説明

樹脂フィルム

【課題】耐吸湿失透性に優れ、かつ、輻射線を効率良く遮断する樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】下記要件(1)を満たす第一の輻射線遮断剤と、第一の輻射線遮断剤とは異なる化学組成を有し、下記要件(2)を満たす第二の輻射線遮断剤と、ポリオレフィン系樹脂とを含み、かつ、下記要件(3)を満たす樹脂フィルム。
(1)輻射線遮断剤の、温度23℃、相対湿度50%で72時間保管し、続いて、温度60℃、相対湿度50%で24時間保管したときの吸湿水分量をβとしたとき、β≦5重量%。
(2)輻射線遮断剤の輻射線透過指数をαとしたとき、α≦60。
(3)樹脂フィルムに含まれる第一の輻射線遮断剤の重量の前記樹脂フィルムに含まれる第二の輻射線遮断剤の重量に対する比が、3:1〜8:1の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輻射線遮断性ポリオレフィン系樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な農業資材の一つに、ハウス、トンネル等の施設の被覆に用いられる農業用フィルムがある。農業用フィルムとしては、従来、ポリ塩化ビニルフィルムや、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン系樹脂からなるフィルムが広く使用されている。中でも、軽量であり、焼却時に有毒ガスが発生し難いポリオレフィン系樹脂フィルムが施設園芸用に広く普及している。施設園芸において良好な作物生育性を発現するためにこれら農業用フィルムに要求される性能として、透明性、および輻射線遮断性が挙げられる。
【0003】
フィルムに輻射線遮断性を付与する方法としては、フィルムのベース材料に無機フィラーを練り込む方法が一般的である。無機フィラーが練り込まれた樹脂フィルムの例として、特許文献1には、リチウム・アルミニウム・マグネシウム及び/又は亜鉛複合水酸化物縮合ケイ酸塩とハイドロタルサイト類化合物の配合重量比率が30/70〜70/30である配合物を含有するポリオレフィン系樹脂組成物層を有するポリオレフィン系樹脂多層フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−16995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているようなフィルムは、フィルムが水に長時間晒されたとき、吸湿により、透明性が悪化するという課題があった。
【0006】
本発明の目的は、水に長時間晒されても透明性が悪化し難い、即ち、耐吸湿失透性に優れ、かつ、輻射線を効率良く遮断することができる樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、下記要件(1)を満たす第一の輻射線遮断剤と、前記第一の輻射線遮断剤とは異なる化学組成を有し、下記要件(2)を満たす第二の輻射線遮断剤と、ポリオレフィン系樹脂とを含み、かつ、下記要件(3)を満たす樹脂フィルムである。
(1)輻射線遮断剤の、温度23℃、相対湿度50%で72時間保管し、続いて、温度60℃、相対湿度50%で24時間保管したときの吸湿水分量をβとしたとき、β≦5重量%。
(2)輻射線遮断剤の輻射線透過指数をαとしたとき、α≦60。
(3)樹脂フィルムに含まれる第一の輻射線遮断剤の重量の前記樹脂フィルムに含まれる第二の輻射線遮断剤の重量に対する比が、3:1〜8:1の範囲にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂フィルムは、耐吸湿失透性と輻射線遮断性のバランスに優れるフィルムである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の樹脂フィルムは、少なくとも2種の輻射線遮断剤を含有する。輻射線遮断剤とは、波長2〜25μmの領域の赤外線を吸収または反射する性質を有する物質である。
【0010】
輻射線遮断剤としては、例えば、赤外線吸収剤や赤外線反射剤が挙げられる。赤外線反射剤は少なくとも上記波長領域の中のいずれかの波長の赤外線を反射する。
【0011】
本発明において用いられる第一の輻射線遮断剤は、温度23℃、相対湿度50%下で72時間保管した試料を、続いて、温度60℃、相対湿度50%下で24時間保管したときの前記試料の吸湿水分量をβ重量%としたとき、β≦5重量%を満たす輻射線遮断剤であり、β≦2重量%が好ましく、β≦0.5重量%がより好ましい。ここで、吸湿水分量は、下記式で定義される。
