説明

樹脂フィルム用延伸装置

【課題】テンタクリップのチャッキング不安定、チャック不良、あるいは、延伸中にチャッキングピッチが不均一になるのを防止することができる樹脂フィルム用延伸装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る樹脂フィルム用延伸装置10は、樹脂フィルムの左右縁部を把持するテンタクリップ17が列設され、その樹脂フィルム50の受入側の従動スプロケット15と送出側の駆動スプロケット13間に掛け渡されて周回するクリップチェーン11が、その樹脂フィルム50の走行方向に対して対称に配設された樹脂フィルム用延伸装置であって、前記従動スプロケット15を樹脂フィルム50の走行方向と平行に移動させて前記クリップチェーン11の張り調整を行う一対の張調整手段25と、前記従動スプロケット15の順方向の回転負荷を調整する一対の負荷調整手段30と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムの延伸を行う樹脂フィルム用延伸装置に係り、特にテンタクリップが列設されたクリップチェーンの摩耗等に起因する製品不良を防止することができる樹脂フィルム用延伸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融樹脂から成形された樹脂フィルムは、樹脂フィルムを構成する高分子の配向、強度や特性の向上を図るために、樹脂フィルム用延伸装置により所定の温度のオーブン内で一軸又は二軸方向の延伸が行われている。
【0003】
この樹脂フィルム用延伸装置でテンタクリップを設けている樹脂フィルム用延伸装置は、樹脂フィルムの受入口から送出口方向に対し、対称に配設され周回する一対のクリップチェーンと、その各クリップチェーンに列設されたテンタクリップとを有し、受入口で受入れた樹脂フィルムの左右縁部をそのテンタクリップで把持し受入口から送出口に向かって移行する間にその樹脂フィルムを延伸することができるようになっている。
【0004】
そして、クリップチェーンは、一般には駆動スプロケットと従動スプロケット間に掛け渡されて周回するようになっているが、スプロケットを使用しない従動輪を用いた樹脂フィルム用延伸装置や、クリップチェーンの方向変換を行うだけで回転もしない案内レールを用いた樹脂フィルム用延伸装置がある。また、クリップチェーンではなく、特別のリンク要素を無端状に連結してなる無端リンク装置を有する樹脂フィルム用延伸装置等がある。
【0005】
このような樹脂フィルム用延伸装置は、種々の構造のものが提案されているが、多数のリンク要素が無端状に連結されたクリップチェーンや無端リンク装置を有しているため、リンク結合部分の摩耗によりクリップチェーン等の長さが長くなり、樹脂フィルムに作用する張力の変動等に起因して製品不良を生ずる恐れを有している。このため、特許文献1に示すような案内レールあるいは従動スプロケット等を樹脂フィルムの受入口又は送出口方向に移動し、クリップチェーン等に作用する初期張力を調整することができるクリップチェーンの張調整手段が設けられている。そして、特許文献2には、延伸ポリオレフィンの製造において、テンタ延伸機のテンタチェーン張力を張調整手段により1960N以下にする延伸ポレオレフィンフィルムの製造方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献3には、クリップチェーンの特定のリンク部に取り付けられたセンサが所定区間を通過する時間を管理する手段を用いて、湿潤フィルムを横方向に延伸させて乾燥を行って製造を行うポリマーフィルムの製造方法が提案されている。
【0007】
特許文献4には、複数の等長リンクが連結された無端リンク装置において、複数の等長リンクの位置を検知するセンサを設け、それらの出力から無端リンク装置の対の等長リンクの走行の同期のずれのパターンを検出し、パターンに応じて入口側および出口側のスプロケットの駆動を調節する制御装置を備えた延伸機が提案されている。
【0008】
特許文献5には、長さがL(mm)である2組のテンタチェーンを備えたテンタ式乾燥機を用いて溶液製膜方法で製造されるポリマーフィルムにおいて、前記テンタチェーン両サイドのテンタチェーンの伸びの差を0.0001×L(mm)以下に調整して製造するポリマーフィルムが提案されており、テンタチェーンの伸びの調整は、2組のスプロケットの少なくともいずれかを変位させて行うことが記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平04-41354号公報
