変形せず、高精度な成形ができる。また、樹脂フィルム絞り成形体を一回で成形することが可能なので、製造工程の省力化により、コストダウンを実現できる。
【0011】
また、別の本発明は、金属製の凸金型と金属製の凹金型とを備える成形用金型であって、当該凸金型における凸部に隣接するベース面に弾性体が配置される成形用金型としている。
【0012】
このような構成の成形用金型を採用すると、上述と同様、成形された樹脂フィルムにおけるキートップ部に隣接する凹部(ベース部)では、皺が発生したり、破断を生じることがなく、樹脂フィルムの絞り加工を高精度に行うことができる。また、金属製の部位によって、キートップ部を所望の形状に精度良く成形できるため、キートップ部の外周が変形せず、剛性の高い樹脂フィルムを使用することもできる。
【0013】
また、別の本発明は、先の発明において、弾性体のデュロメータ硬さ(タイプA)が30度以上90度以下の範囲である成形用金型としている。当該硬さを30度以上とすることにより、耐久性が確保できる。また、当該硬さを90度以下とすることにより、形状追従性を高め、しわの発生を効果的に防止することができる。このため、樹脂フィルムを、凸金型のベース部に配置された弾性体と凹金型の金属面に十分に密着させることができる。その結果、樹脂フィルムのキートップ周囲にあるベース部の表面が平滑となる。
【0014】
本発明に係る樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の製造方法に用いられる樹脂フィルムの材料は、絞り成形できるものであれば、特に制限はない。ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリアミド、ポリウレタン、アクリル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー等の樹脂を好適に用いることができる。これらの樹脂のうち、透光性、易成形性、入手容易性、表面状態が良好であることおよび成形後の装飾加工性が良いこと等の点から、特に、ポリカーボネート樹脂またはポリエチレンテレフタレート樹脂を好適に用いることができる。ただし、上述の樹脂材料は一例に過ぎず、他の樹脂材料を採用しても良い。なお、樹脂材料は、上記のような一種類の樹脂材料でも、二種類以上の樹脂材料の混合物でも良い。また、樹脂フィルムが透明性を有するものであれば、裏面に光源を配置することにより、任意の箇所が光るように構成した透光性の樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材を得ることができる。また、樹脂フィルムには、本発明の効果を損なわない範囲で、熱安定剤、UV吸収剤、抗酸化剤、光安定剤、着色剤等の添加剤を添加することもできる。また、樹脂フィルムの厚みは、用途等に応じて、適宜選択することができる。一般的には、25μm〜200μm、特に75μm〜150μmが好ましい。さらに、樹脂フィルムは複数層を積層した積層体でも良い。
【0015】
凸金型のベース面に配置される弾性体としては、ウレタンエラストマーに代表される熱可塑性エラストマーあるいはシリコーンゴム等に代表される加硫ゴムが好適であるが、これらに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低コストにて、寸法精度の高い樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の製造方法および樹脂フィルムを成形するための成形用金型を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明に係る樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の製造方法および成形用金型の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に説明する好適な実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に係る製造方法にて製造された樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材1の構造を示す図であり、(A)は、樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材1を表側から見た概略斜視図であり、(B)は、樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材1を裏側から見た概略斜視図であり、(C)は、(A)に示す樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材1のA−A線断面図である。
【0019】