吸湿水分量β=((W2−W1)/W2)×100 (%)
W1:温度23℃、相対湿度50%下で72時間保管した輻射線遮断剤の試料を温度60℃、相対湿度50%下に暴露し始めた時の前記試料の重量。
W2:W1を測定した時点から更に、前記試料を温度60℃、相対湿度50%下で24時間保管した時点での前記試料の重量。
このような第一の輻射線遮断剤を用いることは、フィルムの耐吸湿失透性の向上に寄与する。
【0012】
好ましい第一の輻射線遮断剤としては、下記式(I)で示されるハイドロタルサイト類化合物が挙げられる。
2+1-xAlx(OH)(An-X/n・mH2O 式(I)
式中、M2+は2価の金属カチオンであり、An-はn価のアニオンであり、xおよびmは、0<x<0.5および0≦m<2という条件を満たす。
【0013】
2価の金属カチオンM2+としては、Mg2+、Ca2+およびZn2+が例示される。n価のアニオンAn-は特に限定されず、例えばCl-、Br-、I-、NO3-、ClO4-、SO42-、CO32-、HPO43-、HBO43-、PO43-、Fe(CN)63-、Fe(CN)64-、CH3COO-、C64(OH)COO-、(COO)22-、テレフタル酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン等のアニオンが挙げられる。式(I)で示される化合物として、具体的には、例えば、天然ハイドロタルサイトや、スタビエースHT−P(堺化学工業株式会社製)、DHT−4A(協和化学工業株式会社製)などの合成ハイドロタルサイトが挙げられる。なお、式(I)中のnは、1以上、4以下であることが好ましい。
【0014】
本発明において用いられる第二の輻射線遮断剤は、輻射線透過指数をαとした時、α≦60を満たすものであり、α≦56が好ましく、α≦52がより好ましい。このような第二の輻射線遮断剤を用いることにより、輻射線遮断性能に優れるフィルムを得ることができる。ここで、輻射線遮断剤の輻射線透過指数について説明する。
まず、KBrと輻射線遮断剤とからなる錠剤を得る。この時、KBrと輻射線遮断剤のそれぞれの配合重量は、KBr=190mg、輻射線遮断剤=0.3mgとし、錠剤の大きさは直径=10mm、厚み=1mmとする。
次に、この錠剤について、波長2.5×10−6〜25×10−6mの範囲で、透過法により赤外線吸収スペクトルを温度296Kにて測定し、波長λでの透過率T(λ)%の値を得る。
一方、プランクの法則から導かれた下記式(IV)を用いて、296Kにおける波長λでの黒体輻射スペクトル強度e(λ)を計算する。
黒体輻射スペクトル強度 e(λ)=(A/λ5)/{exp(B/(λ×T))−1}(式IV)
ただし、A=2πhC2=3.74×10-16(W・m2
B=hC/k=0.01439(m・K)
Tは絶対温度(K)、λは波長(m)
であって、hはプランク定数、Cは光速、kはボルツマン定数、Aは第一放射定数、Bは第二放射定数、である。
次に、(式V)に従って、黒体輻射スペクトル強度e(λ)と透過率T(λ)との積を100で割って輻射線透過強度f(λ)を得る。
輻射線透過強度 f(λ)=e(λ)×T(λ)/100 (式V)
輻射線透過強度f(λ)を波長2.5×10−6〜25×10−6mの範囲で積分して輻射線透過エネルギーFを得、黒体輻射スペクトル強度e(λ)を波長2.5×10−6〜25×10−6mの範囲で積分して黒体輻射エネルギーEを得、更に、式:α=100×F/Eで定義されるパラメータαを算出する。本発明では、このパラメータαを、輻射線遮断剤の輻射線透過指数と定義する。
【0015】
第二の輻射線遮断剤は、α≦60を満たすものであればよいが、Si−O結合を有する化合物が好ましい。地面から放射される赤外線のスペクトルは波長約10μmでピークを示し、一方、Si−O結合は波長約10μmに吸収特性を有する。そのため、Si−O結合を有する輻射線遮断剤は、効率よく輻射線を吸収することができる。
【0016】
このような第二の輻射線遮断剤としては、WO97/00828に開示された下記式(II)で表わされる複合水酸化物が挙げられる。
[(Li+ (1-x)2+x)(Al3+)2(OH-)6]2(Siy(2y+1)2-)(1+x)・mH2O (II)
式中、M2+は2価の金属カチオンであり、m、xおよびyは、0≦m<5、0≦x<1、2≦y≦4という条件を満たす。M2+としては、Mg2+、Ca2+およびZn2+が例示される。
【0017】