【特許文献2】特開2006-235085号公報
【特許文献3】特開2007-261066号公報
【特許文献4】特開2008-126433号公報
【特許文献5】特開2006-103145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の樹脂フィルム用延伸装置は、クリップチェーン又は無端リンク装置の摩耗による伸びに起因する不具合を防止するため各種の手段が設けられている。例えば、クリップチェーン等の伸び代を調整してクリップチェーン等に初期張力を付与する張調整手段や伸び代を監視する手段を設け、あるいは、対称に配設された一対のクリップチェーン等の伸び代が必ずしも同等でないことを考慮して両者のクリップチェーン等の伸び代を監視又は調整する手段が設けられている。
【0011】
しかしながら、クリップチェーン等の伸びに起因すると思われるテンタクリップのチャッキング不安定、チャック不良、あるいは、延伸中にチャッキングピッチが不均一になり製品不良を生ずる問題等がある。また、さらに高生産性の樹脂フィルム用延伸装置が求められており、このようなクリップチェーン等の伸びに起因すると思われる問題が重大になる恐れがある。
【0012】
本発明は係る従来技術の問題点に鑑み、クリップチェーン等の伸びに起因する不具合の発生を抑制することができ、テンタクリップのチャッキング不安定、チャック不良等がなく、高サイクルで製造することができる高生産性の樹脂フィルム用延伸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る樹脂フィルム用延伸装置は、樹脂フィルムの左右縁部を把持するテンタクリップが列設され、その樹脂フィルムの受入側の従動スプロケットと送出側の駆動スプロケット間に掛け渡されて周回するクリップチェーンが、その樹脂フィルムの走行方向に対して対称に配設された樹脂フィルム用延伸装置であって、前記従動スプロケットを樹脂フィルムの走行方向と平行に移動させて前記クリップチェーンの張り調整を行う一対の張調整手段と、前記従動スプロケットの順方向の回転負荷を調整する一対の負荷調整手段と、を有する。
【0014】
上記発明において、負荷調整手段としてブレーキ又はクラッチ付きブレーキを使用することができる。
【0015】
また、本発明に係る樹脂フィルム用延伸装置は、樹脂フィルムの左右縁部を把持するテンタクリップが列設され、その樹脂フィルムの受入側の従動輪と送出側の駆動輪間に掛け渡されて周回するクリップチェーンが、その樹脂フィルムの走行方向に対して対称に配設された樹脂フィルム用延伸装置であって、前記従動輪を樹脂フィルムの走行方向と平行に移動させて前記クリップチェーンの張り調整を行う一対の張調整手段と、前記一対のクリップチェーンの従動輪側のそれぞれの内側チェーンに掛かる張力Tfが、外側のチェーに掛かる張力Tbよりも高く、かつ、前記張調整手段により調整され内側チェーン及び外側チェーンに付与される初期張力Tに対し、0.1T≦Tf-Tb≦0.7T であるように調整する一対の負荷調整手段と、を有する。
【0016】
上記発明において、負荷調整手段は、電磁パウダクラッチ/ブレーキと前記従動輪の回転負荷を計測するセンサと、そのセンサの出力に基づき前記電磁パウダクラッチ/ブレーキの出力を調整する制御手段と、を有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る樹脂フィルム用延伸装置は、テンタクリップのチャッキング不安定、チャック不良、あるいは、延伸中にチャッキングピッチが不均一になるのを防止することができ、高生産性の樹脂フィルム用延伸装置として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る樹脂フィルム用延伸装置の概要を示す平面図である。
【図3】図1のA部の拡大正面を示す一部断面図である。