図1(C)に示すように、樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材1は、複数のキートップ部11を備えた樹脂フィルム10と、それらキートップ部11の裏面に形成される凹部に充填されるキートップコア部15とを備えている。樹脂フィルム10の裏側、すなわち、キートップコア部15との接触面側には、印刷層31が設けられている。図1(A)に示すように、印刷層31における各キートップ15の天面位置には、各キーの種類を示す文字、数字、図柄等の模様が描かれている。また、図1(B)に示すように、キートップコア部15の裏側には、裏方向に凸となる押圧子16が形成されている。押圧子16は、キートップコア部15の裏側に配置されるスイッチをオン/オフするための部分である。
【0020】
図2は、図1に示す樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材1の樹脂フィルム10を絞り成形するために用いた成形用金型20の断面図である。
【0021】
図2に示すように、成形用金型20は、凹部21を有する金属製の凹金型22と、凸部25を有する凸金型26とから構成されている。凸金型26における凸部25の周囲のベース面27には、弾性体30が配置される。凹金型22と凸金型26は、使用する際、互いに凹部21と凸部25とを合わせるように型閉めされる。
【0022】
成形用金型20の凹金型22と凸金型26とは金属材料により形成される。その金属材料としては、鉄、ステンレス、アルミニウム、タングステン合金等を採用しても良い。特に、高硬度、高耐食性の点でステンレスを用いることがより好ましい。ただし、上述の金属材料は一例に過ぎず、他の金属材料を採用しても良い。凹金型22の凹部21のうちの各角部は、成形する際の割れまたは亀裂を防止するために、面取りされる。この凹金型22の凹部21と凸金型26の凸部25とが相互に嵌合する。また、凹金型22の凹部21の高さは、成形対象物の寸法に応じて加工することができる。
【0023】
凸金型26のベース面27に配置される弾性体30は、弾性変形可能な材料、例えば、熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム等の硬化されたゴムからなる。樹脂フィルム10を、成形用金型20を用いて絞り成形する際、樹脂フィルム10を介して凹金型22の凹部21と凸金型26の凸部25を嵌合させると共に、樹脂フィルム10を介して凹金型22の凹部21周囲の凸部と凸金型26の弾性体30を嵌合させることができる。また、弾性体30のデュロメータ硬さ(タイプA)は、30度以上90度以下の範囲とするのが好ましい。この硬度範囲内の弾性体30を採用すれば、当該弾性体30の優れた形状追従性により、樹脂フィルム10を弾性体30および凹金型22の金属面に十分に密着させることができる。その結果、成形後の樹脂フィルム10に皺が発生しにくく、成形の精度を向上することができる。弾性体30の硬度の測定方法には、JIS K6253に準拠するデュロメータ硬さ(タイプA)の試験方法が採用される。また、弾性体30の形成方法としては、例えば、ベース面27と同一形状に成形された弾性体30を凸金型26に嵌め込む方法、当該弾性体30を凸金型26に溶着もしくは接着する方法が挙げられる。ただし、弾性体30の形成方法は、これらの方法に限定されるものではなく、別の方法であっても良い。
【0024】
次に、本発明の実施の形態に係る樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の製造方法について説明する。
【0025】
図3は、本発明の実施の形態に係る樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の製造工程を示すフローチャートである。図4は、樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材1の製造工程の一部を段階的に示す図である。
【0026】
まず、樹脂フィルム10の裏面(キートップの天面と反対側の面)に印刷層31を形成する(ステップS101)。この実施の形態では、図4(A)に示すように、樹脂フィルム10の裏面における所定位置に、文字、数字あるいは図柄等の模様が形成されている。印刷層31の形成方法としては、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法またはコート印刷法等の通常の印刷法が挙げられる。特に、多色刷りまたは階調表現を行う場合には、スクリーン印刷法、オフセット印刷法またはグラビア印刷法を好適に用いることができる。また、単色の場合には、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法等のコート法を採用することが好ましい。また、印刷層31は、表現したい図柄に応じて、全面または部分的に設けることもできる。なお、成形後の樹脂フィルム10のキートップ部11に、溶融樹脂を充填する際に印刷層31の保護を目的として、印刷層31の表面に、予め各種公知の表面処理等を施して、改質するようにしても良い。このような保護層を形成すれば、印刷層31を溶融樹脂を注入した際の熱から効果的に保護できる。
【0027】
次に、図4(B)に示すように、成形用金型20に樹脂フィルム10をセットする(ステップS102)。この実施の形態では、本発明の成形用金型20の凸金型26と凹金型22との間に、樹脂フィルム10を挟むように配置される。
【0028】