上記式(II)で示される複合水酸化物の好ましいものとしては、式(II)においてx=0である化合物、すなわち下記式(III)で示される複合水酸化物が挙げられる。
[Li+ (Al3+)2(OH-)6]2(Siy(2y+1)2-)・mH2O (III)
式中、m、およびyは、0≦m<5、2≦y≦4という条件を満たす。このような複合水酸化物の例としては、OPTIMA−SS(戸田工業株式会社製)が挙げられる。
【0018】
樹脂フィルムの輻射線遮断性と耐吸湿失透性のバランスの観点から、本発明の樹脂フィルムにおける第一の輻射線遮断剤と第二の輻射線遮断剤の配合重量比は、第一の輻射線遮断剤:第二の輻射線遮断剤=3:1〜8:1であり、好ましくは、4:1〜6:1である。
【0019】
第一の輻射線遮断剤の平均粒子径および第二の輻射線遮断剤の平均粒子径が、いずれも5μm以下であることが好ましく、0.05〜3μmであることがより好ましく、0.1〜1μmであることが特に好ましい。
【0020】
樹脂中またはフィルム中での輻射線遮断剤の分散性を向上させるために、輻射線遮断剤には分散剤で表面処理を施してもよい。分散剤としては、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸等の高級脂肪酸、高級脂肪酸の金属塩(例えば、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、バリウム塩、ナトリウム塩)である金属石鹸、リン酸エステル、シラン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、各種ワックス等が例示できる。表面処理の方法は、上記分散剤が輻射線遮断剤の表面に均一に付着する方法であればよく、例えば、輻射線遮断剤を適当な溶媒中に分散させてスラリーにし、前記スラリーと上記分散剤を混合し、攪拌する方法が挙げられる。
【0021】
本発明で用いるポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンとの共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体などのエチレンを主成分とするエチレンと異種単量体との共重合体などのポリエチレン系樹脂が挙げられる。低密度ポリエチレンの密度は特に限定されるものではなく、例えば、密度が910〜930kg/mの低密度ポリエチレンを用いることができる。また、本発明では、高密度ポリエチレンの密度は特に限定されるものではなく、例えば、密度が941〜970kg/mの低密度ポリエチレンを用いることができる。
【0022】
エチレンと共重合する炭素原子数3〜20のα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンが挙げられる。より好ましくは、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンが挙げられる。前記の炭素原子数3〜20のα−オレフィンは、2種以上を組み合わせてもよく、そのような組み合わせとして、例えば、1−ブテンと4−メチル−1−ペンテンとの組み合わせ、1−ブテンと1−ヘキセンとの組み合わせ、1−ブテンと1−オクテンとの組み合わせ、1−ブテンと1−デセンとの組み合わせなどが挙げられる。より好ましくは、1−ブテンと4−メチル−1−ペンテンとの組み合わせ、1−ブテンと1−ヘキセンとの組み合わせが挙げられる。
【0023】
エチレン・α−オレフィン共重合体の密度は特に限定されるものではなく、例えば、密度が870〜940kg/mのエチレン・α−オレフィン共重合体を使用することができる。
【0024】
本発明におけるエチレン・α−オレフィン共重合体として好ましくは、エチレン・1−ヘキセン共重合体、エチレン・1−ブテン・1−ヘキセン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体、エチレン・1−ブテン・1−オクテン共重合体が挙げられる。
【0025】
エチレンを主成分とするエチレンと異種単量体との共重合体のなかでは、エチレン・酢酸ビニル共重合体が好ましい。酢酸ビニル単位の含有量は、30重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましい。エチレン・酢酸ビニル共重合体の密度は特に限定されるものではなく、例えば、密度が910〜950kg/mのエチレン・酢酸ビニル共重合体を使用するこことができる。
【0026】