【図2】本樹脂フィルム用延伸装置の構成を模式化した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明を実施するための形態について図面を基に説明する。図1は、本発明に係る樹脂フィルム用延伸装置の概要を示す平面図である。図1に示すように、本樹脂フィルム用延伸装置10は、樹脂フィルム50の受入口41から送出口43方向にクリップチェーン11(11A、11B)が一対、対称に配設されている。クリップチェーン11A、11Bは、樹脂フィルム50の受入側に設けられた従動スプロケット15(15A、15B)と送出側に設けられた駆動スプロケット13(13A、13B)間に掛け渡されて、それぞれ矢印方向(順方向)に周回するようになっている。なお、クリップチェーン11は、レール20(20A、20B)にガイドされて配設されている。
【0020】
クリップチェーン11には、多数のテンタクリップ17が列設されている。テンタクリップ17は、樹脂フィルムの左右縁部を把持することができ、クリップチェーン11とともに周回している。すなわち、受入口41で受け入れられた樹脂フィルム50は、その左右縁部が列設するテンタクリップ17により把持され、クリップチェーン11A及び11Bの内側に沿って送出口43に向かって移送され、延伸が行われる。テンタクリップ17は、送出口43側の駆動スプロケット13の直前で樹脂フィルム50の把持から解放され、駆動スプロケット13を回ってクリップチェーン11A及び11Bの外側に沿って受入口41の従動スプロケット15に至り、従動スプロケット15と駆動スプロケット13間を周回する。
【0021】
図2は、図1のA部の拡大正面図であり、従動スプロケット15(15A)部分の一部断面を示す。図2に示すように、従動スプロケット15は、レール20(20A)に支持された支持フレーム23(23A)に保持されている。支持フレーム23は、張調整手段25(25A)によりレール20に対して前後方向に移動させることができるようになっており、従動スプロケット15を受入口方向又は送出口方向に移動させてクリップチェーン11(11A)の張り調整を行い、クリップチェーン11に付与する初期張力を調整できるようになっている。
【0022】
また、従動スプロケット15には負荷調整手段30(30A)が設けられており、従動スプロケット15の回転負荷を調整できるようになっている。負荷調整手段30は、電磁パウダクラッチ/ブレーキ31と、従動スプロケット15の回転負荷を計測するセンサ(図示せず)と、センサの出力に基づき電磁パウダクラッチ/ブレーキ31の出力を調整する制御手段(図示せず)と、を有している。なお、従動スプロケット15は、カップリング33を介して電磁パウダクラッチ/ブレーキ31に連結されている。
【0023】
本樹脂フィルム用延伸装置10は、このような構成を有しており、張調整手段25によりクリップチェーン11に所要の初期張力を付与することができるとともに、負荷調整手段30によりクリップチェーン11の内側に対し、外側よりも大きい所要の張力を付与することができる。これにより、本樹脂フィルム用延伸装置10は、テンタクリップ17のチャッキング不安定、チャック不良、あるいは、延伸中にチャッキングピッチが不均一になるのを防止することができる。
【0024】
図3は、上述した樹脂フィルム用延伸装置10の構成を模式化した説明図であり、本発明の特徴をよく表している。すなわち、クリップチェーン11が駆動スプロケット13と従動スプロケット15間に掛け渡され、クリップチェーン11の張調整手段25と、負荷調整手段30を有している。そして、クリップチェーン11に列設されたテンタクリップ17がクリップチェーン11とともに周回する構成を有している。なお、図3は、受入口41から送出口43方向に対して対称に配設された樹脂フィルム用延伸装置10の片方の構造部分を示している。
【0025】
図3において、クリップチェーン11が初期張力Tに調整され図1の矢印方向に周回している場合に、クリップチェーン11の内側(図3において上側)及び外側(図3において下側)に作用する引張力をそれぞれTf、Tbとすると、Tf>Tbであることが分かる。また、クリップチェーン11の内側は緊張傾向にあり、外側は緩和傾向にあることが分かる。
【0026】
テンタクリップ17のチャッキング不安定、チャック不良、あるいは、延伸中にチャッキングピッチが不均一になるなどの不具合は、クリップチェーン11の内側に作用する引張力Tfが変動することに起因している。Tfの変動は、初期張力T及びTf-Tbの大きさと関係しており、Tfの変動による不具合の発生を抑制するには、クリップチェーン11の内側を安定した緊張傾向にあるように保持するのがよく、0.1T≦Tf-Tb≦0.7T とするのがよい。
【0027】