続いて、樹脂フィルム10の絞り成形を行う(ステップS103)。具体的には、図4(C)に示すように、加熱された凸金型26と加熱された凹金型22との間に、樹脂フィルム10を挟んで型閉めする。その結果、樹脂フィルム10の表側の面に突出するキートップ部11が形成される。また、樹脂フィルム10のキートップ部11以外の部分がベース面27に配置される弾性体30に密着することによって、キートップ部11以外の部分が平滑になる。これは、キートップ部11以外の部分はほぼ均一の圧力で押されるため、部分的な加重の集中が生じないためである。
【0029】
次に、図4(D)に示すように、成形用金型20から取り出された樹脂フィルム成形体35のキートップ部11の裏側に、溶融樹脂を射出する (ステップS104)。具体的には、樹脂フィルム成形体35を、本発明の成形用金型20から取り出し、キートップ部11と同じ位置で同じ形状を有する別の金型(図示せず)に配置する。その後、溶融した樹脂をキートップ部11の裏側の空間内にピンゲート等を用いて充填した後、これを硬化させる。この結果、図4(E)に示すような樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材1が得られる。
【0030】
その後、樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材1の不要部分を除去する。この実施の形態では、例えば、得られた樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材1を精密プレス機械、またはレーザー加工装置を使用して不要部分を切断することにより、樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材1が得られる。ただし、不要部分を除去する方法は、特に限定されない。
【0031】
以上、本発明に係る樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の製造方法および成形用金型の実施の形態について説明したが、本発明は、上述の各実施の形態に限定されず、種々変形した形態にて実施可能である。
【0032】
例えば、本発明の成形用金型20を型開きして、樹脂フィルム成形体35を取り出し、キートップコアとなる成形体の表面に、樹脂フィルム成形体35を接着剤により固着することもできる。すなわち、図3に示すステップS104を、キートップコアの貼付工程とすることもできる。このような工程を採用しても、樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材1が得られる。ただし、溶融樹脂の射出工程を行わない場合には、射出圧力による樹脂フィルム成形体35のコーナーを正確に形成することが難しいので、キートップコアの貼付工程を行うのは、R1以上のコーナーを有するものを製造する場合に適している。
【0033】
また、例えば、光硬化性樹脂等を用いて、表面に凸状の押釦形状部を形成し、その押釦形状部付きの樹脂フィルム10を絞り成形することによって、所望の形状を有する樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材1を形成しても良い。押釦形状部は、樹脂フィルム10の凸面よりも小さい方が好ましい。具体的には、押釦形状部は、その縁辺が樹脂フィルム10の凸面の縁辺よりも0.2mm以上内方となる大きさであるのが好ましい。押釦形状部の大きさが樹脂フィルム10の凸面の大きさよりも小さいほど、絞り加工時に発生する凸面の僅かな延びに対しても、押釦形状部が変形しにくくなるからである。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の各実施例について説明する。ただし、本発明は、以下に例示する各実施例によって限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
まず、厚さ100μmのポリカーボネートフィルム(商品名:ユーピロン,三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)の裏面に、文字、数字あるいは図柄等の模様を有する印刷層(加飾層)を形成した。印刷用のインクには、帝国インキ製造株式会社製のIPSインク(商品名)を用いた。次に、印刷されたポリカーボネートフィルムを、本発明の成形用金型(凸金型のベース面にウレタンエラストマーを付けた金型)に配置した。続いて、凸部を有する加熱された凸金型と凹部を有する加熱された凹金型とを型閉めし、ポリカーボネートフィルムがウレタンエラストマーの表面にも密着させるように成形した。成形用金型の温度は120℃とした。この結果、ポリカーボネートフィルムが絞り成形され、所望の形状を有するポリカーボネートフィルム成形体が得られた。
【0036】
次に、ポリカーボネートフィルム成形体を成形用金型から取り出し、別途用意した金型(キートップ部と同じ位置、同じ形状の凹部を有する金型)に配置した。次に、溶融したポリカーボネート樹脂を、ポリカーボネートフィルム成形体のキートップ部の裏側に形成された凹部に射出充填した。その後、硬化したポリカーボネートフィルム付き押釦スイッチ用部材の基材を金型から取り出した。最後に、打抜き型を用いて不要部分を除去し、ポリカーボネートフィルム付き押釦スイッチ用部材が得られた。得られたポリカーボネートフィルム付き押釦スイッチ用部材を構成するポリカーボネートフィルム成形体は、一回の絞り成形によって、製造されたので、キートップ部の周囲にあるベース面は、皺のない良好な表面形態を有していた。