透明性や強度と、輻射線遮断性能とのバランスの観点から、本発明の樹脂フィルムにおける第一の輻射線遮断剤と第二の輻射線遮断剤の合計配合量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、好ましくは5〜15重量部、より好ましくは8〜12重量部である。本発明の樹脂フィルムにおけるポリオレフィン系樹脂の配合量は、特に限定されるものではなく、樹脂フィルム全体を100重量%とした時、好ましくは、95〜70重量%である。
【0027】
本発明の樹脂フィルムの厚みは、フィルム強度の観点から、0.01mm以上であることが好ましい。また、前記樹脂フィルムを農園芸用施設の被覆フィルムとして用いる場合には、被覆作業性などの観点から、前記樹脂フィルムの厚みは0.3mm以下が好ましく、0.03〜0.25mmの範囲がより好ましく、0.1〜0.15mmが特に好ましい。
【0028】
本発明の樹脂フィルムは、単層フィルムに限定されるものではなく、多層フィルムでもよい。本発明の樹脂フィルムが多層フィルムである場合、その層構成は特に限定されず、例えば、2種2層、2種3層、3種3層、3種4層、4種4層、4種5層、5種5層等の層構成が例示できる。
【0029】
多層フィルムの場合、第一の輻射線遮断剤、および第二の輻射線遮断剤の分布状態は特に限定されない。第一の輻射線遮断剤、および第二の輻射線遮断剤は同一のポリオレフィン系樹脂層のなかに含まれていてもよいし、別々のポリオレフィン系樹脂層の中に含まれていてもよい。また、多層フィルムが、輻射線遮断剤を含有するポリオレフィン系樹脂層の他に、輻射線遮断剤を含有しないポリオレフィン系樹脂層を有していてもよい。
【0030】
本発明の樹脂フィルムは、例えば、所定量の輻射線遮断剤および、必要に応じて、各種の添加剤をポリオレフィン系樹脂に添加し、これらを混合・混練機で混練して得られた樹脂組成物を用いて製造することができる。単層フィルムの製造には、インフレーション成形法、押出T−ダイキャスティング成形法およびカレンダー成形法などの製膜方法が用いられ、多層フィルムの製造には、共押出インフレーション成形法、共押出T−ダイキャスティング成形法、溶融コーティング成形法、押出ラミネーション成形法、ドライラミネーション成形法などの製膜方法も用いられる。尚、上記樹脂組成物の調製において、混合・混練機としては、例えば、リボンブレンダー、スーパーミキサー、バンバリーミキサー、単軸押出機、および2軸押出機などのポリオレフィン系樹脂の加工に通常使用されている装置を使用することができる。なかでも、広幅の樹脂フィルムを効率的に製造することができるインフレーション成形法が好ましい。
【0031】
本発明の樹脂フィルムの好ましい例のひとつとして、第一層、前記第一層に隣接する第二層、及び前記第二層に隣接し、前記第一層の反対側に位置する第三層からなる多層フィルムであって、前記第二層(中間層)が、第一の輻射線遮断剤、第二の輻射線遮断剤およびポリオレフィン系樹脂からなり、前記第一層および第三層(外層)が、それぞれポリオレフィン系樹脂からなっている多層フィルムが挙げられる。このような構成を有する樹脂フィルムは、透明性、強度、衝撃性、耐ブロッキング性、耐吸湿失透性、輻射線遮断性などに優れている。
【0032】
前記3層フィルムにおいて、前記両外層の厚みは、それぞれ10〜50μmが好ましい。前記中間層の厚みは30〜150μmが好ましい。前記中間層の厚みは両外層のそれぞれの厚みよりも大きいことが好ましく、前記中間層の厚みは、各外層のそれぞれの厚みの2〜4倍であることが好ましい。
【0033】
本発明の樹脂フィルムの好ましい実施形態の例は、前記本発明の樹脂フィルムであって、その一方の表面を構成する防曇性被膜の層を有するフィルムである。かかる防曇性被膜としては、無機酸化物ゾルのコーティング膜や、無機酸化物と有機化合物からなるコーティング膜が挙げられる。無機酸化物ゾルとしては、例えば、コロイダルシリカやアルミナゾルが挙げられ、有機化合物としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂などの高分子樹脂バインダーや、界面活性剤が挙げられる。防曇性被膜は、樹脂フィルムの片面上に形成されていてもよいし、樹脂フィルムの両面のそれぞれの上に防曇性被膜が形成されていてもよい。また、防曇性被膜は単層膜でも2層以上の多層膜でもよい。樹脂フィルム上に防曇性被膜を積層する方法は、塗布による方法でもよいし、予め作製した防曇性被膜を樹脂フィルムに積層する方法でもよい。
【0034】
塗布による方法を用いる場合には、グラビアコーティング、バーコーティングなどの公知の塗工手段を用いることができる。