クリップチェーン11の内側を安定した緊張傾向にあるように保持するのは、クリップチェーン11の伸び代を監視し、常に一定の初期張力が作用するように張調整を行うことによっても可能であるが、図3に示すように負荷調整手段30により従動スプロケット15の回転負荷を調整し、0.1T≦Tf-Tb≦0.7T になるように調整するのが容易であり、また確実である。
【0028】
本樹脂フィルム用延伸装置10は、上記説明から明らかなように、クリップチェーン11を周回させる従動スプロケット15又は駆動スプロケット13部分は、クリップチェーン11とかみ合うような歯を有さない従動輪又は駆動輪であってもよい。しかしながら、クリップチェーン11に作用する引張力Tf-Tbを調整するには、スプロケットの方がよい。
【0029】
負荷調整手段30は、従動スプロケット15の回転負荷を調整できるものであればよく、ディスクブレーキ、電磁ブレーキ、あるいはボルトやスプリングで摩擦板を押し付ける機構等の制動手段であってもよい。また、負荷調整手段30は、電磁パウダクラッチ/ブレーキ31と従動スプロケット15の回転負荷を計測するセンサと、そのセンサの出力に基づき電磁パウダクラッチ/ブレーキ31の出力を調整する制御手段と、を有するものであってもよく、このような負荷調整手段30の場合は、従動スプロケット15の回転負荷をオンラインで最適に調整できるのでよい。なお、負荷調整手段30は、さらに、従動スプロケット15との結合を開放するクラッチを有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0030】
10 樹脂フィルム用延伸装置
11、11A、11B クリップチェーン
13、13A、13B 駆動スプロケット
15、15A、15B 従動スプロケット
17 テンタクリップ
20、20A、20B レール
23、23A 支持フレーム
25、25A 張調整手段
30、30A 負荷調整手段
31 電磁パウダクラッチ/ブレーキ
33 カップリング
41 受入口
43 送出口
50 樹脂フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムの左右縁部を把持するテンタークリップが列設され、その樹脂フィルムの受入側の従動スプロケットと送出側の駆動スプロケット間に掛け渡されて周回するクリップチェーンが、その樹脂フィルムの走行方向に対して対称に配設された樹脂フィルム用延伸装置であって、
前記従動スプロケットを樹脂フィルムの走行方向と平行に移動させて前記クリップチェーンの張り調整を行う一対の張調整手段と、
前記従動スプロケットの順方向の回転負荷を調整する一対の負荷調整手段と、を有する樹脂フィルム用延伸装置。
【請求項2】
前記負荷調整手段は、ブレーキ又はクラッチ付きブレーキであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂フィルム用延伸装置。
【請求項3】
樹脂フィルムの左右縁部を把持するテンタークリップが列設され、その樹脂フィルムの受入側の従動輪と送出側の駆動輪間に掛け渡されて周回するクリップチェーンが、その樹脂フィルムの走行方向に対して対称に配設された樹脂フィルム用延伸装置であって、
前記従動輪を樹脂フィルムの走行方向と平行に移動させて前記クリップチェーンの張り調整を行う一対の張調整手段と、
前記一対のクリップチェーンの従動輪側のそれぞれの内側チェーンに掛かる張力Tfが、外側のチェーンに掛かる張力Tbよりも高く、かつ、前記張調整手段により調整され内側チェーン及び外側チェーンに付与される初期張力Tに対し、0.1T≦Tf-Tb≦0.7T であるように調整する一対の負荷調整手段と、を有する樹脂フィルム用延伸装置。
【請求項4】
前記負荷調整手段は、電磁パウダクラッチ/ブレーキと前記従動輪の回転負荷を計測するセンサと、そのセンサの出力に基づき前記電磁パウダクラッチ/ブレーキの出力を調整する制御手段と、を有する請求項3に記載の樹脂フィルム用延伸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−25598(P2011−25598A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175570(P2009−175570)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】