【0037】
(実施例2)
まず、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:ルミラー,東レ株式会社製)の表面に、光硬化性樹脂を押釦形状に形成した。次に、ポリエチレンテレフタレートフィルムにおける押釦形状の樹脂と反対側の面におけるキートップ部に相当する位置に、文字、数字あるいは図柄等の模様を有する印刷層を形成した。印刷用のインクには、十条ケミカル株式会社製のHIPETインク(商品名)を用いた。続いて、印刷されたポリエチレンテレフタレートフィルムを実施例1で用いた成形用金型と同じ成形用金型を用いて絞り成形を行った。この結果、ポリエチレンテレフタレートフィルムが絞り成形され、所望の形状を有するポリエチレンテレフタレートフィルム成形体が得られた。
【0038】
次に、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:ルミラー,東レ株式会社製)に光硬化性樹脂製の突起(押圧子となる部材)を貼付し、キートップ裏側のフィルム内底面に合うような形状に裁断する。次に、その裁断された樹脂をフィルム内底面に貼付した。最後に、打抜き型を用いて不要部分を除去し、ポリエチレンテレフタレートフィルム付き押釦スイッチ用部材が得られた。得られたポリエチレンテレフタレートフィルム付き押釦スイッチ用部材を構成するポリエチレンテレフタレートフィルム成形体は、一回の絞り成形によって製造されたので、キートップ部の周囲にあるベース面は、皺のない良好な表面形態を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材を製造あるいは使用する産業、例えば、携帯情報端末、各種OA機器等の電子デバイス産業において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態に係る製造方法にて製造された樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の構造を示す図であり、(A)は、樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材を表側から見た概略斜視図であり、(B)は、樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材を裏側から見た概略斜視図であり、(C)は、(A)に示す樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材のA−A線断面図である。
【図2】図1に示す樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の樹脂フィルムを絞り成形するために用いた成形用金型の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の製造工程を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態に係る樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の製造工程の一部を段階的に示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材
10 樹脂フィルム
11 キートップ部
15 キートップコア部(コア部)
16 押圧子
20 成形用金型
21 凹部
22 凹金型
25 凸部
26 凸金型
27 ベース面
30 弾性体
31 印刷層
35 樹脂フィルム成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア材の表面を樹脂フィルムで覆う形態を有する樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の製造方法であって、
金属製の凸金型と金属製の凹金型とを備えると共に、当該凸金型における凸部に隣接するベース面に弾性体が配置される成形用金型を用いて、上記樹脂フィルムを絞り成形する工程を含むことを特徴とする樹脂フィルム付き押釦スイッチ用部材の製造方法。
【請求項2】
金属製の凸金型と金属製の凹金型とを備える成形用金型であって、
当該凸金型における凸部に隣接するベース面に弾性体が配置されることを特徴とする成形用金型。
【請求項3】
前記弾性体のデュロメータ硬さ(タイプA)が30度以上90度以下の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−123896(P2008−123896A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307802(P2006−307802)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】