【0035】
本発明の樹脂フィルムは、必要に応じて輻射線遮断剤以外の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、防霧剤、滑剤、抗ブロッキング剤、帯電防止剤、顔料等が挙げられる。
【0036】
酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジアルキルフェノール誘導体や2−アルキルフェノール誘導体などのいわゆるヒンダードフェノール系化合物、フォスファイト系化合物やフォスフォナイト系化合物などの3価のリン原子を含むリン系エステル化合物が挙げられる。これら酸化防止剤は、単独で用いても2種類以上を併用してもよい。特に色相安定化の観点から、ヒンダードフェノール系化合物とリン系エステル化合物を併用して用いることが好ましい。また酸化防止剤は、各層の重量を100%とするとき、それぞれの層に0.01〜1重量%含まれることが好ましく、0.03〜0.5重量%含有されることがより好ましい。
【0037】
光安定剤としては、例えば、特開平8−73667号公報に記載の構造を有するヒンダードアミン系化合物が挙げられ、具体的には、商品名チヌビン622−LD、キマソーブ944−LD(以上チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、ホスタビンN30、VP Sanduvor PR−31(以上クラリアント社製)、サイヤソーブUV3529、サイヤソーブUV3346(以上サイテック社製)などが挙げられる。さらには、特開平11−315067号公報に記載の構造を有する立体障害性アミンエーテル化合物が挙げられ、具体的には、商品名チヌビンNOR371(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)が挙げられる。各層に含まれる光安定剤の量は、0.01〜3重量%が好ましく、0.05〜2重量%がより好ましく、特に0.1〜1重量%が好ましい。
【0038】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等が挙げられ、これらは、単独で用いても2種類以上を併用してもよい。各層に含まれる紫外線吸収剤の量は、耐候性付与効果とフィルム表面へのブリード抑制の観点から、0.01〜3重量%が好ましく、0.03〜2重量%がより好ましい。
【0039】
防霧剤としては、例えば、パーフルオロアルキル基、ω−ヒドロフルオロアルキル基等を有するフッ素化合物(特にフッ素系界面活性剤)、またアルキルシロキサン基を有するシリコーン系化合物(特にシリコーン系界面活性剤)等が挙げられる。フッ素系界面活性剤の具体例としては、ダイキン工業(株)製のユニダインDS−403、DS−406、DS−401(商品名)、セイミケミカル(株)製のサーフロンKC−40(商品名)等が挙げられ、シリコーン系界面活性剤としては、東レダウコーニング(株)社製のSH−3746(商品名)が挙げられる。これらは、単独で用いても2種類以上を併用してもよい。防霧剤の含有量は、0.01〜3重量%が好ましく、0.02〜2重量%がより好ましく、0.05〜1重量%が特に好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお実施例及び比較例中の試験方法は次の通りである。
【0041】
(1)輻射線遮断剤の吸湿水分量
温度23℃、相対湿度50%下で72時間保管した輻射線遮断剤を、温度60℃、相対湿度50%下に24時間暴露し、下式を用いて吸湿水分量β(%)を算出した。
吸湿水分量β=((暴露後の重量−暴露前の重量)/暴露前の重量)×100(%)
【0042】
(2)輻射線遮断剤の輻射線透過指数
KBrと輻射線遮断剤とからなる錠剤を得た。この時、KBr、輻射線遮断剤のそれぞれの配合重量は、KBr=190mg、輻射線遮断剤=0.03mgとし、錠剤の大きさは、直径=10mm、厚み=1mmとした。
フーリエ変換赤外分光光度計(ThermoFisher SCIENTIFIC社製 Nicolet 8700FT−IR)を用いて、以下の方法により、輻射線遮断剤の輻射線透過指数を求めた。
波数400,000〜40,000m−1の範囲において、透過法により、赤外線吸収スペクトルを温度296Kにて測定し、200m−1の波数間隔毎に波数νでの透過率T(ν)の値を得た。
次に、λ=1/ν(λ:波長(m)、ν:波数(m−1))という関係を用いて、波数νでの透過率T(ν)の値から波長λでの透過率T(λ)の値を得た。
一方、式(IV)に従って波長λでの黒体輻射スペクトル強度e(λ)を計算し、また、式(V)に従って波長λでの輻射線透過強度f(λ)を得た。
次に、2.5×10−6〜25×10−6mの波長範囲における輻射線透過強度f(λ)の積分、および2.5×10−6〜25×10−6mの波長範囲における黒体輻射スペクトル強度e(λ)の積分を以下の方法により行った。すなわち、2.5×10−6〜25×10−6mの波長領域を波長λ、λ、λ・・・λ、λn+1・・・(但し、λ<λn+1、1/λ−1/λn+1=200)で区分し、λからλまでの区間、λからλまでの区間、・・・、λからλn+1までの区間、・・・・に分割した。次に、各区間の積分値を台形近似によって計算し、得られた積分値を合計した。
【0043】
(3)フィルムの耐吸湿失透性
約3cm×約5cmのフィルム片を水に浸漬して60℃で4週間保管し、その後、水中からフィルム片を取り出して温度23℃、相対湿度50%で1.5時間自然乾燥させた。水に浸漬する前の前記フィルム片のヘイズと、自然乾燥後の前記フィルム片のヘイズをそれぞれ測定し、ΔHaze=(自然乾燥後のヘイズ)―(水に浸漬する前のヘイズ)を求め、耐吸湿失透性の指標とした。ΔHazeが正であるとき、フィルムは吸湿により失透したことになり、この場合に、フィルムのΔHazeが0に近い程、そのフィルムは耐吸湿失透性により優れる。なお、ヘイズの測定は、JIS K7105に準拠し、直読式ヘイズコンピュータ(スガ試験機株式会社製 HGM−2DP)を用いて行った。但し、測定光としては、JIS Z8113に規定されているC光を使用した。
【0044】
(4)樹脂フィルムの輻射線遮断性
フーリエ変換赤外分光光度計(株式会社島津製作所製 FTIR−8700)を用いて、以下の方法により、樹脂フィルムの輻射線透過率を求め、前記樹脂フィルムの輻射線遮断性の尺度とした。
【0045】
波数400,000〜40,000m−1の範囲で、透過法により、赤外線吸収スペクトルを温度296Kにて測定し、200m−1の波数間隔毎に波数νでの透過率T(ν)の値を得た。
次に、λ=1/ν(λ:波長(m)、ν:波数(m−1))という関係を用い、波数νでの透過率(ν)の値から波長λでの透過率T(λ)の値を得た。
一方、式(IV)に従って波長λでの黒体輻射スペクトル強度e(λ)を計算し、また、式(V)に従って波長λでの輻射線透過強度f(λ)を得た。
次に、輻射線透過強度f(λ)を波長2.5×10−6〜25×10−6mの範囲で積分して輻射線透過エネルギーFを得、黒体輻射スペクトル強度e(λ)を波長2.5×10−6〜25×10−6mの範囲で積分して黒体輻射エネルギーEを得た。実際の積分は以下の方法で行った。すなわち、2.5×10−6〜25×10−6mの波長領域を波長λ、λ、λ・・・λ、λn+1・・・(但し、λ<λn+1、1/λ−1/λn+1=200)で区分し、λからλまでの区間、λからλまでの区間、・・・、λからλn+1までの区間、・・・・に分割した。次に、各区間の積分値を台形近似によって計算し、得られた積分値を合計した。
次に、G=100×F/Eで定義されるパラメータGを算出し、このパラメータGを輻射線透過率とした。樹脂フィルムは、輻射線透過率が小さいほど、輻射線遮断性が優れている。
e(λ)=(A/λ5)/{exp(B/(λ×T))−1} (式IV)
ただし、A=2πhC2=3.74×10-16(W・m2
B=hC/k=0.01439(m・K)
Tは絶対温度(K)、λは波長(m)
であって、hはプランク定数、Cは光速、kはボルツマン定数、Aは第一放射定数、Bは第二放射定数、である。
f(λ)=e(λ)×T(λ)/100 (式V)
【0046】
以下の輻射線遮断剤の吸湿水分量βおよび輻射線遮断指数αを測定した。結果を表1に示す。
【0047】
輻射線遮断剤(1):ハイドロタルサイト類化合物(HT−P;堺化学工業株式会社製)輻射線遮断剤(2):リチウム・アルミニウム複合水酸化物(OPTIMA−SS;戸田工業株式会社製)
【0048】
【表1】

輻射線遮断剤(1)は本発明における第一の輻射線遮断剤に、輻射線遮断剤(2)は本発明における第二の輻射線遮断剤にそれぞれ該当する。
【0049】
[実施例1]
ラボプラストミルを用い、ポリエチレン樹脂(エクセレンGMH GH030、メルトフローレート 0.5g/10分、密度 912kg/m3;住友化学株式会社製)86.3重量%、輻射線遮断剤(1) 11.1重量%、輻射線遮断剤(2) 1.9重量%、防曇剤としてグリセリン系脂肪酸エステル(サンスルーザー S4120、花王株式会社製)0.6重量%、および酸化防止剤(イルガノックス 1010;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.1重量%からなる組成物を得た。
得られた組成物をプレス成形法(温度:180℃、圧力:100kg/cm)にて製膜し、厚み100μmの樹脂フィルムを得た。得られたフィルムのΔHaze、輻射線透過率を表2に示す。
【0050】
[実施例2]
輻射線遮断剤(1)の配合量を10.4重量%、輻射線遮断剤(2)の配合量を 2.6重量%とした以外は、実施例1と同じ方法で樹脂フィルムを得た。得られたフィルムのΔHaze、輻射線透過率を表2に示す。
【0051】
[実施例3]
輻射線遮断剤(1)の配合量を9.8重量%、輻射線遮断剤(2)の配合量を 3.2重量%とした以外は、実施例1と同じ方法で樹脂フィルムを得た。得られたフィルムのΔHaze、輻射線透過率を表2に示す。
【0052】
[実施例4]
ラボプラストミルを用い、ポリエチレン樹脂(エクセレンFX CX2001、メルトフローレート2.0g/10分、密度 898kg/m3、住友化学株式会社製)86.3重量%、輻射線遮断剤(1) 10.4重量%、輻射線遮断剤(2) 2.6重量%、防曇剤としてグリセリン系脂肪酸エステル(サンスルーザー S4120、花王株式会社製)0.6重量%、および酸化防止剤(イルガノックス 1010;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.1重量%からなる組成物を得た。
得られた組成物をプレス成形法(温度:180℃、圧力:100kg/cm)にて製膜し、厚み100μmの樹脂フィルムを得た。得られたフィルムのΔHaze、輻射線透過率を表2に示す。
【0053】
[比較例1]
輻射線遮断剤(1)の配合量を6.5重量%、輻射線遮断剤(2)の配合量を 6.5重量%とした以外は、実施例1と同じ方法で樹脂フィルムを得た。得られたフィルムのΔHaze、輻射線透過率を表2に示す。
【0054】
[比較例2]
輻射線遮断剤(1)の配合量を3.2重量%、輻射線遮断剤(2)の配合量を 9.8重量%とした以外は、実施例1と同じ方法で樹脂フィルムを得た。得られたフィルムのΔHaze、輻射線透過率を表2に示す。
【0055】
[比較例3]
ラボプラストミルを用い、ポリエチレン樹脂(エクセレンGMH GH030、メルトフローレート 0.5g/10分、密度 912kg/m3;住友化学株式会社製)85.0重量%、輻射線遮断剤(1) 3.2重量%、輻射線遮断剤(2) 6.5重量%、防曇剤としてグリセリン系脂肪酸エステル(サンスルーザー S4120、花王株式会社製)0.6重量%、および酸化防止剤(イルガノックス 1010;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.1重量%からなる組成物を得た。
得られた組成物をプレス成形法(温度:180℃、圧力:100kg/cm)にて製膜し、厚み100μmの樹脂フィルムを得た。得られたフィルムのΔHaze、輻射線透過率を表2に示す。
【0056】
[比較例4]
輻射線遮断剤(1)の配合量を12.3重量%、輻射線遮断剤(2)の配合量を0.7重量%とした以外は、実施例1と同じ方法で、樹脂フィルムを作製した。得られたフィルムのΔHaze、輻射線透過率を表2に示す。
【0057】
【表2】

a/b:輻射線遮断剤(1)と輻射線遮断剤(2)の重量比。
【0058】
[実施例5]
共押出インフレーション成形法(加工温度160℃)により、A層、B層及びC層がこの順に積層されている厚さ150μmの樹脂フィルムを作製した。なお、A層、B層、C層の押出量の重量比は、A層/B層/C層=1/4/1とした。各層の組成は、以下のとおりとした。
【0059】
前記A層は、ポリエチレン樹脂(エクセレンGMH GH051、メルトフローレート 0.4g/10分、密度 921kg/m3;住友化学株式会社製)78.0重量%、ポリエチレン樹脂(スミカセンE FV203、メルトフローレート 2.0g/10分、密度 913kg/m3、住友化学株式会社製)22.0重量%からなる組成物で形成した。
【0060】
前記B層は、エチレン・酢酸ビニル共重合体(エバテートH2031、メルトフローレート1.5g/10分、密度 940kg/m3、住友化学株式会社製)86.3重量%、輻射線遮断剤(1) 10.4重量%、輻射線遮断剤(2) 2.6重量%、防曇剤としてグリセリン系脂肪酸エステル(サンスルーザー S4120、花王株式会社製)0.6重量%、および酸化防止剤(イルガノックス 1010;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.1重量%からなる組成物で形成した。
【0061】
前記C層は、ポリエチレン樹脂(エクセレンGMH GH030、メルトフローレート 0.5g/10分、密度 912kg/m3;住友化学株式会社製)40.0重量%、ポリエチレン樹脂(エクセレンGMH GH051、メルトフローレート 0.4g/10分、密度 921kg/m3;住友化学株式会社製)35.0重量%、ポリエチレン樹脂(スミカセンE FV203、メルトフローレート 2.0g/10分、密度 913kg/m3;住友化学株式会社製)25.0重量%からなる組成物で形成した。得られたフィルムのΔHaze、輻射線透過率を表2に示す。
【0062】
[比較例5]
B層の輻射線遮断剤の配合を、輻射線遮断剤(1)を6.5重量%、輻射線遮断剤(2)を6.5重量%とした以外は、実施例5と同じ方法で、樹脂フィルムを作製した。得られたフィルムのΔHaze、輻射線透過率を表2に示す。
【0063】
[比較例6]
B層の輻射線遮断剤の配合を、輻射線遮断剤(1)を12.3重量%、輻射線遮断剤(2)を0.7重量%とした以外は、実施例1と同じ方法で、樹脂フィルムを作製した。得られたフィルムのΔHaze、輻射線透過率を表2に示す。
【0064】
【表3】

a/b:輻射線遮断剤(1)と輻射線遮断剤(2)の重量比。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る樹脂フィルムおよび積層フィルムは、温室の被覆フィルムなどの農業用フィルムとして利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(1)を満たす第一の輻射線遮断剤と、前記第一の輻射線遮断剤とは異なる化学組成を有し、下記要件(2)を満たす第二の輻射線遮断剤と、ポリオレフィン系樹脂とを含み、かつ、下記要件(3)を満たす樹脂フィルム。
(1)輻射線遮断剤の、温度23℃、相対湿度50%で72時間保管し、続いて、温度60℃、相対湿度50%で24時間保管したときの吸湿水分量をβとしたとき、β≦5重量%。
(2)輻射線遮断剤の輻射線透過指数をαとしたとき、α≦60。
(3)樹脂フィルムに含まれる第一の輻射線遮断剤の重量の前記樹脂フィルムに含まれる第二の輻射線遮断剤の重量に対する比が、3:1〜8:1の範囲にある。
【請求項2】
前記第一の輻射線遮断剤が下記式(I)で表される化合物である請求項1記載の樹脂フィルム。
2+1-xAlx(OH)(An-X/n・mH2O 式(I)
式中、M2+は2価の金属カチオンであり、An-はn価のアニオンであり、
xおよびmは、0<x<0.5および0≦m<2という条件を満たす。
【請求項3】
前記第二の輻射線遮断剤がSi−O結合を有する化合物である請求項1または請求項2に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記第二の輻射線遮断剤が下記式(II)で表される化合物である請求項1または請求項2記載の樹脂フィルム。
[(Li(1-X)2+)(Al3+)2(OH6]2・(Siy(2y+1)2-(1+X)・mH2O 式(II)
式中、M2+は2価の金属カチオンであり、m、xおよびyは、0≦m<5、0≦x<1、2≦y≦4という条件を満たす。
【請求項5】
前記第二の輻射線遮断剤が、式(II)においてx=0を満たす化合物である請求項4記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
樹脂フィルムに含まれる第一の輻射線遮断剤の重量の前記樹脂フィルムに含まれる第二の輻射線遮断剤の重量に対する比が4:1〜6:1の範囲にある請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂フィルムであって、その一方の表面を構成する防曇性被膜の層を有するフィルム。

【公開番号】特開2012−25809(P2012−25809A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163679(P2010−163679)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(503076168)サンテーラ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】